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伝統武道・スポーツ文化系 主な研究テーマ 氏 名 平成19年度の研究

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伝統武道・スポーツ文化系 主な研究テーマ 氏 名 平成19年度の研究
伝統武道・スポーツ文化系
氏 名
ひら
さわ
のぶ
やす
平 沢 信 康(教授)
主な研究テーマ
○教養教育の伝統と遺産
○修養的思想の系譜―武道礼法を中心に
平成19年度の研究内容とその成果
われます。大学生における教養水準の劣化
21世紀は「文化」の時代なり、と喝破す
が著しいとの警鐘が鳴らされる一方で、今
る識者がいます。我が国の今後のグランド
後、日本のソフトパワーを強化するには教
デザインとして文化芸術大国を掲ぐべし、
養教育の充実が欠かせないとの主張もあ
と説く為政者もいます。そうした今後の国
り、指導的人材を養成するためにリベラル
家目標に照らして過去を振り返るとき、西
アーツの重要性が喧伝されています。
村伊作(1884~1963)の思想と功績には一
優れた教養教育の事例を近代日本教育史
瞥すべき価値があるように思われます。彼
の鉱脈に探るとき、西村によって1921(大
は、建築や美術工芸を通じて生活改善を模
正10)年4月、東京市神田区駿河台に創立
索し、日本人の生活の質の向上を図り、大
された「文化学院」の教育は、卓越した歴
正期に新しいライフスタイルを提唱した人
史遺産として再評価されてよいと思われま
物です。住宅を中心に彼が手がけた建築作
す。この私立学校は、与謝野寛・晶子夫妻
品は、清雅な格調を具え、今日なお輝きを
や石井柏亭など、当代一流の芸術家と知識
失っていません。
人を教授陣として迎え入れ、芸術的香気に
近年、中央教育審議会答申「新しい時代
あふれ、かつ進取の精神に富んだ革新的な
における教養教育の在り方について」
(2002
学校でした。
年)に代表される政策提言のほかにも、教
我が国は明治以降、国民全般の学力・知
養教育の充実を訴える主張が、大学関係者
識水準を上げるキャッチアップ型の教育に
のみならず財界人の一部からも発表されて
成功しました。それは、日本の近代化(戦
います。大正教養主義の時代は既に遠く過
前の富国強兵と戦後の経済成長の成功)に
ぎ去りましたが、旧制高校生=帝国大学生
とっては必須でしたが、昨今では、それに
のユースカルチャーへの懐旧の念と無関係
加えて個性的な異才の育成が教育政策の課
ではないにせよ、未来志向の次元で、最近
題として俎上にのぼっています。すでに内
の教養教育論議は活性化しているように思
閣総理大臣の諮問機関「臨時教育審議会」
の答申で 「個性重視の原則」 が謳われ、そ
英才教育ではない創造性・独創性の涵養と
の最終答申(1987年8月7日)では、21世
いった点において示唆に富む学校であると
紀に向けて新しい 「徳育」 を重視するとと
思われます。しかし、そうした特徴は、戦
もに 「画一よりも多様を、 硬直よりも柔軟
前の日本社会においては、憧れの対象とな
を、 集権よりも分権を、 統制よりも自由・
るとともに、受難と弾圧を呼び込むことと
自律を重んじる」 ことが教育行財政改革の
なりました。今年度は、15年戦争の期間に
方向である、 と主張されました。これ以
強まった思想統制下における当局の西村に
降、自由化・個性化・多様化という路線が
対する監視と閉鎖命令にいたる政治的な緊
教育政策の基調となり、今世紀に入ると規
張関係を実証的に明らかにしました。
制改革・構造改革特区において、株式会社
修養思想は、大学院
による学校設立が新機軸として報じられる
時代から抱えてきた問
など、学校設置 ・ 経営の面において自由な
題意識の対象の一つで
試行が提案企画され、一部実行に移されて
すが、この年度は、鎌
います。
倉時代以来の伝統を有
文化学院は、和歌山県出身の山林地主で
する小笠原礼法を中心
あった西村が長女の女学校進学を契機とし
に、武家礼法、さらに 作陶する晩年の西村伊作
て設立を決断した学校で、当時の高等女学
明治初期の国民教育における礼法教育につ
校の教育にあきたらず、良妻賢母主義を超
いて研究しました。
える高度な教育を企図したため、高等女学
その成果として、平成20年度概算要求に
校令に拘束されぬため各種学校の道を主体
むけ特別教育研究(教育改革)の申請書を
的に選択しました。校舎は、西村の設計に
「修養的教養に主眼をおいた学士課程教育
なるイングリッシュ・コテージ風の瀟洒な
の再構築-武道教育における礼法指導を中
洋館でした。教育史家により「大正新学校」
心に-」と題して執筆し、運営費交付金を
の一つとして言及されてきた文化学院は、
獲得するにいたりました。
父親が愛娘のために創ったオルタナティ
ヴ・スクールであり、今日まで数多くの個
これからの研究の展望
性あふれる才能の持ち主を輩出してきまし
文化学院に関与した文学者・美術家・音
た。
楽家および学者らの活動を、知識社会史の
この一年間は、西村伊作の人間形成と思
視点から社会学的に(場合によっては政治
想のほか、文化学院の学校史、そこで教鞭
史的に)考察し、またバウハウスなど海外
をとった人々の経歴や思想を研究しまし
の芸術理論などの移入摂取といった文化交
た。革新的な教育を断行した文化学院は、
流の視点を加えて、教育文化史的な研究を
規制緩和が進行する今日、学校秀才づくり
深めたいと考えています。
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