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理工フォーラム原稿 田中彰 ver1
遺伝子破壊酵母を用いたトリコテセン簡易検出法 田中 彰 (バイオ・応用化学専攻) 食品生物化学研究室 Development of a highly sensitive yeast bioassay for trichothecene detection Akira TANAKA ABSTRACT Trichothecenes are mycotoxins produced by Fusarium and other genera that can cause serious health problems in humans and livestock. We constructed various multiple gene deletion mutants of resistance genes to develop a sensitive yeast bioassay system for trichothecenes. Among the double and triple null mutants, pdr5Δ erg6Δ rpb4Δ cells showed high sensitivity to T-2 toxin under optimized culture conditions. The disc diffusion test also confirmed the high sensitivity of this mutant to the trichothecenes. The pdr5Δ erg6Δ rpb4Δ cells detected 1.0 ppm deoxynivalenol in wheat flour and 1.1 ppm deoxynivalenol in wheat grain, which are the advisory level for deoxynivalenol in final wheat products in US and the provisional level for wheat grain in Japan, respectively. K e y w o r d s : deoxynivalenol; Fusarium; resistance genes; T-2 toxin; trichothecenes 度に検出する系の構築を試みた。また、ここで作製した 1 . 目的 高感受性株を用いて、ディスク阻害法による DON の検 トリコテセン系カビ毒とは、主に麦赤カビ病の原因菌 である Fusarium 属のカビが生産するカビ毒である。 出を試みた。 3 . 結果 Fusarium 属のカビが小麦や大麦、トウモロコシなどの PDR5、ERG6、RPB4 の 3 つの遺伝子を 1 重、2 重、 重要穀類に感染するとトリコテセンを生産する。トリコ 3 重と破壊していくことで、SDS 存在下にて、より高感 テセンに汚染された食物をヒトや家畜が摂取すると、下 度な酵母によるトリコテセン検出系を構築することに成 痢や嘔吐、果ては食中毒性無白血球症等の症状を引き起 功した(Fig. 2)。このように、トリコテセン耐性遺伝子を こす。その中で deoxynivalenol(DON, Fig. 1)は日本 複数破壊することで、T-2 toxin への感受性は大きく高 の規制対象になっているが、DON よりも毒性が強い まった。また、ディスク阻害法では人工的に DON 1.1 nivalenol (NIV)や、その他のトリコテセン類は規制対象 ppm(日本の規制値)に汚染した小麦粒 5 g 分(5.5 µg になっていない。これらトリコテセンの検出には、 含有)と、DON 1 ppm(アメリカ合衆国の規制値)に汚 LC-MS や GC-MS、ELISA が多用されているが、高価 染した小麦粉 5 g 分(5 µg 含有)から、その汚染を簡易 な上、専門知識を必要とし、更に毒性とは相関しない。 に検出できた(Fig. 3)。 そこで、本研究では簡易的で安価、更に毒性にも相関す る検出系の構築 3重 破壊 を目的に、トリ コテセン高感受 2重 破壊 1重 破壊 親株 性酵母の作製と、 それを用いた検 出系の構築を行 った。 2 . 実験方法 Fig. 1. 代表的なトリコテセン Fig. 2. T-2 toxin における遺伝子破壊酵母の成長阻害率 まず、トリコテセンによって生育阻害のかかる遺伝子 破壊体を、真核生物のモデル微生物である出芽酵母の Saccharomyces cerevisiae BY4742 を親株とする遺伝 子破壊ライブラリーから選抜した。そして、それらの遺 伝子を多重に破壊し、よりトリコテセンに対して感受性 の高い株の作製を試みた。ここで得られたトリコテセン 高感受性株について、T-2 toxin における成長阻害率を求 め、培養条件を検討することでトリコテセンをより高感 Fig. 3. ディスク阻害法による DON の検出