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食料経済学入門(基礎編) 私たちの食生活の現状を知り,経済学の視点
食料経済学入門(基礎編) 私たちの食生活の現状を知り,経済学の視点を通して背後にある食料および農業問題を考察す ることが講義の目的です。 (キーワード) 飽食時代の食料問題 食料消費と農産物市場 経済成長と食料消費 食料の内外価格差と国際競争力 食料消費の高級化と食料自給率 食料安全保障と市場の失敗 食料政策と政府の失敗 私的財と公共財の最適配分 飽食の時代と言われるこんにち,なぜ日本の食料自給率は低下し続けるのだろうか? 白書 pp. 1-5 • 日本人の食生活(1965 年度と 2002 年度との対比:農水省『食料需給表』) 供給純食料(1人1年) 454kg → 509kg(12%増加) 供給熱量(1人1日) 2,459kcal → 2,599kcal(6%増加) PFC(蛋白質/脂質/炭水化物)バランス 12.2/16.2/71.6 → 13.2/29.0/57.8(%) 肉類,牛乳・乳製品,油脂類が増加,コメは減少 なかしょく 食の外部化(内食 → 中 食 +外食) 純食料=粗食料×歩留り(全体に占める可食部分の重量比率) 粗食料=国内消費仕向量−(飼料用+種子用+加工用+減耗量) 加工用=食用以外の加工原料+食用加工原料のうち別途にその加工品が計上されるもの (石けん原料の植物油など) (みそ,しょうゆ,油脂類,砂糖類など) 減耗量=生産地から消費場所(家庭の台所など)までの輸送や貯蔵にともなう減耗分 家庭や食品産業での調理や加工にともなう廃棄や食べ残しは含まれない • 日本の食料自給率(1965 年度と 2002 年度との対比:農水省『食料需給表』) 自給率=(国内生産量/国内消費量)×100 総合(供給熱量ベース) 73% → 40% ((畜産物以外の国内生産熱量+畜産物の国内生産熱量)/国内総供給熱量)×100 ただし,畜産物については飼料自給率を乗じて,輸入飼料による熱量供給分を控除 穀物(食用+飼料用:重量ベース) 62% → 28% 80% → 61% (国内生産量/国内消費仕向量)×100 主食用穀物(重量ベース) (国産穀物食用向消費量/国内食用向穀物消費量)×100 1 「総合」は(重量で足せないから)供給熱量ベース,「品目別」は重量ベース 他に金額ベース((国内生産額/国内消費仕向額)×100)の自給率がある 世界の食料需給と日本の関係はどうなっているのだろうか? 白書 pp. 6-12 • 世界の食料需給 穀物需給の不安定性(供給変動による価格変動) 食料輸出国(主に新大陸)と食料輸入国(主にアジア,アフリカ)の地理的分化 特にアジア・アフリカ地域で輸入量が増加(主に穀物) • 日本の位置 輸入の拡大( = 自給率の低下)と特定国への依存傾向( ⇔ 危険分散) 食料品価格は海外の主要都市と比較して 10∼30%程度割高(内外価格差) 内外価格差 = 購買力平価 / 為替レート 例)ベーコンレタスバーガーの購買力平価:日本 200 円 / 米国 1.4 ドル ⇒ 143(円/ドル) 為替レート:日本 110 円 / 米国 1 ドル ⇒ 110(円/ドル) 内外価格差 = 143 / 110 = 1.3(倍) ドル建ての内外価格差 → 円安 ⇒ 内外価格差 ↓ ↔ 円高 ⇒ 内外価格差 ↑ 購買力平価にかかわるコスト格差 = 生産者価格(生産コスト)の格差 + 流通経費の格差 生産コストの格差 = 生産効率の格差 + 生産要素価格の格差 → 内外価格差のうち,農業生産者が改善できる部分はどれくらいか? 国を問わず,経済の成長と食料消費の内容に一定の関係がみられるのだろうか? • 経済成長と食料消費 食料は必需品であるとともに,食料消費は所得の増加とともにやがて飽和水準に達する → 資源配分の再編をともなう 農業部門とその他の経済部門との間に,発展過程の結果として不整合が起き,農業側に多くの 資源を移動させねばならないという時には,通常食料問題が表面化するし,逆に農業から多くの 資源を排出させねばならない時には,農業問題が起きる (シュルツ『農業の経済組織』,T. W. Schultz, The Economic Organization of Agriculture,1953) • 経済成長と人口:多産・多死 → 多産・少子 → 少産・少死(経験法則) 死亡率の規定要因:栄養状態,医療・保険サービス,住環境など 出生率の規定要因:例)親の効用と費用との大小関係で決まる(Leibenstein) 効用:生産財(家計所得の増加),消費財(消費による満足),年金機能(老後の手当て) 費用:直接費(養育費,教育費),間接費用(子育ての機会費用) 2 初期成長段階(供給サイドの重要性) 経済成長の初期段階では人口が増加 → 農業側に多くの資源を移動して食料の増産を図る必要 このとき,人口増加率 > 農業成長率 → 「食料問題(food problem)」が表面化 =「農業側に多くの資源を移動させねばならない」局面 = 食料増産局面:相対的に供給サイドが重要 転換期(需要サイドの重要性) やがて人口と食料との成長率が逆転して「食料問題」が解決 → 余剰農産物は外貨の獲得などを通じて資本蓄積の源泉としての役割を担うことができる → それがうまくいけば,工業部門への投資が活発化 → 工業主導の経済発展経済へ移行 → 「逆に農業から多くの資源を排出せねばならない」局面へ転換 = 産業間調整局面:相対的に需要サイドが重要 • ペティ=クラーク(Petty & Clark)の法則 ⇒ 経済成長にともなう農業部門の相対的縮小 ⇒ 経済成長に伴う農業部門の成長率は,一国全体の経済成長率より小さい 時系列(time series)と横断面(cross-section=国別)の双方で確認 • 農業の相対的縮小と食料需要の所得弾力性 食料の需要関数:食料需要量 = f ( 食料価格 p ,所得 e ) :価格と所得は実質値 需要の所得弾力性 = 需要量の変化率 / 所得の変化率 → 需要量の変化率 = 需要の所得弾力性×所得の変化率 → 所得の変化率 > 0 で所得弾力性 < 1 のとき,需要量の変化率 < 所得の変化率 • エンゲル(Engel)の法則 ⇒ 家計費に占める飲食費割合は,家計費( ⇒ 所得)が大きいほど低下する 時系列(time series)と横断面(cross-section=所得階層別)の双方で確認 参考 • 変化率と弾力性 d ln x 1 = dx x R d ln x = dx x ⇒ 変化率ターム 3 • 需要の価格弾力性と所得弾力性 需要の価格弾力性(price elasticity of demand: η p ) η p = 需要量 x の変化率 / 価格 p の変化率 = dx x = d ln x d ln p dp p 需要の所得弾力性(income elasticity of demand: ηe ) ηe = 需要量 x の変化率 / 所得 e の変化率 = dx x = d ln x d ln e de e • 需要関数と全微分 x の需要関数 f (•) : x = f ( p, e ) 需要関数の全微分 : dx = R ∂x ∂x dp + de ∂p ∂e dx ⎛ ∂x p ⎞ dp ⎛ ∂x =⎜ ⎟ +⎜ x ⎝ ∂p x ⎠ p ⎝ ∂e e ⎞ de R d ln x = η p d ln p + ηe d ln e ⎟ x⎠ e • ペティ=クラークの法則とエンゲルの法則 ⇒ p が一定の場合(固定価格表示) → d ln p = 0 → d ln x dp = 0 = ηe d ln e ⇒ e が一国全体の場合 → 実質国民所得( NI R ) = 実質国民総生産( GNPR ) ⇒ d ln x = ηe d ln ( GNPR ) ⇒ 両辺から d ln ( GNPR ) を差し引く ⇒ d ln( x GNPR ) = (ηe − 1) d ln( GNPR ) ⇒ ηe < 1 のとき ⇒ d ln( x GNPR ) = d ln x − d ln(GNPR ) < 0 ⇒ x が農産物の需要であれば,上の関係式は,農産物全体の所得弾力性が1より小さいとき に,農業部門は一国の経済成長ほどには成長しない(経済成長に伴う農業部門の成長率は, 一国全体の経済成長率より小さい)ことを表している ⇒ 経済成長に伴う農業部門の相対的縮小 = ペティ=クラークの法則 ⇒ e が家計所得, x が家計の食料消費量であれば,食料品の所得弾力性( ηe )が1より小さ いときにエンゲルの法則が成り立つ 1 1 ⎛ px⎞ d⎜ = 2 { ( p dx + x dp)e − p x ⋅ de } = 2 ( e ⋅ p dx − p x ⋅ de ) ⎟ e ⎝ e ⎠ dp =0 e R ∂ ⎛ px ⎜ ∂ e ⎜⎝ e ⎞ p ∂x px px⎛∂x x ⎞ px ( ηe − 1 ) < 0 − = 2 ⎜ − 1⎟ = ⎟⎟ = ⋅ e ∂ e e2 e ⎝ ∂ e e ⎠ e2 dp = 0 ⎠ 4 「食料は他の品目に比べて価格の変動が大きい」と言われるのはなぜか? • 食料価格の不安定性と安定化政策 食料価格の変動が大きいのはなぜか? → 農産物市場の不安定性 供給サイド = 生産プロセスのリスク 天候の影響 生産期間の長さ(供給時点の価格情報は不明) 需要サイド = 食料消費の特徴 = 需要の価格弾力性(絶対値)が小さい 食料は必需財であるが,必要量以上に消費しない(追加的効用の急速な低下) 需要の価格弾力性 = 需要量変化率 / 価格変化率 天候の影響による供給変動が弾力性(絶対値)の小さい需要曲線に直面するとき → 大きな価格変動 需要曲線上の価格変化率 = 需要量変化率 / 需要の価格弾力性 市場の価格変化率 = 供給量変化率 / 需要の価格弾力性 PY S S′ 異なる需要の価格弾力性と PY0 価格の下落度合い PY1 需要の価格弾力性: D1 > D2 2 Y P D1 D2 0 Y 5 • 食料価格の安定化政策 例)在庫調整による安定価格帯の設定 = 需要の価格弾力性は操作不能 → 供給変動を緩和 PY D PYC :上限価格 PYF :下限価格 YA :放出量 YB :買入れ量 PYH PYC 安定価格帯 PYF PYL D 0 YA YB Y 自由貿易を主張する米国は国内価格の変動にどう対処しているのだろう? 白書 pp.13-14 + 補足資料 • アメリカの国内政策 農産物輸出国として,農産物貿易交渉では自由化論者のアメリカにおいても,国内市場がまっ たく自由化されているわけではなく,一定の範囲で生産者保護の政策がとられている。アメリ カの国内農業政策は(原則として 5 年ごとに改正される)農業法で定められている 96 年農業法において生産刺激的保護政策からの脱却をめざし,従来の作付制限+不足払いのシ ステムから直接固定支払いへ国内政策を転換 ⇒ 農業法案がメディケアなどの他法案と一括審議になったため大幅に成立が遅れたものの, この間,飼料用トウモロコシや小麦が空前の高値で推移したため,相場の高騰も政策の転 換を容易にした ⇒ しかし,国内農産物市場は高値に誘導された供給過剰で価格は下落に転じ,その後も続落 したため,米政府は 99∼2001 年に 4 度にわたり追加的固定支払いの緊急対策を実施した ⇒ 当初のスケジュールを超えて,追加的な固定支払いが繰り返されれば,結局,不足払いと 同様ではないかと批判された 一方,政策体系の転換にもかかわらず,商品金融公社(CCC)による価格支持融資制度は 96 年農業法でも引き継がれた(農家は担保農産物を CCC に預け,9 か月間のうちに市場価格がロー ンレート+利子よりも高くなれば融資額+利子を返済して農産物を市場で売買し,逆の場合は 担保農産物を質として流す(=融資額+利子で CCC に売却)制度) ⇒ 不安定な価格に対するセーフティ・ネット機能の必要性 ⇒ 現行の 2002 年農業法(2002 年 5 月成立∼2007 年)では価格変動対応型支払い制度が導入 され,政府が目標価格を保証する制度であることから,不足払い制度の復活との見方もある 6 国内農業を有利な方向へ導くための仕組みはあるのか? • 国内農業の有利性を高めるしくみ (1)購買(原材料購入)と販売(生産物販売)の組織化=農業協同組合(agricultural cooperative) 農業生産資材産業,生活資材産業に対して生産資材・生活資材の共同購入= 購買事業 流通業(小売を含む),食品産業などに対して農産物を共同販売(共販)= 販売事業 farmers' cooperative としての性格 日本の農業協同組合の特徴 1)地縁組織 = 組合員は地域割で加入(組合員数 908.2 万人(うち正組合員 521.1 万人) 2001 年 3 月現在) → 前身は戦前の産業組合・農業会(全戸加入を義務づけ) 2)総合化 = 購買,販売,信用(銀行),共済(生保・損保),利用(共同利用施設・機械)事 業,営農指導,A コープ,その他各種サービス業(ガソリン・スタンドなど) ↔ 専門農協(総合農協:920,2004 年 2 月現在。専門農協:2,910,2003 年 3 月現在) 3)段階制=①全国(JA 全中,JA 全農,農林中金,JA 全共連など) ②都道府県(JA 中央会,JA 経済連,JA 信連,JA 共済連など) ③市町村・地域( ⇒ 総合農協(単協)) → ①と②の統合(JA 全共連と JA 共済連は統合済み),③の間の合併が進んでいる 4)農業政策の実施主体としての役割と政治力(農水省と JA 全中の関係など) (2)政策介入 農産物価格政策 1)農産物価格安定政策 → 政府による在庫調整(豊作時の買上げと不作時の放出) 2)農産物価格支持政策 → 市場の需給均衡価格よりも高い価格へ政策的に支持 → 供給過剰を誘発 a)二重価格(高い買入価格と低い売渡価格)制度 → 価格差は財政負担 ⇒ 関連:小麦 PY D S PYB PYB :政府買入れ価格 A PYS :政府売渡し価格 E Y P PYS PYB AB :財政支出 PYS B 0 Y 7 b)生産割当(production quota) ⇒ 関連:コメ(自主的措置として位置づけ) PY D SS S PYE :割当実施前の均衡価格 PYA PYA :割当実施後の価格 E Y P S S :割当実施後の供給曲線 0 Y Y0 Y1 貿易に関する政策介入(国内農業保護政策) 1)輸入割当(IQ:import quota) ⇒ 関連:コメのミニマム・アクセス(最低輸入数量) 2)不足払い(deficiency payment) → 国際価格(world price)と政策価格(保証価格:guarantee price,目標価格:target price) との差額を政府が補填(財政負担)= 不足払い PY S D PYW :世界市場価格 PYG :保証(目標)価格 YG :国内生産量 YW − YG :輸入量 PYE PYG PYW 0 PYW PYG AB :不足払い A B YG Y YW 8 3)関税(tariff) → 輸入品に対して通関時に課税 = 内外価格差の縮小 PY D S PYW :世界市場価格 PYT :輸入価格(課税後) YTS :国内生産量 YTD − YTS :輸入量 ABCF :関税収入 PYE PYT PYW 0 A B F C YTS Y YTD 二重価格制の例 ⇒ 小麦会計(コスト・プール制度) PW :世界市場価格 PY PDB PFS PDS PFB = PW 0 PFB :外麦輸入価格 PDS :内麦売渡価格 PFS :外麦売渡価格 PDB :内麦買入価格 YD :内麦生産量 YT − YD :外麦輸入量 A B F = C E D YD YT 9 Y 食料自給率の問題を考えよう 白書 p.15 + 食料自給率について 食料自給率は食料安全保障の尺度なのだろうか? • 自給率と食料安全保障 食料安全保障の3つの手段 国内生産,備蓄(在庫) ,輸入 → 相対的に輸入が安価 危険分散がワークするかしないか 現状は特定国への依存傾向 食料安全保障の水準 ⇒ 例えば,「消防車は何台必要か?」と同様の議論 経済学=市場万能主義ではない ⇒ 市場は失敗することがある 自給率と食料安全保障は必ずしも直接に結びつかない 両者のギャップ ⇒ 食料消費の増加(高カロリー化),食料消費パターンの変化(高級化,外部化)に依存 自給率の低下要因 ⇒ コメの消費減少の影響がもっとも大きい コメの消費拡大運動(農水省) なぜ成功しないか? 通説:コメは主食であるから,消費量は価格変動の影響を受けない(需要の価格弾力性はゼロ)。 したがって,食事に対する好み(嗜好)の変化がコメばなれの要因である ⇒ この通説は正しいか? • 日本農業のミス・マッチと競争力 食料需要と食料供給のミス・マッチ ⇒ 変わらぬコメ偏重 日本農業の競争力 食料品価格は海外の主要都市と比較しておよそ3割高(内外価格差) 内外価格差=生産者価格(生産コスト)の格差+流通経費の格差 生産コストの格差=生産効率の格差+生産要素価格の格差 需給のミス・マッチと競争力は,食料政策の適切さに依存している ⇒ 政府は失敗することがある • 社会科学の有用性 市場の失敗と政府の失敗の対処方法 私的財と公共財の最適配分 食料および農業問題をどう解決していけばよいのだろうか? 10 食料経済学入門(応用編) ■問題1:食料需給の世界市場における不均衡(先進国の過剰と途上国の不足) 通説 ⇒ 先進国と途上国の技術格差,地域に特異的(local specific)な農業技術移転の困難性 通説に対して,技術的問題よりも経済的問題であるとする考え方(D. W. Johnson, T. W. Schultz) ⇒ 先進国の農業保護と途上国の農業搾取が不均衡の原因である ■なぜ途上国は農業を搾取する必要があるのか? 戦略的工業化の正当性 → 輸出ペシミズムと輸入代替工業化 輸出ペシミズム(Export Pessimism,R. Prebisch) 一次産品の需要弾力性 ⇒ 先進国では価格弾力性,所得弾力性ともに小さいので,途上国が一次 産品の生産性を向上させて輸出を増加させると,先進国の工業製品(弾 力的需要)に対する相対価格が低下 ⇒ 自由貿易の結果,交易条件が悪化して外貨収入減少や貿易収支の赤字をもたらし,やがて途上 国の経済発展は停止する ⇒ 経済発展のためには貿易を制限して,一次産品依存から脱却することが必要(対抗策) ⇒ 近代化(Modernization) = 工業化(Industrialization) = 保護主義(Protectionism) という図式の成立 輸入代替工業化(Import Substituting Industrialization,W. A. Lewis,R. Nurkse,R. Prebisch) 政策的保護のもとで,国内市場を自国の工業に確保して工業化を進める 輸入産業であった工業を保護し,輸出産業であった農業を搾取する効果 政策手段 ・工業製品の輸入制限(輸入割当や関税 import quota & tariff) ・一次産品に対する輸出税(export tariff) 工業製品の国内価格 ↑ 賃金財としての農産物国内価格を政策的に抑制 ・為替操作(固定相場制による自国通貨の過大評価 overvalued exchange rate) ⇒ 自国の輸入産業(工業生産の原材料や資本財)に有利 ⇒ 自国の輸出産業(農業,鉱業)に不利 p p DA DB SA SB pA pB 保護主義に よる分断 q 0 q 0 先進国の農業保護 途上国の農業搾取 11 ■問題2:日本における食料自給率の低下 ■食料自給率の低下要因① ⇒ 農産物の生産コストが高い ⇒ 脆弱な国際競争力 通説:日本の農業は農家1戸当たりの経営規模が小さく,生産費が割高なため自給率が低下 ⇒ この通説は正しいか? ⇒ 要素賦存の問題だけでなく,政策の歪みも影響(政府の失敗) ⇒ 『日本の米作とコメ政策の展開』 農業基本法(1961):農家の規模拡大と生産性向上による「自立経営」の育成(構造政策) 背景:高度経済成長による農工間所得格差の顕在化 ⇒ 他産業並み所得を稼得できる経営 政策体系の不整合(農業基本法と農地法) ⇒ 農地貸借困難 農地法(52):自作農主義(農地はその耕作者自らが所有することが最も適当) 理念:地主制の復活防止 ⇒ 貸借については小作人の「耕作権」を強力に保護 ⇒ 貸付地の供給を抑制 高度経済成長による土地需要 ⇒ 農地価格の高騰と転用期待の形成 ⇒ 農地売買困難 資産としての農地保有 ⇒ 兼業農家の農地供給を抑制 農業の採算ベースを超える地価形成 ⇒ 専業農家の農地需要を抑制 政策転換の遅れ(農用地利用増進事業:75 年 ⇒ 70 年の兼業農家割合はすでに 84%) 結果の目的化:構造政策の失敗 ⇒ 価格政策で農工間所得格差の是正を目指す ⇒ 供給過剰(60 年代後半) ⇒ 生産調整(70∼) ⇒ 減反強化と規模拡大という矛盾を生む ■食料自給率の低下要因② ⇒ 品目別ではコメの消費減少の影響が最も大きい コメの消費拡大運動(農水省) ⇒ なぜ成功しないのか? 通説:コメは主食であるから,消費量は価格変動の影響を受けない(需要の価格弾力性はほぼゼロ) したがって,食事に対する好み(嗜好)の変化がコメばなれの原因である ⇒ この通説は正しいか? ⇒ 『コメの家計消費が減少する要因』 「コメばなれ」の主要因は内食(家庭の調理による食事)消費量の減少 外食や中食のコメ消費はそれほど減少していない ⇒ もし通説が正しければ,内食,中食,外食のすべてで消費量が減少しているはずである 仮説1:賃金率の上昇はコメの内食消費を減少させる 例)食材を購入して家庭で炊事をするよりも,外で働いてそうざいを購入する方が安上がり 仮説 2:世帯規模の縮小はコメの内食消費量を減少させる 例)単身家計の食費×2 > 2 人世帯の食費 ⇒ 家事の生産効率の問題 ⇒ コメ消費量の減少は賃金率の上昇(=時間の価格の上昇)と世帯規模の縮小により炊事のコストが 上昇したためである ⇒ 消費減退に歯止めをかけるには・・・ (1) 家計の生産活動(家事など)に対する支援策 12 (2) 私的財と家計内公共財の最適配分