Comments
Description
Transcript
EU及びドイツにおける 再生可能エネルギー政策について
CONTENTS ■ 特 集 ◎EU及びドイツにおける再生可能エネルギー政策について_ 1 ◎技術報告 70MPa充てん対応蓄圧器適合材の評価 _ 7 ■ トピックス 第22回技術開発研究成果発表会開催_ 13 2008.7 特集 EU 及びドイツにおける 再生可能エネルギー政策について EUでは 1997 年より再生可能エネルギー普及政策を進めてきており、バイオ燃料だけでな く、様々な分野において再生可能エネルギーが普及しています。今年の1月 23 日には欧州委 員会が再生可能エネルギー包括政策提案 を発表し、更なる利用拡大を目指しています。一方、 1 ドイツは EU の政策に先んじて再生可能エネルギーの推進を進めており、EU 加盟国の中でも 最も再生可能エネルギーに積極的な国の一つです。 本稿では、EU 全体とドイツの再生可能エネルギー政策について、その内容と今後の見通し について報告します。 1. EU 及びドイツの再生可能エネルギー政策 2007 年 3 月 8 日~ 9 日にブリュッセルで開催された欧州理事会(EU 首脳会議)では、 地球温暖化対策の意欲的な推進が合意されました。EU 首脳会議は、2020 年までに温室効果 ガスの排出量を 20% 削減し、エネルギー消費量における再生可能エネルギー比率を 20% に 引き上げることを目標と定め、加盟国に対し義務付けることで合意しました。その後、2008 年 1 月 23 日に欧州委員会は気候・エネルギー包括政策提案を発表し、2020 年の目標達成に 向けて積極的な取組み姿勢を示しています。 一方、ドイツ政府の再生可能エネルギー政策は、表 1 に見るとおり、一貫して EU に先行 しています。むしろ EU の政策を先導してきたとも言えます。再生可能エネルギーの比率は 堅調に増加しており、それに伴って関係事業に携わる雇用も増えています。バイオ燃料利用 では、特に、バイオディーゼルの普及が進んでいますが、輸送用燃料への混合割合も EU 加 盟国の中で最も高くなっています(2006 年:6.6%)。 1 一連の関連文書は下記のサイトで入手可能です。 http://ec.europa.eu/commission_barroso/president/focus/energy-package-2008/index_en.htm 2008.7 表 1 ドイツ及び EU における再生可能エネルギー政策の進展 1991 1997.11 1997.12 1999.04 2000.03 2000.04 2000 2001.09 2002.07 2003.05 2004.0 2004.0 2004.08 2007.01 2007.01 2007.03 2007.03 2007.04 2007.06 2007.07 2007.08 2007.10 2007.11 2007.12 2008.01 2008.03 2. EU における再生可能エネルギーの状況 (1)再生可能エネルギー比率の推移 EU におけるエネルギー総消費量に占める再生可能エネルギーの比率は、1995 ~ 2005 年に かけて 5.1% から 6.6% に増加しました(図 1)。2005 年における再生可能エネルギーの内訳は、 バイオマス 68%、水力 22%、その他(太陽光、太陽熱、地熱、風力)10% となっています。 図 1 再生可能エネルギー消費量及びエネルギー総消費量に占める 再生可能エネルギー比率の推移 出所:ユーロスタット「エネルギー、運輸、環境指標」 、2007 年 EU では 1997 年に 2010 年までに再生可能エネルギー比率を 12% にする目標を掲げて以 来、再生可能エネルギー消費量は増加しているものの、最新の予測によると 2010 年までに 10% 以上を達成することはほぼ不可能と見られています。現状において再生可能エネルギー は短期的に見て石油由来エネルギーに対する価格競争力がなく、新規設備の建設・運営認可 の手続きの煩雑さ等の問題もその背景となっています。 (2)バイオ燃料利用の現状 2003 年 5 月、バイオ燃料指令において、輸送用燃料におけるバイオ燃料の比率を 2005 年までに 2%、2010 年までに 5.75% にすることが定められました。しかし、2005 年の欧 州全体の輸送用燃料における比率は 1% に過ぎず、2% の目標を達成したのはスウェーデンと ドイツだけでした。 バイオ燃料の普及が緩慢である原因として、コスト面以外に以下の点が指摘されていま す。第一に多くの加盟国において適切な振興制度が未整備であること、第二にバイオエタノー ルのガソリンへの配合によるガソリンの余剰を恐れる燃料供給事業者が、バイオエタノール 利用を躊躇していること、第三に、加盟国の目標達成に関して EU の法的枠組みが十分でな いことが挙げられます。2005 年のバイオ燃料生産量は 390 万 t、その内バイオディーゼル 320 万 t、バイオエタノール 70 万tでした。この生産量は EU のディーゼル燃料及びガソリ ンの各々の消費量の 1% にも及びません。 2008.7 (3) 温熱・冷熱供給の現状 温熱・冷熱供給量は、EU の最終エネルギー消費量の約 50% を占めていますが、再生可能 エネルギーの比率は、10% に至らず、積極的な導入がなされていません。EU 加盟国の戦略 と実施状況は様々で、コンセプトが調整されておらず、技術に関する欧州市場も促進メカニ ズムと同様に統一されていません。 只、EU 諸国の中でも一部の国では、再生可能エネルギーの温熱・冷熱供給部門への普及 が進んでいます。スウェーデン、ハンガリー、フランス、ドイツで地熱利用、ハンガリーと イタリアでは低温地熱設備が主流になっています。スウェーデンではヒートポンプの利用が 多く、太陽熱はドイツ、ギリシャ、オーストリアとキプロスで多く導入されています。 3. ドイツにおける再生可能エネルギーの状況 (1)再生可能エネルギー実績 ドイツの再生可能エネルギー部門は、大方の予測を上回る速いテンポで成長しており、 2007 年には、2010 年目標「総発電量に占める再生可能エネルギー由来の発電量の比率 12.5%」をすでに達成しました。2010 年には 15%達成が可能と見られています。 2005 年の EU 加盟国の再生可能エネルギーに関する諸統計によれば、ドイツの風力発電量、 太陽熱利用量、太陽光発電量は EU 加盟国中で群を抜いており、バイオマス利用量でも、フ ランス、スウェーデンに次ぎ第 3 位を保っています。また、国際比較でも、再生可能エネルギー 利用設備容量合計は、2005 年は 23GW であり、米国と並んで、中国に次ぐ世界第 2 位の座 を占めています。風力発電、太陽光発電設備容量ともに世界第 1 位です。 ドイツの 1 次エネルギー総供給量における再生可能エネルギー比率は、ここ数年間は毎 年約 1%ずつ増加してきており、2007 年には 6.6%に達しました。特に、バイオ燃料は、 1998 年には輸送用燃料における燃料需要のわずか 0.2%を占めるに過ぎませんでしたが、 2007 年には約 7%と大きく増加しています。 (2)再生可能エネルギー利用拡大による効果 ドイツ環境省発表のデータによると、再生可能エネルギーの CO2 排出削減効果は、2006 年には 1 億 t に達しました。同国の再生可能エネルギー政策は、環境改善の効果だけでなく、 様々な再生可能エネルギーセクターにおいて関連産業を発展させ、雇用の安定と拡大に寄与 しています。 2006 年における再生可能エネルギー部門の就業者数は 235,000 人、そのうちの約 6 割の 134,000 人が再生可能エネルギー法による直接雇用効果です。 再生可能エネルギー法による 雇用創出は 2004 年比で 40%増加しました。 再生可能エネルギー利用施設の設置並びに運用による売上高合計は 、2006 年には 299 億 ユーロに上りました。また、2006 年のドイツにおける再生可能エネルギー設備への投資額は、 90 億ユーロに及び、再生可能エネルギーは重要な投資ファクターにもなっています。さらに、 再生可能エネルギー部門は、この間に主要輸出産業に成長、輸出率は風力発電設備で 70%以 上、太陽光発電部門で 30%を超えています。 (3)再生可能エネルギーによる発電の現状 再生可能エネルギー利用による発電量は、再生可能ネルギー法が導入された 2000 年以降 大きく伸びています。2006 年には 2000 年比で倍増の約 740 億 KWh に達しました。増加は、 特に風力発電において顕著ですが、2004 年の再生可能エネルギー法改正後は、バイオマス と太陽光発電においても明らかな成長が認められます。 表 2 再生可能エネルギーによる発電量の推移 単位:GWh 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 24,936 23,383 23,824 20,350 21,000 21,524 21,636 7,550 10,509 15,786 18,859 25,509 27,229 30,500 2,279 3,206 4,017 6,970 8,347 10,495 16,138 1,850 1,859 1,945 2,162 2,116 3,039 3,600 64 116 188 313 557 1,282 2,000 0 0 0 0 0.2 0.2 0.4 36,679 39,073 45,760 48,654 57,529 63,569 73,874 2004 2007 6 風力発電においては、ドイツは世界第一位で、2006 年末の風力発電設備は 18,685 基、合 計設備容量は 20,622MW でした。風力発電設備による発電量は 30,500GWh で、再生可能 エネルギー中では最も多く、総発電量の 5.0%を占めています。設備数は 2005 年比で 15% 増加し、設備容量の増加率は 24%でした。しかし、陸上設備の立地には制限があり、今後は 海上風力発電施設の建設を進める計画ですが、当初よりコストが嵩み、その進捗は緩慢になっ ています。 一方、ドイツの太陽光発電設備製造技術はここ数年の努力により、世界のトップレベルに 達し、ドイツのメーカーの総売上高はすでに 2005 年に世界総売上高の 20%を超え、輸出率 も 30%に増加しました。設備製造コストは 1991 ~ 2003 年で 60%低減しています。 (4)バイオ燃料政策の推移と現状 ドイツの輸送用燃料におけるバイオ燃料の割合は、2006 年には 6.6%に達し、EU 設定の 2010 年目標 5.75%をすでに大幅に上回りました。 バイオディーゼル関連では過去数年間に 4 ~ 5 億ユーロの設備投資が行われ、生産能力は 2000 年は 26.5 万tでしたが、2005 年には 201.2 万 t、2006 年には 440 万 t に増加し、 世界でも有数のバイオディーゼル生産国となりました。生産設備開発並びに純バイオディー ゼル燃料 (B100) 用の車両開発でも世界の先端を行きます。バイオディーゼルを提供する給油 所は 1,900 店舗に増えています。 2007 年以降は、バイオ燃料割当法 (Biokraftstoffquotengesetzes) に基づき、自動車燃料の 流通に携わる企業に対してバイオ燃料配合義務が課されました。同法で最低配合比率が規定 されています。ディーゼル燃料へのバイオディーゼル配合率は 4.4%。ガソリンへのバイオ エタノール配合率は、2007 年の場合 1.2%で、段階的引き上げにより 2010 年には 3.6%に なります。バイオ燃料配合義務化と同時に、新エネルギー税法によりバイオ燃料が課税対象 とされました。純バイオ燃料に対しては、2011 年までの移行期間を設けた段階的引き上げ が実施され、2012 年以降は化石燃料と同率になります。 バイオガス、E85 バイオエタノール(バイオエタノール含有率 85%)、及び第 2 世代バイ オ燃料(液化バイオマス BTL、リグノセルロース系バイオエタノール等)に対しては、2015 年まではエネルギー税法中の過剰補償規定に則り、税的優遇措置が適用されます。 2008.7 (5)再生可能エネルギー法、バイオ燃料関連法案の概要 ドイツ政府は、2007 年 8 月に 「 統合されたエネルギー・気候プログラム、略称:気候・ エネルギーパッケージ 」 の骨子を閣議承認しました。現在、法改正に向けて審議を進めてい ますが、同法案には再生可能エネルギー、バイオ燃料に関する新しい内容が含まれています。 まず、再生可能エネルギー法では、数値目標として、発電量に対する再生可能エネルギー 由来電力量の比率を 2020 年までに 25 ~ 30%まで引き上げることが規定されています(現 行法の 2020 年目標は 20%)。改正の重点ポイントは、大規模設備としての建設が可能な海 上風力発電とバイオマス発電に置かれており、既に普及がかなり進んだ太陽光発電への助成 は縮小しています。 また、バイオ燃料においては、ガソリンへのバイオエタノール混合率を現在の 5% から 10% に引き上げ、ディーゼル燃料へのバイオディーゼル混合率は 5% から 7% に引き上げる としています。但し、バイオ燃料利用拡大による自然破壊等の問題が起こらないよう、持続 可能性に関する保証も求めています。 (6)今後の展望 ドイツ政府は、2007 年に発表した再生可能エネルギー長期見通報告書において、2050 年 までの予測を含む中・長期シナリオを提示しています。 そ れ に よ れ ば、 再 生 可 能 エ ネ ル ギー利用の拡充とエネルギーの効 率利用を強力に進めることにより、 2020 年には 1 次エネルギー総供給 量 の 約 16 % と 総 発 電 量 の 約 27 % が、再生可能エネルギーにより供 給可能となります。更に、2050 年 には、1 次エネルギー総供給量の半 分、温熱需要で 48%を再生可能エ ネルギーで賄うことができます。電 力需要に占める再生可能エネルギー の割合は 80%に上ります。自動車 燃料需要は 42%まで再生可能エネ ルギーによる代替が可能とされてい ま す。 そ の 場 合、CO2 削 減 効 果 は 80%となります。 図 2 1 次エネルギー総供給と CO2 排出量の推移予測 出所:連邦環境・自然保護・原子力安全省 但し、バイオ燃料利用に関して、4 月 4 日に環境相が「ガソリンへのバイオエタノール配 合率の 10% への引き上げを行わない。配合率は 5%にとどめる」と発表しました。この理由は、 バイオエタノール 10%混合ガソリン(E10)に対応できない車両の台数が当初試算の 37.5 万台を大きく上回る 300 万台以上となることが、自動車業界の最近の試算により判明したた めです。 この点においては、再生可能エネルギーの積極策にブレーキがかかるものと予想されます。 バイオ燃料に対しては、例えば、昨年9月に OECD が加盟各国に対して、費用対効果の観点 から、バイオ燃料導入目標のこれ以上のかさ上げを中止し、現状の施策に関する見直しの必 要性を指摘する等、その効果を疑問視する意見も出てきており、今後の EU を中心とした世 界の動きには注目していく必要があります。 以上 特集 技術報告 70MPa充てん対応蓄圧器適合材の評価 1. 研究開発の目的 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業として、平成 17 年度から「水 素社会構築共通基盤整備事業・水素インフラ等に係る規制再点検及び標準化のための研究開 発・水素インフラに関する安全技術研究」を行っております。 平成 17 年度及び平成 18 年度は、燃料電池自動車への充てん水素圧力 35MPa 充てん 対応の水素スタンド用金属製蓄圧器材料の評価試験研究を実施してきました。これまで の研究結果から 35MPa 充てん対応蓄圧器に用いられる金属製蓄圧器の適用材料は JIS G 4105 SCM435 鋼(機械構造用合金鋼材の一種、クロム・モリブデン鋼)と JIS G 3459 SUS316L が推奨され、今後は例示基準へと反映される見込みですが、強度・コスト等の観 点からフェライト鋼への流れとなっております。 平成 19 年度は、燃料電池自動車の航続距離の増大を測るべく、NEDO ロードマップか らの指針に沿った、燃料電池自動車への 70MPa 充てん対応金属製蓄圧器材料の検討、評価 試験を実施しました。70MPa 充てん対応蓄圧器の設計において、常用圧力を 80MPa、設 計圧力を 88MPa と設定し、高圧ガス保安法・特定設備検査規則に準拠し耐圧部強度計算を 実施したところ、35MPa 充てん対応蓄圧器材料である SCM435 鋼では蓄圧器肉厚が増大 してしまうため、十分な引張強度、衝撃値を確保することが困難であるとの検討結果を得 ました。水素ガスの高圧化に伴う蓄圧器肉厚の増大に対して、高強度鋼の採用により肉厚 の減少を図ることは可能ですが、高圧水素環境下での水素環境脆化 (Hydrogen Environment Embrittlement ; H.E.E.、水素環境脆化 ) の感受性増大が懸念され、その為に強度と水素環境 脆化感受性のバランスを図ることが、適用鋼種の選定条件となります。 本研究は、委託先である株式会社日本製鋼所が、SCM435 鋼に代わる 70MPa 充てん対応 蓄圧器の候補材である SNCM439 鋼(機械構造用合金鋼材の一種、ニッケル・クロム・モリ ブデン鋼)の適用を目的として検討したものです。 2.研究開発の内容 2. 1 試験材の製造検討 70MPa 充てん対応蓄圧器の適用鋼種の検討においては、35MPa 充てん対応蓄圧器材料検 討で候補材として試験検討されていた JIS G 4103(1979)SNCM439 鋼の規格強度からの 強度調節材が挙げられました。SNCM439 鋼は規格最小引張強さ(T.S.)が 980N/mm ですが、 2 規格最小引張強さでは水素環境脆化感受性が高く、蓄圧器材料としての使用においては強度 の調節を図るなどの対策実施が必要となります。 そこで、SNCM439 鋼を適用するに当たり、35MPa 充てん対応蓄圧器材料で検討・試験 が実施された、45MPa 水素中での強度調節材のデータを基礎として、90MPa 水素中での検 討を実施しました。表 -1 に SNCM439 鋼の規格化学成分及び試験片製作材料の化学成分分 2 析値を示します。SNCM439 鋼強度調節材の最小引張強さ σB を 880N/mm 、設計圧力を 88MPa にて設計検討を実施した結果、内径 274mm、外径 430mm、肉厚 78mm の実機蓄圧 器形状が決定し、図 - 1の熱処理履歴を付与した試験片を用いて試験を実施しました。(焼戻 し熱処理温度として、5条件を検討) 2008.7 表 - 1 化学成分分析結果 図 -1 熱処理条件 2.2 水素環境試験項目及び試験装置 SNCM439 鋼強度調節材の 90MPa 水素環境中の試験項目を表 - 2に示します。試験項目 は切欠き引張試験、平滑引張試験、疲労試験、破壊靱性試験、遅れ割れ試験及び疲労き裂進 展試験です。当該 SNCM439 鋼強度調節材は、高圧ガス保安法・特定設備検査規則 別表第 1 に規定されている規格最小引張強さを下回ることから、蓄圧器製造申請においては事前評 価申請が必要となり、事前評価試験項目は高圧ガス保安協会(KHK)の技術基準に準じた項 目となります。 試験に用いた超高圧水素中疲労試験装置の構造及び仕様を図 - 2に示します。圧力容器 内に加圧される水素ガスは酸素等の不純物を取り除く為に、超高純度水素(99.99999%、 Grade1)を用い、圧力容器を含む試験機配管系内の真空引きを実施し、更に超高純度水素ガ スによる繰り返しガス置換を実施した後に試験を開始しました。 表 - 2 水素環境試験項目 図 - 2 超高圧水素中疲労試験装置及び仕様 3.研究開発の結果 3.1 引張試験結果 (1)切欠き引張試験結果 図 - 3に大気中の平滑引張強さと、45MPa 及び 90MPa 水素環境中での切欠き引張強 さの関係を示します。図中には 45MPa 水素中の Cr-Mo 鋼試験結果と、当該鋼種である SNCM439 鋼の引張強度を変化させた結果を併記しています。大気中の平滑引張強さが 1,000N/mm2 以下の範囲では平滑引張強さの増加に伴い、90MPa 水素環境中での切欠き引 張強さの低下は認められず、SNCM439 鋼強度調節材の引張強さ 880N/mm2 から 980N/ mm2 の範囲では水素環境脆化感受性は低いと考えられます。 2008.7 図 - 3 水素ガス中の切欠き引張試験結果 (2)平滑引張試験結果 大気中の平滑引張試験は JIS Z 2241 にて実施し、試験片は JIS 14A 号試験片を鍛造材に 対して、主鍛造方向に直角方向から採取し、直径 8mm、平行部 40mm のサイズに加工しま した。また、試験片表面は機械加工後、♯ 800 ペーパーにて軸方向に研磨仕上げとしました。 図 - 4に大気中と 90MPa 水素中での引張試験結果を比較して示します。試験速度は試験片 に変位計を取り付けられない為に、試験片平行部の歪速度が 10 /s 相当となるように予備試 -5 験にて試験機変位速度を検討し、試験機変位速度制御モード(0.0028mm/s)にて引張試験 を実施しました。水素中では降伏荷重及び破断する際の最大荷重 ( 一様伸び ) は、大気中と比 較して大きな差はないものの、破断伸びが低下しています。 図 - 4 平滑引張試験結果 ( 大気中及び 90MPa 水素中 ) 10 3.2 疲労試験結果 疲労試験の結果を表 - 3に示します。常温での 90MPa 水素環境中において、試験荷重が 388MPa、繰り返し回数が 2,000 回の疲労試験後において、試験片表面にき裂は認められま せんでした。 表 - 3 疲労試験結果 3.3 破壊靭性試験結果 SNCM439 鋼強度調節材の破壊靭性試験は、大気中及び 90MPa 水素環境中で実施しまし た。SNCM439 鋼強度調節材の室温・大気中の破壊靭性試験は、ASTM E399 法の評価によ り試験が無効 (Pmax /PQ >1.1) と判定されたため、ASTM E1820 法の試験を行いました。 また、90MPa 水素環境中の破壊靱性試験では、何れも急速破壊は認められず、水素環境の 影響により破壊靭性が低下する事を示す現象は認められませんでした。 なお、紙面の制約があり、本破壊靭性試験以降の試験データを割愛しました。 3.4 遅れ割れ試験 SNCM439 鋼と 439 鋼強度調節材について、1,000 時間暴露後の試験片を顕微鏡(× 30)にて観察しました。その結果、SNCM439 鋼(σB =1,144MPa)試験片は、予き裂先端 に試験保持時間 1,000 時間でのき裂の進展が観察されていますが、SNCM439 鋼強度調節材 にはき裂の進展は認められませんでした。また、SNCM439 鋼強度調節材について、試験片 を開口し SEM(走査型電子顕微鏡)にて破面観察を実施しましたが、水素脆化破面は観察さ れず、水素環境脆化による割れの進展は認められませんでした。 3.5 疲労き裂進展試験結果 90MPa 水素雰環境中における疲労き裂進展速度は大気中と比較して増大することが示され ました。応力拡大係数幅 ( Δ K ) が大きい側で 90MPa 水素環境中の方が 45MPa 水素環境中 の試験に比べて、疲労き裂進展速度が加速される傾向を示していますが、圧力の影響による ものか、特性のばらつきであるかは今後のデータの蓄積が必要となります。 11 2008.7 4.まとめ (1)SNCM439 鋼 強 度 調 節 材 の 引 張 強 さ 880N/mm か ら980N/mm の 範 囲 で は、 2 2 90MPa 水素環境中の切欠き引張強さの低下は認められず、水素環境脆化感受性は低 いと考えられます。 (2)SNCM439 鋼強度調節材の 90MPa 水素環境中の引張試験では、破断延性が大気中 と比較して低下しました。しかしながら、降伏荷重及び破断する際の最大荷重は、 水素中と大気中で差は認められず、90MPa 水素環境中における局部伸び開始点にお ける歪み(一様伸び)は、大気中と同等であることが確認されました。 (3)常温、90MPa 水素環境中において、SNCM439 鋼強度調節材の疲労試験を実施し ました。試験結果からは、繰り返し回数 2,000 回実施後において、試験片表面にき 裂は認められませんでした。 (4)SNCM439 鋼強度調節材の破壊靭性試験を実施した結果、水素環境中で評価され た応力拡大係数:K Q 値は、破壊靭性値ではなく、水素環境脆性による準安定き裂成 長開始点付近の応力拡大係数であると解釈されます。また、荷重変位線図で示され る様に、何れも急速破壊は認められず、水素環境の影響により破壊靭性が低下する 事を示す現象は認められませんでした。‐30℃における破壊靱性値 K 1C は、十分高 い値であることが確認されました。 (5)SNCM439 鋼強度調節材の遅れ割れ試験として、常温、90MPa 水素環境中で、1,000 時間暴露を実施しましたが、水素環境脆化によるき裂の進展は認められませんでし た。 (6)SNCM439 鋼強度調節材の 90MPa 水素環境中の疲労き裂進展速度は、45MPa 水 素環境中と比較して応力拡大係数幅 ( Δ K ) が大きい側で加速される傾向を示してい ますが、今後、試験データの蓄積により検討を行う予定です。 参考文献 1) 日本学術振興会第 129 委員会編 , 応力腐食割れ標準試験法 – 日本学術振興会 129 委員会基準 , 日本学術振興会第 129 委員会 ,1985 年 7 月 25 日 2) ISO11111-4 Transportable gas cylinderes- Compatibilty of cylinder and valve materials with gas contents- Part4 Test Methods For Selecting Metallic Materials Resistant To Hydrogen Embrittlement, First edition,ISO,2005 年 8 月 1 日 12 トピックス 第 22 回技術開発研究成果発表会を開催 第22回技術開発研究成果発表会開催 6月 3 日(火)、霞ヶ関ビルの東海大学校友会館において、 「第 22 回技術開発研究成果発表会」 を開催致しました。当日は生憎の雨天にもかかわらず 400 名を越える方にご来場頂きました。 主催者を代表して当センター工藤専務理事より開会の挨拶と本発表会におけるトピックス を紹介の後、来賓の資源エネルギー庁資源・燃料部石油精製備蓄課の高田課長より「本日の 発表会にはこの様に多くの人が参集され、あらためてPEC技術開発の充実度の高さが窺え る。今後とも将来を見据えた石油産業が生き残るために欠かせないイノベーティブな技術開 発の達成と、本発表会が皆様にとって貴重な交流の場となるよう期待している。」 旨のご挨拶 を頂きました。その後、各会場に別れて口頭発表 24 テーマ ( 第1、第2会場)、ポスターセッ ション 41 テーマ(第3,第4会場)の研究成果の発表が行われました。以下、本成果発表会 の概要を紹介します。 (1)製油所の省エネルギーや高 付加価値石油製品の製造、ゼロエ ミッションを目指した技術開発等を 目的とした 「 石油精製等高度化技術 開発 」(通称「グリーンリファイナ リー」)の全ての事業が、昨年度を もって終了しました。本発表会では、 低水素消費型ガソリン脱硫技術の開 開会式で挨拶する工藤専務理事と高田石油精製備蓄課長 発、燃費を向上させる潤滑油製造プ ロセス開発、廃棄物の削減を徹底し て進める技術開発について計8件の口頭発表を行い、この5年間で得られた多くの成果を紹 介しました。 (2)リファイナリーに関する技術開発としては、重質油から、より高付加価値の石油製品 を製造する 「 革新的次世代石油精製等技術開発 」 を昨年度から5年計画で推進しています。 今回は初年度の成果として革新的な重質油分解技術等に関する9テーマについて、主にポス ター発表を行いました。世界に例の無いダウンフロー反応器採用による重質油対応型高過酷 度接触分解プロセス(HS-FCC)の商業化を目指した技術開発に関しては、昨年度の成 果である本装置の基本設計について口頭発表にて報告を行いました。 (3)石油製品利用・新燃料に関わる技術開発(燃料多様化)では、昨年度から5年計画で 燃料多様化等に関する自動車・燃料研究プログラム 「JATOP(Japan Auto-Oil Program)」 を スタートさせています。本発表会では、燃料供給側の観点から昨年度に先行研究として行っ た燃料多様化と高効率化等に関する研究開発成果の中から、バイオ燃料や GTL、オイルサン ド等の混合利用に関する2件の口頭発表と4件のポスター発表を行いました。また、バイオ ディーゼル燃料(BDF)の流通過程における品質安定性研究として、BDF 混合軽油の製造、 輸送、貯蔵等の流通過程での品質・安全上の技術課題を明確にするため、2年間にわたって 実施したフィールド研究の成果についての口頭発表も行いました。 13 2008.7 参加者で満席となった口頭発表会場 (4)水素製造及び利用研究に関しては、平成 17 年度から開始した 「 将来型燃料高度利用 研究開発事業 」 が終了したため、燃料電池用水素供給源の多様化の観点から、製油所におけ る副生水素の活用や石油系燃料から高効率に水素を製造し、燃料電池システムで利用する研 究開発のこれまでの成果として、9件の口頭発表を行いました。 一方、水素スタンドの安全検証については、「 水素社会構築共通基盤整備事業 」 として平成 17 年度から5年計画で独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より受 託し実施しています。昨年度は、計画当初の充填圧力 35MPa に加え、70MPa 対応水素スタ ンドの安全検証に関する検討を新たに開始しました。本発表会では 70MPa の安全検証に関 する初めての研究成果発表を行いました。 (5)安全基盤整備事業としては、安全支援システム(PEC-SAFER)の構築を平成 17 年度 より行っております。今回は、昨年 12 月にインターネットを通じて公開した石油各社のヒ ヤリ・ハット事例、国内の事故事例、安全教育、設備安全デー タベースについて紹介し、実機によるデモンストレーション を行いました。多くの参加者に興味を持っていただき、「今 後の安全対策上、参考になる」旨の声が多く寄せられました。 (6)口頭発表と同時並行で行なわれたポスターセッション では、アンケートでの要望に応え、一昨年から技術開発に関 する全てのテーマでポスター発表を行っていますが、「深い 議論が出来た」と参加者には大変好評でした。また、今回は 産学連携シーズ研究の成果として、大学研究者から 12 件の PEC-SAFERのデモンスト レーションに関心を寄せる参加者 ポスター発表を行ったため、基礎研究的な議論が盛んに行わ れていたことも今回の発表会の特徴の一つでした。 ポスターセッションでの意見交換 14 本成果発表会を今後より良くして行くために、今年度も参加者に対してアンケート調査を 実施し、多数の方から貴重なご意見・ご要望を頂きました。このアンケート結果につきまし ては充分に検討し、今後の発表会運営に役立てていきたいと考えております。 最後に、発表会開催に当たり、ご参加・ご協力を頂きました関係各方面の皆様方に本紙面 をお借りして御礼申し上げます。また、来年度も今年とほぼ同様な企画で発表会を開催する 予定ですので、その節はご協力のほど宜しくお願い申し上げます。 なお、今年度の口頭発表プログラムを以下に掲載いたします。 第 22 回技術開発研究成果発表会 口頭発表プログラム 15 無断転載を禁止します。 16