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上*澤江義郎
一 23 一一 間接蛍光抗体法による抗平滑筋抗体, 抗ミトコンドリア抗体の検索 山 田 上*澤江義郎* Detection of Anti−Smooth Muscle Antibody and Anti一一Mitochondrial Antibody by lndirect lmmuno− fluorescence Method Iwao Yamada and Yoshiro Sawae まえがき ついてはA型肝炎ウィルスに対する抗体検査を 近年,多くの疾患で自己抗体の存在が指摘さ 行い判定した。肝疾患以外のものは26例(26 れ,その臨床的意義づけもそれぞれの自己抗体 検体)で,全身性エリテマトーデス(SLE)6例 について次第に確立されてきている。 (6検体),慢性関節リウマチ3例(3検体), 肝疾患における自己抗体としては,抗平滑筋 呼吸器系疾患2例(2検体)であった。そのほ 抗体(ASMA)と抗ミトコンドリア抗体(AMA) かに健常人コントロールとして,本学の学生よ の存在が知られており,すでに鑑別診断や予後 り得た15例(15検体)の血清を用いた。 の判定などに利用されはじめている8>!o)。 検出方法としては間接蛍光抗体法,補体結合 実験方法 反応,二重免疫拡散法などが知られているが, ASMA, AMAの検査=Bio Dx社のSMA 今回,著者らは間接蛍光抗体法を用いて,ASMA テストとMAテスト試薬を用いた。すなわち, とAMAの検出を試み,肝疾患における臨床的 基質としてSMAテストではラット胃組織切片 意義について検討したので報告する。 を,MAテストではラット腎組織切片を用いた 間接蛍光抗体法によりASMAおよびAMAを 実験対象 定量的に測定した。被検血清の10倍希釈液でス 実験に供した患者血清は52例の81検体であ クリーニングを行ったのち,陽性を示したもの った。乙れらの症例は治療継続中の肝疾患が26 については倍数希釈列をつくり抗体価を測定し 例(55検体)で,急性肝炎4例(9検体),慢 た。 性肝炎17例(36検体),肝硬変症5例(10検 抗核抗体(ANF)の検査:KW社のLE蛍光ス 体)であった。なお,肝炎の活動性,非活動性 ライドキットを用い,被検血清の10倍希釈液で の判定は生検と肝機能検査成績の推移により行 スクリーニングを行い,陽性のものについては ったが,一部の症例については肝機能検査成績 倍数希釈列をつくり抗体価を測定した。 のみにより行った。B型と非B型の判定はHB 血中免疫複合体(IC)の検査:Digeonら3) 抗原,抗体の血清学的検査により,急性肝炎に の比色法に準じた。すなわち,被検血清に分子 量6, OOOのポリエチレングリコール溶液を加え, *九州大学医療技術短期大学部衛生技術学科 沈殿したタンパクを0,1NのNaOH 5 m1に溶解 一 24 一 間接蛍光抗体法による抗平滑筋抗体,抗ミトコンドリア抗体の検索 し,280nmの吸光度を測定した。なお,健康 2)疾患別ASMAとAMAの陽性率 人15例の平均値は0.02で,2標準編差値を加 表1に示したように,ASMAは急性肝炎の えた0.03以下を正常値として評価した。 4例ではB型と非A非B型それぞれ1例ずつ陽 血清トランスアミナーゼ値の測定=Reitman 性で,陽性率は50%であった。慢性肝炎では17 一・Frankel法1のに基づき,日本消化器病学会肝 例中11例(64.7丁目が陽性で,とくにB型と 機能研究斑が定めた標準操作法12)によるS.TA 非B型の活動性肝炎で100%の陽性率であった。 一 Test(和光純薬)試薬を用いて, GOT,GPT また,非活動性肝炎ではB型66,7%,非B型50 の酵素活性を測定した。 %で,両者を合わせたものでは57.1%で,肝硬 成 績 変症ではB型50%,非B型33.3%で,両者の 平均では40%のものが陽性であった。 1)ASMA価とAMA価の分布 図1に示すように,ASMAが10倍希釈血清 で陽性のものは52例中15例(28.8%)で,す 表1 疾患別ASMAとAMAの陽性率 例数 疾 患 ASMA べて肝疾患であり,肝疾患26例中の57.7%に 認められた。この15例中の8例(53.3%)で B型急性肝炎 非A非B型 22 2618 160 e 80 e 100 50.0 U6.7 O00 P00 @ 活動性 非B型 非活動性 ASMA 抗体価 00 50.0 慢性肝炎 活動性 B型 非活動性 体価を示し,経過中に陰性化したものは認めら れなかった。 AMA T0.0 は40倍以上の抗体価を示した。また,同一症例 から得られた2ないし3検体ではほぼ同一の抗 陽 性 率 (%) T0.0 AMA B型肝硬変症 非B型 23 50.0 00 R3.3 40 糊 20 (>ee IO eeee 〈10 e 疾 患 兜 11 0 0 健 康 人 15 0 0 一方,AMAは慢性肝炎17例中の1例(5.9 辮襯・繊3”麟繍・…騨 肝 その他の疾患群 他 健 肝 他 健 裟康 疾裟康 患 患 患 群 人 群 群 人 %)のみ検出された。この陽性例は慢性活動性 肝炎3例のうちのB型の1例であった。 3)肝疾患患者のASMA価, AMA価とAN F価,IC値,血清トランスアミナーゼ値 個々の肝疾患患者19例のASMA価, AMA価 とANF価, I C値,血清トランスアミナー二値 蝦1 ASMA価とAMA価の分布 を表2に示した。 一方,AMAは52例中肝疾患の1例(1.9%) ANFはASMA陽性の14例中4例(28.6%) に検出され,しかも肝疾患26例の55検体中の に認められ,それらは慢性活動性肝炎の3例す 1検体(L8%)にのみ認められた。 べてと,非活動性慢性肝炎の1例であった。し 肝疾患以外の11例および健康人の15例では, かし,その抗体価は10倍ないし20倍と低値で ASMA,AMAはいずれも陰性であった。 あった。一方,ASMA陰性の肝疾患の中には, 一 25 一 山田 巌・澤江義郎 表2 肝疾患患者のASMA価, AMA価とANF価, I C値,血清トランスアミナーゼ値 患 者 疾患名 ASMA価 AMA価 急性肝炎 慢性肝炎 40 20 10 e 慢性肝炎 慢性肝炎 慢性肝炎 f△ 慢性肝炎 a△ b△ c△ d△ 20 〈10 h△ 慢性肝炎 慢性肝炎 i 慢性肝炎 40 80 40 20 慢性肝炎 10 慢性肝炎 慢性肝炎 慢性肝炎 <10 <10 n 慢性肝炎 0 慢性肝炎 慢性肝炎 <10 <10 ⑧ 」 k 1△ m ⑩△ @△ r 慢性肝炎 肝硬変症 S 肝硬変症 10 40 160 40 40 ANF価 トランスアミナーゼ* I C GOT GPT 0.04 42 18 0.04 160 178 110 <10 <10 <10 〈10 <10 <10 <10 <10 <10 <10 <10 <10 <10 <10 <10 <10 〈10 <10 <10 <10 <10 <10 0.04 10 10 20 20 <10 <10 <10 く10 0.04 250 0.06 32 24 26 38 20 <10 0.03 21 10 10 0.05 <10 <10 <10 <10 く10 <10 0.03 0.03 63 68 28 0.05 32 0.04 0.05 80 26 26 42 55 55 37 23 55 22 28 25 0.06 240 0.03 73 50 0.04 0.04 0.02 0.02 0.03 10 7 12 180 43 35 ○印の症例は活動性肝炎 △印の症例はB型肝炎 *Kermen単位 AMA陽性の1例はANF陽性であった。 考 察 肝疾患の自己抗体としてはASMA,AMAの存 ICは測定値が0.02から0.06の間に分布し 在が知られているが,いずれも種属,臓器特異 ており,健常人測定値より求めた正常値のO.03 性のない自己抗体といわれている。 より高値であったものは,19例中12例(63.2 ASMAは1965年にJohnsonら5)によりは %)と高率に認められた。とくにASMA,ANF じめて報告された平滑筋に対する自己抗体であ 陽性の慢性活動性肝炎例では0.05以上の高値で る。彼らによればルポイド肝炎で高率に出現し, あった。一方,IC値が0.03以下のものは19 SLEでは陰性であるため,両者の鑑別診断に有 例中2例(10.5%)にすぎず,ASMA,AMA 効であるとしている。さらに最近では慢性活動 のいずれも陰性であった。 性肝炎,原発性胆汁性肝硬変症などでも検出さ 血清トランスアミナーゼ値については,ASMA れることから,それらの診断にも利用されてい 陽性の14例中8例(57.1%)がGOT40単位, る。 ANF陽性のものは認められなかった。また, GPT 35単位以上の高値で,2例(14.3%)が 一方,AMAは1958年Mackey 7)がはじめて GOTのみ高値となっていた。一方, ASMA陰 報告したミトコンドリアに対する自己抗体で, 性の5例では慢性肝炎の1例のGPTが正常値 1965年にWalkerら職1966年にDoniachら4) よりもわずかに高い37単位であった。 により原発性胆汁性肝硬変症で高率に出現す 一 26 一 間接蛍光体法による抗平滑筋抗体,抗ミトコンドリア抗体の検索 ることが明らかにされ,比較的疾患特異性の高 肝炎の悪化といった慢性肝炎と同様の発症機序 い自己抗体と考えられた。しかし,その後慢性 の考えられるものがあるのかも知れない。しか 活動性肝炎をはじめ他の疾患でも認められるこ し,このことはASMAが慢性肝炎の活動性を とが報告され2)6),抗体の多様性が示唆されて 示唆するものではあるが,すべてがそうとはい きた。 えないのかも知れない。それにはさらに数多く 今回,著者らはASMAとAMAの検出に間 の症例での精細な検討が必要であろう。中田ら11) 接蛍光抗体法を応用して検討したが,これまで は急性肝炎で62,7%の陽性率であったと報告し のANF検出の経験から技術的には比較的容易 ている。同時に慢性肝炎では28.6%,肝硬変症 であるといえた。それでも蛍光観察による判定 では37.5%であったと述べている。いずれにし の際にANF検出の場合よりも,より一層観察 ても,ASMAは慢性活動性肝炎の血清学的診断 の熟達と慎重が要求された。すなわち,ASMA の一つの情報を提供するものと考えられる。 の場合,基質に用いたラット胃粘膜において筋 一方,AMAは本来原発性胆汁性肝硬変症で 層以外のガストリック層や周囲の血管,毛細管, 特異的に認められる抗体とされており,著者ら 細胞の核,結合組織などにも非特異的な蛍光が の成績では慢性活動性肝炎の3例中1例に認め 認められた。また,AMAの場合,ラット腎上 皮の近位尿細管,遠位尿細管の細胞質が穎粒 られたにすぎなかった。そこで,ASMAとは明 状に染色されるものが陽性であるが,核や平滑 る。Bergら2)は26%に,宮地ら9>は12.5%に 筋あるいは近位尿細管の管腔などに蛍光が観察 慢性活動性肝炎でAMAが認められたと報告し される乙とがあり,判定の際,これらの点に十 ているが,それほどの陽性率に認められておら 分な注意をはらう必要がある。 ず,原発性胆汁性肝硬変症の診断にのみ有用な 今回のわれわれの成績ではASMAは肝疾患 検査法であるかも知れない。それにしても陽性 の症例のみに陽性で,慢性肝炎の64.7%に検 の場合には活動性のものといえるだろう。 出され,とくに活動性のものには100%に認め つぎに,ASMAおよびAMAの測定にANF られた。ここでいう活動性か非活動性かという の存在が影響するのかどうかをみるために,A 点については,活動性のものにASMAが100% NF価320倍以上のSLE患者血清6例を用いて, 陽性であったことは非常に興味深い。同時に非 ASMAおよびAMAの測定を試みたが,いずれ 活動性と診断されていたものにも50%から66.7 も10倍以下であった。このことからANFの存 %に陽性であった乙とは,一部の症例で臨床的 在は同じ方法を用いての検査であるASMAおよ 経過により判定されたものであり,活動性であ びAMA測定に何の影響も与えないものといえ る可能性が多分にあると思われる。何故ならば, る。肝疾患におけるANFの存在については, ASMA陽性例では非活動性とみられながら, その臨床的意義づけは渡辺ら’1 9)も述べているよ GOT,GPTの高値のものが多くなっている。 うに明確でないが興味あるところで,われわれ このことは肝硬変症についてもいえ,終未像 の例では明らかにIC値の高いものに認められ になってもなお40%近いものには病像が活 ており,肝疾患の慢性化に何らかの働きをして 動性,進行性のものかも知れない。慢性活動性 いるのかも知れない。 肝炎についてDoniachら4)は58%,Andersen ICはこれまでとくにSLEと関連づけて考え らDは67%の陽性率であったと述べており,われ られていたが,Shalmanら15)の報告以来, Ny− われの肝疾患全体での陽性率とほぼ同率であり, deggerら13), T homasら1のにより肝疾患におけ われわれの症例の活動性の判定が問題となるの るICの存在が報告された。著者らの成績でも かも知れない。また,急性肝炎でも半数のもの 肝疾患の63. 2 %のものに異常値が認められてお にASMAが認められており,急性期にも慢性 り,手嶋ら⑥はさらに高い87.5%であったと述 らかに抗体発生の機序が異なるものと考えられ 一 27 一 山 田 巌1・澤 江 義郎 べている。 cryptogenic cirrhosis and other liver 以上のことから,肝疾患の中に自己抗体とく disease and their clinical implications. にASMAが高頻度に存在することが示唆され, Clin. Exp. lmmunol. 1:237’”一262,1966 慢性活動性肝炎でとくに著明であった。したが 5) Johnson, G.D., Holborow,E.J.and Glynn, って,肝疾患におけるASMA,AMA測定は, L.E.: Antibody to smooth muscle in 肝疾患の活動性の判定に参考となると考えられ patients with liver disease. Lancet II: る。 878 Av 879, 1965 結 語 6) Klatsukin, G. and Kantor, F.: Mitochon− drial・antibody in primary biliary cirrhosis 間接蛍光抗体法により,ASMAおよびAMA and other liver disease. Ann.Intern.Med. の検出を試み,つぎのような成績を得た。 77 : 533 ’一w 541, 1972 1)ASMAは肝疾患の26例中15例(57.7%) 7) Mackey, 1. R.: Primary biliary cirrhosis に認められ,とくに慢性活動性肝炎では100% showing a highly titer of autoantibody, の陽性率であった。肝疾患以外の26例ではいず New Engl. J. Med. 258:185”一188, れも陰性であった。 2)AMAは肝疾患および肝疾患以外の52 1958 8)前野芳正,鈴木悦子,宮地清光,鳥飼勝隆 例中1例(1.9%)にのみ検出され,それは慢 :抗ミトコンドリア抗体.Medical Techno− 性活動性肝炎3例のうちの1例であった。 logy 9:250”一252, 1981 3)ASMA陽性の肝疾患ではIC値,血清ト 9)宮地清光,鳥飼勝隆,梅田博道,鈴木悦子, ランスアミナーゼ値に明らかな異常値を示すも 本間光夫:原発性胆汁性肝硬変症(PBC)に のが多かった。 おけるミトコンドリア抗体の検討.臨床免 疫 i2:780∼790, 1980 文 献 10)長島秀夫,小出典男,小川晃:抗ミトコ ンドリア抗体,抗平滑筋抗体.Medical 1) Andersen,P.:lncidence and titer of Technology 13:1106’一1107, 1985 smooth muscle antibodies in human sera. 11)中田幸子,栗原とも子:MBL社の抗ミトコ Acta Path.Microbiol. Scard. 87:11・’一16, ンドリア抗体,抗平滑筋抗体検出用試薬 1979 (AID 一lTest)の使用経験と臨床的意義. 2) Berg, P.A.,Doniach, D.and Roitt,1.M.: 衛生検査:33:679∼683,1984 Immunologische Pha’nomene bei 12)日本消化器病学会肝機能斑:肝機能検査標 Leberkrankheiten, Die Bedeutung 準操作法.日消誌 61:621∼631,1964 Mitochondrialer Antik6rper. Klin. Whschr. 13) Nydegger, V.E., Lambert, P.H. 47:1297nv 1307, 1969 (lerber, H.and Miesher, P.H.:Circulat− 3) Digeon, M. Laver, M., Riza,J.and Bach, ing immufie complexes in the serum in J.F .: Detection of circulating immune systemic lupus erythematosus and in complexes in human sera by simplified carier of hepatitis B antigen, Quantita− assay with polyethylene glycol. J.lmmunol. tion by binding to radiolabelled Clq. J. Method. 16:165’一一 183, 1977 Clin. lnvest. 54:297 ’h一 309, 1974 4) Doniach, O., Roitt, 1.M.and Walker, J.G. 14) Reitman, S.and Frankel, S.: A colori− :Tissue antibodies in primary biliary metric method for the determination of cirrhosis, active chronic(lupoid) hepatitis, serum glut.amic oxaloacetic and glutamic 一 28 一 間接蛍光体法による抗平滑筋抗体,抗ミトコンドリア抗体の検索 17) Thomas, H.C. Devilliers, D. Potter, pyruvic transaminase. Am. J. Clin. B. Hodgson, H.and Jain, S.:Immune Path. 28:56 n−63, 1957 complexes in acute and chronic liver 15) Shulman, N.R.and Barker, L.F.: disease. Clin. Exp. lmrnunol. 31:150tx・ Virus−like antigen antibody and antigen− 157, 1978 antibody complexes in hepatitis 18) Walker, J.G. 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