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熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System

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熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System
熊本大学学術リポジトリ
Kumamoto University Repository System
Title
SPF環境はトランスサイレチンアミロイドーシスの発症を
防止する
Author(s)
井上, 聖也
Citation
Issue date
2008-03-25
Type
Thesis or Dissertation
URL
http://hdl.handle.net/2298/14949
Right
熊本大学学位論文
SPF 環境はトランスサイレチンアミロイドーシスの
発症を防止する
井上聖也
Specific pathogen free conditions prevent transthyretin
amyloidosis in mouse models
Seiya Inoue
Transthyretin (TTR) associated amyloidosis is an autosomal dominant disorder
characterized by peripheral and autonomic neuropathy. Both genetic and
environmental factors are thought to be involved in development of TTR
associated amyloidosis. Previously, we demonstrated that amyloid deposition
was observed in various tissues of transgenic mouse lines carrying a human
mutant TTR (Met30) gene. To analyze the influence of environmental factors
on TTR amyloidosis, these amyloidogenic transgenic mouse models were kept
under conventional (CV) or specific pathogen free (SPF) conditions. Although
the serum levels of Met30 for mice housed in the CV and SPF conditions were
similar, amyloid deposition was observed in CV conditions, but not in SPF
conditions. In addition, the extent of amyloid deposition in transgenic mice
was dependent on duration kept under CV conditions. There were significant
differences in proportion of amyloid deposition in several tissues between
CV and SPF conditions. Maintenance of these mice at 30o C did not induce amyloid
deposition in SPF conditions. These results suggest that the SPF conditions
can completely prevent amyloid deposition, and that environmental factors can
affect the onset and progression even in a single gene disorder.
2
本論文で使用した略語一覧表
AD : Alzheimer’s Disease
ATTR : transthyretin-associated amyloidosis
cDNA:complementary DNA
CD4+:Cluster of Differentiation 4+
CV : Conventional
FAP : Familial Amyloidotic Polyneuropathy
hTTR : human transthyretin
IL4 : Interleukin 4
LPS : Lipopolysaccharide
Met : Methionine
MT : Metallothionein
PCR : Polymerase Chain Reaction
RBP : retinol binding protein
SAM : Senescence-Accelerated Mouse
SAP : Serum Amyloid P component
SOD : Super Oxide Dismutase
SPF : Specific Pathogen Free
Tg :
Transgenic mouse
TTR : Transthyretin
Val :
Valine
3
発表論文
本論文は、学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。
(1)
Specific
amiloidosis
pathogen
free
conditions
prevent
transthyretin
in mouse models
Transgenic Research
Accepted: 6 March 2008
Inoue S, Ohta M, Li Z, Zhao G , Takaoka Y , Sakashita N , Miyakawa k ,
Takeda K , Tei H , Suzuki M , Masuoka M , Sakaki Y ,
Takahashi K ,Yamamura K.
4
目次
Abstract …………………………………………………………………………… 2
略語一覧 …………………………………………………………………………… 3
発表論文 …………………………………………………………………………… 4
目次
…………………………………………………………………………… 5
要旨
…………………………………………………………………………… 7
序論
1) TTR 遺伝子とその機能
……………………………………………… 9
2) TTR が関与するアミロイドーシス …………………………………… 9
3) モデルマウスの作製 …………………………………………………… 11
4) 環境要因 ………………………………………………………………… 12
材料と実験方法
1) トランスジェニックマウス
……………………………………… 17
2) 飼育条件 ……………………………………………………………… 17
3) Tg マウスの同定 ……………………………………………………… 18
4) 組織化学的解析 ……………………………………………………… 18
5) ウエスタンブロット法 ……………………………………………… 19
6) 統計学的解析 ………………………………………………………… 19
結果
1) アミロイド沈着は SPF 環境下では起こらなかった ……………… 20
2) CV 環境とアミロイド沈着の関係 …………………………………… 21
5
3) 30℃飼育下でアミロイド沈着は起こらなかった …………………
22
考察
…………………………………………………………………………… 30
謝辞
…………………………………………………………………………… 35
参考文献 …………………………………………………………………………… 36
6
要旨
「SPF 環境はトランスサイレチンアミロイドーシスの発症を防止する」
生命薬科学専攻 臓器形成分野所属
井上聖也
トランスサイレチン(TTR)遺伝子が関与するアミロイドーシスは、常染色体の
優性遺伝病で、主に末梢神経や自律神経に障害を来す疾患であるが、その発症に
は遺伝的要因と環境要因が深く関わっていると考えられる。
これまでに臓器形成分野の研究室では、ヒト変異 TTR 遺伝子(Met30)を導入した
トランスジェニック(Tg)マウスを用いることにより、様々な組織にアミロイド
が沈着することが確認されている。そこで、TTR アミロイドーシスにおける環境
因子の影響を解析するために、本実験では 4 種類の Tg マウスを作製し、これらを
異なる環境下において長期飼育し、アミロイド沈着の有無を検討した。
4 種類の Tg マウスとは、①メタロチオネイン(MT)プロモーターを接続し、さま
ざまな組織に hMet30 を発現する Tg(MT-Met30)マウス、
②hTTR 遺伝子の上流 0.6kb
領域を含む hMet30 遺伝子を導入した Tg(0.6h-Met30)マウス、③hTTR 遺伝子の
上流 6.0kb 領域を含む hMet30 遺伝子を導入した Tg(6.0h-Met30)マウス、そして
④hTTR 遺伝子の上流 7.2kb 領域に hMet30cDNA を接続した Tg(7.2h-Met30)マウス
である。これらの Tg マウスをコンベンショナル(CV)な環境下と特定な病原菌が
いない清浄な(SPF)環境下において長期飼育し、アミロイド沈着の比較を行なっ
た。以下に本研究で得られた知見を要約する。
1) Tg(0.6-Met30)マウス、Tg(6.0-Met30)マウス、Tg(MT-Met30)マウスを用いて、
7
24 ヶ月齢まで飼育してアミロイドの沈着を比較した。その結果、まず 6〜9 ヶ
月齢で CV 環境飼育の MT-Met30 マウスのみが 1/8 匹に沈着が認められた。12〜
18 ヶ月齢では CV 環境の Tg(0.6-Met30)マウスが 4/8 匹、Tg(6.0-Met30)マウス
が 7/11 匹、Tg(MT-Met30)マウスが 10/13 匹にアミロイド沈着が確認できた。
21〜24 ヶ月齢では、やはり CV 環境飼育マウスの Tg(0.6-Met30)マウスが 4/6
匹、Tg(6.0-Met30)マウスが 6/6 匹、Tg(MT-Met30)マウスが 7/7 匹において沈着
していた。一方、SPF 環境飼育マウスはいずれの系統においても一例も沈着が
認められなかった。しかし CV、SPF 環境で飼育したマウスの血中の Met30 量を
ウエスタンブロット法で比較すると、両者に違いはなかった。
アミロイド沈着はさまざまな組織に分布していたが、沈着率は MT-Met30>
6.0-Met30>0.6-Met30 の順であった。
また FAP 患者で見られるような自律神経、
末梢神経への沈着はこれまでの報告と同様、認められなかった。
2) Tg(7.2h-Met30)マウスを使用して、飼育環境とその期間を途中から変更する 4
つの群を設定し、アミロイド沈着を比較した。すなわち SPF24(24 ヶ月 SPF で
飼育)、
SPF14/CV10
(SPF で 14 ヶ月飼育した後、
CV で 10 ヶ月飼育)
、
SPF8/CV16(SPF
で 8 ヶ月飼育した後、CV で 16 ヶ月飼育)、CV24(CV で 24 ヶ月飼育)である。ア
ミロイド沈着匹数は、順に 0/17、1/14、6/19、8/8 であり、
SPF24 の群と SPF8/CV16、CV24 の群間では明らかな有意差が認められた。
本実験から CV 飼育期間が長くなるほどアミロイド沈着は相関し増大するとい
うことが明らかになった。
8
3) 飼育環境の指標の一つである温度による影響を見るため、Tg(0.6-Met30)マウ
ス、Tg(6.0-Met30)マウス、Tg(MT-Met30)マウスを用いて SPF 環境下で 30℃の
高温で長期飼育した場合のアミロイド沈着を観察した。6 ヶ月齢、12 ヶ月齢、
18 ヶ月齢、24 ヶ月齢で観察した結果、いずれの系統でも沈着は認められなか
った。
以上の結果より、トランスサイレチンアミロイドーシスモデルマウスにおける
アミロイドの沈着が、SPF という清浄な環境下で飼育された場合は、起こらない
こと、コンベンショナル(CV)な環境で飼育された場合のみ沈着すること、しか
もその度合いは CV 環境での飼育期間と密接に関連しているということが判明し
た。CV 環境において沈着を誘導する要因が何かということは未だ不明である。し
かし、環境因子が単一遺伝病においてさえ、その発症と進行に大きく影響すると
いう事が明らかになり、本研究はアミロイド沈着における環境要因の解明に向け
た重要なステップであると考えられる。
9
序論
1) TTR 遺伝子とその機能
トランスサイレチン(TTR)蛋白の分子量は 13761Dalton で同一の単量体が重合
して4量体を形成する(Kaneda et al.1974)。またこの4量体は甲状腺ホルモン
(T4)とレチノール結合蛋白(RBP)に親和性の高い、独立した2つの結合部位を
もち、血中および髄液中で甲状腺ホルモンやレチノール(ビタミン A)を運搬す
ることが知られている。ちなみにトランスサイレチンという名称はその事に由来
している。サイはサイロイド、レチンはレチノールを意味する。TTR 単量体の高
次構造は 2 層のβシートがあり、それぞれの 1 層は 4 本の逆方向のβ―strand か
らなる(図1B)。
ヒトとマウスの TTR 遺伝子はどちらも 18 番染色体上にあり、4 つのエクソンから
構成されている。マウス TTR は全長約 8909 塩基対であり、cDNA は 1053 個塩基、
アミノ酸は 127 個である(図 1A)。
遺伝子は、
主として肝臓で発現するが、
脳の脈絡叢および網膜でも発現している。
細胞の中で 4 量体を形成し、それが血中に分泌される。血清蛋白の一つである。
2) TTR が関与するアミロイドーシス
TTR が関与するアミロイドーシス(ATTR)は、変異した TTR が安定的かつ不溶
性の繊維を重合し(図 3)、末梢神経をはじめ全身の臓器や組織の細胞外にアミ
ロイドを沈着させる常染色体優性遺伝病である(Andrade,1952;Glenner1980a,b)。
これまでに約 110 種類の変異 TTR が確認されているが、そのうち 90 種以上はヒト
のアミロイドーシスに関与している(表 1)。また、変異の型では、TTR 蛋白の
10
30 番目のバリン(Val)がメチオニン(Met)に置換したタイプが最も一般的であ
り、この変異型は、日本(Tawara et al.,1983)、ポルトガル(Saraiva et al.,1983)、
スウェーデン(Westermark st al.,1985)それにアメリカ(Benson and Dwulet,1985)
では特に多く、他の置換タイプを圧倒している。
臨床的には、末梢神経や腸、腎臓、心臓など各種組織にアミロイドが沈着し、
機能障害を起こさせる事により、最終的に死に至る疾患である(Glenner,1980a,b)。
興味深い事には、日本、ポルトガル、スウェーデンにおいて、その患者の発症平
均年齢が大きく異なっている。さらには、本疾患は同一家族においてさえ、その
発症年齢がさまざまである。これらの知見は TTR 遺伝子において、その発症には、
遺伝子の変異以外に環境要因が重要である事を示唆している。
3) モデルマウスの作製
環境因子の解明には、モデルマウスを作製することが重要である。臓器形成分
野の研究室では、これまで異なるプロモーターをもつ 4 種類のヒト変異 TTR 遺伝
子を導入したトランスジェニック(Tg)マウスを作製してきた(図 2)。即ち、
第一にメタロチオネイン(MT)遺伝子プロモーターを接続し、さまざまな組織に
Met30 を発現する Tg(MT-hTTRMet30)マウス(Wakasugi et al.,1987)である。
第 二 に hTTR 遺 伝 子 の 上 流 0.6kb 領 域 を 含 む hMet30 遺 伝 子 を 導 入 し た
Tg(0.6-hTTRMet30)マウスである。上流 0.6kb は肝臓特異的に発現させるのに重要
な領域であるが、脈絡叢では発現するのに不十分である事は確認されていた
(Yamamura et al.,1987)
。
三番めには、
hTTR 遺伝子の上流 6.0kb 領域を含む hMet30
遺伝子を導入した Tg(6.0-hTTRMet30)マウスである。この場合、導入遺伝子は肝
11
臓だけでなく、脈絡叢においても発現する(Nagata et al.,1995)。最後に hTTR
遺伝子の上流 7.2kb 領域を含む hMet30cDNA を導入した Tg(7.2-TTRMet30)マウ
スである(Takaoka et al.,2004)。
4 種類全ての Tg マウスは種々の組織にアミロイド沈着を起こすことが証明されて
いる(Takaoka et al.,2004;Takaoka et al.,1997;Wakasugi et al.,1987;Yi et
al.,1991)。したがって、これらの Tg マウスを ATTR アミロイドーシスにおいて、
環境因子を解析するための最適な研究モデルとして使用した。
4)環境要因
環境要因はさらに内因性のものと外因性のものに分けられる。例えば Tg マウ
スの胃において、アミロイドの沈着は非腺部に認められるものの腺部には認めら
れない(Takaoka et al.,1997)。これはアミロイド沈着が限局した組織構造のよ
うな内因性の要因と関係していることを示唆している。また Tg マウスにおいて、
弱病原性の腸内フローラのような外因性の要因が、アミロイドの沈着に影響する
(Noguchi et al.,2002)。
本研究では、外因性の環境要因がアミロイド沈着に影響する事を解析した。最
近の研究では環境要因が DNA やクロマチンの修飾を通して遺伝子発現に影響を及
ぼすという報告もある(Jirtle and Skinner.,2007)。我々はアミロイドの沈着
が SPF という清浄な環境で飼育された場合は起こらないこと、コンベンショナル
(CV)な環境で飼育された場合のみ沈着し、その度合いは CV 環境での飼育期間と
関連している事を確認した。
12
A
948bp
3392bp
3516bp
EXON 1 EXON 2
95bp
EXON 3
131bp
136bp
EXON4
691bp
8.909kb
cDNA:1053,Amino acids:127
B
図 1. A: TTR 遺伝子の構造
B. TTR の単量体の立体構造 :2 層のβシート
(A-H)をもち、それぞれの 1 層は 4 本の逆方向のβ-strand からなる。
13
0.6-hMet30 gene
*
-ATG- mutant
-GTG- normal
6.0-hMet30 gene
*
MT-hMet30 gene(Metallothionein promotor)
*
7.2-hMet30 gene
Poly A
hMet30 cDNA
図 2.導入遺伝子の構造。0.6-hMet30 は、上流約 600bp を含む変異トランスサイレ
チン遺伝子である。6.0-hMet30 は、上流約 6kb を含む変異トランスサイレチン遺
伝子である。MT-hMet30 は、メタロチオネインプロモーターをつないだ変異トラ
ンスサイレチン遺伝子である。7.2-hMet30 は、hTTR 遺伝子の上流約 7.2kb を接続
した hMet30 cDNA を導入した遺伝子である。
14
表 1.種々の異型 TTR が沈着するアミロイドーシス
アミノ酸
置換部位
10
12
18
20
23
24
30
30
30
33
33
33
34
35
36
38
42
42
44
45
45
45
47
47
47
49
49
50
50
51
52
54
54
55
58
58
59
60
61
64
64
68
69
70
71
73
77
77
84
84
84
89
89
91
97
107
111
112
114
114
116
120
122
122
122
正常
Cys
Leu
Asp
Val
Ser
Pro
Val
Val
Val
Phe
Phe
Phe
Arg
Lys
Ala
Asp
Glu
Glu
Phe
Ala
Ala
Ala
Gly
Gly
Gly
Thr
Thr
Ser
Ser
Glu
Ser
Glu
Glu
Leu
Leu
Leu
Thr
Thr
Glu
Phe
Phe
Ile
Thy
Lys
Val
Ile
Ser
Ser
Ile
Ile
Ile
Glu
Glu
Ala
Ala
Ile
Leu
Ser
Tyr
Tyr
Tyr
Ala
Val
Val
Val
異型
Arg
Pro
Glu
Ile
Asn
Ser
Met
Leu
Ala
Ile
Leu
Val
Thr
Asn
Pro
Ala
Gly
Asp
Ser
Thr
Asp
Ser
Arg
Ala
Val
Ala
Ile
Arg
Ile
Gly
Pro
Gly
Lys
Pro
His
Arg
Lys
Ala
Lys
Leu
Ser
Leu
His
Asn
Ala
Val
Tyr
Phe
Ser
Asn
Thr
Gln
Lys
Ser
Gly
Val
Met
Ile
Cys
His
Ser
Ser
Ala
欠失
Ile
症状、沈着組織等
末梢神経障害(PN)、自律神経障害(AN)、眼、心、[遅発型]
PN、心、肝、脳軟膜
PN
心、手根管症候群(CTS)
PN、心、眼
PN、心、CTS, [遅発型]
PN、AN、眼、第Ⅰ型 FAP
PN、AN
PN、AN、心
PN、眼
PN、心
PN
PN、心
PN、AN、心
PN、眼
心
PN、AN、心
心
PN、AN、心
AN、心
PN、心
心
PN、AN
PN、心
CTS、PN、AN、心
PN、AN、眼、CTS、心
PN、心
PN、AN
PN、AN、心、眼
心
PN、AN、心、腎
PN、AN、眼
PN、AN、心、眼、[劇症型]
PN、AN、心、眼、[劇症型]
CTS、PN、心
CTS、AN、眼
PN、AN、心
PN、AN、CTS、心、[遅発型]
PN
CTS、PN、心
PN、眼、LM
心
眼
CTS、PN、眼
CTS、PN、AN
PN、AN
PN、AN、CTS、心、[遅発型]
PN
CTS、PN、AN、心、第Ⅱ型 FAP
眼、心、CTS
PN、心
PN、心
PN、心
PN、心、CTS
PN、心、CTS, [遅発型]
PN、CTS, 心、[遅発型]
心
PN、心
PN、AN、眼
CTS
PN
心
PN、心、眼
PN、心
老人性心アミロイドーシス
15
4量体
可溶性
変性
単量体
重合体
単量体
解離
修飾
アミロイド
重合
SAP付着
線維
不溶化
3次元構造が
ほぐれた単量体
図3. アミロイド繊維の形成過程
SAP (serum amyloid P component):血清アミロイド P 成分
変異 TTR は不安定なので、4 量体が単量体に解離しやすい。次に単量体の 3 次元
構造がほぐれて可溶性の蛋白質重合体となり、不溶性のアミロイド繊維が形成さ
れる。最後にアミロイドタンパクに SAP が付着する事により、アミロイドが分解
されにくくなると考えられている。
16
材料と実験方法
1)トランスジェニックマウス
実験には 4 種類の Tg マウス、すなわち MT-Met30 ライン、0.6-Met30 ライン、
6.0-Met30 ラインと 7.2-Met30 ラインを使用した(Nagata et al.,1995;Takaoka et
al.,2004;Wakasugi et al.,1987;Yamamura et al.,1987)
。
表 2 にはそれら 4 つのラインの特徴を示している。MT-Met30 マウスは BDF1 の雌
雄の交配により得られた受精卵を用いる事によって独自に作出した。
系統樹立後、
血中の Met30 の発現が最も高い No.5 のラインを選抜した。このマウスは 10 代以
上、C57BL/6 と戻し交配を行なった。その他の系統は C57BL/6 の受精卵を用いた。
同様にそれぞれ 0.6-Met30、6.0-Met30、7.2-Met30 系統の、発現の高い No.61、No.15、
No.2 ラインを使用した。過去の文献では、6 から 9 ヶ月、12 から 18 ヶ月、21 か
ら 24 ヶ月ではアミロイドの沈着は同等であったことが示されている(Yi et
al.1991;Takaoka et al.1997;Taakaoka et al.2004)
。それゆえ本実験では、6 か
ら 9 ヶ月、12 から 18 ヶ月、21 から 24 ヶ月齢の3群に分け、アミロイドの沈着を
解析することにした。これらのマウスに関する実験は、ヘルシンキ宣言にのっと
り、熊本大学の動物実験倫理委員会の承認を得た上で実施した。
2)飼育条件
トランスジェニックマウスはコンベンショナル(CV)環境を井上実験動物セン
ター(下益城郡中央町)の飼育室、清浄(SPF)環境を熊本大学動物資源開発研究
センター(熊本市)の SPF エリアおよび武田薬品工業の研究開発部実験動物室を
用いて飼育した。これらのマウス飼育室は、昼夜 12 時間の照明サイクルで管理さ
17
れており、室温は 22±2℃であった。飼育温度の影響を見るための実験は、武田
薬品工業の研究開発部実験動物室において、SPF 状態で 30℃の環境を作り、その
中でマウスを飼育した。給餌は一般的な市販のマウス用固形飼料を与え、水は自
由給水とした。
3)Tg マウスの同定
Tg マウスは Polymerase chain reaction(PCR)とウエスタンブロット法により、
遺伝子型を同定した(図 4)
。マウスの尾から DNA を抽出し、2 組の hTTR プライマ
ーセットを用いて PCR を行なった。ウエスタンブロット法は引用論文にしたがっ
て実施した(Nagata et al.,1995)
。血液はエーテル麻酔下で、眼底動脈から採取
した。マウスの血清は 17%SDS ポリアクリルアミドゲルに電気泳動し、トランス
ファーメンブレン(Millipore,USA)に転写した。メンブレンは抗 hTTR ウサギ抗
体(MBL,JAPAN)と反応させた後、抗ウサギ IgG ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗体と
反応させた。TTR 蛋白は、ケミルミネッセンス検出システム(ECL,Amersham,USA)
を用いてプロトコールにしたがって検出した。
4) 組織化学的解析
全ての Tg マウスは頸椎脱臼により安楽死させた後、心臓、腎臓、脾臓、肝臓、
肺、膵臓、胃、小腸、大腸、膀胱、甲状腺、リンパ節、骨髄、座骨神経、自律神
経、脳を採取し、10%中性ホルマリン液で固定し、パラフィン包埋
を行なった(Yi et al.,1991)
。その後、パラフィン標本は HE 染色し、観察した。
アミロイドの組織化学的観察のためにパラフィン切片は文献にしたがって過マン
ガン酸カリウム(KMnO4)で固定した後、コンゴレッドで染色を行なった(Yi et
18
al.,1991)
。コンゴレッド染色を行ない、偏光顕微鏡下で観察するとアミロイド沈
着が存在したところが、黄緑色の複屈折光を発するため検出できる。また免疫組
織学的解析のためには、パラフィン切片を間接免疫ペルオキシダーゼ法で染色し
た。その場合の抗体は、抗ヒトプレアルブミン(Beringwerke,Marburg,Germany)
と抗マウス SAP(BehringDiagnostics,LaJolla,USA)を用いた。
5) ウエスタンブロット法
血中 hTTR の検出に、ウエスタンブロット法を用いた。まず、0.9%NaCl で 1:
50 に希釈したマウス血清 6μℓを 12%ポリアクリルアミドゲルの各レーンにアプ
ライし、電気泳動を行なった。次に immobilon polyvinylidene difluode filter
(Millipore,Billerica,MA,USA)に転写した。
一次抗体はウサギ抗ヒト TTR 抗体を指示通り 1:1000 に希釈して使用した
(MBL,Nagoya,Japan)
。検出用抗体は HRP を標識した抗ウサギ IgG 抗体を使用した
(Amersham Japan,Tokyo)
。
6)統計学的解析
表 5 と 表 4 に 示 す デ ー タ を 比 較 す る の は 、 StatView software ( SAS
Institute,Cary,NC)を用いた。表 4 においては、グループ間の統計的差は
Kruskal-Wallis test と Mann-Whitney U test を用いて検討した。
(P<0.05)で有
意差ありと判断した。
表 5 においては、グループ間の統計的意味は Fisher’s exact test を用いて検
討した。
(P<0.05)で有意差ありと判断した。
19
結果
1)アミロイド沈着は SPF 環境下では起こらなかった
外因性の環境要因がアミロイド沈着に影響するかどうかをまず、MT-Met30、
0.6-Met30、6.0-Met30 の 3 つの Tg マウス系統を用いて検討した。その理由はこ
れら 3 系統のマウスは cDNA ではなく、Met30 のヒトゲノム DNA を導入した Tg マ
ウスであるからである。つまり、ゲノム DNA と cDNA の構造上の違いから来る影響
をなるべく無くし、プロモーターの違いが影響する環境要因だけを観察すること
ができるからである。3 系統の Tg マウスは CV と SPF 環境下で 24 ヶ月齢まで飼育
し、アミロイドの沈着を比較した。その結果、まず CV 環境下の MT-Met30 マウス
が 6—9 ヶ月齢で 1 匹沈着が認められた。次に 12—18 ヶ月齢時点で、0.6-Met30 ラ
インの 4/8 匹、6.0- Met30 ラインの 7/11 匹、MT-Met30 ラインの 10/13 匹にアミ
ロイド沈着が確認された。最後の 21—24 ヶ月齢の時点では、0.6-Met30 ラインの
4/6 匹、6.0- Met30 ラインの 6/6 匹、MT-Met30 ラインの 7/7 匹に沈着が起こった。
一方、SPF 環境飼育群では、どのステージにおいてもアミロイドは沈着しなかっ
た。
(図 5 と表 2)
表 4 には、CV 環境下で飼育したマウスのアミロイド沈着について、その比率、部
位、相対的量を示しており、0.6-Met30、6.0-Met30、MT-Met30 間で、数種の組織
においては、アミロイド沈着の割合に統計上の有意差があった。しかし、沈着の
パ タ ー ン は 過 去 の 文 献 と 同 様 で あ っ た ( Kohno et al.,1997;Takaoka et
al.,1997;Yi et al.,1991)
。次に CV と SPF 環境が、各 Tg マウスにおいて、血中
のヒト TTR 値に影響しているかどうかをウエスタンブロット法により、検討した。
20
CV と SPF 環境飼育の各 Tg マウスの血中の Met30 値は、
これまでの報告通り
(Tagoe
et al.,2003)
、同様であった(図 6)
。
これらの結果は、SPF 環境で飼育することが、マウス血中の Met30 のレベルに関
係なく、アミロイド沈着を抑制することを示唆している。
2)CV 環境とアミロイド沈着の関係
CV 環境下でのアミロイド沈着について、我々はマウスを CV 環境で飼育する期
間がアミロイド沈着の程度に関係するかどうかという検討を試みた。本実験には
7.2-hMet30 ラインを使用した。このラインはゲノム Met30 遺伝子の代わりにヒト
Met30 の cDNA が導入されているが、他の系統と同じようなアミロイド沈着
(Takaoka et al.,1997;Yi et al.,1991)が起こる事が確認されている(Takaoka
et al.,2004)
。この Tg マウスは4つのグループに分けられた。すなわち第一に
SPF24 というグループであるが、これは SPF 環境下に 24 ヶ月飼育された。第二番
目は、SPF14/CV10 というグループで、これは SPF に最初の 14 ヶ月、その後 CV 環
境で 10 ヶ月飼育した群である。第三番目のグループは、SPF8/CV16 であるが、こ
れは出生後 SPF 環境に 8 ヶ月、
その後 CV 環境で 16 ヶ月飼育したグループである。
第四グループは、CV24 でこれは CV 環境に 24 ヶ月飼育した。アミロイド沈着は、
SPF24 で 17 匹中 0 匹、SPF14/CV10 で 14 匹中 1 匹、SPF8/CV16 グループで 19 匹中
6 匹、CV24 グループで 8 匹中 8 匹が確認された。SPF24 のグループと SPF8/CV16、
CV24 のグループ間ではアミロイド沈着において、統計学上、明らかな有意差が認
められた(表 5)
。またアミロイド沈着は、小腸と腎臓において、最も際立ってお
り、心臓、甲状腺、胃の上部が次に多かった。アミロイド沈着のこれらの分布傾
21
向 は 過 去 の 論 文 と 同 様 な 結 果 で あ っ た ( Takaoka et al.,2004; Takaoka et
al.,1997;Yi et al.,1991)
。またこれらの結果は、アミロイド沈着が CV 環境で飼
育された期間と大いに関連している事を明確に示唆している。
3)30℃飼育下でアミロイド沈着は起こらなかった
SPF と CV 環境では例えば腸内フローラ、温度、湿度など多くの環境の違いが存在
する。我々は、高温下では血管が拡張するため、4 量体が細胞外に漏出し、それ
が結果的にアミロイド沈着を誘導するのではないかということを考えた。加えて
飼育室の温度のコントロールは比較的容易である。
この可能性を検討するために、
MT-Met30、0.6-Met-30、6.0-Met-30 のラインのマウスを SPF 環境下で 2 年間飼育
した。各々の系統から 4 匹ずつを 6 ヶ月毎に病理解析したが、アミロイド沈着は
どの Tg マウスにおいても確認されなかった。
22
Tg
Tg
Wt
Tg
Tg
Wt
図4.PCRを用いた genotyping
2 組のプライマーを作製して、274bp と 231bp のバンドを検出した。
23
表 2.
各トランスジェニックマウス系統の特徴
Tg ライン
プロモーター
コード領域
0.6-hMet30
6.0-hMet30
MT-hMet30
7.2-hMet30
hTTR の 0.6kb 上流
hTTR の 6.0kb 上流
マウスメタロチオネインⅠ
hTTR の 7.2kb 上流
ゲノム DNA V30M
ゲノム DNA V30M
ゲノム DNA V30M
cDNA V30M
24
血中濃度
(mg/dl)
1.5-3.0
13.7-14.5
1.0-4.8
4.8-5.7
表 3.
アミロイド沈着における SPF 環境の効果
Tg ライン
CV
SPF
0.6-hMet30
6.0-hMet30
MT-hMet30
0.6-hMet30
6.0-hMet30
MT-hMet30
6-9
0/2
0/12
1/8
0/8
0/8
0/9
25
月齢
12-18
4/8
7/11
10/13
0/12
0/8
0/12
21-24
4/6
6/6
7/7
0/8
0/8
0/8
図 5. 24 ヶ月齢の各 Tg マウスの小腸と腎臓。コンゴレッド染色をし、偏光顕微
鏡下で観察するとアミロイド沈着部位が緑色に蛍光する。CV 環境で飼育されたマ
ウスには沈着が認められたが、SPF 環境で飼育されたマウスには沈着していなか
った。
バー;100μm
26
図 6. 抗ヒト TTR 抗体を使用したウエスタンブロット。血中 Met30 値は SPF 飼育
下でも全ての系統において変わらなかった。
27
表4
21〜24 ヶ月齢の各 Tg マウスにおける TTR アミロイド沈着の組織分布
0.6-Met30
アミロイド沈着マウス/検査マウス数
マウス匹数
6
6.0-Met30
アミロイド沈着マウス/検査マウス数
6
MT-Met30
アミロイド沈着マウス/検査マウス数
7
脳
0/6(-)
0/6(-)
0/7(-)
座骨神経
0/6(-)
0/6(-)
0/7(-)
網膜
0/6(-)
0/6(-)
0/7(-)
顎下腺
0/6(-)
2/6(-,-,-,-,±, ±)
4/7(-,-,±, ±,+,+,+)*
心臓
2/6(-,-,-,-,+,+)
5/6(-,+,+,+,+,+++)
7/7(++,++,++,++,+++,+++,+++)**
肺
0/6(-)
3/6(-,-,-,±, ±,+)
6/7(-,±, ±, ±,+,+,+)*
上部消化管
3/6(-,-,-,+,+,++)
5/6(-,+,++,++,++,++)
7/7(++,++,++,+++,+++,+++,+++)**
下部消化管
3/6(-,-,-,+,+,++)
6/6(+,+++,+++,+++,+++,+++)
7/7(+++,+++,+++,+++,+++,+++,+++)**,♯
肛門
1/6(-,-,-,-,-,+)
3/6(-,-,-,+,++,++)
7/7(++,++,++,++,+++,+++,+++)**,♯
肝臓
0/6(-)
6/6(±, ±,+,+,++,+++)
7/7(±, ±, ±, ±, ±, ±, ±)**,♯
脾臓
0/6(-)
4/6(-,-,++,++,+++,+++)
3/7(-,-,-,-,±, ±,+)
膵臓
0/6(-)
2/6(-,-,-,-,±, ±)
5/7(-,-,±, ±, ±, ±, ±)*
腎臓
1/6(-,-,-,-,-,+)
5/6(-,++,++,+++,+++,+++)
7/7(++,+++,+++,+++,+++,+++,+++)**
精巣
0/6(-)
2/6(-,-,-,-,±, ±)
4/7(-,-,-,±, ±, ±,++)
膀胱
0/6(-)
0/6(-)
3/7(-,-,-,-,+,+,+)
リンパ節
1/6(-,-,-,-,-,+)
0/6(-)
2/7(-,-,-,-,-,±,+)
皮膚
2/6(-,-,-,-,+,+)
3/6(-,-,-,+,+,+)
7/7(+,+,+,+,++,++,++)*
骨格筋
0/6(-)
0/6(-)
5/7(-,-,±, ±, ±, ±,+)*,♯
-,アミロイド沈着無し;±,沈着は血管壁限定;+,沈着は血管壁とその周辺;++,中等度の沈着が間質にあり;+++,顕著な沈着が実質と間質にあり
*P<0.05 対 0.6-Met30. **P<0.01 対 0.6-Met30. ♯P<0.05 対 6.0-Me
28
表 5.
アミロイド沈着にける CV 環境の効果
実験環境
0
2
4
6
飼育期間(月)
10 12 14 16
8
18
20
22
24
アミロイドの
沈着匹数
SPF24
0/17
SPF14/CV10
1/14
SPF8/CV16
6/19*
8/8** ,♯,+
CV24
SPF
CV
*P<0.05 SPF8/CV16 対 SPF24 グループ;**P<0.0001 CV24 対 SPF24 グループ;♯
P<0.0001CV24 対 SPF14/CV10 グループ;+P<0.01 CV24 対 SPF8/CV16 グループ
29
考察
我々は、Tg マウスにおいて、SPF 環境がアミロイド沈着を完全に抑制し、環境
要因としての CV 下での飼育がアミロイド沈着を促進することを明らかにした。
多くのヒトの疾患において、遺伝的要因と環境要因が関連している事が知られ
ている。一般的な疾患の例として、癌や糖尿病は、遺伝子と食生活など環境要因
の複合的な要因の結果、発症するとされている。さらに環境要因は単一遺伝子病
の発症にさえ関与しており、
例えばハンチントン病では発症する年齢の違いには、
環境の影響が 63%を占めていると言われている(Wexler et al.,2004)。しかし
環境要因には、ストレス、肉体的、精神的虐待、食事、毒や病原菌、放射線や化
学物質への曝露、気候、その他などを含んでおり、一口に患者への環境要因が何
であるのか、決定するのは困難である。したがって、これまでもヒト疾患におけ
る環境要因の解析にはモデル動物が有効なツールとして使用されてきた。
Matsuda ら(Matsuda et al.,1997)は、近交系の NC/Nga というマウスを CV 環
境で飼育すると、IgE の過剰産生を伴うヒトアトピー性皮膚炎に類似した皮膚の
病変を自然発症的に起こすが、SPF 環境では起こらないことを示している。この
皮膚の病変は肥満細胞と IgE 合成に必要な IL-4 を含む CD4+の T 細胞が増加を示
しており、これはすなわち環境要因が IgE の過剰生産の引き金になっている事を
示唆している。Kuhn ら(Kuhn et al.,1993)は、IL-10 欠損マウスにおけるヒト
腸炎(IBD)に似た慢性腸炎は、SPF 環境下では比較的軽症でその発症も遅れるこ
とを示している。その後、Kulberg らは(Kulberg et al.,1998)
、Helicobacter
hepaticus の感染が、IL-12 とガンマインターフェロン依存というメカニズムを通
30
じて、SPF 下での IL-10 欠損マウスの大腸炎への引き金になることを明らかにし
た。Yoshitomi ら(Yoshitomi et al.,2005)は、SKG マウスが SPF 下では関節炎
が発症しないこと、しかしながらおそらく IL-4 産生(Kobayashi et al.,2006)
を通して、SPF 環境下の SKG マウスにおいては真菌類のベータグルカンが慢性関
節炎の引き金になることを示した。これらのことから自己免疫疾患のモデル動物
が CV 環境下で飼育されるとその反応として、腸内フローラが炎症を誘発したり、
自己免疫の標的になったりするのかもしれない。
本実験では、アミロイド沈着は SPF 環境では全く観察されないこと、また沈着
の度合いは CV 環境下に飼育された期間に依存している事を示した。
Shino らは、SAM(老化促進マウス)におけるアポリポプロテイン A-Ⅱの沈着に特徴
づけられる老人性アミロイドーシスは、SPF 環境で飼育された場合、軽症である
(Shino et al.,1987)
。しかしながら SAM マウスにおいて免疫活性が低下するこ
とは老人性アミロイドーシスの発症に直接には影響しなかったし、逆にアミロイ
ドーシスが免疫活性に影響する事も無かった(Hosono et al.,1997)
。我々は以前
LPS 処置がアミロイドの沈着の始まり、進行、分布には影響しないことを明らか
にした(Murakami et al.,1992)
。また CV 環境の腸内フローラがアミロイド沈着
を容易にすることを確認したが、それは消化管に限定していた。これらの結果は
腸内細菌を仲介する免疫反応は ATTR には関係していないことを示唆している。
Tagoe らは、過去に TTR アミロイドの沈着の頻度、沈着の範囲や性質は、CV と
SPF 環境下では明らかな違いは無いと報告している(Tagoe et al.,2003)。彼ら
の実験では、
ヒトの野生型の TTR 遺伝子を導入した Tg マウスを 12 ヶ月齢まで SPF
31
環境に飼育し、その後、半数のマウスを CV 飼育室に移動している。両グループの
24 ヶ月齢における TTR と AA アミロイドの発生率は同様ということであった。
しかし、これは TTR アミロイド沈着が SPF 飼育下では Tg マウスのいかなる組織に
も認められなかったという我々のデータとは一致していない。この理由として、
我々の SPF と CV の環境は Tagoe らの環境と違うことが考えられる。我々の CV 環
境では AA アミロイドはよく観察されたが、SPF では見られなかった。さらにアミ
ロイド沈着の程度は CV 環境で飼育した期間に依存していた。すなわちこれは我々
の実験では CV 環境が SPF 環境と全く異なっている事を示唆している。一方、Tagoe
らのマウス飼育室は CV と SPF 環境がそれほど変わらない事を意味している。また
別の可能性は、Tg マウス作製において使用した遺伝子の違いである。我々が変異
した Met30 遺伝子を用いたのに対し、Tagoe らは正常な Val30 遺伝子を使ってい
る。
Met30 から作られる 4 量体はより不安定という報告もあるが
(Ferrao-Gonzales
et ak.,2003;Nettleton et al.,1998;Niraura et al.,2002;Quintas et al.,1997)
、
我々の実験では CV 環境下で 4 量体の解離がさらに起こりやすかったのかもしれな
い。異なる遺伝子のコンストラクトを導入した 3 種類の Tg マウスラインにおいて
アミロイド沈着が観察されなかったのは、それが Met-30 遺伝子の発現調節が変え
られたことによるものではない事を示している。実際、血中の Met-30 値は SPF
環境でも CV 環境でも同様であった。
CV と SPF 環境の違いは未だに明らかになっていない。室温は環境要因の一つで
あるものの、少なくとも SPF 環境でマウスを 30℃で飼育する事がアミロイド沈着
を誘導することはなかった。
32
以前に我々は、Cys10 のチオール残基がアミロイド形成に関係していることを
確認している(Takaoka et al.,2004)
。10 番目のシステインをセリンに置き換え
た時、30 番目にはメチオニンが存在するにも関わらず、Tg マウスにおいてアミロ
イド沈着は確認されなかった。このようにジスルフィド形成がアミロイドジェネ
シスに関与しているかもしれないし、逆に抗酸化物質がアミロイド沈着を抑制し
ているのかもしれない。これは強烈な酸化ストレスが ATTR 患者に確認されるとい
うデータと一致している(Ando et al.,1997)
。さらには変異型細胞外スーパーオ
キシドジスムターゼ(SOD)遺伝子を持つ ATTR 患者の場合には、SOD が野生型の
ATTR 患者より、アミロイド沈着がかなり重症である(Sakashita et al.,1998)
。
この酸化によるダメージはアルツハイマー病(AD)のような他のアミロイドーシ
スにおいては重要な役割を果たすようである。ある特定の血漿蛋白の酸化作用が
増えることが AD 患者に起こり、非 AD 患者には起こらない事が報告されている
(Conrad et al.,2000)
。まとめると、アミロイド沈着は、CV 条件下で酸化スト
レスに遭遇した時に促進されるようである。
より一般的で可能な治療法を開発するためには、アミロイドジェネシスが関係
するような環境因子を発見する事が重要である。4 量体の単量体への解離はアミ
ロイドジェネシスにおいて非常に重要な段階であり、TTR4 量体を安定化させる分
子を発見する事に多くの努力が費やされた。これまでに小さな分子や Cr3+が TTR4
量体に結合する事によって 4 量体の構造の安定性を維持する事が示されてきた
( Almeida
et
al.,2004;Ando,2005;Jonson
et
al.,2005a;Jonson
et
al.,2005b;Nettleton et al.,1998;Sato et al.,2006)
。さらに ATTR Y78P を用い
33
て Met30 遺伝子を導入した Tg マウスへ免疫すると、アミロイド沈着を抑制した
(Terazaki et al.,2006)
。
肝臓移植(Stangou and Hawkins,2004)は現在も唯一の信頼性のある治療法で
ある。しかし一方で、環境因子の影響や効果を明らかにする事は、手術に頼らな
い新しい治療法を確立する事につながるものと思われる。本研究はアミロイド沈
着における環境要因の解明に向けた重要なステップであると考えられる。
34
謝辞
熊本大学発生医学研究センター器官形成部門・臓器形成分野において、熊本大
学薬学教育部、臓器形成学、山村研一教授のご指導の下、本研究を行いました。
終始ご指導ご鞭撻を賜わりましたことを深く感謝いたします。
臓器形成学、李正花博士には日々の実験手技から論文の指導まで幅広いご指導
を頂きました。深く感謝いたします。高岡裕博士、大田美香博士にはマウスの飼
育管理についてご指導を頂き、深く感謝の意を表します。
また臓器形成学教室の皆様には有形無形の多くのご協力とご支援を頂きました。
心から感謝申し上げます。
35
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