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天然有機物中のカリ ウム , カルシュ一ム及び
化学教育 1 天然有機物申のカリウム・ガルシューム及び マグネシュームの定量実験における一考察 池 尾 和 子 (化学教室) 1、序 論 天然有機物として 山の芋や 膠の分析を行なってきたが これ等の天然物中に含まれるカリウム やマグネツエームなどを定量するにあたって 試料を磁性ルツボを用いて灰化すると灰化前よりもカ りウムの含量が炎光分光分析により増加することか明らかとなった 一般に学生実験においては天然有機物中の金属元素の定量実験においては まず灰化して有機物を 除き その後 灰分中の金属元素の定性定量分析を行なう。灰化は直接 白金ルツボを使用するのが 望ましいが 有機物を直接最初の灰化に白金ルツボを使用し 強熱すれば 白金の炭化物を生じ ル ツボを犯かす。そこで あらかじめ 有機物を磁性ノしツボで灰化する過程を省略することば出来ない。 上記の如く カリウムの含量が磁性ルツボ中で増量することが 明らかになったので 今後市販の白 色磁性ルツボを使用して 灰化した試料中のカリウム.ガルシューム及びマグネシュームの定量実験 に対し 補正すべき factorを導き出した。 2.実験の部 2.1 実験条件の選定 実験に先立ってこつの条件を決めれ a)灰化する場合の灰化法 乾式灰化法によるか 湿式灰化法によるか 先っ二つの灰化法を予備実験として行なった。 湿式灰化法は 乾式灰化法より 低潮こ於て試料を灰化させ得るので 試料中のカリウム.カ ルシューム及びマグネシュームを定量する場合 出来るだけ低温で灰化させて気化其の他こよろ 損失量をノ比くしだ榊湿式で灰化させると 液体が飛び散り 蓋の嚢1に試料が粉末状で 固着 したり 蓋の隙間から飛散し 定量実験としては よい結果が得られないので 今回は乾式法 を採用することにした。 b)比較実験試料としての既知試料 カリウム.ガルシューム及びマグネシュームの既知の試料としては1:。レツボ中で灰化させる 状態が 膠のように 煙を出してもえるもの、また灰化前にも金属元素を定量するため2:水 に対する溶解度の大きいものを選ん心 その結果 次の試薬を既知試料として用いた。試料は有機塩と無機塩とを比較するため各金 属元素につき 2種の試料(市販の特級品書たは1級品)を用いた。 一31一 カ リ ウ k ム ガルシューム Oa マグネシューム Mg 有機物 無機物 有機物 無機物 有機物 無機物 d酒石酸カリウム. 酒石酸カリウム.修酸カリウム ○ ○塩化カリウム.炭酸カリウム無水物 栂酸ガルシューム 塩化ガルシューム・6水瓶 。塩化ガルシューム・2水物,炭酸ガルシューム ○酢酸マグネシューム 塩化マグネシュ’ム・6水物 。印 試料 2.2 定量操作法 サ カリウム: ドータイトカりボールによる重量分析 カルシュ_ム及びマグネシューム1 キレート滴定による容量分析2 其の他は常法による。 2.3 実験方法及ぴ結果 a)各試料の灰化 ⑦灰化温度範囲の決定 試料は その融点以下で灰化することか望まし1↑。加熱して融点に達し 試料が液状になる と 固俸のま㌧では ルヅボを犯さない場合でも 液状では 融点以下の低温でも ルツボを 犯すことが多い。又更に試料が液化すれば ルッボの紬薬中の金属元素が試料中に混入した り ルツボ中の硅酸が出て試料中の金属元素を包みこんで不済性のものにしてしまう事も考え られる。有機試料の場合は 表1.に示すように分解生成物の融点以下又はその附近で灰化させ た。有機試料のうち酢酸マグネシュームのみは 比較試料として 1:および2:の条件は満 足されるが 8びO附近て液化するので今回のテストより除外し その他の試料は601−C 800.Cで灰化した。 ㊥⑦で決定され」た灰化温度範囲内で各試料の灰化を試みた。各温度で2時間灰化したが 灰化 時間を一定に保つため 熱電対を使用し 咳た電気炉は島津製作所製のものを使用した。炉の 温度は 最初から 400dG.500.O または600∼に固定したのち その炉中に試料を入 れた。それ等の実験結果を表2.に示した。ここで一都磁性ルツボを用いた場合と比較するため にニッケルルツボを使用したものを表示し穴。 θ 灰化渥度変化による灰分中の金属イオンの増減 灰化前の試料中の金属イオン濃度をl o oとして灰化後の灰分中の金属イオン濃度との比 を表わしたのが 妻3.である。この場合力■1ウム、ガルシューム及びマグネシュームの定 量はキレート滴定法によった。特にカリウムについては 高温になるにつれて灰分申のカリ ウムが増量するので磁性ルッボと石英ルッボの両者による結果を表4.に示した。 θθの中でカ九ソユームおよびマグネシュームが多量消失しているので 更に次の実験を行 った。すなわち灰化後磁性ルツボより灰分を除いて その磁性ルツボを水で洗浄後恒量にし て秤量した。その結果表5。に示すようにルツボの重量が増加している事がわかった。 一32一 表1.各試料の灰化温度範囲 \ カリ ウム 塩 ≡料 化 KCl カリウ ム 灰化温度 マグネシューム ガルシューム Mg Oa K 酒石酸 カリウム 塩化カル 酢酸カル 塩 化 シューム シューム マグネシウム CaC:11・理O 酢 酸 マグネシウム 靱ユダ錫0 80.C 400.C 靱グ ○鋤ゆ 500.O 7720C 6000C 以下で 灰化 KC]・の m.P.: 800.C 液. 北上 す 化によ り生戒 ・89ヅC 700.C で 6里qよ 灰化温 度の変 m.P: 理。o5 の分解点 以 上 以下で 0aCCρ 分解点 ’灰化 7ア8C 82ボC 附近で 附近で 灰化 灰化 る の1 で 物が異 なる 灰 化1 実 験 省一 9000C 略 1000.O (注) 試薬の融点及び有機塩では灰化生成物の融点 酒石酸カリウム:230.Cで分解 炭酸カリウム:891.G カリウム1 塩化カリウム:ア76.C 炭酸ガルシューム:825.Cで分解 酢酸カルシウム:分解 カルシー.ム1塩化ヵルシゴム、プア灼 酢酸サネシューム:80氾以上で液化 { 塩イトクネシューム:120.Oで分解 6水物 マグネシューム 酸化淋シューム:2500。① 表 3 灰化温度と金属イオン濃度変化 、 @ カ りk ウ ム 七.一.一察 400.C ウ機化合物」有機化合物 100 @ 一 50ぴC 72.09 600.C 78.94 ア00.C 11Z35 11989 800.C マグ森ぎゴム @ ガルシューム Ca ウ機化合物 有機化合物 100 @一 100 100 W6.28 @一 86.23 一 ’ 94.57 100.48 94.67 111.ア2 72.88 900% 一 一 一 1000.C ・ 一 一 .33・ @一 64.14 91.78 ア6.66 , 100 8950 9940 94.61 112.97 一 ウ機化合物 一 一 一 一 表 2. 灰化温度と灰分量の変化 キ ニッケルルツボによる灰化実験値 試 料 ・化温度 酒 石 酸 カ カ リウ ム ウ 塩 化 カリウ ム 酢 カ 酸 灰化前重量 Q.3109 12.0651 灰化後重量 1.4938い一2ア07 0.29821t0353 35,31 3&5 ユ 1 塩 化 1 ム 化 マグネシウム 38.5 1.8699 ■ P.29ア211.2927 1.1530 38.0138.3 38.3 1.9891 1.15ア7 1,851ア 灰化後重量 1.2427 1.9798 1.1505 1.8036 0.27 0.48 0.62 2.6 , 一 1000% 灰化前重量 Q.035812刀52† 1.4748 灰化後重量 0.733010.8686 0.4921 0.481810.ア318 0.6881 66.83 6ア.5ア163.46 65.42 62.281 63.48 一 P.499712,002喜 灰化前重量 1.8651 1.0565 1.4573 1.0947 1.4983 灰化後重量 1.7859 0.ア649 1.0546 0.8227 1.0192 4.25 2ア60 2ア64 28,41 31,68 灰化前重量 1.4879 1.0016 1.1114 1.0328 灰化後重量 0.8639 0.2061 0.2256 0.2334 41.48 7942 ア970 7740 減少率 % 塩 R98■ @ 一 一 ま Q.0861■2.0861 1.2463 ガルシューム マ グ ネ シ ユ 一 900qC 800% 灰化前重量 減少率 % ツ ム ‡ ガルシューム λ 700.C・ 一 O.495511.6ア8ざ ’ 減少率 % ω ム 600.O 500¶ 減少率 % リ ム 400.C 減少率 % (灰化時間はすべて2時間) 1 1.9897 表 4 磁性ルツボと石英ルツボ中の灰化による灰分中のカリウムの増減 灰 化 ル 温 ツ 度試料ボ 430cC 塩。.化カリ㍗ 磁性 石英 酒石酸 磁性 Jリウム 石英 500.C 600% 一28.0 一21.0 一6.0 630% 700.O 800叩 一←1Z8 十199 十11.7 斗13.0 一25.5 一5.4 一22.0 (単位%) 表 5 灰化後の磁性ルツボの増量と金属イオンの(変化量)関係 マグネシューム カ ル シ ュ ーム 灰化前のルツボの重量 700約 灰化後のルツボの重量 ルツボの増量 2Z98519 灰化前のルツボの重量 29アア099 2ア9983 500.C 灰化後のルツボの重量 297902 +0.0132 灰化前の ルツボの増量 +0.0193 灰化前の 塩化ガルシューム2水 /.0947 化物の重量 塩化マグネシューム6 1.4879 水化物重量 灰化前の塩化ガルシュ ーム2水化物中のガル 0.2984 シュームの量 ガルシュームに対する ルツボ増量の比率 4.4% 灰化前の塩化マグネシ ューム中のマグネシュ ームの量 マグネシュームに対ず るルツボの増量比 0.17ア9 10.8% 3 考察及’びまとめ カリウム塩は 有機及び無機物共に磁性ルツボ中で灰化させる場合 700.C以上の灰化温度にす れば 表1.から明らかなように ルツボ又はルツボの粕薬中のカリウムが灰化物中に析出して来ると 考えられる。 カルツエームの無機塩では 低温で灰化させる場合ぱ 宇ルシュームがルツボの粕薬中にとけこむ 量は少ないが高温になるにつれて ルツボ中に融けこむ量が多くなる。又有機塩の場合はア00.Cで は約9%位のガルシュームがルツボ中に融け込むが 800.Cおよび900.Cてば約5%の一定値と なるのでいったん700.Cで融け込んだマグネシュームが高温の為に再び析出してくるものと考えら Iれる。 マグネシュームの無機塩の場合では 多量のマグネシュームが ルッボの粕薬中にとけ込み 高温 になるに従っていったん融けこんだ マグネシュームが 高温のため再び析出し800.Cではそ .の溶融量と析出量が ほy同じ値となるものと考えられる。 ガルシューム及ぴマグネシューム塩について 灰化時にルツボ中にカルシュ・ムおよびマグネシュ 一35一 一ムが混融の事実を確めるために 灰化後灰分を除外し再び恒量にしてその重量を測定した。その結 果 重量が増加しているので ガルシエームおよびマグネシュームはルツボの粕薬中に混入したもの と考える。 ニッケルルツボと磁性ルッボによる灰化実験では 二つの間には大差はなかった。 石英ルツボと磁性ルッボを用いて カリウム塩を灰化した場合 表4.に示すように、酒石酸カリウ ム灰化分中のkの定量値は 磁性ルツボてば 斗11.フ%、石英ルッボでは一理・O%であった。その 結果磁性ルツボの場合粕薬中よりカリウムが析出して カリウムの含量が増加するが 一方石英ル ツボの場合は高温のため カリウムが石英内に入りこみ減量したことが考えられる。間600.Oで灰 化した酒石酸カリウムから得た灰分に塩酸を加えると白濁ゲル状の沈綾が生じた。その沈殿には 焼 塩球反応によって桂酸が含まれている事がわかった。従って一見ルツボが犯されて㎞ない場合でも ルツボの表面が犯されていると推定できる。一方酒石酸のみを磁性ルツボ中にて灰化してもルツボは 犯されず 有機物と無機塩として澱粉と塩化ガルシュームを混ぜて磁性ルッボ中で灰化してもルッボ は全く犯されなかった。 以上の考察より 1:天然物中のカリウム,ガルシュームおよびマグネシュームの定量実験にお いて 灰分申工り それら各金属イオン濃度を定量する場合は 表3.に示している数値を 実験値 に補正・値として考慮すれば ヵリゥム・ガルシュームおよびマグネシュームの正しい含量値に近い 結果が得られるはずである。(但し 使用する市販の磁性ルッボにより 表3.の値は変化すると考え られるので その都度測定し、その数値を補正値として考慮されたい。本実験は主として ㏄ 印 の白色磁性ルツボを使用した)。2: 白金ルツボで灰化する前処理として 磁性ルツボで 天然物 を灰化させる場合は’前述の金属元素含量の多少にかかわらず灰化温度を400.C以下におさえ 灰化 の不充分な時は 灰化時間の延長を測り 有機物の灰化のみを考慮すべきである。 尚上記の補正値については R工(トレーサー)を用いて更に検討してみたい。 本実験を通じて 実験結果の取り扱い方 実験誤差に対する再検討、 補正値を比較実験により考え る能力を養うことが出来れば、高校時代に大学入試のための暗記を主とした化学教育をうけた学生に対 j し、実験により 化学書の中に書かれた事実を着実に再検討する態度を養うことが出来る。一 (最後に本実験に協力された 化学専攻生岩橋恭子姉に感謝する) 文.1舳岐 /7献39 1.玉奥克己: 化学の領域走法17.39 (1962)一 2.上野景平: キレート滴定法 224 274 南江堂 3.荒谷公雄1 化 学 14,46 (159) 一36一