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電子物性2 講義資料 DenshiBussei2

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電子物性2 講義資料 DenshiBussei2
電子物性Ⅱ
講義資料 電気電子工学科 2 年 後期 (高橋)
内容
0 章:この資料の内容 ...........................................................................................................................2
1章:自由電子気体 (教科書 8 章:金属の自由電子論) ...................................................................3
§1-1 金属の電気伝導 (教科書 8 章§3、§5) ......................................................................3
【演習問題】 ......................................................................................................................................7
§1-2 エネルギー準位と電子の分布 .......................................................................................10
§1-3 スピンを考慮した電子のフェルミ分布 ............................................................................13
§1-4 自由電子気体のエネルギー準位数:状態密度の計算 (教科書 8 章§6) .................15
§1-5 Fermi-Dirac 分布 (教科書 8 章§7)............................................................................. 21
§1-6 「状態数」と「電子数」との区別........................................................................................23
【演習問題】 .................................................................................................................................... 26
2章:エネルギー帯構造(エネルギーバンド) (教科書 9 章) ............................................................28
§2-1 バンドの形成(教科書 9 章§1).....................................................................................28
§2-2 エネルギーバンドとは何か .............................................................................................29
§2-3 ブリルアン帯: Extended/Reduced zone(拡張/還元帯域)(教科書 9 章§2、§3) ......... 31
§2-4 結晶内の電子状態(1):周期的ポテンシャル中の波動関数の特徴:Bloch 関数........ 32
§2-5 結晶内の電子状態(2):Kronig-Penney モデル(クローニッヒ・ペニーモデル) ........... 35
§2-6 バンド構造と物質の電気伝導の関係 (教科書 9 章§6) .............................................40
(1)金属(導体)のバンド構造 ....................................................................................................40
(2)誘電体(絶縁体)のバンド構造 ............................................................................................41
(3)半導体のバンド構造 ............................................................................................................41
§2-7 半導体における電気伝導:正孔 (教科書 9 章§5) ..................................................... 42
§2-8 固体中での電子の運動:有効質量 (教科書 9 章§4) ................................................44
【演習問題】 .................................................................................................................................... 46
3章:半導体 (教科書 10 章) .............................................................................................................47
§3-1 真性半導体 .....................................................................................................................47
§3-2 不純物半導体:ドーピングによる n 型半導体と p 型半導体 ......................................... 48
n 型半導体 ................................................................................................................................. 48
p 型半導体 ................................................................................................................................. 48
n 型半導体のバンド構造............................................................................................................49
p 型半導体のバンド構造............................................................................................................49
1
真性半導体と不純物半導体の電気伝導の違い....................................................................... 49
【演習問題】 .................................................................................................................................... 51
参考文献 ............................................................................................................................................ 52
索引 .................................................................................................................................................... 53
0 章:この資料の内容
この講義は前期に開講された「電子物性Ⅰ」と「量子物理」の内容を引き継いで固体(金属や半導
体)の中での電子の挙動(運動、電気伝導、エネルギー分布)を理解することを目的とする。講義で
は教科書の流れに従い第 8 章から第 10 章(の途中まで)を取り扱うが、時間的な制約もあり取捨選
択を行って必須と思われる部分だけを取り上げる。また、教科書の記述ではわかりにくいと考えら
れる部分はこの補足資料を使って説明を行う。主要な内容は以下の5点である。
(1)電気伝導 (教科書 8 章)
(2)状態密度 (教科書 8 章)
(3)Fermi-Dirac(フェルミ・ディラック)分布関数 (教科書 8 章)
(4)バンド構造 (教科書 9 章) 特に重要
(5)真性半導体、n型半導体、p型半導体 (教科書 10 章)
これらの中で特に重要な項目は4番目のバンド構造である。固体の電気的特性はその物質の
「バンド構造」と密接な関係があり、固体中の電子が実用上様々な役割を果たすのはこのバンド構
造のおかげである。「電子物性Ⅱ」の最大の目的は固体中の電子が「バンド構造」と呼ばれる状態
を持つことを理解してもらう点にあると言うことが出来る。
固体中の電子状態が真空中と異なる原因は、固体中の電子は結晶格子(格子点に存在する
正イオン)の作る周期的なクーロンポテンシャルに常にさらされている点にある。もちろん真空中で
も電極等を用意することにより電子に静電気力を印加することは出来る。(「電子物性1」の講義の
初めに出てきた電界中での電子の運動を思い出せ。)しかしこの場合の電場は空間的に滑らかに
変化するものであり、その中での電子の運動は古典力学で記述することが出来る。これに対して結
晶格子が作る、格子定数( < 1 nm)の周期で変化する電場中の電子の運動は(「量子物理」で扱っ
たように)、量子力学に基づきシュレーディンガー方程式によって取り扱う必要がある。
工学部電気電子系の学生としては将来もう少し広い範囲の知識を要求される場面が出てくる
と考えられる。この講義で学習したことを基礎として、巻末に参考文献として挙げた本を読むことを
推奨する。
2
(教科書 8 章:金属の自由電子論)
1章:自由電子気体
§1-1
金属の電気伝導
(教科書 8 章§3、§5)
ここでは(量子力学ではなく)古典力学で取り扱う。真空中でe の電荷を持つ電子に電場 E を印加
すると、電子は電場とは反対向きに大きさ e|E|の力を受けて等加速度運動を行う。
eE
加速度: m
eE t  速度はいつまでも増加し続ける
速度: v(t )  m
0
0
(注意:教科書 10 章で扱うように半導体の電気伝導では(負電荷をもつ)電子と(正電荷を持つ)正
孔を取り扱う必要がある。)この節では粒子の電荷として記号 q を使う。電子では q = e であり、正
孔では q = e である。(教科書とは記号が違うので注意。教科書では電子の電荷をq と書いている)
金属中では・・・オームの法則を思い出すと、I = V/R である。これは電流密度 j と電場 E を使って j =
E = E/と表記することが出来る。(ここで () は導電率(抵抗率)と呼ばれ、長さ l で断面積 S の
金属の場合には R = l/S の関係にある。電磁気学の教科書 p194「オームの法則」を参照) 電流密
度 j は j = qnv であるので qnv = E つまり v  E であることを意味しており、オームの法則は電子
の速度 v が電場 E に比例した一定の大きさであることを示している。(真空中とは違って)電場を印
加しても電子の速度が無限に増加することはない。この事実は金属中の電子は単に電場から力を
受けて等加速度運動しているのではないということを示している。
まず、電場が印加されていない場合には電子はいろいろな速度でランダムな向きに運動している。
(この速度はおおよそフェルミ速度程度になる。教科書§7で扱う) このときには電子速度の平均
はゼロになる。(だから電流は流れない) この様子を実空間で示すと下図左のようになる。
E
vk1
vk4
vk7
vk6
E
vk2
vk3
vk5
電場がない場合
電場を印加
不純物イオンとの散乱
電場が印加された場合には電子は力 qE を受けて電場とは逆向きに加速される。その速度は
フェルミ速度程度(向きはランダム) + 電場による速度(電場と逆向き)
である。全電子で平均をとると、第 1 項の平均はゼロになるが、電場による速度の平均は電場と逆
3
向きになる。したがって、電子全体は平均として電場と逆向きに進むことになり、電流が流れる。こ
のままでは等加速度運動となり電子の速度は増加し続けることになるが、実際には電子は不純物
イオン等との衝突によって頻繁にエネルギーと運動量を失う。衝突直後には電子はランダムな方向
に動き始めるが、再び電場により加速されて電場とは逆向きの速度成分を持つようになる。電場で
の加速と散乱によるエネルギー・運動量散逸を繰り返し、平均すると電子は電場とは逆向きにある
速度(これをドリフト速度 vD と呼ぶ)で運動する。不純物イオン等との散乱頻度が電気伝導率を決
める要因になる。散乱頻度が高い(頻繁に衝突を起こす)場合には電気伝導率が低下する。(電気
抵抗率は上昇する)
・注意:電子(あるいは正孔)が衝突する相手
電場で加速された電子は何らかの障害物に衝突してエネルギー・運動量を失う。この衝突の相手
が何であるかが重要になる。
結晶欠陥
熱振動による原子の格子点からのずれ
不純物イオン
T  0K
室温付近
(1)結晶を形成している規則的に並んでいる原子(正イオン)との衝突は考える必要がない。(電気
抵抗には無関係である。結晶格子を形作っている正イオンはバンド構造の形成に関係するが、
電気抵抗の原因とはならない。)
(2)低温では「結晶欠陥」(原子が本来あるべき格子点からずれた位置に置かれていたり、結晶格
子の向きがある面を境にずれている)と「不純物イオン」(異なる種類の元素が不純物として混じ
ってしまっている)との衝突が電気抵抗の原因となる。不純物が多いほど、また(結晶の質が悪
く)結晶欠陥の多い結晶では、電子の散乱頻度が高くなり電気伝導率は低くなる。逆に不純物・
欠陥の無い理想的な結晶では T  0K では電気抵抗を示さないことになる。(現実には不純物
の無い、欠陥の無い結晶は作れない。どれだけ精製してもわずかな不純物、欠陥の混入は避
けられない)
4
注意:低温で電気抵抗が消失する現象として「超伝導」が知られている。
多くの金属でこの現象が起きることが実験的に確認されているが、この
現象はここで扱っているのとは全く別のメカニズムで起きる現象である。
(3)室温付近まで温度が上昇すると、結晶を形成している原子(正イオン)が熱振動により格子点
の周りで振動する。(格子振動と呼ば
れる) (1)で述べたように格子点に
v
規則的に並んでいる原子との衝突は
衝突がない場合の速度
qE
v(t)  m t
電気抵抗には寄与しないが、熱振動
で格子点から不規則にずれてしまっ
た原子と電子の衝突は電気抵抗の原
衝突
因となる。したがって、室温では(a)不
純物イオン・結晶欠陥との衝突(低温
t 1
t 2
t 3
t 4
t 5
t
でも寄与がある)と (b) 格子振動との
衝突(こちらは温度が上がると寄与す
衝突間隔はランダムに変化
る)の両者が電気抵抗の原因となる。
これを平均化して考える
不純物の少ない、単結晶に近い高品
質の結晶では(a)からの寄与が相対的
v
に低下するので、(b)格子振動(熱振
動)が電気抵抗の主因になる。
固体中での電気伝導を定量的に
取り扱う。向きがランダムで電気伝導
には寄与しないフェルミ速度は忘れ
vD
2s
2s
2s
2s
2s
t
て、電場を印加することにより電場と
は逆向きに電子が獲得する速度 v(t)
の時間変化を考える。
電子は電場により加速されて速度
vD1 秒
は時間に比例して増加するが、しばら
く経過すると衝突を起こして速度を失
1m
う。衝突の間隔は毎回同じではなく
vD
t1, t2, t3,・・・とランダムに変化する。
1m
衝突間隔の平均値を 2s と置く。(s は
緩和時間と呼ばれる。)
この体積中にある電子が 1 秒間に
この単位断面を通過する
電子の速度の平均値(ドリフト速度
vD)は、左図より
5
vD  12 
qE
m
 2 s 
qE s
m
(1-1)
と表すことが出来る。
電子密度を n 個/m3 とすると、1 秒間に単位断面(1m2)を通過する電子の個数は
n  1m  1m  vD = n vD となる。したがって、電流密度 j はその定義より
j = qnvD 
q 2n s
E
m
(1-2)
となり、j は E に比例している。
一方、初めに述べたようにオームの法則は電気伝導率を使って
j =E
(1-3)
となる。式(1-2)と式(1-3)を比べると、電気伝導率は
=
q 2n s
m
(1-4)
と表される。(電気伝導率は、いろいろな呼び方がある。伝導率、導電率、伝導度、電気伝導度な
どすべて同じを指す。また、抵抗率は伝導率の逆数である。 = 1/) 式(1-4)より、電気伝導率は
(1)電子密度 n に比例する。
(2)緩和時間s にも比例する。
従って、
不純物・結晶欠陥が多い
頻繁に電子は衝突
緩和時間s は短い
電気伝導率は小さい(抵抗率は大きい)
という関係が成り立つ。
式(1-1)よりドリフト速度は電場に比例しているが、この比例係数を移動度(mobility) と呼ぶ。
vD 
q s
q
E   E より   s
m
m
(1-5)
移動度は素子を作るための半導体材料の「質」を評価するための指標としてしばしば使われる。
(移動度が大きい材料ほど結晶欠陥・不純物が少なく高品質)
6
【演習問題】
(1)銀(Ag)の室温における電気抵抗率は = 1.59 cm である。電気伝導率を求めよ。
(解)

1


1
 6.29  105 S/cm =6.29  107 S/m
6
1.59  10   cm
ここで単位 S(シーメンス) = 1/である。また、SI 単位系では m が基本だが、電気抵抗等では cm
が頻繁に使用される。注意せよ。
(2)銀の結晶では電子密度は n = 5.861022 cm3 である。緩和時間s を求めよ。但し電子の質量
は真空中の値と同じとする。
(解) 式(3-4)より
=
q2n s
m
これより  s = 2
m
q n
電子密度は、n = 5.861022 cm3 = 5.861022 106 m3 = 5.861028 m3
伝導率は、 = 6.29107 1m1
s =
m
2
q n

6.29  107  1  m 1  9.11  1031 kg
1.602  1019 C 
2
 5.86  1028 m 3
 3.81  1014
s の単位は s(秒)になるはずである。確かめよ。
(3)銀での移動度を求めよ。
(解)式(3-5)より

q s 1.602  1019 C  3.81  1014 s

 6.70  103 Cs/kg
31

m
9.11  10 kg
単位について:
1C の電荷を 1V の電位差を運ぶのに要するエネルギーは 1J である。よって C= VJ 
従って、 Ckgs 
kgm 2
s
2
s 
 V1  kg
kgm 2
s2
 V1
m 2 であるから、
V s
 = 6.70103 m2/(Vs) = 6.70103104 m2/(Vs) = 6.7010cm2/(Vs)
移動度に対しては cm2/(Vs)の単位が慣用的によく使われる。
(4)長さ 1cm の銀でできた円柱がある。この両端に1V を印加する。ドリフト速度を求めよ。
(解)円柱内の電場は E = 1 V/cm = 100 V/m
式(3-1)および(3-5)より
vD   E  67 cm 2 /  V  s   1 V/cm = 67  104 m 2 /  V  s   100 V/m =0.67 m/s
7
(5)ドリフト速度 vs フェルミ速度
銀のフェルミ速度を計算して、前問で求めたドリフト速度と比較せよ。
(解)フェルミ速度 vF は§1-6の演習問題で Na の場合について計算した。銀の場合について
同じように計算すると vF = 1.4106 m/s となる。
ドリフト速度は 0.67 m/s であるから、フェルミ速度の方がけた違いに速い。電場を印加すると、フ
ェルミ速度でランダムな向きに動いている電子の速度はほんの少しだけ電場の方向の成分があ
らわれ、これによって電流が流れる。
E
vk1
vk4
vk7
vk6
vk1
vk2
vk3
vk3
vk4
vk7
vk5
vk2
vk5
vk6
速度は


vF  vD
vD << vF

vF の平均はゼロ

vD の平均は残る: 電場と
反対向き
電場を印加
電場がない場合
電場方向の微小
な成分(赤矢印)
が加わる
フェルミ速度程度の超高
速でランダムに飛び回っ
ている
(6)平均自由行程 (mean free path) l
電子が衝突と次の衝突の間に走行する距離の平均値



・一つ一つの電子の速度は vF  vD  vF
・衝突の平均時間間隔は 2s = 7.61014 s
従って
l = vF  2s = 1.4106 m/s 7.61014 s =1.1107 m  100 nm
銀の結晶の格子定数は 0.4 nm 程度であるので、
「平均自由行程」 >> 「格子定数」
銀イオンは 0.4 nm 間隔で並んでいるが、平均自由行程はこれよりも 250 倍長く、結晶格子に規
則的に並んでいる銀イオンは散乱体とはなっていない(電気抵抗の原因とはなっていない)こと
が示される。
(7)電気伝導率の温度変化
式(1-4)付近で述べたようにはキャリア密度と緩和時間で決まる。
a)金属の場合
8
電子密度 n は温度によらない(元素の種類できまる)。したがって緩和時間s の温度変化で
の温度依存が決まる。
導電率
抵抗率
高温域


低温域
T
T
・高温域では電子と格子振動との衝突でs は決まる。
高温振動大衝突頻度上昇s は低下 増大 (は低下)
・低温域では電子と不純物・結晶欠陥との衝突でs は決まる。温度によらない一定値
(試料の純度・結晶の質、単結晶か多結晶かで違いが出る)
9
§1-2
エネルギー準位と電子の分布
・古典粒子  Maxwell-Boltzmann(マックスウェル・ボルツマン)分布
・量子力学的粒子(電子、陽子、中性子)  Fermi-Dirac(フェルミ・ディラック)分布
(厳密には量子力学的粒子には 2 系統ある。ここで取り扱う Fermi-Dirac 分布に従う粒子は「ス
ピン」と呼ばれる自転による角運動量が ħ/2 である粒子である。スピンについては後で述べ
る。)
Fermi-Dirac 分布に従う粒子(フェルミ粒子と呼ぶ)は以下の 2 つの性質を持つ。
(1)識別不能
(2)パウリの排他原理(排他律)により、1 つの準位には 1 個の粒子のみ
具体例を考える。まず、3 本のエネルギー準位に 2 個の(識別可能な)古典粒子が分布する場合を
考える。この場合には以下のように (33 = ) 9 通りの分布が可能になる。
2
準位 3
2
準位 2
1
2
準位 1
1
2
1
1
2
2
1
1
2
1
1
2
2
1
これに対して、3 本のエネルギー準位に 2 個のフェルミ粒子(識別不能)が分布する場合を考えて
みると、パウリの排他原理により 1 つの準位には 1 個しか入れないので、可能な分布は
この 3 通りしかない。このように古典粒子と量子力学的粒子ではエネルギー準位への分布の仕方
が大きく違うことに留意する必要がある。更に例を挙げると 4 本の準位に 3 個のフェルミ粒子が分布
10
する場合には、以下の 4 通りになる。(古典粒子では何通りになるか、考えよ)
固体中で電子がこれらのエネルギー準位に分布する場合を考える。エネルギー準位が上に(エ
ネルギーの大きい準位が)無数にある場合に、熱平衡状態においては電子全体のエネルギーが
最小になるような分布が実現する。もし、n 個の古典粒子ならば、下の図のようにすべての粒子が
基底状態(ground state なので g.s.と略す)に詰め込まれている状態が可能で、これが最もエネルギ
ーの小さい状態になる。
第 1 励起状態
1
2
3
n
基底状態
古典粒子の場合に実現する分布
11
これに対して n 個のフェルミ粒子の場合には、
n+2
空席
左図のように n 本の準位に 1 個ずつ分布して、n
n+1
空席
番目の準位まで占有される。このようにエネルギ
n
n 本目の準位
まで占有
ー準位に n 個の粒子が分布する場合でも古典
粒子の場合とフェルミ粒子では全く違うために全
電子のエネルギーも違ってくる。
3
占有
2
占有
1
占有
フェルミ粒子の場合に実現する分布
室温(300 K)などの T > 0K(この場合を絶対
零度に対して、有限温度と呼ぶ)では、熱励起に
空席
空席
熱励起
n 本目の準位
まで占有
より n 番目の準位(最高占有準位)にある電子は
ある確率でそれよりも上の準位に上がっている場
合がある。ここで注意する必要があるのは、下方
の準位ではその上の準位が占有されているので
熱励起は起きないということである。熱励起が起
占有
きるのは最高占有準位あるいはその近傍の準位
占有
に限られる。
これは不可
占有
有限温度フェルミ粒子の分布
12
§1-3
スピンを考慮した電子のフェルミ分布
電子はスピン(自転運動による角運動量)を持つ。(「スピン」の詳細についてはここでは取り扱わな
い。教科書2章§10に説明されている。) ただし、電子のような、量子力学を使って取り扱う必要
のある微小な粒子(Fermi-Dirac 粒子)の自転角運動量は、野球のボールや惑星の自転とは違って、
限られた(2 通り)の値しか持つことが出来ない。
スピン上向き (上から見て反時計方向に自転) ・・・ スピン +
1
,
2
と表記する
スピン 
1
,
2
と表記する
スピン下向き (上から見て時計方向に自転) ・・・
この 2 種は識別可能である。したがってスピンを含めて考えると、10ページ中段の例のように、3 本
のエネルギー準位にスピンが反対向きの2つの電子(スピン反平行の 2 電子)が分布する場合は、
準位 3
準位 2
準位 1
図に示したように 9 通りが可能で、古典粒子の場合と同じになる。一方スピンが両方ともに上向きの
2 つの電子(スピン平行の 2 電子)を 3 準位に詰め込む場合には、
となり、3 通りしかない。
全部で N 個の電子がある場合には、熱平衡では N/2 個がスピン上向き、残りの N/2 個がスピン
下向きとなる。(磁性体ではスピン上向きの電子の数と、スピン下向きの電子の数がアンバランスに
なるが、ここでは上向きと下向きが同数の場合に限って考える) 一つの準位にスピン上向きが 1 個
13
とスピン下向きが 1 個詰め込まれるので、n =
n+2
空席
N/2 本の準位に N 個の電子が 2 個ずつ詰め込
n+1
空席
まれていく。(左図)
n
n = N/2
3
占有
2
占有
1
占有
電子の分布
14
§1-4
自由電子気体のエネルギー準位数:状態密度の計算
(教科書 8 章§6)
ここで固体中での準位の数を計算する。1 辺の長さが L である立方体をした固体の中の電子状態
を考える。(ここでは格子点にある原子(正イオン)によるクーロンポテンシャルは無視する。)
L
L
(この図はカラー)
L
L
原子によるポテンシャル
を無視
L
L
結晶
原子(正イオン )は電子にクーロン力を及ぼす
自由電子気体
一辺の長さ L の箱の中を電子が運動している
更にこの箱をいくつも接触させて積み重ねた場合を考える。
箱のサイズ L が数ミリメートルから数センチメートル程度のマクロな大きさ
である場合には、箱を積み重ねても電子状態に変化はない経験則
一辺の長さが L の立方体中の電子状態を計算する。そのために時間を含まないシュレーディンガ
ー方程式を解くが、ポテンシャル V(r) = 0 なので、(「量子物理」講義資料§4 を参照)、

2
2 
2   2
 2  2  2  ( x, y , z )  E  ( x, y , z )
2m  x
y
z 
(1-6)
これは変数 x, y, z に対する偏微分方程式であるが、各座標変数ごとに変数分離される。つまり
( x, y , z )   x ( x ) y ( y ) z ( z )
E  E x  E y  Ez
と置いて、これらを式(1-6)に代入すると
15
 2 y ( y )
 2 x ( x )
 2 z ( z ) 
2 
x
z
x
y

(
)

(
)

(
)

(
)

 y ( y ) z ( z )



x
z
x
y
2
2
2

2m 
x
y
z







 E x  E y  E z  x ( x ) y ( y ) z ( z )
両辺を x ( x ) y ( y ) z ( z ) で割ると、

 1   2  2 x ( x ) 
  1   2  2 y ( y ) 








E
E



x
y
2
2



(
)
2

(
)
2
x
m
y
m


x
y


x

   y





xだけに依存
yだけに依存
 1   2  2 z ( z ) 



E
 

z  0
 z ( z )  2m z 2 



zだけに依存
この式が任意の x, y, z に対して成立する条件は各項が独立にゼロであること。したがって以下に示
すように各成分ごとの常微分方程式 3 点セットが得られる。
  2 d 2 x ( x )
 E x x ( x )

2
 2m dx
  2 d 2 ( y )
y
 E y y ( y )

2
2
m
dy

  2 d 2 ( z )
z

 E z z ( z )
2
m

dz 2
これらの常微分方程式は「量子物理」において自由粒子のシュレーディンガー方程式として出てき
た形であり、その一般解は次の形を持つ。
ik x x
ik x x
 x ( x)  
Ae
Be
  


右向進行波
左向進行波
(但し、 k x 
2mE x
)

(1-7)
y 方向、z 方向についても同様の関係が成り立つ。ここで k = (kx, ky, kz)は波動の「波数」ベクトルま
たは「角波数」ベクトルと呼ばれる量で、その長さ k  k は波長と k  2 という関係にある。また、
ド・ブロイ波の関係式から波数ベクトルは電子の運動量 p と p = ħk という関係が成り立つ。(「量子
物理」の講義資料を参照)
次に境界条件を考える。ここでは固体(結晶)を取り扱う際に特有な境界条件を課すことになる。
次の図に示すように一辺 L の立方体が無限につながっている場合を想定する。
16
(この図はカラー)
L
x0+L
x0
すべての立方体は同一
(同等)で区別できない
x0+2L
x
L
L
L
この点の電子状態と
これら 3 点は同等
で電子状態は同一
この点の電子状態と
 x ( x0 )   x ( x0  L)
この点の電子状態と
各立方体の同等性から任意の x に対して
 x ( x )   x ( x  L)   x ( x  2 L)   x ( x  3L)  ・・・
となることが要求される。(y 方向、z 方向についても同様) この形の境界条件は周期的境界条件と
呼ばれる。従って x 方向の波動関数 x(x) に対しては、

(1)微分方程式
 2 d 2 x ( x )
 E x x ( x )
2m dx 2
を満たし、かつ
(2)周期的境界条件
 x ( x )   x ( x  L)
を満足することが要求される。この微分方程式の一般解は式(1-7)の形でこれに周期的境界条件を
課すと、
Aeik x x  Be ik x x  Aeik x ( x  L )  Be ik x ( x  L )
 eik x L Aeik x x  e ik x L Be ik x x
この関係式が任意の x について成立する条件は e
k x  0, 
ik x L
 1 かつ e ik x L  1 。これより
2
4
2 n x
(nx は正・負の整数)
, 
,    、つまり k x ,n 
L
L
L
従って波動関数は規格化定数を1にとって、
 x ,n ( x )  e
ik x ,n x
という形に表記することが出来る。(n が正の場合には右向進行波、負の場合には左向進行波)
この波動関数に対応した電子エネルギーは k x 
E x ,n 
2mE x /  より、
2 2
 2 4 2 2
k x ,n 
nx
2m
2m L2
となる。同じ計算を y, z 方向に対して行うと、全波動関数として
( x, y , z )   x ,nx ( x ) y ,n y ( y ) z ,nz ( z )  e

i k x ,n x  k y ,n y  k z , n z

2
2
2
但しここで、 k x,n 
n x , k y ,n 
n y , k z,n 
n z ここで (nx, ny, nz) は整数(正・負)である。
L
L
L
電子のエネルギーは次式で表される。
17
Ek 
2
2 2
2  2 
2
2
2
k x ,n  k 2y ,n  k z2,n 

 n x  n y  nz
2m
2m  L 




エネルギー準位数を数えるのがこの節の目的なので、下から数えていく。
・最低エネルギー状態(基底状態)は 1 本だけで、
 nx , n y , nz    0, 0, 0 の場合で Ek = 0
・次にエネルギーの小さい状態は・・・
 nx , n y , nz    1,0,0 
or
 0, 1,0 
or
 0, 0, 1 の場合(6 本)
2 
2 
 2



波数ベクトルを書くと、 k    ,0,0  or  0,  ,0  or  0,0,  
L
L
L 





6 本の準位は同じエネルギーで、 Ek 
2  2 


2m  L 
2
・その次は・・・
 nx , n y , nz   1,1, 0 ,
1, 1, 0  ,  1,1,0  ,  1, 1, 0  ,
1,0,1 , 1, 0, 1 ,  1, 0,1 ,  1, 0, 1 ,
 0,1,1 ,  0,1, 1 ,  0, 1,1 ,  0, 1, 1
 2 2   2 2   2 2 
,
,0, 
,
,0,  
,
,0  ・・・、(以下省略)
L   L L 
 L L   L
波数ベクトルは k  
12 本の準位が同じエネルギーで Ek 
2
2  2 

 2
2m  L 
・更にその次は・・・ (以下省略)
エネルギー準位の本数は以下のようにして数えることが出来る。(kx, ky, kz)を軸とする 3 次元座標系
を設定して、
2
の間隔で格子を描く。各格子の交点が一つ一つの準位に対応し、原点からの距
L
離の 2 乗がエネルギーの大きさになる。
18
kz
(この図はカラー)
この点が(kx, ky, kz) = (0, 0, 0) で
最低エネルギー準位に対応する
ky
2/L
kx
2/L
この 6 つの交点が Ek 
(この図はカラー)
2
2  2 

 の 6 本の準位に対応
2m  L 
E よりも小さいエネルギーを持つ準位の総数を
kz
数える。 E 
2 2 2 2
k 
k x  k 2y  k z2
2m
2m


なの
で
2mE
k x2  k 2y  k z2 
2
左図で半径が
ky
2mE
2
2mE
2
の球を描いて、「その内
側にある格子点の数」が E よりも小さいエネル
ギーを持つ準位の総数ということになる。
kx
ということで、「その内側にある格子点の数」を
数える必要があるのだが、そのために、一つの
準位を表す格子点の占める「体積」を考える。
2/L
(この「体積」は電子が動き回っている 1 辺の長
さが L の立方体の体積とは全く別のもの)
左図のように一つの格子点(赤丸○)の周りに
/L
は前後、左右、上下に 6 つの隣接する格子点
2/L
(緑丸○)が距離 2/L だけ離れて存在する。し
たがって一つの格子点が占める「体積」は
2/L
(この図はカラー)
19
1/2
3
2mE  2mE 
 2 



 である。半径が
 L 
2
 2 
4  2mE 
である球の「体積」は  

3  2 
3/2
であり、1 つの格子点
3
 2 
(準位)の占める「体積」は   なので、E よりも小さいエネルギーを持つ準位の総数は
 L 
4  2mE 


3  2 
3/2
 2 / L 3
L3  2mE 
 2 2 
6   
3/2
V  2mE 
 2 2 
6   
3/2
ここで V = L3 は自由電子気体が動き回っている立方体の体積。
ここで§1-3で説明したように電子にはスピン上向きとスピン下向きの 2 種類があるので、各準位
にはスピン上向電子とスピン下向電子の 2 個ずつ入ることが出来る。したがって E よりも小さいエネ
ルギーを持つ準位の総数(これを電子の「状態数」N(E)と呼ぶ)は
V  2mE 
N (E)  2  2  2 
6   
3/2
3
V  2m  2 3
 2  2  E2
3   
(1-8)
そうすると、エネルギーが E とそれよりほんのわずかに大きい E + E の間にある状態の数は、
3
3
3


3
3
V  2m  2 
V  2m  2 23  E  2 23 
2
2
1 
N ( E  E )  N ( E ) 
E  E   E  
E  1 







E 
 3 2   2 
3 2   2  


(1-9)
ここで、E/E は 1 よりも小さい微小量なのでテーラー展開を使うことが出来る。
3
3
1  x  2 で x が 1 よりも小さい場合にはテーラー展開により 1  x  2
 1  3 x と近似することが出来る。
2
(テーラー展開については、数学の教科書を参照せよ) 式(1-9)において x = E/E と置けば、
3


3 
 E  2 
 3 E   3 12
E  1 

1
  E 2  1 

  1  E E
E
E
2



  2



3
2
従って、次のように 3 次元電子のエネルギーE における「状態密度」が得られる。
3
V  2m  2 1
N ( E  E )  N ( E )  2  2  E 2 E
2  
  

状態密度
3
状態密度:
V  2m  2
D( E )  2  2  E
2   
(重要な式)
(1-10)
(教科書 150 頁式(8.48)の Z(E)は単位体積での状態密度なので、D(E) = V Z(E)の関係にある。)
注意:「状態密度」という用語の意味は、エネルギーE を変数として考えた場合に、あるエネルギー
E0
E
E
E0 の近傍で幅がE の区間には、スピン
上向とスピン下向を合わせて電子
D(E0)E 個分の状態(準位)がある、という
この区間に電子 D(E0)E 個分の
状態(準位)がある
意味である。
20
§1-5
Fermi-Dirac 分布
(教科書 8 章§7)
温度 T の熱平衡状態でエネルギーが E である状態(準位)に粒子が存在(分布)する確率は
Fermi-Dirac 分布(略してフェルミ分布)で与えられることがよく知られている。(ここでは基底状態の
エネルギーをゼロとして、これをエネルギーの基準とする。)
(1) T  0 K の極限では・・・
・基底状態 E = 0 から n 番目の E = EF の状態まで
粒子が占有している:確率 = 1
・E > EF の状態には粒子は存在しない:確率 = 0
Fermi-Dirac 分布関数
T = 0 の場合
(なお T  0 K での最高占有状態をフェルミ準位
占有確率
1.0
またはフェルミレベル、そのエネルギーをフェルミ
エネルギー EF と呼ぶ)
E
EF
(Fermi Energy)
E=0
(g. s.)
これは前頁の左上の図に描かれた状態に対応
する。横軸に準位のエネルギーをとり、縦軸に各
準位の占有確率をプロットすると、左図に示すよ
うに 0 < E < EF の領域で 1.0, EF < E ではゼロに
なる。つまり、0 < E < EF には粒子が必ず占有し
ており、一方 EF より上の準位は空ということであ
る。
Fermi-Dirac 分布関数
T > 0K の場合
(2) 有限温度つまり T > 0 K の場合では・・・
1.0 よりも小さい
占有確率
1.0
左図に示すようにフェルミエネルギーよりも少し
小さいエネルギーを持つ状態にある粒子が熱励
熱励起
起されて EF よりも少し上の状態に分布する。この
ために EF 近傍の占有確率は 1.0 から 0.0 に滑ら
E
かに減少していく。
EF
E=0
Fermi-Dirac 分布関数
高温の場合
1.0
占有確率
(3) 更に温度が上昇すると左図のように EF 近傍
がなだらかになってくる。
熱励起
E
E=0
EF
21
上記のフェルミ分布は Fermi-Dirac 分布関数(略してフェルミ分布関数)で与えられる。あるエネルギ
ーE の状態を粒子が占有する確率 fFD は E の関数として次式で与えられる。
f FD ( E ) 
1
1 e

( E   )/ k B T
1
(重要な式)
1  exp ( E   ) / k BT 
(1-11)
ここで T は絶対温度、kB はボルツマン定数である。また、 は化学ポテンシャルと呼ばれる量で、T
= 0K ではフェルミエネルギーに一致する。( = EF at T = 0 K)
化学ポテンシャルは温度に依存するので T > 0K では と EF は等しくなくなるが、その差は
小さく、多くの場合に の代わりに EF を使っても大きな間違いは生じない。
この関数を具体的にプロットしてみると・・・
(1) 特別の場合 T  0K (絶対零度)
・E <  の領域では E   < 0 なので e(負の量)/ kBT であり、極限 T  0 では e  0
・E >  の領域では e(正の量)/ kBT であり、極限 T  0 では e+ なので、
 fFD 1
1
 0  fFD  0
1  e 
従って、E =  で 1 から 0 にステップ状に変化する。(前頁で一番上の図に該当する)
(2) 温度が上昇すると・・・ 関数電卓
1.0
10K
占有確率
を使って実際に計算してください。
77K
0.8
左に示した図は、
300K
0.6
 = 0.1 eV で、
T = 10K, 77K, 300K
0.4
の場合のフェルミ分布関数のプロット
0.2
である。
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
エネルギー(eV)
22
§1-6
「状態数」と「電子数」との区別
電子が入る(占める)ことが出来る状態があるということと、実際に電子がその状態を占めているとい
うことは区別する必要がある。§1-2と§1-3に示したように T  0K ではフェルミ粒子は各状態
を下から 1 個ずつ占めて行って、フェルミレベルを最後の粒子が占める。(電子ではスピンのため
に各状態を 2 個ずつ占める) T > 0K では熱励起のためにフェルミレベル近傍の電子はより上の状
態を占めるようになる。「状態」があってもその状態を電子が占めているとは限らないので、「状態
数」と「電子数」は同じにはならない。
電子を人に、状態をイスに例えて考えてみる。
電子
 人
状態(準位)  イス
T  0K の場合
E
この段がフェルミ準位
E
(この図はカラー)
ひな壇があり、そこにイスが並べられている。
・ひな壇の高さがエネルギーに相当しており、上に行くにしたがってエネルギーは大きくなる。一段
上がるとエネルギーはE だけ大きくなる。
・ひな壇に用意されているイスが「状態」(準位)を表しており、ひな壇の上の方に行くにしたがって
(エネルギーが大きいほど)各段に用意されているイスの数は多くなる。一つの段に用意されたイ
スの数がエネルギーE の状態の数 D(E) E を表す。
・人が電子に対応しており、(パウリの排他原理により)一つのイスには一人しか座ることが出来ない。
ひな壇の上の方まで登るの面倒なので、できるだけ低い段の空いているイスに座りたい。
上に描いた図では 11 人がちょうど 4 段目までを占有しており、T  0K の場合に相当している。4
段目が「フェルミレベル」に該当する。Fermi-Dirac 分布関数は一つのイスに人が座る確率を表して
いる。この場合には 1 段目から 4 段目までにある 11 個のイスでこの確率は 1 になっている。(それよ
り上ではゼロ)
23
次に T > 0K の場合を考える。この場合には 4 段目のフェルミレベルに座っていた一人が(熱励
起のために)元気になり、一つ上の 5 段目まで登っていき座っている。4 段目では 5 席中 4 席が占
有されているので、一つのイスが占有される確率は 3 段目では fFD(3 段目) = 1.0、fFD(4 段目) = 0.75、
一方 5 段目は 6 席中 1 席が占有されているので fFD(4 段目) = 0.166・・・ということになる。
T > 0K の場合
E
この段がフェルミ準位
E
(この図はカラー)
この場合に人の数(電子数)を計算するには、各段ごとにフェルミ分布関数とイスの数をかけて、こ
れをすべての段で合計すれば求められる。つまり、

人の数 =

fFD(n 段目)  (n 段目のイスの数)
n 1
= fFD(1 段目)1 脚+fFD(2 段目)2 脚+fFD(3 段目)3 脚+fFD(4 段目)5 脚+fFD(5 段目)6 脚・・・
= 1.01 脚+ 1.02 脚 + 1.03 脚 + 0.755 脚 + 0.1666 脚 ・・・ = 11 人
実際の固体中の電子の場合には準位間のエネルギー差は小さいので和は積分になり、
電子の総数

n   f FD ( E ) D( E )dE
0
(重要な式)
(教科書 155 頁) この式は「半導体工学」等で使われる極めて重要な関係式である。
fFD(E)
D(E)
この部分の面積が
電子数 n
E
E=0
EF
(この図はカラー)
24
(1-12)
特に T  0K では
fFD(E) = 1 for 0 < E < EF,
fFD(E) = 0 for EF < E ,
であるから、計算は簡単になり、

EF
0
0
n   f FD ( E ) D ( E )dE  
D ( E )dE
3
3
(1-13)
3
E
V  2m  2 EF 1
V  2m  2  2 3  F
V  2m  2 3
 2  2   E 2 dE  2  2   E 2   2  2  E F2
2    0
2     3 0
3   
3
V  2m  2 23
この関係式 n 

 E F は体積 V の自由電子気体において(スピン上向と下向を合わ
3 2   2 
せた)電子数 n とフェルミエネルギーEF の関係を決める重要な関係式である。

2
2

また、フェルミエネルギーを与える波数をフェルミ波数 kF と呼ぶ。 E F  2m k F 。これを使うと
n
V
3 2
k F3 という関係式が成り立つ。
14 ページ中段に示した kx, ky, kz を軸としたプロットでは半径 kF の球面の中にある状態が占有される。
ちょうど球の表面にあたる状態がフェルミエネルギー(あるいはフェルミ波数)を持つ状態に相当す
る。このためこの球の表面をフェルミ面と呼ぶ。
kz
この球面がフェルミ面
kF 
2mE F
2
ky
kx
25
【演習問題】
1.右の図のように 4 本のエネルギー準位があり、ここに 4 つの電子が入
る。但し電子はスピン上向が 2 個、スピン下向が 2 個。
(1)T  0K において全体のエネルギーが最小となる電子の分布(基底
状態)を描け。
(2)次にエネルギーの小さい分布(第 1 励起状態)を描け。(複数の可能
性がある。)
2.EF = 0.1 eV の場合についてフェルミ分布関数 fFD(E)を描け。(1) 0K の場合。(2) 77K の場合。
特に 77K の場合はフェルミエネルギー近傍は関数電卓を使ってきちんと計算せよ。但し、77K でも
 = EF = 0.1 eV とする。
3.エネルギーが E1 から E2 までの間にある状態数を求めよ。
3
3
3
E
V  2m  2 E2 12
V  2m  2  2 23  2
V  2m  2 2 3/2
(解)
D( E )dE 
E dE 
E
E2  E13/2





 2


2
2
2
2
2
E1
 E1 2    3
2    E1
2     3

E2



4.E1 から E2 までの間のエネルギーを持つ電子の個数を求めよ。
(解) n 
E2
E
1
3
V  2 m  2 E2
1
f FD ( E ) D ( E )dE  2  2  
E
dE
E
(

2    E1
1  e EF )/ k BT
この積分は一般には数値積分が必要。前頁式(1-13)のように T  0K の場合には積分可能。
問3と問4での「状態数」と「電子数」の違いに注意。
5.アルカリ金属である Na は自由電子気体モデルでよく記述できる。Na の電子密度は 2.651022
個/cm3 である。フェルミエネルギーEF を求めよ。(T  0K の場合)
(解)
T  0K の場合では電子数 n とフェルミエネルギーEF の関係は、前頁式(1-13)より
2
3
3
V  2m  2 3
 2  3 2 n 
2
n  2  2  E F2 , これより E F  
3 2 
 , 電子密度は = n/V なので, E F 


2
m
V
2
m
3   




2
3
あとは数値を代入して計算すると、EF = 3.24 eV
6.(フェルミ波数、フェルミ運動量、フェルミ速度)
2
2
フェルミレベルにある電子ではフェルミエネルギーEF とフェルミ波数 kF の間に E F  2m k F という関
26
係がある。また 16 ページにあるように、波数ベクトル k と電子の運動量 p の間には p = ħk という関
係が成り立つ。これらより以下の 3 つの量が定義される。
kF: フェルミ波数
pF = ħkF: フェルミ運動量
vF = pF/m: フェルミ速度
フェルミ運動量とフェルミ速度はそれぞれ最もエネルギーの大きい状態を占有している電子の運動
量と速度とみなすことが出来る。
前問で Na のフェルミエネルギーは 3.24 eV であった。フェルミ速度を求めよ。
2
(解) その定義より E F  12 mvF である。前問より EF = 3.24 eV = 5.191019 J と求められたので、
vF = 1.07106 m/s  かなりの高速
注意
フェルミ面付近の電子はかなりの高速で動いているが、その進行方向(速度ベクトルの向き)はラン
ダムである。したがって全体としては(重心)は静止している。(電流は流れない)
27
2章:エネルギー帯構造(エネルギーバンド) (教科書 9 章)
§2-1
バンドの形成(教科書 9 章§1)
前章では固体中で結晶格子を構成している正イオンを無視したが、この章では規則的に並ぶ正イ
オンにより結晶中の電子状態を特徴づけるエネルギーバンドが生じることを見ていく。
この節では直観的な説明を試みる。そのために有限障壁 1 次元井戸型ポテンシャル中の状態
を考える。(教科書では各格子点にある原子によるクーロンポテンシャル中の状態を考えている)
2つの井戸型ポテンシャル
2本
離れている
接近すると
2本
各準位は独立
2本
3つの井戸型ポテンシャル
離れている
接近すると
離れている
3本
3本
3本
N 個の井戸型ポテンシャルが接近
準位 N 本, 第 3 バンド
準位 N 本, 第 2 バンド
準位 N 本, 第 1(基底)バンド
各バンドに 2N 個の電子が入る
(この図はカラー)
2 つの同じ形の井戸型ポテンシャルが充分離れている場合には、それぞれの井戸に独立に準位が
存在する。(上図ではそれぞれの井戸に 3 本の準位がある。) 井戸を近づけると、2 つの井戸にま
たがって接近した準位ができる。N 個の井戸を近づけるとそれぞれの準位が N 本の準位を含んだ
幅を持つエネルギーバンドとなる。一つのバンドには N 本の準位があり、(スピン上向きとスピン下
向きを合わせて)2N 個の電子を収容することが出来る。
28
§2-2
エネルギーバンドとは何か
前節で見たエネルギーバンドを電子のエネルギーE と運動量 p(あるいは波数 k)との関係として考
えてみる。
初めに真空中では皆さんよく御存じのように (簡
E
単のため 1 次元で考える)
p 2  2k 2
(ここで m は電子の質量)
E

2m
2m
という 2 次式で表される。横軸に波数 k を、縦軸に
放物線
エネルギーE をとってグラフに描けば、左図のよう
に放物線になる。(このようなエネルギーと波数の
k
関係式およびグラフを E-k 分散関係あるいは単に
分散関係と呼ぶ。) 固体中であっても規則的に並
ぶ陽イオンのポテンシャルを無視した自由電子気
真空中での E-k 分散関係
体モデルでは同様の放物線型の分散関係にな
る。
E
それでは結晶中での E-k 分散関係はどのようにな
るだろうか?
E4
E3
電子のエネルギーE は不連続に変化する
E2
E1
 2a
 a
o
(k の関数として E は不連続に変化する)

2
a
a
k
a は結晶の格子間隔
結晶中での E-k 分散関係
(この図はカラー)
波数 k   a ,  2a ,  3a  において、エネル
ギーが不連続に変化する。 (a は結晶の格子定
数)
このために
・ E1 < E < E2,
・ E3 < E < E4,
⁞
これらのエネルギーを持つ k の状態が存在しない。
つまり電子のエネルギーは
○ 0 < E < E1  この区間は連続的に変化
● E1 < E < E2 このエネルギーはとれない
○ E2 < E < E3  この区間は連続的に変化
● E3 < E < E4 このエネルギーはとれない
⁞
29
波数 k をゼロから正方向に変化させていくと・・・
(1) 0  k  a :この区間では電子のエネルギーは 0 < E < E1 の間で連続的に変化
(2) k  a でエネルギーは E1 から E2 に飛ぶ  エネルギーギャプ(energy gap)
(3) a  k  2a : この区間では電子のエネルギーは E2 < E < E3 の間で連続的に変化
(4) k  2a でエネルギーは E3 から E4 に飛ぶ  エネルギーギャプ
⁞
k をゼロから負方向に変化させていった場合も同様である。
つまり k   na (n は任意の整数)においてエネルギーは不連続に変化する。これを「エネルギー
ギャップ」または「バンドギャップ」と呼ぶ。このギャップの大きさを Eg と表記する。
(補足) 横軸の波数 k は連続的に変化するように見えるが、より厳密には・・・
§1-4でみたように、結晶(固体)の大きさ(1 辺の長さ)が L である場合には可能な波数 k の状態
は k  2Ln (n は正・負の整数)に制限される。したがって横軸は不連続に変化する。ただしある k の
値と隣の k の間隔は極めて小さく、この図のスケールで見ると連続とみなして問題はない。
金属 Na を例にとって具体的に見てみる。
格子定数 a = 0.4225 nm
2
L
結晶サイズ L = 1 cm
とすると、

 a
3.1415

 7.4  109 m 1 
a 0.4225  109

7ケタの差
 2 2  3.1415
2 1 

 6.3  10 m
L
1  102


a

一つのゾーンつまり 0  k  a の範囲に 107 個の可能な波数 k がある。
その他の材料でも常に a  2L であり、横軸の波数 k は連続的に分布しているとみなすことが出来
る。
30
§2-3 ブリルアン帯: Extended/Reduced zone(拡張/還元帯域)(教科書 9 章§2、§3)
エネルギーバンドを図で表記する際に 2 つの方法がある。
左図に示した表記は Extended zone 表記(形
E
許容帯
E4
E3
禁制帯
エネルギーを持つことが出来ない範囲を「禁制帯」
許容帯
(forbidden band)またはバンドギャップと呼ぶ。
禁制帯
許容帯
o
 a

2
a
a
k
(この図はカラー)
平行移動
質はフェルミレベル付近のバンド構造より決定され
高エネルギー領域を見やすくするために
平行移動
E4
Reduced zone 表記(形式)を採用する場合が多い。
E3
これは 2 番目以上の許容帯の分散曲線を 2a の整
E2
E1
数倍だけ右あるいは左側に平行移動することにより
o
 a
 2a
するために、広い波数の範囲を描く必要があり、不
る。我々が興味を持つのはこの部分である。)
 2a
E
りよりエネルギーの高い部分(図の上の方)を表示
便である。(2-6 節で見るように、物質の電気的性
Extended zone による表記
2
a
ことが出来る範囲を「許容帯」(allowed band)、その
この形式で表記するとフェルミレベル付近、つま
E2
E1
 2a
式)と呼ばれている。電子がそのエネルギーを持つ

2
a
a
k
Extended zone から Reduced zone へ変換
すべての許容帯を  a  k  a の領域に積み重ね
て描く表記である。(このようなことが許される理由
は§2-5最後の補足を見よ。)Reduced zone 形式
を使うと左下の図のようにかなりコンパクトに表記す
E
ることが出来る。ここで
 a  k  a
E4
の領域を「第 1 ブリルアン帯」と呼ぶ。その外側の
E3
 2a  k   a と
E2
E1

a
o

a
k
2
a
の領域を「第 2 ブリルアン帯」と呼ぶ。さらにその外

k
側が「第 3・・・」、「第 4・・・」と続く。Reduced zone 形
式はすべてのバンド分散を第 1 ブリルアン帯に圧
a
Reduced zone による表記
(この図はカラー)
縮して表現していることになる。ここでは 1 次元の場
合を考えたが、3 次元の結晶では教科書 173 頁図
9.11 にあるように結晶構造により第 1 ブリルアン帯の形が決まってくる。
また、フェルミ面の形も自由電子の場合には球形になるが、現実の結晶では結晶構造と電子数
に応じて複雑な形状を持つ。教科書 174 頁を参照せよ。
31
§2-4
結晶内の電子状態(1):周期的ポテンシャル中の波動関数の特徴:Bloch 関数
結晶中の電子のエネルギーはバンド構造を持つことを述べたが、§2-4と§2-5ではより進んだ
内容として、結晶中の電子状態(詳しく言えば、結晶を構成している陽イオンによる周期的ポテンシ
ャル中の電子の波動関数とエネルギー)を量子力学を用いて厳密に計算してエネルギーバンドを
求る方法を説明する。
その準備として周期的ポテンシャル中の電子波動関数が示す特徴を考える。(以下しばらくの
間簡単のため 1 次元で考える)
・自由電子(結晶による周期的ポテンシャルを無視)の波動関数は、§1-4付近で求めたように平
面波で表される。
 ( x, t )  ei ( kx t ) または ei (  kx t )
空間部分と時間に依存する部分は変数分離されていて、  ( x, t )   ( x )e
ここで空間部分は
k
it
 ( x )  eikx or e ikx 。但し、周期的境界条件を課したので、
2 
(波数 k は正の部分だけを考えることにして (   0,1, 2, ) )
L
・結晶中(格子間隔 a で原子(陽イオン)が周期的に配列)の波動関数は?
周期的ポテンシャル: V ( x  a )  V ( x )
ポテンシャル V ( x ) の形は問わない。周期的であることが重要。
a
Bloch の定理(ブロッホの定理)
このポテンシャル中での電子の波動関数は以下の形になる。
 ( x )  eikx uk ( x ) 但し uk ( x  a )  uk ( x )
つまり、波動関数は(自由電子と同じ)平面波 eikx と結晶と同じ周期 a を持つ関数 uk(x)の積で与
えられる。この形の関数(x)を Bloch 関数と呼ぶ。
(証明)
ポテンシャルは格子間隔 a の周期関数 V ( x  a )  V ( x ) なので、物理的に測定される量、例え
ば電荷(電子)密度も周期 a の関数になる。(これは正しい)
それでは波動関数も同じ周期 a の関数か: (x+a) = (x)?
・・・ これは正しくない。
「量子物理」の講義で見たように波動関数(x)自体は測定・観測される物理量ではない!
2
電荷(電子)密度は  ( x ) に比例する。したがって、  ( x )
になる。(*(x)は(x)の複素共役)
32
2
  * ( x ) ( x ) が周期 a の関数
2
 ( x  a)   ( x)
波動関数への条件: 任意の x に対して
これは、ある複素数 C があって、
 ( x  a )  C ( x ) ,
2
但し C
2
 1 を意味する。
更に、第 1 章での自由電子の波動関数と同じように、結晶の大きさが L として「周期的境界条
件」 ( x )   ( x  L) が成り立つことを要求する。下図のように長さ L の中に n 個の原子が並ん
でいる場合を考える。
a
1
a
2
a
3
L
a
4
a
n
5
n+1
ここでは(x)
ここでは(x+a) = C(x)
ここでは(x+2a) = C(x+a) = C2(x)
ここでは(x+3a) = C(x+2a) = C2(x+a) = C3(x)
ここでは(x+(n1)a) = Cn1(x)
元に戻る (x+na) = Cn(x) = (x)
従って、(図中で最後にアンダーラインを引いた行より) Cn = 1 という複素数 C に対する条件が
出てくる。この条件を満たす C は
Ce
2 i n
(   0,1, 2,  n  1)
という形になる。波動関数がこの条件を満たすようにするには
 ( x)  e
 x
2 i na
uk ( x ) , (但し uk(x)は uk ( x  a )  uk ( x ) という周期関数である)
という形を持つ必要がある。なぜなら、この形の関数であれば、
 ( x  a)  e
e
e
 ( x a)
2 i na
uk ( x  a )
 x 2 i 
2 i na
n
e
 x
2 i n 2 i na
e
uk ( x )
uk ( x )
 C ( x )
となり、 ( x  a )  C ( x ) の条件を満たすことになる。また図より na = L なので、
 ( x)  e
 x
2 i na
uk ( x )  e
i 2L  x
uk ( x )  eikx uk ( x )
最後の式の変形で、周期的境界条件を課したために k  2L  であることを使った。(証明終)
33
Bloch 関数の形
 ( x )  eikx uk ( x )
eikx の実部:三角関数なので
(この図はカラー)
uk(x)は周期 a の関数なので
その積は
eikx を包絡線として uk(x)の振幅が周期的に変化する。
注意:
実際の Bloch 関数は複素数なので、このように描くことは出来ない。上の図はあくまでも「イメージ」
です。
34
§2-5
結晶内の電子状態(2):Kronig-Penney モデル(クローニッヒ・ペニーモデル)
ここからは具体的に周期的ポテンシャルの形を与えて、その中での電子のエネルギーと波動関数
をシュレーディンガー方程式を解いて求める。
結晶格子点にある陽イオンが電子に及ぼすポテンシャルはクーロンポテンシャルでその形(関
数形)は、(この節では格子定数を d とする)
V ( x) 

e2
e2
e2
1  e2



 

4 0  x  d x  2d x  3d x  4d

d
d
2d
3d
4d
この形のポテンシャルではシュレーディンガー方程式は解けない。(紙と鉛筆では解けない。初め
から微分方程式を数値計算で解く必要がある)
そこでポテンシャルをもっと簡単な形に置き換えたモデルを考える。Kronig-Penney モデルでは
周期的凸型ポテンシャルを使う。(高さ V、幅 b)
波動関数
1(x)
2(x)
d
b
V
b
a
V ( x )  0

V ( x )  V
a
2d
d=a+b
3d
0  x  a, a  b  x  2a  b, 2a  2b  x  3a  2b 
(i )
a  x  a  b, 2a  b  x  2a  2b, 3a  2b  x  3a  3b  (ii )
時間に依存しないシュレーディンガー方程式は

 2 d 2
 V ( x ) ( x )  E ( x )
2m dx 2
以下では E < V の場合を考える。
(i)の領域 (V(x) = 0) では
(ii)の領域 (V(x) = V) では
2mE
d 2
2



(
x
)

0
但し、


2
dx 2
2m(V  E )
d 2
2




(
x
)

0
但し、

2
dx 2
(i)の領域での微分方程式の一般解は
 1 ( x )  Aei x  Be i x
一方 Bloch の定理より波動関数は次の形を持つ。
35
(2-1)
 1 ( x )  eikx u1 ( x )
(2-2)
式(2-1)と式(2-2)が等しいので
u1 ( x )  Aei (  k ) x  Be i (  k ) x
(2-3)
(ii)の領域で、微分方程式の一般解は
 2 ( x )  Ce  x  De   x
(2-4)
これも Bloch の定理より、次の形になるはずなので、
 2 ( x )  eikx u2 ( x )
(2-5)
u2 ( x )  Ce(  ik ) x  De  (  ik ) x
(2-6)
式(2-4)と式(2-5)が等しいので
次に境界条件を課す。前頁の図より x = 0 の左側の波動関数は2(x)で、右側は1(x)なので、
・x = 0 で連続かつ滑らか
連続であるためには 1(0) = 2(0), ((x) = eikxu(x)なので)  u1(0) = u2(0)
これと式(2-3)と式(2-6)より、 A + B = C + D
次に、
d 1,2
dx

du1,2
dx
d 1
dx
(2-7)
 iku1,2 ( x ) であるから、滑らかであるためには、

x 0
d 2
dx
du
dx
したがって 1
x 0

x 0
du2
dx
x 0
これより、式(2-3)と式(2-6)を微分して、
i (  k ) A  i (  k ) B  (   ik )C  (   ik ) D
(2-8)
・もう一つ境界条件がある。u1(x) と u2(x) は周期 d の関数なので、前頁の図で x を右からb に近
づけた極限と、x を左から a に近づけた極限では同じになる。(値が等しく、傾きつまり微係数も
等しい)
値が等しい: u1(a) = u2(b)
これより、
Aei (  k ) a  Be i (  k ) a  Ce  (  ik )b  De(   ik )b
(2-9)
微係数が等しい:
du1
dx

x a
du2
dx
x  b
これより
i (  k ) Aei (  k ) a  i (  k ) Be i (  k ) a
 (   ik )Ce  (  ik )b  (   ik ) De(   ik )b
36
(2-10)
上記の式(2-7), (2-8), (2-9), (2-10)が成立するように A, B, C, D を決める。これらは A, B, C, D に対す
る連立方程式と見ることが出来て、
A B C  D  0


i (  k ) A  i (  k ) B  (   ik )C  (   ik ) D  0


Aei (  k ) a  Be i (  k ) a  Ce  (  ik )b  De(   ik )b  0

i (  k ) Aei (  k ) a  i (  k ) Be i (  k ) a  (   ik )Ce  (  ik )b  (   ik ) De(   ik )b  0

行列を使って書くと、
1


i (  k )


e i (  k ) a

 i (  k )ei (  k ) a

1
i (  k )
1
(   ik )
e i (  k ) a
e  (  ik )b
i (  k )e i (  k ) a
(   ik )e  (  ik )b
1
(   ik )
 A
 
 B   0
(   ik ) b
 C 
e
 
(   ik )e(  ik )b   D 
この連立方程式が(すべてゼロ 「A = 0 かつ B = 0 かつ C = 0 かつ D = 0」 という無意味な解以
外の)解を持つ条件は、係数の行列式がゼロになること、つまり
1
i (  k )
1
i (  k )
1
(   ik )
1
(   ik )
ei (  k ) a
e i (  k ) a
e  (  ik )b
 e(   ik )b
i (  k )ei (  k ) a
i (  k )e i (  k ) a
(   ik )e  (  ik )b
(   ik )e(  ik )b
0
4 行 4 列の行列式を計算するためには「余因子展開」を使う。(線形代数の教科書を参照)
結果だけ書くと

e ia (  k )  b eibk (  i  )2  ei ( bk  2 a )  2b (  i  )2  ei ( bk  2 a ) (  i  )2  eibk  2b ( i   )2


 e ia (  k )  b 4i eia (  k )  b  eia (  k )  b(   2ik )  0
整理して、オイラーの公式および双曲線関数の定義
eia  e ia  2 cos a
eia  e ia  2i sin a
ea  e  a  2 cosh a
ea  e  a  2 sinh a
を使うと、
 2 2
sinh(  b) sin( a )  cosh(  b) cos( a )  cos  k  a  b)  
2
(2-11)
この式が電子の波数 k とエネルギーE の関係を与える。具体的にある波数 k の場合のエネルギー
を求めるには・・・、 k を与えると右辺 cos  k  a  b)   の値が決まる。(a, b はポテンシャルの形として
37

初めに与えられている) この右辺の値に左辺が等しくなるようにとを決めていく。これらが決ま
れば

2mE
2

あるいは
2m(V  E )
2
よりエネルギーE が決まる。残念ながらこの計算は数値計算で求めるしかない。エネルギーギャップ
が出来ることは以下のように式(2-11)の左辺をa の関数として(関数電卓で計算して)プロットして
みると理解できる。まず、  a  a 2mE
なので、横軸は E に比例していることになる。
2

許容帯
禁制帯
許容帯
許容帯
禁制帯
許容帯
右 辺 cos[k(a+b)]
はこの範囲のみ
禁制帯
左辺
1
a
cos[k0(a+b)]
1
(この図はカラー)
図のように左辺の関数は  a  a 2mE
を横軸にプロットすると振動し、振幅は1 よりも大きくなる。
2

(図中の青色の曲線)
一方右辺は1 < cos[k(a+b)] < 1 の範囲内にある。したがって「左辺 = 右辺」の条件を満たす
ことが出来るのは図中で赤の実線で示した領域のみ。
この領域では(1) k0 を与えると、(2) cos[k0(a+b)]の値が決まる。(3) この値を持つ水平線(赤い点
線)と左辺の振動する曲線との交点を複数見つけることが出来る。(4) この交点での横軸
 a  a 2mE
の値からエネルギーを求めることが出来る。この領域が許容帯に該当する。
2

他の領域では左辺の値が1 を越えるので対応する波数 k の値が存在しない。ということはこの
領域でのエネルギーE に対応した k は存在しない。この領域が禁制帯に該当する。
この状況は E を k の関数とみると、E(k)において k を連続的に変化させた場合に、ある k で E(k)
は不連続に変化することを示す。
Kronig-Penney モデルのまとめ
この節では結晶中で電子のエネルギーがバンドギャップを持つことを示すために、周期的凸型ポ
テンシャル中での電子の波数 k とエネルギーE の関係を計算した。実際に結晶中の電子が受ける
ポテンシャルの場合に数値計算が必要になるが、やはりバンドギャップを持つことが示される。
38
補足: Reduced zone(還元帯域表記)が可能である理由
§2-3において E-k 分散関係を描く場合に Reduced zone 表記が使われることを述べ、このような
表記が許される理由は、結晶中の電子の波数 k には 2d n だけの不定性があり k0 の状態と
k0  2 n の状態は同じであるとみなせるためである、と説明した。(注意:§2-3では結晶の格子
d
定数を a としたが、この節では格子定数は d = a+b である。35 ページの図を参照せよ。)これを
Kronig-Penney モデルを使って証明する。
Kronig-Penney モデルにおいて k と E の関係を決める式は式(2-11)である。
 2 2
sinh(  b) sin( a )  cosh(  b) cos( a )  cos  k  a  b)  
2
(2-11)
波数 k は右辺に現れる。波数が k0 の場合には cos[k0(a+b)]であるが、 k0  2d n とすると、




cos  k0  2d n  a  b)    cos  k0  a2b n  a  b)    cos  k0 ( a  b)  2 n   cos  k0 ( a  b) 




したがって、波数は k0 であっても k0  2 n であっても式(2-11)の右辺は同じ cos[k0(a+b)]となり、同
d
じ E を与えることになる。よって還元帯域表示が可能になる。
39
§2-6
バンド構造と物質の電気伝導の関係
(教科書 9 章§6)
バンド構造はその物質の電気伝導特性、つまり金属(導体)か誘電体(絶縁体)か半導体かを決定
する重要な要素である。(以下還元帯域表記を用いる)
(1)金属(導体)のバンド構造
金属のバンド構造:電場が無い場合
金属の場合には一番上のバンド(伝導帯、
conduction band)の途中までの状態を電子が
E
占めており、それよりエネルギーの大きい状
伝導帯
空席
EF
Fermi energy
態は空席となっている。電子の最大エネルギ
ーがフェルミエネルギーにあたる。また、伝導
ここまで電子が占有
kF
帯より一つ下の(完全に電子が占有している)
バンドを価電子帯(valence band)と呼ぶ。(左
kF
図を参照。以下簡単のために 1 次元で考え
k
すべての状態を電子
が占めている
る。)
伝導帯においては、電場が印加されてい
価電子帯
ない状態では運動量(結晶中の電子の運動
2 の間隔で電子状態がある
L
量なので「結晶運動量」と呼ぶ)p = ħkF から
+ħkF までの状態がすべて占められているの
すべての状態を電子
が占めている
第 2 バンド
で、結晶運動量 pi を持つ電子に対して必ず
pi を持つ電子が存在して、運動量の和はゼ
ロとなる。電子全体の「重心」は静止している
ので、電流は流れない。(これは価電子帯以
下のバンドでも同様である。)
一方、電場を印加した場合には電子は電
基底バンド
基底バンド
場により加速される。左下に示した図の場合
には、右向きの力を受けて電子は結晶運動
量が右側の状態に移っていく(図の赤矢印)。
金属のバンド構造:電場 E を印加
E
eE
この結果負の運動量を持つ電子が減少して、
電子の受ける力
正の運動量を持つ電子が増える。全体として
正の運動量を持つことになり、重心は右向き
に進む。(電流は左向きに流れる)
伝導帯
電子が途中まで占めている一番上にある
バンドはこのように電気伝導を担っているの
で「伝導帯」と呼ばれる。
k
(この図はカラー)
40
(2)誘電体(絶縁体)のバンド構造
誘電体のバンド構造
誘電体の場合には伝導帯は完全に空席にな
E
っているのに対して価電子帯ではすべての状
態を電子が占めている。このため電場を印加
伝導帯
空席
しても、電子は他の状態に移ることができない。
金属の場合で見たように電流が流れるのは電
場により電子が加速されて隣の状態に移り、
バンドギャプ Eg
左向きと右向きの運動量にアンバランスが生
k
じるためだが、誘電体ではこれが起きないの
すべての状態を電子
が占めている
で電流は流れず、絶縁体となる。
価電子帯
(3)半導体のバンド構造
半導体の場合には純度の高い「真性半導体」
半導体のバンド構造:T  0K
(intrinsic semiconductor)とドーピングと呼ばれ
E
る方法で他の原子を混ぜて電子数を制御した
「不純物半導体」とに分けて考える必要がある。
この節では純粋な物質としての半導体(真性
伝導帯
空席
半導体)の電気伝導特性を説明する。
T  0K においては半導体のバンド構造は、
誘電体の場合と同じで、伝導帯は完全に空席
Eg
k
になっているのに対して価電子帯ではすべて
すべての状態を電子
が占めている
の状態を電子が占めている。誘電体との違い
価電子帯
はバンドギャップ Eg の大きさにある。誘電体の
Eg が 4 eV あるいはそれ以上であるのに対して、
半導体の Eg は比較的小さい。この違いは室温
付近 ( 300K) における電子分布に影響する。
半導体のバンド構造:室温付近
バンドギャップが小さいために室温程度でも価
E
電子帯の頂上付近にいる電子が伝導帯に熱
励起される。(誘電体では Eg が大きいために
伝導帯
空席
かなりの高温にならないと熱励起は起きない)
これらの電子は電場を印加されると隣の状態
に移ることが可能であり、電流が流れる。一般
熱励起
k
に温度が高いほど熱励起される電子数は多い
ので電気伝導率は大きくなる。
価電子帯
占有
(この図はカラー)
41
§2-7
(教科書 9 章§5)
半導体における電気伝導:正孔
前節の最後に述べたように熱励起により価電
半導体の電気伝導:電場 E を印加
子帯から伝導帯に励起された電子は電場が印
E
加されると左図のように右向きに運動して、その
E
結果左向きの電流が発生する。(これは金属の
場合と同じ)
半導体ではこれに加えて熱励起により空席
伝導帯
空席
のできた価電子帯も電気伝導に寄与する。な
ぜなら・・・熱励起により価電子帯頂上付近に空
eE:電子の運動
k
席が出来る。そうすると(伝導帯と同じように)価
eE:電子の運動
運動する。全体として右向きの運動量を持つ電
電子帯の電子も電場から力を受けて右向きに
子が増えるので、電流は左向きに流れる。
価電子帯
占有
(この図はカラー)
この現象を「空席」に着目して考えてみると、
「空席」はあたかも正電荷を持つ粒子のように
ふるまい、左向きの電場によって左向きに加
速される。全体として左向きに電流が流れる。
半導体の電気伝導:電子と正孔による電流
E
E
この「空席」を正電荷を持つ粒子とみなし、正
孔(英語では hole)と呼ぶ。正電荷の大きさは
電子が持つ電荷と同じで符号は逆になる。
以上をまとめると室温の真性半導体では熱
伝導帯
励起された電子(負電荷)と正孔(正電荷)が
電気伝導を担う。電子と正孔はそれぞれ伝導
eE:電子の運動
k
eE
帯と価電子帯に同数あり、電場を印加すると
正孔は電場と同じ向き、電子は反対向きに運
動する。電気伝導はこれら 2 種類の粒子(電子
正孔の運動
と正孔をまとめてキャリアーと呼ぶ)の流れによ
価電子帯
りおきる。
(この図はカラー)
42
E
伝導帯
伝導帯
空席
電子のエネルギー
E
空席
Ee
ここに電子
ここに正孔
Eg
Eg
価電子帯
価電子帯
正孔のエネルギー
k
k0
k
Eh
(この図はカラー)
最後に正孔のエネルギーについて注意を喚起する。T  0K の場合を考えて、何もない状態か
ら、伝導帯に 1 つの電子を、価電子帯に 1 つの正孔(電子-正孔対と呼ぶ)を作るのに要するエネ
ルギーを考える。
(1)k = 0 に電子-正孔対を作るには左図のようにエネルギーEg が必要である。
(2)k = k0 に電子-正孔対を作るには右図のようにエネルギーEg + Ee + Eh が必要。(ここで Ee は
電子のエネルギー、Eh は正孔のエネルギーで、すべて正である。Eg > 0, Ee > 0, Eh > 0)
2 つの場合を比べると、この価電子側の E-k 分散のプロットで(1)の場合よりも(2)のように縦軸(エ
ネルギー軸)で「下の方」にいる正孔のエネルギーが大きいことになる。つまり正孔では下向きにエ
ネルギーが大きくなる。(電子では上向きにエネルギーが大きくなる)
価電子帯において電子が存在しない空席を正電荷を持つ粒子(正孔)として扱う考え方は、さまざ
まな半導体素子の動作原理を考えるうえで重要である。「半導体工学」の講義の中ではこの考え方
を頻繁に使うことになる。
43
§2-8
固体中での電子の運動:有効質量
(教科書 9 章§4)
固体中の電子の運動を扱うためには本来は量子力
E
学を使って計算する必要があるが、これを厳密に解く
のは難しい。幸いなことに多くの場合、特に半導体に
おいては電子を「粒子」とみなしてニュートンの運動
放物線
の法則を適用してその運動を取り扱うことが出来る。
ただし、この場合には電子の質量として真空中での
値 m0 ではなく、「有効質量 (effective mass)」(記号
k
m*)と呼ばれる値を使う必要がある。(古典的「粒子」
とみなすこの取り扱いはあくまでも近似である。この方
放物線型の E-k 分散関係
法では正しい結果が得られない場合がいくつもあ
る。)
有効質量 m*は、E-k 分散(バンド分散と呼ぶ場合もある)が E = E(k)で与えられる場合には、
m* 
2
 
(2-12)
d 2E
dk 2
で与えられる。上図のようにバンド分散が放物線型で
1
1
E  Cp 2  C  2k 2
2
2
(ここで p = ħk は運動量、C は定数)
の形であれば、バンド分散の微分は
d 2E
 C2
2
dk
dE
 C 2k ,
dk
であるから、有効質量は下記のように定数になる。
m* 
2
C
2

1
1
, あるいは C  *
C
m
また、この場合のバンド分散は有効質量を使って
E
p2
 2k 2

2 m* 2 m*
という形に書くことが出来る。これは真空中での E-k 分散と同じ形になる。(一般的に電子の質量を
m で表記する。特に真空中の質量であることを強調する場合には m0 と表記し、固体中での有効質
量は m*と表記する。) 多くの半導体の伝導帯ではバンド分散が放物線型であるので、上記のよう
に有効質量を求めることが出来る。
これに対して、バンド分散が放物線型でなければ、たとえば下記のような形であれば、
1
1
E  Cp 3  C 3k 3
6
6
有効質量は定数ではなく k(または p)に依存することになる。
44
半導体では伝導帯の電子に加えて価電子帯の正孔にも有効質量を定義することが出来る。典型
的な半導体中での有効質量を表に示した。
Si
Ge
GaAs
電子
0.26m0
0.12m0
0.068m0
正孔
0.386m0
0.3m0
0.5m0
値は真空中での電子質量 m0 を単位にしてある。これらの値を見てわかるように(ほとんどの場合)
有効質量は真空中の質量よりも小さい(軽い)。
45
【演習問題】
E
(A)
1.左図に(A)と(B)の 2 つの放物線型の分散関係
(B)
がプロットしてある。有効質量が大きいのはどちら
か?
k
2つの放物線型の分散関係
2.バンド分散が次式で表されるバンドがある。
E
E ( k )  A  B cos( ak )
( A, B  0)
k = 0 付近での有効質量を求めよ。
(解)上の式で表されるバンド分散は左図のよう
 a
o
AB
k
になる。k = 0 付近でこの曲線を放物線で近似す
る。そのために cos(ak)を k = 0 のまわりでテーラ

a
ー展開すると、
この部分を放物線で近似
1
cos  ak   1  a 2k 2  
2
これを分散の式に代入して、
E (k )  A  B 
 Ba 2 
1 2 2
2 2
Ba k  ( A  B ) 
k
2
2 m*
2
m*
これより
46
m* 
2
Ba 2
3章:半導体 (教科書 10 章)
Si
Si
Si
§3-1
真性半導体
代表的な半導体としてケイ素(Si)を取り上げる。その原
子内の電子の配置は
Si
T  0K
Si
1s 2 2 s 2 2 p 6 3s 2 3 p 2



Si
Si
価電子
外側の 4 個の電子が化学結合に関わる価電子であ
Si
Si
る。
一つの Si 原子は 4 本の結合手を出してまわりの 4
バンド構造:T  0K
つの Si 原子と共有結合をつくる。
伝導帯
T  0K では価電子は結合手に束縛されており、動
き回ることは出来ない。したがって電気伝導は起き
ない。
この状態はバンドモデルで考えると左図のようにす
べての電子が価電子帯に収まっており、電流を運ぶ
価電子帯
伝導帯の電子が一つもない状態に対応する。
Si
室温では熱励起により電子は結合手から離れて結晶
熱励起
Si
Si
Si
内を動き回る。
この際に残された「孔」が正孔であり、これも結晶内を
動き回る。
室温
この状態に電圧を印加すれば電流は流れる。
Si
バンド構造:室温
これをバンド構造の観点から見ると、熱励起により価
電子帯から伝導帯に電子が励起され、その結果電
伝導帯
子と正孔が電流を運ぶことになる。
熱励起
価電子帯
47
§3-2
不純物半導体:ドーピングによる n 型半導体と p 型半導体
n 型半導体
Si よりも価電子数が 1 つ多い P(リン)原子あるいは As(ヒ素)原子(ドナー原子と呼ばれる)
2
2
6
2
Si: 1s 2 s 2 p 3s 3 p
2
2
2
6
価電子4
3
2
2
6
2
As: 1s 2 s 2 p  4 s 4 p



3



価電子5
価電子5
Si に少量のドナー原子を混ぜる。(ドーピング。) 左図のよ
Si
余剰電子
Si
2
P: 1s 2 s 2 p 3s 3 p



室温付近では結合が破れ、ほぼ自由に結晶中を動き回る
ことが出来る。電圧が印加されればこの電子により電流が
Si
P
うにドナー原子(P)にゆるく結合していた余剰の価電子は、
流れる。
室温
負電荷(Negative charge)の電子が電流を運ぶので n 型
半導体と呼ばれる。
Si
p 型半導体
Si よりも価電子数が 1 つ少ない Al(アルミ)原子など(アクセプター原子と呼ばれる)
2
2
6
2
1
Al: 1s 2 s 2 p 3s 3 p

価電子3
Si
Si に少量のアクセプター原子を混ぜる。(ドーピング。)
空席
価電子が一つ足りないために左図のように 1 か所空席が
出来る。この空席に隣の電子が移ってくることが出来る。
Si
Si
Al
(左図では電子が右下方の空席に移動する)
室温
Si
電子ではなく空席に着目すると、空席が左上に動いた
Si
とみることもできる。(これが正孔に相当し、見かけ上正
空席
電荷を持つ)
このようにアクセプター原子をドーピングした Si では正
Si
Al
Si
孔が動き回ることにより電気伝導が起きる。正電荷
(Positive charge)を持つ正孔が電流を運ぶので p 型半
室温
導体と呼ばれる。
Si
48
n 型半導体:室温
p 型半導体:室温
伝導帯
伝導帯
熱励起
ドナー準位
アクセプター準位
価電子帯
熱励起
価電子帯
(この図はカラー)
n 型半導体のバンド構造
n 型半導体の電子状態をバンド構造の観点から考える。ドナー原子がドーピングされた状態では
伝導帯の底よりも更に数ミリ eV 下にドナー準位が形成され、ここに電子が入っている。(このドナ
ー準位はバンドギャップ中にある。真性半導体ではこのエネルギーを持つ電子は存在しないが、
ドナー原子をドーピングしたことにより、ここに準位が形成される。)ドナー原子 1 個につき 1 つの
電子を放出するので、ドナー準位にある電子の数はドーピングされた原子数に等しい。ドナー準
位と伝導帯との間のエネルギー差は小さいので、室温ではドナー準位にあるほとんどすべての電
子は熱励起により伝導帯に励起されている。これらの熱励起された電子は、電圧を印加されると
電場と反対向きに運動し電流が流れる。(左上の図を参照)
p 型半導体のバンド構造
p 型半導体の場合には、アクセプター原子がドーピングされると価電子帯頂上より数ミリ eV 離れ
てアクセプター準位が形成され、ここに(アクセプター原子数と同数の)正孔が入っている。アクセ
プター準位と価電子帯との間のエネルギー差は小さいので、室温では正孔は熱励起により価電
子帯に励起される。(§2-7で説明したように、正孔の場合はこの E-k 分散図で下向きにエネル
ギーが大きくなる。)価電子帯に励起された正孔は、電圧を印加されると電場の向きに運動して、
電流が流れる。
真性半導体と不純物半導体の電気伝導の違い
真性半導体における電気伝導と n 型・p 型半導体(合わせて不純物半導体と呼ばれる)での電気
伝導の違いに注意する必要がある。真性半導体ではもともと T  0K においてはキャリアー(電子
または正孔)は存在しない。このため低温では電気伝導率が極めて低く絶縁体とみなすことが出
来る。温度を室温程度まで上昇させると熱励起により同数の電子(伝導帯)と正孔(価電子帯)が
生成されて、これらが電流を担う。温度を上昇させるとキャリアーは増えるので電気伝導率は大き
くなる。(ただしこの資料§1-1で説明したように、温度を上昇させるとキャリアーの運動を妨げる
原子(イオン)の熱振動も大きくなるので、電気伝導率はキャリアー数に単純に比例するわけでは
49
ない)
一方で、不純物半導体ではドーピングによりキャリアーが生成される。T  0K においては電
子(正孔)はドナー準位(アクセプター準位)にとどまるが、伝導帯(価電子帯)とのエネルギー差
が小さいので、少しだけ温度が上昇すると熱励起によりほぼすべての電子(正孔)がバンドに励
起されて電気伝導に寄与する。不純物半導体では広い温度領域でキャリアー数は一定となる。
また、「半導体工学」の講義で詳しく取り扱われているように、ダイオードやトランジスターなどの半
導体素子は n 型半導体と p 型半導体を組み合わせることによりその機能を発揮する。
50
【演習問題】
Si に P をドーピングして n 型シリコンを作る。キャリアー密度を 51018 cm3 にしたい。P 原子をどれ
だけ入れる必要があるか?(Si 原子何個に 1 個を P 原子で置き換えればよいか?)但しすべてのド
ナー原子は電子を 1 個放出するものとする。
(1)まず、1 cm3(=(1102 )3 m3)のシリコン結晶中にある Si 原子の数を計算する。
シリコン結晶はダイアモンド型で単位胞に 8 個の Si 原子がある。
格子定数は 0.543 nm (= 0.543109 m) なので、
1  106  m3

1 cm の単位胞の数は:
個
9 3
0.543 10 
1  106  m3

 5.0  1022 個
1 cm の Si 原子の数は: 8 
9 3
0.543 10 
3
3
つまり、Si 原子の個数密度は 51022 cm3 になる。
(2)キャリアー密度を 51018 cm3 にしたいので、
5  1022
 1  104
18
5  10
ということで、Si 原子 1 万個につき 1 個を P 原子に置き換えればよい。
51
参考文献
この資料で取り扱った内容に関しては、多くの教科書が出版されているが、代表的な文献を2つ挙
げる。
(1)チャールズ・キッテル(Charles Kittel)著
宇野 良清, 新関 駒二郎, 山下 次郎, 津屋 昇,
森田 章 共訳 「固体物理学入門」(第 8 版) (上・下巻)丸善 2005 年
この分野の代表的教科書で原文の英語版(米国)から各国語に翻訳されて世界中で読まれてい
る。1953 年の初版以来版を重ねるごとに内容の刷新が図られており、”Kittel’s ISSP (Introduction
to Solid State Physics)”と言えばこの分野に携わる人で知らない人はいない。超伝導、磁性も含
めた広い分野が扱われている。
(2)アシュクロフト(Neil W. Ashcroft) マーミン(N. David Mermin)著 松原 武生, 町田 一成 共訳
「固体物理の基礎」 (全 4 巻)吉岡書店 物理学叢書
1981 年
これも広く読まれている教科書である。日本語版は全 4 巻だがこの講義に関連した部分は「上・1
巻 固体電子論概論」と「上・2巻 固体のバンド理論」になる。上記(1)よりもだいぶ分厚い本だ
が、それだけ記述は詳しい。
52
索引
Bloch の定理 .............................................. 32
状態数 .........................................................20
Bloch 関数 .................................................. 32
状態密度 .....................................................20
conduction band .......................................... 40
真性半導体 .................................................41
E-k 分散関係 .............................................. 29
スピン ...........................................................13
Extended zone ............................................. 31
正孔 .............................................................42
Fermi-Dirac................................................. 21
超伝導 ...........................................................5
Fermi-Dirac 分布 ........................................ 10
電気伝導率 ...................................................4
Fermi-Dirac 分布関数 ................................ 22
電子の質量 .................................................44
Fermi-Dirac 粒子 ........................................ 13
伝導帯 .........................................................40
Kronig-Penney モデル ............................... 35
電流密度 .......................................................6
n 型半導体 ................................................. 48
ド・ブロイ波 ..................................................16
p 型半導体 ................................................. 48
ドーピング .............................................. 41, 48
Reduced zone .............................................. 31
ドナー原子 ..................................................48
valence band ............................................... 40
ドナー準位 ..................................................49
アクセプター原子 ....................................... 48
ドリフト速度 ....................................................4
アクセプター準位 ....................................... 49
パウリの排他原理 ........................................10
移動度 .......................................................... 6
波数 .............................................................16
エネルギーギャップ .................................... 30
波数ベクトル ................................................16
オームの法則 ............................................... 6
バンドギャップ .............................................30
化学ポテンシャル ....................................... 22
フェルミ運動量 ............................................26
価電子帯 .................................................... 40
フェルミエネルギー .....................................21
還元帯域 .................................................... 31
フェルミ準位 ................................................21
緩和時間 ...................................................... 5
フェルミ速度 ................................................26
キャリアー .................................................... 42
フェルミ波数 ................................................25
許容帯 ........................................................ 31
フェルミ分布 ................................................21
禁制帯 ........................................................ 31
フェルミ分布関数 ........................................22
クローニッヒ・ペニーモデル ........................ 35
フェルミ面 ....................................................25
結晶運動量 ................................................ 40
フェルミ粒子 ................................................10
結晶欠陥 ...................................................... 4
フェルミレベル .............................................21
格子間隔 .................................................... 32
不純物イオン .................................................4
格子振動 ...................................................... 5
不純物半導体 .............................................48
格子定数 .................................................... 35
ブリルアン帯 ................................................31
周期的境界条件 ........................................ 17
ブロッホの定理 ............................................32
自由電子気体 ............................................ 15
分散関係 .....................................................29
シュレーディンガー方程式................... 15, 35
平均自由行程 ...............................................8
53
有限温度 .................................................... 12
有効質量 .....................................................44
54
Fly UP