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d - 大阪府立大学学術情報リポジトリ OPERA

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d - 大阪府立大学学術情報リポジトリ OPERA
 Title
Author(s)
永久磁石同期モータのセンサレス電圧/電流位相差制御
松下, 元士
Editor(s)
Citation
Issue Date
URL
大阪府立大学, 2010, 博士論文.
2010
http://hdl.handle.net/10466/11152
Rights
http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/
大阪府立大学博士論文
永久磁石同期モータの
センサレス電圧/電流位相差制御
2010年7月
松下 元士
目次
第1章
緒論 ......................................................................................................................................1
第2章
センサレス電圧/電流位相差制御の原理.......................................................................4
2.1 緒言 .........................................................................................................................................4
2.2 モータモデルと基本特性......................................................................................................6
2.3 電流位相・トルク・電圧/電流位相差と角速度の関係..................................................8
2.4 電流位相と電圧/電流位相差と電圧振幅の関係............................................................12
2.5 電圧/電流位相差制御の基本原理....................................................................................14
2.6 モータパラメータによる電流位相と電圧/電流位相差の特性変化 ............................16
2.6.1 突極比の影響.................................................................................................................16
2.6.2 永久磁石による鎖交磁束の影響.................................................................................16
2.6.3 インダクタンスの影響.................................................................................................16
2.7 電圧/電流位相差制御に適したモータパラメータ........................................................18
2.8 結言 .......................................................................................................................................20
第3章
インバータ母線電流検出によるセンサレス電圧/電流位相差制御システム .........21
3.1 緒言 .......................................................................................................................................21
3.2 モータ駆動システム............................................................................................................21
3.3 電圧/電流位相差推定アルゴリズム................................................................................24
3.4 インバータ母線電流検出による電圧/電流位相差推定................................................25
3.5 最大トルク/電流制御と電圧/電流位相差の関係........................................................30
3.6 結言 .......................................................................................................................................37
第4章
安定化制御 ........................................................................................................................38
4.1 緒言 .......................................................................................................................................38
4.2 システムの安定性解析........................................................................................................38
4.3 電圧位相検出と角速度補正によるシステムの安定化....................................................43
4.4 電圧/電流位相差変動による電圧位相変動の推定........................................................47
4.5 有効電流変動による電圧位相変動の推定........................................................................52
4.6 結言 .......................................................................................................................................56
第5章
120 度通電矩形波駆動と電圧/電流位相差制御による 180 度通電正弦波駆動の切換
によるエアコン用圧縮機の高機能化.............................................................................................57
5.1 緒言 .......................................................................................................................................57
i
5.2 エアコン室外機インバータ制御システム構成................................................................58
5.3 120 度通電矩形波駆動・180 度通電正弦波駆動の切換..................................................62
5.3.1 120 度通電矩形波駆動から 180 度通電正弦波駆動への切換 ..................................62
5.3.2 180 度通電正弦波駆動から 120 度通電矩形波駆動への切換 ..................................62
5.4
180 度通電正弦波駆動での電圧/電流位相差とインバータ電圧の関係および高速化
........................................................................................................................................................64
5.5 120 度通電矩形波駆動・180 度通電正弦波駆動の効率・騒音比較 ..............................67
5.6 結言 .......................................................................................................................................69
第6章
結論 ....................................................................................................................................71
参考文献 ............................................................................................................................................75
謝辞 ....................................................................................................................................................78
ii
主要記号
Pn: 極対数
Ra: 電機子抵抗
Ld, Lq: d,q 軸インダクタンス
Ψa: 永久磁石による電機子鎖交磁束の大きさ
vu, vv, vw: 電機子電圧の u, v, w 相電圧
vd, vq: 電機子電圧の d, q 軸成分
vγ, vδ: 電機子電圧のγ, δ 軸成分
iu, iv, iw: 電機子電流の u, v, w 相電流
id, iq: 電機子電流の d, q 軸成分
iγ, iδ: 電機子電流のγ, δ 軸成分
Va: 電機子電圧の大きさ( Va =
vγ2 + vδ2 = vd2 + vq2 )
Ia: 電機子電流の大きさ( I a = iγ + iδ = id + iq )
2
2
2
2
δ: 電圧位相(d 軸と電機子電圧ベクトルのなす角)
β: 電流位相(d 軸と電機子電流ベクトルのなす角)
ϕ: 電圧/電流位相差(電圧位相δと電流位相βの差)
T: トルク
TL: 負荷トルク
ωm: 回転子の機械角速度
ω: 回転子の電気角速度 (ω = Pnωm)
ω1:インバータ出力電気角速度
J: 回転子の慣性モーメント
idc:インバータ母線電流
Vdc:インバータ母線電圧
⎛
⎝
p: 微分演算子 ⎜ p =
d ⎞
⎟
dt ⎠
注記
本論文では,記号*を上付きで使用した場合は指令値を意味する。
例)x*: 状態量 x の指令値
iii
第1章
緒論
近年,地球温暖化への取り組みとして,インバータ駆動される交流電動機でも一層の省エ
ネルギ化が求められてきている。中でも永久磁石同期モータ(PMSM: Permanent Magnet
Synchronous Motor)は効率が高くメンテナンスフリーであることから,エネルギ消費量の多
い白物家電といわれるエアコン,冷蔵庫,洗濯機などでもその利用範囲が拡大している。そ
のような家電製品への普及に伴って,インバータも発展してきており,容量は数 W の小型
ファンモータから 1kW を超えるコンプレッサ用モータの駆動用まで幅広く,求められる性
能により制御技術も多彩である(1),(2)。高効率運転など PMSM の高性能特性を得るためには
回転子位置に応じた電流位相,あるいは振幅制御が必要であり,通常は回転子軸上に設けら
れた位置センサ情報により電流制御を行う。しかし,この位置センサはモータの寸法,耐環
境性や価格的に不利となる。また,コンプレッサなどでは設置環境や寸法的に位置センサを
設けることが困難な状況もある。一方,位置センサではなく,位置推定を用いる方式では,
モータシステムの小型化,信頼性と対ノイズ性の向上が期待できるため,位置センサレスの
研究が行われている。一般的に永久磁石同期モータのセンサレスベクトル制御法では駆動用
電圧・電流を利用して回転子位置を推定する必要があり,正確なモータパラメータが必要と
なる。PMSM の簡単なセンサレス制御法も様々な手法が提案されている(3)-(7)。しかしながら,
位置推定演算のため制御装置が高コスト化するといった課題がある。
位置推定にモータモデ
ルを基にした手法では,モータパラメータが必要となる。一般に,モータパラメータは周囲
温度や電流などモータの状態によって変化するため,正確なモータパラメータが得られない
場合には,回転子の位置推定結果に誤差が生じることになり,制御性能の低下につながる。
これに対し,制御装置の低コスト化を目的として,回転子位置の推定に代わって,インバー
タ出力軸を基準とした V/f 制御を導入し,無効電流あるいは有効電流・無効電流を用いて制
御することも検討されている(8)-(14)。無効電力を制御することで間接的に電流位相を制御し
て高効率運転が可能ではあるが,無効電力の推定においてはやはりモータパラメータが必要
である。
一方,中谷・大塚らはモータ相電圧とモータ相電流の位相差を簡単な方法で正確に推定し,
モータ相電圧振幅のみで制御することで,モータパラメータや位置推定を必要としないセン
サレス正弦波駆動を行う「電圧/電流位相差制御」を検討してきた(15)-(18)。しかしながら,
電流位相,電圧/電流位相差,トルク,回転数の相関関係について詳細な解析がなされてい
なかった。また,モータパラメータによる運転特性の変化,安定性の解析に関しては検討が
1
なされていなかった。
本論文では,
「電圧/電流位相差制御」を,電流位相,電圧/電流位相差,トルク,回転
数についてそれぞれの相関関係を解析し,明らかにするとともに,電圧/電流位相差制御で
求められるモータ特性について検討する。さらに,その結果から電圧/電流位相差制御で要
求されるモータ特性に必要なモータパラメータ条件を示す(19)。また,電圧/電流位相差制
御において電流センサレス化について検討し,電圧/電流位相差の推定技術,高効率制御,
安定化制御について検討する(20)-(26)。最後にこれらの成果を,エアコン室外機インバータ制
御に応用して,その効果を確認する(27)-(31)。
本論文で提案するセンサレス電圧/電流位相差制御は,モータ入力力率(モータ相電圧と
モータ相電流の位相差。以下,電圧/電流位相差)を制御する方式であり,閉ループ電流制
御も位置推定も行わない V/f 制御をベースとするものである。電圧/電流位相差の指令値と
検出値の偏差を入力としてモータ相電圧の振幅を比例・積分(PI:Proportional and Integral)制
御する。電圧/電流位相差をモータ相電圧振幅値のみで制御することにより,モータ相電流
の位相を間接的に制御する点が特徴であり,制御系がシンプルで汎用性が高く安価なマイコ
ンで信頼性が高い正弦波駆動を実現できる。電圧/電流位相差を検出するためには,モータ
相電流を検出する必要がある。しかし,DCCT(直流電流センサ)は高価であるため,イン
バータ回路の主回路の過電流検出用に用いられてきた小型・安価なシャント抵抗からモータ
相電流を推定する。また,電圧/電流位相差制御では,一般的なベクトル制御と異なり 3
相全てのモータ相電流を推定する必要はなく,1 相分のモータ相電流から電圧/電流位相差
を推定してモータ相電圧振幅でこれを制御する点も特徴である。
本論文の構成は以下の通りである。
第 2 章では,永久磁石同期モータのモータモデルを示し,モータ相電流位相と電圧/電流
位相差の関係,モータ相電流位相とモータ相電圧振幅との関係について検討する。また,モ
ータ相電圧振幅により電圧/電流位相差を制御することでモータ相電流位相を間接的に制
御できることを示し,電圧/電流位相差制御の原理を説明する。電圧/電流位相差制御では
電流位相と電圧/電流位相差の関係が非常に重要となるため,電流位相を電圧/電流位相差
で制御するために要求されるモータ特性について明らかにし,必要なモータパラメータ条件
について示す。
第 3 章では,電圧/電流位相差をモータ相電流積算値の比から推定する手法を提案する。
電圧/電流位相差をモータ相電流の積算値の比から推定することで,
モータ相電流の絶対値
が不要となり,電流センサ等の特性変動などに対してロバストとなる。
2
高効率駆動については,
一般的なベクトル制御においてモータ相電流の位相を制御する場
合と同様にして,モータ相電流に対して最も効率的にトルクを発生させ,銅損を最小化でき
る最適な電圧/電流位相差で運転することにより,高効率な正弦波駆動が可能であることを
示す。
低コスト化かつ信頼性の向上を目的として,電圧/電流位相差の推定に必要となる相電流
を電流センサで直接検出する代わりに,インバータの負側 DC バスに接続されたシャント抵
抗から検出したインバータ母線電流から推定し,電圧/電流位相差を推定することを検討す
る。一般にインバータ母線電流からモータ相電流を推定する場合,2 相のモータ相電圧が等
しくなるような位相では推定が困難となるなど課題があり対策が必要となるが,
提案する電
圧/電流位相差の推定手法ではモータ相電流の推定が容易となる区間でのみモータ相電流
を検出する。
第 4 章では,
電圧/電流位相差制御においてはロータ位置の検出や推定を行っていないた
め,そのままでは本質的に不安定なシステムであることを示す。そこで,電圧位相の脈動を
検出してインバータ出力角速度を補正することにより,システムを安定化する方式について
提案する。しかしながら,
電圧位相の変動を検出するためには位置センサを必要とするため,
電圧/電流位相差制御では電圧位相の変動を電圧/電流位相差の変動,或いは有効電流の変
動から間接的に検出することを検討する。電圧/電流位相差,有効電流の変動を検出し,イ
ンバータ出力角速度を補正することでシステムを安定化できることを解析で示し,実験によ
り確認する。
第 5 章では,
エアコン室外機圧縮機のインバータ制御に電圧/電流位相差制御を適用する
ことについて検討する。エアコン圧縮機モータには低負荷から高負荷,低回転から高回転ま
での幅広い運転範囲が求められている。圧縮機モータは高温・高圧の冷媒の雰囲気内にある
ことから,位置センサを取り付けるのは難しく,一般的に位置センサレス駆動となる。商品
の特性として,エアコンでは冷暖房の起動時には非常に高い出力が要求される。その後,室
温が設定温度に到達した後は比較的出力の低い条件で長時間運転されるため,起動時の高速
駆動と低速領域での高効率駆動の両立を低コストで実現することが要求される。
この要求を
満たすため,弱め磁束制御による高速領域の拡大に効果を発揮する「電圧/電流位相差制御
による 180 度通電正弦波駆動」と低速領域での省エネルギ化に効果を発揮する「120 度通電
矩形波駆動」
の異なる二つの駆動方式を組み合わせてエアコンの運転条件により切換えるこ
とで,常に最適な圧縮機モータ駆動となるようなシステムを提案する。
第 6 章では,結論として以上の章の総括を行う。
3
第2章
センサレス電圧/電流位相差制御の原理
2.1 緒言
回転子(ロータ)に永久磁石を有する永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet
Synchronous Motor)のベクトル制御では,ロータの位置情報を用いて,相電流を三相座標系
から d-q 座標系へ座標変換し,固定子(ステータ)の d,q 軸電流を制御する。ロータの位置
の検出には位置センサを設置することが直接的な対応策になるが,位置推定を行うことも有
効である。位置推定による場合では,モータ駆動システムの低コスト化,小型化,信頼性と
対ノイズ性の向上が期待できるため,ロータ速度・位置センサレスの研究が行われている
(3)-(7)
。位置推定に関して様々な手法が報告されており,モータモデルを基にした手法では,
モータパラメータが必要となる。また,ロータの位置推定にオブザーバを用いた場合,オブ
ザーバに駆動用電圧・電流を入力として加え,その出力として回転子磁束,誘起電圧,拡張
誘起電圧が推定され,位置が推定される。オブザーバの構成にはモータパラメータが必要で
あり,正しい推定値を得るには正確なパラメータが必要である。一般に,モータパラメータ
は運転状態によって変化するため,正確なモータパラメータが得られなければ,ロータの位
置推定結果に誤差が生じることになり,制御性能の低下につながる。
ロータ位置に代わって,インバータ出力軸を基準とした V/f 制御において,無効電流ある
いは有効電流・無効電流を用いて,無効電力を制御することで間接的に電流位相を制御して
安定化や高効率運転ができる方式(8)も提案されているが,無効電力の推定においてはモータ
パラメータが必要である。
さらに,ロータ位置を使用しない方式としては,電圧位相を制御するものも提案されてい
る(32)。電圧位相を推定し,電圧振幅で電圧位相を制御しており,ロータ位置推定を必要と
しないが,電圧位相の推定においてはやはりモータパラメータを必要としている。
本論文で提案するセンサレス電圧/電流位相差制御はモータ入力力率(モータ相電圧とモ
ータ相電流の位相差。以下,電圧/電流位相差)を制御する方式であり,閉ループ電流制御
も位置推定も行わない V/f 制御に基づき,印加電圧の振幅を PI 制御することで電圧/電流
位相差を制御する。高効率運転を実現するための電圧/電流位相差指令値の生成を除けばモ
ータパラメータを必要としておらず,パラメータ変動に対してロバストである。また,モー
タパラメータの推定,位置推定の演算を行わないため,計算負荷が低い点も特徴である。
本章では,永久磁石同期モータのモータモデルを示し,モータ相電流位相と電圧/電流位
相差の関係,モータ相電流位相とモータ相電圧振幅との関係について検討する(23), (24)。また,
4
モータ相電圧振幅により電圧/電流位相差を制御することでモータ相電流位相を間接的に
制御できることを示し,電圧/電流位相差制御の原理を説明する。電圧/電流位相差制御で
は電流位相と電圧/電流位相差の関係が非常に重要となるため,電流位相を電圧/電流位相
差で制御するために要求されるモータ特性について明らかにし,必要なモータパラメータ条
件について示す(19), (23), (24)。
5
2.2 モータモデルと基本特性
永久磁石同期モータでは,所望の運転特性を得るために電機子電流を d,q 軸成分に分離す
ることが多い。本章の導入として d-q 座標上でのモータ数式モデルについて述べる。
永久磁石によって発生する磁束の方向を d 軸,d 軸と電気角で直交した軸を q 軸として,
モータの電圧方程式を下式で与える。
⎡vd ⎤ ⎡ Ra + pLd
⎢v ⎥ = ⎢ ωL
d
⎣ q⎦ ⎣
− ωLq ⎤ ⎡id ⎤ ⎡ 0 ⎤
............................................................ (2.1)
+
Ra + pLq ⎥⎦ ⎢⎣iq ⎥⎦ ⎢⎣ωΨ a ⎥⎦
ただし,
vd,vq: モータ相電圧の d 軸,q 軸成分
Ld,Lq: d 軸,q 軸のインダクタンス
id,iq: モータ相電流の d 軸,q 軸成分
Ra : 電機子抵抗
ω: 回転子の電気角速度
p: 微分演算子
Ψa: 永久磁石による電機子鎖交磁束
ここで,過渡項を除いた定常時の電圧方程式は次式となる。
⎡v d ⎤
⎡i d ⎤
⎡ − Lq i q ⎤
=
R
⎢v ⎥
a ⎢ ⎥ + ω⎢
⎥ ................................................................................. (2.2)
⎣Ψ a + L d i d ⎦
⎣i q ⎦
⎣ q⎦
(2.2)式より,鉄損を無視したモータの定常時のベクトル図は図 2.1 となる。また,モータ
相電流の d 軸,q 軸成分である id,iq は,電流振幅 Ia 及び,電流位相βを用いて次式で表わさ
れる。ここで,電流位相βは電流ベクトルが q 軸から進んだ方向を正として定義している。
id = − I a sin β ................................................................................................................. (2.3)
iq = I a cos β ................................................................................................................... (2.4)
vd = − Ra I a sin β − ωLq I a cos β ................................................................................... (2.5)
v q = Ra I a cos β − ωLd I a sin β + ωΨ a ...................................................................... (2.6)
モータトルク T,電圧位相δ,定常時の電圧/電流位相差ϕは次式で表わされる。
6
va
ωLqiq
β'
q -axis
ωLdid
Raia
δ
ϕ
ωΨ a
L did
ia
β
iq
L qiq
Ψa
id
d -axis
図 2.1 ベクトル図
T = Pn {Ψ a i q + ( Ld − Lq )i d i q }
1
⎧
⎫ ...................................................... (2.7)
2
= Pn ⎨Ψ a I a cos β + ( Lq − Ld ) I a sin 2 β ⎬
2
⎩
⎭
⎛ − vd
⎜ v
⎝ q
δ = tan −1 ⎜
⎞
R a I a sin β + ωLq I a cos β
⎛
⎟ = tan −1 ⎜
⎜
⎟
⎝ R a I a cos β − ωLd I a sin β + ωΨ a
⎠
⎞
⎟ ............................ (2.8)
⎟
⎠
ϕ = δ − β ........................................................................................................................ (2.9)
ω = Pn ω m ..................................................................................................................... (2.10)
ただし,Pn は極対数,ωm は回転子の機械角速度である。
また,(2.7)式を電流振幅 Ia について表すと,次式となる。
Ia =
− PnΨ a cos β + ( PnΨ a cos β ) 2 + 2 Pn ( Lq − Ld )T sin 2 β
Pn ( Lq − Ld ) sin 2 β
7
........................... (2.11)
2.3 電流位相・トルク・電圧/電流位相差と角速度の関係
(2.8)式より,電圧位相δは Ld, Lq≫Ra /ωの条件において,以下のように近似できる。
L q cos β
⎞
⎟ ............................................................................. (2.12)
⎟
⎝ − L d sin β +Ψ a / I a ⎠
⎛
δ ≈ tan −1 ⎜⎜
このように,電圧位相δは角速度ωに依存しないため,(2.9)式より電圧/電流位相差ϕも角
速度ωには依存しない。また,(2.11)式より電流振幅 Ia は電流位相βとモータトルク T に依存
しているため,電圧位相δも電流位相βとモータトルク T に相関がある。
表 2.1 の#1 に示すモータパラメータを用い,電流位相βとモータトルク T と電圧/電流位
相差ϕの関係を,角速度ωm を 500min–1, 2000min–1, 4000min–1, 6000min–1 と変化させてシミュ
レーションした結果を図 2.2 に示す。
図 2.2 より,角速度ωm,トルク T により電流位相βと電圧/電流位相差ϕの関係は異なる
が,電流位相βに対して,電圧/電流位相差ϕが単調減少の関係となる区間が存在し,この
区間では電流位相βを電圧/電流位相差ϕで間接的に制御できることを示している。例えば,
図 2.2(b)において T = 0.5Nm では電流位相βが 80deg 程度まで電流位相βと電圧/電流位相差
ϕの関係は単調減少の関係であり,この区間では,電流位相βを電圧/電流位相差ϕで間接的
に制御できる。しかしながら,図 2.2(b)の T = 2.0Nm では電流位相βが 60deg 程度で電流位
相βと電圧/電流位相差ϕの関係が単調減少ではなくなり,電流位相βが増加するにつれて電
圧/電流位相差ϕが増加しているため,電流位相βと電圧/電流位相ϕの関係は必ずしも一対
一の関係とはならない区間が存在していることも確認できる。この特性について,電圧/電
流位相差ϕが電圧位相βと電流位相δの差であることから,電圧位相δについて考えると,モ
ータトルク T が大きくなると,同一電流位相での電流振幅値 Ia が大きくなり,電圧位相δも
進むため,電圧/電流位相差ϕは大きくなる。したがってモータトルク T が大きく,電流位
相βが進む状態では,電流位相βと電圧/電流位相差ϕの関係が単調ではなくなる区間が発生
する場合がある。
角速度と電流位相,トルク,電圧/電流位相差の関係は高速域について着目すると,図
2.2(b), (c), (d)より,角速度ωm が 2000min–1 以上ではほぼ同一の関係にあり,角速度に殆ど依
存していないことが確認できる。この特性については,電圧位相δおよび電圧/電流位相差
ϕは(2.12)式より,Ld, Lq≫Ra /ωの条件において,角速度に依存しないことを示している。ま
た,低速域について着目して,図 2.2(a),(b)を比較すると,角速度ωm = 500min–1 と 2000min–1
には差異が見られ,特に高トルク,電流位相が進む状態でその差異が大きくなっている。こ
8
の特性を電圧/電流位相差が電圧位相と電流位相の差であることから,電圧位相δの特性と
して考える。図 2.1 のベクトル図において,電圧位相δは,永久磁石による電機子鎖交磁束
Ψa による誘起電圧成分とインダクタンスの電圧成分と電機子抵抗の電圧成分の合成である
ことから,Ψa による誘起電圧成分ωΨa,インダクタンスによる電圧成分ωLqiq,ωLdid が電機
子抵抗の電圧成分 Raia に比較して相対的に大きくなると,電機子抵抗の電圧成分が電圧位相
δに与える影響が小さくなる。すなわち,Ld, Lq≫Ra /ωの条件において電圧位相δはΨa による
誘起電圧成分ωΨa,インダクタンスによる電圧成分ωLqiq,ωLdid で決まり,電圧位相δは角速
度ωとの関係はみられなくなる。このため,電圧/電流位相差ϕにも角速度ωとの関係はみら
れなくなる。したがって,図 2.2(a)のような Ld, Lq≫Ra /ωの近似が成立しない低速域などで
は,電機子抵抗の電圧成分が電圧位相δに与える影響が相対的に大きくなり,電流位相,ト
ルク,電圧/電流位相差の関係は角速度により変化することになる。
表 2.1 シミュレーションに使用したモータパラメータ
#1
#2
#3
#4
2
←
←
←
Resistance Ra [Ω]
0.655
←
←
←
Permanent magnet flux-linkage Ψa [Wb]
0.218
←
0.436
0.218
d-axis inductance Ld [mH]
19.9
←
←
4.98
q-axis inductance Lq [mH]
21.0
39.8
21.0
5.25
Salient-pole ratio Lq/Ld
1.06
2.0
1.06
1.06
Number of pole pairs Pn
9
90
Phase difference ϕ [deg]
70
50
30
10
-10
-30
-50
-70
-90
-10
0
10
20
30
40
50
Current phase β [deg]
60
70
80 0.5 1.5
3.5
2.5
4.5
Torque T
[Nm]
(a) ωm = 500min–1
90
Phase difference ϕ [deg]
70
50
30
10
-10
-30
-50
-70
-90
-10
0
10
20
30
40
Current phase β [deg]
50
60
70
80 0.5 1.5
2.5
3.5
Torque T
[Nm]
(b) ωm = 2000min–1
図 2.2 電流位相β,トルク T と電圧/電流位相差ϕの関係
(モータパラメータ#1)
10
4.5
90
Phase difference ϕ [deg]
70
50
30
10
-10
-30
-50
-70
-90
-10
0
10
20
30
40
50
Current phase β [deg]
60
70
80 0.5 1.5
3.5
2.5
4.5
Torque T
[Nm]
(c) ωm = 4000min–1
90
Phase difference ϕ [deg]
70
50
30
10
-10
-30
-50
-70
-90
-10
0
10
20
30
40
Current phase β [deg]
50
60
70
80 0.5 1.5
2.5
3.5
Torque T
[Nm]
(d) ωm = 6000min–1
図 2.2 電流位相β,トルク T と電圧/電流位相差ϕの関係
(モータパラメータ#1)
11
4.5
2.4 電流位相と電圧/電流位相差と電圧振幅の関係
表 2.1 の#1 に示すモータパラメータを用いて電流位相βと電圧/電流位相差ϕの関係,電
流位相βとモータ相電圧ベクトル va の大きさであるモータ相電圧振幅 Va の関係,モータ相
電圧振幅 Va と電圧/電流位相差ϕの関係についてシミュレーションした結果を図 2.3 に示す。
図 2.3(a)から電流位相βと電圧/電流位相差ϕの関係については,前節 2.3 でも述べたよう
に,モータトルク 1.0Nm では電流位相 65deg,モータトルク 2.0Nm では電流位相 50deg 以
下において電圧/電流位相差ϕは電流位相βに対して単調減少の関係を示しており,電圧/
電流位相差ϕを制御し,間接的に電流位相βを制御できる。したがって,電圧/電流位相差ϕ
を制御することにより,電流位相βを制御する場合と同様に弱め磁束制御も可能である。
図 2.3(b)より,供給できるモータ相電圧振幅 Va に制限がある場合には,角速度が増加す
るにつれて弱め磁束により電流位相βが進むことも確認できる。
図 2.3(c)より,モータ相電圧振幅 Va と電圧/電流位相差ϕの関係が単調な関係にある領域
ではモータ相電圧振幅 Va により電圧/電流位相差ϕを制御できることが分かる。
図 2.3(a),(b),(c)から,モータ相電圧振幅 Va を増加させると,電流位相βが小さくなり,電
圧/電流位相差ϕは大きくなり,モータ相電圧振幅 Va を減少させると,電流位相βが大きく
なり,電圧/電流位相差ϕは小さくなる関係が確認できる。
12
60
-1
ω m =6000min , T =1.0 Nm
-1
ω m =6000min , T =2.0 Nm
Phase difference ϕ [deg]
40
20
0
-40
-30
-20
-10
0
10
20
30
40
50
60
70
80
-20
-40
-60
Current phase β [deg]
(a) 電流位相βと電圧/電流位相差ϕの関係
300
Motor voltage Va [V]
250
200
150
100
-1
ω m =2000min , T =2.0 Nm
50
-1
ω m =4000min , T =2.0 Nm
-1
ω m =6000min , T =2.0 Nm
0
-40
-30
-20
-10
0
10
20
30
40
50
60
70
80
Current phase β [deg]
(b) 電流位相βとモータ相電圧振幅 Va の関係
60
Phase difference ϕ [deg]
40
20
0
0
50
100
150
200
250
-20
-40
-1
ω m = 2000min , T =2.0Nm
-1
ω m = 4000min , T =2.0Nm
-60
Motor voltage V a [V]
(c) モータ相電圧振幅 Va と電圧/電流位相差ϕの関係
図 2.3 電流位相β,電圧/電流位相差ϕ,モータ相電圧振幅 Va の関係
(モータパラメータ#1)
13
2.5 電圧/電流位相差制御の基本原理
電圧/電流位相差制御は,前述のようにモータ相電圧とモータ相電流の位相差である電圧
/電流位相差ϕと電流位相βに相関があること,電圧/電流位相差ϕはモータ相電圧振幅 Va
で制御できることに着目したモータ制御手法であり,間接的に電流位相βを制御できるため,
高効率運転や弱め磁束制御が可能となる。このとき,ロータの位置検出および推定は不要で
ある。例えば,図 2.4 に示すように,モータ相電圧の振幅値 Va で電圧/電流位相差ϕを目標
電圧/電流位相差ϕ*に制御することにより,高効率点での正弦波駆動が実現できる。図 2.3
で確認したように,一般に図 2.5 に示すように,角速度 ω によらず,モータ相電圧の振幅値
Va と電圧/電流位相差ϕには単調増加の関係があり,モータ相電圧の振幅値 Va を制御する
Va
ωt
Efficiency
ϕ
Motor current
Motor voltage
Back
EMF
ωt
φ*
β
δ
φ
図 2.4 電圧/電流位相差制御の概要
Phase difference
φ
ω
ω
(Low speed)
(Middle speed)
ω
(High speed)
φ*
Motor voltage
Va
図 2.5 モータ相電圧振幅 Va と電圧/電流位相差ϕの関係
14
ことで,電圧/電流位相差ϕを電圧/電流位相差指令値ϕ*に一致させる。
図 2.6 に電圧/電流位相差制御の原理を示す。電圧/電流位相差制御では電流位相βが所
定の位相となるように相関関係にある電圧/電流位相差ϕを所定の電圧/電流位相差指令
値ϕ∗となるようにモータ相電圧振幅 Va を制御する。
前節のシミュレーション結果図 2.3(a)より,電流位相βが大きくなる弱め磁束状態では,
モータトルク 1.0Nm では電流位相が 65deg 以上,モータトルク 2.0Nm では 50deg 以上で電
流位相βと電圧/電流位相差ϕの関係が単調減少から単調増加に変化している。このため,
電圧/電流位相ϕで電流位相βを制御することができなくなる。この特性のため,電圧/電
流位相差制御で弱め磁束制御が可能な電流位相βの範囲は限定されることになる。また,電
流位相βと電圧/電流位相差ϕの関係はモータトルクに依存しており,モータトルクが小さ
いほど電圧/電流位相差ϕと電流位相βが単調な関係を示す電流位相βの範囲は広くなって
いる。
以上の結果から,電圧/電流位相差制御に適した電圧/電流位相差ϕと電流位相βの関係,
およびモータトルクとの関係について以下にまとめる。
・ 電圧/電流位相差ϕと電流位相βは広い範囲で単調減少の関係にある。
・ 電圧/電流位相差ϕと電流位相βの関係はモータトルクの依存性が少ない。
・ 電流位相βの変化に対する電圧/電流位相差ϕの変化が大きい。
Phase difference reference ϕ
∗
+
_
PI controller
Δϕ
Motor voltage V a
PMSM
Correlation
Phase difference ϕ
Current phase β
Phase Difference ϕ
図 2.6 電圧/電流位相差制御の原理
15
2.6 モータパラメータによる電流位相と電圧/電流位相差の特性変化
2.6.1 突極比の影響
表 2.1 に示す#1 のモータの突極比はほぼ 1 である。#1 のモータパラメータにおいて Lq を
大きくし突極比を 2 とした#2 のモータパラメータでのシミュレーション結果を図 2.7(a)に示
す。#1 のモータパラメータでのシミュレーション結果の図 2.2 と比較すると突極比が大きい
ほど電流位相βに対して電圧/電流位相差ϕが単調減少する電流位相βの範囲が広くなって
いる。図 2.1 のベクトル図より,突極比が大きい場合,電流位相βに対してβ’は小さくなる。
インダクタンスによる電圧成分のうちωLdid による電圧成分が電圧位相δに与える相対的な
影響がωLqiq に比較して小さくなるためである。
2.6.2 永久磁石による鎖交磁束の影響
表 2.1 に示す#1 のモータの永久磁石による電機子鎖交磁束Ψa を 2 倍の値とした#3 のモー
タパラメータでのシミュレーション結果を図 2.7(b)に示す。Ψa が大きいほど電流位相βに対
して電圧/電流位相差ϕが単調減少する電流位相βの範囲が広くなっている。また,モータ
トルクに対して電圧/電流位相差ϕは大きな変化を示さない特性を示している。電圧位相δ
は(2.12)式に示すように,Ψa による誘起電圧成分とインダクタンスの電圧成分の合成と近似
できる。したがって,Ψa による誘起電圧成分ωΨa がωLqiq,ωLdid に比較して相対的に大きく
なると,インダクタンスの電圧成分が電圧位相δに与える影響が小さくなる。また,Ψa が大
きくなると同一トルクでは id, iq も小さくなるためモータトルクに対しても電圧位相δに与え
る影響は小さくなる。
2.6.3 インダクタンスの影響
表 2.1 に示す#1 のインダクタンスに対して 1/4 倍のインダクタンスとした#4 のモータパ
ラメータでのシミュレーション結果を図 2.7(c)に示す。#1 のモータパラメータでのシミュレ
ーション結果の図 2.2 と比較するとインダクタンスが小さいほど電流位相βに対して電圧/
電流位相差ϕが単調減少する区間が広くなっている。また,モータトルクに対して電圧/電
流位相差ϕは大きな変化を示さない。Ψa の影響で述べたように,インダクタンスの電圧成分
が小さくなり,Ψa による誘起電圧成分ωΨa がωLqiq,ωLdid に比較して相対的に大きくなると,
インダクタンスの電圧成分が電圧位相δに与える効果が小さくなるためである。
16
90
Phase difference ϕ [deg]
70
50
30
10
-10
-30
-50
-70
-90
-10
0
10
20
30
40
50
Current phase β [deg]
60
70
80 0.5
1.5
2.5
3.5
4.5
Torque T
[Nm]
(a) Lq = 39.8mH (モータパラメータ#2)
90
Phase difference ϕ [deg]
70
50
30
10
-10
-30
-50
-70
-90
-10
0
10
20
30
40
50
Current phase β [deg]
60
70
80 0.5
1.5
3.5
2.5
4.5
Torque T
[Nm]
(b) Ψa = 0.436Wb (モータパラメータ#3)
90
Phase difference ϕ [deg]
70
50
30
10
-10
-30
-50
-70
-90
-10
0
10
20
30
40
50
Current phase β [deg]
60
70
80 0.5
1.5
2.5
3.5
4.5
Torque T
[Nm]
(c) Ld = 4.98mH, Lq = 5.25mH (モータパラメータ#4)
図 2.7 モータパラメータと電圧/電流位相差特性の関係(ωm = 4000min–1)
17
2.7 電圧/電流位相差制御に適したモータパラメータ
2.5 節で述べた電圧/電流位相差制御に適した特性を満たすには,2.6 節でのモータパラメ
ータの違いによる特性変化の検討結果から,モータパラメータとして以下の条件が望ましい。
(a) 突極比が大きいこと。
Lq/Ld≫1
(b) 永久磁石の鎖交磁束はインダクタンスによる磁束よりも大きいこと。
Ψa ≫Lqiq, Ldid
(a)は電流位相βの電圧位相δへの非干渉化,(b)は電圧位相δ ≒0 を目的としている。ただ
し,(b)においてΨa を大きくすると,モータ相電流も小さくなるため弱め磁束領域で電流位
相βと電圧/電流位相差ϕの単調性は高くなるが,誘起電圧成分も高くなることから,駆動
するためには高いモータ相電圧が必要となる。また,インダクタンスを小さくすると弱め磁
束効果そのものが低下することにも注意が必要である。表 2.1 に示す#1 のインダクタンスに
対して 1/4 倍のインダクタンスとした#4 のモータパラメータでのシミュレーション結果を
図 2.8 に示す。図 2.3(a)に示す#1 のモータパラメータでの場合と比較して図 2.8(a)は電流位
相βに対して電圧/電流位相差ϕが単調減少する区間が広い。また,電流位相βと電圧/電流
位相差ϕの関係はモータトルク T が変化しても大きく変化していない。ただし,図 2.8(b)よ
り電流位相βが進む領域での弱め磁束効果が小さく,図 2.3(b)と比較してモータ相電圧は高
い。
18
60
-1
ω m =6000min , T =1.0 Nm
-1
ω m =6000min , T =2.0 Nm
Phase difference ϕ [deg]
40
20
0
-40
-30
-20
-10
0
10
20
30
40
50
60
70
80
-20
-40
-60
Current phase β [deg]
(a) 電流位相βと電圧/電流位相差ϕの関係
300
Motor voltage Va [V]
250
200
150
100
-1
ω m =2000min , T =2.0 Nm
50
-1
ω m =4000min , T =2.0 Nm
-1
ω m =6000min , T =2.0 Nm
0
-40
-30
-20
-10
0
10
20
30
40
50
60
70
80
Current phase β [deg]
(b) 電流位相βとモータ相電圧振幅 Va の関係
60
-1
ω m = 2000min , T =2.0Nm
-1
ω m = 4000min , T =2.0Nm
Phase difference ϕ [deg]
40
20
0
0
50
100
150
200
250
-20
-40
-60
Motor voltage V a [V]
(c) モータ相電圧振幅 Va と電圧/電流位相差ϕの関係
図 2.8 電流位相β,電圧/電流位相差ϕ ,モータ電圧振幅 Va の関係
(モータパラメータ#4)
19
2.8 結言
電流位相と電圧/電流位相差には相関関係があることを示し,電流位相を電圧/電流位相
差で制御できることを示した。また,電圧/電流位相差制御ではモータ相電圧振幅で電圧/
電流位相差を制御し,間接的に電流位相を制御できることを示した。
電流位相と電圧/電流位相差の関係は角速度およびトルクによる影響を受けることを明
らかにした。また,角速度の高い高速領域では電流位相と電圧/電流位相差の関係は角速度
の影響を受けにくくなることを示した。
弱め磁束領域では電圧/電流位相差で電流位相が間接的に制御できなくなる場合がある
ことを明らかにした。電流位相を間接的に制御する電圧/電流位相差制御において要求され
るモータ特性について述べ,要求されるモータ特性を満たすために必要なモータパラメータ
の条件を明らかにした。
この条件を満たすと弱め磁束領域での運転も含めた幅広い電流位相
で運転できることを確認した。
電圧/電流位相差制御は制御系でモータパラメータ,座標変換をオンラインで必要としな
いため汎用性が高く,非常にシンプルである。一方,その制御特性はモータパラメータに大
きく依存しているため,
アプリケーションの仕様に合わせてモータパラメータを調整する必
要がある。換言すれば,電圧/電流位相差制御はモータパラメータ・モータ特性に制約を与
える代わりに,モータパラメータや位置,座標変換など制御に直接必要としない多くの間接
情報の検出,推定を不要とすることで制御系を簡素化できる制御方式といえる。
20
第 3 章 インバータ母線電流検出によるセンサレス電圧/電流位相差制御シス
テム
3.1 緒言
センサレス電圧/電流位相差制御では電圧/電流位相差の情報が必要となる。電圧/電流
位相差の推定には,電圧位相とモータ相電流の電流極性反転時を検出する手法が報告されて
いる(33)。しかしながら,電流極性を用いた電圧/電流位相差の推定はモータ相電流の歪み
などの影響を受けやすくなる。
本章では,電圧/電流位相差をモータ相電流積算値の比から推定することを提案する。電
圧/電流位相差をモータ相電流の積算値の比から推定しているため,
モータ相電流の絶対値
が不要となり,電流センサ等の特性変動などに対してロバストとなる。ただし,本推定手法
ではモータ相電流を積算するため電流波形全体の歪みや電流検出誤差の累積による影響を
受けやすくなることから,積算する電圧位相の区間を限定して精度よく電圧/電流位相差の
推定を行う。
また,電圧/電流位相差の推定を行う際に必要となるモータ相電流を電流センサで直接検
出する代わりに,インバータの負側 DC バスに接続されたパワーモジュールの過電流検出用
に用いられるシャント抵抗から検出したインバータ母線電流からモータ相電流を推定し,電
圧/電流位相差を推定する手法を提案し,回路の低コスト化と信頼性を両立させる(21)-(24)。
一般にインバータ母線電流からモータ相電流を推定する場合,2 相のモータ相電圧が等しく
なるような位相では推定が困難となるなどの課題があり対策が必要(34),(35)となるが,提案す
る電圧/電流位相差の推定手法ではモータ相電流の推定が容易となる区間でのみモータ相
電流を検出する。電圧/電流位相差制御では 3 相全てのモータ相電流を推定する必要はなく,
1 相分のモータ相電流から電圧/電流位相差を推定してモータ相電圧振幅でこれを制御す
る。
ベクトル制御でモータ相電流の位相を制御する場合と同様にして,モータ相電流に対して
最も効率的にトルクを発生させ,銅損を最小化できる最適な電圧/電流位相差で運転するこ
とにより,高効率な正弦波駆動が可能であることについて示す(20)。
3.2 モータ駆動システム
インバータ母線電流検出によるセンサレス電圧/電流位相差制御のシステム構成を図 3.1
に示す。本制御システムは駆動電圧ベクトルを基準とした V/f 制御をベースとしており,モ
21
ータの回転数ωm は,モータ巻線に通電するパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation) さ
れた正弦波からなるモータ相電圧の周波数で決定される。モータ相電圧の角周波数ω*は設
定回転数ωm*で決まる(ω*=Pn ωm*)。10 ビットの A-D(Analog to Digital)変換を含むシャント
抵抗の電圧検出から PWM 変調されたモータ相電圧の生成までの全ての制御はシングルチ
ップマイクロプロセッサ(5V 電源)上で行われる。
インバータ母線電流をシャント抵抗の両端電圧として電流検出回路を介して検出し,モー
タ相電流を推定する。インバータ母線電流検出回路を図 3.2 に示す。パワーモジュール
(IPM:Intelligent Power Module)の過電流検出はシャント抵抗の両端電圧として 0.5V であ
るため増幅率を 5 倍として,マイクロプロセッサの A-D 変換器の入力が過電流検出時で最
大 5V となるように設定している。インバータ母線電流は負側の検出も行うため,オペアン
プの入力にオフセット 2.5V を加えている。
インバータ母線電流から推定されたモータ相電流を用いて電圧/電流位相差ϕを算出す
る。シャント抵抗の両端電圧からインバータ母線電流のピーク電流を検出し,モータトルク
を推定することにより,
モータトルクとの相関関係からあらかじめ設定された電圧/電流位
相差指令値ϕ*をテーブルデータより算出する。図 2.5 に示すように,電圧/電流位相差ϕ が
電圧/電流位相差指令値ϕ*となるようにモータ相電圧振幅の指令値 Va*を PI 制御する。
モータ相電圧の角周波数ω*とモータ相電圧振幅指令値 Va*から各相の電圧指令値が次式の
ように決定される。
⎫
⎪
v = V sin ω t
⎪
⎛ * 2π ⎞ ⎪
*
*
vv = Va sin ⎜ ω t −
⎟ ⎬ .............................................................................................. (3.1)
3 ⎠⎪
⎝
4π ⎞⎪
⎛
v w* = Va* sin ⎜ ω *t −
⎟
3 ⎠⎪⎭
⎝
*
u
*
a
*
本制御システムでは位置センサ,相電流センサを使用しておらず,モータ駆動システムを
低コスト化できる。
モータ相電流からの電圧/電流位相差の推定については 3.3 節で詳細に説明する。また,
インバータ母線電流からのモータ相電流の推定については 3.4 節で詳細に説明する。
22
Tr u
AC
AC
↓
DC
Tr v
Tr w
U
V
i dc
W
Shunt Register Tr x
Tr y
Tr z
IPM
Amplifier
Closed-Loop
Phase Difference
Controller
ADC
Torque
Detection
Open-Loop Speed
Controller
PWM
Phase Difference
Detection
ϕ
Va
*
* sinω t
Sine Waveform
Generator
ω*
PI Controller
Phase Difference
Reference Table
PM Motor
Speed
Reference
ϕ*
図 3.1 インバータ母線電流検出による電圧/電流位相差制御システム構成
5V
ADC
15V
100k
1k
idc
0.027
20k
-
+
5V
1000p
Shunt Register
20k
0V
200k
200k
0V
図 3.2 インバータ母線電流検出回路
23
3.3 電圧/電流位相差推定アルゴリズム
電圧/電流位相差ϕ の推定方法を図 3.3 に示す。モータ相電流が正弦波であることを仮定
してモータ相電圧の各位相期間(0~π/2, π/2~π)におけるモータ相電流の面積(S0, S1)を
(3.2)式,(3.3)式から求め,(3.4)式より面積比 Sr(S0 / S1)として算出する。(3.4)式を電圧/
電流位相差ϕ について整理すると(3.5)式に示すように面積比 Sr と電圧/電流位相差ϕ には
相関関係があることから,面積比 Sr を計算することで電圧/電流位相差ϕ を推定すること
ができる。このように電圧/電流位相差ϕ を面積比 Sr から求めているため,モータ相電圧
とモータ相電流のそれぞれのゼロクロス点だけで電圧/電流位相差ϕ を検出する方法に比
べノイズや波形の歪みなどの影響が少なく信頼性が高くなると期待できる。また,面積比
Sr はモータ相電流の積算値の比であるため,モータ相電流の絶対値を必要としておらず,電
流検出器の精度に依存することなく電圧/電流位相差ϕ を正確に推定できる。一方,本推
定アルゴリズムでは電流波形全体の歪みや電流検出誤差の累積による影響を受けやすくな
るため,3.4 節で述べるインバータ母線電流の検出タイミングを用いて電圧/電流位相差の
推定を行う。
π /2
S0 =
∫I
a
sin(θ − ϕ ) dθ = I a ( − sin ϕ + cos ϕ ) ......................................................... (3.2)
0
π
S1 =
∫I
a
sin(θ − ϕ ) dθ = I a (sin ϕ + cos ϕ ) ............................................................. (3.3)
π /2
Sr =
S 0 − tan ϕ + 1
.................................................................................................. (3.4)
=
S1
tan ϕ + 1
⎛ 1 − Sr
⎝ 1 + Sr
ϕ = f ( S r ) = tan −1 ⎜⎜
⎞
⎟⎟ .......................................................................................... (3.5)
⎠
24
Motor
Current
I a sin(θ−ϕ )
S0
0
Motor
Voltage
S1
θ =ω * t
V a * sinθ
φ
0
π/2
θ [rad]
π
ϕ = f (S 0/S 1)
図 3.3 電圧/電流位相差推定手法
3.4 インバータ母線電流検出による電圧/電流位相差推定
3.3 節で述べたように電圧/電流位相差を推定するためにはモータ相電流を検出する必要
があるが,図 3.1 に示すようにモータ駆動システムには低コスト化を目的としてモータ相電
流を直接検出する電流センサがなく,モータ相電流を過電流検出用に設けられているシャン
ト抵抗に流れるインバータ母線電流から推定する。
図 3.4 に示すようにモータ相電流 iu, iv, iw は IPM のスイッチング素子の状態に応じてイン
バータ母線電流 idc に観測される。図 3.5 に示すようにインバータキャリア周期内でスイッ
チング素子の on/off の状態により,インバータ母線電流 idc にはその時点のモータ相電圧が
最大のモータ相電流 idc1 とモータ相電圧が最小のモータ相電流 idc2 の 2 つが観測される(35)。
例えば,図 3.5 では vu* > vv*> vw*の関係となっているため,スイッチング素子 Tru,Trv,Trw
の状態から,最大電圧相である U 相のモータ相電流 iu と最小電圧相である W 相のモータ相
電流 iw がインバータ母線電流 idc1, idc2 としてそれぞれ観測されている。ただし,idc2 について
はモータ相電流 iw と符号が逆転していることに注意が必要である。また,3 相のモータ相電
圧の大小関係の組み合わせは図 3.6 に示すように電圧位相に応じて 6 つに分割される。した
がって,スイッチング素子の状態と表 3.1 に示すモータ相電圧の大小関係を考慮することに
より,モータ相電流をインバータ母線電流から検出することができる。
25
Period of carrier
vu*
30
60
90
120
θ =ω ∗ t
vw*
iu
i dc
0
vv*
iv
150
180
210
240
270
300
330
360
iw
図 3.4 インバータ母線電流とモータ相電流(ϕ = 30deg)
Period of carrier
i dc 1 = i u
vu
*
vv
*
vw
*
i dc
on
Tr u off
on
Tr v off
on
Tr w off
t
i dc 2 = −i w
Switching signals
図 3.5 スイッチング状態とインバータ母線電流 idc の関係
26
θ [deg]
Period of carrier
v u*
v v*
v w*
θ =ω ∗ t
Detection mode
6
0
1
30
2
60
90
120
3
150
180
4
210
240
5
270
6
300
330
360
θ [deg]
図 3.6 印加電圧の位相とモータ相電圧の大小関係
表 3.1 電圧位相とモータ相電圧の大小関係と検出電流
Detection
mode
1
2
3
4
5
6
θ
[deg]
30-90
90-150
150-210
210-270
270-330
330- 30
Motor voltage
Max
Min
U
V
U
W
V
W
V
U
W
U
W
V
idc
idc1
iu
iu
iv
iv
iw
iw
idc2
–iv
–iw
–iw
–iu
–iu
–iv
電圧/電流位相差の推定では,図 3.7 のように,U 相モータ電圧位相の π/2 を中心として
U 相モータ電圧 vu*が V 相,W 相モータ電圧 vv*,vw*よりも大きくなる区間で,U 相モータ
電流 iu を等間隔Δϕ (π/12)に所定回数(6 ポイント)サンプリングする。
ここで iu はインバータ母線電流 idc から演算する。例えば,図 3.7 のサンプリングポイン
ト 4 では vu* > vv*> vw*の関係となっているため,IPM のスイッチング素子 Tru,Trv,Trw は図
3.8,図 3.9 に示す関係となり,インバータキャリア周期内の Tru:on,Trv:off,Trw:off と
なるポイントでインバータ母線電流 idc を検出することで,iu を推定することができる。図
3.10 にインバータ母線電流から U 相モータ電流を推定した実験結果を示す。キャリア周波
数は 5kHz,モータ回転数は 1500min–1, 2500min–1 である。なお,図 3.10 の実験結果では全
27
ての印加電圧の位相で U 相モータ電流を検出することができるように印加電圧の位相に応
じてインバータ母線電流を検出するタイミングと符号処理を表 3.1 に従って切替えている。
図 3.10 より U 相モータ電流はインバータ母線電流から良好に推定することができている。
図 3.7 のサンプリングデータ iu[k](k = 1~6)の前半区間 3 点の積算値 S0 と後半区間 3 点の
積算値 S1 から(3.6)式より面積比 Sr を算出し,(3.5)式より電圧/電流位相差ϕを推定する。
インバータ母線電流 idc 検出による電圧/電流位相差ϕの推定についての実験結果は次節 3.5
節で述べる。
3
S0
=
Sr =
S1
∑ i [k ]
k =1
6
u
∑ i [k ]
k =4
....................................................................................................... (3.6)
u
図 3.7 のように,U 相モータ電流を U 相モータ電圧位相の π/2 を中心として数ポイントだ
けサンプリングすることで電圧/電流位相差ϕを推定でき,Tru:on,Trv:off,Trw:off の区
間で Tru:on の期間が狭くなるサンプリングの困難な vu*≒vv*,vu*≒vw*となる位相でのイン
バータ母線電流 idc のサンプリングを避けることができる。したがって,低速時や低負荷時
においても Tru:on の区間が広くなる位相でサンプリングを行うため,U 相モータ相電流を
推定することができる。また,モータ相電流の絶対値も必要としないため,シャント抵抗の
Motor
Current
S 0=
3
∑i
u [k ]
k =1
2
4
3
5
S 1=
6
∑i
u [k ]
k =4
6
1
iu
0
Motor
*
*
Voltage v w v u
Δϕ
θ =ω * t
v v*
θ [rad]
0
π/2
図 3.7 モータ相電流検出タイミング
28
π
精度,ばらつきへの考慮が不要となり,信頼性を高くできる。しかしながら極端な低負荷時
においてはモータ相電流値そのものが小さくなり電圧/電流位相差ϕの推定は困難となる。
キャリア周波数が高くなると,インバータ母線電流を検出できる時間が狭くなり,AD 変換
の処理時間が不足する。また,スイッチング素子の on/off の影響によるインバータ母線電流
の不安定な区間でモータ相電流を検出することにもなり,
モータ相電流の検出精度が低下す
る恐れがある。
Period of carrier
vu
*
vv
*
vw
Detection points of i dc 1 = i u
*
i dc
t
on
Tr u off
on
Tr v off
on
Tr w off
Switching signals
図 3.8 インバータ母線電流検出タイミング
Tr u
Tr v
PM Motor
Tr w
U
AC
AC
↓
DC
iu
i dc
Shunt Register Tr x
Tr y
iv
iw
V
W
Tr z
IPM
Amplifier
ADC
図 3.9 スイッチング状態とインバータ母線電流 idc とモータ相電流関係
(図 3.7 のサンプリングポイント 4)
29
20ms/div
i dc (5A/div)
0i u (5A/div)
0-
Estimated i u (5A/div)
0-
(a) ωm* = 1500min–1, T = 0.8Nm
20ms/div
i dc (5A/div)
00i u (5A/div)
0Estimated i u (5A/div)
(b) ωm* = 2500min–1, T = 1.5Nm
図 3.10 インバータ母線電流からモータ相電流の推定実験結果
3.5 最大トルク/電流制御と電圧/電流位相差の関係
(2.7)式より,同一電流に対してトルクを最大にできる電流位相β∗が存在する。これは,モ
ータ相電流に対して最も効率的にトルクを発生する条件であり,このような電流位相で制御
する方法を最大トルク/電流制御と呼ぶ。最大トルク/電流制御の電流位相は,(2.7)式をβ
で偏微分し,0 とおくことで次式により与えられる(36)。
⎛ −Ψ + Ψ 2 + 8( L − L ) 2 I 2
a
a
q
d
a
β = sin ⎜⎜
4( Lq − Ld ) I a
⎜
⎝
*
−1
⎞
⎟
⎟⎟ .............................................................. (3.7)
⎠
表 3.2 に示すモータパラメータを用い,電流位相βとモータトルク T と電流振幅 Ia の関係
について,シミュレーションした結果を図 3.11 に示す。同一トルク発生時の最適電流位相
付近では電流振幅 Ia が最小となり,銅損が最小となる。電流位相 20 deg~40 deg の区間でそ
30
れぞれのモータトルクにおいて電流振幅値 Ia が最小となる。(3.7)式より電流振幅 Ia から最
適電流位相β∗が算出され,(2.7)式よりモータトルク T が求まる。従って,電圧位相δは(2.11)
式,(2.12)式からモータトルク T と電流位相βの関数となり,最適電圧/電流位相差ϕ∗は(2.9)
式より,
ϕ * = δ (T , β * ) − β * ......................................................................................................... (3.8)
となり,最大トルク/電流制御での最適電圧/電流位相差ϕ*はモータトルク T と相関がある。
図 3.12 に実験結果(Exp)をシミュレーション結果(Sim)とともに示す。図 3.12(a)より,
モータトルク一定条件(T = 1.77Nm)において,電圧/電流位相差ϕと電流振幅 Ia の関係は角
速度 ωm* に殆ど依存しないことが確認できる。図 3.12(b)より,回転数一定条件(ωm* =
4000min–1)において,モータトルクの大きさにより電流振幅値 Ia は異なるものの,それぞれ
のシミュレーション結果と実験結果とを比較すると,電圧/電流位相差ϕと電流振幅値 Ia の
関係は同様の傾向を示していることが確認できる。また,実用上では電流振幅値 Ia が最小
となる電圧/電流位相差ϕを負荷トルクに応じて実験により測定している。
30
Current amplitude Ia [A]
25
20
15
10
5
0
-10
0
10
20
30
40
Current phase β [deg]
50
60
70
80 0.5 1.5
2.5
3.5
4.5
Torque
T [Nm]
図 3.11 電流位相βとトルク T と電流振幅 Ia の関係
表 3.2 供試モータ諸元
Number of pole pairs Pn
2
d-axis inductance Ld [mH]
13.2
Resistance Ra [Ω]
0.54
q-axis inductance Lq [mH]
24.6
Permanent magnet
flux-linkage Ψa [Wb]
0.147
Inertia J [kgm2]
31
2.55×10–3
16
Current amplitude Ia [A]
14
12
Exp: ω m * =2000min
-1
Exp: ω m * =4000min
-1
Sim: ω m * =2000min
-1
Sim: ω m * =4000min
-1
10
8
6
4
2
0
-40
-20
0
20
40
60
80
60
80
Phase differece ϕ [deg]
(a) T = 1.77Nm
16
Exp: T =0.88Nm
Current amplitude Ia [A]
14
Exp: T =1.77Nm
Exp: T =2.65Nm
12
Sim: T =0.88Nm
Sim: T =1.77Nm
10
Sim: T =2.65Nm
8
6
4
2
0
-40
-20
0
20
40
Phase differece ϕ [deg]
(b) ωm* = 4000min–1
図 3.12 電圧/電流位相差ϕ と電流振幅 Ia の関係
32
図 3.13 に図 3.1 に示すシステムにより,インバータ母線電流 idc から電圧/電流位相差ϕ
を推定し,表 3.2 に示すモータパラメータの PM モータを正弦波駆動した時の U 相モータ電
流波形と U 相モータ電圧位相信号(0, 360deg 毎に反転)を示す。キャリア周波数は 5kHz
である。(a), (b), (c)のそれぞれの電圧/電流位相差指令値ϕ*に対して,電圧/電流位相差ϕ
は指令値通り制御できていることが確認できる。また,図 3.13(a), (b), (c)では U 相モータ電
流が正負で異なった波形となっているが,低電流による電圧/電流位相差の検出誤差に起因
するのではなく,モータ特性によるものと考えられる。U 相モータ電流波形には高調波成分
が含まれているが,3.3 節で述べたように電圧位相を基準として 2 つの区間に分割し,それ
ぞれの区間でモータ相電流を積算して,その面積比から電圧/電流位相差を推定しているた
め,高調波成分による電圧/電流位相差推定への影響は軽減される。計算上では高調波成分
による電圧/電流位相差推定誤差は大きくても約 2deg 程度であった。
図 3.14, 3.15 に電圧/電流位相差制御によって表 3.2 に示す PM モータを正弦波駆動した
時のモータ相電流位相βと電圧/電流位相差ϕの関係,およびモータ相電圧振幅 Va と電圧/
電流位相差ϕの関係を示す。図 3.14(a)より,モータトルク一定条件(T = 1.77Nm)において,
電圧/電流位相差ϕと電流位相βの関係は角速度ωm*に殆ど依存しないことが確認できる。ま
た図 3.14(b)より,回転数一定条件(ωm* = 4000min–1)において,電圧/電流位相差ϕと電流位
モータトルク T が大きくなると,
相βの関係はモータトルク T に依存することが確認できる。
同一電流位相での電流振幅値 Ia が大きくなり,電圧位相δも進むため,電圧/電流位相差ϕ
は大きくなる。また,それぞれのシミュレーション結果と実験結果とを比較すると,電圧/
電流位相差と電流位相の関係は同様の傾向を示していることが確認できる。図 3.15 の実験
結果からもモータ相電圧振幅 Va により電圧/電流位相差ϕを制御できることが確認できる。
図 3.16 に電圧/電流位相差ϕとモータ相電流実効値の関係を示す。同一トルク 0.5Nm 条
件ではモータ回転数 2000 min–1, 4000 min–1 においてモータ相電流実効値が最小となる電圧
/電流位相差は約 20 deg であり,最適電圧/電流位相差は回転数に依存していないことが
確認できる。また,同一回転数条件(ωm* = 2000 min–1)ではトルク 0.5Nm, 2.0Nm ではモータ
相電流振幅が最小となる電圧/電流位相差は約 20 deg と約 30 deg になっており,最適電圧
/電流位相差はトルクに依存していることも確認できる。以上の実験結果から,インバータ
母線電流 idc から電圧/電流位相差ϕを推定し,モータ相電圧振幅 Va で電圧/電流位相差を
制御できることを示し,
トルクに応じて電流振幅が最小となる電圧/電流位相差を電圧/電
流位相差指令値ϕ*とすることにより,電流位相βを制御する場合と同様にして銅損の最小化
が期待できる。
33
vu
Phase signal
iu
(2.5A/div)
5ms/div
ϕ =20 deg
(a) ωm* = 2000min–1, T = 0.5Nm, ϕ* = 20 deg
vu
Phase signal
iu
(2.5A/div)
5ms/div
ϕ =30 deg
(b) ωm* = 2000min–1, T = 2.0Nm, ϕ* = 30 deg
vu
Phase signal
iu
(2.5A/div)
ϕ =20 deg
2ms/div
(c) ωm* = 4000min–1, T = 0.5Nm, ϕ* = 20 deg
図 3.13 電圧/電流位相差制御
34
モータ駆動実験結果
80
Phase difference ϕ [deg]
60
40
Exp: ω m * =2000min
-1
Exp: ω m * =4000min
-1
Sim: ω m * =2000min
-1
Sim: ω m * =4000min
-1
20
0
-20
-40
-10
0
10
20
30
40
50
60
Current phase β [deg]
(a) T = 1.77Nm
80
Exp: T =0.88Nm
Exp: T =1.77Nm
Phase difference ϕ [deg]
60
Exp: T =2.65Nm
Sim: T =0.88Nm
Sim: T =1.77Nm
40
Sim: T =2.65Nm
20
0
-20
-40
-10
0
10
20
30
40
50
60
Current phase β [deg]
(b) ωm* = 4000min–1
図 3.14 電流位相βと電圧/電流位相差ϕ の関係
35
70
-1
ω m * =2000min , T =0.5Nm
60
-1
ω m * =4000min , T =0.5Nm
Phase difference ϕ [deg]
50
40
30
20
10
0
-10
0
20
40
60
80
100
120
140
160
-20
-30
Motor voltage V a [V]
図 3.15 モータ相電圧振幅 Va と電圧/電流位相差ϕの関係
10
-1
ω m * =2000min , T =0.5Nm
-1
ω m * =2000min , T =2.0Nm
Current RMS [A]
8
-1
ω m * =4000min , T =0.5Nm
6
4
2
0
-40
-20
0
20
40
60
80
Phase difference ϕ [deg]
図 3.16 電圧/電流位相差とモータ相電流実効値の関係
36
3.6 結言
本章ではモータ相電圧とモータ相電流の電圧/電流位相差をモータ相電圧振幅値で制御
することにより,モータ相電流の位相を間接的に制御できることを示し,シミュレーション
および実験において,電圧/電流位相差を最適に制御することで,モータの高効率駆動が実
現できることを示した。
本方式は電機子抵抗や鎖交磁束などのモータパラメータをオンライ
ンで必要とせず,3 相 2 相変換,回転変換などの座標変換処理も必要としないことから制御
系がシンプルであり,汎用性が高く安価なマイコンで信頼性が高い正弦波駆動を実現できる。
本方式ではモータパラメータが不明の PM モータであってもモータ相電流が検出できる状
態まで起動させることができれば,
モータ相電流が最小となるように電圧/電流位相差を実
験的に求めることで運転させることができる。また,電圧/電流位相差をモータ相電流の積
算値の比から推定しているため,モータ相電流の絶対値を必要としないことから,電流セン
サ等の温度による特性変動などに対してロバストとなり,
固体ばらつきに対してもロバスト
となる。また,本方式は電圧/電流位相差の推定に必要なモータ相電流をパワーモジュール
の過電流検出用に用いられているシャント抵抗に流れるインバータ母線電流から容易に検
出できるタイミングを利用して精度よく検出することができるため,高価な DC 電流センサ
を用いることなく簡単な制御システム構成とすることができる。
37
第4章
安定化制御
4.1 緒言
モータ相電圧軸を基準として制御する位置センサレス制御では,モータ相電圧軸での有効
電流を一定とする方式(8),モータ相電圧軸と 90deg 遅れた軸での無効電流を一定とする方式
(9)
等があり,基本的にはモータ相電圧軸へモータ相電流を座標変換する必要がある。また,
いずれの方法もロータの位置検出,推定を行っていないため,システムが不安定となること
から,安定化について様々な検討がなされている(8)-(14)。
本章では,電圧/電流位相差制御がロータ位置の検出や推定を行っていないため,ロータ
の角速度やモータ相電流が連続的に脈動し,本質的には不安定なシステムであることを示す。
不安定なシステムのままでは持続的なモータ電流脈動により異音や過電流を引き起こし連
続運転ができない。このとき,電圧位相も連続的に脈動することから,電圧位相の脈動を検
出してインバータ出力角速度を補正することにより,システムを安定化する方式について提
案し解析する(25), (26)。しかしながら,電圧位相の変動を検出するためには位置センサを必要
とするため,
位置推定を行わない電圧/電流位相差制御では電圧位相の変動をモータ相電圧
とモータ相電流の電圧/電流位相差の変動から間接的に検出する方式を提案する。電圧/電
流位相差の変動を検出し,インバータ出力角速度を補正することでシステムを安定化できる
ことを示し,実験により確認する。また,電圧位相の変動を有効電流の変動から間接的に検
出できる方式についても提案し,システムを安定化できることを示し,
実験により確認する。
電圧/電流位相差の変動を検出する方式,有効電流の変動を検出する方式のいずれの安定化
制御方式も制御系がシンプルであり,計算負荷が小さい点が特徴である。
4.2 システムの安定性解析
図 4.1 のように永久磁石によって発生する磁束の方向を d 軸,d 軸と電気角で直交した軸
を q 軸とし,インバータの出力電圧ベクトルの方向をδ軸と定義し,δ軸より 90deg 遅れた軸
をγ軸と定義する。d-q 座標系において非突極性 PM モータの電圧方程式は(4.1)式となる。γ-δ
座標系では(4.2)式となり,トルクおよび角速度とトルクの関係式は粘性抵抗を無視すると
(4.3)式,(4.4)式となる。
− ωL ⎤ ⎡i d ⎤ ⎡ 0 ⎤
⎡v d ⎤ ⎡ Ra + pL
⎢v ⎥ = ⎢
⎥ ⎢i ⎥ + ⎢ωΨ ⎥ .............................................................. (4.1)
+
L
R
pL
ω
q
a
a⎦
⎦⎣ q ⎦ ⎣
⎣ ⎦ ⎣
38
δ -axis
q -axis
ω Li q
va
ω Li d
δ
R ai a
ϕ
ωΨ a
γ -axis
ia
β
Li d
iq
Li q
Ψa
id
d -axis
図 4.1 制御ベクトル図
⎡v γ ⎤ ⎡ R a + pL
⎢v ⎥ = ⎢ ω L
1
⎣ δ⎦ ⎣
− ω 1 L ⎤ ⎡i γ ⎤
⎡ sin δ ⎤
+ ωΨ a ⎢
⎥
⎢
⎥
⎥ ................................................... (4.2)
R a + pL ⎦ ⎣iδ ⎦
⎣cos δ ⎦
T = PnΨ a i q = PnΨ a (iγ sin δ + iδ cos δ ) ..................................................................... (4.3)
pω =
Pn
(T − T L ) ......................................................................................................... (4.4)
J
pδ = ω1 − ω ................................................................................................................... (4.5)
ただし,
vγ,vδ: モータ相電圧のγ軸,δ軸成分
iγ,iδ: モータ相電流のγ軸,δ軸成分
ω1 : インバータ出力電気角速度(電気角)
TL: 負荷トルク
J: 回転子の慣性モーメント
d⎞
⎛
p: 微分演算子 ⎜ p = ⎟
dt ⎠
⎝
(4.5)式において,インバータの出力電気角速度ω1 と回転子の電気角速度ω は過渡的に変
39
動していることを考慮すると,(4.2)式の平衡点周辺での電圧方程式は(4.6)式,(4.7)式とな
る。ただし,サフィックスの’0’は定常状態での値を示す。
⎡vγ 0 ⎤ ⎡ Ra + pL
⎢v ⎥ = ⎢ ω L
⎣ δ 0 ⎦ ⎣ 10
− ω10 L ⎤ ⎡iγ 0 ⎤
⎡ sin δ 0 ⎤
+ ω 0Ψ a ⎢
⎥
⎢
⎥
⎥ ............................................... (4.6)
Ra + pL ⎦ ⎣iδ 0 ⎦
⎣cos δ 0 ⎦
− (ω10 + Δω1 ) L ⎤ ⎡iγ 0 + Δiγ ⎤
⎡ vγ 0 + Δvγ ⎤ ⎡ Ra + pL
⎢v + Δv ⎥ = ⎢(ω + Δω ) L
Ra + pL ⎥⎦ ⎢⎣iδ 0 + Δiδ ⎥⎦
δ⎦
1
⎣ δ0
⎣ 10
................................. (4.7)
⎡ sin(δ 0 + Δδ ) ⎤
+ (ω 0 + Δω )Ψ a ⎢
⎥
⎣cos(δ 0 + Δδ )⎦
(4.6)式,(4.7)式の差分方程式を pΔiγと pΔiδについて整理すると(4.8)式,(4.9)式となる。
pΔiγ = −
Ra
Ψ sin δ 0
Ψ ω cos δ 0
1
Δiγ + ω10 Δiδ − a
Δω − a 0
Δδ + Δvγ + iδ 0 Δω1 .... (4.8)
L
L
L
L
pΔiδ = −ω10 Δiγ −
Ra
Ψ cos δ 0
Ψ ω sin δ 0
1
Δiδ − a
Δω + a 0
Δδ + Δvδ − iγ 0 Δω1 ..... (4.9)
L
L
L
L
次にトルク T,角速度ωについて,Δδ≒0 として平衡点周辺での差分は(4.10)式,(4.11)式
となる。
ΔT = T − T 0
= PnΨ a {(iγ 0 + Δiγ ) sin(δ 0 + Δδ ) + (iδ 0 + Δiδ ) cos(δ 0 + Δδ )}
− PnΨ a (iγ 0 sin δ 0 + iδ 0 cos δ 0 )
................. (4.10)
= PnΨ a (Δiγ sin δ 0 + Δiδ cos δ 0 − iδ 0 Δδ sin δ 0 + iγ 0 Δδ cos δ 0 )
Pn
ΔT
J
.................... (4.11)
2
Pn Ψ a
=
{Δiγ sin δ 0 + Δiδ cos δ 0 + Δδ (iγ 0 cos δ 0 − iδ 0 sin δ 0 )}
J
p Δω =
また,電圧位相δについて,平衡点周辺での差分は(4.5)式より(4.12)式となる。
pΔδ = −Δω + Δω1 ...................................................................................................... (4.12)
40
したがって,(4.2)-(4.5)式において,インバータの出力角速度とモータ角速度は過渡的に
変動していることを考慮して,定常状態近傍で線形近似を行うと,(4.8)-(4.12)式よりシステ
ムの状態方程式は(4.13)式となる(8)。
px = Ax + Bu .............................................................................................................. (4.13)
x = t [Δi r
Δiδ
u = t [Δvγ
Δvδ
Ra
⎡
⎢ − L
⎢
⎢ − ω10
A=⎢
2
⎢ Pn Ψ a
⎢ J sin δ 0
⎢
0
⎣
⎡1
⎢L
⎢
B = ⎢0
⎢
⎢0
⎢0
⎣
0
1
L
0
0
Δω Δδ ] ....................................................................................... (4.14)
Δω1 ] ............................................................................................. (4.15)
ω10
R
− a
L
Pn Ψ a
cos δ 0
J
0
2
−
−
Ψa
L
Ψa
L
sin δ 0
cos δ 0
0
−1
Ψa
⎤
⎥
L
⎥
Ψa
ω0 sin δ 0
⎥
L
⎥ (4.16)
2
Pn Ψ a
⎥
(iγ 0 cos δ 0 − iδ 0 sin δ 0 )⎥
J
⎥
0
⎦
−
ω0 cos δ 0
⎤
iδ 0 ⎥
⎥
− iγ 0 ⎥ ................................................................................................... (4.17)
⎥
0 ⎥
1 ⎥⎦
ここで,システムの安定性解析を容易にするために,機械系の時定数が電気系よりも十分大きい,
電圧/電流位相差制御により,最適電流位相(id0 = 0)となるように運転されていると仮定し,下記の
条件を考慮して 4 次の状態方程式(4.13)式を 2 次近似する。
i d 0 = iγ 0 cos δ 0 − iδ 0 sin δ 0 = 0 ,ω10L ≫ R, ω10 ≅ ω 0 ...................................... (4.18)
電気系の時定数が機械系の時定数より十分短いと仮定すれば,無効電流 iγ,有効電流 iδの
遅れを無視できる。(4.13)式より,pΔiγ = 0, pΔiδ = 0 とおき,Δiγ ,Δiδを求める。
⎡ Ra
⎡ − Y1 ⎤ ⎢ − L
⎢− Y ⎥ = ⎢
⎣ 2 ⎦ ⎢− ω10
⎣
⎤
ω10 ⎥ ⎡ Δi ⎤
γ
................................................................................... (4.19)
Ra ⎥ ⎢⎣Δiδ ⎥⎦
− ⎥
L⎦
ただし,
41
Y1 = −
Ψa
L
Ψa
Y2 = −
L
sin δ 0 Δω −
cos δ 0 Δω +
Ψa
L
1
Δvγ + iδ 0 Δω1 ....................................... (4.20)
L
ω0 sin δ 0 Δδ +
1
Δvδ − iγ 0 Δω1 ....................................... (4.21)
L
2
− Y1
1
Δiγ =
det A − Y2
=
L
ω0 cos δ 0 Δδ +
Ra + ω10 L2
.................................................................................................. (4.22)
L2
2
det A =
Ψa
1
Ra + ω10 L2
2
2
ω10
L
(Y1 Ra + Y2ω10 L )
R = 2
2
−
Ra + ω10 L2
L
{−Ψ a ( Ra sin δ 0 + ω10 L cos δ 0 )Δω −Ψ aω0 ( Ra cos δ 0 − ω10 L sin δ 0 )Δδ
+ ( Ra Δvγ + ω10 LΔvδ ) + ( Ra iδ 0 − ω10 Liγ 0 ) LΔω1
}
........................................................................................................................................ (4.23)
R
1 − a
Δiδ =
L
det A − ω
10
=
1
Ra + ω10 L2
2
2
− Y1
− Y2
=
L
Ra + ω10 L2
2
2
(Y2 Ra − Y1ω10 L )
{−Ψ a (−ω10 L sin δ 0 + Ra cos δ 0 )Δω −Ψ aω0 (−ω10 L cos δ 0 − Ra sin δ 0 )Δδ
+ (−ω10 LΔvγ + Ra Δvδ ) + (−ω10 Liδ 0 − Ra iγ 0 ) LΔω1
}
........................................................................................................................................ (4.24)
(4.23)式, (4.24)式を(4.13)式の pΔωへ代入して,2 次の状態方程式(4.25)式となる。
2
⎡ P 2Ψ 2
⎞⎤
Ra
Pn Ψ a ⎛
ω10 L
⎟⎥ ⎡Δω ⎤
⎜
⎡ pΔω ⎤ ⎢− n a
cos
sin
i
i
Ψ
ω
δ
δ
+
−
0
0
0
γ
δ
a
0
2
2
0
⎟ ⎢ ⎥
J Ra 2 + ω10 2 L2
J ⎜⎝
Ra + ω10 L2
⎢ pΔδ ⎥ = ⎢
⎠⎥ ⎣ Δδ ⎦
⎣
⎦ ⎢
⎥⎦
1
0
−
⎣
⎡ Pn 2Ψ a Ra sin δ 0 − ω10 L cos δ 0 Pn 2Ψ a ω10 L sin δ 0 + Ra cos δ 0
2
2
2
2
+⎢ J
J
Ra + ω10 L2
Ra + ω10 L2
⎢
0
0
⎣⎢
2
Pn Ψ a L ( Ra sin δ 0 − ω10 L cos δ 0 )iδ 0 − ( Ra cos δ 0 + ω10 L sin δ 0 )iγ 0 ⎤ ⎡ Δvγ ⎤
⎥ ⎢ Δv ⎥
2
2
J
Ra + ω10 L2
⎥⎢ δ ⎥
1
⎦⎥ ⎢⎣Δω1 ⎥⎦
........................................................................................................................................ (4.25)
42
中・高速域では,ω10L>>Ra, ω10≒ω0 とすれば,(4.25)式は(4.26)式となる。
2
⎡ P 2Ψ 2 Ra
Pn Ψ a ⎛ 1
⎞⎤
⎡ pΔω ⎤ ⎢− n a
⎜Ψ a + iγ 0 cos δ 0 − iδ 0 sin δ 0 ⎟⎥ ⎡Δω ⎤
2
2
J ω10 L
J ⎝ L
⎢ pΔδ ⎥ = ⎢
⎠ ⎥ ⎢ Δδ ⎥
⎣
⎦
⎣ ⎦
−1
0
⎢⎣
⎥⎦
2
2
⎡ P 2Ψ cos δ
Pn Ψ a sin δ 0
Pn Ψ a L cos δ 0 iδ 0 + sin δ 0 iγ 0 ⎤ ⎡ Δvγ ⎤
0
n
a
⎢−
−
⎥ ⎢ Δv ⎥
+⎢
J ω10 L
J ω10 L
J
ω10 L
⎥⎢ δ ⎥
⎢⎣
0
0
1
⎦⎥ ⎢⎣Δω1 ⎥⎦
........................................................................................................................................ (4.26)
ここで, iγ 0 cos δ 0 − iδ 0 sin δ 0 =id0 であり,電圧/電流位相差制御により,最適電流位相(id0 = 0)
制御であることを考慮して,(4.26)式は 2 次の近似状態方程式(4.27)式となる。
⎡ P 2Ψ 2 Ra
⎡ pΔω ⎤ ⎢− n a
J
⎢ pΔδ ⎥ = ⎢
ω10 2 L2
⎣
⎦ ⎢
−1
⎣
⎡ Pn 2Ψ a cos δ 0
−
+⎢
ω10 L
J
⎢
0
⎢⎣
Pn Ψ a
JL
0
2
Pn Ψ a sin δ 0
ω10 L
J
0
2
2
−
⎤
⎥ ⎡Δω ⎤
⎥ ⎢⎣ Δδ ⎥⎦
⎥⎦
2
Pn Ψ a L iδ 0 cos δ 0 + iγ 0 sin δ 0 ⎤ ⎡ Δv γ ⎤
⎥ ⎢ Δv ⎥
ω10 L
J
⎥⎢ δ ⎥
1
⎥⎦ ⎢⎣Δω1 ⎥⎦
........................................................................................................................................ (4.27)
(4.27)式の特性方程式から制動係数ζと固有振動数ωn を求めると(4.28)式,(4.29)式となる。
ζ = 0 ............................................................................................................................. (4.28)
ωn =
PnΨ a
JL
................................................................................................................... (4.29)
(4.28)式より制動係数ζが 0 であるため,固有振動数ωn の持続振動が発生しシステムは持
続振動系となる(8)。
4.3 電圧位相検出と角速度補正によるシステムの安定化
(4.27)式のシステムでは制動係数が 0 となりシステムが不安定である。状態変数である角
速度変動Δω,或いは電圧位相変動Δδを検出し,制御変数であるγ軸,δ軸のモータ相電圧の
43
補正成分Δvγ,Δvδ,インバータ出力角速度の補正成分Δω1のいずれかをフィードバックするこ
とによりシステムを安定化することを検討する。
位置センサ,速度センサを含まないシステムにおいては,角速度変動Δω,電圧位相変動
Δδを直接検出することはできない。また,速度変動の推定は計算負荷が高くシステムが複
雑となるため,本章では電圧位相δの変動を推定し,インバータ出力角速度ω1を補正すること
でシステムを安定化する方式について検討する。なお,電圧位相の変動の推定については次
節以降で述べる。
モータの電気角速度指令値をω∗,フィードバックゲインを K として,インバータ出力電気
角速度ω1を次式で与える。
ω1 = ω * − Kδ .............................................................................................................. (4.30)
(4.30)式を(4.5)式に代入して電圧位相のフィードバックを含めたシステムを同様に定常状
態近傍で線形近似を行うと,システムの状態方程式は(4.31)式となる。
px = A' x + B' u ........................................................................................................... (4.31)
x = t [Δi r
Δiδ
Δω Δδ ] ....................................................................................... (4.32)
u = t [Δv γ
Δvδ
Δω1 ] ............................................................................................. (4.33)
Ra
⎡
−
⎢
L
⎢
⎢
− ω10
A' = ⎢
⎢ Pn 2Ψ a
sin δ 0
⎢
J
⎢
0
⎣
ω10
R
− a
L
−
−
Ψa
Pn Ψ a
cos δ 0
J
0
2
L
Ψa
L
sin δ 0
cos δ 0
0
−1
Ψa
⎤
⎥
L
⎥
Ψa
⎥
ω 0 sin δ 0 + Kiγ 0
L
⎥
2
⎥
Pn Ψ a
(iγ 0 cos δ 0 − iδ 0 sin δ 0 )⎥
J
⎥
−K
⎦
−
ω 0 cos δ 0 − Kiδ 0
........................................................................................................................................ (4.34)
⎡1
⎢L
⎢
B' = ⎢ 0
⎢
⎢0
⎢0
⎣
0
1
L
0
0
⎤
0⎥
⎥
0⎥ ......................................................................................................... (4.35)
⎥
0⎥
0⎥⎦
前節と同様にしてシステムの安定性解析を容易にするために,4 次の状態方程式(4.31)を 2 次
44
に近似する。電気系の時定数が機械系の時定数より十分短いと仮定すれば,無効電流 iγ,有
効電流 iδの遅れを無視できる。(4.31)式より,pΔiγ = 0, pΔiδ = 0 とおき,Δiγ ,Δiδを求める。
Δiγ =
1
Ra + ω10 L2
2
2
{−Ψ a ( Ra sin δ 0 + ω10 L cos δ 0 )Δω
−Ψ aω0 ( Ra cos δ 0 − ω10 L sin δ 0 )Δδ − KL( Ra iδ 0 − ω10 Liγ 0 )Δδ .................... (4.36)
+ ( Ra Δvγ + ω10 LΔvδ )}
Δiδ =
1
Ra + ω10 L2
2
2
{−Ψ a ( Ra cos δ 0 − ω10 L sin δ 0 )Δω
+Ψ aω0 ( Ra sin δ 0 + ω10 L cos δ 0 )Δδ + KL( Ra iγ 0 + ω10 Liδ 0 )Δδ .................... (4.37)
+ ( Ra Δvδ − ω10 LΔvγ )}
(4.36)式, (4.37)式を(4.31)式の pΔωへ代入して,2 次の状態方程式(4.38)式となる。
⎡ Pn 2 Ψa 2
Ra
Δ
ω
p
⎡
⎤ ⎢−
2
J Ra + ω10 2 L2
⎢ pΔδ ⎥ = ⎢
⎣
⎦
−1
⎢⎣
2
2
Pn Ψa KLRa (iγ 0 cos δ 0 − iδ 0 sin δ 0 ) + KL ω10 (iγ 0 sin δ 0 + iδ 0 cos δ 0 ) + ω0ω10 LΨa ⎤ Δω
⎥⎡ ⎤
2
2
J
Ra + ω10 L2
⎥ ⎢⎣ Δδ ⎥⎦
−K
⎦⎥
⎡ Pn 2 Ψa Ra sin δ 0 − ω10 L cos δ 0
2
2
+⎢ J
Ra + ω10 L2
⎢
0
⎣⎢
Pn Ψa ω10 L sin δ 0 + Ra cos δ 0
2
2
J
Ra + ω10 L2
0
2
⎤ ⎡ Δvγ ⎤
0⎥ ⎢
Δv ⎥
⎥⎢ δ ⎥
0⎦⎥ ⎢⎣Δω1 ⎥⎦
........................................................................................................................................ (4.38)
中・高速域では,ω10L>>Ra, ω10≒ω0 とすれば,(4.38)式は(4.39)式となる。
45
⎡ P 2 Ψ 2 Ra
⎡ pΔω ⎤ ⎢− n a
J ω10 2 L2
⎢ pΔδ ⎥ = ⎢
⎣
⎦
−1
⎢⎣
2
2
Pn Ψa KLRa (iγ 0 cos δ 0 − iδ 0 sin δ 0 ) + KL ω10 (iγ 0 sin δ 0 + iδ 0 cos δ 0 ) + ω0ω10 LΨa ⎤ Δω
⎥⎡ ⎤
J
ω10 2 L2
⎥ ⎢⎣ Δδ ⎥⎦
−K
⎥⎦
⎡ Pn 2 Ψa cos δ 0
−
+⎢
J
ω10 L
⎢
0
⎣⎢
Pn Ψa sin δ 0
J ω10 L
0
2
⎤ ⎡ Δvγ ⎤
0⎥ ⎢
Δv ⎥
⎥⎢ δ ⎥
0⎦⎥ ⎢⎣Δω1 ⎥⎦
........................................................................................................................................ (4.39)
ここで, iγ sin δ 0 + iδ 0 cos δ 0 = iq 0 , iγ cos δ 0 − iδ 0 sin δ 0 = id 0 であり,電圧/電流位相差制御によ
0
0
り,最適電流位相(id0 = 0)制御であることを考慮して,(4.39)式は 2 次の近似状態方程式(4.40)
式となる。
⎡ P 2Ψ 2 Ra
⎡ pΔω ⎤ ⎢− n a
J ω10 2 L2
⎢ pΔδ ⎥ = ⎢
⎣
⎦
−1
⎢⎣
⎡ Pn 2Ψ a cos δ 0
−
+⎢
J ω10 L
⎢
0
⎣⎢
2
2
Pn Ψ a ⎛ KLiq 0
⎞⎤
+ 1⎟⎥ ⎡Δω ⎤
⎜
ω0Ψ a ⎠ ⎢ ⎥
JL ⎝
⎥ ⎣ Δδ ⎦
−K
⎥⎦
.......................... (4.40)
2
v
Δ
⎡
⎤
⎤
γ
Pn Ψ a sin δ 0
0⎥ ⎢
⎥
v
Δ
J ω10 L
⎥⎢ δ ⎥
0
0⎦⎥ ⎢⎣Δω1 ⎥⎦
(4.40)式の特性方程式から制動係数ζと固有振動数ωn を求めると(4.41)式,(4.42)式となる。
ζ =
K JL
2 PnΨ a 1 + KLi q 0 / ω 0Ψ a
ωn =
PnΨ a
JL
1+
KLi q 0
ω 0Ψ a
................................................................................. (4.41)
............................................................................................ (4.42)
(4.41)式より制動係数ζが 0 でないことから,電圧位相を推定してインバータ出力角速度を
補正することでシステムを安定化することができる。
46
4.4 電圧/電流位相差変動による電圧位相変動の推定
前節より,電圧位相を推定してインバータ出力角速度を補正することでシステムを安定化
することが可能であるが,位置センサを使用しないシステムにおいては電圧位相を直接検出
することはできない。そこで,電圧/電流位相差ϕから電圧位相δを推定することを検討す
る。(2.12)式より,電圧位相δはωL≫Ra の条件において,以下のように近似できる。
⎛
L cos β
⎝ − L sin β +Ψ a / I a
δ ≈ tan −1 ⎜⎜
⎞
⎟⎟ ............................................................................... (4.43)
⎠
このように,電圧位相δは角速度ωに依存しないため,電圧/電流位相差ϕも角速度ωには
依存しないが,(2.11)式より電流 Ia は電流位相βとモータトルク T に依存しているため,電
圧位相δも電流位相βとモータトルク T に相関があることに留意する。
表 3.2 に示すモータパラメータを用いて電圧位相δと電流位相βとトルク T の関係,電圧/
電流位相差ϕと電流位相βとトルク T の関係をそれぞれ図 4.2, 図 4.3 に示す。図 4.2,図 4.3
の関係から,トルク 0.5Nm, 1.0Nm での電圧位相と電圧/電流位相差の関係について図 4.4
に示す。図 4.4 より,電圧位相と電圧/電流位相差にはトルクにより特性は異なるが相関関
係が見られる。したがって,電圧/電流位相差から電圧位相を推定することができ,(4.30)
式において電圧位相の変動を電圧/電流位相差の変動から検出し,インバータ出力角速度を
補正することでシステムを安定化することが可能である。
47
120
Voltage phase δ [deg]
100
80
60
40
20
0
-10
0
10
20
30
40
Current phase β [deg]
50
60 0.5 1.5
2.5
3.5
4.5
Torque T
[Nm]
図 4.2 電圧位相δと電圧/電流位相差βとトルク T の関係(ωm=2000min–1)
80
Phase difference ϕ [deg]
60
40
20
0
-20
-40
-60
-10
0
10
20
30
Current phase β [deg]
40
50
60 0.5 1.5
2.5
3.5
4.5
Torque T
[Nm]
図 4.3 電圧/電流位相差ϕと電圧/電流位相差βとトルク T の関係(ωm=2000min–1)
48
50
Phase difference ϕ [deg]
40
30
20
10
0
-10
25
27
29
31
33
35
37
39
-20
-30
Voltage phase δ [deg]
(a) T=0.5Nm
30
Phase difference ϕ [deg]
20
10
0
-10 15
17
19
21
23
25
-20
-30
-40
-50
-60
Voltage phase δ [deg]
(b) T=1.0Nm
図 4.4 電圧位相δと電圧/電流位相差ϕの関係(ωm=2000min–1)
図 3.1 のセンサレス電圧/電流位相差制御のシステムに安定化制御部を付加した構成を図
4.5 に示す。インバータ母線電流から推定されたモータ相電流を用いて電圧/電流位相差ϕ
を算出する。シャント抵抗の両端電圧からインバータ母線電流のピーク電流を検出し,モー
タトルクを推定することにより,モータトルクとの相関関係からあらかじめ設定された電圧
/電流位相差指令値ϕ*をテーブルデータより算出する。電圧/電流位相差ϕ が電圧/電流
位相差指令値ϕ*となるようにモータ相電圧振幅値 Va を PI 制御する。
安定化制御部は電圧/電流位相差変動検出部とフィードバックゲインから構成されシス
テムを安定化する。インバータ出力角速度の補正量Δωは電圧/電流位相差ϕ の変動量とフ
ィードバックゲイン K との積により計算される。
49
表 3.2 に示すモータパラメータの供試モータを用いた実験結果を図 4.6 に示す。負荷トル
ク TL は 0.8Nm である。モータ相電流 iu は安定化制御が無い状態では大きな脈動が発生して
いる。この脈動の周波数は約 5.0Hz で(4.29)式の固有振動数ωn となっている。安定化制御部
により電圧/電流位相差の変動を検出し,インバータ出力角速度を補正することで電圧/電流
位相差を安定化してシステムを安定化できている。
Tr u
AC
AC
↓
DC
Tr v
i dc
W
Tr y
Speed & Stabilizaion Controller
ADC
Sine Waveform
Generator
PWM
Va
Phase Difference
Detection
φ*
*
sinω 1 t
ω1
Speed
Reference
φ
Phase Difference
Reference Table
PM Motor
Tr z
Amplifier
Torque
Detection
U
V
Shunt Resistor Tr x
Phase Difference
Controller
Tr w
PI Controller
Stabilization
Controller
図 4.5 電圧/電流位相差制御システムの構成
(電圧/電流位相差変動検出による安定化制御付加)
50
ω*
+
Δω
-
Stabilization control
1s/div
On
Off
Δϕ (25.6deg/div)
0-
i u (5A/div)
0-
(a) ωm*=2500min–1
Stabilization control
1s/div
On
Off
Δϕ (25.6deg/div)
0-
i u (5A/div)
0-
(b) ωm*=2000min–1
Stabilization control
On
500ms/div
Off
Δϕ (25.6deg/div)
0-
i u (5A/div)
0-
(c) ωm*=1500min–1
図 4.6 電圧/電流位相差変動検出による安定化制御(TL = 0.8Nm)
51
4.5 有効電流変動による電圧位相変動の推定
4.3 節では電圧位相を推定してインバータ出力角速度を補正することでシステムを安定化
することが可能であることを示した。しかしながら,位置センサを使用しないシステムにお
いては電圧位相を直接検出することはできない。そこで,4.4 節では電圧/電流位相差から
電圧位相を推定する方式について検討した。本節では有効電流 iδから電圧位相δを推定する
方式について検討する。
表 3.2 に示すモータパラメータを用いて有効電流 iδと電流位相βとトルク T の関係を図 4.7
に示す。図 4.2,図 4.7 のそれぞれの関係から,トルク 0.5Nm, 1.0Nm での電圧位相と有効電
流の関係について図 4.8 に示す。図 4.8 より,電圧位相と有効電流にはトルクにより特性は
異なるが,リニアな相関関係が見られる。したがって,有効電流 iδから電圧位相δを推定す
ることもでき,(4.30)式において電圧位相の変動を有効電流 iδの変動から推定し,インバータ
出力角速度を補正することでシステムを安定化することが可能である。
電圧/電流位相差制御のシステム構成を図 4.9 に示す。本制御システムは有効電流の検出
部と有効電流検出による安定化制御部を除き図 4.5 と同じ構成である。
安定化制御部は有効電流変動検出部とフィードバックゲインから構成されシステムを安
定化する。インバータ出力角速度の補正量Δωは有効電流 iδの変動量Δiδとフィードバックゲ
イン K との積により計算される。UVW のモータ電圧位相 90deg で推定されたモータ相電流
をそのまま有効電流とすることで計算負荷を抑えている。
表 3.2 に示すモータパラメータの供試モータを用いた実験結果を図 4.10 に示す。負荷トル
ク TL は 0.8Nm である。モータ電流 iu は安定化制御が無い状態では大きな脈動が発生してい
る。この脈動の周波数は約 5.0Hz で(4.29)式の固有振動数ωn となっている。安定化制御部に
より有効電流の変動を検出し,インバータ出力角速度を補正することで有効電流を安定化して
間接的に電圧位相を安定化できている。
52
12
Effective current iδ [A]
10
8
6
4
2
0
-10
0
10
20
30
40
Current phase β [deg]
50
60 0.5 1.5
2.5
4.5
3.5
Torque T
[Nm]
図 4.7 有効電流 iδと電圧/電流位相差βとトルク T の関係(ωm=2000min–1)
7
Effective current iδ [A]
6
5
4
3
2
1
0
25
30
35
40
45
50
55
Voltage phase δ [deg]
(a) T=0.5Nm
Effective current iδ [A]
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
15
17
19
21
23
25
Voltage phase δ [deg]
(b) T=1.0Nm
図 4.8 電圧位相δと有効電流 iδの関係(ωm=2000min–1)
53
Tr u
AC
Tr v
Tr w
U
V
AC
↓
DC
i dc
W
Shunt Resistor Tr x
Phase Difference
Controller
Tr y
Tr z
Amplifier
Speed & Stabilizaion Controller
ADC
Torque
Detection
Sine Waveform
Generator
PWM
Va
Phase Difference
Detection
Phase Difference
Reference Table
PM Motor
*
sinω 1 t
ω1
Speed
Reference
φ*
PI Controller
iδ
Stabilization
Controller
図 4.9 電圧/電流位相差制御システムの構成
(有効電流変動検出による安定化制御付加)
54
ω*
+
Δω
-
1s/div
Stabilization control
On
Off
Δ i δ (5A/div)
0-
i u (5A/div)
0-
(a) ωm*=2500min–1
1s/div
Stabilization control
On
Off
Δ i δ (5A/div)
0-
i u (5A/div)
0-
(b) ωm*=2000min–1
500ms/div
Stabilization control
On
Off
Δ i δ (5A/div)
0-
i u (5A/div)
0-
(c) ωm*=1500min–1
図 4.10 有効電流変動検出による安定化制御(TL = 0.8Nm)
55
4.6 結言
本章では,電圧/電流位相差制御がロータ位置の検出や推定を行っていないため,ロータ
の角速度やモータ相電流が連続的に脈動し,本質的に不安定なシステムであることを示した。
このとき,電圧位相も連続的に脈動することから,電圧位相の脈動を推定してインバータ出
力角速度を補正することにより,システムを安定化する方式について提案し解析した。電圧
位相の脈動を電圧/電流位相差の変動から間接的に検出する方式,有効電流の変動から間接
的に検出する方式,それぞれの方式について電圧位相の変動を推定できることを示し,シス
テムを安定化できることを示し,実験により効果を確認した。
電圧/電流位相差の変動を検出する方式は,相対情報である電圧/電流位相差の変動を利
用しているため,シャント抵抗などの電流検出器の絶対値情報を必要としておらず,温度変
化やばらつきによるパラメータ変動に対してロバストであり,制御系をシンプルにすること
ができる。しかしながら,第 2 章で示したように電圧/電流位相差はモータパラメータの組
み合わせによっては,特に電流位相が大きくなる弱め磁束領域で電圧/電流位相差が電流位
相に対して線形な関係とはならない状態もあり,電圧位相の変動と電圧/電流位相差の変動
も線形とはならない。安定化制御の限界点については更に検討が必要である。
有効電流の変動を検出する方式は,
絶対情報である有効電流を利用するためシャント抵抗
などの電流検出器の温度変化,ばらつきの影響を受けるが,有効電流が電流位相に対して比
較的線形な関係であり,電圧位相の変動と有効電流の変動も線形となるため,安定化制御が
動作できる領域は電圧/電流位相差の変動を検出する方式よりも広いと考えられる。
電圧/電流位相差の変動を利用する方式,有効電流の変動を利用する方式のいずれの安定
化制御方式も制御系がシンプルであり,モータパラメータ,座標変換もオンラインで必要と
しないため,汎用性が高いといえる。
56
第5章
120 度通電矩形波駆動と電圧/電流位相差制御による 180 度通電正弦波
駆動の切換によるエアコン用圧縮機の高機能化
5.1 緒言
近年,省エネルギ・環境保護は社会的な関心が非常に高まっており,業界トップの消費電
力を基準とした「トップランナー方式」による省エネ基準法が施行される等の状況から,家
電製品においては消費電力の低減が重要かつ必須の技術となってきている。このような状況
の中で,家電用モータ技術の分野においては,電力消費量の大きいエアコン,冷蔵庫の基幹
部品である圧縮機モータの低消費電力化,高効率化が望まれており,様々な研究が報告され
ている(37)-(40)。エアコンの圧縮機モータを駆動する技術は,エアコンの性能を左右する重要
な要素技術の一つであり,省エネルギ化・高効率化に加えて静音化・低振動化なども求めら
れている。
エアコンが様々な環境下で最適な冷暖房能力を発揮するためには,圧縮機モータには低負
荷から高負荷,低回転から高回転までの幅広い運転範囲が求められる。エアコン起動時では
高い出力が要求されるため,高速回転させる必要がある。特に冬季の暖房性能を確保するた
めに,起動直後は 8000min–1 程度の非常に高い回転数で運転する必要がある。圧縮機モータ
には高効率化のため永久磁石同期モータが使用さており,
近年更なる省エネルギ化へ向けて
永久磁石ではフェライト磁石から希土類磁石となり,モータ巻線のターン数も増加してきて
いるため高磁束化している。圧縮機モータは高温・高圧の冷媒の雰囲気内にあることから,
位置センサを取り付けるのは困難なため,一般的に位置センサレス駆動となる。エアコンは
冷暖房時の起動時では非常に高い出力が要求されるが,室温が設定温度に到達した後は
1000min–1 を下回る比較的出力の低い条件で長時間運転されることが多い。したがって,運
転時間の長い低速・低出力条件での高効率化も求められている。
本章では,このような様々な要求を満たすため,弱め磁束制御による高速領域の拡大に効
果を発揮する「電圧/電流位相差制御による 180 度通電正弦波駆動」と低速領域での省エネ
ルギ化に効果を発揮する「120 度通電矩形波駆動」の異なる二つの駆動方式を組み合わせて
エアコンの運転条件により切換えることで,常に最適な圧縮機モータ駆動を提案する(27)-(31)。
「120 度通電矩形波駆動」と「電圧/電流位相差制御による 180 度通電正弦波駆動」の駆
動方式の切換では圧縮機モータを停止させることなく行い,駆動中での安定切換を実現する。
57
5.2 エアコン室外機インバータ制御システム構成
圧縮機モータの鎖交磁束と回転数,効率の関係は図 5.1 に示すように,巻線ターン数を増
加させることにより,鎖交磁束を増加させて効率を向上させることが可能であるが,巻線誘
起電圧の検出による矩形波駆動では,弱め磁束を十分に活用することができないため,正弦
波駆動に比べると最高回転数が低下し,エアコンの最大能力が低下する。特に暖房運転では
起動時の急速暖房が要求されるため,正弦波駆動での弱め磁束による高速運転が必要となる。
一方,低速領域では正弦波駆動は矩形波駆動に対して,スイッチング損失の増加などのため,
効率が低下することがある。また,改正省エネ法によりエアコンの性能評価は,実使用条件
に合わせて定格条件よりも運転時間の長い中間条件の性能を重視して評価するため,低出力,
低速領域での高効率化が求められてきている。
図 5.2 に本章で提案するエアコン室外機インバータ制御システム構成を示す。駆動システ
ムは電圧/電流位相差制御によるセンサレス正弦波駆動とロータ位置を無通電モータ相の
誘起電圧から検出し,速度と電圧位相を制御する 120 度通電によるセンサレス矩形波駆動を
備え,正弦波駆動と矩形波駆動を切換える駆動方式選択部を備える。なお,本章では以降,
センサレス矩形波駆動を 120 度通電矩形波駆動,センサレス正弦波駆動を 180 度通電正弦波
Efficiency a
Ψ a2 > Ψ a1
Maximum speed of sinusoidal wave drive
Ψ a2
Ψ a1
Maximum speed of rectangular wave drive
Permanent magnet flux-linkage Ψ a 1, Ψ a 2
Speed
図 5.1 圧縮機モータの鎖交磁束に関する特性変化
58
Tr u
AC
↓
DC
AC
i dc
Tr v
IPM
Tr w
U
V dc
W
Shunt Register
Tr x
Tr y
Tr z
Back EMF Detection
Amplifier
Closed-Loop
Phase Difference
Controller
ADC
Torque
Detection
ϕ
Phase Difference
Detection
Va
PWM
Rectangular Wave Drive
*
Va
PI Controller
Phase Difference
Reference Table
Speed
Reference
iδ
Stabilization
Controller
Compressor
Motor
PMSM
V
ω
*
+
−
Δω
ω1
*
Closed-Loop
PI Controller Speed
Controller
ϕ*
ω
Sine Waveform
Generator
Waveform
signals
Open-Loop Speed
Controller
Phase Difference Sinusoidal
Wave Drive
*
ω
Waveform
signals
Speed
Reference
Zero Crossing
Detection
δ*
Voltage Phase
Reference Table
Rectangular
Waveform Generator
図 5.2 エアコン室外機インバータ制御システム構成
駆動と表記する。また,全ての制御は 16bit, 24MHz シングルチップマイクロプロセッサ上
で行われる。
120 度通電矩形波駆動は表 5.1 に示すように各相の通電期間は 120deg で上アーム側,下ア
ーム側をそれぞれ U 相,V 相,W 相と 60deg 単位で転流動作を行い,モータを駆動する。
無通電となっているモータ相の誘起電圧とインバータ電圧 Vdc の 1/2 を比較し等しくなる位
相を検出することでロータの位置を検出するセンサレス方式である。
ロータの位置検出間隔
から,モータの回転数ωm(= ω / Pn)を推定し,回転数指令値ωm*(= ω∗ / Pn)となるようにモータ
相電圧振幅値 Va*を PI 制御する。
180 度通電正弦波駆動は表 5.1 に示すように,インバータ母線電流検出による電圧/電流位
相差制御による正弦波駆動となっている。インバータ母線電流検出によるセンサレス電圧/
電流位相差制御は駆動電圧ベクトルを基準とした V/f 制御をベースとしており,モータの回
転数ωm は,モータ巻線に通電する PWM 変調された正弦波からなるモータ相電圧の周波数
(設定回転数ωm*で決まる)で決定される。インバータ母線電流をシャント抵抗の両端電圧
として電流検出回路を介して検出し,モータ相電流を推定する。インバータ母線電流から推
59
定されたモータ相電流を用いて電圧/電流位相差ϕを算出する。電圧/電流位相差ϕ が電圧
/電流位相差指令値ϕ*となるようにモータ相電圧振幅値 Va*を PI 制御する。
安定化制御部は有効電流変動検出部とフィードバックゲインから構成され 180 度通電正
弦波駆動でのシステムを安定化する。インバータ出力角速度ω1 の補正量Δωは有効電流 iδの
変動量Δiδとフィードバックゲイン K との積により計算される。ステータ巻線 UVW それぞ
れのモータ電圧位相 90deg で推定されたモータ相電流をそのまま有効電流 iδとすることで計
算負荷を抑えている。
120 度通電矩形波駆動,180 度通電正弦波駆動ともにオンラインでモータパラメータが不
要であり,120 度通電矩形波駆動では位置検出・等幅 PWM 出力,180 度通電正弦波駆動で
は電圧/電流位相差検出・正弦波変調 PWM 出力となっており,計算負荷の小さいシンプル
な制御構成が特徴である。
駆動方式切換部は 120 度通電矩形波駆動,180 度通電正弦波駆動の切換を行う。切換は設
定された回転数で行う。120 度通電矩形波駆動による強制同期運転でモータを起動させ,誘
起電圧が検出できる低速では 120 度通電矩形波駆動,高速では 180 度通電正弦波駆動を行う。
駆動方式の切換時はそれぞれの駆動に必要な制御パラメータの変換と補正を加える。駆動方
式の切換の詳細については第 5.3 節で詳細に述べる。電圧/電流位相差制御による弱め磁束
制御による高速化については第 5.4 節で述べる。また,エアコンでの 120 度通電矩形波駆動・
180 度通電正弦波駆動の切換による高効率化と低騒音化について実験結果・効果を第 5.5 節
に示す。
60
表 5.1 120 度通電矩形波駆動と 180 度通電正弦波駆動の比較
低速領域
高速領域
制御方式
120 度通電矩形波駆動
180 度通電正弦波駆動
モータパラメータ
不要
不要
効率制御
電圧位相
電圧/電流位相差
通電(スイッチング)区間:120deg
通電(スイッチング)区間:180deg
通電区間
無通電(オフ)区間
:60deg
無通電(オフ)区間
:0deg
位相管理
60deg
連続量(キャリア周期に依存)
電圧利用率
△
○
位置推定
有
無
速度制御
有
無(強制励磁)
無通電モータ相の誘起電圧による
インバータ母線電流検出による
位置検出から角速度を検出
電圧/電流位相差を検出
PWM DUTY により
PWM DUTY により
角速度と電圧位相(転流角)を制御
電圧/電流位相差を制御
制御入力
制御出力
PWM 出力波形
等幅 PWM
正弦波変調 PWM
モータ効率
△
○
回路効率
○
△
騒音
△
○
制御波形(模式図)
モータ端子電圧
30deg
30deg
120deg
モータ相電流
制御波形(実測例)
モータ相間電圧
(上側の波形)
モータ相電流
(下側の波形)
61
180deg
5.3 120 度通電矩形波駆動・180 度通電正弦波駆動の切換
5.3.1 120 度通電矩形波駆動から 180 度通電正弦波駆動への切換
図 5.2 に示す駆動システムの 120 度通電矩形波駆動では無通電区間での巻線誘起電圧の検
出によりロータの位置を検出して電圧位相を制御し,速度制御ループによりロータの角速度
を制御している。駆動方法切換時は 120 度通電矩形波駆動の 6 相 PWM 出力を一時停止させ
る。その後,120 度通電矩形波駆動で最後に出力した電圧位相と検出角速度,出力電圧振幅
情報を正弦波駆動の初期出力電圧位相,初期出力角速度,初期出力電圧振幅に変換した後,
180 度通電正弦波駆動の 6 相 PWM 出力を再開する。また,この変換では駆動方法の切換が
安定して行われるように,180 度通電正弦波駆動部の初期出力電圧位相,初期出力電圧振幅
にはそれぞれ補正を加えている。具体的には,120 度通電矩形波駆動での U 相電圧位相
270deg で 180 度通電正弦波駆動へ切換える場合,180 度通電正弦波駆動での初期出力電圧位
相を 270deg 基準で補正する。さらに 120 度通電矩形波駆動での PWM DUTY からデッドタ
イムや印加電圧の相違に対する補正を加えて 180 度通電正弦波駆動での初期出力 PWM
DUTY とする。駆動方法の切換は PWM 1 周期内で行い,駆動切換え直後は電圧/電流位相
差が安定するまで,電圧/電流位相差制御ループは作動させない。表 2.1 の#1 に示すモータ
パラメータのモータの駆動方法切換実験結果を図 5.3 に示す。キャリア周波数は 4kHz であ
る。図 5.3(a), (b)により低負荷時,高負荷時においても 120 度通電矩形波駆動から 180 度通
電正弦波駆動へ安定して切換えることができており,切換直後の相電流の変化も小さい。
5.3.2 180 度通電正弦波駆動から 120 度通電矩形波駆動への切換
180 度通電正弦波駆動から 120 度通電矩形波駆動への切換時は 180 度通電正弦波駆動の 6
相 PWM 出力を一時停止させる。電圧/電流位相差制御による 180 度通電正弦波駆動ではロ
ータの位置を検出していないため,ロータの正確な位置は推定できないが,駆動方法切換時
の 180 度通電正弦波駆動での電圧位相から 120 度通電矩形波駆動の初期出力電圧位相を決定
すると共に,180 度通電正弦波駆動時の出力電圧振幅から 120 度通電矩形波駆動での出力電
圧振幅に変換する。切換直後の 120 度通電矩形波駆動の初期角速度は 180 度通電正弦波駆動
時の出力角速度として 120 度通電矩形波駆動の 6 相 PWM 出力を開始する。切換直後から直
ちにロータ角速度の検出と制御を行う。具体的には 180 度通電正弦波駆動から 120 度通電矩
形波駆動へ切換後,U 相位置検出を行う場合,位置検出が安定して行えるように正弦波駆動
最終出力位相を U 相電圧位相 330deg 基準で補正する。また,初期出力 PWM DUTY は 180
62
度通電正弦波駆動時の PWM DUTY についてデッドタイムや印加電圧の相違に対する補正
を加えて変換し,安定した駆動方式の切換を行っている。表 2.1 の#1 に示すモータパラメー
タのモータの駆動方法切換実験結果を図 5.4 に示す。キャリア周波数は 4kHz である。図
5.4(a),(b)より低負荷時,高負荷時においても 180 度通電正弦波駆動から 120 度通電矩形波駆
動へ安定して切換えることができており,切換直後の相電流の変化も小さい。駆動方法の切
換は PWM 1 周期内で行っている。
Switch timing
Sinusoidal wave drive
Rectangular wave drive
5ms/div
iu
(2A/div)
Vu
(100V/div)
(a) T = 1.0Nm
Switch timing
Sinusoidal wave drive
Rectangular wave drive
5ms/div
iu
(2A/div)
Vu
(100V/div)
(b) T = 2.0Nm
図 5.3 120 度通電矩形波駆動から 180 度通電正弦波駆動へ切換(ωm* = 3000min–1)
Switch timing
Rectangular wave drive
Sinusoidal wave drive
5ms/div
iu
(2A/div)
Vu
(100V/div)
(a) T = 1.0Nm
Sinusoidal wave drive
Switch timing
Rectangular wave drive
5ms/div
iu
(2A/div)
Vu
(100V/div)
(b) T = 2.0Nm
図 5.4 180 度通電正弦波駆動から 120 度通電矩形波駆動へ切換(ωm* = 3000min–1)
63
5.4 180 度通電正弦波駆動での電圧/電流位相差とインバータ電圧の関係および高速化
表 2.1 の#1 に示すモータパラメータを用い,電流位相βとインバータ母線電圧 Vdc(PWM
DUTY は固定)の関係,電圧/電流位相差ϕの関係についてシミュレーションした結果を図
5.5 に示す。図 5.5 のシミュレーション結果よりインバータ母線電圧 Vdc,すなわちモータ相
電圧振幅 Va により電圧/電流位相差ϕを制御し,間接的に電流位相βを制御できることが分
かる。電圧/電流位相差ϕを制御することにより,電流位相βを制御する場合と同様に弱め
磁束制御が可能である。供給できるインバータ母線電圧 Vdc に制限がある場合には,回転数
が増加するにつれて弱め磁束により電流位相βが大きくなる。一方,電流位相βが大きくな
る弱め磁束状態では,電圧/電流位相差ϕは小さくなる特性を示している。例えば,図 5.5(a)
でωm = 4000min–1,インバータ母線電圧 Vdc = 320V のとき,電流位相βは約–15deg であり,
そのとき図 5.5(b)より電圧/電流位相差ϕは約 35deg であるが,インバータ母線電圧が Vdc =
200V のとき,電流位相βは約 45deg となり,そのときの電圧/電流位相差ϕは約–10deg とな
っており,弱め磁束となると電圧/電流位相差ϕは小さくなる。また,図 5.5(b)より弱め磁
束がさらに進み,電流位相βが 50deg を超えると電圧/電流位相差は–10deg を最小値として
電流位相βに対して減少から増加に転じる。したがって,電圧/電流位相差ϕから電流位相β
を間接的に得ることができなくなり,結果的に弱め磁束の状態を制御できなくなる領域が存
在する点には留意する必要がある。
表 2.1 の#1 に示すモータパラメータのモータを 180 度通電正弦波駆動した時の U 相モー
タ電流波形と U 相モータ電圧位相信号(0, 360deg で反転),ロータ位置信号(1 回転毎にパル
ス信号出力)
,U 相端子電圧を図 5.6 に示す。キャリア周波数は 4kHz である。図 5.6 より PWM
DUTY が固定でインバータ母線電圧 Vdc が低下すると,弱め磁束により電圧/電流位相差ϕ
が小さくなり,モータ相電流振幅 Ia が増加している。図 5.5 のシミュレーション結果と図
5.6 の実験結果はインバータ母線電圧と電圧/電流位相差の関係は同様の傾向を示している
ことも確認できる。
120 度通電矩形波駆動での最高回転数と 180 度通電正弦波駆動での実験結果を図 5.7 に示
す。鎖交磁束の高いモータでは誘起電圧が高くなり 120 度通電矩形波駆動では誘起電圧検出
用の無通電区間の挿入のため印加電圧が低く,
電圧位相の進角にも限界があるため最高回転
数が実験条件では 3500min–1 であるのに対し,180 度通電正弦波駆動ではインバータ母線電
圧の利用率が高くなり,
さらに弱め磁束効果により最高回転数を拡大させることができてい
る。
64
400
*
350
DC voltage Vdc [V]
-1
ω m = 4000min
300
(b) V dc = 260V
250
(a) V dc = 320V
(c) V dc = 200V
200
150
*
-1
ω m = 2000min
100
50
0
-40
-30
-20
-10
0
10
20
30
40
50
60
70
Current phase β [deg]
(a) 電流位相βとインバータ母線電圧 Vdc の関係
60
*
50
Phase difference ϕ [deg]
-1
ω m = 4000min
(a) V dc = 320V
40
30
(b) V dc = 260V
20
(c) V dc = 200V
10
0
-10
-40
-30
-20
-10
0
10
20
30
40
50
60
70
-20
Current phase β [deg]
(b) 電圧/電流位相差ϕと電流位相βの関係
図 5.5 電圧/電流位相差ϕ,インバータ母線電圧 Vdc,電流位相βの関係
(T = 2.0Nm)
65
Rotor position signal
1ms/div
vu
phsae signal
iu
ϕ
(1A/div)
vu
terminal voltage
(50V/div)
(a) Vdc=320V
1ms/div
Rotor position signal
vu
phsae signal
iu
ϕ
(1A/div)
vu
terminal voltage
(50V/div)
(b) Vdc=260V
Rotor position signal
vu
phsae signal
iu
(1A/div)
1ms/div
ϕ
vu
terminal voltage
(50V/div)
(c) Vdc=200V
図 5.6 弱め磁束制御実験結果(ωm* = 4000min–1, T = 2.0Nm)
66
(a) 120 度通電矩形波駆動 最大回転数 ωm* = 3540min–1
(b) 180 度通電正弦波駆動
ωm* = 4500min–1
図 5.7 弱め磁束による高速化(T = 2.0Nm, Vdc = 240V)
5.5 120 度通電矩形波駆動・180 度通電正弦波駆動の効率・騒音比較
120 度通電矩形波駆動と 180 度通電正弦波駆動での効率の比較結果の一例を図 5.8 に示す。
比較は 120 度通電矩形波駆動の効率を基準として 180 度通電正弦波駆動の効率の比として示
している。120 度通電矩形波駆動での電圧位相指令値δ∗,180 度通電正弦波駆動での電圧/
電流位相差指令値ϕ∗はそれぞれ効率が最大となるように調整している。回路効率は 950min–1,
2000min–1 共に 120 度通電矩形波駆動の方が 180 度通電正弦波駆動より高い。120 度通電矩
形波駆動のほうが 180 度通電正弦波駆動よりもスイッチング損失が少ないためであると考
えられる。一方,モータ効率は回転数・負荷の比較的高い 2000min–1 の運転条件では 120 度
通電矩形波駆動よりも 180 度通電正弦波駆動の方が高い。180 度通電正弦波駆動の方が,鉄
損が少ないためと考えられる。全効率では回転数・負荷トルクの低い 950min–1 の運転条件
では 120 度通電矩形波駆動のほうが 180 度通電正弦波駆動よりも高く,回転数・負荷トルク
の高い 2000min–1 の運転条件では 180 度通電正弦波駆動が高くなっている。
低速で 120 度通電矩形波駆動,高速で 180 度通電正弦波駆動を行うことで低速から高速ま
で高効率に運転することができる。120 度通電矩形波駆動・180 度通電正弦波駆動切替技術
は,市販のエアコン等に採用されており,期間消費電力量の低減に大きく寄与している。ま
67
た,「トップランナー方式」における省エネ基準達成率 100%以上を達成している。
図 5.9 にモータの騒音測定結果の一例を示す。聴感上で問題となる 1kHz~3kHz 付近にお
いて,180 度通電正弦波駆動による騒音の低減が確認できる。モータの騒音が大きくなる高
速域では 180 度通電正弦波駆動を行うことで,120 度通電矩形波駆動に比べ騒音の低減も図
れる。
1.010
Circuit efficiency
Motor efficiency
Efficiency
1.005
Sinusoidal
wave drive
Total efficiency
Efficiency of rectangular wave drive
1.000
0.995
0.990
-1
*
ω m = 950min
950rpm
T = 1.40Nm
-1
*
ω m = 1500rpm
2000min
T = 1.65Nm
図 5.8 120 度通電矩形波駆動と 180 度通電正弦波駆動の効率比較
80
75
Noise level [dB]aa
70
矩形波駆動wave drive
Rectangular
OV
-6dB
正弦波駆動
Sinusoidal
wave drive
65
60
55
50
45
40
35
30
0.2
0.3
0.5
0.8
1.3
2.0
3.2
5.0
8.0
12.5 20.0
Frequency [kHz]
図 5.9 120 度通電矩形波駆動と 180 度通電正弦波駆動のモータ騒音比較
(ωm* = 3000min–1)
68
5.6 結言
異なる特長を持つ二つの圧縮機モータ駆動技術,120 度通電矩形波駆動,180 度通電正弦
波駆動をエアコン室外機インバータ制御に搭載し,それらを運転条件に応じて切り換えるこ
とにより,高効率化・運転範囲の拡大・低騒音化を実現した。
低速領域においては,120 度通電矩形波駆動により高効率とすることができる。180 度通
電正弦波駆動ではモータ効率の高くなる鎖交磁束の高いモータを駆動した場合にはモータ
相電流が小さくなり低速では電流検出が困難で不安定となるが,120 度通電矩形波駆動では
誘起電圧を検出しているため,低速でも安定してモータを駆動できる。また,低速領域では
180 度通電正弦波駆動は電圧/電流位相差と電流位相の関係が回転数の影響を受けるため
不向きである。
高速領域においては,180 度通電正弦波駆動により高効率とすることができる。120 度通
電矩形波駆動では弱め磁束を十分に活用することができないが,180 度通電正弦波駆動によ
り大幅に回転数を高くすることができる。昇圧制御(PAM:Pulse Amplitude modulation)を
導入して,インバータ母線電圧を高くすることにより,120 度通電矩形波駆動でも高速駆動
させることができるが,制御回路のコストが増加し,制御マイコンの計算負荷も増加する。
また,高速領域で 180 度通電正弦波駆動することで,モータ相電流が正弦波状となり 120
度通電矩形波駆動よりも低騒音化が期待できる。
信頼性については,120 度通電矩形波駆動と 180 度通電正弦波駆動の 2 種類の駆動方法を
備えているため,例えば 180 度通電でのシャント抵抗の電流検出が回路の不具合により検出
できなくとも 120 度通電矩形波駆動に切り換えることで応急運転が可能である。
120 度通電矩形波駆動,180 度通電正弦波駆動はいずれもセンサレス方式かつモータパラ
メータが不要となっており,モータパラメータの変動にロバストであり,制御回路を低コス
ト化でき信頼性も向上する。
計算負荷は,
電圧/電流位相差制御による 180 度通電正弦波駆動ではベクトル制御による
180 度通電正弦波駆動で必要となる計算処理負荷の高い位置推定や座標変換処理が不要で
あり,計算がシンプルとなり計算処理負荷は極めて小さい。制御マイコンは 16bit マイクロ
コントローラでも十分であるため制御回路を低コスト化できる。
本制御技術は,120 度通電矩形波駆動,180 度通電正弦波駆動を併用することで,それぞ
れの特徴を活用して高磁束・高効率モータの駆動に対して,インバータ制御システム全体の
低コスト化・高効率化・低騒音化を実現し,信頼性の高いシステムを構築したといえる。
69
本技術を搭載したエアコンは優れた省エネ性に加え,暖房起動時には急速暖房が可能であ
る。さらに,本制御技術はファンモータ制御や冷蔵庫用圧縮機モータ制御などへの応用も期
待される。
70
第6章
結論
本論文では,回転子位置センサレスのモータ駆動システムにおける永久磁石同期モータの
センサレス電圧/電流位相差制御を提案し,制御特性の検討を行った。内容を以下にまとめ
る。
第 2 章では,電流位相と電圧/電流位相差には相関関係があることを示し,電流位相を電
圧/電流位相差で制御できることを示した。また,モータ相電圧振幅と電圧/電流位相差の
関係についても示し,モータ相電圧振幅で電圧/電流位相差を制御し,間接的に電流位相を
制御できることを示した。モータ相電圧振幅,電圧/電流位相差,電流位相の関係の把握は
モータ相電圧振幅で電圧/電流位相差を制御する電圧/電流位相差制御では必要不可欠で
ある。
電流位相と電圧/電流位相差の関係は角速度およびトルクによる影響を受けることを示
した。また,高速領域では電流位相と電圧/電流位相差の関係は角速度の影響を受けにくく
なることを解析により示した。この特性は,制御系において角速度の影響を考慮する必要が
なくなり,制御システムの簡素化につながる。
弱め磁束領域では電圧/電流位相差で電流位相が間接的に制御できなくなる場合がある
ことを明らかにした。したがって,電圧/電流位相差制御では,弱め磁束制御に限界点・制
約があることが判明した。そこで,電流位相を間接的に制御する電圧/電流位相差制御にお
いて要求されるモータ特性について整理し,要求されるモータ特性を満たすために必要なモ
ータパラメータの条件について示した。これにより,弱め磁束領域での運転も含めた幅広い
電流位相で運転できる可能性があることを示し,シミュレーションにより特性を確認した。
電圧/電流位相差制御は,制御系でモータパラメータ,座標変換をオンラインで必要とし
ないため汎用性が高く,非常にシンプルである。一方,その制御特性はモータパラメータに
大きく依存していることが判明した。このため,電圧/電流位相差制御が適用できるように
アプリケーションの要求仕様に合わせてモータパラメータを調整する必要がある。
第 3 章では,シミュレーションおよび実験において,電圧/電流位相差を最適に制御する
ことで,モータの高効率駆動が実現できることを示した。制御系でモータパラメータが不要
であることから,例えばモータパラメータが不明のモータであっても,モータ相電流が検出
できる状態まで起動させることができれば,モータ相電流が最小となるように電圧/電流位
相差を実験的に求めることで高効率運転させることができる。また,電圧/電流位相差をモ
ータ相電流の積算値の比から推定することで,モータ相電流の絶対値も不要となり,電流セ
71
ンサ等の温度による特性変動や固体ばらつきに対してもロバストとなる。電圧/電流位相差
はモータ 3 相分検出する必要はなく,1 相分だけでよい。また,電圧/電流位相差の推定に
必要なモータ相電流をパワーモジュールの過電流検出用に用いられているシャント抵抗に
流れるインバータ母線電流から抽出し,検出するタイミングを最適化して容易に検出できる
タイミングを利用して精度よく検出することができるため,高価な DC 電流センサを用いる
ことなく安価でシンプルな制御システム構成とすることができた。
第 4 章では,電圧/電流位相差制御がロータ位置の検出や推定を行っていないため,ロー
タの角速度やモータ相電流が連続的に脈動する不安定なシステムであることを解析により
示した。このとき,電圧位相も連続的に脈動することから,電圧位相の脈動を推定してイン
バータ出力角速度を補正することにより,システムを安定化する方式を提案し安定化できる
ことを解析により確認した。しかし,電圧/電流位相差制御では,位置センサレスであるた
め電圧位相を直接検出することはできない。そこで,電圧位相の脈動を電圧/電流位相差の
変動から間接的に検出する方式,有効電流の変動から間接的に検出する方式,それぞれの方
式について電圧位相の変動を推定できることを示し,システムを安定化できることを実験に
より確認した。
電圧/電流位相差の変動を検出して安定化する方式は,相対情報である電圧/電流位相差
の変動を利用しているため,シャント抵抗などの電流検出器の絶対値情報を必要としておら
ず,温度変化やばらつきによるパラメータ変動に対してはロバストとなり,制御系をシンプ
ルにすることができる。しかしながら,第 2 章より電圧/電流位相差はモータパラメータの
組み合わせによっては,
特に電流位相が大きくなる弱め磁束領域で電圧/電流位相差が電流
位相に対して単調な関係とならない場合もあるため,電圧位相の変動と電圧/電流位相差の
変動も単調とはならないことがあり,安定化制御の限界点については留意する必要がある。
有効電流の変動を検出して安定化する方式は,
絶対情報である有効電流を利用するためシ
ャント抵抗などの電流検出器の温度変化,ばらつきの影響を受けるが,有効電流が電流位相
に対して比較的単調な関係であり,電圧位相の変動と有効電流の変動も単調となるため,安
定化制御が動作できる領域は電圧/電流位相差の変動を検出する方式よりも広く,安定性が
高いと考えられる。
電圧/電流位相差制御では制御系が不安定であるため,安定化制御が必要となるが,電圧
/電流位相差の変動を利用する安定化方式,有効電流の変動を利用する安定化方式のいずれ
の安定化方式も制御系がシンプルであり,汎用性が高いといえる。
第 5 章では,異なる特長を持つ二つの圧縮機モータ駆動技術,120 度通電矩形波駆動,電
72
圧/電流位相差制御による 180 度通電正弦波駆動をエアコン室外機インバータ制御に搭載
し,それらを運転条件に応じて切り換えることにより,高効率化・運転範囲の拡大・低騒音
化を実現した。
低速領域においては,120 度通電矩形波駆動により高効率とすることができた。一方,180
度通電正弦波駆動ではモータ効率の高くなる鎖交磁束の高いモータを駆動した場合にはモ
ータ相電流が小さくなり低速では電流検出が困難で不安定となる傾向があるが,120 度通電
矩形波駆動では誘起電圧からロータ位置を検出しているため,低速でも安定してモータを駆
動できる。また,低速領域では 180 度通電正弦波駆動は電圧/電流位相差と電流位相の関係
が回転数の影響を受けるため不向きである。
高速領域においては,180 度通電正弦波駆動により高効率とすることができた。120 度通
電矩形波駆動では弱め磁束を十分に活用することができないが,180 度通電正弦波駆動によ
り大幅に回転数を高くすることができる。また,高速領域で 180 度通電正弦波駆動すること
で,モータ相電流が正弦波状となり 120 度通電矩形波駆動よりも低騒音化できた。インバー
タ回路に昇圧制御(PAM:Pulse Amplitude modulation)を導入して,インバータ電圧を高く
すると 120 度通電でも高速駆動させることができるが,制御回路のコストが増加し,制御マ
イコンの計算負荷も増加する。
信頼性については,120 度通電矩形波駆動と 180 度通電正弦波駆動の 2 種類の駆動方法を
備えているため,フェールセーフ構成となり,例えば 180 度通電正弦波駆動でのシャント抵
抗の電流検出が回路に不具合が発生して,電流を検出できなくとも 120 度通電矩形波駆動に
切り換えることで応急運転が可能である。
120 度通電矩形波駆動,180 度通電正弦波駆動はいずれもセンサレス方式かつモータパラ
メータが不要となっており,モータパラメータの変動にロバストであり,制御回路を低コス
ト化でき信頼性も向上する。120 度通電矩形波駆動,180 度通電正弦波駆動の切換は運転中
に行うことで,エアコンの使用性,性能を低下させることがない。
計算負荷は,
電圧/電流位相差制御による 180 度通電正弦波駆動ではベクトル制御による
180 度通電正弦波駆動で必要となる計算処理負荷の高い位置推定や座標変換処理が不要で
あり,計算がシンプルとなり計算負荷は極めて小さい。制御マイコンは 16bit マイクロコン
トローラでも十分であるため制御回路を低コスト化できた。
異なる特長を持つ二つの圧縮機モータ駆動技術,120 度通電矩形波駆動,電圧/電流位相
差制御による 180 度通電正弦波駆動を組み合わせたことにより,それぞれの特徴を活用して
高磁束・高効率モータのポテンシャルを引き出すとともに,インバータ制御システム全体の
73
低コスト化・高効率化・低騒音化を実現し,信頼性の高いシステムを構築したといえる。本
技術を搭載したエアコンは優れた省エネ性に加え,急速冷暖房が可能である。
本論文では,モータ相電流とモータ相電圧の位相差(電圧/電流位相差)をモータ相電圧
振幅で制御することで永久磁石同期モータを高効率で安定駆動できる方式について提案し
た。本方式はオフラインでの電圧/電流位相差の指令値の生成を除けばモータパラメータを
使用しないため,制御システムが非常にシンプルとなる。一般的な永久磁石同期モータのベ
クトル制御で必要となる永久磁石の鎖交磁束,電機子抵抗,インダクタンスなどのモータパ
ラメータは電圧/電流位相差の指令値に集約されており,
しかも指令値はオフラインで生成
するため,2相・3相変換,回転座標変換が不要となり制御システム側の計算負荷を抑える
ことができる。また,電圧/電流位相差は一般的な測定器でも計測することができるため,
モータパラメータが不明の PM モータであってもモータ相電流が最小となるようにモータ
相電圧振幅を調整して電圧/電流位相差を実験的に求めて運転させることも可能である。し
かしながら,
制御指令値である電圧/電流位相差にモータパラメータを集約させていること
から,弱め磁束制御を含むその運転特性はモータパラメータに大きく依存する。このため,
アプリケーションの仕様に合わせて,モータパラメータを調整する必要がある。電圧/電流
位相差制御はモータ側でモータパラメータやモータ特性に制約を与える代わりに,制御シス
テム側でモータパラメータや位置情報などを不要とすることができ,d-q 軸座標系での電流
情報など多くの中間情報の検出,推定,座標変換を不要とすることで制御系を極めて簡素化
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74
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(37)
浜岡孝二:
「ノンフロン冷蔵庫とその省エネ技術」,2003 モータ技術シンポジウム(日
本能率協会主催)資料,C5-2 (2003)
(38)
田中秀尚・浜岡孝二・大内山智則:
「矩形波駆動による冷蔵庫圧縮機の運転領域の拡
張」,パワーエレクトロニクス学会誌,Vol. 29, No. 1 pp. 79-85 (2004)
(39)
大井健太郎・戸張和明・岩路善尚:
「高応答を実現する電圧位相操作型の弱め界磁制
御法」,電気学会論文誌D, Vol. 129, No. 9, pp. 866-867 (2009)
(40)
初瀬渉・能登原保夫・大井健太郎・田村健司・右ノ子知恵・船山祐治:
「電圧位相操
作型弱め界磁制御のルームエアコンへの適用検討」,平成 21 年電気学会産業応用部
門大会講演論文集, Vol. 1, pp. 631-632 (2009)
77
謝辞
本論文は,モータ相電圧とモータ相電流の位相差である電圧/電流位相差をモータ相電圧
振幅で制御する電圧/電流位相差制御による永久磁石同期モータの回転子位置センサレス
制御に関する研究成果をまとめたものです。稿を終えるにあたり,終始種々のご指導とご鞭
撻を賜った大阪府立大学大学院工学研究科
森本茂雄教授に厚く感謝の意を表します。
また,本論文をまとめるにあたり,有益なご助言とご指導を賜りました大阪府立大学大学
院工学研究科
小西啓治教授ならびに石亀篤司教授に深甚なる謝意を表します。
本研究を遂行するにあたり,平素より暖かいご教示とご配慮をいただきましたシャープ株
式会社
健康・環境システム事業本部
要素技術開発センター
池防泰裕室長ならびに亀山
浩幸係長には,心より感謝の意を表します。種々の面でご協力いただいたシャープ株式会社
健康・環境システム事業本部
大阪府立大学大学院工学研究科
空調システム事業部ならびに要素技術開発センターの皆様,
電気・情報系専攻
電気情報システム工学分野
ライブシステム研究グループの皆様に心より感謝致します。
78
モータド
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