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景況判断と生産動向の「乖離」が示唆するもの
今月の視点 景況判断と生産動向の「乖離」が示唆するもの ―地域別景況判断からみる日本経済― 景気減速が明確となっている2004年度の日本経済であるが、景況判断を地域別にみると、 引き続き「力強く回復している」東海から「やや弱含んでいる」北海道までその状況は様々で ある。一方、地域別の鉱工業生産の動向をみると、景況判断とはややくい違った動きもみら れる。何か示唆するものはあるのだろうか。 みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 岩本 洋 製造業から非製造業へと広がりをみせつつあるともい 景気減速が明確となった 2004年度の日本経済 えよう。好調な収益状況等を反映して企業の設備投 資計画は引き続き強気であり、また、雇用過剰感は全 体として払拭されている。 2004年度の日本経済は景気減速が明確となった。 このように基本的に良好な企業の景況感の下で、 実質GDP成長率をみると、2004年4∼6月期前期比▲ 鉱工業生産、とりわけ世界的な在庫調整の只中にあ 0.1%、7∼9月期同+0.1%と、年度前半はほぼゼロ成 るIT (情報技術)関連財、米国・中国等の需要動向に 長にとどまった。この間鉱工業生産は、4∼6月期同+ 影響を受けた輸送機械等の生産にかげりが出たこと 2.6%、7∼9月期同▲0.7%となり、10∼12月期も11月ま も2004年度の景気減速の特徴といえよう。 での生産指数や足元の生産予測等から判断すると前 期比でマイナスになったとみられる。日本経済は、こ 地域別の景況判断と鉱工業生産動向 れまでのところ減速傾向から脱しきれていないといえ よう。 こうした状況をやや詳しくみるために、視点を地域 別の経済動向に移してみよう。内閣府の「地域経済動 良好な企業の景況感 向」で各地域の景況判断をみると、2004年11月時点で は、 「力強く回復している」東海から 「やや弱含んでい 一方で、2004年12月調査の「日銀短観」によれば、 る」北海道までバラツキがみられる (図表1) 。 足元の企業の景況感は全体としてみると決して悪くな 東海の次に景況判断が良好な地域は中国(「回復 い。大企業製造業の業況判断DIは+22となり、9月調 している」)であり、次いで、北関東、南関東、北陸、 査の+26から悪化したとはいえ水準は依然として高 近畿、九州が「緩やかに回復している」 となっている。 い。また、大企業非製造業(+11→+11)、中小企業 逆に北海道に続いて景況判断が思わしくない地域 製造業(+5→+5)の業況判断DIは横ばい、中小企 が東北、四国、沖縄(「回復の動きに一服感がみられ 業非製造業では若干ながら改善しており (▲17→▲ る」∼「持ち直している」)である。北海道は公共投資 14) 、むしろ企業部門の足腰の強さがみてとれる。見 への依存度の高さが景気不振の背景にあり、東北、四 方を変えれば、景気回復が大企業から中小企業へ、 国については、2004年夏から秋にかけての台風等に みずほリサーチ February 2005 1 今月の視点 よる被害の影響も無視しがたい。両地域とも被害総額 景況判断と生産動向の「乖離」が 示唆するもの の県内総生産比は全国平均を大きく上回っている。 次に、地域別に景況判断の最近の推移をみると (図表1) 、実質GDPが高い伸びを示した2003年度後 注目されるのは、こうした鉱工業生産の低調振りに 半には多くの地域で景況判断が上方修正された。 2003年11月調査では7地域、2004年2月調査では4地 対して、東海・中国両地域とも景況判断の構成要素の 域 の 景 況 判 断 が 上 方 修 正となっている。その 後 、 一つである鉱工業生産に対する判断が下方修正され 2004年5月に東海(「回復している」→「力強く回復して ておらず、東海においては、8月調査において逆に上 いる」) 、中国(「緩やかな回復がみられる」→「回復し 方修正されている点である。この調査を見る限り、両 ている」)の2地域、8月に北陸、近畿(両地域とも 「持 地域の企業における全般的な景況感の悪化は感じと ち直している」→「緩やかに回復している」)の2地域 れない。ちなみに、東海は、輸送機械工業の占める の景況判断が上方修正された。東海は、5月まで4回 ウエートが高く、鉱工業生産の付加価値額でみると3 連続、 中国は同じく5月まで3回連続の上方修正である。 割を超えているが、これが7∼9月期は前期比▲1.1%と 11月調査では上方修正された地域はゼロとなる一方 なり、鉱工業生産全体の足を引っ張る形となった。 で沖縄のみ下方修正され、地域経済の景況判断とい 中国は、化学、鉄鋼、輸送機械、一般機械等の業種 う観点からも、総体としては景気の減速傾向がみられ がバランスよく存在している地域であるが、生産が全 るに至っている。 体としてマイナスとなる中で鉱工業生産に対する判断 一方、各地域の鉱工業生産に目を向けると、2004年 は据え置かれた。 度入り後、ほとんどの地域で鉱工業生産の伸びは鈍 こうした景況判断と生産の動きの「乖離」が示唆す 化ないしマイナスとなっており、足元の景況判断が良 るものは何か。生産水準そのものが高いことや、老朽 好な東海や中国も例外ではない。東海の鉱工業生産 化した設備の除却もあって設備稼働率が高水準にあ の伸びを前期比でみると、2004年4∼6月期+3.0%、7 ることがこの背景にあると思われるが、加えて考えら ∼9月期▲0.2%、10月は▲3.4%であった。また、中国で れるのが、企業の生産管理能力の向上である。需要 は2004年4∼6月期+2.3%、7∼9月期▲2.1%、10月+ の変化に対してより迅速に対応できる体制が構築さ 0.7%となっている。 れ、生産をきめ細かにコントロールできるようになって きていることも、景況判断 ●図表 1 地域別にバラツキがみられる景況判断 景況判断 2003年11月 2004年 2月 力強く回復している 回復している 緩やかに回復/ 緩やかな改善 ↑東海 ↑東海 ↑九州 沖縄 2004年 5月 2004年 11月 ↑東海 東海 東海 景にあるのではないだろう ↑中国 中国 中国 か。これが的を射ていると ↑中国 北関東 ↑北陸 北関東 南関東 ↑北関東 南関東 ↑近畿 北陸 近畿 ↑南関東 九州 沖縄 九州 沖縄 北関東 南関東 九州 九州 沖縄 持ち直し/ ↑中国 ↑東北 北陸 近畿 北陸 近畿 回復に一服感 ↑北陸 ↑近畿 東北 四国 東北 四国 東北 四国 ↓沖縄 北海道 (注) 1. ↑は前回調査からの上方修正、 ↓は下方修正。 2. 景況判断のグルーピングは 2004年 11月調査基準。 (資料)内閣府「地域経済動向」 2 みずほリサーチ February 2005 な最終需要に支えられて ち直し、日本経済は再び着 実な回復軌道に復する可 北関東 南関東 北海道 すれば、生産活動は堅調 比較的短期間のうちに持 東北 四国 ↑四国 やや弱含んでいる と生産活動の「乖離」の背 2004年 8月 北海道 北海道 北海道 能性が高いと考えられる 訳である。A