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平成 27 年度 曲がり管内振動流を用いた高性能熱輸送管
平成 27 年度 曲がり管内振動流を用いた高性能熱輸送管の開発補助事業報告書 千葉大学熱流体エネルギー学研究室 田中 学 この報告書は,競輪の補助金により作成しました. http://ringring-keirin.jp/ 目次 第1章 緒言.. . .. .. . .. . .. . .. . .. . .. .. . .. . .. . .. . .. . .. .. . -1- 1.1 背景.. . .. . .. .. . .. . .. . .. . .. . .. .. . .. . .. . .. . .. . .. . -11.2 振動流による熱輸送のメカニズム. .. . .. . .. . .. . .. .. -11.3 従来の研究.. .. . .. . .. . .. . .. . .. .. . .. . .. . .. . .. . .. . -31.4 本研究の目的.. . .. . .. . .. . .. . .. .. . .. . .. . .. . .. . .. . -7- 第2章 実験装置・実験方法及び数値解析手法. . .. . .. .. . .. -8- 2.1 熱輸送実験.. .. . .. . .. . .. . .. . .. .. . .. . .. . .. . .. . .. . -82.2 数値解析. . .. .. . .. . .. . .. . .. . .. .. . .. . .. . .. . .. . .. .-22- 第3章 結果および考察.. . .. . .. . .. .. . .. . .. . .. . .. . .. .. ..-29- 3.1 熱輸送特性.. .. . .. . .. . .. . .. . .. .. . .. . .. . .. . .. . .. .-293.2 流れの可視化.. . .. . .. . .. . .. . .. .. . .. . .. . .. . .. . .. .-40- 第4章 結言.. . .. .. . .. . .. . .. . .. . .. .. . .. . .. . .. . .. . .. .. .-50- 参考文献.... .. . .. .. . .. . .. . .. . .. . .. .. . .. . .. . .. . .. . .. .. .-51謝辞. . .. . .. . .. . .. .. . .. . .. . .. . .. . .. .. . .. . .. . .. . .. . .. .. .-53- 第 1 章 緒言 第 1 章 緒言 1.1 背景 近年 CPU や電子デバイス等の電子機器の小型・高性能化に伴って,これらの発熱密度は増加して いる.この発熱密度の増加は,機器やデバイスの性能の低下,あるいはこれら自身の損傷の原因とな るため,これまで以上に小型で熱輸送量・密度の大きな熱輸送デバイスの開発が求められている.そ の中でも,小型化が可能,使用姿勢を問わない,容易に金属による熱伝導よりも大きな熱輸送量を得 られる,そして小型化の際に製作が困難なポンプを必要としない,などの点から「振動流」を利用した 熱輸送管 (ドリームパイプとも呼ばれている) が有望な候補の一つとみなされている.振動流を利用 した熱輸送管は,流体を振動させるために加振仕事を必要とするという欠点があるが,Kurzweg[1]によ り考案されて以来,多くの研究者によって加振仕事に対する熱輸送量 (熱輸送効率) の向上などの 性能の改善が試みられてきた. 1.2 振動流による熱輸送のメカニズム 温度差を有する高温槽と低温槽の二つの液槽タンクを細長い管で結ぶと,管内には管軸方向にフ ーリエの法則に従って熱流束が高温から低温に向かって発生する.この管に封入された流体に管軸 方向の振動流を与えると,管軸方向の熱輸送が顕著に促進される拡散促進効果が現れる.この効果 により軸方向の熱輸送量は大幅に増加し,実効熱伝導率は銅の十倍程度までにすることができる.こ の熱輸送のメカニズムは以下のように説明できる. 図 1.1 に示すように,管内流れは管壁近傍に限られる境界層領域と速度勾配及び温度勾配を持た ないコア流体領域で支配されている.例えば流体が左から右へと移動したとき,つまりコア流体領域が 右へと移動したとき,境界層領域はほとんど移動しない.このため,コア流体領域と境界層領域には温 度差が生じ,コア流体領域から境界層領域へ熱が移動する.反対に,流体が右から左へ移動したとき, 境界層領域からコア流体領域へと熱が移動する.この熱の移動の繰返しによって,管軸方向への効 果的な熱輸送が行われる. -1- 第 1 章 緒言 T Heat movement Inclination of temperature of core fluid area Inclination of temperature of boundary layer Z T (a) Heat transportation when fluid flows right Z T Core fluid area Wall Boundary layer Z (b) Heat transportation when fluid flows left Fig.1.1 Mechanism of heat transportation by oscillatory flow. -2- 第 1 章 緒言 1.3 従来の研究 1.3.1 振動型熱輸送管 (ドリームパイプ) の研究 1.3.1.1 ドリームパイプ 振動流の拡散促進効果を利用した熱輸送デバイスとして,Kurzweg によってドリームパイプが報告さ れている.ドリームパイプは熱輸送部の構造が単純であり,熱輸送制御が容易である.平行平板,直 円管に関する熱輸送促進効果を数式によって解明した. Kaviany[2]は Kurzweg による解析をより現実に近づけた解析を行った.Kurzweg は流体と管壁との 熱伝達を式に入れてなかったが,Kaviany はそれを考慮して解析を行った.そして,流体と管壁間の 熱交換が有効に働き,熱輸送が大幅に増加することが確認された. 西尾[3] [4] らは,振動流を用いた熱輸送の特徴を最大限に引き出す条件に関して,液体物性条件及 び,最適条件 (管径) の報告を行っている.これらの研究により,従来のドリームパイプより高い熱輸 送効率を有する逆位相振動制御型熱輸送管を提案した. 1.3.1.2 中実管型熱輸送管 直円管内振動流の管軸方向の熱輸送メカニズムは,管断面の境界層における半径方向の熱伝達 効果にあると報告されている.よって管断面に境界層が占める割合が大きいほど熱輸送が促進される. この直円管内振動流の問題点として,高周波数域において境界層の発達が管壁近傍にのみ制限さ れるため,半径方向の熱伝達効果が制限され,1 周期当りの熱輸送効率が低下してしまうということが 挙げられる.そこで大野[5]らは,直円管内中央に中実管を挿入して環状流路とし,境界層領域の割合 を大きくすることによる熱輸送促進効果について,数値解析により検討を行った.その結果,中実管の 径の増加に伴い境界層領域が増加し,実効熱拡散係数の向上が見られた.それは円管に対して最 大約 50 倍まで増加したと報告している. -3- 第 1 章 緒言 1.3.1.3 円管型溝付管 本木[6]らは,円管型溝付管 (図.1.2) を用い,数値解析によって,水を作動流体とする熱輸送デバ イスとしての溝付管の熱輸送 (効率) に対する有効性を検討するとともに,溝付管内正弦波振動流 による熱輸送のメカニズムを,流体の分散運動が熱輸送へ及ぼす影響に着目して検討した.溝付管 に与える振動流の周波数によって,溝付管の熱輸送量,実効熱拡散係数,熱輸送効率が最大となる 溝幅 s が存在し,直円管 (図.1.2 における s = 0) のそれぞれ最大約 20,11,17 倍となることを報告し ている.また,溝付管では図.1.3 に示すように,溝部において高温流体と低温流体の取り込みと排出 が交互に繰り返され,直管部においては排出された高温流体と低温流体の反対方向への輸送が行 われる.これは,直円管のように 1 周期後に流体のすべてが元の位置に戻る往復輸送ではなく,周期 を繰り返すごとに元の位置から遠ざかる輸送であり,彼らはこの流体の分散運動に伴うエンタルピ輸送 が熱輸送向上に大きな影響を及ぼしていると考察している. s h Fig.1.2 Grooved tube. cold (a) (f) hot (b) cold (c) cold hot cold hot (h) hot cold (d) cold (e) cold hot (g) hot (i) cold hot hot (j) hot col cold d Fig.1.3 Transportation of cold and hot fluids towards hot and cold ends of grooved tube (s = 5 mm, f = 0.5 Hz). -4- 第 1 章 緒言 1.3.1.4 環状流路型溝付管 丹羽[7]らは熱輸送管に円管型溝付管と環状流路の形状を併せ持つ管,図.1.4 に示すような直円管 中に溝付棒を挿入した環状流路型溝付管を考案し,それに正弦波振動流を与えることによる熱輸送 の促進効果について,また環状流路型溝付管の熱輸送管としての性能を実験により調べ検討した. 環状流路型溝付管を使用すると熱輸送量は直円管に比べ,最大約 133 倍になることを報告している. また与える振動流の周波数と振幅が一定の条件下では熱輸送量が最大となる溝幅が存在し,その最 適な溝幅は振動流の周波数,または振幅の増加と共に減少していくという考察をしている. Fig.1.4 Annular channels-type grooved tube. 1.3.1.5 オリフィス付き二重管型熱輸送管 満野[8]らは図.1.5 に示すようなオリフィス付き二重管を考案し,それに正弦波振動流を与えることによ る熱輸送の促進効果について調べ検討した.オリフィス付き二重管を使用すると単位温度差当たりの 熱輸送量は直円管に比べ,7.7 ~ 307 倍になることを報告している.また,直円管に対するオリフィス付 き二重管の熱輸送量の増加率は,周波数が増加すると増加し,振幅が増加すると減少することも報告 しており,直円管やオリフィス付き二重管における周波数や振幅の増加に対する増加率の点から考察 をしている. Sinusoidal oscillatory flow Orifice Slit Inner tube Outer tube Slit Orifice Fig.1.5 Double tube type heat transportation pipe with orifice. -5- 第 1 章 緒言 1.3.1.6 人呼吸波形による振動流熱輸送 太田[9]らは,熱輸送管に溝付管を用いて人呼吸波形による振動流の熱輸送量,熱輸送効率を正弦 波振動流と比較し,さらに熱輸送量,熱輸送効率の波形による影響を検討した.人呼吸波形,正弦波 波形の両方に熱輸送量,熱輸送効率を最大にする溝幅があることや,熱輸送量,熱輸送効率には波 形の加減速の非対称性が作用するという点から考察を行っている. 0.15 0.1 v [m/s ] 0.05 0 -0.05 -0.1 -0.15 0 0.5 1 1.5 2 t [s ] (Seok Jae Shin,M.S.E.Seung-KyuChung, M.D., Young Rak Son, M.S.E.,and Sung-KyunKim, Ph.D., Nasal airflow during respiratory cycle, American Journal of Rhinology 20, 379 - 384, 2006) Fig.1.6 Human’s respiration wave. 1.3.2 曲がり管内振動流の研究 1.3.2.1 曲がり管内振動流による物質輸送 Pedley,Kamm[10] ,Sharp[11] らは,曲がり管内に振動流を与えた場合の物質輸送の研究を行った. 管内に発生する二次流れの周期と振動流の周波数が一致することで生じる対流共振の影響で,条件 によって実効物質拡散係数が大きく向上することを報告している. 1.3.2.2 曲がり管内振動流による熱輸送 于[12]は,曲がり管内に振動流を与えた場合の熱輸送特性について研究を行った.数値解析を用 いて,熱輸送管に曲率比の異なる曲がり管を複数使用して内部に振動流を与え,曲率比と周波数を 変化させた場合における実効熱伝導率と物質拡散係数の評価を行った. 白鳥[13]らは,曲がり管内に振動流を与えた場合の熱輸送特性及び内部流体の分散運動について 研究を行った.実験及び数値解析を用いて,熱輸送管に曲率比の異なる曲がり管を複数使用して内 部に振動流を与え,曲率比と周波数を変化させた場合において実効熱拡散係数が直円管と比較し大 きくなることを確認した.また,内部流体の分散運動を数値解析により可視化し,管内の振動流と二次 流れの相互作用により生じる対流共振現象により熱向上に大きな影響を与えると考察している. -6- 第 1 章 緒言 1.4 本研究の目的 本研究では以下の点を目的とする. 強制振動流を用いて曲がり管内振動流による熱輸送実験を行い,曲がり管の曲率と振動流の周波 数を変化させることで実効熱拡散係数に与える影響を検討する.更に曲がり管内振動流による熱輸送 の数値解析との比較・考察を行う. また,曲がり管内振動流における管内流れを数値解析により可視化し,管内の混合特性及びカオ ス混合の発生状況を検討する. -7- 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 2.1 熱輸送実験 2.1.1 実験装置 図.2.1 に実験装置の構成図を示す.実験装置は主に加振機構,冷却槽,熱輸送管(曲がり管),加 熱槽,保温槽,計測系統で構成されている.冷却部及び曲がり管はグラスウールで断熱されている. 作動流体,冷却・保温水には水道水を用いた. Constant temperature bath(323K) Constant temperature bath(293K) Hot Water Circuit Camera DC Servo Motor Test tube Hot water bath Bellows Maintain temperature bath Cold Water Circuit Cold water bath Scotch-yoke mechanism Fig.2.1 Experimental apparatus. 加振機構 加振機構は,AC サーボモータ (オリエンタル社製,BL230GD-AMK) による回転運動をスコッチヨ ーク機構により往復運動に変換させてベローズを変位させ,振幅 45 mm の正弦波振動流を発生させ た.ベローズはテフロン製で有効直径が 17.8 mm のものを用いた.また偏心板には中心から無段階に 偏心量を変えることが可能な調整器を取り付け,実験を行う際には毎回指定の振幅を取り出せるよう にこの調整器をスライドさせてベローズの変位量を調整した. -8- 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 冷却槽 冷却槽はアクリル製の容器 (横幅 410 mm,奥行き 200 mm,高さ 220 mm) であり,冷却用の銅パイ プ (外径 10 mm,内径 9 mm) を冷却槽内にコイル状に配置し,冷熱恒温槽 (東京理化器械社製, NCB-2400,700 W/30 ℃) から冷却水を循環させることによって冷却を行っている.恒温槽の設定温 度は,冷却槽内の温度が 20 ℃ ± 0.5 ℃となるよう設定した.また,冷却槽内の温度を測定するために K 型熱電対 (シース径 1 mm) を冷却水の出入り口 (CH : 17,18),熱輸送管入り口から 20 mm (CH: 19),冷却槽中央部 (CH: 20) の位置にそれぞれ設置した. 熱輸送管 (曲がり管) 図.2.2 (ⅰ),(ⅱ)に,本実験に用いた曲がり管の画像を示す.曲がり管は強度の関係で,図.2.2 (ⅰ) に示すように,アクリル製の板に溝を掘り,それを 2 枚張り合わせたものとしている.1 枚あたりの板厚, 板幅はそれぞれ 7 mm,5 mm であり,管長は流路中心の円周部で 314 mm とした.また,アクリル板を 張り合わせたものに各槽との接続に必要なフランジを両端に接着させ,流路とフランジは一体構造とし ている.曲がり管の曲率比は,比較として用いた直円管を含めて 6 種類とした (a/b = 0.0125,0.025, 0.05,0.0667,0.075,0).曲がり管を 6 分割するように 5 箇所に熱電対挿入用の穴をアクリル板の上下 それぞれに開け,その穴よりポリエステル被服 K 型熱電対素線を挿入して内部の作動流体の温度計 測を行った (CH : ① ~ ⑤).熱電対は,管中心付近の温度を測定するように位置合わせをした.壁面 から外部への熱損失を防ぐために,曲がり管には断熱材としてグラスウールを巻きつけて断熱した. 図.2.2 (ⅱ)の (c) a/b = 0.05 の画像は,断熱材が巻かれた状態となっている. (ⅰ) Method for producing a test tube. -9- 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 (a) a/b = 0.0125 (b) a/b = 0.025 (c) a/b = 0.05 (d) a/b = 0.0667 (e) a/b = 0.075 (f) a/b = 0(straight tube) (ⅱ) Overall view of test tube. Fig.2.2 Test tube (curved tube and straight tube). - 10 - 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 加熱槽 加熱部の構造を図.2.3 に示す.加熱槽はアクリル製の容器 (横幅 160 mm,奥行き 120 mm,高さ 60 mm) で,内部にはヒータとしてマイクロヒータ (坂口伝熱社製,1M-2-200,電力容量 200 W,抵抗 50 Ω) をコイル状に巻いたもの 2 本を並列に繋いだものと,水中ポンプ (神畑養魚製,Rio POWER HEAD 0.0125) を配置し,中央部にアクリル製の壁を設けることで,ヒータによって温められた水を循 環させる構造となっている.このような構造を設けることで,加熱槽内の温度分布を一様にし,試験管 内に一定温度の水を流入させることを狙っている. 加熱槽上部には振動流の振動振幅を測定するための振幅測定管 (アクリル製,内径 13.5 mm)を設 置した.振動流の振幅算出方法は後述する.加熱槽内部には,加熱槽内の水温を測定するために角 の 8 箇所 (CH : 9 ~ 16) とポンプ噴出し口から 20 mm 離れた中間部位 (CH : 26) にそれぞれ K 型熱 電対 (シース径 1 mm) を設置した.また,加熱槽内のヒータ設置部の上部には空気抜き用のタップが 4 箇所設けてあり,実験前及び実験中に加熱槽内に気泡が溜まった場合にはこのタップを開放して気 泡を抜くこととした. ヒータは,電力調整器 (富士電機社製,EA62) を介し 100V 電源から出力される.また,加熱槽内 の水温が一定温度となるようにデジタル指示調整器 (CHINO 社製,DB1130-026) を用いてヒータ入 力電圧の PID 制御を行った.PID 制御に用いる温度は CH : 26 の熱電対から引き出す.PID 制御する 際の目標温度は,加熱槽内の温度が 50 ℃ ± 0.5 ℃となるよう設定した.また,本実験における PID 各 定数について表 2.1 にまとめた.各定数に変動があるのは実験パラメータの違いによるものである. Table. 2.1 Constants of PID controller. P [%] I [s] D [s] 0.8 ~ 1.2 67 ~ 71 17 ~ 18 ヒータ入力電流を算出するために,標準抵抗 (YOKOGAWA 社製,WS-A,0.1 Ω) をヒータと直列 連結した.電圧の測定はデジタルマルチメータ (ADVANTEST 社製,R6452A) により行った.測定レ ンジ,及び分解能はそれぞれ,ヒータにかかる電圧で 200 V,1 mV,標準抵抗にかかる電圧で 200 mV,1 μV とした.また,電圧のノイズによるバラつきを抑えるために,スムージング機能を用いた.測 定を行いやすくするために,ヒータの両端及び標準抵抗の両端にそれぞれ絶縁銅線を用いて二対の 端子と連結した.式 (2.1) を用いてヒータ加熱量 Qh を求めた.なお,E1 はヒータにかかる電圧,E2 は 標準抵抗にかかる電圧,R は標準抵抗の抵抗値 0.1 Ω である. Qh E1 E2 R (2.1) - 11 - 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 Oscillation measurement tube Aclylicplate Voltage transformer Heater AC Power supply Test tube Standard resistor PID controller Pump Fig.2.3 Hot water bath chart. - 12 - 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 保温槽 図.2.4 に保温槽の構造を示す.保温槽はアクリル製の容器 (横幅 250 mm,奥行き 290 mm,高さ 250 mm) であり,保温槽内が 50 ℃ ± 0.5 ℃となるよう加熱恒温槽 (東京理化器械社製,NTB-220, 1.3KW) により 50 ℃の保温水を保温槽内に循環させた.これは,加熱槽の周りを加熱槽内とほぼ同じ 水温の水で囲むことによって,加熱槽から外部への熱損失を抑えるためである.熱電対は角の 8 箇所 (CH : 1 ~ 8) に設置した. Fig.2.4 Maintain temperature bath chart. - 13 - 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 計測系統 各部の温度は 2 種類のデータロガーを用いて測定を行った.図.2.5 に熱電対の設置箇所を示す. 熱電対 (CH : ① ~ ⑤) の出力はデータロガー (GRAPHTEC 社製,GL900) を使用し 0.02 秒間隔で, 熱電対 (CH : 1 ~ 20) はデータロガー (ADVANTEST 社製,TR2114/TR19001) を使用し 10 秒間隔 で測定した.データロガー (GRAPHTEC 社製,GL900) で測定したデータは内蔵メモリに保存されて おり,実験終了後 PC に転送する.データロガー (ADVANTEST 社製,TR2114/TR19001) は GB-IB を介して PC と接続され,測定したデータは PC 上に保存される. 液面変動の様子はデジタルカメラ (CASIO 社製,EX-FH25) で撮影し,映像は SDHC カード (Panasonic 社製,RP-SDW16G) に AVI 形式で保存した. Cold water bath (4 points) Maintain temperature bath (8 points) ✖ 18 17✖ 20 ✖ 2✖ ✖ 19 1 ✖ Hot water bath (8 points) Test tube (5 points) ⑤ ✖ ✖④ ✖ ✖ ✖ ③ ① ② 5 ✖ 10 ✖12 ✖11 9 ✖ ✖ ✖15 13 ✖ 14 ✖ 16 Fig.2.5 Thermo couples arrangement. - 14 - ✖4 6 ✖ PID ✖ ✖3 ✖7 ✖8 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 2.1.2 実験方法 実験準備 ① 加熱槽上部の振幅測定管より実験装置内に作動流体 (水道水) を入れ,各装置に取り付 けられた空気抜き用のチューブを開放して装置内に空気が混入したままにならないように 実験装置内を作動流体で満たす. ② 2 つの恒温槽のスイッチを入れて,冷却水,保温水の温度を指定する.冷却水温度は実験 条件 (冷却部内温度) より 1 ~ 2 ℃程度低い温度に合わせ,保温水温度は実験条件 (保 温槽内温度) より 2 ~ 3 ℃程度高い温度に合わせる.循環レバーを回し冷却水,保温水を 装置内に循環させる. ③ 2 種類のデータロガーの電源を入れ,PC を起動する.PC 上で Excel ファイルを開き,測定 ソフト TR2112 を起動する. ④ PID 制御器の電源を入れ,各制御値が実験条件に即した内容であるか確認を行う.実験 条件と違う場合には実験開始と同時にオートチューニングを行う. ⑤ 強制振動流の設定周波数を実験条件の値に設定する.振幅測定管の液面変動より,スト ップウォッチを用いて 10 周期分の経過時間を測定し,振動流の周波数を手動で算出する. 実験条件と異なる周波数に設定されている場合には,条件に合った周波数になるように調 整つまみを回して微調整を行う. ⑥ スコッチヨーク機構部分の円盤に付随しているスライド式振幅調整器を調節して,振幅測 定管にて得られる振幅を設定した値になるように調整する. 実験手順 ① 強制振動流発生装置の電源を入れ,実験装置に振動流を発生させる. ② 電力調節装置のスイッチを入れ,同時に 2 種類のデータロガーの収録を始める. ③ デジタルマルチメータでヒータ間の電圧 E1 及び標準抵抗間の電圧 E2 を測定し,ヒータ加 熱量 Qh を算出する.ヒータ加熱量を算出する際,デジタルマルチメータの値は変動してい るため,変動値より 5 通りを抜粋して記録する. ④ バルブを回して流量計で冷却水流量を調節し,冷却部内の温度が実験条件内で一定に なるよう保持する. ⑤ 6000 秒 (1 時間 40 分),各部の温度変動を測定する.電源を入れた直後の実験では,各 部の温度が十分定常状態に達したと判断できる 6000 秒測定を行うが,連続で 2 回目及び 他の周波数へ変更して実験を行う際には,初期状態から定常状態までの準備時間を短縮 させるため各装置の電源を落とさずに 4000 秒で実験を終了する.尚,測定終了前の 4000 秒間におけるデータを,本研究における熱輸送特性の評価に用いる. ⑥ 実験開始から 500 秒経過するごとにデジタルマルチメータでヒータ間の電圧及び標準抵抗 間の電圧を測定し,ヒータ加熱量を算出する. - 15 - 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 ⑦ 5000 ~ 6000 秒の間 (同条件 2 回目以降は 3000 ~ 4000 秒の間) で,振幅測定管での液 面変動の様子を約 10 周期分デジタルカメラで撮影する.振幅を算出するためスケールも 一緒に撮影する. ⑧ 6000 秒経過後 (同条件 2 回目以降は 4000 秒経過後) のヒータ加熱量及び冷却水流量を 測定し記録する.2 種類のデータロガーの収録を停止し,電力調節器のスイッチを落として 実験を終了する. ⑨ データロガー (GRAPHTEC 社製,GL900) の内蔵メモリに収録された実験結果を PC に転 送し,デジタルカメラで撮影した映像を SDHC カードから USB ケーブルを介して PC に保 存する. 2.1.3 実験条件 熱輸送実験における各パラメータ,及び作動流体の物性値を表.2.2,3 に示す. Table 2.2 Experimental conditions of working fluid. T [K] ρ [kg/m3] ν [m2/s] C [J/kg・K] 308 994 5.56e-07 4179 Table 2.3 Experimental conditions. f [Hz] Wo Re 0.5 11.4 2541 1.0 16.1 5083 1.5 19.7 7624 2.0 22.8 10165 - 16 - 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 2.1.4 データ整理 実験で得られた各種データをもとに,熱輸送量 Q,実効熱拡散係数 Deff,周波数 f,振幅 St を算出し た.以下にその算出方法を示す. 熱輸送量 Q 本研究では,500 秒ごとに 5 回ずつ測定したヒータ加熱量の全てを平均したものをヒータ加熱量 Qh として定義している.このヒータ加熱量を用いて,以下の式 (2.2) より熱輸送量 Q を求めた. Q Qh Qpump Qloss (2.2) 加熱槽内に設置されているポンプにより押し出された流体が壁との摩擦により熱を発生させ,それ が加熱量の一部になることが示唆されたため,ポンプ動力を熱輸送量に含めた.ポンプ動力は,仕様 書に記載されている定格値である 1.5 W を用いた. 熱損失 Qloss 本研究では,熱損失として,加熱槽の熱損失 Qheat と,熱輸送管の熱損失 Qwall の 2 種類の熱損失を 考慮した.それぞれの熱損失は以下の式 (2.3),(2.5) より求め,求めた 2 つを足し合わせたものを全 体の熱損失 Qloss とした. ・加熱槽の熱損失 加熱槽の熱損失は,加熱槽から保温槽へと逃げる熱として以下の式 (2.3) より求めた. Qheat 0.99 T (2.3) ⊿T は,加熱槽と保温槽の温度差である.ヒータは加熱槽内に設置されているので,加熱槽から保 温槽へ逃げている熱を熱損失とする.ある板からの熱損失は以下の式 (2.4) で表される. Qheati λ T Si σ (2.4) ここで λ は板 (アクリル) の熱伝導率,ΔT は加熱槽と保温槽の温度差,σ は板厚,Si は伝熱面での板 - 17 - 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 1 枚当たりの面積である.尚,Si は加熱槽内の流体と接している部分とした. δσ Hot加熱槽 water bath Qheat1 Maintain temperature 保温槽 bath Qheat4 Qheat2 Qheat3 Fig.2.6 Thermal loss between hot water bath and thermal fluid bath. 各表面の Qheati を全て足し合わせたものが加熱槽全体の熱損失となる.ここで,加熱槽の寸法から σ と Si を求めて上式に代入し足し合わせると,加熱槽全体の熱損失は式 (2.3) で表される. ・熱輸送管の熱損失 熱輸送管の熱損失 Qwall は,熱輸送管の管壁から外気へ逃げる熱として以下の式 (2.5) より求め た. Qwall k ' πθ h θ l L (2.5) ここで,L は管長,θh は管内の温度分布,θl は外気の温度である.また,k’は全熱通過率であり,以下 の式 (2.6) で表される k' 1 n 1 d 1 1 ln i1 h1d1 i 1 2λ i di h 2 d n 1 (2.6) ここで式 (2.6) の分母第一項は作動流体 (水) から管壁 (アクリル) への熱伝達,第二項は管壁内 の熱伝導,第三項は断熱材 (グラスウール) 内の熱伝導,第四項は断熱材から外気への熱伝達であ る.表 2.4 に算出に用いた各物性値の値を示す.なお,計算には θh は 308 K,θl は 298 K と仮定して 計算を行った. - 18 - 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 Table 2.4 Materials properties. d [mm] λ [W/m・K] 作動流体 (308 K) : h1, d1 10 管壁: λ1, d2 23 0.21 断熱材: λ2, d3 63 0.04 h [W/m2・K] 3500 外気 (298K) : h2 4.7 また,輸送管はアクリル製の流路を 2 枚張り合わせることにより作製したため,輸送管の管壁は不均 一な厚みとなっている.そのため,熱損失の計算にはこの不均一な管壁の断面積を算出し,図.2.7 に 示すようにこの断面積と等価な肉厚を持った円管とみなして計算を行った. Avirtual (11.52 ) (52 ) ≒ 337mm 2 Areal (30 14) (52 ) ≒ 340mm 2 Fig.2.7 Equivalence of cross-section area. ・熱輸送管の管壁を伝わる熱量 熱輸送管の管壁を伝わる熱量は以下の式 (2.7) より求めた. Q' Aλ T L (2.7) ⊿T は,加熱槽と冷却槽の温度差 ( = 30 ℃) である.断面積は,図 2.7 の Areal を使用した.管内の 温度分布 θh は 308 K,外気の温度 θl は 298 K と仮定して計算を行った.その結果,熱輸送管の管壁 を伝わる熱量は約 0.00620 W であり,本実験における熱輸送量の最小値である 2.07 W の約 0.03%で あることから,熱輸送管の管壁を伝わる熱量による影響は無視した. - 19 - 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 実効熱拡散係数 Deff ・実効熱拡散係数 Deff の求め方 熱輸送特性を評価するパラメータとして,実効熱拡散係数 Deff を使用する.実効熱拡散係数は式 (2.8) から求める.なお,λeff は実効熱伝導率,ρ は水の密度,C は水の比熱である.C 及び ρ は 308 K における値である. Deff λeff Cρ (2.8) ・実効熱伝導率 λeff の求め方 実効熱拡散係数を算出する際に用いた実効熱伝導率 λeff の算出法を以下に示す.実効熱伝導率 は式 (2.9) から求める.なお,Q は上記にて求めた熱輸送量,A は熱輸送管断面積,dθ/dx は管内温 度勾配である.管内の温度勾配は加熱槽内部の平均温度と冷却槽内部の平均温度を管長で割った ものを用いて算出した. eff Q d A dx (2.9) 周波数 f 強制振動の周波数 f は,0.02 秒間隔で測定した輸送管内部出入口付近の熱電対 (CH : 16) のデ ータを FFT (高速フーリエ変換) して求める.Excel 上でデータを 65536 (= 216) 点,1310.72 秒ごとに 5 つのブロックに分け,周波数解析ソフト (共和計測,解析ツール Ver.1.2) を用いてブロックごとに FFT を行う.各ブロックでピークを示す値を求め,その平均値を強制振動の周波数 f とする. 振幅 St 強制振動の振幅 St は,液面変動を撮影したデジタルカメラの映像から算出する.図.2.8 に示すよう に,アクリル管 (φ13.5 mm) 内の水面変動をスケールと同じ画面に映るよう撮影し,その映像を SDHC カードから PC に転送して保存する.PC 上で A Player ver.6.0 (フリーソフト) を起動し,AVI ファイルを 読み込む.映像 (30 or 120 fps) をコマ送りし,液面の最上点と最下点を調べ,その差を求める.つま り,本実験での振幅は全て Peak-to-Peak を表している.スケールの 1/10 まで目盛を読み,最上点と最 下点の差を 15 点 (15 周期分) 求め,その平均値を液面の平均振幅 StW とする.強制振動の振幅 St は,式 (2.10) により振幅測定管から得られた振幅より作動流体の振動体積を算出し,振動体積より - 20 - 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 輸送管内の振幅へと換算して求めた.式中の dW は振幅測定管径 φ13.5 mm,din は曲がり管流路径 φ10 mm である.また,本実験における振幅の目標値と実測値の差は約 8%以下である. St St W dW 2 ) 13.5 2 2 St W d 10 2 ( in ) 2 2 ( (2.10) φ 13.5 Stw Fig.2.8 Image of water’s surface movement. - 21 - 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 2.2 数値解析 2.2.1 数値解析モデル 図.2.9 に数値解析に用いたモデルの外観を示す.モデルはメッシュ作成ソフト GAMBIT6.3.26 を使 用して作製した.モデルとなる曲がり管の内径は 10 mm,外径は 12 mm とし,管長は 314 mm 一定と している.管壁部の材質はアクリルとした.曲がり管には 5 種類の異なる曲率比 (a/b = 0.0125,0.025, 0.05,0.0667,0.075,a : 管半径,b : 曲率半径) を用いた.また比較として,管長,内径及び外径が 曲がり管と同様の直円管 (a/b = 0) も用いた.メッシュ分割数は管断面内半径方向へ 30 分割,円周 方向へ 30 分割,管軸方向へ約 450 分割とした.曲がり管の全体のメッシュ総数は 381600 ~ 405600 であり,直円管モデルのメッシュ総数は 376800 である.流れは 3 次元軸対称と仮定し,作動流体には 水を用いた. - 22 - 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 a=5 200 b=400 (a) a/b =0.0125 (b) a/b =0.025 75 100 (c) a/b =0.05 (d) a/b =0.0667 66.7 (e) a/b =0.075 (f) a/b =0 (Straight tube) Fig.2.9 Computational model. - 23 - 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 2.2.2 数値解析手法 数値解析には汎用流体解析ソフト FLUENT13.0 を用いた.流れは 3 次元非定常非圧縮であると仮 定した.基礎方程式は連続の式,運動量保存式とエネルギー保存式である.離散化には有限差分法 を用い,対流項は 1 次精度風上差分法,圧力補正は 1 次精度スキーム,速度と圧力のカップリングに は SIMPLE 法を用いた.時間の離散化には 1 次精度の陰解法を用いた.基礎式は以下の通りであ る. u x u y u z 0 x y z (2.11) u 2u x 2u x 2u x u x u x u x 1 p x ux uy uz x y z x x 2 y 2 z 2 t 2u y 2u y 2u y u y u y u y u y 1 p ux uy uz 2 2 2 x y z y y z t x 2 u z 2 u z 2 u z (2.12) u z u z u z u z 1 p ux uy uz 2 2 2 t x y z z x y z 2 2 2 ux uy uz 2 2 2 t x y z y z x - 24 - (2.13) 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 2.2.3 境界条件 基礎式 (2.11),(2.12),(2.13) を以下の境界条件の下で解いた. ・管の左端 ・ u πfStt sin(2πft) ,uz=0,θ = 323 K(for u 0 ), 0 (for u 0 ) x すなわち,曲がり管の左端に,4 種類の周波数 (f = 0.5,1.0,1.5,2.0 Hz),Peak-to-Peak の振幅が 90 mm の正弦波振動流を速度プロファイルとして与えた.また,流速が正の場合には,θ = 323 K の高 温流体が流入し,流速が負の場合には,軸方向の温度勾配がゼロとなる状態で流体が流出するとし た. ・管の右端 ・ u 5 0 ,uz=0, 0 (for u 0 ),θ = 293 K(for u 0 ),p = 1.01×10 Pa x x すなわち,右端では,圧力が一定で u の軸方向勾配をゼロとした.また,左端と同様な温度条件を与 えた. ・壁面 ・ ux u y uz 0 , 0 x y z すなわち,内部の壁面では作動流体は速度をゼロとし,壁面と外部との境界は断熱とした. - 25 - 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 2.2.4 作動流体の可視化 ・分散相モデルを用いた可視化 Pedley,Kamm の研究より,曲がり管内振動流において振動流と二次流れの相互作用により生じる 対流共振現象により物質輸送が促進されることが報告されている.この攪拌効果が熱輸送向上に寄 与しているかを検証するために,本研究では大河原[14]らの研究を参考に流れのパターンについて検 討した.流れに追従するとみなせる微小粒子を曲がり管の管軸方向中間断面に配置させ,その軌跡 を振動流の 1 ~ 3 周期にわたって計算を行った.微小粒子の挙動に関しては,FLUENT の分散相モ デル化機能を用い,式 (2.14) に示すラグランジュ的に記述された粒子の運動方程式を解くことで得 た粒子速度 up を時間積分することにより,その軌跡を得た.x 方向の粒子運動方程式は次式で表され る. du p dt 18μ C D Re p ρ 1 ρ d u u up u up up 2 24 2 ρ dt ρ x ρpDp p p Re p d p ρ C D a1 up u (2.14) (2.15) μ a a2 32 Re p Re p (2.16) ここで,μ は流体の粘性係数,ρp,dp はそれぞれ粒子の密度と直径を示す.Rep は粒子のレイノルズ数, CD は抗力係数である.a は Morsi ら[15]の定めた定数である.式 (2.14) の右辺第二項,第三項は,そ れぞれ付加質量項,圧力項を示す.また,流れの運動量保存式とは非連成とし,微小粒子は流れに 影響を与えない.ρp は作動流体である水の密度と同一とし,dp は 10 μm とした.この粒子径は李らの 研究[16]を参考に決定している.李らは分散の検討を行った際,粒子径を 1 μm とし,5 μm 間隔で微小 粒子を均一にモデル内に配置していた.本研究では粒子数の決定に際して,50 μm 間隔を基準とし たため,李らの研究と比率を合わせ,10 μm を粒子径とした (図 2.10).また,微小粒子が壁に衝突し た場合,垂直方向および接線方向の運動量はすべて維持される条件とした.粒子追跡は,速度分布 が周期毎に変化しない状態となった後,振動流の断面平均流速が最大となる位相を粒子追跡の初期 時間 (t = 0) として行った.t = 0 において約 15,000 個の粒子を管軸方向中間位置の断面上に格子状 (間隔 50 μm) に均一に配置し,その後 3 周期 (t /T = 3, T : 周期) に渡って粒子移動位置を追跡した. 各時刻において粒子群により管軸方向及び高さ方向の中間断面付近 (図 2.10, C1, C2) に描かれる 模様を観察し,粒子の混合状態を検討した.また,このとき中間断面上のみでは粒子の数が少ないた め,中間断面を中心とし,長さ方向では約 10 mm,高さ方向では約 1 mm の厚みを持たせた部分を用 いた. - 26 - 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 C1 C2 50μ m 10μ m Fig. 2.10 Initial positions of the particles. - 27 - 第 2 章 実験装置・実験方法及び数値解析手法 2.2.5 データ解析 数値解析より得られたデータをもとに,熱輸送量 Q,実効熱伝導率 λeff,実効熱拡散係数 Deff を算出 する.以下にその算出方法を示す.なお,算出には全て管軸方向中間断面位置での値を用いた.ま た算出は管内の温度変動が一定になるまで計算を行った後で実行した. ・熱輸送量 Q の算出 管内の温度変動が一定になったことを確認した後,以下の式 (2.17) により熱輸送量 Q を算出した. Q 2π t T a rdrdt ρC p u f T t 0 x (2.17) ・実効熱伝導率 λeff の算出 上記より得られた熱輸送量を用いて,以下の式 (2.18) により実効熱伝導率 λeff を算出した. eff Q (2.18) A d / dx ・実効熱拡散係数 Deff の算出 上記より得られた実効熱伝導率を用いて,以下の式 (2.19) により実効熱拡散係数 Deff を算出し た. Deff λeff Cρ (2.19) - 28 - 第 3 章 結果及び考察 第 3 章 結果および考察 3.1 熱輸送特性 本節では,熱輸送実験及び数値解析の結果による熱輸送特性の評価並びに検討を行う.また,流 れのパターンを定量的に評価することで結果に対する考察を行う. 3.1.1 熱輸送実験 曲がり管内振動流による熱輸送の熱輸送実験から得られた実効熱拡散係数から熱輸送特性につ いて考察を行う. 3.1.1.1 各部の温度変動 3.1.1.1.1 周期的定常状態の確認 図 3.1 に,各実験装置における温度変動の一例として,a/b = 0.0125 の曲がり管を用いて f = 1.0 Hz の条件で熱輸送実験を行った場合の加熱槽,保温槽,冷却槽及び曲がり管内部の温度変動を示し た. 図.3.1 (a) に示すように,加熱槽の温度変動は,実験開始直後の室温付近の温度から指定した 50 ℃をいったん超えて,その後緩やかに下降しながら目標値である 50 ℃付近へと近づき,約 1000 秒 経過した後,指定した温度域にて安定している.これは,PID 制御器による制御が正常に働いている ためである.また,図.3.1 (b) で示すように,保温槽は恒温槽から一定温度に保たれた保温水が流し 込まれ,規定の水面の高さに到達し,保温槽の温度が一様になった後は指定した温度域にて安定し ている.図.3.1 (c) で示すように,冷却槽では室温付近に保たれていた内部の作動流体が,冷却槽内 に設置された銅製のコイルに恒温槽より一定温度に保たれた冷却水が通水されることで徐々に温度 が下がってゆき,約 1,500 秒付近にて指定した温度域に到達しその後安定している. 3.1.1.1.2 1 周期中の曲がり管内の温度変動 図.3.2 (a) に,曲がり管内部の温度変動の一例として,a/b = 0.0125 の曲がり管を用いて f = 1.0 Hz の条件で熱輸送実験を行った場合の曲がり管内部の温度変動を示した.曲がり管内部の温度変動は, 実験開始直後の室温付近の温度から一定時間経過した後,概ね一定の温度振幅を保って振動して いる様子が確認できる.図.3.2 (b) は,曲がり管内部の温度変動において 5930 ~ 5940 秒までの 10 周 期分を拡大したものである.この図から,曲がり管内部の温度変動は,約 10 ℃程度の温度変動で周 期的に振動している様子が見られる.図.3.2 (c) は,曲がり管内部の温度変動の,管軸方向距離に関 するものである.尚,グラフには管両端の温度差を管長 L で割った温度勾配を点線で併せて載せてあ る. - 29 - 第 3 章 結果及び考察 60 Temperature[℃] 50 40 CH9 CH10 CH11 CH12 CH13 CH14 CH15 CH16 30 20 10 0 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 Time[s] (a) Water temperature in hot water bath. 60 Temperature[℃] 50 40 CH1 CH2 CH3 CH4 CH5 CH6 CH7 CH8 30 20 10 0 0 1000 2000 3000 4000 Time[s] (b) Water temperature in maintain temperature bath. - 30 - 5000 6000 第 3 章 結果及び考察 50 Temperature[℃] 40 30 20 CH17 CH18 CH19 CH20 10 0 0 1000 2000 3000 4000 5000 Time[s] (c) Water temperature in cold water bath. Fig.3.1 Temperature variation in case of a/b = 0.0125, f = 1.0 Hz. - 31 - 6000 第 3 章 結果及び考察 80 CH① CH② CH③ CH④ CH⑤ 70 Temperature[℃] 60 50 40 30 20 10 0 0 1000 2000 3000 Time[s] 4000 5000 6000 (a)Temperature variation at tube inside (full time). 80 CH① CH② CH③ CH④ CH⑤ 70 Temperature[℃] 60 50 40 30 20 10 0 5930 5932 5934 5936 Time[s] 5938 (b) Temperature variation at tube inside (5930 ~ 5940 s). - 32 - 5940 第 3 章 結果及び考察 60 Temperature[℃] 50 40 30 CH① CH② CH③ CH④ CH⑤ dT/L 20 10 0 0 52.3 104.6 156.9 209.2 Position [mm] 261.5 (c) Temperature variation at tube inside. Fig.3.2 Temperature variation in case of a/b = 0.0125, f = 1.0 Hz. - 33 - 314 313.8 第 3 章 結果及び考察 3.1.1.2 熱輸送特性 ここでは,熱輸送実験によって得られた実験結果からデータ整理を行い,熱輸送特性について実効 熱拡散係数を周波数,曲率比を用いて比較し検討を行う.尚,実験は各パラメータについて 2 ~ 8 回 行っており,各図には各パラメータにおける誤差を示すエラーバーを付してある.また,表.3.1 に,本 実験結果と Kaviany の理論解との比較を示す.また,表の値は各周波数にて行った実験の平均値で ある.表より,本実験結果は Kaviany の理論解の約 2.5 ~ 3.1 倍程度であることがわかる. Table.3.1 Comparing experimental result and Kaviany’s theoretical result. 実験値 Deff [m2/s] Kaviany 理論値 Deff [m2/s] 実験値/Kaviany 理論値 f = 0.5 Hz 0.000114 0.0000453 2.51 f = 1.0 Hz 0.000155 0.0000618 2.50 f = 1.5 Hz 0.000208 0.0000774 2.69 f = 2.0 Hz 0.000260 0.0000828 3.14 ・周波数 f と実効熱拡散係数 Deff 図.3.3 に,実効熱拡散係数 Deff と周波数 f の関係を示す.図.3.3 より,a/b = 0.025 ~ 0.075 の 4 種類 の曲がり管では,f が増加するに伴い,Deff も増加する傾向が見られた.a/b = 0.0125 の曲がり管では,f = 1.5 Hz の時点で一時的に減少に転じているが,f = 2.0 Hz の時点では最大の Deff を得た.また,f = 1.0 Hz,a/b = 0.0667 における Deff は,直円管と比較し最大で約 5.2 倍大きな値となった. 0.0014 a/b = 0 (straight) a/b = 0.0125 a/b = 0.025 a/b = 0.05 a/b = 0.0667 a/b = 0.075 0.0012 2 D eff [m /s] 0.001 0.0008 0.0006 0.0004 0.0002 0 0.5 1 1.5 f [Hz] Fig.3.3 Relationship between frequency f and effective thermal diffusion coefficient Deff. - 34 - 2 第 3 章 結果及び考察 ・曲率比 a/b と実効熱拡散係数 Deff 図.3.4 に,Deff と a/b の関係を示す.各 f において ,a/b が増加するに伴って Deff も増加し,a/b = 0.0667 を過ぎた後減少に転じ,ピークを示すことが確認できた. 0.0014 f = 0.5 Hz f = 1.0 Hz f = 1.5 Hz f = 2.0 Hz 0.0012 D eff [m2/s] 0.001 0.0008 0.0006 0.0004 0.0002 0 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 a/b Fig.3.4 Relationship between curvature ratio a/b and effective thermal diffusion coefficient Deff. - 35 - 第 3 章 結果及び考察 3.1.2 数値解析と熱輸送実験の比較 図.3.5 に,周波数 f と実効熱拡散係数 Deff との関係において実験結果と,白鳥らの行った数値解析 結果を比較したグラフを示す.図.3.5 より実験結果と数値解析結果を比較すると,どちらにおいても各 a/b において f の増加に伴った Deff の増加を確認することができ,両者の傾向は概ね一致した.両者の 値を比較すると,曲がり管においては実験が計算の 1.0 ~ 2.6 倍大きな値となった. また,図.3.6 に a/b と Deff との関係において実験結果と数値解析結果を比較したグラフを示す. 図.3.6 より実験結果と数値解析結果を比較すると,どちらにおいても a/b の増加に従った Deff の増加, ある a/b を超えた後減少に転じるピークの存在を確認することができた. ・染料注入法による可視化実験 実験結果と数値解析結果の値について考察する.我々は実験において数値解析で考慮していな い現象が管内に発生していることを考え,管内の可視化実験を行った.図 3.7,8 に染料注入による可 視化実験の様子を示す.これは a/b = 0 (直円管),0.0125 の条件において水を満たした管内下半分に, 管中央の小孔よりメチレンブルー水溶液を注入後,振動流を発生させることで管内流れを可視化した ものである.速度が最大となる位相になるよう加振機構を調整・停止し,管内流体が静止した状態でメ チレンブルー水溶液 (三栄製薬株式会社製,メチレンブルー水溶液(観賞魚用)) を注入した.メチレ ンブルー水溶液は水道水で薄めて使用した.注入には注射器にステンレスパイプ (内径 0.8 mm,外 径 1.2 mm) を接続したものを,シリンジポンプ (中央精機社製,M9103) により一定速度 0.05 mm/s で押すことで染料を管内に注入した.注入後 10 秒経過した後,加振機構を稼動し振動流を発生させ, 3 周期にわたって管内に注入された染料の動きをデジタルカメラにより撮影・観察した.デジタルカメラ は振幅測定に用いたものと同様である. 本来直円管においては管内の流体粒子は任意の周期数の振動後初期位置へと戻ってくるはずで ある.しかし,図 3.7 より,今回の実験条件では t/T = 0.25,0.75 などの振動流が反転する時間において 流れに乱れが生じ,その反転時不安定性により,流体粒子が半径方向へと分散されていることが分か った.また,曲がり管においても本研究における計算モデルは 3 次元面対称であり,管上部あるいは 下部の流体粒子が下部あるいは上部まで達することは考慮していない.しかし,図 3.8 より直円管の場 合と同様に流れの反転時不安定性により,初期に下部に存在した流体が管全体に分散していくことが 分かる.これらは数値解析においては考慮していない現象であり,この分散作用により実験結果と数 値解析に差が生じたと考えられる.また,直円管が曲がり管と比べて差異が大きくなったのは,数値解 析において,直円管では存在しない二次流れという分散作用を曲がり管は考慮しているため,直円管 の場合において相対的に反転時不安定性の影響が大きくなったためと考えられる. - 36 - 第 3 章 結果及び考察 0.0014 a/b = 0 (straight) a/b = 0.0125 a/b = 0.025 a/b = 0.05 a/b = 0.0667 a/b = 0.075 a/b = 0 (Calc.) a/b = 0.0125 (Calc.) a/b = 0.025 (Calc.) a/b = 0.05 (Calc.) a/b = 0.0667 (Calc.) a/b = 0.075 (Calc.) 0.0012 2 D eff [m /s] 0.001 0.0008 0.0006 0.0004 0.0002 0 0.5 1 1.5 2 f [Hz] Fig.3.5 Relationship between frequency f and effective thermal diffusion coefficient Deff. (Comparing experimental result and calculation result). 0.0014 f = 0.5 Hz f = 1.0 Hz f = 1.5 Hz f = 2.0 Hz f = 0.5 Hz (Calc.) f = 1.0 Hz (Calc.) f = 1.5 Hz (Calc.) f = 2.0 Hz (Calc.) 0.0012 2 D eff [m /s] 0.001 0.0008 0.0006 0.0004 0.0002 0 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 a/b Fig.3.6 Relationship between curvature ratio a/b and effective thermal diffusion coefficient Deff. (Comparing experimental result and calculation result). - 37 - 第 3 章 結果及び考察 t/T = 0 t/T = 0.25 t/T = 0.75 t/T = 1.00 t/T = 2.00 t/T = 3.00 Fig. 3.7 Visualization of flows in straight pipes by dye injection method (a/b = 0, f = 2.0 Hz). - 38 - 第 3 章 結果及び考察 t/T = 0 t/T = 0.25 t/T = 0.75 t/T = 1.00 t/T = 2.00 t/T = 3.00 Fig. 3.8 Visualization of flows in curved pipes by dye injection method (a/b = 0.0125, f = 0.5 Hz). - 39 - 第 3 章 結果及び考察 3.2 流れの可視化 本節では管内流れについて数値解析による可視化を通して詳しく検討する. 3.2.1 管内流れのパターン 図 3.11 ~ 14 に,それぞれ管軸方向中間断面 (C1 断面) 及び高さ方向中間断面 (C2 断面) におけ る流れのパターンの 3 周期間の進展過程 (t/T = 0 ~ 3.0) を,a/b = 0 (直円管),a/b = 0.05 の条件につ いて示す.図 3.14 には,t/T = 0.5 における拡大図を付した.まず,直円管においては,管内の流体は 1 周期毎に初期位置へと戻る可逆的な流れのパターンをふるまうため,C1,C2 断面からもわかるように, 1 周期毎での流れのパターンに変化はほぼ無い.次に,a/b = 0.05 の曲がり管においては,まず C1 断 面では,粒子群は図中の矢印で示すように線状に引き伸ばされ,×印で示した地点で折りたたまれて いることがわかる (t/T = 0.5).その後,粒子群は引き伸ばしと折りたたみの過程を繰り返して,線長と折 りたたみ箇所を増加させていく (t/T = 1.0 ~ 3.0).その結果,3 周期後には引き伸ばされた粒子群が折 り重なった層状の粒子分布が形成されている (t/T = 3.0).次に C2 断面をみると,粒子群は管軸方向 にも引き伸ばしと折りたたみの過程を繰り返して (t/T = 0.5),線長と折りたたみ箇所を増加させていくこ とがわかる (t/T = 1.0 ~ 3.0).これら C1 及び C2 の両断面においてみられる引き伸ばし・折りたたみによ って管内流れはカオス系,つまりカオス混合が生じていると考えられ,これは C1 断面内に生じる Dean 型の二次流れと,C2 断面内を往復する軸方向流れとの相互作用による対流共振により形成されてい ると考えられる.カオス混合については後述する. 図 3.15,16 に,全ての a/b 及び f について,C1,C2 断面における 1 周期後の流れのパターンをそれ ぞれ示す (t/T = 1.0) .図 3.16 では,粒子が存在する管軸方向領域を抽出して示し,a/b = 0.0125 及 び 0.075 の f = 0.5 及び 2.0 Hz における拡大図を付した.図 3.15,16 より,全ての a/b 及び f の条件で, C1 及び C2 いずれの断面においても引き伸ばし・折りたたみのパターンが発生していることがわかる. a/b 及び f の変化が流れのパターンに及ぼす影響に注目すると,まず C1 断面では,図中に×及び矢印 で示したように,a/b の増加及び f の減少に伴い折りたたみ箇所の個数及び線長が増加する傾向を示 すことがわかる.一方,C2 断面では,a/b の増加及び f の減少に対して折りたたみ箇所の増加は見られ ないが,線長が増加する傾向を示すことがわかった.a/b が最少かつ f が最大の条件 (a/b = 0.0125, f = 2.0 Hz) では,引き伸ばしの効果が小さく,粒子群の移動は管軸方向の短い範囲に限られている. これは他の条件に比べて対流共振作用が弱まったためと考えられる. 山根ら[18],Sudo ら[19]は,曲がり管内振動流における流れのパターンを,二次流れの強さを代表する 無次元数であるディーン数 Dn ( = 2au/ν(a/b)1/2,u:軸方向平均流速の振幅値) と,振動の非定常性の 大きさを代表する無次元数であるウォマスリ数 Wo ( = a(2πf/ν)1/2) によって分類している.彼らの分類 によれば,曲がり管内振動流に発生する二次流れの強さは,Dn の増加及び Wo の減少に伴い増加す る.本研究で a/b が増加または f が減少した場合には,管内でより強い二次流れが誘起され,C1 及び C2 断面内での引き伸ばし・折りたたみの効果が促進されたと考えられる.また,a/b が小さく f が大きい - 40 - 第 3 章 結果及び考察 条件では二次流れが弱くなるため,特に C2 断面内の粒子群は 1 周期ごとに初期位置近傍に戻ってき ており,図 3.11,12 で見られた直円管の可逆的な流れのパターンに近づいていると考えられる. - 41 - 第 3 章 結果及び考察 t/T = 0.5 t/T = 1.0 t/T = 1.5 t/T = 2.0 t/T = 2.5 t/T = 3.0 Fig. 3.11 Displacement of tracer particles during 3 cycles in the cross-section at mid-length. (a/b = 0, f = 0.5 Hz). t/T = 0.5 t/T = 1.0 t/T = 1.5 t/T = 2.0 t/T = 2.5 t/T = 3.0 Fig. 3.12 Displacement of tracer particles during 3 cycles in the cross-section at mid-height. (a/b = 0., f = 0.5 Hz). - 42 - 第 3 章 結果及び考察 ・・・Foldng point ・・・Stretching line t/T = 0.5 t/T =1.0 t/T = 1.5 t/T = 2.0 t/T = 2.5 t/T = 3.0 Fig. 3.13 Displacement of tracer particles during 3 cycles in the cross-section at mid-length. (a/b = 0.05, f = 0.5 Hz). - 43 - 第 3 章 結果及び考察 t/T = 0.5 t/T =1.0 t/T = 1.5 t/T = 2.0 t/T = 2.5 t/T = 3.0 Fig. 3.14 Displacement of tracer particles during 3 cycles in the cross-section at mid-height. (a/b = 0.05, f = 0.5 Hz). - 44 - 第 3 章 結果及び考察 ・・・Foldng point ・・・Stretching line f = 1.0 Hz f = 1.5 Hz f = 2.0 Hz a/b = 0.075 a/b = 0.0667 a/b = 0.05 a/b = 0.025 a/b = 0.0125 f = 0.5 Hz Fig. 3.15 Displacement of tracer particles at t/T = 1.0 in the cross-section at mid-length with various a/b and f. - 45 - 第 3 章 結果及び考察 f = 1.0 Hz f = 1.5 Hz f = 2.0 Hz a/b = 0.075 a/b = 0.0667 a/b = 0.05 a/b = 0.025 a/b = 0.0125 f = 0.5 Hz Fig. 3.16 Displacement of tracer particles at t/T = 1.0 in the cross-section at mid-height with various a/b and f. - 46 - 第 3 章 結果及び考察 3.2.2 カオス混合 前節で示したように,管内の流れはカオス系となっていることが示唆された.ここで我々が考える層流 粘性流れ場におけるカオスの定義について説明する.カオスには様々な定義があるが,そのうちの一 つとして「ラグランジュ的に流れを見たとき,初期に近傍に位置する 2 要素間の距離が時間と共に指数 的に増大する系」のことをカオス系と呼ぶ[20]. 系がカオスであるとき,流体は極めて複雑に攪拌される.また,引き伸ばし・折りたたみのメカニズム を含む流れ場においては,界面の面積が指数的に増大するため系はカオスとなる.系がカオスである ときに生じる流体混合はカオス混合 (Chaotic mixing)[21][22] と呼ばれる.このカオス混合においては非 常に低いレイノルズ数の流れでも著しい混合が見られるため,工学的にも大変興味深いとされている. 以下ではカオスの判定手法の一例であるリアプノフ指数の計算によって系のカオス性を判定する. ・リアプノフ指数 λ の計算 カオスの定量的な判定手法であるリアプノフ指数 λ について説明する.リアプノフ指数は厳密には位 相空間の次元を持つスペクトルとして定義されるが,実際にはその中で最大のものを求めれば良い. 最大リアプノフ指数 λ は次式 (3.1) で定義され,λ の値が正であれば 2 粒子間距離が時間とともに指 数的に増加することを意味し,流れがカオスであると判定される[23],[24]. 1 dx(t ) (3.1) lim ln t t dx(0) ここで x(t) と x(0) はそれぞれ時刻 t 及び t = 0 における 2 粒子間距離である. 実際の解析は有限のタイムステップについて粒子間距離を追跡すれば良い.本研究では,初期に 配置した約 15,000 個の粒子より,隣り合う約 7,500 組の 2 粒子間距離を t /T = 3.0 まで追跡し,各組に 対して最大リアプノフ指数 λ を算出した,最終的には全ての λ の値を平均し,最大リアプノフ指数の平 均値λを算出した.尚,時間を追うごとに管端部より管内から抜ける粒子は,粒子が抜けた時点でリア プノフ指数の算出から除外した. ローレンツアトラクタやレスラーアトラクタなどの代表的なアトラクタではリアプノフ指数は約 1.5 ~ 0.1 の 値をとることから[25],λが正の値をとることは管内でカオス混合が発生していることを定量的に示すと考 えられる.尚,直円管 (f = 0.5 Hz) におけるλは約 0.06 であり,正の値をとるものの,上述したアトラク タにおける値と比較し 0 に近い.この値は,直円管においては管内の流体は 1 周期毎に初期位置へと 戻るため管内でカオス混合がほぼ発生しない,という特徴を定量的に示していると考えられる. - 47 - 第 3 章 結果及び考察 ・リアプノフ指数 図 3.17 に,各 a/b 及び f について整理したλの値を示す.λは 0.48 ~ 0.27 と全ての a/b 及び f の条 件で正の値となり,管内ではカオス混合が発生していると考えられる. また,λは a/b の増加及び f の減少に対して増加する傾向を示すことがわかった.この傾向は,前述 した a/b の増加及び f の減少に伴う引き伸ばし・折りたたみ効果の増加傾向と対応している.これは,λ の値が図 3.13 ~ 16 の粒子群が描く模様の線長の変化を反映しているためと考えられる. また,図 3.18,19 に,初期に配置する粒子数を半分の約 7500 個にした場合のλ,及び,時間を追う ごとに管端部より抜ける粒子を,t = 0 の時点で間引いて計算を行った場合のλの値を示す.λは,図 3.17 における傾向と概ね一致していることがわかる. 以上より,作動流体の挙動は全体としてカオスとなり,カオス混合を生じていることが考えられる.こ れにより管内流体の攪拌作用は促進され,熱輸送促進に寄与しているものと考えられる. 0.5 0.45 0.4 0.35 f = 0.5 Hz f = 1.0 Hz f = 1.5 Hz f = 2.0 Hz 0.3 0.25 0 0.02 0.04 a/b Fig.3.17 Relationship between λ and a/b. - 48 - 0.06 0.08 第 3 章 結果及び考察 0.5 λ 0.45 0.4 0.35 f = 0.5 Hz f = 1.0 Hz f = 1.5 Hz f = 2.0 Hz 0.3 0.25 0 0.02 0.04 a/b 0.06 0.08 Fig.3.18 Relationship between λ and a/b. 0.5 0.45 λ 0.4 0.35 f = 0.5 Hz f = 1.0 Hz f = 1.5 Hz f = 2.0 Hz 0.3 0.25 0 0.02 0.04 a/b 0.06 Fig.3.19 Relationship between λ and a/b. - 49 - 0.08 第 4 章 結言 第 4 章 結言 水平に設置した曲率比の異なる 6 種類の曲がり管内に,4 種類の周波数の振動流による熱輸送の 実験を行い,曲率比及び周波数の違いによる熱輸送特性への影響を調べた.また,熱輸送実験と同 様の条件で行った数値解析結果と比較・検討を行った.また,数値解析により内部流体の可視化を行 うことで,曲がり管内振動流における流体の混合特性および熱輸送特性に与える影響の検討を行っ た.これらの結果より以下の知見が得られた. 1 曲がり管の実効熱拡散係数は直円管と比較して最大約 5.2 倍にまで増大した.また,曲率比に対し てピークを示した. 2 数値解析結果と実験結果を比較すると,数値解析結果の値が実験結果よりもやや小さくなったもの の,概ね同様の増加傾向が示された. 3 曲がり管内に配置された粒子群が描く模様は,管軸方向中間断面及び高さ方向中間断面で引き 伸ばし・折りたたみのパターンを全ての a/b 及び f において示した.また本現象は,管軸方向中間断面 内に生じる二次流れと高さ方向中間断面内を往復する軸方向流れとの相互作用による対流共振によ り形成されていると考えられる. 4 リアプノフ指数の計算により,管内のカオス性を定性的及び定量的に検討した.その結果全ての a/b 及び f においてλは正の値をとり,管内ではカオス混合が発生していることがわかった.また,カオ ス混合により管内流体の攪拌作用が促進され,熱輸送促進に寄与していることが示唆された. 5 粒子群が描く線長とλの値は共に a/b の増加及び f の減少に対して増加する傾向を示した. - 50 - 参考文献 参考文献 [1] Kurzweg, U. 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Phys., Vol. 77, Issue 1, (1987), pp.1 - 5. -52- 謝辞 謝辞 本研究は,公益財団法人JKA「平成27年度曲がり管内振動流を用いたフレキシブル高性能熱 輸送管の開発補助事業」の助成を受けたものです.ここに記して謝意を表します. - 53 -