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ROSEリポジトリいばらき (茨城大学学術情報リポジトリ) Title Author(s) Citation Issue Date URL 「現代家族」の批判的検討-6-現代青年の社会的態度を形 成する社会的要因の検討をとおして 吉田. 昭久 / 宮崎. 和一 / 小熊. 均 茨城大学教育学部紀要. 人文・社会科学・芸術(36): 95-110 1987-03 http://hdl.handle.net/10109/11149 Rights このリポジトリに収録されているコンテンツの著作権は、それぞれの著作権者に帰属 します。引用、転載、複製等される場合は、著作権法を遵守してください。 お問合せ先 茨城大学学術企画部学術情報課(図書館) 情報支援係 http://www.lib.ibaraki.ac.jp/toiawase/toiawase.html 茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学,芸術)36号(1987)95−110 「現代家族」の批判的検討 VI 一現代青年の社会的態度を形成する社会的要因の検討をとおして一 吉田 昭久*・宮崎 和一*㌔小熊 均*** (1986年9月27日受理) Critical Inquiry into‘‘Families in Modern Society”with Special Reference to Social Factor Eff㏄ts on“Social Attitude”in Adolescence Teruhisa Yos田DA幣Kazuichi MIYAzAKI**and Hitoshi OGuMA*** (Received September 27,1986) は じ め に 前論文1)においては,現代青年が「家族」をどう認識し,かつ個の内なる「依存性」とその対象 は,いかなる水準と内容を持つかについて,因子分析的に検討することを課題とし,「家族」認識 に関しては,七つの解釈可能な因子を見い出し,個の内なる「依存性」の指標としての,「行為に 表出する依存性」と「権威に対する許容」の分析を通しては,前者においては八つの,後者におい ては九つの解釈可能な因子を見い出した。そして, 「行為に表出する依存性」と「r家族』認識」 との関係からは,「家族」は一般的水準において肯定的に認識されながら, 「家族」の持つ自己犠 牲性の部分は否定的に捉えられており,自己を規定する「今」の状況には肯定的に依存しているこ とが示された。このことは,「行為に表出する依存性」と「権威に対する許容」との関係に顕著に 表出され,現代青年は, 「今」という状況に依存し,かつ,社会的価値を「権威」として認め,社 会が高い評価を下すものを「権威」とし,現在の社会あるいは自己の周囲の人々に同調しつつ,現・ 状維持の志向性の中にいることを示した。また,「権威と感じる人物」と「権威に対する許容」と の関係からは,現代青年の多くが, 「科学」を「権威」として位置づけており,「科学」を信仰す ることは,「今」の社会に受け入れられることであるとする意識を持つことが示唆された。 現代社会にあっては,「科学」に対して否定的態度をとることは, 「今」の社会への反抗を意味 し,人間の行為を「物質」の機能に適合させようとする思潮は,我々の日常性を規定して,日常生 活の隅々にまで浸透し,現代青年の態度の形成に影響を及ぼさずにはおかない。 本研究では,前論文5編を引き継ぎ,現代青年を取り巻く社会的圧力は,社会的態度の形成に強 く影響するといった視座を踏まえて,現代青年の社会的態度の特徴についての分析を課題とする。 *茨城大学教育学部教育臨床心理研究室 **茨城県那珂湊市立磯綺小学校 ***都留文科大学文学部 96 茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学,芸術)36号(1987) 1 現代青年の社会的態度を規定する社会的要因 1−1 社会的態度の概念と構造 態度とは,個人が環境との接触経験を通して獲得した固有の反応傾向,または反応への準備状態 を言うが,態度のうち社会的な事柄に対する態度を,知覚や動作に影響する一時的構えと区別する ため,特に社会的態度と言う。しかし,今日では,態度の形成が殆どの場合社会的要因によるとみ なされていることから,これを単に態度と呼ぶ2)ことが多い。 Rosenberg, M.J.&Hovland,C.1.(1960)は,態度概念を図式的に示し,態度が感情(affect), 認知(cognition),及び行動(behavior)の要素から成っており,それらの方向と強度は一貫性の あることを示した。また,Krech,D.,Crutchfield, R.S.&Ballachey, E.L.(1962)は,より 具体的に態度の構造を明らかにし,態度には認知的成分(cognitive component),感情的成分 (feeling component),行動傾向成分(action tendency component)の三成分があり,それ らの成分は,それぞれ方向を伴った程度(valence)と複合性(multiple xity)をもつが,一つの態 度は,三つの成分間で方向を伴った程度と複合性において一貫する傾向性をもつとした。しかも, 相互に関連し合う二つ以上の態度が組をなして,他の態度と独立したものを態度群(attitude clus一 ter)と呼び,同一群内の態度間には内部的に調和し,一貫性を保つ傾向がある としている。3) 西平1さ,その著「青年分析」4)の中で,現代青年の「基本的社会態度」を,態度scaleとともに示 しているが,この「基本的社会態度」は「社会的態度」に相当するものである。西平は,青年の基 本的な心理学的要因を見い出そうとして,青年の心的世界に反映する現代日本の社会状況を分析し ている。そこでは,現代日本の社会状況の過去一現在一未来における,歴史的・社会的特色を次の ように挙げている。 a)明治絶対君主制および天皇制軍国主義の残澤としての封建的要因 b)独占段階の資本主義社会と敗戦 c)可能性として残されている道 このそれぞれについて,青年にとっての社会的肯景として,a)では教育勅語,富国強兵策,天 皇制ピラミッド型の立身出世主義,家父長制家族制度などを,b)では,敗戦と新憲法の公布,基 地化された国土という歴史性と,一方,高度に発展した科学技術,大量生産,マスコミによる世論 の操作,新しい形のビューロクラシー(bureaucracy),この結果から生まれる広範な自己疎外, 消費文化などを挙げ,さらに,ごく僅かな偶発事件によって,政治的に人類全滅の危険がおこりう る恐怖,危機感が目に見えない不安として人々を取り巻いていることを挙げる。 c)では,a)b) に対する,批判集団の形成による民主化の前進と,国内政治体制の民主化と合理化,世界史的な民 族主義の台頭・社会主義化,といったことを挙げている。5) 以上のような社会状況の認識に立って,西平は次のように,社会的条件と青年の心理学的要因を 結びつけている。青年が,自分自身の生活の仕方,社会に対する態度・価値を形成するとすれば, その基底には,この三つの状況に対応した心理学的要因が横たわっているとし野)三状況に対応する 青年たちの,行動様式・人間関係・生活感情・倫理観・政治的態度を次のように整理している。 1)F型要因 (Feudal is tic,家父長制度的・封建的要因) 万事に消極的・保身的であり,まじめ・素朴・実直・節約・勤勉という禁欲主義的倫理観をもっ 青田ほか:「現代家族」の批判的検討 VI g7 ている。全て権威主義的であり,事大的であり,伝統を尊び,義理人情を重んずる。「恥の文化」 と呼ばれる家名・体面・人のうわさ・おもわくに敏感で,ある種の精神主義者でもある。例えば, 精神力の強調・神がかり,皇室への狂言的崇拝などである。前近代的感覚や形式主義がすべてを色 どっており,自己犠牲的・自己萎縮的である。政治的には, 「長いものには巻かれろ」という構え をもとにした,無関心・ことなかれ的・保守的姿勢をとる。 2)M型要因 (Mass Society,大衆社会が生み出す,あらゆる心理学的要因) F型と対照的に,人生・社会に積極的・行動的であり,すべてが現実的合理主義に貫かれている。 能率的・打算的・計量的・企画的で,その底には快楽主義が流れている。人間関係でも,従来の既 成の権威を否定し,すべてをgive and takeの契約主義的な人間関係とみ,〈甘い友情〉やく熱 烈な恋愛〉などを嘲笑する。一方には自己肯定と自己主張があるが,その反面,無力感や主体性の 欠如も目立ち,一定の原則がなく,その場その場の実感だけに依存するが故に,視野の狭い功利的 快楽主義に陥り,しばしばニヒリスティックになる。政治や社会に対しても,一面では合理的に発言 し,権力に批判的であるが,それも自分のく片すみの幸福〉を保つことに限られてであって,しば しば無関心を装い,反社会的であることもあり,無責任な発言や行動が目立つ。そこで示されるも のは,一貫して生活進歩主義と政治的無関心とを基底とする型と言えよう。 さらに西平は,F型は過去からの文化的・社会的遺産, M型は現実社会の直接の反映と規定し, 「未来の可能性に生きる」青年にとって,逆に,F−M型的要因は,何とか別の新しい生き方を模索 する動機を刺激するものと述べている。 −一 3)S型要因 (Socialism directed,社会主義指向的な諸要因) S型は,現実社会のあらゆることに対する批判として出発する。彼らも,行動様式は積極的・行 動的・開放的である点はM型と似ているが,それが個人の方向に向わず,「サークル」・「集団」 ・「組織」を強調して,規律のある原則的な行動をとろうとする。F型のように権威を肯定しよう とはしないが,M型のように一切を否定するのでもなく,くかれらの〉合理的な権威を肯定しよう とする。ものの考え方も,常に「生産」という立場から眺め,歴史的・階級的な点から捉えようと し,すべてを政治的体制と機構とに直接結びつけて考え,従って,未来への指向・平等の強調・革 命的な政治活動という革新的姿勢をとろうとする。7) 以上が,西平による社会状況の認識とその反映としての,青年の一般的な社会的態度である。 1・−2 社会的要因としてのエコロジー運動の視座 西平が,青年の社会的現実に対する新しい生き方の模索として,社会主義への志向性を挙げたの は,西平の「青年分析」が出版された1964年当時の社会状況を踏まえてのものである。つまり1960 年の「安保条約批準」をめぐっての,全国的な反体制的,反国家権力的な世論の高まり,その中核 となった社会主義諸勢力の運動の盛りあがり,さらには,第二次大戦後の1949年の中国,1959 年のキューバ等社会主義国の台頭という国際的な状況を考える時に,十分理解できることである。 しかし,当時から20年以上を経た今日,その状況は大きく変わって来ている。ソ連による,ボー ランド,チェコスロバニア等の東欧諸国への軍事力を持っての介入,抑圧といった,社会主義国に おける矛盾の露呈である。最近でもアフガニスタンへの軍事的進攻や,ポーランドの自主管理労組 「連帯」への抑圧等,他国の自主権や独立を犯すことを,社会主義国が幾度も繰り返して来た歴史 98 茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学,芸術)36号(1987) 的事実がそれを示している。また,自国内では,反体制的な学者や作家の弾圧をしばしば行い,本 来,生きやすい,誰にとってもステキな社会を目指すはずであった社会主義は,人間らしく生きら れる社会という理想からは遠ざかり,幻想となってしまった感すら生じさせて来た。 このような中で,資本主義社会も社会主義社会も含めて,現代社会の在り方を批判し,真に人間 らしい生き方∫人間らしい生き方のできる社会を求めて登場して来たのがエコロジー(㏄ology) 運動である。「エコロジー」という語は,1866年頃,ドイツの生物学者エルンスト・ヘッケルによ り,ギリシャ語の「オイコス」(家),「ロギア」(論)の二つの語幹から造られたものであり, 語源的には,エコロジーとは「棲み場の科学」,つまり,生物とその環境の相互作用を研究する, 生物学の一分野8)と言うことができる。ヘッケルによれば,「エコロジー」とは,「動物または植 物と,その有機的または無機的環境との間の相互依存関係,または対抗関係のすべてであり,環境 とは,他の生物やダーウィンが生存のための闘いの条件とみなした複合関係すべてを含む」9)ものである。 エコロジーの研究が進められ,自然界の均衡を研究する過程で,この均衡が急速に破壊されつつ あることを,エコロジーは教えてくれた。ここ数十年来,高度工業化社会の発展によって,地球上 の環境は著しく変貌した。汚染,種の消滅,資源の枯渇,第三世界の飢餓,現代社会の生きにくさ。 エコロジーを研究する科学者にとって,これらはみな,エコロジー危機の徴候を示すものであった。 エコロジーが明らかにしたことは,人間が自己の環境にどのような方向であれ無制限に働きかけれ ば,ある時間の経過の後には,その結果の被害を被らないわけにはいかない ということである。 地球上の人類は,自然の一部であり,その自然から逃れることはできない。このエコロジーという 科学の実証と教えに基づいて,エコロジー運動は成長し,経済や政治や哲学の領域にも及んだ。 経済の方向では,人間は生産関係のみに還元されるものではないと主張された。今までは,豊か な生活を実現するためには,生産性を上げることが必要だと考えられて来たが,現今では,豊かな 生活とは,生活水準の問題ではなく,生活の質の問題となって来ている。よりよく「生きたい」と いう志向性は,より多く「持ちたい(所有したい)」という志向性と対立・矛盾し,社会が人間の 「生」をより保障するように進歩する方向は,経済の成長の方向性との間で対立を生じて来たので ある。エコロジストは,マルクス主義が問題にする生産の所有だけでなく,その性質や発展の方向 をも問題とする。経済についてのこのような見方は,当然に,政治についても一つの方向を示して 行くことになる。 エコロジー運動は,個人や人間の集団の自立・自律性の理念を前提としている。それは,人間の 日常性を越えたところで科学技術が発展し,社会のしくみが巨大化した結果,人間と人間,あるい は人間と物との関係性が危機にさらされるようになったという認識を基盤とするからである。そこ においての政治は,小規模を単位とすること,非集中化,地方の自立などが中心的なテーマとなる。 さらに,それは単なる未来への志向性ではなく,人間存在として「ここに一今」ある個の生き様を 創り出そうと試みる人間的営みを志向することである。 エコロジー運動の第三の特徴は,エコロジーのイデオロギーである。エコロジーのイデオロギー は,同時に倫理であり行動であって,それはまず,近代社会の発展を基礎付けている科学技術の決 定論を根底から問い直し,社会の選択や人間の生活様式に,近代科学的思考やテクノロジーがどの ような影響を及ぼしているかを,個の日常性において問う視点を持続することである。従ってエコ ロジー運動は,自然と人間と社会との関係性を問題とする。この運動は,人間の幸福や自由につい 吉田ほか:「現代家族」の批判的検討 V【 99 ての考察を深め,「幸福の視座」を,有り余った物質的豊かさから切り離し,「自由」を人間の自 立性に結び付けようとする。同時にまた,社会と個人の観点から人間性を捉え,日常行動のモラル を造りあげようとするまo)このようにエコロジー運動は,現代の工業化社会・生産本位の社会の労働観・ 人間観・政治観・経済観を批判し,それに変わる労働観・人間観・政治観・経済観を提示してきた。 エコロジー運動が現代社会状況に対応して現われ,広まって来たことは,現代青年の社会的態度 にも,その志向性が影響を及ぼしていることは充分に考えられることである。そこで本研究では, 西平が,現代青年の社会的態度を規定する社会的要因として示した,「明治絶対君主制および天皇 制軍国主義の残津としての封建的要因」「独占段階の資本主義社会と敗戦(=大衆社会)」「可能 性として残されている道(一社会主義化)」という三つの要因に加えて,新たな残されている道と しての,「エコロジー運動的方向」という第四の社会的要因の検討が課題となる。 皿 大学生を対象とした質問紙調査 皿一1 調査視点の構造化と調査票の作成 西平は,その「基本的社会態度」について,青年の持つ基本的な三つの心理学的要因を挙げ,そ の内容についてそれぞれ,行動様式・人間関係・生活感情・倫理観・政治的態度の面から捉えてい るが,現代社会状況の変化を考えると,当然この状況に対応した青年の社会的態度が問題となる。 そこで,エコロジー運動に代表されるような,現代の伏況に対応した新しい社会的態度を含めて, 現代青年の社会的態度の構造化を試みた。その構造に合わせて現代青年の心的事象を抽出し,質問 項目を作成した。 調査視点としては,横軸に「態度の規定要因」を立て,態度が,感情・認知・行動の要素から成 ることから,これに西平の五つの視点を対応させ,感情には生活感情を,行動には行動様式を,認 知には人間関係観・政治観及び倫理観を配置した。 以上の五視点について本研究では,次のように定義する。 1)生活感情とは,人間の生活総体に向けられた感情であり,日常生活場面の基本的な感情 2)行動様式とは,個体の行動の特徴と,行動を決定する際の基礎となる考え方を含む表出性 3)人間関係観とは,人間関係を規定する要因と,権威あるいは権力に対する態度 4)政治観とは,現実状況を規定している政治に対する態度 5)倫理観とは,個人が価値を置き,生きて行く上で規範とするものへの態度 また,縦軸には,青年の社会的態度を規定する四つの社会的要因に対応した,四つの「社会状況 認識型」を設定した。この四つの型のうち,三つは西平の分類をそのまま取り入れた。即ち,F型 (Feudalistic,家父長制度的,封建的な型),M型(Mass Society,大衆社会が生み出す,あらゆ る心理学的要因を持つ型),S型(Socialism directed,社会主義指向的な型)である。エコロジ 一運動に代表される新しい動きは,E型(Ecological,生命重視の人間主義の型)として設定した。 さらに,表1に示すように,「態度の規定要因」と「社会状況認識型」とを交絡させた各々の欄 に,2視点つつの具体的質問項目視点を位置づけた。F型, M型, S型に関しては,西平の,態度 scaleを付度して視点を配分し,位置づけている。ここでは,構造化した視点の中に独自に設定し た,E型についてのみ設定理由を述べる。 100 茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学,芸術)36号(1987) 表1 構造化された調査視点と具体的質問項目視点 態度の規定社会 要因状況認議型 1.生活感情 2 行動様式 a 人間関係観 4。政治観 「恥」に対する敏 5 倫理観 義理・人情による 拘束 (F3) しきたり・社会規範 感さ (F1) 積極的保身 (F2) 事なかれ的無関心 (Feudalistic) (F,) への従順さ(F5) 家父長制度的∫封建 的な型 精 神 主 義 形 式 主 義 伝統的事大的権威 現実維持的保守性 自己犠性的自己萎 (f1) (f2) 主義 (f3) (f4) 縮的禁欲主義(f5) M 型 即自的実感への依 存 (M1) 利己的積極的行動 F 型 (Mass Society) (M2) 契 約 主 義 全体状況に対する 非 社 会 性 無関心 (M4) (M5) 自己の生活を脅か 公共観の欠如 (M3) 大衆社会が生み出す ?轤艪髏S理学的要 を持つ型 S 型 (Socialism directed) ミ会主義指向的な型 E 型 (Ecological) 生命重視の人間主義 フ型 快 楽 主 義 現実的合理主義 @ (m1) @ (m2) ヒ存 (m3) 非妥協性・攻撃性 党派的積極的行動 (S1) (S2) 組織的目標達成の スめの精神主義 @ (s1) 利害に基づく権力 @ (m4) @ (m5) 組織内役割に基づ 未来へ志向する理 く人間関係 (S3) 想主義的態度(S4) 賃労働・生産の重 視 (S5) 平等の強調による 歴史的・階級的視 科学的合理主義 合理的権威主義 @ (s2) @ (s3) 「未来」とともに 「今」の重視 個の意志に基づく 主体的積極的行動 個の自由と独立に 基づく開かれた関 係 (E3) 人類の知恵として (E1) (E2) 「所有」よりも「あ 合理的人間主義 驕vの重視 (e1) @ (e2) キ権力へ批判的 v命的政治行動 @ (s4) 生活の直接的変革 志向による現実主 義的態度 (E4) 自主管理的共同体による地方分権主 フ伝統・権威の尊 d (e3) _の重視 (s5) 労働生産過程にお ける人間らしさの 重視 (E5) 「ヒト・モノ」に ホする共歓的厳格 ` (e4) ウ (e5) 注)コードF1, M1等は,人間の感性的水準の視点,コードf1, m1等は人間の行為性の水準の視点を示す E型の生活感情では,その一つはrr未来』とともにr今』の重視」であるが,これは,未来を 考えながらも,今の一瞬一瞬を大切にして精一杯生きて行こうとする態度であり,他は,「r所有』 よりもrある』11あ重視」でこれは,地位や名声や財産等の「もの」の所有よりも,能動的により よく生きようと志向する態度である。次に行動様式では,一方の「個の意志に基づく主体的積極的 行動」は,組織や党派的ではなく,常に個の主体性を維持しながらの行動であり,他の「合理的人 間主義」は,科学的分析的な合理性ではなく,人間を自然の一部として位置づけ,自然界とのつな がりの実感を持ちつつ「生きる」という,「自然の理」に沿う合理性に基づく行動である。 次に人間関係観は,一方は「個の自由と独立に基づく開かれた関係」であるが,これは,かかわ り合う人間が互いに抑圧や差別や権威主義的な関係から解放され,かつ,自分自身による自己への 抑圧からも解放された,人間性の開花した相互的な人間の関係性であり,他の「人類の知恵として の伝統・権威の尊重」は,F型のように無条件に伝統や権威を肯定するのではなく,制度化された 伝統や,他者を抑圧するための権威は否定するが,人類が,よりよく生きるために積み重ねて来た, 歴史性を肯景とする「生きる知恵」としての伝統や権威は尊重する人間の関係性である。政治観の 一方は,「生活の直接的変革志向による現実主義的態度」である斌これは,人間の存在基盤であ る日常生活や現実の社会を,社会全体の変革や未来における変革を待望し,それへ向けての志向性 を保持するよりは,むしろ,「今」「生きて」いるその「場」を変革し,改革することを重要視す る態度である。これらをさらに押し進めた態度が,「自主管理的共同体による地方分権主義」であ る。これは,政治や経済が集中化され,中央集権的に一部の人間により動かされるものとなってし まった現代の状況に対して,個が現実に生活する具体的な「場」の政治や経済は,その人自身の手 の届くもの,直接に自分達で管理できるものでなくてはならないとする思想を反映するものである。 吉田ほか:「現代家族」の批判的検討 VI 101 最後の倫理観であるが,一つは「労働生産過程における人間らしさの重視」である。資本主義, 社会主義の何れにおいても,労働や生産は社会的な価値として重視され,体制の如何にかかわらず, 工業化・機械化された労働は,人間を機械に適合させる方向を現実化し,非人間化の進行と疎外の 状況を深めて来た。これに対しこの視点は,労働を人間の「生きる」現実の中のより身近なところ に取り戻し,工業化,機械化された日常の労働を,相対的に軽減して行こうとする志向性である。 12) つは「『ヒト・モノ』に対する共歓的厳格さ」であるが,「共歓的厳格さ」とは,人と人との関 係性において,他者を不当に抑圧したり,人権を犯したりしない限り,人間は完全に「自由」な関 係の中に在り,あらゆる拘束なしに人間的な喜びや楽しみの志向性を,自己にも他者にも許容する ことである。また,道具といった「物」が対象となる場合,人間が自らを道具(機械)に合わせた り,道具に操作されることを拒否し,常に自己の決めた目的に沿って,道具を困難なく自由に使う 志向性を保持することである。つまり,総じて「共歓性」は「生産性」に対立し,「共歓的厳格さ」 とは,人間個々人魁人や「もの」に対して行使可能な権限と限界とをわきまえていることである。 以上,E型の10の具体的質問項目視点を含めて,表1に示すように総計で40の視点を設定し,さ らに,それぞれの具体的質問項目視点につき一つの質問項目を充当させて,Appendix 1−1,1−li, 1−iiiに示す調査票を作成した。 皿一2 方法及び被調査者の選定 表2 学部別被調査者数と有効データ数 本調査は,1982年12月6日∼12日に,茨城大 学の学生を対象として行った。調査場所は,授業 学部 時間及び各学生の下宿である。下宿の場合は・各 教育学部 学生に持ち帰ってもらい,独自に記入してもらった。 人文学部 インストラクションは,Appendix 1−iに示す 理学部 ように,「調査のお願い」と「回答の際の注意点」 工学部 を読ませる方法をとった。被調査者の人数と有効 農学部 計データ数は,表2に示す通りである。 被調査者数 有効データ数 男 女 計 94 20 139 20 88 31 5 233 40 36 9 3 0 154 女 計 19 134 20 222 39 29 5 34 12 8 3 11 0 0 0 0 0 167 321 144 162 306 男 皿 大学生の社会的態度に関する因子分析的検討 皿一1 因子分析の結果 社会的態度に関する質問項目は,本研究において独自に作成したものであるため,質問項目設定 に際しての調査視点の構造化が妥当であるか,さらには,各質問項目は妥当であったかを検討する 必要がある。このため,この二つの検討を目的として因子分析を行った。相関はピアソンの相関係 数,因子抽出法は主因子法,因子軸の回転はVar imax法に拠り,その統計的処理は,東京大学大 型計算機センターの「HITAC7700/8800」を使用して行った。 Varimax回転後の因子負荷量は, ApPe ndix 2に示した。因子解釈を明確にするために,便宜的 に,因子負荷量が10300001以上の因子負荷量をみたすものを各因子から取り出して因子の解 釈を行った。表3の5因子をみると,各因子とも因子負荷量1α300001以上の項目が二つ以上入 っており,5因子全部が解釈可能であることが示された。 102 茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学,芸術)36号(1987) 表3 因子名及び各因子に含まれる項目番号 因子 因 子 名 因子に含まれる因子負荷量1.3000α以上の高得劇頂の項目番号 第1因子 「形式主義的権威主義的保身志向」の因子 第2因子 「社会主義志向」の因子 12.39.5. 第3因子 「直接的日常性変革志向」の因子 2.37.5.11.40 第4因子 「合理的人間主義志向」の因子 33.32.34.36.13.1. 第5因子 「非社会的個人志向」の因子 31.26.6.9。18. 29.20.22.7.10.4.3.19.27.17.28.14,9.25.15.18.38. 皿一2 因子の解釈 各因子に含まれる因子負荷量10.300001以上の項目は,他の因子に重複している場合でも,因 子の解釈に際しては全てを含めて解釈した。 まず,第一因子についてみると,この因子の解釈を明確にする項目番号と質問項目内容・因子負 荷量および構造化した視点・具体的質問項目視点のそれぞれを示すと,表4の通りである。表4に よりこの因子に含まれる17項目をみると,構造化の視点の「社会状況認識型」の内の,F型を表わ す10項目が全て含まれている。そこでF型以外の「社会状況認識型」に属する,項目番号10,27, 17,9,25,18,38のそれぞれの項目について,構造化の視点と質問項目内容とを付き合わせたと ころで検討して行くことにする。 項目10は,構造化の視点ではM型であるが,項目内容の「計画をもって」に注目した反応を考慮 すると,「きちんと形を整えて」といった観点と意味的に通底する。具体的質問項目視点の「現実 的合理主義」が,むしろ現実的な形式主義として受け取られていることが考えられる。項目27は, 構造化の視点ではM型であるが,項目内容の「ギブ・アンド・テイクの尊重」が,「やったりもら ったりする」という意味に捉えられると,具体的質問項目視点の「契約主義」は, 「義理」と同等 になる。項目9は,構造化の視点ではE型であるが,「人類の生きる知恵としての伝統的権威の尊 重」という具体的質問項目視点に属する項目でもあるため,伝統的権威主義であるF型の傾向の者 は,「伝統的権威の尊重」の視座で反応したものと考えられる。項目25は,構造化の視点ではS型 であるが,項目内容の「役割や任務を果たす」は,社会一般に通念としてある価値観でもあり,保 身的・社会順応的であるF型の傾向の者は,この視座で反応したと考えられる。即ち,具体的質問 項目視点の「組織内役割」は,「社会的役割」と同義に捉えられていると考えることができる。項 目番号17,18,及び38は,構造化の視点では何れもM型であるが,項目内容の「ムードが大切」, 「自分の生活を楽しむ」,「その時その時の楽しみ」等,共通に人間のもつ「楽しみ」の志向性を 示す項目であり,F型の保身や社会への順応が,この日常的な「楽しみ」を守るためであることを 考えると,これら項目の具体的質問項目視点である, 「即自的実感への依存」や「利己的積極的行 動」,「快楽主義」等の視座は,個人の「楽しみ」の水準で捉えられたと考えてよいであろう。以 上のように,「社会状況認識型」の視点のF型以外の項目も,F型として解釈可能であり,項目全 体として,形式や権威の重視及び保身として解釈でき, 「形式主義的権威主義的保身志向」の因子 とした。 第2因子については,表4に示すように,この因子に含まれる3項目が,全て「社会状況認識型」 のS型に属する項目である。この因子に含まれる項目数が少ないため,因子負荷量10.300001に 吉田ほか:「現代家族」の批判的検討 V【 103 表4 各因子に含まれる質問項目 項 目 内 容 因子 項目Nα 29 20 第 因 子 ニ思う 親や目上の人の意見は,素直に聞き入れるべき セ と思う .60065 .56059 22 社会的に地位の高い人の前では,控えめにふる ワうべきだ と思う .51696 7 今の社会体制を維持していく人を,政治家とし ト選ぶべきだ と思う。 .51017 10 勉強や仕事は,計画をもって人よりはやく人よ 閧熨スくするべきだ と思う .50479 4 3 1 どんな時でも,年長者の意見は立てるべきだ 因子負荷量 19 男は威厳を持ち,女は御頂であるべきだ と思 、 いつの世でも義理人情は,欠くことのできない 烽フだ と思う 国の祝日には,国旗を掲げて祝うべきだ と思 、 .49855 .47235 .45492 27 すべての人間関係は,ギブ・アンド・テイク(give ≠獅п@take)を尊重すべきだ と思う .44309 17 芸術にせよ日常生活にせよ,すべてムードが大 リだ と思う .43709 28 社会規模や法律をきちんと守ることは,身の安 Sを約束する と思う .43336 14 結婚式は,分相応にしないと世間体が悪い と vう .40556 9 長い人生を生きてきた老人は,生きる知恵を持 ツ人として尊重すべきだ と思う .37748 25 集団や組織の中で役割や任務を果すことが,友 薰笘A帯をつくる と思う .37320 15 18 社会に精通し力のある人に,政治は委ねるべき セ と思う なによりも先に,自分の毎日の生活を楽しむよ 、に暮すべきだと思う .36863 .35993 人生は,その時その時の楽しみを求めて生きるべきだ と思う 38 12 社会主義の社会になってはじめて,世界の平和 竦l類の幸福は実現される と思う .80737 39 私たちの日頃の努力によって,今の日本を社会 蜍`の社会にしたい と思う .70492 5 革新的な団体や政治組織の中で,積極的に行動 キべきだ と思う .42370 第 2 因 。34421 辱駒・噛噛o噛o曽曹一 一.−9−一■幽幽幽一一一嘔幽一一,幽辱一一幽一一幽,胃噂騨甲畠一一一,,},響,響}一層,胴,層,騨,騨,,一,層一,曹,一騨■層■曹冒冒■一 16 ゴルフ場などで遊んでいる人よりも,労働者の 福ェ価値がある と思う 30 体制や権力に抵抗し,平等な社会をつくること ェ大切だ と思う 子 曜一曙卿雪卿,o..o騨o.一署.,一 .27272 .26020 視 点 F型・行動様式 u形式主義」 F型・倫理観 u自己犠性的自己萎縮的禁欲主義」 F型・行動様式 u積極的保身」 F型・政治観 u現状維持的保守性」 M型・行動様式 u現実的合理主義」 F型・人間関係観 u伝統的事大的権威主義」 F型・人間関係観 u義理・人情による拘束」 F型・生活感情 u精神主義」 M型・人間関係観 u契約主義」 M型・生活感情 u即自的実感への依存」 F型・倫理観 uしきたり・社会規範への側頂さ」 F型・生活感情 u『恥』に対する敏感さ」 E型・人間関係観“ u人類の知恵としての伝統・権威の尊重」 S型・人間関係観 u組織内役割に基づく人間関係」 F型・政治観 u事なかれ的無関心」 M型・行動様式 u利己的積極的行動」 M型・生活感情 u快楽主義」 S型・政治観 u未来へ志向する理想主義的態度」 S型・生活感情 u組織的目標達成のための精神主義」 S型・行動様式 u党派的積極的行動」 一一・一一一一一一一,−層一冒響一冒一冒響.■一.,曜「,.・,曜巳,・魎巳9・・■O.一・…9.一.一■曽,一 S型・倫理観 u賃労働・生産の重視」 S型・政治観 u平等の強調による革命的政治行動」 104 茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学,芸術)36号(1987) 近似な2項目を検討したところ,何れもS型に属する項目であった。項目内容をみると,2項目が 「社会主義」への志向性を示し,また,他の1項目も「革新的な団体や政治組織」というように, 社会主義志向を示したものである。以上からこの因子を,「社会主義志向」の因子とした。 表5に示すように,第3因子は5項目が特徴的な項目であるが, 「社会状況認識型」のS型に属 する項目が2項目,E型のものが2項目,及び因子負荷量が負の方向を示すM型の項目が1項目で ある。各項目の項目内容及び具体的質問項目視点をみると,項目番号37は,因子負荷量が負の方向 を示していることから,項目内容の「政治問題を考えるのはわずらわしい」は,「日常生活から縁 遠いことであっても,政治問題を考えることは,わずらわしいことではない」ことを意味し,また 項目5は,「革新的な団体や政治組織の中での行動化」を,項目40は, 「社会のために正しいこと の行動化」を表出したものであり,項目11では,「社会を変えるには生活の変革が大切」といった ように,変革の志向性をうかがうことができる。さらに,項目内容にある「生活」,「日常生活」 といった視座からは,身近な日常場面が問題となることが理解できる。以上からこの因子は,「直 接的日常性変革志向」の因子と解釈した。 表5 各因子に含まれる質問項目 因子 項目Nα 2 第 37 3 5 因 11 子 40 33 第 32 4 34 因 36 子 13 1 31 第 26 5 6 因 9 子 18 項 目 内 容 人間にとって大切なことは,世界と未来とを意 ッ化した生活を日々実践することだ と思う 日常生活から縁遠い政治問題を考えるのは,°わ クらわしいことだ と思う 革新的な団体や政治組織の中で,積極的に行動 キべきだ と思う 社会を変えるには,まず自分の生活を変えるこ ニが大切だ と思う 社会のために正しいことは,親の反対をおしき チてでも行動すべきだ と思う 動植伽ら燗にいたるま砺べ⑫生命1↓そ フ生きている環境とともに大切こすべきだと思う 平等な社会をつくるために権力と戦った人々は, ク敬すべきだ と思う 自分が積極的に行動し,身近な生活環境や地域 フ自然環境をよくすべきだ と思う 機械や書類相手の職業より,自然を相手の農業 フ方が人間らしい仕事だ と思う 現代のように機械中心の社会は,人間の主体性 喪失する状況をつくり出している と思う 日常の快適な生活や楽しみを,政治によってこ 墲ウれたくない と思う 道徳や社会規範などを気にしていては,自分の Dきなことはできない と思う 道路や公園にゴミや空き缶を捨てたからといっ ト,気にするほどのことではない と思う 自分にとって得にもならないような人とつき合 、のは,時間のむだだ と思う 長い人生を生きてきた老人は,生きる知恵を持 ツ人として尊重すべきだ と思う なによりも先に,自分の毎日の生活を楽しむよ 、に暮すべきだ と思う 因子負荷量 .60646 二50587 .44074 視 点 E型・生活感情 u『未来』とともに『今』の重視」 M型・政治観 u全体状況に対する無関心」 S型・行動様式 u党派的積極的行動」 E型・政治観「生活の直接的変革志向による現実主義的態度」 .37446 .32087 .58956 .44781 .40932 .36415 .35071 .34091 .46815 .46516 .42392 「41746 .37170 S型・生活感情 u非妥協性・攻撃性」 E型・行動様式 u合理的人間主義」 S型・人間関係観 u合理的権威主義」 E型・行動様式 u個の意志に基づく主体的積極的行動」 E型・倫理観 u労働嵯齪醐る燗らしさ唖視」 E型・倫理観 u『ヒト・モノ』に対する共歓的厳格さ」 M型・政治観 u自己の生活を脅かす権力へ批判的」 M型・倫理観 u非社会性」 M型・倫理観 u公共観の欠如」 M型・人間関係観 u利害に基づく権力依存」 E型・人間関係観 u人類の知恵としての伝統・権威の尊重」 M型・行動様式 u利己的積極的行動」 吉田ほか:「現代家族」の批判的検討 VI 105 第4因子についてみると,表5から,この因子に含まれる6項目中4項目が,「社会状況認識型」 の視点のうちのE型に属している。そこで,E型以外の2項目についてみると,項目番号32は,「社 会状況認識型」の視点ではS型であるが,項目内容にある「平等な社会」は,単に階級の問題だけ ではなく,差別や偏見のない真に平等な社会と捉えることが可能であり,また,「権力と戦った人 々」の位置づけは,人間が解放されるためには他者支配のための権力は否定される必要があるとす る,E型の視座からも肯定されるものである。具体的質問項目視点の「合理的権威主義」は,科学 的・分析的視座に位置づけられたのではなく,人間的なものを含む「自然の理」として位置づけら れたものと考えられる。項目1は,M型に属するものであるが,項目内容の中にある「日常の快適 な生活」は,「棲みよさ」や「生きやすさ」を表出したものとして位置づけることができ,また, エコロジー運動では,「楽しみ」は他者の人権や存在の様式を不当に犯さない限り肯定されること を考えれば,この項目がE型に属することはうなずけるところである。以上からこの因子は,「合 理的人間主義志向」の因子と解釈した。 最後に第5因子であるが,この因子に含まれる五つの項目中4項目が, 「社会状況認識型」にお けるM型である(表5)。項目9は,E型に属する項目であるが,因子負荷量は負の方向を示して いる。従って,この項目内容の中にある「老人」の「尊重」は否定されることを示す。F型, S型, 及びE型を考えると,「老人」の「尊重」は何れの型に属する者も肯定する態度と考えられるので, 「老人」の「尊重」を否定する態度を持つのはM型だけである。これによりこの因子は,「非社会 的個人主義志向」の因子とした。 なお,五つの因子の何れにも含まれなかった項目は,項目8,16,23,24,30,35の6項目であ った。 お わ り に 西平の提示した「基本的社会態度」を規定する三つの社会的要因に,独自に設定したE型要因を 加えて,現代青年の社会的態度を規定する社会的要因について,因子分析を用いて検討して来たが, 西平のF型要因に対応する因子として「形式主義的権威主義的保身志向」の因子,M型要因に対応 するものとして「非社会的個人主義志向」の因子,及び,S型要因に対応する「社会主義志向」の 因子が抽出され,しかも,エコロジー運動の視座から位置づけたE型要因に対応する因子として, 「直接的日常性変革志向」と「合理的人間主義志向」の二つの因子が抽出された。 このことは,西平が青年の新しい生き方の模索として挙げた社会主義への志向性は,20年以上を 経て社会状況の大きく変貌した今日,すでに「可能性として残されている道」ではなくなり,本研 究で設定した,「エコロジー運動的方向」が新たな残されている道であることを示唆している。今 後更に,現代社会状況因を踏えた検討を加えたいと考えている。 本論文は,宮崎の卒業研究13)で得た資料のうち,社会的態度に関する因子分析的検討の部分のみ を整理したものである。小熊が担当した資料解析を基に,吉田が草稿を作成したが,研究の実施に あたっては,教育臨床心理研究室ゼミナールに所属する学生諸氏の多大な貢献のあったことを付記 して,感謝の意を表したいと思う。 106 茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学,芸術)36号(1987) 注 1)吉田昭久・笠井安秀・小熊均「r現代家族」の批判的検討V一現代青年の『家族』認識と権威に対する依 存性の検討をとおして一」『茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学,芸術)』35,198◎pp.197−226. 2)牛島義友・阪本一郎・中野佐三・波多野完治・依田新編r教育心理学新辞典』(金子書房,1969),p.605 を参照した. 3)依田新監修r新。教育心理学事典』(金子書房,1977),pp.539−54¢「態度」の項目のうち,特に 「態度の構造」の項を参照した. 4)西平直喜『青年分析』 (大日本図書,1964). 5)西平,前掲書,pp.182−183を参照のこと. 6)西平,前掲書,p.183を参照のこと. 7)西平,前掲書,pp.184−186を参照のこと. 8)ドミニック・シモネ,辻由美訳『エコロジー』 (白水社,1980),p.6を参照. 9)シモネ,前掲書,p.12. 10)シモネ,前掲書及び,宮川中民『エコロジー運動とは何をめざすか』 (現代の理論社,1978)を参照の こと. 11)エーリッヒ・フロム,佐野哲郎訳r生きるということ』(紀伊国屋書店,1977),ppコ25−141を参照 のこと. 12)シモネ,前掲書,pp.80−87を参照のこと. 13)宮崎和一「現代青年の不安に関する操作的研究」 (茨城大学教育学部卒業論文,1982). 吉田ほか:「現代家族」の批判的検討 V【 107 Appendix 1−・1調査票 大学生の不安及び社会態度に関する調査 現在,当研究室では「現代青年の意識形成過程における諸問題」という一連の研究を行っていま す。その冠環として,現在の青年の不安と日常の態度について,大学生を対象とした調査を行うこ とになりました。 つきましては,現代青年の意識の問題を追及する重要な研究となりますので,皆さんが,常日頃 思っていることや感じていることに照し合わせてお答え下さい。 なお,皆様の回答は,全資料がまとめてコンピューターにより処理され,この研究以外の目的に 使用されることはありません。 以上の主旨をご理解いただき,本調査にご協力下さいますようお願いいたします。 茨城大学教育学部教育臨床心理研究室 ※ 回答の際の注意点 (1)これから,田圖團の質問に答えていただきますが,回答は例にならって記入して下さい。 田は,7段階に分かれています。あなたが自分で思った所に一ケ所だけ○をつけて下さい。 [2]は,口の中に○か×を記入して下さい。△は,どうしてもつけられないような場合にだけ, つけるようにして下さい。 團は.5段階に分かれています。あなたの思った所に一ケ所だけ○印をつけて下さい。「ど ちらともいえない」には,それ以外にどうしてもつけられない場合だけつけるようにして下さ いo (2)質問には,とばさず全部回答して下さい。 田 省略 図 省略 團 次のそれぞれの項目は,日常感じている,あるいは考えている「こう思う」ということについて書 かれています。それぞれについて,「何々であるべきだ」という意見ではなく,「現にあなたがこう 思う」ことを答えて下さい。 回答欄は,「つねにそう思う」から「ぜんぜんそう思わない」までの5段階に分かれています。例 にならって,今のあなたに一番あてはまるところに,一ケ所だけ○印をつけて下さい。なお,「どち らともいえない」には,それ以外にどうしてもつけられないような場合にだけつけるようにして下さ いo 108 茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学,芸術)36号(1987) Appendix 1−ii つ ま ど か ぜ ね あ ち そな そん に ら うら うぜ そ そ いと 思ず思ん う う えも わし わ 畢 畢 な なもな つ つ い い い (例)醗きを考えるよりも・ともかく行動してみるべきだと……ABCDE t具常鶴郵生活や楽しみを・政治によってこわされたくな……ABCDE 2蝶鰯奈望奎晃と讐恵野と未来とを意識化し姓活……ABCDE 3.』、つの世でも義理人情は・欠くことのできないものだ と思__A B C D E つo 4.男は威厳を持ち,女は御頂であるべきだ と思う。………………A B C D E 5薫騨な団体や政治繊の中で・積醐こ行動すべきだと……ABCDE a島談寿つ1驚,ならないような人とつき合うのは・時間……ABCDE 7倉餅㈱を維持していく人を・政治家として齢べきだ……ABCDE 8鰯霧纏に瑠びし・しかも他人を受け入れたカ}……ABCDE a黎糠生童甜老人は・生きる知恵を持つ人として尊……ABCDE n懸仕薯慧ち引画をもって人よりはやく人よりも多くする・−ABCDE 1t埜憲響えるには・まず自分の生活を変えることが大切だ…ABCDE 1a酸隷雛会矯下はじ既世界の平和や人類の幸福……ABCDE 1覗袋2糠穫脚騨鍬燗の主体性を喪失する状・…・・ABCDE 14 結婚式は,分相応にしないと世間体が悪い と思う。……………A B C D E 15社会に精通し力のある人に,政治は委ねるべきだ と思う。……A B C D E 1aぎレ薦ボで遊んでいる人よりも・労働者の方が価値があ一ABCDE 17.芸術にせよ日常生活にせよ,すべてムードが大切だ と思うd…・・A B C D E 18鰻患算に・自分の毎日の生活を楽しむように暮すべき……ABCDE 1a 国の祝日には,国旗を掲げて祝うべきだ と思う。………………A B C D E 2α 親や目上の人の意見は,素直に聞き入れるべきだ と思う。……A B C D E 2L瑠昇方や考え方は・科学的客幽な分析によるべきだ………ABCDE 22笹憲解地位の高い人の前では・撒めにふるまうべきだ………ABCDE 吉田ほか:「現代家族」の批判的検討 VI ’109 Appendix 1−m つ ま ど か ぜ ね あ ち そな そん に ら うら うぜ そ そ いと 思ず思ん う う えも わし わ 思 思 な なも な, ワつ っ い い い 23萎禦を騰馨す重鶴rなく・働く人々のためのもの……ABCDE 24簾欝鞍縦砦蟻汐繊生活する地域や職一ABCDE 25灘懇轡9中で役割や任務を果すこと力抜情や連帯をつ……ABCDE 2a灘鰹讐論鰹醗てたからとし’って気にする一ABCDE 2耀鰯炎襲係讐恵㌘アンド゜テイク(give and take)一・ABCDE 2嵯憲騨や辮をきちんと守ること1よ身の安全を約束する一ABCDE 2a どんな時でも,年長者の意見は立てるべきだ と思う。…………A B C D E 3α慧轡権力に抵抗し・平等な社会をつくることが大切だと一ABCDE 3L導難糊驚を気にしていて1ま・自分の好きなことは一ABCDE 32雍等奎慧響つくるために勧と戦った人々は・尊敬すべき……ABCDE 3a鞭蹴塊;∈尖旛璽べ1憲害命は・その生き一ABCDE 34購賛製こ讐翫身近な生活聯や地域の自然環境を……ABCDE 35課瓢襲よ呈憲騨して・燗性を見失わな唯活を……ABCDE 3a騰襲相瑠騨より・自然を相手の農業の方が燗ら……ABCDE 37膜生種鶴榊倣治問題を考えるの1ま・わずらわしいこ一ABCDE 38 本生は・その時その時の楽しみを求めて生きるべきだ と思._.A B C D E つo 39欝の望憲響力によって・今の日本を絵蟻の社会に……ABCDE 4α灘鰹酷1’ことは・親の反対をおしきってでも行動……ABCDE 最後に恐縮ですが集計分析に必要ですので,以下の項目についても当てはまる番号に○をつけて下 さい。 1.学部 (1)人文学部 (2)理学部 (3)教育学部 (4)工学部 (5)農学部 2.性別 (1}男 (2)女 以上で,すべての項目にお答えいただきました。ご協力を感謝いたします。 110 茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学,芸術)36号(1987) Appendix 2 回転後の因子行列 Factor Item FACTOR 1 FACTOR 2 FACTOR 3 FACTOR 4 FACTOR 5 SAO1 SAO2 SAO3 SAO4 SAO5 SAO6 SAO7 SAO8 SAO9 一〇.00832 一〇.05525 一〇.01250 0.34091’ 0.20514 一〇.03742 0.60646 0.02784 0.04447 0.47235 一〇.04578 0.02104 一〇.01597 一〇.24033 0.49855 一〇.00666 一〇.04667 一〇.08417 0.27202 0.00702 0.42370 0.44074 α06720 0.06176 0.19476 一〇.01133 0.16372 0.03212 0.42392 0.51017 一〇.08773 一〇.10704 一〇.08731 0.04855 025446 0.09103 0.12038 0.23982 一〇.08952 0.37748 0.16682 0.02238 0.14525 一〇.41746 SA 10 0.50479 0.03330 0.14995 0.03652 一〇.05427 SA 11 0.03347 0.17267 0.37446 0.11897 一〇.14856 SA 12 一〇.00454 0.80737 0.11529 0.05197 0.02556 0.35071 一〇.01809 0.15903 0.17596 SA 13 一〇.07492 0.18327 0.13893 SA 14 0.40556 0.03406 一〇.02991 一〇.06954 SA 15 0.36863 一〇.01689 一〇.03396 0.08825 0.08861 SA 16 0.10408 0.27272 0.07032 0.28779 一〇.11916 SA 17 0.43709 一〇.05928 一〇.07225 0.15438 0.20365 0.35993 一〇.06888 SA 18 一〇.21998 「 0.03533 0.37170 一〇.03793 一〇.14525 一〇.05123 一〇.10168 0.08481 SA 19 0.45495 一〇.03916 一〇.00468 SA 20 0.56059 一〇.00309 一〇.01672 SA 21 0.24783 .0.17489 0.30852 0.03914 0.51696 0.09395 0.01230 一〇.06935 0.08709 0.17667 一〇.06803 0.17190 一〇.11670 0.16559 一〇.06315 一〇.28328 0.46516 SA 22 SA 23 0.18945 0.19311 0.25246 SA 24 0.18627 0.11960 0.10784 0.23287 SA 25 0.37320 0.12620 SA 26 一〇.02327 0.05126 SA 27 0.44309 一〇.04181 0.09213 0.08873 0.02599 SA 28 0.43336 一〇,06109 0.17003 0.10642 一〇.09077 SA 29 0.60065 0.15346 0.04020 0.04200 一〇.11114 SA 30 一〇.15444 0.26020 0.22363 0.29959 0.10096 SA 31 一〇.10514 0.10687 一〇.08974 0.04831 0.46815 SA 32 0.09892 0.19614 0.24172 0.44781 一〇.00363 SA 33 0.02890 一〇.04264 0.00756 α58956 一〇.20539 SA 34 0.06997 0.06211 0.24394 0.40932 一〇.22463 SA 35 0.16501 0.19754 0.09311 一〇。03998 0.08273 0.36415 0.06407 0.21543 一〇.08468’ SA 36 α00160 0.00536 一〇.13650 SA 37 0.17009 一〇.07227 一〇.50587 0.05071 SA 38 0.34421 一〇.01222 一〇.28779 0.11819 0.27747 SA 39 一〇。15340 0.70492 0.05961 0.14047 一〇.00985 SA 40 一〇.11543 0.07794 0.32087 0.22346 0.05568