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見せる自分/見せない自分 8章自己呈示の個人差―自己モニタリングとマキャベリ主義 報告者:上苙 自己呈示に対する関心の程度、自己呈示を行う能力や頻度には個人差があると知られてい るが、これは人々の「性格」の違いによるものと考えられる。様々な性格特性があるが、 自己呈示の問題と直接的に結びつくと注目されているのは「自己モニタリング」と「マキ ャベリ主義」である。 ●自己モニタリングとは(P204~206) 自分がどのように行動するかを決めるとき、何が適切な行動なのかを自分に教えてくれる 外部の手掛かり(他者の行動など)や、自分の感情や態度などの内的な手掛かりを用いる →スナイダー(1974)はこのような手掛かりの使い方に個人差があることに注目し、 「自己モ ニタリング」という考え方を提唱 対人場面で自己呈示や感情表出を自己観察し、それを調整・統制(=モニター)すること ・自己モニタリング傾向の高い人 →自分の行動が社会的状況の下で適切かどうかに関心を抱いているので、その状況で他者 がどのように振る舞うかを観察し、それをガイドラインとして自分の行動を調整する ・自己モニタリング傾向の低い人 →外部の手掛かりに対する関心は乏しいが、自分の内的な感情状態や安定した態度によっ て自分の行動を決める 例) 友達にパーティに誘われたが、どんな服を着るか迷ってしまった ・自己モニタリング 傾向の高い人 ・自己モニタリング 傾向の低い人 友達にパーティの様子やどんな どんなパーティなのかあまり気 服を着ていくかを尋ねて、自分が にせず、自分の好きな服を着てい 着ていく服を決める く ●自己モニタリングの測定(P207~210) 自己モニタリング尺度(表 14)…スナイダーによって開発された自己モニタリング傾向の高 い人と低い人を分ける「物差し」 自己モニタリング尺度で測定される五つの自己呈示に関わる側面 ① 自己呈示が社会的に適切かどうかについての関心の強さ ② 状況に適した自己呈示を行う手がかりとして、他者の行動を参照する程度 ③ 自己呈示や表出行動を統制・変容する能力 1 ④ 特定の状況におけるこの能力の使用 ⑤ 状況の違いに伴って、表出行動や自己呈示が変化する程度 ●状況によって行動が変わる人―変わらない人(P210~215) 性格と状況、どちらが人間の行動を決定するのか? ・自己モニタリング傾向が高い人々(以下、高 SM) →その状況で得られた情報を基礎にして適切な行動を自ら組み立てていくので、状況が変 われば行動も変わる ・自己モニタリング傾向が低い人々(以下、低 SM) →比較的安定した自己の内的特性からの情報を用いることが多いので、状況が変わっても 行動に一貫性がある 「行動の一貫性」自体に個人差があって、それが自己モニタリングの 程度と関係している可能性がある スナイダーとモンソンの実験(1975) 異なる社会的状況を用意し、高 SM と低 SM の行動を観察 ① 同性の大学生の被験者三、四名でグループを構成し、判断が難しい課題を与え、一人 一人に判断してもらう 高いほど集団の平均に近づい ② グループで討議した後に再び判断してもらう た(同調した)ことを示す 討議前の評定値の 討議後の評定値の 全体平均とのズレ=A 全体平均とのズレ=B 異なる状況で実施 同調得点 同調得点 半数はビデオカメラを設置した部屋で討議 カメラ無 もう半数は通常の部屋で討議 低 SM 高くも低くもない 高 SM 高い (アメリカ人が「人前で」見せる行動として は、自律性を保つこと=同調しないことが適 カメラ有 カメラ無とあまり 変わらない 低い 切であると考えられる) この結果(図 37)から、低 SM の被験者は状況が変わっても同調得点にほとんど違いが出ず、 行動に一貫性が見られたのに対し、高 SM の被験者は録画される条件では同調性が低くな る一方で、録画されない条件では同調性が高くなり、状況の変化に敏感に反応することが わかった 2 ●態度から行動を予測できるか(P215~217) 高 SM→状況から自分の行動を組み立てるので、性格や態度はあまり行動に影響を与えない 低 SM→自らの性格や態度に基づいて行動するので、性格や態度が行動に影響を与える ザンナらの実験(1980) あらかじめ自己モニタリング尺度に回答してもらった被験者 ① 宗教的活動に対する被験者の態度を測定 信心深さ、状況によりどのくらい宗教的活動が変動するか を自己評定 ② 一カ月後、実際の宗教的活動を測定 宗教的活動を実際に行ったかどうか、何回お祈りしたか、何回酔っぱらったかの質問に 回答 反宗教的活動 最初に測定した態度の得点と、二回目の調査の行動得点の相関係数を算出 (状況間変動性の高低と SM 尺度得点の高低を組み合わせて、四つの群で算出) この結果(表 15)から、自己モニタリング傾向が低く、かつ変動性も低い被験者群では宗教 活動、礼拝回数、飲酒回数いずれの場合も態度との相関が他の群に比べてかなり高いこと がわかる 1 1 高 SM で状況間変動性が低い人(低 SM、変動性高)は矛盾していないのか ●デートの選び方――高 SM は「面食い」? (P217~221) 自己モニタリングの高低は外面と内面のどちらを重視するかに関係する 高 SM→自分がどのような印象で見られるかに関心を持つので、付き合う女性と一緒にいる ことで自分がどう見られるかを重視する→見栄えのする女性を選ぶ可能性がある 低 SM→特定の態度、性格の人と一緒に活動することが自分自身をもっともよく表現できる →外見より内面を重視してパートナーを選ぶことが予想される スナイダーらの実験(1985) 高 SM と低 SM の男子学生を被験者にして、対照的な二人の女子学生の写真とプロフィー ルを見せてどちらか一方を選ぶように求める ・美人だが付き合って楽しそうな感じではない女子学生 ・人柄は申し分ないが、美しいとは言えない女子学生 高 SM では 69%の人が前者を選択 低 SM では 81%の人が後者を選択(表 16) 特に付き合う可能性がない場合でも、高 SM は外見重視、低 SM は内面重視というパター ンが同じように認められる 3 ●広告の好みとモニタリング(P221~224) 広告には、製品を具体的に説明し、購入するか検討するときに役立つ情報が盛り込まれた 品質広告と、製品の詳しい説明よりもその製品の持つイメージを強調するイメージ広告が ある スナイダーとデボノ(1985)は、自己モニタリング傾向の違いが広告の好みにも影響すると考 え、実験(P222)を行ったところ、高 SM はイメージ広告、低 SM は品質広告の方に影響を 受ける傾向が見てとれた(図 39) ●現代のマキャベリ(P225~228) マキャベリ…イタリアの政治思想家『君主論』や『政略論』の著者 目標達成の為には手段を選ばず、理想より現実の利益を重視したりする、 権謀術数主義を説く →政治について述べているが、市井の人の中にもこの考え方に共鳴し、個人の目的(出世な ど)の為に日常生活でそれを実現している人々がいる クリスティとガイス(1970)は、こうした人々を選び出す為の「マキャベリアニズム尺度」(以 下、Mach 尺度)を開発した。 代表的な三つのテーマ ① 対人関係で、他者を操作する為の戦術を肯定する傾向 例) 有力者は持ち上げておくのが賢明だ ②他者を信頼せず、利己的な存在として人間を捉える傾向 例) 一般に、人は強制されなければ働こうとしないものだ ③伝統的な道徳性を軽視する傾向 例) 不治の病にかかっている人は安楽死を選べるようにすべきだ ①は自己呈示と特に強い関連を持つ ●マキャベリアンの行動特性――「そ知らぬ顔」ができる人(P228~231) マキャベリ主義を信奉する人々は 「嘘」を上手につく 他者を操作する術に長けている ことができる人々である 知らない ガイスとムーンの実験(1981) 高 Mach 者と低 Mach 者の「知っているの に知らないふりをする」ときと、「真実でない から本当に知らない」ときの表情や振る舞い をビデオに収め、他の被験者に見てもらい、 嘘をついているのか、本当のことを言って 本 当 は 知 っ て い る 真実 知らない 真実でない いるかを評定してもらった 4 この結果(図 40)から、低 Mach は嘘がばれるのに対し、高 Mach はそ知らぬ顔で嘘をつく ことができることがわかる ●他者を操作するために…(P232~233) 高 Mach は他にも他者を操作する為の技術に優れた面がある 例) 高 Mach 弁護士が尋問を行うと、目撃者の証言内容がその弁護士が望む方向に偏る 高 Mach は低 Mach より自己開示を多く行う ●自己モニタリングとマキャベリズム――共通点と相違点(P233~235) 自己呈示に関連する性格特性である、自己モニタリング尺度とマキャベリズム尺度はどの ような関係にあるのか? →日本労働研究機構の大規模な調査では、相関は高くなかった →二つの尺度が自己呈示のどのような側面を捉えているのかに違いがある可能性がある イッキーズ(1986)らの考え 高 Mach→自分の目標の為に他者を操作する傾向が強いので、会話中は相手より自分自身に 注目することが多い 高 SM→他者から承認を得たり、他者との葛藤を回避する傾向があるので、会話中は自分よ り他者の方に注意を向ける そしてこの仮説を検証するため、被験者の会話の内容を分析し、 「私は」 「あなたは」とい うような人称代名詞の数を数え、Mach 得点と SM 得点との相関係数を求めた その結果(図 41)、Mach 得点が高いほど一人称代名詞を使うことが多く、SM 得点が高いほ ど二人称、三人称代名詞を使うことが多いという、予想通りの傾向が認められた 2 2 Mach 得点が高く、SM 得点も高い人はどうなるのか 5