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PDF形式 502 KB - 内閣府経済社会総合研究所

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PDF形式 502 KB - 内閣府経済社会総合研究所
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内
容・構成
本章では、科学技術基本計画の策定プロセスと基本計画の内容・構成の変化について、実態に
即して詳細な検討を行う。これは、1 つには図 3-1 の右側に示した政策過程を明らかにする作業に
相当するものであるが、その目的は、情報や知識を利用して意思決定を行う際の背景的情報を与
えることにある。政治的・社会的文脈は利用に影響を与える一つの因子でもある。本章のもう 1
つの目的は、ここで情報や知識(源)の簡単な解説を行うことである。図 4-1 における入力と因
子の一部の解説を本章で行い、次章で残りの因子の解説と出力の分析を行う。
具体的には次のようなものである。5-1 では科学技術基本計画の概要を説明した後、5-2 では策
定プロセスを各期ごとに詳細に見ていく。また、それらを踏まえ、次期以降に想定される基本計
画の策定プロセスについて検討する。5-3 では、こうした計画策定の背景を踏まえて基本計画の内
容や構成が期を追うにしたがってどのように変化したかを分析する。
5-1
科学技術基本計画の概要
5-1-1
科学技術基本計画とは何か
科学技術基本計画は、1995 年 11 月 15 日に公布、施行された科学技術基本法第 9 条に基づき、科
学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために策定される 5ヵ年計画である。
基本計画で定める事項については、次のように規定されている。
(1) 研究開発の推進に関する総合的な方針
(2) 研究開発環境の整備に関し政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
(3) その他科学技術振興に関し必要な事項
また、基本計画に関して、基本法案に対する次のような内容の付帯決議が、衆参の両科学技術
委員会からだされている。
(1) 10 年程度を見通した 5 年間の計画とすること
(2) 我が国が科学技術創造立国を目指すため、政府の研究開発投資額の抜本的拡充を図るべく、
当該基本計画の中に、講ずべき施策や規模等を含めできるだけ具体的な記述を行うよう努め
ること
45
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
(3) 独創的、基礎的研究の抜本的強化を図るため、大学、国立試験研究機関等における研究者の
意欲を引き出すための人材、資金、研究開発成果等に係る制度面での改善を行うことによ
り、柔軟かつ競争的な研究環境を整備すること、等。
なお、基本法第 9 条第 4 項では、政府が科学技術基本計画を策定するに当たっては、
「あらかじ
め、科学技術会議の議を経なければならない」とし、前述の付帯決議においても、
「科学技術会議
の責務が拡大することから、総合的な科学技術政策の立案とその強力な推進のため、科学技術会
議の抜本的な充実と活性化を図るよう努める」旨が明記されている。
以上のような性格をもつ科学技術基本計画であるが、1996 年 7 月に、12 年度までの 5 年間を対
象とした第 1 期が閣議決定された。2008 年 3 月末現在、2006 年度から 2010 年度を対象とする第
3 期の中間地点に差し掛かろうとしているところである。
5-1-2
科学技術基本法制定の経緯と背景
1996 年 7 月 2 日に閣議決定された第 1 期科学技術基本計画(以下、第 1 期基本計画)は、前述
のように科学技術基本法が基となっている。そのため、ここでは、科学技術基本法制定の経緯と
背景についてまとめた。
(1) 科学技術基本法前史
科学技術基本法は、1959 年に科学技術会議が設置された直後に制定が検討されていた。6 月 5
日諮問第 1 号「10 年後を目標とする科学技術新興の総合的基本方策について」が内閣総理大臣か
ら発せられ、1960 年 10 月 4 日、同諮問に対する答申が行われた。その答申の中で「科学技術に
関する基本法の制定」が表明された。同じ頃農業基本法の制定が問題になっており(1961 年 6 月
公布)、科学技術基本法の参考にされている。
科学技術会議は総合部会に基本法分科会を設置し、基本法の審議を行った。ここでの基本法の
骨子案に加え、衆議院の科学技術新興対策特別委員会に設けられていた基本問題小委員会による
科学技術基本法(第一次試案)案や、日本学術会議による勧告を参考として審議を行った。その
過程で、特に基本法の重要な柱となる基本計画ないし長期計画のあり方や内容について議論が進
められた。1963 年 3 月に西欧諸国における科学技術長期計画の実状調査のため調査団を派遣した
ほか、日本学術会議との意見交換も数回行った。人文・社会科学の軽視を恐れた日本学術会議の
意見を入れ、科学技術基本法はそれまで科学技術行政の対象外であった領域も対象とすることと
なり、科学技術会議もそれに合わせて文部省の管轄である人文・社会科学や大学での研究を含む
すべての科学技術の政策行政を総合企画・調整する機関として構想された。だが、1965 年 12 月
1 日に諮問第 1 号に対する追加答申「科学技術基本法の制定について」が内閣総理大臣に答申さ
れると、翌年 3 月、自民党の文教部会から法案が人文科学をも対象とすることについて異議が出
された。人文科学や基礎科学の分野を除くこととした自民党の方針にしたがって新たな政府案が
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政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
作成されたが、日本学術会議は反発し政府案に反対の姿勢をとることとなった。法案は 1968 年 2
月に第 58 国会に提出されたが継続審議となり、年末の第 60 国会で審議未了廃案となった 。
科学技術基本法案が廃案になった後、基本法制定に関して進展もなかったが、石油危機を契機
にしてエネルギー危機への対応が大きな政策課題となった。諮問第 5 号「1970 年代における総合
的科学技術政策の基本について」
(1970 年 8 月 25 日)で環境科学技術、ソフトサイエンス、ライ
フサイエンスなどの新しい科学技術分野の展開の重要性が指摘されており、それらの振興も求め
られていた。科学技術会議では 1978 年 7 月に個別基本計画として第 7 号答申「エネルギー研究
開発基本計画について」を出した後、遺伝子組換え、防災、ライフサイエンス、物質・材料系科
学技術、情報・電子系科学技術、地球科学技術、ソフト系科学技術、先端的基盤科学技術といっ
た個別分野の研究開発基本計画ばかりでなく、国立試験研究機関、科学技術振興基盤の整備、科
学技術系人材確保、地域における科学技術活動といった科学技術活動全般にかかる課題について
の基本指針も定め、後の科学技術基本計画に盛り込まれる部分の多くを個別基本計画で先取りし
た 。これは 1960 年代に科学技術基本法の立法化を果たせなかった科学技術庁が、立法にかから
ない個別基本計画を多くの分野・制度に対して制定することで、その総体に実質的に科学技術基
本計画の機能を持たせる狙いがあったと言われている。
(2) 科学技術基本法制定の経緯と背景
審議未了で廃案となった科学技術基本法であるが、内外の状況の大きな変化に伴い、30 年近く
経過した 1994 年 3 月から再び検討が開始され、自民党、新進党、社会党、さきがけの 4 党の議員
の共同で法案が国会に提出され、1995 年 11 月に議員立法により全会一致で可決成立した。
科学技術基本法制定への機運が再び高まった背景としては、産業育成や地球規模の問題の解決
等に対する科学技術への期待が高まる一方で、バブル経済崩壊後の景気低迷の影響等により、こ
れまで我が国の研究開発投資の大層を担っていた民間の研究開発投資が 1992 年度から 3 年連続し
て前年度を下回り、結果として、日本全体の研究開発投資も 1993 年、1994 年と 2 年連続して前
年度から減少していたことや、大学、国立試験研究機関等においては、研究支援者の不足や施設
の老朽化・陳腐化などにより、必ずしも研究者の知的創造力を最大限に発揮させるための満足な
研究環境にはなっていないこと等が指摘されている(科学技術庁科学技術政策局編「科学技術基
本計画(解説)」)。
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政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
は、21 世紀初頭に対 GDP 比率で欧米主要国並に引き上げることを目指し、計画期間内の倍増の
実現を求めた。この場合、計画期間内における科学技術関係経費の総額の規模は 17 兆円が必要で
あった。このほか、望ましい研究開発基盤の整備のために、老朽化が見込まれる施設に関する計
画的な整備の必要性が指摘された(平成 17 年度科学技術白書)。
インタビューによると、もとより投資の拡大は確実に科学技術の成果の増大を意味するものの、
17 兆円の目標の記述は、決して実利的なものではなく、むしろ国家が困難な時期にあって国家の
進むべき方向性を内外に示す強い象徴性を有する目標であった、という。
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図 5-1: 第 1 期科学技術基本計画策定までの流れ
(3) 体制
第 1 期科学技術基本計画の策定プロセスにおける審議の体制は次の通りである。
1) 科学技術会議
科学技術会議は、政府の科学技術政策を総合的に推進するため、科学技術会議
設置法に基づき、1959 年 2 月に設置されたものである。科学技術会議は、内閣総理大臣を議長と
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政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
5-2
5-2-1
科学技術基本計画の策定プロセス
第 1 期科学技術基本計画
(1) 第 1 期基本計画策定までの流れ
政府は、1995 年 11 月 29 日に開催された第 54 回科学技術会議本会議において、内閣総理大臣
から科学技術会議に対し、諮問第 23 号「科学技術基本計画について」
(以下、諮問第 23 号)を諮
問した。
内閣総理大臣による諮問第 23 号を受け、科学技術会議では、総合計画部会及びその下に設置さ
れた基本問題分科会において基本計画に関する検討を行った。基本問題分科会は、1995 年 12 月
13 日開催の第 25 回総合計画部会において設置された分科会であり、実質的な議論はこの場を通
じて行われた。多いときには月に 5 回の頻度で開催された本分科会であるが、委員の出席率は非
常に高かったという。基本問題分科会では、第 1 回が開催されてから第 23 号答申がまとめられる
までの約 7ヶ月の間に、計 15 回にわたって議論を行った。
この間、親部会である総合計画部会においては、科学技術会議が諮問第 23 号を受けた直後に 1
回、基本問題分科会における議論の中間時点で 1 回、答申をまとめる直前で 1 回と、計 3 回の会
合がもたれた。
これらの検討を踏まえ、科学技術会議は、1996 年 6 月 24 日に、諮問第 23 号「科学技術基本計
画について」に対する答申(以下、第 23 号答申)をまとめ、同年 7 月に閣議決定により第 1 期
「科学技術基本計画」が策定された。
(2) 第 1 期基本計画策定時の背景
基本法制定の背景で述べたように、第 1 期科学技術基本計画は、我が国の科学技術が、内外の
諸問題への対応や人類共有の知的資産の創成といった、それ自体の重要性にもかかわらず、近年
経験したことのないほど厳しい状態にある、との認識を背景に策定された。長引いた不況の影響
により、我が国の研究開発投資は、日本全体で 1993 年度、1994 年度と 2 年連続して減少し、ま
た、政府研究開発投資は対 GDP 比率において、欧米主要国の水準を依然として下回っていた。さ
らに、研究開発システムについても、柔軟性・競争性が低いこと等が制約として顕在化してきて
いた(平成 9 年度科学技術白書)。
このような背景のもと策定された第 1 期科学技術基本計画のポイントは、次の通りである。第
1 に柔軟かつ競争的で開かれた研究環境の実現を目指した新たな研究開発システムの構築に向け
た制度改革であった。具体的には、国の研究機関等の研究者についての任期制の導入による研究
者の流動性の向上、ポストドクター等 1 万人支援計画の達成等研究者の養成・確保、産学官の連
携交流の促進、外国人研究者の受入れ促進、厳正な評価等の実施であった。第 2 には科学技術基
本計画の最も重要な目標でもあった政府研究開発投資の拡充である。政府研究開発投資について
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政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
し、関係閣僚、有識者で構成されており、
「科学技術(人文科学のみに係るものを除く。以下同じ)
一般に関する基本的かつ総合的な政策の樹立に関すること」、「科学技術に関する長期的かつ総合
的な研究目標の設定に関すること」、「前号の研究目標を達成するために必要な研究で特に重要な
ものの推進方策の基本の策定に関すること」等について審議し、内閣総理大臣に答申し、あるい
は、必要に応じて意見を申し出ることを主たる任務としている。さらに、1995 年 11 月に科学技
術基本法が施行されたことに伴い、政府は科学技術基本計画を策定するに当たっては、あらかじ
め、科学技術会議の議を経た上で策定することとなった。
諮問第 23 号に対する答申をまとめた時点における議員構成は、内閣総理大臣を議長に、大蔵、
文部、経済企画、科学技術の 4 閣僚と日本学術会議会長及び学識経験者 5 名の計 11 名である。う
ち、常勤議員は 2 名である。
なお、部会等を含め、庶務は、科学技術庁科学技術政策局政策課が担当する。大学における研
究に係る事項に関するものについては、科学技術庁科学技術政策局政策課と文部省学術国際局学
術課において共同して処理することとなっている。
2) 総合計画部会 総合計画部会は、科学技技術会議に設けられた部会の 1 つであり、科学技術一
般に関する基本的かつ総合的な政策の樹立に関することをその所掌事務としている。部会は、議
長に指名された議員及び専門委員から構成されるが、第 1 期基本計画策定時においては、議員 6
名のほか、経済界のうち理工系の出身者及び大学教授、研究機関の長、マスコミ関係者らで構成
される 26 名の専門委員、計 32 名の体制であった。
科学技術会議が諮問第 23 号を受けた直後に 1 回、議論の中間時点で 1 回、答申をまとめる直前
で 1 回と、計 3 回開催された。
3) 基本問題分科会 基本問題分科会は、総合計画部会のもとに設置された分科会である。基本計
画の策定にあたって、部会は頻繁には開催しがたいものであるため、その下でヒアリングやテー
マに応じた集中的論議を行うべく、本分科会が設置された。総合計画部会が 30 名を超える人数
で、各界の代表的性格の強い委員が相当数を占めるのに対し、分科会は 20 名以下で、部会委員と
の重複もあるが必ずしも各界の代表的立場とは限らないメンバーも入っている。分科会の議論は
総合性や調和性に重点があるのではなく、問題を明確化したり、率直な提言を聴取することに主
眼があり、その意味でむしろ一家言をもつ識者やより現場に近い識者で構成されている。
4) 政策委員会 政策委員会は、科学技術会議における重要事項の適時的確な決定に資するため、
1983 年 3 月に設置された委員会であり、日本学術会議会長及び科学技術会議設置法第 6 条第 1 項
第 6 号の議員 5 名(科学技術に関してすぐれた識見を有する者のうちから内閣総理大臣が任命す
る者)並びに議長に指名された専門委員 10 名以内で構成される。所掌事務としては、内閣総理
大臣の諮問に対して行った答申に係る意見に関すること(答申の内容の変更に関することを除く)
及び部会の総括に関することである。後述するように、第 1 期基本計画の審議を実質的に担った
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政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
のは基本問題分科会であるが、所掌事務の中に、科学技術振興調整費の運用方針の決定、科学技
術振興に関する重点指針の決定、科学技術政策立案のための基礎調査といった事項が含まれてお
り、基本計画の策定の際に用いられたエビデンス形成にある程度寄与したものと思われる。
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図 5-2: 第 1 期基本計画の審議体制
(4) 情報・知識(源)
前述のように、第 1 期基本計画の立案過程においては、約 7ヶ月間しか準備期間がなかったこ
ともあり、事務局側で改めて調査分析を行ったり、シンクタンク等に調査を委託したりといった
ことはなく、基本問題分科会という公式の場を通じて、外部の有識者や利害関係者等からの情報
を吸い上げ、まとめあげていく、というやり方がとられた。
以下ではまず、基本問題分科会での議論の過程及び議論に供された情報等についてまとめる。
1)基本問題分科会における審議 計 15 回にわたって行われた分科会は、次のような形で進めら
れた。
まず、第 1 回及び第 2 回は、議論のためのイントロダクションとして、科学技術基本法や科学技
術政策大綱、第 18 号答申の内容等、委員間で共有すべき情報についてのレクチャーが行われた。
第 3 回から第 5 回までは、総合計画部会委員の参加を得て、各界有識者からの意見開陳の機会
として設定された。第 3 回では、国立大学協会の吉川弘之会長及び日本学術会議の伊藤正男会長
の 2 名から、第 4 回では、日本私立大学団体連合会の橘高重義会長及び国立研究機関長協議会の
松山茂代表幹事の 2 名から、第 5 回では、経済団体連合会の武田康嗣産業技術委員会政策部会長、
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政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
東京商工会議所の池田彰孝中堅・中小企業委員会副委員長、及びファイザー製薬(株)ケネス P.
ウォルスキー専務取締役の 3 名から、それぞれ意見聴取を行った。
第 6 回及び第 7 回では、関係省庁からヒアリング、第 8 回から第 12 回までは、テーマごとに議
論を行い(1 回につき 2 テーマ程度)、第 13 回から第 15 回の 3 回で議論のまとめを行った。
2) 事務局による検討 事務局では、毎回、議論すべき課題やポイント、またそれらの裏づけとな
る統計データ等を、議論のための素材として提供した。議論すべき課題等に関しては、第 18 号答
申を基本として、基本計画本文中にも引用されている「科学技術系人材の確保に関する基本指針」
(1994 年 12 月 27 日内閣総理大臣決定)や「構造改革のための経済社会計画−活力ある経済・安
心できるくらし−」
(1995 年 12 月 1 日閣議決定)、
「地域における科学技術活動の活性化に関する
基本指針」
(1995 年 12 月 13 日内閣総理大臣決定)といった課題横断的な指針等に加え、
「先端的
基盤科学技術に関する研究開発基本計画」(1994 年 12 月 27 日決定)や「エネルギー研究開発基
本計画」
(1995 年 7 月 18 日最終改定)といった分野別の基本計画などの行政関連文書に準拠して
設定された。また、議論に供されたデータとしては、基本的に科学技術白書に掲載されているも
のであり、総務省統計局による「科学技術研究調査報告」等の最新の統計データや科学技術政策
に関する国際比較データが用いられた。
3) 政策委員会による調査等 政策委員会は、前述のように、答申等の策定作業の総括の他、科学
技術振興調整費の運用方針の決定、科学技術振興に関する重点指針の決定、科学技術政策立案の
ための基礎調査等を行っている。
科学技術政策立案のための基礎調査等は、研究開発の総合的かつ効率的な推進方策の検討に必
要な調査分析等を行うために科学技術振興調整費を活用して実施されるものであり、政策委員会
の下に置かれている基礎調査小委員会の検討を踏まえて行われる。1994 年度においては、効率的
な研究開発推進方策の検討に必要な基礎的データの収集・分析、重要研究分野における研究開発
の推進方向等の探索が実施された。1995 年度には、効率的な研究開発推進方策の検討に必要な基
礎的データの収集・分析、重要研究分野における研究開発の推進方向等の探索が実施されている。
また、1994 年度には、科学技術振興調整費の運用を通じて、国内外の研究機関及び既存のネッ
トワークを結ぶ省際研究情報ネットワークの整備・運用及び利用に関する調査・研究及び基礎的・
基盤的データのデータベース化に関する調査・研究に着手している。
科学技術会議の答申等については、指摘事項をより一層具体的な施策に反映させるとともに、
その後の所要の調整等を目的として、政策委員会等の場で必要に応じフォローアップが行われて
いる。第 18 号答申に沿った政府の施策を取りまとめた「科学技術振興に係る諸施策の現状につ
いて」が毎年度作成され、公表されている。また、1995 年 9 月には、「研究開発基本計画等フォ
ローアップ委員会」を個別分野毎に設置し、当該分野の答申等に示された、研究開発基本計画等
のフォローアップを実施することが決定されている(平成 7 年度科学技術白書)。
52
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
4) 科学技術基本施策研究会における経常的な議論
科学技術基本施策研究会は、科学審議官をヘッ
ドとして、予算策定年度の前年末から開催されるものであり、官房総務課長の司会の下、例年、
10 回から 20 回の会議を行い、所掌を超えた実質的議論を行う場である。検討結果は文書にまと
められ、次年度の予算策定過程における重要施策ヒアリングの基礎となる。これは、予算策定よ
りも長期的視野を持つ議論の場として機能している、という (木場, 2002)。
第 2 期科学技術基本計画
5-2-2
(1) 第 2 期基本計画策定までの流れ1
第 2 期科学技術基本計画に関する審議が開始されたのは、内閣総理大臣の諮問を受けて開かれ
た第 28 回総合計画部会からであるが、策定のための実質的な準備は、政策委員会による第 1 期科
学技術基本計画についての進捗状況の調査からはじまったといってよい。これは、1998 年 10 月
から開始されたものであり、その中間取りまとめが 1999 年 6 月 2 日の科学技術会議本会議におい
て報告されている。この結果を踏まえ、新たな政策展開を見据えた検討を行うため、同年 8 月に
政策委員会に科学技術目標、知的基盤、研究システム、産業技術の 4 つのワーキンググループが
設置され、2000 年 2 月にその結果がまとめられた。科学技術会議に対し、内閣総理大臣より諮問
第 26 号「科学技術基本計画について」が諮問されたのは、同年 3 月 24 日である。科学技術会議
は、その下に総合計画部会を設置し、10 回にわたり検討を行い、同年 12 月 22 日に計画案を取り
まとめた。この計画案を受け、同年 12 月 26 日に科学技術会議本会議が開催され、内閣総理大臣
に諮問第 26 号「科学技術基本計画について」に対する答申が行われた。
また、2001 年 1 月の総合科学技術会議の発足に伴い、内閣総理大臣から、科学技術基本計画策
定のための科学技術に関する総合戦略についての諮問が行われた。同戦略は、2000 年 12 月に科学
技術会議が取りまとめた「科学技術基本計画について」に対する答申を基調としつつ、自然科学
と人文・社会科学を統合した総合性の観点、及び科学技術を未来への先行投資としてとらえる戦
略性の観点から、基本的考え方等を強化した形で、総合科学技術会議での調査審議を経て、2001
年 3 月の同会議で答申が行われた。
上述の総合戦略が総合科学技術会議より答申されたのを受け、この総合戦略に基づき、同年 3
月 30 日、政府は第 2 期科学技術基本計画を閣議決定した。
(2) 背景
第 1 期基本計画期間中に科学技術政策の推進体制に大きな変化があった。2001 年 1 月、中央省
庁等の再編整備の一環として、内閣府に「総合科学技術会議」が発足した。前身の「科学技術会
議」が年 1 回しか開催されなかったのに対し、総合科学技術会議は月 1 回、必ず総理大臣が出席
1 平成
13 年度科学技術白書等をもとに執筆。
53
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
し、各有識者及び閣僚議員が実質的な議論を展開する形式をとり、基本的政策の企画立案と総合
調整及び予算などの資源配分の方針の審議、評価を行うこととされた。また、科学技術・学術政
策を一体的に推進する等のため文部省と科学技術庁が統合され、文部科学省が発足するなど、国
の科学技術行政体制が再編された。他方、国立試験研究機関・国立大学等をより競争的な環境に
置き、多様化・個性化を図るために、国立試験研究機関の独立行政法人化(2001 年度∼)、国立
大学等の法人化(2004 年度)が実施されるなど公的研究機関・大学等の位置付けにも大きな変化
があった。
(3) 体制
1) 科学技術会議本会議 本会議は、第 1 期基本計画の策定時と同様、実質的な議論を行う場とし
てではなく、答申の最終的なオーソライズの場として機能した。
2) 政策委員会・科学技術基本計画特別会合 政策委員会では、第 1 期科学技術基本計画のフォロー
アップを行うため、1998 年 10 月から調査を開始した。その中間取りまとめは、1999 年 4 月 22 日
に報道発表資料として公表された2 。これは、1999 年 6 月開催の科学技術会議本会議においても
報告されたが、そこで、新たな政策展開を見据えて3 、具体的な取組について政策委員会を中心と
して引き続き検討を行うようにとの総理指示があった。これを受け、政策委員会では、科学技術
基本計画特別会合及び 4 つの個別 WG(科学技術目標、知的基盤、研究システム、産業技術 )を
立ち上げ、フォローアップ作業を継続し検討を深めていった。2000 年 3 月 24 日に「科学技術基
本計画に関する論点整理」としてその最終結果をとりまとめるまでに、個別 WG は各 6 回、特別
会合は計 6 回開催されている。また、同日に出された諮問第 26 号を受け、3 月 28 日に開催され
た第 342 回政策委員会では、答申の審議の進め方についての議論が行われている。
3) 科学技術会議総合計画部会
第 1 期基本計画策定時には 3 回しか開催されなかった総合計画部
会であるが、第 2 期基本計画策定時においては、諮問第 26 号を受けた後計 10 回の審議を行うな
ど、策定のための中心的な役割を担っている。実質的な議論が開始された第 29 回(第 2 回)から
第 31 回までにかけては、科学技術システム改革に関し、非常に幅広い議論が行われた。第 29 回
では、
「競争的資金」のあり方のほか、特に若手研究者の養成・活用についての論議が深められた。
第 30 回では、「開かれた研究開発システムと産学官連携の促進」として、「公的研究機関におけ
る社会、産業界への解放性の拡大」と「産と学官の間の人材、資金、成果の流通環境の整備」と
いったテーマや、
「研究施設の重点的整備」、
「独立行政法人、私立大学」、
「研究開発評価」といっ
た議題が話し合われた。第 31 回では、「理想的な創造的研究システムの実現」、「地域科学技術」、
2 http://www.mext.go.jp/b
menu/houdou/11/04/990432.htm
3 中間とりまとめでは、現行の政策課題として、1)国家的・社会的課題を如何に明確化し、そのための科学技術の目標
を如何に分かりやすく設定し具体的な推進方策を立てるか、2)科学技術の基盤であり知的資産の拡充に貢献する基
礎研究、競争力ある産業技術の育成に寄与する科学技術を如何にして世界水準に高めるか、の 2 課題を指摘している。
54
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
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第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
「科学技術系人材の育成」、「知的基盤」、「研究支援体制」、「社会とのコミュニケーション」、「国
際的な科学技術活動の展開」、「科学技術基本計画のフォローアップ」といった科学技術システム
改革に関連する事項のほか、科学技術の重点化についての議論も行われた。第 32 回では、事務局
作成のメモをもとに、「科学技術基本計画に関する議論の整理」として、「科学技術の振興により
目指すべき国の姿」、「科学技術振興にあたっての基本的方針」、「重点化戦略」、「各研究機関の役
割と課題」といった議論が行われた。この日の議論をもとに事務局メモの内容を整理し、第 33 回
に向けて具体的な答申案の作成にかかる際に、少人数で起草、議論する旨が提案され、そのメン
バー選出と最終的なとりまとめを部会長に一任することとなった。第 33 回では「内外の科学技術
動向」や「基本計画の構成」について、第 34 回以降は答申案等についての審議が行われている。
4) 総合科学技術会議本会議 総合科学技術会議は、2001 年 1 月の中央省庁再編に伴い、「重要政
策に関する会議」の 1 つとして内閣府に設置された。内閣総理大臣のリーダーシップの下、科学技
術政策の推進のための司令塔として、わが国全体の科学技術を俯瞰し、総合的かつ基本的な政策
の企画立案及び総合調整を行うことをそのミッションとしている。総合科学技術会議では、前身
となる科学技術会議が年 1 回しか開催されなかったのに対し、原則月 1 回、必ず総理大臣が出席
し、各有識者及び閣僚議員が実質的な議論を展開する形式をとっている。内閣府政策統括官(科
学技術政策・イノベーション担当)が、産学官から幅広く登用された 100 名規模の職員とともに、
総合科学技術会議の事務局機能を果たしている。
第 2 期基本計画に関しては、同会議発足直後の 2001 年 1 月 18 日に出された内閣総理大臣から
の諮問第 1 号を受け、3 回の審議の後、3 月 22 日に第 1 号答申をとりまとめている。
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図 5-4: 第 2 期基本計画の審議体制
56
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
(4) 情報・知識(源)
第 2 期科学技術基本計画の策定過程においては、前述のように、策定の約 2 年半前から第 1 期
科学技術基本計画についての進捗状況の調査を行いつつ、特別会合、個別 WG、総合計画部会へ
と、有識者を入れ替えながら、外部からの知識導入を図った4 。さらには、科学技術庁科学技術政
策局内に関係省庁職員や民間企業からの出向者等からなる事務局(科学技術基本計画準備室)を
設置し、そこが自ら調査、分析等を行うといった体制がとられた。重点分野等を検討するにあたっ
ては、外部シンクタンクに調査委託も行っている。
以下では、第 2 期科学技術基本計画の原案となった第 26 号答申がまとめられるまでの過程につ
いて、より詳細にまとめた。
1) 第 1 期科学技術基本計画についての進捗状況の調査 政策委員会では、第 1 期科学技術基本計
画のフォローアップとして、1)約 100 人の幅広い有識者からの意見聴取(有識者 100 人ヒアリ
ング)と、2)関係省庁の協力による諸施策の推進状況に関する調査を実施した。これは、第 1 期
基本計画策定後約 3 年を経過した時点における諸施策の推進状況を把握し、科学技術振興上の諸
課題及び今後の政策の目指すべき方向について意見を求め、それらを集約しようとするものであ
る。前述のように、その中間取りまとめは 1999 年 6 月開催の科学技術会議本会議において報告さ
れ、総理指示のもと、具体的取り組みを検討すべく、政策委員会の中に科学技術基本計画特別会
合及び 4 つの個別 WG(科学技術目標、知的基盤、研究システム、産業技術5 )が設置された。特
別会合では、
「新たな科学技術政策のあり方に関する検討」と題し 3 回の議論を行った後、WG ご
とに詳細な検討を開始した。その中間報告が 1999 年 11 月に開催された第 4 回の特別会合で行わ
れ、2000 年 1 月末にはそれぞれの WG が最終報告(案)をまとめている。これらの検討結果は、
最終的には「科学技術基本計画に関する論点整理」として、2000 年 3 月 24 日にとりまとめられ
た。これは、
「今後の次期基本計画の本格的な検討に当たっての基礎とすべき」資料として位置づ
けられるものである。
2) 科学技術基本計画準備室(科学技術基本計画室)による調査等
科学技術基本計画準備室6 は、
科学技術庁、文部省、通商産業省、総務省、農林水産省といった関係省庁ほか、科学技術振興事
業団(現・
(独)科学技術振興機構)や、東レ、日立製作所、松下電器、旭硝子等の民間企業の出
向者からなる総勢 20 名程度の事務局組織であり、第 1 期基本計画フォローアップの中間取りまと
めを受けて 1999 年 8 月に設置された 4 つの個別 WG における検討に先立つ形で科学技術政策局
内に立ち上げられたものである。各 WG が 1999 年 9 月に第 1 回の会合を開いてから 2000 年 1 月
4 審議会のメンバーを選任するにあたっては、科学技術コミュニティの「インナー」な議論にならないよう工夫した、
という。また、策定の後半に近づくほど、産業界からの有識者を多く配置するなどの工夫がなされた。
WG が同年 9 月 6 日、産業技術 WG が 9 月 8 日、科学技術目標 WG が 9 月 9 日、知的基盤 WG が 9
月 10 日と、相次いで第 1 回の会合が開かれている。
6 諮問第 26 号に対する答申の審議がはじまった第 28 回総合計画部会の開催が報道発表された時点(2000 年 4 月 5 日)
では、科学技術基本計画室に名称が変更されている。
5 研究システム
57
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
中旬に最終報告(案)をまとめるまでの約半年の間、それぞれ 6 回にわたって行われた会合をこ
の準備室が事務局として支援している7 。
また、準備室では、「我が国の研究者個人や研究開発が世界と競って遜色のない成果を生み出
し、その成果が産業に発展していく柔軟な研究システムの構築が必要」との問題意識から、2000
年 3 月初旬に訪米調査を行っている。これは、1) 個人が活躍しうる上での制約をどのように緩和
しているのか、2) 特に努力し、成果を上げた研究者に正当な報酬を払える仕組みをどのように確
立しているのか、3) 公的な資源で研究を行って知的な蓄積を得てきた研究者個人が、研究成果を
企業を含むあらゆる場で展開していく際の制約をどのように緩和しているのか、4) 公的な研究費
の使用における柔軟性をどのように確保しているのか、といった明確な調査課題を持った上で、
より柔軟とされる米国の現状を把握することを目的として実施されたものである。事前に国内有
識者にヒアリングを行った上で、NIH や NSF といった公的研究機関、資金配分機関や、メリー
ランド大学、ジョージ・メイスン大学等が訪問先として選ばれた8 。
準備室は、その後も、諮問第 26 号に対する答申案をとりまとめるために科学技術会議に設置さ
れた総合計画部会の事務局の一員として、WG に対する支援と同様に、議論の裏づけとなる統計
データ等の情報収集をはじめとする調査分析を自ら行うなど、第 2 期科学技術基本計画を策定す
る上で重要な役割を果たした。その過程で、重点分野等の検討のために外部シンクタンクに調査
委託を行ったが、事務局側と比べて政策志向が弱い等の理由から、成果は統計データの情報収集
等の範囲に留まり、新たな問題の発見につながる分析等の成果は得られなかったという。
3) その他の情報・知識(源) 科学技術振興調整費の活用により、1999 年度には「我が国の研究
開発水準に関する調査」、「我が国の科学技術政策の効果と課題に関する調査」等、第 2 期基本計
画を意識した 13 テーマの調査がシンクタンクへの委託調査として実施されている。
また、科学技術庁では、科学技術政策の立案、推進に資するよう、1988 年度から毎年度、科学
技術振興事業団の提供する論文データベースをもとに抽出した研究者に対し、我が国の研究活動
の実態を把握するための特定のテーマに関する意識調査「我が国の研究活動の実態に関する調査」
を行っている。これは、調査・集計業務を業者に委託して行われているものである。
これらの調査結果は、基本計画策定のための基礎資料として一部引用されている。
5-2-3
第 3 期科学技術基本計画
(1) 第 3 期基本計画策定までの流れ
文部科学省では、2004 年 9 月 2 日に開催された科学技術・学術審議会第 13 回総会において、
「第 3 期科学技術基本計画の策定に資するため、科学技術創造立国の実現に向けた基本的な政策に
関して調査検討を行う」ことをそのミッションとする基本計画特別委員会を設置し、第 3 期基本
7 合同
WG の形で実施された 3 回の会合を含む。
8 大竹暁氏提供資料による。
58
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
計画の策定に向けての本格的な議論を開始した。そこでの約半年間全 10 回の議論を踏まえ、2005
年 4 月 8 日付で「第 3 期科学技術基本計画の重要政策」をとりまとめている。
総合科学技術会議においても、文部科学省での議論と若干前後する形で、第 3 期に向けての本
格的な議論がはじまった。総合科学技術会議では、2004 年 12 月 27 日の本会議において、内閣総
理大臣から 2006 年度からの第 3 期科学技術基本計画策定のための科学技術に関する基本政策に
ついての諮問が行われ、その 1 週間ほど前に設置された基本政策専門調査会を中心に答申案のと
りまとめを行った。基本政策専門調査会では、中間とりまとめとして、約半年間後の 2005 年 6 月
に基本計画の基本方針(案)をまとめ、その後、科学技術システム改革の各施策の具体化を図る
べく設置された施策検討 WG で議論を重ねながら、1 年間にわたる調査検討を経て、2005 年 12
月 27 日の同会議で諮問第 5 号「科学技術に関する基本政策」に対する答申を行った。この答申に
基づき、総合科学技術会議の議を経て、2006 年 3 月 28 日、政府は、第 3 期科学技術基本計画を
閣議決定した。
前述のように、第 3 期基本計画についての本格的な検討がはじまったのは、科学技術・学術審
議会に基本計画特別委員会が設置された 2004 年 9 月以降であるが、それに先立つ約 1 年半前の
2003 年 4 月から、文部科学省科学技術政策研究所等による「科学技術基本計画の達成効果の評価
のための調査」が科学技術振興調整費によってすでに開始されていた。文部科学省では、これに
加え、様々な局面の前線で活躍する中堅・若手を中心的対象としたヒアリング調査等の先行的な
取組みも実施している。
一方、総合科学技術会議では、2004 年 5 月に、「科学技術基本計画 (2001 年度∼2005 年度) に
基づく科学技術政策の進捗状況」を意見としてとりまとめている。これは、第 2 期基本計画にお
いて、総合科学技術会議の役割の 1 つとして、基本計画に掲げた施策の実施状況について、関係
府省の協力の下毎年度末にフォローアップを行い、3 年を経過した時により詳細なフォローアッ
プを実施するよう定められていることに基づくものである。この意見の中で、今後取り組むべき
基本的課題がとりまとめられている。
(2) 背景
2001 年 3 月に閣議決定された第 2 期基本計画は、我が国経済がバブル経済崩壊後の長期的停滞
に苦しむ中で策定、実施されてきた。第 3 期基本計画の検討時においては、世界的な科学技術競
争の激化や少子高齢化の進展が強く認識され、安全・安心の問題が顕在化するとともに、環境問
題等の地球的課題への科学技術の役割に対する国民の期待が高まっていた。他方、国民の科学技
術への関心の低下も問題視されるようになっていた。また、第 1 期基本計画の策定から 10 年が経
過するタイミングにあって、基本計画の成果が強く問われはじめる時期でもあったといえる。
59
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
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第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
(3) 体制
1) 基本計画特別委員会 基本計画特別委員会は、科学技術・学術審議会運営規則第 5 条第 1 項に
基づき、2004 年 9 月 2 日に開催の科学技術・学術審議会第 13 回総会において設置された委員会
であり、
「第 3 期科学技術基本計画の策定に資するため、科学技術創造立国の実現に向けた基本的
な政策に関して調査検討を行う」ことをそのミッションとしている。懇談会を含めて全 13 回開催
された。
2) 総合科学技術会議本会議 前述のように、総合科学技術会議において、第 3 期基本計画を見据
えた議論が実質的に開始されたのは、第 2 期基本計画の 3 年次フォローアップについて審議を行っ
た 2004 年 5 月からである。同年 12 月の諮問第 5 号から答申がまとめられるまで、以下に述べる
基本政策専門調査会等における議論と並行する形で 8 回の議論が行われている。
3) 基本政策専門調査会
基本政策専門調査会は、総合科学技術会議令第 2 条第 1 項に基づき、総
合科学技術会議に 2004 年 10 月 21 日に設置されたものであり、「科学技術創造立国を目指し、第
3 期科学技術基本計画の策定に資するため、調査・検討を行う」ことをそのミッションとしてい
る。2004 年 12 月 20 日に第 1 回会合が開催され、2006 年 3 月 15 日まで延べ 18 回にわたって議
論を行った。2004 年 12 月 27 日に総合科学技術会議が内閣総理大臣から諮問第 5 号「科学技術に
関する基本政策について」を受けた後の第 2 回目からは、本専門調査会が中心となってその答申
案の取りまとめ作業を行った。
(4) 情報・知識(源)
1) 基本計画のフォローアップ
前述のように、総合科学技術会議は、基本計画に掲げた施策の実
施状況について、関係府省の協力の下毎年度末にフォローアップを行い、3 年を経過した時によ
り詳細なフォローアップを実施するよう、第 2 期基本計画において定められている。その結果は、
「科学技術基本計画 (平成 13 年度∼17 年度) に基づく科学技術政策の進捗状況」として 2003 年 5
月に一度とりまとめられ、3 年次フォローアップにあたる 2004 年 5 月には総合科学技術会議によ
る意見としてとりまとめられている。
2) 基本計画の達成効果の評価のための調査 文部科学省科学技術政策研究所では、15 年度の科学
技術振興調整費の中に、第 1 期及び第 2 期基本計画のレビューのための調査として「科学技術の現
状に関する調査」という募集プログラムが設定されたのを受け、自らを中核機関とするコンソー
シアムを(株)三菱総合研究所及び(株)日本総合研究所とともに形成し、2003 年度及び 2004
年度の 2ヵ年の調査計画「基本計画の達成効果の評価のための調査」をとりまとめ、応募した。こ
の調査計画は、文部科学省科学技術・学術審議会による審査、総合科学技術会議による確認を経
て、2003 年 4 月に採択された。
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政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
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図 5-6: 第 3 期基本計画の審議体制
なお、本調査研究の中間結果等は、前述の 3 年次フォローアップのとりまとめの際に活用され
たり、基本計画特別委員会での議論に供された。
3) 基本計画ヒアリング 「科学技術基本計画ヒアリング」は、科学技術の現場が抱える課題や問
題意識を踏まえた政策立案に資するため、2003 年度から行われたもので、第 1 回基本計画特別委
員会が実施される 2004 年 10 月までの間に、98 件、延べ 140 人以上に対し行われた。対象者は、
研究者、ポストドクター、産学官連携関係者、産業人など、様々な局面の前線で活躍する中堅・
若手を中心とした者である。
文部科学省科学技術・学術政策局担当者による面談形式にて実施され、第 1 期・第 2 期基本計
画の評価、第 3 期基本計画に向けて重要と思われること等の総論や、科学技術基本計画に掲げる
事項(科学技術の戦略的重点化、研究開発環境の整備(システム改革)、産学官連携の推進、科学
技術と社会の関わり等)について、対象者の関心事項を中心に意見聴取を行った。その結果の概
要は、基本計画特別委員会第 2 回にて議論の材料として供された。
4) 重点領域選定のための調査 文部科学省科学技術政策研究所は、重点化の検討に資するための
基礎資料を作成することを目的として、
「科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査」と題する
調査を、2003 年度からの 2 カ年計画で実施した。この調査の中では、経済・社会的寄与度が大き
い科学技術領域や我が国の優位性について、産学官の約 4,000 人を対象にしたアンケート調査や、
62
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
一般国民を対象としたニーズ調査等が行われている。その結果は、基本計画特別委員会において
随時参考資料として議論に供された。
5) 基本計画特別委員会における審議
ここでは、中間取りまとめまでの 10 回の議論の経緯につ
いてまとめる。おおまかな流れとして、第 1 回委員会で事務局が「検討課題(案)」を提示し自
由討議した時には、研究開発の推進や人材、イノベーション、国際化、行政府のあり方などが議
題となった。第 2 回では国民や各界からの意見をもとに議論したが、特に人材面での話が多かっ
た。それを踏まえ第 3 回では「人材の養成・確保」を議題とし、集中的に論議した。その後、イ
ノベーションの創出(第 4 回)、科学技術と社会の関わり(第 5 回)、大学の改革(第 6 回)、科学
技術の戦略的重点化(第 7 回)と事務局が毎回異なる議題を設定し、集中的な議論を進めた。第
7 回でなされた重点化の議論を掘り下げるため、第 8 回では競争的資金の拡充と制度改革の推進
について話を細かく進めていった。第 9 回で基盤整備について改めて議論した後、取りまとめに
入っている。
まず、2004 年 10 月 6 日に行われた第 1 回では、基本計画特別委員会の役割等の確認や、第 3 期
基本計画に向けた文部科学省におけるこれまでの主な取組み、総合科学技術会議のフォローアッ
プの概要、事務局作成の「特別委員会における検討課題(案)」等について説明がなされた後、委
員間での自由討議が行われた。第 1 回では、
「科学技術政策の論点−科学技術政策の進捗状況と今
後の課題−」(科学技術基本計画(平成 13∼17 年度)に基づく科学技術政策の進捗状況)(総合
科学技術会議)、「基本計画の達成効果の評価のための調査」報告書(科学技術基本計画と我が国
科学技術の現状(中間結果)、NISTEP REPORT No.75-81)(科学技術政策研究所)、「科学技術
の中長期的発展に係る俯瞰的予測調査」(平成 15 年度調査報告書)(科学技術政策研究所)(資料
集、NISTEP REPORT No.82, 調査資料 No.105)等の資料が事務局から提供されている。
その約 2 週間後に開催された第 2 回においては、
「国民、各界からの意見等」として、基本計画
ヒアリングや 2004 年 9 月 8 日から 10 月 6 日にかけて文部科学省ウェブサイト上で実施されたパ
ブリックコメントの結果が紹介されるとともに、委員発表という形で、経団連や日本学術会議の
意見が開陳された。また、事務局からの要請に基づき、科学技術政策研究所が同研究所のもつ科
学技術専門家ネットワークを使って行ったアンケート調査「科学技術の振興に関する調査」の結
果も紹介された。
第 3 回では、「科学技術関係人材の養成・確保」について、「科学技術と社会という視点に立っ
た人材養成を目指して−科学技術・学術審議会人材委員会第三次提言−」(2004 年 7 月)や、総
合科学技術会議による意見「科学技術関係人材の育成と活用について」(2004 年 7 月 23 日)、事
務局作成資料等をもとに議論が行われた。
「知の創造と活用の好循環によるイノベーションの創出」及び「地域における科学技術振興」に
ついて議論された第 4 回では、技術・研究基盤部会産学官連携推進委員会や地域科学技術施策推
進委員会といった関連審議会による検討結果のほか、(社) 日本経済団体連合会による「科学技術
63
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
をベースにした産業競争力の強化に向けて−第 3 期科学技術基本計画への期待−」
(2004 年 11 月
16 日)や、科学技術政策研究所第 3 調査研究グループがまとめた「持続性ある地域イノベーショ
ン推進のキー・ファクターと達成効果の定量分析の試み」(2004 年 11 月 25 日)等の資料が議論
に供された。
第 5 回では、
「科学技術と社会の関わり」及び「科学技術振興のための基盤の整備(大学等の施
設整備)」を議題として議論が行われた。そこでは、これからの科学技術と社会をテーマにまと
められた「平成 15 年度科学技術の振興に関する年次報告(平成 15 年度科学技術白書)」のほか、
「安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策に関する懇談会」報告書(2004 年 4 月 26 日)、
資源調査分科会による検討結果、今後の国立大学等施設の整備充実に関する調査研究協力者会議
による「知の拠点−国立大学施設の充実について−国立大学法人の施設整備・管理運営の方針−」
等の資料が議論に供された。
第 6 回では、大学関係団体からの意見発表の機会を設けるとともに、
「知識基盤社会の時代にお
ける大学の改革について」の議論が行われた。意見発表を行ったのは、相澤国立大学協会副会長、
森公立大学協会相談役、安西日本私立大学団体連合会会長、菅野日本私立大学団体連合会教育改
革委員会・私立大学将来構想委員会委員の 4 名である。なお、議論のための資料として、中央教
育審議会での検討内容が示されている。
第 7 回では、これまでの基本計画特別委員会での議論経過に対し、科学技術・学術審議会総会
から寄せられた意見を紹介、議論するとともに、
「科学技術の戦略的重点化について」の議論が行
われた。学術分科会や研究計画・評価分科会国として戦略的に推進すべき基幹技術に関する委員
会によるこれまでの議論の経過や、科学技術政策研究所による「科学技術の中長期発展に係る俯
瞰的予測調査−デルファイ調査 (ラウンド 1 アンケート) 結果について−」等が資料として配布さ
れている。
第 8 回では、第 7 回と同様、科学技術・学術審議会総会から寄せられた意見を紹介、議論する
とともに、
「競争的資金の拡充と制度改革の推進」及び「評価システムの改革」について、事務局
がまとめた資料をもとに議論が行われた。
第 9 回では、日本学術会議がとりまとめた「科学技術基本計画における重要課題に関する提言」
(2005 年 2 月 17 日 日本学術会議 運営審議会附置科学技術基本計画レビュー委員会)について
紹介するとともに、
「科学技術振興のための基盤の整備」や「科学技術の国際活動の戦略的推進」、
「研究の発展段階に応じた研究開発資金制度の構築」についての議論を行った。国際化推進委員会
がまとめた「科学技術・学術分野における国際活動の戦略的推進について(報告書)」(2005 年 1
月)や事務局作成資料のほか、机上参考資料として、技術・研究基盤部会知的基盤整備委員会や
中央教育審議会の答申等が議論に供された。
第 10 回では、中間とりまとめ(案)である「第 3 期科学技術基本計画の重要政策−知の大競争
時代を先導する科学技術戦略−」についての議論が行われた。議事録によれば、本原案は、文部
科学省内の科学技術 3 局に高等局を含めて課長レベルで何回も議論しながら作成された、という。
64
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
なお、策定に関わった当時の担当者は、議論の当初から、文部科学省と内閣府に設置の総合科
学技術会議との役割分担の違いを意識しながら立案作業を進めたという。
6) 基本政策専門調査会における審議
基本政策専門調査会における審議の経過は次の通りである。
第 1 回では 3 期の主要検討課題について俯瞰した後、第 2 期基本計画の理念を踏まえた政策目
標の設定(第 2 回、第 3 回、第 6 回、第 7 回)や総合科学技術会議のあり方(第 5 回)といった
メタレベルでの政策論議を中心に、具体的には重点 4 分野の見直しを含めた科学技術の戦略的重
点化(第 3 回、第 6 回、第 10 回、第 12 回)、競争的資金と基盤的資金のあり方(第 4 回、第 11
回)に焦点を当てた審議が行われた。第 9 回で答申の中間取りまとめにあたる「科学技術基本政
策策定の基本方針(案)」を取りまとめるまで、約半年間で 9 回の議論を行った。これは、文字通
り、基本方針やビジョンについてまとめたものであり、その後、
「科学技術システム改革の各施策
の具体化を検討し、基本政策専門調査会で審議する原案を(2005 年 9 月を目途として)作成」す
ることを目的として、専門調査会の下に議論非公開の施策検討ワーキンググループが設置される
こととなった。基本政策専門調査会では、施策検討ワーキンググループでの検討と並行して審議
を進め、2005 年 12 月 21 日開催の第 16 回専門調査会にて答申案をとりまとめた。
なお、文部科学省の科学技術・学術審議会に設置された基本計画特別委員会と本専門調査会と
の関係について、専門調査会が中間取りまとめをまとめた直後に開催された第 11 回基本計画特別
委員会において委員の一人から出た質問に対し、事務局側は、
「基本的に専門調査会での議論がど
んどん進んでゆく形になっている。行政改革以降の仕組みとして、関係省庁との間でのフィード
バックは具体的にはされていないという現状。ただし、科学技術基本政策の基本方針に見られる
ように、総合科学技術会議においては関係省庁の議論を非常に高く尊重していただいている。こ
ちらでの議論を踏まえたものも、かなり入っているのではないか。」と答えている(基本計画特別
委員会第 11 回議事録)。
両者で議論された内容について細かくみると、たとえば、基本計画特別委員会のまとめた中間
とりまとめの表題が「重要政策」となっており、具体的な政策についての言及が中心となってい
るのに対し、基本政策専門調査会の中間取りまとめでは「基本方針」となっており、理念やビジョ
ンを中心にしたものになっている。また、基本計画特別委員会では、どちらかといえば科学技術
政策の枠内の問題を中心的に扱っているのに対し、基本政策専門調査会では、科学技術と他の行
政分野との接点の問題についても多く言及されている。
委員構成に着目するならば、両者の間では 4 名の重複があり(池端、小宮山、柘植、若杉)、ま
た、事務局側をみても、特別委員会が中間とりまとめ案をまとめるまで計画官として事務局側の
中心的役割を担当した者が、基本政策専門調査会の途上から内閣府の参事官として異動するなど、
結果として、人的な面から一貫性が保たれる仕組みになっていたといえよう。
このように 3 期における審議会の議論では、基本政策専門調査会では基本計画の理念的な議論
と重点 4 分野や研究開発資金のあり方など戦略性の高いイシューに対する意思決定を行い、より
65
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
具体的な個々の政策については基本計画特別委員会で行うという差別化が図られている。そのた
め、2 期における議論よりそれぞれの議題がきちんと設定され、意見の効率的な収集と具体的な
意思決定に向けた議論が深められている印象がある。
7) 事務局による情報収集 文部科学省科学技術・学術政策局では、科学技術政策研究所科学技術
動向研究センターに対し、産学官の第一線で活躍する研究者、技術者を対象に、我が国の科学技
術の目指すべき方向や、政府の科学技術振興の方向性について意見を収集するためのアンケート
調査「科学技術の振興に関する調査―科学技術専門家ネットワークアンケート調査」の実施を要
請した。
「科学技術専門家ネットワーク」とは、科学技術動向研究センターが運営する、インター
ネットを用いて専門家から科学技術動向に関する情報について収集や共有するための仕組み であ
り、本調査は、アンケート機能を使って、同ネットワークの登録メンバーである科学技術専門調
査員 1,724 名を対象に実施された。調査期間は、2004 年 9 月 6 日から 9 月 17 日までの約 2 週間
であり、189 名からの回答がよせられた。その結果は、2004 年 10 月 19 日開催の第 2 回基本計画
特別委員会において報告されている。
また、第 4 回基本計画特別委員会の議論に供された科学技術政策研究所第 3 調査研究グループ
による「持続性ある地域イノベーション推進のキー・ファクターと達成効果の定量分析の試み」
(2004 年 11 月 25 日)は、事務局側の要請で、研究・技術計画学会第 19 回年次学術大会(2004
年 10 月 15 日)での発表資料や「地域イノベーションの成功要因及び促進政策に関する調査研究」
(最終報告)Policy Study
9, 2004.3)等の結果をもとにまとめられたものである。
その他、
(独)科学技術振興機構研究開発戦略センター(JST-CRDS)の協力を得て、NSF のイ
ニシアチブの実態等、海外の状況についても把握するよう努めたという。
5-2-4
第 4 期以降で想定される策定プロセス
以上、第 1 期から第 3 期までの科学技術基本計画の策定プロセスについてみてきた。第 4 期以
降の科学技術基本計画の策定は、当面、総合科学技術会議を中心とした体制で検討が行われた第
3 期と大きく変わらない形で進められていくであろう。
ここでは、第 3 期基本計画策定時の体制や審議の流れを念頭に、第 4 期以降で想定される策定
プロセスについて検討する。
(1) 想定される審議の体制:総合科学技術会議と文部科学省等との関係
現行の総合科学技術会議を中心とした体制においては、文部科学省をはじめとした関係省庁に
おける検討結果について、制度的にその活用が保証されているわけではない。総合科学技術会議
は科学技術政策推進の司令塔として他省庁とは独立的に検討を行うが、想定される今後の基本計
画の策定プロセスでは、第 3 期の場合と同様、他省庁、特に文部科学省における議論を実質的に
66
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
尊重する、といった形がとられていくと思われる。つまり、第 3 期策定時にみられたように、総
合科学技術会議が前期基本計画のフォローアップを行いながら、基本計画の方針や理念について
の検討を深める一方、文部科学省はそれらの議論と並行して重要政策の中身について中心的に議
論を行い、その結果が実質的に総合科学技術会議で活かされる、といった体制である。総合科学
技術会議に期待される内容面での役割としては、基本的理念や方針の検討に加えて、科学技術と
他の行政分野との接点の問題や、科学技術行政を俯瞰的にみた場合の長期的で戦略的な課題の検
討があげられるだろう。なお、こうした現行の実質的な役割分担体制の是非については今後議論
を深めるべき重要な課題である。これに関し、第 7 章で若干触れるが、本格的な検討は次年度以
降の課題としたい。
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図 5-7: 科学技術基本計画の審議体制
(2) 想定される審議の流れとそれに対応して求められる政策研究のタイプ
想定される今後の科学技術基本計画の策定までの流れとしては、次のようなものである。なお、
ここでは、第 3 期基本計画の策定において主要な役割を果たした文部科学省と総合科学技術会議
に焦点を当て検討した。
まず、現行計画の 3 年目から、前期までの基本計画の比較的大掛かりなフォローアップが、科学
技術振興調整費等の予算を活用して開始される。科学技術振興調整費による調査研究は、その実
績等から言っても、文部科学省科学技術政策研究所を中心として今後も進められていくであろう。
第 3 期の検討過程における調査では、科学技術政策研究所は民間シンクタンク 2 社とコンソーシ
アムを組んだが、科学技術振興調整費自体が競争的研究資金であることや、科学技術を取り巻く
67
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
諸問題がますます複雑化していく現状を考えると、今後は外部のより広い主体にもその門戸が開
かれていくことが想定される。
基本計画の 3 年次フォローアップと並行して、文部科学省の担当部局(科学技術・学術政策局
計画官)では、次期基本計画で重要政策としてとりあげるべき課題の検討が開始される。これら
の検討のために、第 2 期や第 3 期の策定時にみられたように、事務局自らがヒアリング等を行う
こともあれば、科学技術政策研究所や(独)科学技術振興機構研究開発戦略センターのような内
部シンクタンク等を活用した調査等も行われるであろう。これらの検討結果は、総合科学技術会
議や関係審議会等でのそれまでの議論等を踏まえたうえで、現行基本計画の 4 年目秋頃に本格的
にはじまる審議会での議論のたたき台として供される。すなわち、次期基本計画をにらんだ大枠
の問題設定は 4 年目秋までに行われるため、問題発見・提起型の政策研究が真の意味で役立つの
はこの時期までであるといってよい。
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図 5-8: 想定される次期以降の基本計画の策定プロセス
また、審議のプロセスについて、第 3 期の場合と同様とするならば、文部科学省では、4 年目の
秋口から年度末にかけて、科学技術・学術審議会やその下に設置される委員会等において、重要
政策についての集中的な審議を行うものと考えられる。また、4 年目の暮れには、内閣総理大臣か
ら総合科学技術会議に対し諮問が行われ、約一年後の 5 年目暮れまでに答申がまとめられる、と
68
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
いった手順となる。これらの審議の過程では、現行計画下での問題点やその後の情勢の変化等に
よって新たに生じた課題等について広く発散的な議論を行う、いうよりも、策定に向けた収束的
な議論が中心に行われるであろうから、そこで求められる政策研究としては、基本計画に盛り込
むべき内容について裏づけをとっていくような調査研究が中心となるだろう。この段階において
は、たとえ検討すべき新たな課題がみつかったとしても、策定までに残された時間を考慮すれば
本格的な調査研究を展開する猶予はなく、機動的に対応できる調査研究に限定されると思われる。
5-3
科学技術基本計画の内容・構成に関する変化
科学技術基本計画の各期比較を行い内容・構成に関する変化を見るため、定性データ分析によ
り、3 期分の基本計画を貫く統合的な目次を作成した。その目次の見出しに従い、ここではまず
「基本計画について」という前書きに相当するメタレベルの項目群を取り上げ、続いて「経済的・
社会的・政治的背景」という序章に相当する項目群について解説する。以後は科学技術基本法の
順番に従って「研究開発の推進(10 条)」、「科学技術関係人材の養成・確保(11 条)」、「科学技
術振興のための基盤の強化」
(研究開発施設等の整備(12 条)および研究情報基盤の整備(13 条)
を含む)、「産業技術力(イノベーション)の強化」(連携・交流(14 条)を含む)、「研究開発投
資」
(研究開発資金(15 条)を含む)、
「国際化」
(国際交流・連携(18 条)を含む)、
「科学技術と
社会」(国民学習(19 条)を含む)と続く。そして 1 期計画で初めて言及された「研究開発評価」
や 2 期計画以降に書かれた「行政府のあり方」というメタレベルの項目群でまとめる。
はじめに、各計画について論点がどこに置かれているかを見る必要があるだろう。1 期基本計画
では基盤強化を特に重視していた以外は、基本法の項目をまんべんなくなぞるような構成となっ
ている。2 期になると科学技術と社会や産業技術力についての言及が増えたが、逆に基盤整備につ
いては減っている。そして 3 期で強調されたことは、基本計画そのものに対する反省的言及と、3
期の二つの柱である人材とイノベーション、そしてそれらを支えるソフト面での基盤強化である。
5-3-1
基本計画について
各期計画本文の冒頭では、まず、科学技術基本計画に対する自己言及を行っている。第 1 期で
は 5 年という計画スパンや、科学技術基本法第 1 条にある経済社会の発展について記載し、基本
計画のあり方を規定している。第 2 期・第 3 期では、前期までの成果や課題に触れ、新しい計画
の方向性を示している。基本的理念は第 2 期で整理され、
「知の創造と活用により世界に貢献でき
る国」「国際競争力があり持続的発展ができる国」「安心・安全で質の高い生活のできる国」とい
う 3 つが打ち出されている。
1 番目の「知の創造と活用」という理念については、第 2 期基本計画で「科学を通じて、未知
の現象の解明、新しい法則や原理の発見等、新しい知識を生み出し、その知識を活用して諸課題
69
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
に対応する」と定義されているように、大学等における基礎研究の推進を目標としている。第 3
期ではそれが「飛躍知の発見・発明」という政策目標になっている。同理念のもう一つの政策目
標である「科学技術の限界突破」は、
「世界最高水準のプロジェクトによる科学技術の牽引」を目
指すものである。事務局の説明によれば「学術、科学の分野の大型プロジェクトについては、研
究者コミュニティでボトムアップ的にご議論していただき選別されていくもの」(第 10 回基本計
画特別委員会、2005 年 3 月 29 日)としており、後述のトップダウン的な国家基幹技術と区別し
ている。
2 番目の「国際競争力と持続的発展」という理念については、第 2 期基本計画では「現下の経
済社会が有する諸課題を克服し、付加価値の高い財・サービスを創出し、雇用機会を十分に確保
することで、国際的な競争環境の中で我が国の経済が活力を維持し、持続的に発展を遂げ、国民
の生活水準を向上させられる国である」と解説しているように、経済的な発展を持続させる意味
合いを持ち、環境的な持続可能性のことを指しているわけではない。しかし第 3 期では、経済面
を強調した「国際競争力」と環境面に配慮した「持続的発展」のそれぞれに対応するように「イ
ノベーター日本」と「環境と経済の両立」という政策目標が打ち出され、持続的発展が環境面で
の持続性も含めるように定義が黙示的に修正された。
3 番目の「安心・安全」という理念は、第 3 期計画策定のための審議会で「安心というのは非
常に主観的な概念であって、科学技術に最もふさわしくないというふうに受け取られかねないと
懸念します」
(第 2 回基本政策専門調査会、2005 年 1 月 26 日)、
「内容を見ると、安心・安全な社
会のうちの安全はかなりあると思うが、安心の部分がよく見えてこない。高齢化社会に対する取
り組みが見えてこないのではないか」
(第 7 回基本計画特別委員会、2005 年 1 月 31 日)などと委
員から発言があったことにより議論が行われた。結果として「安心」という言葉は第 2 期のまま
残ったが、高齢化社会に配慮して「生涯はつらつ生活」という健康面での政策目標に転化された。
なおこれらの科学技術基本計画の理念は、
「地球と調和した人類の共存」
「知的ストックの拡大」
「安心して暮らせる潤いのある社会の構築」という科学技術政策大綱の基本方針と通じるものであ
る。大綱の方針と基本計画の理念には直接的なつながりがあるわけではないが、我が国における
科学技術政策について有識者の間で審議すると結局は似たような理念に行き着くということかも
しれない。それでも細かく見ると、政策大綱では経済社会面での発展や安全に関しては触れられ
ておらず、経済的・社会的な余裕がまだあった 1990 年代初頭の時代背景をうかがわせる。
第 1 期計画では基本的理念について明示こそされていないものの、第 1 章 I「研究開発推進の
基本的方向」において第 2 期以降の基本的理念をほぼカバーする形で触れている。そこではまず
科学技術基本法を引用して経済社会の発展について方針を示し、続いて持続的発展、安心・安全、
そして基礎研究の推進について述べている。第 2 期以降で 1 番目の理念と結びついている基礎研
究の推進については最後に記述されており、第 1 期計画では基本法の理念や時代的な要請により
経済への貢献を優先事項としていることが第 2 期・第 3 期と異なる特徴である。
第 3 期では第 2 期の基本的理念を継承しそれぞれに対応する具体的な政策目標を掲げたが、こ
70
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
れとは別に第 3 期の基本的姿勢というものを示して独自色を表している。事務局としては「第 2
期基本計画においては、人材に関する課題は科学技術システム改革の中にばらばらに紛れ込んで
いて、『知』の創造、『知』の活用から人材の基盤づくりまでという人材全体としてのコンセプト
がなかった。これを、次の第 3 期基本計画では人材について、しっかり柱を立てる方向で是非ご
議論いただきたいと思っている」(第 3 回基本計画特別委員会、2004 年 11 月 4 日)という意識
を持っていた。この問題意識のもと、後述のように経済財政諮問会議での「モノから人へ」とい
うキャッチフレーズを採用する形で基本的な姿勢が打ち出された。基本政策専門調査会の会長も
「『モノから人へ』とか『機関における個人の重視』、…そういう辺りは第 2 期とは違った焦点を
出したいと思ったわけです」
(第 12 回基本政策専門調査会、2005 年 9 月 28 日)と同調している。
もう一つの柱は、2 期でも述べられた「産業を通じた科学技術の成果の社会への還元」を引き継い
だ。これは、第 1 期・第 2 期基本計画において多額の資金が科学技術分野に投入されたものの、科
学技術の成果が世間と乖離していて実感できないといった批判を背景としている。第 2 期の「産
業技術」に代わって 3 期では「イノベーション」というより包括的な言葉を導入し、社会への還
元として研究開発の下流の部分ばかりに焦点が当てられることを避けたと見られている。
5-3-2
経済的・社会的・政治的背景
計画策定の背景は各期計画の随所で描かれている。政府の財政事情については各期とも厳しい
ことを認めた上で、計画や財政投資額の正当性を説明するという構造になっている。第 1 期では
我が国の政府研究開発投資の対 GDP 比率が欧米主要国に比べて低いことを述べ、政府の財政事
情も厳しいことを認めながら科学技術の振興が社会経済の発展に貢献することを訴えている。ま
た、研究開発システムの制約として研究開発基盤の不備を挙げ、大学等の施設・設備への積極的
な投資の必要性も強調している。第 2 期ではグローバリゼーションという言葉を導入しながら産
業競争力の低下を懸念している。また少子高齢化や情報通信革命、国立大学の独立行政法人化な
ど、第 1 期からの経済・社会・政治的な時代変化を盛り込んで第 2 期計画の背景を特徴づけてい
る。3 期になると、こうした背景説明も計画の基本的姿勢と結び付けられるようになり、構成と
しての一体感や文章の流れの連続性がよりはっきりと見られるようになっている。たとえば第 3
期計画では「我が国は高い教育水準による人材面での有利性を有していたが、近年の学力低下傾
向や少子高齢化のもたらす人口構造変化に鑑みると、人材面の課題は深刻化している」と述べて
おり、少子高齢化や教育問題という背景と関連付けて 3 期のテーマの一つである人材育成・確保
の必要性を示唆している。また、第 3 期計画では感染症、免疫疾患、大規模自然災害・事故、国
際安全保障環境、情報セキュリティに対する脅威、厳しい治安情勢などの例を挙げて、健康や安
全面での問題を計画策定の背景として詳細に描いている。
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政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
5-3-3
研究開発の推進
第 2 期・第 3 期で重点推進 4 分野(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材
料)と推進 4 分野(エネルギー、ものづくり技術、社会基盤、フロンティア)について挙げている
ことは 1 期と比べた大きな特徴である。第 1 期では審議する十分な時間がなかったため特に重点
分野については項目立てることをしていないが、これらの基本的な方向性は示されている。なお、
推進分野の「ものづくり技術」は、第 2 期計画では「製造技術」という名前が用いられていたが、
これは、形式的には経済産業省の「『製造技術』より国民には分かり易い表現であるし、『ものづ
くり』の重要性についての理解も浸透してきている」
(第 13 回基本政策専門調査会資料 1 − 2「科
学技術基本政策に関する答申素案に対する主な関係府省の意見の概要」、2005 年 10 月 26 日)と
いう意見に基づくものである。しかしこの第 13 回の議事録を見ると、座長より「製造技術をも
のづくりに変えたらどうかと、これは庄山専門委員の御提案だと思いましたけれども、いかがで
しょうか」と日本経団連の庄山悦彦副会長(日立製作所取締役)に尋ねている。基本政策専門調
査会での庄山委員の発言でも経団連の意見文書でも、再三にわたって第 3 期計画で「ものづくり」
という言葉を強調するよう主張しており、計画ではこの経団連の意見を採用する形となった。
戦略重点科学技術については、第 2 期では「国家的に重要なプロジェクト」として書かれてい
たものである。これは第 3 期での国家基幹技術にほぼ相当するが、第 3 期では社会的課題の解決、
国際競争力の強化といった同じくトップダウン的な観点から定義を拡張・明確化させている。国
家基幹技術は次世代スーパーコンピューティング技術、宇宙輸送システム技術などいわゆるビッ
グサイエンスを念頭に置いている。第 2 期で掲げた研究開発重点推進 4 分野や競争的資金の導入
はどちらもスモールサイエンス振興策であり、科学技術行政におけるバランスを取るために国家
基幹技術を打ち出した形となっている。第 1 期・第 2 期で国家基幹技術的なものが明示的に冷遇
されていたわけではないが、第 2 期まではスモールサイエンスの方が投資効果が高いと考えられ
ており、また、省庁再編を控える時期であったためハコモノ的な政策に対する批判を回避しよう
といった判断が働いていたと考えられる。また「基幹技術について、日本経団連で考えている重
要技術とコンセプトとしては非常に似ている。国のお金を使うからには、国の持続的発展の基盤
となる重要技術であるというとらえ方で、これをブレークダウンすべき」
(第 7 回基本計画特別委
員会、2005 年 1 月 31 日)と経団連の同調を得て、文部科学省の基本計画特別委員会で話が進め
られていった。文部科学省の最初の素案によれば「世界最高速スパコン、次世代放射光源、高信
頼性宇宙輸送システム、高精度地球観測、核融合技術」といった例が挙げられているように、ビッ
グサイエンスとして原子力や宇宙といった技術が描かれている。これはトップダウン型組織を標
榜する総合科学技術会議の議題にふさわしく、基本計画策定における総合科学技術会議の存在意
義を示すために集中的に審議が行われた。逆に総合科学技術会議にそうした役割を与えられるよ
う、事務局は腐心していたと見られる。
民間の研究開発の促進について、第 1 期では比較的詳細に施策が講じられており、第 2 期・第
3 期ではそれをやや簡潔にした形で触れている。第 2 期以降は産業技術あるいはイノベーション
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政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
についての計画のところで産学官連携などに触れており、計画全体で見ると、民間に対する言及
は増えていると見られる。
第 2 期以降に見られる新興領域・融合領域の対応については、第 1 期計画策定時にも「複数分
野にまたがる研究開発とそれらの基礎となる新しい基礎研究の推進」
(科学技術会議基本問題分科
会「策定に当たっての検討状況について」)として検討されていたが、計画には盛り込まれなかっ
た。これは基礎研究に対する優先度が高くなく、また十分な議論をする時間もなかったためと推
定される。
5-3-4
科学技術関係人材の養成・確保
まず「育成」と「養成」の用語の使い分けであるが、第 3 回基本計画特別委員会(2004 年 11
月 4 日)で議論になり、事務局は「当省の人材委員会では『養成』という言い方がされており、
一方、総合科学技術会議では『育成』という言い方をされていたため、配布資料には双方が混在
しているが、今後の議論の中で統一を図っていきたい」と回答しているが、結局第 3 期計画中で
も統一はなされていない。大まかに言って、
「育成」は「人材育成」として幅広い文脈で、
「養成」
は「多様な人材の養成」として個別具体例に使われているようである。しかし「育成」という言
葉は第 1 期・第 2 期では主に学校教育との関係で用いられていたが、3 期ではより多くの対象に
使われるようになった。これは上記の事務局の説明に従えば、文部科学省に対して総合科学技術
会議の存在が強まったとも考えられる。
若手研究者については、第 1 期で掲げられたポストドクター等 1 万人支援計画が第 2 期計画で
「ポストドクター期間中の研究指導者との関係、期間終了後の進路等に課題が残った」と反省され
た結果、第 2 期以降は自立支援を進める動きが強まった。
第 1 期策定時は国公立大学や公的研究機関の独立行政法人化がなされる以前であったため勤務
形態の弾力化が強調されたが、第 2 期以降、より積極的に人材を活用するため流動性を促す制度
の充実が謳われている。特に若手、女性、外国人研究者の積極的登用は審議会において多くの委
員から再三にわたり提案された。
第 2 期以降見られる技術者の養成・確保については第 1 期でも「技術者等に対するリフレッシュ
教育」(科学技術会議基本問題分科会「策定に当たっての検討状況について」)として検討されて
いたが、計画には反映されなかった。
5-3-5
科学技術振興のための基盤の強化
ここでは科学技術基本法 12 条「研究開発施設等の整備」や 13 条「研究情報基盤の整備」のほ
か、研究支援業務体制の充実や組織の柔軟な運営、知的基盤の整備、知的財産の創造・保護・活
用、標準化への積極的対応、ものづくりの基盤の整備、学協会の活動の促進、といった活動が含
まれる。
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政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
基盤強化については第 1 期で最も強調されている。第 1 期の策定にかかる前まで大学の老朽化
問題は永らく議論になっていたが、関係者は十分な対策を打てずにいた。1991 年大阪大学基礎工
学部で実験中に学生 2 名が死亡する爆発事故を起こしたことを契機に、一気に施設・設備改修に
向けた気運が高まったと言われている。文部省は当初、科学技術会議の立てる計画の下で大学が
動くことに難色を示したが、研究環境の整備が重要になっているときに科学技術基本計画に乗せ
て計画的に遂行していくことが得策であると判断した。文部省は国立大学等の施設の老朽に関す
るデータを揃えて、計画策定に必要な数値等を事務局に提示した。大学等への施設・設備投資は
いわば用地買収の不要な公共投資とも言え、科学技術行政の中では形のあるもので、必要投資額
や成果が目に見える。そのため計画にも具体的な目標数値を盛り込みやすく、大蔵省から予算を
獲得するための良い説得材料ともなったと考えられる。
このようにして第 1 期計画で大学等の施設設備に必要な面積を記載したが、実現したのは 3 割
程度であった。大学の施設は補正予算のたびに特別な施設が整備されることになっており、一般
の施設は置き去りになっていたためである。そこで第 2 期計画では面積の記載はせず、代わりに
整備計画の策定を要請した。これにより補正予算が計画実現に充当される仕組みとなり、国立大
学等施設緊急整備 5 か年計画(2001 年 4 月 18 日)において「所要経費は最大約 1 兆 6,000 億円
と見込まれる」と明記された。この金額の明記は当時の町村文部科学大臣の強い意向があったと
される。財務省が数値目標に従い補正予算を投入するなどした結果、当初の整備計画の 7 割超が
達成された。
第 2 期ではこれと並行して、施設等の整備というハードよりも研究支援体制の充実や組織の柔
軟な運営、知的基盤の整備や知的財産・標準化への対応といったソフト面での充実が強調されるよ
うになった。これは科学技術基本法では触れられていない部分であり、国立大学の独立行政法人
化といった制度的変化やポスドク支援など人材養成の必要性を背景として書かれている。第 3 期
でも、基本計画の基本的姿勢に「モノから人へ」と掲げているように、この路線が引き継がれて
いる。また、この時までに大学等の施設の改修がかなり進められたこともあり、施設・設備への投
資については簡単な言及にとどめている。第 3 期では先端融合領域イノベーション創出拠点を打
ち出したことが特徴的であり、「真に産学協働による研究拠点、人材育成拠点であること」「実用
化を見据えた基礎的段階からの研究を実施すること」などとして、第 3 期基本計画の基本的姿勢
の二つであるイノベーションと人材の両面を同時に強調するとともに、経団連の主張である「大
学に世界トップレベルの COE(Center of Excellence) を新設(特に、10 年先をにらんだ新規融合
技術領域)」
(第 2 回基本計画特別委員会資料 1「笠見委員発表資料」、2004 年 10 月 19 日)に沿っ
たものになっている。
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第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
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産業技術力(イノベーションの強化)
産業技術力とイノベーションは先に述べたように第 2 期と第 3 期基本計画の理念の違いを反映
して概念範囲が異なるものであるが、実質的な施策においては重なる部分も大きく、ここでは一
つにまとめている。科学技術基本法 14 条に沿った「連携・交流」や、研究開発成果の活用、地域
における科学技術振興といったテーマが含まれる。
イノベーションの強化については、科学技術基本法では 16 条「研究開発の成果の公開等」の
中に「適切な実用化の促進等に必要な施策を講ずるものとする」としてあり、その部分では一部
関係しているように見える。しかし科学技術基本法の立案者である尾身幸次の解説によれば、こ
れは「『適切な』実用化のためには安全性に配慮したものでなければならないとの趣旨が込めら
れている」 とあり、製品やプロセスの改良による生産性向上など産業技術やイノベーションとい
う言葉が含意するものとは相当異なっていることが分かる。また、14 条の「研究開発にかかる交
流の促進」も、基本計画内では産学官連携などに触れ研究開発の入口と出口をつなぐようなイノ
ベーション強化につながる制度のあり方を描いているが、民間との交流について、基本法策定に
あたっては「国立試験研究機関を対象とした官民(交流・連帯)共同研究制度」 しか念頭に置い
ていない。このように基本法では成果の還元につながる研究開発の推進については特に書かれて
おらず、1 条で掲げている経済社会の発展という目標の達成に向けた方針が示されていない。こ
のことから、基本法策定時は科学技術の振興が経済社会の発展にどう結びつくのか、科学技術創
造立国という理念が先行して産学官連携や地域振興など具体的なあり方については明確に想定さ
れていなかったと見られる。
5-3-7
研究開発投資
研究開発投資は、その重点的・効率的配分を論じたものと、競争的資金や重点的資金、基盤的
資金、間接経費など科学技術基本法 15 条にある研究開発資金の中身を記述したものに該当する。
第 3 期策定時は人材の流動化の推進や基盤的資金・間接経費の充実、支援体制の強化などの議
論と併せて競争的資金の見直しが非常に強調された。第 3 期計画では「政府研究開発投資全体の
拡充を図る中で、基盤的資金と競争的資金の有効な組合せを検討する」として、第 2 期で「競争
的資金の倍増」が掲げられたことに対する反動となっている。国家的な基幹技術のところで議論
したように、第 2 期では重点 4 分野や競争的資金というスモールサイエンスの重点化により研究
開発システムが米国的に分化されたことに対し、第 3 期では「融合研究」
「イノベーション」など
を掲げて第 1 期よりも洗練化・精緻化された形で学際的・セクター横断的な横のつながりを模索
している。
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政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
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国際化
国際化には大きく分けて、国際的地位・競争力の向上と、国際交流・連携の二つの政策課題が
ある。
科学技術基本法では 18 条で国際交流について記述しており、そこでは外国との協力関係の構築
に主眼が置かれている。我が国の研究者や研究環境の地位向上を狙いとする項目について、第 1
期では研究者の海外派遣、第 2 期では世界水準の研究環境の構築や国際的な情報発信力の強化が
挙げられるが、これらは他国と比較してというよりもまず自国のレベルを上げようとする意識が
強い。対して第 3 期では、科学技術・学術審議会国際化推進委員会で科学技術活動の戦略的な国
際展開が主張されており、第 1 回基本計画特別委員会(2004 年 10 月 6 日)において討議されてい
る。同委員会では「アジア諸国、特に中国の台頭が著しく、中国や韓国の研究者の活躍を見ると、
日本は国際化で遅れ始めたのではとの足元の不安がある」や「国内においては研究設備等が充実
したために、若者が国内にとどまってしまい、厳しい国際競争に身をおかない傾向がある点も問
題」という委員の発言に表れるような危機感が示された。また総合科学技術会議基本政策専門調
査会もこの流れを汲んだ議論を展開したが、国家レベルでの国際戦略というテーマとして、
「基礎
科学の成果というのは、勿論人類共通の資源でございますので、競争のみならず、協調というも
のが極めて重要になるんではなかろうか」(第 1 回基本政策専門調査会、2004 年 12 月 20 日)と
いった猪口専門委員に代表されるような、文部科学省の審議会での議論よりも大局的な見方が提
示された。
第 3 期計画における競争的資金の見直しと国際競争力の向上の強調は、毛利専門委員が「でき
るだけ若いうちに国際競争される、国内で競争ではなくて、世界中と競争されるシステムをつく
る」(第 10 回基本政策専門調査会、2005 年 8 月 30 日)と端的にまとめたような、3 期での研究
開発戦略の一環として位置づけられる。総合科学技術会議基本政策専門調査会は一見すると文部
科学省の審議会の議論をなぞって概括的な話題を繰り返しているようにも見えるが、事務局の議
題の振り分けや多様な専門委員による独自な視点の提示、調査会会長による議論の取りまとめと
いった個々の努力により、大局的かつ国家戦略的な論議が深められた。それは第 3 期計画におい
て、以前の計画より整理された構造や、テーマの明確性や一貫性、戦略性に反映されている。
5-3-9
科学技術と社会
科学技術と社会は、人文・社会科学との総合や文化や芸術との融合、国民学習、国民の科学技
術活動への主体的参加の促進、倫理と社会的責任といった政策課題を含む。
科学技術と社会のつながりについては、科学技術基本法 19 条で国民的な学習や理解を進めるこ
とが国に求められており、第 1 期計画でも基本的にそれを踏襲している。なお第 1 期では「科学
技術の振興に関する国民的合意がより広く、また深く醸成されるよう、…国民の理解の増進と関
心の喚起のための施策を講ずる」としているが、科学技術と社会の新たな関係を模索するという
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政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
よりは、17 兆円という計画期間内の科学技術関係経費の投資規模に対する社会的説明責任を強く
意識した表現である。
第 2 期では第 1 章に「科学技術と社会の新しい関係の構築」という節が設けられている。これ
は事務局原案(2000 年 12 月 28 日)にはなく、総合科学技術会議の答申になってからつけ加わっ
た部分である。科学技術会議には委員としてジャーナリストも加わっており、そこでは「ここで
の議論ではジャーナリストは研究システムの内部に入っていない。クローン人間など社会は科学
技術に関心をもっている。ジャーナリズムは社会と科学技術を結ぶものであり、アカウンタビリ
ティという観点からも、社会とのコミュニケーションの項目は付け足しでなく、一番最初に置い
て、重視すべき」(第 31 回科学技術会議総合計画部会、2000 年 6 月 15 日)と主張された。第 1
期の反省から研究者コミュニティの外側に開かれた計画にするため、事務局は科学技術と社会の
双方向のコミュニケーションを推進することを重視し、科学技術会議で審議に諮った。
第 1 期から第 2 期・第 3 期までの流れを見ると、学校教育を含めた国民学習から、理解増進、関
心の喚起へと方策を打ち出し、政策的関心の裾野を広げているように見える。だが翻ると、
「日本
は科学技術への関心度が減っている」(第 32 回科学技術会議総合計画部会、2000 年 7 月 12 日)、
「OECD の調査によれば、日本の大人の科学技術に対するリテラシー、興味、関心は世界で最低と
なっている。子供の理科離れや算数の学力の低下は、このような大人の科学技術への関心の低さ
が引き起こしているのではないか」
(第 1 回基本計画特別委員会、2004 年 10 月 6 日)といった審
議会での議論に見られるように、学んだり理解したりする以前に、そもそも科学技術に関心を持
たない国民が増えていることが問題視されており、国民の科学技術離れが想像以上に深刻であっ
たことを示唆している。
5-3-10 研究開発評価
研究開発評価については、第 1 期計画で「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り
方についての大綱的指針」を策定することが求められており、これにしたがって研究開発評価制
度が整備された。これは基本計画策定とは比較的独立したプロセスで検討されていることから、
ここでは扱わない。
5-3-11 行政府のあり方
行政府のあり方については、総合科学技術会議の使命や役割を示したものと、縦割りの排除や
省庁・府省の連携を目指したものに分けられる。
第 1 期ではこれに関する記述がまったくない。事務局は大蔵省との予算獲得のための折衝や文
部省・通商産業省からの影響力が強かったばかりか、科学技術庁自体に対しても緊張関係にあっ
たため、行政府そのものに対する言及ができる状況ではなかったと想定される。またそのための
時間的余裕も、最初の計画であるためにその必要性もなかったと考えられる。第 2 期以降は行政
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政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 5 章 科学技術基本計画の策定過程および内容・構成
改革による制度変化の影響を受けたこともあり、またそれを戦略的に誘導する意図もあって行政
そのものの体制について反省的に検討された。第 2 期で明記された「省庁間の縦割りを排し」や
第 3 期の「府省間の調整機能の強化」については、総合科学技術会議の果たすべき役割として、
その発足時から求められていたことである。またこうした表現の明記については、審議会の委員
からの強い要請もあった。
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政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 6 章 科学技術基本計画の策定における知識
利用の実態
本章では科学技術基本計画の策定における情報・知識(源)の利用の実態を調査し、利用に影響
を与えた因子について各期比較を行い分析する。6-1 では、情報・知識(源)ごとにその利用の実
態を見ることで、利用のインプットとアウトプットの対応関係を明らかにする。6-2 では、その入
出力装置の内部を調べるために、利用に影響を与えた因子について一つ一つ取り上げて議論する。
6-1
6-1-1
科学技術基本計画における情報・知識(源)とその利用の実態
各情報・知識(源)の利用実態と各期比較
ここでは、科学技術基本計画において投入された情報・知識(源)のそれぞれについて、利用
の程度やその利用のされ方がどのようなものであったのか整理を行う。以下、類型ごとに各情報・
知識(源)を配置し、詳細をまとめた。
なお、各情報・知識(源)の利用の程度等については、その利用者である各期の計画担当者へ
のインタビュー結果を元に定性的に判断している。
(1) 内部・公式
1) 政策分析:フォローアップ調査・レビュー調査・俯瞰的調査
内部・公式の政策分析として、第
2 期では事実関係を押さえるために科学技術政策研究所の有する様々なデータが用いられたとい
う。第 3 期では、総合科学技術会議による「科学技術政策の論点−科学技術政策の進捗状況と今
後の課題−」(フォローアップ調査)、科学技術政策研究所の作成した「基本計画の達成効果の評
価のための調査」(レビュー調査)および「科学技術の中長期的発展に係る俯瞰的予測調査」(俯
瞰的調査)には計画官は全て目を通し、内容を実際に活用した。特にデルファイ調査は分野横断
的な調査のため、分野別推進戦略を作るところまで影響力があったとされる。
なお、科学技術基本計画のレビュー調査などは公募による委託調査であったが、応募要件が厳
しく、結果的には科学技術政策研究所を中核とした提案一件のみの応募であった(近藤,2008)。ま
た、科学技術政策研究所は文部科学省直属の研究機関であることから、内部の情報・知識(源)に
分類した。
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第 6 章 科学技術基本計画の策定における知識利用の実態
2) 政策情報:海外の状況調査 第 1 期では、海外との比較にあたっては科学技術白書に記載され
ている科学技術政策に関係する国際比較の最新データを利用したほか、制度などについて海外の
新しい情報が必要だったため、外務省などに依頼して先進国の情報を入手した。第 2 期は課題を
明示した米国調査を行った。我が国の研究者個人や研究機関が世界と競って遜色のない成果が生
み出せ、その成果が産業に発展していく柔軟な研究システムの構築が必要であり、特に、米国の
研究者と同じ柔軟な環境で競えることが重要である。このような問題意識の下で事務局メンバー
が訪米し、研究者の雇用条件や産学官の連携の成果、競争的研究費、間接経費といった研究環境
の現状のほか、テニュア制運用の実態や研究開発評価専門家の育成、州立大学と私立大学の違い
などについて調査を実施した。国立衛生研究所(NIH)や国立科学財団(NSF)、ジョージメイソ
ン大学への訪問のほか、ハーバード大学や NIH 出身の国内研究者へのヒアリングも行った。中で
も、メリーランド大学ボルチモア校への訪問が特に有意義であったとされる。大学規則や経営状
況などに関する様々な質問について、8 時間にわたり同大学の 6 グループが丁寧に応対した。内
容ばかりでなく、どのように大学の状況を調べたらいいかという見当のつけ方も参考になり、他
大学を独自に調査する際に役立った。
第 3 期は韓国の科学技術基本計画について数値目標の設定の仕方や論構成などが参考にされた。
この計画には情報技術、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、宇宙航空技術、環境・エネル
ギー技術、文化技術という 6 つの重点目標や細かい数値目標が書いてあり、中身の実効性はとも
かく、計画のあり方を考える幅を広げるという意味において、計画官の刺激になったという。
3) 政策情報:有識者ヒアリング 第 1 期では審議会の場を通じて、各界を代表する有識者 7 名お
よび各省庁の代表者に対しヒアリングを行った。時間の都合上、現場の研究者・技術者から直接
意見等を聴取することはできなかった。第 2 期・第 3 期では審議会の場でのヒアリングのほか、
それぞれ直接有識者に意見を聴取する形でヒアリングを実施した。地方在住者であっても上京す
る機会をとらえるなどして、主に文部科学省内か東京都内で面会したため、担当者の時間的な負
担は大きくなかった。こうした事務局が単独で行うヒアリングは様々な意味で役に立ったと見ら
れる。まず、計画策定者が対面で聞き取ることによって、その情報が現実と直接結びついた形で
知識として定着した。また、情報自体が基礎データとして役に立ったばかりでなく、ヒアリング
対象者から審議会委員を抜擢したり、計画策定者の考え方に重要な示唆を与えたという点で、直
接的な利用と間接的な利用の両面において意義のあるものであった。米国などでは行政官が専門
的知識を持ち、専門家ネットワークを活用したり、学会に直接参加したりするなどして日常的に
情報収集するやり方が整っている。専門家に対し行政官が直接情報収集しに行くというスタイル
は、ゼネラリストとして養成され、行政の担当者が人事ローテーションですぐに異動する日本な
らではの手法であるといえる。
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政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 6 章 科学技術基本計画の策定における知識利用の実態
4) 政策情報:事務局組織 第 1 期では農水省、厚生省、建設省、通産省、運輸省、文部省の主要
6 省庁に声をかけたが、初めての計画策定であったこともあって慎重なスタンスをとる省庁が多
かったという。大学における研究に係る事項については、科学技術庁と文部省は共同事務局のた
め一緒に業務を行ったが、重要事項は省内に持ち帰って検討するという慎重を期した形がとられ
た。通産省は省内に別個にチームを作り、科学技術庁事務局と匹敵するくらいの情報と影響力を
持つ存在であった。このように各省とも慎重なスタンスで望んだため、全体としては足並みは揃
わず、事務局体制は当初思い描いた通りに構築できない部分もあった。
第 1 期の計画が実施されるとまとまった予算が付き、基本計画策定に加わる意義が各省に認識
されるようになった。第 2 期では実際に、科学技術庁のほか、文部省、通産省、総務省、農水省の
各省が事務局組織に積極的に加わった。科学技術振興機構や、東レ、日立製作所、松下電器、旭
硝子など民間からも調査員という形で人材が加わり、総勢 20 名程度の事務局が調査分析を担当す
る実働部隊として大きな役割を果たした。省庁再編を控えた時期でもあり、既存の省庁や業種の
枠を越えて知恵の場を作ろうという意識のもと、活発な議論が交わされた。実際に民間の問題意
識や行政側との考え方の違いを把握できたことは大きな収穫であったと言われている。
第 3 期では総合科学技術会議の事務局である内閣府にも科学技術政策に携わるスタッフが配備
された。基本計画の文部科学省側の担当課である計画官が彼らとの関係や役割分担について腐心
し、また総合科学技術会議の機能も拡充させたため、事務局自身の計画策定に果たす役割は第 2
期よりも縮小したと見られる。
5) 一般情報:統計データや法律・行政文書 第 1 期・第 2 期は事務局自身が必要な統計データや
法律・行政文書を集めていたが、第 3 期は主に科学技術政策研究所や科学技術振興機構の調査資
料など通して間接的に各種データを利用していたと見られる。第 1 期では、統計データとして基
本的に科学技術統計など科学技術白書に記載されている国の最新統計データを利用した。行政文
書では科学技術会議の諮問第 18 号「新世紀に向けてとるべき科学技術の総合基本方策について」
に対する答申(1992 年 1 月 24 日)が最も重要な参考資料であった。この第 18 号答申及びその要
点を記した科学技術政策大綱(1992 年 4 月 24 日閣議決定)においては、
「…政府の研究開発投資
額をできるだけ早期に倍増するように努める」旨が記載されているが、予算に係ることでもあり、
閣議決定された政策大綱の方が根拠として強い性質を持つ。そのほか、1 期基本計画に記載され
ている「科学技術系人材の確保に関する基本指針」(1994 年 12 月 27 日内閣総理大臣決定)、「構
造改革のための経済社会計画-活力ある経済・安心できるくらし-」(1995 年 12 月 1 日閣議決定)、
「地域における科学技術活動の活性化に関する基本指針」(1995 年 12 月 13 日内閣総理大臣決定)
など分野横断的な文書は、短期間の審議にはいずれも重要な根拠文書であり、可能な限りそれら
を基本として審議が行われた。「先端的基盤科学技術に関する研究開発基本計画」(1994 年 12 月
27 日決定)や「エネルギー研究開発基本計画」(1995 年 7 月 18 日最終改定)などの縦割り分野
の計画は、当該分野に関し第 18 号答申を改訂した内容になっており、当然準拠すべき重要なもの
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政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 6 章 科学技術基本計画の策定における知識利用の実態
として本文中で引用されている。
第 2 期では、第 1 期時と比べ時間的猶予があったことや関連データが整備され始めたこともあ
り、統計データや各省庁白書・報告書、省庁間での勉強会資料などが幅広く収集された。
(2) 内部・非公式
1) 政策情報:科学技術政策研究所(追加調査)
3 期では、レビュー調査やデルファイ調査とは
別に、事務局から科学技術政策研究所に臨時に追加調査を発注したとされる。追加調査の仕様や
調査結果については明らかになっていないため推測に過ぎないが、計画立案の差し迫った段階で
あり、事務局からの依頼ということであるから特に必要性が高く、この追加調査の結果はほぼ確
実に利用されたものと考えられる。またそのことを研究所側に伝えることにより、負担の大きい
追加発注にも関わらず、調査担当者のモチベーションを高める効果があったと思われる。
2) 政策情報:科学技術振興機構 CRDS レポート 第 3 期では、先端融合領域イノベーション創出
拠点を打ち出す上で、科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)に対し、米国国立科学
財団(NSF)のイニシアティブなど米国の状況調査等を計画官が依頼した。その結果は、即時利
用されたという。CRDS の海外動向ユニットでは、海外の科学技術・イノベーション政策に関す
る最新動向をホームページでタイムリーに公開したり、海外における政策の動向についての調査・
取りまとめ・分析を行なっており、意思決定者にとっては非常に有用な情報収集・集積のチャネ
ルの 1 つとして今後も利用されていくだろう。また、CRDS は、科学技術政策・戦略の立案に携
わる人達と研究者との意見交換ができる場を形成することをミッションの 1 つに掲げている。こ
のことは、今後 CRDS という場が第 2 章において述べたような政策サブシステムの 1 つとして有
効に機能していく可能性をも示唆している。
3) 政策情報:省庁内協議 事務局組織は全省庁の上に立ってまとめる存在であったため、第 1 期
では科学技術庁の原局・原課が客体として事務局と対応する立場にあった。そのため、たとえば、
科学技術会議事務局が原課に対し問題の具体化や政策の内容に対する提案を要求したとしても、
事務局が期待するような十分な協力を引き出すことは他省ほどではないにしても困難な面があっ
たと考えられる。第 2 期では、各省庁から人材が集まった事務局組織を中心に動くようになった
ため、特筆すべきような省庁内協議が行われたわけではない。ただし、科学技術庁は文部省との
統合を控えていたこともあり、事務局組織と文部省側で話し合いの機会を数回設けることで良好
な関係が構築されたという。第 3 期でも同様に綿密な連携を図っていたようである。第 10 回基本
計画特別委員会(2005 年 3 月 29 日)では、事務局が「省内では、科学技術 3 局に高等局を含め
て、課長レベルで何回も議論しながら原案を作成した上で、先生方にご審議いただいてきた」と
発言している。そして、すぐ後に以下のように述べて省内協議が政治的なものであり審議会プロ
セスが形式的なものに過ぎないのではないかという懐疑的な見方に反発している。
「これは、単な
82
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 6 章 科学技術基本計画の策定における知識利用の実態
る作文ではなく、具体的な施策として展開していくということを強く念頭に置いてきたためであ
り、施策の実行に向けた思いは強い」。
(3) 外部・公式
1) 政策情報:総合科学技術会議関連部会 基本計画特別委員会では、事務局が次のように計画策
定プロセスや審議会相互の関係について発言している。
「今後の大体大まかな予定では、総合科学
技術会議が 6 月頃に第 3 期基本計画の大きな骨格をまず決め、その後、原案を年末 12 月までに決
めるという二段構えになる」(第 10 回基本計画特別委員会、2005 年 3 月 29 日)。
第 1 期では総合計画部会の元に設置された基本問題分科会が実質的な役割を果たしている。こ
の分科会は委員の出席率も高く、各委員は強い責任感と意欲を持って議論に臨んでいたと当時の
担当者は振り返っている。時間的制約があることや開催頻度が高かったこともあり、委員からの
資料提出はあまりなかったが、事務局から提供された素材と論点を元に議論を行い、結論を先取
りするような形では審議を進めなかった。一方、第 2 期はどちらかと言えば委員ベースの利用で
あったが、第 3 期は総合科学技術会議の政策決定プロセスが制度的に確立したため、審議会ベー
スの利用になった。
2) 政策情報:審議会 第 3 期では文部科学省の科学技術・学術審議会や中央教育審議会大学分科
会大学院部会のレポートなどが実質的に利用されたが、一方で審議会内では審議会の意思決定の
範疇についての見解の相違についての戸惑いも口にされることがあった。たとえば第 10 回基本
計画特別委員会(2005 年 3 月 29 日)では委員の次のような発言がある。
「…この審議会は何を決
め、どこまで言うことができるのかという了解が、委員間で異なっていることが問題ではないか
と感じた。どの程度のことを皆さんが期待され、かつ、どういうものが理想的なのかということ
についての議論も必要ではないか」。
また、第 3 期では経済財政諮問会議での議論も計画策定に重要な影響を及ぼしている。2005 年
5 月 11 日の経済財政諮問会議の有識者議員提出資料「活性化のために政策の転換を」では経済活
性化のための政策三指針の一つとして「予算をモノから人材へ移す」が掲げられた。また、科学
技術政策に対する直接的な提言として、「次期の科学技術基本計画は、投入目標のみならず成果
目標も基本に策定する。そのため、過去の計画で、実際に人材や資金が重点分野にシフトしたか、
事後検証を強化し、次期計画に反映させる」と明記された。2 週間後に開かれた総合科学技術会
議の第 7 回基本政策専門調査会(5 月 25 日)でこの提言が取り上げられた。第 7 回に引き続き第
8 回(6 月 8 日)でも議論され表現が再検討されたものの、結果として、「モノから人へ」という
基本姿勢や、
「成果目標」として「国民に対してもたらされる成果に着目した目標設定と評価の仕
組みを確立し、投資効果を検証する」という一文が 3 期計画に記述されることとなった。
83
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 6 章 科学技術基本計画の策定における知識利用の実態
(4) 外部・非公式
1) 政策分析:政策研究系学術論文 第 2 期では担当者が既存学術研究にもあたったが、問題意識
に違いがあり役に立たなかったとされる。担当者が期待するようなポンチ絵等による問題状況の
分かりやすい全体俯瞰や、経済分析、制度論分析に欠け、抽象的議論に終始していたという。科
学技術政策研究の利用の程度が低い理由の 1 つは、政策《のための》分析よりも政策《について
の》分析が主流を占めているためではないかと考えられる。
2) 政策情報:経団連による提言
第 3 期では、2004 年 11 月 16 日に経団連がまとめた「科学技
術をベースにした産業競争力の強化に向けて−第 3 期科学技術基本計画への期待−」と題するレ
ポートが、同年 11 月 25 日に開催された第 4 回基本計画特別委員会での議論の場に供された。レ
ポートはあらかじめ関係省庁等との意見調整を踏まえてまとめられていること、また、基本計画
特別委員会や総合科学技術会議に経団連からの代表者が委員として参加していることもあり 、そ
の内容は実質的に尊重され、利用されたと考えられる。このことは、見方を変えれば、レポート
そのものというよりも、それをまとめるまでの過程やアプローチが重要な意味を持つことを示唆
しているともいえる。
3) 政策情報:日本学術会議による提言 日本学術会議の意見は、会長が科学技術会議、総合科学
技術会議ともに議員を務めていたり、第 1 期時には第 3 回基本問題分科会の場で会長に対し、第
3 期時には第 2 回基本計画特別委員会の場で副会長を務める岸委員に対し意見開陳の機会が与え
られるなど、
「人」を介する形で、最初の計画策定時から非常に重要視されている。第 3 期におい
ては、2005 年 2 月 17 日に日本学術会議運営審議会附置科学技術基本計画レビュー委員会がまと
めた「科学技術基本計画における重要課題に関する提言」が、2 月 25 日に開催の第 9 回基本計画
特別委員会での議論に供されている。しかしながら、特別委員会が中間とりまとめ(案)をまと
める直前というタイミングであったこともあり、レポート自体が審議に影響を与えたとは考えに
くく、むしろ形式的な役割が大きかったと判断される。
4) 政策情報:学会意見・提言 第 2 期では、個別科学技術分野の学会などの意見はその学会の特定
分野のみ言及しているものがほとんどであり、担当者の思考の助けになるようなものは少なかっ
た。また、特定学会から、パブリック・コメントを通じて異口同音の意見が大量に送られてくる
こともあり、事務局がこの対応に膨大な時間を割くこともあった。学会が利害関係者となる科学
技術政策の分野においては、こうした事態は当然起こりうると思われる。
5) 政策情報:パルミサーノ・レポート パルミサーノ・レポートとは、米国の民間組織である競争
力評議会(Council on Competitiveness)が 2004 年 12 月に公表した報告書「Innovate America
:Thriving in a World of Challenge and Change」の通称である。米国が産業競争力を今後も発展
84
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 6 章 科学技術基本計画の策定における知識利用の実態
し続けるために必要な数々の施策を米国政府に提言している。その作成には、産業界や学界など
から 400 人以上のリーダーが集って議論を交わした。1990 年代から現在に続く米国経済繁栄の基
礎戦略を示した、通称「ヤング・レポート」
(1985 年に公表)の後継版に相当する、極めて重要な
報告書とされている。作成の議長を務めた米 IBM のサミュエル・パルミサーノ CEO の名をとっ
て、
「パルミサーノ・レポート」と呼ばれる。この報告書では、米国が次代を担う子供たちに遺産
として引き継ぐべきものは、米国と世界の繁栄を牽引する創造性であり、その実践を国家として
約束することである、と米国の果たすべき役割を掲げる。そのためには、米国の持てるイノベー
ション能力を解き放ち、生産性や生活レベルの向上、グローバル社会におけるリーダーシップを
一層強化することであるとする。ここでイノベーションとは「社会的、経済的な価値創造を実現
する《発明と見識》の融合」と定義され、
「複数の学際による融合」を特徴とする。報告書は、こ
れまでの単一機能の、垂直統合的な発想や発明、商業化という単純なイノベーションの時代では
なくなっていると指摘し、学際のあり方、企業や公的機関における研究活動のやり方も抜本的に
見直す必要があると示唆する。それは人材育成や教育のカリキュラムにまで及ぶ。
第 3 期計画ではパルミサーノ・レポートから「イノベーション」という用語を採用したことが
直接的影響と言えるが、学際による融合や人材育成など、報告書の内容についても事務局や計画
部会の複数の委員が議論の参考にしていたと考えられる。
6) 一般情報:問題当事者等の持つローカル・ナレッジ(現場のうわさ・声) ここでいう問題当事
者等の持つローカル・ナレッジとは、意思決定者以外のアクターが実践経験に基づく直観により
得た知見のことを意味しており、主に現場からのうわさや声として現れるものである。また、有
識者が具体的なデータを示さずに問題の指摘をしたり、重要な状況の説明をしたりすることもあ
り、発言者の責任が明確である「有識者の意見」より若干インフォーマルなものを指す。したがっ
て事務局は必要に応じ、上記の裏打ちとなる情報(データや他者の見解)を求めた上で、こうし
た声を審議に反映することになる。ただし第 1 期の頃は情報の量自体が少なく、どちらかといえ
ば原始的な手法での情報収集が中心であったため、こうした声の主が誰かによって情報のもっと
もらしさを判断する属人的な要素も強かった。第 2 期でも、審議会など公式の場とは別に学識経
験者が接触してくることがあったが、これらの意見は政策構築の方法の抽象的議論や具体性、有
用性に乏しいものであった。
7) 一般情報:事実報道
テレビや新聞、雑誌等で取り上げられる話題の大きかった事実報道が計
画に大きな影響を与えたということは必ずしもないが、世間の関心や風潮について知るための日
常的な情報収集のためのチャネルとして機能し、また重視されている。
6-1-2
類型別にみた情報・知識(源)の利用実態と各期比較
以上の議論について、情報・知識(源)の類型別にまとめると次のようなものである。
85
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 6 章 科学技術基本計画の策定における知識利用の実態
まず、内部・公式の情報・知識(源)については、科学技術政策研究所の存在が最も大きい。当
時の担当者の認識として、第 2 期の頃はファクトデータを出す機関としての役割にとどまってい
たが、第 3 期になると長期的俯瞰(発展シナリオ調査)や戦略的情報(レビュー調査やデルファ
イ調査)など、より政策分析としての多彩な機能が充実するようになった。この区分の重要な情
報・知識(源)としては、他に事務局組織がある。この体制やその利用については各期の性格の
違いが明らかになっている。第 1 期時には、科学技術基本計画がうまく政策として機能するかに
ついて多くの官庁が慎重な姿勢をとっていたため、他省庁からの出向者を迎えての事務局体制が
十分に構築できなかっただけでなく、科学技術庁内の協力関係やそれに基づく協議も決して順調
に進んだとはいえなかった。しかし第 2 期になると、省庁再編を控え、官僚の意識も変わり、民
間も交えた横断的な事務局組織を構築することができた。また科学技術庁は文部省との合併を控
えていたこともあり、この先の業務を円滑に進めるためのコミュニケーションを積極的に図るよ
う努めたという。さらに第 3 期になると、総合科学技術会議が機能を強化し、計画に携わる人員
もそこに集中するようになった。海外の状況調査は形は違えど第 1 期から多少なりとも実施され
ていた。第 2 期では現地調査により生の情報を得ようという、より意欲的な目的があったが、第
3 期では海外の諸制度から大きく学ぶところもなくなり、内容そのものというよりキーワードや
論旨の構成などを諸外国の科学技術計画から参考とするといった場面が増えた。統計データや法
律・行政文書は重要なファクトデータとして第 1 期・第 2 期とも直接利用されてきたが、第 3 期
になるとこうしたデータ収集の作業の大部分を科学技術政策研究所や科学技術振興機構などの政
府関係機関が公式・非公式に請け負うようになった。
内部・非公式の情報・知識(源)については、第 3 期では利用者のニーズに直接応える形とし
て科学技術政策研究所の追加調査や、科学技術振興機構の調査研究が適宜利用された。
外部・公式の情報・知識(源)については、計画策定プロセスの標準化を目指し、審議会が実
質的な機能を果たすように制度設計された。第 1 期・第 2 期に比べ、第 3 期では総合科学技術会
議が本格的に活動するようになり、制度上の形式から言うと、総合科学技術会議を中心として計
画策定が進められることとなった。専門調査会やワーキンググループなど下部組織が充実したこ
とも、第 3 期における総合科学技術会議の役割を高めることとなった。また第 2 期から始まった
有識者ヒアリングは主に論点の洗い出しや計画官自身の学習という点でその意義が認められたた
め、第 3 期では規模を拡大して行われるようになった。第 3 期ではさらに審議会の委員の選定と
いう目的も兼ねる重要なプロセスとなっていた。民間シンクタンクなどは 2 期の策定時はにおい
ては直接事務局のニーズに応えられるものではなかった。第 3 期では科学技術政策研究所が中心
となって受託した上記調査に加わることで間接的に計画策定に貢献したとも言えるが、基本的に
は図表の作成など下請け的な仕事にとどまっていたようである。
外部・非公式の情報・知識(源)については、利用者が要請した形でない 1 期での問題当事者
や専門家等の声が挙げられる。知識の生産者が主導となって作成した独立の報告や提言は 3 期に
なって利用されるようになったが、形式的には審議会を通じて発表するというものにされた。経
86
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 6 章 科学技術基本計画の策定における知識利用の実態
団連の報告については、まとめる過程で関係省庁との意見調整を行っていたことや、総合科学技
術会議の議員が経団連代表であったため、実質的に強い影響力を持っていた。その一方で、日本
学術会議のまとめた報告は公表時期が遅く、そのため内容の新規性にも乏しかったため、直接的
には計画に反映されていない。学術会議の意見は、実質的に「人」を介して取り入れられる形と
なっている。その他、政策研究系学術論文や文献、個別科学技術分野の学会意見も、問題意識や
中立性、視野の広さに欠けるため利用されていない。
次の表 6-1 は、以上の議論を踏まえ、各期における情報・知識(源)について、政策分析、政
策情報、一般情報といった手続的・内容的分類別に利用の程度をまとめたものである。
表 6-1: 情報・知識(源)の利用の程度
第1期
第2期
第3期
政策分析
−
△
○
政策情報
△
◎
○
一般情報
◎
◎
○
内部・非公式
政策情報
−
○
◎
外部・公式
政策情報
◎
○
◎
一般情報
−
×
−
政策分析
−
×
×
政策情報
−
×
△
一般情報
○
×
−
内部・公式
外部・非公式
◎…特に利用・影響、○…利用・影響、△…やや利用・影響、×…利用・影響していない
6-1-3
政策分析の意義
情報・知識(源)の類型別に政策分析の意義および位置付けを考察すると、内部・公式の情報と
してデルファイ調査やレビュー調査、フォローアップ調査は間接的に利用されていたと見られる。
ただし意思決定者側の組織による分析であるため、外部から見て必ずしもアカウンタビリティが
高い形であるとはいえないだろう。とりわけレビュー調査とフォローアップ調査は、基本計画の
評価を行う調査であり、政策に資するかどうかという点ではなく政策の評価プロセスとして見た
場合、こうした自己評価の妥当性が問題となる。科学技術政策研究所に対して求めた追加調査の
ような直接的・即時的に利用される情報や知識であれば内部の組織に頼ることに意義も示すこと
ができるが、意思決定に向けた大枠を示すような調査研究は、理屈の上では外部化できたはずで
ある。ここで、外部の知識の生産者側の能力の問題となる。
外部・非公式の政策分析は、いわゆる一般的に想起される学術的な調査研究のことを主に指す。
第 1 期から第 3 期までを見ても、これがほとんど利用されることはなかった。
他の政策分野と比較して、科学技術政策、特に科学技術基本計画の策定は、専門的根拠に基づ
いた情報や知識の必要性および意義が高いことと、利害関係者による対立が比較的低いことから、
87
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 6 章 科学技術基本計画の策定における知識利用の実態
政策分析が政策立案者に利用される潜在的な可能性は高いと想定される。しかしながら、上の分
析結果を見ると、政策分析ではなくむしろ政策情報あるいは一般情報に基づいて意思決定がなさ
れていることが分かる。科学技術基本計画策定に利用されうる政策分析は、内部・公式と外部・
非公式の二種類に大別される。
内部・公式と外部・非公式という両極の政策分析は、単純な推断をすれば、前者が政策志向的
であり、政治的妥当性を重んじた分析であるのに対し、後者は学問としての内的論理を重んじた
分析であると言えるかもしれない。ただし、この事例はそれほど単純ではない。前者について言
えば、霞ヶ関が巨大なシンクタンクであると言われるように、政策分析の能力がある機関が内部、
すなわち意思決定者である政府機関にしかないことを示唆している。すなわち、内部・公式の政
策分析は外的論理(政策志向性)を考慮するのにふさわしいというよりもむしろ、内的論理を精
緻化できる資源的余裕と制度的安定性を持った限られた存在だからといえる。分析の内容は形式
的に規定されており、基本計画策定に直接的な示唆を与えない《中立的な》データの提示にとど
まっている。一方で後者は、外部・非公式であることもあり、政策志向性から比較的遠い位置に
立った分析になっている。大学は独立性こそ高いものの、大学や民間シンクタンクはどちらもス
ポンサーの確保に苦しみ、人的・財政的資源が逼迫している。そうした事情を斟酌しても、学術
的に見て視点の新奇性に欠け、マクロ政策に利用できるような堅牢な実証研究や理論的考察に乏
しい調査研究が多いのが現状である。以上のことはこの事例においてのみ観察しうるのではなく、
我が国のあらゆる政策分野における政策分析の特徴として一般化しうる可能性があるが、これに
ついてはさらなる研究が必要である。
6-2
科学技術基本計画における情報・知識(源)の利用に影響を与
えた因子
以下では、まず、第 4 章で整理した情報・知識(源)の利用に影響を与える因子のそれぞれに
ついて、各期どのような特徴を持つのか、実態をもとにまとめる。それらを踏まえ、それぞれの
因子が情報・知識(源)の利用にどの程度影響を与えたのかについて、各期比較を行いながら検
討する。
6-2-1
問題の本質
第 1 期は初めての計画策定であり、予算を確保するという強い目的があった。その説明責任を
果たす意味で科学技術評価を行うことや経済発展に貢献することなどが計画に盛り込まれた。ま
た、基本計画の構成として通常縦割りの議論から入るところを、冒頭から「組織の壁を越えた連
携・交流等が十分に行えない」ことを研究開発推進上の制約として指摘し、横割りの立場を鮮明
にしている。第 2 期では、より包括的な観点、特に科学技術と社会の関係に焦点を当て、科学技
88
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 6 章 科学技術基本計画の策定における知識利用の実態
術インナーな議論からの脱却を図った。第 3 期では、文部科学省への改編や総合科学技術会議が
発足しての最初の本格的な検討体制であったことなどから、高等教育政策との関係や総合科学技
術会議の位置づけや役割などが問題となった。また、イノベーションという言葉を導入し、科学
技術の社会への還元や、モノから人への重視という立場を打ち出した。第 2・第 3 期計画策定時に
は既存の計画があり、他省庁や総合科学技術会議など各アクターが計画との関係で自らの位置づ
けを定めるようになったため、問題の本質については第 1 期ほどは重要なファクターになってい
ない。予算確保の点で見ると、政府の財政事情が悪化する一途であったため、第 2 期・第 3 期に
おいても投入資金の数値目標を計画に入れることはそれぞれ困難があった。第 2 期の場合は、財
政投資額の数値目標は 24 兆円と、第 1 期の 17 兆円から見て数字は増加しているものの、地方自
治体の予算を入れたり計画期間中の GDP の名目成長率を 3.5%と仮定したりするなど、金額算定
の前提を変えるなどの工夫を施した。第 3 期の場合は、総合科学技術会議において議長である首
相と議員が会う機会が毎月 1 回あり、その場を通じて科学技術は未来への先行投資であるという
文部科学省の主張が当時の小泉首相にも理解されていたことが大きかったとされる。また、第 2
期・第 3 期では前例に倣わない、独自色を出そうという意識が働いていた。それは周囲の文脈に
影響されている部分もあるが、計画官の意識としても強かった。
リードタイムを見ると、第 1 期は法律施行から半年後に始まる年度からの計画のため、十分な
検討時間が確保できなかった。したがって、盛り込む内容は政府の研究開発投資規模を第一とし、
個別分野の議論を先送りし、内容的には従来の大綱や研究交流促進の観点に絞った。第 1 期とい
う前例ができたこともあり、第 2 期・第 3 期では十分な計画策定期間が確保された。
全ての計画に共通して言える本質的なことは、マクロ政策であること、また政策の策定期限お
よび政策の効果を見る期間が決められていることである。必ず政策として具現化しないといけな
いこと、デッドラインが決まっていることは、政策形成のために情報を必要とするニーズが高い
ということであり、そうした情報が道具的に利用される可能性が高くなるということである。
6-2-2
アクター
利用に影響する重要なアクターとして、情報や知識を生産する人や組織(知識の生産者)がま
ず挙げられる。
第 1 期では時間が限られていたことや、前例がなかったこと、参考となるデータや研究が絶対
的に不足していたことから、調査研究のための特定の制度や学術的知見というより、科学技術会
議総合計画部会や基本問題分科会の委員である特定の専門家からの声などに基づいて判断や意思
決定をすることが多かった。事務局は必要に応じデータや他者の見解など裏づけとなる情報を求
めて審議に反映することをしたものの、基本的に利用した知識は属人的で、
「知識の生産者」とは
特定の限られた有識者を指すものであった。他省庁がそれほど積極的に関与したわけではなかっ
たたこともあり、事務局の調査分析機能にはおのずから限界があり、そこで議論を交わして新た
89
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 6 章 科学技術基本計画の策定における知識利用の実態
な知識を生産するようなこともあまりなかった。
第 2 期では「インナーな議論からの脱却」を事務局が一つの目標に掲げていたように、基本計
画において科学と社会の関わりへの言及を増やすとともに、計画策定においても議論が開かれた
ものになるように工夫したと見られる。とはいえ、最も主要な知識の生産者は事務局組織であり、
他省庁や民間から人材を結集し、自ら統計データを集めたり、海外調査を行うなど調査分析機能
を自前で備えていた。また、科学技術会議の委員に対しては審議会を通じてというよりは個人的
接触を通じて必要な知識を得ていた。
第 3 期では省庁再編も終え、総合科学技術会議も発足したので、第 2 期に比べて計画策定にか
かる組織が制度的に整備された。そのため、事務局そのものよりは科学技術政策研究所や総合科
学技術会議が知識の生産源として重要な位置づけとなった。一方、これらの審議会等の制度によ
る知識生産活動と同時に、属人的であるが斬新な知識を求めて、事務局自らが有識者ヒアリング
を行っている。これにより、制度的な知識生産と非制度的なそれとのバランスを取っていたと考
えられる。
各期とも、審議会の委員やヒアリングの対象者として有識者を選定する際には、独自の見解を
持っており、議論が偏らず、発散せず、事実と意見を分けられ、物事の全体を俯瞰できる人物が
好まれた。特定の利益の代弁者や元行政官はできるだけ排除する方向に働いていたとされる。ま
た、男女共同参画の観点から女性の委員の登用が積極的に図られた。有用な知見をどの程度提供
できるかといったことのみが委員の選定基準ではないが、知識利用の観点からは、そうした委員
の見解が実質的にどの程度利用されたかについて慎重に見極める必要がある。
もう一方の重要なアクターである知識の利用者について見れば、全ての計画において、計画策
定に携わる人間は限られており、彼らの考え方や個人的経験、人脈などは重要な要素になっている
と推定される。計画官の任期は限られており、計画策定までは別の部局にいることも多い。それ
までの経歴は、計画に新しい考え方を吹き込んだり、幅広い視点で物事を考えられるという点で
は影響があるかもしれないが、それ以上に予算作業や調整業務の経験など実務能力の方が役立っ
たと考えられる。こうした能力は、行政官一般に求められる資質であるともいえるため、ここで
改めて強調すべきものでもないが、科学技術政策というそもそも非常に広範な対象領域の、特に
総合政策レベルの基本計画を扱うにあたっては必須の能力であったといえるだろう。また、計画
策定において実質的な役割を担う文部科学省の計画官や内閣府の参事官のような立場にあっては、
科学技術が横割りの行政分野であることもあって全府省をリードするような役割が付与され、様々
な情報源を利用しやすい立場にあることは間違いないが、特にその地位自体が利用に影響する大
きな因子であったというわけではない。
第 1 期から第 3 期までの流れとして、第 1 期では知識生産のスタイルが属人的であったものが、
第 2 期では、海外視察、科学技術会議議員との交流、科学技術政策研究所によるデータなど様々
な方法を用いたが、審議会での議論の裏づけを統計データや法律などの客観的資料から事務局自
らでとるなど、最終的には事務局自身が調査機能を一身に引き受ける形となった。この頃は行政
90
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 6 章 科学技術基本計画の策定における知識利用の実態
制度の変革を控えた時期であり、政策研究も揺籃期であったため、科学技術会議や科学技術政策
研究所などが実質的に大きな役割を果たすと言うことはなかった。そして第 3 期になると、第 2
期までと比べると利用される情報や知識の属人性が薄れ、形式的には利用の程度が知識の生産者
や利用者自身の性格にあまり関わらなくなっている。行政改革を経て誕生した総合科学技術会議
や文部科学省が制度的な安定期に入ったことや、それに伴い計画策定に携わるアクターが増加し
たこと、そうしたアクターや社会一般に対する説明責任を果たす必要性が高まったこと、それを
実現するデータや調査研究が充実してきたことなどが挙げられる。しかしその一方で、属人性は
制度の中に巧みに埋め込まれてしっかりと生き残っているとも考えられる。あくまで可能性の指
摘にすぎないが、たとえば、行政担当者が個別ヒアリングで気に入った有識者を審議会委員とし
て登用したり、審議会の議論そのものが座長の能力や委員間の個人的な駆け引きで決まったりす
ることがこれに相当する。また、
「モノから人へ」とした 3 期のスローガンはそのまま計画策定に
おける属人的傾向の支持につながるかもしれない。現在でも、トップの科学者に対する優遇が強
く行われるようになり、研究業績を逐一評価するのではなく、いったん認められた研究者に対す
る評価が固定化されるのではないかという危惧がある。また、特定の審議会委員や科学技術政策
研究所の研究官等への過度の依存も懸念されるべき事項である。
6-2-3
対話
第 1 期では科学技術会議総合計画部会や基本問題分科会という一般的な審議会プロセスを通し
て委員と事務局が対話を行っていた。審議の取りまとめに差し掛かると、委員のこれまでの発言
や真意を確認するため、審議会とは別に事務局から委員に直接連絡を取ることも行われた。これ
は、審議会で委員が過去の発言を覆したり事務局とは別の解釈をしたりして、審議の進行を混乱
させることのないようにすることが目的である。
第 2 期では、事務局が知識の主要な生産者であり、かつ利用者でもあったため、事務局内での
コミュニケーションは言うまでもなく活発であり、計画形成に大きく影響した。また、事務局に
よる米国調査で様々な組織の人間と活発な意見交換を行ったことも大きい。
第 3 期では、審議会における委員と事務局という形が中心とされている。毎回事務局が討議資
料としてそれまでの議論の成果や新たな論点を提示しながら、それを叩き台として委員と事務局
がやり取りしていく方針をとっており、そこでのコミュニケーションは充実しているように見え
る。ただし、限られた時間内で円滑な会議運営を行うために、一部の内容については会議の場に
持ち込む込む前に実質的な議論や調整等が進んでしまっていることもあった。
6-2-4
プロセス
第 1 期では、議論の素材となる有用な情報・知識(源)がそもそもほとんどなく、素朴な手段
で集めた情報(統計データ、問題当事者等の声、海外との比較)を基本問題分科会に諮って集中
91
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 6 章 科学技術基本計画の策定における知識利用の実態
的に審議するしかなかった。さらに、半年という限られた時間であったため、事務局も科学技術
会議の体制も充実させることは難しく、様々な情報や知識を収集する手法を確立できなかった。
第 2 期では、海外視察、科学技術会議議員との交流、科学技術政策研究所によるデータなど様々
な方法を用いたが、審議会での議論の裏づけを統計データや法律などの客観的資料から事務局自
らでとったり、調査委託を行ったシンクタンクなどが十分な機能を果たさなかったりしたために、
結局のところ事務局自身が調査機能を一身に引き受ける形となった。特に、事務局による海外視
察は情報の有用度も高く、タイミングとしても妥当であったため、計画策定に非常に参考にされ
た。また、出身の多様な事務局のメンバー間でコミュニケーションが活発であったことは、策定
プロセスを効率化し、議論の質を高めることにもなった。
第 3 期では、制度的に知識生産を行うプロセスが確立し始めた。一つは文部科学省の審議会や
総合科学技術会議であり、形式的には各省庁や産業界、学界の意見・意向はこれらの場を通じて
表明され、公に議論されることになった。これは制度的に規定されたわけではなく、事務局側が
非公式な陳情を断って議論の透明性を高めようと努めたためである。もう一つは科学技術政策研
究所であり、ここでは基本計画レビューなどの経験を通じて様々な分析手法を開発し、知見を蓄
えた。また、科学技術政策研究所は事務局の追加的な調査研究の依頼にも応じたが、方法論的に
見ると、課題抽出や意思決定への即応性という点で評価できる一方、逆にプロセスの透明性、組
織の知的独立性に疑問符が付けられる。三つ目はヒアリングであり、先に述べたように既存制度
に上がらない意見を吸い上げるという点で貴重な役割を果たした。
タイムリーさについて考えれば、第 3 期では日本学術会議からの提言が議論に供されたのが遅
かったことが指摘されているが、
「人」を介して実質的に意見が尊重されている。また、審議会の
議論の遡上に上がっているものではなく、ヒアリングの結果からも利用された様子はうかがえな
かったが、日本を代表する科学技術政策研究コミュニティである研究・技術計画学会が 2004 年 9
月 20 日に刊行した学会誌『研究 技術 計画』において、「第 3 期科学技術基本計画への期待と
展望」と題する特集記事が組まれている。これは、尾身幸次衆議院議員による巻頭言にはじまり、
行政官からの投稿を含む 34 件の提言をまとめたものであるが、その内容は投稿者各人の問題意識
に基づくものであり、性格として有識者への個別ヒアリングに近いものである。これが刊行され
たタイミングは、すでに事務局による有識者ヒアリング等の調査活動を経て大枠の問題設定が終
了し、まさに基本計画特別委員会での議論がはじまろうとしている時期であり、時機を逸してい
たともいえる。
なお、第 3 期では、審議会において委員間で討議が活発になされたが、第 2 期の事務局内部で
の闊達な論議と比べるとコミュニケーションについてはやや劣ると見られる。
92
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 6 章 科学技術基本計画の策定における知識利用の実態
6-2-5
情報や知識の質
政策分析などの成果として得られる情報や知識のほか、政策情報や一般情報は、その質の程度
が利用に関わる。
第 1 期では利用者のニーズに応えたり、現状からの変革を促すような戦略的情報・知識はなく、
単なるデータや問題当事者等の声などが中心であったため、それらの情報がそのまま計画に反映
できる行動指針とはなり得なかった。
第 2 期では、当初外部に情報・知識(源)を求めた。事務局自らが実施した米国諸機関に対す
るヒアリングは非常に役に立ったものの、調査委託を行ったシンクタンクなどは担当者の問題等
に対する理解の助けととなるには十分ではなかったので、結局は事務局自らが中心的に調査分析
を行うことになった経緯がある。科学技術政策研究所も、当時の担当者からみればデータの提供
者としての役割にとどまり、行動指向性のある情報はメリーランド大学ボルチモア校などの米国
機関や科学技術会議議員との直接交流から得ることが多かった。科学技術政策を巡る議論がイン
ナーなものになりがちであったという現状に挑戦するため、より社会に開かれた議論を展開する
知識の生産者が重用されたことがこの背景にある。
第 3 期では、総合科学技術会議が制度的に確立し、科学技術政策研究所などの調査機関が機能
を充実させ始めた。特に有識者ヒアリングは利用者が期待していたもの、あるいはそれ以上の効
果があったとされる。それは直接基本計画に反映されるというよりは、興味深い有識者について
はさらに審議会に招くことで間接的に彼らの知見が利用されるか、利用者の意識変化にとどめら
れる間接的な利用であった。科学技術政策研究所に直接要請した調査については、直接意思決定
に反映されるような実質的な情報であったとされる。しかし、こうしたデータの収集・整理方法
については、一部の有識者にとってはまだ十分納得のいくものではなかったようである。たとえ
ば総合科学技術会議第 3 回基本政策専門調査会(2005 年 2 月 23 日)において、科学技術政策研
究所の作成した資料が数学を計算機科学に含めて論文産出量などを算出していることに対し、数
学者である森重文委員は、これらが純粋基礎研究のような数学の評価に適した尺度かという問題
以前に、「そもそも対象分野の設定に問題がある」と批判した。
6-2-6
文脈
第 1 期策定当時は、
「失われた 10 年」と言われた 1990 年代の経済低迷期の真っ只中にあり、社
会の経済的側面に貢献するという点がかなり色濃く出ている。実際に、第 1 期基本計画の第 1 章
「研究開発の推進に関する総合的方針」の冒頭では科学技術基本法の第 1 条を引用して「活力ある
豊かな国民生活を実現する」と第一目標を掲げた後、持続的発展や安心して暮らせる社会に貢献
する研究開発も推進するとしている。それから、
「同時に、…基礎研究の成果は、人類が共有し得
る知的資産としてそれ自体価値を有するもの」と記述し、
「同時に」という言葉で上記の分野と研
究開発の優先度に違いがないことを示唆するという折衷的な構成にしている。だが、この順番を
93
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 6 章 科学技術基本計画の策定における知識利用の実態
見てもわかるように、計画全体を通して経済発展が第一に置かれ、基礎科学など知識の発展が次
に書かれたため、一部の大学関係者からは不満の声もあったという。
第 2 期になると、原子力や宇宙、バイオなどの分野に対し国民の懸念や不信が広がり、それ以
外にも安全・安心を求める風潮があった。また、政治的にも、総合科学技術会議体制への移行は
大きかった。第 2 期において、総合科学技術会議で議論を行う時間は実質 3ヶ月程度しかなく、計
画内容の大方はそれまでの総合計画部会で審議された内容が踏襲されているが、そういう状況に
あって、
「科学技術と社会との新しい関係」に関する記述が実質的に大きく強化されている。これ
は、一つには、科学技術会議時には 2 名だった常勤議員が総合科学技術会議では 4 名に増えたり、
閣僚以外の有識者議員の数も 8 名になったことで、科学技術の本質に迫るような議論が展開でき
るようになったことによる。また、科学技術会議の時にはリーダー的立場に官僚出身者がいたが、
総合科学技術会議になっていなくなったことや、議員に基礎研究に造詣の深い大学関係者が増え
たことで、1 期とは逆に知識が第一の論点となり、社会が二番目になった。第 2 期では基本的理
念の第一が「知の創造と活用」、二番目以降が「国際競争力」や「持続的発展」、
「安全・安心」と
なっており、序列がはっきり示されている。また、科学技術庁が文部省と合併して教育との関係
で科学の問題を捉えるような流れに移っていったことも背景にある。依然として続く経済的な不
況から抜け出すため、産業界は「産業技術」を強く求めていたが、こうした経済発展だけでなく
基本計画の役割をもっと広げて捉える必要が生じた。その状況にあって広く科学と社会のあり方
を問い直す試みは計画の内容の深部にまで影響を与えた。
第 3 期では内閣府や総合科学技術会議と文部科学省との関係などが変化したが、それが計画の
内容にまで影響することは少なかったと思われる。ただし、府省連携や総合科学技術会議の機能
の強化については第 2 期に引き続き言及されている。社会的に見ると、9.11 事件や鳥インフルエ
ンザ、治安の悪化などによる社会的不安の増大により、第 2 期よりさらに安全を求める社会的意
識が高まった。また少子高齢化に絡み健康の問題、優秀な人材の要請・活用が叫ばれていた。人
材については、男女共同参画や国際交流を進める社会の流れを受けて女性・外国人研究者の活用
が謳われたが、第 1 期・第 2 期で研究開発施設等の整備を進めた結果、かえって設備を活用する
研究者やそれを支える支援人材の養成や確保の問題が浮き彫りになったことの方が背景的要因と
して大きい。
6-2-7
小括
表 6-2 は、科学技術基本計画における情報・知識(源)の利用に影響を与えた因子と、それが
各期においてどの程度影響したのかについてまとめたものである。
まず、利用に特に大きく影響した因子として、マクロレベルで問題の本質と文脈、ミクロレベ
ルでアクターと対話を挙げることができる。問題の本質は、各期の基本的理念の策定及び財政投
資額の数値目標、総合科学技術会議のあり方になどに関わるものであり、計画者もそれら理念や
94
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 6 章 科学技術基本計画の策定における知識利用の実態
表 6-2: 情報・知識(源)の利用に影響を与えた因子
第1期
第2期
第3期
問題の本質
◎
△
△
アクター
○
◎
○
対話
△
◎
○
プロセス
−
△
△
情報や知識の質
−
○
◎
文脈
△
◎
○
◎…特に影響、○…影響、△…やや影響
数値目標、さらには総合科学技術会議の意義を強く意識しながら問題構造を明確化させていった。
したがって問題の本質は計画策定作業のプロセス全体を通して重要な因子となっている。また、
第 1 期では経済低迷期、第 2 期では総合科学技術会議や文部科学省の発足などの行政改革、第 3
期では基盤整備が一段落したことや安全や安心を求める社会的風潮、これまでの科学技術投資を
目に見える形で社会に還元するという政治的・経済的な要請といった文脈も重要である。第 2 期・
第 3 期と期を経るにしたがって、その時代背景ばかりでなく、過去の基本計画の反省というもの
も文脈の中に強く位置づけられるようになった。
ミクロレベルでプロセスや情報や知識の質が比較的重要な因子となっていないことは特筆すべ
き点である。極論すれば、「どのようにして」「どんな情報を得たか」は計画策定においてそれほ
ど重視されてなかったということである。これはアクター(特に知識の生産者)と対話という因
子の重視とつながる。つまり、利用者は「誰が」言ったかという情報の属人性に依然として囚わ
れており、利用者がその人物との公式・非公式での対話を通じて信頼関係が醸成されれば、そこ
からの情報や知識が利用される程度が大きい。このことは、知識の生産者側と利用者の双方に問
題があることを示唆している。生産者側の問題としては、利用者にとって使える情報や知識を組
織的・体系的に十分に提供できていないということである。問題意識の低さや基礎データ整備の
不足、一般化しうるマクロレベルでの議論よりも特定の事例研究への偏向、他領域との横断的な
科学技術政策研究の不在、方法論的未熟性など、数々の原因を挙げることができる。一方の利用
者側の問題としては、非公式な意思決定プロセスの利用、文部科学省と総合科学技術会議との曖
昧な役割・責任分担、審議会方式の採用による計画の総花的傾向、計画策定プロセスに対する評
価の不在などがある。だからといって、ここで知識の生産者が利用者と距離を取り、生産者の中
立的立場を保持するという「二つのコミュニティ」に戻ることを勧めているのではない。あるい
は、すべての意思決定プロセスの透明化・公式化を求めたり、利用者側と生産者側との個人的な
つながりを否定したりしているのでもない。その議論は次章で行うこととする。
95
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 7 章 まとめ:改善課題と提言
本章では、最初にこれまでの分析結果をまとめ、各期科学技術基本計画策定のための情報・知
識(源)およびその利用の特徴を考察する。続いて、これらのまとめから政策研究の利用をめぐ
る制度的な課題、意思決定者側と政策研究者側双方の課題について議論する。
7-1
科学技術基本計画における知識利用についての考察
科学技術基本計画の策定に何が利用されたかについて見ると、第 1 期から第 3 期にかけて内部・
公式の政策分析(科学技術政策研究所の委託調査など)の利用が進んだが、科学技術政策研究所
の追加調査や各種審議会のように、公式化されているがアカウンタビリティに欠ける政策情報が
依然として意思決定において多く利用され、より重要な位置づけを占めている。一方で、政策研
究系の学術論文など外部・非公式の政策分析はほとんど利用されていないままとなっている。
利用に影響を与えた因子は、問題の本質と文脈をマクロ的な因子とし、ミクロレベルではアク
ターと対話という二つの要素による属人的傾向が見られる。こうしたことから特定の情報・知識
(源)からその利用にいたるプロセスの性質はそれほど重要ではなかったといえる。つまり、これ
までの科学技術基本計画策定は「どうやってやるか」は「誰に(何に)あたるか」に比べると、そ
れほど大きく影響するわけではなかった。第 3 期でこそデルファイ調査やレビュー調査などの学
術的・合理的手法が活用されたと見られているものの、そこでも内部の公式・非公式政策情報に
相当する有識者ヒアリングや科学技術政策研究所の追加調査のような素朴な手法のウェイトが大
きかった。第 3 期までに方法論的なチャネルは拡充されたものの、それらをどのような手続きの
下で効果的・統合的に組み合わせるかというメタ方法論が確立されたわけではなかった。これは
審議会方式の問題でもあるともいえる。審議会ではレビュー調査や経団連レポートが議題に乗せ
られる。審議会において最終的にそれらの調査研究や政策提言を取りまとめること自体はよいが、
どの情報を、基本計画のどこに対し、どれだけ反映するかについての任意性あるいは恣意性が依
然として高いことが問題であると考えられる。
96
第 7 章 まとめ:改善課題と提言
7-2
7-2-1
政策研究の利用をめぐる科学技術基本計画策定上の課題
制度的な課題
前節で述べた属人性が薄れたことと、プロセスの性質がそれほど重要でなかったことを掛け合
わせると、審議会が討議的プロセスの場として集合知を生成する、という制度設計上の妥当性の
議論になる。第 3 期基本計画の策定時では、審議会で事務局の方針で毎回対案を出すようにした
ため、意思決定の透明性や説明責任の遂行は形式的に達成されたところがある。しかしそうした
方針の明文化を含め、審議会プロセスの明確化・明示的なルール化が必要であろう。制度・組織と
しての柔軟性が審議会の特徴であるが、運用上のルールが外部から見えにくいため、審議会は政
策分析としての地位を与えられていないのである。総合科学技術会議など上位意思決定機関では、
制度の議論をして、どのように何を調べるかの細目を詰めるべきである。そこでは理念的な議論も
重要だが、それだけでは政策策定プロセスに明示性と妥当性が附与されずに《上位意思決定機関》
というより《上位概念規定機関》にとどまる。本来であれば運営委員会(steering committee)と
呼ばれるような存在として、計画内容ではなく、計画策定方針やプロセスについて審議する必要
がある。評価専門調査会やレビュー調査はメタレベルの調査研究をしているのであるから、本研
究が行っているような意思決定制度・プロセスとしての基本計画策定評価をする制度を設け、その
分析・検討結果を真の上位意思決定機関たる総合科学技術会議で議論すべきである。ただし、レ
ビュー調査は、科学技術政策研究所という内部シンクタンクを中心としたものであるため、アカ
ウンタビリティの面で若干弱いことや、内容としても前期科学技術基本計画の達成度評価が中心
的課題となっており、計画の枠組み自体を見直すためのドライビング・フォースとしては不十分
であることを付記しておきたい。
また、海外と比較して科学者のコミュニティが一般社会にとって存在が希薄であり、政策との
結びつきが非常に弱いことが問題である。国民の科学離れを改善するために科学者側の社会的意
識や情報発信能力の向上を行うとともに、豊富な科学的知識を基にした政策提言能力を身に着け
ることが求められる。科学者コミュニティの内部統制や他の社会的・政策的アクターとのコミュ
ニケーションを強化するためには、彼らの自治に委ねるばかりでなく、国家政策として積極的に
体制の支援を図っていくことが必要である。
7-2-2
意思決定者側の課題
政策研究の利用をめぐる意思決定者側の課題を考えると、第 1 期はそもそも政策分析と呼べる
情報や知識は存在していなかった。第 2 期は内々での審議を中心に行い、情報や知識の実質性は
高かったがアカウンタビリティの点からは不十分であり、政策情報の利用にとどまった。第 3 期
は内部・公式の政策分析を含め様々な情報・知識(源)を大いに活用したが、意思決定の根幹に
関わる肝心の情報へのアクセスは内部化・非公式化し、意思決定者が握った。意思決定者個人に
97
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 7 章 まとめ:改善課題と提言
ついて考えれば、行政官の限られた任期の中で政策分析のような一般化しうる知識を概念的に利
用する機会は与えられにくい。そこで政策情報というアカウンタビリティに欠けるが即用性の高
い情報に頼る結果となる。意思決定者の任期の短さは、彼らが長期的政策を展望したり政策学習
を進めたりする上で政策研究が有用な知見を与える可能性の幅を狭めるものである。我が国にお
いて公務員制度の改革は容易ではないが、キャリアパスのあり方についての見直しを引き続き検
討していく必要がある。こうしたことは知識の利用者側の課題であると同時に、その解決に向け
て政策過程・意志決定過程を解明する《政策の研究》を充実させていく政策研究者側の課題とも
いえる。
7-2-3
政策研究者側の課題
政策研究者側の課題として、科学技術基本計画の策定に利用される内部・公式の情報源として
中心的存在である科学技術政策研究所による調査研究体制を整備することと、またそこでカバー
しきれない「問題意識を持った」非公式の政策分析を行うことが挙げられる。そのためにはシス
テム俯瞰図(ポンチ絵)や、隣接領域との接点について明らかにした議論が必要であろう。具体
的には、高等教育政策、知財戦略、地方自治、民間でのイノベーション、複合生産システム、生
命倫理、政府財政、税法などについて、一般化しうるマクロ研究を増やすことが望まれる。しか
しマクロ政策であることは、経済政策や法・政治制度論などに通暁している必要があり、工学系
出身が多数を占める現在の科学技術政策研究者が議論の一般化につながらないようなミクロレベ
ルの研究開発・イノベーション政策の事例研究を中心に活動していることは、知識の生産者と利
用者との問題意識の乖離に繋がっている。一方でマクロ政策を専門にする研究者においては、官
僚など現場経験の豊富な者であることが多いが、経済分野を除くと、学術的というよりは経験的
知識を単に記述したものや「∼であるべき」という規範的議論と混同したものが目立つ。
ここでマクロ政策の研究を推進していくためには、まず統計などデータ整備から始めることに
なるだろう。現在でこそ科学技術政策関連のデータは多く収集されるようになったが、機関によっ
て定義がまちまちで非常に不便であり、データの信頼性そのものが疑われる事例もあった(科学
技術・学術審議会第 9 回基本計画特別委員会、2005 年 2 月 25 日)。また、国際比較に耐えうる
データの集積システム等も整っていない。そのため、基礎的データの管理体制も整えていかなけ
ればならない。科学技術基本計画では知的基盤の充実が求められ、研究開発に資するデータの整
備が着実に進められているにもかかわらず、政策研究においてはその実現には程遠いという皮肉
な事態となっている。こうしたことは知識の生産者側の課題であり、
《政策のための研究》すなわ
ち政策分析を様々な形で行っていかねばならない。もう少しうがって言えば、これは知識の生産
者側の体制を整えるための政策立案者側の課題でもあり、
《政策のための研究を進めるための政策
的装置》の充実が求められる。政策研究者は質の高い研究を提示するだけで善しとするのではな
く、もとより「客観的な」政策研究はありえないとの立場に立脚し、意思決定者側とは一定の距
98
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 7 章 まとめ:改善課題と提言
離を取りながらも、自らの政策研究が政策自体に役立つと認められるよう戦略的に動いていく必
要がある。
7-3
7-3-1
第 4 期科学技術基本計画の策定に向けて
これまでの計画策定過程における知識利用を振り返って
第 1 期から第 3 期までの科学技術基本計画策定プロセスの変化を追跡したとき、効率的で正統
的な意思決定に資する知識や情報の提供という観点から見て、望ましい方向に進んでいると言え
るのだろうか。政策分析の利用の傾向については、前章で分析したように、科学技術政策研究所
を主たる生産者とした内部・公式の政策分析や内部・非公式の政策情報の利用が明確に増えてい
る。すなわち政策志向性の高い情報、一部ではアカウンタビリティの高い政策分析が内部のアク
ターを中心に提供されるようになってきている。一方で外部・非公式の政策分析は全期を通じて
ほとんど利用されないままにとどまっている。
内部で生成される情報・知識は、政策志向性が高く、問題とする政策の文脈から論理を展開す
る傾向にある。ここで外的論理をベースにしているということは、限られた文脈からの知見をそ
の文脈内で適用することが多いということである。これは主に内的論理に従って外部で生成され
る情報や知識と対極にある。堅牢な内的論理とそれを実証する方法論的妥当性がなければ、対象
文脈の時間的・地理的・政策レベル的・学際的拡張により、議論の一般化可能性を低める。不確
実性が高く、将来において多様な可能性のある事象や革新的な事象への対応が難しくなることや、
たとえば高等教育政策上の科学技術基本計画の位置づけのような隣接領域を含めた議論があまり
合理的なものにならなくなることが考えうる。
すなわち、上記の疑問の答えとしては、望ましい方向に進んでいるが、まだ不十分である、と
いうことである。そしてその不十分さは現状の延長(内部・公式の政策分析の充実)だけで解決で
きるものではなく、新たな活動によって補われなければならないということである。それは外部・
公式の政策分析活動の導入と、外部・非公式の政策分析活動の見直しによってなされるであろう。
7-3-2
第 4 期基本計画に求められる内容
科学技術基本計画を策定するにあたっては、期を経るごとにその策定プロセスが整備され、ま
た計画策定に必要な情報や知識を得るための試行錯誤が繰り返されてきた。その結果、第 3 期ま
でに情報・知識(源)や計画の内容の包括性・網羅性はほぼ達成されたと言ってよい。この状況
を踏まえた上で第 4 期基本計画の策定に向けて提言を行うとすれば、既存計画から内容を削って
いかに鋭利な視点を提示できるか、が一つ大きなポイントとなるだろう。審議会方式のみでは、
一般的に委員の意見を盛り込むばかりの総花的なものになる傾向があり、これからはリンゴと梨
を比べるように、質の違う対象をあえて比較し、内容の切り捨てや絞り込みをしていかなければ
99
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 7 章 まとめ:改善課題と提言
ならない。科学技術政策研究所のデルファイ調査が役に立ったとされる理由の一つも、研究開発
分野間の比較ができるというところにある。第 3 期までの重点推進 4 分野などの優先順位付けを
いったん白紙に戻す覚悟で、改めて重点化を検討し直す必要がある。5 年ごとに重点分野が変わ
ることで研究開発の継続性などの点から不利益も予想されるが、人材の流動性を進める上でも、
若手研究者に改めて研究機会を与える意味でも利点が大きいと考えられる。さらに既存の重点化
は第 2 期から続いているものであり、10 年は研究開発の一区切りとなるだろう。第 3 期について
のアウトカム評価を充実させ、その結果を反映させた出口からの区分にすべきだろう。アウトカ
ム評価を充実させるためには、欧米の先進諸国の大半でとられているような施策のプログラム化
を図る必要があり、またアウトカム評価を行える政策研究者等の専門人材の育成を図る必要があ
るが、これが実現すれば、計画策定者も評価結果を反映した計画にでき、既存の重点分野を切る
合理的根拠も示しやすくなる。新しい重点分野の区分は大括りにするのではなく特定的・限定的
なものにし、代わりにそのような重点分野の数を増やすべきである。また、重点化を「分野」と
いったシーズ側の概念で行うのではなく、
「課題領域」のようなニーズ側の概念で図っていくこと
も重要であろう。
我が国の政策制度の問題の一つに政策とプロジェクトをつなぐ中間的なプログラムの存在が稀
薄であることが挙げられるが、科学技術基本計画の重点分野はそれぞれが学問単位でいえば学科
に相当し、政策単位でいえば政策に相当する。現状では各プログラムはそれぞれの省庁が策定し
ているが、政策をそのままブレークダウンしただけで、結果として省庁間で類似したようなプロ
グラムになっていることも多い。これを改め、科学技術基本計画内に重点化するためのプログラ
ムを記述する必要がある。ただこれは我が国の研究開発・政策システムの課題と結びつく難しい
要素をはらんでいる。プログラムの策定には上級官僚の持つような政策レベルの戦略性・包括性
と、現場の研究者の持つようなプロジェクトレベルの専門性・具体性の双方が求められる。官僚
と研究者、科学と政治に携わる者のキャリアパスの交流が乏しいことが最大の原因である。先進
諸国では、プログラムの管理を省庁レベルではなく資金配分機関に委ね、そこに専門的人材を集
積するメカニズムが発達しているが、いずれにせよ、この解決には時間がかかるため、暫定的な
措置として現場に近い研究者が審議会などの政治的意思決定に近い場に参加してもよい。第 2 期
において民間の人材が事務局に加わったことや、第 3 期において審議会委員として現場の研究者
が任用されたことがこれに相当するが、どちらもプログラム策定に関われるほどの独立した十分
な権限は与えられていなかった。民間や大学の中堅レベルの研究者・技術者と各省庁から派遣さ
れた現場の行政官が、総合科学技術会議の重点分野政策の方針を継いで、総合科学技術会議の部
会など開かれた場でプログラムを作成していくことが現状では最も望ましいと思われる。
これまでの議論をまとめると、第4期基本計画に求められる内容は以下のようになる。
(1) 第 4 期計画に対して効果的なアウトカム評価が行えるような明示的なアウトカム目標の設定
(2) 第 4 期計画に対してどのようにアウトカム評価をするのかなど、基本計画の評価体制につ
100
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 7 章 まとめ:改善課題と提言
いての自己言及と専門人材の育成
(3) プログラムレベルの議論を積み上げた政策計画、特に社会的・政治的文脈やアウトカム評価
に基づいた重点分野の見直しや細分化
(4) 教育や経済、産業ばかりでなく、医療、農業、交通、地方自治、財政、外交など幅広いマク
ロ政策との関係における科学技術のあり方、科学技術の振興によるそれらの領域への波及
効果
(5) 科学技術の社会科学的研究に資する基礎的データの一元的管理・整備や、研究を品質管理し
たりオーソライズするための組織や制度の確立
(6) 日本学術会議や各学会など科学コミュニティへの制度的支援
7-3-3
第 4 期基本計画策定に向けて求められる政策研究
上で示した第 4 期計画に求められる内容を実現するためには、それぞれに応じたエビデンスや
説得材料を提供する政策研究の発展が望まれる。まず、(1) のようなアウトカム目標の設定は政策
研究の中でも事前政策評価に相当するものが必要となり、本稿の主題とした政策分析とは区別さ
れるが、(4) のような領域横断的なマクロ研究の進展により科学技術が社会のさまざまな側面にお
いてどのようなインパクトを及ぼすかについて予測・分析することができると期待される。その
(4) のような内容を基本計画に盛り込むためには、政策アジェンダを見極める《課題設定型》の政
策分析が求められる。従来の政策研究では欠けることの多かった「何が問題であるか」を、隣接
する政策領域の視点から分析する研究が必要とされる。これに対し、(3) のようなプログラムごと
の優先順位付けを行うにあたって政策決定支援のための証拠を提出するような《決定支援型》の
政策分析は、先に議論したように、質の違う対象を比較するために学際的な知識が求められる。
また、定量的・定性的手法を駆使し政策判断の助けとなるようなアプローチが必要となる。また、
プログラムレベルの活動を設計するには、従来我が国の科学技術政策研究者が得意としてきたミ
クロ研究に加え、先に議論したようにマクロ研究の充実が求められる。いずれにせよ、課題設定
型でも決定支援型でもマクロ的で学際的な政策分析(analysis for policy)が発展されなければな
らない。そうしたマクロな政策分析が堅牢な方法論に基づくようにするには、(5) で触れられてい
るような基礎的データの管理組織・体制の確立が待たれる。こうした制度設計を行い計画に盛り
込むためには、既存の科学技術政策制度の問題点を明らかにした政策の分析(analysis of policy)
がよい材料を提供するであろう。(6) については、「政策の分析」よりやや対象範囲を広げ、科学
コミュニティの自治体制を含めたガバナンス研究が役割を担うであろう。(2) で挙げた計画の評価
体制については、現状のレビュー調査、フォローアップ調査などの評価に対する評価が必要であ
り、メタ政策分析が有効である。
101
政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 7 章 まとめ:改善課題と提言
このような政策やガバナンスの分析、政策評価、メタ政策分析といったさまざまな政策研究の
中でも、本研究で主眼としてきた政策のための分析、すなわち政策分析が、第 4 期計画の内容の
充実のための鍵であり、これまで議論してきたように「何が意思決定者のためになるのか」
「本当
にためになっているのか」といった問題意識とともに、最もそのあり方が問われているところで
もある。
ここまで求められる政策分析の内容について言及してきたが、そうした分析は方法論的方策に
より政策志向性と内的論理、方法論的妥当性を高めた情報・知識を生産する一方で、制度論的方
策により自発的公開性を高めることも必要である。本事例では内部・公式と外部・非公式の二種
類の政策分析しか確認できなかったが、外部・公式の政策分析が本来的には最もアカウンタビリ
ティの高い情報や知識として位置付けられるため、あらゆるアクターからの信頼を得るためには
この種類の政策分析が求められる。また、これまで行われていた外部・非公式と内部・公式の折
衷的な政策分析としての地位を確保することで、ある程度の政治的判断の余地を残した半知識の
生産が果たされるのではないかと期待される。課題設定型の政策分析により、夢はあるけれども
不確実性があり、かつリアリティもある情報を生むことができれば、政策決定者のニーズに適う
ものとなる。ただし、科学技術基本計画策定に対する外部・公式の情報・知識を生産する活動は
アカウンタビリティを備えていないか、意識していないものが多く、政策分析として見なしうる
活動が一つもない。自発的公開性を高め、外部・公式の政策分析を実現するためには以下の三つ
のルートが考えられる。
(1)外部・公式の政策情報を政策分析まで引き上げる
審議会プロセスのアカウンタビリティを向上させることがこの即興的な対策として挙げられる
が、委員の選定や議題の設定において事務局がイニシアティブを手放すことや、議論の論理性を
高めた手続きを採ることは審議会のアイデンティティを否定することにつながり、制度的・政治
的慣性の強さからしても短期的な実現は考えにくい。
(2)外部・非公式の政策分析を公式化する
大学研究者や NGO、独立系シンクタンクなどによる学術的な政策分析を政府が公認した活動
にし、意思決定への反映の可能性を明示することである。現状でも審議会プロセスの中で利害関
係者の政策提言を審議したり、有識者からのヒアリングを行ったりしているが、それらはいずれ
も政策分析としての強度を持つものではない。従前は科学技術振興調整費の中に科学技術政策提
言と呼ばれるプログラムがあった。これは、
「国家的・社会的な重要課題に対する科学技術政策立
案機能を強化するため、科学技術と社会とのかかわりに目を向け、自然科学、人文・社会科学の
専門家のみならず、広く一般の意見をも糾合した俯瞰的視点に立った分析に基づく政策提言の充
実を図る 」ことを目的とするものであったが、現在は課題の募集を行っておらず、その政策提言
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政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 7 章 まとめ:改善課題と提言
がどのように政策に反映されたかも明確になっていない。このプログラムの意義と課題等を再検
証し、新たな実効的プログラムを立ち上げることも一案である。いずれにせよ、政策分析の公式
化にかかる制度的な整備には、ある程度の時間を要すると考えられる。従来的な理解の政策分析
である外部・非公式の政策分析が公式化を通じて政策志向性を高めるためには、政治的有用性を
意識した活動を通して学習しながら獲得していくものであり、まずそれが必要とされる環境を整
備することが先決である。それゆえ、情報や知識の生産者だけを問題とすることも、利用者の資
質だけを取り上げることも等しく誤りであり、彼らを取り巻く制度的環境、政策分析ガバナンス
構造の改善を図っていく必要がある。たとえば上述したような科学コミュニティへの制度的支援
により、科学技術ガバナンスにおいて政策と科学のコミュニティ間のチェック・アンド・バランス
を働かせることができるようになると期待される。
(3)内部・公式の政策分析を外部化する
現在でも科学技術政策研究所や内閣府では調査の一部を外部のシンクタンクに委託しているが、
調査の基本設計も政府関係機関だけでなく、これらシンクタンクやその他の外部研究機関と協力
して行うことがありうる。この外部化を段階的に進めていくことが、現状において最も現実的で、
実現しやすい形だと思われる。
7-4
本研究の課題と今後の展望
本研究にはいくつかの課題も残ったが、それを今後の研究に向けての展望としたい。まず、科
学技術基本計画策定に利用されたと思われる文書をすべて分析対象とすることができなかったた
め、この事例において網羅的な定性分析を引き続き行う必要がある。また、計画官以外の重要な
内部関係者にインタビューを行い、知識利用に関してより多くの具体的なデータを収集できれば
望ましい。また、今回は知識の利用者側に焦点を当てたが、知識の生産者側に焦点を当て、イン
タビューや文献調査を通じて、彼らがどのような問題意識と政策志向性を持って知識生産に臨ん
でいたかを調べても面白い。これらと並行して、各期計画の政策内容を分析し、第 4 期基本計画
に求められる内容について議論を深め、さらに具体的な政策提言を行いたい。
他の政策分野や海外における基本計画策定における知識利用や、さらに野心的な試みとして、
本研究で取り上げた企画型ではなく、現場型や査定型などの政策形成過程における知識利用まで
比較研究をすることも意義のある活動だと思われる。学術的関心からこうした議論の一般化を図
るとともに、政策研究を意思決定において意義あるものにし続けるために常に自らの研究のイン
パクトを意識しながら今後の活動展開を図っていくつもりである。
103
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政策及び政策分析研究 2007 年度報告書
第 7 章 まとめ:改善課題と提言
執筆担当
第 1 章 吉澤剛・田原敬一郎
第 2 章 秋吉貴雄
第 3 章 吉澤剛・城山英明
第 4 章 吉澤剛・田原敬一郎
第 5 章 吉澤剛・田原敬一郎
第 6 章 吉澤剛・田原敬一郎
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