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自給飼料作物の生産・給与技術と 未利用資源の飼料化技術

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自給飼料作物の生産・給与技術と 未利用資源の飼料化技術
平成 24 年度 革新的農業技術に関する研修
(革新的農業技術習得支援事業)
自給飼料作物の生産・給与技術と
未利用資源の飼料化技術
平成 24 年 8 月 20~22 日
(独)農業・食品産業技術総合研究機構
畜産草地研究所
資料の取り扱いについて
本資料に掲載の研究成果等について、複写、転載および引用の際には、
原著者の了承を得た上で利用されたい。
研 修 日 程
8月20日(月)
13:00
集合・受付
13:15~13:45
開講式
13:45~14:35
「飼料作物の省力的栽培技術」
畜産草地研究所 飼料作物研究領域
主任研究員 森田聡一郎
14:35~15:25
「自給飼料の収穫・調製技術」
生物系特定産業技術研究支援センター
畜産工学研究部
主任研究員
15:35~16:25
橘
「イアコーン等の収穫・調製・給与技術」
北海道農業研究センター
酪農研究領域
上席研究員
16:25~17:15
保宏
大下友子
「稲発酵粗飼料の長期安定貯蔵・流通技術」
畜産草地研究所
家畜飼養技術研究領域
上席研究員
浦川修司
8月21日(火)
9:00~ 9:50
「未利用資源を材料とした発酵 TMR の調製・給与技術」
畜産草地研究所
家畜飼養技術研究領域
上席研究員
9:50~10:40
「焼酎粕等を活用した発酵 TMR の調製・給与技術」
九州沖縄農業研究センター
畜産草地研究領域
主任研究員
10:50~12:10
服部育男
「エコフィードの飼料特性とそれを活用した乳牛向け飼料設計」
畜産草地研究所
家畜生理栄養研究領域
上席研究員
13:00~14:20
野中和久
永西
修
「飼料作物の省力栽培技術及び細断型ロールベーラによる飼料調製
(現地見学)
」
畜産草地研究所
飼料作物研究領域
主任研究員
畜産草地研究所
森田聡一郎
家畜飼養技術研究領域
上席研究員
野中和久
14:30~17:30
「未利用資源を活用した発酵 TMR の調製(現地見学)
」
畜産草地研究所
家畜飼養技術研究領域
上席研究員
野中和久
8月22日(水)
9:15~11:45
総合討議
(座長)家畜飼養技術研究領域
領域長
11:45~12:00
閉講式
解散
塩谷
繁
目 次
ページ
1.飼料作物の省力的栽培技術
・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
2.自給飼料の収穫・調製技術
・・・・・・・・・・・・・・・・・
13
3.イアコーン等の収穫・調製・給与技術
4.稲発酵粗飼料の長期安定貯蔵・流通技術
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
5.未利用資源を材料とした発酵 TMR の調製・給与技術
6.焼酎粕等を活用した発酵 TMR の調製・給与技術
27
39
・・・・・・
59
・・・・・・・・
83
7.エコフィードの飼料特性とそれを活用した乳牛向け飼料設計
・・
93
飼料作物の省力的栽培技術
畜産草地研究所
飼料作物研究領域
森田聡一郎
1. はじめに
我が国における畜産業では、プラザ合意(1985 年)後の円高傾向を背景とし、比較的安
価に入手できた輸入穀物飼料を主体として給与メニューが設計されてきた。しかし近年、
①バイオマスエタノールやグリーン・ニューディール政策の振興、②新興国(BRICs 等)
の穀物需要増、③生産地(北米・豪・露など)の異常気象や、④非 GM 作物の作付面積減
少など複合的な要因により、2006 年から上昇が見られ始め、特に 2008 年には非常な高騰
を見せた(図 1)。その後、米国金融危機(2007 年からのサブプライム問題とその後のリー
マン・ショック;2008 年 9 月)や欧州ソブリン危機(2010 年~)の発生による世界的な不
況および「超」円高により価格は低下したが、金融危機克服のため各国中央銀行が量的緩
和政策(QE2 など)をとったことで投機資金が実物資産に流入することは十分にありえ、
実際に 2010~11 年には穀物価格の再度の上昇が見られた。また 2012 年はアメリカ中西部
を熱波が襲い、大豆、トウモロコシ価格は 2008 年と同程度まで高騰するなど、高止まりし
た価格が改善する見込みは小さいのが現状である。このような状況下において、従来は有
利に働いていた購入飼料主体の家畜飼養は畜産経営においてむしろ不安定化の要因となり
つつある。このように我が国の畜産業も飼料を通じて世界経済の流れとは無縁ではなく、
価格の急激な変化に対して改めて対応策を講じる必要があるといえよう。
表 1. 平成 8 年から 23 年における
輸入飼料の最高値・安値
価格(円/トン)
高値/安値
高値
安値
平均値
配合飼料
(乳牛用)
74,040
H20.12
44,940
H12.12
53,964
1.6
大豆油かす
60,306
H20.10
18,818
H11.10
34,355
3.2
乾牧草
41,100
H20.9
21,481
H11.11
29,410
1.9
農畜産振興機構(2012)より作表
図 1. 輸入飼料価格
搾乳牛 1 頭当たりの年間経費(2008 年;76.5 万円)
(表 2)の内訳をみると飼料費は 35.5
万円(46%)、さらにそのうちの配合飼料費は 16.5 万円と全体経費の約 21%を占めている。
それに対してデントコーンサイレージは 1.7 万円(2.2%)である(統計センター2010)。
またその使用金額を使用量で除すると配合飼料 61 円/kg、デントコーンサイレージ 8 円/kg
1
と算出される。このことから勘案すると配合飼料の使用量を削減し、デントコーン(以下、
サイレージ用トウモロコシ)を中心とした自給飼料に置き換えることで経営におけるコス
ト削減を達成することが重要な目標となる。しかしながら自給飼料生産の強化は長年に渡
り草地分野の主目標に掲げられてきたが、現況において達成は容易ではない。乳牛の飼養
頭数はバブル景気(1987~1990 年)をピークとして年々減少しつつあるが、1 戸あたりの
飼養頭数は上昇している。また搾乳牛 1 頭あたりに要する作業時間(全国平均)は約 110
時間だが(表 3)、そのうち自給飼料に関する労働時間は 6.4 時間(5.8%)に過ぎず、作業
時間のほとんどが飼養管理に向けられている状態である。農家に対するアンケートでも自
給飼料が拡大しない理由として労働力の逼迫があげられている(水上ら 2001)。トウモロ
コシ栽培面積は 2006 年を底として 2007 年より反転しつつあるが(図 2)、今後さらに農家
が作業時間を捻出するのは難しいことが予想され、現行の経営体制・技術体系において、
独力で栽培面積を拡大するのは困難であろう。
図 2. 乳牛飼養頭数とトウモロコシ栽培面積の変化
(農林水産省作物統計(2012)より作図)
そのため自給飼料作物の栽培面積拡大のために期待される技術として、省力的で作業時
間の節減を可能とし、かつ大規模展開が可能な栽培法が想定されよう。またこのような技
術ならば作業機 1 機あたりの稼働面積を増加させ、利用効率があがることで機械費の低減
も期待できよう。本稿では代表的な夏作飼料作物であるサイレージ用トウモロコシの省力
的播種技術として不耕起播種をとりあげ以下で解説する。
表 2. 搾乳牛 1 頭あたりの年間経費
費目
物財費
金額(円) 合計を100
種付料
11,613
(2)
飼料費
354,535
(46)
敷料費
7,378
(1)
22,489
(3)
光熱水料及び動力費
労働費
合計
表 3. 搾乳牛1頭当たりの
作業別労働時間(通年換算)
その他の諸材料費
獣医師科及び医薬品費
1,766
(0)
23,153
(3)
賃借料及び料金
14,111
(2)
物件税及び公課諸負担
10,779
(1)
乳牛償却費
97,964
(13)
建物費
19,325
(3)
自動車費
4,227
(1)
農機具費
28,743
(4)
生産管理費
2,105
(0)
直接労働費
154,551
(20)
間接労働費
12,645
(2)
765,384
(100)
項目
直接 飼育
労働 労働
時間 時間
時間
飼料の
調理・給与・給水
敷料の搬入
・きゅう肥の搬出
飼育管理
搾乳及び牛乳
処理・運搬
きゅう肥の処理
生産管理
間接
労働
時間
うち自給牧草に係る労働時間
合計
(
2
)内は内数
割合
25.1
22.9
12.1
11.0
10.6
9.7
50.0
45.5
2.5
1.3
2.3
1.2
8.2
7.5
(6.38) (5.8)
109.9 100.0
2. 不耕起・簡易耕播種技術の開発経緯
アメリカ中西部のグレートプレーンズ(Great Plains)は肥沃な土壌を活かし穀倉地帯と
して開拓されてきた。しかしながら年間降雨量が 250~900mm と少なく乾燥していること、
および農作業の機械化に伴う過度な耕起を原因として 1930 年代には既に風水食による表
土流出が多く発生し、ダストボウル(砂塵)による農業、健康への被害や、国内難民の発
生など社会不安も引き起こされていた(スタインベック著「怒りの葡萄」などに詳しい)。
これらの被害を防止するため、アメリカでは土壌保護局が設立され、不耕起栽培技術など
の土壌保全型の作業体系が検討されはじめた。1960 年代に入り適応する農機や除草剤が開
発されるに従い不耕起播種技術は広がり、技術が発達した北米では専用播種機も開発され
トウモロコシの一般的な播種方法となっている(Baker ら 2007)。それに伴いアメリカにお
ける耕地土壌の流出も減少しつつある。
このように不耕起播種は本来、風水食の防止を主目的としてきたが、反転・攪拌耕を省
略するため省力・省燃費効果が高いという利点をも有する(春原ら 1985、坂井ら 1987、1988、
国分 2001)。そのため繁忙期発生の回避や、さらには大規模作付けを目指す場合に適した
技術であると言える。また近年、農作業受託組織であるコントラクターの創設数は年々増
加しているが(福田 2008a、農林水産省 2010)、受託作業の内訳は収穫作業が増加しつつあ
るのに対し、耕起作業は横ばいである(図 3)。幅広い作業を受託できるよう大規模化に適
した不耕起播種技術を整備していくことでコントラクター経営は安定し、その結果、畜産
農家を過重労働から解放し、また飼養管理を高度化することに寄与できると考えられる。
なお不耕起播種とはその語句のとおり、畑を耕起することなく作物の播種を行うことを
意味するが、播種溝の切削をディスクで行い、全く耕起を行わない狭義の意味での「不耕
起」播種のみを指す場合と、ドリルによる穿孔や小型ロータリ刃による作溝といった「部
分耕」、表層撹乱を伴う「簡易耕」播種など、全面的な反転・攪拌耕を行わない体系も広義
の意味で含む場合があり、研究者によって定義が異なる。本稿では不耕起播種を広義の意
味(不耕起・部分耕・簡易耕を含む)で扱っている。
図 3. コントラクターの組織数と請負面積の変化
3
3. 日本国内での不耕起播種の動向
我が国での不耕起播種技術の開発は、主に水田における転作作物の作付けと草地の簡易
更新において主導されてきた。
水田転作においては麦と大豆が奨励されているが、この二品目で二毛作を行うと、大豆
の作付けが梅雨時期にあたる。特にロータリ耕後に降雨があると播種床が多量に水分を含
み、地耐圧が低下してしまうため作業を行うことが難しくなる。そのため大豆栽培の分野
では地耐圧を確保し、降雨による作業遅延の回避と適期播種の実施を目指して不耕起播種
が研究されてきた。国・県の農業試験場でも作業機の試作が行われ、それに伴い収量調査
が行われてきた(国分2001)。これまで開発や販売がなされてきた播種機には中央農研のア
ップカットディスクにより播種溝を切削する汎用型不耕起播種(NSV-600)(濱口ら2004)
や、愛知式大豆不耕起播種機(濱田ら1986、2001)、 ドリル式不耕起播種機(MJS186-6)、
小型ロータリ作溝の部分耕播種機(PFT-6)などがあり、畑の条件(降雨・前作残渣・礫・
土壌硬度)により使用の可否が調査されている(岩手県2003)。
草地の簡易更新は、その方式により作溝法、部分耕、穿孔法などに分類され、それぞれ
の方式の農機が販売されている(佐藤 2004)。いずれも既存植生がある草地での追播を可
能とするオープナーやディスク、ドリル等が装備されている。
4. 飼料作における不耕起・簡易耕播種の検討および導入事例
現在、我が国におけるサイレージ用トウモロコシ播種で実用化もしくは検討されている
不耕起・簡易耕播種の地域および体系は以下のとおりである(表 4)。
北海道ではトウモロコシ栽培に適した期間が短く、そのため播種が遅れると収穫適期の
黄熟期まで達しないことがある。そのため早期播種の重要性が他の地域と比べて高い。ま
た経営体が管理する面積が広大なことから 2000 年代前半より省力的播種の導入が模索さ
れ、十勝、根釧地域の TMR センターなどの大規模事業者で簡易耕播種法が選択されてい
る(林 2011)。作業方法として、降雪終了後の 5 月にチゼルプラウで耕盤層を破砕し、そ
の後にディスクハロで整地し不耕起播種機で播種を行う方式がとられている(谷本 2007)。
東北では前年の収穫跡地をそのまま放置し、翌春に簡易耕などの前処理工程を行わない、
完全な不耕起播種が検討された。播種には海外製のトウモロコシ用不耕起播種機が用いら
れた。その結果 5 ヶ年の連年不耕起栽培においても収量は低下しなかったことが報告され
ている(平久保ら 2011)。また東北地域ではマメ科植物のシロクローバやヘアリーベッチ
をカバークロップとして栽培し、その後作にトウモロコシを不耕起播種することで有機栽
培が試みられている(魚住ら 2012)。
九州(熊本菊池)ではトウモロコシの二期作が行われているが、二期作トウモロコシは
播種が遅延すると減収程度が大きくなることがこれまで指摘されており、そのため一期作
目の収穫と二期作目の播種作業を短期間で行う必要があった。そこに耕耘作業を必要とし
ない不耕起播種がコントラクターにより導入され、10 ha/日の効率で播種作業が行われるこ
とで繁忙期の解消が図られている(古関 2008、加藤 2011)。
4
表 4. 国内でのサイレージ用トウモロコシ栽培における不耕起/簡易耕播種技術の
検討および導入事例
地域
北海道
東北
関東
九州
導入場面
単作
方法・内容
普及 チゼルプラウ・ディスクハロ後に不耕起播種機で播種
単作/草地跡地
単作
単作
カバークロップ+単作
普及
研究
研究
研究
不耕起・簡易耕播種の現地調査
北東北における連続不耕起栽培の実施
不耕起播種における施肥法、雑草発生および耐倒伏性の検討
マメ科植物をカバークロップとしたトウモロコシの有機栽培
カバークロップ+単作
二毛作
二毛作
二毛作
二毛作
二期作
二期作
二期作
二期作
研究
研究
研究
研究
研究
普及
研究
研究
研究
シロクローバ跡ではトウモロコシのリン酸吸収が増加する
秋作エンバク跡における不耕起播種
アルファルファ跡における不耕起播種
イタリアンライグラス、ライムギ収穫跡地での不耕起播種の検討
ライムギ跡地での簡易耕播種の大規模栽培試験
九州における二期作トウモロコシの不耕起播種
小規模圃場でも使用可能な大豆用不耕起播種機の改良
二期作トウモロコシ播種のための機械改良
不耕起播種トウモロコシの耐倒伏性の検討
研究および調査報告
伊与田ら(2003)、前田ら(2004)
中村(2005)、谷本ら(2007)、餌取(2008)
澤田ら(2004)
魚住ら(2007)、平久保ら(2011)
井上ら(2000a、b)
出口ら(2009)
魚住ら(2004、2006、2011、2012)
Deguchiら(2005、2007)
森田ら(2007)
小林ら(2006)
森田ら(2006、2011a、b、c、2012)
小林(2012)
加藤ら(2007b、2011)、原田ら(2010)
加藤ら(2007a)
小畑ら(2004、2005)
原田ら(2009、2010)
5. 関東における飼料作と省力的栽培の検討
1)関東北部における飼料作
関東北部は本州でも有数の酪農地帯であり、飼料作物の栽培面積も広い。作付け体系で
は夏作をトウモロコシとし、冬作のイタリアンライグラスや飼料用麦(エンバク、ライム
ギ等)と組み合わせる二毛作が採られ、畑の有効利用と多収穫が図られている(表 5)。し
かしながら関東北部は気温条件の制約から概ね二毛作の北限地域にあたり、そのため作目
の切り替え時期に繁忙期が発生しやすい。すなわち前作の刈取り、予乾、貯蔵と、後作を
作付けるための耕起、整地、播種といった作業は、ほぼ同一時期に重なってくる(森田
2011b)。
表 5. 関東北部における飼料二毛作体系
5月
11月中 4月
6月 6月中
~4月中旬 下 上 中 下 上 ~8月
上
9月
中 下
上
冬作収穫
関東
北部
早生
10月
11月
中 下 上
冬作播種
晩生
イタリアン
飼料用麦
夏作収穫
夏作播種
早生
晩生
上段は冬作、下段は夏作の作業時期を示す. 赤色の網掛けは繁忙期が予想される旬を示す
特に春先は冬作の収穫とトウモロコシ播種の好適期が 5 月に集中し、また入梅による作
業阻害を考慮すると 6 月上旬までには作業を完了させる必要があるため、短期間に労働力
を投入する必要がある。しかしながら関東北部における酪農経営は依然として家族経営が
主流であり乳牛の飼養管理という日常業務があるため、飼料作の栽培管理に振り向けられ
る作業時間は非常に限られている。このような厳しい労働力不足が制限要因となり、これ
までトウモロコシ作付け面積の維持拡大が阻まれてきた。この解決のために技術開発を行
うことで、今後、省力的栽培技術やコントラクターによる作業請負が地域に浸透していく
余地が大いにあるものと考えられる。
2)飼料二毛作における不耕起播種の問題点
前述のように国内で大豆用の作業機や草地の簡易更新機は販売に至っている。しかしな
がら 2011 年の段階において我が国でトウモロコシ用に開発された専用機は販売・普及に至
っていなかった。そのためトウモロコシで不耕起播種を実施する場合には他作目のものを
5
流用するか海外機種を導入することが必要であった。他作物の機種を流用する場合はトウ
モロコシの栽植条件に適合するよう部品等の改造・換装などを行う必要があり、大豆用不
耕起播種機の播種ロールを改造することでトウモロコシ用に対応させた研究がある(加藤
ら 2006)。しかしながら他作目の機械を用いる場合に最も注意しなければならないのは酪
農農家が所有しているトラクタとの適合である。飼料畑は耕種作物と比べて一筆面積が広
く、農家装備のトラクタも 80~100 馬力以上に大型化が進んでいる。そのため 30~50 馬力
の小型トラクタを想定した水田転作用の不耕起播種機には高い負荷がかかり破損の恐れが
ある。それに対し、草地の簡易更新機は 70~80 馬力以上のトラクタに適応するため(佐藤
2004)、そのような問題はない。しかしながら牧草種子は小粒で、それに併せて播種方式も
溝に流し込むタイプが一般的であり、等間隔での点播を必要とするトウモロコシには馴染
まないことが予想された。
このような理由から、これまで国内での不耕起・簡易耕播種の試験、普及には海外で実
績のあるトリプルディスク方式のトウモロコシ専用播種機が用いられてきた。これは畑表
面の雑草や前作の残稈・残根を切断するためのコールタ(円盤)と播種溝を切削するため
に 2 枚のディスクを V 字に組み合わせたダブルディスクを直列に配置した機構を有してお
り(写真 1)、ピックアップフィンガーにより種子を一粒ずつつまみ上げ点播する作業機で
ある。また種子の繰り出しには接地輪の回転から動力を得ており、PTO( Power take-off)
からの動力を必要としない。米国では 100 ha を超える畑に対し作付けを行うため、10 条(条
間 75 cm)以上に対応が可能な牽引式のものが用いられているが、関東北部において稼働
させる畑は十数 a から数 ha であり、また分散錯圃であることを勘案して移動・旋回が容易
なよう 4 条式でトラクタの 3 点リンクに装着するものを選定している(写真 2)。推奨され
るトラクタは 80 馬力以上、作業スピードは 6.4~9.7 km/時で、計算上 10 a に要する作業時
間は 2.1~3.1 分程度である。
写真 2. ライムギ収穫跡地に
おける簡易耕播種
写真 1. 不耕起播種機の主要機構
この作業機を用いて、秋作エンバク、冬作ライムギ、冬作イタリアンライグラスの収穫
跡地に対しトウモロコシの専用不耕起播種を行いその後の苗立率を調査したが、大きな問
題が生じた。すなわち冬作収穫跡地での作業では苗立率が非常に低いという結果となった
(表 6)。トウモロコシは分げつが少ないため、苗立率の低下はそのまま減収につながる。
そのため安定した苗立率の確保は安定多収の前提条件である。低下の原因として調査の結
果考えられたのは、冬作残根が生残しているため標準装備のコールタでは播種溝の切削が
阻害され、そのため不完全な形状の播種溝から種子が逸出してしまうためであった。特に
6
残根量が多くルートマットを形成しているイタリアンライグラス跡地でその傾向が顕著に
見られた(森田ら 2008、2011a)。また冬作を残根量が相対的に少ないライムギとしても、
収穫時のトラクタ踏圧により土壌が「締め固め」や「練り返し」を受けることで粘土状の
土塊となり、トウモロコシは不完全な覆土による出芽不良を引き起こすことが推察された
(森田ら 2012)。トリプルディスク方式の不耕起播種機はトウモロコシ単作での使用を想
定し設計されている。このため前作の跡地、特に強固なルートマットを形成するイタリア
ンライグラス跡地では十分な苗立率を確保できないと考えられる。
表 6. 秋冬作の収穫跡地におけるトウモロコシ苗立率
トウモロコシ
苗立率(%)
播種方法
前作草種
不耕起
秋作エンバク
91
不耕起
冬作イタリアンライグラス
19
不耕起
冬作ライムギ
35
慣行耕起
冬作ライムギ
82
収穫後の圃場に対し前処理を施さずに不耕起播種した場合
播種機の設定栽植密度を 100 とした場合の割合
6. 苗立率の向上を目指して
この問題を解決するためには、①作業機の改良、②冬作草種および栽植方式の検討、③
簡易耕の導入など幾つかの手段が考えられた。①作業機の改良は、成功すれば省力効果を
損なわず播種作業を行うことを可能とするが、本体性能に大きく関わることであり早期の
実現は困難である。また②では、クローバーをリビングマルチとする体系(出口ら 2009)
や、冬作を条播とし、その条間にトウモロコシを播種する方法(森田ら 2010)などが考え
られる。しかしながら二毛作の前提条件は、夏冬作とも確実に収穫物を得ることにあり、
草種や栽植方式の変更は年間収量に大きく影響を与えることが予想され、綿密な検討が必
要になる。そこで、③簡易耕の導入について検討を行った。これは多くの農家が所有して
いるディスクハロを用いて畑表層の撹乱や冬作残根の切断を行い、全面耕より短い時間で
の播種床準備を狙った工法(表 7)である。その結果、冬作ライムギの収穫跡地において
トウモロコシ苗立率は不耕起播種の場合と比較して約 30 %程度向上した(図 4)。しかし
ながら慣行耕起と比較すると苗立率の平均で約 5.6 %低かった(2005~2010 年平均)。ま
た最終的な不耕起播種と慣行耕起播種の収量を比較した場合、本数が減少し競合緩和によ
る補償効果で個体当たりの重量は増加したものの、単位面積当たりでは約 3.9 %減収した。
そこで苗立率の低下を事前に折り込み播種量を 15 %(標準;7000 本→厚播;8000 本/10 a)
増量することで対応を試みた。その結果、厚播の場合、苗立本数が耕起播種と同程度とな
ることで、苗立率の低下分が補われた。そのため減収分を補うことが可能であった(図 5)。
また簡易耕方式での燃料消費量および作業時間の実測をおこなったところ、プラウ・ロー
タリ耕を省略することで、燃料消費は約 65 %、作業時間は約 40 %削減することが可能で
あった(表 7)。このように簡易耕播種においても慣行耕起と同程度の収量を確保した上で、
作業への投入量(燃料・時間)を削減することが出来た。圃場試験においては簡易耕、慣
行耕起とも播種を同日に行っているが、簡易耕播種は作業時間の短縮と共に、降雨に左右
され難い計画的な作業実施が可能であるという特性を持つ。そのため慣行耕起よりも晩生
の品種を作付けできることが期待され、潜在的な増収効果が見込まれるであろう。
7
表 7. 簡易耕播種法の作業工程と各作業における燃料消費および作業時間の割合
作業
燃料(軽油)
作業時間
作業機械
耕起
簡易耕
耕起
簡易耕
堆肥散布
16
16
16
16
側方排出型堆肥散布機
プラウ耕
17
-
22
-
プラウ
ディスク耕
12
-
11
-
ディスクハロー
施肥
2
2
5
5
ブロードキャスタ
簡易耕
-
7
-
14
ディスクハロー
ロータリ耕
29
-
15
-
ロータリ
播種
5
5
11
11
不耕起播種機
鎮圧
15
-
8
-
ローラー
ブームスプレーヤ
農薬散布
合計1
4
4
12
12
100
34
100
58
1
耕起播種の燃料・作業合計を 100 とした場合の各工程の割合
図 4. ライムギ収穫跡の簡易耕によるトウモロ
コシ苗立率の工場効果(2005~2010 年)
播種法以外は同一栽培条件とした場合の省耕
起と慣行耕起区の苗立率を比較した
図 5. 簡易耕によるトウモロコシ増収効果
(2005~2010 年)
播種法以外は同一栽培条件とした場合
の省耕起と慣行耕起区の乾物収量を比
較した
7. おわりに
冒頭で述べたように、関東北部における飼料作は厳しい労働力不足に陥り家族労働に依
存した飼料生産の拡大は限界に近づいている。その点から省力化を達成できる不耕起・簡
易耕播種は対応技術として好適であると言える。また収穫作業のみならず、播種作業でも
コントラクターが中核的な役割を担える技術を開発していくことは、コントラクターの周
年作業受託を可能とし経営安定化につながる。コントラクターが地域の飼料生産全般を担
う組織に成長することは畜産農家の将来的な負担軽減につながっていくものと期待される
であろう。
ここ何年かの試験において、簡易耕播種を導入しても慣行耕起と同程度の収量を確保し
たうえで作業時間等の削減が出来たため、今後は生産コストを算出することで経営に及ぼ
す効果を示す必要がある。また、この技術がイタリアンライグラスなど他の冬作草種でも
汎用的に実施可能かどうかについても調査が必要であると考えられる。
8
参考資料. 搾乳牛 1 頭あたりの流通飼料および牧草の年間使用数量と価額
使用額
(円)
区分
流通飼料費合計
282296 円
購入飼料費計
穀類
279725 円
ぬか・ふすま類
植物性かす類
動物性かす類
配合飼料
牛乳・脱脂乳
いも及び野菜類
わら類その他
生牧草
乾牧草
サイレージ
その他
自給飼料費計
牛乳・脱脂乳
2571 円
牧草・放牧・採草費合計
生牧草類計
72239 円
210 円
稲わら
その他
いね科牧草
まめ科牧草
まぜまき
その他
乾牧草類計
いね科
8094 円
まめ科
まぜまき
その他
サイレージ計
いね科
62454 円
まめ科
まぜまき
大麦
その他の麦
とうもろこし
大豆
その他
ふすま
米・麦 ぬか
その他
大豆油かす
とうふかす
ビートパルプ
ビールかす
その他
牛乳(除初乳)
脱脂乳
人工乳
その他
稲わら
その他
いね科
まめ科
その他
いね科・イタリアンライグラス
いね科・その他
まめ科・ヘイキューブ
まめ科・その他
その他
いね科
(うち稲発酵粗飼料)
まめ科
その他
カルシウム類
その他
牛乳(除初乳)
脱脂乳
その他
デントコーン
イタリアンライグラス
オーチャードグラス
ソルゴー
チモシー
青刈らい麦
青刈えん麦
その他
アルファルファ
その他
いね科を主とするもの
まめ科を主とするもの
その他
飼料かぶ
家畜ビート
その他
デントコーン
イタリアンライグラス
オーチャードグラス
ソルゴー
チモシー
らい麦
えん麦
その他
アルファルファ
その他
いね科を主とするもの
まめ科を主とするもの
その他
デントコーン
イタリアンライグラス
オーチャードグラス
ソルゴー
チモシー
らい麦
えん麦
稲発酵粗飼料
その他
アルファルファ
その他
いね科を主とするもの
まめ科を主とするもの
その他
その他
穀類
いも及び野菜類
野生草
野乾草
放牧場費
合計
2076
97
5892
1019
725
810
32
24
2703
71
17066
882
1867
31
165378
31
544
3590
100
10
397
1
85
1346
33295
6616
12755
1196
1618
276
144
1377
2534
15413
2391
3
9
168
0.4
9.4
1.9
3.6
0.3
0.5
0.1
0.0
0.4
0.7
4.3
0.7
0.0
0.0
0.0
16
90
単価
(円/kg)
57
46
54
93
42
27
75
11
46
11
61
103
320
370
19
10
35
39
122
54
167
20
3
10
14
48
18
138
30
0
81
8
21
0.0
0.0
2
18
9
5
9
0.0
2
4
2
16
0.0
0.0
0
10
64
0.0
3
20
1
11
0.0
0.0
3
4
1
32
584
156
47
585
20
84
203
6
0.0
0.0
0.2
0.0
0.0
0.2
0.0
0.0
0.1
0.0
9
36
7
10
28
1
4
4
16
21
5
21
25
23
6282
1.8
58
37
16619
3046
323
554
902
58
240
215
1209
0.0
0.0
4.7
0.9
0.1
0.2
0.3
0.0
0.1
0.1
0.3
38832
69
327
60
28
118
1335
354811
9
金額割合 使用数量
(%)
(kg)
0.6
37
0.0
2
1.7
109
0.3
11
0.2
0.2
19
0.0
1
0.0
0.8
36
0.0
7
4.8
373
0.2
78
0.5
0.0
46.6
2730
0.0
0
0.2
2
1.0
10
0.0
0.0
0.1
20
0.0
0.0
8
0
20
278
23
2134
264
16
55
56
6
14
11
8
12
21
10
16
10
17
19
11.0
0.0
0.1
0.0
4230
5
9
13
0.0
0.0
0.4
100
3
16
333
11
7
4
8.引用文献
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10
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森田聡一郎ら(2011c)冬作草種とその刈高および残根がトリプルディスク方式により不耕
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D=000001067393&forwardFrom=GL71050101
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素肥沃度の向上. 東北農研報 106:15-26
魚住順ら(2007)トウモロコシは不耕起栽培でも耕起栽培と同等の収量性が得られる. 畜
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[2012 年 6 月 29 日参照]
魚住順(2011)不耕起栽培の概略と東北地域への導入適性. 日草誌 57:156-161
魚住順ら(2012)ヘアリーベッチ(Vicia villosa Roth)を用いたリビングマルチによる飼料
用トウモロコシ(Zea mays L.)の雑草防除. 日草誌 58:1-8
12
自給飼料の収穫・調製技術
生物系特定産業技術研究支援センター(生研センター)
畜産工学研究部 飼料生産工学研究
橘 保宏
1.はじめに
輸入飼料価格の高騰が畜産経営を圧迫するなど、飼料の自給率向上が重要な課題となっている。飼
料自給率を高めるためには、粗飼料の安定的な生産が必要であるものの、酪農家においては、飼養規
模の拡大や高齢化による労働力不足が課題となっており、技術革新による省力化と低コスト化に期待
が寄せられている。また、酪農家の飼料生産を請け負うコントラクターと毎日の飼料調製作業を肩代
わりする TMR センターに注目が集まっている。
本稿では、農研機構生研センター(以下、生研センター)が、トウモロコシ生産を省力化するため
に開発した細断型ロールベーラ、府県コントラクター向けに開発した汎用型飼料収穫機、TMR センタ
ー向けに開発中の可変径式 TMR 成形密封装置を中心に、粗飼料の収穫調製用機械、発酵 TMR の調製用
機械について紹介する。
2.粗飼料の収穫調製用機械
1)細断型ロールベーラ(トウモロコシの収穫調製用機械)
青刈りトウモロコシ(以下、トウモロコシ)は、栄養価が高く、濃厚飼料の一部を代替えできる
ため飼料自給率の向上に重要な作物であるものの、その作付面積は、平成 2 年度の 12 万 6 千 ha を
ピークに減少を続けていた。その要因は、トウモロコシの収穫調製を能率的に行うには人手が必要
であり、重労働なサイロ詰めを伴うことであった。そこで、生研センターでは、トウモロコシの収
穫調製作業を省力化するため、府県の中規模酪農家を主な対象として、株式会社 IHI スターと株式
会社タカキタと共同で細断型ロールベーラ(図1)を開発した。細断型ロールベーラは、平成 16 年
にメーカーから市販化され平成 24 年 6 月現在 647 台が普及している。
(1)細断型ロールベーラの構造と仕様
細断型ロールベーラは、トラクタ PTO 軸で駆動するけん引式の作業機であり、フォレージハーベ
スタで細断されたトウモロコシをホッパに受けロールベールに成形することができる。成形された
ロールベールを自走式又はけん引式のベールラッパで密封することにより、誰でも簡単にトウモロ
コシを高品質なサイレージに調製することができる。これまで重労働であった人手によるサイロ詰
め作業を必要としない。細断型ロールベーラは、成形室の構造の違いからバーチェーン式とローラ
式の 2 通りがある(図2、3)。主要諸元を表1に示す。
13
図1 細断型ロールベーラ(左:バーチェーン式、右:ローラ式)
図2 バーチェーン式の構造図
図3 ローラ式の構造図
表1 細断型ロールベーラの主要諸元
全
長
(mm)
バーチェーン式
(MR-810)
4,760
全
幅
(mm)
1,960
1,850
全
高
(mm)
2,860
2,850
質
量
(kg)
1,590
2,000
細断型ベーラ
成形室寸法
(mm)
ローラ式
(TSB0920)
4,950
φ800×850
φ860×860
ホッパ容量
3
(m )
2.0
1.7*
ネット幅
(mm)
1,200または,1000
1,060
所要動力
(kW)
15
20
*定置作業用は2.2m3
14
(2)作業精度と作業能率
平均含水率72%(65~81%)、設定切断長8~11mmのトウモロコシをロール成形した結果、放出時
に生じたロスは平均1.2%、密封時に生じたロスは0.2%であった。ロールの平均質量は336kg(271
~396kg)、平均乾物密度は183kg/m3であり含水率が低くなるほど高くなった。この密度は、5~6m
の縦型サイロの底部の密度に相当する。
作業能率は、①34aの圃場で、トラクタの横に1条刈りハーベスタを装着すると同時に細断型ロー
ルベーラを同じトラクタでけん引しPTO駆動する形態(ワンマン作業)でのロール成形作業では
15.9a/h、②20aの圃場で、2条刈りハーベスタに併走した作業(伴走作業)では38.7a/h、③32aの圃
場で、2条刈ハーベスタをトラクタ後部に直装して後進収穫するリバース作業を組み合わせた作業
(定置作業)では11.4a/hであった。いずれも、慣行のサイロ詰め作業体系と収穫から成形・密封ま
での延べ労働時間を比較するとワンマン作業では44%、定置作業では半分に削減できることが分か
った(細断型ロールベーラ利用研究会2008)。
(3)サイレージ品質
細断型ロールベーラでトウモロコシを調製したサイレージの発酵品質調査結果が多数報告されて
いる。野中ら(2005)は、約100個のロールベールを約2~3ヶ月貯蔵した後に品質調査した結果、不
良発酵の指標である酪酸含有が0%でVBN/TN比は7%と低く良質であり、品質の大きなばらつきは認
められなかった。志藤ら(2005)が、貯蔵期間と土の付着および高水分材料の発酵品質への影響を
調べた結果、貯蔵2~12ヶ月間貯蔵後も発酵品質は良好であり、土の付着した部分は乳酸が少なく酢
酸量が多くなったものの不良発酵とは認められなかった。また、水分含量が多く内部に排汁がたま
っていた場合でも発酵品質は良好であった。
(4)トウモロコシ以外の作物への適応性
①ソルガム
村上ら(2006)は、細断型ロールベーラによるソルガムの収穫調製技術への適応を試み、収穫機
械は、フレール式ハーベスタよりもコーンハーベスタが優れていること、ロール成形後24時間以内
に密封すれば発酵品質を確保できること、さらに、12ヶ月の長期保管後もカビの発生は見られなか
ったことを報告した。
②予乾牧草
志藤ら(2003)は、イタリアンライグラス、スーダングラスをディスクモアで刈取り予乾した後
に集草しフォレージハーベスタで収穫作業を行い、細断型ロールベーラで調製する体系とカッティ
ング機構のない牧草用ロールベーラによる収穫調製体系と比較する試験を行った。その結果、細断
型ロールベーラによるベールの乾物密度は、イタリアンライグラスで平均175kg/m3、スーダングラ
スで平均163kg/m3となり、牧草用ロールベーラによるベールの1.7~2.1倍に高まった。
③飼料イネ
喜田ら(2005)は、細断型ロールべーラを利用してフォレージハーベスタで細断収穫された飼料
イネを成形密封することが可能であること、このときの乾物密度は200kg/m3、現物密度は500kg/m3
で飼料イネ専用収穫機(Y社製フレールタイプ)のロールベールに比べ現物比1.5倍の高密度であり、
良好な発酵品質が得られることを報告した。
2)汎用型飼料収穫機(トウモロコシ、飼料イネ、牧草の収穫調製用機械)
(1)開発の背景、目的
15
農林水産省(2009)によれば、全国のコントラクター数は平成 19 年に 479 組織となり全国の飼料
収穫面積の1割以上をコントラクターが担うまでに増加している。しかし、北海道や九州などの大
規模生産地が 3 分の 2 以上を占め、都府県ではその普及が伸び悩んでいる。その理由は、圃場が狭
小で分散しており、地盤が軟弱な水田や転作田が多いため、大型機械による効率的な作業を難しく
していること、さまざまな飼料作物の収穫調製を請け負う場合は、作物毎に異なる専用の機械を揃
えなければならず機械費が大きな負担になることが上げられる。
そこで、生研センターは、株式会社タカキタおよび株式会社ヤンマーと共同で、狭く小さな圃場
や軟弱な圃場に強く、1 台でトウモロコシ、飼料イネ、牧草などの飼料作物を収穫、細断、ロール成
形できる汎用型飼料収穫機を開発した。汎用型飼料収穫機は、平成 21 年 7 月に市販化され、平成 24
年6月現在 36 台が普及している。
(2)主な特徴
汎用型飼料収穫機の概念図を図4、主要諸元を表2に示す。汎用型飼料収穫機は、走行部にホッ
パと細断型ロールベーラの成形室を搭載し、機体前方に収穫部を装備している。走行部はゴムクロ
ーラ式を採用し、その場での旋回もできるので進入路が狭い圃場や小さな圃場でも小回りを効かせ
た作業が可能である。また、接地圧が小さいのでトラクタが入れない軟弱な圃場でも作業ができる。
収穫部は、フォレージハーベスタとアタッチメントで構成され、アタッチメントはトウモロコシ用、
飼料イネ用、予乾牧草用の 3 種類がある。フォレージハーベスタは、ユニット型シリンダ式カッタ
ヘッドを搭載し切断長を 1cm 又は 3cm に設定できる。成形室は、幅 85cm、直径 1mであり、特殊バ
ーチェーン方式を採用している。また、ホッパに細断した材料を一時貯留することができるので、
ネット結束中およびロール放出中も停止することなく収穫作業を継続することができる。
飼料イネ用アタッチ
図4.汎用型飼料収穫機の概念図
16
表2.汎用型飼料収穫機の主要諸元
機体の
大きさ
収穫部
ホッパ
成形室
走行部
全 長
(mm)
全 幅
(mm)
全 高*
(m m )
重 量
(k g)
細断方式
アタッチメント種類
作業幅
(mm)
容 量
(m3)
形 式
直径×内幅 (mm)
形 式
接地圧
(kPa)
機関出力
トウモロコシ収穫時
6,500
2,000
3,460
4,990
ロークロップ式
1,500(2条刈)
26.4
飼料イネ収穫時
6,810
2,340
3,460
5,220
ユニット型シリンダ式
リール式
2,060(6条刈)
1
特殊バーチェーン式
φ1,000×850
クローラ式
27.6
(kW)
予乾牧草収穫時
6,180
2,000
3,460
4,920
ピックアップ式
1,600
26.0
72.1(98PS)
*全高は作業時の寸法
(3)汎用型飼料収穫機による作物別収穫調製作業
① トウモロコシ
トウモロコシの収穫作業風景を図5に示す。トウモロコシ用収穫アタッチメントは、2条刈りのロ
ークロップ式であり枕地処理も中割もできる。牛の食べ残しを減らしロールベールの密度を上げ、
サイレージ品質を高めるため、切断長は1cmに設定する。
作業能率は、圃場面積が30a程度であれば30~40a/hであった。圃場面積が同じでも収量が多い場
合や圃場の形状が不整形な場合は、圃場作業量は低下する。ロールベールの重さは、含水率68~77%
の条件では約480kgとなった。ソルガムも条間75cm程度で播種することによってトウモロコシ用アタ
ッチメントで収穫できた。ロール放出時のこぼれによるロスは1%以内であった(飼料イネ、牧草収
穫時も同様に放出時ロスは1%以内)。
図5 トウモロコシの収穫作業風景
② 飼料イネ
飼料イネの収穫作業風景を図6に示す。汎用型飼料収穫機による飼料イネの収穫では、汎用コン
バインで採用されているリール式の飼料イネ用アタッチメントを装着する。作業幅は2mで枕地処理
も中割作業も可能である。切断長は、乳牛の採食量を確保しつつ未消化籾の排せつ量を低減できる
17
長さとして3cm(新出ら2008)に設定する。
作業能率は、乾物収量0.8t/10a、面積25aの圃場で 29a/h、5a前後の圃場でも11a/hであった。人
が何とか歩ける程度の軟弱圃場でも作業は可能である。長稈品種も草丈が160cm程度までなら収穫で
きる。ただし、倒伏した圃場では、アタッチメントや収穫部での詰まりを避けるため速度を落とし,
株元側から追い刈りを行う。逆に穂先からアタッチメント内に入る収穫方法を行うと草丈が長い場
合は、株元を切断する前に穂先が収穫部に引き込まれるため、株を根本から引き抜き土を混入させ
てしまうことになる。ロールベールの重さは,含水率58~72%の条件では平均328kgであった(橘ら
2011a)。
図6 飼料イネの収穫作業風景
③ 予乾牧草
予乾牧草の収穫作業風景を図7に示す。予乾牧草用アタッチメントは、タインで集草列を拾い上
げるピックアップ式である。集草列を作るまでの刈り取り、転草、集草作業は、従来の予乾牧草収
穫用機械(ディスクモア、モアコンディショナ、テッダ・レーキなど)を利用する。切断長は、飼
料イネと同様3cmに設定する。予乾牧草は、トウモロコシや飼料イネのような立毛状態で直接収穫す
る作物よりも含水率の経時的変化が大きく、転草や集草作業の巧拙による含水率のムラが生じやす
い。汎用型飼料収穫機の性能は、こうした影響を強く受けるので圃場面積の大小だけで圃場作業量
を推定するのは困難なため、毎時乾物処理量で作業能率を判断する。集草列含水率が60%以下の条
件では毎時乾物処理量は約5t/hであるが、集草列含水率が70%を超えると毎時乾物処理量は3t/h以
下と著しく低下する(図8)(橘ら2011b)。一般に含水率70%以上の牧草サイレージは、密封後のラ
ップサイロ内に汁液が溜まり牛の嗜好性を低下させる上、汁液の廃棄による栄養ロスが大きい。作
業能率の低下を抑え飼料の栄養価を確保するためにも、集草列の含水率は50~60%程度に予乾させ
た後に作業することが望ましい。
ベールの放出時損失率は平均0.9%(0.6-1.4%)、ロールベールの重さは、含水率50~60%の条件
では平均390kgであった。石の多い草地での作業は、収穫部の切断刃を破損する危険があり、8°以
上の傾斜地での作業も安全上避けることが望ましい。また、クローラ式であるため旋回時に草をは
がす恐れがあるので、永年草地には不向きであり転換畑の裏作での牧草を主に対象としている。
18
8.0
毎時乾物処理量(t/h)
7.0
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
45
図7 予乾牧草の収穫作業風景
50
55
60
65
70
集草列含水率(%)
75
80
図8 集草列含水率と毎時乾物処理量の関係
(4)サイレージ品質
成形されたロールベールの平均乾物密度は、トウモロコシで197kg/m3、飼料イネで168kg/m3、予乾
牧草で232kg/m3で高い品質のまま長期間保存できる。各飼料作物のサイレージ発酵品質の例を表3
に示す。なお、いずれのサイレージも乳酸菌等の添加物は使用しなかった。
表3 汎用型飼料収穫機で収穫調製したトウモロコシ、飼料イネおよび牧草の
サイレージ発酵品質の例
乳酸
現物割合(FM%)
酢酸
3.84
1.55
59
4.01
54
5.09
含水率
(%)
pH
トウモロコシ*1
74
飼料イネ*2
イタリアン
ライグラス*3
酪酸
VBN/TN
(%)
V-score
0.31
0.00
9.4
90
1.16
0.26
0.00
1.96
100
1.31
0.26
0.00
8.00
94
*1 調製4ヵ月後の発酵品質、*2 調製12カ月後の発酵品質、*3 調製7カ月後の発酵品質
(5)飼料イネ・長大作物兼用アタッチメント(開発中)
汎用型飼料収穫機の青刈りトウモロコシ用のロークロップアタッチメントと飼料イネ用のリール
アタッチメントを1つに統合することで、汎用型飼料収穫機のさらなる低コスト運用が可能となる。
そこで、生研センターでは、草丈1.5mを超す長桿品種を含む飼料イネや草丈3mを超すトウモロコシ
などの長大作物を青刈り収穫でき、小型軽量な次世代型アタッチメントのための株元切断・搬送機
構の開発を進めている。
3.発酵TMRの調製用機械
1)発酵TMRについて
酪農家の労働力不足を解決し経営の効率化を図る手段として、飼料混合等餌作り作業の外部化が
進んでいる。TMR(完全混合飼料)を畜産経営に供給するTMRセンターは、飼料生産労働力不足への
対応や良質飼料の供給を推進する上で重要である。平成15年は34組織であったTMRセンターは、平成
19年には73組織に拡大している(農林水産省2009)。
19
TMRの中でも発酵TMRは、フレッシュタイプに比べて作り置きが利くため、運搬距離が長い酪農家
への配送回数を減らすことができ、エコフィード等食品副産物の利用がしやすい。また、開封後に
品質が低下しにくく、ドライタイプに比べて嗜好性や採食性に優れるなどの特徴を持つため、今後
の普及拡大が期待されている。
2)フレコンバッグと細断型ロールベーラの利用
発酵TMRは、フレコンバッグによる梱包(図9)が一般的であるが、フレコンバッグを利用する場
合は、袋詰め作業に2~3名の人員が必要であり、梱包密度が低いため夏場にはカビの発生が見られ
るなど品質面でも課題がある。
図9 フレコンバッグ詰め作業
その対策として、発酵TMRの調製に細断型ロールベーラを利用することによって、発酵TMRの高品
質化、大幅な省力化、貯蔵性の改善が確認されつつある。これまでに、乾物密度350kg/m3と高密度
にロール成形でき、長期保存しても品質は安定していること(福井ら2007)、発酵TMRは開封後の好
気的変敗が抑制されること(平岡ら2006)、調製にかかる延べ労働時間は大幅に削減されること(増
田ら2007)、調製後の発酵ガスによるベールの膨張、変型はごく僅かで2段積みによる貯蔵も可能
であること(増田ら2009)が報告されている。最近では、細断型ロールベーラとベールラッパが一
体化し、成形から密封まで自動運転が可能なモデルも登場してきており(図10)、既にいくつかの
TMRセンターで導入が進んでいる。しかし、細断型ロールベーラの成形室は定径であるため、質量・
大きさが違う発酵ロールTMRを品揃えするためには、成形室の大きさが異なる複数の細断型ロールベ
ーラを導入する必要がある。また、成形室が満量になった時点で材料供給を止める方式であるため、
ロールを目標質量(400kg、500kgなど)に合わせることが難しい。さらに、TMR材料の組成や水分の
違いによって圧密成形後の密度が異なるため、同じ質量に合わせようとすると成形室に入りきれな
場合や満量にするための材料が足りずに梱包密度が低下する場合が起こり得る。これを解決するた
めに、材料投入後に上からピストンで圧縮する方式の圧縮梱包機や材料を角形に成形梱包する角形
梱包機があるが、数千万円の設備投資が必要なことが課題となっている。今後、TMRセンターが経営
の安定化を図るためには顧客の拡大が重要なポイントとなり、酪農家の頭数規模や泌乳牛、乾乳牛、
育成牛等のメニューの違いなどのニーズに即した餌作りへの対応が必要になると予想される。
20
図10 ベールラッパ一体式細断型ロールベーラ
(左:I社製・直径1m×幅1m、中:T社製・直径1.15m×幅1m、右:T社製・直径1m×幅0.85m)
3)可変径式TMR成形密封装置(開発中)
このため、生研センターでは、株式会社IHIスターと共同で、TMRを直径が異なるロールベールに
成形密封できる可変径式TMR成形密封装置の開発・実用化を進めている。
可変径式TMR成形密封装置は、荷受部、可変径式成形部、密封部などから構成される(図11、表4)。
可変径式成形部の成形室(幅0.86m)は、幅広ベルト可変径式で、ベールの直径を0.85~1.1mの範囲で
成形でき、37kW以上のトラクタPTOまたは電動モータで駆動する。荷受部に投入されたTMRを、コン
ベア等によって成形室に供給し成形室内でTMRはロール状に成形する。ベールの大きさは、直径と質
量のいずれかで設定可能であり、成形室が設定した径または質量になると供給を停止しネット結束
した上で、成形室から排出後にラップフィルムによる密封を自動で行う。成形中に還元部に落ちた
「こぼれ」は成形室に再供給される。
可変径式成形部
荷受部
異径対応
密封部
還元部
図11 可変径式TMR成形密封装置の概要
21
表4 可変径式TMR成形密封装置の主要諸元
項目
内容
機体全長(m)
機体全幅(m)
機体全高(m)
8.9
2.35
2.9
荷受部容量(m3)
成形室
成形室幅(m)
2.7
幅広ベルト可変径式
0.86
成形室直径可変範囲(m)
0.85~1.1
結束方式
ネット
(巻き数自動調節機能)
密封方式
上アームダブルストレッチ
(可変径対応)
適応トラクタ(kW)
37~
最大径
最小径
(1.1m)
(0.85m)
図12 試作機で梱包したロールベール
4)可変径式TMR成形密封装置の性能
材料内訳や含水率が異なるTMR(表5)を、最小径ベールと最大径ベールのベール質量比で1.7~2.0
倍、乾物密度は300kg/m3(粗飼料主体のものは200kg/m3)以上のベールに成形密封できた(表6)。毎時
処理量は8~18t/h程度で、成形から密封までのこぼれによる損失割合は1%以下であった。質量設定
は、対象TMRの最小径から最大径の質量範囲内で設定でき、設定値に対する質量の差は±10kg程度で
あった。ベールに調製し、密封したTMR(2010年8月~11月に調製)を2ヶ月後に品質調査したところ、
カビの発生は認められず嗜好性も良好であった。
22
表5 供試TMR
材料内訳
(乾物%)
供試
TMR
対象牛
A
含水率
(%)
平均
パーティクル
サイズ
(mm)
粗飼
料
濃厚
飼料※
泌乳牛
40
60
56.2
7.3
B
乾乳牛
65
35
69.1
10.0
C
肉用牛
20
80
44.3
6.8
D
乾乳牛
63
37
35.7
6.5
E
泌乳牛
30
70
33.3
5.5
F
泌乳牛
30
70
46.7
6.1
G
泌乳牛
30
70
54.4
6.5
※:濃厚飼料にはミネラル等の添加剤を含めた。
表6 成形試験結果(n=3)
供試
TMR
ベール直径範
囲(m)
最小~最大
ベール質量
範囲(kg)
最小~最大
ベール
質量比
(最大/最小)
乾物密度
(kg/m3)
損失割合
(%)
毎時処理量
(t/h)
A
0.86~1.12
361~686
1.90
311~350
0.3~0.6
13.9~17.7
B
0.86~1.10
352~638
1.81
206~238
0.3~0.4
11.3~13.5
C
0.87~1.10
352~704
2.00
388~474
0.3~0.5
12.7~14.6
D※
0.91~1.14
258~474
1.84
296~348
0.4~0.6
8.1~8.3
E
0.87~1.13
324~559
1.73
424~438
0.7~0.9
12.0~13.1
F
0.88~1.12
364~642
1.76
373~401
0.4~0.5
15.4~16.7
G
0.87~1.11
434~739
1.70
385~401
0.3
11.8~14.9
※:Dの最大径の試験回数は1回。
5)今後の予定等
可変形式 TMR 成形密封装置は、TMR の製造・販売を行う TMR センター、飼料会社、生産組合等幅
広い組織的利用いただくため、トラクターの PTO 駆動の移動可能な仕様(図 13)と電動モーター駆
動の室内接地仕様(図 14)の2つの利用を想定して実用化を目指している。なお、セミコンプリー
トフィードや食品製造副産物が多くを占めるものは、成形が困難な場合があり、粗飼料の混合割合
を考慮する必要がある。TMR センターでの長期連用試験を継続し、課題を抽出して、平成 24 年度中
の市販化を目指している。
23
図13 トラクターPTO駆動仕様(畜産農家での試験風景)
図14 電動モーター駆動仕様(TMRセンター内での試験風景)
4.粗飼料含水率の簡易測定技術(開発中)
乳牛等大家畜の飼養管理や粗飼料の流通促進を図る上で、粗飼料の乾物質量の把握が重要である。
しかし現状では、中高水分域(30~80%)の粗飼料を簡易に測定できる含水率計がないため、産現
場で簡易に含水率を測定する方法が求められている。そこで生研センターでは、粗飼料の収穫調製
時や給餌等の際に、短時間で中高水分域の粗飼料の含水率を測定する技術を開発している。
5.さいごに
平成 22 年 3 月閣議決定された「新たな食料・農業・農村基本計画」では、10 年後の飼料自給率
の目標を 38%(平成 22 年 26%)としている(農林水産省 2010a)
。これを受けて同年 7 月に発表さ
れた「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」では、畜産経営の労働負担の軽減と自
給飼料の生産性向上のため、コントラクターや TMR センター等の飼料生産支援組織への飼料生産の
外部化を一層推進することが重要であるとしている(農林水産省 2010b)
。TMR センター向けに開発
中の可変径式 TMR 成形密封装置の実用化を急ぐとともに、引き続き自給飼料生産調製用機械の技術
革新に取り組んでいきたいと考えている。
24
6.参考文献
農林水産省(2009)酪農・肉用牛をめぐる情勢.http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/tikusan/b
ukai/h2102/pdf/data7.pdf[2012 年 7 月 15 日参照]
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ールベーラ利用研究会事務局.農研機構生研センター:13-18
村上恭彦・家木 一・竹中尚徳・山田牧子・志藤博克・高橋仁康(2006)細断型ロールベーラによるソル
ガムの収穫調製技術と発酵品質の検討.日本草地学会誌 52(別 2):92-93
志藤博克・山名伸樹(2003)試作細断型ロールベーラの牧草収穫調製への試用.日草誌,49(5):514-515
喜田環樹・松尾守展・重田一人・守谷直子・蔡義民・吉田宣夫・山井英喜・畑原昌明・設楽秀幸(2005)
細断型ロールベーラによる飼料イネの高密度成型.畜産草地研究成果情報,http://www.affrc.go.j
p/ja/research/seika/data_nilgs/h17/ch05002[2009 年 7 月 7 日参照]
野中和久・青木康浩・小林良治・張 建国・山田明央(2005)トウモロコシ細断型ロールベールサイレー
ジの貯蔵ロスと品質のばらつき.日草誌 51(別):138-139
志藤博克・高橋仁康・澁谷幸憲・山名伸樹(2005)細断型ロールベーラで調製したサイレージの発酵品
質.日草誌 51(1)
:87-92
新出昭吾・園田あずさ・岩水 正(2008)飼料イネホールクロップサイレージにおける切断長と給与子実
形状の違いが乳牛の乳生産に及ぼす影響.広島総技研畜技セ研報 15:15-22
橘 保宏・志藤博克・川出哲生・高橋仁康・岡島 弘・北中敬久・正田幹彦・古田東司・和田俊郎・安
藤和登(2011a)汎用型飼料収穫機の飼料イネ収穫機能の開発.日草誌 57(1):21-26
橘 保宏・志藤博克・川出哲生・高橋仁康・岡島 弘・北中敬久・正田幹彦・古田東司・和田俊郎・安
藤和登(2011b)汎用型飼料収穫機の予乾牧草収穫機能の開発.日草誌 57(1):27-33
農林水産省(2009)食料自給率向上への取組と TMR センターの位置づけ.平成 21 年度自給飼料活用型 TM
R センターに関する情報交換会配布資料:p17
福井弘之、後藤充宏、藤谷泰裕、瀬山智博、佐竹康明、岸本勇気(2007)細断型ロールベーラを活用し
た自給飼料主体発酵 TMR の調製給与.近畿中国四国農業研究成果情報.http://www.cgk.affrc.go.j
p/seika/seika_nendo/h19/08_chikusan/p267/index.html[2010 年 6 月 14 日参照]
平岡啓司、山本泰也、乾清人、浦川修司(2006)細断型ロールベーラを用いれば高品質発酵 TMR が調製
できる.関東・東海・北陸農業研究成果情報.http://narc.naro.affrc.go.jp/chousei/shiryou/ka
nkou/seika/kanto18/03/18_03_65.html[2010 年 6 月 14 日参照]
増田隆晴・平久保友美・越川志津(2007)細断型ロールベーラを活用した発酵 TMR 調製技術.日草誌 53
(別):314-315
増田隆晴・平久保友美・越川志津・川出哲生・橘保宏・志藤博克(2009)可変径式細断物成形機構によ
り調製された発酵 TMR における発酵ガスの滞留並びに貯蔵性.日草誌 55(別):173
農林水産省(2010a)食料・農業・農村基本計画.農林水産省, http://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_a
ratana/pdf/kihon_keikaku_22.pdf[2010 年7月 20 日参照]
農林水産省(2010b)酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針.農林水産省,http://www.maf
f.go.jp/j/council/seisaku/tikusan/pdf/sheet1.pdf[2010 年7月 20 日参照]
25
26
イアコーン等の収穫・調製・給与技術
北海道農業研究センター
酪農研究領域
大下
友子
1.はじめに
2007-2008 年に高騰した輸入穀物価格はいったん低下したものの、この春より再び上昇
に転じ、7 月にはシカゴ相場では過去最高の価格を記録した。このため、わが国の畜産経
営に対する影響は 2008 年度以上に大きいのではと懸念される。輸入穀物価格が今後どのよ
うに推移するかは不透明であるが、輸入穀物を安価でかつ安定的に入手するのは、かなり
困難と予想される。このため、わが国の畜産を今後も持続的に発展させていくには、現在、
海外依存割合の高い輸入濃厚飼料の代替となる自給飼料の生産体制を作り上げる必要があ
る。輸入穀物への依存度を減らす方策としては、自給粗飼料の品質を高めることや輸入穀
物の代替となる濃厚飼料資源を自給生産することが有効と考えられる。
C4 植物である(飼料用)トウモロコシは、ホールクロップ、子実のいずれにおいても圃
場生産性が高く、その効率的活用は購入飼料費の削減につながると期待され、道内では栽
培面積が 4 万 ha まで回復した。飼料用トウモロコシ利用が改めて見直された理由としては、
大型機械+バンカーサイロの大量調製貯蔵技術や細断型ロールベーラを利用した省力的調
製技術の普及が進みつつあること、飼料調製をコントラクター等の外部支援組織が担う体
制が整いつつあること、今まで栽培できないとされてきた地域向けの極早生品種が開発さ
れたこと等があげられる。本研修では、飼料用トウモロコシを効率的に生産利用するため
に、トウモロコシの有する飼料特性を整理し、1)粗飼料としてホールクロップサイレージ
利用する場合、2)濃厚飼料として雌穂(イアコーン)を利用する場合に分け、各利用目的
に応じた収穫調製給与技術について紹介する。
2.飼料用トウモロコシの生育時期別飼料特成分の変動
飼料用トウモロコシは、繊維含
表1 黄熟期刈りトウモロコシ各部位の成分
量の高い茎・葉・芯・穂皮と繊維
乾物
(DM)
含量の低い子実から構成され(表
1)、その各部位別の構成割合は、
トウモロコシ
ホールクロップ
粗タンパク質(CP)
NDF
28.7
8.6
36.2
品種、収穫時期によって異なるが、
茎
17.9
4.8
59.4
ホールクロップサイレージの収穫
葉
穂皮
19.5
18.9
15.0
4.8
56.3
72.3
適期とされている黄熟後期では、
柄
15.4
2.9
46.1
子実割合が 4-5 割となる。図 1
芯
子実
43.1
53.1
2.5
9.3
82.4
12.5
12.8
に収穫時期別の部位別の生産量を
圧片トウモロコシ
87.1
9.0
示したが、この図からトウモロコ
チモシーサイレージ
25.0
12.0
65.0
アルファルファサイレージ
40.0
18.0
45.0
シでは、絹糸抽出期以降、茎葉の
生産量はほぼ一定で、乳熟期以降
*チモシーサイレージは穂ばらみ~出 穂期 刈り
*アルファルファサ イレージは着蕾後期刈り
*NDF=中性デタージ ェント繊維
27
急速に雌穂の生産量が増加する
ことがわかる。子実の乾物率の
gDM/本
上昇に伴い、ホールクロップの
300
乾物率は水熟期で 20%以下で
250
あったものが黄熟後期には 30%
200
を超えるようになり、また、生
雌穂
穂皮
穂柄
葉
茎
150
育に伴い子実にでんぷんが蓄積
され、ホールクロップの繊維含
100
量は相対的に低下する。このよ
50
うに、飼料用トウモロコシのホ
0
絹糸抽出
ールクロップサイレージは熟期
乳熟期
糊熟期
黄熟期
黄熟後期
図1 生育時期別各部位の乾物生産量の変化
が進むにつれ、粗飼料と濃厚飼
料の両方の性格を持つ飼料とな
る。
3.ホールクロップサイレージ利用における収穫調製給与技術
1)収穫適期
現在、わが国で栽培されてい
る飼料用トウモロコシはそのほ
とんどがホールクロップサイレ
乾物回収率(%)
105
ージとして利用されている。飼
料用トウモロコシはいずれの時
期においても糖含量が高いため、
ダイレクトカットで調製しても
100
100
95.4
95
90
90.6
87.7
85
80
pH が低く、良質なサイレージを
乳熟期
調製することができるが、乾物
糊熟期
黄熟初期 黄熟後期
図2 黄熟後期を100とした時の収穫期別乾物回収率
率が低いものほど、より多くの
排汁が発生する。未熟なトウモ
ロコシでは、詰め込み量の1割
110
以上が排汁として流出してしま
100
い、乾物回収率は黄熟後期を
90
100 とすると乳熟期から黄熟初
80
期までの乾物回収率は約 1 割減
少する(図 2)。養分回収率を
見ると、粗タンパク質では黄熟
後期を 100 とした場合、乳熟期
で 73、糊熟期で 84、完熟期で
100
100
95
93
84 86
85
78
73
92
乳熟
糊熟
70
黄熟初
黄熟後
60
完熟
50
40
粗タンパク質
可消化養分
図3 収穫時期別トウモロコシサイレージの養分回収割合
95 となり、また、可消化養分
(TDN)含量は黄熟後期を 100
とすれば、乳熟期で 78、糊熟期で 85、完熟期で 92 となる。このように、乾物で 1 割程度
28
の損失であっても、消化性の高い
成分の損失が多いため、可消化養
表2 品種の早晩性がサイレージ収量、乳生産量に及ぼす影響
分の損失は 2-3 割にも達するこ
とになる(図 3)。
表2に、乾物率の高いサイレージ
が、低いサイレージよりも泌乳牛
の採食性が高く、濃厚飼料給与量
を低減できることを示した(大下
ら
2007)。原物収量(がさ)が
欲しいとの理由から原物収量が少
品種
早生
中生
ほ場面積あたりの原物収量(ton/ha)
57.57
70.68
乾物率
28.0
25.1
排汁割合2), %
1.66
7.69
56.61
65.24
サイレージの乾物収量(ton DM/ha)
15.45
15.98
泌乳牛の摂取量(kg/頭)
10.1
9.1
濃厚飼料給与量(kg/頭)
10.4
11.0
4%FCM乳量
41.1
41.6
サイレージの原物収量 (ton /ha)
乳脂肪率
3.73
3.76
(大下ら 2007)
ない早生品種よりも登熟の遅い中
生あるいは晩生タイプの品種を選
ぶ場合もあるかと思うが、登熟に達することがサイレージ生産量から、また泌乳牛の採食
性からも有利と言える。
2)大量調製貯蔵技術
現在、北海道では、コントラクター組織や TMR センター等の外部支援組織が飼料調製
作業の主要な担い手となっている。これらの組織では、自走式フォレージハーベスタ(写
真 1)等の大型機械を有し、圃場か
らダンプカーで原材料草を運搬し、
大型バンカーサイロにショベルやロ
ーダーで鎮圧作業を行う作業体系が
一般的である。近年普及が進んでき
た技術として、トウモロコシサイレ
ージの破砕処理技術があげられる。
破砕処理は、自走式フォレージハー
ベスタで細切した原材料をクラッシ
ャーと呼ばれる装置ですり潰す処理
のことである。すり潰しの程度はク
(左) イアコーン用
(右)ホールクロップ用
写真1 とうもろこし収穫用アタッチメントを取り
付けた自走式フォレージハーベスタ
ラッシャーのローラ幅で加減でき、
現在、利用されているローラ幅は、3
-5mm 程度である。クラッシャー利
用時の切断長は、破砕処理なしのハ
ーベスタで推奨されている 9mm の
切断長よりも長い 16-19mm が適当
とされている(谷川ら 2008)。
破砕処理を行うメリットとして、
①堅い芯や茎が潰され、選び食いを
なくし残飼が減ることや、②未消化
子実の割合が減少することが確認さ
29
れており、また、サイレージの詰め込み密度が高まり、開封後の好気的変敗が起こりにく
くなる事も報告されている(Johnson et al. 2003)
。ただし、破砕処理をしたホールクロップ
サイレージに含まれるでんぷんは、圧片トウモロコシに比べ、より速く第一胃内で消化さ
れる特徴があるので、
ルーメンアシドーシスにならないような飼養管理を行う必要がある。
3)開封後の変敗対策
バンカーサイロ等の水平型サイロで
50
は、詰め込み密度が低くなると、開封
壁面や角で密度
が低くなりやすい
45
温度( ℃)
後の好気的変敗が起こるリスクが高ま
ることが知られている。図 5 に示した
ように、密度が低い部位ほどサイレー
40
35
30
ジの品温が高く、密度が低くなりやす
25
い壁面付近の踏圧を十分に行うことが
20
400
変敗防止の第一歩である。また、トウ
モロコシホールクロップサイレージは、
500
600
700
密度( ㎏/m3)
800
900
図5 サイレージの品温と詰め込み密度との関係
(北農研 1994)
開封後の変敗が起こりやすく、これに
対する対策が求められている。最近の
サイレージ添加剤に関する研究から、
表3 ヘテロ型乳酸菌添加の影響(Kungら、2003)
ヘテロ型発酵を行う乳酸菌の変敗防止
効果が明らかになっている(表 3)
。ヘ
DM、%
テロ型乳酸菌(L.Buchnrei)を添加する
pH
乳酸、%DM
と、乳酸含量が減り、酢酸含量が増加
し、開封後のバンクライフを保つのに
有効と報告されている(Kung
2003)
。
無添加
L.buchneri添加
43.4
4.36b
41.5
4.66a
6.58a
3.35b
5.25b
5.67a
68b
100a
発酵品質
酢酸、%DM
TMRの変敗までの時間
(好気的安定度)
ただし、先に述べたように、踏圧をき
泌乳試験結果
ちんと行うことや十分な取り出し量を
採食量、kg/日
25.1
25.4
乳量、kg/日
39.9b
40.7a
確保することが重要であることは言う
までもない。
近年、普及が進んでいる細断型ロールベーラによって再梱包することで、サイレージの
好気的変敗を予防することもできる。気温の上昇とともに、サイロ内のトウモロコシサイ
レージは変敗しやすくなる。そこで、バンカーやスタックサイロで貯蔵したものを細断型
ロールベーラで再梱包することで、取り出し量を増やし、変敗による廃棄量を減らすこと
ができる。再梱包によって、有機酸の生成量が増加することが確認されており、ロールベ
ールのラップフィルムに傷がつかなければ、長期貯蔵も可能であり、変敗防止対策の一つ
と言える。
4)ホールクロップサイレージの多給利用
トウモロコシホールクロップサイレージは、①牧草サイレージ(出穂期刈)に比べ、栄
養価が高い(黄熟期刈)、②圃場生産性が高い(TDN収量としてイネ科主体牧草の約1.8
倍)、③良質なサイレージが調製しやすく、家畜の嗜好性が高い等の特長がある。トウモ
30
ロコシサイレージを利用した場合、泌乳牛の乾物採食量は約14kgとなり、泌乳最盛期でも
TDN自給率は約50%となるが、特
表4 圃場面積あたりの飼養可能頭数と産乳可能量
に多給利用すると圃場面積あたり
併給
多給
(CS36%) (CS92%)
の飼養頭数を約0.5頭/ha程度増
収量
(t/ha)
やすことが可能になり、圃場収益
トウモロコシ
性を高めることができる(表4)。
混播牧草
牧草サイレージとトウモロコシサ
14.65
14.65
9.04
チモシー
7.45
1頭あたり必要なほ場面積 (ha)
イレージを粗飼料源とした給与試
験データを基にして購入飼料費が
トウモロコシサイレージ
0.18
牧草サイレージ
0.53
0.45
乾草
安価であった2001年と価格が高騰
した2008年における試算結果(図6)
0.06
ほ場面積あたり飼養可能頭数 (頭/ha)
1.41
ほ場面積あたり産乳可能量
20,740
27,829
153.1
205.4
乳代
(kg/ha/年)
(万円/ha)
総飼料費 (万円/ha)
を見ると、いずれの時期において
ほ場面積あたり飼料費差し引き乳代(万円/ha)
1.96
49.8
74.3
103.3
131.1
も、トウモロコシサイレージの多
(大下ら 1999)
給利用は収益性を高める効果があると言える(大塚
2010)。
一方で、乾乳期における
4000
トウモロコシサイレージの
乾草併給GS区
乾草併給CS区
サイレージ主体GS区
サイレージ主体CS区
利用は、栄養濃度のコント
サイレージ主体飼料を飽食
給与した場合に、トウモロ
コシサイレージを混合給与
すると分娩後にケトーシス
3000
血中3HB濃度(μmol/L)
ロールが必要であり、特に
ab異符号間に有意差あり
(P<0.05)
a
a
1000
b
の危険性が高まることが指
摘されている(図7)。ただ
し、乾乳後期にトウモロコ
a
2000
0
-5
-4
-3
-2
-1
1
2
3
b
4
b
5
分娩後週数(週)
図7
図 乾乳期のとうもろこしサイレージ給与が分娩後の血中3HB濃度に及ぼす影響
7 乾乳期のトウモロコシサイレージ給与が分娩後の血中 3 ヒドロ
キシ酪酸(3HB)濃度に及ぼす影響
31
シサイレージを利用しても、トラブルなく移行期を乗り切っているケースも多いことから、
ケトーシス発生とトウモロコシホールクロップサイレージの化学性や繊維の消化性や物理
性等の関係を今後明らかにする必要がある。いずれにせよ、分娩後のケトーシスを避け、
泌乳期のトウモロコシサイレージ多給につなげていくための乾乳期におけるトウモロコシ
サイレージならし給与時は、栄養濃度の低い牧乾草と組み合わせて、過肥にならないよう
にすることが重要である。
5)ホールクロップサイレージの物理性
トウモロコシホールクロップサ
イレージの給与時に考慮すべき事
摂取量
反芻時間
項としてその物理性がある。破砕
摂取量(kg/日)
イレージの切断長が 9mm 以下に
なると咀嚼時間が短くなることが
指摘されている(岡本ら 1979)。
7.5
600
500
400
300
200
100
0
7
6.5
6
5mm
近年、家畜による消化性や乾物
摂取量のほか、咀嚼行動を通じて
反芻家畜の第一胃発酵の安定性維
10mm
反芻時間(分/日)
処理をしていないトウモロコシサ
25mm
切断長
図8 トウモロコシサイレージの切断長による乳牛の摂取量と
反芻時間(岡本ら 1979)
持に影響を及ぼす重要な要因とし
て飼料の粒度(切断長)が着目さ
れ、これを客観的に評価しようと
表5.泌乳初期牛への給与飼料の粒度分布の推奨値
(パーティクル・セパレータ利用)
(Heinrichs とKononoff 2002)
する動きがある。その簡便な一つ
の方法としてペンステート・パー
ふるい
目開き
(cm)
粒子サイズ
(cm)
トウモロコシ 予乾牧草
サイレージ サイレージ
TMR
を利用した篩い分け法があり、
上段
1.91
>1.91
3–8
10 – 20
2–8
TMR 給与の飼養現場で急速に普
中段
0.79
0.79 - 1.91
45 – 65
45 – 75
30 – 50
及しつつある。泌乳初期の乳牛に
下段
0.13*
0.18* - 0.79
30 – 40
20 – 30
30 – 50
対する給与飼料のガイドラインと
通過受け皿
<0.18
<5
<5
<20
ティクルセパレータ(Nasco 社製)
しては、表 5 に示した範囲が示さ
れている。この他に、有効繊維
(Mertens
*下段の目開きは0.13cmであるが、通過可能な粒子サイズは0.18cmであること
から、この値を採用している。
**予乾サイレージは原典ではアルファルファ利用
1997)等の概念も提唱
されており、今後の研究の進展が
期待されている。
以上のように、酪農経営では自給粗飼料の品質を高めることが、コスト低減に対して最
も有効であると言える。このためには、圃場面積あたりの栄養収量を高める技術開発の重
要性は依然として高い。一方で、現在の家畜生産性を低下することなく、飼料自給率を高
めるには濃厚飼料資源の確保も不可欠である。北海道内では濃厚飼料として自給生産でき
るトウモロコシ雌穂に着目し、技術開発研究を行ってきたのでその成果の一部を紹介する。
32
4.自給濃厚飼料としてのトウモロコシ雌穂(イアコーン)サイレージの生産利用技術
1)海外でのイアコーンサイレージの利用状況
先に述べたように飼料用トウモロコシは C4 植物で生産性は高く、圃場面積あたりの穀
実収量も C3 植物であるイネ、ムギに比べ高い。このため、欧米では HMEC や CCM 等の
略称で呼ばれ(表 6)、自給濃厚飼料資源として古くから利用されてきた。海外での雌穂
収穫の方法としては、大まかに分けて、コンバインで子実のみ(一部、芯を含む)を収穫
する方法と、自走式フォレージハーベスタを利用する方法がある。コンバイン収穫したも
のは、乾燥穀実あるいはバンカーサイロやタワーサイロ、簡易なスティールサイロに貯蔵
し、自家産の濃厚飼料として、泌乳牛のみならず、肉用牛および鶏豚の中小家畜にも利用
されている。
一方、
ハーベスタ収穫の
場合、子実のみな
らず、芯と一部の
穂皮および若干の
茎葉を含むため、
コンバイン収穫の
ものよりも繊維含
量が高く、栄養価
も低い。ハーベス
タで収穫したイアコーンサイレージはイアレージとして分類されている。
2)イアコーンサイレージ収穫・調製の機械化体系
わが国でのトウモロコシ雌穂に関する研究は70年代後半に一時行われたものの、収穫の
作業効率が低かったことや輸入穀類に比べコストが高かったため、当時は実用化までに至
【収穫】オペレーター1名
【運搬】傭車2台
【積み込み】1名
【調製】2名
【ロール移動】1名
*道内TMRセンターでの事例
図9 イアコーンサイレージの収穫調製作業
33
らなかった。しかしながら、海外の事例から、雌穂収穫専用のコーンヘッダであるイアス
ナッパヘッドがあれば、近年、TMRセンター等を中心に導入されている自走式フォレージ
ハーベスタと細断型ロールベーラを組み合わせることによって、実用的な作業能率でイア
コーン収穫とサイレージ調製ができる可能性があると考え、その作業性について検証を行
った。その結果、ホールクロップサイレージ並の作業体系(図9)と作業能率で収穫できる
ことが明らかとなった(表7)。
表7
2012)
イアコーンサイレージ
サイレージ
作 業
1)
収 穫
自走式ハーベスタ
+スナッパヘッド
作業体系
作業人数
圃場作業効率
圃場作業量
収穫作業能率と損失率 (大津ら
ダンプトラック
人
%
ha/h
ホールクロップサイレージ
2)
収 穫3)
自走式ハーベスタ
+ロータリーヘッド
梱包密封
バケットローダー
細断型ロールベーラ
ダンプトラック
ハンドラ
3
97
1.2
3
84
1.5
3
83
1.1
1)作業幅4.57m。ハーベスタの設定切断長5mm,破砕装置間隙2mm。
2)呼び径1000mm×1000mm。巻き数は3回6層。
3)作業幅4.5m。ハーベスタの設定切断長19mm,破砕装置間隙2mm。
梱包密封2)
バケットローダー
細断型ロールベーラ
ハンドラ
3
96
0.4
3)イアコーンサイレージの飼料価値
表 8 に同一圃場の飼料用トウモロコシから生産したホールクロップサイレージとイアコ
ーンサイレージの成分組成と発酵品質を示した。イアコーンサイレージはホールクロップ
サイレージに比べ、乾物率とでんぷん含量が高く、TDN 含量も約 12 ポイント高く、濃厚
飼料としての利用が十分可能と考えられた。また、保存性について検討した結果、ホール
クロップサイレージと機械収穫したイアコーンの粒度は細いものの、細断型ロールベーラ
表8 北海道内で生産されたイアコーンサイレージの成分組成と発酵品質
ホールクロップ
イアコーン
30.2
190
56.3
403
イアコーン
(道内平均)
粒度(8mm以下の割合%)
梱包密度(kgDM/m3)
飼料成分
乾物(%)
粗タンパク質 (%DM)
NDF(%DM)
でんぷん(%DM)
発酵品質
pH
VBN/TN(%)
乳酸(%FM)
酢酸 (%FM)
エタノール(%FM)
Vスコア
31.8
7.1
41.1
28.6
56.1
7.1
24.8
53.5
60.6
7.8
24.1
55.1
3.71
5.10
1.61
0.32
0.50
99
3.82
5.40
1.11
0.33
0.42
98
4.00
4.43
1.02
0.24
0.43
99
栄養価(TDN含量%DM)3)
65.4
77.7
79.6
1)同一圃場、同一時期に生産(供試品種:RM90日、栽植密度:8400本/10a)
2)ホールクロップサイレージは調製後半年で、イアコーンサイレージは調製
後10~12ヶ月で開封し分析に供した。
3)TDN含量は去勢ヒツジを供し、全糞採取法で査定
34
で密封梱包でき、梱包密度はホールクロップの約 2 倍で、乳酸とエタノールを含み良好な
発酵品質で、約1年間保存できることを確認した。ただし、貯蔵時のネズミ等によるラッ
プフィルムの破損には十分注意が必要である。道内で過去 3 年間に生産されたイアコーン
サイレージの平均乾物率は 60.6%、乾物中のでんぷん含量は 55.1%、TDN 含量は 79.6%で
あり、飼料成分、栄養価から濃厚飼料として十分利用可能であると言える。
イアコーンサイレージに対する乳肉用牛の嗜好性は大変良く、泌乳牛に対しては、トウ
モロコシサイレージ給与時に 2.4kgDM、牧草サイレージ給与時に 3.3kgDM、放牧時に
5.4kgDM を輸入圧片トウモロコシの代替として給与しても、乳量、乳成分および血液性状
に差は認められなかった(表 9)。イアコーンサイレージを利用することで、飼料自給率を
10 ポイント以上向上でき、特に、乳量が 26kg/日程度であれば、集約放牧とイアコーンを
組み合わせることで飼料自給率 100%の達成も可能と言える。
表 9 イアコーンサイレージ給与泌乳牛の飼料摂取量、乳生産性および血液性状
試験概要(頭数、分娩後⽇数、開始時体重)1舎飼
験処理 (圧⽚給与量kgDM, ECS給与量kgDM
CSベース(n=6, 109⽇, 630kg) 舎飼 GSベース(n=6, 129⽇, 647kg) 放牧 GSベース(n=8, 150⽇, 581kg)
圧⽚区(1.9, 0)
ECS区(0, 2.4)
圧⽚区(2.4, 0)
ECS区(0, 3.3)
圧⽚区(3.4, 0)
ECS区(0, 5.4)
併給飼料
総乾物摂取量 (kg)
体重変化量 (kg)
CS+GS+conc+SBM
23.4
23.4
+3.0
+2.0
GS+conc+SBM
22.4
22.2
+9.0
+1.7
放牧草+GSのみ
21.5
22.9
+13.9
+14.0
乳量 (kg)
乳脂率 (%)
乳タンパク率 (%)
32.7
3.85
3.25
34.0
3.61
3.22
32.2
4.36
3.30
32.1
4.25
3.17
26.1
3.92
3.14
26.0
4.01
3.11
⾎液性状
BUN (mg/dL)
Glu (mg/dL)
NEFA (mg/dL)
12.9
75.2
213
11.3
74.7
218
13.7
69.2
139
13.5
67.1
120
17.2
67.1
138
17.3
65.0
122
1)
1) CS;トウモロコシサイレージ、 GS;グラスサイレージ、 圧⽚;圧⽚トウモロコシ、 ECS;イアコーンサイレージ、 conc;配合飼料、 SBM;⼤⾖粕
4)イアコーンサイレージの生産コスト
道内でイアコーンサイレージの生産利用に取り組む TMR センター(作付け面積 27ha)
の生産コストは 37,454 円/10a(2010 年実績)であった。一方、イアコーンの原物収量は
1,442kg/10a で サ イ レ ー ジ の
TDN 含量が 79.1%であったこ
とから TDN 収量は 736kg/10a と
なった。これらの数値を元に、
イアコーンサイレージの生産コ
ストを計算すると TDN1kg あた
り 51 円となった(図 10)
。これ
は、2012 年 3 月時点の圧片トウ
モロコシ価格並みであることを
示している。この TMR センタ
図 10
道内 TMR センターにおける生産コスト(2010 年)
ーでは、ハーベスタおよびロール
ベーラは既存の機械を利用し、スナッパヘッドは、所有業者から借用しているので、スナ
ッパヘッド(定価:1,200 万円/台)を新規導入した場合では TDN1kg あたり約 9 円(原物
1kg あたりでは 4~5 円)のコスト上昇が見込まれる(償却期間:7 年)
。ただし、この費用
は収穫面積によっても左右され、圧縮できる可能性は十分にある。また、生産コストを大
35
きく左右するのは、単位面積あたりの圃場収量であり、図 11 には十勝地域で品種と収穫時
期による収量の影響を調査した結果を示した。
イアコーンサイレージの収量は黄熟後期(ホ
ールクロップサイレージの収穫適期)
よりも 1~2 週間後の完熟期(雌穂乾
物率は 55%以上)が最も高く、イア
コーン向けの雌穂登熟の早い品種を
選べば 1,000kgDM/10a 以上の収量を
確保することが可能であることを示
している。また、栽植密度を 7,500
本/10a(ホールクロップ向け)から
9,000 本 /10a に 高 め 、 追 肥 量 を
2kg/10a 増肥することで、雌穂乾物
収量を現在の 1.1 倍以上に高められ
図 11
品種別イアコーンサイレージの乾物率と実収量
ることが道総研畜産試験場の試験で
明らかにされている。仮に乾物収量が 900kg から 1,000kg/10a になったとすると TDN1kg
あたり約 6 円コストが低下すると試算され、収量確保がコスト削減に果たす効果が高いこ
とがわかる。
5)イアコーンサイレージの自給濃厚飼料資源として定着させるには?
以上、トウモロコシ雌穂のみを収穫しサイレージ調製するため機械化体系を示し、また、
生産したイアコーンサイレージが自給濃厚飼料として十分利用でき、その生産コストは現
在の圧片トウモロコシ価格並みであることを示した。
今後、わが国で耕
地の効率的利用を図
りつつ、濃厚飼料資
源を自給生産してい
くためには、畑作農
家で生産し畜産農家
で利用するといった
耕畜連携の体系作り
が不可欠である(図
12)。そのためには、
連携コーディネータ
を育成するとともに、
ヨーロッパで定着し
ているように飼料用
のトウモロコシ生産を組み入れた新たな畑輪作体系を組み立てる必要がある。また、イア
コーンサイレージを酪農家が利用する際には、組み合わせ給与する牧草サイレージ等粗飼
料の品質を高める工夫をすればより一層の飼料費削減が可能と考えられる。
36
5.参考文献
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38
稲発酵粗飼料の長期安定貯蔵・流通技術
畜産草地研究所
家畜飼養技術研究領域
浦川
修司
1.はじめに
平成 20 年にトウモロコシを始めとする穀類の急激な価格高騰の後、飼料価格は高止まり
傾向が続き、わが国の飼料価格は各国のエネルギー政策や農業政策、経済状況、気象
条件、原油価格、為替相場などに影響されやすい構造に変わりはない。そのため、
平成 22 年 3 月に新たな「食料・農 業・農村基 本計画」が閣議決定され、これを受けて、食
料 の安 定 供 給 の確 保 を図 るため、特 に飼 料 自 給 率 の生 産 拡 大 を図 ることを目 的 に、行 政
面では戸別所得補償制 度として、稲発酵粗飼料 (以下、イネ WCS)や飼料用米等に手 厚
い支援が行われた。研 究面においても平成 22 年度から農林水産省の委託プロジェクトとし
て「自給飼料を基盤とした国産畜産物の高付加価値化技術の開発(略称:国 産 飼 料 プロ)」
研究が開始 され、イネ WCS に関する研究に加え、飼料用米 を濃厚飼料として積極的 に利
用するための研究や WCS 用イネの裏作を活用した飼料用 ムギ類の研 究も行われている。
その後、平成 23 年 3 月の東日本大震災によって東北地域は甚大な被害を受け、さらに福
島第一原発事故も重なり、東北地方を中心に現在でも畜産農家は悲痛な状況が続いてい
る。このような状況において、イネ WCS を国産流通粗飼料として位置付け、イネ WCS の一
層の作付拡大とイネ WCS が利用できなくなった地域においても、これまで以上に高品質な
イネ WCS を安定かつ継続的に利用できるようにするため、地域や県域を超えた流通体制を
構築することが急務である。そこで、本稿ではイネ WCS の長期安定技術と、その流通技術
について解説する。
2.イネWCSの面積の推移
イネ WCS の本格的な研究や行政的支援によって平成 10 年頃から作付面積は年々増加
してきた。さらに面積拡大を図るため、平成 20 年に全国の各市町村(水田協議会)を対象と
した今後の面積動向調査を実施し、その結果として「拡大する」または「拡大させたい」との意
向は 98%以上を示しており、その結果を受けて、イネ WCS の作付面積は平成 20 年度には
約 8、900ha から平成 21 年には約 1 万 ha に拡大した。さらに平成 23 年度から本格的な戸
別所得補償の実施によって、その作 付 面 積 は約 23,000ha にまで拡大した。また、飼料用
米については、平成 22 年度に戸別所得補償モデルが始まってから急速に拡大し、平成 23
年度では飼料イネを上回り、約 34,000ha にまで急速に拡大し、イネ WCS と飼料用米を合わ
せると、トウモロコシに次ぐ飼料作物として位置付けられるようになった。
特に飼料イネについては、福島第 一原 発事 故 の影響等によって、入 手 が困難な地 域も
あり、その他にも地域によっては需要と供給のバランスが崩れ、地域内ではイネ WCS が過
39
剰に生産されている地域がみられる一方で、イネ WCS の利用を希望しても希望量を入手で
きない畜産農家もでてきている。そこで地域内の平坦な水田地帯から飼料生産基盤の脆弱
な畜産地帯へのイネ WCS の流通だけでなく、流通時の品質を維持したまま地域や県域を
超えた広域的な流通も検討することが必要になってきている。
3.イネWCSの収穫調製体系
イネ WCS の収穫調製体系にはフォーレージハーベスタにより収穫し、固定サイロ
に調製する方法とロールベールサイレージとして調製する方法がある。また新たな体
系としてフォーレージハーバスタで収穫・細断した材料イネを細断型ロールベーラで
梱包する方法も一部の地域で行われている。何れにしても流通をともなうイネ WCS
の収穫調製体系はロールベールサイレージ体系が中心である。ロールベールサイレー
ジ体系においても、牧草用収穫機(モーア、牽引式ロールベーラ等)を利用した体
系とイネ WCS 専用収穫機による体系に分けられる(図 1)。但 し 、牧草用収穫機体
系は乾田や収穫時期に大型機械での作業が可能な圃場に限定される。
[ 牧草用収穫機体系 ]
刈取り
集草
梱包
密封
モーア
レーキ
ロールベーラ
ベールラッパ
[ 専用収穫機体系 ]
刈取り・梱包
密封
専用収穫機
自走式ベールラッパ
(ダイレクト収穫)
図1. WCS 用イネの収穫調製のための牧草用収穫機体系と専用収穫機体系
(1)牧草用収穫機体系(ロールベール体系)
イネ WCS の収穫調製作業において牧草用機械を利用する利点は、畜産農家が現有
している牧草用収穫機械(図 2)を活用することで、専用収穫機などの新たな機械
資本の投資を必要とせずに WCS 用イネの収穫調製作業を行うことができることにあ
る。また、特に大区画圃場においては高能率でイネ WCS をロールベールとして収穫
調製できること、予乾処理によってβ-カロテンの低いイネ WCS が生産できるのも
牧草用収穫機械体系の特徴である。
牧草用機械体系では、まず立毛状態の WCS 用イネの刈落し作業が必要であり、
その後、水分が高い場合やβ-カロテンを下げるためには、予乾作業(反転)を行う
が、子実(籾)の脱粒防止を考慮すると反転作業を省略するか、強度な反転作業は避
けることが望ましい。土砂の混入は発酵品質の低下を招く危険性が高いため、土砂を
混入させず、良質な安定貯蔵の面からも、牧草用機械体系によるイネ WCS の生産作
業においては、地面とテッダやレーキのタイン高さには注意が必要である。
40
一方 、ビ タ ミン A制 御 型の 肥育 牛 への 給与 を 目的 にβ -カロ テン 含 量の 低い イネ
WCS を生産するためには、専用収穫機のようにダイレクト収穫体系よりも予乾を行
うことができる牧草収穫機体系が有利である。以上のように、牧草用収穫機体系にす
るか、専用収穫機体系にするかは、圃場条件や生産組織の形態(耕種農家と畜産農家
で組織した場合等)、供給先の畜産農家によって選択することが必要である。何れに
しても、早期落水を行うことにより、地耐力を高めるとともに、土砂を混入させない
ことが長期安定貯蔵につながる。
図2.牧草用収穫機体系による WCS 用イネの作業状況
(2)専用収穫機体系
立毛状態の WCS 用イネの刈取りと梱包作業を行うための専用収穫機は、コンバ
イン型とフレール型と呼ばれる2つの機種の自走式ダイレクト収穫方式のロールベ
ーラが実用化されている。
コンバイン型専用収穫機と呼ばれている機種は、自脱型コンバインの刈取・搬送
部を利用し、脱穀部やグレンタンク部等の替りに切断部とロール成形室を搭載した
ものである。本機は自脱型コンバインの刈取り・搬送部をそのまま利用しているこ
とと、初期機種はトワイン結束であったことから、切断機構であるディスクカッタ
の切断刃間隔は 15cm に設定されており、撹拌機構も不十分であったことから、穂
部と茎葉部が分離したロールベールが成形される傾向にあった。そのため、平成 20
年度に細断(約 3cm)・撹拌機能を付加した機種に改良された(図 3)。
自脱型コンバイン部
刈取部
ロールベールアタッチ部
搬送部
ネット装置
細断装置
ベール成形室
攪拌装置
搬送装置
図3.コンバイン型専用収穫機(細断型)の概略図
41
改良されたコンバイン型専用機(細断型ホールクロップ収穫機:ロール寸法:100
×85cm)は、従来機と同様に自脱型コンバインの刈取部と走行部を利用しているが、
細断部であるディスクカッタの切断刃間隔を 15cm から3cm に短く設定するとと
もに、カッタの直下に2枚のディスクを取付け、両ディスクを水平に回転させるこ
とで、細断された材料イネの穂部と茎葉部が混合され、ロールベールの成形精度は
飛躍的に向上した(図 4)。さらに結束方式をトワイン方式からネット方式にした
ことにより、細断された WCS 用イネでも少ない損失率で高密度なロールベールが
成形できるようになり、従来機と比較して発酵品質も向上した。
図4.改良されたコンバイン型専用収穫機(左)と切断(中)撹拌機構(右)
しかし、改良されたコンバイン型専用収穫機(細断型)も自脱型コンバインの刈
取り・搬送部を利用していることから、従来機と同様に対象とする WCS 用イネの
草丈が制約要因であり、適応範囲は 130cm 程度であった。そのため、130cm を超え
る専用品種の収穫作業には、作業速度を遅くするか、 5 条の刈取り部に対して、4
条で刈取り作業を行う必要があった。その一方で専用品種は多収を目指して長稈品
種が中心になってきた。そのために平成 24 年度販売機種からは、長稈品種に対応で
きるように搬送部の縦パイプをなくすとともに(図 5)、切断部への搬送角度を変
えるような改良が行われ、長稈品種でも刈取り部からディスクカッタへの搬送がス
ムーズになり、150cm 以上の長稈品種でも本機の持つ最高作業速度で処理できるよ
うになった。また、オペレータの作業環境を改善する目的から、長稈品種対応型で
はキャビン付仕様の販売も開始された(図 6)。
図5.平成 24 年度から販売予定の長稈品種対応のコンバイン型専用収穫機
42
図6.キャビン付仕様のコンバイン型専用収穫機
フレール型専用収穫機も自脱型コンバインをベース機としているが、刈取部には
フレール式刈取り装置を採用し、コンバイン型と同様に脱穀部の替わりにベール成
形室を搭載している(コンビネーションベーラと呼ばれている:図 7)。本機はコ
ンバイン型専用収穫機と比較して籾に傷が付きやすく、長稈な専用品種にも対応で
きるとともに、専用収穫機として位置付けされているものの、ソルガム等の収穫や
予乾した稲ワラ等の拾上げ・梱包作業に利用できるのも特徴である。その一方で、
超軟弱な圃場での作業や根張りの悪い WCS 用イネを収穫する場合には、株ごと抜
き上げてしまう場合があり、倒伏した WCS 用イネを収穫する場合には土砂が混入
しやすい。また、コンバイン型専用収穫機と比較して籾の損失率もやや多いいこと
が指摘されていた。さらに、コンバイン型専用収穫機のロールベール寸法 100cm×
85cm に対して、90cm×86cm とやや小さいことから、作業能率がやや劣る傾向があ
った。なお、ロールベール質量も約 200kg/個とやや軽く、専用収穫機の普及当初に
は取扱が容易なことや流通先の畜産農家の規模によって、コンバイン型専用収穫機
よりもロールベール寸法や質量の小さいフレール型専用収穫機は、中小規模なコン
トラクターを中心に導入されてきた。
図7.フレール型専用収穫機の概略図(右)と収穫部(左:フレール刃)
イネ WCS の普及が始まって約 10 年が経過し、コントラクターや生産組織の大規
模化が進み、請負面積も拡大してきたことから、専用収穫機の機種選定において、
作業能率が重要な要件になってきた。そこで、フレール型専用収穫機についても作
業能率の向上を目的に平成 22 年度にエンジン出力の向上、従来機が刈幅 140cm で
43
あったのに対して 150cm に広げ、ロール寸法も 100cm×86cm に拡大した。また搬
送部にコンベアを装着したことにより、材料草の送込み時の詰まり防止対策を図る
とともに、放出部のスチールローラにベルトを装着することによって、これまでフ
レール型専用収穫機の大きな課題となっていた損失率の低減化が図られている。ま
た、結束方式をトワイン方式からネット方式に改良するなど、その作業精度や能率
は従来機と比較して大きく向上した(図 8)。
図8.改良されたフレール型専用収穫機の概略図
注)刈幅、ロール寸法の拡大、収穫ロスの低減化、ネット結束等の改良
専用収穫機は両機とも走行部はゴム履帯を利用しており、平均接地圧も小さ
いことから軟弱圃場でも安定した作業を行うことができる。改良されたコンバ
イン型およびフレール型専用収穫機の作業時間は WCS 用イネの収量や圃場条件
等にも影響されるものの両機とも約 20~30 分/10aである。
(3)自走式ベールラッパ
専用収穫機は自走式ベールラッパと組み合わせて作業を行うことが多く、軟弱な
圃場条件でも作業を行うことができるように専用収穫機と同様に走行部にはゴム履
帯(キャタピラ)を利用している。その他にも、オペレータの作業軽減を図るとと
もに、畦畔沿いに放出されたロールベールの拾上げ作業も容易に行うことを目的に
前方からロールベールをターンテーブル上に積載できる(一般的な牽引式ベールラ
ッパは後方または側法積載)。また、ベールグラブを保有していない生産組織でも運
搬車へ密封後のロールベールを直接荷降ろしできるようにリフト機能を有している
のも特徴の一つである(図 9)。
図9.従来型の自走式ベールラッパの概略図(左)と前方積載(中)、リフト機能を
利用した運搬車への荷降ろし(右)作業
44
専用収穫機等の改良によって、これまで以上に高密度で重いロールが成形できる
ようになったことから、自走式ベールラッパも基本構造は、これまでの機構を継承
しつつ、300kg を超えるような重いロールベールでも安定して積載・荷降ろしがで
きるように改良されている。なお、専用収穫機や自走式ベールラッパが実用化され
た当初においては、耕種農家を中心とした子規模な組織体が多く、自走式ベールラ
ッパのリフト機能も活用されていたが、近年、大規模組織体の増加によって、ベー
ルグラブを保有する組織も多くなり(図 10)、リフト機能を利用した運搬車への直
接荷降ろし作業は、あまり活用されていないと考えられる。
図 10.専用収穫機と自走式ベールラッパ、ベールグラブの同時作業
注)ホイル型作業機(ベールグラブ装着)作業できるような地耐力が
得られる圃場に限定される。
(4)専用収穫機と自走式ベールラッパの組み作業
自走式ベールラッパと専用収穫機が組作業を行う場合、その後のロールベールの
圃場外への搬出作業まで考慮する必要がある。そのため圃場条件が良好な場合では、
専用収穫機は結束時間等を利用して農道方向へ移動してロールを放出したり、自走
式ベールラッパはフィルム巻時間を利用して農道方向へ移動してから荷降ろすこと
によって、農道付近にロールベールを集中させておくことで、その後の圃場外への
搬出作業が容易に行えるようになる。そのためには、専用収穫機は先ず作業スペー
ス・荷降ろし場所を確保し、その後は食用米の自脱型コンバインの収穫作業と同様
な方法で収穫作業を行う(図 11)。特に WCS 用イネの収穫時期は秋雨時期とも重な
ることから、密封したロールベールでも長期間にわたり圃場に放置しておくことは、
降雨によって圃場に水が溜り、品質の劣化を招くだけでなく、軟弱になった圃場で
はベールグラブが圃場内で作業できないようになることも考慮しておくことが必要
である。その他、密封後のロールベールのハンドリング回数を少なくし、フィルム
の破損や変形による品質の劣化を防止し、高品質なイネ WCS を生産するために、
未ラップのまま輸送して畜産農家の庭先や保管場所で密封作業を行う体系も増えつ
つある。ただし、この場合、安定して高品質なイネ WCS が生産され易くなるもの
の、未ラップロールで輸送することから損失率は大きくなる。
45
図 11.専用収穫機と自走式ベールラッパの効率的な作業方法の例
また、フレール型専用収穫機には、成形されたロールベールを効率よく農道付近
まで搬出して全体の作業時間を短縮するための簡易なロールベール運搬装置(ロー
ルキャリア)が開発されている(中央農研)。この装置は収穫機から放出されたロー
ルベール 1 個を受け止めて積載し、任意の位置まで運搬して荷降ろしするものであ
る。本装置の特徴としては、軽量・簡易な構造であり、動作のためにも油圧等の外
部動力を必要としないこと、走行中でも運転席からワンタッチで荷降ろしできる機
構であること、収穫機本体に特別な加工を行わずに容易に取り付けと着脱ができる
ことが挙げられる。また、成形・結束済みのロールベールを機体外に保持するため、
運搬をしながら同時に刈取りが可能である(刈取り同時運搬)。このため、収穫機が
本来の作業行程から外れることなくロールベールを農道付近へ運搬できる。ロール
キャリアによる最適な運搬方法は圃場の大きさや形状、単位面積収量、ロールベー
ル質量、刈り取り経路、ロールベール集積方法等の条件によって異なるものの、収
穫機が材料草で満量になるたびに、その位置にロールを放出してから回収する方法
と比較すると、全てのロールベールを密封して圃場外に搬出するまでの作業時間は、
ロールキャリアを利用することによって最大 35%短縮される(図 12)。ただし、コ
ンバイン型やフレール型専用収穫機でも新機種には対応しておらず、今後の開発に
期待される。
46
図 12.フレール型飼料イネ専用収穫機に装着するロールキャリアとロール放出位置
(中央農研 開発)
(5)その他の収穫作業
(自脱型コンバインを改良したWCS用イネの刈り落とし機と汎用型飼料収穫機)
自脱型コンバインに簡易な装置(ウインドロワー)を装着することで、イネ WCS
の予乾体系においても牧草用のモーアを用いずに、自脱型コンバインを刈落し作業
機としてモーアとレーキのように活用できる(図 13:東北農研)。刈落しと集草を
同時に行った後は、牧草用収穫体系でも用いられているクローラ型の牽引式ロール
ベーラや自走式ロールベーラで梱包する。このような作業体系によって、良質な予
乾したイネ WCS の収穫調製作業ができる。ただし、自脱型コンバインの改良にお
いては、自己責任において行う必要がある。
図 13.自脱型コンバインを改良した刈り落とし方法(ウインドローワ)と梱包
東北農研センター
専用収穫機と呼ばれている2機種(コンバイン型、フレール型)の他に、WCS 用
イネを収穫できる自走式作業機として、汎用型飼料収穫機が開発されている(生研
センター)。本機は専用収穫機とは異なり、収穫部のアタッチメントを取り換えるこ
とで WCS 用イネだけでなく、トウモロコシや刈落した予乾牧草を収穫することが
できることから(図 14)、今後、大規模コントラクターへの導入が期待される。
47
収獲部
ホッパー
ベールチャンバ
イネWCS用アタッチ
コーンアタッチ
ゴム履帯
予乾牧草アタッチ
図 14.各種飼料作物への対応が可能な汎用型飼料収穫機
生研センター
4.飼料イネの安定貯蔵技術
(1)土砂の混入防止対策
WCS 用イネは当然、水田で作付され、天候や圃場条件に品質が大きく影響される。
収穫時に圃場条件が良好な場合、牧草用収穫機体系ではテッダやレーキと地面の高
さを考慮するだけで土砂の混入を防止できるが、専用収穫機体系も含めて圃場条件
が軟弱で密封前のロールベールを圃場内に放出すると、ロールに土砂が付着して劣
質なサイレージが調製されやすくなる。
従来方式のコンバイン型専用機と自走式ベールラッパでは、軟弱な圃場での作業
を想定して、ロールベーラから放出するロールを自走式ベールラッパで直接荷受け
作業を行うことができたが、改良されたコンバイン型専用収穫機やフレール型専用
収穫機、汎用型飼料収穫機と自走式ベールラッパの組作業においては、ロールベー
ルの直接荷受け作業を行うことができない。そのため、軟弱圃場においては4輪駆
動のトラクタが作業できる程度の圃場の場合には、パレットフォークを用いてロー
ルベーラから放出されるロールを直接荷受けして圃場外へ搬出し、農道またはロー
ルロールベールの一時保管場所で密封する体系で作業を行う。このような作業方法
で行うことにより、作業時間は長くなるものの土砂の混入を防ぐことができる(図
15、16)。この場合、トラクタ等のホイル型作業機によって、輪跡等ができて圃場
(田面)を荒らすことがあるため、予め地権者に了解を得ておくことが必要である。
図 15.パレットフォークを用いたロールの荷受けと圃場外への搬出作業の概略図
48
図 16.パレットフォークや自前の簡易荷受けフォークを用いたロールの荷受け方式
(2)乳酸菌の利用
WCS 用イネの茎は堅い中空構造であり、トウモロコシなどの飼料作物に比べ、サ
イロ内に残存する酸素量が多いことから、嫌気的条件にするのが困難である。さら
に WCS 用イネには不良菌である好気性細菌、カビおよび酵母菌の数が多く付着し
ており、良質発酵に重要な乳酸菌の数は少ない。また、WCS 用イネは乳酸菌の栄養
源となる可溶性糖類であるサッカロース、グルコースおよびフルクトースの含量が
トウモロコシと比較して低いのが特徴である。しかし、新たに改良された細断方式
のコンバイン型専用収穫機やフレール型専用収穫機、汎用型飼料収穫機は梱包密度
が高く、糊熟期から黄熟期で収穫すると立毛状態でも水分含量が 65%程度となり、
良質なロールベールサイレージが調製できるようになった。しかし、朝露が残って
いる場合や軟弱な圃場条件等での作業を行う場合でも、安定して確実に良質サイレ
ージを調製するためには、乳酸菌(図 17)を添加することも必要である。なお、専
用収穫機には乳酸菌を効率的に添加する装置が装備されている。
図 17.飼料イネ専用乳酸菌「畜草1号」添加剤(左)と凍結乾燥粉末(右)
(3)フィルムの巻き数と保管期間
フィルムの巻き数の違いは、その後のロールベールの長期貯蔵性に大きく影響を
及ぼす。保管中にフィルムの破損がなくても、長期保管を行う場合ではフィルムの
劣化や密着の緩みから気密性が低下するため、フィルムの巻き数の設定は非常に重
要である。
WCS 用イネのロールベールのフィルムの巻き数を 4 層巻き、6 層巻き、8 層巻き
に変えて保管した場合の廃棄率を調査した結果、4 層巻きでは比較的早い段階から
廃棄率が高くなるが、6 層巻きでは調製後 10 ヵ月まではカビによる廃棄率は低く、
さらに 8 層巻きにすると 1 年間を経過しても、カビ発生による廃棄率は全体のほぼ
5%以内に抑制できる(図 18)。
49
25
4層巻
6層巻
8層巻
廃棄率(
原物中%)
20
4層巻
15
6層巻
10
5
8層巻
0
0
5
10
15
保管期間(ヶ月)
図 18.飼料イネのロールベールのフィルムの巻き数と廃棄率の関係
千葉県畜産センター
フィルムの巻き数を増やすと安定して長期保存が可能となるが、フィルムの価格
を約 12,000 円/本とすると、4 層巻きでは 400 円/個、6 層巻きで 600 円/個、8 層巻
きになると 800 円/個程度になる。さらに巻き数を増やすことは、経費の他にフィル
作業時間にも影響を及ぼすことから、経済性や作業性等を考慮して巻き数を設定す
ることが重要である。そのため、WCS 用イネのロールベールでは、6 層巻きを基本
として、長期間保管するロールベールについては 8 層巻きにするなど、品質保持と
経済性を勘案しながら、保管期間に応じて巻き数を変えることで、安定した品質の
ロールベールを通年給与できるようなる。そのためにも、ロールベールにフィルム
の巻き数を表示することは重要である。
5.耕畜連携による飼料イネの地域内流通と広域流通
(1)地域内流通における耕畜連携体制
WCS 用イネ は日本の米政策と密接な関係があり、牧草やトウモロコシのように畜
産農家が自ら栽培して収穫調製までの全ての作業を行う体系よりも、耕種農家が栽
培管理を行い畜産農家が収穫調製を行う体制で始まり、近年では組織化された耕種
農家集団(土地利用型農業法人、集落営農組合等)が WCS 用イネの栽培管理から
収穫調製までの全ての作業を行う体系や耕種農家と畜産農家の間にコントラクタを
介した体制が中心となりつつある(図 19)。何れの体制においても、WCS 用イネは
耕畜連携体制で行われる。
50
図 19.現在行われている耕畜連携の概略図
(2)ベールグラブを用いないハンドリング技術
イネ WCS の場合は畜産農家が自ら生産から利用までの全ての作業を行う自己完結
的な自給飼料とは異なり、流通をともなう飼料である。一般的な輸送作業にはベール
グラブを用いて、密封後のロールベールをトラック等の運搬車に積み込んで輸送する。
近距離輸送においては 2tダンプや軽トラック等を複数台利用し、畜産農家へピストン
輸送を行い配送されている。その他、ホイル型のベールグラブが作業できないような軟
弱圃場に置かれたロールベールの搬出作業を想定して、畜産草地研究所ではロールベー
ルクランプやロールベール簡易荷得器具を開発している(図 20)。両装置とも簡易
な構造であり、農道からクレーン付トラック(ユニック車)を用いてロールを圃場外
へ搬出することができる(図 21)。そのためにも、農道付近にロールベール集中さ
せておくことが重要となってくる。
図 20.ベールグラブを用いずにロールを圃場外へ搬出するための簡易装置
51
図 21.ロールベールクランプ(左)と簡易荷役具(右)を装着した
ロールベールのユニック車を利用した圃場外への搬出作業
ロールベールクランプを利用する時の留意点としては、持上げ時にロールを変形
させることから、密封後のできるだけ早い時期にロールベールを圃場外へ搬出する
場合に用いることが必要である。一方、ロールベール簡易荷役具は、ロールを変形
させることなく持上げることができるため、圃場で発酵が進んだイネ WCS のロー
ルベールの搬出作業にも活用でき、変形による品質劣化防止にも効果的である。
6.イネWCSの今後の取り組み方向(広域流通)
イ ネ WCS は 耕 畜 連 携 に よ る 地 域 内 流 通 が 基 本 で は あ り 、 現 在 の 状 況 で は イ ネ
WCS の流通は同一地域内を中心に行われているが、畜産農家の戸数(需要側)と米
の生産調整面積(供給側)との間に不均衡が生じている地域や市町村あり、既に地
域や県域を超えた広域流通も始まりつつある。
(1)広域流通のためのハード面の課題
広域流通を推進する場合の重要な施設の一つとして考えられるのがストックヤー
ド(ロールベールの一時保管場所)である。広域流通の場合では地域内流通とは異
なり、収穫調製と同時に畜産農家までロールベールをピストン輸送する体系では、
輸送時間が制約要因となり、効率的な作業が行えなくなる。そのため、ストックヤ
ードで一時保管した後に輸送は後日集中的に行う体制を検討すべきである 。 ストッ
クヤードの設置場所として留意することは、団地化された圃場の近隣であること、
雨水等の水が溜まらない場所であること、鳥獣害には十分に気を付けること、さら
に、ストックヤードでは多くのロールベールが保管されることから、サイレージ臭
に対する近隣の住民への配慮も忘れてはならない。なお、ストックヤードとして利
用できる場所としては、圃場から近距離で輸送・保管できる遊休地の他に、水田地
帯の中心にあるカントリーエレベータ(CE)やライスセンター(RC)等の米麦共同
乾燥施設を活用することも検討すべきである。
ストックヤードで一時保管されたイネ WCS は、順次、利用者である畜産農家へ輸
52
送(配送)される。地域内流通においては、生産者である耕種農家やコントラクタ
ー、または利用者である畜産農家がイネ WCS の輸送まで担うことが多い。しかし、
飼料生産基盤の脆弱な地域でもイネ WCS が利用できるように地域や県域を越えた広
域流通においては、運送業務の外部委託(運送業界への委託)も検討する必要がある。
運送業務の外部委託化のためにはストックヤードが必要であるが、ストックヤード
で保管されたイネ WCS のロールベールの管理(鳥獣害対策等)と運送業者によるロ
ールベールのハンドリング作業が重要な課題である。ストックヤードでのロールベー
ルの管理を誰が行うかは、売買契約を保管場所で行うか、畜産農家の庭先まで輸送さ
れた時に行うかによって異なり、それによってロールベールの保管費やストックヤー
ドの地代等の経費負担が誰になるかも異なってくる。このように、ストックヤードを
活用する場合には、売買契約をどの時点で行うかは、事前に検討しておくべき重要な
ことである。何れにしても、鳥害対策としてはテグスを張り、ネズミ害対策では十分
な広さの保管場所が確保できれば、ロールを密着して置かずに広々配置も効果的であ
る。その他に、ストックヤードの周辺には雑草を繁茂させないこともネズミ害対策に
つながる。また、ストックヤードの保管者は定期的に保管状況を観察して、ピンホー
ル等があれば速やかに補修することが必要である。一方、ハンドリング作業において
は、収穫直後のロールベールはフィルムの粘着性や材料草の復元性も高いが、ストッ
クヤードで一定期間保管されたロールベールは発酵が進んであり、ハンドリング作業
においてはフィルムを破損させないことは当然のであるが、密封後の日数の経過と
ともにフィルムの粘着性も低くなり、強度な把持作業によって変形したロールベー
ルは空気が侵入しやすく、把持部を中心にカビの発生や品質の低下を招くことがあ
る(図 22)。そのため、ベールグラブによる把持作業においては、ロールベールの
変形をできるだけ避けることが、安定した貯蔵にとって重要である。
図 22.ベールグラブの強度な把持作業によって発生したカビの状況
広域流通においては輸送業務を専門業者に委託する場合、大型トラックによる大
量輸送体制を検討することが必要である。そのためには、ベールグラブ等の特殊な
機器を用いずに運送業界で最も多く利用されているフォークリフトを利用し、簡易
にハンドリングを行うことのできるロールベール簡易荷役具等の活用も検討するこ
とが必要である。なお、畜産草地研究所において開発した簡易荷役具(図 20)はロ
ールベールを変形させずに、運送業者が操作に熟練したフォークリフトによって容
易に大型トラックへの荷積みと荷降ろしができる(図 23)。
53
図 23.簡易荷役具とフォークリフト
を用いたロールベールの荷積み作業
(2)広域流通のためのソフト面の課題
広域流通おけるソフト面での重要な課題の一つは、これまでのような地域内流通
では耕種農家と畜産農家が、お互いの「顔の見える取引」であったが、広域流通にお
いては「顔の見えない取引」になる。そのため、品種の情報や刈取り時期等の情報を
畜産農家へ的確に提示することが必要になってくる。先進的なコントラクターにおい
ては、既にロールベールに通し番号を記載したり、ロールにラベルを貼付して生産履
歴を管理しているが、その記載内容は様々である(図 24)。
図 24.現在行われている生産履歴の管理手法
そこで、平成 23 年度に(社)日本草地畜産種子協会では「稲発酵粗飼料流通基準」
策定した。この流通基準は「原料イネ管理票」と「品質表示票(成分値)」、
「ロール
ベール表示票」から構成されている。
「原料イネ管理票」には耕種農家(栽培管理者)
が移植月日や肥料関係、農薬等の散布情報等を記録し、収穫調製組織(コントラク
ター等)は収穫時の熟期や病害虫や雑草の被害程度、圃場の状態等を記録する。こ
の栽培管理と収穫調製に関する二つの情報を統合し、販売者(収穫調製組織の場合
が多い)は、必要に応じて購入者(畜産農家)に各情報を提示する。また、ロール
ベールの形態で流通する場合には、販売するロールベールに統一した「稲発酵粗飼
料のロールベール表示票(表示ラベル:図 25)」を貼付することを推奨している。
54
項
目
ロールベールの情報
販 売 者 名
浦川修司
生 産 地 ※1
三重県鈴鹿市汲川原町
圃場名(ロット番号) ※2
三反田1-1
品 種 名
ホシアオバ
収穫年月日
備考
販売者名
年 月 日 平23
9
15
収穫時の熟期
期
黄熟
フィルムの巻数
層巻き
6
シリアル番号 ※3
簡 易
情 報
490148-480688
※3:全国的な流通体制になった時に記載する。
図 25.「稲発酵粗飼料流通基準」で推奨しているロールベールの貼付ラベル
(3)生産履歴管理技術
畜産草地研究所では、農林水産省委託プロジェクト(略称:国産飼料プロ)におい
て生産履歴管理作業の煩雑さを回避するため、生産者(コントラクター等)が保有す
る圃場の地番、栽培品種(施肥量、農薬の散布情報等)が記載されている圃場台帳と
収穫調製時にしか得られない収穫時の熟度、圃場の状態、病害虫や雑草の被害程度、
フィルムの巻き数等の情報と圃場台帳とを簡易に統合するための生産履歴管理シス
テムを開発中である(図 26)。本システムをこれまで手書きラベルを貼付していた
生産組織において実証した結果、履歴管理に要する負担率は、手書き作業が 14.6%で
あったのに対して、5.4%と低い負担率で履歴管理ができる(表 1)。なお、本システ
ムについては、様々な圃場端末機が利用できるように改良を進めている。
図 26.開発中の稲発酵粗飼料の生産履歴管理システムの構成
55
表 1.未ラップのロールをストックヤード密封する体系における各作業時間と負担率
収穫・梱包作業(分/30a)
項目
開発システム
手書き作業
運搬作業(分/30a)
作業全体 履歴管理 作業全体 履歴管理
54.9
1.8(3.3%)
33.7 1.3(3.9%)
55.6
2.5(4.5%)
33.7 1.3(3.9%)
密封/保管作業(分/30a)
合 計
作業全体
履歴管理
62.3
5.1( 8.1%)
77.8
20.6(26.4%)
(分/30a)
150.9
167.1
履歴管理
(分/30a)
8.2( 5.4%)
24.4(14.6%)
7.おわりに
このようにイネ WCS は耕畜連携による流通をともなう粗飼料であり、これまでの
ような自給飼料という概念から国産流通粗飼料として位置付けるためには、生産履歴
が明確な飼料として畜産農家に流通することが重要である。生産者にとっては、これ
までの作業に加えて新たな履歴管理作業が増えることになるが、生産履歴を的確に管
理することは、畜産農家へ必要な情報を提示するだけでなく、劣化サイレージが流通
した場合のクレームに対する迅速な対応ができるとともに、今後の良質なサイレージ
を生産するために役立てることができる。さらに生産履歴を管理することは、広域流
通に限らず、WCS 用イネの生産面積の拡大にともなって、これまで以上に畜産農家
が複数の生産者からも安心して国産流通粗飼料を購入して利用できるようになる。
また、広域流通を推進するにあたって、最も問題となるのが輸送コストである。
前述のように広域流通においては、生産者自らが輸送することは困難であり、運送
業者へ委託する場合、流通コスト削減のためには、帰り便の有効活用や運送業者の
空期間等を活用するなどして、できる限り輸送コストの削減を図ることが必要であ
る。何れにしても、無駄な物(劣質サイレージ)は作らない、運ばないことが生産
コストや輸送コストの削減にとって極めて重要なことである。その他、イネ WCS
を TMR 素材として活用し、TMR センターを基軸として食品製造副産物等の未利用資
源や飼料用米、イネ WCS 等の国産飼料を混合して再梱包し、発酵 TMR として高付
加価値を付けた高栄養な国産飼料として流通させることも今後の課題である。
8.参考文献
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可能な自走細断型飼料イネ専用収穫機、共通基盤成果情報
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河本英憲・関矢博幸・押部明徳・小松篤司・福重直輝(2008)飼料イネロールベー
ルは「広々配置」すればネズミ食害を軽減できる、畜産草地成果情報
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/files/mouse_save.pdf
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:懸架式ロールベール用クランプ、畜産草地
研究成果情報
http://www.naro.affrc.go.jp/top/seika/2007/06nilgs/nilgs07-08.html
志藤博克・山名伸樹(2002)
:青刈りトウモロコシの省力化収穫調製技術の開発(第
1 報)
細断型ロールベーラの開発、農機誌
64(4)、96-101
志藤博克・橘保宏・川出哲生・澁谷幸憲・高橋仁康・道宗直昭・山名伸樹・(株)タ
56
カキタ・ヤンマー農機(株)(2007):汎用型飼料収穫機、畜産草地成果情報
http://www.naro.affrc.go.jp/top/seika/2007/15brain/brain07-07.html
松尾守展・浦川修司・喜田環樹・福井弘之・馬木康隆・中井文徳・武内徹郎(2009):
ロールベール向け簡易荷役具の試作、日草誌
元林浩太・湯川智行・児島
ール運搬装置、農機誌
56、56-59
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:飼料イネ用ロールベーラのためのロールベ
70、72-78
浦川修司・吉村雄志(2003a)
:飼料用カッティングロールベーラの開発、日草誌
49、
43-48
浦川修司・吉村雄志(2003b)
:飼料イネ用自走式ベールラッパの開発、日草誌
49、
248-253
浦川修司(2010)アンケート調査からみたこの 10 年間のWCS用飼料イネ研究と普
及の経緯.平成 22 年度飼料イネの研究・普及に関する情報交換会資料.畜産
草地研究所,那須塩原市,p63-76
浦川修司・松尾守展・喜田環樹(2011)イネ WCS の生産履歴管理システムの構築.
日草試 57(別):304
57
58
未利用資源を材料とした発酵 TMR の調製・給与技術
畜産草地研究所
家畜飼養技術研究領域
野中
和久
1.はじめに
完全混合飼料※(TMR)は、粗飼料、濃厚飼料、ミネラルなどすべての飼料原料を給与
家畜の要求量に合わせて混合した飼料であり、日本でも乳牛の群管理飼養増加にともなっ
て給与飼料の中心的な位置を占めるようになった。TMR の長所として、1)粗飼料と濃厚
飼料を混合した均一な飼料を給与することにより第一胃内の発酵が安定し、これによって
乳量、乳成分を高位安定させ、消化器病の発生を少なくできる、2)自由採食により乾物摂
取量を高めることができる、3)群管理飼養に対応した飼料給与ができる、4)飼料給与の
機械化が可能になり、給与作業の省力化が可能になる、5)乳期に対応した給与飼料の養分
濃度設定に容易に対応できる、などが挙げられる。一方、短所として 1)飼料混合用ミキ
サが必要、2)粗飼料等の細切が必要、3)泌乳期に応じた牛群のグループ編成が必要、と
いった問題はあるが、1)、2)については、近年増加傾向にあるコントラクターや TMR セ
ンターの活用により、飼料調製から混合・給与までの外部委託化が進展してきた。また、
この動きと連動して TMR の調製法も従来のフレッシュタイプ TMR から発酵 TMR へと変
貌し始めている。
発酵 TMR は、混合直後の TMR をフレコンバッグや細断型ロールベーラで再梱包・貯蔵
し、給与側の都合に合わせて開封して家畜に給与する技術であるが、その普及により、1)
個々の農家における飼料混合用機械・設備などの調達が不要になり、2)悪天候下での飼料
混合調製作業が回避され、3)夏場の餌槽内残飼の変敗・廃棄量が減り、4)採食量も増え
るなど、これまでの飼料調製給与面での問題点が克服されつつあり、農業現場でも発酵
TMR の有利性が認識され始めている。
ここでは、牛向けの飼料として普及が進んできた発酵 TMR や、飼料用米をはじめとす
る各種 TMR 素材について調製・給与に関する研究事例を紹介する。
※改訂草地学用語集(2000)に掲載されている「Total mixed ration(TMR)」の和訳は、
「完全混合飼料」で
はなく単に「混合飼料」であるが、①「TMR」という言葉は、牛の必要とする全ての栄養成分を完全に
満たす混合飼料(コンプリートフィード)の意味で捉えられていること、また、②一部の栄養素を含ま
ない混合飼料(セミコンプリートフィード)を表す場合には、
「Partial mixed ration(PMR)」や「Partial TMR
(pTMR)」といった用語が使われること等から、本稿では「TMR」を「完全混合飼料」と訳し使用する。
2.TMR調製技術の変遷
現在、主に TMR センターを通じて利用されている TMR は、フレッシュタイプ、発酵
TMR の二つに大きく分類される。フレッシュタイプは生の粕類やサイレージと濃厚飼料を
混合した TMR であり、地域賦存資源などの有効活用ができるものの、開封後の好気的変
59
敗が起きやすく調製後はできるだけ早く給与する必要がある。
このフレッシュタイプの保存性を高めるために開発されたのが発酵 TMR といえる。発
酵 TMR は、フレッシュタイプの TMR をサイロなどで数週間~数ヶ月嫌気発酵させたもの
で、1980 年代から研究開発が行われてきた。近年では、ポリエチレン製の内袋を入れたフ
レコンバッグでの脱気・梱包(写真 1)や、細断型ロールベーラでの梱包およびラップ被
覆など(写真 2)、搬送可能な形態で密封貯蔵する技術が格段に進歩したため流通が容易
になり、TMR センターの増加と相まって利用が増えている。発酵 TMR の貯蔵法には以下
のものがある。
写真 1
フレコンバッグでの梱包
写真 2 細断型ロールベーラでの梱包
(株式会社 那須の農)
(浦川 2005)
1)フレコンバッグ
ポリエチレン製内袋をフレコンバッグに入れて、その中に TMR を詰め込む。密封する
と発酵がはじまり炭酸ガスが発生するため、数日後に袋を開けてガス抜きをする。袋に
逆止弁を付けガスを自動的に抜く場合もある。その後、内袋は陰圧になるため、酸素が
入り TMR 表面にカビや酵母の発生する場合がある。そのため、特に夏場の長期間貯蔵は
避ける。近年は縦型の圧縮梱包装置により TMR を圧縮してポリ袋に入れ密封する方法も
使われている。これは、フレコンバッグに詰め込むだけの方式より貯蔵性は高まるが、
ガス抜きをする必要はある。
梱包密度(DMkg/m3)
2)細断型ロールベーラ
トウモロコシサイレージ用に開発され
た細断型ロールベーラを利用し、混合直後
の TMR をロールベールに梱包する方式で
ある。梱包密度(図 1)はフレコンバッグ
に比べて約 1.23 倍になり嫌気性が高まる
上、密封後の脱気作業が不要となる。現在
ではミキサ・細断型ロールベーラ・ラッピ
フレコンバッグ
ングマシンを連結したシステムを導入す
細断型ロールベール
図 1 発酵 TMR の梱包密度の比較
る TMR センターが増えている。
(喜田ら 未発表)
60
3)六面梱包
TMR の新しい梱包形態として、六面梱包ベールが開発され実用化されている(写真 3)。
六面梱包ベールは梱包密度が 390kg/m3DM とフレコンバッグ(200 kg/m3 DM:いずれも
畜草研での測定)の約 2 倍であり発酵品質や貯蔵性が高い。また、運搬時の利便性も高
く広域輸送に適したタイプの発酵 TMR といえる。
写真 3 六面梱包ベール
(株式会社 那須の農)
3.発酵TMRの特徴
これまでの研究から、発酵 TMR はフレッシュタイプ TMR に比較して様々なメリットを
持つことが明らかになってきた。以下に列記する。
1) 品質の安定性
発酵 TMR は嫌気貯蔵されているため保存性の高い事が特徴であり、特に細断型ロール
ベーラで梱包したものはフレコンバッグに比較して梱包密度が 23%高く(図 1)、発酵品
質も良好で、夏場に調製した場合でも 1 年間は良質なまま保存が可能であった(表 1)。
表 1 梱包形態の異なる発酵 TMR の発酵品質の推移(喜田ら 未発表)
梱包形態 貯蔵期間
水分
pH
乳酸
(%)
(%)
0日
56.8
5.3
0.51
7日
55.1
4.5
1.74
フレコン
トランス
14日
54.4
4.5
1.98
バッグ
28日
51.5
4.4
1.94
90日
54.8
4.5
2.28
0日
56.8
5.3
0.51
7日
53.7
4.6
1.70
細断型
14日
53.9
4.6
2.02
ロール
28日
51.5
4.6
1.92
ベール
90日
52.5
4.4
2.21
1年後
50.2
4.5
6.07
注)調製は2006年8月22日.屋外にて貯蔵.
酢酸
プロピオン酸
酪酸
VBN/TN
V-スコア
(%)
0.04
0.65
0.88
0.68
0.99
0.04
0.47
0.67
0.66
0.83
2.73
(%)
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
(%)
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
(%)
2.04
5.76
6.36
6.67
7.40
2.04
6.03
6.34
6.14
8.12
9.85
(点)
100
95
92
93
89
100
96
94
94
89
80
2)低・未利用資源の活用
品質の安定した TMR をいかに低価格で調製するかは大切な視点である。そこで、各地
域で発生する食品残渣(ジュース粕、ビール粕、トウフ粕、でんぷん粕、醤油粕、きのこ
61
廃菌床、茶飲料粕、コーヒー粕、パンくず、菓子くず等)や農産副産物(根菜類の茎葉、
規格外野菜等)といった地域賦存資源の利用が想定される。ところがフレッシュタイプ
TMR の場合、これら飼料を TMR 調製時まで長期間保存する必要があり、特に水分を多く
含むものは貯蔵中の変敗やカビの発生が危惧される。一方、発酵 TMR は各単味飼料を一
括混合調製して乳酸発酵させ嫌気貯蔵するため、変敗の危険性が低いというメリットがあ
り、地域で発生する低・未利用資源を有効に活用できる。
3) 嗜好性の低い飼料の採食性向上
サイレージ調製が困難な高水分原料草は、発酵 TMR 調製時に濃厚飼料や乾燥した粗飼
料と混合することにより適正な水分調整が可能となる。また、刈遅れた乾草やワラなども
多汁質飼料や濃厚飼料と混合し発酵させることで一定の採食性が期待できる。さらに、機
能性成分を含むものの嗜好性が悪いといった飼料資源も発酵 TMR 材料として用いること
で有効に活用できる。一例として、緑茶飲料製造残渣を混合した発酵 TMR の嗜好性を調
査事例がある(額爾敦ら 2007)。緑茶飲料残渣はカテキンやビタミン E などの機能性成
分を含むが、タンニンなどの影響で嗜好性が悪いことが知られている。そこで、トウモロ
コシサイレージ主体 TMR に緑茶飲料残渣を乾物で 0、5、10、15 および 20%混合した発酵
TMR をそれぞれ調製し泌乳牛に給与したところ、フレッシュタイプでは 10%以上混合す
ると採食量が低下したが、発酵 TMR では 15%まで混合しても採食量は変わらなかった。
このように、トウモロコシサイレージなど嗜好性の良い飼料と混合することで、嗜好性の
低い機能性飼料の有効活用が期待できる。
4)開封後の好気的変敗抑制効果
発酵 TMR は、通常の TMR に比較して開封後の好気的変敗(二次発酵)が起きにくい。
三重県で行われた試験(平岡ら 2005)では、フレッシュタイプの通常 TMR の場合、調製
後すぐに発熱が始まり、経時的にカビ(糸状菌)や酵母が増殖して 24 時間後には乾物損失
率が 10%になった。一方、同一材料を用いて細断型ロールベーラで調製した発酵 TMR は、
開封 24 時間後でもカビや酵母が増加せず、pH や有機酸も安定した良質サイレージであり、
好気的変敗は認められなかった(表 2)。
表 2 好気的条件下での通常 TMR と発酵 TMR の特性推移(平岡ら 2005)
微生物数(cfu/gFM)
開封後
水分
pH
乳酸
酢酸
酪酸
VBN/TN
経過時間 (%)
(%)
(%)
(%)
(%)
乳酸菌
酵母
糸状菌
< 102
< 102
0h 37.8
6.1
0.7
0.1
0.1
1.8
10 6
3h 41.1
5.2
1.1
0.2
0.5
2.5
10 6
10 5
< 102
通常TMR
10 6
10 5
6h 42.5
5.1
1.2
0.2
2.0
2.4
10 6
10 6
10 5
12h 41.8
5.3
0.9
0.2
0.0
2.0
10 6
24h 44.0
5.3
0.9
0.1
0.1
2.8
10 6
10 6
10 5
< 102
< 102
0h 40.8
4.0
4.3
0.5
0.0
2.1
10 6
3h 40.9
4.0
4.1
0.5
0.0
2.0
10 7
< 102
< 102
発酵TMR
< 102
< 102
6h 42.1
4.0
4.2
0.5
0.0
1.8
10 7
< 102
< 102
12h 42.2
4.0
3.7
0.5
0.0
1.4
10 7
24h 42.8
4.1
4.4
0.5
0.0
1.5
10 6
< 102
< 102
注)発酵TMRは細断型ロールベーラで7月8日に調製し、29日間貯蔵した.通常TMRは8月6日に調製した.
項目
乾物損失
率(%)
2.6
7.5
6.4
10.0
0.2
2.1
2.4
3.4
さらに王ら(2008)は、ビール粕あるいはトウフ粕を主原料(原物重量比 50%)とし、
これに 7 種類の他原料を混合して発酵 TMR を調製した結果、開封後 1 週間経過しても発
62
熱せず、これを給与したヤギの乾物摂取量は低下しなかったことを報告している。なぜ発
酵 TMR は好気的変敗しにくいのか、今後、メカニズムの解明が必要であるが、現象とし
て発酵 TMR は開封後の品質劣化がフレッシュタイプより遅いため、飼槽内に残っている
エサの変敗や嗜好性の低下が危惧される夏季の飼料としても有効と考えられる。
4.TMRに利用される飼料の特徴
1)各種飼料の分類と特徴
現在、わが国で TMR 原料に利用されている主な飼料は以下のとおりである。
「繊維質飼料」粗飼料源として、チモシー、スーダングラス、イタリアンライグラスなど
の牧乾草が多く用いられているが、昨今の輸入飼料価格の高値安定、生産国の気象条件の
変動により良質で安価な輸入粗飼料の確保は難しくなっている。そのため国産粗飼料の利
用を促進すべき時期にきており、その第一候補として稲発酵粗飼料(イネ WCS)が挙げら
れる。イネ WCS の TMR への利用については後述するが、牧乾草の代替として充分に利用
可能であると考えられる。茶殻も繊維質飼料として利用されており、特に緑茶殻やウーロ
ン茶殻などは粗蛋白質含量も高い(約 30%DM)特徴がある。この他、きのこ菌床もこの
範疇に入る。
「蛋白質飼料」ナタネ粕・大豆粕・ヒマワリ粕のように搾油後で脂肪が少ないものと、醤
油粕・トウフ粕・ビール粕のように脂肪を多く含むものがある。
「エネルギー飼料」米ぬか・綿実などがある。また、デンプン系ではデンプン粕・ジュー
ス粕・焼酎粕・麦茶粕などがあり、焼酎粕は蛋白質含量も高いため利用が増えている。こ
の他、規格外ニンジンをエネルギー+β-カロテン源として利用したり、トウモロコシ蒸留
粕(Distiller’s Dried Grain with Solubles: DDGS)をエネルギー+蛋白源として利用したりす
る事例が出ている。また、トウモロコシ穀実の代替として飼料用米の利用が普及し始めた。
2)エコフィードの有効活用
わが国の畜産は、濃厚飼料の 89%、粗飼料の 22%を海外に依存し、大多数の経営体が一
様な飼料給与を行っている構造といえる。平成 20 年をピークにした輸入穀物価格高騰は、
このような輸入飼料依存型の畜産経営を直撃し、厳しい状況を引き起こした。その後、輸
入穀物価格は落ち着きをみせたかに思えたが、トウモロコシや大豆の国際価格は上昇傾向
にあることから、濃厚飼料価格の再高騰が危惧される。このようなリスクを回避して足腰
の強い酪農を営んでいくため、輸入飼料の代替となるエコフィード※など地域に存在する
飼料資源の活用をこれまで以上に進める必要がある。ここでは、エコフィードの利用を進
めていくため、その可能性や留意点などについて項目ごとに個別事例を挙げて述べる。
個々のエコフィードは成分的に偏りのある飼料であり、利用に当たっては成分と特徴を
しっかり把握し、どの飼料の代替として使うか(エネルギー源か?タンパク源か?繊維源
か?サプリメントか?)を明確にする必要がある。そして、代替しようとする濃厚飼料等
とのコストや乾物換算の栄養価を比較し、安全で且つ安ければ使うという姿勢が重要とな
る。
63
※「エコフィード」という単語は「食品製造副産物、食品卸売・小売業からの排出食品残さ、外食産業か
らの排出食品残さから製造される飼料」と定義されるが(平成 19 年に商標登録)、ここでは、野菜くず
の様な農産副産物等も含めた広い意味での食品副産物を「エコフィード」と記載する。
(1)エコフィードの購入コスト
エコフィードの最大のメリットは価格が安いことである。農水省が全国 255 件のエコフ
ィード製造業者を対象にした調査では、乾燥物の平均で 25 円/kg(配合飼料のおよそ半分)、
サイレージ(トウフ粕等)で 18 円/kg という結果であった(農林水産省資料 2010)
。しか
しながらここで注意すべきは、全てのエコフィードが安い訳ではなく、また、需要と供給
のアンバランスにより入手が難しいものもあるという点である。以下に例を示す。
●ビール粕:粗飼料と濃厚飼料の中間的な飼料で、乾物中の粗タンパク質(CP)含量が
27%と高く、粗脂肪(EE)含量 9%、TDN 含量 71%で、脂肪を含むタンパク質飼料であ
る。反すうに有効な NDF も 25%含む乳牛向け飼料といえる。しかしながら、近年は発泡
酒や第 3 のビールに押され生産量が減少している。また、ビール会社も独自にサイレージ
調製したものを販売し始めており、生粕の個人入手は困難な状況で、価格も上昇傾向にあ
る。
●発泡酒粕:発泡酒粕は米やデンプン原料を多く使用しているため、可溶性糖類が多く、
繊維の持つ物理性はあまり期待できない。発生量もビールの 1/3 程度と少なく、供給量が
少ない現状である。ちなみに第 3 のビールは、製造方法がビールや発泡酒と異なり粕がほ
とんど発生しない。
●醤油粕:水分約 30%で 1 割程度の塩分を含むが、水分、塩分とも製造会社により異な
るため入荷時の成分分析が必要となる。平均値で CP 含量 31%、EE 含量 12%、TDN 含量
71%で、脂肪を多く含むタンパク質飼料に分類できる。乳牛の食塩要求量は飼料乾物中 1%
なので、原物 2~3kg が給与上限とされている。国内の醤油需要量は減少傾向にあるため、
発生量も減少し価格は上昇しつつある。大規模メーカーの醤油粕は発生量が安定している
ため、TMR センター等で良く利用されている。一方、地域の小規模メーカーの醤油粕は発
生量が少なく、運搬・貯蔵コストとの兼ね合いから取り扱いが難しいため、産廃処理にな
りがちな現状である。
(2)地域性・季節性のあるエコフィード
わが国で反すう動物用飼料(A 飼料)として利用できるエコフィードの中には地域毎に
特色のあるものが存在する。北海道や東北などでは農産加工副産物(ビート、にんじん、
馬鈴薯等)が、九州などの暖地では焼酎粕等が多く取り扱われている。これらの多くは高
水分で腐敗しやすく、輸送にはコストがかかるため地域内で利用されることがほとんどで
ある。また、これらの生産には季節性があり、通年大量消費には向かない短所があるが、
サイレージ化を行い、酪農家の共同 TMR 施設や TMR センターで利用することにより、安
価な飼料として利用可能である。中にはコストと栄養価の問題がクリアできれば広域流通
可能な飼料もあるため(関東で焼酎粕を使っている TMR センターもある)、他の地域でも
利用を検討する余地はある。
64
<北海道・東北の例>
●生ビートパルプ:製糖工程で出る絞り粕。一部は糖蜜と混ぜて乾燥成形し乾燥ビート
パルプになるが、生は乾燥に比べて安価なため工場近郊で利用されている。水分含量 83%
であるが、良質サイレージに調製可能。NDF 含量 66%、TDN 含量 72%で、良質繊維を含
むエネルギー飼料といえる。
●デンプン粕:CP 含量が低く(6%)、TDN 含量 76%の高エネルギー飼料である。デン
プン工場周辺の畑作地帯で良く利用されるが、水分を多く含み空気に触れると腐敗しやす
いため、サイレージ調製して保存する。
●ポテトピール:バレイショの加工工場から出る皮は、サイレージ利用することにより
繊維源・エネルギー源(TDN69%)として利用可能である。泌乳牛向け濃厚飼料中に 20%
まで混合できる。光に当たって緑化した部分はポテトグリコアルカロイド(毒性物質)を
含むため、原料の保存の良いものを放置せずすぐにサイレージ化する。
●スィートコーンパルプ:スイートコーンの加工工程で出る包葉、芯、一部子実(雌穂
重の約 50%)。水分を 80%以上含むが、排汁処理のできるサイロに詰め込むと良質サイレ
ージになる。成分は乳熟期のトウモロコシサイレージと同等で TDN 含量は 63~69%。
●リンゴジュース粕:生産地は東北各県の他、長野県に限定される。嗜好性は良いもの
の水分含量が多く変質しやすいので、ワラ、ヘイキューブ、ビートパルプ、ヌカ類などと
混合し、サイレージにすれば良質なものができる。
●ながいも(先端部分)
:ながいもは糖分よりもデンプンを多く含む。サイレージにする
場合には乳酸菌製剤を添加するか、乾燥ビートパルプのような糖分の多い乾いた材料を加
えて水分を調整すると良質な飼料になる。
●ニンジン:生ニンジンは水分含量が 90%と高
く、乾物中の CP 含量は 10%、ADF 及び NDF 含
量はともに 16%で、β-カロテンを約 900mg/kg 含
む。これをサイレージにしても β-カロテンは 2/3
程度が残る。サイレージにする場合、生ニンジン
の泥を落とした後に切断せずに詰め込んだ方が
発酵は良質である。また、刈り遅れトウモロコシ
やフスマ、乾燥ビートパルプ等と混合すれば良い
サイレージになる。β-カロテン源とする場合、1
写真 4 ニンジンサイレージ
日に原物で 10kg 程度を給与すれば充分である。
<暖地の例>
●焼酎粕:麦や米、芋などを糖化・発酵させ蒸留した残さ。固形物は乾燥、液状部は濃
縮することで保存性が向上する。CP 含量が高く、TDN 含量は材料により異なるが 66~92%
の範囲にある。濃縮液の pH は 4 程度と低く、TMR 材料として良く利用される。
●ミカンジュース粕:生の粕は水分含量が 82%と高いため、ワラ、ヘイキューブ、ビー
トパルプ、ヌカ類などと混合し、サイレージにすれば良質なものができる。TDN 含量が
79%と高く、エネルギー飼料として利用可能。β-カロテンなどの機能性成分も含んでい
る。生粕を多量に給与すると軟便になったり牛乳や肉が黄色くなったりする場合があるの
で注意が必要。
65
●カンショツル:主に暖地で発生する。水分含量が 87%と高いが、CP 含量は乾物中 13%、
TDN 含量 58%で牧草と同程度の栄養価といえる。高水分のため、サイレージ調製時には予
乾するか、ヌカやワラなど水分含量の低い他作物と混合調製する。細切したカンショと混
合すると発酵品質が良好になるという報告がある。
(3)今後、需要拡大の可能性があるエコフィード
エコフィードは、乳牛用飼料として古くから利用されている。表 3 に現在までに利用さ
れたことのあるエコフィードの例を示すが、A 飼料としての利用が想像できる物は既に多
かれ少なかれ利用されている。
表 3 A 飼料として利用されたことのある主なエコフィード
食品循環資源
製造粕類 ビール粕、発泡酒粕、豆腐粕、醤油粕、DDGS、焼酎粕、ウィスキー粕、デンプン
粕、ミカンジュース粕、リンゴジュース粕、ケールジュース粕、トマト搾り粕、タケノ
コ皮、茶がら類、生ビートパルプ、アン粕、スィートコーンパルプ、ブドウ酒粕、梅
酒漬け粕、廃糖蜜、コーングルテンフィード、タマリ粕、クエン酸発酵粕、パイナッ
プル粕、等
油粕類 大豆粕、綿実粕、ナタネ粕、ラッカセイ粕、アマニ粕、ゴマ粕、ヤシ粕、ヒマワリ
粕、サフラワー粕、パーム核粕、カポック粕、シャーナット粕、等
ヌカ類 米ヌカ、麦ヌカ、フスマ、等
デンプン食品関連 パン屑、菓子屑、炊飯米、うどん、そば、等
農産副産物
作物副産茎葉類 稲ワラ、麦ワラ、ソバワラ、トウモロコシ桿、マメ桿、バガス、ダイコン葉、カブ葉、
カンショツル、ビートトップ、ダイコン葉、ニンジン茎葉、カブ葉、ルタバガ葉、バレ
イショ茎葉、ラッカセイ茎葉、等
規格外農産物 米、小麦、大麦、エンバク、ライ麦、大豆、アワ、キビ、ソバ、ソラマメ、エンドウ、
ルーピン、綿実、カンショ、ナガイモ、ニンジン、ダイコン、キャベツ、ハクサイ、カ
ボチャ、等
その他
ビール酵母、キノコ廃菌床、バレイショ皮、ミカン皮、竹材、等
今後需要が伸びそうな飼料資源は、エネルギー(デンプン)源として飼料用米(屑米含
む)が、タンパク質源として焼酎粕および DDGS のようなアルコール蒸留粕や大豆(屑大
豆や飼料用大豆)、トウフ粕が、繊維源として竹材やキャベツ・ハクサイといった葉菜残さ
などが挙げられる。
●飼料用米:コメは籾米で給与すると大部分が消化されず糞に排泄されるため、加工処
理を行う必要がある。玄米は乾物中の CP 含量が 8.8%、TDN 含量が 94.9%(農業・食品
産業技術総合研究機構 2009)でトウモロコシ穀実の完全代替が可能。平成 23 年度の栽培
面積は、国の戸別所得補償制度の効果もあり前年の約 15 千 ha から約 34 千 ha に伸びてい
る。
●DDGS(Distillers Dried Grains with Solubles)
:バイオエタノール生産に伴い発生する副
産物で、原料は主にトウモロコシや米が使われる。固形物と濃縮蒸留残さを混合し乾燥し
た製品であるが、水分を吸収しやすいため冷暗所で保管する。トウモロコシ DDGS は乾物
中の CP 含量が 28.9%、TDN 含量が 93.4%と高く、タンパク質はルーメンバイパス性を持
66
つということで注目されている。わが国では、現在、精白米を原料としたバイオエタノー
ルプラントが国内数カ所で稼働しており、そこで発生する DDGS(CP50%、TDN75%)の
利用が期待される。
●大豆:大豆は乾物中に CP を 41%、EE を 21%含み、加工処理したものを飼料利用す
る。現状は輸入大豆の一部代替として屑大豆が利用されているが、東北農研や岩手県農業
研究センターにおいて飼料用大豆の栽培・利用研究が開始された。
●トウフ粕:水分は 80%と高いが、TDN 含量が 91%と高く、嗜好性も良好。生トウフ粕
は品質劣化が早いので、排出元でサイレージ化するなどの工夫が必要である。
●竹材:放任竹林対策として、粉末化やペレット化、解繊処理等で飼料化する研究が進
められているが、加工費がかかる。解繊処理竹材は稲ワラと同程度の TDN 含量で TMR の
粗飼料素材として利用可能。焼酎粕やヌカ類と混合しサイレージ化した事例もある。
●キャベツ・ハクサイ:葉菜の外葉などを中心とした残さは卸売市場や外食産業などか
ら大量に排出されるが、現在は主に産廃処理や堆肥化処理が行われている。CP 含量はキャ
ベツが 11%、ハクサイが 26%であり、TDN 含量も 65%程度はある。葉菜類は硝酸態窒素
を多く含むため、反すう家畜への給与に際しては、他の飼料と混合し、飼料全体の硝酸態
窒素含量が乾物当たり 0.1%未満になるよう調整する。なお、畜草研では葉菜の硝酸態窒素
を低減する微生物製剤を開発したが(特許出願中)、まだ市販化には至っていない。
(4)エコフィード利用に際しての留意点
エコフィードの利用に当たり、最も留意すべき点は安全性の確保であり、飼料安全法(「飼
料の安全性の確保及び品質の化以前に関する法律」)に基づく安全基準の遵守が重要である。
<A飼料に関する留意点>
わが国で牛、めん羊、山羊およびしか(鹿)を対象とした A 飼料は、牛海綿状脳症(BSE)
の発生防止のため、飼料安全法により牛乳や卵などを除く動物由来タンパク質などを含ん
ではならないと規定されている。そのため、①原料として動物由来タンパク質を使用しな
い食品副産物などのうち、製造後も施設内や保管、輸送などの過程で動物由来タンパク質
などの混入が起こらないよう管理されたものしか利用できない。また、②スーパーマーケ
ット、コンビニなどから回収された弁当などを原料とするもの、レストラン、ホテル、給
食、家庭などの調理残さや食べ残しは利用できない。一方、海産副産物などの重金属汚染
がニュースで取り上げられることがあるが、A 飼料の原料として魚介類は使用できないの
で、それらによる重金属汚染の危険性はさほど高くないと考えられる。なお、農産副産物
等を利用する場合は、飼料としての利用を前提とした農薬の選定、用法、容量が守られな
ければならない。
<夏季の貯蔵や混合に関する留意点>
エコフィードを混合した TMR を高温条件下で保管すると、内部の微生物叢(かびや大
腸菌など)が変化し牛の健康に影響を及ぼす場合がある。そのため、特に夏季に加水・調
製した TMR や高水分の TMR は、①長期保管を避け調製後 6 時間以内に摂取させる、②TMR
への加水を抑制する、③乳酸菌製剤やプロピオン酸などを添加する、といった対策が効果
的である。また、④TMR を再密封し貯蔵する「発酵 TMR」も有効である。なお、エコフ
ィードは高水分のものが多いため、TMR と同様にかび等の発生が危惧される。給与までの
67
期間、これらを単味で保管する場合には、乳酸菌製剤等を添加して完全密封しサイレージ
化することがより良い対処法といえる。
<嫌気性病原菌、かびの増殖防止>
嫌気性細菌には、大腸菌、サルモネラ、カンピロ
バクターなどの通性嫌気性菌やクロストリジウムな
どの偏性嫌気性菌が含まれる。特に、サルモネラは
飲食物を介して経口感染する人畜共通の病原菌であ
り、家畜の疾病や畜産物を通じて人の食中毒の原因
となるため、
「飼料製造に係わるサルモネラ対策ガ
イドライン」に基づいた管理が必要となる。原料
段階では、汚染のない飼料原料を入荷すること(原
写真 5 乳酸菌を添加してサイレ
ージ化した豆腐粕
料製造者の衛生管理状況の確認、専用容器などによる輸送)が必須である。これを飼料化
する際には、製造施設や施設周辺のハト、ネズミ、ゴキブリ、ハエ、ホコリ、こぼれなど
の防除・除去を行い、清潔な環境を維持する。かびは、一般に高水分飼料や高温・高湿条
件下で発生しやすいため、原料の水分管理や雨水、結露などを避けるといった保管時の工
夫が必要である。防かび剤としては、飼料添加物に指定されているプロピオン酸、プロピ
オン酸カルシウム、プロピオン酸アンモニウムがあり、必要に応じてこれらの添加を行う。
5.イネWCSおよび飼料用米のTMR素材としての利用
日本の国民一人当たり米の年間消費量は 1960 年の 115kg から 2000 年の 65kg まで急激に
低下し、食用米の栽培面積も 312 万 ha から 170 万 ha へと半減した。これに対応し水田を
維持して行くため、農林水産省では 1971 年から他作物への転換を図る目的で水田農業対策
を講じ、イネの飼料利用を積極的に進めている。2011 年からは戸別所得補償制度の本格実
施が始まり、イネ WCS や飼料用米の栽培面積は現在も増加傾向にある。
牛向けの TMR 素材として考えた場合、イネ WCS は粗飼料源として、また飼料用米はト
ウモロコシ穀実に変わる濃厚飼料中のエネルギー飼料として位置づけられる。イネ WCS
や飼料用米の利用に関する研究は 1980 年代から行われているが、近年になって、新たな品
種の開発や、第一胃内分解特性、加工形態別の消化性、低コスト調製・貯蔵・流通技術、
畜種別の給与上限の検討、組み合わせる蛋白質飼料の分解特性などの研究が進展した。そ
の成果については、
「稲発酵粗飼料生産・給与技術マニュアル」や「飼料用米の生産・給与
技術マニュアル」に取りまとめられているので、ここでは詳細な記述を省略することとし、
TMR 素材としてイネ WCS や飼料用米を利用する際の留意点等について解説する。
1)イネWCSのTMR利用(乳牛)
黄熟期に収穫調製したイネ WCS は、TDN 含量がおおよそ 52~55%、CP 含量が 7%、総
繊維含量 50%である。粗繊維の消化性は牧乾草に比べて低い傾向にある(表 4)。一方、
イネ WCS の粗飼料価指数(RVI)による物理性の評価値は牧乾草なみで(表 5)、嗜好性
は高い。また、硝酸態窒素濃度はトウモロコシやソルガムサイレージより低く、TMR に混
合する粗飼料源としては十分に牧乾草の代替が可能と考えられる。
68
表 4 種々の粗飼料の消化率と栄養価
消化率 (%)
TDN (%DM)
粗蛋白質 粗脂肪
NFE
粗繊維
54
60
66
53
54.0
イネWCS*
**
51
50
58
57
54.9
チモシー乾草
**
46
48
58
59
53.7
イタリアンライグラス乾草
**
56
45
58
58
54.7
オーチャードグラス乾草
**
42
41
60
65
54.6
スーダングラス乾草
* 黄熟期、 ** 1番草開花期、*** 1番草出穂期. 日本標準飼料成分表(2009)
表 5 乳牛向け粗飼料の粗飼料価指数(RVI)
RVI (min/kgDM)
82
79
77
47
66
イネWCS
チモシー乾草
スーダングラス乾草
アルファルファ乾草
トウモロコシサイレージ
日本飼養標準・乳牛(2006)
RVI は飼料の形状(細断長)にも影響を受けるが、イネ WCS では切断長が長くなるほ
ど RVI が増加して、その咀嚼の効果で未消化子実の排泄量は減少する。しかし、切断長が
長くなると乾物摂取量が抑制されることから、乳量の低下を招く。これまで報告された試
験報告によると、適切な RVI を確保し、乾物摂取量、未消化子実の排泄量も考慮に入れた
イネ WCS の最適な切断長は 3.0cm 程度である(新出ら 2008)。なお、稲にはケイ酸が多く
含まれるため TMR ミキサで細切しながら混合するとミキサ刃の劣化の早いことが指摘さ
れていた。しかし、最近ではイネ WCS 用専用収穫機の登場により予め細切した稲が梱包
可能になったためこの問題点は克服されつつある。
(1)分娩後~泌乳最盛期牛向けのTMRへの混合量
出穂後 30 日刈取のイネ WCS(品種「クサノホシ」)を用いた泌乳前期の限界給与量につ
いて、広島県の研究事例がある(図 2)。イネ WCS の乾物混合割合を 25%と 30%にした
TMR を比較した場合、乾物摂取量、乳量とも分娩後 10 週までは 25%区が高く、乾物摂取
量の回復した分娩後 10 週以降は差が認められていない。そのため、泌乳初期の分娩後 10
週程度までは、代謝病の発生しやすいステージでもあり、乾物中に 30%以下での利用が推
奨される。
これまでの研究で、搾乳牛では 8~50%の籾が未消化のまま糞に排泄されることが明ら
かとなっている。原因は、子実が難消化性の籾殻に覆われているためであり、熟期が進む
ほど消化性は低下する。特に黄熟期以降では子実排泄率が 40%を超えることから、繊維の
消化性も考慮すれば、糊熟期(出穂後 15 日)~黄熟期(出穂後 30 日)での収穫が望まし
い。特に、完熟した籾は脱粒しやすいことから、子実排せつの傾向が強まる。また、泌乳
69
初期は、必要な乾物量が摂取できにくく、エネルギーバランスがマイナスになっているこ
とから、配合飼料 1kg 程度のエネルギーを増給する必要がある。
<乾物摂取量>
<乳量>
図 2 イネ WCS の配合割合を変えた TMR の給与試験成績(広島県畜産技術センター2006)
(2)泌乳中~後期牛向けのTMRへの混合量
泌乳中~後期の牛では、飼料乾物中に 30%程度まで給与しても乾物摂取量、乳量、乳成
分に他の輸入乾草と差がみられない。この時期の牛は、乾物摂取量が最大に達する時期を
過ぎ、乳量が減少し始めているため、エネルギー濃度の低い飼料でも食べきれる状態にな
っているためと考えられる。しかし、乳量が減っても食欲は旺盛な時期なので、エネルギ
ー摂取量が過剰となり過肥になる恐れもあるため、飼料設計は的確に行う。
(3)TMR設計上の留意点
イネ WCS を TMR に混合する場合、TMR 中のイネ WCS 割合が乾物で 20%以上になる
場合には、以下の点に留意する。
●イネ WCS の繊維は、物理性に富むが NDF の消化率は低いため、乾物摂取量の維持には
TMR 中の NDF 含量を乾物 31~33%とする。
●子実排せつによるエネルギー損失があるため、飼料中の NFC(デンプン)含量を 38~40%
に上げる。
●飼料全体の粗飼料割合は 5%程度やや低めに設定する。
●イネ WCS に組合わす粗飼料は、アルファルファ乾草や刈取時期の早い NDF 含量の低い
ものを使用する。
●イネ WCS の設定切断長は 3.0cm 程度にする。
2)イネWCSのTMR利用(肉用牛)
イネ WCS の CP 含量は 7%であり、牧草類と比較すると若干低い。肥育牛では、濃厚飼
料が多給されるので CP 含量の低さはあまり問題にならないが、粗飼料の給与量が多い繁
殖牛や育成牛では、イネ WCS を給与する際には蛋白質不足にならないよう給与設計上の
注意が必要である。
イネ WCS の物理性として、黒毛和種繁殖牛による RVI データが報告されており(表 6)、
70
イネ WCS はチモシー乾草よりも反芻等を促す物理性がやや高い。またイネ WCS の物理性
は稲ワラに近いが、稲ワラよりも消化性が良いので、特に肥育後期にイネ WCS のみを粗
飼料源として給与する場合は、反芻胃の機能を健全に保つためにも給与量が極端に少なく
ならないように注意する必要がある。
表 6 肉用牛向け粗飼料の粗飼料価指数(RVI)
RVI (min/kgDM)
71
78
64
イネWCS
稲ワラ
チモシー乾草
古澤ら(2004)
良質なイネ WCS は、肉牛に給与される稲ワラやチモシー乾草より豊富にビタミン E を
含んでいる。また、ビタミン E 含量の高いイネ WCS は稲ワラよりも多くの β-カロテンを
含む傾向にある。β-カロテンはビタミン A の前駆体であり、1mg の β-カロテンは生体内で
400IU のビタミン A に転換される。したがってビタミン A 制御型肥育にイネ WCS を用い
るためには、イネ WCS 中の β-カロテン含量の把握と、その低減技術が必要となる。β-カ
ロテン含量は飼料イネの品種や熟期によって異なり、乳熟期から完熟期にかけて急激に含
量が低下することが明らかになっている。また、β-カロテンは酸素や光によって酸化分解
することが知られている。そこで、サイレ-ジ調製の際に予乾処理を行うことにより、イ
ネ WCS の β-カロテン含量を減少させることが可能である。黄熟期に刈取り後、1 日予乾
してサイレージ調製すれば、β-カロテン含量が刈取り時の約 7 割に減少し、この際 α-トコ
フェロール(ビタミン E)も減少するものの、稲ワラより高い含量を保つことが報告され
ている(図 3)。したがって予乾処理を行い飼料中の β-カロテン含量を十分低減させること
が出来れば、ビタミン A 制御型肥育にイネ WCS を用いることが可能である。
図 3 予乾処理が飼料イネの ß-カロテンおよびα-トコフェロール含量に及ぼす影響
肉用牛向け TMR 素材としてイネ WCS を利用した研究については、山田ら(2012)が報
告している。その研究では、黒毛和種去勢牛を供試し、10~30 ヶ月齢の肥育期間に食品副
71
産物(発酵ビール粕と発酵トウフ粕混合品)とイネ WCS を混合した発酵 TMR を給与する
「TMR 区」と、乾草と配合飼料を給与する「対照区」を設け飼養試験を行った。発酵 TMR
の原料割合は、肥育前期用 TMR(10~20 ヶ月齢時に給与)は原物当りイネ WCS 30%、食
品副産物 40%、配合飼料 30%であり、肥育後期用 TMR(21~30 ヶ月齢時に給与)は原物
当りイネ WCS 20%、食品副産物 30%、配合飼料 50%であった(表 7)
。試験の結果、枝肉
重量や BMS No.等に TMR 区と対照区の差は認められなかった(表 8)
。また TMR 区は、
牛肉中へのビタミン E の蓄積により、牛肉の脂質酸化や肉色の退色が抑制された。従って、
イネ WCS を用いた発酵 TMR を黒毛和種去勢牛に肥育全期間給与することにより、牛肉中
のビタミン E 含量が増加し、冷蔵保存中の牛肉色素の変色防止および脂質酸化の抑制に効
果があることが示唆された。
表 7 イネ WCS を用いた発酵 TMR の飼料成分
乾物(%)
粗灰分(%DM)
粗タンパク質(%DM)
ADF(%DM)
NDF(%DM)
TDN(%DM)
ß-カロテン(mg/kgDM)
α-トコフェロール(mg/kgDM)
前期用
56
7
13
24
43
72
16
60
後期用
57
6
14
17
31
77
7
22
注)参考までに試験に用いた配合飼料の値を掲載した
(配合飼料)
87
4
15
5
14
86
0.1
2
山田ら(2012)
表 8 イネ WCS を用いた発酵 TMR の給与が枝肉成績に及ぼす影響
対照区
TMR区
枝肉重量 皮下脂肪 筋間脂肪
kg
cm
cm
428
2.3
6.5
440
2.1
7.5
バラ厚
cm
7.4
7.5
胸最長筋脂肪
%
29.0
28.7
BMS
No.
6.7
6.5
BCS
No.
3.5
3.3
BFS
No.
2.2
2.2
山田ら(2012)
なおこの試験では、肉質について特段の問題は認められなかったが、食品副産物の中に
は、果汁粕や野菜屑の様に ß-カロテン含量が非常に高い飼料も含まれるため、肥育牛に大
量に給与すると脂肪が黄色化する可能性もある。そのため、肥育牛に用いる発酵 TMR 素
材は、その特性や飼料成分の把握をしっかり行い、飼料設計等に十分留意する必要がある。
3)飼料用米のTMR利用(主に乳牛向け)
飼料用米の TMR 利用については、これまで乳牛での試験成績が多いことから(肉用牛
の成績は分離給与が主体であり、TMR 給与は試験を現在実施中)、ここでは乳牛への TMR
給与を中心に解説する。
72
(1)飼料用米の飼料特性
飼料用米の成分を表 9 に示した。玄米はトウモロコシ子実と比較して、粗繊維、粗脂肪
はやや低いものの、TDN、粗蛋白質および NFE 含量はほぼ同等である。
表 9 籾米、玄米およびトウモロコシ子実の化学成分組成
水分
粗灰分
粗蛋白
粗脂肪
粗繊維
NFE
TDN 牛
(%)
(%DM)
(%DM)
(%DM)
(%DM)
(%DM)
(%DM)
籾米
13.7
6.3
7.5
2.5
10.0
73.7
77.7
玄米
14.8
1.6
8.8
3.2
0.8
85.6
94.9
トウモロコシ
14.5
1.4
8.8
4.4
2.0
83.4
93.6
(日本標準飼料成分表 2009)
一方、籾米は粗灰分、粗繊維含量が高く、TDN 含量が低い。これはイネ WCS の子実の消
化性と同様に、籾の消化性が著しく低いことに起因する。従って、籾米をそのまま給与す
ることは避けるべきであり、牛への給与に当たっては、圧ぺん、粉砕といった物理的処理
を行う必要がある。表 10 には、飼料用米(「ホシアオバ」(籾米))を蒸気圧ぺん、挽き割
りおよび発芽処理した際の化学成分組成を示した。各処理を施しても繊維成分以外の粗蛋
白質やデンプン含量は変動しないことが伺える。一方、繊維含量は蒸気圧ぺん処理を施す
と無処理や他の処理よりも顕著に低下する。これは、蒸気圧ぺん処理の過程で籾殻の一部
が剥離するためと考えられる。
表 10
品種
飼料用米(籾米)の加工処理別化学成分組成
加工法
有機物
粗蛋白質
化学成分組成 (乾物中%)
粗脂肪
粗繊維
NDF
ADF
デンプン
アミロース
11.4
63.6
23.5
16.8
9.6
66.7
25.5
18.3
11.1
66.0
23.1
18.1
12.4
65.6
23.5
ホシアオバ
無処理
95.3
7.1
1.9
8.2
18.3
オシアオバ
蒸気圧ぺん
95.7
7.1
2.0
6.4
ホシアオバ
挽き割り
95.6
7.1
1.9
7.6
ホシアオバ
発芽処理
97.0
6.1
2.5
8.8
(宮地ら 2010)
(2)飼料用米の加工法別ルーメン内分解特性
①他の穀類とのルーメン内分解特性比較
これまで報告されている、えん麦、小麦、大麦、トウモロコシおよび玄米の乾物、粗タ
ンパク質およびデンプン分解率と「えさプロ」で得られた飼料用米の分析結果から、穀実
を2mm粉砕して比較した場合、各成分のルーメン内分解速度は速い順に、「えん麦・小麦」
>「大麦・飼料用米」>「トウモロコシ」となることが示されている。
②籾米(無処理、2mm 粉砕、蒸気圧ぺん、挽き割り)の比較
三重県産の飼料用籾米(品種「ホシアオバ」)について、加工処理別のルーメン内有効分
解率(ナイロンバッグ試験結果)を表 11 に示した。乾物およびデンプン分解率は蒸気圧ぺ
んと 2mm 粉砕が高く、次いで挽き割り、無処理の順であった。粗蛋白質は 2mm 粉砕が最
73
も高く、次いで蒸気圧ぺん、挽き割り、無処理の順であった。多くの穀実は、物理的処理
により分解率や分解速度が向上する。特に蒸気圧ぺん処理はデンプンの糊化により、また
粉砕処理では微細化によりデンプン粒の表面積が拡大するためデンプンのルーメン内分解
率は向上するものと考えられる。以上、飼料用籾米において主成分であるデンプンを最大
限利用するためには、蒸気圧ぺんや 2mm 粉砕が有効な加工法であり、次いで挽き割りの順
となる。無処理では分解率が各成分とも 2%に満たずほとんど分解されないため、反すう家
畜に給与する際には加工処理が必須となる。
なお、籾殻を剥離した玄米や、籾殻の一部を剥離した発芽処理においても DM の有効分
解率は 10%程度と低いという試験結果が畜草研(宮地ら 2010)や大阪府(平康ら 未発表)
で得られている。そのため、反すう家畜への給与時には玄米表皮を破砕するような物理的
処理が必要と考えられる。
表 11 籾米の加工処理別ルーメン内有効分解率
乾物
デンプン
粗蛋白質
2mm粉砕
64.8 a
80.2 a
75.4 a
ホシアオバ
蒸気圧ぺん 挽き割り
68.4 a
48.4 b
87.5 a
63.9 b
67.2 b
59.1 c
注)異符号の付いた数値間に 5%水準の有意差あり.
無処理
1.3 c
0.1 c
0.0 d
(宮地ら 2010)
(3)飼料用米のTMRへの混合割合
これまで、飼料用米の混合量は、乳牛向け飼料では、原物当たり配合飼料の 10%代替を
安定給与可能な水準としてきた。これは、飼料用米を多給するとルーメンアシドーシスの
発症が危惧されることが理由とされている。そこで、農水省委託研究プロジェクト「えさ
プロ(2008~2009 年度)
」において、泌乳中~後期の乳牛を供試した飼料用米給与試験が行
われた(TMR での給与)。その結果、採食量や乳生産性を低下させずアシドーシスを発症
させない飼料用籾米の最大可能給与量は、「TDN 換算で濃厚飼料中の 30%以下」とする成
績が示された(表 12)。また、併給粗飼料をイネ WCS とした試験では、「乾物換算で全
飼料(TMR)中の 25%まで給与可能」という成績が得られた。
表 12 乳牛における飼料用米の濃厚飼料代替可能量(えさプロ成果より)
担当
ステージ
品種
形態
代替率
福島県
泌乳中期
ふくひびき
SGS
TDN で 30%
籾米(圧ぺん)
TDN で 15%
岐阜県
泌乳中~後期
ホシアオバ
籾米(粗挽き、破砕)
TDN で 30~40%
福岡県
泌乳中~後期
ミズホチカラ
籾米(圧ぺん)
乾物で 20%
宮崎県
泌乳中~後期
北陸 193 号
籾米(粉砕、圧ぺん)
乾物で 22%
74
引き続き 2010 年度から開始された国産飼料プロでは、泌乳前期牛に対する飼料用米の最
大可能給与量に関する試験が、三重県(籾米を使用)と新潟県(玄米を使用)で行われた。
ここではその成績を紹介する。
①籾米を発酵TMR中に乾物換算で 25%混合した例(三重県)
三重県では、乾物で輸入チモシー乾草を 25%、圧ぺんトウモロコシと圧ぺん大麦を合計
25%混合した発酵 TMR(輸入飼料 TMR 区)と、チモシー乾草をイネ WCS(品種「ホシ
アオバ」)に、圧ぺんトウモロコシと圧ぺん大麦を飼料用籾米(品種:モミロマン)に代
替した発酵 TMR(自給飼料 TMR 区)を、経産牛 4 頭ずつに分娩予定日の 2 週間前から
分娩後 10 週間目まで給与した。なお、飼料用籾米は飼料米破砕機で挽き割り処理して用
いた。発酵 TMR の構成および飼料成分は表 13 のとおりである。
表 13 発酵 TMR の構成および飼料成分値
輸入飼料 自給飼料
TMR区
TMR区
乾物混合割合(%)
チモシー乾草
イネWCS
イタリアンライグラスサイレージ
圧ぺんトウモロコシ
圧ぺん大麦
飼料用籾米(挽き割り)
ビール粕
豆腐粕
その他1)
加水
飼料成分2)
乾物(%)
CP
EE
NDFom (乾物中%)
NFC
TDN
25.0
-
10.0
15.0
10.0
-
10.0
10.0
20.0
有
-
25.0
10.0
-
-
25.0
10.0
10.0
20.0
無
57.2
14.9
4.0
42.5
32.8
73.7
57.0
14.7
3.8
37.4
38.3
72.0
1)
その他には、フスマ、大豆粕、ビートパルプ、糖蜜、ビタミン
ミネラルが含まれる
2)
日本標準飼料成分表(2009)による設計値
CP:粗タンパク質、EE:粗脂肪、NDFom:中性デタージェント
繊維、NFC:非繊維性炭水化物、TDN:可消化養分総量
泌乳前期牛の試験では、乾乳後期の養分充足と分娩後の飼料増給にルーメン環境を順応
させるために、分娩予定日の 2 週間前から発酵 TMR を乾物で給与飼料中の 35%相当量を
給与し、分娩予定日 1 週間前からは 50%に増給した。分娩までの乾物給与量は体重の 2%
相当量に設定した。一方、分娩後は、図 4 を目安に、発酵 TMR の給与割合および給与量
を漸増し、概ね分娩後 10 日以降から発酵 TMR を自由採食させた。
75
乾物給与量/体重
給与割合(乾物%)
チモシー乾草またはイネWCS
イタリアンサイレージライグラス
発酵TMR
粗飼料割合
分娩14日前
分娩7日前
分娩日
分娩1日後
3日後
5日後
7日後
9日後
11日後
2.0%
2.0%
2.3%
2.4%
2.6%
2.7%
2.9%
3.1%
3.2%
32.5%
32.5%
35.0%
77.3%
25.0%
25.0%
50.0%
67.5%
25.0%
25.0%
50.0%
67.5%
17.5%
17.5%
65.0%
57.8%
10.0%
10.0%
80.0%
48.0%
7.5%
7.5%
85.0%
44.8%
5.0%
5.0%
90.0%
41.5%
2.5%
2.5%
95.0%
38.3%
0.0%
0.0%
100.0%
35.0%
図 4 分娩前後の給与設定
分娩後 10 週間の乾物摂取量の推移を図 5 に示した。自給飼料 TMR 区の乾物摂取量およ
び乾物摂取量/体重比は、分娩後の各週次において輸入飼料 TMR 区と差がなく推移し、
乾物摂取量/体重比は分娩後 4 週目以降から 3.5 以上を、8 週目以降からは 4.0 以上を確
保できており、泌乳前期において、自給飼料 TMR の採食性は高く、輸入飼料 TMR と同
等の結果が得られている。
分娩後 10 週間の乳量、乳脂肪率および乳タンパク質率の推移を図 6 に示した。自給飼
料 TMR 区の日乳量は、分娩後 2~3 週目で 40kg を超過し、各週次において輸入飼料 TMR
区と差がなく増加しながら推移した。また、自給飼料 TMR 区の乳脂肪率および乳タンパ
ク質率は、分娩後、低下しながら推移するが、その傾向は輸入飼料 TMR 区と同等であり、
分娩後の各週次において差はなく、自給飼料 TMR 給与による泌乳前期の乳生産は、輸入
飼料 TMR 給与と同等の結果が得られている。
図 5 乾物摂取量の推移
図 6 乳生産の推移
分娩後 10 週間の飼養成績をまとめたものを表 14 に示した。飼料摂取や乳生産に加えて、
ルーメン内容液性状や血液性状も両 TMR 区間に差はなく正常範囲にあり、自給飼料 TMR
給与による臨床所見に異常は認められない結果が得られた。
76
表 14 分娩後 10 週間の飼養成績のまとめ
輸入飼料 自給飼料
TMR区
TMR区
22.2
23.2
3.52
3.46
92.7
94.0
42.1
43.2
乾物摂取量(kg/日)
乾物/体重比(%)
体重増減指数(%)1)
乳量(kg/日)
乳成分率
乳脂肪率(%)
4.37
乳タンパク質率(%)
3.01
乳糖率(%)
4.34
無脂固形分率(%)
8.35
14.4
MUN2)
体細胞数(千個/ml)
99
ルーメン内容液性状(分娩後5週目)3)
pH
6.87
総揮発性脂肪酸(mmol/dl)
8.61
3.05
A/P4)
血液性状5)
GOT(IU/L)
70.0
BUN
15.8
GLU
45.3
T-CHO (mg/dl)
273.3
Ca
10.4
P
6.0
4.39
3.09
4.41
8.50
15.5
37
写真 6 泌乳牛による飼養試験
6.97
8.53
3.20
69.3
17.5
49.5
284.0
10.7
5.9
1)
分娩時体重を100とした時の各週時体重の比
3)
乳中尿素窒素 朝飼料給与5時間後に経口により採取
4)
5)
酢酸/プロピオン酸比 朝飼料給与5時間後に尾静脈より採取
2)
各項目について両区間に有意差なし
以上、イネ WCS を粗飼料の主体とし、挽き割り処理した飼料用籾米を乾物重量換算で
全飼料中 25%混合して調製した発酵 TMR は、泌乳前期の乳生産に影響を与えることなく
利用可能であることが示された。これは自給飼料 TMR 区の飼料摂取量は輸入飼料 TMR
区と同等で十分な採食量を確保できたためであったと考えられる。しかし、表 13 からわ
かるように、重量ベースで飼料用籾米をトウモロコシや大麦と代替する場合、発酵 TMR
の TDN 含量が若干低下することから、飼料用籾米を利用する場合は、あくまでも家畜の
反応(採食性や乳生産)を観察した上で、必要に応じた栄養価の補正等、飼料設計を行う
ことが重要であることが留意点として挙げられる。
②玄米を発酵TMR中に乾物換算で 25%混合した例(新潟県)
新潟県では、三重県の籾米の試験とほぼ同様の試験設計(表 15、写真 6)で、輸入チモ
シー乾草をイネ WCS(系統「北陸飼 209 号」)に、圧ぺんトウモロコシと圧ぺん大麦を
飼料用玄米(品種「北陸 193 号」)に代替した TMR を、初産牛 3 頭ずつに、分娩予定日
の 10 日前から分娩後 10 週間目まで給与した。また、10 週間の飼養試験終了後に、飼料
を反転し、飼養試験を継続し、飼料の違いによる乳生産への影響を改めて比較した。なお、
飼料用玄米は飼料米破砕機で粗挽き処理して用いた。飼料給与量の設定は、前述の三重県
の試験と同様に設定し(図 4)、分娩後 10 日以降に発酵 TMR の自由採食とした。
77
表 15 発酵 TMR の構成および飼料成分値
乾物混合割合(%)
チモシー乾草
イネWCS
イタリアンライグラスサイレージ
圧ぺんトウモロコシ
圧ぺん大麦
飼料用玄米(粗挽き)
ビール粕
豆腐粕
その他1)
飼料成分2)
乾物(%)
CP
EE
NDFom (乾物中%)
NFC
TDN
輸入飼料
TMR区
自給飼料
TMR区
25.0
-
10.0
15.0
10.0
-
10.0
10.0
20.0
-
25.0
10.0
-
-
25.0
10.0
10.0
20.0
58.7
15.6
4.7
37.8
34.1
74.0
59.3
15.3
4.6
35.0
37.0
75.3
1)
その他には、フスマ、大豆粕、ビートパルプ、糖蜜、ビタミン
ミネラルが含まれる
2)
日本標準飼料成分表(2009)による設計値
CP:粗タンパク質、EE:粗脂肪、NDFom:中性デタージェント
繊維、NFC:非繊維性炭水化物、TDN:可消化養分総量
分娩後 10 週間の乳量の推移を図
7 に、10 週間の飼養成績の平均値を
表 16 に示した。自給飼料 TMR 区の
乳量は分娩後 4 週までは、輸入飼料
TMR より低く推移しているものの、
統計的な差はなく、5 週目以降は同
等の推移となっている。また、10 週
間の乳量、乾物摂取量、乳成分率の
いずれの項目においても輸入飼料
TMR 区と自給飼料 TMR 区の間に
図 7 分娩後の乳量の推移
差はなく、同等の結果が得られてい
る。一方、ルーメン液、血液の性状については、自給飼料 TMR 区で血漿中の T-CHO が
低い値を示したが、その他の項目においては、区間に差はなかった。
78
表 16 分娩後 10 週間の飼養成績のまとめ
輸入飼料
TMR区
21.2
618
34.9
自給飼料
TMR区
20.9
565
33.4
4.11
2.97
8.54
10.3
68
4.34
3.14
8.76
8.0
43
ルーメン内容液性状(分娩後5週目)3)
pH
6.6
総揮発性脂肪酸(mmol/dl)
8.5
2.9
A/P4)
6.6
8.6
3.0
乾物摂取量(kg/日)
体重(kg)
乳量(kg/日)
乳成分率
乳脂肪率(%)
乳タンパク質率(%)
無脂固形分率(%)
MUN2)
体細胞数(千個/ml)
血液性状5)
GOT(IU/L)
BUN
GLU
T-CHO (mg/dl)
Ca
P
49.0
13.3
71
47.0
13.7
62
236a
10.5
5.9
156b
10.1
5.6
1)
分娩時体重を100とした時の各週時体重の比
2)
3)
乳中尿素窒素 朝飼料給与5時間後に経口により採取
4)
5)
酢酸/プロピオン酸比 朝飼料給与5時間後に頸静脈より採取
a,b;異符号間に有意差有り(p<0.05)
以上の研究事例から、飼料用米(籾米および玄米)を全飼料中に乾物換算で 25%混合し
ても、家畜の反応を観察した上で、必要に応じた栄養価の補正等、飼料設計・給与法を適
正に行えば、通常の飼料と遜色ない飼養成績が得られることが示された。
現在、継続中の国産飼料プロにおいては、泌乳全期間を通じた飼料用米の最大可能給与
量や、エネルギー・蛋白バランスを考慮した最適給与方法の検討が検討されている。また、
育成牛への飼料用米給与法の検討とその大規模実証試験が行われている。これら成果は、
今後、論文や学会発表等で順次公表される他、毎年改訂されている「飼料用米の生産・給
与技術マニュアル」に適宜掲載していく予定である。
6.今後の展望
発酵 TMR は、前述のようにエコフィードなどを有効に活用してコストを低減できる。
しかしながら、これら資源の多くは品質保持のため一旦サイレージ化する必要性がある上、
近年では品薄で入手困難になるなど、個別農家では対応が難しくなっている。一方、TMR
センターでは、一括購入・発酵 TMR 調製・品質検査・流通という体系が構築されており、
コントラクターと TMR センターが連携して地場産の飼料を安定供給する動きも出ている。
例として、都府県ではイネ WCS や麦サイレージを、また北海道ではトウモロコシサイレ
79
ージや牧草サイレージを粗飼料源とし、それに低・未利用資源や濃厚飼料を混合した発酵
TMR が流通している。今後、輸入飼料価格の乱高下や、農家の機械投資・労力軽減の面か
ら、このような飼料生産の外部化の流れは加速することが予想される。今後は、この流れ
を見据えた産・学・官連携の課題として、発酵 TMR 材料の安定供給、季節の環境変化に
対応した発酵の制御、調製用機械の改良・開発、適正な給与技術の開発などの他、広域流
通に向けた品質チェック方法の整理・統一、流通価格の納得性の確保、トレーサビリティ
やハンドリング技術の開発などに取り組む必要があろう。
安全・安心・安価な国産飼料の増産を進めるため、これら発酵 TMR の課題解決に向け
た技術構築を共に進めて行く必要性は高い。
7.参考資料
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独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構編(2007)日本飼養標準 乳牛(2006 年
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独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構編(2012)飼料用米の生産・給与技術マ
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80
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ル.
全国食品残さ飼料化行動会議・配合飼料供給安定機構編(2009)食品残さの飼料化をめ
ざして.
81
82
焼酎粕等を活用した発酵 TMR の調製・給与技術
九州沖縄農業研究センター
畜産草地研究領域
服部育男・神谷 充・鈴木知之*
*現在:農研機構本部
1.はじめに
近年、資源循環の意識の高まりや輸入濃厚飼料価格の高騰を背景に未利用資源の飼料化
が注目されている。九州地域を中心に生産される焼酎は、最近の焼酎ブームにより、生産
量が年々増加し、平成 20 年度では九州地域において約 53 万 kl の焼酎が生産された(国税
庁 2009)。それに伴って排出される焼酎粕は、宮崎県を例にとると焼酎 13 万 kl にたいし
て 23.3 万 t 発生している(甲斐 2007)ことから、原料や処理工程によって割合が多少異
なるとしても、九州地域だけで少なくとも約 95 万 t/年と推定される。従来、焼酎粕は産
業廃棄物として処分されていた。しかし、ロンドン海洋投棄条約批准に伴う国内法の改正
により、2006 年 4 月 1 日より海洋投棄が原則禁止となったことから、焼酎メーカは処理プ
ラントを建設し、処理を行っている。処理した焼酎粕は水分が減少し,栄養価が濃縮され
ることから,保存性,栄養価に優れ,飼料としての利用価値が高い。九州沖縄農業研究セ
ンターでは処理プラントから排出される焼酎粕濃縮液の飼料化について、調製・給与面か
ら検討を行ってきた。ここでは発酵 TMR 原料としての焼酎粕濃縮液の適性と利用技術に
ついて紹介する。
2.焼酎粕の処理と排出量
処理プラントの処理方法の一例をあげてみると、まず焼酎粕原液をスクリーンによって
固液分離し、ろ液部分の一部あるいは全部については加熱による濃縮処理を行い、固形部
分と一緒に乾燥され、飼料原料となり、配合飼料原料として利用されている(図 1)。し
かし、液体部分については乾燥化までに多くの化石エネルギーが必要なことから、1/4 程
度のコストで処理可能な濃縮液での飼料利用をメーカとしても検討してきた。現在稼働し
ている処理プラントは大きなもので 10 施設程度があり、全体の焼酎粕処理量は 1,190t/日
である(西岡 2010)。原料や時期によって変動はあるが、排出される焼酎粕濃縮液はおお
よそ 200t/日と推定される。
副資材
(フスマなど)
濃縮
生焼酎粕
濃縮液
固液分離
乾燥
脱水ケーキ
図1 焼酎粕の処理工程
83
乾燥品
3.焼酎粕の栄養価
焼酎粕の栄養価は原料によって大きく異なる。また、原料が同じでも生焼酎粕、濃縮液、
脱水ケーキ、乾燥品では栄養構成が異なる(表 1)。飼料としての特性は原料別にみると
麦、米由来の焼酎粕は粗タンパク質含量が 32-34%と大豆粕の 7 割程度含有している。イ
モ由来の焼酎粕は粗タンパク質含量が 20%前後で大豆粕の 5 割程度である。また、粗灰分
含量が麦、米と比較して高い値となっている。処理別にみると、麦由来の焼酎粕では生焼
酎粕と比較して濃縮液は粗タンパク質が高いが、その他の成分は同程度である。脱水ケー
キは粗脂肪含量が特異的に高い値になっている。イモ焼酎粕では濃縮液の粗脂肪含量が低
く、繊維が分離されているのでほとんどなく NFE が高い値になっている。逆に脱水ケーキ
は粗繊維含量が
高い値である。
乾燥品は副資材
の種類、混合割
合によっても異
なるので、分析
例として示す。
いずれも飼料と
しての利用はタ
ンパク質飼料の
代替として検討
されている。
表1 焼酎粕の飼料成分
乾物中(%)
水分 粗蛋白質 粗脂肪
麦 生
92.7
34.1
3.4
濃縮液
56.8
44.8
0.7
脱水ケーキ
68.3
24.8
16.3
乾燥品
4.4
32.2
4.8
米 生
94.2
59.4
10.9
濃縮液
72.5
41.1
3.3
脱水ケーキ
71.8
38.7
10.6
乾燥品
5
33.4
5.6
イモ 生
94.5
23.1
7.3
濃縮液
62.5
20.3
0.5
脱水ケーキ
75.4
19.8
6.3
乾燥品
4.5
20.4
2.3
大豆粕
11.7
52.2
1.5
NFE 粗繊維 粗灰分
51.5
3.7
7.4 堤ら(1992)
49.3
0.5
4.7 服部ら(2010b)
37.2
6.3
2.8 鮫島(2008)
46.8
7
4.7 大分畜試(1996)
2.3 鈴木ら(2011)
51.4
0.7
3.6 服部ら(2010b)
36.9
10.9
2.9 鮫島(2008)
53.3
3.4
4.4 西岡(2008)
48.2
10
11.5 犬童ら1976
64.7
0
14.5 服部ら(2010b)
40.6
28.7
4.6 鮫島(2008)
61.3
8.7
7.3 西岡(2008)
33.3
6.3
6.7 農研機構編(2001)
焼酎粕濃縮
液の栄養価について年間の変動を明らかにするために、原料が異なる 4 工場から経時的に
サンプリングし、飼料成分の変動を調査した(服部ら
2010a)。A 工場はほとんどが米が
原料であった。B 工場は麦とカンショが原料で、処理時期によってその比率は大きく異な
った。年間を通じて C 工場はカンショ、D 工場は麦のみを原料としていた(表 2)。
原料が単一の場合、年間で
変動が比較的大きいのは乾物
表2 原料構成
工場
A
B
C
率で、含量が多い粗タンパク
5月
米
麦
イモ
-
質、可溶性無窒素物は変動が
6月
麦2:米98
麦
イモ
麦
小さかったことから、飼料成
7月
米
-
イモ
麦
分は原料と乾物率を確認する
8月
米
-
イモ
麦
9月
米
イモ40:麦60
イモ
麦
10月
米
イモ
イモ
麦
11月
米
イモ90:麦10
イモ
麦
料が単一でない場合は粗タン
12月
米
-
イモ
麦
パク質は含量も多く、変動も
1月
麦10:米90
イモ10:麦90
イモ
麦
大きいこと、乾物率も変動が
2月
米
-
イモ
麦
大きいこと、また他の成分も
3月
米
-
イモ
麦
比較的変動係数が大きかった
4月
大豆2:麦2:米96
イモ13:麦87
イモ
麦
ことで、ほぼ特定できること
が明らかになった。一方、原
注:-, 未稼働等によりサンプル無し.
84
服部ら(2010a)
D
ことから、原料構成の確認と成分分析が必要であると考えられた(表 3)。
表3 焼酎粕濃縮液の飼料成分
工場
原料
乾物率 粗蛋白質
(%)
米
A
42.1
(%DM)
b
B
イモ・麦
33.1
(6.6)
a
(5.4)
C
イモ
48.6
D
麦
38.0
ab
44.5
(9.4)
NDFom
ADFom
ADL NDICP
(%DM)
(%DM)
(%DM)
(%DM) (%DM)
2.2
1.0
a
0.4
0.6
b
42.9
(80.7)
a
0.0
1.1
(29.8)
a
3.8
(8.5)
a
56.6
a
0.0
a
65.2
a
0.3
ab
49.3
c
6.6
7.3
d
14.0
b
(34.8)
b
(58.7)
(4.0)
(97.0)
a
(11.2)
(9.6)
(47.8)
c
(4.7)
b
(59.6)
(7.6)
(11.5)
粗灰分
(%DM)
(39.2)
(25.7)
20.4
NFE
(%DM)
b
35.0
c
粗繊維
(%DM)
c
50.5
(7.7)
粗脂肪
0.4
1.8
b
0.0
(107.0)
a
(90.6)
0.4
1.1
ADICP 推定TDN
(%DM)
b
(104.6)
a
0.0
0.0
(%DM)
b
1.5
(81.6)
a
(76.8)
4.8
(4.0)
(5.3)
84.1
b
(5.2)
c
0.0
a
0.0
a
0.0
0.0
a
0.0
a
77.3
ab
6.8
b
3.0
b
0.0
0.2
ab
0.1
a
84.8
(7.9)
b
b
(1.8)
a
0.0
85.7
a
(1.5)
(46.0)
(60.2)
(282.8)
注:同項目において異符号間に有意差あり(p<0.05, Tukey). 括弧内の数値は変動係数(%)を表す.
NFE;可溶性無窒素物,NDFom;中性デタージェント繊維,ADFom;酸性デタージェント繊維,ADL;酸性デタージェントリグニン,
NDICP;中性デタージェント繊維中の蛋白質,ADICP;酸性デタージェント繊維中の蛋白質,推定TDN;Weiss(1992).
(219.2)
b
(1.1)
服部ら(2010a)
牛への給与試験により栄養価を求めたところ,米,麦およびイモ焼酎粕濃縮液の乾物あ
たりの可消化粗タンパク質含量はそれぞれ 37.9,33.8 および 13.6%であり,可消化養分総
量(TDN)はそれぞれ 81.9,91.7 および 70.1%であった(鈴木ら 2011b)。
4.焼酎粕の保存性
焼酎の発酵はもろみ(酵母)によるアルコール発酵であり、その副産物としてクエン酸
が生産される(玉岡ら 1971)。そのため、その残渣である焼酎粕はクエン酸を含み、pH
は 4 前後である。生焼酎粕の水分は 93-95%であるため、そのままでは保存性が劣ること
が知られている。ギ酸を添加することで、保存性の改善が可能であるとの報告がある(大
塚ら 2007)。一方、脱水ケーキについては pH が低く、水分が 85.7-66.1%であることか
ら密封することで発酵は微弱であるが良質なサイレージとなり、長期保存が可能である。
表4 貯蔵条件が米焼酎粕濃縮液のpH、有機酸組成に及ぼす影響
水分
温度 条件
60%
30℃
5℃
嫌気
好気
嫌気
好気
70%
30℃
5℃
嫌気
好気
嫌気
好気
80%
30℃
5℃
嫌気
好気
嫌気
好気
貯蔵期間
pH
0日
14 週
14 週
14 週
14 週
0日
14 週
14 週
14 週
14 週
0日
14 週
14 週
14 週
14 週
4.8
4.8
4.9
4.9
4.9
4.7
4.8
4.8
4.8
4.8
4.6
5.5
5.5
4.6
4.7
有機酸組成(%DM)
Lact.
11.40
9.58
9.39
9.51
9.90
14.53
10.04
10.66
10.81
11.32
15.08
1.93
0.63
13.75
22.53
Acet. Prop. n-But. i-But N-Val. i-Val.
2.22
1.66
1.68
1.71
1.74
3.21
2.18
2.24
2.22
2.27
3.61
10.48
9.66
3.28
5.48
85
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.08
2.60
2.88
0.00
0.00
0.15
0.11
0.11
0.12
0.11
0.15
0.26
0.29
0.13
0.07
0.15
0.00
0.38
0.13
0.25
0.06
0.03
0.05
0.02
0.02
0.05
0.00
0.04
0.00
0.00
0.08
0.00
0.35
0.00
0.08
0.00 0.00
0.00 0.03
0.00 0.05
0.00 0.00
0.00 0.06
0.00 0.00
0.00 0.00
0.00 0.00
0.00 0.00
0.00 0.00
0.00 0.04
0.00 0.00
0.00 0.00
0.00 0.00
0.00 0.07
(鈴木ら 2011)
濃縮液についても同様に pH は 4 前後であり、かつ水分が 69-46%となる結果、水分活性
が 0.83-0.97 まで低下し、長期にわたる保存が可能である。米焼酎粕濃縮液を供試して、
濃縮度が異なる濃縮液(設定水分含量 80、 70 および 60%)を異なる温度条件(30℃およ
び 5℃)および異なる環境(嫌気および好気条件)で 14 週間貯蔵したところ、設定水分 60
%および 70%の濃縮液では、pH、有機酸組成および微生物相の貯蔵中における変動はみら
れず一定した品質を保っていた。一方、水分 80%の濃縮液では 30℃で貯蔵した場合、乳酸
の減少、酪酸等の VFA が生成し pH が上昇した。また、5℃貯蔵においても、酵母あるい
は糸状菌の増殖が認められた(表 4、5)。以上の結果から、米焼酎粕濃縮液は水分 70%以
下まで濃縮されれば、3 ヵ月程度は安定して貯蔵できることが明らかとなった(鈴木ら
2011)。
表5 貯蔵条件が米焼酎粕濃縮液の微生物相に及ぼす影響
生菌数( LogCFU/gFM)
水分
温度
条件
60%
30℃
5℃
嫌気
好気
嫌気
好気
70%
30℃
5℃
嫌気
好気
嫌気
好気
80%
30℃
5℃
1
嫌気
好気
嫌気
好気
貯蔵期間
一般細菌 大腸菌
0日
14 週
14 週
14 週
14 週
0日
14 週
14 週
14 週
14 週
0日
14 週
14 週
14 週
14 週
4.3
4.4
4.3
4.5
4.3
4.3
4.2
4.7
4.5
4.2
4.4
4.7
4.4
4.8
4.3
1
2.0
4.0
-
未検出
大腸菌
ホモ
ヘテロ
酵母 糸状菌
群
乳酸菌 乳酸菌
3.2
3.1
3.9
2.0
4.0
3.0
4.7
3.6
2.3
4.3
2.6
3.2
4.2
5.0
6.5
2.0
4.7
5.7
4.1
3.3
4.5
4.4
3.0
4.1
4.1
2.8
5.9
5.6
3.0
7.2
6.0
4.1
5.0
4.5
5.4
4.8
5.0
5.3
(鈴木ら 2011)
5.焼酎粕混合発酵 TMR の発酵品質
焼酎粕濃縮液のサイレージ発酵に影響すると考えられる成分についてみると、緩衝能はい
ずれもきわめて高い値であった。したがって、発酵 TMR の原料として用いる場合、発酵に
よる pH の低下を緩慢にさせる可能性があった。しかし、pH はいずれも 4.0 以下であり、発
酵品質を改善する酸添加剤のような働きも期待できると考えられた。単少糖含量は 9.0-23
%DM と高く、発酵 TMR の原料として用いた場合、発酵基質の供給源としての利用ができ
ると考えられた。しかし、その組成をみると 5 炭糖のアラビノースがほとんどであり、5 炭
糖はサイレージ発酵では乳酸菌によって乳酸と酢酸に変換され、望ましくない有機酸組成と
なる可能性がある(表 6)(服部ら 2010a)。これらの影響を明らかにするため,割合を変
えて焼酎粕濃縮液を混合して,発酵または非発酵 TMR の調製試験を実施した。
86
非発酵 TMR
表6 焼酎粕濃縮液の緩衝能、水分活性、pHおよび単少糖含量
工場
A
B
C
では焼酎粕濃
縮液を混合す
原料
緩衝能(mE/kg DM)
水分活性
pH
単少糖(% DM)
シュクロース(% DM)
グルコース(% DM)
キシロース(% DM)
ることで TMR
の pH が低下
し,調製後の発
熱を米,麦では
6 時間,イモ濃
縮液混合では
米
1041
0.94
3.9
18.7
0.6
1.7
1.7
14.8
アラビノース(% DM)
20 時間遅延さ
イモ・麦
1112
0.95
3.9
23.0
3.3
3.0
3.5
13.2
a
b
a
b
a
b
a
b
D
イモ
1358
0.88
3.9
22.5
1.9
1.5
3.6
15.5
ab
b
a
c
c
c
b
b
麦
1288
0.94
4.0
9.0
0.2
0.2
1.2
7.4
b
a
a
c
b
b
b
b
注:同項目において異符号間に有意差あり(p<0.05, Tukey).
ab
b
a
a
a
a
a
a
服部ら(2010a)
せた(図 2)。
発熱抑制のメカニズムは明らかでないが,焼酎粕濃縮液の混合は、非発酵 TMR でしばしば
問題となる変敗による養分や嗜好性の低下を抑制する効果が期待できると考えられた。
米
60
20%区
55
50
0%区
()
温 45
度 40
℃ 35
30%区
10%区
30
25
20
0 4 8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 調製後時間(hr)
麦
イモ
55
10%区
50
50
45
45
温
40
度
℃ 35
10%区
0%区
40
温
度 35
℃
30
0%区
20%区
()
()
30
20%区
30%区
25
25
20
30%区
20
0 4 8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 0 調製後時間(hr)
4 8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 調製後時間(hr)
図2 焼酎粕濃縮液の混合が TMR 調製後の発熱に及ぼす影響
次に,米,麦濃縮液の混合割合を変えて調製した発酵 TMR では,混合割合にかかわら
ず,よく発酵した TMR が得られることが明らかとなった(表 7)。また,発酵品質向上程
度や好気的変敗を考慮すると乾物あたり 10~20%の混合が適していると考えられた。一方,
イモ濃縮液では,混合割合にかかわらず,フリーク評点で示される発酵品質は優れている
ものの,発酵全体が抑制され,pH が高く,乳酸含量が低い TMR となることが明らかとな
った。そこで,米,麦およびイモ由来の濃縮液を乾物あたり 20%混合し,飼料イネ WCS,
オーツ乾草および濃厚飼料類を混合して、一般的に発酵 TMR 調製で用いられるフレコン
バッグで TMR を調製した(表 8)(服部ら
2010b)。TMR ミキサーへの焼酎粕濃縮液の
投入は汚泥用の水中ポンプで問題なく,他の材料ともよく混合できる。
87
表7 焼酎粕濃縮液の混合割合が発酵TMRの発酵品質に及ぼす影響
有機酸組成(%FM)
乾物率
フリーク
pH
1
2
乳酸
(%)
評点
C4C2+C3
0
49.9
4.11
2.67
0.53
0.01
97
米
10
48.4
4.08
2.96
0.70
0.01
98
20
49.6
4.17
2.81
0.58
0.03
91
30
48.2
4.20
2.57
0.47
0.04
91
麦
10
50.5
3.95
3.27
0.76
0.00
99
20
50.4
4.15
3.21
0.81
0.01
98
30
50.9
4.15
3.92
0.77
0.02
99
イモ
10
53.0
4.82
1.71
0.32
0.00
95
20
49.8
4.53
1.83
0.36
0.00
98
30
49.8
4.43
1.54
0.22
0.00
99
それぞれ、夏季と冬季に調製し、3週間と7週間貯蔵した値の平均値
1
酢酸+プロピオン酸.2酪酸,カプロン酸,吉草酸の合計(異性体含む).
(服部ら2012より作成)
濃縮液
混合割合
(%DM)
表8 TMRの組成(%DM)と緩衝能,pH,VBN
対照区 米濃縮液区 麦濃縮液区 イモ濃縮液区
飼料イネWCS
16
16
16
16
オーツ乾草
16
16
16
16
トウモロコシ
24
23
23
23
ビートパルプ
8
8
8
8
大麦
12
12
12
12
大豆粕
22
4
4
4
炭酸カルシウム
1
1
1
1
濃縮液
20
20
20
75.4
75.3
75.9
74.0
TDN1 (%DM)
18.3
18.3
16.5
13.1
CP1 (%DM)
可溶性炭水化物(%DM) 9.5
8.7
8.1
13.9
緩衝能(mEq/DMkg)
226
336
300
382
pH
5.8
4.9
4.4
4.7
VBN(mg/100gFM)
9.4
75.3
78.7
25.2
1
設計値.
服部ら(2010b)
TMR 調製時の緩衝能と
35
VBN は濃縮液の混合により
対照区
米濃縮液区
濃縮液を混合しない対照区と
30
比較して高まり、pH は濃縮液
温
度25
8)。貯蔵期間中の品温の推移
℃
をみると、対照区では詰め込
( )
の混合により低下した(表
20
麦濃縮液区
み直後から上昇し、貯蔵 4 日
目にピークに達した。一方、
濃縮液を混合した区の品温は
イモ濃縮液区
外気温
15
0 5 10 15 20 25 30 35 貯蔵日数(日)
外気温より高く推移したもの
の、その上昇は緩やかでほぼ
図3 貯蔵中における発酵TMRの品温と外気温の推移
対照区
88
米濃縮液区
麦濃縮液区
イモ濃縮液区
外気温
一定で推移した(図 3)。発酵品質についてみると対照区と比較して米、麦濃縮液混合区の
pH は低く、乳酸含量は高まる傾向があった。一方、イモ濃縮液混合区では対照区と比較し
て乳酸含量が低く、C2+C3 含量が高くなった。その結果、Flieg's score は対照区より低くな
った。乾物回収率は対照区と比較して、米、麦濃縮液混合区は高い値を示し、イモ濃縮液混
合区は低い値となった。以上の結果、米、麦濃縮液を発酵 TMR の原料として用いた場合、
発酵初期の発熱が抑制され、発酵品質は対照区と同等か優れており、乾物回収率が高まるこ
とが明らかとなった。一方、イモ濃縮液の混合は発酵初期の発熱は対照区より抑制されるも
のの、発酵品質が劣り、乾物回収率が低下するなど他と異なる様相を示した(表 9)。イモ
濃縮液は処理プラントの処理方式が数種あり、その処理方式によって、濃縮液の性状、組成
が異なることから、イモ濃縮液については今後詳細に検討する必要がある。
表9 発酵TMRの発酵品質と乾物回収率
処理
水分
有機酸組成(%FM)
pH
(%)
乳酸
C4- 2
C2+C3 1
対照区
51.7 3.8 b4 4.37 b
1.15 b 0.23 a
麦濃縮液区
51.1 3.7 a
4.65 b
0.73 a 0.15 a
a
c
米濃縮液区
52.4 3.7
4.95
0.86 a 0.20 a
c
a
イモ濃縮液区
52.8 3.9
2.72
1.62 c 0.24 a
1
3
VBN3
Flieg's
score
(mg/100gFM)
51
125
123
66
a
c
c
b
72
82
78
44
評価
a
良
優
良
可
a
a
b
乾物回収率
(%)
94.1
96.6
97.1
92.0
b
a
a
c
2
酢酸+プロピオン酸. 酪酸,カプロン酸,吉草酸の合計(異性体含む).
Volatile Basic Nitrogen. 4 同列内で異符号間に有意差あり(p<0.05 Tukey法).
服部ら(2010b)
6.乳牛への焼酎粕濃縮液給与
鈴木ら(2010b)は泌乳牛において TMR 中に 20%混合されている大豆粕を米焼酎粕濃
縮液で置き換えた場合(TMR の TDN および CP 含量は同じ)、乾物摂取量、乳生産量お
よび乳成分は同じであるが、CP 消化率の低下と、血中および乳中尿素態窒素濃度の低下
を観察している。米焼酎粕濃縮液の結合性 CP(不消化の CP)含量は大豆粕に比べて高か
ったことから(CP あたりそれぞれ、4.5%および 1.3%)、米焼酎粕濃縮液は大豆粕並み
の CP 含量であるが、その消化性は大豆粕よりも低いことを報告している。田中ら(2010b)
はやはり米焼酎粕濃縮液を 20%含む TMR あるいは米焼酎粕濃縮液を含まない TMR を泌
乳牛に給与し、生産された牛乳のにおいに差はないことを報告している。
麦焼酎粕濃縮液については福岡県農業総合試験場で研究が行われており、麦焼酎粕濃縮
液を 0、10 および 20%含む TMR の発酵品質、および乾乳牛における嗜好性に差がみられ
ないことが示された(横山ら
2009)。また、TDN および CP 含量が同じで、麦焼酎粕
濃縮液を 0、10 および 20%含む TMR を泌乳牛に給与したところ、乾物摂取量、乳量およ
び乳成分に処理間差はみられなかったが、0 および 10%混合した場合に比べ、20%混合し
た場合、CP 消化率が低下が認められた(森永ら
2010)。また、このときの牛乳の官能
検査では、20%混合した場合のみ微発酵臭が認められた。田中ら(2010a)もやはり麦焼
酎粕濃縮液を TMR に 20%混合した場合、牛乳の風味に変化が認められる可能性を示して
いる。これらの結果から、麦焼酎粕濃縮液では CP 消化率および牛乳への風味の影響がネ
ックとなり、飼料への混合割合の上限は 10%とすべきであろう。
イモ焼酎粕濃縮液について鈴木ら(2010a)は乾物比 20%含む発酵 TMR あるいは、こ
れを含まないが TDN と CP 含量が等しい TMR を泌乳牛に給与している。その結果、乾物
89
摂取量および 4%脂肪補正乳量に差はみられず、CP 消化率も同程度であったが、イモ濃縮
液 TMR を摂取した乳牛では尿量が約 2 倍に増えることを観察している。これはイモ焼酎
粕の高いカリウム含量によるもので、実際、イモ焼酎粕濃縮液を含む TMR のカリウム含
量は 2.37%と、日本飼養標準乳牛(農業・食品産業技術総合研究機構
2007)で示されて
いる上限値 3%を下回っていたが、イモ焼酎粕濃縮液を含まない TMR(1.50%)よりも高
い値であった。日本の自給粗飼料は一般的にカリウム含量が高いため、イモ焼酎粕濃縮液
を利用する場合は特に全体のカリウム含量に注意して飼料設計する必要がある。イモ焼酎
粕濃縮液が牛乳の風味への影響について、鈴木ら(2010c)はパネルテストおよび味セン
サーによる検討を行い、給与飼料中の 20%までイモ焼酎粕濃縮液が混合されていても、こ
れらに影響は認められないことを報告している。イモ焼酎粕については脱水ケーキの排出
割合が高い。九沖農研の分析結果では、濃縮液に比べて繊維および粗脂肪が高いが濃縮液
で問題となるカリウム含量が低いことが示されている。今後は脱水ケーキについても利用
技術の検討を行っていく予定である。
7.肉牛への焼酎粕濃縮液の給与
肉牛への焼酎粕原液や乾燥焼酎粕の給与事例はあるが、濃縮液の給与事例は報告されて
いない。イモ焼酎粕濃縮液は麦や米焼酎粕濃縮液と比較して CP 含量が低く、肥育牛への
多給が可能と考えられる。一方で、イモ焼酎粕濃縮液の TDN 含量は、肥育牛用の配合飼
料よりも低いため、イモ焼酎粕濃縮液を配合する場合は他の TDN 含量の高い飼料原料で
成分を調整する必要がある。特に自給飼料で調整する場合、食品残さでは豆腐粕や米ヌカ
など、飼料作物では飼料米(玄米)などが適している。神谷ら(2010b)はイモ焼酎粕濃縮
液を乾物ベースで 30%配合し、玄米、フスマ、乾燥豆腐粕等で調製した発酵 TMR を黒毛
和種肥育牛の仕上げ期 5 ヵ月間に乾物ベースで配合飼料の 60%程度(イモ焼酎粕濃縮液で
18%程度)代替給与しても飼養成績に問題なく、良好な枝肉成績が得られることを明らか
にしている((有)錦江ファームで実施)。また、胸最長筋の脂肪酸組成や血液性状にも
問題は認められず、肥育牛用飼料として利用可能であることを示している(神谷ら 2010a)。
今後は黒毛和種肥育牛に対してイモ焼酎粕濃縮液など自給飼料で、肥育前後期を含めてど
の程度代替可能か明らかにしていく予定である。
8.まとめ
焼酎粕は資源量も豊富で、濃縮することで従来より格段に扱いやすい飼料資源となって
いる。しかし、廃棄物であることから、厳密な衛生管理や、エコフィード認証、あるいは
飼料登録などの法的な管理が一層重要である。さらに輸送方法やコストなども含めた利用
システムの構築が今後の課題である。
焼酎粕濃縮液はウシ用飼料として栄養価が高く、濃厚飼料の一部を代替することができ
るが、その原料やウシの用途によって給与上限や給与上の注意点は異なる。すなわち、乳
牛において、米焼酎粕濃縮液は大豆粕並みの栄養価を持つが、タンパク質の消化性は低い
ことに注意が必要である。麦焼酎粕濃縮液はタンパク質消化性の低さに加え、牛乳への風
味の移行が認められる。イモ焼酎粕濃縮液はカリウム含量が高く、カリウム含量が給与上
90
のボトルネックとなる。肥育牛ではイモ焼酎粕濃縮液を配合飼料中 18%程度の代替実績が
あり、飼料原料としての利用が期待される。
粕類は一般的に高栄養であるが、保存性、ハンドリングあるいは栄養上の特異性を持つ
場合が多い。本報告で示した焼酎粕濃縮液のように、その特徴を理解して発酵 TMR 原料
としての利用が進めば、生産費の抑制、飼料自給率や畜産物の安全性向上に寄与できるだ
けでなく、粕類の有効利用を通して、畜産業が地域産業に不可欠な存在になることにも貢
献できるであろう。
(*本内容は農業技術体系
畜産編
追録 31 号として発刊(2012.9.20)されます。)
9.参考文献
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犬童政昭・賞雅哲・千葉昭弘・脇本千秋・梶山浩・宮内泰千代・平田齋(1976)乳牛におけ
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ンポジウム(焼酎の世界ブランド化とエコフィード)及び九州地域食品残さ飼料化行動
91
会議現地検討会資料 31-54.
西岡俊一郎(2010)焼酎粕濃縮液飼料化に向けた生産プラントの紹介 飼料イネ、焼酎粕濃
縮液等の地域資源を活用する地域連携システム構築 現地見学・検討会資料 11-20.
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農業・食品産業技術総合研究機構 (2007) 日本飼養標準乳牛(2006 年版) 中央畜産 東京..
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世界ブランド化とエコフィード)及び九州地域食品残さ飼料化行動会議現地検討会資料
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濃縮液を添加した発酵 TMR の発酵品質と乳牛における乳生産成績への影響 日畜会
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を含む発酵 TMR は泌乳牛の飼料として利用できる.H21 年度九州沖縄農業研究成果
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谷真積・西岡俊一郎・濱本 修(2011)米焼酎粕濃縮液の濃縮度が貯蔵性に及ぼす影響
九州沖縄農業研究センター報告 54:15-29.
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より閲覧可能.
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H21 年度九州沖縄農業研究成果情報.
http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/karc/2009/konarc09-32.html
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玉岡 寿・田辺幾之助・大林 晃・松村悦男・小林武一 (1971) 旧式焼酎醸造の微生物学
的研究 (2)仕込過程中の微生物相変遷―米麹・生白糠。醸協 66:816-818.
堤知子・窪園順一郎・西川光博・前原俊浩 1992 黒毛和種繁殖雌牛への焼酎粕給与試験 九
州農業研究 54:136
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ージの発酵品質および乾乳牛の嗜好性 福岡県農業総合試験場研究報告 28: 1-7.
92
エコフィードの飼料特性とそれを活用した
乳牛向け飼料設計
畜産草地研究所
家畜生理栄養研究領域
永西 修
1.はじめに
わが国の飼料自給率は 25%前後を推移しており、濃厚飼料の多くを海外からの輸入に依
存している。アメリカでは干ばつにより農作物生産に大きな被害がでており、今後のトウ
モロコシや大豆価格の上昇が懸念されている。また、平成 23 年の福島第 1 原発事故により
福島県を中心とした地域での粗飼料生産・利用が制約されており、全国規模での飼料生産・
流通・利用に対する取り組みの必要性が緊喫の課題となっている。わが国では 2011 年 3
月に日本標準飼料成分表 2009 年版が刊行され、ヌカ類および製造粕類、植物性油脂類およ
び植物性蛋白質類が新規に掲載された飼料の多くを占めている(表1)。
表1
日本標準飼料成分表に記載されている飼料の内訳
平成 13 年度の食品リサイクル法(食品循環資源の再利用等の促進に関する法律、平成
19 年には一部が改正)が施行されて以来、食品を製造する際に発生する食品廃棄物の抑制、
減量化および再生利用の促進の観点から、エコフィードに対する取り組みが加速され、小
麦ジスチラーズグレインソリュブル(牛、豚、鶏)、小麦・とうもろこしジスチラーズグ
93
レインソリュブル(豚)、エクストルーダー処理なたね油かす(牛)、加糖加熱処理なた
ね油かす(牛)、ココナツミルクかす(牛)、食品副産物(豚:熱風間接型乾燥装置、粗
蛋白質約 13%、粗脂肪 7%)、ぶどう酒かす(豚:赤ぶどう酒粕乾燥)、糖蜜ジスティラ
ーズグレイン(牛)、脂肪酸カルシウムなどの暫定値が定められている。
エコフィードの特徴としては、1)多種多様で年間を通じて入手可能なトウフ粕、米ヌ
カなどがあるのに対し、産出量が少なく季節性を有するものがある。2)飼料成分的には
一般にタンパク質や脂肪が多く含まれ栄養価が高いものが多いが、成分のバラツキがある。
3)高水分であることから調製・保存が難しい、4)繊維の物理的効果が脆弱であるなど
があげられる。また、エコフィードには動物性タンパク質を含むものあることから、その
給与ではウシとブタ・ニワトリの飼料製造ラインを分離しなければならない。そこで、本
稿ではエコフィードの飼料特性の評価と飼料として適正な給与を図るための給与のポイン
トについて紹介する。
2.主なエコフィードの飼料特性
1)タンパク質源としてのエコフィード
(1)ジスティラーズグレイン、ジスティラーズグレインソリュブル
トウモロコシ、ムギなど粉砕処理し、発酵・蒸留により燃料用エタノールに転換した後
の残さ部分が残留廃液であり、これを遠心分離した固体部分が Wet distiller’s grain である。
これを乾燥させたものが Dried distillers grain(DDG)で、遠心分離後の廃液を濃縮し、DDG
に添加したものが Dried distillers grain with solubles(DDGS)である(図 1)。
DDGS は工場、原料お
よび製造方法により飼
料成分、栄養価および
利用性にバラツキがあ
ることが知られている
が、一般的にはトウモ
ロコシに比べタンパク
質含量、粗脂肪含量お
よび栄養価(TDN)が
高く(表 2)、さらに
リン、メチオニン、リ
ジン含量も高い。ウイ
スキー醸造に比べ燃料
用アルコールの製造工
図1
DDGS の製造工程
程で産出する DDGS の
粗蛋白質含量は全体的に高い。乾物および粗タンパク質質の第一胃内での有効分解率を計
算してみると、乾物が 43.4~54.4%、粗蛋白質が 35.2-53.6%の範囲にあり、比較的高い蛋
白質のバイパス率を示し、中性デタージェント繊維含量の高いもので有効分解率が低い傾
向にある。
94
表2
醸造副産物の成分組成
日本標準飼料成分表 2009 年度版より作成
(2)豆乳粕・豆腐粕
豆乳粕や豆腐粕の飼料成分は原材料や製造法により大きく異なることが知られている。
乾燥豆乳粕(写真 1)の外観は豆腐粕とほぼ同じであるが、豆乳粕は大豆を浸漬・摩砕し
た後に分離する際の副産物であるのに対し、豆腐粕は大豆タンパク質を凝固し易くするた
めに生呉を加熱する工程が入る(図 2)。日本標準飼料成分表 2009 年版には、脱脂大豆を
原料とした豆腐粕や豆乳粕の飼料成分が記載されているが、粗タンパク質含量は豆乳粕が
豆腐粕より全体的に高く、粗脂肪含量は豆腐粕が約 12%、豆乳粕が約 14%で同程度である
のに対し、脱脂大豆を原料として用いた場合には粗脂肪含量は順に 0.6%、0.4%と大幅に
少ない。
写真1
豆乳粕
図2
豆乳および豆腐の製造工程
(3)茶系飲料粕
ペット飲料の普及で茶系飲料の消費量が増大しており、その製造工程で茶系飲料粕が産
出する。茶系飲料粕には緑茶粕、烏龍茶粕、麦茶粕などがあり、茶葉の処理工程の違いに
おり茶系飲料粕の飼料成分や栄養価は異なる。茶系飲料粕の粗タンパク質含量は緑茶粕が
32%>烏龍茶粕 23%>麦茶粕 13%で、粗タンパク質の第一胃内有効分解率は緑茶粕が
72%、烏龍茶粕 49%、麦茶粕 66%である。一方、下部消化管での粗タンパク質の消化率は
95
緑茶粕 88%、烏龍茶粕 53%で、同じ生茶葉を原料にしているものの発酵を伴った烏龍茶の
粗タンパク質の消化率が低い。これは烏龍茶粕にタンパク質の消化率に影響する酸性デタ
ージェント不溶性タンパク質(ADIP)が多く含まれるためである。ヤギを用いて測定した
麦茶粕の粗タンパク質の消化率は約 33%で、大麦の 72%(日本標準飼料成分表 2009 年版)
に比べ大幅に低いが、これは麦茶を製造する工程での焙煎処理でタンパク質がメイラード
反応や変性を受け消化率が低下したものと考えられる。
2)エネルギー源としてのエコフィード
(4)無洗米ヌカ
玄米のとう精時には(生)米ヌカが副産物として産生するが、高温・多湿条件では脂質
が酸化する可能性があるために、一般には米ヌカ油を絞った脱脂米ヌカが飼料として流通
している。無洗米は米を洗米せずに炊飯できることから外食産業だけでなく、一般家庭で
も普及している。無洗米は一般精米で残存するヌカを取り除いたものであり、その製造工
程で産出するヌカが無洗米ヌカ(日本標準飼料成分表 2009 年版では加熱はく離米ヌカと記
載)である。無洗米ヌカは玄米表面をさらに削るため一般の生米ヌカに比べ白っぽい色調
を示し(写真2:右)、粗蛋白質、粗脂肪およびデンプンを多く含有し、TDN95.4%、可
消化エネルギー17.72MJ/kg、代謝エネルギー15.34MJ/kg の高エネルギー飼料である。
写真2
生米ヌカ(左)と無洗米ヌカ(右)
3.物理化学的特性
飼料の物理的特性の評価法としては、家畜での咀しゃく行動やルーメン内容液 pH など
の測定、生産物である乳脂率などの測定が行われている。しかし、これらの評価法では実
際に家畜を用いるため絶対値は得られるものの、測定に労力や手間がかかることから多点
数の飼料についての物理的効果の測定には適していない。そのため、物理化学的パラメー
タ(比重、保水力、浸透圧、緩衝能な
ど)に基づいた簡易な評価法が提案さ
れている。
二次評価としては実際に家畜を供試
し、飼料を給与して咀嚼、反芻行動を
測定や、ルーメン液の pH や揮発性脂
肪酸濃度や構成割合を調べる。さらに、
三次評価では牛乳の乳脂肪や乳タンパ
ク質含量を測定し、畜産物への影響を
測定する方法である(図 3)。
図3
96
飼料の物理的評価の考え方
飼料の物理的有効性の指標とし
て飼料の粒度と中性デタージェン
ト繊維含量を一体化した peNDF
が考案されている。粗飼料や飼料
の peNDF 含量の最適な測定法は
まだ明らかになっていないが、実
験的な方法として Mertens(1997)
は飼料をふるい分けし、1.18mm
のふるい上の残った飼料の乾物重
比率に中性デタージェント繊維含
量を乗じたものを peNDF として
いる(図 4)。また、Lammers ら
図4
ふるい分けによる飼料の物理性評価
(1996)は日常的に農場で用いることができるペンシルバニア州立大学パーティクルセパレ
ーター(PSPS)を考案している(図 4)。PSPS では粗飼料源としてトウモロコシサイレージ
やそれを用いた TMR について適正な物理的効果が期待できる切断長の推奨値が示されて
いるが、稲発酵粗飼料などを用いる場合での推奨値がない。一般にエコフィード由来の繊
維は消化速度が速くかつ粒度が小さいため、物理的な効果は一般の粗飼料由来の繊維の 1/2
~1/3 であると考えられている。
4.乳牛へのエコフィードの給与
乳牛への飼料設計で重要なパラメーターは乾物摂取量、エネルギー摂取量、粗蛋白質摂
取量、飼料の粗タンパク質、粗脂肪、中性デタージェント繊維、カルシウムおよびリン含
量などである。そのため、エネルギーやタンパク質要求量に基づく適正な飼料設計が必要
である。
図5
飼料から摂取したタンパク質の乳牛での動態
乳牛へのタンパク質給与システムとして、日本飼養標準乳牛 2006 年版では有効分解性タ
ンパク質(ECPD)給与が記載されている(図 5)。乳牛が必要とする有効分解性蛋白質は
維持、泌乳、増体および妊娠に必要な量であり。有効分解性タンパク質の飼料での適正
97
含有率は、有効分解性蛋白質(乾物中%)=0.131×TDN(乾物中%)+0.00106×乳量(kg/
日)+0.577
として求める。例えば、飼料の TDN が 70%で、乳量が 30kg/日の乳牛には、
0.131×70+0.00106×30+0.577、すなわち飼料中の有効分解性蛋白質%が 9.77%になるよ
うに飼料設計を行なう。
一方、飼料から摂取したタンパク質は非タンパク態窒素、分解性タンパク質および非
分解性タンパク質に大別できる(図 6)。しかし、ルーメン内でのタンパク質の分解率は
同じ飼料であっても飼料の摂取量(通過速度)により異なる。そのため、飼料タンパク質
のルーメンでの分解率を一つの数値とするのではなく、飼料摂取量すなわち生産量(乳量)
に応じてタンパク質の分解率を変化させたタンパク質の分解率を有効分解性タンパク質と
いう。例えば、維持レベルの給与に比べて飼料摂取量が多いとルーメン内の通過速度は速
くなり、分解性タンパク質の割合が低下する。特にエコフィードではその種類に加えて加
工・調製法によっても異なることから、乳牛へタンパク質給与を適正に行うためには有
効分解性タンパク質(%)の把握が重要である。一般に飼料タンパク質のルーメンでの
分解率の測定はナイロンバック(ポリエステルバック)法で行われる。飼料を一定時間
ルーメン内に投入し、取り出し後水で洗浄し、乾燥し重量を測定し乾物あるいはタンパ
ク質消失率(D%)を計算する。
各時間でのタンパク質消失率 D(%)を
a +b×(1-e-kdt)の式に代入し、パラメータ
ー(a、b、kd)を SAS 等の解析ソフトで計算する。a はルーメン内で速やかに消失する区
分(%)、b はルーメン内で分解する区分(%)、kd(%/時間)は b 区分の消化速度を意
味し、t は投入後時間(時間)で
ある。さらに得られた a、b、kd
を ECPd を a+b×tk/(tk+飼料の
通過速度 kp%)の式に代入するこ
とでタンパク質の有効分解率を計
算できる。なお、飼料の通過速度
kp(%/時間)は、日本飼養標準乳
牛 2006 年版では国内外の文献値
から、kp(%/時間)=0.1649×乾
物摂取量(kg/日)+1.071 の式が記
載されている。例えば、乳牛の乾
物摂取量が 8kg、16kg、24kg の場
図6
タンパク質の有効分解率の考え方
合の kp(%/時間)は順に 2.39、
3.71、5.03 と計算できる。また、kp の単位が(
/時間)の場合は 0.0239、0.0371、0.0503
と表記する。
エコフィードは粗脂肪含量が高いものが多いものの、乳牛飼料の粗脂肪含量の上限は 5
~6%であるため、飼料中への混合割合について留意する必要がある。表 3 に主な油の脂
肪酸組成を示した。これらの油を絞った残りのエコフィードの脂肪酸組成も同様の組成
を示すと考えられる。オレイン酸など一価不飽和脂肪酸の一部が水素添加を受けること
なく、体脂肪に蓄積されることから、エコフィードの脂質についても畜産物の脂質への
影響を視野に検討を進める必要がある。
98
エコフィードの繊維は
脆弱な物理性であるため、
表3
主な油の脂肪酸組成
NRC2001 年版では粗飼料
以外の飼料での中性デタ
ージェント繊維の物理的
効果を粗飼料の 1/2 として
いる。つまり、飼料の中性
デタージェント繊維含量
の推奨値を 25~28%に設
定するとともに、粗飼料由
来の中性デタージェント
繊 維 含 量 を 19 % と し 、
粗飼料由来の中性デター
ジェント繊維含量が 1 ポイ
ント減少するごとに、飼料
の中性デタージェント繊維含量を 2 ポイント増加することになる。一方、エコフィード
が多く使われるわが国の乳牛の飼養形態に基づき中性デタージェント繊維含量の給与指
標は 35%となっており、それ以下になるとプロピオン優勢型の発酵になり乳脂率の低下
が生じる。乳牛の飼料設計では、エネルギー、タンパク質、繊維含有率、脂肪含量など
多くの要因を考慮し、飼料を組み合わせる必要があり、エコフィードは飼料成分や栄養
価の変動や偏りが大きいため、その混合割合は最大でも 1 割程度とすることが望ましい
と考えられる。
5.おわりに
エコフィードの飼料化推進は乳牛農家にとっては飼料コスト低減、食品製造業者にとっ
ては廃棄物の低減や資源のリサイクルの観点から重要な課題である。しかし、エコフィー
ドの飼料成分は変動し易くかつ偏りがあることから、いくつかのエコフィードを組み合わ
せて飼料成分のバランスを整えることが重要である。また、近年、TMR センターが各地に
建設され、飼料供給基地として重要な役割を果たしている。特に精密な栄養管理が求めら
れる生産性の高い乳牛では、有効分解性蛋白質や繊維の物理性といった従来よりもさらに
細かな飼料設計が必要となっている。そのため、TMR 製造時にこれらの測定項目を予め把
握し、飼料設計に反映させていくかが今後の課題である。
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平成24年度
革新的農業技術に関する研修
「自給飼料作物の生産・給与技術と未利用資源の飼料化技術」資料
編集・発行
独立行政法人
畜産草地研究所
TEL
農業・食品産業技術総合研究機構
家畜飼養技術研究領域
0287-37-7592
〒 329-2793
FAX
0287-36-6629
栃木県那須塩原市千本松 768 番地
発
行
日
平成 24 年 8 月 20 日
印
刷
所
株式会社
近代工房
TEL
0287-29-2223
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