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南アとロシアに偏るプラチナ供給

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南アとロシアに偏るプラチナ供給
(無断転用禁止)
BRICs経済研究所レポート
南アとロシアに偏るプラチナ供給
∼需要が 拡大するなかにあって供給は不安定∼
2006年 8 月 21日 ( 月 )
B R I Cs 経 済 研 究所 代 表 門 倉 貴 史
E-mail: [email protected]
∼要
旨∼
■最近、プ ラチ ナ(白金) の国際価格が 騰勢を強め ている。価格上 昇の背景に は、需要側の要因 と
して、①中 国で 宝飾用のプ ラチナ消費が 増えている こと②自動 車に 使用する燃 料電池の需要が世 界
で急増して いる こと③ハードディスクの 記憶容量を 増やすため の磁 気記録材料 をはじめプラチナ を
利用 する 商品 分 野が 広が って き た こ とな どが あ る 。
■一方、供 給側 の要因としては、プラチ ナの主要供 給国である 南ア フリカとロ シアで供給不安が 広
が っ て い る こ と が あ る 。 プ ラ チ ナ は 、 南 ア フ リ カ と ロ シ ア で 全 供 給 の 90.5% が ま か な わ れ て お り 、
生 産 が 特 定 地 域 に 集 中 し て い る 。 ロ シ ア で は 、 1823 年 に ウ ラ ル 地 方 で 白 金 の 鉱 山 が 見 つ か っ た が 、
1920 年 代 ま で に 大 量 の 採 掘 を 行 っ た た め 、 現 在 で は 埋 蔵 量 が 少 な く な っ て き て い る 。 ロ シ ア の プ ラ
チ ナ 供 給 は 不 安 定 で 、 ロ シ ア が 金 融 危 機 に 直 面 し た 98年 に は 、 プ ラ チ ナ や パ ラ ジ ウ ム の 輸 出 が 停 止
される事態 とな り、プラチナの国際価格 上昇の主要 因となった 。近 年、ロシア のプラチナ生産は ほ
ぼ 横 ば い で 推 移 し て お り 、 2005年 は 前 年 比 + 5.3% の 27.7ト ン と な っ た 。 な お 、 ロ シ ア で 産 出 す る プ
ラチ ナの 73.9% はノ リリ スク ・ ニ ッ ケル が産 出 し て い る。
■ 南 ア フ リ カは 、 1925年 に ト ラ ン ズ ・ バ ー ル 地 方 で 巨 大 な プ ラ チ ナ 鉱 脈 が 発 見 さ れ て 以 来 、 ロ シ ア
を抜いて世 界最 大のプラチナ供給国となった。南ア にはアング ロ・ プラチナな どの有力鉱山が多 数
存在す る。鉱山各社 は、プラチナ の国際価格上 昇を受けて、これま でに大幅な増 産を実施して お
り 、 2005年 の 産 出 量 は 前 年 比 + 2.0% の 158.9ト ン と な っ た 。 収 益 も 好 調 で 、 2005 年 は 各 社 と も 大 幅
な増収増益 を記 録した。し かし、南アで は今後「貴 金属法」が 正式 に施行され る予定で、これに よ
り 鉱 山 各 社 の 増 産 の 勢 い が 弱 ま る の で は な い か と の 懸 念 が 浮 上 し て い る 。 「 貴 金 属 法 」 は 2005年 10
月に法案と して 出されたも ので、鉱山の 採鉱、加工 、輸出まで の各 工程におけ る付加価値に対し て
課税を賦課 する というもの 。これにより 、鉱山各社 は大幅なコ スト アップに見 舞われることにな る
ので 、増 産を 抑 制す る動 きが 広 が る とみ られ て い る 。
■こうした 需給 バランスの 動向を勘案すると、プラチナの国際 価格 は、中長期 的に上昇トレンド を
たど る公 算が 大 きい とい えよ う。
■プラチナ は燃 料電池など 、国内のハイテク産業に とって不可欠の 資源である ため、日本政府は 供
給を 安定 化さ せ るた めの 様々 な 方 策 を打 ち出 し て い る 。
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(無断転用禁止)
( 騰 勢 を 強 め る プ ラ チ ナの 国 際 価 格 )
最 近 、 プ ラ チ ナ (白 金 ) の 国際 価 格が 騰 勢を強 め て い る 。
プ ラ チ ナ の 国 際 価格 は 2002 年 頃 か ら 上 昇 傾向が 鮮 明 と な り 、 2002 年 1 月 の 1 ト ロ イ オ ンス= 474
ド ル か ら 、 2006 年 8 月 ( 18 日 ま で の 平 均 値 ) に は 1 ト ロ イ オ ンス = 1240 ド ル と 、 4 年 半の 間 に 2.6
倍 に も 上 昇 し た(図 表 1 ) 。
価 格 上 昇 の 背 景 には 、 需 要 側 の 要 因 と し て、① 中 国 で 宝 飾 用 の プ ラ チ ナ 消 費が 増 え て いるこ と ② 自
動 車 に 使 用 す る 燃料 電 池 の 需 要が 世 界 で 急増し て い る こ と ③ ハー ド デ ィ スク の 記 憶 容 量を増 や す た め
の 磁 気 記 録 材 料 をは じ め プ ラチ ナ を 利 用 する商 品 分 野 が 広 が って き た こ とな ど が あ る。
一 方 、 供 給 側 の要 因 と し て は、 プ ラ チ ナの主 要 供 給 国 で あ る南 ア フ リ カと ロ シ ア で 供給不 安 が 広 が
っ て い る こ と が あ る 。 プ ラ チ ナ は 、 南 ア フ リ カ と ロ シ ア で 全 供 給 の 90.5% が ま か な わ れ て お り、 生
産 が 特 定 地 域 に 集中 し て い る( 図 表 2 ) 。
図表1
プ ラ チ ナ の 国 際価 格 の 推 移
図表2
プ ラ チ ナ の生 産シ ェ ア ( 2005 年 )
ドル/トロイオンス
1400
1200
ロシア
13.4%
1000
北米
5.4%
その他
4.1%
800
600
400
南アフリカ
77.1%
200
0
00
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02
03
04
05
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(出 所) johnson Matthey
(出 所) johnson Matthey
( 不 安 店 な プ ラ チ ナ の 供給 )
ロ シ ア で は 、 1823 年 に ウ ラ ル 地 方 で 白 金 の 鉱 山 が 見 つ か っ た が、 1920 年 代 ま で に 大 量の 採 掘 を 行
っ た た め 、 現 在 では 埋 蔵 量 が 少な く な っ てきて い る 。 ロ シ ア のプ ラ チ ナ 供給 は 不 安 定 で、ロ シ ア が 金
融 危 機 に 直 面 し た 98 年 に は 、 プ ラ チ ナ やパラ ジ ウ ム の 輸 出 が停 止 さ れ る事 態 と な り 、プラ チ ナ の 国
際 価 格 上 昇 の 主 要 因 と な っ た 。 近 年 、 ロ シ ア の プ ラ チ ナ 生 産 は ほ ぼ 横 ば い で 推 移 し て お り 、 2005 年
は 前 年 比 + 5.3% の 27.7 ト ン と な っ た ( 図 表 3 ) 。 な お 、 ロ シア で 産 出する プ ラ チ ナ の 73.9% は ノ
リ リ ス ク ・ ニ ッ ケル が 産 出 して い る 。
南 ア フ リ カ は 、 1925 年 に ト ラ ン ズ ・ バ ー ル 地 方 で 巨 大 な プ ラ チ ナ 鉱 脈 が発 見 さ れ て 以 来 、 ロ シ ア
を 抜 い て 世 界 最 大の プ ラ チ ナ 供給 国 と な った。 南 ア に は ア ン グ ロ ・ プ ラ チナ な ど の 有 力鉱山 が 多 数 存
在する。鉱山各社は、プラチナの国際価格上昇を受けて、これまでに大幅な増産を実施しており、
2005 年 の 産 出 量 は前 年 比 + 2.0% の 158.9 ト ン と な っ た ( 図 表 4) 。 収 益 も好 調で 、 2005 年 は 各 社 と
も 大 幅 な 増 収 増 益を 記 録 し た。
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(無断転用禁止)
し か し 、 南 ア で は今 後 「 貴 金 属 法 」 が 正 式に施 行 さ れ る 予 定 で 、 こ れ に よ り鉱 山 各 社 の増産 の 勢 い
が 弱 ま る の で は ない か と の 懸念 が 浮 上し ている の だ 。 「 貴 金 属 法 」 は 2005 年 10 月 に 法 案 と し て出 さ
れ た も の で 、 鉱 山の 採 鉱 、 加 工、 輸 出 ま での各 工 程 に お け る 付加 価 値 に 対し て 課 税 を 賦課す る と い う
も の 。 こ れ に よ り、 鉱 山 各 社 は大 幅 な コ ストア ッ プ に 見 舞 わ れる こ と に なる の で 、 増 産を抑 制 す る 動
き が 広 が る と み られ て い る。
プ ラ チ ナ の 世 界 需 要 は 、 99 年 以 降 、 一 貫 し て 、 世 界 供 給 を 上 回 っ て 推 移 し て い る 。 こ う し た 需 給
バ ラ ン ス の 動 向 を勘 案 す る と 、プ ラ チ ナ の国際 価 格 は 、 中 長 期 的 に 上 昇 トレ ン ド を た どる公 算 が 大 き
い と い え よ う。
図表3
ロ シ ア の プ ラ チ ナ生 産 量
図表4
トン
45
トン
180
40
160
35
140
30
120
25
南 ア フ リ カのプ ラ チ ナ 生 産 量
100
20
80
15
60
10
40
5
20
0
75
77
79
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( プ ラ チ ナ の 安 定 供 給 を模 索 す る 日 本 )
日 本 は 、 プ ラ チ ナの 主 要 需 要国 で あ り 、 2005 年 の 需 要 量 は 40.9 ト ン と 、 世 界 全 体の 19.6% を 占 め
た 。 国 内 で 消 費 する プ ラ チ ナ の 80.4% を 南 ア フ リ カ、 4.0% を ロ シ ア か ら の 輸 入 に頼 っ て いる 。
プ ラ チ ナ は 燃 料 電池 な ど 、 国 内 の ハ イ テ ク産業 に と っ て 不 可 欠 の 資 源 で あ るた め 、 日 本政府 は 供 給
を 安 定 化 さ せ る ため の 様 々 な 方策 を 打 ち 出して い る 。 政 府 は 、こ れ ま で のと こ ろ レ ア メタル と し て ニ
ッ ケ ル 、 ク ロ ム 、タ ン グ ス テ ン、 コ バ ル ト、モ リ ブ デ ン 、 マ ンガ ン 、 バ ナジ ウ ム と い った7 種 類 の 鉱
種 を 国 家 備 蓄 ( 60 日 分 ) の 対 象 と し て い る が 、 今 後 は プ ラ チ ナ な ど も 新 た な 備 蓄 対 象 と し て 検 討 さ
れ る 見 通 し だ 。 2006 年 6 月 に 資 源 エ ネ ル ギ ー 庁 が 発 表 し た 「 非 鉄 金 属 資 源 の 安 定 供 給 確 保 に 向 け た
戦 略 」 で は 、 南 アフ リ カ な ど にお け る 民 間企業 の 探 鉱 開 発 プ ロジ ェ ク ト への 参 加 を 積 極支援 し て い く
方 針 も 打 ち 出 さ れた 。ま た 、文 部 科 学 省 は、 2007 年 度 か ら プ ラ チ ナ の 代 替 材 料の 研 究を 開 始す る 。
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