...

実施報告書 - 國學院大學栃木学園

by user

on
Category: Documents
1

views

Report

Comments

Transcript

実施報告書 - 國學院大學栃木学園
平成 18 年度
サイエンス・パートナーシップ・プロジェクト(SPP)事業
招へい講座
『物質の状態の変化』
実施報告書
國學院大學栃木高等学校
平成 19 年 1 月
平成 18 年度
SPP 招へい講座『物質の状態の変化』実施報告書
目
I.
次
サイエンス・パートナーシップ・プロジェクト実施について
II. 実施報告
講座 A
「DNA の抽出」
講座 B
「物質の弾性 ――― 地球も弾性体」
講座 C
「圧力による状態変化(蒸気圧曲線)
」
講座 D
「マイナス 200℃の世界」
III. SPP 講座を実施してのアンケート調査
IV. SPP 実施報告会
-1-
Ⅰ.
サイエンス・パートナーシップ・プロジェクト実施について
文部科学省所管の科学技術振興機構では、平成 18 年度より、学校と、大学、公的研究機関、民間企業等と
の連携により、先進的な科学技術、理科・数学教育等を実施するための連携型科学技術・理科教育推進事業(サ
イエンス・パートナーシップ・プロジェクト事業:以下、
「SPP 事業」という)を実施している。
本校では、昨年度に引き続き、科学技術振興機構より SPP 連携プログラムの申請を採択され、下記の内容で
「研究者招へい講座」を実施することとなった。
1.
実施日時 : 統一テーマ『物質の状態の変化』に関する 4 種の講座を実施
平成18年12月 9日(土) 午後 2 時∼午後5時 講座A、B
平成18年12月16日(土) 午後 2 時∼午後5時 講座 B、C、D
※講座 B については、実施内容の都合上、20 名ずつ 2 回実施。
2.
場
所 : 本校特別教育館 化学室(6F)
、生物室(6F)
、情報処理室(3F)
、
第一グラウンド、生徒会館大ホール
3.
対象生徒 : 本校普通科 2 年理科系生徒、その他希望者
4.
講
5.
講座内容 :
師 : 宇都宮大学教育学部の教員4名およびティーチングアシスタント20名
統一テーマ『物質の状態の変化』
自然現象はさまざまな「変化」を我々に見せてくれる。その「変化」の原因を探求し、自
然を理解しようとする人類の知的活動を体系化したものが科学である。今回の企画は、理科
教育の立場から、実験や観察・実習を通じ具体的にさまざまな物質の変化を体験させ、科学
的方法によって自然をとらえ、論理的に考察させることが目的である。
物理分野の立場から、圧力による物質の三態の変化をテーマに「圧力による状態変化(蒸
気圧曲線)
」
、化学分野の立場から、極低温における物質の変化をテーマに「マイナス 200℃
の世界」
、生物分野の立場から、細胞の状態の変化から遺伝子を取り出すことができることを
テーマに「DNA の抽出」
、地学分野の立場から、地震波を通じ地球を 1 つの物質としてとらえ
させることをテーマに「物質の弾性 ――― 地球も弾性体」の 4 種類の実験・実習を伴う
講座を用意した。高校二年生理科系志望者 160 名の生徒を対象に、40 名ずつ 4 種類のいずれ
か 1 つの講座に参加させることにより(
「物質の弾性」については 20 名ずつ 2 回実施)
、変化
を伴う自然現象を具体的に把握させた。終了後に自分の参加した講座についてレポートを提
出させた後、160 名全員の前で代表者が発表を行う実施報告会を開催した。これにより、参
加できなかった講座についても理解し、物質の状態の変化についていろいろな観点からの認
識できるように工夫した。
-2-
講座 A 「DNA の抽出」
12 月 9 日(土) 生物室
午後 2:00∼5:00
記号やモデルで理解される DNA を、身近な食品から抽出し、実際に肉眼で観察することによって、DNA
を物質として実感させた。DNA 抽出の原理を解説し、DNA の物質としての特徴を学んだ。植物細胞を染
色液で染色し、核が染色されることを確認した。また、抽出した DNA を同じ染色液で染色することで、
核と DNA の関係を考察した。
講座 B 「物質の弾性 ――― 地球も弾性体」
12 月 9 日(土) 情報処理室、第 1 グラウンド
午後 2:00∼5:00
12 月 16 日(土) 情報処理室、第 1 グラウンド
午後 2:00∼5:00
地震波の伝播のメカニズムを参加型の活動を通じて学んだ。まず、第一グラウンドに地震計を並べ、
地面を叩いて地震波を発生させる。地震波の計測データはコンピュータに記録された。記録したデー
タをコンピュータで解析し、地面を伝播する地震波の速さを分析した。分析結果から、実際に観察す
ることができない地中の様子を考察するとともに、地球も弾性体であることを理解させた。
講座 C 「圧力による状態変化(蒸気圧曲線)
」
12 月 16 日(土) 化学室
午後 2:00∼5:00
物質は温度を変えることによって状態が変化するが、圧力によっても変化することに着目し、相変化
の理解とともに平衡の概念の体得をねらいとする。圧力による状態変化の例として、氷の融解や二酸
化炭素の液化の実験をおこない、沸騰と蒸発の違いを分子的に理解し、気液平衡の概念を学習したう
えで、蒸気圧曲線を実験的に求めた。
講座 D 「マイナス 200℃の世界」
12 月 16 日(土) 生物室
午後 2:00∼5:00
液体窒素を用いて「マイナス 200℃の世界」を作り出し、極低温下での物質の様子を観察するととも
に、物理変化・化学変化について実験を行った。まず、低温を作り出す液体窒素について学習し、物
質の三態、電気抵抗と温度の関係、電池の化学変化と温度の関係、超伝導などに関する実験を行った。
6. 終了後 : 参加者全員に、レポートを提出させるとともに、代表者に対してパワーポイントを使
ったプレゼンテーションの指導を行った。平成 19 年 1 月 20 日(土)午後 2:00 より、
本校生徒会館大ホールにて代表者による実施報告会を実施した。参加者は受講した
160 名。
-3-
Ⅱ.
実施報告
実施報告は、講座に用いたテキスト及び提出された生徒のレポートをもとにして作成した。
講座A:
『DNAの抽出』
実験1 タマネギの鱗葉表皮細胞の観察
(手順)
1.タマネギ(Allium cepa Linne)の鱗葉の内側に5∼10mm 四方の切れ
込みを入れ表皮をピンセットではぎ取る。
2.これをスライドガラスにのせ、ピペットでエタノールを数滴落として
から、ほぼ1分後にろ紙で吸い取る。
3.別のピペットで水を数滴落とし、スライドガラスを傾けて水を流して
から、ろ紙で吸い取る。
4.その後、染色液(メチルグリーン・ピロニン染色液)を2∼3滴落と
して、3∼5分後にろ紙で吸い取る。
5.水を1∼2滴落としてろ紙で吸い取る操作を2∼3回くり返す。
6.表皮の上に水を1滴落としてからカバーガラスをかけ、余分な水はろ
紙ですい取る。この時、気泡が残らないように注意する(ピンセットや
有柄針を用いると良い)
。
7.まずはじめに、低倍率の対物レンズ(4 or 10倍程度)を用い観察
し、顕微鏡の扱いに慣れる(ピントを合わせ、絞りを慎重に調節する)
。
最終的には対物レンズ、40倍で観察を行う。
観察のポイント
染色液でどこが染色されているかをよく観察する。また、今回用いている染
色液は、
メチルグリーンとピロニンという2種類に染色液の混合染色液なので、
染色がうまくいくと、メチルグリーンで青から青緑色に染色される部分と、ピ
ロニンにより赤桃色に染色する部分が確認できるはずである。
観察結果
・ メチルグリーンは細胞核、ピロニンは核小体だけを染色することがわかった。
(T2-2 青木 貴宏)
・ 染色液では、細胞全体が染色されるわけではなく、核を染色するということがわかった。
(N2-1)
-4-
タマネギの鱗葉表皮細胞の観察の解説
染色液を用いると、多角形に見えるタマネギ細胞の中に、円形(あるいは楕円)をした核が青∼青緑色に鮮明
に染色され観察できる様になる事が分かる。また、良く観察すると核の中に見える円形の部分が赤桃色に染色に
染色されていることが分かる(この染色は非常に淡いので認識するのが難しいかもしれない)
。この、核の中で円
形に見える部分が核小体である。ちなみに、メチルグリーンは DNA を、ピロニンは RNA 染色をする(核小体と
RNA の関係は時間に余裕があれば解説します)
。しかし、
核以外の部分は染色されていないことが分かる。
つまり、
この染色液のメチルグリーンで染色される部分は細胞核に限定されていることになる。
実験2 タマネギ染色体の観察
(手順)
1.タマネギの底部を水につけて発根させる。あるいは、シャーレに水を十分
含ませた紙あるいは脱脂綿を入れ、そこに種子をまき、3∼4日程度発根
成長させる。
2.根の先端部2∼3cm ほどのところをハサミで切り取る。
3.切り取った根端部を、固定液(エタノール:酢酸=3:1)に浸して固定す
る※1。固定した根端部を長期保存する場合は、70%エタノールに移し替
え使用するまで、冷蔵庫で保存する。
4.固定してあった根端部を水に移し、固定液を水と置換する。
5.希塩酸に根端部を移し、60℃で、10分間の処理をする※2。
6.再び水に移したあと、染色液(メチルグリーン・ピロニン染色液)に入れ
5∼10分染色をする。
7.根端をスライドガラス上にのせ、先端部の1∼3mm をカミソリの刃あるいはカバーガラスを用いて切り取り、他は
捨てる。
8.有柄針の先で、根端部先端をほぐし、水を1滴落としてからカバーガラスをかける。
9.カバーガラスの上にろ紙を置き、細胞が一層に広がるように親指の腹で上から静かに押しつぶす。
10.低倍率の対物レンズ(4 or 10倍程度)を用い、分裂像が多く見られる部分を探して、その後、染色体の状態を
高倍率で観察する。
※1.
固定液による処理は、細胞内の構成成分を不溶性の物質に変化させることにより、標本作製中の色々な処理による細胞成分(今回の実験の
場合は染色体)の脱落・移動・分解などを防ぐため行われる。
※2.
細胞を解離しやすくするための手順で、細胞間の結合に関与している物質にダメージを与えるためと考えられている。実際に、塩酸での処
理をしたものとしないもので押しつぶし易さを比べてみると、塩酸処理の効果がよく分かるはずである。
観察のポイント
染色体を観察するためには、分裂組織を観察しなければならない。そのためには、7の手順で分裂組織を含む先端部
を残すように注意する。先端部を捨ててしまうと、いくら観察しても染色体は観察できない。また、手順9の操作がう
まくいくと細胞が一層になり観察がしやすくなり、専門家でも様々な工夫をしている部分でもある。
今回の観察方法をとると細胞核(静止期)や糸状に見える染色体が染色されて観察されるはずである。どこが何色に
染色されているか注意深く観察する。また、染色体の位置や形によって、分裂期は前期、中期、後期、終期の4つの時
期に分類されることを良く理解し、これら4つの時期の染色体を探し出し観察する。細胞は非常に小さいものであるが
立体である。それを無理やり押しつぶして観察しているため、観察される染色体は分裂している細胞の上下方向から観
察するものや左右方向から観察するものかによって見え方が変わってくることに注意する。ちなみに、染色体の本数を
数えるのは、中期の染色体が適しており、実際にタマネギの染色体数は16本である。
-5-
観察結果
・ 核内の染色体が染色されているということがわかった。また分裂期の染色体が観察できた。
(N2-1)
・ 細胞核(静止期)や糸状に見える染色体が染色されて観察できた。
(T2-2)
タマネギ染色体の観察の解説
この染色体の観察でも重要な点は染色液でどの部分の何が染色されているかと言う点である。そうすると、今
回の観察方法で染色されているのは、細胞核(静止期)や糸状に見える染色体であることが分かる。また、先に
行った表皮細胞の観察同様、それ以外の部分には染色が見られないことにも注意する。
そして、その染色体が観察される時期である分裂期は、染色体の位置や形によって、前期、中期、後期、終期
の4つの時期に分類されている。ここで重要なことは、これらの分裂期の各時期(前期、中期、後期、終期)は
実際には連続している現象の一場面を観察しているのである。つまり、各時期に観察された染色体は連続した挙
動をするものであり、染色体の動きをイメージし、特に染色体がどのように分裂して出来る娘細胞に分配されて
いくかを理解することが重要である。この染色体の挙動を理解することが、遺伝現象を理解することにつながる。
実験3 タマネギからの DNA 抽出
(手順)
1.タマネギ1/4個をすり下ろす※1。
2.すり下ろしたタマネギに台所用中性洗剤※2を少量加えて、軽くかき混ぜる。
3.四重にしたガーゼでろ過する。
4.得られたタマネギの絞り汁に約 1.5g の NaCl※3を加え、ガラス棒で優しくかき混ぜ溶かす。
5.タマネギの絞り汁の約2倍量のよく冷えたエタノール※4を静かに注ぎ入れる。
6.タマネギの絞り汁とエタノールの境界面に出てくる雲状の物質が DNA であり、それらを細いガラス棒あるい
はピンセットで巻き取る。
-6-
※1.
タマネギをすり下ろしたのは、細胞を壊するためであ。DNA は、細胞の中にある核の中に存在しているため、DNA を抽出するためには、
まず、細胞を壊さないといけない。そのため、タマネギをすりおろした。実験法よっては、ミキサーを使う例なども知られている。
※2.
洗剤には、細胞膜や核膜にダメージを与え壊しやすくする働きがある。これは、細胞膜や核膜がリン脂質という脂質の一種から出来ている
ためである。
※3.
NaCl は、強電解質であり、陽イオンと陰イオンに強く電離しており、DNA と電気的に結びついている蛋白質を引き離す働きがあると考え
られている。
※4.
エタノールは DNA の持つ水和のバランスを崩すため、DNA 分子が析出してくる。この現象は、NaCl の共存によって促進される。また、
冷エタノールを用いるのは、溶液を冷やすことによって、溶解度を小さくし、DNA 分子の析出しやすくしている。
染色液による DNA の確認
1.巻き取った DNA のエタノールをよくきり、マイクロチューブ
にうつす。
2.NaCl 溶液を約 0.5ml 加え、撹拌機を用い、DNA を完全に溶か
す.
3.2の溶液をガラス棒などで小さく切ったろ紙に数滴つけて、
良く乾かす。また、対照実験として、NaCl 溶液も小さく切っ
たろ紙に数滴つけて、良く乾かす。
4.完全に乾いたら、染色液(メチルグリーン・ピロニン染色液)
で、約5分間染色する。
5.エタノールで脱色し、DNA 溶液と NaCl 溶液をつけたろ紙の染
色具合を比較する。
観察結果
・ 水面にふわふわ浮いてきたのがDNA。
抽出したDNAは若干の不純物を含んでいるため、
水に溶けにくかった。
(T2-2)
・ DNA は肉眼では観察できない小さなものなので、今回観察したものは多くの分子が集まったものです。
(T2-3)
タマネギからの DNA 抽出の解説
タマネギのおろし汁によく冷えたエタノールを加えて、水面近くにふわふわ浮いてきたものが DNA である。
DNA は本来、水によく溶ける物質であるが、強電解質とエタノールの添加で溶液に溶けていることが出来なくな
り析出したと考えられる。ただし、今回析出した DNA は、若干の不純物を含んでいるため、水に溶けにくかった
と思われる。また、1分子の DNA は、肉眼で見ることが出来ないくらい非常に細いものなので、析出した DNA
は、非常に多くの分子が集まった状態と考えられる。今回の抽出実験は DNA という物質としての性質を利用した
方法であり、専門的に DNA を扱う場合も基本的には同様な方法を組み合わせて抽出を行っている。
また、ろ紙につけた DNA 溶液の染色結果は、非常に濃いものではなかったかもしれないが、青から青緑色に染
色され、一方、対照とした NaCl 溶液には染色性は見られなかった。これらの染色結果からも抽出さえた物質が
DNA であることが間接的には証明されたことになるが、本来であれば別の方法で DNA であることを証明する必
要がある。
■感想
・ DNA がふわふわ浮いてきたのにびっくりしました。とても勉強になりました。
(B2−2)
・ 今までやったこともないような実験ができて、生物に対して少し興味がわいた。
(T2−3)
・ 私たちのグループは成功できなかったけれど、実験のおもしろさや、大変さなど、いろいろ実感することがで
きてよかったと思います。
(T2−3)
・ 少し手順が複雑になっていて、実験というより研究という感じがして楽しかったです。
(N2−1)
-7-
講座 B:『物質の弾性
―――
地球も弾性体』
■ 講座のねらい
地震とは、断層運動により生じた振動が波として地中を伝わっていく現象です。地中を波が伝わるの
は、地球が弾性体として振る舞うからです。一見、硬い岩石からできている地球も弾性体なのです。
ところで、いったいどのくらいの速さで地震波は地中を伝わるのでしょう。本講座では、第 1 グラウ
ンドで実際に地震波を起こし、それを地震計で計測することにより、地面を伝わる地震波の速さを調べ
ます。
■ 講座の内容
前半では、第 1 グラウンドに地震計を並べ、地面をたたいて地震波を発生させます。それをコンピュ
ータに記録します。後半は、記録した地震波をコンピュータで解析して、地面を伝わる地震波の速さを
調べます。
日本列島の地下構造についてはさまざまなことがわかっていますが、これは下の図のように、本講座
で行う実験を大規模にした実験で明らかになったことです。本講座では、地震学の入門的な実験を体験
することで、実際に地面を波が伝わる様子を理解すると同時に、地球科学に対する興味をもってもらい
たいと思います。
1.
実験 「校庭の地下構造を探る−地震波を起こしてみよう−」
グラウンドに地震計を並べ,地震波の伝わる様子を調べる.
EQDAQ
6本
アンプ2
パソコン
3本
アンプ1
1
5
10
15
20
25
1. 上の図のように,第1グラウンドに地震計を並べ,ア
ンプ,測定器(EQDAQ)を通してパソコンにつなぐ。
...
2. 図の星印のところをかけやで叩いて地震波を発生させ
る。
3. 一人 10 回のデータを取る。
−8−
30
45
60
2.
データ処理 ――― コンピュータ室
1. 取得したデータをコンピュータで処理して,各地震計に波が到達した時間を測定する。
2. まず、自分が行った実験結果を足し合わせる。
3. さらに,参加者全員のデータをすべて足し合わせる。
4. できあがったデータを使って,一番最初に各地震計に波が到達した時間を読み取る。
5. 読み取ったデータから、横軸に時間,縦軸に距離をとってグラフを作成する。
..
6. グラフの点をうまく説明するような適当な直線を書き入れる。
7. 地震波の伝播速度を表す直線の傾きをグラフから求める。
例:データ番号 59∼68 (T2-3 角屋
香澄)
地震計
GS1
GS2
GS3
GS4
GS5
GS6
L1
L2
L3
距離(m)
1
5
10
15
20
25
30
45
60
時間(s)
2.202
2.211
2.225
2.236
2.239
2.242
2.243
2.246
2.256
地震波の速さの求め方
距離(m)
時間(s)
速さ(m/s)
震源からの距離(m)
70
60
50
40
30
20
10
0
2.19
2.2
2.21
2.22
2.23
時間(秒)
−9−
2.24
2.25
2.26
地下の構造を推定する
A.1 つの直線で表された場合: 地下は均質で,地震波は同じ速さで伝わる.
B.2つの直線で表された場合: 表層の下に速度の速い層がある.
→硬い層の上に比較的柔らかい層(表層)がのっている.
v1 , v 2
交点の距離をグラフから読み取る → X 0
2 つの直線の傾きを求める
v1 =
411 m/s,
v1
v2
→
v2 =
2500 m/s,
0.164706 , とすると
X 0 = 16 m
表層の厚さは
d
X0
2
1
1
= 6.8 m
感想
・ 知らないことを学ぶということは楽しいことなんだなぁと思いました。志望の大学への受験のやる
気が出てきました。
(T2-3)
・ パソコンを使った地震波の解析で、速さの求め方や使い方を学べて将来必ず役立ってくると思いま
した。
(T2-3)
・ これから地形について考えてみたいと思えた。
(T2-3)
・ 地震波により地下構造がわかるということがはじめてわかった。機会があればグラウンド以外での
地震波の伝わり方の違いも調べてみたいです。
(T2-3)
・ 大学ではこのような実験ができたりして楽しそうだし、やっぱり理系にしてよかったと思った。今
まで知らなかったり、あまり関心がなかったことが分かると、興味が持て、もっと知りたくなるこ
との楽しさが分かった。
(T2-2)
−10−
講座C:
『圧力による状態変化∼蒸気圧曲線∼』
講座のねらい
水を加熱すると沸騰して水蒸気、気体になる。また、冷却すると氷、固体になる。このように、温度
を変えることにより物質の状態を変化させることができる。また、温度ではなく圧力を変えただけでも
物質の状態は変化する。スケート靴のエッジで圧された氷は溶けて潤滑剤となるし、山の上では圧力が
低いので 100℃未満でお湯が沸く。本講座では、圧力による状態変化を確認し、それを利用して蒸気圧
曲線を実験的に求めることをねらいとする。
講座の内容
圧力による状態変化の例として、氷の融解や二酸化炭素の液化を行う。そして、水や二酸化炭素の状
態図(状態と温度、圧力との関係)について学び、状態変化のうち気液の変化に着目する。蒸発や沸騰
は分子的に見てどういった現象なのか、ということから蒸気圧平衡について学習し、蒸気圧と温度との
関係−蒸気圧曲線−を実験的に求める。実験では減圧沸騰を利用しますが、圧力を下げるために水道の
流れを利用したアスピレーター(水流ポンプ)を用いる。アスピレーターや減圧ラインの取り扱い方、
真空計の読み方などを理解し、水とエタノールの蒸気圧曲線を求める。
実験1 減圧沸騰(アスピレーターの取り扱い練習)
アスピレーターにコック、水と沸騰石とを入れた丸底フラスコを接続する。水道を全開にし、水が常
温で沸騰することを確認する。次に、コックを閉じ、コックとアスピレーターの間の接続を外した後で
水道を止める。
−11−
沸騰の仕組み
20℃
100℃
1013 hPa
1013 hPa
20 hPa
1013 hPa
1013 hPa
1013 hPa
1013
20 hPa
沸騰=蒸気圧が外気圧と釣り合う
外気圧を下げると・・・
20 hPa
20 hPa
20 hPa
20
20℃で沸騰
外気圧を下げることにより、沸点が下がるのは下の蒸気圧曲線からも分かる。
蒸気圧曲線
水
エタノール
飽和蒸気圧(h Pa)
1000
800
600
400
200
0
0
10
20
30
40
50
60
温度(℃)
−12−
70
80
90
100
実験2 排気曲線の作成
下図に示すように、アスピレーターにコック、丸底フラスコ、真空計を、T型ガラス管を用いて接続
する。丸底フラスコはスタンドのクランプで固定する。アスピレーターで排気し、圧力が一定になるま
で 30 秒毎に圧力を記録する(3分程度)
。
アスピレーター
コック
圧力計
結果 (T2−3 尾崎 文哉による)
時間(秒)
30
60
真空計(MPa)
0.0825 0.0980
圧力(hPa)
175
20
90
0.0985
15
120
0.0985
15
150
0.0990
10
180
0.0990
10
210
0.0990
10
実験3 水の蒸気圧曲線
300 ml 丸底フラスコを取り外し、先端を樹脂管で保護した温度計をそっと入れる。熱湯約 50 ml と沸
騰石を入れ、元通りに配管して直ちに排気を開始する。十分沸騰した後コックを閉じ、水温と圧力を測
る。再度コックを開けて圧力、温度が下がるのを待つ。30 ℃までは 5 ℃刻みに、それ以下ではできる
だけ 1 ℃刻みで同様の測定を温度が一定になるまで行う。データを取り終わったら蒸気圧曲線のグラフ
に記入し、比較する。
結果 (T2−2 熊倉 聖高による)
温度(℃)
41.1
34.5
真空計(MPa)
0.0922 0.0950
圧力(hPa)
78
50
30.4
0.0955
45
27.0
0.0962
38
23.8
0.0971
29
19.7
0.0979
21
16.0
0.0986
14
実験4 エタノールの蒸気圧曲線
実験3の熱湯の代わりに室温のエタノールを約 100 ml、温度計、沸騰石と共に丸底フラスコに入れ排
気を開始する。十分沸騰した後コックを閉じ、液温と圧力とを測定する。記録したら再度コックを開け
て圧力と温度が下がるのを待つ。1 ℃下がるたびにコックを閉じて同様の測定を行う。圧力の変化が鈍
くなったらコックを閉じ、丸底フラスコを湯煎に浸け、約 5 ℃刻みで温度を上昇させ圧力を測定する。
測定は 30 ℃まで行う。データを取り終わったら蒸気圧曲線のグラフに記入し、比較する。
−13−
結果 (N2−1 吉田 和也による)
温度(℃)
22.0
20.0
真空計(MPa)
0.0919 0.0931
圧力(hPa)
81
69
8.0
0.0962
38
23.0
0.0922
78
31.0
0.0892
106
18.0
0.0940
60
16.0
0.0942
58
14.0
0.0951
49
12.0
0.0967
33
10.0
0.0960
40
39.0
0.0841
159
実験3・実験4の結果による蒸気圧曲線
水
エタノール
蒸気圧曲線
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0
10
20
30
−14−
40
50
感想
◆ 苦手としている分野だったけれど、実験を行ってみて、蒸気圧曲線の見方・意味が理解できた。
(N2−1)
◆ 蒸発や沸騰を分子的観点から考えることができた。
(T2−3)
◆ ドライアイスが液化した状態を見ることができたのには驚いた。
(T2−2)
◆ 物質の状態変化というのは、化学だけでなく物理分野でも重要であり、実験を通してより理解が深
まった。
(T2−1)
◆ スケートで滑っているときの仕組みが分かり、こんな所でも状態変化が起こっているのだなあと感
動した。
(T2−2)
−15−
講座D:『マイナス 200℃の世界 ∼液体窒素を用いた実験∼』
■ 講座のねらい
本講座では,液体窒素を用いて『マイナス 200℃の世界』をつくり出し,極低温下での物質の様子
を観察するとともに,物理変化・化学変化についての実験を行う。マイナス 200℃という普段観察・
体験できない極低温下での現象を,
実験を通して考察し,
理解を深めることを本講座のねらいとする。
■ 講座の内容
液体窒素を用いた極低温での物質の様子や,物理的・化学的ふるまいについて観察・実験する。は
じめに,低温を作り出す液体窒素について説明し,この液体窒素を用いて物質の三態変化,電気抵抗
と温度の関係,電池の化学変化と温度の関係,超伝導現象などに関する実験を行う。
■ 液体窒素について
まず,液体窒素の取り扱い上の注意を与えてか
ら,発泡スチロール製容器に液体窒素をつぎ分け
た。白い煙は水蒸気が凍結したものであり,液体
窒素は無色透明の液体で,極低温の状態でも盛ん
に沸騰していることを確認させた。あわせて温度
計(熱電対)を用い,実際にマイナス 200℃であ
ることを確認させた。
■ 実験Ⅰ 二酸化炭素の状態変化,気体 ⇄ 固体(昇華)の観察
ビニール袋に二酸化炭素を満たした後,試験管の
口にかぶせて,輪ゴムで止める。気体が漏れないこ
とを確認したら,試験管の下半分を液体窒素にひた
し,試験管の内壁にドライアイスができてくる様子
を観察する。ドライアイスは液体になることなく気
体になることを観察する。さらに,ドライアイスの
一部を,一方をふさいだ軟質塩ビ管の中で加圧し,
高圧下では融解して液体になることを観察する。
● 結果 (T2-1)
試験管から取り出したドライアイスを塩ビ管の中に入れ変化を観察したところ,ドライアイスが気
体に戻ろうとして塩ビ管内に圧力がかかり,塩ビ管内壁がうっすら湿ってくることが確認された。
−16−
■ 実験Ⅱ 酸素の状態変化,気体 ⇄ 液体(凝縮・沸騰)の観察
ビニール袋に酸素を満たした後,二酸化炭素のときと同様に試験管の口にかぶせて輪ゴムで止め,
気体が漏れないことを確認する。試験管の下半分を液体窒素にひたすと,試験管に液化した酸素がた
まるので,このときの液体の色を観察する。
ある程度液体酸素がたまったら,試験管を液体窒素浴から取り出し,試験管の側面からネオジム磁
石を近づけ,液体酸素が磁石の方へ引き寄せられることを観察する。
● 結果 (T2-3)
気体の酸素を液体窒素を用いて冷やすと,淡い青色の液体ができた。この液体にネオジム磁石を近
づけたところ,液体酸素がひきつけられた。
■ 実験Ⅲ 水銀およびエタノールの状態変化,液体⇄固体(凝固・融解)の観察
試験管に水銀を 5cm ほど注意して入れ,安全のためゴム栓をする。試験管を手に取り,水銀の密度
の大きさを実感する。次に,試験管内の水銀の液面の様子(メニスカス)を観察し,液面のところに
マジックで印を付けておく。これを液体窒素で冷却すると凝固するので,体積の変化を観察する。同
様に,試験管にエタノールを 5cm ほど入れ,固体のエタノールをつくり,体積の変化を観察する。エ
タノールが固化したら,別に 50 ml のエタノールを取り分けたビーカーの中に固体のエタノールを入
れ,固体のエタノールが液体の中に浮くか沈むかを観察する。
−17−
● 結果 (N2-1)
水銀を冷やすと,最初盛り上がっていた液面がくぼん
できて固まった。エタノールを冷すと流動性がなくなっ
てきて体積がすごく減った。更に冷却していくと固まり,
ひびが入った。
次に凍ったエタノールを液体のエタノールの中に入れ
ると固体のエタノールは沈んだ。
(エタノールは液体より
固体の方が密度が大きい。氷は水に浮くが,そっちのほ
うが例外的。
)
■ 実験Ⅳ 電気抵抗と温度の関係および電池の化学変化と温度の関係
長い銅線をコイル状に巻いておき,乾電池,豆電球とつないで回路を形成する。銅線が長いと電気
抵抗が大きく,豆電球は点灯しないことを確認しておく。コイル状の部分を液体窒素にひたし冷却す
ると,しだいに豆電球が点灯することを観察する。再び室温に戻したときの豆電球の点灯具合を観察
し,銅線の電気抵抗と温度の関係を理解させる。
つぎに回路から銅線のコイルを取り外し,乾電池と豆電球で回路を形成し,豆電球が点灯すること
を確認しておく(ここでは豆電球の代わりに発光ダイオード:LED を使用)
。
『乾電池を冷却すると豆
電球の明るさはどうなるか』を予想させ,乾電池ボックスごと液体窒素にひたし冷却する。豆電球の
点灯具合を乾電池冷却前後で観察させ,乾電池の化学変化と温度の関係を理解させる。
また,LED を発光させた状態で LED を液体窒素中に入れ,発光の様子や色の変化を確認する。
● 結果 (T2-1)
はじめ(コイル部の)抵抗が大きく豆電球は点灯しないが,コイル部分を液体窒素中に入れると,
次第に豆電球が点灯した。コイル部分を液体窒素中から取り出すと再び消えた。
(マイナス 200℃での
抵抗値は 0℃のときの約 1/7 のため。
)
−18−
乾電池を液体窒素中で冷却すると LED は消えた。
(乾
電池内部の液体(電解質)が凍結し,化学反応しなくな
ったため。
)
また,緑色発光ダイオードを液体窒素中に入れると黄
色に発光し,黄色ダイオードを液体窒素中に入れるとオ
レンジ色に発光した。
(冷すことでエネルギーの小さい
ほうにシフトした。
)
■ 実験Ⅴ 超伝導現象の観察
超伝導実験セットの容器に液体窒素を満たし,希土類元
素の合金を液体窒素で冷却する。プラスチック製ピンセッ
トで静かにネオジム磁石を冷却した合金上に載せ,マイス
ナー効果により磁石が宙に浮く現象を観察する。超伝導現
象の簡単な説明をした後,リニアモーターカーや人体の輪
切り画像を観察する MRI 装置などの応用例を紹介する。
● 結果
液体窒素で冷却した合金上で,ネオジム磁石が浮遊することが観察された。
■ 感想
● 今回の SPP の授業を受け,普段の生活に化学や物理が係わっていることを改めて実感することが
できた。
(B2-2)
● 学校の勉強も大事だけど,このような機会に身近な科学技術に使われているものに触れることも
必要だと思った。
(T2-3)
● 最後に行った希土類元素の合金を超伝導状態にする実験は,リニアモーターカーや MRI などに
使われている実用的なものだったので,高度な科学を身近に感じることができた。
(T2-2)
−19−
Ⅲ.SPP 講座を実施してのアンケート調査
授業で取り扱った内容は難しかったですか?
授業は面白かったですか?
0%
1%
0%
6%
6%
10%
20%
25%
93%
面白かった
どちらともいえない
面白くなかった
39%
難しかった
どちらともいえない
易しかった
どちらかといえば面白かった
どちらかといえば面白くなかった
授業の内容は、自分なりに理解できましたか?
0%
理科・数学について、知りたいことを自分で
調べようと思うようになりましたか?
2%
0%
3%
6%
23%
40%
どちらかといえば難しかった
どちらかといえば易しかった
30%
54%
52%
理解できた
どちらともいえない
理解できなかった
どちらかといえば理解できた
どちらかといえば理解できなかった
なった
どちらともいえない
ならなかった
−20−
どちらかといえばなった
どちらかといえばならなかった
Ⅳ.SPP 実施報告会
平成 19 年 1 月 20 日(土)に本校生徒会館大ホールにおいて、午後 2 時∼3 時に SPP 実施報告会が
開催された。出席者は、今回の講座に参加した生徒、および、2 年理系クラス担任、理科教員であっ
た。各講座の発表者は以下の通りである。
講座 A
DNA の抽出
(N21)、(N21)、(N21)、(N21)
講座 B
物質の弾性―――地球も弾性体
(T23)、(T23)、(T23)、(T23)
講座 C
圧力による状態変化(蒸気圧曲線)
(T22)、(T22)、(T22)、(T22)
講座 D
マイナス 200℃の世界
(N21)、(N21)、(T21)、(T21)
発表者は、理科教員の指導のもと、パソコンによるプレゼンテーションを行い、各講座で実施したこ
とや学んだことを 10 分程度で説明した。
このことにより、
各生徒は参加した講座内容の復習とともに、
参加できなかった講座についても内容を知ることができ、統一テーマ「物質の状態の変化」という観
点で自然科学の方法を学んだ。また、今回は宇都宮大学教育学部の先生も参加していただき、情報リ
テラシーの重要性など、各講座とも大変貴重な助言をしていただいた。
なお、今回の SPP に関しては、栃木ケーブルテレビで各講座の様子が取り上げられ、放送された。
−21−
Fly UP