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日本の教育の不平等 - 日本経済研究センター

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日本の教育の不平等 - 日本経済研究センター
研究ノート
日本の教育の不平等
一一教育ジニ係数による計測
北條一*
新潟大学
本稿の目的は、我が国における教育の不平等を数量的に把握し、その近年¢傾向
を検証することである。 1
9
5
0年代以降、中等・高等教育進学率は上昇を続け、国民
l 人当たりの平均就学年数は増加したが、高学歴化が進展する中で教育の分配が平等
化したのか否かという点に関する分析はこれまでおこなわれてこなかった。本稿で
は、国勢調査の集計結果から就学年数のジニ計数を算出して教育の不平等度を計測
し、その時系列の変化の要因および男女問、年齢階層問、都道府県聞の比較をおこ
なった。その結果、 (1)我が国の教育分配の不平等度は全体としては低下傾向にあ
るが、一律に教育の平等化が進展しているわけではない、 (
2
)女性は男性に比べて
教育の分配が平等である、 (
3
)平均就学年数と教育ジニ係数の聞にはi喧U字型の関
係がある、の 3点が明らかとなった。
l
はじめに
近年、我が国における経済格差拡大の議論が高まっており、主に経済学や社会学の観
点から種々江研究成果が報告されている。例えば大竹 (
2
0
0
5
) は、政府統計やアンケー
ト調査を用いた分析によって、不平等拡大の実態を数量的に明らかにしている。一方、
こうした議論の高まりの中で、所得や消費といった経済的な不平等とは異なる側面の不
平等にも関心が向けられてきている。その l つが教育の不平等である。本稿の目的は、
我が固における教育の不平等を統計データから数値化し、その時系列的変化の要因、男
女間・年齢階層間・都道府県聞の差異を分析することである。
1
9
5
0年代以降、我が国における中等教育・高等教育の進学率は上昇を続け、 2
0
0
4年
度の高等学校進学率は 97.5% (通信制課程含む)、大学・短期大学進学率は
50%に達
本稿の作成にあたり、本誌匿名レフェリーから数々の有益なコメントとアドパイスを頂きました。また、本
)
1
1由紀子氏(早稲田大学)、木
稿の前段階のものには、 高阪章氏(大阪大学)、阿部茂行氏(同志社大学)、深
村福成氏(慶曙義塾大学)、大槻恒裕氏(大阪大学)、万
軍民氏(福岡大学)から 貴重 なコメントをいただき
ました。記して感謝申し上げます。なお、著者は文部科学省科学研究費補助金「基盤研究(的、課題番号
1
7
2
0
3
0
2
1
J、「若手研究 )B( 、静題番号 1
9
7
3
0
1
6
8
J を受けています。
台
G
車絡先住所)〒 9
5
0
2
1
8
1新潟市西区五十嵐2
の町 8
0
5
0
(
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o
j
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c
o
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u
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c
.J
P
66
日本経済研 究 比 5
9,2
0
0
8
.
7
新潟大学経済学部
している(文部科学省
(
2
0
0
5
) )1 その結果、 2
5歳以上人口の平均就学年数は、 1
9
5
0
年の 7
.
6
8年から 2
0
0
0年には 9
.7
2年に上昇した (
B
a
r
r
oa
n
dL
e
e(
2
0
0
0
)
) 。高学歴化
の進展にともなって国民の平均的な教育水準が上昇したことは統計的に明らかである
が、同時に重要な観点は、提供された教育が国民の聞にどのように分配されたのかとい
う点である。我が国の教育の分配が平等化したのか不平等化したのかという点に関して、
統計データを用いて数量的な分析をおこなった研究はこれまでに前生しない。本稿はこ
の分野への貢献を目的としている。
教育の不平等を数量的に分析した先行研究は少なしそのほとんどは教育の不平等が
i
r
d
s
a
l
la
n
dL
o
n
ゐn
o
経済成長に与える影響を分析することを目的としている。例えば B
(
1
9
9
7
) は、就学年数の標準偏差を教育の不平等度の指標として使用し、この指標と経
済成長率の聞に負の相関があることを報告しているとまた、 T
h叩 凪 s
,W
a
n
g,a
n
dF
a
n
r
oa
n
dL
e
e(
1
9
9
3
) の教育ノミネノレデータから就学年数のジニ係数を算出
(
2
0
0
1
) は、Ba r
し
、 8
5カ国における教育の不平等度を比較しているこれら広研究はし、ずれも国際比
較可能なデータを用いたものであるが、国家聞のデータの整合性を保持するために教育
水準の分類が詳細なものとなっていないとしづ問題点がある。それゆえに、厳密な分析
をおこなうには限界がある。
本稿では、国勢調査江集計結果から、我が国における教育の不平等度をジニ係数を用
いて計測する。高学歴化が進む中での教育分配の変化やその要因についても考察する。
国勢調査は在学者および卒業者の教育水準を詳細に調査しているため、教育の不平等に
関して精散な分析が可能となる。また、男女聞や年齢階層問、都道府県聞の差異を比較
することも可能である。
以下、本稿の構成は次のとおりである。第 2節では、国勢調査江集計結果について説
明し、我が国の教育水準の変遷を概観する。第 3節では、教育の不平等度を計測する指
結果を報
標である教育ジニ係数について説明する。第 4節では、教育の不平等度の計点a
告・分析する。最後に第 5節では、本稿で得られた結果をまとめるとともに残された課
題を指摘する。
l 正確には、大学進学率は 1
9
7
0年代後半から 1
9
8
0年代後半にかけて停滞を経験した後に再び上昇している。
9
9
4年以降は低下傾向にある。
また、短期大学進学率は 1
2 同様に就学年数の標 準偏差を用 いた研究に、 R
a
m(
1
9
9
0
)、L
a
ma
n
dL
e
v
i
s
o
n(
1
9
9
1
)がある。
3C
a
s
t
e
l
1
oa
n
doD m
e
n
e
c
h(
2
0
0
2
) は、同様の手法で算 出したジニ係数と経済成長率の聞に負の相 関関係がある
ことを 明 らかにしている。
研究ノート
日本の教育の不平等
67
2
. 使用するデータ
本稿では、国勢調査江集計結果を用いる。国勢調査は 5年ごとに実施されており、 1
0
年ごとの大規模調査とその 5年後の簡易調査に大別される。本稿の分析に必要な最終卒
業学校・在学学校の種類とし、った教育に関する事項は、大規模調査の調査項目に含まれ
ている。調査内容は調査ごとに変更が加えられており、教育に関する調査内容にも変化
2
0
0
0年実施)の調査内容と整合性の
が見られる。そこで本稿では、直近の大規模調査 (
9
8
0年以降に実施された 3回の大規模調査の集計結果を使用する。
ある、 1
2ωo
年実施の大規模調査では、世帯員全員に関して、教育状態(在学中、卒業、未就
学)、卒業者の最終卒業学校の種類(小学・中学、高校・旧制中学、短大・
高専、大学・
大学院の 4分類)、在学者の在学学校の種類(卒業学校の種類と同じ)を調査している。
1
9
8
0年以前の調査では、最終卒業学校の種類に高等小学校(以下では「高小」と表記)
と旧青年学校(同「 青年」と表記)が含まれていたが、
1
9
9
0年の調査以降は上記の分類
となっている。なお、中途退学者はその前の卒業学校が最終卒業学校となるが、集計結
果から中途退学者数を知ることはできない。
9
8
0年 4降、高等学校進学
次に、本稿の分析対象について述べる。分析期間である 1
9
8
0年の 32%から 2
0
0
0
率は 94%を超える値で推移し、大学・短期大学への進学率は 1
年には 49%に上昇している。また、高等学校卒業後の進路が就職や各種学校への進学以
0
0
0年に約 1
3万人存在している(文部科学省
外の者が、 2
(
2
0
0
5
) )ことは、高等学校
卒業後直ちに進路が決定しない者も少なくないことを示唆している。これらの状況を考
8歳(標準的な高等学校卒業年齢)や
慮すると、 1
1
9歳以下の人口を分析対象とした場
合、各人の就学期間を終了していない者を相当数含むことになる。教育の不平等度を計
測するとしづ本稿の目的に照らせば、分析対象はすでに就学期間を終えている者とする
のが望ましい。一方で、近年t傾向を検証するためには可能な限り若い年齢の者を含む
べきである。そこで、最高学歴となる学校(本稿の分類では大学・大学院)に在学して
いる者であれば、統計上、卒業後に更なる就学期聞が発生しないため、分析対象に含む
0歳以上の人口とした
ことができると判断した。以上の理由から、分析対象を 2
分析対象年齢を 2
5歳以上としても、第 4節 σ
政士析結果に大きな変化はない。また、分析対象年齢を 15歳以
上に拡 大す るのは困難である。例えば 1
5歳の人口には、中学校在学者と 高等学校在学者が混在しており、後述
する教 育ジニ係数の計測が不正確になる可能性がある。
4
68
日本経済研 究 比 5
9,2008.7
0歳以上人口(男女別)の教育状況
表 12
1
9
8
C年
噴
下
空
最終卒業学校別卒業者
小学中学、高小、 青年
高校 旧制中学
短大高専
大学大学院
最終卒業学校不詳
在学学校別在学者
小学中学
高校
短大 高専
大学大学院
未就学者
総数
女性
最終卒業学校別卒業者
小 学 中学、高小
、 青年
高校 旧制中学
短大 高専
大学大学院
最終卒業学校不詳
在学学校別在学者
小学中学
高校
短大 高専
大学大学院
未就学者
総数
1
9
90年
2
0
0
C年
37,
962,
782
1
5,
533,
4
5
1口
‘
( 396
)1
14,
809,
718 口
‘
( 3
7
7
6
)
1,
700,
902 口
‘
( 0
4
3
4
)
5,
845,
464 口
‘
( 1
49
)1
7
3,
247 (
0‘0
01
9)
1,16
8,
923
2,
414 (
0‘000
)1
1
4,
245 口
‘
( 0004
)
84,
907 口
‘
( 0
0
2
2
)
1,
067,
357 口
‘
( 0
2
7
2
)
8
6,
256 口
‘
( 0
0
2
2
)
39,
217,
961 (1
. 0
0
0
0
)
42,
382,1
66
12,
673,
7
5
1口
‘
( 289
)1
18,
21
8,295 口
‘
( 41
56
)
2,
390,399 (
0‘0
5
4
5
)
8,
42
2,793 口
‘
( 1
92
2
)
676,928 口
‘
( 0154)
1,
383,1
09
2,666 (
0‘000
)1
2
2,604 口
‘
( 0
0
0
5
)
1
6
9,962 口
‘
( 0039)
1,18
7,877 口
‘
( 0
2
7
1
)
6
8,6
59 (
0‘0
01
6
)
43,
833,934 (1
. 0
0
0
0
)
4
7,1
6
1,6
7
0
1
0,
47
3,
224 口
‘
( 21
52
)
2
0,
628,308 (
0‘4
2
3
8
)
3,
280,889 口
‘
( 0
6
7
4
)
1
0,
788,957 日
‘
( 2
2
1
7
)
1,
99
0,292 (
0‘0
4
0
9
)
1,
453,827
4,987 日
‘
( 000
)1
43,2
0
7口
‘
( 0
0
0
9
)
16
6,3
61 (
0‘0034)
1,
239,272 日
‘
( 0
2
5
5
)
5
3,9
9
0口
‘
( 0
01
1)
4
8,
669,487 .1( 0
0
0
0
)
4
1,
273,
334
18,
46
5,
893 口
‘
( 43
9
8
)
18,
033,
569 口
‘
( 4295)
3,
384,
975 口
‘
( 0
8
0
6
)
1,
304,1
09 口
‘
( 0
3
1
1
)
84,
788 (
0‘0
0
2
0
)
503,
038
2,
71
9口
‘
( 000
)1
1
3,
000 口
‘
( 0
0
0
3
)
1
96,
4
9
1口
‘
( 004
)7
290,
828 口
‘
( 0
0
6
9
)
21
5,
377 (
0‘005
)1
4
1,
991,
749 (1
. 0
0
0
0
)
46,
084,355
15,
421,
050 口
‘
( 3284
)
21,
555,2
84 (
0‘4
59
0
)
6,
029,756 口
‘
( 1
2
8
4
)
2,
329,327 (
0‘0
4
9
6
)
748,938 口
‘
( 01
5
9)
727,506
2,713 口
‘
( 000
)1
1
5,659 口
‘
( 0
0
0
3
)
295,6
51 (
0‘0
0
6
3
)
413,483 口
‘
( 0
0
8
8
)
1
4
5,6
89 口
‘
( 003
)1
46,
957,550 .1( 0
0
0
0
)
5
0,
965,6
6
6
1
2,
97
8,
789 (
0‘2
4
9
3
)
2
3,
658,6
51 口
‘
( 4
5
4
4
)
8,
642,736 日
‘
( 1
6
6
0
)
3,
862,309 (
0‘0
7
4
2
)
1,
823,1
8
1 (
0‘0
3
5
0
)
1,
000,079
6,587 口
‘
( 000
)1
2
9,5
5
3 (
0‘0
0
0
6
)
283,9
01 口
‘
( 0
0
5
5
)
680,038 日
‘
( 01
3
)1
101,386 札
( 0
0
1
9
)
5
2,
067,1
3
1 (1
. 0
0
0
0
)
注)単位は人。カッコ内の数値は、男女別総数に占める構成比である。
出所)国勢調査報告(各年)より筆者作成。
表 lは
、 2
0歳以上の人口に関して、各学校分類の在学者数と卒業者数、および未就学
者数等を男女別にまとめたものである。卒業者の最終卒業学校については、小学・中学、
高小、青年の割合が趨勢的に低下する一方、高校・旧制中学、短大・高専、大学・大学
院の比率が上昇していることが確認される。未就学者数は大きく減少し、 2ωo年 の 調 査
では 2
0歳以上の未就学者の比率は全体の 0.15%にとどまっている。また、最終卒業学
校が不詳である者の数が 1
9
9
0年五降急増している点には注意が必要である。
3
. 教育の不平等の計測
教育の不平等を計測する指標として、本稿では教育ジニ係数を算出する。教育ジニ係
数とは、横軸に累積人員 Q 、縦軸に累積就学年数 Sをとり、それぞれを lで基準化して
描かれたローレンツ曲線と対角線に固まれた面積の 2倍の値である。したがって、教育
ジニ係数を算出するためには、在学者および卒業者の就学年数 y を求める必要がある。
研究 ノート
日本の教育の不平等
69
表 2 学校分類別就学年数
え翠ー (
i
)
1
2
語率
孟主主亙孟
0
小学・中学在学
小学・中学、高小、青年学校卒業
高校在学
高校・旧制中学卒業
短大・高専在学
短大・高専卒業、大学・大学院在学
大学・大学院卒業
3
4
5
6
7
8
4
.5
9
1
0
.5
1
2
1
3
1
4
1
6
第 2節で説明した学校分類に基づき、各学校分類 1 の在学者・卒業者の就学年数をそれ
ぞれ表 2のように設定する。在学者の就学年数は、それぞれの学校の修業年限の半分が
経過していると仮定している。まず、累積人員 Q は次のように算出される。
L
P
' k=12
Q,
=
ラ
ラ
ラ ラ
8
p,
は 20 歳以上人口に占める学校分類 1 の学歴層の比率である次に、累積就学年数 S は
次のように計算される。
S
K
=
4土PiYi
k=日
ラ
"-<-f
.
8
1=i
y,
は表 2で示された各学校分類 1の就学年数である。 μ は平均就学年数であり、
μ=
工PiYi
と計算される。したがって Q
,
=1、民 =1となる。以上で求めた臥 .
S
,
) から図 lのよう
な教育ローレンツ曲線を描くことができ、この曲線と 45度線に固まれた面積の 2倍が
);II/ _ と点Q( ,
.
S
,
) を結ぶ線分川頃きは
教育ジニ係数となる。ローレンツ曲線上の点臥 I,S
y,
l μ であるなお、下の式から、ローレンツ曲線を求めずに教育ジニ係数を算出する
ことも可能である
Eぬ
c
G
N
=
4
z
Z
P
I
l
y
I
Y
J
│
P
J
~
5
6
i=2
)=1
ここでの 20歳以上人口は、 最終卒業学校が不詳である者の数を除いたものである。
但
。
,
s. Hoρ)とする。
f耳、数の算出については刊沼田,
7 教育ジニ
70
日本経済研 究 比 5
9,2008.7
Wang,and Fan (
2
0
0
1
) に詳 しい。
図 1 教育ローレンツ曲線
(
Q
s,S
s
)
,
・
'
'
//倫
ッ
…
(
Q
s,S
5
)
レ
(
Q
6,S
6
)
ロ線
育線度
教曲目別
十
S
/
(
Q
" S,
)
。
(
Q
3,S
3
)
F
。
(
Q
z,S
2
)
「
(
Q
l,S
l
)
Q
図 l から、高学歴化の進展が、教育ローレンツ曲線および教育ジニ係数にどのような
変化をもたらすかを考察することができる。高学歴化とは、平均就学年数 μ の上昇をも
たらすような、人口全体における学歴構成の変化である。例えば高学歴化が、小学・中
の減少)と、大学・大学院卒業の高学歴層の相対的
学卒業の低学歴層の相対的減少( p,
増加(p
Sの増加)によって生じたとする。
が、その減少割合はこの層 (p
このとき、低学歴層への教育分配は減少する
,
) の減少割合より大きくなる
ることから確認できる)。すなわち、
(y
,
/μ=9/μ が小さくな
この部分ではローレンツ曲線は下方にシフトし、
低学歴層への教育分配は不平等化することになる。一方、高学歴層への教育分配は増加
Y
s/
μ=16/μ が小さくな
するが、その増加割合はこの層 (ps) の増加割合より小さい (
ることから確認できる)。すなわち、
この部分ではローレンツ曲線は上方にシフトし、
高学歴層への教育分配は平等化する。
以上から、高学歴化が進展する中で教育の不平等を比較する際には、高学歴化がどの
ような形で生じているかに留意する必要があることが理解される。例えば、高学歴イヒの
初期の段階、すなわちほとんどの人口が初等教育しか卒業しないような状況から始まる
高学歴イヒの進展は、低学歴層の相対的な割合を大幅に低下させるため、 ローレンツ曲線
が下方にシフトする部分が多くなる。その結果、低学歴に取り残された層への教育分配
は大きく減少し、教育ジニ係数で測った不平等度は悪化しやすくなる。 3竺に、ある程度
の高学歴化を達成した状況から更なる高学歴化が進展する場合には、高学歴層の相対的
研究ノート
日本の教育の不平等
マ唱
な割合が増加することにより、ローレンツ曲線が上方にシフトする部分が大きくなる。
その結果、教育ジニ係数で測った不平等度は改善しやすくなる。
.4
計測結果
.4 1 全体の不平等度
表 3は
、 1
9
8
0年以降に実施された 3回の大規模国勢調査t集計結果から算出した、教
育ジニ係数および μ の 推 移 を 示 し て い る 表 3から、 2
0歳以上人口全体の教育ジニ係
数は、 1
9
8
0年の.o 1
0
8k 降、一貫して低下傾向にあることがわかる。すなわち、ジニ係
数で測った教育の不平等度は縮小傾向にあることが確認される。また、平均就学年数は
1
9
8
0年の 1
.1 2
1年から O
.9
4年長くなり、 2
0
0
0年には 1
2
.
1
5年となっている。
次に、教育ジニ係数の低下をもたらしている要因を考察する。前述の通り、我が国で
はこの 2
0年間に高学歴化が進展し、平均就学年数は約 0
.
9
4年増加した。これは、小学・
中学卒業以下の低学歴層の割合が大幅に減少したことと、高校・旧制中学卒業以上の学
歴層の割合が増加したことによるものである(表 l を参照)。このような学歴構成の変
化は、教育ローレンツ曲線をどのようにシフトさせたのであろうか。
図 2は
、1
9
8
0年と 2
0
0
0年における 2
0歳以上人口全体のローレンツ曲線を描いたもの
である。まず、低学歴層の大幅な減少によって、この部分のローレンツ曲線が下方にシ
フトし、この層への教育分配が不平等化していることがわかる。一方で、短大・高専卒
業以上の高学歴層の割合が相対的に増加したことによって、この部分のローレンツ曲線
は上方へシフトし、この層への教育分配が平等化していることが確認される。
以上のことから、この 2
0年間における教育ジニ係数の低下は、短大・高専卒および
大学・大学院卒の高学歴層の増加によるこの層への教育分配の平等化が、低学歴層の減
少によるこの層への教育分配の不平等化を上回ったことによって生じたものであるこ
とがわかる。前節の例に当てはめれば、まちる程度の高学歴化が達成された状況からの更
なる高学歴化の進展のケースに該当すると考えられる。
不平等を計測する別の指 標 としてタイル指標が挙げられる。本稿では議論していないが、タイノレ指標につい
ても就学年数から算 出することが可能である。本節以下ではジニ昔十数の計測結果のみを報告するが、タイル指
標を用いてもほぼ同じ推移がみられることを確認している。
8
72
日本経済研 究 比 5
9,2008.7
表 3 教育ジニ係数と平均就学年数
1980
年
教育ジー係数
全体
男性
女性
平均就学年数
全体
男性
卒t主
1
9
9
0
年
2000
年
1
0
7
8
O
.1
1
6
1
0.0971
O
.1
0
5
9
O
.1
1
2
6
0.0966
O
.1
0
2
2
O
.1
0
7
2
0.0950
1
.1 2
1
1
.1 5
2
1
0
.9
2
1
.1 7
4
1
2
.0
5
1
.1 4
5
1
2
.1
5
1
2
.4
3
1
.1 8
8
.o
図 2 教育ローレンツ曲線 (
1
9
8
0年・ 2
0
0
0年)
ー
ー
ー
企ーー 1
9
8
0年
- 2 0 0 0年
8i1
O
1
1
8
0
)
(
Qr ,S7
S
。
。
Q
4
.2 男女聞の比較
次に、男女別の計測結果を比較する。表 3から、全期間を通じて女性のほうが男性に
比べて教育ジニ係数の値が小さくなっていることがわかる。また、平均就学年数は男性
のほうが約 0
.
6年長くなっていることも確認される。
図 3は
、 2000年における教育ローレンツ曲線を男女別に描いたものである。女性のロ
ーレンツ曲線は、多くの領域で男性のローレンツ曲線の内側に位置しており、これが男
性に比べて小さい教育ジニ係数をもたらしている。その要因は、男女聞の学歴構成の違
いによるものである。表 l から、 2000年における 卒業者の学虚構成の違いとして、大学・
大学院卒業者の割合が男女間で大きく異なる点が挙げられる。男性は約 22.2%が大学・
大学院を卒業しているのに対して、女性は約 7.4%に過ぎない。一方で、女性は短大・
研究 ノート
日本の教育の不平等
73
図 3 男女別教育ローレンツ曲線 (
2
0
0
0年)
一ー企ー一 男性 (
m
)
-ーー女性(f)
直
7
直
)
7
5
Q
(
S
(
Q
/,S
),
t
。
。
Q( ,
へS,
直
)
Q
高専卒業者が男性より約 1
0ポイント多く、高校・旧制中学卒業以下の学歴層も男性に
比べると多くなっている。その結果、高校・|日制中学卒業以下および短大・高専卒業の
学歴層への教育分配が男性に比べて平等となり、この範囲のローレンツ曲線が上方に位
置することで、男性よりも小さいジニ計数の値となっていることが分かる。
以上から、教育ジニ係数における男女聞の差異は、女性の高学歴化が男性に比べて遅
れていたことに加え、高学歴化が主として短期大学への進学という形で進展したことに
よるものと考えることができる。
3.4
年齢階層聞の比較
図 4は
、 2
0
0
0年における年齢階層別の教育ジニ係数を計算した結果である。教育ジニ
係数は年齢階層の上昇とともに大きくなり、 60-69歳の年齢層で最も大きな値をとる坦
U 字型となっていることが確認される。このような年齢階層聞の差異は、どのような学
歴構成の変化によってもたらされているのであろうか。
図 5は
、 2ωo年における 60-69歳層と 8
0歳以上層の教育ローレンツ曲線を描いたも
0歳以上層では、小学・中学、高小、青年学校卒業以下の低学歴層が 62.4%、
のである 9 8
0
高校・旧制中学卒業の中学歴層が 26.4%となっており、両者で約 89%を占めている。
一方で、 60-69歳層では低学歴層が 40.8%に減少し、中学歴層が 42%に増加した。低
学歴層が大幅に減少した 60-69歳層では、この学歴層への教育分配の減少によるロー
96
0-69歳層の平均就学年数は
74
1
.1 0
9年
、 8
0歳以上層の平均就学年数は 1
0
.
0
3年である 。
日本経済研究比 5
9,2
0
0
8
.
7
図 4 年齢階層別教育ジニ係数 (
2
0
0
0年)
-一日.‘
‘
、
.
益
、
、
+
b
〆
〆
ta
〆
〆
〆
O
.0
8
4 4
vs
O
.0
9
ー
..ー
‘
d
'
d
'
aF
O
.1
・
_.ー"一
.
1
1
.
喧
。
1
2
。
ー
・
-ー
ー 男性
女性
--1ト一
ー
......-
全体
O
.07
O
.0
6
0.05
20-29
30-39
40-49
50-59
60-69
70-79 8
0歳 以 上
レンツ曲線の下方シフトの影響が大きく、それがジニ係数江値を大きくしていることが
わかる。したがって、 80歳以上層から 60-69歳層の聞に観察される学歴構成の変化は、
第 3節の例で言えば、低学歴層が大幅に減少する高学歴化の初期の段階に該当するもの
と考えられる。
図 6は
、 2000年における 20-29歳層と 60-69歳層の教育ローレンツ曲線を描いたも
0 20-29歳層のローレンツ曲線は、ほとんどの領域で 60-69歳層のローレン
のである 1
0
ツ曲線より内側に位置していることがわかる。これは、 20-29歳層では小学・中学卒業
以下の学歴層が 60-69歳層に比べてさらに減少すると同時に、短大・高専卒業、大学・
大学院在学以上の高学歴層の比率が相対的に大きくなっていることによるものである
0
20-29歳層における短大・高専卒以上層の比率が 47.5%であるのに対し、 60-69歳層
では 17.2%である。なお、高校・旧制中学卒業の学歴層の比率は、 2つの年齢階層聞に
大きな差はない。したがって、 60-69歳層から 20-29歳層の聞に観察される学歴構成
の変化は、高学歴化の後期の段階に該当すると考えられる。すなわち、高学歴層を中心
とした高学歴化の進展による高学歴層への教育分配の平等化の効果が大きしそれが 20
2
9歳層の年齢階層内における教育分配の平等化をもたらしたと考えることができる。
1
020-29歳層の平均就学年数は 1
3
.1
6年である。
研究ノート
日本の教育の不平等
7S
図5 6
0歳層と 8
0歳以上層の教育ローレンツ曲線 (
2
0
0
0年)
6
0
6
9歳
企
-ーー 80歳 以 上
(
Q
560,
S
560)
S
(孟(Q3OO,S
360)
.'
。
。
Q
図62
0歳層と 6
0歳層の教育ローレンツ曲線 (
2
0
0
0年)
ー
一
‘
一-20-29歳
ーー企ーー '
6
0
6
9歳
丸山
(Q720,
S72
6
0
7 )
S
(Q5Z53
ら.
2
)
0
3
0
2
53
4.
Q
(
。
。
Q
都道府県聞の比較
国勢調査の都道府県別集計結果を用いることで、各都道府県の教育ジニ係数を算出す
ることも可能である。表 4は、都道府県別の教育ジニ係数および μ の計算結果をまとめ
たものである。 2
0
日0年における教育ジニ係数の算出結果によると、ジニ係数の値が大き
い県として沖縄県と徳島県、値が小さい県として大分県、山口県が挙げられる。なお沖
9
8
0年から 2ωo年の聞に最も教育ジニ係数が低下した県であり、その他には
縄県は、 1
神奈川県、東京都、奈良県、千葉県などで教育ジニ係数の改善が大きい。
76
日本経済研究 比 5
9,2
0
0
8
.
7
表 4 都道府県別教育ジニ係数および平均就学年数
都道府県
北海道
青森
岩手
宮城
秋田
山形
福島
茨城
栃木
群馬
埼玉
千葉
東京
神奈川
新潟
富山
石川
福井
山梨
長野
岐阜
静岡
愛知
三重
滋賀
京都
大阪
兵庫
奈良
和歌山
鳥取
島根
岡山
広島
山口
徳島
香川
愛媛
高知
福岡
佐賀
長崎
熊本
大分
宮崎
鹿児島
記選
。
198C年
1043
o
.0995
o
.0986
O
.1039
O
.0967
O
.0976
O
.0993
O
.1036
O
.1016
O
.1010
1067
O
.1081
O
.1062
1068
O
.0962
O
.1016
1042
O
.1024
O
.1029
O
.0995
O
.1020
O
.1013
O
.1068
O
.1015
O
.1055
O
.1085
O
.1052
O
.1079
1093
O
.1026
O
.1033
O
.0971
1009
O
.1026
O
.0999
O
.1070
O
.1026
O
.1032
O
.1003
O
.1031
O
.1011
O
.1028
O
.1033
O
.0987
O
.0996
O
.1037
O
.1262
。
。
。
。
。
1990年
o
.1030
o
.1026
o
.1031
O
.1019
O
.0998
O
.1002
O
.1015
O
.1046
O
.1023
O
.1028
O
.1032
O
.1037
O
.1006
O
.1016
O
.1008
O
.1042
O
.1061
O
.1053
O
.1029
O
.0999
O
.1047
O
.1027
O
.1061
O
.1052
O
.1065
O
.1042
O
.1019
O
.1057
O
.1049
O
.1044
O
.1023
O
.1030
O
.0991
O
.0998
O
.0978
O
.1102
O
.1026
O
.1054
O
.1050
O
.0998
O
.1015
O
.1039
O
.1037
O
.0964
O
.1022
O
.1031
O
.1194
1980年 → 2000年 変 jヒ 平 均 就 学 年 数
2000年
0.1001
o
.0042
1
.1 75
0.1012
o
.0018
1
.1 32
O
.1023
O
.0037
1
.1 38
0.0979
O
.0060
1
.1 95
0.0982
O
.0016
1
.1 36
0.0977
O
.0001
1
.1 52
0.0988
O
.0005
1
.1 52
0.1017
O
.0019
1
.1 86
0.0997
O
.0019
1
.1 82
O
.1007
O
.0003
1
.1 78
0.0990
0.0077
12.44
0.0990
O
.0091
12.54
0.0965
O
.0097
1
2
.98
0.0970
O
.0098
1
2
.83
0.1012
O
.0050
1
.1 46
O
.1025
O
.0009
1
.1 85
O
.1041
O
.0000
1
.1 89
O
.1042
0.0017
1
.1 68
0.0999
O
.0031
1
2
.00
0.0973
O
.0022
1
.1 90
O
.1030
O
.0010
1
.1 77
0.1013
O
.0001
1
.1 89
O
.1038
O
.0030
1
2
.1
6
O
.1039
O
.0023
1
.1 7
1
0.1031
O
.0024
1
2
.1
2
O
.1006
O
.0079
12.41
0.0990
O
.0063
12.32
0.1021
O
.0058
12.34
0.0997
O
.0096
12.55
0.1015
O
.0010
1
.1 7
1
0.0975
O
.0058
1
.1 79
O
.1040
O
.0069
1
.1 46
0.0967
O
.0043
1
2
.05
0.0965
O
.0061
12.32
0.0939
O
.0060
1
.1 94
O
.1080
O
.0010
1
.1 69
0.0998
O
.0028
1
2
.01
0.1031
O
.0001
1
.1 81
O
.1046
O
.0043
1
.1 46
0.0961
O
.0069
1
2
.22
0.0982
O
.0029
1
.1 70
0.1010
O
.0018
1
.1 55
0.1015
O
.0018
1
.1 70
0.0929
O
.0058
1
.1 87
0.1001
O
.0006
1
.1 53
0.0999
O
.0038
1
.1 60
0.1115
O
.0147
1
.1 74
注)平均就学年数は却 0
0年の値である。
出所)国勢調 査報告(各年)より 筆者作成。
研究ノート
日本の教育の不平等
77
図 7 教育ジニ係数と平均就学年数 (
N
=
1
4
)1
。
1
3
.a.
教
育 O
.1
2
ジ
.a.
会
.
•..
.
・
.
.1.
a
..
.♂
....:..
.#.t.....、
・
・
官
、
LLE' ・
・. .・
;
.9
、
,
、
,
・
:
ぃ
・
。 $-f
よ
- .
1f
.,-.5z 三
-・
.-bp
....・
.・
.
••
企
係。 1
1
数
j
f
l
O
.0
9
1
0
1
2
1
1
1
3
平均就学年数
図 7は、各都道府県の教育ジニ係数と平均就学年数を散布図で表したものである。教育
ジニ係数の上位 3つの観測点(企で表示)はいずれも沖縄県であり、これらを除くと緩
やかな坦U字型を示唆していると考えられる。そこで、沖縄県を除いた 46都道府県の 3
カ年のパネルデータを用いて、教育ジニ係数を平均就学年数 μおよび μ
2に回帰したと
co
ころ、次の結果を得 t
EducG. L
九T
l=-0.5961+ 0
.
1
1
9
5,
u -0.0051μ2
(
0
.
0
5
8
2
)(
0
.
0
的。) (
0
.
0
0
0
4
)
0
.
0
0
2
6dum1990-0.0057dum2000
(
0
.
0
0
1
6
)
(
0
.
0
0
2
8
)
N=138A
d
j
u
s
t
e
d
R
'=0
.
8
2
2
ラ
カッコ内は標準誤差である。 dum1990とdum2000はそれぞれ江年のダミー変数である。
推定には都道府県固定効果モデノレを採用した。 μの係数推定値は正、 μ2の係数推定値
.1 72にお
は負であり、ともに有意水準 1%で統計的に有意である。この結果から、 μ = 1
いて教育ジニ係数は坦U 字のピークとなることが確認される 11
平均就学年数 μ と教育ジニ係数の逆U 字型の関係は、どのように解釈すればよいのだ
ろうか。第 3節で述べたように、高学歴化の初期の段階では、低学歴層の比率が大幅に
4
7都 7
宮守県のパネルデータで同様の推定を行うと、推定モデルの説明カは低下する。このと
きの教育ジニ係数のピークは μ二 1
0
.
5
1となる 。
u 沖縄県を含めた
78
日本経済研究比
5
9
.
2
0
0
8
.
7
低下することによるこの層への教育分配の不平等化の影響が大きい。しかしながら、あ
る程度の高学歴化が進展した後に更なる高学虚化が進展する段階では、高学歴層の比率
が大きくなり、この層への教育分配が平等化することによって教育ジニ係数は改善する。
したがって、平均就学年数 μ と教育ジニ係数の i空U 字型の関係は、高学歴化の進展過程
における不平等の変化と整合的であると考えられる。
都道府県聞における教育ジニ係数と平均就学年数の関係は、教育ローレンツ曲線では
どのような違いとして現れるのだろうか。 2000年の計算結果によると、東京都は 4
7都
1
2
.
9
8年)、教育ジニ係数の値も小さい
道府県の中で平均就学年数が最も長く (
(
4番
目)。以下では、東京都との比較を通じて、都道府県聞における教育ジニ係数の差異の
要因を考察することとする。
、 2000年において教育ジニ係数が最も大きい沖縄県と、東京都の教育ローレン
図 8は
ツ曲線を描いたものである 12 東京都は高学歴化が特に進展しており、 45.5%が短大・
高専卒以上の高学歴層となっている。その結果、高学歴層への教育分配の平等化が大き
く進み、ローレンツ曲線はほとんどの領域で沖縄県の上方に位置している。図 8は、初
期の高学歴化段階を経た ω歳代層と、後期の高学歴化段階を経た 20歳代層のローレン
ツ曲線を比較した図 6の形状に近いものと考えることができる。
、 2000年において最も平均就学年数が短い秋田県と、東京都の教育ローレンツ
図 9は
曲線を描いたものである。秋田県では、高校・旧制中学卒業以下の学歴層が全体の約
84.2%を占めており、これは東京都の約 54.5%と比べて大きな比率となっている。一方、
大学・大学院卒業の高学歴層は東京都で約 25.6%であるのに対し、秋田県では約 7.3%
に過ぎない。その結果、東京都と秋田県の平均就学年数の差は1. 6
2年と大きなものと
なっているが、秋田県を特徴付けているのは、高校・旧制中学卒業の中学歴層が 48.2%
と大きな割合を占めている点である。秋田県の平均就学年数は 1
.1 3
6年であり、これは
2年を下回る。そのため、秋田県のローレンツ
高校・旧制中学卒業の就学年数である 1
曲線はこの中学歴層への教育分配を平等化するような形状となっている。図 9からわか
るとおり、両都県のローレンツ曲線は交差を繰り返し、結果として教育ジニ係数の差異
は小さなものとなってし、る。
1
22
0
0
0年 の沖縄県の平均就学年数は 1
.1 73年であり、回帰分析から得られた逆U字型のピークとなる 1
.1 7
2年
に近い値となっている。
研究ノート
日本の教育の不平等
79
図 8 教育ローレンツ曲線(東京都・沖縄県)
企
沖縄 県 (
0
)
-ーー東京都(1)
T
55
5
0
hy
Q
(
)
T
57
Q7
(
S
5
7
れ
5
T
5
Q
(
弔ー
宅,(Q3u ,S30)
3
T
)
T
3
5
Q
(
。
。
Q
図 9 教育ローレンツ曲線(東京都・秋田県)
企 杭 田県 (
A
)
-ーー東 京都(1)
A
(
Q5
¥S
5
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. 結語
本稿では、 1980年から 2000年に実施された大規模国勢調査の集計結果を用いて、我
が国における教育の不平等度を数値化して計測し、高学歴化にともなう教育の分配の時
系列の変化と都道府県聞の差異を分析した。その結果、以下の 3点が明らかとなった。
l 点目は、教育ジニ係数¢低下傾向である 。ただし、教育ジニ係数の低下はすべての
学歴階層における分配の平等化を意味するものではない。本稿の分析結果によれば、
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0年以降の高学歴化の進展は、小学・中学卒業以下の低学歴層の割合の大幅な減少と、
短大・高専卒業以上の高学歴層の割合の増加によるものであった。その過程において、
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低学歴層への教育分配が不平等化し、高学歴層への教育分配が平等化したが、後者の平
等化が前者の不平等化の度合いを上回ったため、全体として教育ジニ係数の低下がもた
らされたことが明らかとなった。
2点目は、男女を比較すると女性のほうが教育の不平等度が低い点である。その理由
として学歴構成の違いが考えられる。女性の高学歴イヒは男性に比べて進展が遅く、また
高等教育への進学は短期大学への進学とし、う形が主であった。その結果、女性は高校・
旧制中学および短大・高専卒業の学歴層が相対的に多くなり、これら 2つの学歴層への
教育の分配が平等化することによって教育ジニ計数が小さくなっていることが明らか
となった
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3点目は、年齢階層別および都道府県別教育ジニ係数の計測結果から明らかとなった、
平均就学年数と教育ジニ係数の聞の i喧U 字型に近い関係である。高学歴化の進展には、
人口の大多数を低学歴層が占める初期の段階と、初期の高学歴化が達成された後に高学
歴層が増加する後期の段階に分けて考えることができる。高学歴化の初期の段階におい
ては、低学歴層の割合が大幅に減少するため、残された低学歴層への教育分配は大きく
不平等化する。しかしながら、高学歴化の後期の段階においては、短大や大学を卒業す
る高学歴層の増加が中心となるため、これら高学歴層への教育分配の平等化が進む。そ
の結果、平均就学年数と教育ジニ係数の聞に i空U 字型の関係が観察されることとなる。
本稿の年齢階層別の分析結果によれば、 2000年において 60歳代で最も教育の不平等度
が大きく、 20歳代の若年層や 80歳以上の高齢層の不平等度は小さい。この結果は、
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歳代では初期の高学歴化が達成されたことで教育の不平等度が拡大し、 20歳代では後期
の高学歴化が進展したことで平等化が進んだことを示唆していると考えられる。
今後の課題について指摘する。第 l の問題点は、
最後に、本稿の分析の問題点およひC
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0年の調査以降、最終卒業学校不詳者が急増していることである。この現象の背景に
は、教育歴という個人情報を公にしたくないという国民意識の高まりがあると推察され
る。問題は、どのような人々が最終卒業学校の調査項目に回答していなし、かという点で
ある。仮に、ある特定の教育歴を持った人々が最終卒業学校を無回答としている場合、
本稿の分析結果に何らかの影響を及ぼしている可能性がある。
第 2の問題点は、本稿の分析は就学年数のみを議論の対象としており、教育の質につ
いては捨象している点である。いし、かえれば、同じ学校分類に属する学校であれば、提
供される教育は同質であると仮定していることになる。近年の教育格差拡大感には、提
供される教育の質が学校間で異なるとしづ認識が含まれていると推察されるが、そのよ
研究ノート
日本の教育の不平等
8唱
うな教育の質の違いを識別できる統計データは現時点では前生しない。教育の質を考慮
した分析は今後の課題としたい。
参考文献
大竹文雄 (
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