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黒 島 - 石垣島きたうち牧場

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黒 島 - 石垣島きたうち牧場
農業生産法人
(有)石垣島きたうち牧場
農業生産法人(有)石垣島きたうち牧場の代表者である北内毅氏は、焼肉店や食肉卸売業を展開する(株)ケイ・アー
ル・エス(KRS)の代表取締役でもある。北内氏はもともと焼肉店から肉牛業界へ足を踏み入れ、そこから食肉卸、
生産へと川下から川上へさかのぼってきた。自ら生産を始めようと思った理由は、
「美味しいお肉」を追求するため。
雌の但馬牛ないし但馬の血量が濃い牛を、
40ヵ月齢超えを目指して長期肥育するとい
うスタイルは、一般の肥育農家にお願いす
るには高コストで、自ら生産に乗り出さな
ければ実現できなかったからだ。現在預託
で繁殖約100頭、自社牧場で肥育180頭を展
開する北内氏は、こだわりの「プレミアム
ビーフ」と「プレミアムビーフ40」
(40ヵ月
齢以上まで肥育したもの)を石垣島の焼肉
店2店舗をはじめとしたKRSグループ各店
や、各地のホテル等に卸しており、その特
徴豊かな牛肉で好評を博している。
但馬市場から導入した純粋但馬牛の肥育牛。40ヵ月齢超えを目指してじっくり
と仕上げられる
きたうち牧場の牛舎。風通しが良く夏場も
比較的冷涼
もちろん換気扇などでの暑熱対策にも努め
ている
きたうち牧場のプレミアムビーフ
今回の取材では、短時間ではあったが黒島にもお邪魔した。黒島は石垣島から船で30分ほ
黒
島
どのところにある小さな島で、島民の9割以上が牛飼いという牛の島である。同じ八重山地
区でも、土と水が豊富な石垣島と違い、平坦で岩盤の島である黒島では、石垣島に比べると
牧草が育ちにくいという面がある。近年は石垣島同様に母牛の更新が進み、血統的にも良い
子牛が生産されるようになりつつある。
島の中央にある展望台からの景色。島一帯に放牧地と採草地が
広がる
000-000 口絵 きたうち牧場_3校.indd 2
島内でもとくに改良に熱心な下地太氏の牧場。放牧ではなく採
草地とパドックによる経営
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八重山地区の肉牛生産事情(前編)
八重山で育む、
味を追求した牛肉作り
農業生産法人(有)石垣島きたうち牧場
本誌編集部
今や子牛の一大産地として知られる沖縄県。その中
でも、石垣島は3万頭を超える黒毛和種が飼養されて
おり、八重山家畜市場は3月号の子牛市場の特集を顧
みても、全国で第10位の取引頭数(平成24年:8299頭)
を誇っている。
石垣島を中心とした八重山地区(他、黒島、与那国
島など)のアドバンテージは草資源の豊富さ。とくに
石垣島は亜熱帯気候に属し、島そのものに起伏がある
ため水資源が豊富で、牧草を年5〜6回刈れることも
ある、低コスト繁殖にはうってつけの土地柄である。
一方肥育については銘柄・石垣牛が有名だが、飼養戸
数・頭数とも決して多くない。それでいて観光客を中
心に石垣牛の島内消費は活発であり、結果として枝肉
は高値で取り引きされている。ただその高値相場も子
牛価格の押し上げには繋がっておらず、近年相場が上
昇傾向にあるものの、全国平均に比べるとまだ安い部
類である。
石垣島の位置はまさしく日本の南の果て。距離的には本州より
も台湾の方がはるかに近い(ピンの位置が石垣島)
そんな八重山地区について今号と次号の2回にわた
り、新たな取り組みと、繁殖農家の事例をご紹介する。
まずは、
新たな取り組みを模索する「農業生産法人(有)
石垣島きたうち牧場」から。
北内レストランシステム
「株式会社ケイ・アール・エス」
(以下、KRS)とい
う名前を耳にしたことのある肥育農家の方は、とくに
西日本を中心に多いのではないだろうか。神戸市場を
はじめ、数々の枝肉共励会で最優秀賞牛を購買してい
る食肉卸売会社である。代表取締役の北内毅氏は石垣
島きたうち牧場の代表者でもあり、KRSは「北内レス
トランシステム」の略でもある。
北内氏は親戚が経営していた焼肉店でアルバイトを
したのをきっかけに食肉業に触れ、後に食肉卸売会社
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肥育牧場の前底幸宏場長(右)と従業員の上原直彦氏
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八重山地区の肉牛生産事情(前編)
八重山で育む、味を追求した牛肉作り
ハンバーガーショップ石垣島きたうち牧場は、石垣港の真ん前
という好立地にオープン。右は店長の冨永恵さん
プレミアムビーフを用いた「極みバーガー」
1000円
へ就職、
サラリーマンとして経験を積んで29歳の時(平
えるとそうそうできることではない。「農家さんに負
成11年)に独立し、KRSを立ち上げた。スタートはサ
担を強いることになるので、まずは自分で始めた」と
ラリーマン時代に人脈とルートができていた京都での
いう北内氏。それだけ美味しさに対するこだわりは深
焼肉店(焼肉「りょう」京都店)であった。平成13年
い。実は、前述した性別等のこだわりについてもさら
から食肉卸業務を開始し、14年には枝肉卸部門を設立、
に研究を重ねており、大学等と連携しての食味分析や、
15年には大阪に創作料理キッチン「きたうち」中津店
40ヵ月より短い月齢で同様のものを作れるのか、ある
をオープンし、16・17年には石垣島に焼肉店2店舗を、
いは去勢でも作れるのか、といった挑戦を続けている
さらに今年3月には石垣港の目の前にハンバーガー
のである。
ショップもオープンした。一方で平成16年から石垣島
素牛は八重山市場からと自家産牛に加え、但馬市場
で和牛の繁殖と肥育にも挑戦、20年4月に農業生産法
からも導入しており、それも美方郡の牛、菊美系など
人(有)石垣島きたうち牧場を開場するに至っている。
食味がよいとされる血統にこだわっている。加えて自
家産牛についても、自ら菊谷照(父:菊俊土井)と丸
美味しい牛肉を求めて
菊照(父:丸福土井)という純粋但馬牛の種雄牛を所
有する徹底ぶりだ。
いわば川下から川上へさかのぼるようにして、つい
一方で牛肉の熟成についても「もととなる牛肉が美
には生産牧場にまで至った北内氏であるが、なぜ自ら
味しくなければいくら熟成しても美味しくならないの
生産に乗りだしたのか。その理由は「美味しい牛肉の
ではないか」というスタンスであり、「肉の熟成以上
追求」にある。サラリーマン時代、それまで大阪南港
に牛そのものの完熟」を重んじている。
市場で買い付けをしていた北内氏は、初めて神戸市場
に行き但馬牛の枝肉を見たときに、その肉質、とくに
脂質の輝きの違いに驚いたという。以来、北内氏の基
本的なスタンスは美味しい牛肉の追求であり、「美味
しいお肉、美味しい料理」がKRSのテーマである。
ではどのような牛肉が美味しいのか、北内氏のこだ
こだわりのプレミアムビーフ
石垣島きたうち牧場では現在、繁殖雌牛約100頭と
肥育牛約180頭を所有している。所有と言ったのは、
繁殖雌牛に関しては地元繁殖農家(石垣島と与那国島)
わりは、性別・血統・月齢である。まず性別は雌、血
へ預託牛という形で管理を委託しているからだ。きた
統は但馬牛ないし但馬の血量が多いもの、月齢はでき
うち牧場は当初は自ら繁殖も行っていたが、1年ほど
るだけ長く40ヵ月以上を目標としている。性別、血統
前から増頭意欲のある繁殖農家と提携するスタイルに
はともかく月齢40ヵ月というのは、かかるコストを考
切り替えた。「改良にしろ育成にしろ、今までやりた
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純但馬牛の種雄牛「丸菊照」。現在は口絵に掲載した東竹西氏
の牧場に繋養されている
預託農家の子牛たち。美味しい牛肉追求のため、基本的に資質
系の種雄牛を交配している
きたうち牧場の肥育牛たち。濃厚飼料も粗飼料も飽食
出荷間近の肥育牛。この牛はホテルのフェアに使われる予定
いことができなかったのがやれるようになった。充実
味が落ちるような気がする」ということもあり、また
している」と預託先の繁殖農家は話していた。預託先
必ずしもサシを必要としているわけではないことか
で生産された子牛は、去勢牛は八重山家畜市場に出荷、
ら、できるだけ健康に飼うことを第一としている。濃
雌牛も市場でセリに掛けた上で北内氏が購買している。
厚飼料・粗飼料ともに飽食である。
肥育は石垣島北部の川平湾の近くに牛舎を2棟構え
なお、きたうち牧場では合計4haに及ぶ採草地
て行っている。北内氏自身は生産の経験が全くないこ
(ローズクラスとトランスバーラ)と、水田(石垣島
とから、管理は牧場長の前底幸宏氏と従業員の上原直
は水が豊富なので水田も多い)を所有しており、牧草
彦氏に一任している。40ヵ月以上(目安は43ヵ月)を
は自家でまかなえるほか、食味の改善を目指して米ぬ
目標として肥育されるのだから、いわゆる通常の30ヵ
かも飼料に加えている。
月齢までに仕上がるような肥育方法では牛が持たな
こうして生産された肉牛は、地元の八重山食肉セン
い。そのため飼料については大麦を主体とした薄めの
ターでと畜され、KRSグループのオリジナルブランド
餌を用いているが、「まだ餌の面からの美味しさは研
「プレミアムビーフ」または「プレミアムビーフ40」
究中」
(北内氏)というように試行錯誤を続けている段
(40ヵ月齢以上肥育したもの)として関係各店や、大阪・
階である。基本は牛にストレスなく、清潔な環境で無
東京・神戸などのホテル・レストランを中心とした取
理なく飼うこと。ビタミンAは「無理に欠乏させると
引先で販売される。雌のみで血統や月齢など各方面か
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八重山地区の肉牛生産事情(前編)
八重山で育む、味を追求した牛肉作り
北内氏の水田。管理は専門家の稲作農家に任せている
賑わいを見せる新石垣空港。記者は行き帰りとも直行便を利用
したが、どちらも満席であった
ら味にこだわったプレミアムビーフは、とにかく特徴
さらに近年は国の導入事業や、石垣市独自の補助事
が豊富であり、また近年の美味しさや赤身肉への注目
業などを活用し、鹿児島の薩摩地方から繁殖素牛を導
も追い風となって、取引先から高い評価を得ているよ
入するなどして、改良が一気に進んでいる。加えて、
うだ。
課題であった「良い牛でも普通の牛でも市場での価格
差があまりない」という状況が、牛の改良と新たな購
勢いづく八重山地区
買者の参入により変化してきており、それも繁殖農家
の意欲を高める要因となってきているようだ。
現在約180頭の肥育牛を飼養する石垣島きたうち牧
さらに地域銘柄の「石垣牛」の売れ行きが絶好調。
場。島内消費の需要は高いが、北内氏は早計に増頭す
とくに今年3月、「新石垣空港」が完成し、羽田や関
るつもりはなく、「まずは味の追求が一番で、それを
空と直行便で結ばれたことに加え、台湾から豪華客船
確立させたい。実際にお客さんに喜んでもらわなけれ
の定期便も就航しており、これら観光客を中心に島内
ば増やすところまではいかない」と述べる。目標は毎
の牛肉消費は飛躍的に伸びているという。新空港は韓
日食べたくなる牛肉。北内氏は八重山の仲間とともに、
国や台湾とも不定期便で結ばれるほか、格安航空会社
その実現をめざしたいと考えている。
の参入も予定されており、おそらくゴールデンウィー
冒頭で述べたように、八重山地区の特徴は豊富な牧
クや夏休みのシーズンはホテルがどこも満室になるだ
草である。年に5〜6回刈れることもあるという草資
ろう。そんな島内でとにかく目にするのは石垣牛の看
源は他にはない武器と言えるだろう。また若手の人材
板であり、すこし市街を外れれば、というよりも空港
が豊富なのも大きな強みである。島外に出てもIター
を出るとすぐに、いや飛行機の窓からも牛が見えるの
ンで戻る例が多く、後継者に恵まれているのだ。1戸
が石垣島である。さらなる消費の盛り上がりが確実に
あたりの飼養頭数も約30頭ほどと比較的大きく、他産
期待できるし、石垣島を中心とした八重山地区の畜産
地が苦労している課題をおおむねクリアしている希有
はまだまだ伸びる、そう感じさせる産地であった。
な産地と言える。
(荒木 太郎)
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