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欧米における燃料電池自動車の政策動向、技術
米国エネルギー省(DOE) 6 訪問先 訪問日時 対応者 組織の概要 調査項目 (1) 米国のエネルギー政策 • DOE の組織は、大きく 3 つに分かれている(図 6-1)。 - Office of National Nuclear Security / Administrator for National Nuclear Security Administration(軍事関連エネルギー(核戦略)を管轄) - Office of Energy & Environment(エネルギー・核廃棄物管理を管轄) - Office of Science(基礎研究、核物理・高エネルギー研究、核融合研究を管轄) • Office of Energy & Environment 傘下には 7 つの部局がある。 - 38 米国エネルギー省(DOE) 住所:1000 Independence Ave., SW, Washington DC, USA 2006 年 11 月 9 日(木)13:30∼16:00 Ed Wall Program Manager, FreedomCAR & Vehicle Technologies Phyllis Yoshida FreedomCAR & Fuel Partnership Director, FreedomCAR & Vehicle Technologies JoAnn Milliken Chief Engineer & Acting Program Manager Hydrogen Fuel Cells and Infrastructure Technologies Sigmund Gronich Technology Validation Manager, Hydrogen Fuel Cells and Infrastructure Technologies Sunita Satyapal Hydrogen Storage Team Leader Hydrogen Fuel Cells and Infrastructure Technologies Valri Lightner Fuel Cell Team Leader Hydrogen Fuel Cells and Infrastructure Technologies (他 4 名) ブ ッ シ ュ 政 権 の 水 素 燃 料 イ ニ シ ア テ ィ ブ を 受 け 、 FreedomCAR & Hydrogen Fuel イニシアティブを実施し、FCV の開発を支援している。 • FreedomCAR & Fuel プログラムの現状と今後の見通し • 水素製造に関するプログラムとコストの見通し • DOE の FCV フリートプログラムの現状 水素関連のプログラムや自動車用燃料電池プログラムは、主に Office of Energy Efficiency & Renewable Energy(EERE:エネルギー効率・再生可能 エネルギー局)が管轄している(図 6-2)38。 P.74 参照。 - 68 - Office of the Secretary Secretary Dr. Samuel Bodman Deputy Secretary Clay Sell Office of the Under Secretary For Nuclear Security / Administrator for National Nuclear Security Administration Thomas P. D Agostino, Actg Office of the Under Secretary for Energy and Environment Dennis R. Spurgeon Office of the Under Secretary for Science Dr. Raymond L. Orbach (省略) Assistant Secretary for Energy Efficiency & Renewable Energy (省略) Assistant Secretary for Environmental Civilian Radioactive Waste Management Assistant Secretary for Fossil Energy Civilian Radioactive Waste Management Assistant Secretary for Nuclear Energy Legacy Management 図 6-1.DOE の組織 出所:DOE ホームページ< http://www.energy.gov/organization/orgchart.htm >を簡略化 Assistant Secretary for Energy Efficiency & Renewable Energy Alexander A. Karsner Chief Operating Officer Principal Deputy John F. Mizroch Paul Dickerson Deputy Assistant Secretary for Technology Development David Rodgers (Acting) Deputy Assistant Secretary for Business Administration Rita L. Wells (省略) Biomass Jacques Beadury-Losique (Acting) Building Technologies Steven Chalk (Acting) Federal Energy Management Rick Khan FreedomCAR & Vehicle Technologies Ed Wall Geothermal Technologies Allan Jelacic (Acting) Hydrogen, Fuel Cells, & Infrastructure Technologies Patrick Davis (Acting) Industrial Technologies Douglas Kaempf (Acting) Solar Energy Technology Steven Chalk Weatherization & Intergovernmental Mark Bailey (Acting) Wind & Hydropower Technologies Phillip Dougherty (Acting) 図 6-2.EERE の組織 出所:DOE/EERE ホームページ< http://www1.eere.energy.gov/office_eere/pdfs/eere_orgchart.pdf >を簡略化 - 69 - (2) 米国のエネルギー政策 ① エネルギー政策法 • 米国では、2005 年 8 月に「2005 年包括エネルギー政策法(Energy Policy Act of 2005)」が成立した。これは、包括的エネルギー政策法としては 13 年ぶり の改定になる。 - この法律は 1724 ページからなり、代替エネルギー導入・省エネルギーのため に 120 億ドルのインセンティブが盛り込まれている。 - 特に、水素、バイオ燃料、クリーンディーゼル、先進自動車の開発と普及が強 調されている39。 ② 一般教書演説における先端エネルギーイニシアティブ • ブッシュ大統領は 2006 年 1 月の一般教書演説において、先端エネルギーイニ シアティブ(Advanced Energy Initiative)を発表した。 - 先端エネルギーイニシアティブでは特に自動車における対応が強調されてい る(表 6-1)。 表 6-1.先端エネルギーイニシアティブにおける自動車における対応40 ・ EV モードで 40 マイル走行可能なプラグイン・ハイブリッドを実現させる電池の開 発 ・ 2012 年までに、コーン由来エタノールとコスト的に競合できる、コーンセルロー ス由来エタノール生産技術におけるブレークスルー ・ 2020 年までに米国市民が水素 FCV を購入できるための施策の加速的実施 39 40 2005 年エネルギー政策法の主な内容は以下のとおり。 ① エネルギー高効率機器の購入支援を通じた省エネ推進 ② 連邦政府の再生可能エネルギー調達義務、各種再生可能エネルギーへの支援 ③ 戦略石油備蓄(SPR)の貯油能力を現 7 億バレルから 10 億バレルへ拡張 ④メキシコ湾深海鉱区のロイヤルティ減免、大陸棚外延部における資源量調査の実施 ⑤ LNG 受入基地の許認可権限を連邦エネルギー規制委員会(FERC)に一元化 ⑥ 新規原子力発電所建設への支援 ⑦ ハイブリッド車購入支援 ⑧ 2020 年の実用化を目指した水素インフラ、燃料電池車研究開発の実施 ⑨ 送電事業者への強制力のある供給信頼度安全基準の設定、インフラ投資促進 ⑩ エタノール等のバイオ燃料の利用拡大、ガソリンへの含酸素燃料混入義務廃止 < http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2006EnergyHTML/html/i2210000.html >参照。 詳細は< http://www.whitehouse.gov/stateoftheunion/2006/energy/index.html >参照。 - 70 - • 米国における石油消費は、Business-as-usual の場合には、2050 年までに現在 よりも 60%増加して 1600 万バレル/日に達すると見られる(図 6-3)。 - DOE では、省エネルギーと代替エネルギーの導入で、石油依存度を大幅に削 減する方針である。 燃費向上に よる石油消 費量削減 代替燃料の 導入 図 6-3.米国における石油消費見込みと低減の目標 • DOE が考える、将来交通へのアプローチを図 6-4 に示す。 エネルギーセキュリティ 持続可能で燃料フレキシブルな車両 のための高効率技術の展開 国内燃料 & 先端ハイブリッド すべての車両技術に、 軽量材料・車両システムの研究 の成果を応用 先端エンジン & プラグインハイブリッド 先端エンジン & 再生可能液体燃料 フレックルフューエル/ ディーゼル エンジンハイブリッド 既存の ガソリン/ ディーゼル自動車 現在 ゼロ石油 & ゼロエミッション 燃料電池 その他の技術 多様な国内資 源による液体 燃料製造技術 PHEV 技術 高効率、クリ ーン燃焼・ 燃料技術 パワーエレクトロニクス、 電気モータ エネルギー貯蔵 脱石油化 移行期 図 6-4.DOE が考える将来交通への戦略的アプローチ - 71 - (3) DOE/EERE の水素・燃料電池関連プログラム予算(2007 年度) ① フリーダムカー・車両技術(FreedomCAR and Vehicle Technologies)関連予算 • DOE/EERE が実施しているフリーダムカー・車両技術関連の予算を表 6-2 に 示す。 - 2007 年予算は、通常は 2006 年 10 月から実施されるが、中間選挙の影響で予 算承認は 2007 年 2∼3 月まで延びるであろう。 - 「ハイブリッド・電動推進システム」は請求ベースで約 700 万ドル増加してい るが、これは電池関連研究の増強のためである。特に、プラグイン・ハイブリ ッドの開発のためには、バッテリ、パワーエレクトロニクス、モータ、システ ム分析などの研究の強化が必要である。 - ゼロエミッションに近い内燃機関自動車の開発のために、内燃機関エンジンの R&D を引き続き支援する。 - 議会指定活動(Congressionally Directed Activities)は、議会が裁量を有す るプロジェクト予算枠であり、議会の意向で決定される予算枠である。 - 現状では、下院は予算総額 177,538,000 ドル(うち 10,050,000 ドルが議会指 定活動分)、上院は予算総額 180,024,000 ドル(うち 5,850,000 ドルが議会指 定活動分)を提示してきている。 表 6-2.2007 年度フリーダムカー・車両技術関連予算[千ドル] 2005 年 2006 年 2007 年(要求額) 13,004 13,056 13,315 494 495 500 ハイブリッド・電動推進システム 44,066 43,977 50,841 先進的内燃機関エンジン R&D 48,480 45,588 46,706 材料研究 36,042 35,269 29,786 燃料技術 12,419 13,709 13,845 技術導入支援 4,944 6,250 11,031 プログラムマネジメント 1,877 2,475 0 議会指定活動 0 20,295 0 ピアレビュー 0 990 0 161,326 182,104 166,024 うち FreedomCAR 関連 83,374 99,000 109,774 うち 21stCentury Truck 関連 68,036 50,332 42,021 車両システム 革新的なコンセプト EERE のフリーダムカー・車両技術関連 プログラム予算合計 - 72 - • フリーダムカー・車両技術プログラムの進捗状況を表 6-3 に示す。 表 6-3.フリーダムカー・車両技術プログラムの進捗状況 項目 進捗 プラグイン・ハイ ・ プラグイン・ハイブリッドに関するディスカッションの ブリッド 開催(2006 年 5 月)。ハイブリッドシステムやエネルギ ー貯蔵技術分野の企業、研究者、大学から 130 人が参画。 電気化学的エネル ・ Cobasys が GM 「Saturn VUE Green Line」(図 6-5) ギー貯蔵 向けのバッテリの開発を発表。 ・ Johnson Controls と Saft Batteries が、ハイブリッドや 電気自動車用バッテリの開発を行うジョイントベンチャ ーの設立を発表(2005 年 10 月)。 車両システム分析 ・ ハイブリッドシステム 33 台(11 モデル)のベンチマー クと走行テスト(総走行距離 200 万マイル)を完了。 ・ サイズを 50%縮小したインバータを開発(冷媒を使用) ・ マグネシウム材料を開発(現在のアルミニウムに比較し て 35%の軽量化を達成) 。 ・ カーボンファイバの使用に関するデモンストレーション 先端的内燃機関技 ・ 尿素 SCR システムの実証走行テストを実施(ライトデュ 術 ティトラックで走行距離 12 万マイル)。「Tier II Bin 5」 規制を達成する可能性を実証((Ford 、FEV、 Exxon Mobil、触媒メーカー)。 エレクトロニクス 材料開発 図 6-5.GM「Saturn VUE Green Line」41 出所:GM ホームページ < http://www.gm.com/company/gmability/adv_tech/300_hybrids/index_hybrid.html >参照 41 GM が 2006 年秋から販売しているマイルド・ハイブリッド(アシスト型ハイブリッド)。 - 73 - ② 水素燃料イニシアティブ(Hydrogen Fuel Initiative)関連予算 • 水素燃料イニシアティブに関わる予算は、主に、ブッシュ大統領の「先端エネ ルギーイニシアティブ」予算から割り当てられている。 - 2007 年度には、DOE は先端エネルギーイニシアティブ関連として 21. 4 億ド ルを要求している(図 6-6)。DOE の先端エネルギーイニシアティブ予算は、 以下に示す各部局に割り当てられ、それぞれ独自の研究開発を実施する。 * Office of Energy Efficiency and Renewable Energy(EERE) * Office of Fossil Energy(FE) * Office of Nuclear Energy, Science and Technology(NE) * Office of Science(SC) - DOE の先端エネルギーイニシアティブ予算(21. 4 億ドル)のうち、水素燃料 イニシアティブに割り当てられるのが 2 億 8800 万ドルである。水素燃料イニ シアティブ関連の予算を表 6-4 に示す。 Office of Fossil Energy(FE 局) 4 億 4400 万ドル ・ 石炭研究イニシアティブ ・ 定置用燃料電池 Office of Energy Efficiency and Renewable Energy(EERE 局) 7 億 7100 万ドル ・ 水素、燃料電池、車両技術 ・ バイオマス、ソーラー、風力 先端エネルギー イニシアティブ 21.4 億ドル このうち、水素燃 料イニシアティブ 関連が 2 億8800 万ドル☆ Office of Science(SC 局) 5 億 3900 万ドル ・ 核融合、太陽エネルギー、 バイオマス、水素 Office of Nuclear Energy, Science and Technology(NE 局) 3 億 9200 万ドル ・ 世界核エネルギーパートナー シップ(GNEP) ・ 核エネルギー利用水素製造イ ニシアティブ ・ 核エネルギー2010 ・ 第四世代原子炉 図 6-6.DOE の先端エネルギーイニシアティブ関連予算(要求額) 表 6-4.水素燃料イニシアティブ関連予算(DOE と DOT)[千ドル] 2005 年 DOE の水素燃料イニシアティブ関連予算 2006 年 2007 年(要求額) 288,077 221,402 234,512 166,772 155,627 195,801★ 燃料電池関連 73,419 75,339 81,804 水素燃料関連 93,353 80,288 113,997 16,518 21,635 23,611 うち NE 局 8,929 24,750 うち SC 局 29,183 32,500 (参)DOT の水素燃料イニシアティブ関連予算 (549) (1,411) (DOE と DOT をあわせた、水素燃料イニシアテ (221,951) (235,923) ィブ関連予算の合計) 18,665 50,000 (1,420) うち EERE 局 うち FE 局 - 74 - (注:図 6-6 中の☆に一致) (289,497) • • EERE の水素燃料イニシアティブに関わる予算の内訳を表 6-5 に示す。 - これまでよりも、水素貯蔵・輸送技術、教育分野の予算を大幅に増加した。ま た、製造技術に関する R&D を 2007 年から実施する予定である。 - 現状では、下院は予算総額 201,751,000 ドル(うち 10,9500,000 ドルが議会指 定活動分)、上院は予算総額 189,860,000 ドル(うち 7,950,000 ドルが議会指 定活動分)を提示してきている。 水素燃料イニシアティブの進捗状況を表 6-6 に示す。 表 6-5.EERE の水素燃料イニシアティブ関連予算[千ドル] 2005 年 EERE の水素燃料イニシアティブ関連予算 2006 年 2007 年(要求額) 195,801 166,772 155,627 水素貯蔵・輸送技術 13,303 8,591 36,844 水素貯蔵 R&D 22,418 26,600 34,620 燃料電池スタック・コンポネント R&D 31,702 31,595 38,082 技術実証 26,098 33,478 39,566 移動体用燃料電池システム 7,300 1,080 7,518 分散電源用燃料電池システム 6,753 962 7,419 燃料改質 R&D 9,469 654 4,056 安全・基準・標準 5,801 4,727 13,848 0 495 1,978 3,157 4,925 9,892 0 0 1,978 535 0 0 40,236 42,520 0 教育 システム分析 製造技術 R&D プログラムマネジメント 議会指定活動 (注:表 6-4 中の★に一致) 表 6-6.EERE における水素燃料イニシアティブの進捗状況 項目 進捗 水 素 パ ス 関 ・ 水素コスト:天然ガス改質で$2.75∼$3.50 を達成(2006 年実績) 連技術 ・ 燃料電池システムコスト:$110/kW を達成(2006 年度実績) ・ 燃料電池システム耐久性:2000 時間(ラボレベル) ・ 水素貯蔵: 水素貯蔵量 6 wt%を達成可能な技術を特定 ラ ー ニ ン グ ・ ・ 水素ステーション:2006 年に 9 基を設置(2009 年までに 18 基) デ モ ン ス ト レ ・ FCV 車両:2006 年に 63 台を導入、2007∼08 年に 68 台を追加 ーション ・ FC システム:効率 53∼58%、耐久性 714 時間を達成。 安全性、基準 ・ 水素安全に関するデータベース(文献、水素事故記録)を作成 標準、教育 ・ 「水素安全性に関する初期対応の手引き」を完成 - 75 - (4) 燃料電池自動車デモンストレーションプロジェクト • DOE では「Controlled Hydrogen Fleet and Infrastructure Demonstration and Validation Project(通称:Learning Demonstration)」を 2004 年 10 月 から実施している。 - 海外の自動車メーカーを含む 4 チームが参画している。すでに FCV 63 台が導 入されている。2 年以内にさらに 68 台が導入される予定である(図 6-7)。 - 水素充填ステーションは 9 ヶ所である(図 6-7)。オンサイト製造が 4 ヶ所(天 然ガス改質 2 ヶ所、電気分解 2 ヶ所)で、あとはオフサイト製造(工場からの 配送)である。将来的には、改質型ステーションを増やす予定である。 • • デモンストレーションは 2009 年までの第一フェーズと、2010 年∼2015 年の第 二フェーズからなる42。 - 2009 年までのフェーズ(第一世代、第二世代)におけるスタックの耐久時間 は 2000 時間、2010∼2015 年のフェーズ(第三世代、第四世代)の耐久時間 は 5000 時間を目指している(表 6-7)。 - 第一世代 FCV は現在(2006 年)導入されている車両であり、第二世代 FCV は 2007∼2008 年に導入される車両である(GM は、2007 年に第二世代 FCV の生産を開始するとのことである)。 水素コストの目標は、現在の技術をベースに、FCV が大量普及した場合の予測 である(表 6-7)。 f 図 6-7.Learning Demonstration 参加車両と水素充填ステーション 表 6-7.Learning Demonstration における性能目標 FC スタック耐久性 車両の航続距離 水素コスト(充填時) 42 2009 年 2000 時間 >250 マイル $3/gge 2015 年 5000 時間 >>00 マイル $2-3/gge 詳細は P.135 参照。 - 76 - • デモンストレーションの現状: - 参加車両の累積の走行距離は、2006 年第 2 四半期で 35 万マイル(56 万 km) を突破した(図 6-8)。 - 水素の累積の充填量は 13000 kg に達した(図 6-9)。 Cumulative Vehicle Miles Traveled: All OEMs 400,000 Vehicle Miles Traveled 350,000 300,000 250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 Q205 Q305 Q405 Q106 Q206 Created: 28-Aug-06 図 6-8.参加車両の累積の走行距離 Cumulative Hydrogen Produced or Dispensed All Teams 14,000 13,000 Mass of Hydrogen (kg) 12,000 11,000 10,000 9,000 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 Q2 2005 Q3 2005 Q4 2005 Q1 2006 Reporting Calendar Quarter Created 24-Aug-2006 図 6-9.水素の累積の充填量 - 77 - Q2 2006 • データ分析の状況と FCV 性能: - 導入された全車両に関する初期的なデータ分析の結果、燃料電池システムの高 い効率が証明された(図 6-10)。 - 耐久性については、10%の性能低下をもって寿命を予測している(2010 年以 降は 5%の性能低下で判断するようにする)。10%の性能低下から判断された スタックの耐久性では、すでに DOE の 2006 年耐久性ターゲットをほぼ達成 していることが確認された(図 6-11)。 燃料電池システム効率(ネット出力の 25%で測定) 70 燃料電池システム効率 DOE の目標値 60 50 車 載 FC シ ス テ ム の 効 率 は 52.5∼58.1%(DOE の目標値 である 60%に非常に近い) 40 30 ダイナモ上での走行テス ト(出力は約 1/4 程度) 20 10 0 すべてのメーカー車両の平均 図 6-10.Learning Demonstration 参加車両の燃料電池システム効率 現在までの累積運用時間 10%劣化までの予測時間 2009 年 目標 2006 年 目標 最大値の合計から 導かれた寿命予測 平均値の合計から 導かれた寿命予測 各メーカーの車両の運用 時間の最大値の合計 各メーカーの車両の運用 時間の平均値の合計 寿命の予測 (10%劣化までの時間) 図 6-11.耐久性の評価(2006 年 8 月までの実走行データによる) - 78 - • すでに設置された充填ステーションからの水素品質について測定を行い、SAE 目標値と比較した(図 6-12)。 - まだ最適化されていないため、水素中の不純度が基準を超えている充填ステー ションがある。まだ母数が少ないため、今後詳細な検討が必要である。 データ範囲 SAE J2719 測定値 検出限界以下 SEA 目標値は検出限界以下のため、目標達成は不確実 図 6-12.充填ステーションの水素品質の評価 • • 43 Learning Demonstration では、FCV に特化し、水素内燃機関自動車は対象外 である。 - 水素ステーションでは水素内燃機関自動車にも水素を充填できるが、プロジェ クトの対象外である。将来的にも水素内燃機関自動車はデモンストレーション には加えない。水素内燃機関自動車を展開している BMW は、本デモンストレ ーションには参画しない予定である43。 - ただし DOE の FreedomCAR プロジェクトでは、水素内燃機関自動車に関す る研究も行っている。 燃料電池スタックの耐久性には水素品質も関係する。今後ステーション数を増 やす過程で、水素品質についても検討したい。 P. 32 参照。 - 79 - • 当面は天然ガスが主たる水素源であるが、将来的には再生可能エネルギーに期 待している。 - DOE のコストターゲットは、水素パス(水素源)に関わらず、同じターゲッ トである。バイオマス由来水素でも、コストターゲットを達成できる可能性が ある。特に初期費用がマイナスであるウエイストバイオマス(下水汚泥など) は、コストターゲットを達成できる見通しが高い。 (5) 水素製造関連プログラム • EERE が実施している水素製造プログラムでは、短期的には天然ガス改質(オ ンサイトと集中製造の両方)を考えている。 - ただし長期的には、再生可能エネルギーからの水素製造を目標にしている(表 6-8)。 - 分散型天然ガス改質のコストは、実験室レベルでは 2006 年目標(3.00 ドル/ ガソリン等価ガロン)を達成している。2009 年に実証試験を実施する予定で ある。 - Air Products は小型水蒸気改質装置を開発中である。コストは、従来の水蒸気 改質装置の 1/2∼1/3 になる見込みである。 表 6-8.EERE の水素製造プログラムのストラテジー(短期・長期) 短期目標 2015 年の商業化判定段階にむけた分散型水素製造(製造を分散 化させることで、輸送インフラ整備の必要性が減じる) ・ 天然ガス改質 ・ 再生可能エネルギー由来液体(アルコール、糖蜜)の改質 ・ 分散型電気分解 長期目標 再生可能エネルギーからの製造 ・ 集中型電気分解 ・ 集中型バイオマスガス化 ・ 光電気化学プロセス ・ ソーラーエネルギーを利用した熱化学プロセス - 80 - (6) 水素輸送関連プログラム • EERE の水素輸送関連プログラムの詳細を表 6-9 に示す。輸送コストの目標は、 2017 年で 1 ドル/gge 以下である。 表 6-9.EERE の水素輸送関連プログラムの詳細 エネルギーキャリアとしての水素(自動車用、定置用)の長期的 な実現性のための水素輸送技術の開発 輸送の範囲 コスト目標 ・ 水素製造地点(集中型製造、分散型製造)から、水素充填 ステーション・定置用燃料電池発電システムまで ・ 水素は 300 psi(20 気圧)で輸送 1 ドル/gge 以下 • DOE では、コスト分析モデルである「H2A モデル」を拡大させ、 「H2A Delivery Model」を完成させた。 • FreedomCAR の Delivery Tech チームが、水素輸送に関するロードマップを完 成させた。 - Delivery Tech では、「Hydrogen Pipeline Working Group」を設置し、官民 で水素パイプラインの実現に向けた研究を行っている。2005 年 8 月にはワー クショップを開催した44。 ワークショップ参加メンバー Oak Ridge National Laboratory、Savannah River Technology Center、 University of Illinois 、 Sandia National Laboratory 、 Subodh Das 、 Concurrent Technologies、Gas Technology Institute、Air Products、 Air Liquide、Praxair、Chevron、BP 44 - すでに米国には、ロサンゼルス郊外において、水素ステーション用の水素パイ プラインが設置されている(70 マイル長)。 - 長期的には水素パイプランの設置に期待するが、短期的には実現は難しい。水 素需要が低いうちは、水素輸送コストが高くなるのは、ある程度は仕方がない と考えている。 < http://www1.eere.energy.gov/hydrogenandfuelcells/wkshp_hydro_pipe.html >参照。 - 81 - (7) 水素貯蔵関連プログラム • EERE では、DOE 傘下の国立研究所を中心とした、水素貯蔵「グランドチャレ ンジ」研究を実施中である。 - 水素貯蔵の目標値を表 6-10 に示す。特に車載のために、体積密度の達成を強 調している。 - 現状では、まだ目標値に向かって技術の絞込みをする段階ではない。ただし、 金属有機物構造(Metal-Organic Framework)で 7%の貯蔵が確認されており、 注目している(表 6-11)。 表 6-10.水素貯蔵「グランドチャレンジ」の目標 2010 年目標 2015 年目標 システム重量密度 (比密度) 6 wt% 7.2 MJ/kg 2.0 kWh/kg 9 wt% 10.8 MJ/kg 3.0 kWh/kg システム体積密度 (エネルギー密度) 1.5 kWh/L 5.4 MJ/L 45 g/L $4 /kWh (∼$133/kgH2) 2.7 kWh/L 9.7 MJ/L 81 g/L $2 /kWh (∼$67/kgH2) 貯蔵コスト 表 6-11.水素貯蔵「グランドチャレンジ」における成果 水素貯蔵合金 化学的貯蔵 カーボン材料 2004 2005 ∼ 2006 年 Sodium alanate ~3.5- 4 wt%, ~45 g/L (~ 150 C) Li Mg Amides ~5.5wt%,~80 g/L (>200 C) Alane ~7-10 wt%,~150 g/L (<150 C) Li borohydrides >9 wt%,~100 g/L (~350 C) Destabilized Binary hydrides ~5-7wt%,~60-90 g/L (250 C) Ethylcarbazole ~5.5 wt%, ~54 g/L (<225 C) 4,7 Phenanthroline (organic liquids) ~7 wt%, ~65 g/L (<225 C) Hybrid Nanotubes ~2-3 wt%, <30 ~ 54 g/L (77 K) Metal/carbon hybrids, MetCars ~6-8wt%*,~39 g/L* (*theory) Seeded Ammonia Borane ~9 wt%,~90 g/L (>120 C) Bridged catalysts / IRMOF-8 ~1.8 wt.%,~10 g/L (room temperature) Ammonia Borane/Li amide ~7 wt%, ~54 g/L (~85 C) Metal-Organic Frameworks IRMOF-177 ~7 wt%,~30 g/L (77K) - 82 - • 現状でも、2010 年目標値、2015 年目標値の達成にはまだ研究が必要である(図 6-13、図 6-14)。 - コストの試算には、IEA や IPHE のデータを活用している。 図 6-13.水素貯蔵密度に関する 2010 年目標値、2015 年目標値と現状の値 図 6-14.コストに関する 2010 年目標値、2015 年目標値と現状の値 - 83 - (8) 燃料電池関連プログラム ① EERE の燃料電池関連プログラム • EERE の燃料電池関連プログラムの概要を表 6-12 に示す。燃料電池のうちで も特に PEMFC の開発に注力している。 - 2015 年のコスト目標は 30 ドル/kW、耐久性ターゲットは 5000 時間である。 - 特に、コンポーネントレベルでの開発を行っている。また、 「GDL」、 「Innovative Concepts(従来のスタックやセルにとらわれない、全く新しい構造・コンセ プト)」、「Seals」は新しい研究対象分野である。 • 非自動車用アプリケーションでは、分散電源(PEMFC)、APU(SOFC)、 ポータブル(DMFC)を研究対象としている(表 6-13)。 - 分散電源(バックアップ)市場は、自動車よりも性能要求が低いため、PEMFC のよい早期市場になると期待している。 表 6-12.燃料電池開発の研究分野 メンブレン GDL BOP 電極 バイポーラープレート 新規のコンセプト MEA シール 表 6-13.非自動車用の燃料電池開発の研究分野 分散電源 補助電源(APU) ポータブル電源 目標 目標 目標 比出力 100 W/kg 出力密度 1,000 W-h/L $750/kW (2011 年まで) (2010 年まで) (2010 年まで) 40,000 時間 出力密度 100 W/L (2011 年まで) (2010 年まで) エネルギー効率 40% ・ システム耐久性の向 ・ ディーゼル用燃料改 ・ メタノールのクロスオ 上 質器の開発 ーバー量の削減 ・ スタックの性能の向上 ・ 改質ガスで作動でき ・ リアルワールドにおけ (改質ガス使用時) る補助電源用 FC る実証 ・ 改質器の性能の向上 ・ リアルワールドにおけ ・ 発電効率の向上 る実証 - 84 - ② PEMFC のコスト解析 • TIAX45が行った自動車用 FC システムのコスト分析では、システムコストの 7 割がスタックであり、さらにスタックのコストの 7 割が電極であることが判明 した(図 6-15)。 - 80 kW システムにおける量産時のコストは 110 ドル/kW である。なお、この 価格予測は、現状の技術で量産(50 万ユニット/年)を仮定した場合のコスト 予測である。 - より詳細なコスト分析(例.年間のスタック製造量を 1 千ユニット、1 万ユニ ット、1.5 万ユニットと段階的に増加させた場合のコスト分析)は、2007 年度 に実施する予定である。 - DOE の白金担持量のターゲットは、0.2 g/kW である。白金合金ならば、この ターゲットを達成できる可能性がある(ただし、触媒の長寿命化が今後の課題 である)。 図 6-15.TIAX による PEMFC システムのコスト分析結果 45 Arthur D. Little(DOE の PNVG プロジェクト時代より、燃料電池システムや改質システムのコス ト解析を行ってきたコンサルティング会社)からスピンオフした企業。DOE の FreedomCAR & Fuel Initiative においては、主に燃料電池システムのコスト解析を実施している。 < http:// www.tiaxllc.com/ >参照。 - 85 - (9) バッテリ関連プロジェクト • EERE では、FCV、プラグイン・ハイブリッドの開発のためにバッテリ開発を 支援している(表 6-14)。 - 開発の対象は、おもにリチウムイオン電池か、あるいはスーパーキャパシタ (ACN 系)である。 - あえて比べるなら、Johnson Control–SAFT のシステムは日本の松下電池工業 のシステムに、EnerDel のシステムは東芝のシステムに、CPI-LG Chem のシ ステムは NEC のシステムに類似しているといえる。 表 6-14.DOE の FCV、プラグイン・ハイブリッド用バッテリの開発 Li-Ion 電池 Johnson Control (ハイブリッド –SAFT 用) EnerDel CPI-LG Chem 長寿命、低コスト、量産可能な Nikelate カソ ードの開発。 Li-Titanate-Mn 系を開発。低コスト・量産の 可能性あり。 Li ポリマー(Mn スピネル/Nikelate、ソフトな 電極材料)を開発。低コスト、高耐久性、量産 の可能性あり。 A123(DOE からア 高出力、高耐久性な Li イオン/燐酸システム ワード受賞) の開発。現在、工作機器メーカーである DeWalt にて、製造用ツールとして実用化。 ハイブリッド車用に改良中。 ウルトラ キャパシタ Maxwell(2006 年 ACN 系システム。ハイブリッド車用に要求さ 9 月に終了) れる性能を達成。50%のコストダウンを達成。 ただしさらなるコストダウンが必要。 NessCap • PC 系を開発していたが、現在は CAN 系にシ フト。競合他社よりも 40%のコスト削減を達 成。 米国 DOT の調査では、米国の 1 日の自動車利用の 70%は、走行距離 40 マイ ル/日以下である(図 6-16)。よって、40 マイル分の走行距離をバッテリだけ で確保できれば、完全にゼロエミッションなハイブリッド(プラグイン・ハイ ブリッド)が実現できる。 - 86 - 図 6-16.米国における一般車両の一日あたりの走行距離 • プラグイン・ハイブリッドでは、バッテリの活用方法として、以下の 2 つのモ ードが考えられる(図 6-17)。 * All-Electric モード: バッテリに蓄電量があるうちは、電気走行モード のみで走行する(エネルギー効率はよいが、高 コスト) * Charge-depleting モード: 電気走行モードとエンジンモードの組み合わせ (エネルギー効率は若干劣るが、低コスト) • DOE では、Charge-depleting モードが優れていると考えている。 図 6-17.プラグイン・ハイブリッドのオペレーションモードの比較 - 87 - • DOE では、プラグイン・ハイブリッド用バッテリのデザインのための技術の公 募を行う(表 6-15)。 - 公募に先立ち、バッテリ仕様の決定を、バッテリインダストリーとともに行っ ている。仕様決定には米国以外の電池メーカーも参画できる(ただし自動車メ ーカーの参画は不可)。 表 6-15.プラグイン・ハイブリッド用バッテリデザインの公募スケジュール 2006 年 10 月 プラグイン・ハイブリッド用のバッテリの種類・可能性の評価 2006 年 12 月 2007 年 1 月 2007 年 2 月 2007 年 3 月 2007 年 10 月 2007 年 12 月 Charge-depleting モードのための仕様の決定 仕様に関して、バッテリメーカからのコメントの募集 USABC を通じて、提案募集を実施 プラグイン・ハイブリッド用バッテリのテスト方法を決定 提案を 2∼3 に絞込み。フルプロポーザルを募集 有望技術にアワードを提供(バッテリ開発契約を締結) - 88 - [コラム 2] 将来自動車のロードマップ これまでに自動車メーカー各社などから、将来自動車(パワートレイン)の展開に関す るロードマップが提示されている。主要なものを以下に紹介する。 【GM】 出所:GM 【DaimlerChrysler】 パワートレイン開発と燃料開発の シンクロナイズが重要 燃料電池 ハイブリッド 内燃機関の改良 内燃機関 現在 today ガソリン ディーゼル 将来 化石燃料 クリーン燃料 CNG 再生可能エネルギー ブレンド燃料 GTL、BTL バイオフューエル 出所:DaimlerChrysler - 89 - 再生可能燃料 BTL、メタノール、水素 【Ford】 出所:Ford 【Volkswagen】 出所:Volkswagen - 90 - 【DOE】 エネルギーセキュリティ 持続可能で燃料フレキシブルな車両 のための高効率技術の展開 国内燃料 & 先端ハイブリッド すべての車両技術に、 軽量材料・車両システムの研究 の成果を応用 先端エンジン & プラグインハイブリッド 先端エンジン & 再生可能液体燃料 フレックルフューエル/ ディーゼル エンジンハイブリッド 既存の ガソリン/ ディーゼル自動車 現在 ゼロ石油 & ゼロエミッション 燃料電池 その他の技術 多様な国内資 源による液体 燃料製造技術 PHEV 技術 高効率、クリ ーン燃焼・ 燃料技術 パワーエレクトロニクス、 電気モータ エネルギー貯蔵 脱石油化 移行期 出所:DOE 【日本:次世代電池技術に関する研究会(2006 年 8 月)】 出所:新世代自動車の基礎となる次世代電池技術に関する研究会 資料 < http://www.meti.go.jp/press/20060828001/20060828001.html > - 91 - 7 Case Western Reserve University (CWRU) 訪問先 訪問日時 対応者 組織の概要 調査項目 Case Western Reserve University (CWRU) 住所:10900 Euclid Avenue, Cleveland, OH 44106-7204, USA 2006 年 11 月 10 日(金)13:00∼15:30 Prof. Thomas A. Zawodzinski Department of Chemical Engineering 高耐久性の PEMFC 用膜を開発中。 • PEMFC 用膜の開発の現状 (1) Case Western Reserve University(CWRU)の概要 • Case Western Reserve University(CWRU)は、1967 年に Case Institute of Technology(1877 年設立)と Western Reserve University(1826 年に設立) が合併して設立された。 - • • 学生数約 1 万人。リベラルアーツ、歯科、エンジニアリング、法学、経営学、 薬学、医学、看護学、公共政策の学部を有する。特にエンジニアリングと医療 分野に強みがある。 CWRU の PEMFC 関連の研究者は、Thomas A. Zawodzinski 教授グループで ある次の 3 名と、リン酸ドープ PB をはじめとする高温膜研究で知られる Robert F. Savinell 教授(前工学部長)が知られているが、今回は Zawodzinski 教授とミーティングを持った。 - Thomas A. Zawodzinski 教授(Dept. of Chemical Engineering): 元、Los Alamos National Laboratory(LANL)に所属しており、1991 年か らプロジェクトリーダー。1998 から 2001 年にカリフォルニア大学サンタバ ーバラ校に移籍、2001∼2002 年に LANL に復帰し、2002 年に CWRU に移 籍した。専門は PEMFC の材料研究。 - Frank Ernst 教授(Dept. of Materials Science and Engineering): 1987 年にゲッティンゲン大学で PhD を取得、1987∼1988 年に CWRU にて ポスドク研究員。その後シュトゥットガルト大学とマックス・プランク金属科 学研究所(Max Planck Institute for Metallforschung)に在籍。2000 年に CWRU に移籍。専門は材料解析、透過型電子顕微鏡(TEM)。 - David A. Schiraldi 准 教 授 ( Dept. of Macromolecular Science and Engineering): Celanese(Hoechst Celanese)の研究員を経て、2002 年から CWRU の准教授。 専門は PEMFC 材料開発、モデリング。 Zawodzinski 教授の下には、10 名の大学院学生が所属している。 - 92 - (2) Thomas A. Zawodzinski 教授の研究内容 ① 高温膜の開発 • 低湿度(低相対湿度)下で作動する高温膜(80℃以上)の開発においては、図 7-1 に示す 4 つのパラメータのコントロールが必要である。 - このような考え方に基づき、膜研究のアプローチとして、制御されたナノ構造 を有する、複合機能化された膜システム(コンポジット化、ブレンド化、ネッ トワーク化、オリゴノマーの添加)の開発を行っている。 ① プロトン数 (多いほどよい) ② 酸性度 (高いほどよい) ③ プロトンの移動性 (高いほどよい) ④ プロトンの移動パス (パスが繋がってい るほどよい) 図 7-1.高温膜におけるパラメータ • Nafion 膜はまだその構造が明確ではない。ただ、これまでの研究から、Nafion 膜は均一ではなく、イオン性(親水性)部分と疎水性部分が相分離しており、 ドメイン(空隙など)が存在する複次構造をしていると考えられる(図 7-2)。 - T.D. Gierke が提案しているクラスターネットワークモデルによると、Nafion のイオン性(親水性)部分はクラスタ化し、相互に結合した疎水性チャネルに よって分断されていると考えられる。 Nafion メンブレンの構造 典型的な Nafion の組成・特色 * Nafion 11N (N=2, 5, 7 など) * N は厚みをあらわす(単位:mil) * 分子量=1100 * イオン交換容量=0.91 mmol/g (CF2 CF2 )x (CFCF2 )y (OCF2 CF)z イオン性のクラスタ (30∼50 nm) OCF 2CF 2 SO3 H CF3 ( x=6∼10 拡大図 親水性部分が疎水性 部分で囲まれている y=z=1 ) 図 7-2.Nafion の構造(予想) - 93 - 疎水性域 (部分結晶) • 膜の親水度をコントロールするために、ポリアリーレン エーテルスルホン酸共 重合体(Sulfonated Poly(arylene ether sulfone):BPSH46)を用いて高温膜の 研究をしている(図 7-3)。 - BPSH は、膜の親水性ユニットの割合(ジスルフホン化度)をコントロールす ることで水分子の含有量をコントロールでき、また膜表面の形態も制御可能で ある(図 7-4)。BPSH-60 では大きな親水性ドメインが形成される。これは プロトン伝導にとって、非常によい移動パスとなる。 疎水性ユニット 親水性ユニット X = 親水性ユニットのモル% 図 7-3.Nafion と BPSH の構造 図 7-4.親水性のコントロールによる膜表面の形態の制御 46 BPSH は、Virginia Tech の Jimes E. McGrath 教授が米国エネルギー省の委託研究において開発し た膜。< http://www.chemistry.vt.edu/faculty/mcgrath.php >参照。 - 94 - • BPSH の保水性と膜表面形態のコントロールのために、シリカ粒子を BPSH に 導入する研究を行っている(図 7-5)。 - BPSH のプロトン導電性は、一般的に親 水性が増加するにつれ増大するが、シリ カ粒子の導入量にはさほど影響されない。 - 90℃では、Nafion は湿度の低下とともに プロトン導電性が急激に低下するが、シ リカ粒子を 25%含む BPSH-60 は高いプ ロトン導電性を維持している(図 7-6)。 ポリマー 粒径 7 nm シリカ粒子(スル ホン化し、末端に プロトンを有する) 図 7-5.シリカ粒子の BPSH への導入 BPSH の親水性・シリカ導入量 とプロトン電導度の関係 相対湿度とプロトン導電性の関係(90℃) 親水性大 シリカ導入量大 図 7-6.シリカ粒子含有 BPSH のプロトン導電性 • モデル的には、BPSH の親水性ユニットを増加させると、親水性ドメインがチ ェイン状に連結すると考えられる。またシリカ粒子を導入すると、粒子の周り に親水性のプロトンパスが形成されると考えられる(図 7-7)。 BPSH 20 BPSH 60 親水性ドメインが 連続的に結合 シリカ粒子導入量小 シリカ粒子導入量小 水分子がシリカ表面に吸着 スルホン化シリカ粒子 シリカ粒子導入量大 疎水性 ドメイン シリカ粒子導入量大 スルホン 水分子がシリカ 化シリカ 表面に吸着 粒子 スルホン化したシリカ粒子が、 親水性ドメインに囲まれる 図 7-7.BPSH におけるプロトンパス形成のモデル - 95 - ② 白金利用率に関する研究 • 国防省 MURI(Multi-disciplinary University Research Initiative)の資金に より、MIT、ノースイースタン大学、イリノイ大学などともに触媒研究を行っ ている。 * 触媒活性の向上 * H2O2 生成メカニズム * Pt / Pt 合金の安定性 * Pt(ナノ粒子)の溶出メカニズム *低加湿時の電極反応 • CWRU では、幾何学的モデルに基づき、白金利用率の検討を行っている。 - 白金利用率について検討する上では、白金ナノ粒子レベルから電極レベルまで のインタラクションを考える必要がある(図 7-8 (a))。 - 白金触媒/炭素粒子とイオノマーの平面モデルを想定、そのインタラクション (イオノマーによるプロトン伝導パス、触媒による電子電導パス)を幾何学的 に解析した(図 7-8 (b))。この平面モデルを多層化し、三次元的解析も行っ た(図 7-8 (c))。 - 理論的には、最大白金利用率は 80%になるが、現実的には 50∼60%程度に止 まるであろう。 - GM は白金利用率で 70%という数字を主張しているが、これは我々の利用率 と定義が異なる。第一、Oak Ridge National Laboratory(ORNL)では、MEA 化する時点で白金の 50%が失われてしまうという観察結果を発表している。 (b)平面モデル 体 炭素粒子 凝集体 と Nafion 電極 電 炭素粒子の相 互作用 炭素粒子の 凝集 集 白金同士の相互 作用 炭素粒子と白金 プ ロ ト ン 交 換 膜 (a)相互作用モデル (c)三次元モデル(積層 モデル)での解析の例 プロトン伝導パス 電子電導パス プロトン伝導でのデッドエンド 触媒(炭素サポートあり) Nafion 空孔 非活性触媒 図 7-8.白金利用率に関する幾何学的モデル - 96 - ③ フッ素系膜の化学的耐久性に関する基礎研究 • メンブレンの劣化に関して、DuPont はフェントン反応に基づくメカニズムを 提示している。このモデルは、膜中に発生した過酸化水素がヒドロキシラジカ ル(・OH)となり、パーフルオロスルホン酸ポリマー膜(PFSA)の末端基(カ ルボキシル基)を攻撃するというものである。 • しかし、ヒドロキシラジカルだけではなく、紫外線の照射でもフッ素イオンが 溶出してくることから、複数の劣化メカニズムが存在すると考えられる。 • CWRU ではさまざまな構造のイオノマーから膜を作成し(モデルコンパウンド、 図 7-9)、ヒドロキシラジカル存在下でのフッ素の溶出を測定した。 溶出された累積 F イオン量 (分子中の F 量に対する割合) 時間[hr] 図 7-9.劣化メカニズム解明のためのモデルコンパウンドと フッ素の溶出(ヒドロキシラジカル存在下) - 97 - • ヒドロキシラジカル存在下でのモデルコンパウンドからのフッ素の溶出を調べ た結果、カルボキシル基を含まない膜でも劣化が認められた。また劣化は末端 基だけではなく、側鎖やスルホン基からも始まることも解明された。 - モデルコンパウンドの構造の違いとヒドロキシラジカルに対する安定性から、 カルボキシル基、―CF3(ターシャリーCF)、スルホン基が攻撃を受けること が分かった(図 7-10)。 - 他の研究においては、末端基を保護することによる安定化を検討している例も あるが、その場合は側鎖自体が増えることになり、トレードオフ的な問題があ ると考えられる。 やや不安定 ・ ターシャリーCF ・ カルボキシル基 最も不安定 ・ ターシャリーCF ・ カルボキシル基 ・ スルホン基 わずかに不安定 ・ カルボキシル基 安定 安定 図 7-10.モデルコンパウンドの構造の違いと ヒドロキシラジカルに対する安定性 ④ ディスカッション • 触媒のサポート材としては、コストと電導性から考えて、カーボン材料が適切 であると考えている。 • PEMFC の電極触媒に関しては、白金以外の物質は考えられない。 • 今後、イオノマー自体の研究を行う予定。研究助成を得るためにプロポーザル を作成中である。 - 98 - • 理想的な電極のモデル(図 7-11): - カーボンナノチューブを用いた「理想的」電極の作成を検討している。この電 極は、内側が撥水性、外側が親水性のカーボンナノチューブを基本とした構造 である。表面に多数の穴が開いており、そこに白金触媒が付加されており、反 応のセンターとなる。 H+ e− O2 HO3S~ ~F− F−~ ~SO3H HO3S~ ~F− F−~ ~SO3H HO3S~ ~F− ~SO3H HO3S~ ~F− ~F− ~F− ~SO3H HO3S~ ~F− F−~ F −~ ~SO3H HO3S~ F−~ F−~ Pt Pt − F ~ Pt Pt Pt Pt ~F− F−~ HO3S~ ~F− F−~ ~SO3H HO3S~ ~F− ~F− F−~ F−~ HO3S~ − F ~ ~SO3H Pt Pt ~F− F−~ HO3S~ ~F− F−~ ~SO3H ~SO3H HO3S~ HO3S~ F−~ F−~ ~SO3H ~SO3H ~F− ~F− ~SO3H パイプ状の電極(カーボン) 図 7-11.理想的な電極(モデル) (3) ラボツアー • 共同研究施設を見学した(図 7-12)。 - MEA 製作設備、試験設備 - MNR(核磁気共鳴装置) 図 7-12.Zawodzinski 教授の研究ラボ(共同研究施設)にて (左から二人目が Zawodzinski 教授) - 99 - 8 Brookhaven National Laboratory (BNL) 訪問先 訪問日時 対応者 組織の概要 調査項目 Brookhaven National Laboratory (BNL) 住所:Bldg. 555A, Brookhaven National Lab, Upton, USA 2006 年 11 月 13 日(月)12:00∼14:30 Dr. Alex Harris Chair, Chemistry Department Dr. Radoslav Adzic Electrochemistry Group Leader, Chemistry Department Dr. Kotaro Sasaki Associate Scientist, Chemistry Department Junliang Zhang Research Associate, Chemistry Department Minhua Shao Chemistry Department 低白金担持量を実現できる新規の電極触媒を開発中。 • 電極触媒開発の現状 (1) Brookhaven National Laboratory(BNL)の概要 • 47 Brookhaven National Laboratory(BNL)は、米国エネルギー省科学局(Office of Science)傘下の国立研究である。 - 設立は 1947 年。設立当初から、原子力エネルギーの平和利用に関する研究を 行っている。 - これまでに 6 人のノーベル賞受賞者を輩出している。そのうち 5 つの賞は、原 子物理学の分野である。 - 運営は Brookhaven Science Associates47が実施している。 - 衝突型高エネルギー重イオン加速器(Relativistic Heavy Ion Collider)、強 集束シンクロトロン(Alternating Gradient Synchrotron)を所有している(図 8-1)。 ニューヨーク州立ストニーブルック大学と Battelle Memorial Institute が出資して設立した運営管 理組織。BNL は 1947 年の設立以来、東部 9 大学で組織される Associated Universities, Inc.(AU) によって管理・運営されてきたが、1997 年に高中性子束ビーム炉の燃料貯蔵プールからトリチウム が 10 年間あまり漏洩していたことが発覚し、AU による運営が打ち切られ、Brookhaven Science Associates に移管された。 - 100 - 図 8-1.BNL の施設 • BNL の組織を図 8-2 に示す。研究所全体のスタッフ数は 3000 人で、毎年 4000 人程度の客員・訪問研究員がいる。 Brookhaven National Laboratory High Energy & Nuclear Physics Basic Energy Sciences Light Sources Physics Nanoscience Dept Instrumentation Division Chemistry Dept Collider Accelerator Department Superconducting Magnet Division Life Sciences National Synchrotron Light Source Energy, Environment, National Security Biology Dep Medical Dept Environmental Sciences Dept Energy Sciences & Technology Dept Nonproliferation & National Security Dept Condensed Matter Physics & Materials Science Dept 図 8-2.BNL の組織 - 101 - (2) BNL における白金モノレイヤー触媒の開発 ① モノレイヤー触媒開発のコンセプト • BNL では、過去 40 年間、燃料電池の電極触媒の開発に取り組んできた。 • 現在開発している電極触媒は、白金利用率を究極まで高めるために、白金原子 を単原子層(モノレイヤー)として、他の金属・合金のナノ粒子上に形成させ たものである。コンセプトを図 8-3 にまとめる。 基盤となる金属のナノ粒子 (ルテニウム、パラジウム、など) 白金の バルク 白金モノレイヤー(単原子層) 白金サブモノレイヤー(準単原子層) ・ ・ ・ ・ 白金利用率: 触媒能力の制御: モノレイヤーの安定性: 触媒反応との関係: 白金原子のモノレイヤー化で白金利用率が向上 基盤金属の種類・構造で触媒能力の制御が可能 白金モノレイヤーの酸化や凝集の抑制が可能 反応に関与している白金原子にのみに注目 図 8-3.白金モノレイヤーのコンセプト • 白金利用率に関して: - 従来の白金触媒(粒径 5nm)では、粒子表面にある白金原子の割合は 25%に 過ぎず、また MEA 化する段階で 50%の白金触媒が担持カーボンから離脱し てしまうため、白金の利用率は結局 12%に過ぎない。 - 白金のモノレイヤーをナノ粒子上に形成させれば、白金の利用率を 50%まで 高めることが出来る。 - 白金モノレイヤーを形成させる金属の格子構造(格子定数、原子間距離)によ って、白金の d 電子バンドが影響を受け、白金の触媒能力をコントロールする ことが可能であると考えている(図 8-4)。 白金原子 Pt/Ru(0001) Pt/Au(111) Pt/Pd(111) 活性能力高 図 8-4.基盤となる金属の白金触媒能力への影響 - 102 - • モノレイヤーの安定性について: - 白金とルテニウムの組み合わせの場合、白金モノレイヤーはルテニウム粒子表 面でセグメント化し、安定なサブモノレイヤー(準単原子層)を形成する。 - この白金のセグメント化はエネルギー的にも予想されている(図 8-5)。白金 はルテニウム表面において拡散せず、凝集もおきていない。 ルテニウム ナノ粒子 遷移金属の表面セグメンテーションエネルギーマトリクス (Nørskov らによる、Solute=不純物、Host=表面) 白金はセグメント化し たモノレイヤーを形成 表面セグメンテーションエネルギー 大 小 セグメント化 J. K. Nørskov et al. Phys. Rev.B. 59 (1999) 15990. 図 8-5.ルテニウム粒子への白金モノレイヤーの形成(モデル) • 触媒反応との関係: - シンクロトロン放射光を用いた X 線吸収分光法(XAS)により、白金モノレ イヤー触媒の測定を行っている。反応に関与している白金原子は、電子的な状 態が変化するので、これを捉えることを狙っている(図 8-6)。 - ただし、電子的に見えるのは正面の白金モノレイヤーの一部であり、本当にモ ノレイヤーになっているかの検証は非常に難しい。 スリット サンプル 電離箱 シンクロトロン I0 It 単色光分光器 If 図 8-6.シンクロトロン放射光を用いた X 線吸収分光法による表面分析 - 103 - ② 白金モノレイヤー アノード触媒 • アノード触媒として、カーボンサポートされたルテニウム(Ru/C)ナノ粒子の 表面に、白金モノレイヤーを非電気的方法で形成した。 - ルテニウム粒子の表面の 1/8 に白金がサブモノレイヤーを形成している場合 (PtRu20)に、高い水素酸化能力と CO 耐性を示した。 - 白金モノレイヤー触媒は、改質ガス(水素、CO、CO2、N2 を含む)やメタノ ールにも安定であった。 • 白金モノレイヤー触媒(PtRu20 )と従来的な白金ルテニウム触媒(バルク、 (Pt2Ru3)について、高濃度の CO 存在下(997 ppm)における CO 耐性加速 試験を実施した(図 8-7)。 - 白金モノレイヤー触媒は、従来的な白金ルテニウム触媒よりも高い CO 耐性を 示した。 - 白金モノレイヤー触媒の高い CO 耐性は、基盤となっているルテニウムの電子 と、白金モノレイヤーとルテニウム間の相互作用によって、白金への CO 吸着 が阻害されたためと考えられる。 白金モノレイヤー触媒 (ルテニウム粒子表面) 白金ルテニウム合金触媒 (バルク) 図 8-7.CO 耐性の比較:白金モノレイヤーアノード触媒 vs 白金ルテニウム合金アノード触媒 - 104 - • 白金モノレイヤー アノード触媒(PtRu20)は、LANL における単セル発電テ ストで高い耐久性を示した。 - 868 時間後における電圧低下はきわめてわずかである。 - また kW あたりの白金量は 0.063 g であり、DOE の 2010 年白金担持量ターゲ ット(0.15g/kW)の 2/5 である(ただしルテニウムを考慮しない場合)。 白金担持量 18 µg Pt /cm2 Los Alamos National Lab でのテスト 燃料電池セル: 50 cm2、80°C テスト時間: 868 時間 電圧[V] 初期 最終 燃料 H2 0.717 0.717 H2+50 ppm CO +エアブリード 0.697 0.701 図 8-8.白金モノレイヤー アノード触媒(PtRu20)の耐久性 • DMFC への応用: - メタノールの酸化には、複数の白金原子の 連携 が必要である。そのため通 常の水素用アノード触媒よりも、広範囲な白金モノレイヤーを必要とする。 - BNL では、まずルテニウム ナノ粒子表面に銅のモノレイヤーを形成し、これ を白金で置換することで、セグメント度が低い白金モノレイヤーを作成する方 法を研究している。 モノレイヤー触媒 従来の触媒 図 8-9.白金モノレイヤー アノード触媒のメタノールの酸化能力 - 105 - ③ 白金モノレイヤー カソード触媒 • 3 つ種類の合成法で、白金モノレイヤー カソード触媒を開発している (表 8-1)。 - 合成方法としては、まず銅の単原子層を基盤粒子上にアンダーポテンシャル析 出法(UPD)にて作成し、これを白金にて置換する方法がある(図 8-10)。 同じ方法で、貴金属/非貴金属コアシェル構造の上に、白金モノレイヤーを形 成させることも可能である。この方法では、触媒活性能力を維持しつつ、白金 や他の貴金属の担持量をさらに減らすことが可能である。 作成方法 表 8-1.白金モノレイヤー触媒(カソード触媒) 特徴 パラジウムナノ粒子上に白金モノレイ 活性度高い ヤーを形成 耐久度高い パラジウムナノ粒子上に、白金とその 高い活性度を維持 他の金属の混合モノレイヤーを形成 耐久性はテスト中 貴金属/非貴金属コアシェル構造の上 高い活性度を維持 に白金モノレイヤーを形成 耐久性はテスト中 ロジウム 銅 ロジウム上への白金 モノレイヤーの形成 図 8-10.銅のモノレイヤーの白金による置換 - 106 - • 基盤となる金属の種類と格子構造(ミラー指数)は、白金モノレイヤー カソー ド触媒の活性度に影響する。 - パラジウム(111)面に白金モノレイヤーを形成したカソード触媒(PtML/Pd/C) が、最も高い触媒活性度を示している(図 8-11 (a))。 - PtML/Pd/C は、白金/カーボン(Pt /C)とほぼ同じ触媒能力を示している(図 8-11 (b))。 - PtML/Pd/C は、LANL における単セル発電テストでも高い耐久性を示した (3011 時間で膜自体が劣化したためテストを中断したが、触媒自体には問題 は無かった)。 (a) 白金モノレイヤーにおける基質金属と触媒能力の関係 (b) PtML/Pd/C の触媒能力 図 8-11.基質金属の種類と触媒能力の関係 PtML/Pd/C (=Pt 4%、Pd 20%、C 76%) 白金担持量 77 µg Pt /cm2 Los Alamos National Lab でのテスト 燃料電池セル: 50 cm2、80°C テスト時間: 2900 時間 電圧[V] 初期 最終 燃料 H2 / 空気 0.65 0.51 (0.6 A/cm2) 図 8-12.白金モノレイヤー カソード触媒(PtML/Pd/C)の耐久性 - 107 - ④ BNL アノード触媒とカソード触媒を組み合わせた燃料電池セル • BNL で作成した白金モノレイヤー アノード触媒と白金モノレイヤー カソー ド触媒を組み合わせた燃料電池セルで、耐久性テストを実施している(図 8-13)。 すでに 500 時間を経過し、テストを継続中である。 • この BNL 製アノード触媒・カソード触媒を用いた燃料電池セルの白金総担持 量は 0.149 mg Pt /cm2 である(表 8-2)。 - 出力あたりの白金担持量は 0.46 g Pt /kW であり、すでに DOE の 2005 年目 標値(1.35 g Pt /kW)を達成、2010 年目標にアプローチしている48。 アノード触媒 Los Alamos National Lab でのテスト (燃料電池セル:50 cm2、80°C) 白金 ルテニウム カソード触媒 白金 パラジウム 一定電流(0.4 A/cm2)でのテスト 総白金担持量 0.149 mg Pt /cm2 図 8-13.BNL のアノード触媒とカソード触媒の燃料電池セル の耐久性 表 8-2.BNL のアノード触媒とカソード触媒の燃料電池セルの 出力あたりの白金担持量 BNL のアノード触媒とカソード触媒(合計) 0.46 g Pt /kW DOE 目標値 2005 年目標 2010 年目標 48 1.35 g Pt /kW 0.30 g Pt /kW ただし、白金以外の貴金属(パラジウム、ルテニウム)を除いた値。 - 108 - ⑤ 白金モノレイヤー カソード触媒への他の貴金属の導入効果 • 白金モノレイヤーカソード触媒では、Pt−OH 結合が形成され、触媒の酸素還 元反応が阻害される。解決策として、イリジウムなどの金属を白金モノレイヤ ーに導入することが考えられる(図 8-14)。 • モノレイヤーを形成している白金の 20%をイリジウムやルビジウムで置換す ると、酸素還元反応の能力が向上することが分かった(図 8-15)。 白金 OH OH O 白金 その他 の金属 パラジウム (基盤のナノ粒子) パラジウム (基盤のナノ粒子) 図 8-14.白金モノレイヤー カソード触媒への他の貴金属の導入効果 P t m o la r p e rc e n ta g e % 80 20 40 60 0 50 (Ir x P t 1-x ) M L / P d (1 1 1 ) 40 30 20 (R u x P t 1-x ) M L / P d (1 1 1 ) 10 0 20 40 60 80 100 M (R u o r Ir) m o la r p e rc e n ta g e % 25 20 (Pt 0.8 Ir 0.2 ) M L /Pd 20 /C -1 -jk, 0.8V / mA µg -jk/ mAcm -2 at 0.80V RHE 100 15 10 (Pt 0.8 Ir 0.2 ) ML /Pd 20 /C 5 Pt 10 /C 0 Pt m ass specific Pt 10 /C (Pt+Ir+Pd) m ass specific 図 8-15.白金モノレイヤーの一部置換効果 - 109 - ⑥ 新規のモノレイヤー型触媒(コアシェル触媒) • BNL では、貴金属/非貴金属コアシェル構造の上に白金モノレイヤーを形成さ せる方法を開発中である(図 8-16)。この方法では、触媒活性能力を維持しつ つ、白金や他の貴金属の担持量をさらに減らすことが可能である。 • この方法で作成した触媒(例.Pd3Fe コアに白金モノレイヤー)は、非常に低 い白金担持量を達成した(Pt に対して 5 倍の比活性)(図 8-17)。 昇温による原子 移動、コア形成 過程 金 コバルト・ニッケル UPD 法による 銅のモノレイ ヤー形成 金・パラジウム・白金の レイヤー(1∼2 原子層) 銅と白金の置換に よる白金モノレイ ヤー形成 銅のモノレイヤー 白金(あるいは白金と 他の金属の合金)の モノレイヤー 図 8-16.貴金属 / 非貴金属コアシェル構造を利用した白金モノレイヤーの形成 図 8-17.白金バルク(Pt/C)、白金モノレイヤー/パラジウム(PtML/Pd/C)、 白金モノレイヤー/ Pd3Fe コア(PtML/Pd3Fe/C)の比較 - 110 - ⑦ 白金粒子(バルク)への金クラスタ形成による安定化 • カーボンサポートされた白金触媒(モノレイヤーではなく、白金粒子)の表面 に金原子のクラスタを形成させることで、電位サイクル(0.6∼1.1V)における 白金の安定化が観測された。 - 共沈法で白金と金が混合した粒子を作成、飽和酸素条件のもと、電位サイクル (∼1.2V)を数サイクル繰り返すことで、金原子が粒子表面に移動し、金のク ラスタが白金の 111 面に形成される(図 8-18(a))。 - 白金の活性を表す水素吸着量は白金そのものと同等であり、また白金の安定性 に関連すると思われる OH の吸着は金クラスタにより阻止されているため、性 能低下をさけつつ、安定性が向上することが期待される(図 8-18(b))。 (a) 金クラスタの形成 (b) 金クラスタの効果(CV) (115 nm x 115 nm) a H の吸着には、金 クラスタの影響なし OH の吸着は、金クラス タによって阻害される 2nm b 3nm 金の 10∼11%がナノ粒子 表面にクラスタを形成 (エネルギー分散型 X 線 分光) 図 8-18.白金表面への金クラスタの形成の効果 - 111 - • 金クラスタの形成で、白金触媒の耐久性の向上が見られた。 - 通常の白金触媒(Pt/C)の場合、0.6∼1.1V の電位サイクル(RDE)において、 E1/2 は 40 mV 低下し、ESA(電気化学的表面積)は 45%減少した。一方、金 クラスタの場合は、同じ試験において耐久劣化は見られなかった(E1/2, ESA ともに減少は見られなかった)(図 8-19)。 - 白金モノレイヤー触媒でも、同様の効果が得られている(図 8-20)。 30000 サイクル後 初期 金クラスタの形成による耐久性の向上 30000 サイクル後 初期 図 8-19.金クラスタの形成による白金触媒(Pt/C)の耐久性向上 (25℃、酸素飽和条件) 金クラスタ の形成に よる耐久 性の向上 図 8-20.金クラスタの形成による白金モノレイヤー触媒(PtML/Pd/C) の耐久性向上(25℃、酸素飽和条件) - 112 - (3) ディスカッション • 白金モノレイヤーを形成させるコアシェルの粒子径については、まだ最適化さ れていない。現状では 3 nm 程度。ただし、コンセプト的には、白金は表面に あるのみなので、粒子径の大小はあまり関係ないと考えている。 • 白金モノレイヤー触媒の前駆体となる白金とその他の金属の合金は、沈殿法に よって形成される。均一な粒子が作られていると考える。 (4) ラボツアー • 研究室にて、コアシェル触媒作成のための装置を見学、その手順の説明を受け た。 • 研究・実験用設備として、以下のものを見学した。 - 回転リングディスク電極装置(RDE): 4台 - スパッタリング装置: 1台 - 走査型トンネル顕微鏡(STM): 2台 - レーザー分光器: 1台 - 113 - 9 California Air Resources Board(CARB) 訪問先 訪問日時 対応者 組織の概要 調査項目 California Air Resources Board(CARB) 住所:1001 I street, Sacramento, California 95812, USA 2006 年 11 月 14 日(火)8:30∼10:30 Analisa Bevan Chief, Sustainable Transportation Technology Branch Gerhard H. Achtelik Jr. Manager, Zero Emission Vehicle Infrastructure, MSCD/Sustainable Transportation Technology Branch Benjamin M. Deal Air Resource Engineer - ZEV Infrastructure Section, MSCD/Sustainable Transportation Technology Mark Williams Air Polution Specialist, Mobile Source Control Division, ZEV Implimentation Michael J. Kashuba Staff APS -ZEV Infrastructure Section, MSCD/Sustainable Transportation Technology Adam Gromis Program Manager, California Fuel Cell Partnership カリフォルニア州で大気質関連の規制を実施。ZEV 規制を作成し、現在 ZEV 規制における電動車両クレジットを検討中。CaFCP を実施中。 • ZEV 規制の現状、FCV へのクレジットの考え方 • CaFCP の現状 • カリフォルニア州のデモンストレーションの現状 (1) California Air Resources Board(CARB)の概要 • CARB はカリフォルニア州環境保護庁(Cal/EPA)傘下の組織で、カリフォルニ ア州の大気質改善を通じて公衆衛生・福祉・環境の改善を目的とする組織である。 - Cal/EPA は、カリフォルニア州の各分野における規制当局を統括するために、 1991 年に設立された。Cal/EPA の組織図を図 9-1 に示す。 州知事オフィス California Environmental Protection Agency (Cal/EPA) Air Resources Board (ARB) Department of Pesticide Regulation (DPR) Department of Toxic Substances Control (DTSC) Integrated Waste Management Board (IWMB) Office of Environmental Health Hazard Assessment (OEHHA) State Water Resources Control Board (SWRCB) Regional Water Quality Control Boards (RWQCBs) 図 9-1.カリフォルニア州環境保護庁(Cal/EPA)の組織 出所:Cal/EPA ホームページ< http://www.calepa.ca.gov/About/OfficeSec.htm > - 114 - • CARB はカリフォルニア州環境保護庁傘下の組織で、1967 年に設置された。設 置目的を表 9-1 に示す。 表 9-1.CARB の目的 • 健康な大気質を達成し、維持する • 大気汚染物質の原因とその解決策に関する研究を実施する • カリフォルニア州の主たる大気汚染の原因である自動車によって引き起 こされる深刻な問題に対してシステマティックに対処する49 出所:CARB ホームページ < http://www.arb.ca.gov/html/aboutarb.htm > • CARB の全体的な運営や方向性は、カリフォルニア州知事によって指名された 11 人のボードメンバー(理事会)によって決定される(表 9-2)。チェア以外 は非常勤である。 チェア 表 9-2.CARB のボードメンバー 1名 加州内の大気質管 5 名 理区・規制区50から ・南海岸大気保全管理区(1 名)51 の代表 ・サンフランシスコベイエリア大気保全管理区(1 名) ・サンディエゴ大気汚染規制区(1 名) ・サンホアキン・バレー全域大気汚染規制区(1 名) ・その他の管理区・規制区(1 名) 専門家 3名 ・自動車エンジニアリング分野の専門家(1 名) ・科学・農業・法律分野の専門家(1 名) ・物理学・外科医・健康影響分野の専門家(1 名) 一般市民 2名 出所:CARB ホームページ < http://www.arb.ca.gov/html/aboutarb.htm > 49 50 51 原文は「Systematically attack the serious problem caused by motor vehicles, which are the major causes of air pollution in the State」。 カリフォルニア州には、35 の大気質管理区・規制区がある。 < http://www.arb.ca.gov/capcoa/dismap.htm >参照。 いわゆる South Coast Air Quality Management District(SCAQMD)。 - 115 - (2) ZEV 規制の動向 ① 規制の必要性 • カリフォルニアの 90%以上の地区では、大気質の点で健康的ではない(図 9-2)。 カリフォルニアの大気質を向上させるためには、アグレッシブな政策が必要で ある。 加州 PM10 規制値(24 時間値) を上回った日数 Source: ADAM September 2006 (tfn) 0-5 日 加州オゾン規制値(8 時間値) を上回った日数 Source: MRedgrave May 2006 (mln) 6-50 日 50-100 日 100 日以上 図 9-2.カリフォルニア州における大気質の状況 • カリフォルニア州では、温室効果ガスの削減も目指している。 - 地球温暖化は、カリフォルニア市民の健康、産業、農業、経済、生物種に影響 を与えると考えられる(図 9-3)。 - また温暖化によって、大気における有害物質の発生・拡散パターンに影響を与 えると考えられる。 気候変動 健康 大気環境の変化、天候被害、 熱帯型疾病の発生 農業 生産量の変化、 必要水量の増大 森林構成・面積の変化、 一次生産力の変化 水量・水質の変化、 水源確保に関わる係争 温度上昇 森林 降水量の 変化・豪雨 水源 水位の 上昇 湾岸 海岸の侵食、保護コストの増大、 湿地の浸水、海岸エリアの住民の保護 生物種 生息地域の縮小、 生物種の絶滅 自然 図 9-3.カリフォルニア州における温室効果ガスの削減の目的(気候変動のリスク) - 116 - ② ZEV 規制の概要 • ZEV 規制は 1990 年に成立し、これまでに 4 回(1996 年、1998 年、2001 年、 2003 年)の改正(amendment)が行われている(表 9-3)。 - 改正が行われていても、カリフォルニア州における販売台数の一定量を ZEV (Zero Emission Vehicles)にするというコンセプトは変わらない。 - ZEV 規制は、2005 MY(Model Year)から実施されており、カリフォルニア 州における販売台数が一定量に達した自動車メーカー(2006 年 11 月時点で 6 社52)は、販売台数の 10%にあたる台数を ZEV としなければならない。この ZEV 割合は、2009 MY 以降、段階的に増加する(表 9-4)。 1990 年 表 9-3.ZEV 規制の改正内容 ZEV 規制の採択 (ZEV 導入義務割合: 1998 MY 2%、2003 MY 10%) 1996 年改正 ・1998 MY ZEV 導入義務(2%)の廃止 ・2003 MY ZEV 導入義務(10%)の維持 1998 年改正 2001 年改正 ・PZEV(Partial ZEV)による ZEV クレジットの定義 ・2003 MY の ZEV 導入義務 10%の維持と、導入義務の段階的 増加(2018 年には 16%) ・PZEV、AT PZEV(advanced technology PZEV)による ZEV クレジットの定義 ・燃費クレジットや早期導入クレジットの定義 ・ZEV 導入義務 10%の 2005 MY 開始53 ・ZEV 種別の設定(Type I~V の設定) ・燃費クレジットの廃止 ・一定割合の FCV 導入による「代替パス」の設定 2003 年改正 出所:各種資料から作成 表 9-4.ZEV 規制が規定する ZEV 導入割合(ベースライン) 2005 MY ~ 2009 MY ~ 2012 MY ~ 2015 MY ~ 2018 MY 以降 2008 MY 2011 MY 2014 MY 2017 MY 10% 11% 12% 14% 16% 52 53 GM、Ford、DaimlerChrysler、トヨタ、日産、ホンダ。 2001 年改正では ZEV 導入規制を 2003 MY から開始する予定であったが、2002 年に 2001 年改正 の一部(特に燃費クレジット)を違法とする裁判を GM や DaimlerChrysler などが起こし、連邦裁 判所が ZEV 規制の実施に対する差止命令を出した。2003 年改正はこの裁判結果を反映し、ZEV 規 制開始年を 2005 MY に変更し、燃費クレジットの廃止を行った。 - 117 - • 2001 年度の改正における ZEV 規制の概要を図 9-4 に示す。 - 10%のうち、6%までは PZEV(Partial ZEV)で、2%までは AT PZEV (Advanced Technology PZEV)で充当可能である(表 9-5)。ただし少なく とも 2%は、ZEV としなければならない。なお、PZEV を「Bronze」、AT PZEV を「Silver」、ZEV を「Gold」と呼ぶ。 - 内燃水素機関自動車は AT PZEV に、一定の要件を満たしたプラグイン・ハイ ブリッド車は AT PZEV に認められる。 - FCV では、最大で ZEV 換算で 40 台のクレジットを得ることができる。 図 9-4.2001 年度改正における ZEV 規制の概要 表 9-5.ZEV(Gold)/ AT PZEV(Silver)/ PZEV(Bronze)カテゴリ カテゴリ ZEV 種別 主たる該当車両 Gold ZEV Silver AT PZEV Bronze PZEV ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ Pure-ZEV(EV) FCV EV モードで 20 mile 以上走行可能なハイブリッド プラグイン・ハイブリッド車 パワーアシスト型ハイブリッド車 従来型ハイブリッド車 CNG 車 水素 ICE 自動車 SULEV 適合ガソリン車 - 118 - • 2003 年の改正における ZEV 規制の概要を図 9-5 に示す。 - ZEV 導入義務(10%)を 2005 MY から開始する。 - 新たに ZEV(Gold)を、EV と FCV の車両特性に合わせて 5 つに分類した(表 9-6)。 • ZEV 規制対象となる自動車メーカーが、通常のバッテリ EV の早期導入によっ て得たクレジットによって ZEV リクワイヤメントを達成してしまったため、 2009 MY までは実質的に新規の ZEV を導入しなくてもよくなった(ブラック アウト)。 - CARB はこの状態を、ZEV 規制のモメンタムを失わせるものとして非常に危 惧している。Blackout 状態を打開するため、CARB では一定割合の FCV(Type III ZEV)をオプション導入した自動車メーカーは、ZEV 導入義務 10%を PZEV 6%と AT PZEV 4%で賄うことができるという、「代替パス」を設定し た(次ページ参照)。 - カリフォルニア州における販売台数の 1%にあたる台数の FCV(Type III ZEV)を導入した自動車メーカーは、2005 MY からの ZEV 導入義務 10%を、 PZEV 6%と AT PZEV 4%で賄うことができる。 図 9-5.2003 年の改正における ZEV 規制の概要 区分 NEV Type 0 Type I Type II Type III 表 9-6.ZEV(Gold)の新区分 車種 ZEV 走行レンジ(UDDS) ネイバーフッド EV(NEV) 設定せず ユーティリティ EV(Utility EV) 50 マイル未満 シティ EV(City EV) 50 マイル以上、100 マイル未満 フル機能 EV(Full Function EV) 100 マイル以上 燃料電池車(Fuel Cell Vehicle) 100 マイル以上 - 119 - • この「代替パス」における FCV 導入オプション台数は、2009 MY 以降増大す る。 - すべての ZEV 規制対象自動車メーカーが「代替パス」を採用した場合の FCV 導入オプション台数を表 9-7 に示す。2005∼2008 MY における FCV 導入オ プション台数は 250 台であるが、2009 MY 以降は 2500 台に増加する。なお この代替パスは、2017MY で終了する。 - この FCV 導入オプション台数のうち 50%までは、バッテリ EV で充当するこ とも可能である。 - 米国 Clean Air Act 第 177 項に準じて、カリフォルニア州と同様の厳しい自動 車排気ガス基準を採用している州(ニューヨーク州、マサチューセッツ州、バ ーモント州、メーン州)に導入された FCV は、カリフォルニア州に導入され たものとしてカウントする。ただし 2012MY 以降は、他州に導入された FCV が得る ZEV クレジットを減少させていく予定である。 - この FCV 導入オプション台数のあり方については、現在専門家パネル(Expert Review Panel54)にてレビュー中である。 表 9-7.「代替パス」における FCV 導入オプション台数 期間(MY) FCV リクワイヤメント • • 54 55 2005∼2008 2009∼2011 250 台55 2500 台 2012∼2014 2015∼2017 25000 台 50000 台 現状では、カリフォルニア州における年間販売台数が 6 万台に達する自動車メ ーカーが、ZEV 規制の対象である。 - VW、現代自動車は、カリフォルニア州での年間販売台数が 6 万台に近く、ZEV 規制対象に入ってくる可能性がある。 - ZEV 規制対象後でも、販売台数が 6 万台を下回ったときには、ZEV 規制から 外れる。 現状では、カリフォルニア州における FCV 台数は 100 台程度である。 Expert Review Panel は、Michael P. Walsh(チェア)、Dr. Fritz Kalhammer、Mr. Bruce Kopt、 Dr. Vernon Roan、Dr. David Swan から構成される。 2001∼2008 MY における FCV 導入オプション台数 250 台の内訳は、GM が 62 台、Ford が 51 台、 トヨタが 57 台、ホンダが 48 台、DaimlerChrysler が 17 台、日産が 17 台である。 - 120 - • ZEV プログラムによって、ZEV をはじめとするクリーン自動車の導入が促進さ れてきた。 - カリフォルニア州ではすでに PZEV が 50 万台導入され、現在もその数は増え ている。また、10 万台以上のハイブリッド車が販売されている。 - カリフォルニア州としては、バッテリ EV、FCV、プラグイン・ハイブリッド 車の普及を支援したい。 - 普及支援策として、ZEV クレジットがある車両は、ハイウエイの優先レーン を走行できるようにした。 ③ ZEV テクノロジーレビュー • CARB では、ZEV 技術の現状を正しく評価し、ポリシーに反映させるために、 これまでに 2 回の ZEV テクノロジーレビューを行った。 - 2003 年のテクノロジーレビューは、ボードとステークホルダからの要請に基 づき実施した。 - 2006 年 9 月のテクノロジーレビューは CARB のスタッフが主導して実施した。 このテクノロジーレビューは、短・中期的視点から検討する「テクノロジーシ ンポジウム」と、長期的視点から検討する「エキスパートパネル」から構成さ れた。 - テクノロジーシンポジウムでは、ZEV 技術の成熟度やコスト、市場性につい て話し合うことを目的とし、ZEV 規制自体は議論の対象外であった。 - エキスパートパネルは、長期的な視点から、要素技術(水素搭載技術、燃料電 池、BOP、バッテリ、電気システム、パッケージング)や、車両技術(バッテ リ EV、プラグイン・ハイブリッド、水素内燃機関車)について評価を行った。 - このテクノロジーレビューの報告書は、2007 年 3 月にボードに提出される予 定である。ポリシー的にアクションが必要であれば、その実施は 2007 年後半 になろう(ヒヤリングの実施など)。 ④ ディスカッション • 現状では、8 万台の AT PZEV に認定された車両が走行している。 • CaFCP 参加車両や DOE の Learning Demonstration 参加車両などは、販売さ れていなくても ZEV クレジットを得ることができる。 - 121 - (3) カリフォルニア燃料電池パートナーシップ(CaFCP) • カリフォルニア燃料電池パートナーシップ(CaFCP)は、1999 年にスタート した、世界最初の燃料電池デモンストレーションプロジェクトである(表 9-8)。 - CaFCP は、DaimlerChrysler、Ford、CARB のイニシアティブでスタートし た。発足当初のメンバーは、DaimlerChrysler、Ford、Ballard、ARCO(現 BP)、Shell、ChevronTexaco(現 Chevron)、CARB、California Energy Commission(カリフォルニア州エネルギー委員会)である。 - メンバーシップは、フルメンバー(Full Partner)とアソシエートメンバー (Associate Member)に分かれる。フルメンバーは運営費を負担し、運営チ ームに出席できる。アソシエイト・パートナーには資金負担はないが、プロジ ェクトの運営には関与しない - 当初は 2003 年までの予定であったが、その後 2007 年まで延長され、この 2006 年 10 月には、2012 年まで延長されることが発表された。 目的 期間 参加 メンバー 表 9-8.カリフォルニア燃料電池パートナーシップの概要 FCV を、持続可能なエネルギー社会への移行、エネルギー効率向上、大 気汚染物質・温室効果ガスの削減の手段として普及促進する。 1999 年∼2012 年(予定) フルメンバー 燃料電池メーカー Ballard UTC Fuel Cells 自動車メーカー DaimlerChrysler General Motors Ford Honda Hyundai Nissan Toyota Volkswagen 政府組織 CA Energy Commission CA Air Resources Board National Automotive Center South Coast AQMD US EPA US DOE US DOT エネルギー会社 BP Chevron Shell Hydrogen アソシエートメンバー AC Transit Santa Clara VTA SunLine Transit Air Products Hydrogenics ISE Corporation Praxair PG&E Proton Energy Systems Ztek ITS – UC Davis 出所:California Fuel Cell Partnership ホームページ< http://www.cafcp.org/ > - 122 - • CaFCP における設備、登録車両の概要を表 9-9、表 9-10 に示す。 - 登録車両は約 160 台であるが、実際にはメーカーがメンテナンスなどで引き上 げている場合もあるので、実際に州内にある車両は 100 台程度と見られる。 表 9-9.CaFCP における設備、登録車両の概要 CaFCP 本部 ウエスト・サクラメント ・水素ステーション ・ガレージ 設備 稼働中 23 ヶ所 計画中 14 ヶ所 燃料電池自動車(FCV) 149 台、燃料電池バス(FCB) 9 台 水素ステーション 登録車両 DaimlerChrysler F-Cell 現代 Tucson FCEV 表 9-10.CaFCP の登録車両 Ford:Focus GM FCV HydroGen3 日産 X-TRAIL FCV Gillig / Ballard Power Systems トヨタ FCHV-4 ホンダ FCX VW Touran HyMotion Van Hool / ISE Corporation / UTC fuel cells 出所:California Fuel Cell Partnership ホームページ< http://www.cafcp.org/ > - 123 - • CaFCP では、CaFCP 技術プログラムを通じて、燃料電池自動車の市場化に貢 献している(表 9-11)。 - 充填インターフェイスのテスト・評価では、水素ステーション、車両、人間(運 転手)の 3 者間のインターフェイスを考えなければならない。また、車両によ って、充填に関わるデータコミュニケーションシステムが異なることが問題と なっている。 - フリートプログラムをサポートするため、水素ステーションのロケーションマ ップを作成した。カリフォルニアは世界でも、水素ステーションの密度が高い 場所である。 - 初期対応者への教育は特に重要である。実際に州内には 100 台の燃料電池自動 車があるため、現実的にトレーニングの必要性がある。なお、このようなトレ ーニングは、現在はまだ CaFCP が行っているが、将来はメーカーの役割にな ると考えている。 表 9-11.CaFCP 技術プログラム 市場化のためのファクター ← CaFCP 技術プログラムでの貢献 消費者ニーズへの対応 コミュニティの創造 56 57 ・車両の耐久性、航続 距離、コスト ←充填インターフェイスのテスト・評価 ・ 水素品質(データ収集) ・ 充填パフォーマンス(データ収集) ・ ステーションへのアクセス確保(問題の特定) ・容易で信頼度の高い ←フリートプログラムのサポート 充填方法 ・ 州の規制行政、基準・標準へのインプット ・ ステーションのマップ作成 ・ DemoNet(フリートプログラム間での情報交換) ・ 燃料電池バスプログラムの企画調整 ・認知度の向上 ←初期対応者への教育 ・ 緊急対応ガイドの作成 ・初期対応者(消防局な ・ FCV の安全性に関するビデオ作成 ど)のトレーニング ・ 初期対応者のトレーニング(900 人) ・ CaOSFM56、DOE、NASFM57との調整 California Office of the State Fire Marshals(カリフォルニア州消防保安官事務所)。 National Association of State Fire Marshals(全国消防保安官協会)。 - 124 - (4) カリフォルニア水素ハイウエイ・ネットワーク(CA H2 Net) ① カリフォルニア水素ハイウエイ・ネットワーク(CA H2 Net)の概要 • カリフォルニア水素ハイウエイ・ネットワーク(CA H2 Net)は、「カリフォ ルニア州が環境、健康、経済に配慮しつつエネルギーセキュリティを確保し、 さらにエネルギー効率と再生可能エネルギー利用を進める」ことを目的として 実施されているデモンストレーションプログラムである。 • 2004 年に、200 人のエキスパート(行政、産業界、大学、NGO)の意見を参 考に、計画の青写真を策定した(表 9-12)。 - 青写真では、最終的に水素ステーションを 250 ヶ所まで増加させる予定であっ た。これを達成するため、ハイウエイ沿いに水素ステーションを、20 マイル ごとに建設する方針であった。 - 現在はむしろインフラを特定の都市部に集中して整備し、それをネットワーク することに計画を変更している。 - カリフォルニア州は、FCV をリース、あるいは購入し、デモンストレーショ ンを行う(2007 年中)。自動車は 7 台、水素ステーションは 3 ヶ所を予定し ている(表 9-13)。 - 水素は最終的には再生可能エネルギーから製造することを目標にしている。 フェーズ 表 9-12.CA H2 Net のプロジェクトフェーズ 目標(推定) I Ⅱ Ⅲ 水素ステーション 50∼100 250 (初期使用) 250 (拡大使用) FCVs & H2 車 (LDT) 2,000 10,000 20,000 FCVs & H2 車 (HDT) 10 100 300 定置・オフロード適用 5 60 400 - 125 - 表 9-13.CA H2 Net に導入される自動車、水素ステーション 導入される自動車 燃料電池自動車:1 台 (GM 製 HydroGen 3) 水素 ICE 自動車: 4 台 水素 ICE シャトルバス:2 台 (Quantum 製改造プリウス) (Ford 製) 建設される水素ステーション カリフォルニア州立大学ロ サンディエゴスクール サン・カルロス / PG&E サンゼルス校 ・ 太陽電池セルを利用し ・ 天然ガスの水蒸気改質 ・ 再生可能エネルギー由 た電気分解 (電力には再生可能エ 来電力を利用した電気 ・ 教育目的 ネルギー由来電力を使 分解 用) ・ 太陽電池セルも使用 ・ 高圧天然ガスステーシ ・ 70 MPa も実施 ョンも設置 ② 2006 年度以降の計画 • 2006 年∼2007 年の CA H2 Net 予算も 6500 万ドルである。 - 2006 年∼2007 年は焦点を変え、燃料電池バスの導入と水素インフラの整備を 行う。 - 5000 万ドルを燃料電池バス導入に、1500 万ドルをさらに 3 ヶ所の水素ステー ションの建設に使う予定である。 • 今後の予定: - アウトリーチの実施: 教育、コンファレンス、イベントなど - 分析の実施: 環境影響、ビジネス面でのインパクトなど - CA H2 Net に参加する水素ステーションの拡大: 現在カリフォルニア州には 21 基の水素ステーションがあるが、CA H2 Net へ の参加を募る。ただし一般アクセスなどは今後検討する。 - 126 - ③ ディスカッション • 水素源: - 現状では天然ガス改質(オンサイトでの製造、集中製造)が考えられる。電気 分解は、カリフォルニア州の電源構成を考えるとマイナスの影響のほうが強い。 - カリフォルニア州では、ナフサや合成ガスから水素製造しているステーション はない。その意味でも、JHFC の経験を学びたいと考えている。 - 現在、どの水素源が適切かについて、アップストリーム分析を行っている。 • 水素ステーションのロケーション: - これまでに石油会社を含めて CA H2 Net に参画を呼びかけたが、反応が無か った。カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校と San Diego School が教育面 で、また PG&E が研究面で興味を示し、この 3 ヶ所から水素ステーションを 建設することが決まった。 - 現状では、水素ステーションは商業用ではなく、教育用に設置されている。 - カリフォルニア州に存在する既存水素ステーション(21 ヶ所)のネットワー クへの取り込みが課題となっている。 • 水素ステーションの利用: - 水素充填の課金方法は今後検討する。 - 水素ステーションの利用者とのアグリーメントも必要と考えている。オープン プロセスとしたいが、まだ検討段階である。利用者のメンバーシップもよい考 えかもしれない。 • • 水素ステーションの設置における学習: - 最初の水素ステーションの建設には 1.5 年を要したが、次のステーションから は半年で建設できる見込みである。 - メーカーやステークホルダとパートナーシップを組み、ステーションを共同で 新設することによって学習が可能となる。既存ステーションではそのような学 習は望めない。 水素ステーションでの共同作業は、教育とトレーニングが目的であり、水素品 質や水素充填に関する基準・標準の策定や研究が目的ではない。カリフォルニ ア州は基準・標準の策定には直接的には参画していないので、単にガイドライ ンを作るだけである。 - 127 - サンタモニカ水素ステーション(Air Products) 10 訪問先 訪問日時 対応者 組織の概要 調査項目 サンタモニカ水素ステーション(Air Products) 住所:City of Santa Monica Fleet Services Yard, 2500 Michigan Ave, Santa Monica, California 90404, USA 2006 年 11 月 14 日(火)8:30∼10:30 Tara Keefover Project Manager, Air Products カリフォルニア州で大気質関連の規制を実施。ZEV 規制を作成し、現在 ZEV 規制における電動車両クレジットを検討中。CaFCP を実施中。 • ZEV 規制の現状、FCV へのクレジットの考え方 • CaFCP の現状 • カリフォルニア州のデモンストレーションの現状 (1) SCAQMD Five Cities Project • 南海岸大気保全管理区(SCAQMD)は、独自の資金により、水素ステーション 5 ヶ所を設置した。またデモンストレーション用に水素内燃機関車に改造した プリウス 30 台を開発した。 - 水素ステーション数はロサンゼルス地域を中心に 5 ヶ所を設置した(Santa Ana、Burbank、Ontario、Riverside、Santa Monica)。これはカリフォル ニア水素ハイウエイ・ネットワーク(CA H2 Net)の一環として設置されたも のである。 - デモンストレーション用として、トヨタ プリウスを Quantum が水素内燃エ ンジンに改造した。うち 25 台は各水素ステーションに配置(5 ヶ所×5 台) し、残りの 5 台は SCAQMD が所有している。 • 運用期間は 2006 年から 2010 年までの 5 年間。全体のプロジェクト総額は 700 万ドル(約 8 億円)以上。 - 水素ステーションの建設・運用は Air Products and Chemicals が実施する。 契約額は 216 万ドル(2 億 5000 万円)。 - プリウスの改造とテストは Quantum Fuel Systems Technologies Worldwide が実施する。契約額は 390 万ドル(4 億 6000 万円)。 - 参加する各市は、水素ステーション設置のための土地を提供する。 - 128 - (2) サンタモニカ水素ステーション ① サンタモニカ水素ステーションの概要 • サンタモニカ水素ステーションは、SCAQMD Five Cities Project の一環として、 サンタモニカ市の廃棄物収集センターに設置された(図 10-1)。 - これらの水素製造装置、水素ステーション、改造プリウス(5 台)は、サンタ モニカ市が所有する。 図 10-1.水素充填ステーションと改造プリウス ② 水素製造装置 • Proton Energy Systems 社の PEM 型高圧電気分解装置を設置した。 - 20 気圧で電気分解し、メカニカルコンプレッサで 6500 psi(440 気圧)に昇 圧している。 - 水素製造能力は 500 g/時で、一日の水素製造量は 12 kg。5 台の水素自動車を 稼動させるには十分な量である。 図 10-2.Proton Energy Systems 社製 PEM 型高圧電気分解装置(内部) - 129 - ③ 水素充填ステーション • Air Products 製。水素充填圧力は 350 気圧。 • コミュニケーション用のケーブル(アースを兼ねる)も別途設置。 • 水素充填ステーションには、CNG 車用に天然ガス充填装置も設置。 図 10-3.Air Products 製水素充填ステーション 出所:Santa Monica 市ホームページ < http://www.smgov.net/epwm/maintenance_mgmt/h2event/ > ④ 改造プリウス • • Quantum Fuel Systems Technologies Worldwide にて改造。 - 高圧水素タンク 2 基を後部座席の下に設置。水素車載量は 1.6 kg で、一回の フル充填での最大航続距離は 60 mile(=96 km)。水素のみ。 - 駆動系には、水素供給系とターボチャージャーを追加し、制御系も変更してい る。ただし、エンジン自体はオリジナルのままである。 サンタモニカ市の行政サービス用として、日常業務に使用している。 ⑤ 改造プリウスへの試乗 • 車両ノイズや、エンジン∼電気モータの切り替え等の走行フィーリングは、オ リジナルのプリウスとほぼ同じであり、違和感はない。しかし水素で駆動する 点を勘案すると、出力は 70%程度と思われる。 • 耐久性や NOx 排気の適合については不明である。 - 130 - (3) California Hydrogen Infrastructure Project(CHIP) • 「SCAQMD Five Cities Project」とは別に、DOE のファンドで、California Hydrogen Infrastructure Project(CHIP)が実施されている。 - CHIP は、5 ヶ所のステーションで実施する。特に水素インフラに焦点を当て ており、700 気圧での充填デモンストレーションを行う。 - ステーションは、Torrance、UC Irvine、Long Beach、S.Lake Tahoe の 4 ヶ 所が決まっており、5 番目のステーション設置場所は現在検討中である。 • Torrance 水素ステーションは、水素パイプラインと高圧充填ステーション(350 気圧、700 気圧)を設置する。 - UC Irvine(カリフォルニア大学アーバイン校)水素ステーションには、高圧 充填ステーション(350 気圧、700 気圧)と液体水素充填ステーションを設置 する。 - そのほかの水素ステーションは、高圧充填ステーション(350 気圧)のみであ る。 - この事業は 2006 年から実施される予定であったが、1 年ほど延期される見通 しである。 - 131 -