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2014年予備試験絶対合格戦略!!

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2014年予備試験絶対合格戦略!!
司法試験
2014年予備試験絶対合格戦略!!
0 001212 138048
LL13804
テーマ1
2014年予備試験絶対合格戦略!!
テーマ2
民事訴訟法~弁論主義
平成25年10月12日
LEC専任講師
1
矢
島
純
一
短答対策
( 1)
一般教養を除く法律科目で8割以上の正答率を目指す
*一般教養は費やした学習時間に比例した成果を得にくい。
*法律科目に重点を置いた学習方法は,短答試験合格後の論文
試験やさらにその後の司法試験の受験に有利となる。
*法律科目の学習でも完璧を目指さない。細かいところにこだ
わると試験科目全体の勉強が効率よくできなくなり,かえっ
て最終合格から遠ざかってしまうおそれがある。
*法律の学習を全くしたことがない受験生は予備校の講座を利
用した方が最終的には早く合格できる可能性が高い。
( 2)
基本事項の理解と記憶を確実にする(短答・論文に共通)
*基本書,判例集,予備校のテキストその他で,各科目の各制
度の要件,効果,判例の事案の概要と規範とあてはめの仕方
を学習する
*予備試験と司法試験の短答試験の過去問を解いて復習する
( 3)
テクニックは不要(短答・論文に共通)
*昔の旧司法試験と異なり,予備試験合格者は現役の大学生が
多く,平均勉強期間は短い。予備試験は特別難しい試験では
なく,きちんと正攻法で勉強すれば必ず合格できる試験だと
1
いうことを忘れてはいけない。
*過度にテクニックを重視して基本事項の理解と記憶を怠ると
何年経っても合格できないおそれがある。
2
論文対策
( 1)
基本事項の理解と記憶を確実にする
* 短 答 対 策 (2 )と 同 様
( 2)
論文試験の書き方を習得する~法的三段論法
* 法 律 科 目 の 論 文 試 験 は ,事 案 に 登 場 す る 具 体 的 事 実 を 規 範( 要
件)にあてはめて結論(法律効果)を出すという法的三段論
法をすることが必須である。
*論文試験の勉強を全くしたことがない受験生は予備校の講座
を利用した方が最終的には早く合格できる可能性が高い。ど
のような講座が自分に適しているのかはLEC各本校の窓口
でスタッフに相談するとよい。
( 3)
過去問の分析
*答案構成をしたり答案を実際に書いたりする。
*答案用紙は法務省のホームページからダウンロードするか,
LECの各本校の窓口で購入するとよい。
( 4)
問題集の活用
*現時点では過去問の数が少ないので,予備校が出版している
問題集を用いて答案構成をしたり答案作成をしたりするとよ
い。
3
余談~司法試験の選択科目
予備試験合格後の司法試験の選択科目は,労働法がお勧め。労働
法はサービス残業,内定取り消し,派遣切りなど身近な問題を取り
2
扱う科目などで,実務ですぐに役に立つし,興味を持って学習しや
すい。また,労働法は憲法や民法(特に危険負担)の学習と重複す
るところが多いので,憲法や民法の学習の補強にもなる。
3
弁論主義の基本確認テスト
問題
X は ,「 甲 建 物 は , か つ て A が 所 有 し て い た が , 同 人 が 死 亡 し , 同 人
の子で唯一の相続人であるXが相続した。しかるに,Yは何らの占有権
原 も な く ,同 建 物 を 占 有 し て い る 。」と 主 張 し ,同 建 物 の 所 有 権 に 基 づ い
て,Yに対して,同建物の明渡しを求める訴えを提起した。
Y は , X の 前 記 主 張 に 対 し ,「 元 所 有 者 の A は , 生 前 Y に 甲 建 物 を 賃
貸 し , 同 建 物 を 引 き 渡 し た 。」 と 主 張 し た 。
X は , Y の こ の 主 張 を 否 認 し ,「 A は Y に 甲 建 物 を 期 間 の 定 め な く Y
の居住のために無償で利用させる旨約束して同建物を引き渡したが,Y
の 居 住 目 的 に 従 っ た 使 用 収 益 を す る の に 足 り る 期 間 は 経 過 し た 。」と 主 張
した。
Yは,Xのこの主張を全部否認した。
上記X及びYの各主張が全て口頭弁論期日において陳述されたことを
前提に,裁判所は,証拠調べの結果,AY間において使用貸借契約が成
立したが,Xの主張する期間の経過は認められないと判断した場合,ど
のような判決をするべきか,結論と簡単な理由を述べなさい。
*参考問題
短答
司 法 H19-70 肢 2
4
解答用メモ
ヒント~攻撃防御の構造の概要
訴訟物
所有権に基づく目的物の返還請求権としての建物明渡し請求権
請求原因
1
X所有
(1)
Aもと所有
(2)ア
イ
2
A死亡
XはAの子
Y占有
抗弁1(占有権原~賃貸借)
抗弁2(占有権原~使用貸借)
・ 詳 細 は 省 略 ( 民 法 601 参 照 )
・ 詳 細 は 省 略 ( 民 法 593 参 照 )
再抗弁2
・使用貸借の終了原因事実
~ 期 間 の 経 過 ( 民 法 597Ⅱ )
5
第5章
1
弁論主義
弁論主義の意義と根拠
(1)
意義
→裁判の基礎となる訴訟資料の提出を当事者の権能かつ責任とす
る建前を弁論主義という。
(2)
弁論主義の根拠
→民事訴訟の対象となる事項は実体法上,私的自治の原則に服す
る以上,訴訟法上も当事者の意思を尊重するのが望ましい。弁
論主義は,私的自治の訴訟法上の現れであり,民事訴訟の本質
に 根 ざ し た も の で あ る と 考 え ら れ る ( 本 質 説 )。
2
弁論主義の内容(3つの原則)
(1)
ア
弁論主義の第1原則と関連事項
第 1 原則の意義
→裁判所は,当事者が主張しない事実を認定しそれを判決の基
礎にしてはいけない。
*当事者に対する不意打ち防止機能を果たす。
6
イ
主張責任
→弁論主義の第1原則があることにより,当事者は自己に有利
な 事 実 を 主 張 し て お か な い と ,仮 に 証 拠 上 そ の 事 実 が 認 め ら
れ る と し て も ,裁 判 で は そ の 事 実 は な い も の と し て 取 り 扱 わ
れ不利益を受ける。このような不利益を回避するために,当
事者は,自己に有利な事実を主張する責任を負う。
*どの事実につきどちらの当事者が主張責任を負うのかとい
う 主 張 責 任 の 分 配 は ,証 明 責 任 の 分 配 法 則 に 従 う 。な ぜ な ら ,
証 明 す べ き 事 項 は ,そ れ を 証 明 す る 前 提 と し て そ れ を 先 に 主
張 し て お か な け れ ば な ら な い の で ,主 張 責 任 の 分 配 を 証 明 責
任の分配に合わせるのが自然だからである。
ウ
訴訟資料と証拠資料の峻別
→裁判所は,証拠資料(証人尋問,当事者本人尋問,書証など
の証拠調べから得られた資料)に現れた事実でも,当事者が
そ れ を 弁 論 で 主 張 し な い 限 り ,そ の 事 実 を 判 決 の 基 礎 と す る
こ と が で き な い ( 訴 訟 資 料 と 証 拠 資 料 の 峻 別 )。 裁 判 所 は 当
事者が主張しない事実を判決の基礎とすることはできない
の で あ る か ら ,訴 訟 資 料 と 証 拠 資 料 の 峻 別 は 弁 論 主 義 の 第 1
原則からすれば当然のことである。
・訴訟資料:口頭弁論での事実の主張から得られた資料
・証拠資料:証拠調べから得られた資料
*当事者が主張しない事実を判決の基礎とすると当事者に対
す る 不 意 打 ち と な る こ と か ら ,訴 訟 資 料 と 証 拠 資 料 の 峻 別 は ,
当事者に対する不意打ち裁判の防止の機能を果たす。
7
エ
主張共通の原則
→弁論主義は,裁判所と当事者との間の役割分担を規律する原
理 で あ る こ と か ら ,あ る 事 実 の 主 張 が い ず れ の 当 事 者 か ら な
されたのかという点までは考慮されない。したがって,裁判
所は,当事者の一方が自己に不利益な事実を主張した場合,
相 手 方 が そ の 事 実 を 援 用 し な い と し て も ,そ の 事 実 を 判 決 の
基礎にすることができる。
例:原告が被告に対して貸金返還請求訴訟を提起し,原告は,口頭
弁論で,原告は被告に100万円を貸したが,そのうち30万
円は弁済してもらっているので残りの70万円の支払いを求め
たいと主張した場合,原告のその主張のうち30万円の弁済を
受けたという事実は被告に有利な事実として被告に主張責任が
あ る も の で あ る 。も と っ と も ,主 張 共 通 の 原 則 か ら ,裁 判 所 は ,
被告がその事実を援用しないとしてもその事実を判決の基礎と
することができる。
な お ,原 告 が 主 張 し た ,上 記 3 0 万 円 の 弁 済 が あ っ た 事 実 を ,
被告が援用すると先行自白が成立し,裁判上の自白があったの
と 同 様 に 証 明 不 要 効 ,裁 判 所 拘 束 力 ,当 事 者 拘 束 力( 不 撤 回 効 )
が生じる。
学習上は,主張共通の原則の問題と先行自白の問題とはしっ
かりと区別しておさえておくとよい。
*次頁の弱点補強〔先行自白〕に詳細を記述
8
★★弱点補強★★
先行自白
→当事者の一方が自己に不利益な事実を主張し,相手方がその事実を援
用 し た 場 合 は 先 行 自 白 が 成 立 し ,後 述 す る 裁 判 上 の 自 白 が 成 立 し た こ
とになる。
主張共通の原則が問題となる事実関係と先行自白が問題となる事
実関係との違いに注意する。以下の具体例を参照。
例:原告が,貸金返還請求訴訟において被告から一部弁済を受けた事
実を主張した場合,一部弁済の事実は被告に有利な事実として被
告が主張立証するべき事実ではあるが,裁判所は,被告がその事
実を主張しなくても,その事実を判決の基礎とすることができる
( 主 張 共 通 の 原 則 )。
もっとも,仮にその事実に争いがあれば,裁判所は証拠調べに
よる事実認定が必要となり,証拠調べの結果その事実が認められ
ないときは,裁判所はその事実を判決の基礎とすることはできな
い。
また,被告が,この事実を援用した場合は,この事実につき当
事者間に争いがない事実となり,この事実につき原告に先行自白
が成立する。したがって,裁判所はこの事実をそのまま判決の基
礎としなければならなくなる(裁判上の自白の裁判所拘束力・弁
論 主 義 の 第 2 原 則 )。
以上のとおり,主張共通の原則が作用しても,その事実に先行自白
が成立せず,かつ,証拠調べの結果その事実の存在が明らかにならな
いときは,裁判所はその事実を判決の基礎とすることはできないので,
ある事実につき主張共通の原則が作用する場面であれば無条件に裁
判所がその事実を認定することを意味するわけではないということ
に注意を要する。
9
(2)
ア
弁論主義の第2原則と関連事項
第2原則の意義
→裁判所は,当事者間に争いのない事実はそのまま判決の基礎
にしなければならない。
*当事者間に争いのない事実の例
①
裁判上の自白が成立した事実
②
擬 制 自 白 ( 159Ⅰ 本 文 ) が 成 立 し た 事 実
*後掲の弱点補強を参照
イ
裁判上の自白の意義
→裁判上の自白とは,相手方の主張する自己に不利益な事実を
認 め て 争 わ な い 旨 の 陳 述 を い い ,口 頭 弁 論( 準 備 的 口 頭 弁 論 )
又は弁論準備手続の期日においてなされたものをいう。
*自己に不利益な事実とは,基準として明確で訴訟手続の安定
に資することから,相手方が証明責任を負う事実をいう(判
例 )。
例:貸 金 返 還 請 求 訴 訟 に お い て ,被 告 が ,口 頭 弁 論 期 日 に お い て ,
訴訟の相手方である原告が証明責任を負う金銭の授受,返還
の 約 束 ,弁 済 期 の 合 意 等 の 事 実 を 認 め る 旨 の 陳 述 を し た 場 合 ,
その事実に裁判上の自白が成立する。
10
ウ
裁判上の自白の効力
①
証明不要効
→ 自 白 が 成 立 し た 事 実 は 証 明 を 要 さ な い ( 17 9 )。
(証明することを要しない事実)
179 条
裁 判 所 に お い て 当 事 者 が 自 白 し た 事 実 及 び 顕 著 な 事 実 は ,証 明
することを要しない。
②
審判排除効(裁判所拘束力)
→裁判所は,自白が成立した事実はそのまま判決の基礎とし
なければならず,これに反する事実を認定してはいけない
( 弁 論 主 義 の 第 2 原 則 )。
③
撤回禁止効(当事者拘束力)
→自己責任と禁反言から,当事者は,原則として,自白内容
に矛盾する主張ができなくなる。
11
エ
自白の撤回
→撤回の要件
①相手方の同意があるとき
②自白が反真実かつ錯誤によるとき
③自白が刑事上罰すべき他人の行為によるとき
*①から③のいずれか1つを満たせば撤回可能。
*①のときは撤回により不利益を受ける相手方の承認があるの
で禁反言による責任を負わせる必要がない。
*②と③のときは自己責任を負わせることが酷である。
*②につき,反真実の証明があった場合は,錯誤に基づくことが
事 実 上 推 定 さ れ る ( 最 判 昭 25 . 7 . 1 1 )。
12
★★弱点補強★★
証明不要効と審判排除効の違い
→証明不要効は,自白が成立した事実につき単に証明を要さないとする
だ け で ,裁 判 所 や 当 事 者 を 拘 束 す る 効 力 ま で は 含 ま な い 。証 明 不 要 効
と審判排除効は自白が成立した事実につき証明が不要となる点で似
て い る よ う だ が ,拘 束 力 が あ る か 否 か と い う 点 で 異 な る の で ,区 別 し
て理解しておく。
*なお,この2つの効力を区別する実益としては,権利自白の効果につ
き,証明不要効は肯定し,審判排除効及び当事者拘束力を否定する見
解(一般的な見解)に立つときに意味が出てくる。
13
★★弱点補強★★
権利自白
→訴訟物たる権利関係の前提となる権利法律関係についての自白を権利
自白という。
例:所有権に基づく土地明渡請求訴訟において,被告が,原告に土地の所有
権があることを認める旨の陳述。
*権利自白という概念を肯定する見解と否定する見解がそれぞれある。
こ の 点 ,所 有 権 関 係 の 訴 訟 で は 当 事 者 の 現 在 の 所 有 権 の 存 在 を 基 礎 づ
け る た め に は ,権 利 自 白 を 用 い な い と 所 有 権 の 原 始 取 得 時 に ま で 遡 っ
てそこから当事者の現在の所有権を基礎づける所有権の移転経過を
す べ て 主 張 立 証 す る 必 要 が 生 じ る た め 非 現 実 的 で あ る 。実 務 で は ,所
有権関係の訴訟では当然のように権利自白を用いている。
なお,要件事実を学習するときに登場する所有権関係の訴訟におけ
る「もと所有」や「現所有」も,権利自白を肯定する見解に立つから
こそ認められる概念である。
*権利自白は法的判断に委ねられるもので,法の解釈適用は裁判所の専
権 で あ る こ と に 鑑 み ,裁 判 所 拘 束 力 と 当 事 者 拘 束 力 は な い 。も っ と も ,
証 明 不 要 効 は 認 め ら れ る ( 一 般 的 な 見 解 )。
なお,権利自白に裁判所拘束力や当事者拘束力まで認めるという見
解もある。
司 法 H20-66 肢 1
*権利自白を否定する立場からも,所有権,売買,贈与などの日常法律
概 念 の 自 白 に つ い て は ,具 体 的 な 事 実 の 陳 述( 事 実 に 対 す る 自 白 )を
したものと扱い裁判上の自白の成立を認めるものがある。
・事実の自白が成立すると裁判上の自白として不要証効,裁判所拘
束力,当事者拘束力の全てが認められることになる。
14
*請求の認諾・権利自白・裁判上の自白の違い
①
訴訟物たる権利法津関係
←相手方がこれを認めると請求の認諾
②
①の前提となる権利法律関係
③
①や②を基礎づける具体的事実
←これを認めると権利自白
←これを認めると裁判上の自白
具体例
①
原告の被告に対する所有権に基づく土地の明渡請求訴訟におい
て,被告が,訴訟物たる所有権に基づく土地の明渡請求権がある
ことを認めると請求の認諾となり訴訟が終了する。
②
同訴訟において,被告が,訴訟物の前提となる土地の所有権が
あることを認めると権利自白が成立し,その点つき証明不要効が
はたらく。権利自白が成立しても訴訟が終了するわけではなく,
例えば,被告はそれを前提に賃借権等の占有権原があること主張
して原告の請求の棄却を求めることができる。
③
同訴訟において,被告が,原告が主張する原告の所有権の取得
原因事実を認める旨の陳述とすると,その事実について裁判上の
自白が成立する。
←①
訴訟物
①の例:所有権に基づく明渡請求権
←②
訴訟物の前提となる権利法律関係
②の例:原告の所有権
←③
①や②を基礎づける具体的事実
③の例:原告が訴外Aから土地を買
った事実
15
★★弱点補強★★
擬制自白
→ 当 事 者 が ,口 頭 弁 論( 弁 論 準 備 手 続 に も 準 用 ・ 1 70 Ⅴ )に お い て 相 手 方
の 主 張 し た 事 実 を 争 う こ と を 明 ら か に し な い 場 合 ,そ の 事 実 は 裁 判 上
の 自 白 を し た も の と み な さ れ る ( 1 5 9Ⅰ 本 文 )。 こ れ は 訴 訟 に 対 し て 不
誠実な当事者に対する制裁の趣旨を含んでいる。
擬制自白の規定は,当事者が口頭弁論期日に出頭しない場合にも準用
さ れ る ( 159Ⅲ 本 文 )。
*擬制自白の成否は,弁論の全趣旨から判断されるため,その成立時期
は 事 実 審 の 口 頭 弁 論 終 結 時 で あ る と 解 さ れ て い る 。そ の た め ,通 常 の
裁 判 上 の 自 白 と 異 な り ,事 実 審 の 口 頭 弁 論 が 終 結 す る ま で は 擬 制 自 白
は 成 立 し よ う が な い の で ,自 白 の 撤 回 の 可 否 は 問 題 と な ら ず ,擬 制 自
白 が 成 立 す る こ と で 不 利 益 を 受 け る 当 事 者 は ,口 頭 弁 論 が 終 結 す る ま
でならいつでもその事実を争うことができることになる。
参考条文
(自白の擬制)
159 条 1 項
当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明ら
か に し な い 場 合 に は ,そ の 事 実 を 自 白 し た も の と み な す 。た だ し ,弁 論 の 全
趣旨により,その事実を争ったものと認めるべきときは,この限りでない。
2 項
相手方の主張した事実を知らない旨の陳述をした者は,その事実を争った
ものと推定する。
3 項
第一項の規定は,当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用
す る 。た だ し ,そ の 当 事 者 が 公 示 送 達 に よ る 呼 出 し を 受 け た も の で あ る と き
は,この限りでない。
* 最 判 昭 43.3.28
擬制自白の成立時期
〔事案〕
原告Xは,被告Yに対し,松の立木(「本件松立木」)を売却した際の未払代
金の支払を求めて提訴した。Yは,目的物の数量不足を理由に支払済みの代金の
一部返還を求めて反訴を提起したところ,Xは,Yの主張を全面的に争った。第
1審でXが勝訴したため,Yは控訴し,新たに契約の錯誤無効及び詐欺取消しを
16
抗弁として主張したが,Xは控訴審の口頭弁論期日に終始出頭せず,準備書面も
提 出 し な か っ た 。 控 訴 審 は ,Y の 抗 弁 を 排 斥 し て 第 1 審 判 決 を 維 持 し た 。
Y は 上 告 し て ,X は 控 訴 審 で 何 の 訴 訟 行 為 も し て い な い の だ か ら Y が 控 訴 審 で
提出した錯誤無効及び詐欺取消しの抗弁につきXの擬制自白が成立しているはず
だとして,Xの擬制自白の成否を争った。
〔判旨〕
原審においてYが,本件松立木の買受けの意思表示に要素の錯誤があるか,ま
たはこれが詐欺による意思表示であって取り消された旨を主張したことは,所論
のとおりである。しかし,Yの意思表示に所論の錯誤があれば,Xの本訴請求に
かかる売渡代金債権は本来発生せず,またこれが詐欺による意思表示であれば,
取消権の行使が本訴提起後であるにせよ,右権利の発生につき原始的な瑕疵が存
することとなる筋合であるが,これに対し,Xの本訴請求は右売買契約が有効に
成立したことを前提とするものであるから,Xが本訴を提起維持している等弁論
の全趣旨に徴すれば,Yの原審における右の新たな主張をXにおいて争っている
も の と 認 め , 民 訴 法 140 条 3 項 〔 現 159 条 3 項 〕 の 適 用 を 否 定 し た 原 審 の 判 断 は
相当である。
補足メモ
控訴審における擬制自白の成否は,1審,2審の当事者の態度を総合して判断
される。なお,この結論は,民事訴訟における控訴審は続審制であることとも整
合する。(比較:刑事訴訟の控訴審は事後審制である。)
17
(3)
弁論主義の第3原則
→裁判所は,争いのある事実について証拠調べをするには当事者
が 申 し 出 た 証 拠 に よ ら な け れ ば な ら な い ( 職 権 証 調 べ の 禁 止 )。
★★弱点補強★★
弁論主義の第1原則から第3原則までのまとめ
1
第1原則
→裁判所は,当事者が主張しない事実を判決の基礎としてはならな
い。
2
第2原則
→裁判所は,当事者に争いがない事実はそのまま判決の基礎としな
ければならない。
3
第3原則
→裁判所は,争いのある事実について証拠調べをするには当事者が
申し出た証拠によらなければならない。
18
3
弁論主義の対象事実
→弁論主義の適用は主要事実に限る。間接事実や補助事実には適用さ
れない。
*当事者の攻撃防御の対象は主要事実に集中するので,弁論主義の
不意打ち防止機能を果たすためには,主要事実について弁論主義
を適用すれば足りる。
*間接事実や補助事実は証拠と同様の機能を有するので,これを弁
論主義の対象として裁判所を拘束すると,事実認定につき裁判所
の自由心証に基づく合理的判断を阻害するので妥当ではないか
ら。
*主要事実:権利の発生・変更・消滅という法律効果の判断に直接必
要な事実
*間接事実:主要事実の存否を推認するのに役立つ事実
例:被告が高価な買い物をした事実から,貸金返還訴訟に
おける金銭の授受という主要事実を推認する。
*補助事実:証拠の証明力(証拠の信用性,文書の成立の真正)に影
響を与える事実
例:目撃証人の視力が良いという事実や誠実な人物(嘘を
つかない人物)であるという事実
主要事実
金銭の授受
推認
*証拠と同様の機能
証明
間接事実
被告が高価な買い物
直接証拠
消費貸借契約書
19
★★弱点補強★★
不特定概念の主要事実~評価根拠事実と評価障害事実
→ 民 法 110 条 の 正 当 理 由 や , 民 法 70 9 条 の 過 失 を は じ め と す る 不 特 定 概
念 が 法 律 要 件 と な っ て い る 場 合 は ,当 事 者 へ の 不 意 打 ち 防 止 と い う 弁
論 主 義 の 機 能 に か ん が み ,そ れ ら 不 特 定 概 念 を 基 礎 づ け る 評 価 根 拠 事
実 や ,そ れ ら 不 特 定 概 念 を 障 害 す る 評 価 障 害 事 実 が 主 要 事 実 と し て 弁
論主義の対象となると解されている。
例:自 動 車 事 故 の 被 害 者 が 不 法 行 為 に 基 づ く 損 害 賠 償 請 求 を す る 場 合 ,
加 害 者 に 過 失 が あ る こ と を 主 張 す る た め に ,そ れ を 基 礎 づ け る 運 転
者に前方不注視があった事実等の具体的事実を主張することにな
る。
弁論主義における主張責任の原則や裁判上の自白における事実は,
このような評価根拠事実や評価障害事実を意味する。
20
★★弱点補強★★
B
間接事実の自白
BがXに
家を売る
* 最 判 昭 41.9.22
代物弁済
X
間接事実の自白
〔事案〕
Y
貸金返還請求
X は Y に 対 し て 貸 金 合 計 30 万 円 ( 本 件 債 権 ) の 支 払 を 求 め て 訴 え を 提 起 し た 。
これに対し,Yは,Xは訴外Bよりその所有家屋を買戻し特約付で買い受け,そ
の 代 金 70 万 円 の 内 30 万 円 分 に つ き 本 件 債 権 を B に 譲 渡 し て 清 算 ( 本 件 債 権 で 代
物 弁 済 )し た た め ,Y は こ の 債 権 譲 渡 を 承 認 し た と の 債 権 譲 渡 の 抗 弁 を 提 出 し た 。
この抗弁に対し,Xは,1審ではBとの上記家屋の売買契約の事実を認めた(債
権譲渡があったことを推認させる間接事実の自白となる)が,Bへの債権譲渡は
否定した。
控訴審において,Xは上記売買の事実を認めたことは取り消すと主張し,前記
自白の撤回を主張したが,控訴審はその撤回を認めなかった。
〔判旨〕
被 上 告 人 Y ら の 抗 弁 に お け る 主 要 事 実 は ,債 権 の 譲 渡 で あ り ,
「 建 物 の 売 買 」は ,
この主要事実の認定の資料となり得べき間接事実にすぎない。
「かかる間接事実に
ついての自白は,裁判所を拘束しないのはもちろん,自白した当事者を拘束する
ものでもないと解するのが相当である」とし,間接事実の自白に不撤回効を認め
なかった。
補足メモ
本件訴訟においては,Xが自白した上記売買の事実は,XからBに債権の譲渡
(売買代金債務の代物弁済による本件債権の譲渡)があったという債権譲渡の抗
弁を基礎づける主要事実を推認させる間接事実となる。
間接事実は主要事実を推認させるものであり,主要事実を証明する証拠と同様
の機能がある。このように証拠と同様の機能がある事実について裁判上の自白の
成立を認めて裁判所の事実認定を拘束すると自由心証主義により合理的な事実認
定を阻害することとなるため認められない。
判旨からすると,間接事実に弁論主義の適用がないので,弁論主義の第 2 原則
を根拠とする裁判所拘束力(審判排除効)を否定し,それに合わせて当事者拘束
力(不撤回効)も否定したようである。不撤回効まで認めた根拠は明らかでない
が,兼子一先生は,最高裁は,審判排除効が不撤回効の前提となるという理解の
下にそのような判示をしたのであろうと分析している。
債権譲渡の請求原因事実
①
譲受債権の発生原因事実
②
①の債権の取得原因事実
*本件では家屋の売買代金債務の代物弁済として
債権が譲渡された。
↑主要事実②の存在を推認
本件家屋の売買の事実
21
4
事実の主張の要否が問題となった判例
(1)
民 法 418 条 の 過 失 相 殺
→ 民 法 418 条 に よ る 過 失 相 殺 は , 債 務 者 が , そ れ を す る 旨 の 主 張
をしなくても裁判所が職権ですることができるが,債権者の過
失を基礎づける事実(評価根拠事実)については債務者が主張
立証責任を負う。
*過失相殺の制度趣旨:損害の公平な分担
* 最 判 昭 43.12.24
弁 論 主 義 ~ 民 法 418 条 の 過 失 相 殺 の 主 張 の 要 否
〔判旨〕
民 法 418 条 に よ る 過 失 相 殺 は , 債 務 者 の 主 張 が な く て も , 裁 判 所 が 職 権 で す る
ことができるが,債権者に過失があった事実は,債務者において立証責任を負う
ものと解すべきである。しかるに,本件にあっては,債務者であるXの債務不履
行に関し債権者であるYに過失があった事実については,Xにおいてなんらの立
証をもしていないことは,本件記録に徴して明らかである。されば,原審が本件
に つ い て 民 法 418 条 を 適 用 し な か っ た の は 当 然 で あ る 。
補足メモ
判 旨 か ら 読 み 取 れ る こ と は , 民 法 418 条 の 過 失 相 殺 に つ き , ① 過 失 相 殺 す る 旨
の当事者の権利主張がなくても裁判所が職権で過失相殺することができること
(同時履行の抗弁権のような権利抗弁(裁判所が抗弁としてとりあげるには権利
者による権利主張が必要な抗弁)ではないということ),②過失相殺の基礎とな
る事実である債権者に過失があったという事実についての立証が必要であるとい
うことである。
なお,前記②の立証の前提として,債権者に過失がある事実を当事者が主張す
る必要があるかどうかについては,判旨の文言からは分からない(判旨は「立証
責任を負う」とは示しているが「主張責任を負う」とは明示していない)。この
点 ,債 権 者 の 過 失 を 基 礎 付 け る 事 実( 評 価 根 拠 事 実 )が 主 要 事 実 で あ る こ と か ら ,
弁論主義の不意打ち防止機能を重視して,当事者がその主張をする必要があると
考える学説がある。論文試験対策としてはその学説に従っておくと明確な論旨を
展開できてよい。
22
* 最 判 昭 41.6.21
民 法 722 条 2 項 の 過 失 相 殺 の 主 張 の 要 否
〔判旨〕
「被害者の過失は賠償額の範囲に影響を及ぼすべき事実であるから,裁判所は
訴訟にあらわれた資料にもとづき被害者に過失があると認めるべき場合には,賠
償額を判定するについても職権をもってこれをしんしゃくすることができると解
す べ き で あ っ て , 賠 償 義 務 者 か ら 過 失 相 殺 の 主 張 が あ る こ と を 要 し な い 。」
補足メモ
この判例の判旨の「過失相殺の主張があることを要しない」としている部分に
ついては,抗弁としての過失相殺の主張を不要とすることを示すだけでなく,さ
らにすすんで債権者の過失を基礎づける評価根拠事実の主張まで不要とするのか
については明らかにしていない。論文試験対策としては理屈が分からないことは
書 き づ ら い の で , 民 法 418 条 の 過 失 相 殺 の 主 張 の 要 否 の 問 題 と 同 様 に 説 明 す る の
も1つの方法である。
参考条文
(過失相殺)
民 法 418 条
債 務 の 不 履 行 に 関 し て 債 権 者 に 過 失 が あ っ た と き は ,裁 判 所 は ,こ
れを考慮して,損害賠償の責任及びその額を定める。
(損害賠償の方法及び過失相殺)
民 法 722 条 1 項
第 四 百 十 七 条 の 規 定 は ,不 法 行 為 に よ る 損 害 賠 償 に つ い て 準 用
する。
2 項
被 害 者 に 過 失 が あ っ た と き は ,裁 判 所 は ,こ れ を 考 慮 し て ,損 害 賠 償 の 額
を定めることができる。
* な お , 722 条 2 項 の 過 失 相 殺 は , 文 言 上 , 418 条 の 過 失 相 殺 と 異 な り , 過
失 相 殺 の 結 果 ,不 法 行 為 者 の「 責 任 」そ の も の を 否 定 す る こ と は で き な い 。
ま た ,「 定 め る 。」 と 「 定 め る こ と が で き る 。」 と い う 文 言 の 違 い も あ る 。
これらの点は,民法の短答試験の知識としておさえておけばよい。
23
(2)
代理の要件
→法律行為が当事者間で直接なされた場合と,代理人を介してな
された場合とで法律効果に違いがないという理由で,当事者が
代理の事実を主張していなくても裁判所が代理の事実を認定し
て契約締結の事実を認めても弁論主義違反とならないとした判
例がある。*学説から強い批判がある。
もっとも,この判例は,代理人とされた者の証人尋問が行わ
れ,当事者も,代理による法律行為を裁判所に認定されること
が予想できた事案なので,当事者に対する実質的な不意打ちが
なかったといえる場合であったことに注意を要する。
→しかし,本来は,法律行為が代理によりなされた場合は,代理
の要件事実が認められなければ当事者間に法律効果は発生しな
いので,代理の要件事実は,その主張により利益を受ける者が
権利根拠規定として主張立証するべき事実であるといえる。
* 最 判 昭 33.7.8
弁論主義~代理の要件
〔事実〕
原告Xの被告Yに対する売買代金支払請求訴訟が提起され,第1審はXの請求
を認容したので,Yが控訴した。原審は,当事者本人尋問,訴外Aの証人尋問を
実施した上で,Xの「Xと被告Y間に契約が成立した」旨の主張に対し,「X主
張 の 日 に ,X と Y の 代 理 人 A と の 間 で 売 買 契 約 が な さ れ た 」旨 の 事 実 を 認 定 し て ,
XY間に売買契約の効果が帰属するとしてYの控訴を棄却した。
これに対し,Yは,原審が当事者が主張しない代理人との間の契約の締結を認
定したのは当事者が主張しない事実に基づいて判決をした違法があるとして上告
した。
〔判旨〕
「契約が当事者本人によってなされたか,代理人によってなされたかは,その法
律効果に変わりはないのだから,原判決がXとY代理人某との間に本件契約がなさ
れた旨判示したからといって弁論主義に反するところはな」い。
24
(3)
所有権の移転経過の事実
→所有権に基づく目的物の返還請求訴訟や所有権移転登記請求訴
訟等が認められるためには,原告が目的物につき現在の所有権
を有していることが必要である。
→原告の現在の所有につき被告の権利自白が成立する場合は,原
告は所有権の移転経過につき主張立証する必要はなくなる(権
利 自 白 の 証 明 不 要 効 )。
例:原 告 X が ,A か ら 本 件 土 地 を 買 っ て 所 有 権 を 有 す る と し て ,
占有者Yに明渡しを請求したとき,Yが,Xの現在の所有
を認めた場合は,Xに現在の所有権があることにつき権利
自 白 が 成 立 し ,X は そ れ を 証 明 し な い で も よ い こ と に な る 。
→しかし,被告がXの現在の所有を争った場合は,原告は,被告
の権利自白が成立する時点以降の所有権の移転経過を基礎づけ
る事実を,権利根拠規定として主張立証しなければならない。
例:原 告 X が ,B が 所 有 し て い た 本 件 土 地 を A が 買 い ,そ の 後 ,
XがAから本件土地を買って所有権を有すると主張して,占有
者Yに明渡しを請求したとき,Yが,過去のある時点でAが本
件土地を所有していたことを認めた場合,その時点におけるA
の「 も と 所 有 」に つ き 権 利 自 白 が 成 立 す る 。そ う す る と ,X は ,
権利自白が成立した時点のAの「もと所有」以降のXまでの所
有権移転経過のみを主張立証すればXの現在の所有を基礎づけ
られる。この事例では,Xは,Aのもと所有と,AX売買の事
実を主張立証すれば,Xの現在の所有権を基礎づけられること
になる。
25
★★弱点補強★★
所有権移転経過の主張の要否が問題となる訴訟の攻撃防御方法の具体例
例:XはYに土地所有権に基づく土地の返還請求訴訟を提起し,現在の
X 所 有 を 主 張 す る た め に ,土 地 所 有 権 の 移 転 経 過 に つ き ,
「A→売買
→B→相続(B死亡,XはBの子)→X」と主張した。
一方,Yは「A→売買→C→相続(C死亡,YはCの子)→Y」
と主張した。
この場合,Aの「もと所有」に権利自白が成立するので,Xは,
それ以前の所有権移転経過の事実を主張することは不要になる。
以上の事実関係のもと,裁判所が,当事者が主張しないBからCへの死因贈
与の事実を認定して請求棄却することはできるであろうか。
この点,上記のX及びYの主張の内容にかんがみると,BからCへ死因贈与
があった事実は,Xが主張する請求原因事実と両立する事実であると同時に,
Xの請求を排斥する効果をもつものであることから,Yが主張すべき抗弁(主
要事実)となる。したがって,裁判所が,当事者が主張していない前記死因贈
与の事実を認定して判決をすると,当事者の主張しない事実を基礎に判決をし
てはいけないとする弁論主義の第1原則に違反する。よって,裁判所はこのよ
うな事実認定をして請求棄却することはできないことになる。
*攻撃防御の構造は次頁を参照
26
参考
攻撃防御の構造
請求原因事実 ①
Aもと所有
②
AB売買
③
XがBを相続
←権利自白が成立している
(1)
B死亡
(2)
XはBの子
* 相 続 の 要 件 事 実 は (1)と (2)。
「相続」は法律効果
両立・非両立は法律効果ではなくて事実についてみる。
④
Y現占有(登記請求をするならYの現登記)
抗 弁 1 (所 有 権 喪 失 )
①
AC売買
* 最 判 昭 55.2.7
抗弁2(所有権喪失)
①
BC死因贈与
弁論主義~所有権喪失事由についての当事者の主張の要否
〔事案〕
XがYに提起した土地持分の移転登記請求訴訟において,Xは本件土地の所有
権 が A か ら B ,そ し て 相 続 で B か ら X に 移 転 し た と 主 張 し た 。こ れ に 対 し ,Y は ,
AからCに移転し,CからYが相続したと主張した。原審は,AからBへ,そし
て死因贈与でBからCに移転し(これは当事者の主張がない事実である),Cか
らYが相続したと認定しXの請求を棄却した。
〔判旨〕
BからCへの死因贈与は,Bの所有権取得を事後的に消滅させる事由であるか
ら,当事者の主張を要する主要事実であるとして,原審の弁論主義違反を認定し
た。
補足メモ
裁判所は当事者の主張しない事実を基礎に判決をしてはならない(弁論主義の
第1原則)。
27
★★おまけ★★
弁論主義違反となるのかが紛らわしい要注意の事例
例:Xは,Aから甲土地を買ったと主張して,甲土地を占有しているYに対し,
所有権に基づき甲土地の明渡しを求める訴えを提起したところ,Yは,Aが甲
土地を所有していたことは認めるが,Aから甲土地を買ったのはXではなくB
であると主張した。
裁判所は,証拠調べの結果,Aから甲土地を買ったのはXではなくCであっ
たとの心証を抱いた。
以上の事実関係のもと,裁判所は,当事者が主張していないAC売買の事実
を認定してXの請求を棄却することはできるか。
〔Xの主張:A→X売買
Yの主張:A→B売買
裁判所:A→C売買〕
結論としては,この事例では裁判所が,当事者が主張しないAC売買を認定し
てXの請求を棄却する判決をしても弁論主義違反にならない。
なぜなら,裁判所が認定した事実は,Xの請求を排斥する効果をもつものでは
あるが,Xが主張する請求原因事実(A→X売買)と両立する事実ではないので
抗弁事実とはならず,本件訴訟では弁論主義の適用を受ける主要事実ではないか
らである。裁判所がそのような認定をしてXの請求を棄却するということは,結
局,Xが請求認容判決を受けるために主張立証することが必要な所有権移転経過
の事実であるAX売買の事実があったことの立証ができていないというだけのこ
となのである。
司 法 H 23-63
予 備 H 23-38
比 較 ~ 司 法 H19-70 肢 1 と 司 法 H23-63 の 違 い が 分 か る よ う に し よ う !
上記事例は,Xが主張する「AX売買」の事実を否認している点に特徴がある。
仮 に ,Y が「 A X 売 買 」の 事 実 を 認 め つ つ ,
「 A Y 売 買 」の 事 実 を 主 張 し た 場 合 は ,
A を 起 点 と す る X Y へ の 不 動 産 の 二 重 譲 渡 が あ っ た 事 案 と な り ,Y の「 A Y 売 買 」
の主張(正確にはAY売買の事実と対抗要件の抗弁など)は,Xが主張する「A
X売買」と両立するがXの主張を排斥する効果を有することになるので,抗弁と
な る 。し か し ,上 記 事 例 に お い て は ,Y は「 A X 売 買 」自 体 を 認 め て い な い の で ,
Y の 「 A Y 売 買 」 の 主 張 は 抗 弁 で は な く , 単 に ,「 A X 売 買 」 を 否 定 す る 理 由 付 け
否認に過ぎない。
*なお,対抗要件の抗弁など要件事実に関することは本講座(短答コンプリート
マスター)の民法の科目で取り扱っている。
28
★★弱点補強★★
事実の主張に対する相手方の応答の種類
1
否認:その事実を争う旨の主張
・反対当事者に否認された主要事実は,争いのある事実として証拠調べ
によりその事実の存否を確定する必要が生じる。
・なお,準備書面において相手方の主張する事実を否認する場合は,そ
の 理 由 を 記 載 し な け れ ば な ら な い( 規 則 7 9 Ⅲ )。否 認 に 理 由 付 け が さ れ
ているものは,単純否認との対比で「理由付け否認」と呼ばれる。
・ 初 学 者 は ,「 理 由 付 け 否 認 」 と 「 抗 弁 」 と を 混 同 し が ち な の で , 両 者 を
混同しないように注意すること。否認と抗弁の違いは後掲の弱点補強
を参照。
2
不知:その事実の存在を知らないとの主張
・ 不 知 の 主 張 は そ の 事 実 を 争 っ た も の と 推 定 す る ( 1 5 9 Ⅱ )。
・その結果,この事実も証拠調べの対象となる。
3
沈黙:その事実につき明確な態度を示さないこと
・弁 論 の 全 趣 旨 か ら そ の 事 実 を 争 っ た も の と 認 め ら れ な い 限 り ,自 白 し
たものとみなされる(擬制自白
1 5 9 Ⅰ )。
・擬 制 自 白 は 事 実 審 の 口 頭 弁 論 終 結 時 に 成 立 す る の で ,沈 黙 し た 事 実 も ,
口頭弁論終結前なら積極的に争うことができる。
4
自白:その事実の存在を認める旨の主張
・争いのない事実は証拠調べの対象からはずされる。
・主要事実を自白すると裁判上の自白の効力が生じる。
29
★★弱点補強★★
否認と抗弁
→相手方の主張の効果を排斥する旨の主張である点では共通するが,相
手 方 の 主 張 と 両 立 す る 事 実 を 積 極 的 に 主 張 す る も の を 抗 弁 と い い ,両
立 し な い 事 実 を 主 張 す る も の を 否 認 と い う 。抗 弁 を 主 張 す る 者 は 抗 弁
事実につき主張立証責任が発生する点でも否認と異なる。
例 : 貸 金 返 還 請 求 訴 訟 で , 被 告 が ,「 そ の 金 は 原 告 が 被 告 に 贈 与 し た も の だ 。」 と
主 張 し た 場 合 ,こ の 主 張 は X の 主 張 の 効 果 を 排 斥 す る 効 果 を も ち ,原 告 が 請 求
原 因 事 実 と し て 主 張 す る「 返 還 の 約 束 」の 事 実 と 両 立 し な い の で ,被 告 の こ の
主張は否認(理由付け否認)である。
参考:貸金返還請求権の請求原因事実
①金銭の授受
②返還の約束
←上記での贈与の主張は②に対する否認となる。
③弁済期の合意
④弁済期の到来
例:XがYに対して所有権に基づく建物の明渡請求訴訟を提起した場合で,Xが,
「自分はAの子であり,本件建物の所有権を死亡したAから相続したので建
物 の 所 有 権 は 自 分 に あ る 。」 と 主 張 し た の に 対 し , Y が ,「 A が 建 物 を 有 し て
いたのは認めるし,Aが死亡した事実やXがAの子であることは認める。た
だ ,本 件 建 物 は 生 前 A が 自 分 に 売 っ た の で 所 有 権 は 自 分 に あ る 。」と 主 張 し た 。
このときのYの主張を,要件事実論を離れて自然に評価すれば,Yは,Xが
本件建物を相続したことを否定していることになる。しかし,要件事実を考
えるときの主張の両立性や非両立性は,法律効果ではなくそれを基礎づける
要 件 事 実 に つ い て 判 断 す る 。「 相 続 」 は 法 律 効 果 で あ っ て , そ の 要 件 事 実 は こ
の 事 例 だ と ,「 ① A 死 亡 , ② X は A の 子 」 と い う 具 体 的 事 実 と な り , Y の 主 張
が否認となるのか抗弁となるのかは,この①や②の事実との両立性との関係
で決まる。本件建物はYが生前Aから買ったとする本件Yの主張は,Xの主
張の効果を排斥するものではあるが,①②の事実と両立する事実の主張であ
る の で ,「 否 認 」 で は な く て 「 抗 弁 」 と な る 。
30
★★弱点補強★★
権利抗弁
→ある抗弁事実を裁判所が判決の基礎とするのに,当事者がその抗弁を基礎づけ
る具体的事実が弁論に現れているだけでは足りず,訴訟上その権利行使をする
旨の主張がなければならないものを権利抗弁という。同時履行の抗弁権や留置
権は権利抗弁の典型例である。
なお,単に抗弁を基礎づける事実が弁論に現れていれば足りる抗弁を事実抗
弁という。
★★弱点補強★★
予備的抗弁
→当事者が複数の抗弁(例:貸金返還請求訴訟で,弁済の抗弁と消滅時効の抗弁
を主張)に優先順位をつけて主張している場合でも,審理の弾力化を重視して
裁判所は当事者が各抗弁に付した優先順位に拘束されないのが原則である。
し か し , 例 外 も あ る 。 例 え ば , 判 決 の 理 由 中 の 判 断 に も 既 判 力 が 生 じ ( 114
Ⅱ ),そ れ が 裁 判 所 に 取 り 上 げ ら れ る と 自 働 債 権 を 失 う 点 で 実 質 敗 訴 と な る 相 殺
の抗弁については,裁判所は当事者が付した順位に拘束され,他の抗弁が認め
られないときに最後に取り上げられる。このように裁判所が当事者の付した優
先順位に拘束される抗弁を予備的抗弁という。
31
5
釈明権
(1)
意義
→釈明権は,訴訟指揮権の1つとして,当事者に対して十分な弁論
を尽くさせて事実関係や法律関係を明らかにするための裁判所の
権 能 で あ る ( 1 4 9 )。 釈 明 権 は , 弁 論 主 義 ( 主 張 責 任 ) の 形 式 的 な
適用により生じる当事者への不意打ちという不都合を修正し,当
事者に対して実質的な弁論の機会を保障するところにその趣旨が
ある。
も っ と も ,裁 判 所 が ,あ ま り に 親 切 に 釈 明 権 を 行 使 し す ぎ る と ,
結果として,一方の当事者に過剰に肩入れすることとなり不公平
な裁判所となってしまうため,釈明権の行使が無制限に許される
わけではないことに注意を要する。
*なお,用語の使い方につき正確にいうと,裁判所がするのが「求釈明」
で ,そ れ に 応 じ て 当 事 者 が 事 実 関 係 等 を 明 ら か に す る こ と を「 釈 明 」と
いうが,受験対策上は,このことにはこだわる必要はない。
(2)
釈明権の範囲
→当事者の主張が不明瞭である場合に,それを明らかにするため
の釈明権の行使(消極的釈明)は当然に許されるし,また,裁
判所にはそのような釈明をすべき義務があるといえる。
→当事者に必要な申立てや主張を示唆・指摘するための釈明権の
行使(積極的釈明)は,それをすると不公平な裁判所となるお
そ れ が あ る 。そ の た め ,訴 訟 の 具 体 的 経 過 や 釈 明 の 内 容 等 か ら ,
それが許されるか否か,あるいはその釈明をすることが義務的
といえるかは個別具体的に判断せざるを得ない。
32
例えば,原告の貸金返還請求訴訟において,被告が債権譲渡
の抗弁を何ら主張もせず,それに関する訴訟資料の提出もして
いないのに,裁判所が,その主張を指摘することは,いきすぎ
た釈明であるといえよう。
例えば,訴えの変更を促す積極的釈明でも,既にあらわれた
訴訟資料,証拠資料からみて別個の法律構成に基づく事実関係
が主張されたならば請求を認容でき,原告がそれを主張しない
のが誤解まはた不注意によることが明らかなときは,訴えの変
更 を 促 す こ と が で き る ( 最 小 判 昭 4 5 .6 . 1 1 )。
(3)
釈明義務違反の効果
→裁判所が必要な釈明をせずに判決をした場合,第1審の判決
の手続が法律に違反するとして控訴裁判所は第1審判決を
取 り 消 す こ と に な る ( 30 6)。 ま た , 上 告 審 が 高 等 裁 判 所 と な
るときは判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反が
あ る と し て 高 等 裁 判 所 に 対 す る 上 告 の 理 由 と な る ( 3 1 2 Ⅲ )。
(4)
法的観点指摘義務(法律問題の釈明義務)
→法律問題につき裁判所に釈明する義務(法的観点指摘義務)
があるのかが問題とされる。この点,法律問題の判断は裁判
所の専権に属する事項なのでそのような釈明義務はないとす
る見解がある。
一方,法律構成が変われば争うべき事実が異なることもあ
るので当事者への不意打ち防止のためにそのような釈明をす
る義務があるとの見解もある。
33
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LL13804
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