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地方における、あるゲイでHIV 陽性者の患者さんのライフストーリー

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地方における、あるゲイでHIV 陽性者の患者さんのライフストーリー
地方における、あるゲイで HIV 陽性者の患者さんのライフストーリー
特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権 花井十伍
1 目的
この報告の目的は,社会におけるゲイあるいは HIV 抗体陽性者の表象と個人の実像との齟齬を記述
することである。ここでは、HIV 感染予防施策が対象としてきた集団を規定する概念装置と集団を
構成すると推定されている個人の実像との間での齟齬に着目して記述を試みる。さらに、これらに
齟齬が存するとすれば、HIV 感染予防施策の再検討を示唆する可能性があり、この可能性について
も検討する。
2 方法
このような問題意識の下で私たちは、ある地方都市において同性間の性的接触によって HIV に感
染した一人の患者 A 氏の聞き取りを行った。 3 結果
ゲイであるということについて、A 氏の経験世界を中心とする「判断力」に基づく生活の様式は、
聞き手である私たちにとって「地方で生活する同性愛者(ゲイ)であり HIV 陽性者」という概念が
もたらすバイアスからは、そう容易に想像しうるものではなかった。ゲイであるか否かという二分
法に必ずしもとらわれることなく、経験に基づき陶冶された「判断力」によってごく身近な空間に
居心地のいい人間関係を形成すること、A 氏の語りからはそのような生のあり方が垣間見られた。
また、エイズ予防指針において、予防は後天性免疫不全症候群に対する予防と無症状病原体保有の
状態(HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染しているが、後天性免疫不全症候群を発症していな
い状態をいう)を保つための予防の二つがあげられている。すなわち、発症予防と感染予防である。
前者については、後者の状態を HIV 感染症という疾病概念によって治療の対象としており、発症予
防は HIV 感染症の治療行為とほぼ一致する。通常、予防啓発という文脈で語られているのは後者の
予防、HIV 感染予防である。指針は、どちらの予防も「正しい知識とそれに基づく個人個人の注意
深い行動により」予防可能であるとしている。しかし、これらに関しても逐語録から読み取ること
が出来る A 氏の主観的意味世界は、HIV 感染予防施策における概念装置としての表象をすり抜けて
行くものであった。
4 結論
A 氏の主観的意味世界においての「ゲイ」は、あくまで自らの経験世界を語る上での建て前であり、
その世界は豊饒な経験を包含していた。A 氏が予防指針の規定する同性愛者か?と問われれば、答
えは然りかもしれない、しかし、少なくとも A 氏に限って言えば、予防指針が予定するような、
「正しい情報をもとに注意深く行動する個人」といったモデルよりも、むしろその場における雰囲
気こそが行動規定する原理として重要である事がみてとれる。HIV 予防情報が「正しい情報」であ
ったとしても、A 氏の主観的世界においては重要な情報ではなく、むしろ、その場における雰囲気
こそが行動規定する原理として重要である事がみてとれる。 文献 地方における陽性者のライフストーリ研究 大北全俊 他(平成 21 年度 HIV 感染予防個別施策層におけ
る予防情報アクセスに関する研究 研究報告書 主任研究者 服部健司)、社会構築主義のスペクトラム 北澤毅・土井隆義編 ナカニシヤ出版、ライフストーリー・インタビュー 質的研究入門 桜井 厚・小林
多寿子編著 せりか書房、境界文化のライフストーリー 桜井 厚 せりか書房
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