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羽田空港の再拡張事業と国際化への期待 (株)日本航空上席

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羽田空港の再拡張事業と国際化への期待 (株)日本航空上席
羽田空港の再拡張事業と国際化への期待
(株)日本航空上席顧問 金成 秀幸
はじめに
首都圏は日本の国民総生産の約 4 割が集中し、
羽田空港と成田空港には国内線・国際線航空旅
客・貨物の 6,7 割が集中している。その羽田、
成田の昼間帯空港容量が慢性的に不足し、日本
の経済・社会発展のボトルネックと言われて久
しい。現在の羽田空港の国内線発着回数は約 29
万回、
成田空港の国際線発着回数は約 18 万回で、
・ 成田空港(含む羽田)から一定の距離内
国際路線の年間合計発着回数
・ 深夜早朝時間帯枠活用による中・長距離
国際線の可能性
・ 羽田の昼間帯国際枠使用による輸送対象
需要と本邦企業の発着枠シェア
1.基本視座
・・・国際線発着枠運用に関する我が国の
両空港とも発着処理能力の限界に達している。
経験と利用者利便を踏まえて・・・
2010 年、時を同じくして両空港において空港容
かつて羽田空港は、国内線・国際線の両機能
量の大幅拡大が行われ、とりわけ羽田空港にお
を併せ持つアジアの巨大内際ハブ空港であっ
いては、10 万回発着の空港が新に一つ出来るに
た。その羽田空港が昭和40年代前半に処理能
等しい大規模の容量拡大がおこなわれようとし
力の限界に近づき、国際線の増便要請に対処す
ている。同一地域に複数の空港が存するケース
るため、国内線の減便によって国際線を増便す
で、より需要中心地に近い空港で、かような規
るという事態が頻発した。このような国の措置
模での空港容量が新規に創出されるケースは世
に対して国内の航空会社と地方自治体からの
界の航空史上初めてのことである。
批判が高まり、国は国内線のこれ以上の減便は
羽田空港の発着枠は航空利用者にとって極め
利用者利便の観点より好ましくないとして、国
て利便性の高いものであるが、
この 10 万回規模
際線定期便の発着回数を昭和 47 年 12 月時点で
の新規発着枠増は、首都圏の今後の国内・国際
凍結した。しかしながら、ダイヤ調整上も国際
需要の伸びを見通した場合、決して十分なもの
線は優先されるため、かかる措置が採られた後
とは言い得ない。この限られた貴重な新規発着
も、曜日運航の国際線便数と毎日運航の国内線
枠で、将来を見通しながら首都圏の国内線需要
便数を合わせた発着回数が、1日発着枠数、ま
に対応しつつ、羽田空港への国際定期旅客便用
たは1時間発着枠数を超えた部分については、
の枠を確保するという、困難ではあるが、日本
国内線の減便やダイヤ変更を余儀なくされた。
国民全体に大きな利益をもたらす国家的事業が
同様の事態は伊丹空港においても発生した。
その実現に向け、
具体的な歩みを開始している。
政府は、かかる事態を解決するため、騒音問
本論では、先ず、国際線発着枠運用に関する
題等で止むを得ず需要中心地より離れた地に成
我が国の経験と利用者利便を踏まえた標題に対
田空港と関西空港を建設し、外国社も受け入れ
する基本視座を述べ、その後、羽田国際化推進
可能な国際的に納得性のある客観・合理的な基
を考える際に参考になると思われる以下の諸点
準に基づき、それぞれの開港時に、全ての航空
について論じていきたい。
会社の国際線を成田、又は関空に一斉に移転せ
・ 羽田国内線ネットワークの本来的な絵姿
しめたのであった(唯一の例外は成田開港時の
・ 羽田昼間帯発着枠需給の見通し
日中関係を反映した台湾の中華航空)
。
この基準とは、
① 需要中心地に近い空港は飛行時間の短い
金成秀幸(かねなりひでゆき)
東北大学法学部卒
日本航空(株)入社後、東京空港支店国際旅客部、経
営企画室部長、上席執行役員等を経て現職
国内線が、
② 需要中心地から遠い空港は飛行時間の長
い国際線が利用できるようにする
という極めて単純明快なものであった。この棲
1
み分けの背景には、一地域にある複数空港間で
権となることが一般的であるため、国際線に発
需要中心地からの時間的格差等、アクセス利便
着枠を配分する際には、将来にわたって確保し
性が大きく異なる場合、上記のような棲み分け
うるものかどうかを考慮する必要がある」
、
と記
が当該地域全体の航空旅客・貨物の利便性を最
されている。このような空港発着枠使用上の国
適にするという全体最適の判断があったものと
際線優先原則の背景には、国際線は国家間の約
思われる。
外国の行政当局による同様の判断は、
束である航空協定に基づいて運営されているこ
ニューヨークのラガーディア空港とワシントン
と、国内線は代替交通機関があること等がある
DC のレーガン空港で適用されているペリメー
ものと思われる。利便性の高い羽田に国際定期
タールール(perimeter rule)にもあり、且つ裁判
便が一旦就航すると、国内線用の容量不足を理
所の判決によって支持され今日に至っている。
由として、
部分的に外国社の国際定期便の減便・
このような棲み分けに関する日本の航空当局
撤退を求めることは極めて困難なことと認識さ
の考えは、2004 年 12 月 24 日に出された航空
れている。
局文書「国空事第 433 号」
「大阪国際空港にお
2002 年 12 月 6 日付けの交通政策審議会航空
ける YS 代替ジェット枠の廃止について」で以
分科会答申書には、羽田空港発着枠増の国家的
下のように明確に書かれた。即ち、そこでは、
意義につき、
「首都圏と国内各地を結ぶ全国的な
国内路線空港である伊丹空港使用について、
「ア
ネットワークの拠点となる羽田空港・・・の空
クセス利便性が高いという伊丹空港のメリット
港容量の大幅な増加は、単に首都圏の課題にと
を活かす等の観点からは、希少となった伊丹空
どまらず、その航空ネットワークの拡充を通じ
港のジェット枠は中・近距離において優先的に
て我が国全体に大きな便益を及ぼすこととなる
使用し、長距離路線には使用しないように努め
ため,喫緊の課題として整備を推進する必要が
ることが、航空利用者利便に配慮した伊丹空港
ある」との基本認識が示されている。そして、
の合理的な使用であると考えられることから、
先の発着枠に関する国際慣行を踏まえ、
「羽田空
航空会社においても、伊丹空港のジェット枠を
港については、再拡張事業によって空港容量が
長距離路線(1,000 キロメートル超の路線)に
増加することになれば、国内線需要に対応した
は使用しないように努めるよう協力を要請す
発着枠を確保した後に、ある程度の余裕枠が生
る」
、と述べられている。そして、同日、航空会
じることが見込まれ、この枠を活用して国際定
社は航空局から、2010 年 2 月に予定されてい
期便の就航を図る必要がある」と述べている。
る伊丹ジェット枠配分の見直しの際の評価方式
2003 年 6 月 23 日に開催された「第 2 回航空
に、
「伊丹空港のジェット枠の合理的な使用の観
に関する懇談会」資料「羽田空港の国際化及び
点からの評価項目」として、伊丹空港のジェッ
再拡張に伴う経済波及効果について」
によれば、
ト枠を使用して運航する全路線の延べ便数のう
2001 年度の発着回数 27.5 万回が再拡張で 2012
ち、
「近・中距離路線(1,000 キロメートル以下
年度に 40.7 万回に増加(=+13.2 万回)した
の路線)の延べ便数の割合が 95%を超えている
場合の年間経済波及効果が次のように試算され
こと」という評価項目が採用される予定である
ている。
「生産額増加をみると、全国では<国内
旨通知された。これにより、伊丹空港を国内線
線のみ導入>は 1 兆 3,745 億円、<国際線 3 万
の近・中距離路線空港とする事実上の規制が担
回導入
(金成注:この場合の国内線は 10.2 万回)
保されていると言えよう。
>は 1 兆 8,520 億円となる。
」
<国内線のみ導入
2002 年 6 月 21 日開催の交通政策審議会航空
>による影響を区分すると1都3県(神奈川、
分科会第 7 回空港整備部会資料では、
「一旦(国
千葉、埼玉)では 7,369 億円、1都3県以外の
際)定期便(用)として配分した発着枠は既得
43 道府県で 6,376 億円と予測されている。
「国
2
際線 3 万回導入による影響を区分すると1都3
便数頻度は極めて重要な利便であるが、発着枠
県では1兆 1,915 億円、
1都3県以外の 43 道府
制約はこの旅客利便性を著しく阻害している要
県で 6,605 億円の効果が予測され、国際化によ
因になっていると言えよう。
る効果は1都3県により大きく集中している。
」
(2)羽田の1便当たり航空機座席数は世界一
税収と雇用増加が1都3県とその他の 43 道府
発着枠が慢性的・絶対的に不足している羽田
県にもたらす効果についても同じ様な関係があ
空港での1便当たりの平均座席数は世界に突出
るものと試算されている。
して多い。2006 年の OAG(Official Airline
羽田の再拡張と国際化は、首都圏のみならず
Guide)に基づいて作成した資料−②「国内線 1
地方にも巨大な経済波及効果と国民生活の大幅
便当たり平均座席数の国際比較(空港別)
」は、
な利便性向上をもたらす。そして、羽田の昼間
世界主要空港における国内線 1 便あたりの平均
帯発着枠が再拡張によっても 10 万回程度しか
座席数を示している。羽田の平均座席数 305 席
増えない中での国際化には、国家的見地から、
は、ロンドン(ヒースロー)
、パリ(シャルル・
国内線用発着枠を枠運用の国際慣行を踏まえな
ド・ゴール)、フランクフルト、ニューヨーク(J.F.
がら中長期的に確保するという制約が内在する。
ケネディ)の2倍以上である。
既に公表されている政府の
「羽田空港の国際化」
航空会社にとっては、便数頻度は他社との競
方針は、かかる内在的制約を踏まえ、国内線が
争上極めて重要な要素である。羽田の再拡張に
利用しにくい深夜早朝発着枠をも騒音問題に配
よって発着枠の制約が解消されれば、航空会社
慮しつつ活用して、羽田空港の国際化を積極的
は航空機の小型化による便数増が可能となるわ
に推進しようとするものと思われる。
けであり、便数頻度を始めとする利用者利便も
一層向上するであろう。
2.羽田国内線ネットワークの本来的な絵姿
(1)実例に見る枠制約と航空機座席数・運航便
数との関係
(3)便数頻度増による潜在需要顕在化の可能性
便数頻度の増加は、単に競争促進と利用者利
便の向上をもたらすばかりでなく、便数が少な
混雑空港発着路線と非混雑空港発着路線にお
かったために利用していなかったと思われる潜
ける航空機座席数・運航便数との関係を見ると、
在需要を顕在化させる可能性も秘めている。財
発着枠制約・座席数・便数の3者が相互に密接
団法人日本航空協会の酒井正子氏は、
1999 年度
な関係にあることが分かる。即ち、2004 年度の
航空政策研究会懸賞論文(特別賞)で、
「羽田にお
時刻表と運航実績に基づいて作成した資料−①
いて、希望する朝夕の繁忙時間帯に便が取れな
「空港発着枠制約と航空機座席数・運航便数と
いとか、希望便の予約を取れなかったために航
の関係」を見ると、非混雑空港発着便2路線の
空を利用しなかった消費者数を 96 年度の輸送
需要はそれぞれ約 110 万人で、平均座席数 200
実績から試算(すると)合計 200 万人となり、
席前後の飛行機で 14∼20 便運航され、座席利
その最大区間は東京=大阪。この顕在化してい
用率は 50∼60%となっている。一方、混雑空港
ない旅客数は羽田路線全旅客の4%に相
発着2路線では需要がそれぞれ 140 万人、190
当。
・
・
・こうした状況は企業間競争をねじ曲げ、
万人で座席利用率も 70%近くなっているにも
羽田利用者、なかんずくビジネス利用者にとっ
かかわらず、
運航便数はそれぞれ 7 便、
10 便で、
て羽田便に『乗りたいときに乗れない』という
使用機材の平均座席数は約400 席となっている。 事態を招く。これはわが国経済活動の面からも
このことは、発着枠制約なかりせば、この混雑
由々しい問題である」
、と指摘されている。岡田
空港発着路線の便数は2倍以上になっている可
清成城大学教授も第 3 回首都圏第 3 空港調査検
能性があることを示している。お客様にとって
討会で、
「小型機の多頻度運航による需要の顕在
3
化も考慮すべき」
、
「また、地方空港の活性化の
案すれば、羽田再拡張によって発着枠制約が解
ための、羽田空港の拡張によって国内線の
『隠れ
消されると、羽田における航空機サイズの小型
た需要』へ対応することも必要不可欠」
、と述べ
化が進み、それとともに便数が増大することは
られている。
容易に想像されよう。
(4)羽田への路線拡充は長年にわたる地方の切
実な願い
発着枠制約がない場合の羽田国内線ネット
ワークについて、
2004 年度の羽田空港国内線の
日本経済の首都圏一極集中構造の中で、地方
需要・運航データに基づき、旅客数は 2004 年
と首都圏を結ぶ航空路線の拡充は長年にわたる
度の 5,885 万人のままで、一定の前提を置いて
地方の切実な願いである。
北側国土交通大臣は、
一つの絵姿を描くと、概要以下の通りとなり、
本年 6 月 30 日の記者会見で、
「国内のほんとに
それをグラフ化したものが資料−③「羽田の発
至るところからですね、羽田にもっと増便をし
着枠制約がない場合の国内線ネットワークイメ
たい、入れたいというふうなニーズがある中で
ージ」である。
ですね、できないと、こういう情勢にあるわけ
ですね」と述べられている。また、神戸空港は
3.羽田昼間帯発着枠需給の見通し
2006 年 2 月に開港したが、神戸市の山本朋廣
羽田再拡張後の昼間帯発着枠需給見通しにつ
みなと総局長も、2006 年 5 月発行の「運輸と
いての1つのヒントを得るため、羽田国際線の発
経済」第 66 巻第 5 号座談会で、
「現実に羽田便
着回数を年間 3 万回程度とする国土交通省の羽
は、空港を持っている都市としては是非とも押
田国際化に関する考え方などの前提を置いて作
さえておきたい路線です。
・・・もし、羽田便が
成したグラフが、資料-④「羽田空港における発着
日に一便しかなければ、神戸空港は非常に閑散
枠需給関係推移予測A(羽田国内線年平均旅客
としていたでしょう。それはどの地方でもそう
伸び率 2.04%)」である。予測伸び率 2.04%は、
だと思います。あらゆる空港が、小型機でも良
2001 年度の羽田国内線旅客実績 5855 万人と
いから羽田便を入れたいと考えています。
結局、
2012 年度国土交通省需要予測7312 万人より算出
羽田と結ばれないとどうしようもないというの
した。国内線用昼間帯発着枠上限は 37 万回とし
が空港を持っている立場としての率直な思いで
た。将来の発着回数は、旅客数が 2004 年度実績
す」
、と述べられている。
6164 万人から年 2.04%増加するものとして算出。
(5)本来的な羽田国内線ネットワークの一つの
また、2004 年度実績の便当たり平均座席数は319
絵姿
席、平均座席利用率は 64%であった。前章で見
これまで見てきたように、発着枠制約と航空
た、発着枠制約のない場合の平均座席数は 271
機の座席数・便数との相互関係、世界に突出し
席である。従って、発着枠に余裕があれば、機材
ている羽田における航空機の大型化状況、便数
の小型化は 2004 年度の平均座席数320席機材
頻度増による潜在需要顕在化の可能性、並びに
から 270 席機材まで進むものと想定する。
羽田線拡充に対する地方の切実な願い等々を勘
資料-④によれば、予測伸び率 2.04%の場合、
発着枠制約がない場合の 2004 年度羽田国内線ネットワークの絵姿
・ 47 の羽田路線の内、23 の地方路線で1日 62 便増(往復ベース、以下同じ)
。
・ 2004 年度の羽田国内線定期便の年間発着回数実績は約 29.0 万回(397 便/日)であったが、本来的
には、同じ旅客数に対して、およそ 16%増の約 33.5 万回(459 便/日)が、同年度で必要とされて
いた。
・ 便当たり平均座席数は、2004 年度実績 319 席から 15%減の 271 席になる。
4
4本目の滑走路が供用されても発着枠に小型化
いては、ある期間、時間帯によっては国内線用
のための余裕が殆どなく、平均 320 席機材の小型
枠に余裕が出ることが想定される。この余裕枠
化は行われずに座席利用率が上昇し、2018 年に
を一旦国際線に開放すると既述のように国内線
は国内線発着回数は発着枠上限の 37 万回に達
への戻しが困難となる一方、貴重な羽田発着枠
し、年平均座席利用率は年間を通じて座席予約
の有効活用も図らねばならない。この余裕期間
が困難な状況となる 70%になるものと予想され
中、現在、羽田空港に乗り入れが禁止されてい
る。
る 60 席以下の航空機の乗り入れを暫定的に認
次に、予測伸び率が 2.04%未満の場合を考え
めることも検討に値しよう。既に紹介したよう
てみたい。羽田国内線旅客の対前年伸び率実績
に、地方の羽田国内線拡充の願いは切実なもの
は、2001 年度 5.14%、02 年度 5.57%、03 年度
である。全国地域航空システム推進協議会事務
0.25%、04 年度マイナス 0.53%であった。2005 年
局長の井上高一氏によれば、
「中型機では需要が
度の国土交通省統計は現時点では出ていないが、
十分見込めないため路線を確保できず、小型機
Airports Council International 統計と羽田空港の国
での東京便を求めている兵庫県のコウノトリ但
際線旅客数データに基づけば、プラス 0.84%に
馬空港や岩手県花巻空港などがあるが、逼迫し
反転したと推定される。03 年度伸び率が低かった
た羽田の発着枠の小型機規制が解除されず実現
主な要因としては、2002 年 12 月の東北新幹線盛
できていない」
(
「航空と文化」2006 年新春号)
岡=八戸開業、2003 年 10 月から東海道新幹線が
とのことである。
「ひかり」主体から「のぞみ」主体になったこと、航
羽田再拡張後の国際枠はおそらく開放されて
空運賃水準が上昇したことなどが考えられる。
直ぐ、国内枠についても遅くとも 2020 年から
2004 年度のマイナス伸び率はこれらに加え台風
2030 年頃には発着枠需給が逼迫するものと思
による欠航が相次いだ結果と思われる。しかしな
われる。従って、羽田再拡張後も、航空に関連
がら、2005 年度は日本経済の回復基調に支えら
する政府機関と航空会社が協力して、滑走路や
れプラスに転じている。今後の需要見通しとして
航空管制・空域・航空路などの既存の航空関連
は、少子化のマイナス要因があるものの、日本経
施設・機能・システムをより効率的・合理的に運
済の回復、好奇心が旺盛でそこそこの資力もある
用し、羽田の国際枠と国内枠を更に拡大してい
団塊世代の余暇時間増大等を勘案すれば、日本
く必要がある。
経済の中心地である首都圏の国内線航空需要が
ゼロ成長のトレンドをとるとは考え難い。そこで、
次に、年平均旅客伸び率を 1%と置いて、羽田国
4.成田空港(含む羽田)から一定距離内国際
路線の年間合計発着回数
内線発着枠需給を見通したものが資料-⑤「羽田
国土交通省作成の羽田空港国際線ターミナル
空港における発着枠需給関係推移予測B(羽田
事業「業務要求水準書」には、
「再拡張後、将来
国内線年平均旅客伸び率1%)」である。
の国内航空需要に対応した発着枠を確保した後
資料⑤に見るごとく、年平均伸び率が 1%の場
の発着枠を活用して、昼間時間帯(06:00∼23:
合、2010 年頃より平均座席数 270 席までへの小
00)については、羽田発着の国内線の距離を目
型化の余地が 2019 年まで発生するが、その後は
安として年間概ね 3 万回程度の近距離国際旅客
大型化が再び始まり、2028年には平均座席数320
定期便を就航させる・・・、また、深夜早朝時
席で平均座席利用率 65%の需給状況となり、
間帯(23:00∼06:00)については、騒音問題
2035 年には平均座席利用率が 70%に到達する。
等に配慮しつつ、国際旅客便及び国際貨物便を
以上が一定の前提をおいた場合の理論上の需
給関係であるが、容量が 4 割拡大後の羽田にお
就航させる」と書かれている。
本章では、羽田昼間時間帯国際線用発着回数
5
「概ね 3 万回程度」のもつ意味を具体的に理解
な中・長距離路線は、次章で述べるように、む
していただく参考材料として、2006 年 6 月時点
しろ、深夜早朝時間帯におけるお客様の動向や
での OAG 時刻表に基づき、成田空港(含む羽田)
空港アクセスの整備状況と密接に関連しながら、
から一定距離内国際路線の年間合計発着回数を
深夜早朝時間帯枠の活用によって作られていく
紹介する。尚、現在、羽田空港とソウルの金浦
のではないかと思われる。
空港間では一日 8 往復、発着ベースで 16 回/日
の「日韓チャーター便」が運航されており、こ
5.深夜早朝時間帯枠活用による中・長距離国
こでの年間発着回数には羽田の回数 0.6 万回を
際線の可能性
含めることとする。
羽田空港における深夜早朝時間帯(
「23 時台
羽田国内線の最長路線である石垣線の距離は
から 5 時台まで」
)
の国際旅客チャーター便と国
1947km であり、この距離内に入る主な都市は、
際ビジネス機の運航は、2001 年 2 月 16 日より
韓国は全て、中国は北は瀋陽、大連、南は上海、
「国内定期便に影響を与えない範囲で」次のよ
杭州などが入り、合計発着回数は約 3.3 万回で
うな条件で認められて今日に至っている。
即ち、
ある。
路線距離を 2133km にすると北京が入るが、 上記時間帯の発着枠は「国内線と併せて 1 時間
合計発着回数は約 4.0 万回となる。路線距離
当たり最大 16 回(到着については 8 回)とし、
2180km では台北路線が入り、合計発着回数は
その総計は国内線と併せて 60 回まで」で、
「た
4.9 万回。香港までの距離 2936km 内にすると中
だし、
国内定期便・・・と国際チャーター便等が混
国の西安、アモイ、台湾の高雄は勿論のこと、
在する 23 時台については、
」一定の条件のもの
グアム、サイパンまでが入り、合計発着回数は
とで 1 時間当たりの発着枠は 11 回。
枠配分の優
約 6.4 万回に達する。
先順位は国内定期便、国際旅客チャーター便、
本年 6 月時点での合計発着回数は以上のよう
国際ビジネス機の順。飛行経路は「騒音問題等
なものであるが、本年 7 月に北京で行われた日
の観点から、基本的に千葉県上空を飛行しない
中航空交渉で旅客便数が現行よりも 2 割増やせ
経路」
。使用機材は「低騒音機材」
。2005 年度の
る合意が成立したこと、今後も予想される国際
深夜早朝国際チャーター便の運航実績は便数
線需要の旺盛な伸び、利便性の高い羽田での国
751 便(片道ベース)、旅客数 180539 人で、一日
際化による潜在需要の顕在化、等々を勘案すれ
平均でみると2便、494 人となる。
ば、4 本目滑走路供用開始時 2009 年度のそれぞ
2005 年の OAG データベースによると、世界の
れの合計発着回数はかなりの規模になるものと
主要 24 時間国際空港で、
各空港の旅客便総発着
予測される。
回数に対する深夜早朝時間帯旅客便の発着回数
路線距離は長いがビジネス需要の多いバンコ
ックやシンガポール、マニラ等々の ASEAN 主要
都市と羽田空港とを結ぶべしとの考え・希望は
当然存するものと思われる。しかしながら、国
際線用昼間帯枠「概ね 3 万回程度」という前提
条件の中で、それを可能とさせる国際的に納得
比率(%) は以下のようになっている。
SIN
14
BKK
12
JFK
7
LAX
6
PVG
4
ICN
4
PEK
4
FRA
3
CDG
2
ORD
2
LHR
1
KIX
4
CAN
4
性のある客観・合理的な基準が筆者には思い至
SIN と BKK 空港の深夜早朝旅客便比率が高い
らない。
ペリメータールールの下で 5353km のシ
のは、おそらく他空港に比べて空港での乗り継
ンガポールを入れれば、2006 年 6 月時点での年
ぎ・通過旅客が多いことによるものと思われる。
間合計発着回数は 8.1 万回にもなり、将来の国
JFK とLAXは都市生活の24時間化が進展してい
内線に必要な発着枠を確保できない。このよう
ること、使いやすい低廉な空港駐車場と深夜早
6
朝も一定程度の公共空港アクセスがあることか
の公共空港アクセスも不要である。従って、お
ら 6∼7%の高い率となっているものと推察さ
客様のニーズに応えながら、深夜早朝時間帯を
れる。PVG(上海)、ICN(ソウル)、CAN(広州)、
最大限活用した運航ダイヤ設定も可能である。
KIX(関空)はいずれも 4%である。以上の数字を
一方、自らは動かない貨物を空港で取り扱うに
単純に再拡張後の羽田に当てはめれば、深夜早
は、空港にかなりの設備が必要なので、投下費
朝時間帯の旅客便は 40.7 万回の 4%である 1.6
用回収との関係で、一定の運航規模が必要とな
万回から 7%の 2.8 万回の幅までは増加する可
る。従って、深夜早朝時間帯の羽田で貨物便運
能性があると言えよう。一日平均では片道ベー
航を活発化させるには、一定規模の発着枠が貨
スで 44 便から 78 便となる(但し、既述のよう
物便用に確保されることが好ましい。
に、現在は、深夜早朝時間帯の総発着回数は国
内線と併せて 60 回、という総量規制あり)
。
空港に低廉な駐車場があり、深夜早朝も公共
空港アクセスがあれば、お客様の生活パターン
から、深夜出発・早朝目的地着というダイヤは
6.羽田の昼間帯国際枠使用による輸送対象需
要と本邦企業の発着枠シェア
=羽田空港は羽田と相手国都市間の旅客
需要輸送便のみ使用
一般的には受け入れられるであろうし、ビジネ
=日本通過需要輸送便は成田空港使用
ス旅客には歓迎されることでもあろう。
従って、
再拡張による羽田の新規枠増 10 万回は利便
例えば、羽田発 0130⇒シンガポール着 0725、シ
性の極めて高い稀少なものである。
第 4 章の
「成
ンガポール発 1535⇒羽田着 2330 というダイヤ
田空港(含む羽田)から一定距離内国際路線の
は十分に成立し得る。
ただ、
航空会社としては、
年間合計発着回数」からもお分かりいただける
この飛行機をシンガポールで約 8 時間寝かせて
ように、国際線に配分される「概ね 3 万回程度」
おくことと、成田のシンガポール線を維持する
は、おそらく、羽田と相手国間の旅客を輸送す
場合は羽田・成田の 2 重運航体制となることを、
る航空便だけで瞬時にして満杯になるものと思
費用効率の観点からどう見るかの判断が必要と
われる。同時に、世界経済においても北東アジ
なる。また、この便で羽田に着かれたお客様が
アの成長性は高く、日本の経済・社会の発展に
公共輸送機関で自宅の最寄駅まで帰りたいとさ
とって北東アジア内の人流・物流の活発化が極
れる場合、
入国手続き所要時間をも考慮すると、
めて重要であることは国民の一致した認識であ
0030∼0200 の時間帯に空港から最寄駅までの
る。北東アジア内の「準国内化」への動きの中
公共輸送機関が動いているか、という問題も新
で、
「羽田の一部国際化のもつ意味というのは非
に生じる。
常に、これもまた重要な意味を持っている」
(括
いずれにせよ、お客様の生活パターンと空港
アクセスを勘案すると、旅客便が利用可能な深
夜早朝時間帯は限定的なものとならざるを得ず、
弧「 」内:本年 6 月 30 日記者会見での北側国
土交通大臣発言)
。
このような意義をもつ稀少な羽田の国際枠が、
23 時台に出発便と到着便が、0 時台から1時台
羽田と相手国間の航空需要のみに充当されるこ
には出発便が、5 時台には到着便が集中するも
とは我が国の国益の観点から当然のことであり、
のと思われる。
且つ又相手国からも歓迎されることと言えよう。
貨物に目を転じてみると、深夜早朝時間帯は
日本通過需要を輸送する国際旅客便は、従来ど
正に航空貨物の世界である。航空貨物運送事業
おり成田空港を使用しても、その通過需要にと
は、お客様が寝ている時間に貨物を移動し、お
っての利便性は従来と何ら変わることはない。
客様が起きている時間に届けられることが期待
ここで、日米航空関係について一点だけ言及
されている。貨物には低廉な駐車場も深夜早朝
しておきたい。
7
日米航空協定第 12 条の日本政府解釈は、例え
ェアは、国土交通省資料によれば、2002 年夏ダ
ば、米国航空会社の「米国発の日本経由韓国行
イヤベースで、日本企業 37%、米国企業 28%と
きの便は、最終目的地たる韓国への輸送が第一
なっている。既出 2002 年 6 月 21 日の交通政策
の目的となり、日本と韓国間の乗客を主として
審議会航空分科会第 7 回空港整備部会の資料に
輸送してはならない」というものである(1995
よれば、世界の主要空港では全て、自国企業が
年 12 月 12 日、運輸政策セミナーでの羽生次郎
枠シェアのほぼ半分を占めている一方、米国企
運輸総大臣官房審議官<当時>講演)
。この「日
業のシェアは 4∼8%以内となっている。成田に
本と韓国間の乗客」を輸送する権利が「以遠第
おける米国企業シェアの 28%がいかに異常に
5 運輸権」といわれるものである。現在公表さ
大きいものであることがお分かりいただけよう。
れている羽田再拡張後のペリメータールールで
残念ながら、既得権化した成田の発着枠シェア
は、米国の航空会社は米国の都市から昼間帯の
を根本的に是正することは難しい。再拡張によ
羽田空港に運航できない。
そこで、
米国政府が、
る羽田国際枠は正に新規枠である。
少なくとも、
「米国の航空会社が、米国-東京(成田)間と東
日本と相手国と一対一の関係で発着枠配分が行
京(羽田)-韓国間を異なる飛行機ではあるが同
われ、羽田空港の国際発着枠の日本企業シェア
一便名で運航する場合、
かかる運航は米国-東京
が過半となるように配分されることを強く日本
-韓国というふうに協定上連続しており、
この東
政府に要望したい。
京(羽田)-韓国間輸送は協定上の以遠第 5 輸送
として出来る」
、
と牽強付会してくる可能性はゼ
ロでないことに留意しておく必要がある。
この牽強付会説は全くの詭弁である。即ち、
航空協定上の以遠第 5 運輸権とは、協定当事国
間を運航する当事国の航空機が第 3 国にも運航
する場合に、協定相手国と当該第 3 国間の輸送
を認めるものである。そこには、それぞれの区
間の運航に連続性がなければならない。しかし
ながら、上記の例では、同一便名で運航の連続
性を擬制しても、実態的には、米国-東京(成田)
の運航と東京(羽田)-韓国の運航は、成田と羽
田という異なる 2 地点で地理的に分断されてお
り、東京(羽田)-韓国間の輸送は、日米航空協
定対象外の米国航空会社による三国間輸送に他
ならない。
これはあたかも、
日本の航空会社が、
韓国と中国で、日本路線と全く連続性がなく、
勝手に両国間の乗客を独立的に運送するような
ものである。このような三国間輸送が認められ
ている例は世界に存せず、あの米国が唱導する
「オープンスカイ」もかかる運輸権を認めていな
い。
もし、
米国がかかる主張をしてきた場合は、
断固として退けるべきであると思料する。
日本の国際線基幹空港である成田の発着枠シ
8
資料①
空港発着枠制約と航空機座席数・運航便数との関係
路線
便数・機材(04.9 ダイヤ) 1 便あたり平均座席数
混 雑 空 港 発 着 便
=
( 発着枠制約のある場合
座席利用率(FY04)
403 席
137 万人
66.8%
385 席
194 万人
67.1%
166 席
117 万人
54.8%
215 席
113 万人
60.6%
7便
羽田=函館
(B4×1、B7×5
B6×1)
10 便
伊丹=札幌
(B4×3、B7×4、
B6×1、B3×1、CRJ×1)
)
非 混 雑 空 港 発 着 便
=
( 発着枠制約のない場合
旅客数(FY04)
20 便
名古屋=福岡
(A3×10、B3×7、
MD81×3)
14 便
名古屋=札幌
(A3×4、B6×6、
)
B3×3、MD81×1)
資料②
国内線1便当たり平均座席数の国際比較(空港別)
人
CY2006
350
305
300
250
187
200
145
150
142
130
131
124
102
100
50
B)
ク
GM
ル(
ソウ
ニュ
アー
ィ
ケネ
F.
J.
ゴ
ド
ルル
シャ
デ
ール
ト
ンク
フラ
ガ
トウ
ィッ
フル
ク
ー
スロ
ヒー
羽
田
05
0
出典:OAG(BACK Database)、羽田は2005年、JALの機材席数は実際にあわせて修正
資料③
羽田の発着枠制約がない場合の国内線ネットワークイメージ
往復便 数 /日
50
2004年度運航便数
追加便数
45
1.高需要ビジネス路線の多頻度化(30分毎∼1時間毎の出発)
年間旅客数100万人以上かつビジネス路線(99年度航空旅客動態調査において「旅行目的=仕事」 が半数
以上であった路線)を実現すべき路線として算出。ただし、既達成路線は現行どおり。
2.低座席利用率路線の機材小型化(就航機材が大きすぎると考えられる路線)
座席利用率が65%を下回り、現在の就航機材が大きすぎると考えられる路線は就航機材を小型化
した上で算出。
40
35
30
⇒ これにより、23の羽田=地方路線において1日62便(往復)の増となる。従って、2004年度の年
間発着回数は、実績では 約29.0万回(片道ベース)であったが、本来的には約16%増の33.5万回
と考えられる。
⇒ 便当たり平均座席数は、2004年度実績319席から15%減の271席になる。
25
20
15
10
5
0
A
C
E
G
I
K
M
O
Q
S
U
W
Y
路線
AA
AC
AE
AG
AI
AK
AM
AO
AQ
AS
AU
資料④
羽田空港における発着枠需給関係推移予測A※将来伸び率は2001年度実績5855万人と2012年国
土交通省羽田国内線旅客需要予測7312万人より設
定。将来発着回数は旅客数が2004年度実績6164万人
より、年2.04%増加すものとして算定。
※
(羽田国内線年平均旅客伸び率2.04% )
(万回)
55
<前提条件>
羽田再拡張後の新規枠は、管制・空港処理能力の段階的拡張に合わせ、2009,2010,2011年度それぞれの12月頃に開放されると仮定。
羽田発着枠上限
国内線発着回数(予測)
50
270席・L/F65%
270席・L/F70%
45
国際線用枠
40.7万回
40
37万回
35
320席・L/F65%
29.6万回
注) 内は、国内線便当たりの平均座席数・平均利用率を示す。2004年度の羽田発着国内線の航空機平均座席数は319席、平均座席利用率は64%
また、羽田の空港容量に制約がない場合の航空機平均座席数は271席と算定される。
2035
2034
2033
2032
2031
2030
2029
2028
2027
2026
2025
2024
2023
2022
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
発着枠不足の為、小型化不可、座席利用率上昇
2010
2009
2008
2007
2006
2004
20
2005
座席利用率
上昇
2021
25
320席・L/F70%
2020
30
(年度)
資料⑤
羽田空港における発着枠需給関係推移予測B
(羽田国内線年平均旅客伸び率1%*)
*2004年度羽田旅客実績6164万人から 年1%にて旅客数が増加すると想定
<前提条件>
羽田再拡張後の新規枠は、管制・空港処理能力の段階的拡張に合わせ、2009,2010,2011年度それぞれの12月頃に開放されると仮定。
(万回)
55
270席・L/F65%
50
羽田発着枠上限
国内線発着回数(予測)
45
270席・L/F70%
国際線用枠
40.7万回
40
37万回
35
320席・L/F70%
30
29.6万回
320席・L/F65%
2035
2034
2033
2032
2031
2030
2029
2028
2027
2026
2025
2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
発着枠不足の為、航空機再大型化、座席利用率上昇
2017
2016
2015
2014
2013
2011
2010
平均座席数270席まで
小型化余地発生
2009
2008
2007
2006
2005
2004
20
座席利用率
上昇
2012
25
注)
内は、国内線の便当りの平均座席数・平均座席利用率を表す。2004年の羽田発着国内線の航空機平均座席数は319席、平均座席利用率は64%。
(年度)
また、羽田の空港容量に制約がない場合の航空機平均座席数は271席と算定される。
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