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華南・アジアビジネスリポート第33号

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華南・アジアビジネスリポート第33号
Mizuho Bank, Ltd., Hong Kong Corporate Banking Division No.1
China ASEAN Research & Advisory Department
33
Vol.
J u n e
2014
華南・アジアビジネスリポート
CCOONNTTEENNTTSS
B
Brriieeffss &
&E
Eddiittoorriiaall
T
Tooppiiccss
ミャンマー・ティラワ SEZ の最新状況 ····················· 3
~みずほカオルーン・セミナーより~
ASEAN に対する期待と懸念を交錯させる日本企業·········
~2014 年2月アジアビジネスアンケート調査結果~
6
貿易決済におけるリスクとヘッジ手法 ····················
11
R
Reeggiioonnaall B
Buussiinneessss
India インドビジネス最新情報 [10]
インド新会社法における監査人に関連する規定············
15
Vietnam
プロジェクトオフィスのライセンス申請手続き、
取引通貨および会計・税務(後編) ·······················
18
Malaysia / Singapore
マレーシアおよびシンガポールにおける GST 最新動向······
22
China 中国ビジネス法律講座 [45]
労務派遣新規定による外資企業への影響およびその対応策 ·
25
Hong Kong
進出事例から見る香港の活用方法 ······················
30
M
Maaccrroo E
Eccoonnoom
myy
アジア経済情報: 台湾································ 35
South China - Asia Business Report Vol.33
Briefs
T
Tooppiiccss
ミミャ
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~
ャン
ンマ
マー
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ティィラ
ラワ
ワ SSEEZZ の
の最
最新
新状
状況
況~
民主政権の誕生から3年を経て、対外経済開放に向けます
ます期待が高まるミャンマーでは今、日緬の官民が共同で開
発するティラワ経済特別区(SEZ)の整備が着々と進んでい
る。製造拠点のチャイナ・プラスワン候補として、あるいは手
付かずの国内市場開拓に向け、同 SEZ への進出を念頭に置
く企業も少なくない。
かかる状況下、みずほ銀行香港支店では5月 23 日、ミャンマーの投資環境を紹介するセミナーを開催し
た。ここでは、セミナーでの講演より、ミャンマーの投資環境およびティラワ SEZ 開発の進捗や足もとの誘致
状況をご紹介する。
AASSEEAANN に
に対
対す
する
る期
期待
待と
と懸
懸念
念を
を交
交錯
錯さ
させ
せる
る日
日本
本企
企業
業~
~22001144年
年 22 月
月ア
アジ
ジア
アビ
ビジ
ジネ
ネス
スア
アン
ンケ
ケー
ートト調
調
査
査結
結果
果~
~
みずほ総合研究所が今年2月、日本企業約 1,000 社から回答を得た「アジアビジネスアンケート」の結果
概要をお伝えする。今年の調査では、海外展開における最有望先として ASEAN が昨年に続きトップを維持
し、2位の中国との差をさらに広げることとなった。他方、ASEAN やインドでは昨今、政治・社会の混乱による
企業活動への影響が懸念されている。見通しが難しい情勢の中、日本企業はどこに向かおうとしているの
か。アンケートから垣間見える日本企業のアジアビジネスへの取り組みと傾向を解説する。
貿
貿易
易決
決済
済に
にお
おけ
ける
るリ
リス
スク
クと
とヘ
ヘッ
ッジ
ジ手
手法
法
貿易決済は、輸入者、輸出者それぞれが有するリスクに対応したり、利便性を追求する形でさまざまな商
品が開発され、工夫を重ねつつ発展してきた。ここでは代表的な貿易決済の方法と流れ、また各々が抱える
リスクを俯瞰しつつ、電子化への対応を含めた足元の動向についても解説する。
R
Reeggiioonnaall B
Buussiinneessss
点からも、新会社法の規定を理解し、これに則った適
切な手続きを進めていくことが不可欠となろう。
インドビジネス最新情報 [10] インド新会社法
における監査人に関連する規定
プロジェクトオフィスのライセンス申請手続き、
取引通貨および会計・税務(後編)
インドは会計処理や税務が複雑な国として知られ、
すべての法人に法定監査が義務付けられている。改
工場やインフラの建設など、外国企業が現地法人を
正会社法では、監査をより厳格かつ責任を持って行う
設立せず、特定の短期プロジェクトに従事するための
よう、監査人の任命や当局への届け出手続きなどに変
プロジェクトオフィスについて説明する。後編では、プロ
更が加えられているほか、監査人のローテーションに
ジェクトオフィスにおける外国契約者税の適用対象と
関する規定も設置された。コンプライアンス遵守の観
納税方法から個人所得税まで、各種税務手続きのほ
Jun 2014 |
1
South China - Asia Business Report Vol.33
か、税務調査にかかる留意点について概説する。
マレーシアおよびシンガポールにおける
GST 最新動向
進出事例から見る香港の活用方法
国際ビジネスを行うにあたり、香港に拠点を置く日
系企業が年々増えている。香港拠点設置の理由は企
業によりさまざまであるが、ここでは最近の日本企業
来年4月1日からの導入が決定したマレーシアにお
の香港への進出事例から、投資目的、事業拠点の活
ける消費税(GST)について概説する。また、すでに
用方法、享受しているメリットおよび直面している課題
GST を導入しているシンガポールで開発された、GST
などについて、4つのパターンを紹介する。
の法令順守レベルの自己診断ツール、ASK 制度のほ
か、今年に入って行われた手続きの簡素化など、GST
に関連するトピックについても解説する。
中国ビジネス法律講座 [45] 労務派遣新規定
による外資企業への影響およびその対応策
M
Maaccrroo E
Eccoonnoom
myy
アジア経済情報: 台湾
2013 年 4Q の実質 GDP 成長率は、前期比年率+
7.3%と、3Q の同+0.3%から大幅に伸びを高め、13
中国現地法人において、派遣労働者は一般的な雇
年通年では前年比+2.1%となった。欧米向けを中心と
用形態の一つである半面、安易な雇用調整による労
する輸出の回復や、好調な個人消費が貢献したと見
働者の権利を保護するため、法・規制が整備されつつ
られる。
ある。ここでは、12 年末に改正された労働契約法や、
他方、足元は回復の勢いが弱まっており、今後は
今年3月に施行された労務派遣暫定規定などを踏ま
回復基調を保つものの、緩やかな回復にとどまり、14
え、派遣労働者雇用にかかる留意点とリスク、また対
応策について考察する。
年の実質 GDP 成長率は+3.0%、15 年は+2.9%と予
測する。
Editorial
みずほ総合研究所が毎年実施しているアジアビジネスアンケートの結果が発表されました。昨年に続き、今後
最も力を入れていく予定の地域トップは今年も ASEAN となり、中国との差をさらに広げることとなりました。拠点展
開先も中国が頭打ちとなっているのに比べ、ASEAN はじりじりと上昇。各機関・団体が実施しているアンケート調
査でも同様の結果が示されており、日本企業の意識がさらに ASEAN へと向かっていることを裏付けています。
他方、その ASEAN では、政権交代や国内政治の混乱、領海問題に端を発したデモなどが相次ぎ、現地に進出
する日系企業、あるいは進出を検討する企業の経営戦略に影を落としています。来年の ASEAN 経済共同体設立
を控え、本来なら今が投資拡大のチャンスとしたいところですが、米 QE3 縮小を受けた通貨急落への警戒感もあ
り、思うように描けない青写真に困惑する向きも多いのではないでしょうか。
刻々と動くビジネスの場では、つい目先の事象や課題に目を奪われがちですが、遠くの国で起きたことが
いつ足元のビジネスに影響を与えるとも限らないことは常々、実感しておられるとおりです。アンテナを高く、
視野を広く保ちつつ、2手、3手先の展開まで検討しておく心づもりが、さらに求められる時代となっているよ
うです。
Jun 2014 |
2
South China - Asia Business Report Vol.33
ミャンマー
ティラワ SE Z の 最 新 状 況
~ み ずほ カ オ ル ー ン ・ セ ミ ナ ーよ り ~
Myanmar Japan Thilawa Development Ltd.
梁井 崇史 President & CEO
ミャンマーに民 主 政 権 が誕 生 してから丸 3年 が経 過 した。対 外 開 放 政 策 に舵 を切 ったミャン
マー政 府 は法 ・規 制 やインフラ の整 備 に着 手 。日 本 ・ ミャンマー両 国 によるティラ ワ経 済 特 別 区
( ティラワ SEZ) の開 発 もいよいよスタートし、安 価 で豊 富 な労 働 力 を誇 る同 国 への関 心 はます
ます高 まっている。みずほ銀 行 香 港 支 店 では5月 23 日 、ミャンマーの投 資 環 境 を紹 介 するセミ
ナ ーを開 催 した。ここで は、セ ミ ナーでの 講 演 より 、ミ ャ ンマ ーおよ びティラ ワ SE Z の 足 もと の 状
況 をご紹 介 する。
オールジャパン体制で開発
日本、ミャンマーの官民が共同で開発するティラ
ワ SEZ は、2015 年半ばの完成を目指して現在、オ
ール・ジャパン体制による第1期の開発工事が着々
と進んでいる。足もとでは、土を盛る工事がほぼ終
わり、これから道路や、配管、配電を整備していくと
ころで、工事は来年(2015 年)の半ばに終わる予定
だ。
SEZ のリース予約受付は6月以降を予定してい
る。土地は引き渡し可能な状態となっているが、現
在、当地は雨季のため、工場の建設等を始められ
るのは 11 月以降になる。多くの投資家から高い関
心を寄せていただく中、第1期開発分のほとんどは
既に、リース予約の意向をいただいている状況で、
急遽、第2期分の一部について追加で開発すること
となった。
また、当地は河川に近いものの、洪水リスクは低
く、地盤も固い。周辺人口も 20 万~30 万人おり、労
働力についても当面、問題はないといえるだろう。
プラスワンによる進出も多数
進出を予定されている 41 社のうち、国・地域別で
は日本企業が最も多く、次いで香港企業が多い。
昨今のベトナム情勢を受け、中華系企業にとってベ
トナム進出の壁が高くなっていることもあり、チャイ
造成が進むティラワ経済特区
ナ・プラスワンを目的とした進出であるようだ。
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3
South China - Asia Business Report Vol.33
業種別では、物流関係の4社を除き、国内市場
【ティラワ SEZ の立地】
向けが 21 社、輸出向けが 16 社。国内向けで最も
ヤンゴン
多いのが食品関連で、他に、建材、日用品、自動
車関連などとなっている。輸出企業では、縫製、靴、
電子部品、自動車部品、家具などで、いずれも安
ティラワSEZ
ティラワSEZ
ヤンゴン市街地から
約20km
(車で1時間弱)
価な労働力や、優秀な人材の確保を目的としてい
る。もちろん、ミャンマーもいずれは人件費が上昇し
ティラワ港
ていくと考えられるが、スタートラインが低いため、
他国に比べ割安感があると考えられよう。
れないため、規制業種でも 100%外資での設立が
また、14 年1月の改正 SEZ 法施行により、SEZ に
可能であることなど、SEZ ならではの恩恵は多い。
入居する輸出企業であれば法人税が7年間免除、
現状、稼働している SEZ はティラワのみであること
5年間半減、国内向け企業であれば同5年間免除、
を考え合わせると、特に製造業企業がミャンマーに
5年間の半減となるほか、配当送金課税0%などの
進出するのであれば、ティラワしか選択肢がないと
優遇税制を享受できるなど、他国に比べても有利
いっても過言ではないだろう。
な条件がそろっている。さらに、設立認可等の手続
きを一元化するワンストップ・サービスセンターが設
“白紙”の国内市場に期待
置されるほか、外国投資法が SEZ 企業には適用さ
国内市場を目指す企業にとっては、人口約 6,000
ミャンマー投資は今がチャンス
在香港ミャンマー総領事館 Zaw Zaw Soe 総領事
昨今、ミャンマーにビジネスチャンスを見出した中国、香港
の投資家によるミャンマー投資が本格化している。
ミャンマー政府は今、国家経済政策の下、中央集権的な体
制から、市場経済への転換、また工業化による発展を全国で
推し進めている。また、外国投資家からのインフラ整備にかかる強い要望にこたえるため、19 の工業
団地と、ティラワ SEZ を含めた3つの SEZ を設置・運営している。
ミャンマーは若い労働力や、石油、天然ガスをはじめとする豊富な天然資源など、無限のビジネス
チャンスにあふれた国であり、海外からの投資家を歓迎している。ミャンマーに関心を持つ投資家にと
って、今がまさにミャンマーへの投資、またミャンマーとのビジネスにおけるベストチャンスであることを
強調させていただくとともに、日本とミャンマーの各セクターにおける協力関係が、友好の精神と相互
理解の下、さらに発展し、Win-Win の関係を築いていけると確信している。
Jun 2014 |
4
South China - Asia Business Report Vol.33
万人で一人当たり GDP が 1,000 米ドルに
満たないミャンマーは、小さい市場であろ
う。しかし、15 歳以下の若年人口の比率
【表1】ヤンゴン日本人商工会議所会員社数と日本人小中学校
生徒数の推移
(社)
200
日本人商工会議所会員社数
日本人学校小中学校生徒数
(人)
100
が 29%と高く、人口ボーナスが出やすいこ
80
150
と、また豊富な天然資源の輸出による経
済発展で人々が豊かになっていく可能性、
60
100
40
さらには競合プレーヤーが存在しない、白
50
20
紙の国であるという面白みがある。小規模
ながらミャンマーに拠点を設置する日系企
0
0
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 (年)
業が急増している(表1)のも、こうした魅
力を認識したうえで、いち早く進出すること
でマーケットリーダーを目指すためと考えられよう。
民主化は着々と進行
(資料)ヤンゴン日本人商工会議所などよりみずほ銀行作成
府が関与していることが大きな意味を持つことにな
ろう。
特に、テインセイン大統領をはじめ、政府要人
ミャンマーは民政化してまだ3年と、今後の政治
が SEZ を訪問するたびに、SEZ の稼働に不可欠
動向をはじめ、さまざまな懸念事項がある。ただし、
な周辺インフラについて、その場で担当閣僚に進
政府は 2003 年の民政化ロードマップ発表以降、
捗の確認や指示を出すなど、ティラワ・プロジェク
着々と民主化を推し進め、国の発展、ひいては国
ト成功に向けた政府の本気度を感じている。資金
民が豊かになるために外資誘致が必須であると認
面でも、日本政府が円借款で全面的にサポートし
識している。ティラワ SEZ についても、今後、政府当
ており、送電線をはじめ、変電所、発電所、ガスパ
局との摩擦が避けられない場面に直面する可能性
イプライン、道路、港などが整備される予定だ。今
はあるが、当プロジェクトにミャンマー、日本の両政
は脆弱なインフラであるが、今後、ティラワ周辺エ
リアが国内で最もインフラが整った地域となること
を確信している。
テ ィ ラ ワ SEZ 開 発 の 陣 頭 指 揮 に 当 た る 、 梁 井 崇 史
Myanmar Japan Thilawa Development Ltd. President &
CEO
Jun 2014 |
5
South China - Asia Business Report Vol.33
ASEAN に対する期待と懸念を
交錯させる日本企業
~2014 年 2 月アジアビジネスアンケート調査結果~
酒向 浩二 みずほ総合研究所 アジア調査部
みず ほ総 合 研 究 所 では 19 99 年 度 以 降 、会 員 企 業 を対 象 として、「 アジアビジネスに関 する
ア ン ケ ー ト 調 査 」 を 毎 年 度 実 施 し て い る 。 本 稿 は 、 2013 年 度 調 査 ( 14 年 2 月 実 施 、 資 本 金
1, 000 万 円 以 上 の日 本 国 内 の製 造 業 4,581 社 に 調 査 票 を発 送 し、1, 081 社 からの有 効 回 答 )
結 果 を 、前 回 の 20 12 年 度 調 査 と比 較 したう えでまとめ たものである。
はじめに~ASEAN が最注力先の地位を維持する
のアジア拠点の収益満足度は、中国・NIES では改
も、収益満足度は低下~
善したが、インド・ASEAN では悪化した。日本企業
2013 年のアジア 1 の経済状況を振り返ると、中国
では輸出の鈍化を公共投資などが下支えして前年
同等の実質GDP成長率となった。NIESでは、米国
経済の回復に伴って輸出主導で成長率は上向い
た。また、大幅な経常収支赤字を抱えるインドとイ
ンドネシアでは、年央以降の米国のQE3 縮小観測
に伴って資金が流出して自国通貨が急落したこと
を受けて、緊縮政策がとられたことなどから、景気
は減速した。さらに、タイでは、13 年 11 月以降、反
の海外展開における最注力先は、12 年秋の尖閣
諸島問題顕在化の直後となった前回調査以降、中
国から ASEAN にシフトしている。日中関係の緊張
が続いていることに加え、中国で人件費上昇が続
き、成長率の下ぶれ懸念も残ることなどから、今回
調査でも ASEAN 最重視の姿勢は続いた。ただし、
ASEAN においても、景気減速、人件費上昇、さらに
政治混乱などの課題が顕在化しており、収益満足
度が低下している様子が明らかになった。
政府デモ隊によるバンコク封鎖など政治混乱が続
アジアビジネスへの取り組み~ビジネス拠点の設
いており、実体経済にも悪影響を及ぼしている。こ
置が一貫して上昇
れらの結果、インド・ASEANの成長率はともに減速
した。
このような経済環境を受けて、13 年の日本企業
日本企業全般を概観するために、回答したすべ
ての企業 1,081 社にアジアビジネスへの取り組みを
聞いたところ、約7割の企業が「何らかのアジアビジ
ネスを行っている」 2 と回答した。ビジネスの内訳を時
1
主な質問は、中国、NIES(韓国、台湾、香港、シンガポー
ル)、ASEAN5(タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、
ベトナム)、インドの 11 カ国・地域を対象とし、一部の質問は、
カンボジア、ラオス、ミャンマー、バングラデシュも対象とし
た。
2
アンケートでは、「アジアビジネスを一切行っていない」とい
う回答項目を設け、100-「アジアビジネスを一切行っていな
い」=「何らかのアジアビジネスを行っている」とした。
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6
South China - Asia Business Report Vol.33
系列 3 でみると(図表1)、とりわけ「現地にビ
図表1 時系列取り組みトレンド(複数回答)
ジネス拠点を設けている」の回答率が一貫
60
(%)
貿易取引(輸出)を
行っている
して上昇している点が注目される。10 年度
現地にビジネス拠
点を設けている
から 12 年度上期までは1ドル 80 円前後の
40
円高水準で推移したことが、コスト削減のた
一貫して上昇
貿易取引(輸入)を
行っている
めの生産拠点のアジアシフトを後押し、12
一切行っていない
20
年下期以降は成長市場を取り込むための
技術取引を
行っている
アジア展開が続いていると考えられる。
0
一方で、円安環境に転じてからは、「輸
出を行っている」の回答率が高止まりして
いるのに対して、「輸入を行っている」の回
1999
01
04
06
08
10
12
(年度)
(注)時系列データの扱いについては脚注 3 参照。以下同。
(資料)みずほ総合研究所「アジアビジネスに関するアンケート調査」。
以下同。
答率は低下傾向となっている。円安に伴い、日本企
拠点展開は中国で頭打ち、矛先は ASEAN へ
業の主要調達先であるアジアからの輸入品の価格
が上昇したことから、調達先の見直し(国産品への
転換など)が図られたものと推察される。
「現地にビジネス拠点を設けている」と回答した
企業 356 社に、どこに拠点を設けているかを質問し
たところ、前回調査と比べ順位は変わらなかったが、
時系列でみると、中国は頭打ちとなっている(図表
図表2 アジア拠点状況の推移(複数回答)
2)一方で、ASEAN は回答率の緩やかな上昇傾向
(%)
頭打ち
80
中国
が続いており、日本企業のアジア展開の矛先が
ASEAN に向いている様子が窺える。
60
ASEAN
(1)収益満足度は NIES・中国で改善、ASEAN・イン
緩やかな上昇持続
40
NIES
ドで悪化
20
アジア拠点における現在の収益満足度 4 をみると、
インド
0
2001
04
06
08
10
12 (年度)
(注)インドは 06 年調査よりアンケート対象に加えたた
め、それ以前のデータはない。以下同。
いずれもマイナスとなった。時系列でみると、金融
危機による落ち込みからアジア全域が景気回復を
果たした 11 年度を転機に、アジア全域でDIの緩や
かな低下傾向が続いている(次頁図表3)。中国で
3
本稿における時系列比較は、「資本金 5,000 万円以上の
製造業」に対象データを統一したうえで行っている。そのた
め、2007~13 年度データについては、日本企業の分析で
採用している「資本金 1,000 万円以上の製造業」の調査結
果とは値が異なる。なお、アンケート調査実施時のサンプル
抽出方法を 02 年度に変更したため、1999~02 年度調査は
「無 作 為 抽 出 の製 造 業 」、 04~ 06 年 度 調 査 は「資 本 金
5,000 万円以上の製造業」がベースとなっている。また、03
年度については、本調査を実施していないため、データが
欠落している。
は、日中関係の緊張に伴う日本製品買い控えが重
なったことから、12 年度は低下傾向が顕著であった
4
「満足」「やや満足」「どちらでもない」「やや不満」「不満」の
5段階で選択を求め、「満足」と「やや満足」の合計から「不
満」と「やや不満」の合計を差し引いて、収益満足度 DI を算
出した。
Jun 2014 |
7
South China - Asia Business Report Vol.33
が、今回調査では買い控えの動きは一定
程度解消され、DIに底打ちの傾向がみられ
図表3 拠点別にみた日本企業の収益満足度 DI の推移
2004
「満足+
やや満足」
06
08
10
12
30
る。今後、成長率の下ぶれ懸念が残るなか
(年度)
で 5 、日本企業の収益満足度がどこまで回
復するか注目される。
ASEAN低下
収
益
認
識
一方、成長市場として期待が高まってい
るASEANで、13 年度にDIがマイナスに転じ
0
NIES
ASEAN
た点は気掛かりである。ASEANの経済大
中国
国であるインドネシアとASEANの産業集積
地であるタイの景気動向および政治動向 6
「不満+
やや不満」
-30
の行方が、今後の日本企業の収益満足度
を左右することになりそうだ。
(%ポイント)
中国底打ち
インド
(注)収益満足度DI=(「満足」+「やや満足」)-(「不満」+「やや不満」)。
サプライチェーン強化とともに、円安環境下で地場
(2)中国・ASEAN とも既存拠点のオペレーション強
化を優先
NIES 企業の調達先・販売先を見直すことが重視さ
れている様子が窺える。
中国、ASEAN、NIES、インドの各拠点で、今後2
~3年で取り組みを検討している項目をみると、中
国、ASEAN ではいずれも、「ライン合理化等による
現地体制の増強」の回答率が最も高くなった。中国
では、新規投資を抑制し、既存拠点の合理化を進
めることで収益性の高い体制を構築することが、
ASEAN でも、拠点の経営基盤を固めることに注力
している様子が窺える。
NIES では、「調達先・販売先の見直しによる現地
体制の増強」および「本社等とのサプライチェーン
網の構築拡充」の回答率がともに上昇し、日本との
5
中国の実質 GDP 成長率は 13 年 7~9 月期+7.8%、同 10
~12 月期+7.7%、2014 年 1~3 月期+7.4%と低下が続い
ている、政府は大型景気刺激策の発動には慎重であるため、
14 年通年の政府目標である+7.5%成長の達成を危惧する
見方も出ている。
6
インドネシアでは 14 年 10 月に新大統領が就任予定。ジョ
コ・ウィドド現ジャカルタ州知事が就任する可能性が高い。タ
イでは 14 年 5 月 22 日に、クーデターにより軍が全権を掌握
しているが、今後の民主化回帰のプロセスは不透明。
インドでは、「新拠点を設け現地体制を増強」の
回答率低下傾向がさらに顕著になっている。一方
で、「ライン合理化による現地体制の増強」、「現地
拠点支援のための増資」の回答率は上昇しており、
新規投資よりも既存拠点の体制強化の重要性が
増しているといえそうだ。インドは長期的な成長ポ
テンシャルは高い国と認識されているが、13 年の
成長率は+4.6%まで減速するなど、日本企業はイ
ンド投資に対して足元では慎重 7 になっているとみ
られる。
中国から ASEAN へのシフトは続くが、頭打ち感も
アンケートに回答した全企業に「今後、最も力を入
れていく予定の地域」を質問したところ、前年同様、
ASEAN が1位、中国が2位なった。前回調査で2位
7
14 年 5 月 26 日に発足したモディ新政権が、成長率を引き
上げるための諸施策(インフラ整備、製造業振興、規制緩和
など)を実現できるかどうかが当面の焦点となりそうである。
Jun 2014 |
8
South China - Asia Business Report Vol.33
に陥落した中国は、ASEAN との差がさらに開く結果
となった(図表4)。各国・地域への注力理由は、
ASEAN・中国・NIES・インドでいずれも「現地市場の
図表4 日本企業の「今後最も力を入れていく予定
の地域」のトレンド(複数回答)
(%)
50
中
国
W
T
O
40
加
盟
60
拡大動向」が1位となった。
中国は 13 年度に拠点の収益満足度は底打ちす
金
融
危
機
るも、人件費の上昇と日中関係の緊張が続いたこと
に加え、成長率の下ぶれが懸念されていることが影
響したと考えられる。ASEAN は、人口増が続く国が
ASEAN
日
中
関
係
緊
張
30
20
力を高めていると考えられる。ただし 13 年度は、米
国の QE3 縮小観測に伴うインドネシアでの通貨急落
NIES
米国
多いことから市場拡大が期待でき、15 年に ASEAN
経済共同体が設立されることも、投資先としての魅
中国
インド
10
欧州
中南米
0
1999
01
04
06
08
10
12 (年度)
と緊縮政策のほか、タイでの政治混乱も生じた。
前回調査と比較すると、これら4カ国および前年度
ASEAN においては、日本との二国間関係にかかる
に民主化の加速によって注目度が高まったミャンマ
リスクは低いといえるが、景気減速、人件費上昇、
ーの回答率は頭打ちとなり、現実的な投資先として、
内政混乱、さらには自然災害リスクも顕在化した形
労働力が比較的豊富なフィリピンや、相対的に労
である。これらの要因から、首位の座は堅持するも
賃が低いカンボジア、ラオスの3カ国の回答率が高
回答率は横ばいという結果に繋がったとみられる。
まる結果となった。
さらに ASEAN に最も注力すると回答した企業に
なお、本質問に「予定なし」とした回答率が前回の
国別の選択(ASEAN5とカンボジア、ラオス、ミャン
32.2%から 36.2%へと高まっている。これは、13 年度
マーの計8カ国)を求めたところ、タイの回答率が
にアジアの景気リスク・政治リスクがにわかに高まっ
58.1%で最も高くなり、インドネシア(48.0%)、ベトナ
たことに加え、安倍政権発足以降の日本国内の景気
ム(44.6%)、マレーシア(20.5%)が続いた(図表5)。
回復に伴い、海外よりも国内市場への関心を高める
図表5 日本企業の「今後最も力を入れていく予定
の地域」の ASEAN の内訳(複数回答)
58.1
59.5
タイ
48.0
48.4
インドネシア
44.6
46.5
ベトナム
20.5
21.8
マレーシア
頭打ち
言及して結びとしたい。
4.9
4.8
カンボジア
2013年度
2012年度
2.1
1.4
ラオス
0
注目点~
本企業のアジアビジネスをみるうえでの注目点に
8.0
9.9
ミャンマー
最後に~14 年度のアジアビジネスをみるうえでの
最後に、アンケート結果を踏まえて、14 年度の日
13.1
11.7
フィリピン
企業が増えたことを示唆しているといえよう。
20
40
60 (%)
第1に、ASEAN・インドの政治・社会の混乱リスク
に対する警戒が続くとみられる点である。
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9
South China - Asia Business Report Vol.33
12 年度に日中関係が緊張して以降、日本企業が
中国の代替先として期待を高めている ASEAN であ
るが、最も日本企業が集積するタイにおいて、政治
の混乱が長期化しつつある。サプライチェーンへの
影響こそ限定的ではあるが、実体経済の悪化に加
え、投資認可の遅延、洪水再発防止工事の遅延な
ど、弊害は徐々に大きくなってきており、事態の収
束が切望される。
される中国に対して、日本企業の関心が全体的に
は低くなる状況は続きそうである。
ただし、13 年度の日本企業の中国拠点の収益満
足度は、前年度にみられた日本製品買い控えの動
きが緩和したことから、輸送機械、鉄鋼、化学など多
くの業種で底打ちしているのも事実である。中国は、
地理的優位性から日本との生産分業体制を構築し
やすく、比較的豊富な技術系人材も擁している。そ
さらに 14 年は5月にインドで政権が交代し、10 月
のため、全体的には新規投資の抑制は続くが、チャ
にはインドネシアでも政権交代を控えているほか、
イナリスクを踏まえつつも、中国市場の重要性を再
ミャンマーでも 15 年秋の総選挙を控えた動きが活
評価したり、中国拠点を戦略的に活用しようという動
発化しよう。選挙前に、与野党間の対立が先鋭化し
きも、一部の業種では進捗すると見込まれよう。
て日々の拠点オペレーションを阻害することがない
か、政権交代により外国企業に不利な政策がとら
れることはないか、日本企業は、警戒を続けること
になりそうだ。
第2に、ASEAN・インドにおいて、為替急落に対
する警戒も続くとみられる点である。
最後に、アジアの景気下振れリスクが残るなか、日
本企業のシェア争いの激化が見込まれる点である。
13 年度下期以降、新興国全般の景気は減速し
ており、アジアもその例外ではない。一方で景気が
減速すれば、日本企業は、より自社製品のシェア
拡大を迫られることになるだろう。今般調査でも、シ
13 年は、年央以降に米国の QE3縮小観測に伴
ェア拡大を最重要経営課題とする回答が急増して
って多大な経常収支赤字を抱えるインド、インドネ
おり、自社ブランドを浸透させる必要性が高まって
シアなどから資金が流出し、通貨が急落した。通貨
いる様子も窺えた。シェア拡大にあたっては、現地
急落は、現地における輸入価格の上昇をもたらす
の購買力・嗜好に合った戦略製品の投入、販売網
が、産業集積を伴う現地調達率の引き上げには長
の構築に加え、人材育成、コスト削減、現地調達率
い時間を要する。さらに、米国の QE3縮小は当面
の向上など、日本企業の底力が問われることにな
継続され、利上げに転じることも予想されるため、
りそうだ。
為替が安定的に推移するかどうか、留意する必要
があろう。
第3に、中国離れが全体としては続くが、一部で
は見直しの動きも出てくるとみられる点である。
やや改善がみられるも楽観できない日中関係に
【編注】本稿は、酒向浩二「ASEAN に対する期待と懸
念を交錯させる日本企業~2014 年2月アジアビジネ
スアンケート調査結果」(みずほ総合研究所『みずほリ
ポート』 2014 年5月 15 日)の抜粋、転載です。全文
は、以下 URL をご参照ください。
https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pd
f/report/report14-0515.pdf
加えて、人件費の上昇や、成長率の下振れも懸念
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South China - Asia Business Report Vol.33
貿易決済におけるリスクと
ヘッジ手法
植野 太郎 みずほ銀行
グローバルトレードファイナンス営業部 東アジア室
貿 易 決 済 の方 法 は一 般 的 に、「送 金 ベース」と「荷 為 替 手 形 ベース」の2種 類 に大 別 するこ
とができる。さらに、荷 為 替 手 形 ベースの決 済 は取 引 信 用 状 の有 無 の2つに分 けられることに
なるが、このように多 様 な決 済 方 法 が存 在 している背 景 として、輸 出 者 サイドでは、輸 入 者 か
らの代 金 回 収 リスクを排 除 したい、輸 入 者 サイドでは、商 品 の入 手 リスク(輸 出 者 のパフォーマ
ンスリスク)を排 除 したいという思 惑 があり、それに対 応 する商 品 が累 々と積 み上 げられてきた
ことがある。本 稿 では、それぞれの貿 易 決 済 方 法 の特 徴 とリスクに着 目 しつつ、適 切 なリスク
ヘッ ジにつきご 紹 介 し て いき たい。
貿易決済の種類とリスク
【図表1 貿易決済の種類】
前受送金(輸入者:前払送金)
貿易決済の種類は図表1の通りであるが、輸出者、
送金ベース
後受送金(輸入者:後払送金)
輸入者の各々にとって下記のリスクが勘案され、こ
れらのリスクを誰に、どう転嫁させるかが、貿易決
D/P
買取
D/A
取立
信用状無
済の方法を選ぶポイントになる。
荷為替手形
ベース
輸出者にとってのリスク :
買取
信用状付輸出為替
取立
代金回収リスク = 輸入者(バイヤー)の信用リスク
輸入者にとってのリスク :
輸入者にとっては、商品代金を支払ったにもかか
商品入手リスク = 輸出者(サプライヤー)のパフォ
わらず、輸出者が仮に商品を船積しなければ商品
ーマンスリスク
を入手することができず、商品入手リスクがある決
済方法となる。
送金ベースの決済
反対に、輸入者が商品入手後に支払いが行わ
送金ベースの取引には、前受送金(輸入者から
見た場合、前払送金)と後受送金(輸入者から見た
場合、後払送金)の2種類がある。船積前に商品の
代金を受領する決済方法が前受送金で、輸出者に
とっては、代金回収リスクがない取引である一方、
れる決済方法が後受送金(次頁図表2)で、輸入者
にとっては商品入手後に決済をすることから商品
入手リスクがない取引である一方、輸出者から見た
場合、商品を船積してしまったにもかかわらず、輸
入者からの支払いが行われかった場合、代金回収
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South China - Asia Business Report Vol.33
リスクがある決済方法となる。
【図表2】後受送金の決済フローと、送金ベース決済のリスク
②
どちらの決済方法が採用されるかは、輸
①
輸出者
出者と輸入者の力関係によるところも多い
輸入者
⑤
が、どちらも一方がリスクを負担せねばなら
③
④
被仕向銀行
仕向銀行
ず、当該リスクを負担し得る強い信頼関係
輸出者
輸入者
前受送金
前払送金
リスクなし
商品入手リスク
の構築が必要な決済方法とも言える。
荷為替手形ベースの決済
送金ベースの取引では輸出者、輸入者の
後受送金
後払送金
代金回収リスク
リスクなし
①売買契約(輸出入契約)締結
②船積書類(B/L等)発送*
③送金依頼
④送金
⑤支払
*前受送金の場合、船済書類
は支払後。
どちらの決済方法も
偏ったリスクが残る
どちらかに代金回収リスクあるいは商品入手リスクが
ースの決済方法であっても、輸出者にとっては、輸
偏ってしまうことになるが、銀行という第三者を仲介さ
入者の信用リスクが残存することになる。
せることにより、当該リスクを緩和したものが荷為替
手形ベースでの決済方法である。
また、手形の資金化に際しては、手形期日に輸
入者からの実際の支払いにより決済が行われる
荷為替手形とは為替手形に船荷証券(B/L:Bill of
「取立」(図表3)か、手形期日前に輸入者が引受済
Lading)やインボイスといった船積書類が付随した手
みの為替手形を買取銀行(買取を実施する輸出者
形である。この B/L の受け渡しに銀行が介在し、輸入
の取引銀行)が買い取ることで資金化を実施する
者による為替手形の決済(支払あるいは為替手形の
「買取」を選択することができる。
引受)をもって輸入者に B/L を引き渡すことにより、輸
出者にとっては代金回収リスクを、輸入者にとっては
商品入手リスクを軽減することが可能となる。
輸入者の為替手形の引受(手形期
日での支払確約)を前提としている
③
船会社
⑨
①
輸出者
⑪
船会社
②
④
あるが、D/A は輸出者が輸入者に
支払猶予を与える取引となっており、
とができないことから、輸出者のリスクとして買い取
【図表3】荷為替手形ベースの決済フロー(D/A、取立)と信用リスクの有無
し ) と D/A ( Document Against
Acceptance:手形引受書類渡し)が
されることを前提として実施されるものの、買取銀
行は取引関係のない輸入者のリスクを査定するこ
為 替 手 形 の 決 済 条 件 に は 、 D/P ( Document
Against Payment:手形支払書類渡
買取は輸入者からの手形期日での支払が履行
⑤
仕向銀行
仕向銀行
輸出者
⑥
⑩
輸入者
⑧
⑦
取立銀行
取立銀行
輸入者
ため、基本的に輸入者の信用リスク
メリット
メリット
(倒産による手形の不渡り、意図的
代金回収リスク
軽減
商品入手リスク
軽減
な不払い等)を輸出者側がとる取引
デメリット
デメリット
となっている。従って荷為替手形ベ
輸入者の
信用リスク残存
特になし
①売買契約(輸出入契約)締結
②船積依頼
③商品船積
④船荷証券(B/L)
⑤船積書類呈示/取立依頼
⑥取立/船積書類発送
⑦為替手形引受
⑧船積書類交付
⑨B/L提示
⑩手形期日送金
⑪入金
送金ベース決済での偏った
リスクは軽減できるが、
輸入者の信用リスクが残る
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South China - Asia Business Report Vol.33
ることになる。即ち、仮に輸入者か
【図表4】信用状付荷為替手形ベースの決済フロー
らの支払いが履行されなかった場
船会社
合は、輸出者は買取銀行から為替
⑦
手形の買い戻し(即ち、買取資金の
⑥
⑤
⑭
必要である。従って、取立と同様に
取立銀行
⑧
④
輸入者の信用リスクが残存する取
引である。
信用状付き荷為替手形ベースの決済
さて、荷為替手形の取引の中で、
輸入者の信用リスクを排除するた
めに考案されたのが、取引信用状
⑬
①
輸出者
払い戻し)の義務を負う点に留意が
船会社
③
⑨
⑪
輸入者
⑫
②
仕向銀行
L/C
発行銀行
⑩
輸出者
輸入者
メリット
メリット
輸入者の
信用リスク軽減
発行銀行の
信用補完
デメリット
デメリット
• 発行銀行の信用
リスク、カントリー
リスクが残る
• ドキュメンタリー
リスク
L/C発行コストが
L/C発行コストが
かかる
①売買契約(輸出入契約)締結
②L/C開設依頼
③L/C発行
④L/C通知
⑤船積依頼
⑥船積
⑦船荷証券(B/L)
⑧船積書類呈示/取立依頼
⑨取立/船積書類発送
⑩書類チェック
⑪為替手形の引受通知
⑫書類引渡し
⑬B/L呈示
⑭期日入金
輸入者の信用リスクは軽減
できるが、発行銀行の信用
リスク、所在するカントリー
リスクは残る
(L/C : Letter of Credit)である。
カントリーリスクは残ることになる点は留意頂きたい。
輸入者の取引銀行である L/C 発行銀行が輸入者
本来、輸入者の信用リスクを L/C 発行銀行の支払確
に代わって条件付きの支払確約を実施することに
約により補完する決済方法であるため、L/C 発行銀
より、輸出者にとっては、より信用力が高い(であろ
行自体の信用力に問題がないというのが前提である
う)L/C 発行銀行に輸入者の信用リスクを置き換え
が、輸入者が高い信用力を有する銀行と取引がなく、
ることが可能となる(図表4)。
輸出者から見て安心な銀行で L/C の発行がなされな
L/C は国際商業会議所により規定された信用状
い場合や、発展途上国向けの輸出の場合はカントリ
統一規則 (UCP600) を前提として発行されており、
ーリスクがあることから、輸出者としては、更なるリス
その特徴として「独立抽象性」、「書類取引性」の2
クヘッジの対応策が必要となる。
つがある。UCP600 では、L/C が輸出者と輸入者の
間の売買契約等とは別の、独立した取引であること、
また L/C 発行銀行が支払確約をする条件として
L/C 条件に合致した船積書類を L/C の有効期限ま
でに L/C 発行銀行へ呈示しなければならないという
書類取引であるということを規定している。従って、
ディスクレパンシー(L/C 条件と提示された書類と
このように輸出者と輸入者が抱える代金回収リ
スクと商品入手リスクに関し、銀行を介在させること
によってリスクコントロールを図ることで、貿易決済
は発展してきている。一方で、それでも残存するリ
スクに対して対策を講じるために、さらに踏み込ん
だ商品が求められることになる。
の相違)があれば、それが解消されるまで L/C 発
L/C コンファーメーション、L/C フォーフェイティング
行銀行が支払確約を行う義務はないことになる。
の活用
ただし、L/C 発行銀行の支払確約がなされても、
L/C 発行銀行とその所在国のリスクを排除する
L/C 発行銀行自体の信用リスクおよび所在する国の
取引として、L/C コンファーメーション(確認)と L/C
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South China - Asia Business Report Vol.33
フォーフェイティング(輸出
【図表5】L/C フォーフェイティング フロー
者への買戻し請求権なし
⑥
の買取)がある。L/C コンフ
ァーメーションは L/C 発行
⑩
⑤
銀行の信用リスクおよび所
在国のカントリーリスクを
①
輸出者
④
②
③
買取銀行
⑦
⑨
輸出者の確認銀行(L/C コ
支払確約する取引である。
L/C フォーフェイティングは
買取銀行が輸出者への買
L/C
発行銀行
⑧
輸出者
輸入者
メリット
L/C発行銀行の信用
L/C発行銀行の信用
リスク、カントリー
リスク軽減
メリット
ンファーメーションを付与す
る輸出者の取引銀行)が
輸入者
デメリット
L/Cフォーフェイ
L/Cフォーフェイ
ティングのコスト発生
①売買契約(輸出入契約)締結
②L/C開設依頼
③L/C発行
④L/C通知
⑤L/C Forfaiting依頼/Offer Letter
(L/C Forfaiting契約)締結
⑥船積*
⑦船積書類呈示/取立依頼 (買取も可)
⑧書類チェック
⑨L/C発行銀行による輸出為替手形の引受
通知
⑩買戻し請求権無しでの買取/買取金入金
(金利差引後)
* 図表4での船会社のB/L取得の流れは割愛
特になし
デメリット
特になし
L/C発行銀行の信用リスクおよび
所在国のカントリーリスクを
L/Cフォーフェイティングによりカバー
戻し請求権なしで買取を実
れないかというのが、さらなる課題となり、送金ベー
施する取引となっている(図表5)。
スの取引に対して保険会社が提供する取引信用保
これらの商品を活用することによって、輸出者は
L/C 発行銀行の信用リスクを、より信用力が高い取
引銀行に置き換えることが可能となり、概ね、貿易
決済に残存するリスクはカバーされることになる。
険を付保したり、ファクタリング会社が提供する国
際ファクタリングを活用することにより送金ベースの
簡易性を保ちつつ、輸入者の信用リスクを排除す
る手法(もちろん銀行も送金ベースの債権に対して
保証を提供する商品を保有)、さらには貿易取引自
最後に
ここまでで、貿易決済に関わるリスクの概要とそ
の排除方法の変遷につき、概ねご理解いただけた
と思う。一方で、通常の送金決済から L/C 決済に
至るまで、内在するさまざまなリスクに対応するが
ゆえに手続きが煩雑化、複雑化していくという点も
お気づきいただけたと思う。
体を電子化することによる効率化への取り組みも
活発に行われている。詳細な説明は割愛するが、
貿易書類(船荷証券を含む)や L/C を電子化し、銀
行、船会社、通関業者、企業等の関係者全員がネ
ットワークに加盟することで書類のやり取りを Web
上で行い効率化を目指す Bolero、銀行間の決済電
子 化 と 国 際 商 業 会 議 所 が 制 定 し た BPO ( Bank
Payment Obligation)という国際ルールを活用するこ
他方、グローバル競争が進んでいく中で取引のス
と に よ る 効 率 化 を 目 指 す TSU ( Trade Service
ピードアップも求められており、船積書類の現物のチ
Utility)等への企業や銀行の取り組みがメディアで
ェック・プロセスおよび発送プロセスに時間が必要とな
取り上げられることも増えてきており、今後のさらな
る L/C ベースの取引は、相対的に減少傾向にある。
る貿易決済、貿易金融の発展が期待されよう。
そのような中で、L/C 取引と同様の効力を持たせつ
つ、手続きを簡素化できないか、スピードアップを図
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South China - Asia Business Report Vol.33
【India】 インドビジネス最新情報 第 10 回
インド新会社法における
監査人に関連する規定
石崎 弘典 エス・シー・エス国際会計事務所グループ
Corporate Catalyst India Pvt Ltd
2013 年8月に上院を可決し、一気に注目を集
て最初の監査人を選定することが求められている。
めたインド新会社法(以下、新会社法)であるが、
当該条項は旧、新会社法の両方において定めら
インド企業省(Ministry of Corporate Affairs)は同
れたもので、任命された監査人は最初の年次株
年9月 12 日、新会社法における 98 のセクションを
主総会の終結時までには事務所を保有しておく
即日施行すると発表した。それに続く形として、今
必要がある。
年2月 27 日には CSR に関する条項が、3月には
追加で 183 の条項が公表され、これらは4月1日
より施行されると定められている。全般的に、細
かな取り決めがなされるようになったり、新たな概
念や規定が作成されており、インドの日系現地法
人も、適切な対応が求められている。
本章では新会社法の中でも、監査人に関する
項目に絞ってご紹介する。インドは会計処理や税
務が複雑な国として知られ、すべての法的な取り
決めに従うことは困難な作業である。会計や税務
コンプライアンスの順守に関する取りこぼしが多く
なることが予想されるため、法定監査がすべての
法人格を持つ企業に義務付けられている。下記、
会社法の変遷とともに、いかなる変更点が生じた
のか、外観を眺めていきたい。
1.監査人の選任
新会社法において特有な点としては、臨時株
主総会による監査人の任命に関してであろう。設
立後、監査人を迅速に任命することが出来ない
法人も存在する。もし、上述の期限内に取締役会
を行わない場合には、株主は 90 日以内に臨時の
株主総会を開き、監査人を任命することができる
とされた。
原則として、以上の任命手続きの前後に行わ
れるべきとされる項目もいくつか存在する。まず、
任命手続きが完了する前に、監査人は監査を行
う法人に対して、監査を行う旨が記載された文書、
および法によって定められている順守すべきいく
つかの事項を監視人が満たしている証明を法人
に対して送付する必要がある。
さらに、新会社法においては、監査人の任命を
行なった場合、会社は 15 日以内に監査人、およ
インドにおいて、政府系企業を除き、会社は法
び政府当局へ届け出ることが求められている。こ
人格取得後 30 日以内に、取締役会の決議によっ
れに対し、すべての監査人は、会社から監査人と
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15
South China - Asia Business Report Vol.33
しての任命の通知を受けた日から 30 日以内に、
政府当局へ任命を受託する旨あるいは拒絶する
旨を届け出なければならない。旧法においては、
当局への通知は監査人の責任であったが、新会
目的としているに違いない。
3.監査人の解任手続き
旧会社法においては、監査人の解任手続きは、
社法の下では、会社が監査人および当局へ任命
中央政府の事前承認とともに、株主総会普通決
を行なった日から 15 日以内に届け出なければな
議が要求されてきた。しかし、新会社法では、株
らない。これらの届け出欠如に関するコンプライ
主総会特別決議が求められるようになり、手続き
アンス違反は、一日ごとに 1,000 ルピーの罰金が
の重要性が増したと言える。監査人に関する法令
科せられるとされ、手続きの煩雑さのみならず、
改正にも見られるように、監査人はインドにおい
金銭面でのペナルティーも発生するため、留意が
てはより重要な存在と考えられるようになり、その
必要である。
役割は大きくなり、責任も強まっていると言えよ
2.監査人のローテーション
新会社法においては、監査人のローテーション
う。
4.監査人が行うことの可能なサービス
に関する規定が設置されている。当該条項は、旧
監査人は、監査を行う法人に対して、取締役会
会社法には記載されておらず、新たな枠組みとし
や監査委員会の承認に基づき、その他のサービ
て公表された。個人の監査人は連続した5年の期
スを提供することが出来るとされる。ただし、下記
間を、2回に渡って監査人として業務を行うことは
に挙げた所定の一部のサービスについては、直
出来ず、監査を行った監査人は、翌5年間は監査
接または間接的な手法を問わず、当該会社、持
人として再任されることは出来ない。また、監査人
株会社、子会社に対してサービスを提供すること
が法人である場合、この期間は5年から 10 年間
は認められない。
に延長される。
また、監査法人内における、監査責任者、およ
び監査チームの交代についても規定してある。法
人は、株主によって定められたインターバルに基
いて、監査責任者および監査チームが交代する
旨を決定できるとされている。
新会社法では、独立取締役の設置などに代表
される通り、全般的に法人のガバナンスやコンプ
ライアンス順守を強化する枠組みが新たに設置さ
れている。ローテーションに関する規定も、その一
環と考えられ、正統性の高い財務データの算出を
(a) 会計記帳
(b) 内部監査
(c) 財務情報システムの設計と実行
(d) アクチュアリー
(e) インベストメントアドバイザリー
(f) インベストメントバンキング
(g) 財務サービスのアウトソース
(h) マネジメント
Jun 2014 |
16
South China - Asia Business Report Vol.33
まとめ
繰り返しになるが、インドにおいて法定監査は
どの法人にも求められており、煩雑な国内法規制
の中で、適切な会計・財務コンプライアンスへの
準拠を達成するために、重要な役割を担ってきた。
しかし、新会社法では、監査人の重要性はより高
く認識されており、監査人に関連する規定は、より
一層増加している。インドに拠点を持つ法人は、
これらの手続きを理解し、適切に取り進めていくこ
とが求められている。
※次回は第 35 号に掲載します。
石崎 弘典 (いしざき ひろのり)
米国会計士試験合格者
エス・シー・エス国際会計事務所
Corporate Catalyst (India)
Deputy Manager
東京大学在学中の仏留学を経て、東京大学先端科学
技術研究センターにて応用経済学の研究助手として勤
務。在職中、米国会計士試験に合格し、2013 年 2 月より
現職。3 月よりニューデリーに駐在し、現地進出日系企
業に対する会計・税務・法務・労務関連のアドバイザリ
ーサービスに携わるほか新規進出企業への投資アドバ
イザリーも行う。
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17
South China - Asia Business Report Vol.33
【Vietnam】
プロジェクトオフィスのライセンス
申請手続、取引通貨および会計・税務
(後編)
谷中 靖久 KPMG ベトナム
1.はじめに
られる。プロジェクトオフィスは外国契約者によって
設立される組織であるため、この FCT がプロジェク
ベトナムでは引き続き堅調な投資から生じる工
トオフィスの税務に適用される。
場建設や ODA に伴うインフラプロジェクトが数多く
行われている。このような契約を外国契約者が受
FCT とは、主にベトナム企業に対してサービス
注する際には、特定プロジェクトの遂行のための
を提供し、物品を販売する外国契約者を対象とし、
プロジェクトオフィスの設置が必要となる。本稿で
法人所得税(Corporate Income Tax、以下 CIT)と
は前編に引き続いてプロジェクトオフィスの税務
付加価値税(Valued Added Tax、以下 VAT)から
の概要をまとめる。
構成される税金である。ベトナム国外でリスクと便
益の全てが移転し、ベトナム国内では付随サービ
2.プロジェクトオフィスの税務-外国契約者税
a)
スが提供されない純粋な物品の売買(据付や保
外国契約者税の適用
険、輸送などを含まない)は FCT の対象とはなら
ない。また、航空機や船舶などの輸送機器の修
プロジェクトオフィスはベトナム国内で建設事業を
繕、ベトナム国外で提供された広告宣伝サービス
行う外国契約者によって設立される。外国契約者税
やトレーニングサービス等も FCT の対象とはなら
を規定した Circular60/2012/TT-BTC(2012 年4月
ない。
12 日付、以下 Circular60)によると、外国契約者がベ
トナム国内でベトナム企業や個人と契約(またはサ
b)
ブコン契約)を締結し、事業を実施することによって
納税方法
プロジェクトオフィスは外国契約者税の納税に
対価を得る場合、所得や付加価値に対して外国契
あたり以下図表1の3つの方法から選択すること
約者税(Foreign Contractor Tax、以下 FCT)が課せ
ができる。
【図表1】納税方法
CIT
VAT
オプション 1(VAS 原則方式)
課税所得×法人税率(原則法)
仮受 VAT-仮払 VAT(原則法)
オプション2(ハイブリッド方式)
契約金額×みなし税率(簡便法)
仮受 VAT-仮払 VAT(原則法)
オプション3(みなし控除方式)
契約金額×みなし税率(簡便法)
契約金額×みなし税率(簡便法)
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South China - Asia Business Report Vol.33
オプション1は通常のベトナム現地法人と同様
1)、ベトナム財務省の会計規則およびガ
の納税方法を採用する方法であり、CIT は四半期
イダンスに基づき会計処理を行うこと(オ
申告納税および確定申告、VAT は月次申告を行
プション2)
うことになる。ベトナム会計システム(VAS)を適用
して税引前利益を算定して課税所得を確定させ、
税額を算出することになるためもっとも事務手続
を要する方法と言える。
オプション2は CIT は簡便法、VAT は原則法で
納税する方法である。VAT については税前利益
が算出されずとも、VAT インボイスに従って計算
することができるため、オプション1のように多くの
事務手続きまでは要請されいが外国契約者自身
が申告・納税することになる。
オプション3は CIT・VAT とも簡便法により納税
要件 3)はオプション1とオプション2でやや異な
る。オプション1がベトナム会計システムの全面採
用を要件としている一方、オプション2は前編で記
載したとおりある程度簡便な帳簿の作成が容認さ
れているものと思われる。
上述のとおりオプション3では外国契約者では
なく、ベトナム契約者が納税義務を負う。契約締
結時点で FCT の納税方法についての議論が適
切に行われなかった場合、みなし控除方式にもか
かわらず源泉徴収がなされず後で問題になったり、
またそもそもベトナム契約者が納税義務を嫌がり、
する。後述のとおり外国契約者がオプション1また
みなし控除方式の採用を拒絶する場合には採用
はオプション2を採用する場合、会計記帳を行わ
できなくなるため、プロジェクトの開始時点で契約
なければならないが、オプション3を採用する場合、
相手たるベトナム国内企業とよく議論・交渉を行っ
課税所得計算が不要になる。また納税・申告は契
ておく必要がある。また、既存プロジェクトの実施
約相手が外国契約者に代わって税金分を源泉徴
中に、新プロジェクトを開始する場合、新プロジェ
収し、納税することになるため外国契約者自身が
クトは既存プロジェクトと同様の納税方式を選択し
納税義務を負わない。そのため事務手続きが非
なければならない。納税方法の選択は、後の税
常に少なく、利便性が高い方法といえる。
申告の作業負担に影響するだけでなく、税コスト
オプション1とオプション2を適用するには以下
の3つの要件を満たす必要がある。
1)
ベトナムに恒久的施設を有すること、ま
たはベトナムの居住者であること
2)
締結された契約あるいはサブコン契約に
基づくベトナムで事業を行う期間は、当
該契約が発効する日から 183 日以上で
あること
3)
ベトナム会計システムの採用(オプション
の総額が変わる可能性があるため、事前に慎重
に検討しなければならない。
また、オプション1と2の場合、ベトナム契約者
(外国契約者と締結する場合)および外国契約者
(外国下請契約者と締結する場合)は、契約日か
ら 20 営業日以内に外国契約者がどの方法で納
税するのかを所轄税務当局に通知しなければな
らず、外国契約者あるいは外国下請契約者は
CCP 取得から 10 営業日以内に税方式の登録を
行う必要がある。オプション3の場合はベトナム契
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South China - Asia Business Report Vol.33
約者は契約日から 20 営業日以内に税
【図表2】みなし税率
方式の登録を行う、と規定されている。
活動内容
VAT
CIT
c)
物品の販売に付随するサービス(On the spot
export/import および DDP・DAT・DAP 条件含む)
0
1
一般サービス(リース契約、保険契約含む)
5
5
レストラン、ホテル、カジノの管理サービス
5
10
建設・据付・調査、設計および監督サービス
(資材・機械設備の供給を伴うもの)
3
2
建設・据付・調査、設計および監督サービス
(資材・機械設備の供給を伴わないもの)
5
2
航空機(エンジンやスペアパーツ含む)および船
舶のリース契約
-
2
みなし税率
Circular60 に規定されているみなし
税率は図表2のとおりである。
資材や機械設備の供給を伴う建設
や据付サービスについては、契約全体
の金額に対して CIT であれば2%が適
用される。ただし外国契約者が資材や
みなし税率(%)
再保険、証券譲渡
-
0.1
設備の供給をすべて下請けに委託し、
金融派生商品
-
2
外国契約者は残った関連サービスの
利息
-
5
ロイヤルティー
-
10
その他製造、輸送サービス
3
2
み提供する場合には、適用される税率
は CIT であればサービスに関する税率
の。定常的な住所とは以下の通り。
の5%となる。
a)
3.プロジェクトオフィスの税務-個人所得税
ベトナム国民の場合には、住民法に
従って登記された恒久的住居
b)
ベトナム個人所得税規定では、ベトナム源泉の
外国人の場合は、公安省により発
所得が発生した場合、ベトナムで 183 日未満の滞
行される居住証明あるいは、一時的
在であっても非居住者として納税義務を負う。ただ
居住証明(レジデンスカード)に記載
し、税率は居住者と異なり一律 20%となる。日本
された住所
本社からの給与支払いを前提とした場合、非居住
3)
課税年度内において、契約期間が 183 日
者申告・納税は、四半期月(3月、6月、9月、12
以上の賃貸住宅等(ホテル、本社、作業
月)の翌月の 30 日までに行わなければならない。
場等含む)を有するもの
ベトナム国内法の規定では、以下のいずれか
日越租税条約の第 15 条第1項により、給与所
に当てはまるものを居住者とし、それ以外の者を
得は当該労働が実際に行われた国で課税される
非居住者としている:
ことが規定されているが、同条第2項により、所定
の要件(①ベトナムでの 183 日未満の滞在②給与
1)
暦年内、あるいは最初の入国日から 12 カ
月の期間において、ベトナム国内に 183
日以上滞在するもの(入国日ならびに出
国日は合わせて1日で計算される)。
2)
がベトナム側で支払われていない③給与がベトナ
ム側で負担されていない)を満たす場合は、ベト
ナム源泉の所得であったとしても、ベトナムでの
短期滞在者免税が認められている。ただし、租税
ベトナム国内に定常的な居所を有するも
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South China - Asia Business Report Vol.33
条約による免税は、ベトナム国内法令に基づき、
法令に規定される短期滞在者の認定要件を満た
した上で免税申請を行う必要があり、租税条約の
規定が自動適用されるわけではない点は注意し
なければならない。また建設にあたっての設計が
日本で行われていた場合には 15 条1項によりベト
ナムにはそもそも課税権が存在しないはずである
が、ベトナム国内法ではこのような労働に対する
個人所得税の規定も設けており、免税申請をしな
ければベトナム税務当局が課税を行おうとする可
能性がある。租税条約に基づく免税申請手続き
や短期滞在者の認定条件については、法令と税
務署の対応に矛盾が生じているケースもあり、事
前に税務署に問い合わせをしたり、専門家に相
談することをお勧めする。
4. プロジェクトオフィスへの税務調査
5. まとめ
プロジェクトオフィスは、中長期的に安定したキ
ャッシュフローが見込めず、法人設立までの投資
環境が整わない場合、短期的なプロジェクト実施
のための投資形態としては非常に魅力的に思わ
れる。しかし、以上に述べたように、会計、税務の
適切な実施のためには経理人材の雇用や外部に
委託するためのコストが多く発生する。加えて、短
期での案件実施のために、技術者やプロジェクト
管理者などの出張者が多いのも特徴で、個人所
得税の納税についても、ベトナムでの高い税額や
二重課税の可能性を、事前にリスクとして十分に
考慮する必要がある。
契約および事業の開始までに税務上の検討が必
ずしも十分ではなかったため問題を抱えることにな
った事例は少なからず存在する。2014 年には外国
プロジェクトオフィスの清算時には、税務調査を
受ける必要がある。税務調査では、プロジェクトオ
フィスが法人税、および付加価値税の申告、納税
手続きを適切に行っているかを査察する。また、
契約者税の改正も予定されており、プロジェクトオフ
ィスの税務にも何らかの影響を与えることが予想さ
れる。プロジェクトオフィスの開設を検討されている
日系企業には、この点十分に留意されたい。
個人所得税についても同様に調査が行われる。
税務調査を完了し、ベトナムでの納税義務を全う
※次回は第 36 号に掲載します。
しなければ、プロジェクトオフィスの開設時に取得
した税コードを閉鎖することが出来ず、プロジェク
谷中 靖久
トオフィスの閉鎖手続きが完了せず、ベトナム口
(たになか やすひさ)
座から海外に送金することもできない。事前に納
公認会計士
KPMG ベトナム
税義務について理解し、適切な会計書類の準備、
納税手続きを行っていなければ、事後的に対応
することになり、税務調査の長期化と不要な税コ
スト(罰金および遅延利息)が発生する。罰金は
追徴額の 20%、遅延利息は 90 日までは 0.05%/
日、90 日以降は 0.07%/日(年利 25.55%)と非常
に高いため十分留意する必要がある。
大阪市立大法学部卒。2003 年 10 月に 朝日監査法人
(現有限責任 あずさ監査法人)東京事務所入所。日
本国内において主にソフトウェアメーカー、製造業等の
会計監査(米国及び日本国会計基準)に従事。2011
年 7 月より KPMG ハノイ事務所に赴任し、現地の日系
企業に対する投資、会計・税務、法務、人事等のアド
バイスを提供している。
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South China - Asia Business Report Vol.33
【Malaysia / Singapore】
マレーシアおよびシンガポールにおける
GST 最新動向
是松 洋平 RSM チオリム
はじめに
2015 年4月1日よりマレーシアで消費税(GST)
が導入されることが決まり、注目を集めている。そ
こで本稿では、まずマレーシアで導入される GST
の制度の概要を簡単に解説する。
他方、シンガポールにおける GST は、インボイ
えるすべての会社となっており、商品、サービス
の提供が行われた場所で課税が行われるルール
や、輸出入の扱いなど、一見すると、日本の消費
税と似ているように見える。ただマレーシアのGST
は以下のような特徴があり、注意を要する。
y
発行日、対価の受取日のいずれか早い日
スの数字をまとめて提出するというシンプルな仕
にちに課税義務が生じたとみなされる。
組みから、ややもするとリスクが低く見積もられが
ちであるが、潜在的に GST 税務調査を受ける危
原則、商品、サービスの提供日、請求書の
y
マレーシアに輸入され、マレーシアで消費
険性がある。このような事態に対応するため、
されたサービスに対するリバースチャージ
ASK という GST の法令遵守レベルを自己診断す
メカニズム。具体的にはこれらのサービス
るツールが開発され、特定の税制優遇を利用す
の受け手は、供給者に代わりいったん6%
る会社に導入が義務付けられている。本稿では
の GST を計上し、後に差額の還付を受け
シンガポールにおける ASK 制度および GST 関連
取らなければならない。
動向についても解説する。
y
マレーシアにおける GST の導入
品、サービスだけでなく、特定の農業製品
(食品、家畜、水など)も含む。
マレーシアでの GST 導入は 13 年 10 月 25 日
に発表され、導入までの準備期間として 15 年4月
1日まで、17 カ月間が与えられた。
GSTの税率は原則6% 1 。申告義務があるのは、
年間課税売上高が 50 万マレーシアリンギットを超
1
食品など国民生活に直結する一部の物品については
0%、公共交通機関、医療、教育サービスなどについて
は免税とされている。
ゼロ%課税(GST が0%)の対象は輸出商
y
金融サービス、住宅用不動産以外にも、育
児サービス、私的な医療、公共交通機関が
GST 非課税。
シンガポールにおける ASK の概要
ASK は GST 申告の法令順守レベルの向上を
目的にシンガポール税務当局(IRAS)によって 10
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South China - Asia Business Report Vol.33
年4月に導入された GST の法令順守レベル自己
診断パッケージである。
公認 GST 専門家あるいは公認 GST アドバイザー
ASK レビューを導入することで、GST 申告の法
令順守レベルを引き上げることが出来る。それ以
外にも以下のような利点がある。
y
y
によるサインが必要になった。
MES について
また、ASK レビュー義務がある上記4つの優遇
レビューの段階で見つかったミスに関して、
措置のうち、Major Exporter Scheme ("MES")がも
自主修正申告することにより、追徴金が
っとも多く利用されている税制である。このため、
免除、または減額される。
MES が 13 年1月に ASK レビューの対象とされた
GST 税務調査を受ける可能性が低くな
る。
y
なお、13 年1月1日より、ASK 申請フォームは
特定の GST 優遇税制を申請、更新する資
格を得ることが出来る。
ことで、ASK レビューの対象企業が大幅に増え
た。
MES は、GST0%の輸出額が全体の商品、サ
ービスの過半数を占める企業あるいは、輸出額
が 1,000 万シンガポールドルを超える企業を対象
ASK は必ず行わなければならないのか?
にしている。
ASK は現時点ではすべての会社に対する法定
これらの企業のうち、1)適切な内部統制と、適
義務ではないが、IRAS は各企業が ASK を自主的
切な会計記録の保存をしており、かつ 2) IRAS
に導入することを強く薦めている。また IRAS は
と税関に対して過去に適切な申告を行っている履
GST の法定遵守レベルが低い会社に対して個別
歴を有する会社が MES を申請する資格を得られ
に ASK の導入を要求する可能性がある。
る。このうち、2)についての適切性を確かめるの
以下の GST の優遇税制を申請、あるいは更新
する会社に対しては ASK 申請フォームの提出が
義務付けられている。
Marine
Customer
Scheme
("AMCS")
c) Approved
Contract
通常であれば、輸入の際に GST 相当額を支払
い、後に返金を受けなければならないが、MES の
a) Import GST Deferment Scheme ("IGDS")
b) Approved
が ASK レビューである。
Manufacturer
Trader Scheme ("ACMT")
d) Major Exporter Scheme ("MES")
and
資格を得た企業は GST の支払いが免除され、キ
ャッシュフロー上の負担が軽減される。
最近のシンガポール GST にかかるトピック
従来 1,000 シンガポールドルを超える交際費に
ついては、交際費支出側のフルネーム、住所など
も記したタックスインボイス(通常のビジネスで発
行される請求書)が要求されていた。しかし 14 年
2月1日より、これらの支出についても飲食店が
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South China - Asia Business Report Vol.33
発行するレシートに、交際費の詳細(交際の対象、
目的など)を記した書類を添えればよいことになり、
交際費の根拠書類が簡素化された。
このほか、14 年4月 27 日付け Sunday Times
で、IRAS が GST ルールの遵守状況を重点的にチ
ェックする取引、産業として、非居住用建物の取
引、運輸業を挙げたとの記事が掲載された。非居
住用建物(オフィス、工場など)は居住用建物と違
い、GST 課税対象となる取引だが、これを勘違い
しているケースが多いことが非居住用建物がそ
の対象となった理由である。運輸業については、
輸出関連のサービスが GST0%なので、すべて
のサービスについて GST がかからないとの勘違
いが起こりやすいが、提供するサービスの内容次
第では GST7%がかかるケースもあるため、IRAS
が遵守状況を仔細にチェックしようとしているもの
と考えられる。
【参考文献、ウェブサイト】
マレーシア税制:
http://www.rsmchiolim.com.sg/edm/GST-Quick-Alerts_G
ST-in-Malaysia/
ASK レビュー:
http://rsmchiolim.com.sg/edm/GST-assisted-self-help-k
it-update.html
http://www.iras.gov.sg/irasHome/page04.aspx?id=9062
MES:
http://www.iras.gov.sg/irasHome/page04.aspx?id=2108
その他:
http://www.rsmchiolim.com.sg/edm/GST-Quick-Alerts_D
evelopments/
The Sunday Times (2014 年 4 月 27 日)
是松 洋平
(これまつ ようへい)
RSM チオリム
(シンガポール、中国)
日本デスク
日本国内での事業会社、会計事務所などでの勤務を
経て、2012 年 4 月より現職。現在日本企業の会社設
立、シンガポールでの事業展開、税務、会計関連のア
ドバイスなど各種アドバイスを提供。
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South China - Asia Business Report Vol.33
【China】中国ビジネス法律講座 第 45 回
労務派遣新規定による
外資企業への影響およびその対応策
陳 偉雄 広東広信君達法律事務所
労務派遣は雇用形態の一つとして、その柔軟
二、改正「労働契約法」、「労務派遣行政許可実施
性、便利性等の特徴から、企業における主要な
弁法」および「労務派遣暫定規定」の労務派遣に関
労働者補充方法となってきており、ますます外資
する主な内容
企業の注目を集めております。ただし、法律・法
規および部門規則は労務派遣に対し日に日に整
(一)労務派遣会社の参入基準引き上げ
備を進めており、外資企業に一定の雇用リスクを
労務派遣会社は労務派遣業務を経営するため、
与えています。本稿では「労働契約法」において
法に基づき所在地の許可管轄権を有する人力資
新しく改正された内容と、「労務派遣行政許可実
源社会保障行政部門で行政許可を申請しなければ
施弁法」および「労務派遣暫定規定」をあわせ、
なりません。さらに労務派遣会社の最低登録資本
労務派遣雇用におけるリスクについて分析を行
金が 50 万元から 200 万元に引き上げられ、規定に
い、かつ相応する対応策をご紹介します。
合致する経営場所と施設、および労務派遣管理制
一、労務派遣とは
労 務 派 遣 とは、労 務 派 遣 会 社 が派 遣 労 働 者
(以下「労務 者」という)と労働契 約を締結し、労
度を備えなければなりません。
(二)労務者と、派遣先の労働者との同一労働同一
賃金保障
務 派 遣 会 社 が労 務 派 遣 形 態 を取 り入 れた使 用
労務者は同一労働同一賃金の権利を享有しま
者(外資企業も当該使用者の類型の一つに属す
す。つまり、派遣先は労務者に対し、派遣先におけ
る。以下「派遣先」と総称する)と労務派遣協議を
る同種の職場の労働者と同様な労働報酬分配方
締結し、労務派遣会社が労務者を派遣先まで派
法を実行しなければなりません。派遣先に同種の
遣し、その指揮と管理下により労務を提供させ、
職場の労働者がいない場合、派遣先の所在地にお
労務派遣会社が派遣先から労務サービス料を徴
いて同様、あるいは類似する職場の労働者の労働
収し、労務者に労働報酬を支払う労働関係を指
報酬を参照して確定します。労務派遣会社と派遣
します。
先が締結した労務派遣協議で約定されている労務
者に支払う労働報酬は、前述の規定に合致しなけ
ればなりません。そして、派遣先は労務者に職場と
関係する福利待遇を提供し、残業代・業績ボーナス
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South China - Asia Business Report Vol.33
の支払い、および連続雇用する場合の正常な賃金
労働契約制の従業員を雇用し、当該職場で
調整メカニズムの実行等の義務を履行しなければ
正常に勤務させていなければなりません。
ならず、労務者を差別してはなりません。
(三)労務者を就業させる職場の制限
(四)派遣先による労務者の雇用比率制限
派遣先の労務派遣雇用比率は、その労働者雇
派遣先は臨時的、補助的あるいは代替的な職場
用総数の 10%を超えてはなりません。労働者雇用
でのみ労務者を雇用できます。臨時的、補助的あ
総数とは、派遣先が労働契約を締結した人数と雇
るいは代替的な職場に対する認定は以下の通りで
用した労務者の人数の和を指します。
す。
1.
(五)労務派遣雇用における差し戻しのメカニズム
臨時的な職場とは、就業継続期間が6カ月
を超えない職場を指します。通常、派遣先の
生産経営活動において非常時に設置する職
場、季節性の職場あるいは応急性の職場を
指します。
2.
労務者が「労働契約法」第 39 条と第 40 条第1項、
第2項に規定した事由に該当すれば、派遣先は当
該労務者を労務派遣会社に差し戻すことができま
す。派遣先が「労働契約法」第 40 条第3項、第 41
補助的な職場とは、主要経営業務の職場の
条に規定した事由に該当した場合、または破産宣
ためにサービスを提供する非主要経営業務
告を受けたか、営業許可証が取り消されたか、閉
の職場を指します。派遣先が補助的な職場
鎖を命じられたか、抹消登記を行ったか、あるいは
に労務者を就業させることを決定する際は、
繰上解散、経営期間満了後に引き続き経営しない
従業員代表大会あるいは全従業員の検討を
と決定した場合も、派遣先は労務者を労務派遣会
経て、計画と意見を提出し、労働組合あるい
社に差し戻すことができます。
は従業員代表と平等な協議の上で確定し、
併せて派遣先内部に公示しなければなりま
せん。非主要経営業務の職場は派遣先の業
種の特徴に基づき認定を行い、常識的な判
断基準に合致しなければなりません。
3.
を確立
しかし、派遣先は差し戻しを行う際、労務者に「労
働契約法」第 42 条に規定した事由があるかどうか
を審査しなければなりません。もし前述の事由があ
る場合、派遣期間満了前に、派遣先は「労働契約
法」第 40 条第3項、第 41 条に規定した事由に該当
代替的な職場とは、派遣先の労働者が生産
することを理由とし、労務者を労務派遣会社に差し
現場から離れ研修に従事したり、休暇を取っ
戻してはなりません。派遣期間が満了した場合は
たりすることで正常に勤務できない一定の期
期間を延長し、相応する事由が消失した後に初め
間において、その他の労働者が代わりに勤
て差し戻すことができます。
務することが可能な職場を指します。法規で
は代替的な職場の性質を制限していません
が、労務者を雇用する前に、派遣先が既に
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South China - Asia Business Report Vol.33
三、労務派遣雇用の法的リスク
任を負わなければなりません。
(一)労務派遣会社への選択不適切による法的リ
(三)労務者への日常管理の不適切による法的リ
スク
スク
改正「労働契約法」は労務派遣会社への参入基
1.
一般的に、派遣先が労務者に提供する福利
準を引き上げ、行政許可という手続きを追加しまし
待遇は正式な社員と大きな差異があり、また、
た。よって、派遣先は労務派遣会社と労務派遣協
合理的な昇進メカニズムがありません。この
議を締結する前に、労務派遣会社が「労務派遣行
ため、労務者の派遣先に対する帰属感や忠
政許可実施弁法」に規定された資質を有するかどう
誠度は高くなく、頻繁に流動するため、派遣
かについて周到かつ慎重に審査しなければなりま
先で労務者を雇用する職場の安定性が悪か
せん。派遣先が資質のない労務派遣会社と派遣協
ったり、雇用コストが増加したり、あるいは、
議を締結した場合、労務派遣協議は無効となりま
派遣先に対し商業秘密の漏洩といったリスク
す。または、規範的ではない労務派遣会社では、
を与えます。
労務者と労働契約の締結手続きを履行していない
ケースがあります。労務者が訴訟を起こし、前述の
2.
していない場合、労務者が仕事上でミスを発
二つの情況が存在する場合、労働仲裁機構および
生させ、派遣先が「労務者による派遣先の規
人民法院は労務者と派遣先との間に一般的に労
則制度への重大な違反」という理由で合法
働関係が存在していると認定し、これにより派遣先
的な差し戻しのメカニズムを用いようとしても、
が労働関連法律法規に規定した使用者としての全
往々にして差し戻すことができません。
ての責任を負うと判定する可能性があります。
(二)労働法規違反による法的リスク
「労働契約法」と「労務派遣暫定規定」では、派遣
先による同一労働同一賃金の実行、労務派遣職場
の適用、および労務者を労務派遣会社へ差し戻す
労務者に対し規範的な内部規則制度を制定
四、労務派遣雇用における法的リスクに対応する
主な措置
(一)労務派遣会社の資質や条件を周到かつ慎重
に審査
ことについて規定しました。派遣先がこれらの規定
雇用リスクを低減するため、派遣先は提携を予
に違反し、同一労働不同賃金、労務派遣職場の適
定する労務派遣会社に対し、以下の事項において
用不適切、法に違反する労務者の差し戻しを行っ
審査を行うことをお勧めします。
た場合、労働行政部門が期限を設けて是正するよ
う命じる法的リスクに直面し、期限を過ぎてもなお
是正しない場合、一人につき 5,000 元以上1万元以
下の罰金を科される法的リスクがあります。このほ
か、派遣先が労務者に損害を与えた場合、賠償責
1.
労務派遣会社が労務派遣の資質を有するか
どうかを審査し、労務派遣会社成立前に労
働行政部門による行政許可手続きを経たか
どうかを審査します。
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South China - Asia Business Report Vol.33
2.
労務派遣会社の営業許可証を審査し、登録
資本金が 200 万元に達しているかどうか、経
営範囲に労務派遣業務が含まれているかど
うかを確認します。
3.
提携する労務派遣会社を確定する前に、異
なるルートを通して労務派遣会社に対し調査、
中にも、これを約定するよう要求します。
(三)法に基づき労務者を雇用し、同一労働同一賃
金の制度を確実に実行し、労務者への賃金支給お
よび社会保険の納付情況を監督
1.
すべての職場を比較し、臨時的、補助的、代
事実確認、比較を行い、最終的に信用が良
替的な職場を選別し、選別された職場に労
好で、管理が規範化されている労務派遣会
務者を雇用することをお勧めいたします。
社と提携されることが肝要です。
(二)適時に労務派遣会社と労務派遣協議を締結
派遣先は自社の実情と結びつけ、設置した
2.
派遣先は臨時的、補助的、代替的な職場に
ついて統一した賃金制度を制定し、労務派
し、内容を強化
遣会社が賃金制度に基づき賃金を支給して、
派遣先は提携する労務派遣会社を確定後に、適
規定通りに社会保険を納付しているかどうか
時に労務派遣協議を締結しなければなりません。
を監督することが必要です。派遣先は労務
協議の内容には、派遣する職場と人員数、派遣期
派遣会社に労務者が労働報酬を受け取った
限、労働報酬、社会保険の額、およびその支払方
際の署名表と銀行支払記録、社会保険機構
法、ならびに違約責任を約定しなければなりません。
が発行した納付済みの社会保険料に関する
これと同時に、以下の契約内容を強化することを提
記録リストと証明を提出するよう要求するこ
案いたします。
とができます。
1.
特殊情況における責任負担について明確に
しなければなりません。例えば、労務者が死
亡、労災、罹病、慶弔休暇、年次休暇等の特
殊情況にある場合の労務派遣会社と派遣先
の責任分担です。
2.
「労務派遣暫定規定」の施行後、派遣先の労務
派遣雇用の割合が既に 10%を超えている場合、処
罰を避けるため、派遣先は雇用調整計画を制定し、
地元の人力資源社会保障行政部門に届出をしな
労務派遣協議が終止、解除される情況にお
ければならず、同時に、二年以内に 10%以内まで
いて、労務派遣会社が労務者に対しどのよう
引き下げることに努力しなければなりません。
な取り扱いと補償を行うかを明確にし、また、
双方が各自で負う責任を明確にします。
3.
(四)労務派遣雇用の割合を 10%以内に抑制
派遣先は労務者への管理に関する規則制度を
派遣協議の中に約定しなければなりませんが、
労務派遣会社に労務者と締結する労働契約の
なお、過渡期においては、以下の方法で労務派
遣雇用の割合を引き下げることができます。
1.
派遣先の労働契約制の従業員に関する採
用基準に合致した場合、労務者は労務派遣
会社との労働契約を解除し、派遣先にて入
Jun 2014 |
28
South China - Asia Business Report Vol.33
社手続きを行い、労働契約を締結します。
2.
※次回は第 37 号に掲載します。
勤務成績が悪いか、または派遣期間満了と
なる労務者について、派遣先は労務派遣会
社と協議を行い、これらの労務者を適切に労
務派遣会社に差し戻します。
3.
外注条件を満たす業務を、条件を満たす会
社に外注します。
(五)健全な規則制度を確立し、労務者への日常管
理を強化
1.
労務者の職場の特徴と結びつけ、勤務成績
に基づき相応する福利待遇と昇進機会を提
供し、これにより労務者の帰属感と忠誠度を
強め、職場の安定性を保証します。
2.
健全な規則制度を確立し、どのような情況が
規則制度への重大違反に属するかについて
具体的な規定を定めます。同時に、派遣先
は関係規則制度を制定する時に、労務者と
の平等な協議、公示と告知等の手続きを履
行し、関係記録を適切に保存しなければなり
ません。
3.
労務者が労働契約を締結しているかどうか
監督し、労務者の入社資料を厳格に審査し
ます。派遣先は労務者を雇用する前に、労
陳
偉雄
務派遣会社に書面の労働契約の提供を要
広東広信君達法律事務所
パートナー弁護士、日系企業部主管
求し、記録を残すためにそれをコピーするこ
とが可能です。同時に、派遣先は労務者の
関係資料の真実性(例えば、学歴、職歴等)
を確かめ、以前の会社との労働契約の解除
あるいは終止証明の提供を要求しなければ
なりません。
中国広東省広州市生まれ。1990 年中山大学法学部
卒、広州市司法局での勤務を経て日本へ留学。2001
年に成城大学法学研究科で博士号(民法)を取得す
るまでの9年間を日本で過ごし、その間東京の法律
事務所に勤務。現在は地元広州において主に中国に
進出中の日系企業に対して日本語で法律サービスを
提供している。民商法、会社法、国際投資、国際貿
易、知的財産権、労働争議の処理等を専門とし、民
法(特に契約法)関連を得意分野とする。
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South China - Asia Business Report Vol.33
【Hong Kong】
進出事例から見る香港の活用方法
大橋 剛夫 香港マイツ ビジネスコンサルティング
はじめに
中国本土 901 社(同 853 社)と続いている。また、
日本企業にとって香港へ現地法人等を設立し
て事業展開する理由は、簡素な税体系と低税率、
情報の自由度、域内のみならず中国本土および
アジア主要都市を含めた広域市場圏の形成、他
企業活動の形態別では、地区本部 1,379 社、地
区事務所 2,456 社、当地事務所 3,614 社となって
おり、全体の半数以上が他地域に関連して事業
展開している 1 。
国や他地域との経済または税務協定の締結――
統計上の企業数では増加傾向の日系企業で
など、国際的なビジネス環境の整備が一般的に
あるが(図表1)、その投資目的はさまざまである。
挙げられる。
以下に紹介する4つの事例は、弊社にて関与した
本稿では、最近の日本企業の香港への進出事
例を投資目的、事業拠点の活用方法、享受して
いるメリットおよび直面している課題の観点から具
体的に紹介する。
複数の事例を形態別に再構築したものであり、以
下でこれらに基づき、各社の事業を早期に立ち上
げる取り組みと今後の課題を検証する。
<事例1:中国本土に次ぐ海外拠点の設立>
国別企業数ではトップの日本
P 社は、10 年ほど前に自社製品の製造と販売
香港における外国投資企業数は、2013 年6月
1日時点で 7,449 社と、前年から 2.7%増加してい
る。国別内訳で見ると、日本がトップの 1,389 社
(前年 1,218 社)、次に米国 1,339 社(同 1,388 社)、
【図表1】最近5年間の日系企業数の推移
を目的とした初めての海外現地法人を華東地区
に設立した。数年後には同地区にて一定の市場
を獲得して事業継続の採算を確保したため、次の
事業戦略を検討していた。そこで、以前より外部
業者へ委託して自社製品を販売していた香港を
含む中国華南地区の市場開拓に取り組むことに
(社)
なった。
1600
1400
1200
1000
1
800
600
400
200
0
2009
2010
(資料)香港政府統計処
2011
2012
2013 (年度)
データ出所:Census and Statistics Department, Report
on Annual Survey of Companies in Hong Kong
Representing Parent Companies Located outside Hong
Kong, 2013 Edition。なお、当該調査における「地区本部」
の定義は、香港域外にある親会社を代表し、地域(香港
を含む複数国・地域)内にある各事業所を管理する権限
のある拠点。香港を含む複数国・地域を管轄していても、
経営管理権限が無く調整のみの場合は「地区事務所」、
香港のみの場合は「当地事務所」としている。
Jun 2014 |
30
South China - Asia Business Report Vol.33
2つ目の海外現地法人を香港に設立するに当
【事例1】
たり、華東地区の現地法人から管理責任者と営
業担当者を異動して、即戦力の体制で事業立ち
上げに臨んだ。また社内管理業務、特に経理業
務については早期に現地スタッフを採用した。こ
のスタッフに対して、既に華東地区の現地法人を
サポートした経験を有する日本本社の経理担当
者が出張して業務指導を行っている。
香港に販売会社を設けることにより、当地と広
東省に所在する顧客の要望を直接に収集して実
【事例1】ポイント
y
現する取り組みが可能になった。一方で、既存の
販売委託先との商権を調整せざるを得ない問題
経験者の着任による事業の早期立ち上げ
y
が生じている。市場エリアについては、以前から
立が起因となり、これらの国々の企業と契約協議
香港を含む中国華南地区のみならず東南
アジア諸国企業との取引実現。周辺商材
華南地区のほか東南アジア諸国の企業から取引
の問い合わせを受けていた。香港現地法人の設
既存商流の移管と海外現地法人の実務
からのビジネス機会の創出
y
広域な販売網を実現する拠点配置と地域
統括機能の必要性を検討中
が進み、契約当事者になることができた。香港を
起点に営業活動を実施することは、日本から出張
ベースで商談するのに比べて、東南アジア諸国の
<事例2:複数のグループ企業との同時進出>
企業からは概ね良い評価を得ているようである。
同時に、各国への販売ルートをたどってみると、そ
こには自社製品のみならず周辺商品についても
商機を見出すことができた。
アジアの他国との投資環境の比較により、S 社
グループは香港への事業展開を決定した。その
理由は、自社が提供するサービスの市場が香港
内に存在し、中国本土、東南アジア諸国から調達
現在、各現地法人からの提案に基づき P 社にて
した商品を域外に販売することが可能と判断した
検討している課題は、日本、中国本土および香港
ためである。S 社グループは、日本国内に取扱商
の各拠点を繋ぎ、最適な商品供給と販売網を構
品とサービス別に関連会社を有しており、それぞ
築するための各拠点機能の明確化、広域な販売
れを投資者として、香港に同時期に3社以上の現
網を網羅する増設拠点のロケーション選定、迅速
地法人を設立した。
な意思決定と資金決済を実現する地域統括体制
の必要性である。
各現地法人の経営範囲は異なっているが、社
内管理業務を標準化、事業基盤を共有するため
に、同一事務所内に本店所在地を登録して、共
用の執務スペースとして利用している。そこへ日
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South China - Asia Business Report Vol.33
本本社と関連会社から管理人員が派遣され、同
【事例2】
時に複数社の管理実務を担当する現地マネジャ
ー1名を採用した。日本本社の海外関係会社管
理は、当該マネジャーとの緊密な情報共有により
実施されることになった。
この会社グループ形態のもと、ひとつの現地法
人は、日系企業として初めて特定サービス分野へ
参入することができ、そこでは香港人の顧客を獲
得し始めている。また、別の現地法人では、貿易
取引の中心を香港拠点に設定すべく、早々に香
【事例2】ポイント
y
港域外へ子会社を設立して商取引を開始した。
び管理部門を共有することにより、各社の
各国への移動の利便性を生かして、管理人員が
運営コスト軽減と管理業務の標準化を実
自ら中国本土や東南アジア諸国へ適時に訪問す
ることにより、安定した商品仕入れと新規事業開
現
y
拓に着手している。
上記の管理部門の共有において、業務お
よび人員配分に関する集中または閑散期
への対応の問題
各現地法人が開業準備期間を経て正式な経営
活動を開始すると、それに伴い社内管理業務は
複数のグループ会社間で事業用設備およ
y
企業グループ再編時の投資者による迅速
増加している。特に年度決算および会計監査につ
な意思決定とそれを実行するための簡素
いては、各社の決算期が同一であり、経理担当
な行政手続き
者へ業務が集中する時期が生じるようになった。
日本本社では子会社を含めた連結決算を実施す
<事例3:日本と東南アジアの中間の市場>
るために、個社レベルでは財務諸表の提出期限
を遵守して決算作業および監査対応を進めなけ
ればならない。
既に東南アジア地区に複数拠点を有する X 社
は、主として香港域内での顧客に対応するために
現地法人を設立した。これにより、日本から香港、
S 社では、現地法人の設立後、早期段階から、
幾つかの会社について経営活動の進展に伴い資
東南アジアへと繋がる事業拠点が整備されること
になった。
本関係および人員配置の見直しを適宜、検討して
いる。企業グループ再編の立案、実行において、
香港の行政手続きは簡素であるが、契約を前提
とした外部関係者との協議には留意が必要であり、
弁護士等の助言を得て進めているところである。
先行の海外現地法人の運営により得たノウハ
ウを活用して、その地域の駐在員と日本本社の
管理責任者が協力して香港現地法人の立ち上げ
にあたった。上記地域の法体系、取引実務慣行
は香港と同様であり、会社グループ内の経験をも
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32
South China - Asia Business Report Vol.33
とに多くの部分で運営上の判断ができている。
【事例3】
まず、会社立ち上げ時には、会議室や受付を
他社と共有するサービス・オフィスを利用して運営
コストを適切にコントロールし、その後、日本本社
からの出張者など関係人員の増加に伴い固有事
務所を賃借するステップを選択した。次に、社内
情報管理システムは、先行地域でオーダーメイド
のものをそのまま香港現地法人へ持ち込んでい
る。会社設立後、直ちに現地スタッフを採用して、
当該システムの試運転を開始、数カ月後には本
【事例3】ポイント
y
格稼働まで至っている。日本本社にとって、複数
の海外現地法人が同一の管理システムを使用し
東南アジアに進出後、香港内での顧客サ
ポートを目的として会社設立
y
先行の海外現地法人の運営ノウハウ投入
ているため、財務諸表を含めて関係会社情報の
による事業立ち上げコストの削減と自社専
収集が容易である。
用の情報管理システムの活用による内部
現地法人の設立後、他拠点の運営ノウハウと
統制制度の早期確立
自社専用の情報管理システムにより、内部統制
【事例4】
の基本制度が早い段階で構築されている。その
ため、当初の目的である香港での顧客サポート体
制が早期に整備され、今後は周辺地域までの事
業拡大が想定されている。
<事例4:香港法人の日本子会社を設立>
Y 社は、今後は香港において他地域、他国に跨
る事業統括会社を設立したいと考えている。その
【事例4】ポイント
y
y
実務経験者かつ決済権限者が香港に常
港現法の)日本子会社を設立した。既に2つ目の
駐ベースで勤務を開始。
子会社を設立する地域も決定している。
既存の商流を移管すると共に、派生する
事業機会の獲得。
y
第一段階として、香港法人を設立後、直ちに(香
香港 現 地法 人の子会 社 設立 における投
資 阻 害 要 因 の洗 い出 しと資 金 確 保 の問
会社設立と同時に、実務経験者が取締役とし
て香港常駐にて活動を開始している。また、日本
国内の既存の商流を香港経由へ移管したため、
事業の立ち上がりが早かった。
題。
Jun 2014 |
33
South China - Asia Business Report Vol.33
香港へ活動拠点を移すことで、地理的な要因
により商品の仕入元へのアクセスが良くなった。ま
た、商品を仕入れるのみではなく、自社製造へ事
業シフトするための投資環境調査へ向かい易くな
った。当初は想定していなかったが、自社の事業
活動から派生して、子会社の所在地にて関連会
社の海外事業をサポートする相乗効果が期待さ
れるようになっている。
当面の課題は、子会社を設ける地域の投資阻
害要因となる法令や実務慣行の精査、子会社へ
の投資資金の確保が挙げられる。
おわりに
上記事例の各社が属する業種は、IT、サービス、
飲食、製造業と多岐にわたっていた。また、その
他の進出事例としては、海外に初めての駐在員
事務所を開設して、中国本土と東南アジア諸国の
情報収集および自社製品の PR 活動を目的とした
拠点作りから着手するケースであった。
香港に会社設立後、実際に営業活動を開始した
各駐在員にお伺いしたところ、その活用メリットと
しては、自社が求める市場に近いという地理的要
大橋 剛夫
(おおはし たけお)
因を挙げる声が多く聞かれた。中国本土への直
香港マイツ ビジネス
コンサルティング
通列車の乗り入れ、飛行機のフライト時間にして
取締役、日本国税理士
約4時間で日本と東南アジア主要都市へ移動で
きるロケーションは、広域市場を網羅して迅速に
取引を実現する要因のひとつであり、筆者も当地
に駐在して実感しているところである。
2002 年 7 月に株式会社マイツに入社後、中国上海市と江
蘇省蘇州市に 10 年間にわたり駐在し、日系企業の現地法
人等の設立からその後の各種運営サポート、企業グルー
プ再編他のコンサルティング業務に従事、現職に至る。上
記の実務経験を生かして、現在は香港を拠点に日本、中
国本土、東南アジア諸国他へ繋がる事業活動を会計、税
務を中心に支援している。
※次回は第 37 号に掲載します。
Jun 2014 |
34
South China - Asia Business Report Vol.33
【アジア経済情報】
台湾
~14 年 は緩やかな回復基調を辿る~
伊藤 信悟 みずほ総合研究所
13 年4Q の成長率は高水準に
株価上昇(次頁図表3)による消費マインドの改善、
2013 年4Q(10~12 月期)の実質 GDP 成長率は、
前期比年率+7.3%と、3Q の同+0.3%から大幅に
伸びを高めた(図表 1、なお 13 年通年では前年比
+2.1%)。その構図は次のとおりである。
③雇用・所得環境の緩やかな改善(同図表4)が、個
人消費の高い伸びの原因とみられる。
足元は回復の勢いが低下
1、2月は旧正月期で季節調整が安定性を欠き
第一に、輸出の伸びが加速した。欧米からの輸出
やすいため判断が難しいが、足元は回復の勢いが
受注の高まりが輸出の好調の主因とみられる(図表
弱まっているようだ。14 月1月の景気一致指数(トレ
2)。第二に、総資本形成(総固定資本形成+在庫品
ンド除去値)は 101.0 と、前月よりも 0.5PT 上昇して
増減)が急増し、前期比年率+34.6%もの高率となっ
いるが、その他の指標は勢いを欠いているからだ。
た。大手半導体メーカーによる先端設備導入が主因
例えば、工業生産指数は前月比▲1.7%、小売売
で民間設備投資が高い伸びを呈したうえ、長期にわ
上指数は同▲1.0%、輸出額は同▲2.6%、機械・電
たる在庫調整が一段落つき、在庫復元が図られたた
機輸入額は同▲11.0%となっている(いずれも季節
めだと推察される。第三に、個人消費も好調だった。
調整済み実質値)。
その伸びは前期比年率+4.1%と、7~9 月期の同+
1.3%から加速した。①円安を背景とする値下げ期待
から買い控えられてきた乗用車が、新車種の発表や
販促活動の積極化を背景に売上を伸ばしたこと、②
なお、株価指数(「加権指数」)は、1月下旬から
の中国を含む新興国リスク回避の影響を受けて大
幅に下落したが、根強い米国経済の回復期待等を
追い風に2月6日から同月末にかけて上昇基調を
図表1 実質 GDP 成長率
15
図表2 輸出受注指数
純輸出
総資本形成
政府消費
個人消費
GDP
(前期比年率%)
10
150
140
130
120
5
(10Q1=100)
全体
米国
日本
中国・香港
欧州
110
100
0
90
80
▲ 5
70
60
▲ 10
2010
2010
11
12
(資料)台湾行政院主計総処
13
(年)
11
(注)季節調整済みの実質値。
12
13
(年)
(資料)台湾経済部統計処
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South China - Asia Business Report Vol.33
辿った(図表3)。
上回る水準で安定的に推移するだろう。足元の乗
用車販売の高い伸びは、その要因が買い控えの反
経済は緩やかな回復持続
動だけに長くは続かないだろうが、輸出・生産の回
今後、台湾経済は回復基調を保つものの、緩や
復を背景に、雇用・所得環境の緩やかな改善が続
かな回復にとどまると予測する。
くと考えられるためである。
回復のけん引役は輸出となるだろう。欧米経済
以上を踏まえ、14 年の実質 GDP 成長率を+
の回復が期待できるからである。ただし、輸出の回
3.0%、15 年を+2.9%と予測する。
復の勢いは強いものにはならないだろう。欧米経済
税制改革論議が本格化か
の回復ペースが緩やかなものにとどまるうえ、中国
経済の減速が見込まれるからである。加えて、IT 産
2月下旬に財政部が「財政健全方案(中央政府
業などで中国企業が台湾企業にキャッチアップする
部分)」を公表し、今後の税制改革の方向性を明ら
動きをみせていることも、台湾の輸出回復の勢いを
かにした。税制改革の大きな柱は、累進性の強化
殺ぐと予測する。
である。具体的には、①総合所得税(個人所得税
に相当)の最高税率を引き上げ、課税所得 1,000 万
在庫調整が一巡するなか、輸出・生産の回復を
台湾ドル超に対する税率を 40%から 45%にする、
追い風に在庫復元の動きが進み、それが総資本形
②総合所得税・営利事業所得税(法人税に相当)
成を下支えするとみられるものの、15 年にかけて総
の配当控除を現行の半分に引き下げる(ただし法
固定資本形成が次第に息切れをみせるだろう。公
人株主や小規模の独資・パートナーシップ企業を除
共投資の削減ペースの緩和、輸出・生産の回復と
く)一方、③給与所得控除・障害者控除を現行の
いう好材料はあるものの、①大手半導体メーカーの
10.8 万台湾ドルから 12.8 万台湾ドルに引き上げる、
大規模投資のピークアウト、②政府・中央銀行の住
といった案が提示されている。その他、中小企業の
宅バブル警戒策等を背景とする民間建設投資の伸
雇用促進を促すための営利事業所得税控除も税
び鈍化が予想されるためである。
制改革案のメニューに盛り込まれている。
個人消費の伸びは 13 年の実績(+1.8%)をやや
今後、これを原案
図表3 株価指数(「加権指数」)
8,800
(1966年=100)
図表4 失業率(季節調整値)
6.5
8,600
8,400
に税制改革論議が
(%)
本格化する。個人消
6.0
費の先行きなどに影
5.5
響を与えるだけに、
8,200
議論の動向を注視
5.0
8,000
7,800
4.5
7,600
4.0
7,400
13/1 3
5
7
(資料)Bloomberg
9
11 14/1 (年/月)
する必要があろう。
3.5
2009
10
11
12
13
14 (年)
(資料)台湾行政院主計総処
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36
South China - Asia Business Report Vol.33
Back Issues
2013 年 9 月発行 第 25 号
・ カンボジアの現状と日系企業の進出動向
・ ASEAN シフトへと舵を切る日本企業(2) ~2013 年2月
アジアビジネスアンケートより~
・ India インドビジネス最新情報[6] 新会社法~一人会社
について~
・ Vietnam: 法人所得税(法人税)法の改正
・ China: 中国ビジネス法律講座[42] 国家級ハイテク企
業の認定
・ Hong Kong: 国際税務講座[27] 中国におけるサービス
PE
2013 年 10 月発行 第 26 号
・ 中越国境の現状と課題~ラオカイ・ルートの可能性~
・ 中国子会社の再編~事業譲渡と吸収合併の比較~
・ ASEAN シフトへと舵を切る日本企業(3)~2013 年2月
アジアビジネスアンケートより~
・ India: インドの税制 [45]移転価格税制 事前確認
(APA)制度の現状
・ Vietnam: ベトナム子会社の設立前費用
・ China: 解説・中国ビジネス法務 [10]「外国人出入国
管理条例」
・ China: 「広東省工会経費の納付管理に関する暫定弁
法」の解説
2013 年 11 月発行 第 27 号
・ 活発化する香港でのスピンオフ上場の動き
・ 中国現法設立にかかる留意点~経営範囲の設定と子
会社配当金による出資~
・ India インドビジネス最新情報[7] 居住者証明書(TRC)
に関する改正店~日印租税条約の概観にも触れて~
・ Vietnam: 引当金の損金算入要件
・ China: 中国ビジネス法律講座[43] 実習生雇用の再の
注意事項
・ Hong Kong: 国際税務講座[28] 移転価格税制の改正
2013 年 12 月発行 第 28 号
・ 中国(上海)自由貿易試験区への期待
・ 消費市場としての新興国の可能性 ~カンボジア~
・ India: インドの税制 [46]2013 年新会社法~企業の社
会的責任(CSR)~
・ Vietnam: ベトナムにおける IT 企業設立の 概要と実務
上の留意点
・ China: 解説・中国ビジネス法務 [11] 「中国(上海)自
由貿易試験区銀行業監督管理関連問題に関する通
知」
・ China: 「中華人民共和国企業破産法の適用の若干問
題に関する規定(二)」の解説
2014 年 1/2 月発行 第 29 号
・ 2014 年香港賃金動向
・ 2013 年為替市場の回顧と 14 年の見通し~ドル円およ
びオフショア人民元を中心に~
・ India: インドビジネス最新情報[8] 新会社法~13 年9月
付で適用されたセクションの概観~
・ Vietnam: 移転価格税制の概要と移転価格税務調査の
現況
・ China: 中国ビジネス法律講座[44] 「深圳市社会医療
保険弁法」の修正および在深圳日系企業への影響
・ Hong Kong: 国際税務講座[29] 平成 26 年度税制改正
大綱
2014 年 3 月発行 第 30 号
・ オフショア人民元建て債券市場の新たな展開
・ ラオスの可能性~タイ・プラスワンの潜在力を探る~
・ ハラルビジネスについて~マレーシアにおけるハラル
食品の事例より~
・ 前海湾保税港区の活用~「一日游」から「前店後倉」ま
で~
・ India: インドの税制[47] インド赤字会社制度および新
会社法による改正の影響
・ Vietnam: ベトナムにおける税務調査の概要とそのリ
スク
・ China: 解説・中国ビジネス法務[12] 国務院による政
府が審査確認を行う投資プロジェクト目録(2013 年版)
の発布に関する通知
・ China: 新「中華人民共和国商標法」の解説
2014 年 4 月発行 第 31 号
・ 高齢化社会に挑む中国 ~広州市の介護現場から~
・ グループ企業間連携による中国関連ファイナンスの最適化
・ ベトナムに向かう中国企業の現状
・ India: インドビジネス最新情報[9]インド新会社法におけ
る休眠会社の論点
・ Vietnam: プロジェクトオフィスのライセンス申請手続き、
取引通貨および会計・税務(前編)
・ Singapore:シンガポール 2014 年度財政予算案~税制
改正を中心に~
・ China: 中国における合法的リストラ
・ Hong Kong: 国際税務講座[30] 2014/15 年度香港財政
予算案
2014 年 5 月発行 第 32 号
・ 中国の消費者向け金融業界の現状と展望
・ ベトナムにおける販社展開の留意点
・ India:インドの税制 [48]インドの不正事例とその対応
策
・ Vietnam:女性労働者のための労働法および効果的な
社内施策
・ China:解説・中国ビジネス法務 [13]登録資本制度改
革を含む行政法規の改正~中国の会社法改正に伴っ
て~
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ート~
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South China - Asia Business Report Vol.33
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