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- 1 - 第1章 序論 第1節 緒言 近年,マーケティング研究では,顧客経験
第1章 序論 第1節 緒言 近 年 , マ ー ケ テ ィ ン グ 研 究 で は , 顧 客 経 験 ( customer experience ) や 経 験 価 値 (experiential value)への関心が高まっている.その背景としては,マーケティング,マ ネジメント領域における今日的課題として,ブランド構築における経験の場の重要性が認 識されていることが挙げられる(岡本, 2005).これまで,企業がブランド価値を創出する とされた時代においては,企業の側からブランド価値を測定するアプローチが主流であっ た.しかし,昨今の厳しい経済環境と国際競争の中で,単に安価なものやヒット商品を生 むだけでは企業の永続的な発展は望めないことから,顧客経験の重要性が唱えられるよう になった(Grewal, Levy, & Kumar, 2009).それゆえ,消費者の側からブランドがどのよう に捉えられているのかを理解するアプローチに, より多くの関心が集まっている. 現在は, 消費者の価値観が多様化しただけでなく,IT 革命により製品やサービスに対する知識が高 くなった上, 昨今の経済状況の悪化から, 消費者による選別はますます厳しくなっている. しかしながら,消費者は買い物をしなくなったわけではなく,本当に必要な製品やサービ スを選別する目が肥え,慎重になっているだけである(Grewal et al. 2009).さらに岡本 (2005)は, 「ナイキ」について,ブランドの持つ魅力を言葉で表現するのは困難だが,「ナ イキタウン」というフラッグシップ店という空間に身を置くと,ナイキというブランドの 持つ世界を肌で実感することができ,このような「場」を通した経験としてブランドを理 解していこうという新しいアプローチが「ブランド・エキスペリエンス」論として関心を 集めてきていると指摘している. -1- 近年,スポーツマーケティング,マネジメント領域においても,スポーツチームやスポ ーツイベントの顧客ベースのブランド価値に関する研究が散見されるようになってきたが, その背景には,ブランドマネジメントによって,マネジメント側がコントロールできない チームの競技成績によって人気が左右されるというダメージを減らすことが期待されてい ることがある(Gladden & Funk, 2001).特に,90 年代から北米や英国において,ブラン ドマネジメントは早急に取り組むべき重要事項として取り上げられてきた.ドイツにおい ても,クラブは元来地域の NPO 組織に由来するため,利益法人に転換して日が浅い.し かしながら,昨今では有名クラブにおいては,世界中にマーケットを拡大する戦略をとっ ていることから,ブランドマネジメントは重要な課題となっている(Bauer, Stokburger, & Exler, 2008).日本の J リーグにおいても,ブランド力を高めれば,他のチームとの差 別化を図れる上,例えばサッカー以外のレジャーの選択肢との差別化を図ることが可能と なる(Mullin, Hardy, & Sutton, 2007).さらにブランド力を強化すれば,チームが財政的 にも安定する要因のひとつとなることから(Bauer, Sauer, & Schmitt, 2005; Robinson & Miller, 2003),スポーツにおけるブランド研究は今後ますます増えてくるものと考えられ る. しかしながら,スポーツの観戦経験が観戦者にどのような価値を知覚させているかにつ いて測定した研究は限られている.観戦者の経験価値は,チームのブランド・エクイティ を総体で検討していくための基礎的な資料となるため,本研究では,スタジアム観戦にお ける経験価値を測定する尺度(EVSSC)を開発することを第1の目的とし,開発された EVSSC を用いて,観戦者のセグメンテーションを行い,特性を明らかにすることを第2 -2- の目的とした.目的に関しては,第3章にて詳しく述べる. 本研究の構成は,第1章において研究の背景,第2章で先行研究のレビューを行った後, 第 3 章で研究の目的,第4章で研究の方法についての説明を行う.そして第5章では,予 備調査の詳細と,本研究における経験価値を構成する因子の概念の明確化を行う.第 6 章 において,研究 1 として行われた尺度開発について詳細を明らにし,さらに,第7章では, 開発された尺度を用いてマーケット・セグメンテーションを行う,第8章を結論とした. 第2節 J リーグの現状 1993 年にスタートしたサッカーの J リーグは,これまで,開幕直後の人気沸騰や顧客 数低迷,そして 2002 年のワールドカップ開催による盛り上がりなど,人気の上昇と交代 を繰り返しながら,チーム数と観客動員数を増やしてきた(図 1) .その過程においては, 1 試合平均観客数が 4 万人を超える浦和レッズのようなビッグクラブも現れ,J リーグの 存在感を高めた.16 年目の 2008 年シーズンには,年間総観戦者数は史上最高の 913 万人 を超え,来シーズンの 2010 年に 1100 万人にするという「イレブンミリオンプロジェクト」 の目標達成を目前にしており,サッカー人気は安定期に入ったともいえる.原田(2008)は, プロスポーツはファンに支えられたビジネスであり,人気と実力を兼ね備えたチームでも, 観戦価値がないと判断された時,急速なファン離れが起きる可能性があると述べ,プロク ラブの安定経営には,多数のコアファンの存在が不可欠であると指摘している.したが って,J リーグチームの戦略は,新規ファンの開拓とともに,既存ファンのコア化を積極 -3- (観客者数単位:1万人) 1100 年間総観戦者数 888 854 836 680 644 741 635 595 913 562 428 475 412 446 415 346 26 10 12 1993年 1994年 14 16 1995年 1996年 17 28 28 28 28 30 31 31 33 36 36 27 18 チーム総数 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 (Jリーグ公式ホームページ http://www.j-league.or.jpデータより筆者作成) 図1 Jリーグ年間総観戦者数・チーム総数の変遷と目標 的に推進する段階にあり,そのためには,ファンの生活の拠り所となるような「深い経験」 (profound experience)を提供し,ファンとチームの関係を深めるマーケティング活動が必 要との認識を示している. しかしながら,観戦者数の増加のみに注力すればいいわけではない.なぜなら,リーグ 全体を財務経営的な観点から見たときに,様々な不安を抱えているからである.表 1 は, 一観戦者あたりの支払入場料を示したものである.アルビレックス新潟は,浦和レッズに 次いで年間観戦者数が多いにもかかわらず,一人当たりの支払い入場料が少ないため,収 益上問題をきたしていることがわかる.これは,無料チケットの割合が他のチームよりも 高い可能性を示しており,改善が求められる経営的課題である.また,一人当たりの支払 い入場料が高いほどチームのブランド・エクイティが高いと Gladden & Funk (1999)が -4- 表1 ビッグ6および本研究調査対象チームの一観戦者あたり支払入場料 チーム名 浦和レッズダイアモンズ 年間入場料収入 (単位:百万円) 年間観戦者数※ 一人当たり支払入場料 (単位:円) 2,866 774,749 3,699 鹿島アントラーズ 831 262,365 3,167 名古屋グランパス 767 253,702 3,023 ジェフユナイテッド市原千葉 595 227,680 2,613 ガンバ大阪 598 276,395 2,164 川崎フロンターレ 484 243,780 1,985 横浜F・マリノス 859 462,270 1,858 アルビレックス新潟 831 658,050 1,263 ※Jリーグ公式ウェブサイト上最新開示データである2006年を使用 指摘していることから,これはブランド価値を捉える上で重要な指標である.次に,Jリ ーグ公式ウェブサイトの開示資料(資料1)から 2008 年シーズンにおける 33 クラブの財 務データ(損益計算書・貸借対照表)の分析を行い(資料2) ,繰越利益剰余金の上位6チ ーム(浦和,千葉,名古屋,川崎,G大阪,鹿島)及び,本研究で調査を行った横浜と新 潟を示したのが表2である.この結果から読み取れるのは,繰越利益剰余金の上位6チー ムのみが,財務的な視点から成功しており,ビッグ6の座を確立しつつあるということで ある.確かにこれらビッグ6のチームの主要株主は大企業である(表3) .しかし,それに 頼るのではなく,チーム単体で本業である営業収入が安定しており,営業経費率を低く抑 え,営業利益を確保していることは,スポーツビジネスとしてあるべき姿を示していると いえるだろう. -5- 表2 2008年度 Jクラブの財務経営状況ランキング 表○: 営業 収入 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 : 14 . . . . . . . . . . . 浦和 G大阪 鹿島 東京V 横浜FM 名古屋 千葉 清水 F東京 磐田 川崎F . 新潟 7,091 4,399 4,180 4,144 4,092 4,071 3,565 3,457 3,433 3,387 3,320 2,590 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10 . : 15 . 28 . . . . . . . . . . . 浦和 名 古屋 大宮 磐田 柏 川 崎F 横 浜FM G大 阪 鹿島 京都 2,3 74 2,2 84 2,1 65 1,8 82 1,8 74 1,8 57 1,8 36 1,7 48 1,6 64 1,5 71 . . 千葉 新潟 1,3 24 95 0 千葉 G大阪 鹿島 名古屋 川崎F 浦和 甲府 草津 大宮 東京V 391 262 117 100 70 34 26 16 13 10 横浜FM 新潟 2 -130 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 : 18 21 23 繰越利 益剰余金 . . . . . . . . . . 名古屋 鹿島 G大 阪 仙台 浦和 甲府 山形 徳島 川崎F 草津 101 52 39 34 24 24 22 17 9 7 . . . 横浜FM 千葉 新潟 0 -11 -46 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 : 14 25 . . . . . . . . . . 浦和 千葉 名古屋 川崎F G大阪 鹿島 仙台 山形 愛媛 徳島 408 330 176 145 124 37 34 22 3 -19 . . 横浜FM 新潟 -122 -496 営業収入うち 入場料収入 営業 収入うち 広告 収入 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 : 12 16 当期利益 営 業利益 (単位:百万円) 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10 . : 14 浦和 横浜FM 新潟 名古屋 F東京 鹿島 清水 G大阪 千葉 磐田 川崎F 2,866 859 831 767 765 675 634 598 595 582 (Jリーグ公式ウェブサイト データより筆者作成) 484 表3 ビッグ6および本研究調査対象チームの比較概要 チーム名 法人名 資本金 主要株主 浦和レッズダイアモンズ ㈱三菱自動車フットボールクラブ 160 三菱自動車㈱ ジェフユナイテッド市原千葉 ジェフユナイテッド㈱ 490 JR東日本㈱,古河電工㈱ 名古屋グランパス ㈱名古屋グランパスエイト 400 トヨタ自動車㈱ 川崎フロンターレ ㈱川崎フロンターレ 349 富士通㈱ ガンバ大阪 ㈱ガンバ大阪 鹿島アントラーズ ㈱鹿島アントラーズFC 横浜F・マリノス 横浜マリノス㈱ アルビレックス新潟 ㈱アルビレックス新潟 10 1570 パナソニック㈱ 住友金属㈱ 30 日産自動車㈱ 713 171企業団体 (出典:各チーム公式ホームページ) -6- 第3節 マーケティング論の進展と消費者行動研究 マーケティング研究では,有形財を対象とする伝統的なマネジリアルマーケティングが, 無形財を対象とするサービスマーケティングへと広がる一方,データベースマーケティン グ,ダイレクトマーケティング,リレーションシップマーケティングなど,顧客へのアプ ローチの方法が従来とは異なる新しいマーケティングの考え方が,時代の流れにともなっ て出現した(コトラー&アームストロング, 2003) . マーケティングの体系的な研究は,20 世紀初頭のアメリカで生まれた.三浦(2008)は, 過去の文献レビューから、時代の要請に応じる自己の市場の創出,維持,拡大のため,製 造業によるマーケティングが登場したことを紹介している.近藤(2008)は,購買動機を, 「情緒的購買動機」(emotional buying motive)と「合理的購買動機」(rational buying motive)に実証的に分類し,『マーチャンダイジングの原理』(1924)を発表した Copeland を,先駆的な研究を行った消費者行動学者と紹介している.その後,1969 年の ハワード =シェス・モデル といわれる「刺激−生活体−反応モデル(S-O-R モデル)」を提唱した Howard & Sheth によって消費者行動論が確立され(熊沢,2008),マーケティング概念 を営利企業の活動に限定することなく,社会的組織の諸活動にまで拡張させて,数量的・ 行動科学的アプローチを用いた Kotler が,現代のマーケティング論の第一人者としての地 位を確立した(上沼,2008) . マーケティング論の中でも,特に消費者の行動を研究する領域が,消費者行動研究であ る.消費者行動については,経済学,心理学,社会学等様々な分野に渡って研究が蓄積さ れており,マーケティングにおいては他学問の理論を援用して発展してきた.消費者行動 -7- 研究では,消費者は合理的な意思決定者として捉えられ,機能的特性と便益を重視すると する伝統的な消費者情報処理論が 1980 年代前半においても主流であった.一方で,消費 者は合理的な選択を行う反面, 「消費経験」(consumption experience)を通じて湧き上がる 感情に影響されて選択を行うとする,心理学的な視点を取り入れた消費経験論が注目を集 めるようになった.このように,消費経験や情緒・感情・快楽消費に着目した消費者行動 分析を扱った分野を,ポストモダン・マーケティングと呼ぶ(熊沢,2008).これらは,1980 年代の Holbrook を中心とした研究に萌芽がみられる(例えば Holbrook & Hirschman, 1982; Hirschman & Holbrook, 1982).後に Holbrook(1994)は,レビュー研究から,消費 経験について言及した文献の存在を明らかにし,消費経験自体は新しい概念ではなかった と指摘したが,ポストモダン学派を代表する研究者としての Holbrook の功績は,消費経 験論の視座を体系化し,確立したことにある.それゆえ消費経験論は,顧客価値や経験価 値マーケティングのみならず,現在のブランド論における,顧客ベースのブランド・エク イティ概念の基礎となっている. 第4節 経験価値マーケティングの登場 一般のビジネスマンを中心に「経験価値」の概念が認知されるきっかけとなったのは, 2000 年前後にかけて,Pine & Gilmore (1998)による「経験経済」(experience economy) の概念や,Schmitt(1997, 1999, 2003)による「経験価値マーケティング」(experiential marketing)の概念が相次いで発表されたことにある.それらは,企業側のマーケティング の新しい方法として,消費者に思い出を経験させるサービスを越えた価値の創出の重要性 -8- や,感性に訴える広告が有効であることを啓蒙し,マーケティング実務に影響を与えるも のであった.しかしながら,Holbrook(2000)は,Pine & Gilmore(1998)について,先行研 究ではほとんど触れない上,歴史的事実を無視して新しいパラダイムや概念を提唱したか のような内容に痛烈な批判を行っている.確かに,経験経済や経験価値は,これまでの消 費経験論のフレームワークの延長にある概念であり,消費者行動研究の専門家にとっては 自明な内容であった.しかしこれらの概念が,身近な事例やビジネスの事例を用いて紹介 されたことから,一般への反響が大きく広がった.例えば, 「インターネットにビジネスを 落とし込めば,すべてがエンタテイメントになる」(Wolf, 1999)としたものや, 「人生はシ ョービジネスのように楽しもう」(Gabler, 1998)等の書物は数多く出版されたが,これら を「エンタテイメント要素=経験価値」と誤認識しているとして,Holbrook は批判し続け た(Holbrook, 2000; 2001a; 2001b; 2006; 2007a; 2007b; 2007c). このように,経験価値がもてはやされたのは,2000 年前後の米国経済におけるITバブ ルと無関係でなく,一種の浮かれたブームともいえる現象であったと推察される.なぜな ら日本においても,1980 年代,電通に代表される広告代理店や西武に代表される百貨店が 主導した,感性に注目した感性消費マーケティングが流行したが(上原,2009),この現 象がバブル期に重なっていたことも偶然でないと考えられる.そして実際に,上原(2009) が指摘するように,消費における経験面の重要性が啓蒙されるに留まり,綿密な戦略構築 の理論も示されておらず,経営者や担当者の個人的なセンスに依存したものであった.し たがって,当時の米国においても,実務者による様々な経験価値マーケティングの事例が 披露されたに過ぎないともいえる.このように,様々な批判はあるものの,経験価値の考 -9- えは,企業側からみたブランド創造として実務に影響を与えたほか,その後のブランド論 においても様々な実務書の中で引用されている. 第5節 経験価値とブランド論 経験価値(experiential value)に関連する概念は,消費経験,経験価値,顧客経験,顧客 価値と様々な名称があり,時代と役割により名称が変化しているものの,消費者の消費す る過程における経験およびその知覚価値を表す概念としては,ほぼ同義であると考えられ る.この「経験」の概念は,ビジネスをはじめ,各研究分野に影響を与えた.80 年代に Holbrook と Hirschman によって議論された消費経験は,すべての消費には経験が伴うこ とを指摘したが,それは経験はあくまで製品やサービスに付随する脇役の概念であった. しかしながら,製品やサービスのブランド化の進展に伴い,ビジネスやその後のブランド 研究に大きな影響を与えた.例えば,Aaker(1991)や Keller(1993)の顧客ベースのブラン ド・エクイティ論にも,消費者の経験がブランド・エクイティの一部をなすとしている. また昨今では,顧客経験がブランド・エクイティに与える影響が指摘されていることを背 景に,顧客経験の重要性が指摘されている.顧客経験に関しては,近年の小売・サービス 部門における研究において,単に低価格で革新的な製品を顧客に提供するだけでは, 厳し い経済環境や,競争が激化する小売業界で生き残ることができないということが指摘され ており(Grewel et al. 2009),顧客接点における「顧客経験マネジメント」(customer experience management)の重要性が指摘されている(Verhoef et al., 2009; Puccinelli et al., 2009).また,ブランド経験(brand experience)についての尺度開発を行い,ブランド - 10 - 経験がロイヤリティの先行要因となることについて実証した研究(Brakus, Schmitt & Zarantonello, 2009)をはじめ,経験とブランドに関連する研究は,重要なテーマとなって いる. マーケティングにおいて,グッズドミナントロジックの考え方は限界に来ているとして, 次のパラダイムを表すロジックの検討が Gronroos(1994)や Gummesson(1998)に試みられ てきた.その中でも,Vargo & Lusch(2004)によって提唱された,サービスドミナント ロジックへパラダイム転換したという考え方は,顧客ベースのブランド・エクイティや経 験価値に近似した考え方であるといえるだろう.グッズドミナントロジックとは,有形財 の商品を売るマネジリアルマーケティングが中心であるが,サービスドミナントロジック では,マーケティングが,サービス経済の進展と共に,無形財を扱うサービスマーケティ ングへと領域を広げている.すなわち,製品がサービス財の触媒的機能を果たす時代にお いては,プロダクトそのものが,製品かサービスであるかは問題視されなくなってきたの である.つまり,サービスドミナントロジックという概念を用いることで,サービスのカ スタマイゼーションや共創の重要性を指摘し,企業・製品・ブランド中心のロジックから, 顧客・経験・関係性中心のロジックへの転換を指摘したのである.これは,経験価値の概 念に近似しており,サービスドミナントロジックの時代においては,しばしば顧客経験 (customer experience) と い っ た キ ー ワ ー ド が 用 い ら れ て い る (Grewel et al., 2009; Verhoef et al., 2009; Puccinelli et al., 2009).そして,サービスドミナントロジックをブ ランド論に置き換えて,ブランドロジックとして提唱した Merz(2009)は,現在のブラン ドロジックにおいては,顧客だけでなく,ブランドに関わる全てのステークホルダーが価 - 11 - 値を共創することにより,ブランド価値を創造しているとしている. サービスクオリティ研究においても,Berry(2000)がサービスブランド・エクイティモ デルにおいて,顧客経験がブランド・エクイティに影響を与えることを概念化した.この 概念モデルは,ブランド・エクイティの先行要因として,「企業が提供するブランド」 (company s presented brand), 「外部で発生するブランドコミュニケーション」(external brand communications), 「当該企業における顧客経験」(customer experience with the company)を挙げている.これは,業績のよいサービス企業のトップから窓口担当者までの 250 人以上を対象にしたインタビュー調査の結果をベースに策定されたことから,現実に マッチしたモデルであるといえるだろう.この概念をきっかけに,サービスクオリティ研 究においても,機能的品質に加え,施設のデザイン,店内の雰囲気,他の客との交流など の情緒的な要素を含むようになった(Brady & Cronin, 2001). 経験価値そのものに着目した研究としては,Holbrook(1994)の顧客経験を類型化した概 念を基に,Mathwick, Malhotra, & Rigdon (2001)による経験価値の尺度(Experiential Value Scale ‒ EVS)開発に関する研究が代表的である.この研究の背景には,90 年代後 半における IT 革命によって,これまでの流通が抜本的に変化し,消費者行動も大きな転 換期を迎えるという危機感があったと考えられる.実際にカタログショッピングとインタ ーネットショッピングの経験価値を比較するために開発された Mathwick et al. (2001)の 研究は,ウェブサイトのデザインが経験価値に与える影響に関する研究(Wells, Fuerst, & Palmer, 2005)をはじめ,ウェブサイトの経験価値に関する研究を多く生み出すきっかけと なった(Eroglu, Machleit, & Davis, 2003; Chen & Dubinsky, 2003; Janda Trocchia, & - 12 - Gwinner. 2002; Lavie & Tractinsky, 2004; Chang, Cheung, & Lai., 2005; Brown & Dant, 2009).また,その他の経験価値に関する研究では, 「遊び」や「フロー」との関係性に着 目した研究が散見される.例えば,遊びやフローに関連する研究としては,顧客との関係 や態度を変える,思い出に残る経験を創造する力があるとした研究 (Deighton & Grayson, 1995) があるほか,暇にまかせてネット検索している人と,調べ物をネット検索している 人のフロー状態を比較した研究 (Novak, Hoffman, & Duhachek.,2003)や,フローと遊び の密接な関係を実証した研究(Mathwick & Rigdon,2004)などが挙げられる.これらは,情 報化による消費者行動のパラダイム転換に対応するための課題として,マーケティング科 学が知見を積み重ねていている分野である. 以上のように,マーケティング研究における知見は,スポーツチームのブランド・エク イティ向上のための,スポーツ観戦に特有な経験価値を検討するうえで有用な示唆を提供 してくれるものと考えられる. - 13 - 第2章 先行研究の検討 第1節 消費経験アプローチによる経験価値尺度 第 1 項 絶対的価値と相対的価値について Holbrook (1994)は,価値とは絶対的か相対的であるかという議論について,研究者によ って立場が異なるゆえ,品質や価値の定義も異なると指摘している.これはマーケティン グ科学が,もともと経済学の概念を援用していることに由来すると考えられる. まず,絶対的な価値の概念についてであるが,財務会計学的な観点からみた伝統的な付 加価値(value-added)の概念があげられる.それは,企業の生産額から原材料・中間財の投 入額を差し引いた残額のことである(中谷, 1993; マンキュー, 2006) .つまり,最終的な アウトプット(売値)から,生産にかかった費用(原材料や人件費等)を差し引いた利益が 付加価値となるとするものである.また,金融・ファイナンス学的な観点で用いられる, 現在価値(present value)の概念が存在する.それは,将来受け取る金額が現在のいくらに 当たるかを,両時点間に得られる利子収入を考慮して計算した値のことである(中谷, 1993; マンキュー, 2006) . このように,価値を絶対値で表すことのできる概念に対して,日常会話で使われる「価 値がある」という使われ方があるように,相対的な価値もある.マーケティング科学はも ともと製造業から始まったことから,原価計算から利益がいくらかということや,投資に 対するリターンを予測するために絶対的な価値を測る企業の側からの論理が伝統的に存在 した.しかしながら,消費者の消費過程を通じて知覚する価値については,相対的なもの であり客観的に測ることは困難である. - 14 - したがって,Holbrook(1994)は,消費者からみた価値を「主体の客体との相互作用にお ける経験に基づいた,比較による,個人的で,状況により生じた相対的に好ましいこと」 と明確に定義づけた.つまり価値(value)は,個人的な選好(preference)がともない,主体 と客体間の相互作用(interaction)をともなっている.そして,価値は次の 3 つの点, 「比較 可能」(comparative),「個々人によって違う」(personal),「状況に応じて評価される」 (situational),において相対的であると指摘した. 第2項 経験価値の類型 以上の議論を基に,Holbrook(1994)は,消費者行動研究における顧客価値(customer value)の重要性を指摘し,それを①外的・内的(extrinsic / intrinsic),②自己志向型・他者 指向型(self-oriented / other-oriented),③能動的・受動的(active / reactive)という3つの 項目を用いて分類した(図2).Holbrook(1994)は,顧客価値こそがすべての消費者行動 の根幹を成すものであると考えた.そして, 「消費者が製品またはサービス自体から得るも のではなく,消費する過程における経験」を消費経験と定義したうえで(Holbrook & Hirschman, 1982),その消費経験を通じて「顧客自身が得る相対的に好ましい経験」を顧 客価値とした.この分類には,Holbrook の顧客価値論の原型がみられる. - 15 - 内在的 自己志向 intrinsic 遊び・楽しさ play, fun 美しさ esthetics, beauty 効率性・利便性 efficiency, convenience 品質の素晴らしさ excellence, quality 倫理・美徳 morality, virtue 信仰・恍惚 spirituality, ecstacy 政治・成功 politics, success 尊敬・名声 esteem, reputation selforiented 外在的 extrinsic 内在的 他者志向 intrinsic otheroriented 外在的 extrinsic 能動的 受動的 active reactive 図2 消費経験価値の類型 Holbrook (1994) これまでの消費者行動における感情研究では,快楽的・情動的(hedonic)と,功利的・機 能的(utilitarian)に二極区分するアプローチが主流であった.例えば,Copeland(1924)の 購買動機を情動的・合理的に分類した先駆的な研究をはじめ,買い物経験を快楽的価値と 機能的価値に区分し,満足度や消費時間等に与える影響を考察した研究(Babin et al., 1994)など,経験される価値,商品,動機を機能的価値(utilitarian value)と快楽的価値 (hedonic value)によって二極区分する方法である(上原,2008).Holbrook は,価値論者 の分類方法に依拠した概念化を行った.すなわち,外的価値とは,モノやサービスから得 られる効用(utility)であり,内的価値とは,経験そのものをいいと思うことと定義し,機 能的価値=外的価値,快楽的価値=内的価値と位置づけた.このような考えに関しては, - 16 - Babin & Darden (1995)や,Batra & Ahtola (1991)も支持している.またチョードリー (2007)は,顧客価値とは,機能的要素を含んだ取引価値と,快楽的要素を含んだ差別的価 値が影響しあって形成されると述べた. Mathwick et al.(2001)は,Holbrook (1994)の消費経験から生じる顧客価値の枠組みの 中から自己志向(self-oriented)に関する要素を取り出し,経験価値として類型化した(図3). そして,各象限に「審美性」(Aesthetics), 「遊び」(Playfulness), 「サービスエクセレンス」 (Service Excellence), 「投資効果」(Customer Return on Investment)という名称を付与し, 「経験価値」(experiential value)とは, 「顧客自身が消費経験を通じて,製品やサービス に対して知覚した好ましい事柄」と定義した.この類型をもとに経験価値尺度を開発し, 小売・サービス部門の枠組みにおいて実証研究を行ったのである.このように,Holbrook の消費経験論を基礎とした経験価値に関する研究は,様々な知見の蓄積とともに新しい理 論展開の可能性を広げた.そこで本研究では,このモデルをもとに,スポーツ特有の因子 を追加することによって,スポーツ観戦における経験価値モデルの開発を試みた. - 17 - 内在的 遊び 審美性 intrinsic play aesthetics 外在的 extrinsic 投資効果 サービスエクセレンス customer return on investment service excellence 能動的 受動的 active reactive (Mathwick et al. 2001) 図3 経験価値の類型 第2節 スポーツにおける経験価値に関連する研究 スポーツマーケティング研究が,伝統的なマーケティングとは別の系譜として発展して きた理由は,スポーツ観戦のコアプロダクトが経験製品であり,一般の製品とは異なる性 質をもつからである.つまりスポーツは, 「楽しみ,興奮,社交,誇りといったさまざまな 経験価値といった便益を観戦者に提供するが,情緒的かつ主観的な産物であることから, 感じ方や評価は個々人によって大きく異なるもの(原田, 2008) 」である.それゆえスポー ツマーケティング研究は,既存の枠組みでは説明しきれない考えを包含しつつ,既存の理 論を援用して発展してきたのである. スポーツマーケティングにおける経験価値に関連する研究として,まず,感情に関する - 18 - 研究があげられる.例えば,隅野(2005)は,価値のある経験を構成する代表的な要素が感 情であるとし,観戦者がスタジアムで体験する「主観的」 ,「快楽的」,「経験的」な要因と しての感情が,その後の観戦行動の先行要因となることを明らかにした.また,Kao Huang, & Yang (2007)は,情緒に焦点をあてた経験価値尺度開発し,満足度及びロイヤリティへ 与える影響について検証を行った. シュミット(2004)による劇場でのインタビュー調査を参考にしたものでは,Jリーグ観 戦者のスタジアム内における発露した認知的コメントや感情表現を,時系列に分析を行っ た研究(齋藤ほか, 2008)や,プロ野球観戦者に対して行動追跡調査を行った研究(独立 行政法人産業技術総合研究所と北海道日本ハムファイターズ, 2008)などがある.また Mathwick ら(2001)の経験価値モデルを参考にし,スポーツ観戦者を経験価値によって分 類を行った研究(Saito, Harada & Hirose, 2008; Harada, Saito & Hirose, 2009)があげら れる. 最近のサービスクオリティ研究においては,消費過程や,消費後の感情まで考慮した研 究が主流であることから,Yoshida & James (2009)は,Brady & Cronin (2001)のサービ スクオリティモデルに審美的品質(aesthetic quality)を加えて精緻化し,スポーツ観戦にあ てはまるモデルを開発した研究がある.これは,スポーツ観戦プロダクトとして,経験価 値的な概念を含めた,中核的要素と付随的要素を包含したモデルであるといえるだろう. 以上から,スポーツ消費者行動研究において,経験価値に関する実証的な研究は限られ おり,スタジアム観戦におけるどのような経験が観戦者に価値を与えているのかを定量的 に測るための尺度を開発することは,今後スポーツ観戦の価値を論じる上で,基礎的な資 - 19 - 料となると考えられる.また,実務に携わる側にとっては,観戦者のニーズを的確に掴み, 行動が事前に把握できるツールとなれば,それに向けて継続的にマーケティング戦略が立 てることができるだろう. 第3節 マーケットセグメンテーションに関する研究 消費者の価値観や嗜好が多様化している今日,市場の消費者ニーズを単一なものと考え て,同じ製品を投入していくマスマーケティング手法では,製品を消費者の個々のニーズ に適合させることが困難になっている(コトラーとアームストロング,2003) .しかしな がら,コトラーとケラー(2008)は,消費者は多くの面でそれぞれに異なっているものの, たいていは1つまたは複数の特徴によって,分類できるとしている.その方法としては, マーケット・セグメンテーションを行うことにより,欲求や属性等が類似するグループに 細分化することがあげられる(Wedel & Kamakura, 2000).その中から,ターゲット市場 を見つけ出すことにより,訪れる観戦者に対して,効果的なマーケティング活動を行うこ とができる(Mullin et al., 2007)という点において,現在のマーケティングでは必要不可欠 な分析ツールとなっている(Arnold & Reynolds, 2003).一般に,セグメンテーション基準 には ,人口統計的基準,地理的基準,社会的基準,消費者行動特性基準(宇田川,1999) が用いられるほか,デモグラフィック基準,サイコグラフィック基準,製品ベネフィット, 製品使用の4つの変数(コトラーとアームストロング,2003)が用いられている.宇田川 (1999)が用いた人口統計的基準は,人口統計調査で分類される年齢,性,家族構成,ライ フサイクル,所得,職業などによる分類である.地理的基準は地方,地域,都道府県など - 20 - による分類であり,社会的基準は職業や社会階層などによる分類である.その一方で,コ トラーとアームストロング(2003)は,これらの3つの変数を広義にデモグラフィック基準 と捉えている.そして,前者の消費者行動特性基準は,ライフスタイルや性格,ブランド・ ロイヤルティ選好などの消費者行動特性による分類を詳細にサイコグラフィック基準,製 品ベネフィット基準,製品使用基準と捉えたものと考えられる.したがって,セグメンテ ーション基準は大きな枠組みとして,デモグラフィック基準と消費者行動特性基準から行 われるものであり,マーケティングの目的に応じて変数が使い分けられているといえるだ ろう.しかしながら,消費者行動特性基準による消費者の把握は,他の基準による把握よ り難しいとされるが,マーケティングミックスを効果的に行ううえで重要であるとされて いることから(宇田川,1999),近年,スポーツマーケティングにおいても,消費者行動 特性基準に着目した研究が行われている(Bennet et.al., 2003; Trail et al., 2002).それは, 日本においても同様の傾向であり,スポーツ観戦者においてマーケット・セグメンテーシ ョンを行った研究が散見される.例えば,複数のトップリーグチームの観戦者を観戦動機 尺度から分類を行った研究(高田ほか, 2008)や,プロバスケットチームのファンクラブ 会員の特性を Points of Attachment 尺度を用いて分類を行った研究(大西ほか, 2008)が ある.また,藤本・原田(2001)は,スタジアムでの J リーグの観戦経験がない潜在的観戦 者を対象に,観戦意図や関心度,チーム・アイデンティティ等を用いて分類を行っている. そして,セグメンテーションに関し,マーケット構造を把握し,ターゲット・マーケット の選定やマーケティング戦略展開のプライオリティを決定する上で非常に有効な方法であ ると指摘している. - 21 - しかしながら,製品ベネフィット基準によってマーケット・セグメンテーションを試み た研究は存在するものの,消費行動において顧客が獲得する様々な経験価値に着目したマ ーケット・セグメンテーション研究は不足している.また,セグメンテーションの要件と して,焦点化(identifiability),到達可能性(accessibility),安定性(substantiality),柔軟な 対応(responsiveness)などが判定の基準になるといわれている(Wedel & Kamakura, 2000).例えば,デモグラフィック特性は到達可能性が優れている一方で,顧客一人ひと りの特性に応じた柔軟な対応などは劣っているとされる.したがって,経験価値に基づく マーケット・セグメンテーションは,尺度が既存の消費者行動特性基準のセグメンテーシ ョンを補う可能性があると考えられる.ゆえに,本研究で開発する尺度を応用して,観戦 者をセグメンテーションすることは,チーム間やスポーツ間での観戦者の特色を比較でき る可能性があると同時に,マーケティングのターゲット対象を検討する上でも有用性があ ると考えたことから,本研究において,経験価値を用いたセグメンテーションを行うこと を試みることとした. 第4節 スポーツにおけるブランド・エクイティ及び経験価値に関する研究 スポーツチームにおける「ブランド・エクイティモデル」に関する研究は,顧客ベース のブランド・エクイティモデルを提唱した Aaker(1991)や Keller(1993)のフレームワーク を用いて Gladden, Milne, & Sutton (1998)が概念モデルを提唱したことに始まる.現在で は,Gladden らによる一連の研究(Gladden, Milne, & Sutton, 1998; Gladden & Milne, 1999; Gladden & Funk, 2001,2002)と,Ross らによる一連の研究(Ross, 2006; Ross, - 22 - James, & Vargas, 2006; Ross, Ross, 2007; Bang, & Lee,2007; Ross, Russell, & Bang, 2008)の 2 つの系譜が存在する.Gladden が Aaker(1991)や Keller(1993)によるブランド・ エクイティモデルのフレームワークを用いたのに対して,Ross は,Berry(2000)によるサ ービスブランド・エクイティモデルの影響を受けている.図4は,スポーツチームにおけ るブランド・エクイティを構成するブランド連想(brand association)について,Gladden & Funk (2002)と Ross et al. (2006)が,それぞれオリジナルの尺度を開発するにあたって影 響を受けた,Aaker(1991)と Keller(1993)のブランド・エクイティモデルと,Berry(2000) のブランド・エクイティモデルの詳細を表したものである. 最初にブランド・エクイティモデルを提唱した,Gladden & Funk の影響力は大きく,そ のモデルをフレームワークとした研究は多い.例えば,Bauer et al. (2005, 2008)は,近年 ヨーロッパにおいてチームの人気が海外で上昇していることから,ブランド戦略の必要性 を説き,ドイツチームにおけるブランド連想の測定を行っている.Gladden & Funk (2002) は,Keller (1993)のブランド連想(ブランドイメージ)を構成する, 「ブランド属性」 , 「ブ ランドベネフィット」 , 「ブランド態度」のフレームワークを用いてブランド連想を測定す る,Team Association Model (TAM)を開発した.尺度作成の手順として,はじめに大学院 生を調査対象としたフォーカスグループインタビューを行い,チームスポーツにおけるブ ランド連想を抽出するため, 「なぜ特定のチームの応援をするのか」 , 「なぜ特定のチームの みブランド力があるのか」について尋ねた.その結果,文献調査で明らかになった以外に 新たな因子は抽出されないことが確認された.その後,大学生に対して項目確認のため予 備調査を行った後,本調査をスポーツ専門誌の読者を対象に郵送法にて行った. - 23 - 一方 Ross (2006)は,新たにサービスブランド・エクイティモデルを提唱した Berry Aaker (1991)のブランド・エクイティモデル ブランド認知 ブランド知識 brand knowledge brand awareness ブランド・エクイティ brand equity Keller (1993)のブランド・エクイティモデル ブランド連想 ブランド認知 brand awareness brand associations ブランド想起 brand recall ブランド認識 ブランドイメージ ブランド連想の種類 ブランド属性 製品関連 brand loyalty brand image types of brand association brand attributes product related ブランド連想の選好 brand quality favorability of brand association strength of brand association ブランド連想の独特さ 企業が提供するブランド company’s presented brand 外部で発生するブランド コミュニケーション external brand communications 機能的 brand benefit functional ブランド態度 experiential brand attitudes 象徴的 symbolic uniqueness of brand association ブランド認知 brand awareness ブランド・エクイティ ブランド解釈 brand equity Gladden and Funk (2002)のスポーツチーム におけるブランド・エクイティモデル brand meaning 当該企業における 顧客経験 customer experience with company Ross et al.(2006; 2008)のスポーツチームにおけるブランド・エクイティモデル Spectator-based brand equity ブランド認知 brand awareness 外部で発生する コミュニケーション ブランド連想 顧客経験 ブランドベネフィット 経験的 ブランド連想の強さ Berry (2000)のサービスブランド・エクイティモデル 組織が行う マーケティング non-product related ブランド・ロイヤルティ ブランド品質 先行要因 非製品関連 brand recognition brand association identification Internalization commitment concessions history logo organization attribute rivalry nonplayer personnel stadium socialization success team characteristics product delivery star player logo design management head coach tradition success stadium/arena identification nostalgia pride in place escape peer group acceptance ブランド属性 brand attributes ブランドベネフィット brand benefit ブランド態度 brand attitudes importance knowledge affect 図4 スポーツチームにおけるブランド・エクイティモデルの系譜 (2000)のフレームワークを用いて,スポーツチームにおけるブランド・エクイティモデル を提唱した.そして,ブランド連想の尺度である Team Brand Association Scale(TBAS) の開発を行った(Ross et al., 2006).尺度開発の手順として,Gladden et al. (2002)の項目 を参照すると同時に,新たな項目を抽出するため,大学生を対象にプレ調査を行った.そ れは,好きなスポーツチームに関するイメージを自由連想して記述する方法であった. この2つの研究における,ブランド連想に関連する因子の中からスタジアム経験に関連 - 24 - するものを抽出すると,Gladden & Funk (2002)からは, 「ロゴデザイン」(logo design), 「スタジアム」(stadium), 「スター選手」(star player), 「逃避」(escape), 「試合の面白さ」 (product delivery), 「感情」(affect), 「勝利」(success)が挙げられる.また,Ross et al. (2006) からは, 「ブランドマーク」(brand mark), 「スタジアム」(stadium), 「チーム特有の試合 戦略」(team play characteristics),「競争」(rivalty),「当該スポーツ特有の面白さ」 (characteristics of sport), 「勝利」 (success), 「売店」 (concessions), 「消費経験」(consumption experience)が挙げられる.これらの因子を Mathwick et al. (2001)の経験価値モデルに適 用すると,「ロゴデザイン」と「ブランドマーク」及び「スタジアム」は,「演出」に該当 すると考えられる.「逃避」は同じ「逃避」因子が存在し,「試合の面白さ」 ,「競争」 ,「当 該スポーツ特有の面白さ」は, 「内なる楽しみ」に該当する.さらに「売店」は, 「サービ スエクセレンス」を知覚する品質の一部であると考えられ, 「消費経験」はスタジアム観戦 における観戦経験全体を示しているといえるのではないだろうか.一方で,Mathwick et al. (2001)の経験価値モデルに該当しないものの,スポーツ特有の因子として推測できるのが, 「スター選手」と「チーム特有の試合戦略」などの「選手のパフォーマンス」に関する因 子である.また, 「感情」や「勝利」についても,スポーツ特有の特徴と考えられる.これ らのブランド連想の中における,スタジアム観戦に関連する項目は,本研究の尺度開発に おいても参考になる. - 25 - 第3章 研究の目的 本研究では,近年スポーツマーケティング領域において,顧客ベースのブランド・エク イティに関する関心が高まっていることから,ブランド・エクイティを生み出すといわれ る顧客経験を把握する必要性があると考え,観戦者がスポーツ観戦において知覚する経験 価値に注目した.観戦者のスタジアムにおける経験価値を定量的に測ることは,チーム側 のマーケティング成果を定量的に測ることができるだけでなく, 比較や解釈が可能となり, 観戦者の知覚に対する理解も深まると考えられる.そこで,本研究では,スポーツ観戦に おける経験価値尺度(Experiential Value Scale for Sport Consumption : EVSSC)を開発す ることを研究 1 の目的とした.また,経験価値の知覚という目に見えない物差しにより観 戦者を分類できることは,デモグラフィクス基準や,これまでの消費者行動特性基準では 測ることができない要因によって,観戦者の分類を可能にする.これは,経験価値が既存 の消費者行動特性基準を補完し,新たなマーケティングミックスの展開を促す可能性があ ると考えられる.そこで,EVSSC を用いて観戦者のセグメンテーションを行うことを研 究2の目的とした. - 26 - 第4章 研究の方法 第1節 本研究のフレームワーク 本研究全体のフレームワークは,Churchill(1979),マルホトラ(2006),Arnold & Reynolds (2003)を参考にした(図5).まず, 「先行研究レビュー」及び,「予備調査」と してインデプスインタビューを行い,「概念の明確化」を行う.並行して,「質問紙調査」 として,Mathwick et al. (2001)の経験価値尺度項目を,スポーツ観戦に当てはまるように 解釈したものを用いてデータ収集を行い,尺度の構成概念妥当性を検証するため,信頼性 と妥当性の検討を行った.次に,予備調査の結果を参照しながら,スポーツ観戦独特の特 性を付加していく順序を踏むこととした.「本調査」としてデータ収集を 2 回行い,研究 1として,尺度開発を行った.そして,研究 2 として,研究 1 で開発された尺度を用いて 観戦者のマーケットセグメンテーションを行った. チームのブランド・エクイティの先行要因の一つとなるスタジアム(またはアリーナ) における観戦者の経験に焦点をあてた定量的な研究は,現在見られない.したがって,ス タジアムにおける観戦者の経験に焦点をあて, 詳細に明らかにする必要性があると考えた. そこで,本研究では,スポーツ観戦における,観戦者が消費経験(=観戦経験)から観戦 者が知覚する経験価値についての理解を深めるため,スポーツ観戦における経験価値尺度 (EVSSC)を開発することとした(研究1) .顧客ベースのブランド価値論は,80 年代から のポストモダンの消費者研究で行われてきた消費経験への理解を目指す流れであり,経験 もその流れで使われてきた概念であることから(岡本, 2005),消費経験の概念を用いて分 析を行うこととした. - 27 - 予備調査 本調査 横浜F・マリノス インデプス インタビュー調査 概念の 明確化 質問紙調査 第二回本調査 アルビレックス新潟 先行研究レビュー 2007年9月 第一回本調査 川崎フロンターレ 2008年11月 2009年8月 研究1 尺度開発 研究2 マーケット セグメン テーション 図5 本研究のフレームワーク 第2節 尺度開発における構成概念妥当性の検証について 本研究で尺度開発にあたって,予備調査から本調査すべてに共通して行った構成概念妥 当性の検証について,説明を補足したい.構成概念妥当性とは,理論上の構成概念を,観 測変数が実際に測定することができているかを検証するものである(Hair et al., 2006, p.771).構成概念妥当性は, 「翻訳的妥当性」(translation validity)と「基準関連妥当性」 (criterion related validity)に分けられ,前者は「内容的妥当性」(content validity)のよう な質的に検討される妥当性であるのに対し,後者は「収束的妥当性」(convergent validity), 「弁別的妥当性」(discriminant validity)のような統計的に検討される妥当性である.収束 的妥当性とは,同じ構成概念に対して行った別の測定と,その尺度が正の相関をする程度 を測定するものであり,弁別的妥当性とは,ある測定結果が,異なるものであると想定さ - 28 - れる別の構成概念と相関しない程度を評価するものである.本研究では,予備調査におけ るインデプスインタビュー調査, および質問紙調査における専門家評価を行うことにより, 内容的妥当性を担保することとした.そして,収束的妥当性,弁別的妥当性,信頼性を検 討するために,Hair et al. (2006)の推奨する,因子負荷量,AVE (average variance extracted),相関係数,CR (construct reliability)の分析を行うと共に,Cronbach α係数 (Nunnally, 1978)の分析を行った. - 29 - 第5章 予備調査と概念の明確化 本研究では,Mathwick et al. (2001)の経験価値尺度(EVS)を基盤とした.そのため, 「審 美性」(Aesthetic), 「遊び」(Playfulness), 「サービスエクセレンス」(Service Excellence), 「投資効果」(Customer Return on Investment)の4つの上位構成概念をもとに,スポー ツ観戦における経験価値の概念と用語の定義を行った.フォーカスグループインタビュー 調査は,理論的なヒントを与えてくれるだけでなく,後に行う定量的な調査の前に仮説を 確認することも可能である(Calder, 1977).また,Mathwick et al. (2001)のフレームワー クをレプリケーションすることにより,スポーツ観戦に当てはまる項目を精査する必要が ある.したがって,本研究では概念の定義をするにあたり,先行研究レビューのほか,イ ンデプスインタビュー調査及び先行研究尺度のレプリケーションを予備調査として行った. 第1節 予備調査その1(インデプスインタビュー調査) 第1項 調査対象 調査は,2007 年 9 月 22 日に日産スタジアムにて開催された J リーグ Division1 第 2 6節,横浜 F・マリノス vs. 浦和レッズの試合で行われた.この日には,尺度開発のため の観戦者に対する質問紙調査も同時に行われた.調査対象は,便宜的に選ばれた 10 代か ら 50 代の男女計 6 名とした.内訳は,横浜 F・マリノスのコアサポーターである 50 代男 性(以下「コア男性1」 )と 10 代女性(以下「コア女性」)の親子と 40 代男性(以下「コ ア男性2」)の 3 名が「コア」なサンプルであった.そして,サッカー観戦が初めての 20 代女性(以下「ライト女性1」 )と,決まったチームのファンではないが,サッカーファン - 30 - である 50 代男性(以下「ライト男性」)及び 20 代女性(以下「ライト女性2」 )の3名が 「ライト」なサンプルであった(表4) . 表4 予備調査(インデプスインタビュー)被験者の特性 属性 性別 年齢 略称 1. マリノスサポーター 男性 40代 コア男性1 2. マリノスサポーター 男性 50代 コア男性2 3. マリノスサポーター 女性 10代 コア女性 4. サッカーファン 男性 50代 ライト男性 5. 初めて観戦者 女性 20代 ライト女性1 6. ライトサッカーファン 女性 20代 ライト女性2 第2項 調査方法 調査方法は,シュミット(2004)がニューヨークにある音楽の殿堂とよばれるカーネギー ホールで行った調査を参考とした.その調査は,演奏前から会場を後にするまで、聴衆が 演奏会場で何を経験するかとの視点で,マン・ツー・マンでインデプスインタビュー調査 を行うものであった.シュミット(2004)によれば,これまでの調査(アンケート調査やグ ループインタビュー調査等)では,部分的なことしか明らかにできなかったという欠点が あった.例えば,コンサートの中心となる経験価値を提供するホール,演奏,音響を非常 にポジティブに評価する一方,休憩中のアメニティには改善の必要性があるという結果に ついては,伝統的な手法に頼っていると発見しにくいインサイト(=きづき)であったと 報告している(図6) .調査は,開門後の 17:30 から試合終了後の 21:30 まで行われた. 調査対象者には調査担当者がマン・ツー・マンでつき,試合開始前のイベント広場をはじ め,トイレ,コンコースを隅々とまわり,ヴォイスレコーダーですべての会話を録音した. - 31 - 方法 ・演奏の質だけでなく、ホールや演奏以外の経験価値について尋ねた ・調査対象者に調査担当者が付き添い、DV 機器で印象を記録 ・曲と曲の間のブレイクに、ホール・音響・聴衆の雰囲気についてきいた ・休憩時間中には、ギフトショップ、バーコーナー、トイレ等各自動き回った ・今聴いたばかりの演奏の質についてコメント 結果 ・ホール、演奏、音響を非常にポジティブに評価 ・休憩中のアメニティには改善の必要性 ・ホールの親しみやすさ、他の演奏会場と違って舞台との近さを感じる ・舞台装置が優雅で控えめで、目立ちすぎないことも評価 伝統的な手法では発見しにくい、いくつかの重要なインサイトを 明らかにした 図6 カーネギーホールにおける経験価値調査 (シュミット, 2004) 第3項 分析方法 分析方法は,録音した音声データを文字データに変換し,定性データ分析ソフトである Maxqda2007 を用いて,スタジアムでの経験に該当すると考えられる箇所を抜き出し,内 容が類似するグループごとに分類を行う内容分析を行った. 第4項 結果 分析の結果の一覧を資料3に記載した. 「演出」や「内なる楽しみ」といった既存の因子 の枠組みに含まれると考えられる項目のほか, 「選手のパフォーマンス」 「雰囲気」, , 「覚醒」 , 「共感」に関連する因子が新たに抽出された. 「選手のパフォーマンス」に関しては,「選 - 32 - 手の技術に驚く」, 「試合内容がきわどくて面白かった」という内容が挙げられた. 「雰囲気」 に関しては, 「応援やブーイングがすごい」 , 「観客が雰囲気をつくりあげている」という内 容が抽出された.「覚醒」に関しては, 「 (みんなが)わくわくしている」 , 「(大きいものを 見ると)テンションが上がる」という内容が挙げられ, 「共感」ついては,「好きな選手の 気持ちになって応援する」, 「選手と一体となって応援する」という内容であった.既存の 因子では,「演出」においては, 「選手入場に関する演出」 ,「スタジアム」 ,「音楽や映像」 , 「マスコット」 , 「チームカラー」 , 「チームカラー」, 「イベントや企画」に関するものが挙 げられた.さらに,「内なる楽しみ」については,「レベルの高いサッカーの試合を見るの が楽しい」ということが挙げられた. 第2節 予備調査その2 (先行研究のレプリケーション) 第1項 調査対象 調査対象は,今までに横浜 F・マリノスのホームゲーム(日産スタジアムまたは三ツ沢 競技場)での J リーグ観戦経験があり,なおかつアウェイチームの応援でない 12 歳以上 のスタジアム観戦者とした.調査は,2007 年 9 月 22 日に日産スタジアムにて開催された J リーグ Division1 第 26節,横浜 F・マリノス vs. 浦和レッズの試合,観客者数 48,166 人にて実施した (表5) . 試合開始前までに調査員によって質問紙が配布され,回収された. 調査対象者のデモグラフィクス特徴は,表6に示したとおりである. - 33 - 表5: 予備調査の概要 予備調査 チーム名 横浜F・マリノス 日時 2007年9月22日 ディビジョン JリーグDivision1 節 26節 対戦相手 浦和レッズ 場所 日産スタジアム スタジアム収容人数 72,327 観客数 48,166 スタジアム収容率 66.6% (観客数/収容人数) 17:30-18:50 (1時間20分) 調査時間 試合開始時間 19:00 調査員数 18 訪問留置法 調査方法 (厚紙に調査項目を印刷する形式) 調査用紙形式 他研究者の項目含む計4ページ 回収数 794 有効回答数 569 回収数/調査員 44 表6 予備調査におけるサンプルのデモグラフィクス特徴 変数 性別 カテゴリー n % 男性 310 54.5 女性 259 45.5 (ケース数) 569 100.0 12-18才 38 6.7 19-22才 56 9.8 23-29才 112 19.7 30-39才 216 38.0 40-49才 116 20.4 50-59才 26 4.6 60才以上 5 0.9 569 100.0 低頻度(1回-5回) 299 52.5 高頻度(6回-20回) 270 47.5 (ケース数) 569 100.0 年齢 (平均[標準偏差]=33.2[10.0]才) (ケース数) 観戦頻度 (平均[標準偏差]=7.2[5.6]回,中央値5回) - 34 - 第2項 調査方法 調査は,事前にトレーニングされた 18 名の調査員による訪問留置法による質問紙調査 法で実施した.調査時間は 17:30 のスタジアム開門後から試合開始約 10 分前までの 18:50 までとし,スタンドに着席している観戦者に対し質問紙が配布,回収された.調査員はそ れぞれ担当するブロックで,観戦者の年齢層と男女比を考慮し,ブロック全体を反映させ るようランダムにサンプルを抽出した.回収数は 794 名であった. 第3項 調査項目 本調査は,Mathwick et al. (2001)が開発した経験価値尺度(Experiential Value Scale ‒ EVS)を用いてスポーツ観戦の枠組みで尺度を検討するにあたり,信頼性と妥当性の検討を 行うものである(図7) .したがって EVS を,スポーツ観戦の枠組みに当てはまるように 解釈して和訳を行って項目を作成した(表7).項目は,7「非常にそう思う」から1「全 くそう思わない」の 7 段階尺度を用いた. - 35 - Y1 Y2 Y3 演出 Y4 Y5 Y6 エンタテイメント Γ1,1 審美性 Γ2,1 Γ3,2 Y7 Y8 Y9 Y10 Y11 逃避 遊び Γ4,2 内なる楽しみ サービス エクセレンス X1 X2 Y12 Y13 Y14 Y15 Y16 Y17 効率性 Γ5,3 投資効果 Γ6,3 経済的価値 Mathwick et al. (2001) 図7: 経験価値尺度(EVS)のモデル 第4項 分析方法 本調査において回収された質問紙の中から,経験価値尺度項目に欠損値がある標本およ び,経験価値尺度項目にすべて同じ値で回答している標本を分析から除外して,有効回答 数 569(有効回答率 71.7%)の標本を用いた.まず,確認的因子分析を行い,収束的妥当性 および弁別的妥当性を検討するために,因子負荷量,AVE(average variance extracted), 相関係数を分析した.尺度の信頼性の検討は,Cronbachα係数により行うと同時に,構成 概念信頼性を確認するために CR(construct reliability)にて検討した. - 36 - 第5項 結果 はじめに,確認的因子分析の結果であるが,χ2 適合度検定(χ2 /df=3.54)は,Hair et al. (2006)の推奨している 3.0 以下を満たす結果とはならなった.本調査のサンプル数は 500 以上の大標本であり,たいていのモデルが棄却されることから(朝野ほか, 2007),各適合 度指標で検討を行った.その適合度指標であるが,CFI=.937,IFI=.937,TLI=.923, GFI=.920,AGFI=.891 という結果となり,.90 以上を許容範囲(acceptable fit)とした Hair et al. (2006)の指摘から,AGFI が基準を下回ったものの,当てはまりがいい結果であった. また,RMSEA(.067)においても,サンプル数が 250 以上の場合,.07 以下が許容範囲であ るとした Hair et al.(2006)の基準を満たせる結果となった. 次に,収束的妥当性と弁別的妥当性の検討について示したい.まず,因子負荷量につい てであるが,標準化推定値が.50 以上であることを推奨する Hair et al. (2006)の基準によ れば,2 項目が基準を大幅に下回る結果となった(表 7,Y10 および Y17) .また,各変数 の AVE を.50 以上を基準(Hair et al., 2006)に収束的妥当性の検討を行った結果, 「内なる 楽しみ」(.24)が基準を下回った(表8) .そして,弁別的妥当性の検討では,一次因子間 の相関係数の 2 乗が各要因の AVE を上回らないことを確認した(Hair et al., 2006).その 結果, 「演出」と「エンタテイメント」の相関係数の 2 乗(.90)が, 「演出」の AVE(.66)およ び「エンタテイメント」の AVE(.65)を上回り,基準を満たさない結果となった.その他の 因子については,弁別的妥当性が担保された. さらに,信頼性の検討を行ったところ,Cronbach α係数においても「内なる楽しみ」 (.28)において,.Nunnally (1978)の.70 以上基準を大幅に下回る結果となった.これは, - 37 - 質問項目の表現についての明快さが欠けている結果,回答者に質問の意図が通じなかった 可能性が考えられる.確かに,サッカーそのものの楽しさについて喜びを感じていること を聞くにあたって,質問項目 Y10 において, 「横浜 F・マリノスの試合以外にも,サッカ ー観戦をするのが好きだ」というのは,誤解を招く表現であったことから,再検討を行っ た.CR 値は,許容範囲の.70 以上(Hair et al., 2006)をすべての変数において上回る結果 となったことから,「内なる楽しみ」と「経済的価値」の 2 つの変数において改善の必要 性が確認されたものの,尺度として EVS の一定の信頼性と妥当性は確認することができ た(表7). また,1次因子の相関行列の結果では, 「演出」と「エンタテイメント」が非常に高い相 関(.95)を示したことから,これらの因子が別概念ではない可能性が示唆された(表8). 以上より,EVS の信頼性と妥当性の検証の結果,妥当性においては検討する余地が残る結 果となったものの,一定の信頼性を確認することができた.そして,ワーディングを再検 討することにより改善が見込まれると考えられることから(Selltiz et al., 1976),全体的に 改善を行うことを本調査への課題とした. - 38 - 表7 予備調査における経験価値尺度(EVS)の因子項目の因子負荷量・信頼性・収束的妥当性 (n=569) 項目 Γ1,1 Γ2,1 Γ3,2 Γ4,2 SL (t) (審美性 - 演出) (審美性 - エンタテイメント) (遊び - 逃避) (遊び - 内なる楽しみ) Γ5,3 (投資効果 - 効率性) Γ6,3 (投資効果 - 経済的価値) 横浜F・マリノスのホームゲームを思い浮かべるとき,クオリティ(質)の高さ X1 サービス を思い浮かべる エ クセレンス 横浜F・マリノスのホームゲームを思い浮かべるとき,クオリティ(質)の高さ X2 を思い浮かべる 演出 横浜F・マリノスのホームゲームにおける,全体の演出方法は,洗練されて Y1 いると思う 横浜F・マリノスのホームゲームにおける,会場は,見た目にかっこいいと思 Y2 う Y3 横浜F・マリノスのホームゲームにおける,見せ方・様式が好きである 審美性 エンタテ イメント Y4 横浜F・マリノスのホームゲームは,とても演出が面白いと思う 横浜F・マリノスのホームゲームは,主催者の熱い心が伝わり,興味がもて Y5 る 横浜F・マリノスのホームゲームは,サッカーの試合以外にもお楽しみをラ Y6 インアップしている 逃避 Y7 横浜F・マリノスの試合は,私を日常から遠ざけてくれる Y8 横浜F・マリノスの試合は,私をまるで別世界にいるような気にさせてくれる 横浜F・マリノスの試合を観戦しているとき,いつも没頭してしまい、他の一 フロー Y9 切のことを忘れてしまう 内な る楽しみ Y10 横浜F・マリノスの試合以外にも,サッカー観戦をするのが好きだ Y11 横浜F・マリノスの試合を観戦するのは,純粋に楽しいからである 効率性 私にとって,横浜F・マリノスのホームゲームは時間を効率よく使うのに適し Y12 ている Y13 横浜F・マリノスのホームゲームは,気軽に訪れることができる 投資効 果 Y14 横浜F・マリノスのホームゲームは,私の都合に合わせやすい 経済的価値 Y15 横浜F・マリノスのホームゲームは,お得・経済的である 全体的に私は横浜F・マリノスのホームゲームのチケット価格に満足してい Y16 る 横浜F・マリノスのホームゲームチケットは,広告や販売促進にかかる経費 Y17 を考慮に入れても高すぎる .93 1.0 .67 .1.0 .93 .71 (t=21.54) (*) (t=4.88) (*) (t=11.03) (*) α AVE CR .91 .95 .99 .74 .75 .96 .84 .68 .98 .73 .58 .98 .85 .66 .99 .84 .65 .99 .83 .65 .99 .28 .24 .96 .80 .59 .99 .88 .56 .97 .72 (*) .81 (t=24.01) .81 (*) .74 (t=10.21) .88 (t=11.59) .89 (*) .84 (t=17.55) .67 (t=17.39) .83 (*) .92 (t=14.29) .64 (t=15.63) .26 (*) .64 (t=16.92) .71 (*) .73 (t=13.54) .85 (t=13.66) 1.0 (*) .78 (t=26.76) -.25 (t=21.90) 表8 予備調査における経験価値尺度(EVS)における因子間相関行列 1次因子の相関行列 (n=569) 1 2 3 4 5 .67 .46 1.00 .36 1.00 .47 .45 .58 .65 1.00 .37 .44 .28 .46 .65 .37 1.00 平均値 5.20 4.72 5.09 5.80 4.51 5.03 4.18 標準偏差 1.01 1.09 1.32 .98 1.05 1.24 .94 1. 演出 1.00 2. エンタテイメント .95 1.00 3. 逃避 .38 .41 1.00 4. 内なる楽しみ 5. サービスエクセレンス .63 .70 .65 .76 6. 効率性 .40 7. 経済的価値 - 39 - 6 7 第3節 概念の定義 Mathwick et al. (2001)は,Holbrook (1994)の顧客価値概念における外的・内的価値を 能動的・受動的に分類した自己志向の枠組みから,経験価値を概念化した.各象限は,そ れぞれ次のように命名された.それは,受動的な内的価値を「審美性」(aesthetics) ,能動 的な内的価値を 「遊び」 (playfulness),受動的な外的価値を「サービスエクセレンス」 (service excellence),能動的な外的価値を「投資効果」(customer return on investment)とするも のであった.本研究においては,先行研究レビューおよび,予備調査のインデプスインタ ビューの結果から,概念の定義を明確化した.以下順に説明を加えたい. 第1項 経験価値について 経験価値に関連する用語では,消費経験について Holbrook & Hirschman (1982)は,購 入したものやサービスそのものに存在しているのではなく,消費者が様々な感情や楽しみ を消費する過程で存在するとしている.そして消費経験論を用いて,顧客価値の類型化を 提示した Holbrook (1994)の概念から,Mathwick et al. (2001)は,経験価値尺度モデルを 開発し,経験価値について, 「消費者が,製品やサービスが消費場面においてインタラクシ ョンする経験を通じて知覚する相対的な価値」と定義した.本研究における,スポーツ観 戦における経験価値とは,一連の消費経験論に基づくものであることから, 「観戦者が,ス タジアム観戦のすべての過程,例えば試合,サービス全般,他の観客とインタラクション する経験を通じて知覚する相対的な価値」と定義した. - 40 - 第2項 受動的な内的価値: 審美性 (aesthetics)について 審美性は,受動的な内的価値,つまり受身的な快楽的価値である.本研究においては, 「審美性」と命名し,スタジアム観戦における美的要素に着目して概念化を行った.先行 研究の,Mathwick et al. (2001)の経験価値の枠組みでは,「演出」(3項目)と「エンタテ イメント」 (3項目)の2因子によって説明された.それは,小売サービスの主体が視覚的 に訴える美的要素(visual appeal)や,ドラマチックな展開によって楽しませること (entertainment)により,顧客が審美的な経験(aesthetic experience)として価値を知覚し, 仮に買い物そのものの機能的な主目的が達成されなかったとしても,即時に美的な喜びを 与えてくれるものであるということに由来している(Deighton & Grayton, 1995; Mano & Oliver, 1993).スタジアム観戦の枠組みにおいて,審美性を検討するとき,中核的要素で あるゲーム内容や選手のプレーの美しさに対する知覚が考えられるだろう.また,周辺的 要素である音楽等による演出や,試合前イベント,スタジアムそのものの美しさが考えら れる.本研究では,予備調査の結果から, 「演出」と「エンタテイメント」の2因子間の相 関が高いこと(.95)と,因子負荷量が 1.0 を超えてしまったことなどから, 「エンタテイメン ト」を「演出」の概念に含めることとした.経験価値はサービスクオリティを要素ごとに 評価するのではなく,概念ごとの知覚に関して全体的な評価を行うものである.先行研究 レビューと予備調査のインデプスインタビューの結果から, 「雰囲気」を加えることとした. 本研究では,スタジアム観戦における aesthetics とは,「目前で繰り広げられる,スタ ジアム内の演出や,選手の試合におけるプレーそのものや観衆が作り出す雰囲気が,消費 者に総合的に五感に訴えて美的な喜びをうながすこと」と定義した.したがって, 「審美性」 - 41 - は,visual appeal, player’s performance, atmosphere の3つの2次因子によって説明さ れる. 1)演出 (visual appeal) 消費者行動研究においては,本来の visual appeal という原語が示すように, 「演出」は 顧客の視覚に訴える魅力として意味づけられる.例えば,小売においては,デザインや商 品そのものの魅力や美しさによって引き起こるもの(Holbrook, 1994)であり,ショッピン グカタログにおいては,写真を多用した雑誌的な編集内容にすることにより,ショーケー スをイメージさせた消費経験を提供できる(Schmid, 1998)としている.また,近年はウェ ブサイトにおいても,色彩やグラフィックのレイアウト,写真の組み合わせ(Mathwick et al., 2001)や動画を用いており,顧客の心をつかむための取り組みが一般化してきた.スタ ジアム観戦に特有な視覚的な魅力は,芝の美しさであり,臨場感と共に, 「全体」が見渡せ る点(佐藤,1999)があげられる.インデプスインタビューの結果からは,チームカラーや 音楽による演出や,スタジアム内のイベント広場や飲食店に関して好意的な声が寄せられ た.Mathwick et al. (2001)の項目は,カタログショッピングとインターネットショッピン グにおける経験を測定しているため,購買に至る過程の消費経験は,視覚に訴えるものの みである.スタジアムにおいては,体験することすべてが消費経験であることから,視覚 のみならず五感に訴えるものと置き換える必要がある. 以上のことから,スタジアム観戦における visual appeal とは, 「スタジアム内における, 音楽やチームカラーを用いた演出や企画が, 観戦者の五感に訴える魅力のこと」と定義し, - 42 - 因子名を「演出」とした. 2)選手 (player s performance) スタジアム観戦は,スタジアム,選手,観客の3つの要素が絡み合っていることから, それぞれの美的要素を包含しなくてはならない.スポーツの美しさそのものに魅了される 観戦者は,チームの勝敗とは無関係に,美しいプレーを見ることに動機付けられる(Sloan, 1989; Robinson & Trail, 2005)ことからも,競技そのものの美しさを加える必要があると 考えた.インデプスインタビュー調査の結果からも, 「(選手アップ中)すごい,初めて見たけど面白い!あんなに軽々と飛ばすんだね,サッ カーボール.やっぱり実際目の前でボールを転がされると,テレビで見ると現実感な いけど,あんなにまっすぐ飛ばすんだ,とか圧巻ですね.あんなにちゃんときれいに, 正確に飛ぶんだね(ライト女性1)」 と,巧みにボールを操る選手の技術に魅了されている.また,今福(2001)は,スポーツに は運動する身体を眺める審美的な快楽が存在するとし, 「私にとって,サッカーというもの をプレーし,あるいは観戦する根拠は勝敗だけではなく,そこで動き回る丸いボールと人 間の肉体と想像力の三者の美しくも陶酔的な連携だけにある」(p.103-p.104)とサッカーの プレーの美しさについて述べている.スポーツにおいては,勝敗はコントロールできない. けれども,選手の鍛え抜かれた肉体や,トップパフォーマンス自体が本来美しいのである. 以上のことから,スタジアム観戦における player’s performance とは,「選手のトップ レベルの技術やチームプレーの美しさが観戦者に訴える魅力のこと」と定義し,因子名を - 43 - 「選手」とした. 3) 雰囲気 (atmosphere) スタジアム観戦は,スタジアム,試合,観客の3つの要素が絡み合っている.今福(2001) が, 「ゲームと声援と音楽とはある種の相互作用の中で、互いに互いを必要とし,互いを盛 り上げ,プレーヤーと観衆が一体化した演劇的な全体性を作り上げる」 (p.71)と指摘して いる.また,観戦者のエネルギーは応援のパワーとなってパフォーマンスに生かされるこ とこそが,スポーツ観戦の魅力のコアを構成しているように(佐伯,1999),スタジアム 内における一体感はスポーツ観戦の魅力である.そして,観戦者による応援や歓声が創り あげる雰囲気の重要性は,多くの研究者が指摘している(Wakefield & Blodgett, 1996; Uhrich & Benkenstein, 2008; Kuenzel & Yassim, 2007). 以上のことから,スタジアム観戦における atmosphere とは, 「観客の応援や歓声が,試 合展開と連動した流れと共に創り出す,会場全体の雰囲気が観戦者に訴える魅力」と定義 し,因子名を「雰囲気」とした. 第3項 能動的な内的価値: 遊び(playfulness)とフロー (flow)について Mathwick et al. (2001)の経験価値尺度では, 「遊び」(playfulness)を構成する要素とし て, 「逃避」(escapism - 3 項目)と「内なる楽しみ」(intrinsic enjoyment - 2 項目)の 2 つの 因子が用いられた.本研究では,予備調査の先行研究レビュー及びインデプスインタビュ ー調査の結果から, 「覚醒」(arousal)と「共感」(empathy)の概念を加えたため, 「遊び」 - 44 - を「フロー」(flow)の概念に置き換えることとした.チクセントミハイ(2008)は,経験の中 で強烈で記憶に残る最適な経験について,フローという概念を提唱したが,これは自分の 行為に完全に没入しているときの意識状態であり,さらに体験した人に何か特別なことが 起こったと感じさせる,心と身体が自然に作用し合う調和の取れた経験と定義される.競 技・芸術・見世物・スポーツなどは,構造上の特性から、参加者と観客に楽しい体験を生 むことをその基本的機能とするとした.スポーツ観戦については,人目を引くユニフォー ムを身につけ世俗の世界から彼らを一時的に切り離すために作られた特殊な文化の領域に 入り,試合中,競技者や観客は常識に従う行為をやめ,試合独自の現実に注意を集中する としている.このような活動がフローに導くのは,それらが最適経験を成就しやすいよう に設計されているからである.したがって,本研究ではスタジアム観戦における最も高度 な楽しみがフロー体験であると考え,「覚醒」と「共感」の因子が加わったことにより, playfulness の概念を拡張して, 「フロー」に置き換えることとした. すなわち,スタジアム観戦における flow とは, 「観戦者が,試合や応援を心から楽しむ と同時に,日常を忘れるほど没入して高揚し,選手及び周りの観客と自然に融合する感覚 を伴うこと」と定義し,因子名を「フロー」とした.したがって,フローは,escapism, intrinsic enjoyment, arousal, empathy の 4 つの 2 次因子によって説明された. 1) 逃避 (escapism) 「逃避」とは,日常からの逸脱であり,解放として気分転換をかねてスタジアムを訪れ, スポーツ観戦そのものが翌週からの労働に新たな励みや活力をもたらすことや(佐藤, - 45 - 1999) ,主体そのものに夢中になることで,一時的に日常を忘れてしまうことである(ホイ ジンガ, 1973). スタジアム観戦における escapism とは, 「観戦者が試合や応援に没入することで,日常 を忘れてしまうことができること」と定義し,因子名を「逃避」とした. 2) 内なる楽しみ (intrinsic enjoyment) 内なる楽しみとは,実利面などを考えることなく,自分自身が心から楽しいと思うこと (Babin, Darden & Griffin, 1994)であり,サッカーに関して言及すれば, サッカーに対する素朴で官能的な愛であり,流動する「世界に」対する恐れと憧れに満ち た愛(今福,2001)をもって観戦することといえるだろう. そこで,スタジアム観戦における intrinsic enjoyment とは, 「観戦そのものに対して, 実用的なことなど一切関係なく,観戦者が心から楽しいと思うこと」と定義し,因子名を 「内なる楽しみ」とした. 3) 覚醒 (arousal) 完全な没入状態(フロー状態)にあるときは高揚感で充足され,時間が普通とは異なる 速さで進むとされる(チクセントミハイ,2008) .インデプスインタビュー調査の結果にお いても, 「 (ファンが)わくわくしている」ということや, 「テンションがあがる」というこ とが挙げられた.そこで,スタジアム観戦における arousal とは, 「スタジアム観戦する過 程で,観戦者が興奮し,気分が高揚すること」と定義し,情緒のハイレベルな状態を「覚 - 46 - 醒」とした Mano & Oliver(1993)を参考に,因子名を「覚醒」と命名した. 4) 共感 (empathy) フロー体験における自己感覚の喪失は,しばしば環境と融合する感覚を伴う.このよう な一体感こそが,まさにフロー体験の本質であるとチクセントミハイ(2008)は述べている. スポーツ観戦者における empathy 項目としては,コアファンであるほど負けたときに怒 りを感じるという「共感」の概念を組み込んだ動機尺度(SCM; James & Ross, 2004)があ るものの,インタビューで得られた回答の内容やフローの概念とは整合性が取りづらいと 考えられ,心理学における empathy の概念を検討した.empathy の概念には,自己を他 者(選手)に感情移入することにより投影する認知的概念と,他者(選手)を自己に投影 させる情動的概念がある(小池,2003).認知的概念は,自分の気持ちや過去のプレーを 選手に投影させることで,情動的概念は,相手の感情と同じものを自分の中で経験するこ とを表すことから,選手の気持ちがわかるという概念を表す. スタジアム観戦における empathy とは, 「観戦者が,選手に感情移入したり,プレーに 入り込んでしまって一体感を持ったような感覚を得ること」と定義し,因子名を「共感」 とした. 第4項 受動的な外的価値: サービスエクセレンス (service excellence)について サービスエクセレンスは,消費者行動研究においては,消費者による受身的な反応を反 映しているとされる.つまり,小売サービスの主体が消費者本位の立場にたった手段とな - 47 - り得ているかによって,好感を持つかどうかである(Holbrook & Corfman, 1985; Holbrook, 1994).Oliver (1999)は,サービスの品質が最終的に評価されるのが,サービスエクセレ ンスであるとしている.また Zeithaml (1988)は,サービス主体による様々な取り組みが, 消費者のサービス全体に対する素晴らしさ(エクセレンス)に影響を与え,価値を知覚さ せると指摘している.以上のことから,便益や意味などの,観戦者の個人的な重要性を反 映する概念と解釈した.項目設定にあたっては,スタジアムにおけるサービスの総合的な 知覚をあらわす項目として,新たに追加するべきものが現段階ではないと判断したことか ら,先行研究の 2 項目のみにて測定することとした. 本研究では,スタジアム観戦における service excellence とは, 「観戦者が,スタジアム で受けるサービスについて,便益があり,総合的に優れていると感じること」と定義し, 因子名を「サービスエクセレンス」とした. 第5項 能動的な外的価値: 投資効果 (customer return on investment-CROI)について 投資効果について,Mathwick et al. (2001)は,財務的,時間的,行動的,心理的な資源 を積極的に投資することによって,どれほどの利益を得られるかであるとしている.つま り,投資した時間や金額に見合った見返りが得られるかどうかである.先行研究では,サ ービス主体に対する支払いと,得られた質に対して感じた価値(Thaler, 1985; Grewal, Monroe & Krishnan, 1996; Yadov & Monroe, 1993),及び,主体から得られた時間的効率 性(Holbrook, 1994; Zeithaml, 1988)の2つの側面を取り上げている.スタジアム観戦にお ける customer return on investment とは, 「時間や資金的な投資によって,観戦者が利益 - 48 - を得ることができたと感じること」と定義し,因子名を「投資効果」とする.したがって, 投資効果は,efficiency と economic value の2つの2次因子によって説明された. 1) 効率性 (efficiency) 効率性とは,観戦者の都合に合わせやすい試合日程であるかという時間的な効率性や, 気軽にスタジアムに訪れることができるかという利便性を表す概念である. 本研究では,スタジアム観戦における efficiency とは, 「効率性や利便性から,観戦者が 時間的な価値を得られると感じること」と定義し,因子名を「効率性」とした. 2) 経済的価値 (economic value) 経済的価値とは,スタジアム経験は入場料に見合った内容を提供しているかについて経 済的な価値を測る概念である. 本研究では,スタジアム観戦における economic value とは,「支払った額に見合った品 質や買い得感から,観戦者が経済的な価値を得られると感じること」と定義し,因子名を 「経済性」とした. - 49 - 第6章 研究1 スポーツ観戦における経験価値尺度の開発 本研究においては,Mathwick et al. (2002)のフレームワークを用い,スポーツ観戦特有 の因子を追加することにより,スポーツ観戦における経験価値尺度の開発を行うことを目 的とした.予備調査の結果を基に, スポーツ観戦における経験価値尺度の開発を行うため, 大学生・大学院生を対象にプレ調査を行い,専門家調査を経て,本調査を2チームにおい て行った.第1回本調査は川崎フロンターレを用いて実施し,第2回本調査はアルビレッ クス新潟を用いて実施した. 第1節 調査項目 第1項 第 1 回本調査 第 1 回本調査の項目として,スポーツ観戦に特有な審美的な価値として,先行研究レビ ューとインデプスインタビュー調査の結果から,新たに概念として加えることとした, 「選 手」「雰囲気」 「覚醒」 「共感」の 4 因子の項目の検討を行った. まず, 「選手」(player - 3項目)については,Trail & James (2001)の Motivation Scale for Sport Consumption(MSSC)における選手のパフォーマンスの美しさに着目した Physical Skill 因子の 3 項目を引用した.次に, 「雰囲気」(atmosphere - 3項目)についてはスタジ アムの雰囲気について尺度開発を行った,Uhrich & Benkenstein (2008)の研究から引用 した. そして, 「覚醒」(arousal - 2 項目)については,インデプスインタビュー結果の「わ くわくする」 , 「テンションがあがる」を参考に,スポーツ観戦にあてはまるように作成し た.また,「共感」(empathy ‒ 5項目)については,スポーツにおいて,コアファンであ - 50 - るほど負けたときに怒りを感じるという共感の概念を組み込んだ動機尺度(SCM; James & Ross, 2004)があるものの,インタビューで得られた回答の内容やフローの概念とは整合 性が取りづらいことから,心理学における情動的共感(3 項目)と認知的共感(2 項目)の概念 を検討した.情動的共感とは,無意識に入り込んでしまう意味を含有し,認知的共感とは, 自己を他者へと立場を置き換える意味を含有する.これらは,小池(2003)に基づいて,ス ポーツ観戦におきかえて作成することとした.その他の因子は,先行研究と同じ因子につ いてであるが, 「演出」については,予備調査において因子相関が高かったことから「エン タテイメント」と統合した.予備調査において特に問題のあった「内なる楽しみ」と「経 済的価値」については,ワーディングを精査した.例えば「内なる楽しみ」においては, 予備調査における「横浜 F・マリノスの試合意外にも,サッカー観戦をするのが好きだ」 を「純粋にサッカーを観戦するのが好きだ」に変更した. 「逃避」「効率性」項目設定にあ たっては,予備調査の項目を生かす形とした.全体的に,予備調査で設問ごとに「横浜 F・ マリノスの」と入っているものを取り除き,質問文を短くすることとし,回答者になるべ くストレスを与えないよう心がけ,10 因子 29 項目を策定した(図8,表9) . - 51 - Y1 Y2 Y3 Y4 Y5 Y6 Y7 Y8 Y9 Y10 Y11 Y12 Y13 Y14 Y15 Y16 Y17 Y18 Y19 Y20 Y21 Y22 Y23 Y24 Y25 Y26 Y27 演出 Γ1,1 審美性 Γ2,1 選手 Γ3,1 雰囲気 フロー Γ4,2 逃避 Γ5,2 Γ6,2 内なる楽しみ Γ7,2 サービス エクセレンス 覚醒 X1 共感 効率性 X2 Γ8,3 投資効果 Γ9,3 経済的価値 図8 第1回本調査におけるEVSSCモデル - 52 - 表9 第1回本調査項目 上位構成概念 因子名 項目 項目作成参考元 演出 審美性 Y1 全体の演出方法はおしゃれである Y2 競技場全体は見た目がかっこいい Y3 全体の演出が好きである Y4 エンタテイメント性が高い Y5 熱狂的で心うたれる Mathwick et al. (2002) 選手 Y6 選手の美しいプレーや個人技にほれぼれする Y7 選手の素晴らしいパフォーマンスを観るのが好きだ Y8 スキルの高いフォーメーション・組織プレーを観るのが好きだ Trail and James (2001) 雰囲 気 Y9 競技場全体の雰囲気・空気が好きである Y10 観客全員でつくりあげる雰囲気・空気が好きである Y11 試合の流れによって変化する競技場全体の雰囲気・空気が好きである Uhrich & Benkenstein (2008) 逃避 Y12 日常から遠ざかって、非日常な気分を味わうことができる Y13 まるで別世界にいるような気にさせてくれる Y14 いつも(試合に)没頭してしまい、他の一切のことを忘れることができる Mathwick et al. (2002) 内な る楽しみ フロー Y15 純粋にサッカーを観戦するのが好きだ Y16 試合を観戦するのは、純粋に楽しいからである Mathwick et al. (2002) 覚醒 Y17 競技場にくると、わくわくする Y18 試合を観戦すると、気持ちが高揚する インデプスインタビュー 共感 サービス エ クセレンス Y19 選手が頑張っている気持ちがわかる瞬間選手と一体感を感じることがある Y20 試合中の選手のミスが、自分のミスであるかのように感じられることがある Y21 チームや選手のプレーに強く心を動かされたり、深く入り込んでしまうことがある * 選手がミスすると,私がもしその選手だったらどんな気持ちか考えることがある * 私はあたかも自分自身がピッチに立ってプレイしているかのように感じることがある X1 会場全体のオペレーション・運営が優れている X2 川崎フロンターレが優れているのは会場全体の雰囲気である 小池 (2003) 効率 性 投資効果 Y22 試合がある日だったら、川崎フロンターレを見に行こうと思う Y23 ホームゲームは気軽に訪れることができる Y24 ホームゲームは私の都合に合わせやすい Mathwick et al. (2002) 経済 的価値 Y25 ホームゲームはお得感がある Y26 私は全体的にチケットの値段に満足している Y27 等々力競技場で行われる試合は割安であると思う 備考: *項目はプレ調査の結果削除した項目 - 53 - Mathwick et al. (2002) 第2項 第2回本調査 第1回本調査の結果から, 「演出」と「雰囲気」(.70)及び「サービスエクセレンス」(.75) の相関が高い関係になったことから,スタジアム特有の演出について再検討を行った.テ レビなどのメディアを通じた間接的な観戦との違いは,現場に足を運んでいるからこそ見 ることのできる経験である.そのことを念頭に置いて再検討したところ,3 項目を追加す ることとした.網羅できなかった項目があると考え,先行研究レビューを再度行うと同時 に,予備調査のインタビュー結果を再検討した.その結果「演出」 「雰囲気」「サービスエ クセレンス」の項目を新たに策定した. まず, 「演出」についてであるが,テレビなどのメディアを通じた間接的な観戦との違い は,現場に足を運んでいるからこそ見ることのできる経験である.そのことを念頭に置い て再検討して,5項目を追加した.それらは, 「テレビ観戦と違って,スタジアム観戦は『全 体』を見渡せる点が良い」(佐藤, 1999 を参考に筆者作成),「アルビレックス新潟のマス コットによる演出が好き」 (インデプスインタビュー結果を参考に筆者作成) , 「チームカラ ーによる演出が好き」 (Ross et al., 2006; Gladden & Funk, 2002),「アルビレックス新潟 のユニフォームはかっこいい」(Gladden & Funk, 2002),「スタンドからみるピッチは美 しい」 (インデプスインタビュー結果を参考に筆者作成)であった. つぎに,スタジアム経験特有の雰囲気について検討した.その結果,スポーツ観戦に特 有であるのは, 観戦者がスタジアムの雰囲気を形成する演出者そのものであることから(佐 藤, 1999; 原田, 2008),新たに Kuenzel & Yassim(2008)による Auditory 項目を検討する こととした.それらは, 「手拍子や応援歌は,全体の雰囲気を盛り上げている」 , 「観戦者の - 54 - 歓声をきくのはとても楽しい」 , 「応援をきくのが楽しい」 ,「歓声が心地よい場をつくりあ げている」の 4 項目であり,観戦者がスタジアムで雰囲気を盛り上げる応援や歓声などに ついて取り上げたものである.また,スタジアム観戦の魅力として臨場感があげられるこ とから(佐藤, 1999), 「スタジアムでしか味わえない臨場感が好き」という項目を追加する こととした. また, 「サービスエクセレンス」に関しても,1 回目の本調査の結果がよくなかったこと から, マーケティングの専門家とワーディングについて大幅に見直すこととした. それは, 1 回目で用いた「雰囲気」という言葉が,「雰囲気」因子と重複することなどから,「サー ビスエクセレンス」の定義にもとづき,サービス全体の知覚を表すように修正した.さら に,Zeithaml (1998)が提示した価値の種類の中から, 「消費者の支払ったコストに対して 受けたサービスにおける全体的な評価(p.14)」を含めることとし,全体的に,スタジアム でのサービスは期待どおりだった」という項目を追加した. さらに, 「効率性」についても, 「アクセスの便利さ」(access convenience)について尺度 開発を行った Seiders, Voss, Grewal, & Godfrey (2005)を参考に, 「スタジアムに行くのは 便利だ」という便利さを表す項目を追加した.したがって,第2回本調査で用いた項目は, 全部で 10 因子 44 項目となった(図9,表10). - 55 - Y1 Y2 Y3 Y4 Y5 Y6 Y7 Y8 Y9 Y10 Y11 Y12 Y13 Y14 Y15 Y16 Y17 Y18 Y19 Y20 Y21 Y22 Y23 Y24 Y25 Y26 演出 Γ1,1 審美性 Γ2,1 選手 Γ3,1 雰囲気 フロー Γ4,2 逃避 Γ5,2 Γ6,2 内なる楽しみ Γ7,2 サービス エクセレンス 覚醒 X1 共感 効率性 X2 Γ8,3 X3 投資効果 Γ9,3 経済的価値 図9 第2回本調査におけるEVSSCモデル - 56 - 表10 第2回本調査項目 上位構成概念 審美性 フロー サー ビス エク セレンス 投資効果 因子名 項目 演出 * このスタジアムの演出はおしゃれ * スタジアムの見た目はかっこいい Y1 Y2 * このスタジアムで使用される,音楽や映像などの演出が好き テレビ観戦と違って,スタジアム観戦は「全体」を見渡せる点がよい アルビレックス新潟のマスコットによる演出が好き Y3 チームカラーによる演出が好き * アルビレックス新潟のユニフォームはかっこいい Y4 スタンドからみるピッチは美しい * サッカー観戦はエンタテイメントとして楽しい * 試合は楽しく,元気をくれる 選手 Y5 選手の美しいプレーや個人技にほれぼれする Y6 選手の素晴らしいパフォーマンスを観るのが好きだ Y7 スキルの高いフォーメーション・組織プレーを観るのが好きだ * 選手の身体能力の高さには驚かされる * 選手の迫力あるプレーを見るのは楽しい * アルビレックス新潟のゴールシーンは楽しい 雰囲 気 * 手拍子や応援歌は,全体の雰囲気を盛り上げている Y8 観戦者の歓声をきくのはとても楽しい * 応援をきくのが楽しい Y9 歓声が心地よい場をつくりあげている * スタジアムでしか味わえない臨場感が好き * スタジアム全体の雰囲気が好き Y10 観客全員でつくりあげる雰囲気が好き * 試合展開によってかわるスタジアムの雰囲気が好き 逃避 Y11 非日常な気分を味わうことができる Y12 まるで別世界にいるような気分になる Y13 いつも試合に没頭してしまう 内な る楽 しみ Y14 純粋にサッカーそのものを見るのが好きだ Y15 純粋にサッカーを楽しむために試合を見ている 覚醒 Y16 スタジアムにくると、わくわくする Y17 試合を見ると、気持ちが高ぶる 共感 Y18 選手が頑張っている気持ちがわかる瞬間選手と一体感を感じることがある Y19 試合中の選手のミスが、自分のミスであるかのように感じられることがある チームや選手のプレーに強く心を動かされたり、深く入り込んでしまうこと Y20 がある X1 スタジアム全体は高い水準で運営されている X2 スタジアムで提供しているサービスは優れている X3 全体的に,スタジアムでのサービスは期待どおりだった 効率 性 * アルビレックス新潟の試合は,私が見たいと思ったときにやっている Y21 スタジアムには気軽に訪れることができる Y22 アルビレックス新潟の試合日程は,私の都合に合わせやすい Y23 スタジアムに行くのは便利だ 経済 的価値 Y24 アルビレックス新潟の試合は,お買い得だと思う Y25 全体的にチケットの値段に,見合った内容だ Y26 お金を払ってでも,アルビレックス新潟の試合は見る価値がある - 57 - 項目作成参考元 Mathwick et al. (2002) Mathwick et al. (2002), Gladden and Funk (2002) Mathwick et al. (2002) 佐藤 (1999) インデプスインタビュー Ross et al. (2006), Gladden and Funk (2002) Gladden and Funk (2002) インデプスインタビュー Mathwick et al. (2002) Trail and James (2001) インデプスインタビュー, 今福(2001) Ross et al. (2006) Kuenzel and Yassim (2007) 佐藤 (1999) Uhrich & Benkenstein (2008) Mathwick et al. (2002) Mathwick et al. (2002) インデプスインタビュー 小池 (2003) Mathwick et al. (2002) Zeithaml (1988) Mathwick et al. (2002) Seiders et al. (2005) Mathwick et al. (2002) 第2節 プレ調査 第 1 回本調査および第 2 回本調査の前に,それぞれ項目のワーディングや構成を確認す るために,プレ調査を行った.第 1 回本調査前のプレ調査の対象者は,便宜的に抽出した 5大学の大学生および大学院生計 135 名であり,第2回本調査前のプレ調査の対象者は, 1 大学の大学生および大学院生計 132 名であった. 第 1 回本調査前のプレ調査では,確認的因子分析を行った.特に,先行研究における「エ ンタテイメント」因子に関して, 「演出」因子と統合したものについて,修正が必要となる ことが分かった.例えば, 「試合以外にも色々なお楽しみをラインアップしている」という 測定項目は推定値が有意でなかった.これは,スポーツ観戦においては,製品そのものが 「お楽しみ」であることから,削除することとした.また,新たに付け加えた「共感」因 子に関して,情動的共感と認知的共感の概念を表す5項目があったが,次に示した,認知 的共感の2項目, 「私はあたかも自分自身がピッチに立ってプレイしているかのように感じ ることがある」と「選手がミスすると,私がもしその選手だったらどんな気持ちか考える ことがある」(小池,2003 を参考に作成)を除外した.それは,情動的共感(3項目)のみ の方が,適合度が高かったため(CFI=.793→.804, GFI=.685→.709, AGFI=.629→.650, RMSEA=.091→.093)である.概念的にも,認知的概念は,自己の気持ちや過去のプレー を選手に投影させる意味であり, 競技経験がある観戦者であれば該当する人もいるだろう. しかしながら,プレ調査の結果が示すように,すべての観戦者を対象とする調査にはそぐ わないと考えられることから,除外することとした.したがって,本調査には 10 因子 29 項目が採用されることとなった. - 58 - 第2回本調査前のプレ調査は,J リーグをイメージして回答したサンプルが 54 に過ぎな かったことから,探索的因子分析を行い,概念ごとに分類されるかについて確認を行い, 外れてしまった項目に関して,ワーディングを修正して,本調査において全 10 因子 44 項 目を確認することとした.なお分析では,SPSS ver.11.5 および Amos 5.0 を分析用ソフ トとして使用した. 第3節 専門家調査 構成概念を表すワーディングの妥当性を高めるため,それぞれの本調査の前に,専門家 評価を依頼した.第 1 回本調査と第2回本調査共に,マーケティングにおける消費者行動 の研究者1名と,スポーツマネジメントの研究者 2 名の計3名に専門家評価を依頼した. 専門家調査として依頼した内容は,筆者が和訳した質問項目を原著の項目と照らし合わせ, スポーツ観戦の枠組みに意訳できているかを検討し,ワーディングの検討を行った後,質 問項目が構成概念を正確に代表しているかについて内容的妥当性の検討を行うものであっ た.それぞれの検討結果にもとづき,ワーディングの修正を行って,本調査の項目とした. また,第2回本調査前には,アルビレックス新潟のマーケティング担当者の意見を取り入 れ,ワーディングの修正を行った. 第4節 調査方法 調査は,事前にトレーニングされた調査員による訪問留置法による質問紙調査法で実施 した.調査員はそれぞれ担当するブロックで,観戦者の年齢層と男女比を考慮し,ブロッ - 59 - ク全体を反映させるようランダムにサンプルを抽出した.調査対象は,12 歳以上のホーム 側観戦者を対象とした.調査の概要を表11に記した. 表11 本調査の概要 第1回本調査 第2回本調査 チーム名 川崎フロンターレ アルビレックス新潟 日時 2008年11月23日 2009年8月22日 ディビジョン JリーグDivision1 JリーグDivision1 32節 23節 ガンバ大阪 京都サンガ 等々力競技場 東北電力ビッグスワン スタジアム収容人数 25,000 42,300 観客数 21,714 35,047 86.9% 82.9% 10:00-12:30 (2時間30分) 16:30-18:50 (2時間20分) 13:00 19:00 27 9 節 対戦相手 場所 スタジアム収容率 (観客数/収容人数) 調査時間 試合開始時間 調査員数 調査方法 調査用紙形式 訪問留置法 訪問留置法 (クリップボードに調査用紙を挟む形式) (厚紙に調査項目を印刷する形式) 他研究の項目・チーム依頼分 む計4ページ 含 当該研究関連項目のみ 計3ページ 回収数 982 488 有効回答数 863 430 有効回答率 87.9% 88.1% 36 54 回収数/調査員 質問項目全体の指示文として, 「川崎フロンターレ(アルビレックス新潟)のホームゲー ムにおける,あなた自身のサッカー観戦についておたずねします.等々力競技場(東北電 - 60 - 力ビッグスワン) ・ホームゲームを想定して,以下の項目それぞれについて,当てはまる番 号1つに○をつけてください. 」と記載した.これは,当日の経験は試合終了後でなければ 測定できないことから,過去のスタジアム経験について想起した回答を得るためである. 調査対象は,第 1 回本調査・第 2 回本調査共に,過去に当該チームのホームゲームでの J リーグ観戦経験があり,なおかつアウェイチームの応援でない 12 歳以上のスタジアム観 戦者とした.そして,開門から試合開始前までの間に調査用紙を配布し,その場で回収を 行った.調査時間はスタジアム開門後から試合開始前までとし,スタンドに着席している 観戦者に対し質問紙を配布し,回収した.調査員はそれぞれ担当するブロックで,観戦者 の年齢層と男女比を考慮し,ブロック全体を反映させるようランダムにサンプルを抽出し た. 調査は,事前にトレーニングされた調査員による訪問留置法による質問紙調査法で実施 した.調査時間はスタジアム開門後から試合開始前まで(第 1 回本調査は 30 分前,第2 回本調査は 10 分前)とし,スタンドに着席している観戦者に対し質問紙を配布し,回収 を行った. 第5節 サンプルの特徴 1) 性別 第 1 回本調査では,有効回答数 963 名(有効回答率 98.1%)中,男性 605 名(62.8%),女 性 358 名(37.2%)であり, 「2008 J リーグスタジアム観戦者調査報告書」 の結果(男性 63.7%, 女性 36.3%)と比較すると同等の水準であった.第 2 回本調査においても,有効回答数 485 - 61 - 名(有効回答率 97.0%)中,男性 265 名(54.6%),女性 220 名(45.4%)であり,「2008 J リー グスタジアム観戦者調査報告書」の結果(男性 50.2%,女性 49.8%)と比較すると男性が多 い傾向であった(表12,表13). 表12 第1回本調査におけるサンプルのデモグラフィクス特徴 変数 性別 カテゴリー n % 男性 534 女性 316 (ケース数) 850 62.8 37.2 100.0 年齢 (平均[標準偏差]=36.2[11.9]才) 12-18才 70 19-22才 48 5.7 23-29才 122 14.4 30-39才 274 32.4 40-49才 229 27.1 50-59才 74 8.8 60才以上 28 (ケース数) 845 8.3 3.3 100.0 観戦頻度 (平均[標準偏差]=12.5[6.8]回,中央値15回) 低頻度(1回-14回) 418 49.3 高頻度(15回-20回) 430 50.7 (ケース数) 848 100.0 表13 第2回本調査におけるサンプルのデモグラフィクス特徴 変数 性別 カテゴリー n % 男性 265 54.6 女性 220 45.4 (ケース数) 485 100.0 12-18才 39 8.1 19-22才 18 3.8 年齢 (平均[標準偏差]=41.7[14.8]才) 23-29才 31 6.5 30-39才 103 21.5 40-49才 142 29.6 50-59才 83 17.3 60才以上 63 13.2 479 100.0 低頻度(1回-10回) 228 47.3 高頻度(11回-13回) 232 52.7 (ケース数) 460 100.0 (ケース数) 観戦頻度 (平均[標準偏差]=9.6[4.1]回,中央値11回) - 62 - 2) 平均年齢 第 1 回本調査では,平均年齢は,有効回答数 963 名(有効回答率 98.1%)で,36.1 歳であ り, 「2008 J リーグスタジアム観戦者調査報告書」の川崎フロンターレの平均年齢 35.8 歳 と比較すると同等の水準であった.第2回本調査では,有効回答数 479 名(有効回答率 95.8%)で,41.7 歳であり, 「2008 J リーグスタジアム観戦者調査報告書」のアルビレック ス新潟の平均年齢 42.3 歳と比較すると同等の水準であった(表12,表13). 第6節 分析方法 本調査において回収された質問紙の中から,EVSSC に関する項目に欠損値がある標本 および,EVSSC に関する項目にすべて同じ値で回答している標本を分析から除外して, 第 1 回本調査,第2回本調査共に、有効回答数の標本を用いた.まず,確認的因子分析を 行い,収束的妥当性および弁別的妥当性を検討するために,因子負荷量,AVE(average variance extracted),相関係数を分析した.尺度の信頼性の検討は,Cronbachα係数によ り行うと同時に,構成概念信頼性を確認するために CR(construct reliability)にて検討した. 第7節 結果 第1項 第1回本調査 はじめに,確認的因子分析の結果であるが,χ2 適合度検定(χ2 /df=5.34)は,Hair et al. (2006)の基準(χ /df<3.0)は許容されないこととなった.これは,朝野ほか(2007)によれば, 2 サンプル数 500 以上の大標本の場合たいていのモデルが棄却されることによるものと考え - 63 - られる.したがって,各適合度指標であてはまりを検討するべきとしている.つぎに,適 合度指標であるが,第 1 回本調査は,CFI= .870,IFI=.870,TLI=.854,CFI=.859, AGFI=.831 という結果となり,.90 以上を許容範囲(acceptable fit)とした Hair et al. (2006)の指摘からは,当てはまりがいいとはいえない結果となった.また,RMSEA(.071) においても,サンプル数が 250 以上の場合,.07 以下が許容範囲であるとした Hair et al.(2006)の指摘を満たすことはできなかった. 次に,因子負荷量の検討であるが, 「演出」因子における「競技場全体は見た目がかっこ いい」 (表15, Y2)の標準化推定値(.45)が Hair et al.(2006)の推奨する.50 を下回る結果 となったものの,他の測定項目すべてにおいて基準を上回る結果となった.収束的妥当性 と弁別的妥当性の検討であるが,各変数の AVE を.50 以上を基準(Hair et al., 2006)に収束 的妥当性の検討を行った結果,「共感」(.45)を除くすべての変数において基準を上回る結 果となった(表15) .また,1次因子間の相関係数2乗が各要因の AVE を超えないこと が確認したところ, 「選手」と「共感」の相関係数の2乗(.50)が, 「共感」の AVE(.45)を上 回り, 「選手」と「サービスエクセレンス」の相関係数の2乗(.56)が「サービスエクセレ ンス」の AVE(.55)を上回る結果となったことから, 「共感」と「サービスエクセレンス」 の2因子については,弁別的妥当性の基準を満たすことができなかったが,その他の因子 においては,弁別的妥当性を担保することができた(表 14). - 64 - 表14 第1回本調査におけるEVSSCの因子間相関行列 1次因子の相関行列 (n=863) 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 演出 選手 雰囲気 逃避 内なる楽しみ 覚醒 共感 サービスエクセレンス 効率性 経済的価値 1.00 .37 .70 .41 .25 .44 .48 .75 .40 .42 1.00 .46 .33 .49 .53 .71 .41 .35 .27 1.00 .50 .34 .58 .55 .71 .46 .33 1.00 .35 .53 .50 .44 .21 .24 1.00 .65 .38 .23 .22 .13 1.00 .68 .45 .29 .31 1.00 .57 .48 .41 1.00 .47 .61 1.00 .50 1.00 平均値 標準偏差 5.00 .99 6.27 .75 5.99 .92 5.21 1.17 6.30 .89 6.25 .85 5.43 1.00 5.05 1.13 5.76 1.22 5.09 1.30 さらに,信頼性の検討を行ったところ,Cronbach α係数は,「共感」(.66),「サービス エクセレンス」(.68)の2つの因子に関して.70 以下(Nunnally, 1978)となる結果となった. CR 値は,許容範囲の.70 以上(Hair et al., 2006)をすべての変数において上回る結果とな ったことから,一定の信頼性を有していると判断した(表15) . 以上より,EVSSC の信頼性と妥当性の検証の結果,妥当性においては検討する余地が ある結果となったものの,一定の信頼性を確認することができたと判断した. - 65 - 表15 第1回本調査におけるEVSSCの因子項目の因子負荷量・信頼性・収束的妥当性 (n=863) 項目 SL (t) Γ1,1 (審美性 - 演出) Γ2,1 (審美性 - 選手) Γ3,1 (審美性 - 雰囲気) Γ4,2 (フロー - 逃避) Γ5,2 (フロー - 内なる楽しみ) Γ6,2 (フロー - 覚醒) Γ7,2 (フロー - 共感) Γ8,3 (投資効果 - 効率性) Γ9,3 (投資効果 - 経済的価値) サービス エ クセレンス X1 会場全体のオペレーション・運営が優れている X2 川崎フロンターレが優れているのは会場全体の雰囲気である .79 .61 .84 .64 .61 .88 .80 .85 .71 .65 .82 (*) (t=13.03) (t=17.20) (*) (t=10.91) (t=14.48) (t=12.65) (*) (t=15.85) (*) (t=17.27) .68 .45 .85 .81 .67 (t=21.03) (t=12.94) (*) (t=26.56) (t=20.72) 演出 Y1 全体の演出方法はおしゃれである Y2 競技場全体は見た目がかっこいい Y3 全体の演出が好きである Y4 エンタテイメント性が高い Y5 熱狂的で心うたれる 審 美性 選手 Y6 選手の美しいプレーや個人技にほれぼれする Y7 選手の素晴らしいパフォーマンスを観るのが好きだ Y8 スキルの高いフォーメーション・組織プレーを観るのが好きだ .75 (*) .85 (t=20.61) .70 (t=18.62) 雰囲気 Y9 競技場全体の雰囲気・空気が好きである Y10 観客全員でつくりあげる雰囲気・空気が好きである Y11 試合の流れによって変化する競技場全体の雰囲気・空気が好きである 逃避 Y12 日常から遠ざかって、非日常な気分を味わうことができる Y13 まるで別世界にいるような気にさせてくれる Y14 いつも(試合に)没頭してしまい、他の一切のことを忘れることができる .78 (*) .85 (t=25.61) .70 (t=18.62) .87 (*) .65 (t=23.75) .81 (t=19.07) 内な る楽しみ Y15 純粋にサッカーを観戦するのが好きだ フロー Y16 試合を観戦するのは、純粋に楽しいからである 覚醒 Y17 競技場にくると、わくわくする .78 (*) .88 (t=16.57) .86 (*) .83 (t=24.95) Y18 試合を観戦すると、気持ちが高揚する 共感 Y19 選手が頑張っている気持ちがわかる瞬間選手と一体感を感じることがある .72 (*) Y20 試合中の選手のミスが、自分のミスであるかのように感じられることがある .50 (t=12.67) Y21 チームや選手のプレーに強く心を動かされたり、深く入り込んでしまうことがある .77 (t=17.56) 効率性 Y22 試合がある日だったら、川崎フロンターレを見に行こうと思う Y23 ホームゲームは気軽に訪れることができる 投資効果 Y24 ホームゲームは私の都合に合わせやすい 経済的価値 Y25 ホームゲームはお得感がある Y26 私は全体的にチケットの値段に満足している Y27 等々力競技場で行われる試合は割安であると思う - 66 - .79 (*) .85 (t=26.82) .71 (t=21.81) .71 (*) .88 (t=23.40) .88 (t=23.33) α AVE CR .85 .56 .98 .83 .55 .98 .83 .61 .98 .68 .55 .99 .80 .50 .99 .80 .58 .99 .80 .62 .99 .80 .61 .99 .81 .69 .99 .83 .72 .99 .66 .45 .99 .77 .61 .99 .85 .68 .99 第2項 第2回本調査 第2回本調査においては,まず 10 因子 44 項目において分析を行った.そして,モデル に適合しない観測変数を除去することによって,適合度指標は劇的に改善することがある ため,多くの研究で変数の除去が行われると,星野ほか(2005)が指摘していることから, 本研究においても,因子負荷量と修正指数を参考に,削減を行うこととした.しかしなが ら,潜在変数の適合度だけに注目して観測変数を減らすと,内容的妥当性に問題が生じる ことが多いことから(南風原,2002),信頼性との関連を注意しながら,10 因子 29 項目ま で削減を行った.その確認的因子分析の結果について,以下説明を行う.まず,χ 適合度 2 検定(χ /df=2.76)は許容された.第2回は,CFI= .924,IFI=.924,TLI=.914,RMSEA=.064 2 において基準を満たすことができたが,GFI=.852,AGFI=.822 においては,十分ではな い結果となった.しかしながら,星野ほか(2005)が,様々な適合度指標についてレビュー 研究を行った結果,Hu & Bentler(1998)の確認的因子分析モデルを利用した研究をとりあ げ,次のように結論づけている.それは,GFI や AGFI は,誤ったモデルを識別できない という観点から指標として利用しないようがよく,因子負荷について識別できるのは,CFI, IFI,TLI,RMSEA がよいということであった.ゆえに,適合度指標に関しては,第1回 本調査と比較して改善がみられただけでなく,十分に基準を満たすモデルであることを確 認することができた(表16) . 次に,因子負荷量の検討であるが,すべての測定項目において Hair et al.(2006)の推奨 する基準(.50)を十分に上回る結果となった.さらに,収束的妥当性と弁別的妥当性の検討 であるが,各変数の AVE を.50 以上を基準(Hair et al., 2006)に収束的妥当性の検討をおこ - 67 - なった結果, 「演出」(.45)において,基準を下回る結果となったものの,他のすべての変 数においては基準を上回る結果となった.したがって, 「演出」以外の変数においては,構 成概念の収束的妥当性を有していることが示された.また,1次因子間の相関係数2乗が 各要因の AVE を超えないことを確認したところ,AVE の基準を下回った「演出」におい て相関係数 2 乗の各因子との係数,すなわち「演出」と「雰囲気」(.59),「演出」と「逃 避」(.53),「演出」と「覚醒」(.51), 「演出」と「共感」(.46)が「演出」の AVE(.45)を超 える結果となったことから, 「演出」の弁別的妥当性は確認できなかった.その他すべての 変数においては AVE を超えないことが確認され,弁別的妥当性を担保することができた (表17). さらに,信頼性の検討を行ったところ,Cronbach α係数は,すべての因子において.70 以上(Nunnally, 1978)となる結果となった. また,CR 値は,許容範囲の.70 以上(Hair et al., 2006)をすべての変数において上回る結果となったことから,一定の信頼性を有した上, 第1回本調査から大幅な改善が見られた(表18) . 表16: 本調査における適合度指標の結果 第1回本調査 川崎フロンターレ (n=863) 第2回本調査 アルビレックス新潟 (n=430) 5.342 2.761 CFI .870 .921 IFI .870 .921 TLI .854 .914 GFI .859 .852 AGFI .831 .822 RMSEA .071 .064 指標 2 x /df - 68 - 表17 第2回本調査におけるEVSSCの因子間相関行列 1次因子の相関行列 (n=430) 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 演出 選手 雰囲気 逃避 内なる楽しみ 覚醒 共感 サービスエクセレンス 効率性 経済的価値 1.00 .53 .77 .73 .58 .72 .68 .60 .60 .66 1.00 .40 .40 .41 .41 .54 .33 .37 .42 1.00 .64 .46 .74 .64 .56 .60 .57 1.00 .63 .82 .61 .51 .63 .64 1.00 .58 .42 .36 .58 .46 1.00 .68 .45 .56 .59 1.00 .34 .42 .47 1.00 .55 .69 1.00 .71 1.00 平均値 標準偏差 5.95 .82 5.85 1.02 6.28 .89 5.62 1.08 6.01 1.10 6.20 1.06 6.30 .86 5.34 1.19 5.34 1.28 5.32 1.28 - 69 - 表18 第2回本調査におけるEVSSCの因子項目の因子負荷量・信頼性・収束的妥当性 (n=430) 項目 SL (t) Γ1,1 (審美性 - 演出) Γ2,1 (審美性 - 選手) Γ3,1 (審美性 - 雰囲気) Γ4,2 (フロー - 逃避) Γ5,2 (フロー - 内なる楽しみ) Γ6,2 (フロー - 覚醒) Γ7,2 (フロー - 共感) Γ8,3 (投資効果 - 効率性) サービス エクセ レンス Γ9,3 (投資効果 - 経済的価値) X1 スタジアム全体は高い水準で運営されている X2 スタジアムで提供しているサービスは優れている X3 全体的に,スタジアムでのサービスは期待どおりだった 演 出 Y1 このスタジアムで使用される,音楽や映像などの演出が好き Y2 テレビ観戦と違って,スタジアム観戦は「全体」を見渡せる点がよい Y3 Y4 チームカラーによる演出が好き スタンドからみるピッチは美しい .92 .54 .84 .88 .65 .90 .76 .80 .89 .79 .96 .93 (*) (t=8.17) (t=11.03) (*) (t=11.51) (t=13.54) (t=11.87) (*) (t=12.80) (*) (t=24.01) (t=23.25) .61 .61 .72 .74 (*) (t=10.21) (t=11.59) (t=11.74) 選手 審美性 Y5 Y6 選手の美しいプレーや個人技にほれぼれする 選手のトップレベルのパフォーマンスを見るのが好きだ Y7 技術の高い,連携プレーを見るのが好きだ .73 (*) .90 (t=17.55) .88 (t=17.39) 雰 囲気 Y8 Y9 観戦者の歓声をきくのはとても楽しい 歓声が心地よい場をつくりあげている Y10 観客全員でつくりあげる雰囲気が好き .83 (*) .84 (t=19.32) .80 (t=18.41) 逃避 Y11 非日常的な気分を味わうことができる Y12 .72 (*) .75 (t=14.29) .84 (t=15.63) まるで別世界にいるような気分になる Y13 いつも試合に没頭してしまう 内 なる楽 しみ フロー Y14 純粋にサッカーそのものを見るのが好きだ Y15 純粋にサッカーを楽しむために試合を見ている 覚醒 Y16 スタジアムにくると,わくわくする Y17 .88 (*) .92 (t=25.19) 試合を見ると,気持ちが高ぶる 共感 Y18 選手が頑張っている姿をみると,一緒になって応援してしまう Y19 選手のプレーに入り込んでしまう Y20 アルビレックス新潟が勝利すると,私までうれしくなってしまう 効 率性 投資効果 .98 (*) .81 (t=16.92) Y21 スタジアムには気軽に訪れることができる Y22 Y23 アルビレックス新潟の試合日程は,私の都合に合わせやすい スタジアムに行くのは便利だ .87 (*) .68 (t=13.97) .65 (t=13.23) .79 (*) .71 (t=13.54) .72 (t=13.66) 経 済的価 値 Y24 アルビレックス新潟の試合は,お買い得だと思う Y25 Y26 全体的にチケットの値段に,見合った内容だ お金を払ってでも,アルビレックス新潟の試合は見る価値がある - 70 - .89 (*) .91 (t=26.76) .81 (t=21.90) α AVE CR .86 .61 .98 .89 .65 .99 .87 .71 .99 .92 .81 .99 .75 .45 .98 .87 .71 .99 .86 .68 .99 .83 .59 .99 .88 .81 .98 .89 .81 .99 .74 .55 .98 .78 .54 .98 .90 .76 .99 以上より,EVSSC の信頼性と妥当性の検証の結果,すべての指標において「演出」を 除くすべての因子において十分な基準を満たすことができた. 「演出」に関しては,因子負 荷量,Cronbach α係数,CR の基準を満たしたものの,AVE および相関係数の分析にお いては,基準を満たすことのできない結果となった. 「演出」に関しての改善の余地はある ものの,第1回本調査と比較を行うと,大幅に尺度が改善されたことから,10 因子 29 項 目を最終的な尺度とするものとする. 第8節 まとめと考察 本研究では,Mathwick et al. (2001)の経験価値尺度(EVS)を発展させ,スポーツ観戦に 特有の変数を付加したスポーツ観戦における経験価値尺度(EVSSC)の作成を試みた.本調 査は2回に渡って行われ,それぞれプレ調査,専門家評価を経て本調査に臨んだ.第2回 本調査においては,特に第1回本調査の調査結果を再検討し,尺度を改善させることを目 的とした.以下,それぞれの調査のまとめと考察を行う. 第1項 第 1 回本調査のまとめと考察 はじめに,第1回本調査(川崎フロンターレ)に関する,EVSSC の測定尺度における, 信頼性および妥当性の分析結果について以下考察を行う.まず,妥当性の検証であるが, 確認的因子分析の結果,各適合度指標において基準値を満たす結果は得られなかった.こ れは,一般的に因子に対する観測変数の数が増えると適合度指標は下がる(Ding, Velicer, & Harlow, 1995)ことも影響していると考えられる.したがって,第2回本調査に向けた - 71 - 大幅な修正の必要性が示唆された.他の指標では,因子負荷量においては, 「演出」因子に おける「競技場全体は見た目がかっこいい」 (表15, Y2)の標準化推定値(.45)が Hair et al.(2006)の推奨する.50 を下回る結果となったものの,他の測定項目すべてにおいて基準 を上回る結果となった.収束的妥当性における AVE においては, 「共感」を除くすべての 構成概念の変数において,基準を満たす結果を得ることができた.また,弁別的妥当性の 検証においては,「共感」と「サービスエクセレンス」の2因子を除いた8因子において, 1次因子間の相関係数の2乗が各要因の AVE を超えないことが確認された.また,信頼 性においては,Cronbach α係数においては「共感」 , 「サービスエクセレンス」の2因子 を除いた8因子において基準を上回り,CR についてはすべての因子において基準を上回 る結果となった.したがって,信頼性については,一定の基準を満たす結果が得られたと 判断した.第2回本調査に際しては, 「共感」と「サービスエクセレンス」を重点的に先行 研究レビューを行い,再検討することとした. 「演出」においても, Mathwick et al. (2001) の項目以外を入れていなかったことなどから,その他の因子についても再度インデプスイ ンタビュー結果や,スポーツチームにおけるブランド・エクイティ研究の項目を確認して 精査を行うものとした. 第1回本調査は,スポーツマーケティングの基礎的データの蓄積に貢献することができ たが,同時にいくつかの課題を浮き上がらせた.はじめに,EVSSC 尺度が適合度基準を 満たせなかった理由の一つとして,先行研究である Mathwick et al.(2001)の EVS の項目 に大きく依拠している点があげられる.今回, 「演出」が「エンタテイメント」の概念を包 含する形となったが,今後の課題として,適合性の観点から,スポーツ観戦のコンテクス - 72 - トに照らし合わせて,項目を再検討する必要性があるだろう.また,適合度指標が基準値 を満たすことができなかった理由として,因子間の相関係数の高さが考えられる. 例えば, 「雰囲気」と「演出」の相関が高くなったが(.70),どちらもスタジアムの全体的な印象を 測っているとも捉えられ,ゲームの雰囲気と試合中の高揚感はどちらも感情的な反応であ り,差別化が非常に難しいと考えられる.また, 「雰囲気」と「サービスエクセレンス」の 相関が高くなった(.71)理由として,どちらも雰囲気を扱っていると捉えられたことが理由 として考えられる.同様に「選手」と「共感」についても(.71),どちらも選手に関する記 述であることから,選手のパフォーマンスを表した「選手」との差別化が難しかったと考 えられる.そして,「演出」と「サービスエクセレンス」については(.75),どちらも会場 全体のことを聞いているとも捉えられる.さらに, 「サービスエクセレンス」と「経済的価 値」に関しても相関が高めの結果となったが(.61),それは最近のマーケティング研究にお いて定義される機能的価値が,利便性と買い得感に加え,サービス品質を含めると指摘さ れていることからも相関が高くなったと推察される(Rust, Lemon & Zeithaml, 2004; Vogel, Evanschitzky & Ramaseshan, 2008).今後の課題として,サービスエクセレンス の役割を検討すべきと考えた. 第2項 第2回本調査のまとめと考察 第2回本調査(アルビレックス新潟)を行うにあたって,あらためて先行研究レビュー を行い, プレ調査におけるインデプスインタビュー結果を参照し,項目の再検討を行った. 特に,インデプスインタビュー結果では, 「音楽や映像」 , 「マスコット」 , 「チームカラー」, - 73 - 「ユニフォーム」に関する因子が抽出されていたことから,スポーツにおけるブランド・ エクイティ研究における,Gladden & Funk (2002)の TAM 尺度,および Ross et al. (2006) の TBAS 尺度を参考に項目の作成を行った.その結果,第2回本調査においては,EVSSC 尺度の大幅な改善が見られた. 改善された EVSSC 尺度の信頼性および妥当性の分析結果について,以下考察を行う. まず,妥当性の検証であるが,確認的因子分析の結果,χ 値,そして因子負荷について用 2 いるとよいとされる(星野ほか,2005) ,CFI,IFI,TLI, RMSEA において基準値を満 たす結果が得られた.その他の指標においては,因子負荷量に関しては,すべての測定項 目において基準を十分に上回る結果となった一方,AVE を用いて行った収束的妥当性の検 討は,ほぼすべての構成概念の変数において,基準を満たす結果を得ることができたもの の, 「演出」に関しては基準を満たすことのできない結果となった.そして,弁別的妥当性 の検討においては,1次因子間の相関係数の2乗が各要因の AVE を超えないことが「演 出」以外のすべての変数で確認された. 「演出」が収束的妥当性および弁別的妥当性の基準 を満たせなかった理由として,第1回本調査項目を,先行研究およびインデプスインタビ ューの再検討を行った後,専門家調査を依頼し,内容的妥当性の確認を行って概念を再構 築したものの,統計的な検討を行う際,因子負荷量の基準を満たさなかった項目の削除を 行うに際し,因子負荷量と修正指数および信頼性の指標に注力してしまったことから,そ の他の指標との関連への配慮が足りなかったことが考えられる.今後は,各指標を総合的 に判断し,項目の精査を行っていく必要があると考えられる. 信頼性においては,Cronbach α係数及び CR について,すべての因子において基準を満たす結果が得られたことから, - 74 - 大幅な改善が見られた.以上より, 「演出」因子における収束的妥当性および弁別的妥当性 に改善の余地はあるものの,信頼性はすべての 10 因子において基準を満たし,総合的に は第1回本調査より,尺度が改善されたと判断したことから,10 因子 29 項目を最終的な 尺度とすることとした. 第3項 研究1全体のまとめと考察 本研究は,スポーツ観戦における経験価値(EVSSC)の尺度作成を目的とした.まず,予 備調査を行うため,インデプスインタビュー調査,横浜 F・マリノスにおいて質問紙調査 が実施された.その後,概念の明確化を行い,それぞれプレ調査と専門家調査を経て,2 回の本調査が川崎フロンターレ及びアルビレックス新潟において実施された.そして,最 終的に EVSSC の妥当性と信頼性を確認することができた.本尺度により,観戦者のスタ ジアムにおける観戦経験の知覚価値を測定できることは,チームのマネジメントにとって も基礎資料が得られるだけでなく,今後,経験価値がブランド・エクイティの先行要因と なることが明らかにされることにより,既に知見が積み重ねられているブランド・エクイ ティから再観戦意図やロイヤルティへの影響に至る,価値→態度→行動の流れを確認する ことができるようになるだろう. 本研究の限界は,試合前調査において,観戦者の過去の経験について質問するという方 式をとっていることであり,質問項目によっては,当日の経験の印象を答えているものも ある.当日のスタジアム経験を測るには,試合後の調査を検討する必要性もあるが,回答 が勝敗に影響される可能性もある.これらの問題は, 質問紙調査の限界であると考えられ, - 75 - 経験価値尺度を用いて分析を行う際には,回答は,過去及び当日の経験,そして気分等に 左右されている可能性を考慮することが必要であるだろう. - 76 - 第7章 研究2 スポーツ観戦における経験価値尺度(EVSSC)を用いた観戦者の分類 本研究は,研究1で開発された,スポーツ観戦における経験価値尺度(EVSSC)を用いて 観戦者のセグメンテーションを行い,クラスターごとの特性を,経験価値の視点,年齢, 性別から明らかにすることを目的とする.用いるサンプルは,EVSSC 尺度において妥当 性に改善する余地がある結果となったが,一応の信頼性が確認されたことから,第 1 回本 調査における川崎フロンターレの標本,及び改善された第 2 回におけるアルビレックス新 潟の標本を用い,各チームのセグメントごとの特性を明らかにすることとした.そして, EVSSC の上位構成概念を変数として用いた探索的なクラスター分析を行った. 第1節 分析方法 クラスター分析は,まず階層的クラスター分析を行って,クラスター数を推定した後, 非階層的クラスター分析を行い(Hair et al., 2006),類型化することにより,2チームの比 較検討を行った. はじめに,階層的クラスター分析を行うに際し,EVSSC における上位構成概念4因子 それぞれの合成変数を Z 得点化して標準化した.個体間の距離の測定方法は,平方ユーク リッド距離を用い,クラスター間の距離の測定方法は「鎖効果」(Chain Effect)が起こりに くいとされる Ward 法を用いた.鎖効果とは,ある1つのクラスターに固体が 1 つずつ順 に吸収されていく状態をいい,一般的に好ましくない分析結果として考えられている(村 瀬ほか,2007) .階層的クラスター分析の結果,3,4,または6クラスターに分かれる ことが推察された. - 77 - 次に,k 平均法による非階層的クラスター分析を,ランダムに抽出した必要サンプル数 (n=384)を用いて,3,4,6クラスターにて試行した.「クラスターの規模」 ,「クラスタ ーごとの変数の差」の観点からクラスター数の検討を行ったところ,クラスター数を4に 指定した場合に,最も市場規模が均質でクラスターごとの変数に差がみられたことから, 4個のクラスターを採用した.その後,クラスター間の比較を行うため,一元配置分散分 析を行った.なお,SPSS ver.11.5 を分析用ソフトとして使用した. 第2節 結果 第1項 川崎フロンターレの結果 クラスターごとの経験価値の標準化得点を図10と表19に示した. χ 検定と一元配置 2 分散分析を用いて,クラスター間の比較を行ったところ,経験価値項目においては有意な 関係が認められたものの,性別と平均年齢においては有意な差がみられなかった. そこで, この有意な関係が認められた経験価値得点の傾向から,クラスターの解釈を行った. 1) 第1クラスターの特徴 第1クラスターは全体の 11.0%(n=95)を占め,最も小さいクラスターとなった.男女比 は,男性 57.4%,女性 42.6%で,平均年齢は 37.2 歳であった. 「審美性」 ,「フロー」 ,「サ ービスエクセレンス」 , 「投資効果」のすべての 4 因子において標準化得点が負の値である うえ,全クラスター中最も低い値を示す結果となった.因子得点平均は, 「審美性」(4.46), 「フロー」(4.68), 「サービスエクセレンス」(3.35),「投資効果」(3.84)であった.以上の - 78 - ことから,「経験価値を感じていない観戦者」と命名した. 1.00 0.50 審美性 0.00 フロ ー -0.50 サービ ス エ クセレン ス 投資効 果 -1.00 -1.50 クラスター 1 クラスター 2 クラスター 3 クラスター 4 -2.00 図10 第 1 回本調査 EVSSC によるクラスターの特徴 表19 EVSSCによる非階層的クラスター分析結果(第1回・川崎フロンターレ) 表○: EVSSCによる非階層的クラスター分析結果(第1回・川崎フロンターレ) 4クラスター結果における最終クラスター中心 cluster 1 cluster 2 cluster 3 cluster 4 全体 F value -1.58 (4.46) -1.35 (4.68) -1.51 (3.35) -1.4 (3.84) -.45 (5.28) -.76 (5.12) -.16 (4.87) .16 (5.6) -.01 (5.61) .36 (5.97) -.45 (4.54) -.80 (4.55) .75 (6.16) .71 (6.23) .75 (5.89) .69 (6.18) .00 (5.61) .00 (5.70) .00 (5.05) .00 (5.42) F(3,859)=365.98, p<.01 (ケース数) (95) (241) (177) (350) (863) 男性 54 (57.4%) 150 (63.3%) 104 (58.8%) 226 (66.1%) 534(62.8%) 女性 40 (42.6%) 87 (36.7%) 73 (41.2%) 116 (33.9%) 316(37.2%) (ケース数) (94) (237) (177) (342) (850) 平均年齢 37.2 35.9 36.1 36.0 36.1 (ケース数) (91) (238) (176) (340) (840) 審美性 Z得点平均 (因子得点平均) Z得点 フロー (因子得点平均) サービスエクセレンス 投資効果 Z得点 (因子得点平均) Z得点 (因子得点平均) - 79 - F(3,859)=415.77, p<.01 F(3,859)=317.60, p<.01 F(3,859)=368.53, p<.01 x 2 32 . 994 057 n .s. n.s. 2) 第2クラスターの特徴 第2クラスターは全体の 27.9%(n=241)を占め,2 番目に大きいクラスターとなった.男 女比は,男性 63.3%,女性 36.7%であり,平均年齢は,35.9 歳であった.こちらのクラス ターにおいては, 「投資効果」において標準化得点が正の値を示したものの, 「審美性」 , 「フ ロー」 , 「サービスエクセレンス」においては負の値を示す結果となった. 「審美性」と「サ ービスエクセレンス」において,第 4 クラスターに次いで,2番目に高い水準を示したこ と.因子得点平均は, 「審美性」(5.28), 「フロー」(5.12), 「サービスエクセレンス」(4.87), 「投資効果」(5.60)であった.したがって,試合そのものや選手にはそれほど興味はない が,スタジアムにおける経験価値全体として,お気軽感やお得感を感じ,レジャーのひと つとして楽しむことができている層であると考えられることから, 「周辺的要素に価値を感 じている観戦者」と命名した. 3) 第3クラスターの特徴 第3クラスターは全体の 20.5%(n=177)を占め,3 番目に大きいクラスターとなった.男 女比は,男性 58.8%,女性 41.2%であり,平均年齢は 36.1 歳であった.「フロー」の標準 化得点は正の値であったが, 「審美性」 , 「サービスエクセレンス」 , 「投資効果」の3因子に おいては負の値を示した.「フロー」と「審美性」において,第 4 クラスターに次いで, 高い水準を示した.因子得点平均は,「審美性」(5.61), 「フロー」(5.97), 「サービスエク セレンス」(4.54), 「投資効果」(4.55)であった.以上より,純粋にサッカーが好きで,試 合そのものに楽しみを見出している層と考えられることから, 「サッカーそのものに経験価 - 80 - 値を感じている観戦者」と命名した. 4) 第4クラスターの特徴 第4クラスターは全体の 40.6%(n=350)を占め,最も大きいクラスターとなった.男女 比は,男性 66.1%,女性 33.9%であり,平均年齢は 36.0 歳であった.こちらのクラスタ ーにおいては,すべてのクラスターにおいて最も高い水準を示したことが特徴である.因 子得点平均は, 「審美性」(6.16), 「フロー」(6.23), 「サービスエクセレンス」(5.89),「投 資効果」(6.18)であった.以上より, 「経験価値を感じている観戦者」と命名した. 第2項 アルビレックス新潟の結果 クラスターごとの経験価値の標準化得点を図11と表20に示した. χ 検定と一元配置 2 分散分析を用いて,クラスター間の比較を行ったところ,経験価値項目及び平均年齢にお いては有意な関係が認められ,性別においては有意な差がみられなかった.そこで,有意 な関係が認められた経験価値得点の傾向及び平均年齢から,クラスターの解釈を行った. 1) 第1クラスターの特徴 第1クラスターは全体の 10.0%(n=43)を占め, 最も小さいクラスターとなった.男女比は, 男性 60.2%,女性 39.5%で,男性が多い傾向が見られた.平均年齢は 39.3 歳であった. 「審 美性」 , 「フロー」 , 「サービスエクセレンス」, 「投資効果」の全ての 4 因子において標準化 得点が負の値であるうえ,「審美性」 ,「フロー」 , 「投資効果」の 3 因子においては全クラ - 81 - スター中最も低い値を示す結果となった.しかしながら, 「サービスエクセレンス」に関し ては, 全ての因子の標準化得点が同様に負の値を示している第 2 クラスターと比較すると, よりよい水準を示している.因子得点平均では, 「審美性」(4.63), 「フロー」(4.39),「サ ービスエクセレンス」(4.34), 「投資効果」(3.79)であったことから, 「審美性」に相対的に 価値を感じていると考えられるものの, 「投資効果」は良いとは思っていない.「フロー」 や「サービスエクセレンス」にも価値を感じているという結果となった.したがって,ス タジアム全体の雰囲気には興味をもっているものの他のクラスターと比べると最低水準で あり,お気軽感やお買い得感は感じることができていない.チケットをわざわざ購入して まで来場する観戦者ではないと考えられる.他のレジャーとの代替物のひとつとして来場 している層であると考えられることから,「経験価値を感じていない観戦者」と命名した. 2) 第2クラスターの特徴 第2クラスターは全体の 12.6%(n=54)を占め,3 番目に大きいクラスターとなった.男 女比は,男性 52.7%,女性 47.3%であった.平均年齢は,37.6 歳と全クラスター中もっと も若い傾向を示した.こちらのクラスターにおいても,第 1 位クラスターと同様, 「審美 性」, 「フロー」 , 「サービスエクセレンス」,「投資効果」のすべての4因子において標準化 得点が負の値を示した.第 1 クラスターと比較すると, 「審美性」, 「フロー」は高く, 「サ ービスエクセレンス」が低い結果を示した.因子得点平均でみると, 「審美性」(5.53), 「フ ロー」 (5.83), 「サービスエクセレンス」(3.50),「投資効果」(4.14)であり, 「フロー」に - 82 - 1 0.5 0 審美性 -0.5 フロ ー -1 サービ ス エクセレ ンス 投資効 -1.5 -2 -2.5 クラスター 1 クラスター 2 クラスター 3 クラスター 4 図11 第2回本調査 EVSSC によるクラスターの特徴 表20 EVSSCによる非階層的クラスター分析結果(第2回・アルビレックス新潟) 表○: EVSSCによる非階層的クラスター分析結果 (第2回・アルビレックス新潟) 4クラスター結果における最終クラスター中心 cluster 1 cluster 2 cluster 3 cluster 4 全体 F value -1.93 (4.63) -2.01 (4.39) -.84 (4.34) -1.35 (3.79) -.66 (5.53) -.38 (5.83) -1.54 (3.50) -1.03 (4.14) -.21 (5.87) -.24 (6.02) -.25 (5.03) -.36 (4.92) .69 (6.52) .65 (6.54) .72 (6.19) .75 (6.19) .00 (6.02) .00 (6.02) .00 (5.34) .00 (5.33) F(3,426)=291.28, p<.01 (ケース数) (43) (54) (122) (211) (430) 男性 26 (60.5%) 28 (52.7%) 70 (57.4%) 108 (51.2%) 232(54.0%) 女性 17 (39.5%) 26 (47.3%) 52 (42.6%) 103 (48.8%) 198(46.0%) (ケース数) (43) (54) (122) (211) (430) 平均年齢 39.3 37.6 43.4 42.4 41.7 (ケース数) (42) (54) (122) (210) (430) 審美性 Z得点平均 (因子得点平均) Z得点 フロー (因子得点平均) サービスエクセレンス 投資効果 Z得点 (因子得点平均) Z得点 (因子得点平均) - 83 - F(3,426)=262.98, p<.01 F(3,426)=255.03, p<.01 F(3,426)=239.12, p<.01 x2 2 . 057 n .s . F(3,424)=2.84, p<.05 価値を感じているものの,サービス全体の印象はよくない.以上のことから, 「サッカーそ のものに価値を感じている観戦者」と命名した. 3) 第3クラスターの特徴 第3クラスターは全体の 28.4%(n=122)を占め,2 番目に大きいクラスターとなった.男 女比は,男性 57.4%,女性 42.6%であった.平均年齢は 43.4 歳であり,全クラスターの 中で最も高い年齢層の傾向がうかがえた. 「審美性」 , 「フロー」, 「サービスエクセレンス」 , 「投資効果」いずれも負の標準化得点であったものの,最も得点の高かった第 4 クラスタ ーに次ぐ水準であった.4 因子間に万遍のない得点水準であったことから,熱烈なファン ではないものの,サッカーが好きで,スタジアム経験全体にも楽しみを見出している層と 考えられる.因子得点平均では, 「審美性」(5.87),「フロー」(6.02), 「サービスエクセレ ンス」(5.03), 「投資効果」(4.92)であった.以上のことから, 「経験価値を感じている観戦 者」と命名した. 4) 第4クラスターの特徴 第4クラスターは全体の 49.0%(n=211)を占め,最も大きいクラスターとなった.男女 比は,男性 51.2%,女性 48.8%であり,平均年齢は 42.4 歳であった.因子得点平均でも, 「審美性」(6.52), 「フロー」(6.54), 「サービスエクセレンス」(6.19), 「投資効果」(6.19) であり,高い水準を示した.こちらのクラスターにおいては,すべてのクラスターにおい て最も高い水準を示したことが特徴であることから,「経験価値を高く感じている観戦者」 - 84 - と命名した. 第3節 結果のまとめと考察 本研究は,EVSSC を用いて,川崎フロンターレとアルビレックス新潟の観戦者のセグ メンテーションを行った.はじめに,川崎フロンターレのサンプルを用いて,階層的クラ スター分析を行った結果,4つのクラスターに分類することが推察されたことから,k 平 均法による非階層的クラスター分析を行った.その結果,割合の多い順に, 「経験価値を感 じている観戦者」(40.6%),「周辺的要素に価値を感じている観戦者」(27.9%),「サッカー そのものに経験価値を感じている観戦者」(20.5%),「経験価値を感じていない観戦者」 (11.0%)となった.川崎フロンターレの観戦者においては, 「経験価値を感じている観戦者」 が,4割も占めている.これは,自由記述の回答において,フロントや運営に対する不満 の声がほとんどきかれなかったことからも,チームと「経験価値を感じている観戦者」と の関係は良好であると推察される.全体の因子得点平均でも、 「審美性」(5.61), 「フロー」 (5.70), 「サービスエクセレンス」(5.05), 「投資効果」(5.42)であったことから,全体的に 経験価値が知覚されていることが確認できた. 次に,アルビレックス新潟の結果については,川崎フロンターレの分析において,4つ のクラスターに分類することが推察されたことから,比較を行うため,クラスター数を4 つに指定した上で k 平均法による非階層的クラスター分析を行った.その結果,割合の多 い順に, 「経験価値を高く感じている観戦者」(49.0%),「経験価値を感じている観戦者」 - 85 - 川崎フロンターレ アルビレックス新潟 第1クラスター 第1クラスター 10.0% 11.0% 12.6% 第2クラスター 40.6% 第2クラスター 第4クラスター 49.1% 27.9% 第4クラスター 第3クラスター 第3クラスター 28.4% 20.5% 図12: クラスター割合の比較 (28.4%),「サッカーそのものに経験価値を感じている観戦者」(12.6%), 「経験価値を感じ ていない観戦者」(10.0%),となった.全体の因子得点平均でも、 「審美性」(6.02),「フロ ー」(6.02), 「サービスエクセレンス」(5.34),「投資効果」(5.33)であったことから,全体 的に経験価値が知覚されていることがわかる.特に,第 4 クラスターの「経験価値を高く 感じている観戦者」は半分近くを占め,第 3 クラスターの「経験価値を感じている観戦者」 と合わせると,全体の4分の3も占めている. EVSSC は 2 回の本調査で改良しながら開発されたため,尺度項目は一致していない. したがって,川崎フロンターレとアルビレックス新潟のデータを足し合わせて分析するこ とはできない.因子得点平均についても,尺度がワーディングも含めて一致していないの で,完全な比較は行えないが,傾向を概観することはできたといえる.それは,全体の因 子得点平均を比較すると,アルビレックス新潟の方が「審美性」 ,「フロー」 ,「サービスエ - 86 - クセレンス」が高かった.これは,スタジアムの規模,老朽化やそのものの構造による差 であると考えられる.また,川崎フロンターレの方が「投資効果」が高かった理由として は,徒歩圏内からの来場者が多いことがあげられるだろう. また,セグメンテーションの要件に関しては,クラスター数をいくつにするかというこ とに関して明確な基準はなく(Hair et al., 2006),本研究においても,階層的クラスター分 析においては,3,4または6のクラスターが推察されたことから,最終的に4つのクラ スターに決定を行うに際し,全くの主観が入らないわけではなく,焦点化,安定性におい ては劣っていると考えられる.また,基準変数に用いた尺度は,確認的因子分析において 適合度基準を満たさず,因子や項目のコンビネーションが変わった場合,抽出されるクラ スターも異なることが考えられる.さらに,経験価値尺度はサイコグラフィック基準の一 種であると考えられる.よって,外見からどのクラスターに属する観戦者かを判断するこ とは難しいことから,到達可能性において優れてはいないと考えられる.一方,経験価値 尺度によるマーケット・セグメンテーションが,観戦者全体におけるクラスターごとの割 合に応じて,柔軟に対応できることは優れている点であると考えられるだろう.特に,人 口統計学的特性を用いてクラスター間に統計的に有意な差がみられなかったことから,経 験価値得点により特徴づけることができたことは有効であった.本研究における限界や今 後の検討事項も多いことがわかると同時に,観戦者を探索的に類型化する目的を達するこ とはできたと考えられる. - 87 - 第8章 結論 本研究を通じて,研究1では,J リーグの観戦者を対象にして行われた調査の結果から, スポーツ観戦における経験価値尺度(EVSSC)は,4次元 10 因子から構成される概念で あることを検証することができた.そして,研究2の結果からは,研究1で開発された EVSSC を用いて観戦者をセグメンテーションすることにより,4 つの類型に分かれたそれ ぞれのクラスターの特性を,経験価値,性別,年齢の視点から明らかにすることができた. 本章においては,これらの研究結果をもとに,結果の要約を行うと共に,研究の限界と将 来への展望についてまとめたい. 第1節 研究1の考察 研究1は,スポーツ観戦における経験価値(EVSSC)尺度の開発を目的とした.研究に先 立ち,事前に先行研究レビューと予備調査が行われた.予備調査は,横浜 F・マリノスの 協力を得て,インデプスインタビュー調査と質問紙調査が実施された.そして,先行研究 レビュー及び,インデプスインタビューの結果を基に,本研究における経験価値の概念の 明確化を因子ごとに行った.質問紙調査は,参考にした Mathwick et al. (2001)のフレー ムワーク(4次元 7 因子 19 項目)を援用できるかについて確認するため,スポーツ観戦 のコンテクストに照らし合わせて調査を実施した.確認的因子分析の結果,十分に基準を 満たすことができたことから,Mathwick et al. (2001)のフレームワークにスポーツ特有の 因子を追加することにより,尺度を開発することとした.本調査は,2 回に渡って行われ た.第1回本調査は,川崎フロンターレにて実施された.調査項目数は,10 因子 29 項目 - 88 - であった.第2回本調査は,アルビレックス新潟において行われた.調査項目数は,10 因 子 44 項目であった.それぞれ本調査の前に,プレ調査と専門家調査を経て,質問項目を 最終確定させた.そして,第 1 回本調査の結果,大幅に項目を再検討する必要性が確認で きたことから,第2回本調査の前には,再度先行研究レビューと,インデプスインタビュ ー調査の結果を確認して項目を構成した.第2回本調査を分析し,モデルの適合度が最も よくなるよう,信頼性の指標とのバランスを鑑みながら尺度の削減を行い,最終的に 10 因子 29 項目となり, 「演出」の 1 因子のみ収束的妥当性と弁別的妥当性の基準を満たすこ とができなかったが,他の 9 因子においては妥当性が確認できたほか,信頼性の検討にお いては 10 因子すべてが基準を満たすことができた.したがって,研究1の目的である EVSSC の開発は達成できたといえよう. 第2節 研究2の考察 本研究は,研究1で開発された,スポーツ観戦における経験価値尺度(EVSSC)を用いて 観戦者のセグメンテーションを行い,クラスターごとの特性を,経験価値の視点,年齢, 性別から明らかにすることを目的とした.分析の対象は,川崎フロンターレとアルビレッ クス新潟であった. 川崎フロンターレのデータを用いて,階層的クラスター分析を行った結果,4つのクラ スターに分類することが推察されたことから,k 平均法による非階層的クラスター分析を 行った.その結果,割合の多い順に, 「経験価値を感じている観戦者」(40.6%), 「周辺的要 素に価値を感じている観戦者」(27.9%),「サッカーそのものに経験価値を感じている観戦 - 89 - 者」(20.5%), 「経験価値を感じていない観戦者」(11.0%)となった. 次に,アルビレックス新潟の結果については,川崎フロンターレの分析において,4つ のクラスターに分類することが推察されたことから,比較を行うため,クラスター数を4 つに指定した上で k 平均法による非階層的クラスター分析を行った.その結果,割合の多 い順に, 「経験価値を高く感じている観戦者」(49.0%),「経験価値を感じている観戦者」 (28.4%),「サッカーそのものに経験価値を感じている観戦者」(12.6%), 「経験価値を感じ ていない観戦者」(10.0%),となった. EVSSC は 2 回の本調査で改良しながら開発されたため,クラスター分析に用いた尺度 項目は一致していない.尺度がワーディングも含めて一致していないので,完全な比較は 行えないが,全体の因子得点平均を比較すると,アルビレックス新潟の方が「審美性」 , 「フ ロー」 , 「サービスエクセレンス」が高かった.これは,スタジアムの規模,老朽化やその ものの構造による差であると考えられる.また,川崎フロンターレの方が「投資効果」が 高かった理由としては,徒歩圏内からの来場者が多いことがあげられる. 人口統計学的特性を用いた分析では,川崎フロンターレにおいては,クラスター間に 有意な差が見られなかった.アルビレックス新潟においては,年齢で有意な差が見られた ものの,性別で有意な差は見られなかった.これは今回 2 チームのみの結果であるが,人 口統計学的特性,つまり外見で判断できる性別や年齢によって,観戦者の分類ができると は限らないが,外見では判断できない経験価値によって分類できることは,観戦者の経験 価値を把握する必要性が示唆され,経験価値尺度開発の意義があったと考えられる.また, 本研究における限界や今後の検討事項も多く残されているが,同時に,観戦者を探索的に - 90 - 類型化するという目的を達成することはできたと考えられる. 第3節 研究の限界 本研究における限界について,大きく以下の3点があげられる. まず,尺度開発のために行った研究1の試合前調査に関してである.それは,観戦者の 過去の経験についたずねるという方式をとっているものの,観戦者に完全に意図が伝わっ たとは限らず,質問項目によっては当日の経験の印象で答えているものもあるだろう.当 日のスタジアム経験を測るには,試合後調査を検討する必要性もあると考えられるが,勝 敗に影響された回答となる可能性もある.これらの問題は,質問紙調査の限界であり,経 験価値尺度を用いて分析を行う際には,回答については,過去及び当日の経験,そして気 分等に左右されている可能性があることを,十分に考慮することが必要である. また,本尺度は,Mathwick et al. (2001)の経験価値尺度(EVS)を援用して大枠を作成し たが,今回採用した幾つかの項目においても, 「∼が好き」という表現をそのまま用いた. しかしながら, 「好き/嫌い」といった表現は,態度を測る質問項目に近似していることか ら,経験価値尺度項目の中に,態度的な要素を含むことについては慎重になるべきであっ た. さらに,セグメンテーションの要件に関しては,クラスター数をいくつにするかという ことに関して明確な基準はないため(Hair et al., 2006),本研究においても,最終的に4つ のクラスターに決定を行うに際し,筆者の主観が加わった.したがって,クラスター分析 という手法そのものが,焦点化,安定性という点においては完全な方法であるとはいえな - 91 - い.また川崎フロンターレの分析においても,基準変数に用いた尺度は,確認的因子分析 の適合度基準を満たさず,因子や項目のコンビネーションが変わった場合,抽出されるク ラスターが変わるという問題を残している.つまり,最終的に開発された EVSSC を用い て,再度調査を行った場合,異なる結果が出る可能性を含んでいると考えられる. 第4節 今後の展望と課題 本研究は,J リーグを対象として開発した尺度を用いており,スポーツ観戦全体への汎 用性という点で未解決の問題が残されている.今後は,本研究で用いた新潟アルビレック スの結果を,他の J リーグでの調査へと広げるとともに,他のスポーツにおいて検証する ことが課題とされる. マーケティングの測定尺度とは,マーケティング成果を定量化,比較,解釈するときに 使う様々な基準である.本研究で開発した EVSSC を用い,スポーツ観戦における経験価 値を数量的に測定できることは,チームやリーグ関係者にとって,観戦者に関する基礎的 な資料を得ることを可能にしてくれることを意味する.そして,スポーツマネジメント研 究においては,今後,経験価値がブランド・エクイティの先行要因となることを明らかに できる可能性があると考えられる.また,ブランド・エクイティ以外にも,経験価値がど のような態度を介して,再観戦意図やロイヤルティに結びついていくかについて,一連の 流れを解明していくことは今後の課題であるといえよう.そして,本研究において開発さ れた経験価値尺度が,観戦者や観戦者の心理や行動とどのような関係があるのかについて も今後検討したいと考える. - 92 - また,経験価値を測定したとしても,マネジメント側が実際にステージングする時に, 具体的な要因を特定することはできない.消費者の意思決定は, 「品質→価値→態度→行動」 の連関で行われると Yoshida(2009)が指摘するように,この一連の流れをみることが大切 である.以下に述べることは試論であるが,経験価値を最大化させるため,マネジメント 側はあらゆる手を尽くして最大限に努力をするべきである.そして,洗練された経験価値 を誘発するような継続的・包括的なマネジメント努力は,観戦者の経験価値を高める可能 性があるといえるだろう.またマーケティングが,グッズドミナントロジックからサービ スドミナントロジックへと発展を遂げたように,ブランドロジックにおいても同様の傾向 を辿っていると Merz(2009)は指摘している.Merz(2009)は,サービスドミナントロジッ クにおいては,企業側と顧客側が価値を共創する過程と関係性が大切であり,企業は価値 を提供する立場ではなく,企画するのみの立場であるとしている.そして,現在のブラン ドロジックにおいては,ブランドに関わるすべてのステークホルダーが価値を共創すると 指摘している.このロジックを,スポーツ観戦にあてはめると,チームのブランド価値創 造プロセスにおいては, ステークホルダーすべてが価値を共創することになる.すなわち, チームが価値をステージングすることに捉われるのではなく,ステークホルダーすべてが 価値を創り上げることを改めて認識すべきであろう.それは,ファンや観戦者をはじめ, スポンサー企業,出資者,後援会,地域住民,マスメディア,潜在的観戦者などがチーム のブランド価値を決めるということである.それらは,長い年月をかけて育まれるもので あり,チームは長期的なビジョンを描いて,ブランド力を高める戦略を立てるべきである が,実際にブランド戦略を行うには,非常な労力がかかる.したがって,既存顧客である - 93 - 観戦者の経験価値を把握することは,長いブランド価値創造プロセスの第一歩になると考 えられる. - 94 - 参考・引用文献 Arnold, M. 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