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円偏光近接場光学顕微鏡を用いてナノメートルスケールの

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円偏光近接場光学顕微鏡を用いてナノメートルスケールの
平成27年 3月 9日
報道関係者各位
国立大学法人 筑波大学
世界初、円偏光近接場光学顕微鏡を用いてナノメートルスケールの領域へのスピン注入に成功
~光学活性をもつ物質のナノレベル解析に貢献~
研究成果のポイント
1.
近接場光学顕微鏡注1、2)から円偏光注3)を出射し、ナノメートルスケールの領域へスピン偏極した電子を
注入することに、世界で初めて成功しました。
2.
これにより、半導体ヘテロ接合構造試料中に生じる”量子ホールカイラル端状態”
注4,5)
に電子スピンの
偏極状態の異なる領域があることを明らかにしました。
3.
消費電力を極限まで低減させるとされるスピントロニクス素子 注6)、トポロジカル素子 注7)の開発や光学活
性をもつ生体分子の研究の進展に大きく貢献するものと期待されます。
国立大学法人筑波大学 数理物質系 野村晋太郎准教授らの研究グループは、独立行政法人産業技
術総合研究所、NTT物性科学基礎研究所との共同研究により、円偏光近接場光学顕微鏡を開発し、光を
用いてナノメートルスケールの領域へスピン偏極した電子を注入することに世界で初めて成功しました。この
新たな円偏光近接場光学顕微鏡は、例えば、消費電力を極限まで低減させるとされるスピントロニクス素
子、トポロジカル素子の開発や、光学活性をもつタンパク質や糖類等の生体分子の研究の進展に大きく貢
献するものと期待されます。
本研究の成果は、2015年3月2日(日本時間3月3日)付「Nano Letters誌」でonline公開されました。
* 本研究は文部科学省科学研究補助金新学術領域研究「対称性の破れた凝縮系におけるトポロジカル量子現
象」(研究総括、前野悦輝 京都大学教授)の支援によって得られました。
研究の背景
通常、光は回折現象のために可視光の波長程度の領域(200~300nm)にしか集光できません。IBM チューリッ
ヒ研究所の D.W. Pohl や 2014 年ノーベル化学賞を受賞した E. Betzig 等によって発明された”近接場光学顕微鏡”
によって、可視光領域を越えたナノメートルスケールの領域へ集光することが可能となり、数 10nm 程度の空間分解
能が得られるようになりました。しかし、従来の近接場光学顕微鏡では、通常の光ファイバーを使うことによる円偏光
の乱れ、近接場プローブ注8)のわずかな引っぱり歪みやねじれによって、光のスピン(=円偏光)が不規則な向きに
乱されていました。
本研究により新たに開発した円偏光近接場光学顕微鏡(図1)では、真円度の高い近接場プローブを作製し、光
ファイバーの曲がりにより生じる複屈折を外部的に補正しました。その結果、円偏光を近接場プローブから安定的に
出射することが可能となり、ナノメートルスケールの領域へスピン偏極した電子を注入し、電子が一方向にのみ流れ
る状態の可視化に成功しました。
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研究内容と成果
本研究グループは、集束イオンビームを用いて、先端部と開口部の形状が軸対称に近い近接場プローブ(図2)、
および、外部から光の偏光状態を補正する手法を開発しました。これらにより、近接場光学顕微鏡から光のスピンの
向きの定まった円偏光を出射することに成功しました。
この新たに開発された円偏光近接場顕微鏡を用いて、半導体材料であるヒ化ガリウムヘテロ接合構造に円偏光
を局所的に照射し、試料端に生じる電子が一方向にのみ流れるような状態(カイラル端状態)の分布を調べました。
(図3)その結果、ヘテロ接合構造試料中に生じる”量子ホールカイラル端状態”に電子スピンの偏極状態の異なる
領域があることが、初めて実空間で観察されました。
今後の展開
本研究によって新たに開発された円偏光近接場光学顕微鏡は、光によってスピン偏極した電子をナノメートル領
域に注入可能であることを初めて実験的に示したものです。このことは、例えば、消費電力を極限まで低減させると
されるスピントロニクス素子やトポロジカル素子中のスピン偏極した電子の流れの空間分布の解明を促進し、ひいて
は、それらの素子の開発に大きく貢献するものと考えられます。
また従来、スピン偏極した電子の注入は走査型トンネル顕微鏡等を用いて超高真空中で行われてきました。一
方、円偏光近接場光学顕微鏡を用いたナノメートル領域へのスピン偏極した電子の注入では、必ずしも超高真空
中に試料を置く必要はありません。そのため、光学活性をもつタンパク質や糖類等の生体分子の研究にも広く応用
されることが期待されます。
参考図
図1 本研究で開発した円偏光近接場光学顕微鏡。
2
図 2 近接場プローブ先端部の走査型電子顕微鏡写真。円錐状の針の先に黒く見えるのが約 100nm の開口部。
図 3 円偏光近接場顕微鏡を用いたスピン偏極した電子注入手法の概略図。強磁場中でヘテロ接合構造試料へ
円偏光を局所的に照射し、電極1、2間に誘起される電圧をモニターすることにより、試料端に生じる電子が一方向
にのみ流れるような状態(カイラル端状態)の分布を調べる。
用語解説
注1) 近接場光: 光の波長より十分小さい穴もしくは物体のまわりに局在する光のこと。空間を伝搬する通常の光
は波長程度の大きさにしか集光できないが、近接場光は穴もしくは微小物体の大きさ程度にまで光を局在化
することが可能となる。
注2) 近接場光学顕微鏡: 近接場光を用いて光の波長の限界を越えた高い空間分解能をもつ顕微鏡のこと。
注3) 円偏光: 光の電場の振動が円を描くような光の状態のこと。
注4) カイラル(キラル): 右手と左手のように物体や現象がその鏡像と一致させることができないことを指す。
注5) 量子ホールカイラル端状態: 強い磁場下の薄い半導体試料の端にみられ、電子が一方向にのみ流れるよ
うな状態(カイラル端状態)のこと。カイラル端状態を流れる電子は熱を発しない。
注6) スピントロニクス素子: 固体中の電子のスピン(回転)を用いたトランジスタ、メモリ等の素子のこと。超高速、
超省電力素子として注目を集め、開発が進められている。
注7) トポロジカル素子: 物質のトポロジカルな性質を利用して、無磁場下で電子が一方向にのみ流れるような状
態を実現し、発熱を抑えた省エネルギー素子のこと。最近、新たな超高速、超省電力素子として世界的に注
目され、活発に研究が進められている。
注8) 近接場プローブ: 光ファイバーの先端を化学エッチングによって先鋭化し、その先端部にナノメートルスケー
ルの穴をあけて近接場光をつくりだす近接場光学顕微鏡の心臓部。
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掲載論文
【題 名】
"Circularly polarized near-field optical mapping of spin-resolved quantum Hall chiral edge states"
(量子ホールカイラル端状態の円偏光近接場光学顕微鏡を用いたスピン分解マッピング)
【著者名】 Syuhei Mamyouda, Hironori Ito, Yusuke Shibata, Satoshi Kashiwaya, Masumi Yamaguchi, Tatsushi
Akazaki, Hiroyuki Tamura, Youiti Ootuka, and Shintaro Nomura
【掲載誌】 米国化学会、Nano Letters 誌
問合わせ先
野村晋太郎(のむらしんたろう)
筑波大学 数理物質系 准教授
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