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光と電子の粒子性と波動性②
第4章 原子 光と電子の粒子性と波動性② 光電効果 光のエネルギーを使って金属中から電子が飛び出る現象を光電効果という。光が粒 子としての性質をもっている具体例の一つである。 ① 自由電子と仕事関数 金属中の陽イオンの周りを自由に移動することのできる電子を自由電子という。自 由電子が外部へ出るには陽イオンとの結合を切る必要がある。この結合力を切るため に必要なエネルギーを仕事関数 W という。この仕事関数は金属の種類ごとに異なる値 をとり,何らかの原因で仕事関数 W 以上のエネルギーを得た電子は W のエネルギー を使い陽イオンとの結合を切り,残りのエネルギーを運動エネルギーとして金属中か ら飛び出る。 ② 電子にエネルギーを与える方法 (ⅰ) 金属をあたためる 熱エネルギーがある電子に集中し,W のエネルギーを得た瞬間に金属から飛び出る。 この場合,外にでた電子は運動エネルギーが 0 なので金属表面に付着した状態になる。 このような電子を熱電子という。 (ⅱ) 光子を当てて吸収させる 電子に光子をあてることによってエネルギーを与える場合,次の決まり事がある。 (a)1 個の電子は 1 個の光子しか吸収することが出来ない。 (b)吸収した光子のエネルギーはすべて吸収した電子のものとなる。 43 第 60 講 ③ 光と電子の粒子性と波動性② 光子のエネルギーと仕事関数 自由電子に振動数 ν の光子を当てた場合,振動数と仕事関数の関係によって電子が外 部へ出られるかが決まる。 (ⅰ) hν < W のとき 1 個の電子は 1 個の光子しか吸収することが出来ないため,仕事関数以上のエネル ギーを得ることができないため,電子は外へ飛び出ることはできない。 (ⅱ) hν = W のとき 金属表面にあった自由電子が運動エネルギー 0 (熱電子と同じ状態)で飛び出して くる。この電子がやっと出られる限界の振動数を限界振動数といい, hν m =W ⇒ W h νm = で与えられる。 この振動数より小さな振動数の光をいくら当てても光電効果は生じない。 (ⅲ) hν > W のとき 光子から得たエネルギーのうち, W のエネルギーを使い陽イオンとの結合を切り, 残りのエネルギーを運動エネルギーとして金属中から飛び出る。金属の奥のほうに存 在していた電子は,仕事関数で陽イオンとの結合を切断した後,外部出てくるまでに 陽イオンとの衝突などでエネルギーを失うため,出てきた電子の運動エネルギーは衝 突によって失うエネルギーを ε Loss として 1 mv2 = hν − W − ε Loss 2 44 第4章 原子 と書くことが出来る。しかし金属表面付近に存在していた電子であれば,仕事関数 W を受けた瞬間に飛び出してくるため ε Loss = 0 となり,飛び出る電子は最大の運動エネ ルギーを持つことになりその大きさは 1 2 = hν − W mvmax 2 となる。 ④ 最大運動エネルギーの測定 光( ) 陽極 図のような装置(光電管)を用いて実験をする。 陰極 (金 光電子 光子のエネルギーを吸収して金属から出た光電子 は陰極 C から陽極 P へ勢いよく飛び出る。単位時間 A V 当たりに流れる電気量が電流なので,陽極 P へ到達 した電子の個数が多いほど,電流計の値も大きくな る。 (ⅰ) 陽極 P を陰極 C より高くしたとき 到達出来るようになる。電位差を大きくしていくと C から 陽極 初速度が小さく P まで到達できなかった電子たちも P に 電界 クーロン力 飛び出した電子すべてが P に到達出来るようになり,その 時電流計の値は一定となる。この電流の大きさを飽和電流 と呼ぶ。 (ⅱ) 陽極 P を陰極 C より低くしたとき 電位差を大きくしていくと,そのうちすべての電子が P るときが最大運動エネルギーをもって飛び出した電子が, ちょうど P に到達したときに引き返す状態となる。この電 45 陽極 に到達する前に押し戻されてしまう。電流計の値が 0 とな 電界 クーロン力 第 60 講 光と電子の粒子性と波動性② 位差 V0 を阻止電圧と呼ぶ。電位差 V0 が電気量 −e の電子に対してする仕事の大きさは eV0 なので,最大運動エネルギーは 1 2 mvmax = eV0 2 となる。 また,電流と電流計の測定値と CP 間の電位差 VCP の関係をグラフに表わすと以下の ようなグラフとなる. 電流 飽和電流 独力でゴール出来る 電子による電流 最大速度で飛び出した電子 も押し戻されてゴールでき なくなった状態 阻止電圧 ⑤ 飛び出したすべての電子が ゴールしたため,これ以上 電流は大きくならない。 独力でゴール出来ない 電子が徐々に到達して いく プランク定数の測定 阻止電圧 光子の振動数 ν を徐々に変化させ,そのつど 阻止電圧 V0 を測定する。 1 1 2 2 mvmax = eV0 と mvmax = hν − W の 2 式より 2 2 eV= hν − W 0 の関係式が求まる。この式を変形すると 46 第4章 原子 = V0 h W ν− e e となり阻止電圧 V0 と光子の振動数 ν のグラフは直線になることがわかる。このグラフ より (ⅰ) 仕事関数 W : V0 軸との交点 − W を変形。 e (ⅱ) 限界振動数 ν m : ν 軸との交点 W が限界振動数である。 h (ⅲ) プランク定数 h :直線の傾き が求めることが出来る。 47 h を変形。 e 第 60 講 光と電子の粒子性と波動性② 48 第4章 原子 文中の空欄に最も適する数値,式,記号あるいは言葉を入れ文を完成させよ。ただし, 8 m s 〕,プランク定数を h = 光の速さを 3.0 × 10〔 とする。 6.6 × 10−34 〔J ⋅ s〕 金属の表面を紫外線などで照射したときに,その金属の表面から電子が飛び出してく る場合がある。この現象は ① と呼ばれ,飛び出してくる電子を光電子という。そし て仕事関数 W の金属表面を振動数 ν の光で照射した場合,表面から飛び出す光電子の最大 の運動エネルギー E は E = ② で表される。 いま金属の仕事関数 W の値を= W 4.95 × 10−19 〔J〕としたとき,金属の表面より光電子を 飛び出させるために必要な照射光の最小振動数 ν 0 は となり,最小振動数 ν0 をこの金属の ⑤ ③ 〔Hz〕,波長 λ は ④ 〔m〕 と呼んでいる。また,この金属に波長 7 2.0 × 10−〔 m〕の光を照射したとき,金属の表面から飛び出す光電子 1 個の運動エネルギー の最大値は ⑥ 〔J〕となる。このとき,照射する光の波長を変えずに光の強度を増加さ せると,飛び出す光電子の ⑦ は変化しないが,飛び出す光電子の ⑧ が増加す る。一方,照射光の振動数が ν 0 以下になると,いくら光の強さを増加しても光電子は飛び 出すことはないが,振動数が ν 0 以上であれば非常に弱い光を当てたときにも瞬間的に光電 子が飛び出すことが実験的に確かめられている。この事実は光を波動として考えると矛盾 するように見える。この矛盾に対して,光をエネルギー hν を持つ粒子とみなした 説によってうまく説明した物理学者が 49 ⑩ である。 ⑨ 第 60 講 光と電子の粒子性と波動性② 光の粒子性を示す現象として,光電効果が知られている。 図1は,光電効果を調べる実験装置の概略図である。図の左方から入射した光は,光電 管中の金属板 K に当たり,電子を放出させる。電極 P と金属板 K の間には電位差 V の電圧 がかけられており,放出された電子は P に集まる。 PK 間の電位差は変化させることがで き,その値は電圧計によって測ることができる。このようにして生じた光電流の強さ I は, 図中の電流計によって測られる。 図2は,入射光の強さと振動数を一定にして,電位差 V を変化させたとき,光電流の強 さ I が変化する様子を示している。 P の電位を正にして, V を大きくしていくと,電流の 強さは一定値 I m に近づく。逆に, PK 間の電位差を −V0 にすると光電流は流れなくなる。 図3は,図2の実験における入射光の振動数 ν を変化させたときの V0 の大きさの変化を 示している。 ν が小さくなり,ある値に達すると V0 はゼロになる。図中のグラフは V= aν − b ( a , b は正の定数)という式で表される直線である。 0 電子の電荷の大きさを e として,次の問に答えよ。 50 第4章 (1) 原子 図2の実験結果から得られる量 I m と V0 ,および e のうちのいくつかを用いて次の 量を表せ。それぞれの式を該当欄に記入せよ。 ア 1 秒間あたり,放出される電子の個数 イ 放出された電子 1 個の運動エネルギーの最大値 (2) 図3の実験結果から得られる量 a と b ,および e のうちのいくつかを用いて次の量 を表せ。 ウ 金属板 K の仕事関数 エ プランク定数の値 (3) ある振動数の光を入射させて光電効果を生じさせたとき,その入射光子 1 個のエネ ルギーはどれだけか。 I m , V0 , a , b および e のうちのいくつかを用いて表せ。 51 第 60 講 光と電子の粒子性と波動性② 図1の装置は,真空のガラス球内壁にはりつけられたアース電位の金属板陰極 K ,およ び陽極 P からなる光電管と,電池 B ,可変抵抗 R ,電圧計 V ,および電流計 A からなる 回路とで構成されている。この装置において,いろいろな波長の単色光を照射しながら, 陰極 K に対する陽極 P の電圧(陽極電圧) V を変化させたときに,電流計 A に流れる電流 7 (光電流) I を測定した。波長が 4.0 × 10−〔 m〕の光を照射したとき,電圧 V と電流 I の関係 は図2のようになった。次の文章の a ~ j に入れるべき適当な語句または数式 を該当する解答欄に記し,また問いに答えよ。ただし,電気素量を e〔C〕とする。 図2 図1 問1.このように光によって電子がとび出す現象を b a といい,とび出す電子を という。この電子の数が増加するときに光電流の大きさは 陽極 P に到達する電子の数を n としたときの電流値は e を用いて c し,1 秒間に d 〔A〕 となる。 問2.波長が一定で,光の量を 2 倍に増したとき,陽極電圧 V と光電流 I の関係は,図2 52 第4章 原子 の状態からどのように変わるか。概略を解答欄の図(図2と同一)に実線でかき加えよ。 7 に変えたとき,陽極電圧 V と光電流 I の関係は,図2の状態か 問3.波長を 3.0 × 10−〔 m〕 らどのように変わるか。概略を解答欄の図(図2と同一)に点線でかき加えよ。 問4.陽極電圧 V が負の範囲になると,電圧の低下にともなって光電流 I は減少し,つい には I = 0 になる。このときの電圧を V = −V〔 ,とび出した電子の最大運動エネルギ M V〕 とすれば, e , K M , VM を使って K M − ーを K〔 M J〕 e = 0 となる。またこのとき, 〔kg〕とすれば K M をもつ電子の速さ v〔 電子の質量を m は e , m , VM を使って e m s〕 f 53 と表される。 第 60 講 光と電子の粒子性と波動性② 54