...

浅海・内水面グループ 浅海チーム [PDFファイル/12.46MB]

by user

on
Category: Documents
62

views

Report

Comments

Transcript

浅海・内水面グループ 浅海チーム [PDFファイル/12.46MB]
平 成 24 年 度
145
ヒジキ資源管理手法の開発
岩 野 英 樹 ・ 斉 藤 義 昭 ・ 並 松 良 美 ・ 三 ヶ 尻 孝 文 * ・ 田 北 寛 奈 *1 *
事業の目的
2.増殖試験
国東市北江海岸、国見町保護水面において、天然
国産ヒジキの需要急増に伴う単価の上昇等で、過
剰採取による天然ヒジキ資源の減少が懸念されてお
採苗試験を、呉崎研究棟において陸上採苗試験を行
った。
り、ヒジキ資源の維持・増大を図るために、資源管
1)国東市北江海岸
理手法の開発を行う。
試験は、前年度の試験区(1m × 1m × 3 区)を中
心位置に配置した 10m × 10m の区画を新たに設け、
事業の方法
スポアバッグ 13 袋と着定基質となるコンクリートブ
ロック 3 個を 7 月 5 日に設置した。また、10m × 10m
1.生態調査
豊後高田市真玉川地先、国東市国見町保護水面地
先、日出町糸が浜地先、佐伯市上浦保護水面地先の
の区画内のウミトラノオやタマハハキモク等のヒジ
キの競合種は、前年度(2012 年 3 月 12 日)にあら
かじめ除去しておいた。
4ヶ所において、ヒジキの生態調査を行った。
成熟は、4 月~ 8 月の期間に毎月 2 回、ヒジキ藻
体を 20 個体採取して生殖器床形成の有無を観察し、
20m
H25年3月14日磯掃除
H25年3月28日磯掃除
生殖器床形成率(生殖器床の形成が確認された藻体
数/20 × 100)として示した。また、雌の生殖器床に
10m
ついては、放卵状況を顕微鏡観察により確認した。
H24年3月12日磯掃除
H25年3月14日磯掃除
また、10 月~ 3 月の期間は、豊後高田市真玉川地
先を除く 3 調査地点において毎月 1 回、ヒジキ藻体
1m
1m
を 10 個体採取して、全長(繊維状根から葉体を含む
ブロック
H24年7月
ブロック
主枝の先端までの長さ)の測定、付着生物の観察を
H23年試験
自然石 対照区
10m
20m
H25年3月
移設ブロック
行い、付着生物の付着率(付着生物が確認された藻
体数÷ 10 × 100)を求めた。なお、日出町糸が浜地
先では、3 月の調査時にヒジキの漁獲が確認された
ので、全長データは欠測とした。
国東市国見町保護水面地先においては、12 月 17
日に、寒ヒジキの採取時期に合わせて、模擬的にヒ
図1
北江海岸における増殖試験の区画
ジキの切断を行い、その後の経過を観察した。ヒジ
キの切断は、繊維状根から 50mm の長さまでヒジキ
スポアバッグに入れるヒジキは、7 月 2 日に豊後
主枝を切り残した試験区(50mm 切残し区)、同様に
高田市真玉川地先で採取し、雌雄が偏らない様に 450
100mm の長さで主枝を切り残した試験区(100mm
g程度に振り分け、500ml 用 PET ボトル(浮子とし
切残し区)を設定し、毎月 1 回 5 株を持ち帰り全長
て)数本とともに網袋(6mm 目合いラッセル網)に
を測定した。なお、50mm、100mm に満たない短い
詰めた。網袋は、地面に打ち込んだ杭に直接結びつ
主枝は切断することなくそのままにした。
けて固定した。また、区画内に 25cm × 25cm のカデ
調査期間中は、各調査点にデータロガーを設置し
ラートを 6 個(底質が小石混じりの場所(小石区)
て水温の計測を行った。水温は、満潮時の前後 6 時
に 3 個、底質が粘土様をした場所(粘土様区)に 3
間のデータを抽出した後、旬別平均値を求めた。
個)固定して、ヒジキ等の着定状況を観察した。
また、前年度(2011 年 6 月 30 日)に設置したコ
*1 東 部 振 興 局 農 山 漁 村 振 興 部
大分水研事業報告
146
ンクリートブロックや自然石の状況についても継続
で覆った。
して観察した。
東部振興局と大分県漁協青年部くにさき支部が 7
事業の結果
月 19 日に北江海岸と隣接する羽田海岸に設置したコ
ンクーリトブロック(3 個を 1 組として 10 組、合計 30
1.生態調査
個)にヒジキが平均で 22.4 株(最大 99 株、最小 0
1)成熟
株)着定していたので、両者の協力を得て、3 月 14
上浦は、3 月下旬に生殖器床の形成が見られ始め、5
日に北江海岸にその内の 3 組(9 個)のブロックを
月上旬に生殖器床の形成率が 100 %となり、放卵が
移設した。
確認された。
3 月 14 日、28 日には、前述の図 1 に示す 10m ×
日出は、5 月下旬に生殖器床の形成が見られ始め、6
10m の区画から外方向にさらに範囲を拡大して 20m
月下旬に生殖器床の形成率が 100 %となり、放卵が
× 20m の区画まで磯掃除を実施した。そのうち 10m
確認された。
× 10m の区画内で除去したウミトラノオ等は陸上に
国見は、6 月上旬に生殖器床の形成が見られ始め、7
持ち上がり湿重量を計測し、前年度(2012 年 3 月 12
月下旬に生殖器床の形成率が 100 %となった。放卵
日)の除去量と比較した。
は 7 月上旬に確認された。
真玉は、日出と同様のパターンで推移し、5 月下
2)国見町保護水面
旬に生殖器床の形成が見られ始め、6 月下旬に生殖
ヒジキのコンクリートブロックへの着定促進効果
器床の形成率が 100 %となり、放卵が確認された。
を検討するため、ブロックの表面にカキ殻を添付し
水温の旬別平均値を図 2 に示した。
たカキ殻ブロック(カキ殻区)、1cm 間隔で数 mm 程
12 月~ 4 月までの水温は、上浦が最も高く推移し
度の窪地をドリルで掘削した穴打ちブロック(穴打
た。日出と真玉は、3 月頃に同定度の水温になり、
ち区)、何も処理しないブロック(対照区)をそれぞ
以後ほぼ同じ経過で推移し、6 月には上浦の水温と
れ 3 個用意して、これを 1 個ずつ組み合わせて 1 セ
同程度になった。国見の水温は、4 月中旬以降、日
ットととしたものを、6 月 6 日に保護水面内の 3 ヶ
出、真玉に比べて 0.7 ~ 4.2 ℃の範囲で常に低めに推
所に1セットずつ設置した。
移した。
(℃)
30
3)ヒジキ等の被度調査
北江海岸、国見町保護水面に加えて、先述の東部
振興局と大分県漁協青年部くにさき支部が共同で増
25
殖試験を行った国東市羽田海岸の 3 ヶ所で、ヒジキ
とウミトラノオ等の被度調査を 1 月 11 日、12 日、29
日に行った。調査は、1m の区画を 5 ヶ所ずつ写真
2
撮影し、パソコン上でヒジキ等の繁茂面積を求め、1m
国見
真玉
日出
上浦
20
2
当たりの平均密度を求めた。
4)陸上採苗試験
15
10
ヒジキの陸上採苗試験の着定基質として、コンク
リートブロックを用いた。試験は、4 トンの FRP 水
槽にブロックを敷き詰め、この水槽内に生殖器床を
有するヒジキ側枝を雌雄それぞれ数本ずつ入れた流
し台水切りネットを浮かべ、自然放卵によりヒジキ
の幼胚をコンクリートブロックへ着定させた。
ヒジキの母藻は、宇佐市長洲産の養殖ヒジキと真
玉産の天然ヒジキを用いた。水槽への母藻の垂下は、3
回(長洲産が 6 月 18 日、真玉産が 6 月 19 日、6 月 24
日)行い、7 月 6 日に全てを撤去した。
5
12月 1月
2月
図2
3月
4月
5月
6月
7月
8月
旬別平均水温の経過
生殖器床の形成時期や放卵の開始時期は、調査点
の違いによってズレが生じているが、これは水温経
過の傾向と一致しており、ヒジキの成熟に水温が関
係していることが示唆された。
また、2012 年のヒジキの漁獲は、上浦が 2 月末~ 5
月末、日出が 3 月 21 日~ 5 月 20 日、国見が 12 月 26
水槽内でのヒジキ幼胚の飼育は、国東北江海岸に
日、4 月 17 日~ 5 月 25 日、真玉が 2 月 1 日~ 3 月 1
移設する 10 月 18 日まで継続した。移設したブロッ
日、4 月 1 日~ 5 月末の期間となっており、いずれ
ク 6 個のうち 3 個は、食害防止対策として内径 5mm
の地区も成熟前に漁獲が行われている。
のトリカルネットを内側に貼り合わせたコンテナ籠
平 成 24 年 度
2)水温と成長
147
った。
2012 年 10 月~ 25 年 3 月までのヒジキ平均全長の
主な付着動物は、触手動物コケムシ綱櫛口目フク
推移を図 3 に、旬別平均水温の経過を図 4 に示した。
ロコケムシ科、触手動物コケムシ綱唇口目トゲコケ
日出、国見のヒジキは、平均全長でそれぞれ 152mm
ムシ科、触手動物コケムシ綱唇口目アミメコケムシ
から 559mm まで、161mm から 505mm まで成長した
科、腔腸動物ヒドロ虫綱ヒドロ虫目ウミシバ科など
が、12 月~ 2 月にかけて成長が鈍化する時期があっ
であった。コケムシ綱フクロコケムシ科は、日出と
た。上浦のヒジキは、平均全長で 167mm から 698mm
上浦で見られたが、特に、日出では 2 月、3 月に付
まで成長した。上浦のヒジキは、日出や国見で見ら
着率が 30 %、40 %まで上昇した。ヒドロ虫綱ウミ
れた様な成長が鈍化する時期は見られなかった。
シバ科は、上浦だけに見られ、10 ~ 30 %の付着率
日出の旬別平均水温の最低値は、2 月中旬の 8.9 ℃
であった。
であり、2 月上旬を除き、1 月中旬~ 2 月下旬まで 10
℃を下回った。同様に、国見の旬別平均水温の最低
4)冬季におけるヒジキ主枝切断の影響
値は、1 月下旬の 8.1 ℃であり、12 月下旬~ 3 月上
50mm 切残し区、100mm 切残し区ともに 3 月まで
旬まで 10 ℃を下回った。一方、上浦の旬別平均水温
は、伸長することなく、ほぼ切断時の長さのままで
の最低値は、2 月下旬の 13.4 ℃であり、10 ℃を下回
あった。成熟時期の 7 月頃にサンプルを採取し、主
ることはなかった。
枝の本数・長さ、側枝の本数・長さ、側枝上の生殖
器床の形成状況を観察し、何も切断しない対照区と
平均全長(mm)
900
比較する予定である。
上浦
800
日出
700
国見
2.増殖試験
600
500
1)国東市北江海岸
400
(1)スポアバッグの状況
300
袋(バッグ)は、8 月 3 日(設置 29 日後)の確認
200
では、13 袋全て残存し、袋中のヒジキや生殖器床も
100
0
10月
残存していた。しかし、袋(バッグ)表面に浮泥の
11月
図3
12月
1月
2月
3月
ヒジキ平均全長の推移
付着が見られ、袋(バッグ)の半分以上の網目を塞
いでいる状況にあり、幼胚の供給が十分に行われな
かった可能性が考えられた。
水温(℃)
8 月 19 日(設置 45 日後)の確認でも、袋(バッ
24
グ)は 13 袋全て残存していたが、袋(バッグ)への
22
浮泥の付着はさらに激しくなり、浮泥が全面を覆い
上浦
20
日出
18
つくしていた状況にあり、袋(バッグ)中のヒジキ
国見
は、ほとんど消失していた。
16
14
(2)ヒジキ等のブロックへの着定状況
12
10
11 月 14 日にブロックへ着定したヒジキとウミト
8
ラノオの株数を計数した。ブロック 3 個の平均値で
ヒジキが 0.3 株(最大 1 株)、ウミトラノオが 157 株
6
10月
11月
図4
12月
1月
2月
3月
旬別平均水温の経過
(最大 175 株)であり、ヒジキの着定はほとんど無
く、大半がウミトラノオであった。
3)付着生物
(3)ヒジキ等のカデラート内への着定状況
主な付着植物は、褐藻綱が、クロガシラ属、シオ
ヒジキは、小石区、粘土様区ともに着定は見られ
ミドロ属、紅藻綱がイギス科、イトグサ属、ユナ、
なかった。一方、ウミトラノオは、粘土様区で平均 5.7
珪藻綱羽状目リクモフォラ属などであった。
株(最大 11 株、最小 2 株)の着定が見られた。
クロガシラ属は、全ての3調査点で見られ、2 月、3
その他の海藻として、小石区では、3 月 12 日にフ
月に付着率が 40 ~ 100 %に上昇した。ユナも、3 調
クロノリが、粘土様区では、2 月 11 日にタマハハキ
査点全てで見られたが、特に上浦で付着率が高かっ
モク、フクロノリ、カイノリが、3 月 12 日にフクロ
た。珪藻綱羽状目リクモフォラ属は、11 月に日出で
ノリ、カイノリ、アミジグサが見られた。
付着率が 100 %となったが、1 月には見られなくな
大分水研事業報告
148
(4)2011年度に設置した着定基質の状態
の磯掃除をした。磯掃除後の 10m × 10m 区画の外
前年度(2011 年 6 月 30 日)に設置したコンクリ
(20m × 20m の区画内)には、ウミトラノオ等に覆
ートブロックに着定していたヒジキの主枝は、2012
われて見えなかったヒジキが新たに出現する場所が
年 4 月 24 日まで残っていたが、5 月 23 日には、全
数カ所見られた。
てが流失していた。しかし、残った繊維状根からは
新たな新芽の出現が確認され、その後順調に主枝を
2)国見町保護水面
伸長させていった。
(1)ヒジキ等のブロックへの着定経過
同様に設置した自然石には、設置 1 年目にはヒジ
7 月 18 日には、穴打ち区で、最初にアオサ属の付
キの着定は見られなかったが、翌年(2012 年)の秋
着が目立つようになった。8 月 1 日の穴打ち区では、
にはヒジキの着定が確認された。2011 年に設置した
アオサ属の付着に次いで、ヒジキかウミトラノオと
自然石は、現地の自然石を一度陸上に持ち帰り、表
思われる棒状の新芽が確認されるようになった。ア
面の付着物を削除し、長時間乾燥処理したものを利
オサ属の付着は、カキ殻区、対照区に比べて穴打ち
用した。1 年を経過して自然石の表面には藻類が付
区で多く、8 月 17 日には、穴打ち区で先述の棒状の
着して、設置 1 年目に比べ保湿状態が良好であった
新芽が多数見られる様になった。
ことが想像され、このことがヒジキ幼胚の着定にプ
ラスの要因として働いたものと思われる。
9 月 19 日には、全体的に丸くやや厚めで、縁辺部
が滑らかなヒジキと思われる初期葉と全体的に細長
繊維状根由来のコンクリートブロックに繁茂した
2 年目のヒジキと幼胚由来の自然石に繁茂した 1 年
く縁辺部が鋸歯状のウミトラノオと思われる初期葉
が見られる様になった。
目のヒジキ全長の推移を図 5 に示した。2011 年度の
10 月 17 日には、一部の株で主枝の伸長が確認さ
結果と同様に、幼胚由来の 1 年目のヒジキは、繊維
れ、その特徴からヒジキとウミトラノオの判別が可
状根由来の栄養繁殖した 2 年目のヒジキに比べて成
能となった。11 月 16 日には、主枝の伸長がさらに
長が遅い結果となった。
進み、ほぼ全ての株で両種の判別が可能となった。
全長(mm)
700
(2)ブロック表面の細工の違いによるヒジキ着
自然石(幼胚由来)
600
定状況
ブロック(繊維状根由来)
500
ヒジキとウミトラノオの判別が可能となった 2012
400
年 11 月 16 日と 12 月 17 日に、ブロックに着定して
300
いた主な海藻を剥ぎ取り、着定株数を計数した。ブ
ロックには、ヒジキの他、ウミトラノオ、タマハハ
200
キモク、アカモク、ユナの着定が確認された。
100
ヒジキの着定株数は、3 ヶ所の平均値で、穴打ち区
0
11月14日
図5
12月14日
1月11日
2月11日
3月12日
発生由来の異なるヒジキ全長の推移
が 154.3 株、カキ殻区が 19.0 株、対照区が 34.0 株で
あった。同様にウミトラノオの着定株数は、穴打ち
区が 145.7 株、カキ殻区が 6.7 株、対照区が 9.3 株で
(5)羽田海岸から北江海岸へのヒジキ着定ブロ
ックの移設
あり、ヒジキ、ウミトラノオともに穴打ち区が対照
区に比べて多い傾向が見られた。しかし、カキ殻区
羽田海岸でヒジキ幼胚を着定させたブロックを 3
では対照区と大差なく着定の促進効果は認められな
月 14 日に北江海岸に移設した。移設後のブロック上
かった。穴打ち区では、窪地に海水が溜まることに
ヒジキの成長や成熟等の経過観察を継続中である。
よる保湿効果に加えて、一番最初に侵入したアオサ
属の繁茂による保湿効果が重なって、ヒジキやウミ
(6)磯掃除の状況
トラノオの幼胚着定後の歩留まりが向上したものと
3 月 14 日は、作業員 14 人で最初に 10m × 10m の
思われる。
範囲のウミトラノオやタマハハキモクを除去した。
除去したウミトラノオとタマハハキモクの湿重量は
3)ヒジキの被度
136kg であり、前年(平成 24 年 3 月 12 日)除去量
ヒジキの被度は、北江海岸が 8 %、国見保護水面
421kg の 32 %まで減少した。ウミトラノオ等の影響
が 72 %、羽田海岸が 89 %であった。ヒジキ以外の
を排除するためには、継続的に磯掃除を実施する必
ホンダワラ類は、ウミトラノオ、タマハハキモク、
要がある。続いて、10m × 10m 区画の外(20m × 20m
アカモクが見られ、これらの 3 種を合計した被度は
の区画内)の磯掃除を実施したが、全て除去できな
それぞれ 67 %、12 %、11 %であった。今回の調査
かったので、3 月 28 日に作業員 10 人で残りの部分
結果から、羽田海岸や国見保護水面は、天然採苗の
平 成 24 年 度
149
条件として、北江海岸に比べて優れている状況にあ
した株が見られたが、籠有区では、3 月 12 日の調査
り、増殖試験の結果(北江海岸でのブロックへのヒ
まで明瞭な主枝の伸長は認められなかった。最初の 1
ジキ着定数は、平均で 0.3 株。国見保護水面での対
ヶ月間、籠で覆ったことが影響したと思われ、籠有
照区ブロックへのヒジキ着定数は、平均で 34.0 株。
区のヒジキは、籠無区に比べて成長が悪い結果とな
羽田海岸での対照区ブロックへのヒジキ着定数は、
った。
平均で 31.6 株。)とよく整合した。
しかし、籠無区のヒジキも図 5 に示した自然石に
着定した幼胚起源のヒジキに比べて全長が短く、今
4)陸上採苗試験
回陸上採苗したヒジキは、天然発生によるヒジキに
母藻垂下を開始してから 6 日後の 6 月 24 日に、最
比べて成長が悪い結果となった。
初の放卵を確認した。母藻の入った流し台水切りネ
ットは、18 日後の 7 月 6 日に取り除いた。試験開始 30
全長(mm)
日後の 7 月 18 日には、ブロックに珪藻類の付着が目
70
立ち始めたので、以後毎週 1 回海水シャワーで洗浄
60
を繰り返した。着定したヒジキ幼胚からは、試験開
50
始 59 日後の 8 月 16 日に初期葉の第二葉が確認され
40
た。同じく、第三葉は 78 日後の 9 月 4 日に、第四葉
30
は 92 日後の 9 月 18 日に、第五葉は 109 日後の 10 月
20
5 日に確認された。しかし、10 月 18 日の移設までに
10
主枝は確認されなかった。
水槽内の水温は、試験開始時が 20.8 ℃、試験中の
陸上採苗(籠有)
陸上採苗(籠無)
0
10月16日 11月14日 12月14日 1月11日 2月11日 3月12日
最高水温が 29.0 ℃、最低水温が 18.7 ℃であった。
図6
陸上採苗したヒジキ全長の推移
また、試験中の日射量は、晴天時の平均値で
53μmol/m /s であった。
今後の課題
2
移設後のヒジキ全長の推移を図 6 に示した。
11 月 14 日の 1 回目の経過調査で、コンテナ籠で
生態調査では、ヒジキの成熟前に漁獲が行われて
ブロックを覆ったヒジキ(籠有区)は、ブロックに
いることが判ったので、成熟前に漁獲することの天
覆いをしなかったヒジキ(籠無区)に比べて成長が
然資源への影響を調査する必要がある。
悪く、幼胚が全て流失しているブロックも 1 個あっ
増殖試験では、ヒジキ被度の高い条件の良い場所
たので、籠有区のコンテナ籠の覆いは、この時取り
で採苗したコンクリートブロックをヒジキ被度の低
外して、以後の経過観察を継続した。移設前にはブ
い条件の悪い場所へ移設することが効率的であると
ロック全面やヒジキ葉体を広く覆っていた付着珪藻
思われるので、その効果を継続して検証する必要が
は、籠による覆いの有無に関わらず消失していた。
ある。
12 月 14 日の経過調査では、籠無区で主枝の伸長
大分水研事業報告
150
放流対象魚介類(マナマコ)の種苗量産技術の開発
アカナマコ放流増殖技術開発事業①-種苗生産
片野晋二郎・木村聡一郎・米田一紀
事業の目的
せてワカメを 1g/ナマコ 1 個で給餌し、残餌及び糞
は毎日サイフォンで除去した。0.5t 水槽のうち 1 水
単価が高く地先資源として有望なアカナマコの増
槽は自然水温より 5 ℃低く調温し、他の水槽は自然
殖対策として、種苗生産の開発研究を行っている。
水温で飼育した。なお、換水率は 5 回転/日とし、
今年度は全ての飼育水は、1μm カートリッジ及び
親仕立ての期間は 2012 年 2 月 1 日~ 7 月 13 日であ
20μm メッシュを通した海水を使用した。また、エ
った。
アーリフト式駆除方法の効果を補完するため、チグ
採卵は期間中に計 16 回行った。体表に付着する
リオパス捕食魚を用いた捕食試験を実施し、稚ナマ
チグリオパスを除去するため、採卵前に親個体を
コへの影響を調べた。さらに新たな餌の開発を行っ
3%塩化カリウム海水を満たした 30L パンライト水
た。
槽に 3 分間浸漬させ、揉むように洗った後(以下 KCl
浴とする。)、採卵用水槽へ収容した。採卵方法は温
度刺激と神経ホルモンである生殖腺刺激ホルモン
事業の方法
「クビフリン」を使用した。温度刺激では産卵誘発
採卵用水槽には 0.5t 円形 PE 水槽 3 基を暗室に用意
1.種苗生産技術の開発研究
し、誘発開始 1 時間前に止水・無通気の状態にした
本年度の種苗生産全体を報告する。
後、親ナマコを採卵水槽に移送した。親ナマコの収
本年度使用した餌料種類を表 1 に示した。以下、
容個体数は 1 回の採卵に 20 個を基本とした。誘発
本文中では表中の記号で記述する。
また、成長段階ごとの基本的な飼育方法を表2に
中は無通気とし、誘発は投げ込み式ヒーターを用い
て飼育水から 2 ℃/時間で 21 ℃まで昇温した。加温
開始後 2 時間経過しても放精・放卵しない場合は、
示した。
採卵水槽と同じ温度に調整した他方の水槽に移送
表1
アカナマコ種苗生産に用いた餌料種類
し、刺激を与えた。クビフリン使用した採卵では、
前日にナマコを KCl 浴し、採卵当日、腹部の一部
をメスで切開し、生殖巣を確認することで性別を分
け、メス個体に体重の 1000 分の 1 量のクビフリン
を腹腔内に打注した後、ナマコをゆっくり振り、採
卵用の水槽へ収容し、採卵した。雄は切開により生
殖巣を取り出し、精密濾過海水を満たしたビーカー
内でハサミを用いて切断し、よく攪拌した後、20μm
1)親アカナマコの飼育と採卵
メッシュを通して放卵用水槽へ注入した。
2012 年 2 月 1 日に日出町、2 月 17 日に津久見市
得られた受精卵は、表 2 に示す 1t 円形 PE 水槽(以
で購入したアカナマコを 0.5t 円形 PE 水槽 1 基、1t
下「 1t 水槽」という)と 30t 角形コンクリート水槽
円形 PE 水槽 2 基及び 1tFRP 水槽 5 基に収容し、親
(以下「 30t 水槽」という)に収容してふ化させた。
仕立てを行った。収容数は 0.5t 円形 PE 水槽、1t 円
受精卵の収容数は 1t 水槽では 300 ~ 1,000 千粒、30t
形 PE 水槽、1tFRP 水槽では 15 ~ 30 個、合計 219
水槽では 10,000 千粒とした。
個体(平均体重 278.9g)を親仕立てに使用した。
また、親仕立て中には体表のビラン、内臓の吐き
出し、斃死した個体(以下「損傷個体」という)は
取り除いた。
給餌は残餌が無いようにナマコの摂餌状況に合わ
平 成 24 年 度
表2
151
成長段階における基本的な飼育方法
2)浮遊幼生の飼育
本年度は浮遊幼生の飼育水槽に受精卵を直接収容
した。
表 2 に示したように餌料はふ化 1 日後から C を
給餌し、通気は中通気とした。
なお、ドリオラリア幼生が出現した時を浮遊幼生
期の終了とし採苗を行った。また一部は浮遊幼生の
飼育に使用した水槽をそのまま着底初期の飼育に用
い、着底初期の飼育に移った。
3)稚ナマコの飼育
稚ナマコに変態した後は表 2 に示したように C
及びリビを給餌した。
採苗は、4t 水槽を用いて行い、波板 34 セット/4t
図1
ペットボトル揚水器
を投入した。浮遊幼生の飼育に使用した水槽をその
まま着底初期の飼育に用いた場合は、浮遊幼生の飼
育水槽にペンタクチュラ幼生を確認した後、1t 水槽
では付着基質である波板を 5 セット、30t 水槽では
32 セットを投入した。投入前の波板にはチグリオ
パスが付着していたため、ろ過海水を貯めた 100L
角形水槽を 2 基用意し、一方はを 3%KCl 海水を作
製し、投入前の付着基質を 3 分浸漬させた後、他方
の流水にした水槽で再度、篩ってチグリオパスを除
去した。
飼育期間は 2012 年 3 月 27 日~ 10 月 18 日であ
図2
ヒメハゼ
る。
稚ナマコ飼育水槽底にチグリオパスのフンが確認
ヒメハゼ(Favonigobius gymnauchen) は、スズキ
された場合は、1t 水槽でペットボトル揚水機(図 1)
目ハゼ科に分類されるハゼで、北海道から九州・西
(1 基/t)を設置した。設置期間は 5/7 ~ 10/18 であ
表島・朝鮮半島まで分布する。タイドプール(潮だ
った。
まり)などでよく見られ、体色は黄褐色を基調とし、
稚ナマコに変態した後の餌料は表 2 に示したよう
に C 及びリビを給餌した。
4)ヒメハゼを用いた稚ナマコへの影響試験
側面には暗色の斑が 4 つ並ぶ。 尾鰭の基底にある
黒色斑は成長に伴い二叉する。食性は動物食である。
2012 年 9 月 26 日にこのヒメハゼを用いて稚ナマ
昨年度アゴハゼを稚ナマコとの混用試験に供し
コへの影響試験を行った。試験に供したヒメハゼ(平
て、チグリオパスを捕食する成果があったが、アゴ
均全長 19.9mm±1.1) は 2012 年 8 月 29 日に国東市
ハゼの入手が不安定なため、アゴハゼ以外の魚種の
国見町竹田津のタイドプールで採捕したものであ
選択肢を持つことは重要である。そのため本年度は
る。ヒメハゼは 450ml の濾過海水が入った 500ml の
大量採捕が可能なヒメハゼ(図 2)を用いて稚ナマ
ビーカーに 1 尾/区ずつ収容し、当チームで種苗生
コへの影響試験を実施した。
産した稚ナマコ(全長 1.7mm±0.5) を 10 個体ずつ
大分水研事業報告
152
収容し、エアレーションは微弱、止水の状態とした
生残率を求めた。また全長はデジタルカメラで水槽
(表 3)。3 試験区を設定し、24 時間後の稚ナマコ
内のナマコを撮影し、画像処理 ImageJ 1.45 を 用い
の生残率を調べた。
て測定した。測定時にチグリオパスによる食害を防
5)着底稚ナマコの餌料試験
止するためマゾテンを添加した。試験期間は、2012
現在種苗生産で、着底稚ナマコの餌として使用さ
年 10 月 1 日から 2013 年 3 月 13 日までであった。
れているリビック BW(理研)は、東日本大震災の
なお、統計解析は R を使用し、1 元配置分散分析を
影響で製造されておらず、今後は入手困難な状況が
Tukey 法で行った。
見込まれている。そこで、新たな餌料としてアルギ
ンゴールド(アンデス貿易株式会社)、貝化石、紛
末ウミトラノオ、乾燥海底泥を用いた餌料試験を行
った。アルギンゴールドは北欧産の海藻アスコフィ
ルム・ノドサムを微粉状態にしたもので、家畜や幼
魚の餌として利用されている。貝化石はスーパーグ
リーン(太平洋貿易株式会社)を用いた。
紛末ウミトラノオは 2013 年 1 月 11 日に国東市国
東町北江の海岸で採捕したウミトラノオをそのまま
乾燥させ、座や石、貝殻など取り除いた後、ミキサ
ーで紛末にした。なお、ウミトラノオは中国では泥
と混合して養殖ナマコの餌料として利用されてい
る。乾燥海底泥は、2012 年 10 月 12 日佐伯市入津
湾西野浦地先で海底 20m からサンドポンプにより
吸い上げたものを乾燥したものである。
種苗生産された稚ナマコ(100 個/区)を飼育容器
(30L パンライト水槽:飼育水 25L)に収容し(図 3)、
試験区として 3 区ずつ設けた(表 4)。注水は 1μm
カートリッジを使用し、排水は 200μm メッシュを
し、1 回転/日となるようにした。エアーは中央部
から円形エアーストーンにより微弱とした。給餌量
は供試ナマコの重量の 1/10 とした。餌の巻き上が
りや流出を防ぐため、注水およびエアーを止め、給
餌し 1 時間後に再び注水およびエアーを元に戻し
図3
試験実施図
た。1 週間おきに試験区すべてのナマコの数を数え
表3
稚ナマコへの影響試験設定
表4 着底稚ナマコの餌料試験
注)アルギンゴールド=アル、リビック BW =リビ、貝化石=貝、ウミトラノオ=ウミ、乾燥海底泥=泥
平 成 24 年 度
153
2.0mm、448 千個体の稚ナマコを生産した。生残率
事業の結果
は 5.8%であった。
1.種苗生産技術の開発研究
表5
1)親アカナマコの飼育と採卵
過去8カ年の親ナマコ飼育と種苗生産の状況
表 5 に過去 8 ヵ年の親ナマコの飼育と種苗生産の
状況を示し、表 6 に採卵状況を示した。
本年度の親ナマコの飼育を近年と比較した場合、
損傷率が 25.2%と低かった。採卵誘発率(75.0%)と
高いのはクビフリンを用いたためである。ふ化率
(40.7%)と低調であった理由は、5 月 16 日採卵分の
ふ化率が 0 %であったためで、これは採卵時のハン
ドリングに問題があった。
表6
2)浮遊幼生の飼育
表 7 に浮遊幼生の飼育結果を示した。
ドリオラリア幼生の出現した日令は平均 11.6 日
令、浮遊幼生時の生残率は 27.9%で あった。合計
8,269 万粒の受精卵を収容し、939 万個の浮遊期を
終了した幼生(以下「浮遊期終了幼生」という)を得
た。
3)採苗及び着底初期の飼育
表 8 に採苗の飼育結果を示した。
合計 235 万の浮遊期終了幼生から、平均体長 5.6mm、
44 千個体の稚ナマコを生産した。生残率は 3.2%で
あった。
表 9 に着底初期の飼育結果を示した。
合計 738 万の浮遊期終了幼生から、平均体長
表8
表9
採苗結果
着底初期の飼育結果
採卵結果
154
大分水研事業報告
表7
浮遊幼生の飼育結果
平 成 24 年 度
155
4)ヒメハゼを用いた稚ナマコへの影響試験
があった。
(餌無-リビ P<0.01、餌無-アル P<0.01、
24 時間後の稚ナマコの生残率を表 10 に示した。
アル-リビ P<0.01)
今回の試験でヒメハゼが稚ナマコを捕食や攻撃行動
11 月 5 日開始の試験は、生残率に大きな差は無
をとることは無かった。過去の試験でアゴハゼはナ
かったが、体長はアルとアル貝に有意に差があった。
マコを一度捕食し、はき出す行為が確認されたため、
(アル貝-アル P<0.05)
ヒメハゼはアゴハゼよりチグリオパス捕食種として
適している可能性がある。
1 月 5 日開始の試験では、生残率に大きな差は無
かったが、体長はそれぞれの餌間で有意に差があっ
た。(ウミ-アル P<0.01、ウミ-餌無 P<0.01、アル
表10
稚ナマコへの影響試験
-餌無 P<0.01、)
2 月 13 日開始の試験では、生残率に大きな差は
無かったが、体長はそれぞれの餌間で有意に差があ
った。(アル-泥 P<0.01、アル-餌無 P<0.01、泥-
餌無 P<0.01、)
5)着底稚ナマコの餌料試験
アルギンゴールドは従来の餌であったリビックと
図 4 に餌試験における生残率及び体長の推移を示
比較し良好であった。また、ウミトラノオは他の飼
した。10 月 2 日開始の試験では、生残率に大きな
料と比較し、良い成績であったため、新たな餌料と
差は無かったが、体長はそれぞれの餌間で有意に差
して可能性がある。
体
長
( )
( )
生
残
率
㎜
%
図4
餌試験における生残率及び体長の推移
大分水研事業報告
156
放流対象魚介類(マナマコ)の種苗量産技術の開発
アカナマコ放流増殖技術開発事業②-稚ナマコ生息環境調査
片野晋二郎・米田一紀
事業の目的
単価が高く地先資源として有望なアカナマコの増
殖対策として、天然ナマコの生息環境のデータ収集
及び整理し、放流適地を検討する。
事業の方法
1.稚ナマコ生息環境調査
2012 年 5 月 21 日に佐伯市戸穴地先(以下佐伯と
する)、5 月 22 日日出町大神地先(以下日出とする)、
図1
5 月 23 日国東市国見町竹田津地先(以下国見とす
稚ナマコ生息環境調査地点
る)、(図 1)、潜水調査により、標準水深別 2m、4m、6m
で枠取り調査(50cm × 50cm)を 4 回ずつ行い、稚
事業の結果
ナマコをを採捕した。また水深別に 2 箇所ずつ環境
項目として COD、IL、粒度組成、塩分、水温を測
定した。さらに枠取り調査時に写真を撮り、画像処
理ソフト ImageJ 1.45 を 用いて藻場の被度の割合を
計算した。
1.稚ナマコ生息環境調査
採捕の状況を図 2 に示した。地区別で採捕数が多
かったのは国見(64 個体)で、少なかったのは佐
なお、ナマコの体長測定は、海水を張ったバット
伯(21 個体)であった。色別で採捕数が多かった
に収容し、撮影を行った。撮影した写真から体長、
のは、アオ型(45 個体)であった。水深別で採捕
体幅を計測し標準体長を以下の式で算出した。
数が多かったのは、2m(48 個体)であった。
アオナマコ(以下アオとする)
30
Le= 2.32 + 2.02 ( L B) ^1/2
20
クロナマコ(以下クロとする)
幅(mm)を示す。
アカナマコ(以下アカ)の標準体長についての報
告が無いため、便宜上、アオ型の式を用いた。
と同様に標準体長を求めた。
2m
0
6m
30
出現頻度(個)
に伸縮している状態の体長(mm)、B は同じ時の体
4m
10
Le = 1.34 + 2.12 ( L B) ^1/2
ここで、Le は標準体長(mm)、L はナマコが自由
6m
国見
日出
20
4m
10
2m
0
30
20
6m
佐伯
4m
10
2m
0
アカ
図2
アオ
クロ
地区別ナマコ採捕状況
平 成 24 年 度
157
8.0
度を図 3 に示した。50 ~ 100mm、200 ~ 250mm の
7.0
出 現 頻 度 の ピ ー ク が 出 現 し た 。 ま た 水 深 6m は
6.0
150mm 以上の個体が出現した。
5.0
IL強熱減量(%)
水深別全地区で採捕された全ナマコ標準体長の頻
2m
4.0
4m
3.0
6m
2.0
出現頻度(個)
1.0
0.0
日出
図6
佐伯
地区・水深別IL値
地区・水深別粒度組成の結果を図 7 に示した。泥
標準体長Le(㎜)
図3
国見
分は佐伯の 2m(58.9 %)、4m(33.8 %)、6m(39.6
水深別採捕されたナマコ標準体長の頻度
%)と高い値を示し、逆に低い値を示したのは日出
の 2m(2.5 %)、4m(2.3 %)、4m(4.4 %)であっ
水深別全地区で採捕された全ナマコの湿重量の頻
た。
度を図 4 に示した。50g 以下の出現が多かったが、6m
では出現しなかった。水深が浅いほど小型個体の割
礫4000< 細礫2000< 極粗粒砂1000< 粗粒砂500< 中粒砂250< 細粒砂125< 微粒砂63< 泥<63
合が多かった。
100%
90%
25
出現頻度(個)
20
15
6m
10
4m
粒度組成(%)
80%
2m
70%
60%
50%
40%
30%
20%
5
10%
0
0-50
50-100 125-150 150-200 200-250 250-300 300-350
0%
350-
国見2m 国見4m 国見6m 日出2m 日出4m 日出6m 佐伯2m 佐伯4m 佐伯6m
湿重量(g)
図4
水深別採捕されたナマコ湿重量の頻度
図7
地区・水深別粒度組成
地区・水深別 COD の結果を図 5 に示した。佐伯
地区・水深別塩分の結果を図 8 に示した。塩分は
の 2m(24.4mg/L)、4m(6.0mg/L)6m(12.9mg/L)
佐伯 2m(33.3 %)、4m(33.6 %)、6m(33.6 %)
で高い値を示したが、他の場所は 5mg/L 以下と低
が高い値を示した。佐伯は内湾のため、また、大き
い値であった。
な河川がないため塩分が高くなった。
33.8
30.0
33.6
25.0
33.4
33.2
2m
15.0
4m
6m
10.0
塩分(‰)
COD平均値(mg/L)
20.0
2m
33.0
4m
32.8
6m
32.6
32.4
5.0
32.2
0.0
日出
日出
図5
国見
国見
佐伯
佐伯
地区・水深別COD値
図8
地区・水深別塩分
地区・水深別 IL の結果を図 6 に示した。佐伯の
地区・水深別水温の結果は図 9 に示した。佐伯で
4m(7.3 %)、6m(4.6 %)で高い値を示したが、
は 21.9 ~ 22.0 ℃と他の地区と比較し、高い値を示
他の場所、他の水深は 3 %以下であった。
した。
大分水研事業報告
158
23.0
60%
22.0
50%
40%
20.0
2m
19.0
4m
18.0
6m
17.0
16.0
15.0
藻場被度(%)
水温(℃)
21.0
日出
30%
佐伯
20%
10%
0%
日出
図9
国見
佐伯
地区・水深別水温
地区・水深別藻場の被度の結果は図 10 に示した。
2m
図10
4m
6m
地区・水深別藻場被度
時期及び場所により、ナマコサンプルが収集でき
日出は 29.4 ~ 52.4 %であり、すべての地点で藻場
なかったため、来年度以降は、調査日は、年 4 回程
が確認された。佐伯は 2m(20 %)であったが、4m、6m
度、調査方法は、ライン調査を行う等の再検討を行
で藻場が確認されなかった。
い、データを整理したい。
平 成 24 年 度
159
養殖ヒジキの品質向上と養殖用種苗供給技術の確立-1
ヒジキ養殖の推進
斉藤義昭・岩野英樹
事業の目的
3.受精卵からの採苗
母藻から大量の受精卵を採取して、適切な基質に
国産、県産ヒジキの需要増加と価格高騰に伴い、
付着させることで、効率的に人工種苗を作成するこ
生産や流通、加工サイドからは県産ヒジキの増産が
とが可能となる。そのための基質の選定や、中間育
要望されている。本県では天然種苗を用いての養殖
成手法、沖出しの時期などの検討を行なった。
に日本で初めて取り組み、浮き流し式および干潟域
における養殖方法を確立した。
事業の結果
しかし養殖においては、品質低下を招くヒジキへ
の付着物の課題がまだ残されている。そこで、天然
に依存しない種苗生産方法として、人工種苗生産の
1.養殖ロープ再利用技術開発
基礎を確立し、種苗安定確保のために量産技術や養
殖ロープの再使用技術の開発に取り組んでいる。
浅海チームの水槽内で、養殖ロープを 5 本越夏さ
せたが、掃除したロープ、しなかったロープともに
このため、種苗供給技術確立のため、より効率的
芽が数個体は残ったが、数が少なすぎて掃除の手間
に種苗を生産する技術として、収穫済みロープの越
や保管に利用する海水のことなどを考えると、養殖
年化によるロープ再使用試験の規模拡大、人工種苗
に再度利用できるほどのものではなかった。
等を用いた付着物防除・軽減手法の開発、そして新
たな手法として受精卵からの採苗について取り組
2.人工種苗等を用いた付着物防除・軽減手法の開
む。
発
国見で行われる浮き流し式では、支柱式に比べ付
事業の方法
着物に対する定期的な管理が必要であることが確認
された。また、海水の流れがほとんどない築堤式ク
1.養殖ロープ再利用技術開発
養殖ヒジキを収穫したあとのロープに残っている
ルマエビ養殖池での試験では、それ以上の付着物が
確認された。
付着器から新しい芽が形成されることが確認されて
いる。このことを利用すれば種苗挟み込み作業の省
3.受精卵からの採苗
力化が可能となるため、2001 年度宇佐市長洲で行
前年から浅海チームで培養していたものを親とし
った試験養殖のロープを使用し、夏場の保管場所の
て 5 月に採卵したものはフラスコ内で 30 ㎜程度ま
選定や管理手法の検討を行った。
で成長したが、県内の佐伯市や豊後高田市で採取し
たものを親として 6 月以降採卵したものは、親自体
2.人工種苗等を用いた付着物防除・軽減手法の開
が高水温で傷み採卵がほとんどできなかった。また
発
採卵できたものも珪藻などの汚れにまかれ、生長し
ヒジキに付着する藻類や動物等は製品の品質を下
なかった。
げる大きな原因となり、養殖を行なう上での課題と
なっている。管理された条件下で培養された人工種
苗では付着物が少ないことを利用して、付着物の軽
今後の問題点
減・防除手法の開発に取り組む予定であったが、今
年度は養殖できる人工種苗がなかったため天然種苗
を用いて、築堤式クルマエビ養殖池で行った試験養
殖と国東市国見で行われる養殖で試験を行った。
養殖ロープ再利用技術開発については、ロープの
掃除と高水温時の保管場所が問題となる。
掃除については、ロープが長いと一日で掃除を終
えることができず、掃除した場所が未掃除の生物な
160
大分水研事業報告
どで再度汚れるなどの問題が生じた。ロープを一日
人工種苗等を用いた付着物防除・軽減手法の開発
で処理できる長さに細断するか、ロープごとに多く
については、付着物の少ない人工種苗を使うだけで
の人数で作業に当たるなどの対策が必要であること
なく、養殖前の種苗への処理や養殖中の対策などを
が確認された。
次年度以降検討していきたい。
また保管場所については所内の水槽では、水槽の
受精卵からの採苗については、少数の採卵はでき
換水量を変えても元々の水温が高いため越夏するこ
たが、大量の採卵についてはうまくできなかった。
とができないことが確認された。天然でヒジキが越
その原因として所内で使用している濾過海水の高水
夏しているところに張り込むなどの対策を次年度以
温が考えられるので、その対策などを次年度以降検
降検討していきたい。
討していきたい。
平 成 24 年 度
161
養殖ヒジキの品質向上と養殖用種苗供給技術の確立-2
地域養殖業振興対策事業
斉藤義昭・岩野英樹
事業の目的
環境に優しい海藻(ヒジキ)養殖を推進し、地域
事業の結果
1.県内におけるヒジキ養殖に対する指導
の適正に応じた養殖業の振興を図るために、県内で
1)研修
行われたヒジキ養殖や試験養殖に対して現地指導等
「大分県におけるヒジキ養殖の概要」と題して、
を行った。
県漁協杵築支店と上浦支店のヒジキ養殖に興味を持
また、使われていない築堤式クルマエビ養殖池が
つ漁業者に研修を行った。
養殖場所として適当なのか確かめるため、地元で採
2)現地指導
取したヒジキを利用した挟み込み養殖試験を行っ
昨年度から引き続く 5 月までの現地指導は、国見
た。
の養殖における刈り取り時、宇佐市長洲の試験養殖
においては、刈り取りに向けての準備から刈り取り
時、及び養殖資材の撤去時まで行った。
事業の方法
新年度としての現地指導は、名護屋支店では挟み
込み時、張り込み時に行った。日出支店や、杵築支
1.県内におけるヒジキ養殖や試験養殖に対する指
店は養殖時に行った。
導
国東市国見で行われる養殖や、2011 年から大分
2.築堤式クルマエビ養殖池を利用したヒジキ藻体
県漁業協同組合宇佐支店が長洲地先の干潟域におい
の経過観察
て行ったものをはじめとする県内で実施された試験
1)藻体
養殖に対して、研修や現地指導を行った。
12 月 3 日に主枝長が 25cm 程度であったヒジキ
は、1 月 31 日には 32cm 程度まで伸長していたが、2
2.築堤式クルマエビ養殖池を利用した挟み込み養
月 28 日でも 32cm 程度とこの間の伸長はみられな
殖試験
かったが、3 月 28 日には 40cm を超え、順調な伸長
豊後高田市真玉川河口域で採取した種苗を用い養
殖ロープ 3 本(25m × 2 本、50m × 1 本)を作成し、
が確認され、主枝数も増加しているが、食害痕など
もあり全体的に痛んでいるようであった。
豊後高田市臼野にある築堤式クルマエビ養殖池でヒ
2)付着物
ジキ藻体の経過観察を、1 月 30 日、2 月 28 日、3
1 月 31 日にはヨコエビを主とする動物系の付着
月 28 日に実施した。
物とシオミドロを主とする植物系の付着物がみられ
た。2 月 28 日にはフジツボやワレカラなどが、新
たに確認されるようになった。3 月 28 日には動物
の卵などが新たに確認されるようになった。
藻体に関しては張り込みが少ないからか、生長は
悪くなかったが、食害や付着物に関しては、干出が
かからないことや養殖池内での水の動きがないため
か、悪い結果となっている。養殖の実用化に向けて
はそれらの対策が大きな課題である。
162
大分水研事業報告
地域重要魚介類の資源動向及び回復施策に関する研究ー1
豊前海重要貝類漁場開発調査①(バカガイ資源量調査)
三代和樹・並松良美
なお、調査当日はイイダコツボ等の漁具が多数設
事業の目的
置された場所があり、次の 12 定点(St.4,7,9,
中津市地先の共同漁業権共第 2 号には、山国川の
11-17, 19,20)では調査ができなかったため、こ
河口域から通称 ” 中津平洲 ” と呼ばれる水深 3 ~
れらの定点の資源量推定にあたっては、最寄りの定
5m の砂質の浅海域が形成されている。ここはバカ
点の値を用いた。ただし、St.7,9 に関しては定点付
ガイやアサリの好漁場とされ、例年、春季に期間を
近に新たに St 別 1、別 2 を設置し調査を行い、そ
定めて小型機船底びき網(ポンプ漕ぎ網)による操
の値を資源量推定に用いた。
業が行われてきた。しかし、その資源量は低迷し、
近年ではナルトビエイによるバカガイ食害被害も生
じている。
1)
事業の結果
そこで、今後のバカガイの有効な漁
獲と利用を図るうえの基礎資料を得るため、ポンプ
漕ぎ網での資源量調査を実施した。
1.漁獲物組成
定点ごとの種類別漁獲個体数を表 1 に、漁獲重量
を表 2 に示した。得られた漁獲物は 40 種、4,123 個
体、27,784.3g で あった。バカガイは、調査が実施
事業の方法
できた 10 定点中、全ての定点で漁獲された。最も
2013年3月6日に、図1に示す 20 定点を対象に、
個体数が多かったのは St.8 の 1,728 個(4925.8g)、
大分県漁協中津支店所属のポンプ漕ぎ網漁船 1 隻を
次 いで St.9 の 761 個 ( 2538.1g) 、 St.5 の 234 個
用いて調査を実施した。使用した船は総トン数約
(2584.5g) の順であった。昨年度の調査で最も多
1.6t の船内外機船で、各定点とも曳網速力 1.8 ノッ
かったのは St.1 の 48 個(202.4g)であったことか
ト、曳網時間は 5 分間とし、漁具の袋網の目合いは
ら、今年度は大幅に増加した。
アサリは調査した 10 定点からは、まったく漁獲
12 節とした。
得られた漁獲物は、定点ごとに全量を袋詰めして
されなかった。
実験室に持ち帰り、ただちに種の分類、個体数、重
量の計測を行った。バカガイについては精密測定の
ため、定点ごとに任意の 50 個体(50 個体に満たな
い場合は全個体数)の殻長と重量を測定した。
バカガイの資源量推定にあたっては、採取された
もののうち、殻長 40mm 以上のものを対象にした。
2.バカガイ精密測定
測定したバカガイの定点別の平均殻長、平均重量
を表 3 に示した。全平均は殻長 33.9mm、重量 7.1g
であった。
最も漁獲個体数の多かった St.8 の殻長組成を図 2
に示した。殻長 40mm を超えた固体はなく、近隣の
共第1号
⑪ ⑯
⑦ ⑩ ⑮
④
⑥ ⑨ ⑭
②
⑧ ⑬
① ③ ⑤
⑫
福
岡
県
小祝
St.5 と比べると殻長組成は大きく異なっていた。
共第2号
⑱
⑰ ⑳
⑲
新田
中
図1
0
津
2
市
4km
バカガイ資源量調査定点
宇
佐
市
図2
バカガイの殻長組成(St.1、小祝地先)
平 成 24 年 度
表1
種類別漁獲個体数
表2
漁獲重量
163
164
大分水研事業報告
平均殻長(mm)
平均重量( )
平均殻長(mm)
平均重量( )
平均殻長(mm)
平均重量( )
表3 バカガイの定点別平均殻長と平均重量
St.1
St.2
St.3
St.4
St.5
St.6
St.7
41.9
35.5
38.8
欠
42.1
35.9
37.2
12.8
6.6
10.1
欠
13.3
8.1
8.2
St.8
St.9
St.10
St.11
St.12
St.13
St.14
26.3
28.7
32.33
欠
欠
欠
欠
2.6
3.7
5.9
欠
欠
欠
欠
St.15
St.16
St.17
St.18
St.19
St.20
平均
欠
欠
欠
27.78
欠
欠
33.9
欠
欠
欠
4.8
欠
欠
7.1
欠:調査ができなかった定点
多い(図 4)。また、40mm 以下の稚貝についても
3. バカガイの資源量推定
調査は、袋網 12 節の目合いを使用したため、商
品価値のない小型のバカガイも入網した。このため、
定点によっては多く出現しているため、来年度以降
資源量のさらなる増加が期待出来る。
資源量推定にあたっては、従来の 6 節目合いを使用
今回の調査結果から、稚貝が発生する場と成長す
した場合に推定される資源量、すなわち殻長 40mm
る場が異なっていた。現場の漁業者の経験からも沿
以上のバカガイについての資源量を算出した。
岸には稚貝、沖には成貝が多く生息していたと言わ
各定点における殻長 40mm 以上の貝の分布密度を
れているため、資源増大を行うには移植放流等を検
表 4 に示した。算出にあたっては、曳網面積 280m
討する必要がある。また、当該海域における 2009
(間口 1m ×曳網距離 280m)、漁獲効率は 0.6 とし
年度のナルトビエイの生態調査 2 ) から、60%以上の
た。
個体がバカガイを摂食していることが判明している。
2
バカガイ分布密度は、重量の最も多い定点で St.5
ナルトビエイを含む魚類等による食害が、直接的に
(16.54g/m )、次いで St.7(9.12g/m )などの順であ
バカガイ資源に悪影響を与えている可能性がある。
った。各定点の密度から調査区域の 40mm 以上のバ
バカガイに対するナルトビエイ等の食害圧を減らし、
カガイの資源量を推定したところ、96.9t であり、
発生した稚貝を保護するためにも、駆除の他にもか
昨年度(6.4t)のおよそ 16 倍であった。
ぶせ網等の保護や稚貝が発生している場所からサー
2
2
クル等への移植放流を検討する必要がある。
今後の問題点
文
献
図 3 に 1989 年以降の推定資源量を示した。1994
年には 36t であった資源量は 1995 年から急増し、
1) 伊藤龍星,林 亨次,平川千修.豊前海重要貝類
1996 年には 10,000t を超え、1997、1998 年の各春季
漁場開発調査(5)バカガイの大量発生とナルトビ
にはポンプ漕ぎ網操業が実施された。その後は再び
エイによる食害被害.平成 18 年度大分県農林水
激減し、1998 年 11 月以降は毎年 100t を下回る非常
産研究センター水産試験場事業報告 2008;
に低い値で推移している。
207-209.
今回、殻長 40mmm 以上を対象にしたバカガイ資
2) 福田祐一,三代和樹,並松良美.アサリ資源回
源量は 96.9t と推定された。依然としてポンプ漕ぎ
復計画推進事業 (2)ナルトビエイ生態調査(委
網漁の解禁につながる可能性もないが、2012 年度
託事業).平成 21 年度大分県農林水産研究セン
は実際に漁獲のあった 1999 年以降、資源量が一番
ター水産試験場事業報告 2010;210-213.
表4 殻長40mm以上のバカガイの分布密度
St.1
St.2
St.3
St.4
St.5
St.6
St.7
個体数(個/㎡)
0.02
0.06
0.72
欠
1.03
0.57
0.68
重 量( /㎡)
0.36
0.77
7.53
欠
16.54
8.79
9.12
St.8
St.9
St.10
St.11
St.12
St.13
St.14
個体数(個/㎡)
-
0.48
0.55
欠
欠
欠
欠
重 量( /㎡)
-
5.36
8.37
欠
欠
欠
欠
St.15
St.16
St.17
St.18
St.19
St.20
平均
個体数(個/㎡)
欠
欠
欠
0.06
欠
欠
0.51
重 量( /㎡)
欠
欠
欠
0.91
欠
欠
5.78
-:殻長40mm以上のバカガイが漁獲されなかった定点
欠:調査ができなかった定点
平 成 24 年 度
図3 1989年以降のバカガイ資源量の推移
図4 1999年以降のバカガイ資源量の推移
165
大分水研事業報告
166
地域重要魚介類の資源動向調査及び回復施策に関する研究-1
豊前海重要貝類漁場開発調査②(バカガイ稚貝調査)
三代和樹・畔地和久・並松良美
事業の目的
131°12′
14′
13′
St.別1
大分県中津市地先の中津平洲と呼ばれる浅海域
St.5
St.1
は、バカガイなどの好漁場とされ、例年操業期間を
定めて小型機船底びき網(ポンプ漕ぎ網)による漁
33°
38′
St.4
業が行われてきた。しかし近年、バカガイ資源は極
めて少ない状態が続いている。特にナルトビエイに
よるバカガイへの食害被害が確認
1)
37′
されて以降は、
小祝
0
角木
1,000m
中津港
稚貝の大量発生が見られる場合があるにもかかわら
図1
ず、資源増加には至っていない。バカガイ稚貝の発
バカガイ稚貝調査定点
生状況や成長、生態等の基礎的知見を得ることを目
表1
的に、昨年度に引き続き水坪刈り調査を実施した。
緯度
経度
各定点の位置
St.1
St.4
St.5
St.別1
N 33°37.949 N 33°37.510 N 33°38.171 N 33°38.408
E 131°12.160 E 131°14.080 E 131°14.032 E 131°13.733
事業の方法
2012 年度の調査は、3 回(5 月 16 日、8 月 30 日、10
月 20 日)実施した。調査点は図 1 に示す St.1、4、5、
今後の問題点
別 1 の 4 定点とした。各定点の緯度と経度(日本測
地系)を表 1 に示した。潜水により各定点で 50cm
本年度の調査から、ここ数年間の結果と比較して
× 50cm カデラート(0.25m )を海底に置き、1 定
若干ではあるが、稚貝の増加傾向が認められた。し
点あたりカデラート 8 枠(2m2)の砂を、深さ約 8cm
かし 2006 年春~夏のバカガイの大量発生とナルト
まで採取した。採取した砂は 1mm 目合いのフルイ
ビエイの食害による大減耗
で選別した後、当研究所に持ち帰り、肉眼で確認で
生の兆しは見られていなかったが、2011 年度から
きるすべてのバカガイを選別し、任意の 30 個体(30
徐々に回復傾向が見られたが、8 月以降に激減しし
個に満たない場合は全数)を測定した。各定点の水
ている。前述のとおり、2008、2009 年度の本調査
深は大潮満潮時で 3 ~ 4m であった。
では、春季 5 月には比較的大型サイズが見られたが、
2
1)
以来、バカガイ大量発
夏季には見られなくなっていること、 また、当該
2)
海域におけるナルトビエイ食性調査
事業の結果
3,4)
などから、
本種がナルトビエイによる食害の影響を強く受けて
いることが推定される。また、今年度はナルトビエ
図 2 に 4 定点の中で最もバカガイが採取された
イの食害に加え、6,7 月に発生した北部九州の大
St.4 におけるバカガイの殻長組成の推移を示した。
雨被害により、干潟に泥が蓄積したことが原因と考
また図 3 には、2005 年度以降の生息密度の推移を
えられる。今年度はポンプ調査からもわかるように、
1m あたりの個数を示した。
10 月以降も継続してバカガイが発生しているため、
2
2012 年 5 月においては、4 定点の生息密度は 23
~ 72.5 個/m と低い値であった。
2
その後、8 月には 0 ~ 128 個/m 、10 月は、5 ~ 247.5
2
個/m であった。
2
今後はナルトビエイを含む食害生物からの防除策の
充実をはかることに加えて、災害から守るためにも
移植放流保護等の取り組みを行う必要がある。
平 成 24 年 度
文
167
林水産研究センター水産試験場事業報告 2010;
献
203-204.
1) 伊藤龍星,林 亨次,平川千修.豊前海重要貝類
3) 伊藤龍星,平川千修.胃と腸の内容物からみた
漁場開発調査(5)バカガイの大量発生とナルト
周防灘南部沿岸におけるナルトビエイの食性.
ビエイによる食害被害.平成 18 年度大分県農林
水産技術 2009;1(2):39-44.
水 産研 究 セン タ ー水 産試験 場事業 報告 2008 ;
4) 福田祐一,三代和樹,並松良美.アサリ資源回
復計画推進事業(2)ナルトビエイ生態調査(委託
207-209.
2) 伊藤龍星,原 朋之.豊前海重要貝類漁場開発調
査(4)バカガイ稚貝調査.平成 21 年度大分県農
図2
図3
事業).平成 21 年度大分県農林水産研究センタ
ー水産試験場事業報告 2010;210-213.
バカガイの殻長組成の推移
バカガイの生息密度の推移(上:個/㎡、下:g/㎡)
大分水研事業報告
168
地域重要魚介類の資源動向調査及び回復施策に関する研究-2
資源評価調査委託事業①(資源関連調査)
(水研委託)
樋下雄一・三代和樹
事業の目的
2012 年の調査結果を表 1 ~ 3 に、漁獲量の推移を
図 1 ~ 3 に示した。対前年比では、マダイは 143、
我が国の 200 海里漁業水域設定に伴い当該水域に
おける漁業資源を科学的根拠に基づいて評価し、漁
と増加、トラフグは 51.3 と大幅な減、ヒラメは 135
と増加した。
業資源の維持培養及び高度利用の推進に資するため、
必要な基礎資料を収集することを目的に、(独)水産
2
市場調査(ヒラメ)
全長測定の結果を、表 4 及び図 4 に示した。なお、
総合研究センターの委託調査として実施している。
測定日数は市場によって異なる。
事業の方法
3
標本船日誌調査(ヒラメ、カレイ類)
マダイ、トラフグ、ヒラメ、カレイ類について、
標本船 5 隻によるヒラメの月別の単位努力量当た
次の方法により漁獲データを収集し、これらのデー
り漁獲量(CPUE)を表5及び図5に、また CPUE の
タを(独)水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究
年推移を図 6 に示した。CPUE は例年のように冬季
所に送付した。
と春季に大きかった。最大は 1 月の 0.86kg/日・隻、
最小は 7 ~ 9 月の 0.00kg/日・隻、年平均では 0.22kg/
1
水揚げ調査(マダイ、トラフグ、ヒラメ)
大分県漁協姫島支店及びくにさき支店富来地区か
日・隻であり、前年(0.50kg/日・隻)に比べてかなり
減少した。
ら毎月の漁獲量データを入手した。
4
2
市場調査(ヒラメ)
大分県漁協国見支店、姫島支店、安岐市場、別府
市場の 4 カ所でヒラメの全長を測定した。
沿岸資源動向調査
小型底びき網によるカレイ類(マコガレイ、メイ
タガレイ、イシガレイ)の CPUE の推移を図 7 に、
シャコの CPUE の推移を図 8 に、それぞれ示した。
最近数年の資源水準は標本船の CPUE に限ってみる
3
標本船日誌調査(ヒラメ)
と、カレイ類はいずれも減少傾向にある。一方シャ
ヒラメを対象に、大分県漁協杵築支店と日出支店
コは 1996 年をピークに大きく減少してきたが、ここ
所属の小型底びき網漁船計5隻に操業日誌の記帳を依
3 年は横ばい傾向にある。なお標本船の隻数は年に
頼し、漁獲実態を調査した。
よって若干異なるが、最近数年は 4 隻である。
4
沿岸資源動向調査(カレイ類、シャコ)
標本船調査、農林水産統計等のデータをもとに、
周防灘の資源動向を検討した。
事業の結果
得られたデータから、2012 年の概要は次のとおり
である。
1
水揚げ調査(マダイ、トラフグ、ヒラメ)
平 成 24 年 度
月
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
計
釣り
姫島
刺し網
延縄
30
7
24
2
33
3 65
3 57
5 64
6 23
9 92
4 47
2 59
3 ,703
0
0
0
0
0
0
0
0
4
5
11
7
26
7
11
1 26
62
6 27
2 ,426
9 98
4 85
4 56
84
27
1 81
5 ,488
ごち 網
富来
35
小計
0
3 38
0
58
4 17
1 ,245
4 50
3 58
4 97
3 83
0
55
3 ,800
姫島
40
2012年のマダイ漁獲量
37
3 56
1 50
1 21
1 ,077
4 ,036
1 ,806
1 ,406
1 ,579
1 ,464
4 84
5 02
1 3 ,017
富来
ごち 網
1 ,106
2 ,314
1 ,128
2 ,939
4 ,035
3 ,613
5 ,778
1 ,742
2 ,726
3 ,670
1 ,589
2 ,625
3 3 ,265
漁獲量(トン)
表1
169
30
25
20
15
10
5
0
年
図1
月
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
計
釣り
0
0
0
4
4
20
4
1
2
0
0
0
35
2012年のトラフグ漁獲量
姫島
延縄
刺し網
4 93
0
47
0
1
1
0
0
0
1
8
5
2
3
1 30
2
4 01
1
5 53
1
6 11
0
6 63
0
2 ,907
13
ごち網
小計
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
4 93
47
2
4
5
32
8
1 33
4 04
5 53
6 11
6 63
2 ,955
富来
釣り
239
1
1
1
39
166
25
86
173
187
412
242
1 ,571
25
姫島
富来
20
15
漁獲量(トン)
表2
マダイ漁獲量の推移
10
5
0
年
図2
月
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
計
釣り
65
39
115
49
729
1 ,313
40
17
44
89
67
320
2 ,886
トラフグ漁獲量の推移
2012年のヒラメ漁獲量
延縄
0
0
0
0
0
0
0
1
2
2
2
11
17
姫島
刺し網
ごち網 小計
14
0
80
67
0
1 06
136
0
2 51
110
0
1 58
597
0
1 ,326
1 ,332
0
2 ,645
162
0
2 02
78
0
96
34
0
80
90
0
1 81
7
0
76
61
0
3 92
2 ,687
0
5 ,591
富来
釣り
6 22
50
64
4 27
1 47
1 67
31
0
31
52
1 61
4 24
2 ,176
35
姫島
30
富来
25
20
漁獲量(トン)
表3
15
10
5
0
図3
ヒラメ漁獲量の推移
大分水研事業報告
170
表4
国見
316
40,3
測定尾数
平 均 全 長( ㎝ )
2012年ヒラメ市場調査結果
姫島
571
46,0
安岐
1,137
38,0
安岐N=1,137
別府
699
44,7
計
2,723
42,3
国見N=316
200
70
180
60
160
140
50
120
40
100
30
80
60
20
40
10
20
0
0
10 14 18 22 26 30 34 38 42 46 50 54 58 62 66 70 74 78 82 88
10 14 18 22 26 30 34 38 42 46 50 54 58 62 66 70 74 78 82 88
全長
全長
別府N=699
姫島N=571
80
140
70
120
60
100
50
80
40
60
30
40
20
20
10
0
0
10 14 18 22 26 30 34 38 42 46 50 54 58 62 66 70 74 78 82 88
10 14 18 22 26 30 34 38 42 46 50 54 58 62 66 70 74 78 82 88
全長
全長
図4
市場調査におけるヒラメの体長組成
月
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
計
CPUE(kg/隻・日)
0.864
0.634
0.110
0.014
0.035
0.032
0.000
0.000
0.000
0.035
0.156
0.419
0.222
CPUE(kg/隻・日)
表5 別府湾小型底曳き網のヒラメの月別CPUE
図5
別府湾小型底びき網のヒラメの月別CPUE
平 成 24 年 度
171
0.70
0.60
CPUE(kg/隻・日)
0.50
0.40
0.30
0.20
0.10
0.00
図6
別府湾小型底びき網のヒラメCPUEの推移
マコガレイ
3.0
メイタガレ
イ
イシガレイ
CPUE(kg/隻・日)
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
年
図7
周防灘小型底びき網のカレイ類CPUEの推移
0.70
CPUE(kg/隻・日)
0.60
0.50
0.40
0.30
0.20
0.10
0.00
図8
周防灘小型底びき網のシャコCPUEの推移
大分水研事業報告
172
地域重要魚介類の資源動向調査及び回復施策に関する研究-2
資源評価調査委託事業②(卵稚仔分布調査)
(水研委託)
三代和樹・樋下雄一
事業の目的
全体的に出現稚仔数は非常に少なく、平年比0.22で
あった(図5)。
漁業資源を科学的根拠に基づいて評価し、漁獲可
能量等を推定するために、魚類の卵稚仔出現量を調
2
その他の卵稚仔
その他の卵の月別出現量を図6に、年度別出現状
査した。
況を図7に示した。平年に比べ、出現数が少なく、
平年比0.42と低い値を示した。
事業の方法
その他の稚仔の月別出現状況を図8に、年度別出
図1に示す周防灘南部の6定点で、卵稚仔の出現が
多い4~9月に各月1回、計6回の分布調査を実施した
(沖のst.6、9、15に関しては8月は欠測)。採集に
は丸特B型ネットを用い、海底からの垂直曳(1回)
を行った。採集物はホルマリン10%で固定し、沈殿
量を計測した後、カタクチイワシとその他に分けて、
卵と稚仔の出現量を計数した。
St.15
St.6
St.9
St.5
St.12
St.11
中 津市
香 ヶ地町
豊後 高田市
図1
卵稚仔 調査 定点図
事業の結果
卵・稚仔の月別出現量を表1に示した。
1
カタクチイワシの卵稚仔
カタクチイワシ卵の月別出現量を図2に示した。6
月にst.11で多くの卵が確認されたことで6月の卵数
が平年を上回ったものの、他の月は平年以下であっ
た。そのため、累計卵数は昨年(1192粒)より減少
した(図3)。
カタクチイワシ稚仔の月別出現量を図4に示した。
現状況を図9に示した。その他卵と同様に平年に比
べ少なく、平年比0.50であった。
平 成 24 年 度
図2
図4
カタクチイワシ卵出現量
カタクチイワシ仔稚魚出現量
図6
図8
その他卵出現量
その他仔稚魚出現量
173
図3
図5
カタクチイワシ卵の年別出現量
カタクチイワシ仔稚魚の年別出現量
図7
図9
その他卵の年別出現量
その他仔稚魚の年別出現量
大分水研事業報告
174
地域重要魚介類の資源動向及び回復施策に関する研究-3
昼と夜に獲れるタチウオの成熟度に差があるか?
畔地和久
事業の目的
試験操業は大分県漁協杵築支店所属の小型機船底
びき網漁船を 1 隻用船し、購入したタチウオと異な
タチウオは大分県における最重要資源の一つであ
るが、近年の漁獲量は減少傾向にある。その減少原
因は産卵親魚の減少と当歳魚の加入不良であると考
る時間帯および同じ海域で操業を行い、タチウオを
採捕した。
表 1 に、測定したタチウオの個体数を示す。入手
したタチウオは、生鮮のまま持ち帰り、魚体の精密
えられる。1)
そのため、タチウオの資源回復には、産卵量を増
やす対策が必要である。そこで、昼と夜に獲れるタ
測定を行った。なお、測定項目は全長、肛門前長、
体高、体重、雌雄および生殖腺重量とした。
チウオの成熟度に差があれば、操業時間帯を検討す
タチウオの成熟段階を把握するために、生殖腺熟
ることで産卵量を増やすための取り組みが可能とな
度指数(以下、成熟度)を以下の式により算出した。
る。また、宗清・桑原
2)
は、タチウオの産卵活動は
日没から夜間に行われると推測している。
GI=(GW/AL ) × 10
3
8
(GI:生殖腺熟度指数 、
GW(g):生殖腺重量、 AL(㎜):肛門前長)
本事業では、成熟度の高い親魚保護を検討するた
表1
めに、昼と夜に獲れるタチウオの成熟度に差がある
かを検証した。
調査月
事業の方法
操業時間帯とタチウオの成熟度の関係を調べるた
めに、標本購入および試験操業を行った。調査はタ
チウオの産卵期である 5 月から 9 月にかけて行っ
た。なお、7 月以降は、不漁によりタチウオが入手
5月
6月
計
タチウオの測定個体数
昼操業
入手方法 個体数
標本購入
43
試験操業
8
―
51
夜操業
入手方法 個体数
試験操業
155
標本購入
9
―
164
なお、昼操業は夜明けから日出を含む時間帯、夜
操業は日没から日暮を含む時間帯である。
また、統計学的有意差検定にはχ
2
検定およびマ
ン・ホイットニー検定を用いた。
できず、調査ができなかった。
図 1 に、タチウオを採捕した海域の位置を示す。
事業の結果
図 2 に、5 月の操業時間帯とタチウオの成熟度の
関係を示す。昼・夜操業の成熟度には有意な差が認
められなかった(P > 0.05)。すなわち、タチウオ
の成熟度に明らかな差はなかった。
図1
タチウオ採捕海域の位置
標本購入は小型機船底びき網で漁獲した 20kg の
タチウオ(3 ~ 9 本入/箱:2 箱、10 ~ 18 本/箱:2
箱)を購入した。
図2
5月の操業時間帯とタチウオの成熟度の関係
平 成 24 年 度
図 3 に、6 月の操業時間帯とタチウオの成熟度の
関係を示す。昼・夜操業の成熟度には有意な差が認
175
られなかった(P > 0.05)。つまり、雄の成熟度に
明らかな差はなかった。
められなかった(P > 0.05)。つまり、タチウオの
成熟度に明らかな差はなかった。
図5
図3
雌の操業時間帯とタチウオの成熟度の関係
6月の操業時間帯とタチウオの成熟度の関係
考
察
表 2 に、昼・夜操業における雌雄の個体数を示す。
昼・夜操業の雌雄の個体数には有意な差が認められ
本調査の結果、昼・夜操業におけるタチウオの成
なかった(P > 0.05)。つまり、昼・夜操業の雌雄
熟度および雌雄の成熟度について、以下のことが明
の個体数に明らかな差はなかった。
らかになった。
まず、昼・夜操業におけるタチウオの成熟度は、
表2
調査月
5月
6月
計
昼・夜操業における雌雄の個体数
有意な差が認められなかった(図 2 、図 3)。しかし、6
昼操業の個体数
オス
メス
17
26
6
2
23
28
月のタチウオの成熟度は、夜操業の方が高い傾向が
夜操業の個体数
オス
メス
53
102
3
6
56
108
図 4 に、雄の操業時間帯とタチウオの成熟度の関
みられた(図 3)。
次に、雌雄におけるタチウオの成熟度は、有意な
差が認められなかった(図 4 、図 5)。しかし、雌の
タチウオの成熟度は、夜操業の方が高い傾向がみら
れた(図 5)。
係を示す。昼・夜操業の成熟度には有意な差が認め
これらのことから、6 月調査のサンプル数が 17
られなかった(P > 0.05)。すなわち、雄の成熟度
個体と少なかったため、タチウオの成熟度に有意な
に明らかな差はなかった。
差が出なかった可能性があると考えられる。
今回の調査結果から、成熟度の高い産卵親魚は、
夜操業の方が多い傾向であることが分かった。
なお、成熟度の高い親魚の保護を検討するために、
今後も本調査を継続する必要がある。
文
献
1)徳光俊二.タチウオ資源回復計画推進に関する
研究.平成 23 年度大分県農林水産研究指導セ
図4
雄の操業時間帯とタチウオの成熟度の関係
ンター水産研究部 2013;72-75.
2)宗清正廣・桑原昭彦
図 5 に、雌の操業時間帯とタチウオの成熟度の関
係を示す。昼・夜操業の成熟度には有意な差が認め
タチウオの産卵場、産卵
習性、分布様式.日本水産学会誌 1984;50(9)
:1527-1533.
大分水研事業報告
176
栽培対象魚種の放流効果調査-1
(トラフグ)
畔地和久
る月別調査重量の比で除した値である。回収重量は
事業の目的
月別回収重量の合計値であり、月別回収重量は月別
大分県では2001年から山口県、愛媛県と共同でト
1)
年齢別回収尾数に月別年齢別平均体重 を乗じた値
ラフグの栽培漁業に取り組んできた。しかし、依然
である。また、回収金額は月別回収金額の合計値で
として、トラフグの資源水準は低位で推移している。
あり、月別回収金額は月別回収重量に大分県漁協姫
そのため、引き続きトラフグの種苗放流による資
島支店の月別平均単価を乗じた値である。
なお、大分県海域における放流効果の推定は2001
源造成が求められている。
効果的な放流手法の検証には、放流効果を推定す
年から継続調査している宇佐、姫島、別府の3市場
ることが不可欠である。また、効果的な放流手法が
を選定し、大分県におけるトラフグの推定月別漁獲
分かれば、トラフグ資源の維持・増大がつながる。
量(表1)に対する3市場の月別漁獲(取扱)量の比で
本年度は、これまでに標識放流されたトラフグの
行った。
放流効果を推定するために、漁獲統計調査、市場調
査および胸鰭切除標識魚の買い上げ調査を行った。
事業の方法
放流効果調査
標識トラフグの放流効果を推定するために、漁獲
統計調査、市場調査(図1)および胸鰭切除標識魚
の買い上げ調査(宇佐、姫島、別府)を行った。
漁獲統計調査は、大分県漁協各支店および主要水
産物卸売市場から月別漁獲(取扱)量の聞き取りを
行った。
市場調査は、出荷されたトラフグの全長測定およ
び標識魚の検出を行った。また、買い上げ調査は、
トラフグの全長、体長および体重を計測した。
トラフグの体重は、測定全長から全長―体重関係
図1
市場調査実施位置図
式 を用いて算出した。また、トラフグの年齢は測
1)
定全長とその個体の測定月から月別Age-length key
1)
を用いて推定した。
事業の結果および考察
焼印標識魚は、焼印標識の位置と個数から放流県
を、測定全長から放流年を推定し、放流群を特定し
放流効果調査
た。また、胸鰭切除標識魚は、測定全長から放流年
表1に、2012年大分県におけるトラフグの推定漁
を推定し、内部標識(ALC)については、解析中で
獲量を示す。推定漁獲量は20,785.7㎏であった。た
ある。
だし、2013年1月末日時点で市場によっては把握で
標識トラフグの放流効果として、回収尾数、回収
きていない月もあり、確定した漁獲量ではない。
重量および回収金額を算出した。回収尾数は月別回
表2に、2012年市場調査における調査尾数および
収尾数の合計値であり、月別回収尾数は月別標識魚
推定調査重量を示す。調査尾数は1,466尾、推定調
検出尾数を天然トラフグ月別漁獲(取扱)量に対す
査重量は1,036.3㎏であった。
平 成 24 年 度
表3に、2012年市場調査における年級群別各放流
177
の62.0%であったことも影響していると考えられ
群の検出尾数、調査尾数および混入率を示す。標識
る。
魚の検出尾数は29尾、混入率は2.0%であった。
また、2012年の回収金額(1,638千円)は2011年
表4に、2012年大分県海域における年級群別各放
(1,238千円)の約1.3倍であった。これは、2012年
流群の回収尾数および回収金額を示す。標識魚の回
に福岡県放流群が回収されたことによるものであっ
収尾数は717尾、回収金額は1,658千円であった。
た。
2012年における標識魚の回収状況は以下のように
明らかになった。2012年における標識魚の回収尾数
(717尾)は2011年(1,516尾)の半分以下であった。
文
献
これは、2012年の胸鰭切除放流群の当歳魚(2012年
放流群)の回収尾数(17尾)が2011年(858尾)よ
1) 広島県,山口県,福岡県,大分県,宮崎県,高知県,
り激減したことによるものであった。このことは、
愛媛県:平成元年の事業実績.平成元年度広域資源
2012年の当歳魚の漁獲が多いと推測される8~12月
培養管理推進事業報告書瀬戸内海西ブロック1990,
までの推定漁獲量(5,016.6㎏)が2011年(8,085.1㎏)
266-171.
表1
2012年大分県におけるトラフグの推定漁獲量(㎏)
魚市場名等
1月
2月
3月
中津
8.7
12.3
36.3
宇佐
豊後高田
真玉
香々地
12.6
6.5
3.3
国見
493.1
46.8
2.0
姫島
243.5
1.2
0.9
くにさき
武蔵
89.0
90.1
137.0
各 安岐
15.0
403.0
20.0
支 杵築
12.0
77.0
165.0
店 日出
か 別府
ら 大分
2.1
聞 神崎
き 佐賀関
50.1
41.2
6.4
取 臼杵
132.7
172.7
70.6
り
4.5
3.5
0.8
津久見
1,263.4
912.9 1,117.9
保戸島
上浦
佐伯
1,133.6 1,746.5
151.4
鶴見
米水津
上入津
54.4
45.1
33.6
下入津
1.7
蒲江
名護屋
卸
売
市
場
中津魚市
高田魚市
475.5
457.8
66.7
別府魚市
493.8
374.9
269.3
大分市
合計
4,481.9 4,395.3 2,081.2
空欄は不明
4月
5月
6月
25.0
2.5
4.0
9.1
4.1
1.0
4.4
5.2
45.7
11.4
32.1
167.6
7.0
4.0
36.0
6.0
7月
8月
3.0
8.5
7.7
24.5
9.8
133.0
85.9
10.0
4.0
9月
3.0
6.5
403.8
174.4
5.8
42.0
4.0
7.1
8.1
2.3
30.8
61.9
8.0
1.0
5.3
1.0
135.7
139.3
428.2
92.6
53.9
302.8
10.8
2.2
33.5
57.7
16.2
339.5
3.3
14.6
6.8
1.0
1.9
23.9
1.9
110.6
66.7
1.4
27.2
46.5
322.8
11月
12月
年計
13.5
3.5
7.3
119.1
7.9
553.2
188.1
3.2
68.5
13.0
611.4
412.0
1.7
27.1
5.4
98.4
662.9 2,955.3
242.1 1,586.9
5.8
16.5
70.5
545.2
15.0
453.0
2.0
308.0
3.0
1.0
8.9
2.0
2.8
31.2
10月
1.1
195.1
5.6
6.9
8.2
96.0
38.8
67.1
909.0
115.6
133.2
2.0
842.2
284.5
947.4
27.4
5,637.2
583.9
64.3
43.3
21.4
18.2
186.1
3,601.6
121.3
96.0
77.6
71.9
85.5
665.4
5.1
51.4
54.9
42.7
116.1
148.8 1,727.1
7.5
66.6
129.3
25.0
176.4 1,798.7
513.9 1,105.0 1,798.5 2,315.8 2,700.8 20,785.7
大分水研事業報告
178
表2
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
計
宇佐
27
57
94
50
6
5
1
4
14
25
8
12
303
2012年市場調査における調査尾数、推定調査重量
調査尾数
別府
佐伯
113
122
4
24
11
30
2
19
8
2
6
1
6
5
11
2
6
4
350
26
姫島
152
2
2
1
56
78
89
168
201
749
鶴見
23
1
6
3
1
2
2
38
計
292
208
129
84
26
20
6
67
99
121
189
225
1,466
宇佐
9.8
19.1
38.4
27.8
3.9
6.3
0.7
3.9
1.0
13.0
3.8
3.9
131.6
姫島
106.8
3.3
4.6
1.5
53.4
85.4
111.2
116.9
97.6
580.8
推定調査重量(㎏)
別府
佐伯
83.2
72.4
4.9
13.6
11.9
18.0
2.4
12.1
3.9
2.7
3.9
1.2
4.3
5.3
11.2
2.5
7.1
8.6
235.0
34.2
鶴見
31.5
0.3
8.2
7.7
0.9
3.9
2.2
54.7
表3 2012年市場調査における年級群別各放流群の検出尾数、調査尾数および混入率
各放流群の検出尾数
各放流群の混入率(%)
年級群
調査尾数
大分県 山口県 福岡県 胸鰭切除
大分県
山口県
福岡県 胸鰭切除
2006
0
0
0
0
0
0.1
0.0
0.0
0.0
2007
0
0
0
0
1
0.2
0.0
0.0
0.0
2008
0
0
0
0
7
1.0
0.0
0.0
0.0
2009
1
0
0
0
42
3.1
0.0
0.2
0.0
2010
1
1
2
2
367
0.2
0.3
0.5
0.4
2011
0
1
1
19
723
0.0
0.1
0.1
2.7
2012
0
0
0
1
325
0.0
0.0
0.0
0.3
計
2
2
3
22
1,466
0.1
0.1
0.2
1.5
※
大分県、山口県、福岡県は焼印標識の放流群、胸鰭切除は胸鰭切除標識の放流群
※
2011年級群の胸鰭切除放流群は主に姫島で検出
計
0.1
0.3
1.0
3.3
1.4
3.0
0.3
2.0
表4
年級群
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
計
大分県
0
0
2
30
9
0
0
41
※
2012年大分県海域における年級群別各放流群の回収尾数および回収金額
各放流群の回収尾数
各放流群の回収金額(千円)
山口県 福岡県 胸鰭切除
計
大分県
山口県
福岡県 胸鰭切除
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2
0
0
0
0
0
0
2
31
0
2
0
0
1
0
31
422
0
26
2
26
18
24
78
120
112
270
299
3
16
571
590
0
1
101
266
0
0
17
17
0
0
0
2
29
36
611
717
576
113
400
570
計
199.8
131.2
63.9
52.8
16.4
19.9
11.2
62.4
91.7
133.4
134.4
119.4
1,036.3
大分県、山口県、福岡県は焼印標識の放流群、胸鰭切除は胸鰭切除標識の放流群
計
0
2
33
450
802
368
2
1,658
平 成 24 年 度
179
栽培対象魚種の放流効果調査-2
(マコガレイ)
畔地和久
事業の目的
尾数の計数を行い、混入率を算出した。
なお、混入率は出荷尾数に対する体色異常魚の検
本県では、マコガレイの資源増大を図るために、
1969年から人工種苗を放流してきた。そのため、マ
コガレイの放流効果の推定が求められている。
しかし、マコガレイには、長期にわたって放流魚
出尾数の割合(%)である。
4.マコガレイ親魚の採集
マコガレイ親魚のDNA分析を行うために、種苗
生産に供した親魚を採集した。
を識別できる外部標識がないことから、放流魚と天
然魚を直接識別し、放流効果を推定する定量評価は
事業の結果
困難である。
体色異常はマコガレイを含む異体類の特徴的な異
常であり、人工種苗でその割合が高い。そのため、
1.人工種苗の放流尾数の把握
外部標識を装着できないマコガレイ稚魚にも適用可
表1に、2012年度における種苗放流の概要を示す。
本年度は周防灘に14,180尾、伊予灘に178,239尾、計
192,419尾が放流された。
能な標識である。
これらのことから、マコガレイの体色異常を標識
とした調査により、マコガレイの人工種苗および出
荷魚における体色異常魚の混入状況を把握してい
る。また、体色異常魚から遺伝標識等の内部標識で
放流魚を識別できれば、調査の精度を高めることが
できる。
本年度も引き続き、マコガレイの人工種苗および
出荷魚における体色異常魚の混入状況を把握するた
表1
放流月日
5/16
5/17
5/22
2012年度マコガレイ種苗放流の概要
放流海域
周防灘
伊予灘
6/7
6/8
6/4
5/17
5/12~7/25
放流尾数
(尾)
中津地先
香々地地先
国見地先
6,610
7,570
23,168
36.9
41.4
41.7
―
―
―
姫島地先
国東地先
武蔵地先
32,640
14,856
6,502
49.5
44.9
51.4
―
―
―
安岐地先
杵築~神崎地先
5,993
95,080
14,180
50.0
50.7
39.3
―
―
178,239
192,419
48.8
48.1
周防灘計
伊予灘計
めの調査およびマコガレイ親魚の採集を行った。
大分県計
事業の方法
平均全長
(mm)
放流場所
標識の種類
2.人工種苗における体色異常魚の混入状況の把握
表2に、人工種苗における体色異常率の推移を示
1.人工種苗の放流尾数の把握
本年度の人工種苗の放流尾数を把握するために、
す。本年度は2,062尾を調査し、体色異常率は12.5%
であった。
聞き取り調査を行った。
2.人工種苗における体色異常魚の混入状況の把握
人工種苗における体色異常魚の混入状況を把握す
るために、放流直前の中間育成種苗について、調査
尾数および有眼側・無眼側における体色異常魚の検
出尾数の計数を行い、体色異常率を算出した。
なお、体色異常率は調査尾数に対する体色異常魚
の検出尾数の割合(%)である。
3.出荷魚における体色異常魚の混入状況の把握
表2
マコガレイ放流種苗の体色異常率の推移
調査年度 調査尾数
有眼側
白化尾数
無眼側 体色異常 白化率 黒化率 体色異常率
黒化尾数 総尾数 (%) (%)
(%)
2001
13,843
824
1,036
1,860
6.0
7.5
13.4
2002
3,015
168
143
311
5.6
4.7
10.3
2003
10,086
591
108
699
5.9
1.1
6.9
2004
5,781
181
88
269
3.1
1.5
4.7
2005
7,387
24
105
129
0.3
1.4
1.7
2006
2,216
53
47
100
2.4
2.1
4.5
2007
3,527
4
52
56
0.1
1.5
1.6
2008
2,011
10
171
181
0.5
8.5
9.0
2009
2,162
50
163
213
2.3
7.5
9.9
出荷魚における体色異常魚の混入状況を把握する
2010
2,159
26
222
248
1.2
10.3
11.5
2011
2,041
20
27
47
1.0
1.3
2.3
ために、宇佐、国見、姫島および別府魚市で出荷尾
2012
2,062
22
236
258
1.1
11.4
12.5
数および有眼側・無眼側における体色異常魚の検出
計
56,290
1,973
2,398
4,371
3.5
4.3
7.8
大分水研事業報告
180
3.魚市場調査
表4
表3に、2012年市場調査における調査尾数、体色
異常魚の検出尾数および混入率を示す。2012年の調
査尾数は4,794尾、体色異常魚の検出尾数は89尾、
2013年に採集したマコガレイ親魚の概要
雌雄
採集時期
雌
雄
1/7~2/6
1/7~2/6
採集尾数 平均全長 平均体長 平均体重
(尾)
(㎜)
(㎜)
(g)
22
328.4
272.2
397.8
21
284.4
235.8
291.5
混入率は1.9%であった。
図1に、2012年調査で検出した体色異常魚の年級
今後の問題点
別割合を示す。2008年級群の割合が最も高く48.6%、
次いで2009年級群の21.6%、2007年級群の15.9%で
あった。また、2007~2009年級群の割合が体色異常
マコガレイには長期にわたって、識別可能な外部
魚の86.1%を占めていた。
標識が開発されていない。そのため、体色異常を標
4.マコガレイ親魚の採集
識としたモニタリング調査を行っている。しかし、
表4に、2013年に採集したマコガレイ親魚の概要
天然魚でも体色異常魚が存在していることから、信
を示す。親魚の採集尾数は雌が22尾、雄が21尾であ
頼性の高い放流魚判別手法を導入して、調査の精度
った。
を高めていく必要があろう。
表3
市場名
2012年市場調査における調査尾数、体色異常魚の検出尾数および混入率
1月
宇佐支店魚市場
90
2月
3月
105
320
4月
300
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
95
計
1,840
24
1,251
450
482
156
27
21
21
30
43
52
238
257
163
70
70
20
39
300
273
229
73
22
10
3
17
国見支店荷捌き所
姫島支店荷捌き所
5月
909
別府魚市
22
7
30
50
330
135
74
49
10
32
34
21
794
計
112
112
650
852
1,323
777
337
162
111
85
133
140
4,794
3
3
8
10
18
11
9
6
5
4
6
6
89
2.7%
2.7%
1.2%
1.2%
1.4%
1.4%
2.7%
3.7%
4.5%
4.7%
4.5%
4.3%
1.9%
魚市場調査における
体色異常魚の検出尾数
混入率(体色異常魚
検出尾数/総調査尾数)
2006年級群
6.7%
2005年級群
2.2%
2012年級群 2011年級群
0.0%
2010年級群
0.0%
1.7%
2004年級群
1.4%
2009年級群
21.6%
2003年級群
1.1%
2002年級群
0.8%
2007年級群
15.9%
検出尾数
89尾
2008年級群
48.6%
図1
2012年調査で検出した体色異常魚の年級別割合
2012年級群
2011年級群
2010年級群
2009年級群
2008年級群
2007年級群
2006年級群
2005年級群
2004年級群
2003年級群
2002年級群
平 成 24 年 度
181
栽培対象魚種の放流効果調査-3
クルマエビ①(神崎放流群)
畔地和久
装着率および飼育1か月後の生残率を乗じた値であ
事業の目的
る。
表1
瀬戸内海大分県海域におけるクルマエビの放流適
地は周防灘および別府湾であると考えられる。しか
し、瀬戸内海大分県海域におけるクルマエビの放流
効果を標識放流により評価した報告
1)
囲い網
設置場所
馴致放流の概要
収容日
収容尾数
平均体長
(㎜)
大分市地先 6月27日
100,000
57.6
標識種類
放流日
左尾肢切除 6月30日
は周防灘以外
神崎放流群の放流効果を推定するために、市場調
に見あたらない。
このことから、別府湾に放流したクルマエビの放
査および買い上げ調査を行った(図 1)。調査は 8
流効果を評価し、放流適地を明らかにすることが求
月から 12 月まで実施した。調査項目は標識・交尾
められている。
栓の有無の確認、標識エビの性別、全長もしくは体
は、放流クルマエビの減耗要因は魚類など
長(買い上げた場合:全長、体長、体重、漁獲量お
の食害であり、そのほとんどが放流後の短時間内で
よび再捕場所)、写真撮影、調査尾数・重量および
起こることを指摘している。
月別取扱量(漁獲量)である。
檜山
2)
囲い網は食害生物の侵入を防ぎ、クルマエビを自
神崎放流群の回収率を推定するために、回収尾数
然環境に馴致させるには有効である。また、囲い網
を算出した。回収尾数は月別回収尾数の合計値であ
を設置するには広い干潟や浅瀬が適している。
る。月別回収尾数は月別標識確認尾数を月別取扱量
本調査では、別府湾がクルマエビの放流適地かを
(漁獲量)に対する月別調査重量の比(標本抽出率)
明らかにするために、大分市神崎地先に馴致放流し
で除した値である。なお、神崎放流群の回収尾数は
たクルマエビ(以下、神崎放流群)の放流効果を推
調査地区の回収尾数を該当海域における推定取扱量
定した。
に対する調査重量の比(調査率)および標識判別率
(12 月まで飼育した標識エビの尾肢写真から判別
した尾数に対する標識を確認した尾数の比)で除し
事業の方法
た値である。
神崎放流群の回収率は有効放流尾数に対する回収
放流に用いた種苗は民間のクルマエビ養殖業者か
尾数の割合(%)である。
ら購入した稚エビである。また、放流エビを識別す
神崎放流群の回収状況を推測するために、再捕漁
るために、放流種苗の全数に左尾肢切除標識を装着
場の回収割合を推定した。回収割合は、神崎放流群
した。3-6)
の回収率に対する再捕漁場の回収率の割合(%)で
表 1 に、馴致放流の概要を示す。放流後の初期減
耗を防止するために、囲い網による短期環境馴致を
ある。なお、再捕漁場における回収率は再捕報告か
ら推定した。
行った。短期環境馴致は、標識エビを民間の養殖場
神崎放流群の放流効果を評価するために、費用対
からトラックに積載した活魚タンクで最寄りの場所
効果を推定した。費用対効果は、月別回収金額の合
まで輸送し、次に、標識エビを活魚タンクから耐圧
計額を放流経費で除した値である。なお、月別回収
ホースで囲い網内に収容して行った(図 1)。放流
金額は月別回収重量に大分県漁協姫島支店における
は標識エビを囲い網内で 3 日間馴致後、囲い網を撤
去して行った。
放流後の有効放流尾数を推定するために、標識エ
ビの一部を用いて、尾肢切除状況(標識装着率)お
よび飼育1か月後の生残率を調べた。なお、有効放
流尾数は、囲い網に収容した標識エビの尾数に標識
月別平均単価を乗じた値であり、月別回収重量は月
別回収尾数に月別平均体重を乗じた値である。また、
放流経費は有効放流尾数の種苗費である。
大分水研事業報告
182
産研究指導センター研究報告(水産研究部編)
事業の結果および考察
2012;2:13-19.
図 2 に、神崎放流群における再捕報告から推定し
2) 檜山節久.種苗放流から収穫まで.クルマエビ
た回収割合を示す。神崎放流群は、臼杵湾での回収
栽培漁業の手引き,さいばい叢書
割合が 53.9 %であった。また、回収割合が 10 %を
-180.
超えた漁場は、姫島周辺の 16.6 %、空港沖の 14.8
1986;1:164
3)宮嶋俊明,豊田幸嗣,浜中雄一,小牧博信.ク
ルマエビ標識放流における尾肢切除法の有効性
%、別府湾口の 13.0 %であった。
表 2 に、調査海域における 2012 年神崎放流群の
放流効果を示す。神崎放流群の回収率は 1.14 %、
について.栽培技研 1996;25 (1):41-46.
4) 豊田幸詞,宮嶋俊明,上家利文,松田裕二、大
費用対効果は 0.29 であった。また、2011 年に実施
槻直也.クルマエビ標識放流における尾肢切除
した杵築放流群の回収率は 9.17 %、費用対効果は 1.
法の有効性について-Ⅱ.栽培技研 1996;25(2)
31 であった。 さらに、2007 年から 2010 年にかけ
6)
て行われた周防灘放流群の回収率は平均 8.5 %、費
:95-100.
5) 豊田幸詞,宮嶋俊明,吉田啓一,藤田義彦,境
用対効果は平均 1.57 であった。 その結果、神崎放
谷季幸.クルマエビ標識放流における尾肢切除
流群の放流効果は、杵築放流群や周防灘放流群と比
法の有効性について-Ⅲ.栽培技研 1998;26(2)
1)
較してかなり低い値であった。したがって、大分市
神崎地先はクルマエビの放流適地ではないと考えら
れた。
:85-90.
6) Miyajima.T,Hamanaka Y,Toyota K..A Marking
Method for Kuruma Prawn Penaeus japonicus.Fish.
Sci 1999;65(1):31-35.
7) 畔地和久.栽培対象魚種の放流効果調査-3
文
クルマエビ①(杵築放流群).平成 23 年度大分
献
県農林水産研究指導センター水産研究部 2013;
1) 畔地和久,徳丸泰久.周防灘大分県海域に馴致
202-204.
放流したクルマエビの放流効果.大分県農林水
図1
放流場所と調査場所
平 成 24 年 度
図2
183
神崎放流群における再捕報告から推定した回収割合※
※ 神崎放流群の回収率に対する再捕漁場の回収割合(%)
表2
調査海域における2012年神崎放流群の放流効果
8月
調査地区の合計推定回収尾数(尾)
A
大分県調査における標識判別率
B
調査地区における推定回収尾数(尾)
C=A/B
2012年8~12月の調査地区における漁獲量(㎏)
9月
162
174
10月
11月
188
12月
合計
65
129
718
90.9%
178
191
207
72
142
790
D
3,827.7
6,187.3
4,507.8
1,242.8
475.8
16,241.3
聞き取り調査による2012年8~12月における調査海域の漁獲量(㎏)
E
4,072.4
6,589.8
4,970.8
1,649.0
927.5
18,209.5
調査率
F=D/E
94.0%
93.9%
90.7%
75.4%
51.3%
89.2%
調査海域における神崎放流群の推定回収尾数(尾)
G=C/F
190
204
228
96
276
993
神崎放流群再捕エビの平均体重(㎏)
H
0.0267
0.0279
0.0316
0.0430
0.0533
0.0357
調査海域における神崎放流群の推定回収重量(㎏)
I=H×G
5.1
5.7
7.2
4.1
14.7
36.8
大分県姫島支店における2012年8~12月の平均単価(円/㎏)
J
6,497
5,144
6,986
6,584
7,662
5,772
調査海域における神崎放流群の推定回収金額(円)
K=J×I
32,923
29,226
50,339
27,046
112,752
252,286
標識放流尾数
L
100,000尾
標識装着率
M
90.1%
飼育試験生残率
N
97.0%
有効標識放流尾数
O=L×M×N
87,410尾
調査海域における神崎放流群の回収率
P=ΣG/O
1.14%
有効標識放流1尾あたりの回収金額
Q=ΣK/O
2.9円
種苗単価
R
10円
有効標識放流尾数の種苗代
S=R×O
874,096円
費用対効果(回収金額/種苗代)
T=ΣK/S
0.29
大分水研事業報告
184
栽培対象魚種の放流効果調査-3
クルマエビ②(真玉放流群)
畔地和久
事業の目的
ビの一部を用いて、尾肢切除状況(標識装着率)お
よび飼育1か月後の生残率を調べた。なお、有効放
クルマエビは大分県における重要な漁業資源であ
流尾数は、建干し網に収容した標識エビの尾数に標
るが、近年の漁獲量は極めて低位に推移している。
識装着率および飼育1か月後の生残率を乗じた値で
そのため、クルマエビ資源を維持・増大させる大型種
ある。
表1
苗の大量放流が行われている。しかし、漁業者がク
ルマエビの放流効果を実感できない状況である。
このことから、大型種苗の大量放流を効果的な放
流手法に改めることが求められている。
1)
檜山 は、放流クルマエビの減耗要因は魚類など
建干し網
設置場所
馴致放流の概要
収容日
収容尾数
平均体長
(㎜)
標識種類
豊後高田市 7月25日
真玉地先 7月26日
100,000
78.6
右尾肢切除
101,400
79.6
無標識
計/平均
201,400
79.1
放流日
7月27日
の食害であり、そのほとんどが放流後の短時間内で
起こることを指摘している。
建干し網は大型種苗の食害生物の侵入を防ぎ、ク
真玉放流群の放流効果を推定するために、市場調
査および買い上げ調査を行った(図1)。調査は8月
ルマエビを自然環境に馴致させるには有効である。
から12月まで実施した。調査項目は標識・交尾栓の
また、建干し網を設置するには河口域等の浅瀬が適
有無の確認、標識エビの性別、全長もしくは体長(買
しており、真玉川の河口域は適地である。
い上げた場合:全長、体長、体重、漁獲量および再
本調査では、大型種苗の大量馴致放流に対する建
干し網の有効性を明らかにするために、真玉川の河
口域に馴致放流したクルマエビ(以下、真玉放流群)
の放流効果を推定した。
捕場所)、写真撮影、調査尾数・重量および月別取扱
量(漁獲量)である。
真玉放流群の回収率を推定するために、回収尾数
を算出した。回収尾数は月別回収尾数の合計値であ
る。月別回収尾数は月別標識確認尾数を月別取扱量
(漁獲量)に対する月別調査重量の比(標本抽出率)
事業の方法
で除した値である。なお、真玉放流群の回収尾数は
調査地区の回収尾数を該当海域における推定取扱量
放流に用いた種苗は民間のクルマエビ養殖業者か
に対する調査重量の比(調査率)および標識判別率
ら購入した稚エビである。また、放流エビを識別す
(12月まで飼育した標識エビの尾肢写真から判別し
るために、放流種苗の一部に右尾肢切除標識を装着
た尾数に対する標識を確認した尾数の比)で除した
した。
2-5)
表1に、馴致放流の概要を示す。放流後の初期減
耗を防止するために、建干し網による短期環境馴致
値である。
真玉放流群の回収率は有効放流尾数に対する回収
尾数の割合(%)である。
を行った。短期環境馴致は、標識エビを民間の養殖
真玉放流群の回収状況を推測するために、再捕漁
場からトラックに積載したエアーレーションを施し
場の回収割合を推定した。回収割合は、真玉放流群
た発泡スチールで最寄りの漁港まで輸送し、次に、
の回収率に対する再捕漁場の回収率の割合(%)で
標識エビを入れた発泡スチールを運搬船に積み替
ある。なお、再捕漁場における回収率は再捕報告か
え、建干し網内の潮だまりができる箇所(放流場所)
ら推定した。
まで運搬して行った(図1)。その後、標識エビを放
真玉放流群の放流効果を評価するために、費用対
流場所に収容し、環境馴致した。放流は標識エビを
効果を推定した。費用対効果は、月別回収金額の合
建干し網内で1~2日間馴致後、建干し網を撤去して
計額を放流経費で除した値である。なお、月別回収
行った。
金額は月別回収重量に大分県漁協姫島支店における
放流後の有効放流尾数を推定するために、標識エ
月別平均単価を乗じた値であり、月別回収重量は月
平 成 24 年 度
185
別回収尾数に月別平均体重を乗じた値である。また、
文
献
放流経費は有効放流尾数の種苗費である。
1) 檜山節久.種苗放流から収穫まで.クルマエビ栽培漁
業の手引き,さいばい叢書
事業の結果および考察
1986;1:164-180.
2)宮嶋俊明,豊田幸嗣,浜中雄一,小牧博信.クルマエ
ビ標識放流における尾肢切除法の有効性について.栽
図2に、真玉放流群における再捕報告から推定し
た回収割合を示す。真玉放流群の回収割合は姫島周
培技研
1996;25(1):41-46.
3) 豊田幸詞,宮嶋俊明,上家利文,松田裕二,大槻直也.
辺漁場が76.5%を占めた。なお、姫島周辺以外で回
クルマエビ標識放流における尾肢切除法の有効性につ
収割合が10%を超えた漁場はなかった。
いて-Ⅱ.栽培技研
表2に、調査海域における2012年真玉放流群の放
流効果を示す。真玉放流群の回収率は2.17%、費用
対効果は0.49であった。また、2011年に実施した真
玉放流群の回収率は5.15%、費用対効果は0.97であ
1996;25(2):95-100.
4) 豊田幸詞,宮嶋俊明,吉田啓一,藤田義彦,境谷季幸.
クルマエビ標識放流における尾肢切除法の有効性につ
いて-Ⅲ.栽培技研
1998;26(2):85-90.
5) Miyajima T,Hamanaka Y,Toyota K..A Marking Method for
った。6)さらに、2007年から2010年にかけて行われ
Kuruma Prawn Penaeus japonicus .Fish.Sci
た囲い網による馴致放流(周防灘放流群)では回収
65(1):31-35.
率は平均8.5%、費用対効果は平均1.57であった。7)
その結果、2012年真玉放流群は、2011年放流群や周
防灘放流群より放流効果が低かった。これは、放流
時期が適期と考えれる6月小潮時期より1か月遅れ
6) 畔地和久.栽培対象魚種の放流効果調査-3
1999;
クルマ
エビ②(真玉放流群).平成23年度大分県農林水産研
究指導センター水産研究部
2013;205-207.
7) 畔地和久,徳丸泰久.周防灘大分県海域に馴致放流し
た。そのため、放流エビの適応能力を超える干潟環
たクルマエビの放流効果.大分県農林水産研究指導セ
境の時期になり、2012年真玉放流群の放流効果を低
ンター研究報告(水産研究部編)2012;2:13-19.
下させた可能性があると考えられた。
放流時期を適期である6月小潮時期に実施すれ
ば、建干し網による馴致放流は、囲い網と同程度の
放流効果が得られると思われた。
図1
放流場所と調査場所
大分水研事業報告
186
図2
真玉放流群における再捕報告から推定した回収割合※
※ 真玉放流群の回収率に対する再捕漁場の回収割合(%)
表2
調査海域における2012年真玉放流群の放流効果
8月
調査地区の合計推定回収尾数(尾)
A
大分県調査における標識判別率
B
調査地区における推定回収尾数(尾)
C=A/B
2012年8~12月の調査地区における漁獲量(㎏)
9月
15
647
10月
11月
684
12月
合計
98
70
1,514
97.0%
16
667
705
101
73
1,560
D
3,827.7
6,187.3
4,507.8
1,242.8
475.8
16,241.3
聞き取り調査による2012年8~12月における調査海域の漁獲量(㎏)
E
4,072.4
6,589.8
4,970.8
1,649.0
927.5
18,209.5
調査率
F=D/E
94.0%
93.9%
90.7%
75.4%
51.3%
89.2%
調査海域における真玉放流群の推定回収尾数(尾)
G=C/F
17
710
777
134
142
1,779
真玉放流群再捕エビの平均体重(㎏)
H
0.0212
0.0238
0.0331
0.0421
0.0512
0.0308
調査海域における真玉放流群の推定回収重量(㎏)
I=H×G
0.4
16.9
25.7
5.6
7.2
55.9
大分県姫島支店における2012年8~12月の平均単価(円/㎏)
J
6,497
5,144
6,986
6,584
7,662
6,054
調査海域における真玉放流群の推定回収金額(円)
K=J×I
2,296
86,972
179,834
37,058
55,489
361,648
標識放流尾数
L
100,000尾
標識装着率
M
96.5%
飼育試験生残率
N
85.0%
有効標識放流尾数
O=L×M×N
82,004尾
調査海域における真玉放流群の回収率
P=ΣG/O
2.17%
有効標識放流1尾あたりの回収金額
Q=ΣK/O
4.4円
種苗単価
R
9円
有効標識放流尾数の種苗代
S=R×O
738,033円
費用対効果(回収金額/種苗代)
T=ΣK/S
0.49
平 成 24 年 度
187
栽培対象魚種の放流効果調査-3
クルマエビ③(神崎・真玉放流群の回収状況)
畔地和久
なお、回収割合の詳細については、神崎放流群(p.
事業の目的
)および真玉放流群(p.
瀬戸内海大分県海域におけるクルマエビの放流適
)の報告を参照された
い。
地は別府湾および周防灘であると考えられる。しか
し、別府湾・周防灘放流群の回収状況を調査した報
事業の結果および考察
告は見あたらない。
このことから、別府湾・周防灘に放流したクルマ
エビの回収状況を明らかにすることが求められてい
表 2 に、神崎放流群の海域別回収割合を示す。神
る。また、各放流群の回収状況が分かれば、より効
崎放流群は、臼杵湾の回収割合が 53.9 %を占めた。
果的な馴致放流ができると考えられる。
つまり、神崎放流群の大半は臼杵湾で回収された。
本調査では、別府湾・周防灘放流群の回収状況を
明らかにするために、大分市神崎地先・真玉川河口
表2
神崎放流群の海域別回収割合
域に馴致放流したクルマエビの回収割合を推定し
回収海域
た。
姫島周辺
16.7
伊予灘
16.3
別府湾
13.0
臼杵湾
53.9
事業の方法
回収割合(%)
表 1 に、馴致放流の概要を示す。別府湾および周
表 3 に、真玉放流群の海域別回収割合を示す。真
防灘放流群の回収状況を明らかにするために、大分
玉放流群の回収割合は、姫島周辺が最も高く、別府
市神崎地先(以下、神崎放流群)および真玉川河口
湾、伊予灘、臼杵湾の順であった。すなわち、真玉
域(以下、真玉放流群)に標識エビを馴致放流した
放流群の大部分は姫島周辺で回収された。
(図 1)。
なお、放流の詳細については、神崎放流群(p. )
および真玉放流群(p.
)の報告を参照されたい。
表3
真玉放流群の海域別回収割合
回収海域
姫島周辺
表1
放流場所
大分市地先
収容日
馴致放流の概要
収容尾数
平均体長
(㎜)
標識種類
放流日
6月27日
100,000
57.6
左尾肢切除 6月30日
豊後高田市地先 7月25日
100,000
78.6
右尾肢切除
回収割合(%)
76.5
伊予灘
8.5
別府湾
9.5
臼杵湾
5.5
7月9日
表 4 に、各調査海域における神崎・真玉放流群が
杵築および真玉放流群の回収状況を推定するため
占める割合を示す。姫島周辺では真玉放流が、臼杵
に、市場調査および買い上げ調査を行った(図 1)。
湾では神崎放流群が大部分を占めた。また、伊予灘
なお、調査の詳細については、神崎放流群(p. )
および別府湾では、真玉放流群が神崎放流群を上回
および真玉放流群(p.
)の報告を参照されたい。
神崎および真玉放流群の回収状況を推測するため
に、各放流群における海域別の回収割合を推定した。
回収割合は、各放流群の回収率に対する各海域の回
収率の割合(%)である。また、各海域における回
収率は再捕報告から推定した。
る割合であった。つまり、神崎放流群は姫島以北の
海域ではほとんど回収されないことが判明した。
大分水研事業報告
188
表4
各調査海域における神崎・真玉
放流群が占める割合
調査海域
神崎・真玉放流群の割合(%)
神崎放流群
真玉放流群
姫島周辺
伊予灘
9.4
48.1
90.6
51.9
別府湾
臼杵湾
39.5
82.3
60.5
17.7
図1
放流場所と調査場所
平 成 24 年 度
189
栽培対象魚種の放流効果調査-4
(キジハタ)
畔地和久・三代和樹
事業の目的
2.種苗の受取・輸送
表1に、受取種苗・輸送の概要を示す。独立行政法
大分県では、1998年~2004年にキジハタを対象に
人
水産総合研究センター
瀬戸内海区水産研究所
種苗放流による資源添加に取り組んだ。しかし、現
玉野庁舎(以下、(独)瀬戸内水研 玉野庁舎))で
在に至るまで、人工種苗の標識放流魚の再捕は確認
種苗を受け取り、活魚車で姫島村まで輸送した。
表1
されていない。
奥村ら 1) は、キジハタの種苗放流が漁獲に反映さ
れないのは、魚類などの食害や餌不足の餓死による
減耗の可能性を指摘している。
そのため、放流種苗の初期減耗を軽減させること
が漁獲につながる第一歩であると考えられる。
人工魚礁は、魚類からの食害を防ぐための隠れ場
や餌料生物の供給場として有効である。2-5)
実施日
輸送先
9月11日
姫島村
受取種苗・輸送の概要
種苗のサイズ
輸送尾数
平均全長 平均体重
62.9㎜
3.9g
10,000
輸送収容密度
輸送
尾/トン
㎏/トン 所要時間
3,333
12.9 8.3 時間
3.中間育成
表2に、受入種苗の概要を示す。放流後の生残を
高めるために、大分県漁協姫島支店の陸上水槽でキ
ジハタの中間育成を行った。給餌は自動給餌機で1
日11~13回行った。飼育水温を把握するために、水
本年度は、キジハタの種苗放流による資源造成を
槽に水温用データロガーを設置し、1時間ごとに飼
図るために、前年度に引き続き大分県漁協姫島支店
育水温を測定し、1日の平均飼育水温を算出した。
の陸上水槽で中間育成後、人工魚礁に標識魚を底放
また、キジハタの成育状況を把握するために、1日
流した。また、キジハタの放流後の生息状況および
の死亡尾数の計数および全長、体長および体重の測
漁獲状況を把握するために、放流後の調査、市場調
定を行い、肥満度を算出した。
査および漁獲量・金額調査を行った。
なお、肥満度は(体重)/(全長)3×106 である。
表2
事業の方法
1.人工魚礁設置場所の海水温の測定
受入種苗の概要
受入日 育成場所 受入尾数 平均全長 平均体重
9月11日 姫島村
9,800
62.9㎜
3.9g
4.標識放流
図1に、人工魚礁の概要を示す。キジハタ放流種
表3に標識放流の概要を示す。放流種苗の放流年
苗の初期減耗を軽減するために、2011年9月1日に姫
を識別するために、中間育成種苗に左腹鰭抜去標識
島村北浦沖に人工魚礁を設置した(図2)。また、人
を装着した。また、放流後の減耗を軽減するために、
工魚礁設置場所の海水温を把握するために、人工魚
標識魚を放流カゴに収容し、姫島村北浦沖に設置し
礁に水温用データロガーを設置し、1時間ごとに海
た簡易人工魚礁に底放流した(図1,2)。
表3
水温を測定した。
標識放流の概要
標識作業日 放流日
放流海域
放流尾数 平均全長 平均体重
10月11日 10月22日 姫島村北浦沖
9,200
85.0㎜
9.1g
図1
人工魚礁の概要
図2
キジハタの放流海域
大分水研事業報告
190
5.放流後の調査
期間の平均水温は24.2℃であった。
放流後のキジハタの滞留状況等を把握するため
図5に、1日の死亡尾数の推移を示す。1日の死亡
に、放流海域で潜水観察、カゴ網および刺網による
尾数は0~26尾の範囲で推移し、飼育期間の死亡尾
採捕を行った。なお、潜水観察では人工魚礁に生息
数は486尾であった。
するキジハタの尾数を計数した。また、キジハタの
図6に、平均全長・体長の推移を示す。平均全長は
成長、摂餌および被食の状況を把握するために、採
62.9mmから85.0mmに成長し、1日当たり0.55mmの
捕個体の全長、体長、体重および胃内容物を調査し、
成 長 量 で あ っ た 。 ま た 、 平 均 体 長 は 51.5mmか ら
肥満度および群摂餌率を算出した。
68.9mmに成長し、1日当たり0.44mmの成長量であ
なお、肥満度は(体重)/(全長)3×106、群摂餌
率は採捕尾数に対する摂餌尾数の割合(%)である。
6.市場調査および漁獲量・金額調査
った。
図7に、平均体重の推移を示す。平均体重は3.9g
から9.1gに成長し、1日当たり0.13gの成長量であっ
姫島およびその周辺海域におけるキジハタの漁獲
状況を把握するために、市場調査および漁獲量・金
額調査を行った。
た。
図8に、平均肥満度の推移を示す。平均肥満度は、
14.2~15.5の範囲で推移し、9月中旬から低下した。
の計数と全長測定を行った。
漁獲量・金額調査は大分県漁協姫島・国見支店から
聞き取り、キジハタの漁獲量・金額を把握した。
事業の結果
1日の平均飼育水温(℃)
市場調査は大分県漁協姫島・国見支店でキジハタ
27
26
25
24
23
22
1.簡易人工魚礁付近の海水温の測定
9/11
9/21
図3に、2011年9月1日から2012年12月20日までの
10/1
月/日
10/11
10/21
魚礁設置場所における海水温の推移を示す。海水温
図4
は6.4~29.9℃の範囲で推移し、その期間の平均海水
温は、17.9℃であった。
30
1日の飼育死亡尾数
30
魚礁設置場所の海水温(℃)
1日の平均飼育水温の推移
25
20
15
10
5
25
20
15
10
5
0
0
9/1 10/31 12/30 2/28
2011年
2012年
図3
4/28
月/日
6/27
8/26
10/25 12/24
9/11
9/19
魚礁設置場所における海水温の推移
図5
2.種苗の受取・輸送
9/27
10/5
月/日
10/13
10/21
1日の死亡尾数の推移
(独)瀬戸内水研 玉野庁舎出発後、停止時には
た。
輸送状況は出発6時間までは良好であった。
その後は活魚水槽の蓋を開けると、一部の個体が表
層に急上昇し、降下後、痙攣し横たわる個体がみら
れた。しかし、水槽の蓋を閉め、静穏状態を保つと、
大部分の個体は正常な状態に戻り、大量死亡はなか
った。
3.中間育成
100
平均全長・体長(㎜)
活魚水槽内のキジハタの状態、酸素供給量を確認し
80
60
平均全長
平均体長
40
20
0
9/11
9/21
飼育は9月11日から10月22日まで行った。
図4に、1日の平均飼育水温の推移を示す。1日の
平均飼育水温は22.3~26.4℃の範囲で推移し、飼育
図6
10/1
月/日
10/11
平均全長・体長の推移
10/21
平 成 24 年 度
表4
10
採捕月日
4月25日
10月14日
10月25日
10月30日
11月3日
11月30日
12月14日
12月21日
計
8
平均体重(g)
191
6
4
2
0
9/11
9/21
10/1
月/日
10/11
キジハタ
カゴ網による採捕尾数
365
373
361
41
21
マアナゴ
8
8
8
4
3
8
1
1,161
40
マダコ
2
6
3
2
3
2
1
1
20
アカメバル
1
1
その他
18
2
5
3
計
28
17
382
382
369
54
38
11
1,281
2
6
4
14
3
9
6
46
表5に、10月30日に姫島村北浦沖の人工魚礁周辺
10/21
海域でカゴ網により再捕したキジハタ1歳魚の測定
結果を示す。再捕した1歳魚は放流時と比較して、
図7
平均体重の推移
全長・体長は約1.8倍、体重は約5.5倍であった。
表6に、姫島村北浦沖の人工魚礁周辺海域で再捕
平均肥満度
16
したキジハタ0歳魚の測定結果を示す。再捕した0歳
魚は放流時と比較して、平均全長・体長は同じであ
15
ったが、平均体重・肥満度は低下した。つまり、放
流後の調査では、再捕したキジハタ0歳魚の成長は
14
みられなった。
13
9/11
9/21
図8
10/1
月/日
10/11
表5
10/21
平均肥満度の推移
4.放流後の調査
表6
図9に、姫島村北浦沖の人工魚礁における潜水観
察によるキジハタの計数尾数の推移を示す。キジハ
タの計数尾数は放流6日後に2,100尾程度確認した。
その後、海水温の低下に伴い、キジハタの計数尾
数も低下した。
潜水観察による計数尾数
再捕したキジハタ1歳魚の測定結果
再捕年月日
全長(㎜) 体長(㎜) 体重(g)
2012年10月30日
171.2
137.1
68.1
2011年再捕時平均
92.5
74.6
11.3
2011年放流時平均
92.2
74.5
12.3
日間成長量
0.22
0.18
0.16
肥満度
13.6
14.2
15.7
―
再捕したキジハタ0歳魚の測定結果
再捕年月
測定尾数
2012年10月
2012年11月
2012年12月
計/平均
放流時
39
24
17
80
―
平均全長 平均体長 平均体重
(㎜) (㎜) (g)
84.3
69.0
8.4
85.2
72.0
9.4
85.4
70.6
8.1
84.8
70.2
8.7
85.0
68.9
9.1
平均
肥満度
13.9
15.2
12.9
14.1
14.7
表7に、姫島村北浦沖の人工魚礁周辺海域で再捕
2,500
21.9℃
したキジハタ0歳魚の摂餌尾数および群摂餌率を示
2,000
す。群摂餌率は23.5~91.7%で推移し、平均は41.3
1,500
%であった。しかし、再捕したキジハタ0歳魚の天
1,000
然餌料生物の摂餌は1尾のみであった。
500
11.3℃
0
0
図9
10
20
30
40
放流後日数
50
60
潜水観察によるキジハタの計数尾数の推移
表4に、姫島村北浦沖の人工魚礁周辺海域におけ
表7
再捕した0歳魚の摂餌尾数および群摂餌率
再捕月日
10月25日
10月30日
11月3日
11月29日
12月14日
計/平均
測定 キジハタ胃内容物の摂餌尾数 群摂餌
尾数 魚類 甲殻 配合飼
率
計
22
0
0
8
8
36.4
17
0
0
4
4
23.5
12
0
0
4
4
33.3
12
0
0
11
11
91.7
17
0
1
5
6
35.3
80
0
1
32
33
41.3
るカゴ網による採捕尾数を示す。採捕尾数は、11~
表8に、姫島村北浦沖の人工魚礁周辺海域で採捕
382尾で推移し、計1,281尾を採捕した。キジハタが
した個体の胃内容物におけるキジハタ捕食尾数を示
総採捕尾数の9割を占めた。なお、採捕した全ての
す。キジハタ捕食尾数は6~21尾で推移し、計64尾
キジハタから腹鰭抜去標識を確認し、採捕キジハタ
の捕食が確認された。また、採捕個体別では、マア
は全て放流魚であった。
ナゴによる捕食が総捕食尾数の約9割を占めた。
大分水研事業報告
192
表8 採捕個体の胃内容物におけるキジハタ捕食尾数
採捕月日
10月25日
10月30日
11月3日
11月29日
12月15日
計
33%33% 33%
捕食者別胃内容物の捕食個体数
マアナゴ マダコ
スズキ
計
21
0
0
21
15
0
1
16
6
3
0
9
12
0
0
12
2
4
0
6
56
7
1
64
約7割を占めた。
20
10
0
2月
n=0
40%
3月
n=5
40%
組成(%)
す。採捕尾数はカサゴ、アカメバルが総採捕尾数の
1月
n=3
20
10
0
表9に、4月25日に実施した姫島村北浦沖の人工魚
礁周辺海域における刺網採捕個体の測定結果を示
20
10
0
20
10
0
4月
n=5
20
10
0
5月
n=66
20
10
0
6月
n=51
20
10
0
7月
n=23
33%
表10に、4月25日に姫島村北浦沖の人工魚礁周辺
33%
20
10
0
8月
n=6
20
10
0
9月
n=14
20
10
0
10月
n=11
20
10
0
11月
n=5
20
10
0
12月
n=0
海域で刺網採捕した個体の群摂餌率および平均摂餌
率を示す。胃内容物の調査結果、63.9%の採捕個体
が甲殻類等を摂餌していた。なお、キジハタの被食
は確認されなかった。
表9
刺網採捕個体の測定結果
種名 採捕尾数 採捕重量(g) 平均体重(g)
カサゴ
23
1,936.0
84.2
アカメバル
20
972.2
48.6
クジメ
4
338.3
84.6
クサフグ
4
170.4
42.6
その他
10
1,028.1
102.8
計
61
4,445.0
72.9
表10
100
図10
5.市場調査および漁獲量・金額調査
図10に、2012年に姫島で測定したキジハタの月別
全長組成の推移を示す。キジハタの全長は23~57cm
で推移し、30cm以下の割合は約1/3であった。
図11に、2012年に国見で測定したキジハタの月別
全長組成の推移を示す。キジハタの全長は22~40㎝
で推移し、30㎝以下の割合は56.9%であった。
組成(%)
群摂餌率および平均摂餌率
群摂餌率(%) 平均摂餌率(%)
52.2
0.88
90.0
0.34
100.0
1.70
25.0
0.11
40.0
0.22
63.9
0.66
600
700
2012年_姫島で測定した月別全長組成の推移
20
10
0
2月
n=0
20
10
0
3月
n=0
20
10
0
4月
n=4
20
10
0
5月
n=21
20
10
0
6月
n=0
20
10
0
7月
n=16
29%
20
10
0
8月
n=7
20
10
0
9月
n=4
20
10
0
10月
n=9
50%
20
10
0
ジハタの月別漁獲量・金額の推移を示す。月別漁獲
0
11月
n=4
12月
n=0
10
100
200
300
400
500
600
700
700
全長(㎜)
量は3.7~168.4㎏で推移し、年間漁獲量は771.3㎏で
タの漁期は5~12月、最盛期は6~10月であった。
500
1月
n=0
20
年間漁獲金額は1,535千円であった。なお、キジハ
400
20
10
0
図12に、2012年の大分県漁協姫島支店におけるキ
あった。また、月別漁獲金額は7~301千円で推移し、
300
全長(㎜)
姫島村北浦沖における刺網採捕個体の
種名
カサゴ
アカメバル
クジメ
クサフグ
その他
計
200
図11
2012年_国見で測定した月別全長組成の推移
平 成 24 年 度
150
光が直接、水槽内に差し込まないようにする必要で
350
漁獲量(㎏)
漁獲金額(千円)
300
250
120
200
90
150
60
100
30
50
0
姫島支店の月別漁獲金額(千円)
姫島支店の月別漁獲量(㎏)
180
あると考えられる。
次に、本年度は9月下旬で平均全長が80mm程度
であった。そのため、腹鰭抜去標識作業が困難にな
るので、9月下旬から給餌量を抑えた。その結果、
キジハタの放流サイズは昨年(平均全長92.2mm)
より小型であった。しかし、キジハタの腹鰭抜去標
識作業では、全長100mmを超えるサイズでも、標
0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
月
図12
193
識作業に支障はなかった。このことから、キジハタ
の放流効果を高めるためには、より大型で放流する
2012年_姫島支店の月別漁獲量・金額の推移
必要があると思われる。
また、キジハタの標識放流は、姫島村北浦沖に設
100
250
漁獲量(㎏)
漁獲金額(千円)
80
200
150
60
100
40
20
50
0
0
国見支店の月別漁獲金額(千円)
国見支店の月別漁獲量(㎏)
120
置した人工魚礁で行った。その結果、放流後から人
工魚礁における潜水観察による計数尾数は減少し
た。その原因として、人工魚礁の収容量に対して、
放流尾数が多かったことやマアナゴ等によるキジハ
タの捕食等が考えられる。その対策として、人工魚
礁を増やすことや放流前後に放流海域でマアナゴ等
の食害生物を駆除することが必要であろう。
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
月
図13
2012年_国見支店の月別漁獲量・金額の推移
図13に、2012年の大分県漁協国見支店におけるキ
参考文献
1) 奥村重信,小畑泰弘.キジハタ増殖魚礁の開発
ジハタの月別漁獲量・金額の推移を示す。月別漁獲
と漁港への応用.日水誌2006;69(3):463-466.
量は1.0~112.9kgで推移し、年間漁獲量は338.9kgで
2) 萱野泰久.人工魚礁に蝟集するキジハタの食性.
あった。また、月別漁獲金額は1~210千円で推移し、
年間漁獲金額は779千円であった。なお、キジハタ
の漁期は4~12月、最盛期は5~10月であった。
水産増殖2001;49(1):15-21.
3) 奥村重信,津村誠一,丸山敬吾.水槽実験によ
るキジハタ幼魚保護礁の素材評価.日水誌2002;
68(2):186-191.
4) 奥村重信,津村誠一,丸山敬吾.野外放流実験
今後の課題
による二種類のキジハタ幼魚保護実験礁の比較.
日水誌2003;69(1):57-64.
本年度の輸送では、大量死亡はみられなかった。
5) 奥村重信,萱野泰久,草加耕司,津村誠一,丸
しかし、出発7時間後に活魚水槽の蓋を開けると、
山敬吾.ホタテガイ貝殻を利用した人工魚礁へ
一部の個体が表層に急上昇し、降下後、痙攣し横た
のキジハタ幼魚の放流実験.日水誌2003;69(6):
わる個体がみられた。そのため、キジハタ種苗の長
917-925.
時間輸送を行う場合、活魚水槽の蓋を開ける際に日
大分水研事業報告
194
栽培対象魚種の放流効果調査-5
(オニオコゼ)
畔地和久・三代和樹
表1
事業の目的
大分県では、これまでオニオコゼを対象にした栽
受入日
8月23日
受入種苗の概要
育成場所
姫島村
受入尾数
20,000
平均全長
44.3㎜
培漁業の取り組みは行われてこなかった。しかし、
放流種苗を漁獲につなげるには、食害や餓死による
減耗を減らすことが重要であると考えられる。
3.標識放流
表2に標識放流の概要を示す。放流種苗の放流年
首藤ら は、アマモ場がオニオコゼ稚魚に好適な
を識別するために、中間育成種苗に背鰭第6,7棘抜
餌環境を提供し、成育場を形成しており、オニオコ
去標識 を装着した。また、放流後の減耗を軽減す
ゼ種苗が捕食あるいは共食いされた事例はなかった
るために、標識魚を放流カゴに収容し、姫島のアマ
と報告している。
モ場の海底付近に放流した(図1)。
1)
2)
このことから、オニオコゼ人工種苗の放流場所と
しては、アマモ場が適当であると考えられる。
本年度は、オニオコゼの種苗放流による資源造成
を図るために、前年度に引き続き大分県漁協姫島支
表2
標識放流の概要
育成場所 標識作業期間 放流日
放流海域 放流尾数 平均全長 平均体重
姫島村 10/16~10/19 10月22日
北浦沖
13,000
62.0㎜
3.9g
伯方島
-
10月22日 姫島港東沖 10,000
68.0㎜
5.1g
店の陸上水槽で中間育成後、標識魚を姫島のアマモ
場の海底付近に放流した。また、オニオコゼの放流
後の生息状況および漁獲状況を把握するために、放
流後の調査、市場調査および漁獲量・金額調査を行
った。
事業の方法
図1
オニオコゼの放流海域
4.放流後の調査
1.調査海域の海水温
放流後のオニオコゼの生息状況等を把握するため
調査海域である姫島周辺海域の海水温を把握する
に、姫島村北浦沖の放流海域で潜水観察、カゴ網に
ために、姫島港の浮桟橋に水温用データロガーを設
よる採捕を行った。また、オニオコゼの摂餌および
置し、1時間ごとに測定した。
被食の状況を把握するために、採捕個体の体重およ
び胃内容物を調査し、群摂餌率および摂餌率の平均
2.中間育成
表1に受入種苗の概要を示す。放流後の生残を高
めるために、大分県漁協姫島支店の陸上水槽でオニ
値を算出した。なお、群摂餌率は採捕個体数に対す
る摂餌個体の割合(%)、摂餌率は体重に対する摂
餌重量の割合(%)である。
オコゼの中間育成を行った。
飼育水温を把握するために、水槽に水温用データ
5.市場調査および漁獲量・金額調査
ロガーを設置し、1時間ごとに飼育水温を測定し、1
姫島およびその周辺海域におけるオニオコゼの漁
日の平均飼育水温を算出した。また、オニオコゼの
獲状況を把握するために、市場調査および漁獲量・
成育状況を把握するために、1日の死亡尾数の計数
金額調査を行った。
および全長、体重の測定を行い、肥満度(=(体重)/
(全長)3×106)を算出した。
市場調査は大分県漁協姫島・国見支店でオニオコ
ゼの計数と全長測定を行った。
漁獲量・金額調査は大分県漁協姫島・国見支店から
聞き取り、オニオコゼの漁獲量・金額を把握した。
平 成 24 年 度
事業の結果
195
図5に、平均全長の推移を示す。平均全長は44.3mm
から62.0mmに成長し、1日当たり0.30mmの成長量
であった。
1.調査海域の海水温
図2に、2010年10月27日から2013年3月31日までの
図6に、平均体重の推移を示す。平均体重は1.4g
姫島港の海水温の推移を示す。姫島港の海水温は、
から3.9gに成長し、1日当たり0.04gの成長量であっ
5.2~28.0℃で推移し、2012年の平均水温は17.3℃で
た。なお、受入時の平均体重を1.4gとした。
図7に、平均肥満度の推移を示す。平均肥満度は、
あった。
15.5~16.6の範囲で推移し、9月上旬以外はほぼ横ば
いであった。なお、受入時の平均体重を1.4gとした。
25
20
65
15
10
5
0
10/27 2/4 5/15 8/23 12/1 3/10 6/18 9/26 1/4 4/14
月/日
2010年 2011年
2012年
2013年
図2
平均全長(㎜)
姫島港の海水温(℃)
30
姫島港の海水温の推移
60
55
50
45
40
8/22
9/1
9/11
2.中間育成
図5
図3に、1日の平均飼育水温の推移を示す。1日の
平均飼育水温は22.3~26.4℃で推移し、飼育期間の
平均体重(g)
25
24
3
2
1
0
8/22
23
9/1
9/11
9/21 10/1 10/11 10/21
月/日
22
8/22
9/1
図3
9/11
9/21 10/1 10/11 10/21
月/日
図6
図4に、1日の死亡尾数の推移を示す。1日の死亡
尾数は0~854尾で推移し、1日の平均死亡数は76.2
尾であった。なお、9月上旬以降、死亡尾数が増加
平均体重の推移
17
1日の平均飼育水温の推移
平均肥満度
1日の平均飼育水温(℃)
26
平均全長の推移
4
平均水温は24.5℃であった。
27
9/21 10/1 10/11 10/21
月/日
16
した。
15
8/22
9/1
9/11
図7
平均肥満度の推移
1日の死亡尾数(尾)
1,000
800
9/21 10/1 10/11 10/21
月/日
600
3.放流後の調査
400
放流後の潜水調査は放流直後、7日後、59日後に
200
姫島村北浦沖の放流海域で実施した。図8に、姫島
0
8/22
9/1
図4
9/11 9/21 10/1 10/11 10/21
月/日
1日の死亡尾数の推移
村北浦沖におけるオニオコゼの生息状況を示す。放
流種苗は全ての実施日で確認された。また、オニオ
コゼは放流直後から砂に潜り、露出している個体は
少なかった。
大分水研事業報告
196
図8
姫島村北浦沖におけるオニオコゼの生息状況
による採捕結果を示す。
クサフグ、マダコが総採捕尾数の半分程度を占め
た。なお、オニオコゼの採捕はなかった。
組成(%)
表3に、姫島村北浦沖の放流海域におけるカゴ網
20
10
0
1月
n=0
20
10
0
2月
n=0
20
10
0
3月
n=105
20
10
0
4月
n=138
20
10
0
5月
n=157
20
10
0
6月
n=157
20
10
0
7月
n=131
30% 30%
表3
姫島村北浦沖におけるカゴ網による採捕結果
採捕月日 クサフグ
10月29日
2
12月14日
11
12月21日
1
計
14
マダコ
3
3
1
7
マアナゴ
5
1
6
イシガニ
1
1
4
6
カサゴ
1
4
5
その他
6
1
7
計
12
25
8
45
20
10
0
8月
n=27
20
10
0
9月
n=77
29%
表4に、姫島村北浦沖の放流海域におけるカゴ網
10月
n=7
20
10
0
11月
n=24
33% 28%
採捕個体の群摂餌率および平均摂餌率を示す。
20
10
0
胃内容物の調査結果、4割程度の採捕個体がカゴ
12月
n=46
100
200
300
網のエサ(配合飼料)等を摂餌していた。なお、オ
ニオコゼの被食は確認されなかった。
表4
29%
20
10
0
400
全長(㎜)
図9
2012年_姫島で測定した月別全長組成の推移
姫島村北浦沖におけるカゴ網採捕個体の
群摂餌率および平均摂餌率
種名
マアナゴ
クサフグ
カサゴ
その他
計
群摂餌率(%) 平均摂餌率(%)
66.7
0.16
78.6
2.92
20.0
0.24
15.0
1.48
42.2
1.91
20
10
0
1月
n=0
20
10
0
2月
n=0
20
10
0
3月
n=0
29%
4.市場調査および漁獲量・金額調査
29%
20
10
0
4月
n=7
20
10
0
5月
n=12
28%
別全長組成の推移を示す。オニオコゼの全長は17~
31㎝の範囲で推移し、20㎝以下の割合は低かった。
図10に、国見で測定したオニオコゼの月別全長組
成の推移を示す。オニオコゼの全長は20~30㎝の範
囲で推移し、20㎝以下の割合は低かった。
図11に、2012年の大分県漁協姫島支店におけるオ
ニオコゼの月別漁獲量・金額の推移を示す。月別漁
獲量は2.0~490.7kgで推移し、年間漁獲量は1,827.1kg
であった。また、月別漁獲金額は5~1,020千円で推
移し、年間漁獲金額は3,634千円であった。
なお、オニオコゼの漁期は2~12月、最盛期は5~8
組成(%)
図9に、2012年に姫島で測定したオニオコゼの月
6月
n=18
20
10
0
27%
20
10
0
7月
n=11
20
10
0
8月
n=4
20
10
0
9月
n=0
33%
33%
10月
n=6
20
10
0
50%
50%
20
10
0
11月
n=2
20
10
0
12月
n=0
100
月であった。
200
300
400
全長(㎜)
図10
2012年_国見で測定した月別全長組成の推移
平 成 24 年 度
漁獲量(㎏)
漁獲金額(千円)
500
1,000
400
800
300
600
200
400
100
200
0
今後の課題
1,200
姫島支店の月別漁獲金額(千円)
姫島支店の月別漁獲量(㎏)
600
0
本年度はオニオコゼの中間育成中に大量死亡が発
生した。その原因として、オニオコゼの体表から菌
糸が認められたことから、真菌類に起因する病気に
罹病したことが挙げられる。その対策として、菌類
の繁殖を少なくするために、飼育水槽内に残餌がな
いような飼育環境を維持することが重要である。
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
月
図11
197
また、放流後の調査では、放流したオニオコゼを
再捕することができなかった。そのため、来年度以
2012年_姫島支店の月別漁獲量・金額の推移
降は放流海域の沖でも調査を実施する必要がある。
図12に2012年の大分県漁協国見支店におけるオニ
オコゼの月別漁獲量・金額の推移を示す。月別漁獲
参考文献
量は2.0~123.5kgで推移し、年間漁獲量は461.9kgで
あった。また、月別漁獲金額は2~232千円で推移し、
年間漁獲金額は1,036千円であった。
で採集されたオニオコゼ稚魚の食性と成長に伴
なお、オニオコゼの漁期は2~12月、最盛期は3、5
~6月であった。
120
漁獲量(㎏)
漁獲金額(千円)
200
150
60
100
30
50
0
康洋,渡 辺研一.オニオ コゼ
Inimicus japonicusの背鰭棘抜去標識の有効性.
250
90
0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
月
図12
う変化.日水誌2008;74(5):827-831.
2) 太田健吾 ,島
国見支店の月別漁獲金額(千円)
国見支店の月別漁獲量(㎏)
150
1) 首藤宏幸,梶原直人.佐渡島真野湾のアマモ場
2012年_国見支店の月別漁獲量・金額の推移
水産増殖2010;58(2):189-194.
大分水研事業報告
198
基盤整備・栽培漁業・資源回復の推進に関する基礎調査-5
増殖場の餌料効果およびマコガレイの漁獲状況
畔地和久
事業の目的
大分県では、マコガレイ等の生活史に対応した漁
場整備を実施し、別府湾海域全体の生産量の底上げ
を目指している。
そのため、別府湾北部漁場で整備した増殖場の餌
料効果および別府湾海域のマコガレイ漁獲状況の把
握が求められている。
また、効果的な漁場整備を推進していくためには、
現場海域でモニタリングを行うことが重要である。
図2
本事業では、別府湾北部漁場増殖場の餌料効果お
シェルナース2.2型
よび別府湾海域のマコガレイ漁獲状況を把握するた
めに、付着生物調査および標本船日誌調査を行った。
なお、テストピースの沈設は 2011 年 6 月 8 日、
回収は 2012 年 11 月 6 日に行った。
表 1 に、標本船の概要を示す。別府湾におけるマ
事業の方法
コガレイ漁獲状況を把握するために、別府湾で刺網
漁業、小型定置網漁業に従事する漁船の中から 3 隻
図 1 に、別府湾北部漁場に整備した増殖場(水深
を選定し、マコガレイ漁獲量等の記帳を依頼した。
は 10m、底質は泥)の位置を示す。
表1
増殖場の餌料効果を調べるために、シェルナース
2.2 型(図 2)の最上段に取り付けたテストピース
を回収し、付着した生物の個体数および湿重量を計
測した。テストピースはカキ殻を充填したメッシュ
パイプ(以下、シェルナース)およびコンクリート
標本船
A
B
C
標本船の概要
所属支店
杵築
杵築
大分
漁業種類
小型定置網
小型定置網
刺網
調査期間
周年
周年
周年
ブロック(以下、コンクリート)の 2 種類であり、
形状は直径 15cm、長さ 30cm の円柱形である。
事業の結果および考察
表 2 に、2012 年 11 月 6 日に回収したテストピー
ス(シェルナース、コンクリート)に付着した生物
の個体数および湿重量を示す。個体数および湿重量
は、いずれもコンクリートがシェルナースを上回っ
た。一方、付着した生物の種類数はシェルナースの
方が多かった。
また、シェルナースおよびコンクリートにおける
個体数および湿重量は、いずれもフジツボ科(サン
カクフジツボ)が最も高い値であった。
特に、コンクリートにおけるフジツボ科(サンカ
クフジツボ)が占める個体数および湿重量の割合は、
図1
別府湾北部漁場増殖場の位置
それぞれ 78 %、97 %と非常に高い値であった。
平 成 24 年 度
199
なお、マコガレイ等の餌生物としては、フジツボ
マコガレイ漁獲量の推移を示す。近年のマコガレイ
科(サンカクフジツボ)よりカニダマシ科(イソカ
の漁獲量は 2007 年および 2008 年以外は低い水準で
ニダマシ)の方が適していると考えられる。このこ
推移している。なお、2012 年は前年の漁獲量と比
とから、マコガレイ等の餌場機能としてはシェルナ
較して減少した。
ースの方が優れていると思われる。
表 3 に、2011 年、2012 年に回収したテストピー
15
ス(シェルナース、コンクリート)に付着した生物
回収したシェルナース、コンクリートとも個体数お
よび湿重量は 2011 年より増加した。特に、2012 年
のシェルナースの湿重量および種類数、コンクリー
トの種類数は 2011 年の 2 倍以上であった。
標本船_A
マコガレイ漁獲量(㎏)
の個体数、湿重量および種類数を示す。2012 年に
表 4 に、2011 年、2012 年に回収したテストピー
12
標本船_B
標本船_C
9
6
3
0
ス(シェルナース、コンクリート)に付着した主要
1
2
3
4
5
6
7
8
9
生物(サンカクフジツボ、イソカニダマシ)の個体
数および湿重量を示す。2012 年に回収したシェル
図3
ナースのサンカクフジツボの個体数以外の主要生物
倍、15 倍と非常に高い値であった。このことから、
設置後 1 年半経過した魚礁に付着したサンカクフジ
ツボが小型の甲殻類や多毛類を生息させる環境を提
供していると考えられた。
12
150
標本船_A
マコガレイ漁獲量(㎏)
マシの個体数および湿重量は、それぞれ 2011 年の 6
11
各標本船の月別マコガレイ漁獲量の推移
の個体数および湿重量は 2011 年より増加した。特
に、2012 年に回収したコンクリートのイソカニダ
10
月
120
標本船_C
90
60
30
0
図 3 に、各標本船における月別マコガレイ漁獲量
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
年
の推移を示す。マコガレイの漁期は 11 ~ 2 月およ
び 3 ~ 7 月であり、最盛期は 3 ~ 6 月であった。
図4
標本船_A・Cの年別マコガレイ漁獲量の推移
図 4 に、標本船_A および標本船_C における年別
表3
2011年、2012年に回収したテストピースに付着した生物の個体数、湿重量および種類数
2011年
2012年
表4
付着生物の個体数
シェルナース
コンクリート
1,540
1,625
1,846
2,097
付着生物の湿重量(g)
シェルナース
コンクリート
551.36
835.26
1,130.62 1,291.65
付着生物の種類数
シェルナース
コンクリート
20
11
40
29
2011年、2012年に回収したテストピースに付着した主要生物の個体数、湿重量および種類数
サンカクフジツボの個体数
シェルナース
コンクリート
2011年
925
1,543
2012年
702
1,568
サンカクフジツボの湿重量(g)
シェルナース
489.50
878.00
コンクリート
816.60
1,246.90
イソカニダマシの個体数
シェルナース
コンクリート
448
42
637
271
イソカニダマシの湿重量(g)
シェルナース
18.53
36.47
コンクリート
0.53
8.05
大分水研事業報告
200
表2
2012年に回収したテストピース(シェルナース、コンクリート)に付着した生物の個体数および湿重量
個体数
門
海綿動物
綱
普通海綿
目
刺胞動物
扁形動物
ヒドロ
渦虫
軟クラゲ
多岐腸
扁形動物
渦虫
多岐腸
科
ツノヒラムシ
紐形動物
環形動物
多毛
環形動物
多毛
環形動物
多毛
環形動物
多毛
環形動物
環形動物
多毛
多毛
軟体動物
軟体動物
腹足
腹足
軟体動物
腹足
軟体動物
腹足
軟体動物
腹足
軟体動物
腹足
軟体動物
腹足
軟体動物
二枚貝
軟体動物
二枚貝
軟体動物
二枚貝
軟体動物
軟体動物
二枚貝
二枚貝
節足動物
顎脚
節足動物
軟甲
節足動物
軟甲
節足動物
軟甲
節足動物
軟甲
節足動物
軟甲
節足動物
節足動物
軟甲
軟甲
節足動物
節足動物
軟甲
軟甲
節足動物
軟甲
節足動物
節足動物
軟甲
軟甲
外肛動物
外肛動物
裸喉
裸喉
腕足動物
無関節
棘皮動物
棘皮動物
ウミユリ
クモヒトデ
脊索動物
脊索動物
ホヤ
ホヤ
脊索動物
ホヤ
脊索動物
緑色植物
硬骨魚
緑藻
不等毛植物 褐藻
不等毛植物 褐藻
紅色植物
紅色植物
紅藻
学名
Demospongiae
和名
普通海綿綱
Leptomedusae
Planocera retriculata
軟クラゲ目
ツノヒラムシ
Polycadida
多岐腸目
NEMERTINEA
紐形動物門
Lepidonotus caelorus
サシバゴカイ シリス
Syllidae
サシバゴカイ ゴカイ
Nereididae
ケヤリムシ
ケヤリムシ
Sabellidae
ケヤリムシ
カンザシゴカイ Pomatoleios kraussii
フサゴカイ
ミズヒキゴカイ Cirriformia tentaculata
盤足
タカラガイ
Cypraeidae
盤足
シラタマガイ
Erato callosa
盤足
Discopoda
新腹足
Columbellidae
新腹足
Reticunassa fratercula
アメフラシ
アメフラシ
Aplysia parvula
裸鰓
ドーリス
Hoplodoris armata
イガイ
イガイ
Modiolus nipponicus
イガイ
イガイ
Musculus pusio
カキ
イタボガキ
Chlamys fareri nipponensis
カキ
イタボガキ
Crassostrea gigas
カキ
オオノガイ
Hiatella orientalis
無柄
フジツボ
Balanus torigonus
アミ
アミ
Mysidae
端脚
ワレカラ
Caprella penantis
端脚
ワレカラ
Caprellidae
端脚
ヨコエビ
Gammaridae
十脚
イソテッポウエビ Alpheus lobidens
十脚
テッポウエビ
Alpheus brevicristatus
十脚
モエビ
Hippolysmata vittata
十脚
モエビ
Hippolytidae
十脚
コシオリエビ
Galathea orentalis
十脚
カニガマシ
Petrolisthes japonicus
十脚
カニガマシ
Pisidia serratifrons
十脚
オウギガニ
Pilumnus minutus
唇口
チゴケムシ
Watersipora subovoidea
唇口
フサコケムシ
Bugula neritina
盤殻
盤殻
Discradisca srella
ウミシダ
Comatulida
クモヒトデ
Ophiuroida
マンジュウボヤ マンジュウボヤ Aplidium pliciferum
マメボヤ
Phlebobranchia
マボヤ
マボヤ
Herdmania momus
スズキ
ハゼ
Tridentiger bifasciatus
ミル
Codiales
シオミドロ
Ectocarpales
褐藻
Phaeophyceae
サンゴモ
Corallinales
Rhodophyta
サシバゴカイ
ウロコムシ
注1)
個体数欄の”-”は、個体数の計数が困難な群体性種を示す。
注2)
湿重量欄の”+”は、湿重量が0.01g未満であることを示す。
湿重量(g)
シェルナース
-
コンクリート
-
-
-
シェルナース
34.44
コンクリート
10.70
0.95
0.25
0.14
1
1
0.08
2
フサツキウロコムシ
6
3
シリス科
+
0.35
0.13
1.16
0.38
6
ゴカイ科
27
ケヤリムシ科
ヤッコカンザシゴカイ
ミズヒキゴカイ
47
0.04
6
1
0.29
0.05
2
136
1
5
0.14
37.87
0.06
0.40
タカラガイ科
ザクロガイ
1
盤足目
3
0.79
2
フトコロガイ科
0.09
1.54
11
47
1.74
クロスジムシロガイ
1
0.23
クロヘリアメフラシ
1
0.90
マンリョウウミウシ
1
ヒバリガイ
6
2.74
8.48
2
チビタマエガイ
7.59
2
1.26
0.04
アズマニシキ
1
マガキ
キヌマトイガイ
25
1
8
1.92
5.27
0.34
702
1,568
878.00
1,246.90
サンカクフジツボ
アミ科
2.11
8
0.05
マルエラワレカラ
4
ワレカラ科
8
0.01
ヨコエビ科
6
+
イソテッポウエビ
10
テッポウエビ
アカシマモエビ
モエビ科
トウヨウコシオリエビ
イソカニダマシ
1.49
2.44
7.21
0.60
11
6
1
4
0.65
0.19
637
271
36.47
8.05
31
31
13
45
1.47
7.57
0.39
2.88
1.23
0.06
3.15
0.44
9
4.96
0.21
22
5.04
7.11
フトウデネジレカニダマシ
ヒメケブカガニ
チゴケムシ
フサコケムシ
15
4
8
0.01
-
-
-
-
スズメガイダマシ
98
ウミシダ目
クモヒトデ目
5
28
マンジュウボヤ
マメボヤ目
26
10
3
46.78
28.78
ベニホヤ
1
0.72
シモフリシマハゼ
ミル目
1
1
0.07
0.49
シオミドロ目
褐藻綱
-
サンゴモ目
-
紅藻動物門
合 計
-
1,846
2,097
種類数
40
29
+
0.05
0.67
4.40
0.02
-
0.16
1.06
0.02
1,130.62
1,291.65
平 成 24 年 度
201
豊前海におけるアサリ資源回復に関する調査研究-1
アサリ資源量調査
木村聡一郎
事業の目的
豊前海地域(周防灘南部)の代表的なアサリ稚貝
の発生場である中津市地先、豊後高田市三角場地区
において、その発生状況等を把握するため、坪刈り
調査を実施した。
事業の結果
1.中津市地先
1)アサリの出現密度、現存量
アサリが出現した調査点は、36 地点のうち 14 地
点であり、採集数は 60 個体であった(前年調査で
は 10 地点から 143 個体の採集)。
アサリの出現密度(個/m )を表 1 に示した。出現
2
事業の方法
密度は各調査点 0 ~ 425.0 個/m2、全点平均 20.8 個
/m であった。
2
現存量(g/m )を表 2 に示した。現存量は各調査点 0
2
1.中津市地先
坪刈り調査を図 1 に示す 36 調査点において、2013
年 3 月 13 日に実施した。
アサリの採集は、20cm 四方のステンレス製方形
~ 204.9g/m 、全点平均 17.0g/m であった。
2
2
調査点別には、出現密度、現存量ともに E5 で高
い値となった。
枠を用いて各調査点で深さ 5cm 程度の土砂を 2 枠
2)アサリの殻長
分採取し、目合い 2mm の篩に残ったものを一つの
アサリの平均殻長を表 3 に示した。平均殻長は各
調査点 9.54 ~ 23.93mm、全点平均 13.30mm であっ
サンプルとした。
持ち帰ったサンプルは、実験室内でアサリを選別
た。
し、出現個数を計数するとともに、殻長、殻付き重
アサリの殻長組成を図 3 に示した。殻長 11-13mm
量を測定し、平均殻長、生息密度、資源量を算出し
にモードがみられた(前年調査では殻長 3-5mm に
た。
モード)。
3)アサリの推定資源量
2.豊後高田市三角場地区
坪刈り調査を図 2 に示す 30 調査点において、2013
年 3 月 14 日に実施した。
調 査 対 象 範 囲 の 面 積 ( 1.19km ) に 、 平 均 現 存 量
2
(17.0g/m )を乗 じて求 めた アサリ の推定資源量は
2
20.2 トンで、前年(12.2 トン)より増加した。
調査方法は、中津市地先と同様とした。
図1
中津市地先の調査点
図2
豊後高田市三角場地区の調査点
大分水研事業報告
202
表1
中津市地先のアサリ出現密度
個/㎡
1
A
2
3
4
5
6
37.5
平均
30%
6.3
N=60
20%
組
成
B
10%
C
37.5
D
37.5
6.3
F
37.5
12.5
25.0
12.5
12.5
16.7
平均
25.0
4.2
6.3
75.0
14.6
20.8
図3
39≦
37≦ <39
35≦ <37
33≦ <35
31≦ <33
29≦ <31
27≦ <29
25≦ <27
23≦ <25
21≦ <23
19≦ <21
17≦ <19
77.1
15≦ <17
25.0
13≦ <15
425.0
11≦ <13
12.5
7≦ < 9
18.8
<5
50.0
9≦ <11
E
12.5
5≦ < 7
0%
12.5
㎜
中津市地先のアサリ殻長組成
2.豊後高田市三角場地区
表2
中津市地先のアサリ現存量
1)アサリの出現密度、現存量
g/㎡
1
A
2
3
4
5
6
24.4
平均
4.1
アサリが出現した調査点は、30 地点のうち 25 地
点であり、採集数は 4,539 個体であった(前年調査
では 26 地点から 1,315 個体の採集)。
アサリの出現密度(個/m )を表 4 に示した。調査
2
点北側を除き、広範囲に出現し、出現密度は各調査
B
点 0 ~ 6,987.5 個/m 、全点平均 1,891.3 個/m であっ
2
C
22.6
D
25.6
3.8
23.1
16.8
164.9
38.4
2
た。
現存量(g/m )を表 5 に示した。現存量は各調査点 0
2
~ 2,838.1g/m 、全点平均 1,058.7g/m であった。
2
E
2.9
204.9
14.3
37.0
F
66.6
2.0
23.8
11.9
7.3
18.6
平均
23.2
4.2
4.4
38.9
31.1
17.0
2
2)アサリの平均殻長、殻長組成
アサリの平均殻長を表 6 に示した。平均殻長は各
調査点 11.21 ~ 16.57mm、全点平均 13.47mm であ
った。
アサリの殻長組成を図 4 に示した。殻長 11-13mm
表3
中津市地先のアサリ平均殻長
にモードがみられた(前年調査では殻長 3-5mm に
mm
1
2
3
4
5
6
平均
モード)。
3)アサリの推定資源量
調査対象範囲の面積(0.057km )に、平均現存量
2
A
14.61
14.61
60.4 トンで、前年(11.2 トン)より増加した。
B
C
13.51
D
11.22
13.51
22.05
E
F
(1,058.7g/m )を乗じて求めたアサリの推定資源量は
2
9.64
14.90
平均 13.56
9.54
文
献
17.96 23.93 18.82
11.51 14.03 11.59
15.43 16.64 13.79 14.44
15.80 13.50 11.83 19.65 13.30
1) 木村聡一郎.豊前海におけるアサリ資源回復に
関する調査研究-1 アサリ資源量調査.平成 23
年度大分県農林水産研究指導センター水産研究
部事業報告 2012;221-223.
平 成 24 年 度
表4
三角場地区のアサリ出現密度
203
表6
三角場地区のアサリ平均殻長
mm
個/㎡
C9
B10
A11
C8
B9
A10 1,125.0 平均
C9
B10
A11
平均
375.0
C8
B9
A10 16.57
平均 16.57
704.2
C7
14.29
B8
15.61
A9
14.40
平均 14.88
平均
C7
37.5
B8
537.5
A9
1,537.5 平均
C6
325.0
B7
1,700.0
A8
2,637.5 平均 1,554.2
C6
13.78
B7
13.77
A8
13.72
平均 13.75
C5
762.5
B6
1,712.5
A7
3,262.5 平均 1,912.5
C5
14.41
B6
13.08
A7
12.27
平均 13.25
C4
1,250.0
B5
2,375.0
A6
4,625.0 平均 2,750.0
C4
14.60
B5
14.16
A6
13.30
平均 14.02
C3
475.0
B4
3,862.5
A5
4,937.5 平均 3,091.7
C3
12.95
B4
13.28
A5
12.65
平均 12.96
C2
937.5
B3
3,425.0
A4
3,937.5 平均 2,766.7
C2
12.85
B3
12.96
A4
12.17
平均 12.66
C1
3,312.5
B2
962.5
A3
4,962.5 平均 3,079.2
C1
14.46
B2
13.17
A3
12.48
平均 13.35
B1
275.0
A2
6,987.5 平均 3,631.3
B1
13.24
A2
12.81
平均 12.93
A1
11.21
平均 11.21
平均 12.92
平均 13.47
A1
平均
788.9
表5
775.0
平均
775.0
平均 1,485.0 平均 3,162.5 平均 1,891.3
平均 13.69
平均 13.52
三角場地区のアサリ現存量
g/㎡
C9
B10
A11
平均
C8
B9
A10 1,185.8 平均 395.3
30%
1,604.0 平均 1,052.5
C4
B5
A6
2,309.4 平均 1,690.2
C3
373.9
B4
2,205.9
A5
2,229.6 平均 1,478.5
C2
651.1
B3
1,781.5
A4
1,714.1 平均 1,382.3
C1
2,632.9
B2
637.3
A3
2,098.1 平均 1,789.4
B1
200.5
A2
2,838.1 平均 1,519.3
A1
320.1 平均 320.1
平均 628.7 平均 904.1 平均 1,551.0 平均 1,058.7
0%
図4
三角場地区のアサリ殻長組成
39≦
A7
37≦ <39
908.4
1,687.0
35≦ <37
B6
33≦ <35
645.0
1,074.1
31≦ <33
C5
10%
29≦ <31
999.0
27≦ <29
1,656.3 平均
25≦ <27
A8
23≦ <25
1,092.8
21≦ <23
B7
19≦ <21
247.9
17≦ <19
C6
N=1352 (測定数)
20%
組
成
15≦ <17
555.4
13≦ <15
1,105.9 平均
11≦ <13
A9
7≦ < 9
527.4
9≦ <11
B8
<5
33.0
5≦ < 7
C7
㎜
大分水研事業報告
204
豊前海におけるアサリ資源回復に関する調査研究-2
豊前海アサリ現存量調査
木村聡一郎
ータを使用した。
事業の目的
豊前海におけるアサリの現存量や 2003 年当時か
3.調査方法
らの資源の回復状況を把握し、資源管理のための基
アサリの採集は、20cm 四方のステンレス製方形
礎資料を得ることを目的として、大分県豊前海の主
枠を用いて各調査点で深さ 5cm 程度の土砂を 2 枠
要なアサリ漁場において坪刈り調査を実施した。
分採取し、目合い 2mm の篩に残ったものを一つの
サンプルとした。
その際、調査点の底質を観察し、砂質と石原の 2
事業の方法
タイプに大別した。
持ち帰ったサンプルは、実験室内でアサリを選別
1.調査体制
調査は、北部振興局の協力を得て浅海チームが実
し、出現個数を計数するとともに、殻長、殻付き重
施した。
量等を測定した。
2.調査地及び調査回数等
4.データの整理方法と資源量の推定
調査は、図 1 に示した中津市小祝から豊後高田市
各調査点の底質と採集したアサリの殻付き重量か
真玉に至る 10 地区で、春季と秋季の 2 回行った。
ら、底質別の平均現存量(g/m )を算出し、これに底
調査日及び各調査地区の調査点数等は、表 1 に示
質ごとの豊前海の干潟面積を乗じることで、資源量
2
を推定した。
したとおりである。
なお、小祝地区 11 調査点のうちの 6 点は、資源
供給漁場造成効果調査(稚貝調査等)で得られたデ
図1
また、漁獲対象か否かで区分した殻長サイズ別資
源量についても推定した。
調査位置図
平 成 24 年 度
表1
市町村名
小祝
調査日
角木
宇佐市
高洲
今津
布津部
高家
豊後高田市
柳ヶ浦
和間高田
長洲
合計
真玉
2012/6/4 2012/6/4 2012/6/5 2012/5/20 2012/5/21 2012/6/4 2012/6/5 2012/6/6 2012/5/22 10地区
2012/6/3-4
調査点数
11
10
12
9
10
9
10
11
13
9
104
底 砂質
質 石原
10
10
7
2
7
6
7
7
13
9
78
1
0
5
7
3
3
3
4
0
0
26
0.88
1.04
0.72
8.32
坪刈り面積(㎡)
秋
季
調査概要
中津市
調査地区名
春
季
205
0.88
0.8
0.96
0.72
0.8
0.72
0.8
その他
6調査点:資源供
給漁場造成効果
調査により実施
調査日
2012/9/1 2012/9/19 2012/9/19 2012/9/17 2012/9/16 2012/9/15 2012/9/19 2012/9/19 2012/9/20 2012/9/20 10地区
調査点数
11
10
12
9
10
9
10
11
13
9
104
底 砂質
質 石原
10
10
7
3
6
5
9
7
13
9
79
1
0
5
6
4
4
1
4
0
0
25
0.88
0.8
0.96
0.72
0.8
0.72
0.8
0.88
1.04
0.72
8.32
坪刈り面積(㎡)
6調査点:資源供
給漁場造成効果
調査により実施
その他
事業の結果
3.豊前海のアサリ資源量の推定
豊前海のアサリ資源量の推定結果を表 3 に示し
1.生息密度及び現存量
た。
調査結果を表 2 に示した。
春季調査の全調査点におけるアサリの平均生息密
春季調査の資源量は 650.1 トン(砂原 199.5 トン、
度は 301.08 個体 /m ( 砂 原 216.51 個 体/m 、 石 原
石原 450.5 トン)、秋季調査では 980.3 トン(砂原
554.81 個 体 /m )、 平 均 現 存 量 は 55.45g/m ( 砂 原
451.1 トン、石原 529.2 トン)と推定された。
2
2
2
2
また、当海域において漁獲対象となる殻長 30mm
7.19g/m 、石原 200.23g/m )であった。
2
2
秋季調査では平均生息密度 58.41 個体/m (砂原
2
50.95 個体/m 、石原 82.00 個体/m )、平均現存量
2
2
以上サイズの資源量は春季 95.2 トン、秋季 369.3 ト
ンであった。
68.89g/m (砂原 16.25g/m 、石原 235.21g/m )とな
前年と比較して、春季・秋季ともに、アサリの推
り、春季調査と比較して、生息密度は減少したが、
定資源量は大幅に増加し、漁獲対象となる大型個体
現存量は増加した。
の現存量も増加していることなどから判断し、豊前
2
2
2
地区別にみると、春季調査にてアサリが出現しな
かった和間高田地区および真玉地区を除く残り 8 地
海のアサリ資源については、特に低調であった 2 ~
3 年前を底として、やや回復の兆しが伺える。
区における春季の平均生息密度は 5.56 ~ 1,103.75
個体/m 、平均現存量は 0.07 ~ 277.58g/m の範囲で
2
1400
2012春調査(全体)
N=2505
1217
1200
また、秋季調査にてアサリが出現しなかった真玉
1000
地区を除く残り 9 地区における秋季の平均生息密度
個 800
体
数 600
殻長 30 ㎜前後の出現も比較的多かった。
33≦ <35
27≦ <29
5
31≦ <33
7
25≦ <27
6
29≦ <31
13 11 12 15 15 13
8
1
35≦ <37
37≦ <39
1
37≦ <39
2012秋調査(全体)
N=486
39≦
23≦ <25
21≦ <23
19≦ <21
17≦ <19
15≦ <17
13≦ <15
11≦ <13
7≦ < 9
9≦ <11
5≦ < 7
3
35≦ <37
20
27 25
12
6
9
殻長区分
図2
アサリの殻長組成
(上段;春季調査
下段;秋季調査)
39≦
33≦ <35
31≦ <33
25≦ <27
23≦ <25
21≦ <23
19≦ <21
17≦ <19
15≦ <17
0
秋季調査では殻長 3 ~ 13 ㎜サイズの出現が比較
的多く、殻長 9-11 ㎜にモードがみられた。また、
6
殻長区分
60
55 54 52
個 60
体
数 40
13≦ <15
春季調査では殻長 9 ㎜未満サイズ主体で、殻長
3-5 ㎜にモードがみられた。
80
11≦ <13
アサリの殻長組成を図 2 に示した。
100
95
9≦ <11
2.殻長組成
70 42 25 30 65 43 29
12
7≦ < 9
区が高かった。
175
152
0
5≦ < 7
地区が最も高く、平均現存量では高洲地区、長洲地
200
<3
春季・秋季調査ともに、平均生息密度では柳ヶ浦
400
3≦ < 5
2
<3
287.36g/m の範囲であった。
620
3≦ < 5
は 1.92 ~ 157.50 個体/m 、平均現存量は 0.17 ~
2
29≦ <31
あった。
27≦ <29
2
大分水研事業報告
206
表2
市町村名
調査地区名
採集個体数
平均
殻 標準偏差
長 最大
最小
春
季
平均生息密度(個体/㎡)
うち砂質(個体/㎡)
うち石原(個体/㎡)
採集重量(殻付き)
平均現存量(g/㎡)
うち砂質(g/㎡)
うち石原(g/㎡)
採集個体数
平均
殻 標準偏差
長 最大
最小
秋
季
平均生息密度(個体/㎡)
うち砂質(個体/㎡)
うち石原(個体/㎡)
採集重量(殻付き)
平均現存量(g/㎡)
うち砂質(g/㎡)
うち石原(g/㎡)
表3
小祝
622
5.07
1.69
20.05
2.52
706.82
26.25
7512.50
18.34
20.84
0.38
225.50
39
7.82
3.94
16.43
3.00
44.32
47.50
12.50
7.03
7.99
8.44
3.50
中津市
角木
高洲
296
251
4.64
15.80
1.86
6.22
17.27
28.64
2.15
2.54
370.00
261.46
370.00
3.57
622.50
8.17
266.48
10.21
277.58
10.21
0.13
666.03
84
80
9.89
14.09
3.01
10.81
17.12
34.82
2.80
2.67
105.00
83.33
105.00
67.86
105.00
24.82
135.03
31.03
140.66
31.03
12.96
319.43
豊前海のアサリ資源量の推定
底質別
砂原
石原
計
殻長30mm未満 殻長30mm以上
-
-
-
2003年
73.5
78.5
152.0
-
-
-
秋
9,906.8
2,353.5
12,260.3
7,276.3
4,984.0
12,260.3
春
2,380.7
1,257.9
3,638.5
1,206.7
2,431.8
3,638.5
秋
608.6
594.3
1,202.9
408.1
794.8
1,202.9
春
302.2
388.7
690.9
303.3
387.6
690.9
秋
167.9
97.5
265.4
247.4
18.0
265.4
春
32.4
131.9
164.3
121.3
43.0
164.3
秋
105.4
135.5
240.9
206.1
34.8
240.9
春
7.0
158.4
165.5
82.7
82.8
165.5
秋
115.6
80.5
196.1
166.1
29.9
196.1
春
219.8
92.2
311.9
311.9
0.0
311.9
秋
241.8
60.0
301.8
285.6
16.1
301.8
春
199.5
450.5
650.1
554.9
95.2
650.1
秋
451.1
529.2
980.3
611.0
369.3
980.3
(
t
)
2010年
2011年
2012年
献
1) 木村聡一郎.豊前海におけるアサリ資源回復に関
30.0
2009年
単位:個体,㎜,g
豊後高田市
平均
採集個体数及び
和間高田 真玉 採集重量は合計
0
0
2505
6.87
5.16
35.30
2.15
0.00
0.00
301.08
0.00
0.00
216.51
554.81
0.00
0.00
461.35
0.00
0.00
55.45
0.00
0.00
7.19
200.23
2
0
486
7.28
13.09
2.87
8.28
9.31
38.86
5.25
2.67
1.92
0.00
58.41
1.92
0.00
50.95
82.00
0.18
0.00
573.14
0.17
0.00
68.89
0.17
0.00
16.25
235.21
計
2.25
2008年
長洲
239
9.67
6.72
35.30
2.90
271.59
253.57
303.13
139.71
158.76
37.75
370.53
92
19.55
9.54
35.44
3.00
104.55
53.57
193.75
252.88
287.36
54.54
694.81
文
27.75
2007年
布津部
19
5.27
2.59
12.40
2.73
23.75
25.00
20.83
0.82
1.03
0.18
3.00
16
13.55
5.58
27.41
5.63
20.00
6.25
40.63
12.83
16.04
2.77
35.94
宇佐市
高家
柳ヶ浦
4
883
4.68
4.43
0.68
1.50
5.37
14.43
3.79
2.31
5.56 1103.75
4.17 1560.71
8.33
37.50
0.05
15.51
0.07
19.39
0.10
26.86
0.00
1.96
25
126
23.30
9.27
8.55
2.88
38.86
24.46
6.32
3.38
34.72
157.50
0.00
175.00
78.13
0.00
87.90
31.81
122.08
39.76
0.00
44.18
274.69
0.00
サイズ別
面積(k㎡)
2006年
推
定
資
源
量
今津
191
5.90
2.54
22.42
2.81
265.28
0.00
341.07
12.27
17.04
0.00
21.91
22
14.50
5.81
31.09
5.89
30.56
4.17
43.75
20.66
28.69
0.17
42.96
調査結果
する調査研究-2 豊前海アサリ現存量調査.平成
23 年度大分県農林水産研究指導センター水産研
究部事業報告 2012;224-226.
平 成 24 年 度
207
豊前海におけるアサリ資源回復に関する調査研究-3
クルマエビ養殖池を活用したアサリ養殖
三代和樹・米田一紀
いこととなった。
事業の目的
B.養殖密度検討試験(2,000、4,000、8,000 個/m )
2
県内のクルマエビ養殖は 1993 年以降、ウイルス
性疾病(PAV)の蔓延により生産量は減少し、養殖
業者の経営を圧迫した結果、6 社あった業者が現在
では 3 社に減少し、現在稼働中の業者も最盛期に比
べて規模縮小を余儀なくされている。このような現
状から、クルマエビ養殖池を活用したアサリ養殖を
行うために試験を行った。
密度別の生残率の推移と成長を毎月調べた。
3.大規模野外水槽試験
台湾での養殖方法は着底稚貝から池入れを行い、
ある程度管理された池の中で二枚貝を養殖してい
る。現在試験で使用している真玉池全体を利用して
着底稚貝からの試験を行うには、現状の予算、種苗
生産量、設備(取り上げポンプ等)、知見では実施
が厳しいため、浅海チームの敷地内に 8m×6m×1m
事業の方法
の水槽(図 2)を作り、着底稚貝からの養殖試験(餌
料培養も含めて)試験を行った。
1.台湾での視察
年度当初は図 1 の当初計画にそって調査を行う予
定であった。しかしながら、台湾視察の結果、台湾
方式を導入するのであれば、試験計画を大きく変更
せざるを得なくなった。
2012 年 8 月 2 日にアサリ着底前後稚貝(平均殻長
0.22mm)を池入れし、9 月 5 日に経過調査を行い、
最終的に 11 月 1 日に全量取り上げを行った(詳細
は後述)。その間、週に 2 回餌の検鏡を行い、適宜
硫安を入れて餌の培養を行った。
2.現在稼働していない養殖池について
取り上げ方法
1)中間育成
池全体を 1m 四方 48 区画に区切り(各区 1m )、区
2
アサリの中間育成試験を行う予定で合ったが、6
月下旬からの大雨により池内の塩分が低下(15.3‰)
毎に全量取り上げを行った。取り上げには 2mm の
ふるいを用いた。
して全滅した。今後は上記のとおり計画変更したた
め、試験は行わない。
4.姫島クルマエビ養殖場での指導
2)地まき試験
姫島のクルマエビ養殖場については、予定よりも
A.養殖開始サイズ検討試験(10mm、5mm、3mm)
早く、今年度より種苗生産を開始したいとの要望が
当初は中間育成を行うことを前提としていたた
あったため、6 月より現地指導(7 回)及び FAX に
め、養殖開始サイズ検討試験を行っていたが、図1
よる指導(14 回)を行ってきた。
のように中間育成を行わずに直接池入れすることに
なったため、今後は養殖開始サイズの検討は行わな
図1
当初計画
大分 水研事業報告
208
事業の結果
今後の問題点
1.地まき試験
1.大規模野外水槽試験
図 3 に密度別生残率の推移、図 4 に密度別殻長の
今回の試験によって台湾と同様に着底前後の稚貝
推移を示した。各試験ともアサリの成長はみられた
からの池入れの可能性を見いだすことが出来た。特
が、生残率が非常に悪かった。この原因としては、6
に成長速度に関しては予想を上回る成績であり、今
月以降の大雨の影響で養殖池内の塩分濃度が急激に
後に期待ができる反面、生残率の低さから単に密度
低くなったことが考えられる。加えて、養殖池内に
効果でより多くの餌を得ることが出来た結果に過ぎ
はアサリの食害生物であるクロダイやイシガニが多
ないことも考えられる。そのため、今後は成長速度
く存在していることも原因の 1 つと考えられる。今
と生残率を向上させる方法を考える必要がある。
後は池の管理(食害対策も)とセットで試験を行う
必要があり、特に食害対策については防御柵を作る
など、対策が必要である。
2.大規模野外水槽試験
全部で 1,767 個(平均殻長:12.75mm、最大:
21.4mm、最小:6.76mm)のアサリを取り上げた
(図 5、図 6)。成長速度は 0.14mm/日であり、通常
の種苗生産速度の約 4 倍であったが、生残率に関し
ては 10 分の 1 以下であった。
図3
生残率の推移
3.姫島クルマエビ養殖場での指導
1)春採卵
前浜水槽(200t/面)、北浦水槽(300t/面)を用い
て、6R の採卵を行った。その結果、9 月 6、7 日に
合計 4,930,352 個体(平均殻長 0.74 ~ 5.00mm)を
取りあげた。得られた稚貝は岩盤 2 号池(7,700m )
2
に池入れされ、養殖が開始されている(図 7)。
2)秋採卵
受精卵合計 21 億粒を採卵し、直接養殖池(岩盤 2
号池 7,700m )に池入れした。
図4
2
鉄枠の組み立て
水入れ(換水率:0.95 回/日)
図2
殻長の推移
ブロック積み
ビニールシート
種苗投入
遮光ネット(水温管理)
大規模野外水槽
平 成 24 年 度
209
2.姫島クルマエビ養殖場での指導
今回の種苗生産において、非常に多量の受精卵を
比較的容易に得ることが可能であることが分かっ
た。また、春採卵においては、養殖用稚貝の確保も
可能であることが示唆された。しかしながら現在の
所、得られた種苗の数は少なく、生残率の向上等の
技術面の検討や、採卵時期や餌の確保、池入れサイ
ズ等の環境面の検討が必要である。
図6
図5
取り上げたアサリの殻長組成
野外水槽で取り上げられたアサリ稚貝
図7
姫島クルマエビ養殖池の概要図
大分水研事業報告
210
豊前海におけるアサリ資源回復計画に関する調査研究-4
天然稚貝保護対策
片野晋二郎・米田一紀・岩野英樹・木村聡一郎
事業の目的
豊前海でのアサリ資源回復をはかる一環として、
アサリ Ruditapes philippinarum の天然発生稚貝の移
植方法の検討を行った。2012 年に中津市小祝石原
において天然稚貝の発生が確認された、その稚貝の
有効利用のため、本年度は移植方法について検討し
た。また、中津市小祝干潟では、ホトトギスガイの
マットの増加傾向が懸念されたため、ホトトギスガ
イのマットの駆除の兼ねて今回事業を実施した。
事業の方法
図1
中津市小祝地先の試験区
1.移植方法の検討
2012 年 4 月 23 日~ 9 月 7 日(のべ 24 日)にか
けて中津市小祝地先(図 1)の干潟において、4mm
の目合いの袋を装着したアサリ稚貝集積装置(図 2)
を用いて、アサリ稚貝の採集を行った。アサリ稚貝
集積装置は水産工学研究所が試作したものを用い
た。2012 年 4 月 23 日、24 日は石原採集区、2012
年 4 月 24 日以降は砂原採集区で採集(表 1)を行
い、7 月 23 日からウインチを用いて試験を行った。
2012 年 4 月 23 日、4 月 24 日、7 月 9 日、7 月 23
日は、装置の操業時間、距離を測定し、装置を用い
て吸い上げられたサンプルは、全体重量を測定した
後、アサリとホトトギスガイとその他(礫、貝殻、
木片など)に分類した。測定項目は、吸い上げサン
プルの粒度組成、採集されたアサリ個数、殻長、殻
高、殻幅、殻付重量について調べ、採捕されたホト
トギスガイは個数、殻長、重量を調べた。
7 月 24 日以降は、全体サンプルの 1/10 を測定し、
アサリとホトトギスガイは、上記項目について調べ
た。
図2
アサリ稚貝集積装置
平 成 24 年 度
表1
試験設定
試験区名
場所
方法
試験日(日数)
石原採集
石原
-
2012年4月22日~4月23日(2日間)
砂原採集
砂原
-
2012年4月23日、7月9日(2日間)
砂原ウインチ採集
砂原
ウインチ
2012年7月23日~2012年9月7日(20日間)
2.移植後の成長生残追跡調査
211
調査項目
操業時間・距離
アサリ(個数、殻長、殻高、殻幅、殻付重)
ホトトギス(個数、殻長、重量)
吸い上げサンプルの粒度組成
操業時間、距離
アサリ(個数、殻長、殻高、殻幅、殻付重)
ホトトギス(個数、殻長、重量)
吸い上げサンプルの粒度組成
操業時間
アサリ(個数、殻長、殻高、殻幅、殻付重)
ホトトギス(個数、殻長、重量)
前後で推移した。
8 月 10 日に採集されたアサリ稚貝を 8 月 20 日、
試験期間中のホトトギスガイ採集量の推移を図 6
カゴ(図 3)4 個にカゴ 1 個あたり 350 個(平均殻
に示した。最大採集数は砂原採集で 4 月 23 日に
長 11.0mm ± 1.0)となるよう収容し、カゴを高さ
13,979 個/日採集した。ところで、7 月 9 日に中津地
の半分程度に埋設し、現地の砂をカゴに半分となる
区では大雨が降り、それ以降干潟の上に泥が堆積す
ように入れ月 1 回経過調査を行った。測定項目は殻
る事が確認された。その結果、干潟のホトトギスガ
長、個数、生残率であった。なお、天然のアサリと
イが減少し、採集されるホトトギスガイも減少した。
区別するため、収容したアサリは全てラッカースプ
レーで標識した。
月別ホトトギスガイ平均殻長の推移を図 7 に示し
た。平均殻長 11.4mm で推移した。
採集効率(個/秒)の推移を図 8 に示した。砂原
ウインチ採集は最大で 6 個/秒の採集が可能であっ
た。石原採集は 0.02 個/秒と低い値を示したのは、
アサリの密度は、石原に 2,230 個/m 、砂原に 2,342
2
個/m と同程度であったが、採取する際、石がホー
2
ス内を塞ぎ、採捕効率が減少したこと、また石の間
隙により吸い込み口が底に吸着することなく、上っ
面のみを移動したことが理由と考えらる。
試験方法による採集結果の違いを図 9 に示した。
砂原採集と石原採集では、有意な差は確認されなか
ったが、砂原ウインチ採集は砂原採集と石原採集と
比較して、有意差があった。(Tukey
図3
カゴ
ContrastsP<
0.01)砂原ウインチ採集は、ウインチでロープを巻
き上げる事で、動力が船後方のエンジンから、船前
方のウインチになるため、船の傾きが減少し、船体
事業の結果
及び吸い込み口が安定したため、採集数が増加した
ことが考えられる。
1.移植方法の検討
試験期間中のアサリ採集量の推移を図 4 に示し
2.移植後の成長生残追跡調査
た。最大採集数は砂原ウインチ採集で 8 月 9 日に
生残率の推移を図 10 に示した。緩やかに減少し 6
65,290 個/日採集した。最小採集数は石原採集で 4
月 26 日に 31 %となった。これは過去の人工種苗放
月 22 日に 18 個/日であった。平均採集数は、25,445
流試験の結果と比較してやや低い値となった。
個/日であった。
アサリ平均殻長の推移を図 11 に示した。緩やか
試験期間中のアサリ平均殻長の推移を図 5 に示し
に増加し 6 月 26 日に 26.4mm となった。これも過
た。石原採集で採集されたアサリが最大を示し、平
去の放流試験結果と比較してやや低い値となった。
均殻長は 17.6mm であった。これは昨年発生したも
今回の結果は放流時期、採集方法によるものなのか
のと推測された。砂原採集および砂原ウインチ採集
今後の検討が必要である。
で採集されたアサリは、試験期間を通して、10mm
大分水研事業報告
212
図4
試験期間中のアサリ採集量の推移
アサリ平均殻長(㎜)
20
15
10
5
4月22日
7月26日
7月31日
図5
図6
8月1日
8月30日
8月3日
8月7日
試験期間中のアサリ平均殻長の推移
試験期間中のホトトギスガイ採集量の推移
図7
月別ホトトギス平均殻長の推移
8月9日
9月4日
9月6日
平 成 24 年 度
図8
213
採集効率(個/秒)の推移
60,000
50,000
アサリ採集個数(個)
40,000
30,000
20,000
10,000
0
石原採集
図9
砂原採集
砂原ウインチ採集
試験方法による採集結果
図10
図11
生残率の推移
アサリ平均殻長の推移
大分水研事業報告
214
豊前海におけるアサリ資源回復計画に関する調査研究-5
資源供給漁場造成効果調査①(浮遊幼生調査)
岩野英樹・斉藤義昭
事業の目的
豊前海のアサリ資源が壊滅的な状況にまで減少し
たことを受け、県は2003年度にアサリ資源回復計画
を策定し、2004年度からアサリ資源を回復させるた
め、漁業管理の強化、資源供給漁場の造成等の事業
を実施している。本調査は、これら行政施策の効果
を検証し、豊前海におけるアサリ資源の回復を推進
することを目的とする。
事業の方法
図1
周防灘の調査定点
1.浮遊幼生分布調査
周防灘では、図1に示す豊後高田市真玉沖~中津
市小祝沖の水深10m程度の6定点で、5月~11月の間
に毎月1回調査を実施した。中津市~宇佐市地先で
は、図2に示す干潟上の5定点で、10月中旬~11月上
旬の秋季の産卵時期に6回調査を実施した。調査点1
は、中津市高洲干潟、調査点10は中津市小祝干潟、
調査点13は中津市今津干潟、調査点14は宇佐市布津
部干潟、調査点15は宇佐市高家干潟である。
各定点における海水の採水は、所定層の水深で(周
防灘では5m層、中津市~宇佐市地先では水深の1/2m
層)水中ポンプにより150Lを汲み上げた。汲み上
げた海水は、目合い50μmのプランクトンネットを
図2
中津~宇佐地先の干潟上の調査定点
用いて300ml程度まで濃縮し、その中に含まれるア
サリ浮遊幼生を蛍光抗体法によって同定・計数し
た。幼生調査の他に水温、塩分の観測を行った。
2.中津市~宇佐市地先
表2に、中津市~宇佐市地先におけるアサリ浮遊
幼生の出現状況を示した。浮遊幼生の出現密度の平
均値は、10月15日が2.7個/KL(0~13.3個/KL)、10
事業の結果
月20日が230.7個 /KL( 133.3~ 373.3個 /KL)、10月24
日が73.3個/KL(6.7~120.0個 /Kl)、10月27日が41.3
1.周防灘
表1に、周防灘におけるアサリ浮遊幼生の出現状
況を示した。浮遊幼生は、10月(平均密度7.8個/KL)
を除いて他の月は全く出現が無かった。
個/KL(33.3~60.0個/KL)、10月31日が20.0個/KL(0
~40.0個/KL)、11月4日が1.3個/KL(0~6.7個/KL)
であった。
秋季の浮遊幼生出現密度は、10月20日が最大であ
表中のD状期幼生は100-130μm、アンボ期幼生は
り、その平均殻長は137μmであった。その後、幼生
140-170μm、 フルグロウン期幼生は180μm以 上と
の密度は減少しながら、平均殻長は、10月31日、11
した。
月4日には200~210μmに達した。
平 成 24 年 度
本年度は、10月中旬を中心に秋季の産卵が行われ、
表2
215
アサリ浮遊幼生の出現状況(中津~宇佐地先)
その後、10月下旬~11月上旬に着定したものと思わ
れた。
周防灘と中津市地先におけるアサリ浮遊幼生の平
均出現密度を図3に示した。平年値は、2003年~2011
年の平均値とした。本年度は、10月と僅かに11月に
出現が見られただけで、他の月には全く出現が見ら
れない状況にあった。
表1
アサリ浮遊幼生の出現状況(周防灘)
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
(個/海水トン)
24年
5月
図3
平年
6月
7月
8月
9月
10月
11月
周防灘と中津市地先におけるアサリ浮遊
幼生の平均出現密度
大分水研事業報告
216
豊前海におけるアサリ資源回復に関する調査研究-5
資源供給漁場造成効果調査②(稚貝調査等)
木村聡一郎
持ち帰ったサンプルは、実験室内でアサリを選別
事業の目的
し、出現個数を計数するとともに、殻長、殻付き重
豊前海のアサリ資源が壊滅的な状況にまで減少し
量を測定した。
たことを受け、県は漁業関係者と共に 2003 年度に
また、殻長 20mm 以上のアサリについては、当
アサリ資源回復計画を策定し、2004 年度から 5 ヵ
チームがこれまで使用してきた表 1 の基準により成
年計画で漁業管理の強化、資源供給漁場の造成等の
熟度を判定するとともに、軟体部湿重量等を測定し、
施策を実施してきた。2009 年度からはこの計画を
次式により肥満度を算定した。
延長し、引き続きアサリ資源回復に向けての取り組
表1 アサリの成熟度判定基準
みを行っている。
本調査は、これら施策の効果を検証し、豊前海に
おけるアサリ資源の回復に寄与することを目的とす
る。
事業の方法
1.成貝調査
成貝調査は、図 1 に示す中津市小祝地先の 6 定点
で原則、毎月 1 回、大潮の干潮時に実施した。
20cm 四方のステンレス製方形枠を用いて各調査
点で深さ 5cm 程度の土砂を 2 枠分採取し、目合い
2mm の篩に残ったものを一つのサンプルとした。
2.稚貝調査
稚貝調査は、図 1 に示す St.6 と St.9 の 2 定点で
St.14
成貝調査と同じ日に実施した。
St.15
アクリル製のコアサンプラー(内径 38mm)によ
り、深さ 1cm 程度の土砂を各調査点 3 回分(約
St.7
St.9
11cm )採取し、そのまま持ち帰り、外部機関への
2
分析委託によりアサリの着底初期稚貝(殻長 0.2mm
St.6
St.4
以上)の個体数データを得た。
事業の結果
1.成貝調査結果
図1
調査位置図
採取したアサリの出現状況を表 2 に、殻長組成を
平 成 24 年 度
図 2 に示す。6 月に人工石原漁場内に位置する St.6
217
2.稚貝調査結果
にて殻長 5mm 未満サイズの稚貝が高水準で出現し、
コアサンプラーで採取したアサリのうち、着底し
殻長モード 6-7mm となる 7 月まで比較的高い密度
て間もないと考えられる殻長 0.2 ~ 1.6mm の初期
を維持したが、7 月中旬に発生した九州北部豪雨に
稚貝の出現状況を表 4 に示す。初期稚貝は 11 月に
より同地先に陸域からの土砂等が大量堆積したこと
St.9 にて比較的高水準で出現したが、それ以降は減
により、8 月に大幅に減耗し、それ以降は低水準で
少した。
推移した。
調査点平均の初期稚貝の出現密度の推移を図 4 に
調査点平均のアサリ生息密度の推移を図 3 に示
示す。これまでの出現状況として、初期稚貝は秋季
す。2001 年春季に引き続き、2002 年春季にも比較
から春季にかけて多く確認され、夏季にはほとんど
的良好な加入が局所的(St.6)に認められ、これら
みられない傾向にあった。
は殻長等から判断し前年秋発生群と考えられた。
肥満度の算定および成熟度の判定結果を表 3 に示
表3
成貝調査における肥満度と成熟度
す。供試の殻長 20mm 以上のアサリの出現は、6 月
2012/6/3
個体数(殻長20mm≦)
肥満度(平均)
成熟度(平均)
に St.6 にて 1 個体採集されたのみであった。
1
15.26
0
表2 成貝調査におけるアサリ出現数
単位:個体/定点
2012/4/6 2012/5/5 2012/6/3-4 2012/7/6 2012/8/1 2012/9/1 2012/10/19 2012/11/16 2012/12/17 2013/1/16 2013/2/12 2013/3/1
St.4
St.6
St.7
St.9
St.14
St.15
合 計
0
55
17
1
0
0
73
5
11
0
5
5
0
26
19
601
1
1
0
0
622
0
294
26
3
0
0
323
1
1
4
1
0
20
27
4
1
5
3
10
4
27
6
8
23
5
2
0
44
12
7
7
0
3
0
29
図2 成貝調査におけるアサリ殻長組成(調査点平均)
11
5
1
0
5
0
22
5
6
0
1
2
0
14
0
3
0
1
0
0
4
3
5
3
0
0
0
11
大分水研事業報告
218
図3 成貝調査におけるアサリ生息密度の推移(調査点平均)
表4 稚貝調査における初期稚貝出現数(殻長0.2~1.6mm)
単位:個体/定点
2012/4/6 2012/5/5 2012/6/3 2012/7/6 2012/8/1 2012/9/1 2012/10/19 2012/11/16 2012/12/17 2013/1/16 2013/2/12 2013/3/1
St.6
St.9
合 計
11
19
30
9
3
12
図4
文
2
0
2
0
0
0
2
1
3
0
0
0
13
62
75
6
35
41
稚貝調査における初期稚貝生息密度の推移(調査点平均)
献
1) 木村聡一郎,並松良美.豊前海におけるアサリ資源
回復に関する調査研究-3 資源供給漁場造成効果
調査②(稚貝調査等)
.平成 23 年度大分県農林水
産研究指導センター水産研究部事業報告 2012;
229-231.
2
4
6
3
20
23
0
9
9
1
23
24
平 成 24 年 度
219
豊前海におけるアサリ資源回復に関する調査研究-6
豊前海アサリ初期稚貝分布調査
木村聡一郎
径 38mm)により、深さ 1cm 程度の土砂を各調査点 3
事業の目的
回分(約 34cm )採取し、そのまま持ち帰り、外部
2
豊前海におけるアサリ初期稚貝の発生状況を把握
機関への分析委託により、2012 年秋発生のアサリ
し、稚貝の保護・有効活用等アサリ増養殖に係る基
初期稚貝(殻長 0.2 ~ 1.6 ㎜)の個体数データを得
礎資料を得ることを目的として、大分県豊前海の主
た。
要なアサリ漁場においてアサリ初期稚貝分布調査を
事業の結果
実施した。
アサリ初期稚貝の分布状況を表 2 に示した。
事業の方法
全 11 地区 113 調査点における稚貝の平均分布密
度は 4,728.8 個体/m (砂原 4,212.9 個体/m 、石原
2
調査は、2013 年 3 月 11 ~ 15 日に、図 1 に示し
7,127.6 個体/m )であった。
た中津市小祝から豊後高田市真玉に至る 11 地区で
地区別にみると、分布密度は 65.3 ~ 24,248.7 個
行った。
体/m の範囲で、高田三角場地区、高洲地区、今津
2
調査日及び各調査地区の調査点数等は、表 1 に示
地区、小祝地区の順で高く、一方、真玉地区、和間
したとおりである。
高田地区で低かった。
なお、各調査地区調査点は、浅海チームにて別途
また、砂原と石原の調査点が混在する 6 地区にお
モニタリングしている豊前海アサリ現存量調査、ア
ける分布密度は、今津地区を除き、他 5 地区は砂原
サリ資源量調査を基に設定した。
より石原の方が高かった。
アサリの採集は、アクリル製のコアサンプラー(内
図1
調査位置図
表1
調査概要
中津市
調査地区
調査日
調査点数
底
砂質
質
石原
2
2
小祝
角木
宇佐市
高洲
今津
布津部
高家
豊後高田市
柳ヶ浦
長洲
和間高田 高田三角場
2013/3/14 2013/3/14 2013/3/12 2013/3/11 2013/3/12 2013/3/15 2013/3/15 2013/3/15 2013/3/11 2013/3/14 2013/3/11
12
10
2
10
10
0
12
7
5
9
6
3
10
7
3
9
6
3
10
10
0
11
7
4
13
13
0
8
8
0
合計
真玉
9
9
0
11地区
113
93
20
大分 水研事業報告
220
各調査地区調査点における分布状況を図 2 に示し
た。
高田地区では非常に少ないこと、小祝地区沖側の造
成した石原と近接する砂原の調査点においても稚貝
高田三角場地区や高洲地区では、稚貝の高密分布
数にかなりの開きがあることなどが挙げられた。
箇所が広範囲に確認され、小祝地区においても局所
的に濃密な箇所がみられた。
今後は、別途実施のモニタリング調査の中で、こ
の 2012 年秋発生のアサリの成長や生残を追跡して
さらに特徴的な点として、同じ砂原でも高田三角
いく必要がある。
場地区は稚貝が多いのに対し、それと隣接する和間
表2
アサリ初期稚貝(殻長0.2~1.6㎜)の分布状況
中津市
調査地区
出現個体数
平均生息密度(個体/㎡)
うち砂質(個体/㎡)
うち石原(個体/㎡)
小祝
225
5,511.1
3,086.2
17,635.4
角木
70
2,057.5
2,057.5
-
宇佐市
高洲
440
10,777.2
9,657.5
12,344.8
今津
181
5,911.1
6,123.4
5,486.6
図2
布津部
35
1,028.7
377.9
2,547.3
高家
35
1,143.0
832.8
1,763.5
柳ヶ浦
65
1,910.5
1,910.5
-
豊後高田市
長洲
96
2,565.2
1,721.6
4,041.4
調査点別アサリ初期稚貝の分布状況
和間高田 高田三角場
9
660
203.5 24,248.7
203.5 24,248.7
-
真玉
2
65.3
65.3
-
合計
1,818
4,728.8
4,212.9
7,127.6
平 成 24 年 度
221
豊前海におけるアサリ資源回復に関する調査研究-7
ナルトビエイ生態調査
三代和樹・畔地和久・並松良美
事業の目的
図1に示す周防灘及び別府湾に位置する杵築市守
江湾(以後、守江湾という)において、ナルトビエイ
1986年以降、大分県のアサリ漁獲量は減少の一途
の標識放流を実施した。
を辿っている。その原因として、様々なことが考え
周防灘海域では中津港周辺、及び高田の地先にお
られているが、その1つがナルトビエイによる食害
いて流し刺し網を用いてナルトビエイを捕獲後、標
である。ナルトビエイの食害からアサリを守るため、
識放流を行った。守江湾における調査でも同様に流
豊前海(大分県漁協宇佐支店、中津支店)では、2007
し刺し網を用いた方法に加え、定置網に入網したエ
年からナルトビエイの駆除を行っている。また、ナ
イの標識放流も行った。
ルトビエイは春から秋にかけて豊前海から別府湾に
2)調査方法
来遊してきているが、冬場の移動については全くわ
2011年度も2011年度までの調査に引き続き大分
かっていない。さらに、夏場の周防灘における他県
県周防灘海域(豊前海)と別府湾で捕獲したナルト
海域(山口県、福岡県)との交流等の関係性につい
ビエイに標識を装着し、①適水温期での移動②春季
てもわかっていない。
の大分県海域への移入、秋季の移出経路、冬季の生
そこで、本研究では、駆除事業による駆除量等の
息場所を調査した。
調査を行いその効果を把握するとともに、胃内容物
2010年度までは標識として、一連番号を印刷した
の結果からその食性についても調査を行い、今後の
ダートタグ及びアトキンス型タグの2種類をそれぞ
食害防止対策に資することを目的としている。
れ背面と腹鰭に装着していたが、2011年度以降は装
着後、すぐに欠落してしまうという理由からダート
事業の方法
タグを装着せずにアトキンス型タグのみを使用し
た。なお、2010年度から引き続き、任意の時間ごと
1.駆除事業
に圧力(水深)と水温を記録することができるアーカ
1)生物測定
イバルタグを標識として用いた。装着はアトキンス
5月15日~8月26日の間、大分県漁協が実施した周
型タグとは反対側の腹鰭に行い、全部で19個装着し
防灘(図1)に出現するナルトビエイの駆除事業に
よって水揚げされたナルトビエイの体盤幅(DW)、
性別、毎日の駆除尾数、駆除重量、出漁隻数等によ
り、出現傾向等を調査した。
た。
3)アルゴス送信機放流
今年度は10月に別府湾においてアルゴス送信機を
2個体に装着し(ワイヤー長:7m、10m)、秋以降
の移動生態についても調査を行った。
事業の結果
1.駆除事業
2012年度は4,048尾、35.5tの駆除が行われた。2007
年以降の駆除結果を表1、図2に示した。このことか
ら、2012年度はピーク時に比べると駆除量は減って
いるものの、過去3年間では一番多かった。また、2012
年度は7月に九州北部地域豪雨災害の影響からか、7
図1
調査位置図(駆除事業、標識放流)
2.標識放流調査
1)調査海域
月中旬以降の来遊が少なかったにも関わらず駆除量
が多かったことを考えると、2013年度は駆除量が多
くなることが考えられる。
大分水研事業報告
222
生物測定は5月に56尾(オス:27尾、メス:29尾)、
6月に262尾(オス:144尾、メス:118尾)、7月に153
尾(オス:70尾、メス:83尾)、8月に80尾(オス:34
尾、メス:46尾)の測定を行った。月ごとの平均体
盤 幅 は 5月 が 725.7mm( オ ス : 680.3mm、 メ ス :
771.0mm)、6月が638.2mm(オス:615.4mm、メス
:666.1mm)、7月が853.7mm(オス:725.7mm、メ
ス:961.6mm)、8月が482.4mm(オス:483.2mm、
メス:481.7mm)であった。
次に雌雄の体盤幅の組成を5カ年にわたって示し
たのが図3、4である。今年度は小型個体が非常に多
かった。小型個体を駆除していることから、将来的
には効果が出てくると考えられる。しかしながら、
図2
駆除実績(2007年から)
今年度急激に小型個体が増加したことから、新たな
群の加入も考えられるため、今後とも駆除を続けて
いくべきである。
2.標識放流調査
2012年度の標識再捕結果については、表2の通り
である。今年度は周防灘で放流した個体が初めて守
江湾で再捕され、さらには山口県放流個体が大分県
の佐伯湾で再捕された。佐伯湾(図5)での再捕に
ついても今回が初報告である。聞き取り調査では佐
伯湾には冬場にもナルトビエイの出現があるとのこ
とであるため、佐伯湾が越冬地の一部であると考え
られることから、来年度は佐伯湾での調査を実施し、
越冬地の解明を行うべきである。また、県下に広く
聞き取り調査を行う必要がある。
アルゴス送信機については放流後数日間、別府湾
周辺で送信履歴があったが、12月以降は一度も確認
がとれていない(図5、6)。アルゴス送信機は装着
方法等が難しく、今後検討が必要である。
図3
表1
オスの体盤幅組成
ナルトビエイの駆除尾数
図4
メスの体盤幅組成
平 成 24 年 度
表2
223
標識の再捕結果
文
1)
伊藤龍星,林
献
享次,平川千修.豊前海重要貝
類漁場開発調査(5)バカガイの大量発生とナルト
ビエイによる食害被害.平成18年度大分県農林
水産研究センター水産試験場事業報告2008 ;
207-209.
2)
福田祐一,三代和樹,並松良美.アサリ資源回
復計画推進事業(2)ナルトビエイ生態調査.平
成21年度大分県農林水産研究センター水産試験
場事業報告2010;210-213.
図5
図6
アルゴス送信機
アルゴス送信機をつけたエイの移動経路
大分水研事業報告
224
資源・環境に関するデータの収集・情報の提供-4
浅海定線調査等(周防灘)
(国庫委託金)
斉藤義昭・岩野英樹・並松良美
事業の目的
周防灘南部水域の環境変動を把握し、その予報に
努めるとともに、内海漁業資源の予報に役立てるこ
14
とを目的にして定線調査を行った。
8
13
15
7
4
10
5
12
11
事業の方法
16 18
17
6
9
19
国東半島
図 1 に示す周防灘南部海域に設けた 16 定点にお
0
5
10 km
いて、毎月(上旬)1 回、漁船「武丸」と調査船「豊
洋」で海洋観測を行った。調査は Stn.5、11、12、
図1
浅海定線調査定点図
16、18、19 を漁船「武丸」で、Stn.4、6、7、8、9、10、13、14、
数字は調査点番号を示す。調査船は実線
15、17 を「豊洋」で実施した。表 1 に調査実施日
部が「武丸」、破線部が「豊洋」。
を示した。また「豊洋」による調査は 8 月と 12 月
が荒天のため欠測となった。
調査項目は、気象が天候、気温、風向・風力、雲
表1
2012年度調査実施日
表2
平年較差の評価基準
量であり、海象が波浪・うねり、水色、透明度、水
温、塩分である。また、特殊項目として栄養塩(DIN、
PO4-P)、溶存酸素量(DO)、COD、クロロフィル a
を分析した。
分析は、溶存酸素量がウィンクラー・窒化ナトリ
ウム変法、1) COD がアルカリ性過マンガン酸カリ
ウム・ヨウ素滴定法2)により行った。クロロフィル a
は、Jeffrey & Humphrey の式3)を用いて求めた。栄
養塩の分析は、オートアナライザーによった。
旬別平均気温、旬別降水量、旬別日照時間は、大
分地方気象台の地域気象観測(豊後高田)のデータ
を用いた。
平年較差の範囲
年度の平均値を用い、平年較差を表 2 に示した基準
階級
「平年並み」
に基づいて評価した。
「やや○○」
0.6σ≦δ<1.3σ
「かなり○○」
1.3σ≦δ<2.0σ
「甚だ○○」
2.0σ≦δ
なお、海象、特殊項目の平年値は 1981 年度~ 2010
また、参考資料として、巻末の資料編に本年度の
観測結果を収録した。
δ<0.6σ
δは平年較差の大きさを表し、「○○」には
「高め」、「低め」が入る。
平 成 24 年 度
225
事業の結果
1.気
象
旬別平均気温を図 2 に示した。年間を通して「平
年並み」から「やや低め」であったが、5 月上旬と 7
月下旬、年明けの 2 月上旬と 3 月中旬が「やや高め」、
3 月上旬は「甚だ高め」であった。一方、12 月上旬
と 1 月上旬は「かなり低め」であった。
旬別降水量を図 3 に示した。年間を通して「平年
並み」から「やや少なめ」で推移したが、6 月中旬
から 6 月下旬は「やや多め」となり、7 月中旬には
「甚だ多め」となった。また、12 月中旬には「や
や多め」、12 月下旬には「甚だ多め」1 月中旬、2
月上、中旬には「やや多め」であった。
図4 豊後高田地先における2012年度旬別日照時間
(大分地方気象台地域気象観測(豊後高田市))
旬別日照時間を図 4 に示した。年間を通してほぼ
「平年並み」で推移したが、4 月上旬、7 月下旬、10
月上旬は「かなり多め」であった。一方、6 月中旬、9
月中旬、11 月上旬、下旬、12 月上旬、下旬は「や
や少なめ」であった。
2.海
象
水温の推移と標準化した平年較差を図 5 に示し
た。年間を通して「やや低め~平年並み」で推移し
たが、7 月の底層で「甚だ高め」、8 月、9 月底層で
「やや高め」であった。一方 4 月の表層では「かな
り低め」、11 月の表層、底層で「甚だ低め」であっ
た。
塩分の推移と標準化した平年較差を図 6 に示し
た。年間を通して「やや低め~平年並み」で推移し
たが、8 月の底層では「甚だ低め」、9 月の底層では
「かなり低め」であった。
透明度の推移と標準化した平年較差を図 7 に示し
た。7 月に、「かなり低め」であった以外は、「やや
低め~やや高め」の範囲内で推移した。
図2 豊後高田地先における2012年度旬別平均気温
(大分地方気象台地域気象観測(豊後高田市))
図3 豊後高田地先における2012年度旬別降水量
(大分地方気象台地域気象観測(豊後高田市))
図5
水温の推移と平年較差
大分水研事業報告
226
た。一方 10 月と 2 月の底層では「やや高め」、11
月の底層では「かなり高め」であった。欠測地点も
あるが夏期に酸素飽和度が 50%を下回る調査点は
見られなかった。
COD の推移と標準化した平年較差を図 11 に示し
た。全般に「やや低め~平年並み」の低め基調で推
移したが、なかでも 9 月の表層と 3 月表層、底層で
は「かなり低め」であった。一方 8 月表層では「甚
だ高め」であった。
クロロフィル a の推移と標準化した平年較差を図
12 に示した。前半は「平年並みからやや高め」、後
半は「やや低め~平年並み」であったが、8 月の表
層は「甚だ高め」であった。
図6
塩分の推移と平年較差
図8
図7
DINの推移と平年較差
透明度の推移と平年較差
3.特殊項目
DIN の推移と標準化した平年較差を図 8 に示し
た。年間を通して「平年並み」で推移したが、5 月
の表層、6 月の底層、7月、8 月の表層では「かな
り高め」であった。一方 7 月の底層、11 月の表層、
底層、2 月の底層では「やや低め」であった。
PO4-P の推移と標準化した平年較差を図 9 に示し
た。年間を通して「平年並み」で推移した。その中
で 8 月の表層は「甚だ高め」、9 月の底層と 10 月の
表層は「やや高め」、3 月は表層が「やや高め」で、
底層が「かなり高め」であった。
溶存酸素飽和度の推移と標準化した平年較差を図
10 に示した。年間を通して「平年並み」で推移し
たが、4 月と 12 月の表層では「やや低め」であっ
図9
PO4-Pの推移と平年較差
平 成 24 年 度
図10
227
溶存酸素飽和度の推移と平年
図12
図11
CODの推移と平年較差
文
献
1) 日本水産資源保護協会:水質汚濁調査指針,恒
星社厚生閣,東京.1980;154-159.
2) 日本水産資源保護協会:水質汚濁調査指針,恒
星社厚生閣,東京.1980;160-162.
3) 日本水産資源保護協会:水質汚濁調査指針,恒
星社厚生閣,東京.1980;324-325.
クロロフィルaの推移と平年較差
大分水研事業報告
228
資源・環境に関するデータの収集・情報の提供-5
ノリ養殖指導、情報提供
斉藤義昭・樋下雄一・並松良美
事業の目的
その後、赤ぐされ病の拡大は見られなかった。赤ぐ
され病の影響もなく生産が順調、そして低水温とい
本事業は、本県ノリ養殖漁家の経営安定をはかる
うこともあり、年内は秋芽網のみの生産となった。
ため、気象・海況・養殖技術などについての情報提
1月以降:1 月は平年並みから 1 ~ 2
供や技術指導を行うものである。ここでは、平成 24
傾向が続いたが、2 月以降は平年並みからやや高め
℃低い低水温
年度漁期の養殖結果をとりまとめるとともに、当チ
のの水温傾向であった。2 月以降冷凍網の出庫が行
ームが行った調査・指導・情報活動等について報告
われたが伸びが悪く、また一部では赤ぐされ病が発
する。
生したため生産が遅くなり 3 月からの生産となっ
た。
1.平成24(2012)年度の養殖結果
1)採苗
採苗は中津市は 10 月 14 日、宇佐市は 10 月 13 日
3)乾ノリ共販結果
本年度の乾ノリ共販結果を表 1 に、過去 15 年間
の概要を表 2 に示した。
から開始された。採苗期の水温は 21 ~ 22 ℃と、平
今漁期は福岡市で計 9 回の共販が実施されたが、
年並であった。胞子の放出が 2 日目から盛んとなる
本県の出品は 7 回であった。生産枚数 662 万枚(対
網が多く、また時化のためカキ殻を外せない経営体
前年比 95%)、生産金額 4,087 万円(同 82%)、平均
も多く、芽付きが濃くなる網が多かった。
単価 6 円 17 銭(同 96 銭安)、1 経営体あたりの生
2)養殖および病害状況
産金額は 215 万円(同 23 万円減)であった。生産
10月:葉体の肉眼視は早い網で 22 日頃からであっ
枚数、生産金額ともに昨年度を下回った。全国的に
たが、多くは 25 日からであった。幼芽の異形化な
生産が好調で、本県産の主流である等級の単価が下
どは見られず、珪藻の付着も目立たなかった。下旬
降したため、対前年比では生産金額の方の落ち込み
には軽度の芽いたみが見られた。
が大きかった。
11月:水温は低めで推移した。平年と比べ 2 ~ 3 ℃
また、本年度は共販に出品したが入札されなかっ
低い水温が頻繁に観測された。期間の上旬は中津、
たものが 45 箱 16 万枚ほどあった。これらの製品を
宇佐ともにノリ芽の生長は順調で、2 次芽の放出、
見せてもらったが昨年度であれば入札されていたよ
着生も良好であったが、色調は浅めで、珪藻の付着
うな製品であるが、入札単価の下降に引きづられて
が見られるようになり、引き続き芽イタミが目立っ
最低入札単価である 3 円を下回ったようである。
た。中津で 10 日、宇佐で 19 日頃から冷凍入庫が開
始され、ピークは中津では 12 ~ 13 日、13 日に完
了した。宇佐では 20 日に完了した。入庫枚数は中
2.気象・海況
1)水
温
津 1,156 枚、宇佐 58 枚であった。10 日頃に中津で
図 1 に高田港先端における水温の推移を示した。
バリカン症状が確認された。テレホンサービスで、
9月:月を通して平年並みからやや高めで推移した。
ノリ網を沈ませる、ネットをかけるなどの対策を指
10月:月の中旬より平年並みで推移した。
導した。その後、バリカン症は拡大せず昨年ほどの
11月:月を通して平年より 1 ~ 3 ℃低めで推移し
被害はなかった。24 日より摘採が開始された。
た。
12月:水温は低めで推移した。4 日以降は 10 ℃を
12月:月を通して平年より 1 ~ 3 ℃低めで推移し
下回る日が続いた。このため伸びは悪かったが、製
た。
品はよいものが生産された。また 13 日には中津市
1月以降:平年並みからやや高めで推移した。
で赤ぐされ病を初認し、FAX 病害情報を発行した。
平 成 24 年 度
表1
平成24年度乾ノリ共販結果〔上段:枚数(枚)
、中段:金額(円)
、下段:単価(円)
表 2 大分県の乾ノリ共販結果 過去15 年間の概要
年度 経営
体数
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
86
81
76
74
71
67
57
50
42
38
31
27
24
21
19
229
生 産 枚 数 生 産 金 額 1経 営 体 あ た り
( 千 枚 ) (千 円 ) 生 産 金 額(千 円 )
4 0, 571
3 7, 610
3 6, 279
3 6, 796
2 8, 290
1 0, 219
8, 948
1 8, 963
1 0, 496
9, 313
8, 794
6 , 84 7
7 , 64 7
7,003
6,620
2 97 ,0 63
2 63 ,5 49
3 94 ,2 83
2 84 ,3 94
1 52 ,8 85
51 ,3 97
47 ,3 36
1 12 ,0 70
63 ,2 45
42 ,4 53
41 ,5 80
3 6 ,5 59
4 7 ,7 49
49,897
40,878
3, 45 4
3, 25 4
5, 18 8
3, 84 3
2, 15 3
76 7
83 0
2, 24 1
1, 50 6
1, 11 7
1, 34 1
1, 3 54
1, 9 90
2,376
2,151
(2013)年 3 月までの月別降水量を示した。
9 月、10 月、3 月は両地区で平年を下回ったが、
それ以外の月では平年を上回った。
4)栄養塩量(溶存性無機態窒素量、DIN)
図 5 に高田港先端、中津ノリ漁場および柳ヶ浦に
おける平成 24(2012)年 10 月~ 12 月末までの値を
示した。
10月:中津、高田では 70 ガンマー以下の低い値で
推移した。
11月:中津、高田では先月に引き続き低めで推移し
た。柳ヶ浦では 100 ガンマーを超える高い値が観測
された。全体的には中津で 20 ~ 70 ガンマー、高田
で 30 ~ 75 ガンマーで推移した。
12月:月初めの中津と下旬の高田で 70 ガンマーを
超す値を記録したが、全体的には低い値で推移した。
図 6 には、平成 2(1990)年度以降の漁期前半の高
2)比
重
田港 DIN 値を平均で示した。平成 16(2004)年度ま
図 2 に高田港先端における比重の推移を示した。
で は 100 ガ ン マー を 超 え る 年 も見 られ た が、 17
9~12月:多くは 21 ~ 22 の平年並み~やや低めで
(2005)年度以降はその 1/2 の 50 ガンマー程度で推
あった。
移している。
1月以降:上記同様であった。今漁期は降水量の増
加により、一時的な低比重が数回観測された。
3)降水量
図 3 および図 4 に平成 24(2012)年 9 月~ 25
ノリの色調保持のためには、従来よりも河口域に
張り込むなど、漁場の移動も考慮すべきであるが、
低比重対策が必要となる。
大分水研事業報告
230
図3
図1
高田港先端の水温(9月1日~3月31日)
図2
高田港先端の比重(9月1日~3月31日)
月別降水量(高田)
図5
図4
月別降水量(中津)
栄養塩量(DIN)の変化(10月2日~12月28日)
平 成 24 年 度
231
3.情報活動
1)テレホンサービス
平成 24(2012)年 10 月 2 日から平成 24(2012)年
12 月 31 日までの間、気象・海況・養殖管理・病害
発生状況や対策などの情報を第 27 号まで発信した。
また、DIN(溶存性無機態窒素量)の分析結果は採
水日の翌日に速報した。今漁期の利用回数はのべ
219 回、1 日平均 2.4 回であった。
2)ノリ病害情報の発行
図6
高田港先端の平均栄養塩量の推移
18年度までは10~1月、19年度以降は10~12月
12 月 13 日に中津での赤ぐされ病発生時に、FAX
ノリ病害情報を発行した。
3)検査及び指導
5)DINとDIP
漁期中には各地の種糸提供者をはじめ依頼者から
図 7 に示した。DIP は 9.3 ~ 45.3μg/l、平均 24.0μg/l
の種糸を検鏡し、芽付きの確認や病害の有無を判断
であった。ノリ養殖には DIN:DIP=10:1 程度が良
するとともに、現地で幼芽の生育状況や病害発生状
いと言われるが、採苗期の 10 月 18 日以外はなるこ
況などを調査した。これらの結果は協議会会員を通
とはなく、N 不足が目立っている。
じ生産者へ速やかに連絡した。月別地区別の検査依
頼人数は表 3 に示した。今年度の検鏡依頼のべ人数
は 106 人であった。
表3 平成24年度月別検査依頼のべ人数
地 区 9月 10月 11月 12月 1月 2月 合計
小 祝
0
10
3
2
0
0
15
西中津
0
5
6
4
0
0
15
東中津
0
9
7
4
0
0
20
和 田
0
7
8
4
0
0
19
中津市(計) (0) (31)(24)(14) (0) (0)(69)
図7
高田港先端のDIN、DIP、DIN:DIP比
(10月4日~12月28日)
柳ケ浦
0
7
8
4
0
0
19
和
0
6
7
5
0
0
18
間
宇佐市(計) (0)(13)(15) (9)
合
計
0
44
39
23
(0)
0
(0) (37)
0
106
大分水研事業報告
232
有害赤潮・貝毒プランクトン調査-1
赤潮・貧酸素水塊漁業被害防止対策事業(周防灘広域共同赤潮調査)
(国庫委託)
岩野英樹・宮村和良
事業の目的
定された17定点のうち、本県の担当は、St.13~ 17
の5定点である。
瀬戸内海西部に位置する周防灘及び豊後水道・別
各定点の上層(0.5m)、5m層、下層(底上1m)
府湾周辺海域では,Karenia mikimotoiを はじめとす
から海水500mlを 採水(ただしSt.9、 15、16は10m層
る有害赤潮が頻繁に発生し,周防灘では赤潮発生前
からも採水)し、生海水の試料1mlを3回計数して、
後にたびたび貧酸素水塊が形成されるなど,深刻な
Karenia
漁業被害が発生している。また,瀬戸内海で発生す
H ete roc ap sa
る赤潮による漁業被害の大半は,この瀬戸内海西部
(antiqua+marina、 ovata)及び、Heterosigma
polykrikoides 、
mikimotoi、 Cochlodinium
circu la risqu a ma、 Ch a tto n ella属
akashiwo
海域に集中しており,とくに養殖業の盛んな豊後水
また、水質環境調査として表2のとおり透明度、
道周辺海域においての赤潮対策は緊急かつ喫緊の課
水温・塩分(ALEC社製CTD)、溶存酸素量(ウィン
題となっている。
クラー法)を測定した。さらに、代表点のSt.3、6、13
これらのことから、Karenia mikimotoiを はじめと
する有害プランクトンの初期発生から増殖・消滅に
至るまでの全容を把握すること、Karenia mikimotoi
では、各採水層におけるDIN、DIP、全珪藻細胞数
を測定した。の出現密度を算出した。
以上の調査を、表3に示す日程で実施した。
赤潮の初期発生域とされる周防灘沿岸域での貧酸素
水塊と赤潮発生規模の関係を解明することを目的に
山口県・福岡県・大分県・宮崎県・愛媛県が共同で
表1
モニタリング調査を行った。
定点番号
北
調査点の位置と担当県
緯
東
経
定点番号
北
緯
東
経
1
33°59’12”
131°03’21”
11
33°40’24”
131°06’03”
2
34°00’12”
131°05’51”
12
33°38’41”
131°09’05”
3
33°57’24”
131°08’51”
13
33°36’12”
131°21’51”
4
33°55’12”
131°09’51”
14
33°38’12”
131°27’51”
5
33°54’11”
131°01’15”
15
33°43’12”
131°21’51”
調査定点の位置を図1と表1に示した。また各調査
6
33°49’48”
131°00’43”
16
33°45’12”
131°14’51”
定点の担当県を表1に合わせて示した。周防灘に設
7
33°52’24”
131°07’15”
17
33°39’12”
131°11’51”
8
33°45’50”
131°03’01”
9
33°49’36”
131°12’39”
10
33°43’18”
131°10’09”
事業の方法
表2
対象プランクトン 水温・塩分
調査項目
DO
透明度
気象・海象
各層
○
○
×
×
代表点(★)
○
○
各層
○
○
各層
各層
周防灘
★:珪藻プランクトン、栄養塩
5~12 : 福岡県
定点 13~17 : 大分県
○
担当県
山口県
●:対象プランクトン、水温・塩分、透明度及び溶存酸素
定点
○
海域
調査定点
1~ 4 : 山口県
調査定点(●)
表3
図1
担当県
定点
豊後水道・
別府湾
DIN・DIP 全珪藻類数
調査実施日
7月
6月
8月
下旬
上旬
中旬
下旬
上旬
25日
4日
12日
25日
3日
中旬
福岡県
25日
3日
12日
25日
7日
17日
大分県(浅海)
26日
2日
12日
25日
7日
22日
大分県(上浦)
27日
12日
20日
27日
10日
宮崎県
25日
12日
17日
27日
7日
愛媛県
21日
11日
19日
26日
10日
平 成 24 年 度
事業の結果
233
59.7cells/mlで あった。7月下旬においては、全定点
で確認され細胞数は再び増大し、西部沿岸で最大
1.有害プランクトンの出現状況
1)Karenia mikimotoi
A.周防灘
6月下旬にほぼ全域で3.0cells/ml未 満の低密度で確
認され、7月上旬に南部沿岸で最大15.0cells/mlま で
増殖した。7月中旬には全定点で出現し南部沿岸で
239.3 cells/mlが 確認された。8月上旬は、出現範囲
は縮小し北部沿岸で最大25.0
最大2.0
cells/ml、 南部沿岸で
cells/mlと 細胞数も減少しており、8月中旬
においては未検出であった。
B.豊後水道・別府湾
別府湾においては6月下旬にほぼ全域で確認され、
最大23.7cells/mlま で増殖し、7月下旬には南部沿岸
湾北部で最大38.0 cells/mlが 確認された。7月12日に
から灘中央にかけ最大981.7cells/mlま で増殖した。8
は別府湾の分布範囲は変わらず湾北部で最大57.0
月上旬には、南部沿岸から灘中央にかけ増殖のピー
cells/mlと微増し、7月20日には別府湾全域と豊後水
クを迎え、南部沿岸で最大25,500cells/mlの 着色域が
道大分県海域で分布が認められ、細胞数は最大
確認された。その後、急速に細胞数は減少し、8月
18.7cells/mlで あった。7月下旬には分布範囲は前回
中旬には南部沿岸で最大1.0cells/mlであった。
同様であるものの細胞数は1.0cells/ml以下と減少し、
なお、大分県による事前補足調査において、6月1
日に南部沿岸で最大8.4cells/ml、 6月14日に南部沿岸
で最大44.0cells/mlが 確認されており、例年より出現
時期が早く、初期検出密度も高めであった。
B.豊後水道・別府湾
6月下旬に別府湾及び豊後水道の大分県海域と愛
媛県海域で確認され最大は10.7cells/mlで あった。7
8月上旬には未検出であった。
豊後水道の愛媛県海域と宮崎県海域では、未検出
であった。
5)Heterosigma akashiwo
A.周防灘
7月下旬から8月上旬にかけ北部沿岸で1.3~2.0
cells/mlの範囲で認められたのみであった。
月11~12日には、豊後水道東部と南部で増殖のピー
B.豊後水道・別府湾
クが認められ、最大細胞数は愛媛県海域で
7月下旬に別府湾北部で0.3~1.3cells/mlの 範囲
474cells/ml、宮崎県海域で740cells/mlで あった。7月17
で認められたのみであった。
~20日には、別府湾では最大47.4cells/mlと やや増殖
を示したが、愛媛県海域は最大15.5cells/mlと 減少し、
2.環境要因
宮崎県海域では未検出であった。8月上旬には、別
1)水温
府湾で1cells/ml未 満となり愛媛県及び宮崎県海域で
は未検出であった。
2)Cochlodinium polykrikoides
A.周防灘
7月 中 旬 と 7月 下 旬 に 西 部 か ら 南 部 で 0.3 ~ 2.7
cells/mlの範囲で認められたのみであった。
B.豊後水道・別府湾
7月中旬に豊後水道大分県海域で1.3cells/ml、 7月下
旬に別府湾で1.3cells/mlが認められたのみであった。
3)Heterocapsa circularisquama
A.周防灘
検出されなかった。
B.豊後水道・別府湾
周防灘の5m層は20.5~29.6℃、豊後水道・別府湾
の10m層は18.5~27.2℃の範囲で観測された。
全点平均値の推移を見ると、周防灘の5m層は、7
月上旬から中旬にかけてほぼ横ばいで、その後著し
い上昇傾向を示した。豊後水道・別府湾の10m層は、
7月上旬から下旬にかけてほぼ横ばいで推移したが、
その後上昇傾向を示した(図2)。
2)塩分
周防灘の5m層は29.1~32.4、豊後水道・別府湾の
10m層は31.8~33.9の範囲で観測された。
全点平均値の推移を見ると、周防灘の5m層は、6
月下旬を除き平均31以下の低めで推移し、特に7月
下旬は平均29.4と著しい低下が認められた。豊後水
検出されなかった。
道・別府湾の10m層塩分の変動幅は小さいが、6月
4)Chattonella antiqua + marina
下旬の33.4を除いて平年よりも低く、33前後で推移
A.周防灘
6月下旬に灘全域で確認され、特に西部沿岸から
し、7月下旬は33を下回った(図3)。
3)溶存酸素濃度
灘中央にかけ増殖しており最大849.0cells/mlが 確認
溶 存 酸 素 濃 度 の 最 低 値 は 、 山 口 県 海 域 で 4.3~
された。7月上旬には灘全域で確認されたが、細胞
4.6ml/l、福岡県海域で0.3~2.4ml/l、大分県海域で1.5
数は減少しており、最大は北部沿岸の61.7cells/mlで
~3.6ml/lの範囲で観測された。本年度は、灘南西部
あった。7月中旬においても灘全域で確認されたが
海域において著しく低い値が観測された(図4)。
細胞数はやや減少しており、最大は南部沿岸の
4)鉛直安定度(成層の発達度)
周防灘の鉛直安定度は、山口県海域で1.6~95.6( ×
大分水研事業報告
234
10-5)、福岡県海域で1.6~57.8(×10-5)、大分県海域
-5
で0.0~114.9(×10 )の範囲であった。
し、8上旬に各海域でピークを示したが、福岡県海
域では再び減少した。山口県海域と大分県海域では
海域別の全点平均値の推移をみると、大分県海域
100cells/mlを 下回ることはなかったが、福岡県海域
で6月下旬に高い値を示したが、7月上旬以降は全海
においては、7月中旬と8月上旬を除いて100cells/ml
域で40(×10-5)未満で推移し、8月上旬には低い値
未満で推移した(図10)。
を示した(図5)。
(※鉛直安定度=上層と下層の海水密度差÷水深差
-3
×10 )
5)栄養塩
A.(DIN:周防灘,豊後水道・別府湾の代表点
鉛直平均値)
周防灘代表点では、山口県海域で0.1~6.7μM、福
岡県海域で1.1~12.4μM、大分県海域で0.5~9.88μM、
4.クロロフィルa濃度
(周防灘代表点の鉛直平均値)
クロロフィルa濃度は山口県海域で3.9~10.4μg/l、
福 岡 県 海 域 で 1.1~ 14.5μg/l、 大 分 県 海 域 で 0.6~
19.9μg/lの範囲で観測された。
クロロフィルa平均値の推移をみると、山口県海
豊後水道・別府湾では大分県海域で0.1~21.6μM、
域では4.3~7.1μg/lの 範囲で安定して推移した。福
宮崎県海域で0.1~6.1μM、愛媛県海域で0.3~7.6μM
岡県海域では7月中旬に13.2μg/lと高い値が観測され
の範囲で観測された。
たが、これを除くと4μg/lμ以下と低めに推移した。
周防灘南部沿岸の定点O17では、7月上旬と8月中
大分県海域では、7月中旬までは、5μg/l以上とやや
旬に、別府湾奥に位置する定点O5では、7月中旬に
高めに推移したが、7月下旬から8月上旬は低めに推
20μMを上回る局地的に高い値が観測された。
移した(図11)。
DIN平均値の推移をみると、周防灘では、山口県
海域では7月上旬を除いて3μM以下で推移し、福岡
5.気象(降水量、日照時間)
県海域では6月下旬に8.1μMと 高い値が観測された
福岡県行橋及び愛媛県宇和島における降水量と日
以外は2~4μMの範囲で推移した(図6)。大分県海
照時間の旬別積算値の推移は、気象庁気象統計情報
域では8月中旬を除いて4μM以下で推移した。豊後
電子閲覧サイトから得た。降水量は6月中旬から下
水道・別府湾では、大分県海域では6月下旬が3.1μM
旬が行橋で平年の151%、宇和島で平年の215%と多
でそれ以降は減少傾向で推移し、宮崎県海域におい
く、7月上旬は平年並みであったが、7月中旬は行橋
ても6月下旬が3.3μMで それ以降は1μM以 下で推移
で平年の298%、宇和島で平年の240%とかなり多か
した。愛媛県海域では7月中旬までが2μM以下と低
った。一方、7月下旬以降は平年よりも少なく推移
く推移し、それ以降上昇傾向を示した(図7)。
した。日照時間は、降水量の多かった7月中旬まで
B.(DIP:周防灘,豊後水道・別府湾の代表点
鉛直平均値))
周防灘代表点では、山口県海域はND(<0.01)~
が平年を大きく下回った。7月上旬は、降水量は平
年並みであったにもかかわらず日照時間は大きく下
回っていた(図12、図13)。
0.25μM、 福岡県海域は0.13~ 0.76μM、 大分県海域
は0.02~0.80μMの範囲で観測された。豊後水道・別
府湾では、大分県海域でND(<0.01)~0.87μM、 宮
考
察
崎県海域でND(<0.01)~0.12μM、愛媛県海域で0.11
~0.32μMの範囲で観測された。
今年度は特徴として、有害プランクトンのKarenia
DIP平均値の推移をみると、周防灘では、全海域
mikimotoiとChattonella spp.の 出現密度が高く、特に
とも7月上旬から8月上旬まで低く推移したが、6月
K.mikimotoiは 本調査の全海域の沿岸部で赤潮を形成
下旬に全海域で、8月中旬に福岡県海域と大分県海
し豊後水道沿岸域を中心に多大な漁業被害をもたら
域で高い値を示した(図8)。豊後水道・別府湾では、
した。本調査においてK.mikimotoiが 1,000細胞/mlを
大分県海域と愛媛県海域がともに0.2μM前後で推移
超えて検出されたのは、2006年、2008年に引き続き4
し、宮崎県海域では0.1μM以下の低い値で推移した。
年振りとなった。
3.全珪藻類細胞数
(周防灘代表点の鉛直平均値)
1.気象条件と漁場環境
今年度は、平年よりも多いまとまった降雨が6月
全珪藻類は山口県海域で23~1,738cells/ml、 福岡
中旬から下旬及び7月中旬に認められ、日照時間は6
県 海 域 で 3~ 3,300cells/ml、 大 分 県 海 域 で 45~
月中旬から7月中旬まで平年を大きく下回った。こ
3,375cells/mlの 範囲で確認された。
れにより周防灘においては7月上旬から31を下回る
全珪藻類細胞数平均値の推移をみると、6月下旬
から7月 下旬まで全海域で1,000cells/ml未 満で推移
低塩分で推移し7月下旬に最低となった。また、7月
平 成 24 年 度
下旬は降雨が少なく日照時間も平年を上回り水温も
1
上昇したが、このタイミングでK.mikimotoiが 10 /ml
3
235
から中旬には2011年に次いで2番目に低い値を示し
た。冬季水温が高いにもかかわらず低濃度の出現に
オーダーから10 /mlオーダーへと急増した。このこ
とどまった2007年の事例も含めて、周防灘の冬季水
とから低塩分と日射量の回復並びに水温上昇が本種
温とK.mikimotoi初 期細胞密度との関係については明
の増殖に影響したと考えられた。また、灘南西部海
瞭な関係が認められず再度検討する必要がある(図
域において、調査期間を通して貧酸素水塊が認めら
16)。
れたが、これについても赤潮の発生に影響を及ぼし
4.K.mikimotoi分 布指標と最高細胞密度の関係
たと考えられた
一方、別府湾では比較的顕著な低塩分水塊が認め
2010年に周防灘のK.mikimotoi赤 潮の発生予察の可
られたものの、豊後水道では10m層での平均塩分は
能性について、6~8月の最高細胞密度と分布指標(遊
平 年 よ り や や 低 い 33前 後 で 推 移 し た 。 特 に
泳細胞が出現した定点数/全調査点数×100)を用
K.mikimotoiの 増殖ピークであった7月11~12日にお
いて検討した。その結果、広域赤潮発生年(最高細
いては、大分県と愛媛県の沿岸よりの定点で表層塩
胞密度1,000cells/ml以 上)である2006年と2008年は、6
分が33を下回る値が観測されたが、周防灘と比較し
月中下旬の最高細胞密度が10cell/ml以 上で、かつ分
て塩分低下は著しいものではなかった。今年度、本
布指標が75%以上であり、6月中下旬の鉛直安定度
種による赤潮で多大な漁業被害を被った海域である
が高い傾向にあることが認められた。今年度の6月
が、増殖のメカニズムは周防灘のものと異なり、若
中下旬のK.mikimotoi最 高細胞密度は44cells/ml(大分
干の塩分低下と日射量不足という環境下で赤潮を形
県事前補足調査:6月14日)で、分布指標は58.8%
成した。なお、豊後水道では水温が7月上旬から下
であり、6月下旬の鉛直安定度も大分海域では高い
旬にかけてほぼ横ばいで推移した。これは、黒潮起
値を示した。分布指標は前述のレベルには及ばない
源の暖水波及が弱く、これによる海水交換が少なか
ものの、2006年と2008年に次ぐ3番目に高い値を示
ったためと考えられた。
した。赤潮の発生は、気象、海況、栄養塩、種間競
合など様々な要因が考えられるが、周防灘において
2.珪藻細胞密度と有害プランクトン出現状況との
関係
は6月中下旬の出現状況(最高密度・分布指標)が
赤潮を予察するうえで重要なポイントとなるようで
周防灘の全珪藻類は6月下旬から7月上旬及び7月
ある。なお、今後の警戒レベルは6月中下旬の最高
下旬に500cells/mlを 下回る低い値が観測された。前
細胞密度が10cells/ml以 上で分布指数が50%以上に
述のとおり7月中旬までは降水量が多く日射量不足
改める必要がある(図17、図18)。
spp.が 栄養
渦鞭毛藻の赤潮の形成には水塊の鉛直安定度の増
塩を優占し、7月中旬は珪藻類が優占したと考えら
加が寄与していることが知られている。3)また、1985
れ、7月下旬に珪藻類とK.mikimotoiが 逆転したと考
~1987年 に実施した調査 4 ) では、周防灘における
えられた(図14)。豊後水道愛媛県海域の全珪藻類
K.mikimotoiの 大規模赤潮は6月下旬の灘全域に分布
は、調査期間を通して200cells/ml未 満の低い値で推
している栄養細胞がシードポピュレーションとして
移した。特に6月下旬はK.mikimotoiが 愛媛県海域で
寄与していることが報告されている。従って、上記4
最大7.0cells/mlが 検出される条件下で珪藻類が枯渇
項目の検討結果から、今年度に広域的な赤潮が発生
しており、降雨に伴い供給された栄養塩を本種が日
した要因として、周防灘においては6月中下旬に前
射量不足の環境下で独占できた可能性が考えられ
述レベルのシードポピュレーションが分布してお
た。7月下旬以降は珪藻類が緩やかに増え始め、そ
り、6月中旬から7月中旬にかけ平年を大きく上回る
れに伴い本種は減少したと考えられた(図15)。
降雨がもたらした低塩分と7月下旬の日射量の回復
である環境の中、6月下旬はChattonella
並びに水温上昇が本種の増殖に影響したと考えられ
3.冬季水温とK.mikimotoi
た。また、灘南西部海域において、調査期間を通し
細胞密度の関係
K.mikimotoiに は越冬細胞が存在し、これらが夏季
て底層に貧酸素水塊が認められことから、当海域に
や、周防灘で通
おいては鉛直方向の海水混合が弱かったと推測さ
常観測される水温条件下(6.5~9.0℃)では生存しう
れ、これも本種の増殖に影響を及ぼしたと考えられ
るがより低水温になると生存が困難になること
た。
赤潮の起源となっていること、
1),2)
2)
が
指摘されている。
一方、豊後水道では6月下旬に既にK.mikimotoiが
昨年度、宇島地先で6℃以下の水温が観測された
大 分 県 海 域 で 最 大 10.7cells/ml、 愛 媛 県 海 域 で
のは2011年のみで、この低水温が本種の越冬細胞を
7.0cells/mlが 検出される条件下で珪藻類が枯渇して
減少させた可能性を示唆したが、今年度の2月上旬
おり、降雨に伴い供給された栄養塩を本種が日射量
不足という環境下で独占できた可能性が考えられ
大分水研事業報告
236
た。また、本種が増殖した7月は黒潮起源の暖水波
30
及が弱かったと推測され、これによる海水交換が少
28
周防灘
なかったことが本種の増殖に影響を与えた可能性が
冬季水温が低いと越冬細胞が少なく夏季赤潮のシー
26
水温(℃)
考えられた。また、K.mikimotoiに ついては、昨年度、
豊後水道・別府湾
24
ドポピュレーションとして機能し得ない可能性を示
22
唆したが、今年度は例外となった。この説について
20
は疑問が残る結果となり、今後もモニタリングを継
18
続し検証していく必要がある。
6 月下旬
7月上旬
5.今後の検討課題
図2
今年度、4年ぶりにK.mikimotoiが 広範囲かつ高濃
7 月中旬
7 月下旬
8月上旬
8 月中旬
水温の推移
(周防灘5m層、豊後水道・別府湾10m層の全点平均)
度に増殖し豊後水道沿岸を中心に多大な漁業被害を
もたらした。これまでの研究により、本種の増殖に
34
は初期の細胞密度、まとまった降雨による低塩分と
33
程度や貧酸素水塊の発達等が影響していることが分
かっている。今回、広域赤潮発生年である2006年と
2008年の事例を含めて、周防灘における初期の出現
塩分(PSU)
栄養塩の供給、珪藻類との競合、また鉛直安定度の
32
31
30
状況が重要なポイントとなることが再確認された。
29
周防灘
今後、赤潮による漁業被害を防止するにあたり、従
豊後水道・別府湾
28
来から言われる有害種の早期発見の検出感度を高め
6 月下旬
7月上旬
7 月中旬
7 月下旬
8月上旬
8 月中旬
る必要がある。特にK.mikimotoiに ついては、調査時
期を早めて濃縮海水による高感度なモニタリングを
図3
行い、より精度の高い予察を行うことが必要である。
塩分の推移
(周防灘5m層、豊後水道・別府湾10m層の全点平均)
5
献
4
1) 中田憲一,飯塚昭二.赤潮渦鞭毛藻Gymnodinium
nagasakienseの 越冬に関する研究-観察.日本プ
ランクトン学会報1987;34:199-201.
溶存酸素濃度(ml/l)
文
3
2
1
2) 寺田和夫,池内仁,高山晴義.冬季の周防灘沿
岸で観察されたGymnodinium
山口
nagasakiense. 日
福岡
大分(浅海)
0
6 月下旬
本プランクトン学会報1987;34:201-204.
図4
3) Polligher, U. and E. Zemel.In situ and experimental
7 月上旬
7月中旬
7月下旬
8月上旬
8月中旬
周防灘における溶存酸素濃度の推移
(底層溶存酸素濃度の最低値)
evidence of the influence of turbulence on cell
division processes of Peridinium cintum forma westii
(Lemm.)Lefevre.Br. Phycol. J.1981; 16:281-287.
×10 -5
80
4) 山口峰生.Gymnodinium nagasakienseの 赤潮発生
機構と発生予察に関する生理生態学的研究.南
大分(浅海)
福岡
灘平均
60
鉛直安定度
西水研研報1994;27:251-394.
山口
40
20
0
6月下旬
図5
7月上旬
7月中旬
7月下旬
8月上旬
8月中旬
周防灘における鉛直安定度の推移 (全点平均値)
平 成 24 年 度
10
山口
福岡
237
10
大分(浅海)
4
山口
福岡
大分(浅海)
珪藻細胞密度(cells/ml)
8
DIN(μM)
6
4
2
0
6月下旬
図6
7月上旬
7月中旬
7月下旬
8月上旬
10
3
10
2
10
1
10 0
8月中旬
6月下旬 7月上旬 7月中旬 7月下旬 8月上旬 8月中旬
DINの推移 (周防灘代表点0.5,5,B-1m層の鉛直平均)
図10全珪藻類細胞数の推移(周防灘代表点の鉛直平均値)
16
10
大分(上浦)
宮崎
愛媛
山口
福岡
大分(浅海)
14
8
Chl-a(μg/l)
12
DIN(μM)
6
4
10
8
6
4
2
2
0
6月下旬
図7
7月上旬
7月中旬
7月下旬
8月上旬
0
8月中旬
DINの推移 (豊後水道・別府湾0.5,10m層の鉛直平均)
6月下旬 7月上旬 7月中旬 7月下旬 8月上旬 8月中旬
図11クロロフィルaの推移(周防灘代表点の鉛直平均値)
降水量(mm)
500
0.5
450
山口
福岡
行橋
大分(浅海)
400
0.4
2012年
降水量(mm)
降水量平年値(mm)
2012年
日照時間(h)
日照時間平年値(h)
日照時間(h)
120
100
350
80
PO4-P(μM)
300
0.3
250
60
200
0.2
40
150
100
0.1
20
50
0
6月下旬
図8
0
上
旬
0.0
7月上旬
7月中旬
7月下旬
8月上旬
下
旬
上
旬
6月
8月中旬
DIPの推移 (周防灘代表点0.5,5,B-1m層の鉛直平均)
中
旬
図12
中
旬
下
旬
上
旬
7月
中
旬
8月
行橋気象観測点における降水量と日照時間の
推移(旬別積算値)
0.5
大分(上浦)
宮崎
愛媛
降水量(mm)
500
0.4
450
PO4-P(μM)
降水量平年値(mm)
2012年
日照時間(h)
日照時間平年値(h)
宇和島
100
400
0.3
日照時間(h)
120
2012年
降水量(mm)
350
80
300
0.2
250
60
200
40
150
0.1
100
6月下旬
図9
20
50
0.0
7月上旬
7月中旬
7月下旬
8月上旬
8月中旬
0
0
上
旬
DIPの推移 (豊後水道・別府湾0.5,10m層の鉛直平均)
中
旬
下
旬
6月
図13
上
旬
中
旬
7月
下
旬
上
旬
中
旬
8月
宇和島気象観測点における降水量と日照時間
の推移(旬別積算値)
大分水研事業報告
238
10
5
4
K.mikimotoi
C.polykrikoides
Chattonella
10
spp.
H18年
H19年
9
H.akashiwo
H20年
H21年
8
水温(℃)
細胞密度(cells/ml)
10
全珪藻類
3
10
10
H22年
7
H23年
H24年
6
2
5
1
10
4
1月上旬
0
10
図16
ND
-1
6月下旬
図14
7月上旬
7月中旬
7月下旬
8月上旬
8月中旬
1月中旬
1月下旬
2月上旬
2月中旬
2月下旬
福岡県宇島地先における1~2月の旬別水温の
推移
周防灘代表3点における全珪藻類 (全点全層平均
値)と有害種(最大値)の細胞密度の推移
10
5
H18
H19
細胞密度(cells/ml)
10
5
10
4
10
3
全珪藻類
K.mikimotoi
C.polykrikoides
Chattonella
細胞密度(cells/ml)
4
spp.
H.akashiwo
10
H20
3
10
H21
H22
2
H23
10
1
10
0
H24
ND-1
6月上旬
10 2
図17
101
6月中・下旬
7月上旬
7月中・下旬
8月上旬
8月中・下旬
周防灘における K.mimimotoi の出現最高細胞
密度の推移
10 0
100%
ND
H18
-1
図15
7月上旬
7月中旬
7月下旬
8月上旬
豊後水道愛媛県海域における全珪藻類 (全点全
H19
80%
8月中旬
H20
分布指標
6月下旬
H21
60%
H22
H23
40%
H24
層平均値)と有害種(最大値)の細胞密度の推移
20%
0%
6月上旬
図18
移
6月中・下旬
7月上旬
7月中・下旬
8月上旬
8月中・下旬
周防灘における K.mimimotoi の分布指標の推
平 成 24 年 度
239
有害赤潮・貝毒プランクトン調査-2
漁場環境保全推進事業①(赤潮発生監視調査)
岩野英樹・斉藤義昭
事業の目的
131°00'
20'
赤潮による漁業被害の軽減及び被害の未然防止を
査を実施し、調査結果を関係機関に情報提供した。
山口県
34°00'
図ることを目的に、周防灘南部を対象として赤潮調
40'
また、赤潮発生機構の解明と予察手法の確立に資
するための基礎資料を収集するために、気象や海象、
周 防 灘
33°40′
水質調査も合わせて実施した。
福岡県
1
2
図 1 に示す周防灘南部の 5 定点において、5 ~ 8
図1
宇佐
中津
事業の方法
3
姫島
5
4
香々地
真玉
豊後高田
調査定点図
月の毎月中旬に、表 1 に示した調査を実施した。ま
た、毎月上旬に実施する浅海定線調査時に同様の調
事業の結果
査を 5 ~ 9 月に実施し、本調査結果の補完を行った。
なお、本調査の観測・分析方法は、浅海定線調査の
本年度の調査結果の概要は、以下のとおりである。
各方法に準拠した。
表1
調
定点
調査定点の位置、調査項目
北緯
東経
(日本測地系)
査
1.赤潮発生状況
本年度の赤潮発生状況は、表 2 のとおり 14 件で
(該当する浅海
定線調査定点)
あり、内訳は Heterosigma akashiwo が 5 件(周防灘 1
定
St.1
33°39’
131°12’
(St.05)
件、別府湾 4 件、うち周防灘の 1 件は Myrionecta
点
St.2
33°37’
131°18’
(St.16)
rubrum.との混合赤潮)、Chattonella 属が 3 件(周防
の
St.3
33°36’
131°22’
(St.11)
灘、伊予灘、別府湾で各 1 件)、Karenia mikimotoi
位
St.4
33°36’
131°28’
(St.19)
が 4 件(周防灘、伊予灘で各 1 件、別府湾で 2 件)、
置
St.5
33°38’
131°28’
調
月/日
査
5/1
月
5/17
(St.12)
Cochlodinium polykrikoides が 1 件 ( 別 府 湾 )、
調査項目
調査内容
Noctiluca scintillans が 1 件(周防灘)であり、Karenia
気象・海象
天候、雲量、風向、
風力、透明度、水色、
水温、塩分
mikimotoi で漁業被害が 1 件(伊予灘でアワビ、サ
ザエ)あった。また、漁業被害にはあがっていない
が、Karenia mikimotoi 赤潮により周防灘では、天然
日
6/1
と
6/14
魚介類(クサフグ、ズズキ、クロダイ、ボラ、ハモ、
調
6/26
アカエイ、ウナギ、コチ、メバル、イシガニなど)
査
7/2
項
7/12
目
7/25
・
8/7
内
8/22
容
9/3
水
質
で斃死が見られた他、タコかご漁、キスローラーご
ち網漁、カニ建網漁で斃死などの影響があった。
2.有害赤潮プランクトン等の出現状況
プランクトン出現量
観測層
溶存酸素、NH4-N、
NO2-N、NO3-N、
PO4-P、クロロフィル-a
採水によるサンプリング
図 2 に有害赤潮プランクトン等の出現状況と気象
を、図 3 に海況の経過を示した。
0.5m、5m、底上1m
1)Heterosigma akashiwo
Heterosigma akashiwo は、5 月 17 日に初めて確
大分水研事業報告
240
認(5 細胞/ml)され、6 月 1 日には 30 細胞/ml まで増
増加したが、26 日には 3 細胞/ml まで一旦減少した。
加した。6 月 14 日には 10 細胞/ml に減少し、6 月 26
遊泳細胞は、その後再び増加傾向に転じて、7 月 25
日以降、確認されなくなった。
日に赤潮形成に至った。本年度は、2008 年度(初
確認が 5 月 23 日で、7 月 2 日に赤潮を形成)に比べ
表2
2012年の赤潮発生状況
発生期間
整理
番号
発生日
~
終息日
発生場所
日数
構成プランクトン
海域
て、遅い赤潮形成となった。また、Karenia mikimotoi
最高密度
(細胞/ml)
地名等
漁業
被害
1
5月22日
~ 6月27日
36
別府湾
大分川河口沖、別府港沖
Heterosigma
akashiwo
9,150
無し
2
5月31日
~ 6月28日
28
別府湾
日出港
Karenia
mikimotoi
315
無し
3
6月7日
~ 6月28日
21
別府湾
日出港
Heterosigma
akashiwo
6,350
無し
4
6月8日
~ 6月28日
20
別府湾
深江港
Heterosigma
akashiwo
6,175
無し
5
6月26日
~ 8月22日
57
周防灘
周防灘全域
Chattonella属
233
無し
6
6月27日
~ 8月23日
57
別府湾
別府湾沖、大分市大在、大分
市古宮、杵築市沖、日出港、
守江湾、亀川漁港
Chattonella属
164
無し
7
7月2日
~ 8月23日
52
伊予灘
姫島港
Chattonella属
55
無し
8
7月2日
~ 7月17日
15
周防灘
高田港
が赤潮を形成するまでの 6 月下旬~ 7 月下旬の間に
は、Chattonella 属が 37 ~ 128 細胞/ml の密度で確認
された。
(細胞/ml)
H.akashiwo
Chattonella属
10,000
k.mikimotoi
P.verruculosa
Heterosigma
akashiwo
5,200
Myrionecta
rubrum
2,033
9
7月25日
~ 8月22日
28
周防灘
周防灘全域
Karenia
mikimotoi
72,000
無し
7月25日
~ 8月7日
13
周防灘
中津市、宇佐市地先
Noctiluca
scintillans
96
無し
Karenia
mikimotoi
423
無し
15,333
有り
48
無し
94,000
無し
11
7月26日
~ 8月23日
28
別府湾
12
7月30日
~ 8月23日
24
伊予灘
竹田津漁港等
Karenia
mikimotoi
13
8月23日
~ 9月7日
15
別府湾
守江湾
Cochlodiinium
polykrikoides
14
11月8日
~ 11月15日
7
別府湾
大神漁港
Heterosigma
akashiwo
C.globosa
珪藻類
無し
10
守江湾、大分市佐賀関沖、大
分市大在
1,000
100
10
1
0
5月
14日
6月
26日 7月 2日
12日
25日
8月 7日
(mm)
(時間)
300
2)Karenia mikimotoi
250
Karenia mikimotoi の初確認は、近年(赤潮発生
150
年:2008 年 5 月 23 日で 0.004 細胞/ml)、(赤潮非発
50
降水量(耶馬溪)
日照時間(中津)
15
3日
200
8
5
3
0
0
5月
0
ンクトン検鏡用の濃縮海水では、4 月 12 日に確認)。
10
24日
100
生年:2011 年 6 月 27 日で 0.66 細胞/ml))に比べて
早く、5 月 1 日(1.33 細胞/ml)であった(貝毒プラ
13
14日
6月
蛍光強度
1
2
3
4
5
6
0
7月
2
蛍光強度
4
6
8
10 12
8月
0
0
0
0
2
2
2
3
蛍光強度
6
9
12 15 18
0
7月25日
Stn1
2
Stn2
Stn3
4
4
4
日には、3.00 細胞/ml まで一旦減少した。その後再
6
6
6
6
び増加傾向を示し、7 月 25 日には注意密度(200 細
8
8
8
10
10
12
12
水深( m)
14
水深(m)
14
に最高密度(25,500 細胞/ml)に達した。
3)Chattonella spp.
10 15 20 25 30
0
6 月 14 日には、44.33 細胞/m まで増加したが、6 月 26
胞/ml)を越えて 325 細胞/ml まで増加し、8 月 7 日
5
蛍光強度
4
Stn4
Stn5
8
6月26日
6月14日
Stn1
10
Stn2
Stn4
Stn5
水深(m)
14
Chattonella 属は、5 月 17 日に初めて確認(0.33 細
Stn1
Stn2
10
Stn3
Stn3
12
8月7日
Stn1
Stn4
Stn5
水深(m)
14
図2
Stn2
Stn3
Stn4
12
Stn5
有害赤潮プランクトン等の出現状況と気象
胞/ml)され、6 月 14 日に 1 細胞/ml まで増加した。6
月 26 日には、100 細胞/ml を越えて 124 細胞/ml ま
31
(℃)
0m
で増加した。
5m
B-1m
19
その後、7 月 2 日~ 25 日には、37 ~ 128 細胞/ml
13
5月
で推移し、8 月 7 日には 2 細胞/ml まで減少した。
33
31
29
27
25
23
21
遊泳細胞の分布は、6 月 26 日には表層が主体で
あったが、7 月 25 日には B-1m 層が主体であった。
10
Pseudochattonella verruculosa が 5 月 17 日~ 7 月 2
6
日まで確認(最高密度 140 細胞/ml)された。遊泳細
2
7月
8月
7月
8月
0m
5m
B-1m
6月
(m)
Stn1
Stn2
Stn3
Stn4
Stn5
透明度
0
5月
6月
(×10-5)
(%)
120
100
90
80
60
60
鉛直安定度
酸素飽和度
30
40
0
20
5月
5)珪藻類
日に 3,933、3,713、2,350 細胞/ml と 10 台の密度で
16
14
12
10
8
6
4
2
0
推移した。一方、5 月 17 日、6 月 1 日、14 日、26
1.0
珪藻類の細胞密度は、5 月 1 日、8 月 7 日、22
3
日、7 月 2 日は、300 細胞/ml 以下の 10 2台の密度で
本年度は、Karenia mikimotoi の初確認が早く、4
月 12 日であった。6 月 14 日には、44 細胞/ml まで
7月
8月
6月
7月
8月
6月
7月
8月
(μM)
DIN
0m
5m
B-1m
5月
(μM)
DIP
0.8
0m
5m
B-1m
0.6
0.4
推移した。
6月
0.2
0.0
5月
図3
海況の推移
溶存酸素飽和度
認(最高密度 102 細胞/ml)された。
8月
4
鉛直安定度
globosa が 6 月 1 日~ 7 月 2 日まで確
7月
塩分
8
胞確認時の水温は、16.0 ~ 22.5 ℃の範囲であった。
6月
(PSU)
5月
4)その他有害プランクトン
Chattonella
水温
25
平 成 24 年 度
3.気象・海況等の特徴
1)気象
気温(豊後高田市)は、1 月下旬~ 2 月中旬が「や
241
~ 9.5m と高く、調査点付近では、Noctiluca scintillans
の赤潮が見られた。
鉛直安定度は、6 月 26 日~ 7 月 25 日の約 1 ヶ月、
や低め」~「かなり低め」、5 月中・下旬、6 月中・
100 ~ 25 に増大した後、8 月 7 日には 5.4 まで低下
下旬も「やや低め」であった。降水量(豊後高田市)
した。
は、九州北部豪雨の影響を受けて、6 月中・下旬が
溶存酸素飽和度は、7 月 12 日に山国川河口沖合
131mm、245mm、7 月上・中旬が 147mm、246mm
いの Stn1 で 29 % まで低下した。また、Karenia
で、
「やや多め」~「甚だ多め」であった。また Stn1.
mikimotoi 赤潮終息後の 8 月 22 日には国東半島寄り
付近の中津市小祝に注ぐ山国川上流の耶馬溪では、6
の豊後高田市真玉沖の Stn5 で 34 %となった。
月 24 日、7 月 3 日、13 日、14 日に 147mm、250mm、
DIN は、まとまった降水のあった 6 月下旬、7 月
143mm、209mm の集中豪雨を記録した。日照時間
上旬に表層で 15.16μM、8.79μM の濃度が見られた。
(豊後高田市)は、6 月~ 7 月中旬までは「全般に
一方、ほとんど降水の見られていない 5 月中旬~ 6
短め」であり、特に 6 月中旬は「やや短め」であっ
中旬の期間の表層 DIN は、0.83 ~ 1.21μM の濃度で
た。梅雨明け後の 7 月下旬は、「かなり長め」とな
推移した。
った。
2)海況
水温(5 月~ 7 月)は、0m 層、B-1m 層ともに全
3)赤潮プランクトン
本年度は、Karenia mikimotoi の初確認が早く、4
月 12 日であった。6 月 14 日には、44 細胞/ml まで
般に低めであった。B-1m 層の水温は、6 月 14 日~ 7
増加したが、26 日には 3 細胞/ml まで一旦減少した。
月 12 日の期間に 18.5 ~ 21.0 ℃で推移した後、7 月
遊泳細胞は、その後再び増加傾向に転じて、7 月 25
25 日に 24.7 ℃まで上昇した。
日に赤潮形成に至った。本年度は、2008 年度(初
表層塩分は、6 月中・下旬、7 月上旬の集中豪雨
確認が 5 月 23 日で、7 月 2 日に赤潮を形成)に比べ
の影響を受けて 6 月 26 日、7 月 2 日、25 日で 30PSU
て、遅い赤潮形成となった。また、Karenia mikimotoi
を大きく下回った。
が赤潮を形成するまでの 6 月下旬~ 7 月下旬の間に
透明度は、集中豪雨による河川水の流入で海水に
濁りが生じ、6 月 26 日、7 月 2 日に最低で 1.2m、0.9m
まで低下した。一方、7 月 25 日は、Stn1、2、3 で 7.5
は、Chattonella 属が 37 ~ 128 細胞/ml の密度で確認
された。
大分水研事業報告
242
有害赤潮・貝毒プランクトン調査-2
漁場環境保全推進事業②(貝毒発生監視調査)
岩野英樹・斉藤義昭
2.貝毒検査
事業の目的
麻痺性貝毒の検査は、公定法(マウス試験)を大
広大な干潟を有する本県周防灘海域では、アサリ
分県衛生環境研究センターに、エライザ法を水産研
等の二枚貝を対象にする採貝漁業やマガキ等の貝類
究部に依頼して実施した。対象二枚貝は、養殖マガ
養殖業も行われている。
キと天然アサリであり、検査対象部位は、可食部で
また、別府湾北部の杵築市守江地先でも、1953
ある。
年頃からカキ養殖業が行われている。
本事業では、これら有用貝類の食品としての安全
事業の結果
性を確保し、水産業の経営安定を図るために、貝毒
原因プランクトンのモニタリング調査と貝毒検査を
実施した。
1.貝毒原因プランクトンのモニタリング
麻痺性貝毒原因プランクトンの Alexandrium 属、
Gymnodinium catenatum は、確認されなかった。
事業の方法
2.麻痺性貝毒検査
麻痺性貝毒は表 1 に示したとおり全ての検体で検
1.貝毒原因プランクトンのモニタリング
プランクトンのモニタリングは、図 1 に示す 10
出されなかった。
調査定点で 1 ~ 2 回/月の頻度で実施した。
表1
各調査点の所定層で海水 1L を採水し、研究室に
麻痺性貝毒検査結果
持ち帰り、目合い 10μm の濾布を用いて 500ml の生
採取月日
海水を 3 ~ 5ml 度まで濃縮し、その全量を計数した。
山口県
周
防
灘
姫島
中津
☆1
大分県
伊予灘9
富来
毒力
可食部平均重量
月
日
曜日
月
検査月日
日
曜日
(MU/g)
(g/個)
4
日
11
8
木
N.D.
5.4
公定法
産地
分析方法
養殖マガキ
高田港
11
養殖マガキ
守江湾
11
5
月
11
8
木
N.D.
16.4
公定法
養殖マガキ
守江湾
11
30
金
12
4
火
N.D.
25.2
エライザ
養殖マガキ
高田港
12
14
金
12
18
火
N.D.
5.7
エライザ
養殖マガキ
守江湾
1
4
金
1
8
火
N.D.
19.9
エライザ
養殖マガキ
高田港
1
18
金
1
22
火
N.D.
11.1
エライザ
養殖マガキ
守江湾
1
31
木
2
5
火
N.D.
25.6
エライザ
養殖マガキ
高田港
2
14
木
2
19
火
N.D.
9.2
エライザ
養殖マガキ
高田港
3
1
金
3
5
火
N.D.
10.2
エライザ
アサリ
中津市高洲
3
14
木
3
28
木
N.D.
4.3
公定法
伊
国東
予
高田港
灘
寄藻 川
駅館川
桂川
長洲
布 津部
山国川
周防灘19 臼野
☆2
呉崎岸壁
竹田 津
香々 地
周防灘5
愛媛県
伊予灘1
二枚貝名
武蔵
守江 2 守江 1
●
●
守江 4 ●☆3
今後の留意点
別府湾21
別
府
湾
大 分県 北 部海域 におい ても 、過 去に 4 種 (G.
別府
大分県農林 水産研究指導センター水産研究部 浅海・内水面グループ
図1
大野 川
10 km
大分 川
5
白木
0
catenatum、 A. catenella、 A. tamarense 及 び A.
貝毒発生監視調査の定点
tamiyavanichii)の麻痺性貝毒原因プランクトンが確
●:プランクトン調査定点
認 さ れ て お り 、 2000 年 に は 周 防 灘 に お い て A.
☆:貝毒検査用二枚貝採集地点
catenella による養殖マガキの貝毒が検出され、出荷
自主規制(27 日間継続)がとられている。引き続
き慎重なモニタリング調査を継続する必要がある。
平 成 24 年 度
243
種苗生産に関する技術指導-1
新たな養殖種への支援(イワガキ種苗生産)
木村聡一郎
事業の目的
給餌は、当初、市販の Chaetoceros calcitrans と自
家培養した Pavlova lutheri とを混合して与え、殻長
近 年 、 県 南 地 域 を 中 心 に イ ワ ガ キ Crassostrea
が概ね 200μm を超えてからは、C.calcitrans に替え
nippona の養殖が盛んになってきており、養殖イワ
自家培養した Chaetoceros gracilis と P.lutheri とを混
ガキを地域の特産品として売り出そうとする動きも
合して与えた。
みられ、この先、生産量の増大が期待される。
4)稚貝飼育
しかしながら、県内にはイワガキ種苗を生産・販
幼生の殻長が 300μm を超え、眼点個体の出現を
売している機関がないことから、優良な種苗の安定
確認してから、200μm 等メッシュで着底前幼生を
確保が課題となっている。
取上げ、付着器(ホタテ貝殻 1 連 30 枚または 1 連 60
そこで、これまでに浅海チームが習得した基礎的
枚の二つ折り)を垂下した 100L ~ 500LPE 円形水
なイワガキ人工種苗生産技術を民間等へ移転するた
槽または 1tFRP 角形水槽へ収容し、遊泳個体がみ
めの技術研修を実施することとし、この技術移転の
られなくなるまでの間、止水により飼育した。また、
一環として当チームで種苗生産を行った。
第 1 回次は無通気、第 2 回次以降については角形水
槽は無通気、円形水槽は微通気とした。
採 苗後 は 付着 器を 30t コ ンクリート 角形 水槽 または
事業の方法
4tFRP 角形水槽に集約し、流水、微通気により飼育
した。
1.種苗生産
1)使用母貝
給 餌 は 、 引 き 続 き 自 家 培 養 し た C.gracilis と
P.lutheri とを混合して与えた。
採卵用母貝として豊後高田市沖にて試験養殖中の
イワガキ及び佐伯市蒲江産の養殖イワガキを使用し
事業の結果
た。
なお、第 1 回次分については、2011 年 12 月から
浅海チームの屋内水槽にて加温飼育中の母貝を使用
した。
2)採卵方法
切開法による人工授精、干出刺激による自然産卵
から受精卵を得た。受精卵は 20μm メッシュで回収
1.採卵~幼生飼育
採卵から着底前幼生までの飼育結果を表 1 に示
す。
採卵は 4 月 12 日から 9 月 5 日にかけて 7 回行い、
採卵翌日、いずれも D 型幼生を得た。
し、洗卵した後、1tPE 円形水槽、500LPE 円形水槽
飼育水槽のべ 16 面を用いて、16 ~ 38 日間の幼
または 6tFRP 角形水槽に収容し、止水、無通気で
生飼育により(収容密度 0.40 ~ 3.88 個/ ml)、7
ふ化させた。
回次で計 1,223.5 万個の着底前幼生を取上げ、着底
3)幼生飼育
水槽へ収容した。D 型幼生から着底前幼生までの歩
採卵翌日、41μm 等メッシュで D 型幼生を取上げ、
留まりは 0.4 ~ 23.7%となり、6 月までの第 1 ~ 3
1tPE 円形水槽、500LPE 円形水槽、30t コンクリート角形
回次は比較的安定していたが、8 月からの第 4 回次
水槽または 6tFRP 角形水槽へ収容し、止水で飼育
以降は不調になることが多く、幼生飼育中に生残が
した。また、30t 水槽は無通気、他水槽は微通気と
悪いため、途中廃棄した水槽も 3 面あった。
した。
なお、幼生及び飼育水を適時観察し、原生生物の
2.採苗
増加や幼生の変調がみられた際には、飼育水の換水
採苗結果を表 2 に示す。
や飼育水槽替えを行った。
水槽のべ 28 面を用いて、着底前幼生を飼育し(収
大分水研事業報告
244
容密度 0.20 ~ 1.80 個/ ml)、7 回次でホタテ貝殻
どみられない水槽も 11 面あった。
12,540 枚に計 183,665 個の着底稚貝を得た。採苗率
今後は、着底前幼生眼点出現率からみた採苗のタ
は 0.2 ~ 21.3 %、ホタテ貝殻 1 枚当たりの平均付着
イミングや適正収容密度の検討、換水や通気等飼育
数は 1.1 ~ 318.8 個/枚となり、第 4 回次の 100L
条件の見直し等を行い、採苗率を高め、それを高水
着底水槽分を除き、低い値となった。特に、第 1、2
準に安定させていくことが課題である。
回次の採苗率が悪く、付着器に稚貝の着底がほとん
表 1 採卵及び幼生飼育結果
回次
採卵日
採卵法
親貝個数
(個)
1
2012/4/12
切開法
26
2
2012/6/12
切開法
9
3
2012/6/17
切開法
10
4
2012/8/7
切開法
11
5
2012/8/10 自然産卵
6
2012/8/20
切開法
11
7
2012/9/5
切開法
10
合計
不明
D型
幼生飼育 着底前
採卵数
収容密度
飼育水槽 幼生数
日数
幼生数 歩留まり
(万粒)
(個/ml)
(万個)
(日)
(万個)
1t
188
1.88
25
27.5
14.6%
5,304
30t
2,114
0.70
26
404
19.1%
1t①②
358
1.79
21
49
13.7%
12,093
6t
828
1.38
19
150
18.1%
12,664
30t
1,843
0.61
26~33
436
23.7%
生残悪く途中廃棄
6t①
628
1.05
6t②
434
0.72
16
2
0.5%
16,000
生残悪く途中廃棄
6t③
811
1.35
1t①②
304
1.52
34~38
70
23.0%
不明 500L
194
3.88
21
6
3.1%
30t
2,059
0.69
17
9
0.4%
23,500
1t
155
1.55
25
22.5
14.5%
生残悪く途中廃棄
30t
1,201
0.40
1,300
6t
600
1.00
25
47.5
7.9%
70,861
11,716
1,223.5
表 2 採苗結果
回次
1
2
3
4
5
6
7
合計
着底前
ホタテ
平均 着底稚貝
収容密度
幼生数 着底水槽
貝殻枚数 付着数
数
採苗率
(個/ml)
(万個)
(枚)
(個/枚) (個)
27.5
200L
1.38
450
6.2
2,805
1.0%
18
200L
0.88
450
5.3
2,363
1.3%
着底なし
214 250L①~⑥ 1.42
3,420
0.0%
着底なし
173 500L①~③ 1.15
2,880
0.0%
49
500L
0.98
960
1.1
1,080
0.2%
着底なし
54
1t①
0.54
2,160
0.0%
着底なし
96
1t②
0.96
2,160
0.0%
140
1t①
1.40
1,740
18.5
32,190
2.3%
80 500L①
1.60
960
17.3
16,640
2.1%
80 500L②
1.60
840
11.5
9,660
1.2%
40
250L
1.60
540
13.3
7,200
1.8%
90
1t②
0.90
2,160
19.2
41,400
4.6%
6
200L
0.30
360
3.2
1,140
1.9%
18
100L
1.80
120
318.8
38,260
21.3%
32
500L
0.64
960
12.8
12,320
3.9%
22
250L
0.88
510
8.4
4,297
2.0%
6
100L
0.60
210
19.7
4,130
2.8%
9
100L
0.90
240
4.3
1,040
0.3%
23
250L
0.90
510
7.7
3,910
1.7%
2
100L
0.20
300
4.5
1,350
6.8%
45.5
500L
0.91
1,230
3.2
3,880
0.9%
*
1,223.5
12,540
183,665
*「着底なし」は集計から除く
備考
1/3換水×3回
1/2換水×2回
水槽替え(6t→100L)
全換水×1回
水槽替え(6t→1t)
平 成 24 年 度
245
種苗生産に関する技術指導-2
東日本大震災対策(マガキ種苗生産)
木村聡一郎
事業の目的
または 1 連 30 枚)を垂下した 4tFRP 角形水槽、
100LPE 円形水槽、200LPE 円形水槽または 500LPE
県内で養殖されているマガキ Crassostrea gigas に
円形水槽へ収容し、遊泳個体がみられなくなるまで
ついては、これまで一大産地である宮城県産の種苗
の間、止水により飼育した。また、角形水槽は無通
が主に購入されていたが、2011 年東日本大震災の
気、円形水槽は微通気とした。
影響により、その種苗の供給が不安定となり、全国
的な種苗不足が懸念された。そのため、当面の種苗
確保と県産マガキ人工種苗の供給に向けた種苗生産
技術の確立を念頭に課題に取り組んだ。
採苗後は付着器を 4tFRP 角形水槽に集約し、流
水、微通気により飼育した。
給 餌 は 、 引 き 続 き 自 家 培 養 し た C.gracilis と
P.lutheri とを混合して与えた。
事業の結果
事業の方法
1.種苗生産
1)母貝
採卵用母貝として杵築産養殖マガキ(2010 年購
入の宮城県産種苗から生産)を使用した。
2)採卵方法
1.採卵~幼生飼育
採卵から着底前幼生までの飼育結果を表 1 に示
す。
採卵は 5 月 29 日から 7 月 19 日にかけて 4 回行
い、採卵翌日、いずれも D 型幼生を得た。
干出刺激による自然産卵、切開法による人工授精
各飼育水槽を用いて、17 ~ 35 日間の幼生飼育に
から受精卵を得た。受精卵は 20μm メッシュで回収
より(収容密度 0.45 ~ 1.94 個/ ml)、4 回次で計 587
し、洗卵した後、4tFRP 角形水槽または 1tPE 円形
万個の着底前幼生を取上げ、着底水槽へ収容した。D
水槽に収容し、止水、無通気でふ化させた。
型 幼 生 か ら 着 底 前 幼 生 ま で の 歩 留 ま り は 0.5 ~
3)幼生飼育
48.0%となり、微通気を施した水槽分で高かった。
採卵翌日、41μm 等メッシュで D 型幼生を取上げ、
30t コンクリート角形水槽、6tFRP 角形水槽、4tFRP 角形
2.採苗
水槽または 1tPE 円形水槽へ収容し、止水で飼育し
採苗結果を表 2 に示す。
た。また、30t・4t 水槽は無通気、6t・1t 水槽は微
各着底水槽を用いて、着底前幼生を飼育し(収容
通気とした。
密度 0.30 ~ 2.20 個/ ml)、4 回次でホタテ貝殻
なお、幼生及び飼育水を適時観察し、原生生物の
11,340 枚に計 268,174 個の着底稚貝を得た。採苗率
増加や幼生の変調がみられた際には飼育水槽替えを
は 2.9 ~ 13.7 %、ホタテ貝殻 1 枚当たりの平均付着
行った。
数は 14.2 ~ 98.7 個/枚となり、付着器の垂下場所
給餌は、当初、市販の Chaetoceros calcitrans と自
により付着数にかなりのバラツキ(付着の良いもの
家培養した Pavlova lutheri とを混合して与え、殻長
で 61.0 個/枚、悪いもので 1.7 個/枚)がみられた
が概ね 200μm を超えてからは、C.calcitrans に替え
第 2 回次 4t 角形水槽分で低かった。
自家培養した Chaetoceros gracilis と P.lutheri とを混
合して与えた。
マガキ種苗生産については、イワガキ人工種苗生
4)稚貝飼育
産技術を活用しての前年度からの試みであったが、
幼生の殻長が 300μm を超え、眼点個体の出現を
着底前幼生までの生残率や付着器への採苗率をより
確認してから、200μm 等メッシュで着底前幼生を
高水準に安定させるための技術の習得が、今後の課
取上げ、付着器(ホタテ貝殻 1 連 60 枚の二つ折り
題である。
大分水研事業報告
246
表 1 採卵及び幼生飼育結果
回次
採卵日
採卵法
親貝個数
(個)
1
2012/5/29 自然産卵
2
2012/6/25
切開法
不明
11
3
4
合計
2012/7/10
2012/7/19
切開法
切開法
12
7
D型
幼生飼育 着底前
採卵数
収容密度
飼育水槽 幼生数
日数
幼生数 歩留まり
(万粒)
(個/ml)
(万個)
(日)
(万個)
不明
30t
1,350
0.45
35
22
1.6%
6t①
605
1.01
17
180
29.8%
3,270
6t②
605
1.01
17
290
48.0%
6,063
4t
633
1.58
17
3
0.5%
2,784
1t
194
1.94
28
92
47.5%
12,117
3,385
587
表 2 採苗結果
回次
1
2
3
4
合計
着底前
ホタテ
平均
着底稚貝
収容密度
幼生数 着底水槽
貝殻枚数 付着数
数
(個/ml)
(万個)
(枚)
(個/枚) (個)
22
100L
2.20
300
82.5
24,750
470
4t
1.18
9,480
14.2
134,932
3
100L
0.30
120
23.8
2,860
69
500L
1.38
960
98.7
94,720
23
200L
1.15
480
22.7
10,912
587
11,340
268,174
採苗率
11.3%
2.9%
9.5%
13.7%
4.7%
備考
水槽替え(30t→6t→500L)
平 成 24 年 度
247
種苗生産に関する技術指導-3
新たな養殖種への支援(イタボガキ種苗生産)
木村聡一郎
事業の目的
幼生の殻長が 300μm を超え、眼点個体の出現を
確認してから、200μm 等メッシュで着底前幼生を
dennselamellosa は、大分県周
取上げ、付着器(ホタテ貝殻 1 連 30 枚または 1 連 60
防灘南部に生息しており、古くは小型底びき網漁な
枚の二つ折り)を垂下した 100L ~ 250LPE 円形水
どで漁獲されていたが、現在の水揚げは非常に少な
槽または 1tFRP 角形水槽へ収容し、遊泳個体がみ
い。全国的にもほとんど流通しておらず、今後、フ
られなくなるまでの間、止水、微通気により飼育し
ランス料理等の高級食材として期待されるイタボガ
た。
イタボガキ Ostrea
キを新たな養殖有望種と位置づけ、これまでに浅海
採 苗後 は 付着 器を 30t コ ンクリート 角形 水槽 または
チームが習得した基礎的なイタボガキ人工種苗生産
4tFRP 角形水槽に集約し、流水、微通気により飼育
技術の高度化・安定化を図るととともに、その技術
した。
を民間等へ移転することを目的とした。
給 餌 は 、 引 き 続 き 自 家 培 養 し た C.gracilis と
P.lutheri とを混合して与えた。
事業の方法
事業の結果
1.種苗生産
1)使用母貝
採仔用母貝として豊後高田市沖にて試験養殖中の
イタボガキを使用した。
2)採仔方法
殻表面の付着物を取り除いた母貝を 500LPE 水槽
1.採仔~幼生飼育
採仔から着底前幼生までの飼育結果を表 1 に示
す。
5 月 8 日から 8 月 22 日にかけて 7 回の採仔を行
った。
等に吊したカゴに収容し、産仔を待った。この間は
飼育水槽のべ 10 面を用いて、17 ~ 27 日間の幼
流水とし、その排水を 100LPE 水槽等で受け、ここ
生飼育により(収容密度 0.53 ~ 1.35 個/ ml)、全
に集積した産仔幼生を 80μm メッシュで回収した。
体で計 163 万個の着底前幼生を取上げ、着底水槽へ
なお、産仔がみられない場合は、適宜、2 時間程
収容した。産仔幼生から着底前幼生までの歩留まり
度の干出刺激をかけた。
は 1.7 ~ 54.3%となり、5 月採仔分が比較的好調で
3)幼生飼育
あった。なお、幼生飼育中に生残が悪いため、途中
産仔された幼生を 1tPE 円形水槽、500LPE 円形水
廃棄した水槽が 2 面あった。
槽または 4tFRP 角形水槽へ収容し、微通気で飼育
した。また、第 1、2 回次は流水、第 3 回次以降は
止水とした。
なお、幼生及び飼育水を適時観察し、原生生物の
2.採苗
採苗結果を表 2 に示す。
水槽のべ 9 面を用いて、着底前幼生を飼育し(収
増加や幼生の変調がみられた際には飼育水槽替えを
容密度 0.10 ~ 1.14 個/ ml)、全体でホタテ貝殻 4200
行った。
枚に計 55,190 個の着底稚貝を得た。採苗率は 0.7 ~
給餌は、当初、市販の Chaetoceros calcitrans と自
13.2 %、ホタテ貝殻 1 枚当たりの平均付着数は 0.7
家培養した Pavlova lutheri とを混合して与え、殻長
~ 19.7 個/枚となった。なお、第 5、6 回次で付着
が概ね 200μm を超えてからは、C.calcitrans に替え
器に稚貝の着底がほとんどみられない水槽が 2 面あ
自家培養した Chaetoceros gracilis と P.lutheri とを混
った。
合して与えた。
今後は、着底前幼生までの生残率や付着器への採
4)稚貝飼育
苗率をより高水準に安定させることが課題である。
大分水研事業報告
248
文
1)
献
平川千修,中川彩子,日高 愛.浅海増養殖に関す
2) 中川彩子,平川千修,林 亨次.浅海増養殖に関す
る研究 (5)イタボガキ種苗生産研究.平成 17
る研究 (5)イタボガキ種苗生産研究.平成 18 年
年度大分県農林水産研究センター水産試験場事
度大分県農林水産研究センター水産試験場事業
業報告 2007;167-169.
報告 2008;168-169.
表 1 採仔及び幼生飼育結果
回次
産仔日
飼育水槽
1
2
2012/5/8
2012/5/19
3
2012/5/29
4
2012/7/15
5
2012/7/16
6
7
合計
2012/8/20
2012/8/22
1t
1t
500L①
500L②
1t
4t
1t
500L①②
500L
幼生数 収容密度
(万個) (個/ml)
135
53
51
51
60
489
104
120
52
1,115
1.35
0.53
1.02
1.02
0.60
1.22
1.04
1.20
1.04
幼生飼育 着底前
日数
幼生数 歩留まり
(日)
(万個)
24
55.5
41.1%
20
28.5
54.3%
17
18
35.3%
備考
流水
流水
生残悪く途中廃棄
24
23
27
25
1
25
24
11
1.7%
5.1%
23.1%
9.2%
水槽替え(1t→100L)
生残悪く途中廃棄
163
表 2 採苗結果
回次
1
2
3
4
5
6
合計
着底前
ホタテ
平均
着底稚貝
収容密度
幼生数 着底水槽
貝殻枚数 付着数
数
(個/ml)
(万個)
(枚)
(個/枚)
(個)
21.75 250L①
0.87
510
10.2
10,370
21.75 250L②
0.87
510
12
100L
1.20
240
8.5
2,040
28.5
250L
1.14
420
4.5
1,890
18
250L
0.72
540
14.2
7,650
1
100L
0.10
300
0.7
200
25
1t
0.25
1,680
19.7
33,040
着底なし
24
1t
0.24
1,920
着底なし
11
250L
0.44
480
*
163
4,200
55,190
採苗率
2.4%
1.7%
0.7%
4.3%
2.0%
13.2%
0.0%
0.0%
*「着底なし」は集計から除く
Fly UP