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天然繊維素材の化学的応用技術開発 −フィブロインを用いたコーティング材

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天然繊維素材の化学的応用技術開発 −フィブロインを用いたコーティング材
天然繊維素材の化学的応用技術開発
−フ ィ ブ ロ イ ン を 用 い た コ ー テ ィ ン グ 材 −
(シルクチーム)
市毛 優二* 冨長
1.はじめに
絹 糸 は ,従 来 の繊 維 としての利 用 (衣 料 用 ,和 楽 器
の弦 ,釣 り糸 ,手 術 用 縫 合 糸 等 )から,タンパ ク質 利 用
へ と用 途 の広 がりを見 せ てお り,その独 特 の構 造 や 物
性 を生 かして酸 素 固 定 化 膜 ,細 胞 培 養 床 などのバイオ
素 材 として,また化 粧 品 や 食 品 へ の研 究 が進 められ て
い る1)。昨 年 度 「絹 タンパ クの 化 学 的 応 用 に 関 す る研
究 」にお いて,絹 フィブロイン繊 維 を溶 解 し,フィル ムを
作 成 した 2)。今 年 度 も引 き続 きタンパ ク質 の用 途 として
絹 フィブロインの溶 液 化 ・フィル ム化 方 法 の調 査 ,実 験
を行 った。
絹糸
↓
(精練)→セリシン水溶液
↓
(溶解)
↓
フィブロイン溶解液
↓
(透析)
↓
(ろ過)
↓
フィブロイン水溶液
図 2 フィブロイン水 溶 液 の作 成 工 程
図 1 生 糸 断 面 の概 略 図
2.実 験
2.1 絹 フィブロイン繊 維 の溶 液 化
フィブロインを溶 かす 水 溶 液 としては銅 エチレンジア
ミン,臭 化 リチ ウム,塩 化 カル シウム等 が知 られ ている
3)。前 年 度 に お い ては 臭 化 リチ ウムを用 い て行 ってお
り,これ は 高 価 な上 に 両 イオ ンとも人 体 に は 有 害 であ
る。しかし低 温 で絹 フィブロインを溶 解 出 来 るので分 子
鎖 の切 断 が少 ない特 徴 があり理 化 学 的 研 究 をす るのに
適 している4)。今 回 は 食 品 に関 連 す る用 途 へ の可 能 性
を考 慮 し,食 品 添 加 物 でもある塩 化 カル シウムを用 い
た。フィブロイン水 溶 液 は図 2の工 程 で作 成 した。
1)生 糸 を炭 酸 ナ トリウムを用 いて精 練 し,セリシン分 を
除 去 す る。
2)塩 化 カルシウム水 溶 液 (濃 度 40% )を作 成 す る。
3)塩 化 カル シウム水 溶 液 に 1)で 精 練 した絹 糸 を入
れ ,沸 騰 させ る。す ると絹 糸 は 容 易 に 溶 解 す る(図
3)。今 回 溶 解 した絹 糸 は塩 化 カルシウム水 溶 液 に対
して5w t% としたが,20% 程 度 まで溶 解 す る4)。
4)溶 解 したフィブロイン水 溶 液 を透 析 用 セル ロー スチ
ュー ブ(透 析 膜 U C 36-32-100,三 光 純 薬 (株 ))に入
れ ,ステンレス製 バ ットにて流 水 ・数 度 の水 の交 換 で
透 析 を行 い中 性 塩 の除 去 を試 み た(図 4)。
5)透 析 後 ,ろ過 して不 純 物 を取 り除 き,フィブロイン水
溶 液 を得 た(図 5)。
*繊 維 工 業 指 導 所
素材開発部門
博*
図 3 絹 糸 が完 全 に溶 解 した状 態
図 4 透 析 膜 に入 れた状 態
2.4 木 材 へ のコー ティング
作 成 したフィル ムの用 途 として,木 材 へ のコー ティン
グを検 討 した。木 材 にお ける木 口 面 は水 分 の吸 収 が速
く,一 回 の 塗 布 では 水 溶 液 濃 度 に もよるが ,しみ 込 ん
でしまいコー ティングしにくい。しかし乾 燥 後 2回 ,3回
塗 布 す ることに よりコー ティングが作 成 出 来 た(図 7)。
図 5 ろ過 後 のフィブロイン水 溶 液
透 析 では 透 析 膜 内 へ の水 の流 入 によりフィブロイン
濃 度 が希 釈 され ,高 濃 度 のフィブロイン溶 液 は 得 られ
にくい。濃 度 を上 げるには,水 分 を蒸 発 させ る必 要 があ
り,透 析 膜 を吊 るし送 風 す る方 法 が ある。透 析 終 了 の
判 断 として,硝 酸 銀 での塩 化 銀 の有 無 から判 断 す る方
法 がある4)。
2.2 フィルムの作 成
上 記 の方 法 によりフィブロイン水 溶 液 を作 成 し,それ
を用 いてフィル ム化 を試 み た。フィブロイン水 溶 液 300
ml
をステンレス製 のバット(400m m × 550m m )に入 れ,5
0℃ の熱 風 乾 燥 機 にて16時 間 加 熱 ・乾 燥 させ たところ,
透 明 なフィル ムが 成 形 出 来 た(図 6)。フィル ムは 凹 凸
があり,固 くや や もろい。
図 7 木 材 へ のフィブロイン塗 布
水 分 を吸 収 しや す い 木 材 に お い てもフィブロインコ
ー ティングす ることが 可 能 であり,この 用 途 としては 木
容 器 内 面 へ コー ティングを施 す ことにより木 口 面 からの
水 分 の吸 収 を防 ぐといったことが考 えられる。
図 8 木 容 器 内 面 へ のフィブロインコー ティング
図 6 作 成 したフィブロインフィルム
2.3 フィルムの溶 出 試 験
作 成 したフィル ムを用 いて水 に対 す る溶 解 性 をみ る
ため不 溶 化 させ たものと未 処 理 のもので溶 出 試 験 を行
った。不 溶 化 の方 法 は80% エタノー ル水 溶 液 にて10分
間 処 理 す る方 法 とした。実 験 の 結 果 ,未 処 理 のフィル
ムは水 に入 れ るとす ぐに溶 出 を始 めるが,エタノー ル処
理 したフィル ムは約 20℃ の水 に対 して24時 間 経 過 後 も
ほとんど溶 出 しないことを確 認 した。
3.まとめ
絹 フィブロイン繊 維 は 40% 濃 度 の塩 化 カル シウム水
溶 液 に より溶 解 す ることが でき,それ を乾 燥 させ ること
でフィル ムを作 成 す ることが出 来 る。用 途 として木 材 へ
のコー ティングも可 能 である。絹 フィブロインは溶 液 化 ・
フィルム化 す ることにより,今 まで用 いられていた繊 維 と
しての用 途 以 外 に,タンパク質 としての新 しい用 途 へ の
可 能 性 を持 つ 素 材 である。
(参考文献)
1)朝 倉 ,繊 維 学 会 誌 V ol45N O .6 P 247
2)磯 ,茨 城 県 工 業 技 術 センター 研 究 報 告 第 32号 P 32
3)小 西 ,続 絹 糸 の構 造 P 260
4)平 林 ,繊 維 学 会 誌 V ol45N O .6 P 263
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