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環境管理会計の手続きと原則 Environmental Management
管理における好ましくない傾向を、前もってまたタイミング良く特定することを可能にし、これにより早期 警戒システムとしての役割を果たす。一つの企業内または他の企業すなわち競合他社と環境パフォーマンス 指標を比較する、いわゆるベンチマーキングすることで、自社の弱点を明らかにし改善の可能性を特定する チャンスが生まれる。 7.1. ISO 14031- 環境パフォーマンス評価基準 - について 環境パフォーマンス指標は、三つの分類に分けることができるであろう。すなわち、企業活動の環境的側 面を、投入/産出マテリアル・フロー・バランスによって評価するのか、環境管理活動によって評価するの か、あるいは企業外部の環境状態で評価するのかによって、操業パフォーマンス指標、マネジメントパフォ ーマンス指標、環境状態指標に分かれる。このシステムは、ISO TC 207 SC4、「環境パフォーマンス評価」 および ISO 14031 に基づいており、環境パフォーマンス指標を設定する際の有効なツールとなる。 環境パフォーマンス指標すなわち EPIs については、次のように ISO 14031 に定義されている。 「操業パフォーマンス指標(OPI)とは、一つの組織の操業に関する環境パフォーマンスについての 情報を提供するものである。」 操 業 パ フ ォ ー マ ン ス 指 標は、あらゆる企業に、環境的側面の評価という基本的な概念から、推奨されるも のである。その例としては、資材原材料、エネルギーと水消費、廃棄物と排出物を集計し生産量に関連づけ たデータがある。OPIs は、EU EMAS 規則に基づく環境ステートメントまたは従業員啓蒙用資料などにおい て利用され、環境データに関する内部および外部コミュニケーションの重要な基礎となるものである。 「管理パフォーマンス指標(MPI)とは、組織の環境パフォーマンスに影響を及ぼす、経営者の努力 に関する情報を提供するものである。」 マ ネ ジ メ ン ト パ フ ォ ー マ ン ス 指 標は、企業が行った環境保全努力、および環境改善への働きかけの成果を、 間接的に評価するものである。環境監査、従業員訓練、納入業者監査、関係法規が遵守できない事例、認証 を受けたサイト等の数が、その例としてあげられる。しかしながら、こうした指標からは、実際の外部環境 負荷または内部環境的側面に関して、有益な情報を得ることはできない。環境管理活動に関する数量化した 内部データを規制当局に提供することは可能であるが、環境パフォーマンスあるいは負荷に関する情報を得 ることはできない。従って、環境パフォーマンス評価に MPIs のみを使用することは、重大な環境負荷を明 らかにできず、むしろカモフラージュすることにさえなる場合があるので、ISO 14031 では推奨していない。 「環境状態指標(ECI)は、地域的・地理的グループを対象とする、あるいは国家全体または世界的 な環境状態に関する情報を提供する、特殊な表現方法をいう。」 環境状態指標は、環境の質を直接測定するものである。大気や水に対する排気ガスの負荷を評価するため に使用する。水や大気の質などの企業を取り巻く環境状態は、政府当局によってモニターされているのが一 般的である。例えば空港騒音、発電所周辺の大気汚染、パルプ・製紙工場周辺の水質汚染など、特定の一企 業だけが一つの地域における主要な汚染源である場合にのみ、法律により企業によるモニタリングが必要に なる場合もあり、またそのようなモニタリングが自ずと意味を持つようになるであろう。大気、水、土壌な どの環境メディアの質と人間活動が及ぼす影響(水の富栄養化、生物多様性への影響、温室効果等)は、(他の 様々な企業、発電所、家庭、自動車からの排出物などの)多くの要因が関係しているので、ECIs の測定と記 録については、公的機関が本来行うべきである。 - 72 - こうした外部環境指標は、環境政策目標とも関連して、企業の優先課題や目標設定に役立つものである。 環境の質を評価するための世界標準指標や国内指標は、多くの場合、「環境指標」または「環境状態指標」 と呼ばれており、「パフォーマンス指標」という言い方は使われない。 企業の環境パフォーマンスおよび環境負荷の評価には、マテリアル・フロー・バランスに基づいた、操業 指標を用いるのが適当である。その他の、環境状態や管理システムに関する指標は、補助的な意味合いしか 持たない。 ISO 14031 は、指標から得られた情報をどの様な方法で表現するかについても規定している。EPIs は、情 報の性質やその使用目的に応じて、適切な方法で集計し加重しなければならない。集計と加重は、得られた 情報が正確で、整合性があり、比較可能で、理解しやすいものとなるよう、慎重に行うべきである。 指標には次のようなものが考えられる。 • 年間廃棄物トン数などのような絶対値。 • 別のパラメーターと比べた相対値。最も一般的なものは、生産量、生産時間、売上、従業員数である。 • 総排気量に占める有害排出物比率や有害廃棄物の前期比較などのような、ベースラインと比べた比率ま たは指数。 • 集計値、例えば五箇所の生産サイトから排出される二酸化硫黄の総合計トン数のように、異なる発生源 から得られる集計データ。 • 統合データ、すなわち、集計や平均値を求める前に、重要度に応じた係数をデータに乗じて求めたもの。 7.2. 指標システムに関する一般要件 環境パフォーマンス指標(EPIs)によって、企業の資源管理の有効性と効率をモニターすることができる。 指標は主に、マテリアルのような物理的資源に適用されるが、社員や資金のようなその他の資源にもリンク させることができる。指標が最も有効かつ意味があるのは、次のような場合である。 • 経年的にモニターされている。 • 絶対的な総量データとそれに影響される相対的なデータの二つの変数を含んでいる。 • サイト間および他企業との比較が可能である。 18 指標システムの設定手順については、これまでいくつかのプロジェクトや出版物で発表されている。 VDI 4050 は次のステップの区別を示している。 1. 動機付け:EPI プロジェクトの成功に関連する一般的な特徴はどのようなものか? 2. 目標設定:誰がどのような種類の情報を必要とするのか? 3. 最新情報:重要な環境側面は何か、また企業のどこでそれらが発生するのか? 4. EPI システムの設置:ここからどのような種類のデータが得られるのか? 5. 実施とコミュニケーション:適用、計算、比較、および結果の伝達 6. 改善:満足のいく結果が得られたか? 指標システムに何らかの修正を必要とするか? 18 VDI 4050(2000 年)、C. Jasch と R. Rauberger (1997 年)、Kottman ほか(1999 年)を参照。 - 73 - 指標システムを導入する際には、次のような原則を適用すべきである。 • 目的適合性 指標は、当該組織の主な環境的側面と負荷を十分に反映するものであり、統制、監視、目標設定等の実際 の担当者によって選択されるべきである。データは、利用目的に沿っている場合にのみ収集すべきである。 • 理解容易性 指標は、明確で利用者の情報ニーズに適合したものでなければならない。指標が複雑すぎると、例えば複 数の項目を複雑な数学計算によって集計する場合、指標の持つ意味や指標の変化要因が理解されないことに なる。環境負荷に関する活動の担当者は、指標の変化要因について理解しておかなければならない。 • 目標の妥当性 指標は、環境改善目標に対応したものでなければならない。 • 整合性 環境関連変数と財務変数を標準化して初めて、企業全体で比較可能な信頼性のある EPIs が構築できる。 EPIs の算出にあたっては、データベースやそれぞれの変数に関する計算手順を詳細に規定し、全社的に同じ 手法を使用しなければならない。さらに、EPIs の算定方法は、財務情報システムおよび財務指標と整合性を 持つものでなければならない。 • 比較可能性 指標は、経年的に、また他の計測単位のデータとも比較可能でなければならない。従って、計算原則、デ ータソース、各基準と変数の関係については、様々な報告単位と報告期間総てに関し、データベースが整合 性を持てるよう定義しなければならない。比較に関しては、どの期間においても同じデータ収集原則を確立 し、比較可能な期間と測定単位についても必ず言及しておくようにすべきである。 • 中立性 指標システムは、環境負荷の変化を計測し、環境負荷の重要な側面を総てカバーするものでなければなら ない。マテリアル・フロー・バランス指標の主な分類項目総てに対して、指標を定義すべきである。陥りや すい過ちとしては、入手可能なデータだけを使用し、例えば、排気ガス、排水、マテリアル投入については データが入手できないので、廃棄物に関してのみ 20 指標を設定するような指標システムを構築する、とい うことが考えられる。 • 継続性 指標は、長期間にわたり同じ方法でモニターした場合、より意味を持つものとなる。(毎日、毎週、毎月、 毎年というように)評価期間を設定しておけば、(水や資材原材料供給用の自動センサーが故障した場合の ような)不測の事態が発生した場合でも、適時対応が可能になり、前のデータに頼ることはなくなる。指標 の改訂があまり頻繁に行われたり、あまりにも長い間改訂されない場合は、現在のパフォーマンスとの関連 性が薄くなってしまう。 7.3. 共通指標システム 総ての業種で使用可能な共通指標の概要を示すものとして、以下の項目をモニターすべきである。業種ご とのより詳しい指標も有益ではあろうが、共通する分類項目にまとめることも可能なはずである。指標シス テムは、主要な投入・産出分類を総て含むものでなければならない。 - 74 - 生産量 絶対量 総量 Kg、リットル 原材料投入 Kg Kg/生産量 補助材料 容器包装材料 Kg Kg Kg/生産量 Kg/生産量 操業材料 Kg Kg/生産量 エネルギー KWh KWh/生産量 水 廃棄物 3 M Kg M3/生産量 Kg/生産量 排水 M3 M3/生産量 特殊な汚染負荷 排気ガス Kg Kg/生産量 M3/生産量 排気ガス負荷 M Kg その他の基準 従業員数 人数 売上高 金額 EBIT(支払利息および税金控除前利益) 金額 製造時間 作業日数 時間 日数 建物面積 M2 3 相対量環境負荷集約度 Kg/生産量 管理パフォーマンス指標 達成された目標件数 関係法規を遵守できなかった件数または遵守状況 環境マネジメントシステム(EMS)を導入したサイト数 環境報告書の対象となっているサイト数 EMS 認証取得サイトの売上高割合 環境配慮製品の売上高割合(例えば有機栽培穀物と従来の栽培法による穀物の対比) 図 40: 環境パフォーマンス指標システム 絶対指標と相対指標 生態(環境)的見地からは、絶対指標は、(例えば補助材料の消費量(キログラム単位)または排水量(立方 メートル単位)のように)資源総消費量と汚染物質総排出量を測定するものであり、最も重要な指標である。 過去年度との比較については、過去生産量やその他の重要な項目についての参考数値が必要である。絶対指 標は総環境負荷を示すものであるのに対し、相対指標は、効率向上の度合をモニターすることを可能にする ものである。絶対指標と相対指標はコインの表と裏であり、共に有益なものである。相対指標の意味は、絶 対値データがなければ判断できないし、その逆もまた真なりである。 企業内部の作業単位の比較または企業間での比較を行うためには、関連する参考単位(例えば年間生産量、 従業員数、設備数、作業時間など)と絶対指標を比較することが重要になってくる。 以下に例を示す。 - 75 - 補助材料効率 = 補助材料投入量(kg) 生産量(kg) 水消費量(リットル) 一日当たりの従業員一人当たりの水消費度合 = 従業員数×作業日数 相対指標では、企業規模、生産量、従業員数で比べた企業の環境パフォーマンスを表すことができる。生 態(環境)的観点からは、マテリアル・フロー・バランスに関する絶対数値のほうがより重要である。モニ タリングとベンチマーキングという点では、相対数値のほうが意味がある。絶対指標では環境負荷の程度を 示すことができ、相対指標では環境対策が効果をあげているかどうかがわかる。 適用範囲 指標は、企業全体、個々のサイトごと、部門ごとに得られるデータ、さらにはコストセンターや生産工程 ごとに得られるデータから、導き出すことができる。各レベルの意志決定者達が必要としているのは、自分 たちの責任範囲に関する情報だけである。従って、集計の際には二重計算に注意しなければならない。デー タの収集範囲が異なれば、その目的も異なってくる。すなわち、こぼれや漏出を防止する早期警戒システム として、また改善策を検討する情報源として、工程ごとの排出物を毎日、毎週、毎月モニターしている場合 もあるし、一方、企業全体のデータは、目標設定や環境報告にとってより重要な意味を持つ。 このように、環境パフォーマンス指標は、全社的データ、工場またはサイトごと、個々の工程または部門 というように、様々な適用範囲ごとに設定できる。最も一般的なものとしては、企業指標、サイト指標、お よびプロセス指標がある。 (部門、工程、コストセンターなどの)下位の組織単位から得られた指標は、主に個々の部門ごとのモニタ リングツールとして適しているであろう。評価については、弱点を特定しタイミングよく対策を施せるよう、 例えば四半期ごと、各月ごと、毎週というように比較的短い間隔で行うべきである。主な原材料、補助材料、 エネルギーに関する投入、ならびに主な排出物発生源については、工程レベルでモニターすべきである。 サイト指標と企業指標は、長期的管理および年次管理に利用するための総合的なパフォーマンス情報とし て機能する。サイト指標は、欧州環境管理監査スキーム(EU EMAS)規則に基づく環境声明書において、 環境負荷評価に利用される。企業の環境報告書には、企業全体で集計された指標を掲載する。 7.4. 参考単位の選定 マテリアル・フロー・バランスから得られる生産産出(PO)から有益な指標が得られない場合、あるいは PO 自体が求められていない場合、また PO から有益な指標が得られている場合でもこの指標に加えて、別 の変数を使用することもできる。従業員数は、特にサービス産業で使用されることが多い参考単位である。 以下の環境パフォーマンス指標マトリックスは、絶対指標と主要な参考単位をどのように組み合わせれば、 有益な相対指標が得られるかを示している。縦軸は、絶対指標(マテリアル・フロー・バランスから得られ る基本データ)であり、横軸は関連する参考単位である。チェックマークの付いた組み合わせが有益な基準 であり、どの基準を選ぶかは業種ごとに異なる。投入 - 産出分析の主要分類以外にも、次記マトリックス には、環境管理パフォーマンス指標を含めている。企業の生産規模に応じて、その他の変数を加えても有益 であろう。 - 76 - エネルギー投入 √ √ √ 水投入 √ 洗剤 √ √ 廃棄物 √ √ 排出物 √ √ √ √ √ √ √ √ √ √ √ √ 排水 √ 生産コスト √ √ 収益 √ サイト面積 √ シフト 作/業時間 容器包装 作業日数 √ 従業員数 √ エネルギー使用量 √ マテリアル使用量 加工時間 コストセンター サイトまたはライン ごとの生産量 マテリアル投入 √ √ √ √ √ √ √ √ 輸送 √ 事故 √ √ √ 苦情 √ 環境トレーニング √ √ √ 環境コスト √ 図 41: 環境パフォーマンス指標マトリックス 出所:Jasch, Rauberger, Hrsg.: BMUJF、1998 年 適切な相対指標を抽出する際に最も重要な作業は、参考単位の選択である。参考単位の定義は正確に行い、 基になる指標と論理的関連性がなければならない。実際、こうした問題は、資源投入と生産産出の関係を示 す効率評価のための生産関連指標の場合に多くみられる。 いかなる場合でも、投入 - 産出バランスから算出した生産産出は、できる限りキログラムとトン単位で 表すべきである。製品個数を測定単位として使用できるのは、測定対象が同種の製品で構成される場合だけ である。しかしながら、製品の種類が多岐にわたる場合には、キログラムその他の共通の生産単位に統一す るのが難しい場合もある。その代わりとして、資源投入や排出物を、生産コストまたは売上高などの別の参 考単位と組み合わせて用いる方法が考えられる。しかし実際には、異なる環境負荷を発生する個々の生産単 位あたり売上高の違いを参考にしてしまうと、結果を歪めてしまう場合がある。 環境保全効果をコストに関連した数値に置き換えることが、ますます重要になってきていることから、環 境パフォーマンス指標についても、コストに関連する数値(環境コスト指標)として表すことが考えられる。 実際、このアプローチは二つの意味で重要である。 • 環境パフォーマンスを定量化する初期の段階では、容量や重量に関するデータを容易に収集することは できない。しかし、会計部門には関連する支出についてのデータが存在しているかもしれない。仮に、 例えばエネルギー管理からはキロワット時単位の総投入量に関するデータが得られないとすると、エネ ルギー投入の代わりに総エネルギー支出を使って、エネルギー指標を設定する。 「生産産出一トン当たり のエネルギー投入キロワット時数」という指標の代わりに、 「生産コスト一ドル当たりのエネルギー支出 額」という指標を使用することも可能である。 - 77 - • コスト関連環境パフォーマンス指標のもう一つの利点は、環境問題をコストと節減効果、すなわち経営 者に理解しやすい形に「置き換えることができる」ことである。450m3 の有害廃棄物が利益にどのような 影響を及ぼすか、また廃棄物抑制のための研究というものはいったい行う価値があるものなのかという ことは、経営トップにとってはほとんど想像不可能な事柄である。同じ量を廃棄物処理費用 20 万ドルに 置き換えたなら、問題はより鮮明になるであろう。経理部門から得られる廃棄物処理費用に関するデー タは、多くの場合廃棄物処理手数料から算出したものである。この廃棄物処理手数料に、(保管、輸送、 人件費、廃棄する資材原材料の購入費などの)間接的な廃棄物処理コストを加えることで、環境保全対策 が費用効果をもたらす可能性があるかどうかが明らかになる。 データ収集に関しては、基本的なデータと利用できる参考単位とを明確に区別することが重要である。多 くの場合、一年間に販売された製品の量は、(例えば在庫品を販売する場合もあるので)当該期間に生産され た量とは異なっているか、あるいは部品を外部の業者から購入することにより、最終製品を組み立てている 企業には環境負荷が発生しない場合がある。複数の段階からなる生産工程では、在庫の出し入れによって生 産産出が変化する場合がある。その結果、年間資源投入量または年間排出物量を他年度の生産量と比較する ような場合、相対的環境パフォーマンス指標は、意味のないものとなってしまう場合がある。在庫が変化し たとしても、その在庫に関わる投入や排出物は違う年度で発生しているのである。このため、よく使われる 産出量や売上数値の代わりに、最も重要な要素である、生産段階での生産量に生産を関連づけるほうが有益 であるかもしれない。 生産 1 キログラムあたりのエネルギー投入キロワット時数、生産 1 キログラム当たりの水投入量、生産 1 キログラム当たりの各種廃棄物量といった環境パフォーマンス指標に関しては、一年間の資源投入量と排出 物量を、当該年度に製造された製品と関連づけなければならない。実際、販売された製品の量あるいは完成 品在庫のいずれにも、前年度から引き継いだ在庫、または半製品ならびに完成品の購入が含まれているので、 参考単位としては適当でない。 このため、各製造段階の総産出量を参考単位とするほうが良い。投入量や排出量を特定の主な発生源に配 賦することが不可能な場合は、対象となる生産段階の(加重)平均値として参考変数を算出するべきである。 従業員関連投入(コピー用紙など)あるいは排出物については、従業員数を参考単位とするのが適当な場合 が多く、特にサービス産業や行政機関(銀行、政府機関、保険会社など)に当てはまる。この場合もまた、(パ ートタイム、実習生、休日出勤、交代制など)参考単位をどのように設定するかについて、統一した定義を 使用するよう留意しなければならない。これは、経年的内部比較およびサイトごとの指標比較にとって重要 なことである。 7.4.1. 特 定 の 資 源 消 費/ 環 境 負 荷 集 約 度 環境負荷集約度とは、例えば、ビール生産量 1 百リットル当たりの水投入量のように、製品産出量および /またはサービス単位 1 キログラム(あるいは、 1 百リットル)当たりのマテリアル投入キログラム量(絶対指標) として定義されるものである。キログラム単位の総産出量については、製品の種類が多岐にわたる場合は、 有益な参考単位とはならない場合が多い。この場合には、特定の製品および/または製品グループごとに指 標を算出する。 エネルギー投入キロワット時数 1,423,271 kWh 個別エネルギー消費度合 = = = 3.83kWh/kg 生産産出キログラム量 371,988kg ほとんどの業種で利用可能な共通環境負荷集約度指標には、次のようなものがある。 - 78 - • 生産量 1 トン当たりの原材料投入トン量 • 生産量 1 トン当たりのエネルギー投入キロワット時量 • 生産量 1 トン当たりの水投入立方メートル量 • 生産量 1 トン当たりの廃棄物産出トン量 • 生産量 1 トン当たりの二酸化炭素排出トン量 • 生産量 1 トン当たりの二酸化硫黄排出トン量 • 生産量 1 トン当たりの窒素酸化物排出トン量 • 生産量 1 トン当たりの VOC 排出トン量 • 生産量 1 トン当たりの排水量立方メートル量 その他の個別消費指標としては、従業員一人当たりのコピー用紙投入、一平方メータ当たりの洗浄剤使用 量、稼働時間当たりの装置の不良品製造率などが考えられる。 7.4.2. シェア・パーセンテージ シェア・パーセンテージとは、全体に占める下位グループの割合を意味する。指標は一般的に、有害廃棄 物、自治体廃棄物、リサイクル可能な廃棄物などが、総廃棄物量の何パーセントにあたるかというように、 基になる基準値に対する割合で表される。 リサイクルされた廃棄物トン量 3,461t リサイクル率 = = = 73.5% 総廃棄物トン量 4,709t 他にも、総エネルギー投入量に対する異なるエネルギーキャリアごとのパーセンテージ、あるいは総出荷 製品重量に対する容器包装材料のパーセンテージなどが考えられるであろう。 シェアを求める共通指標には、次のようなものがある。 • 製品に含まれる異なる資材原材料ごとのシェア・パーセンテージ • 製品および容器包装用資材原材料のシェア・パーセンテージ • 総製品量に対するエコラベルや有機材料等の関連環境基準に適合した製品ののシェア・パーセンテージ • 総エネルギー投入量に対する再生可能なエネルギー源のシェア・パーセンテージ • 鉄道/船舶/トラックごとの輸送距離のシェア・パーセンテージ • 輸送手段を利用した出張に関し一人当たりの移動距離のシェア・パーセンテージ • 総廃棄物量に対する有害廃棄物のシェア・パーセンテージ • リサイクル率(総廃棄物量に対するリサイクルされた廃棄物のシェア・パーセンテージ) 環境コストのシェア・パーセンテージ 総環境コスト分類表を利用することで、メディアごとのコストのシェアやコスト項目ごとのシェアを算定 することができる。例えば、オーストリアの製紙業界を例にとると、水管理勘定は総環境コストの 50%を占 めており、廃棄物勘定と大気/気象勘定は約 30%と 20%を占める。しかし、廃棄資材原材料投入は、はるか に大きな部分を占めるコスト要因であり、(資材原材料仕入および加工コストなどの)コスト項目ごとに算出 した場合、約 80%を占めている。業種や地域が異なれば、これらのシェアも異なってくるであろう。図 42 に、製紙業界の例を示した。 - 79 - 0 0 0 0 0 0 0 計 0 0 0 0 0 0 0 その他 0 0 0 0 0 0 0 放射線 0 0 0 0 0 0 0 生物多様性と景観 5 1 20 10 36 -6 30 騒音と振動 18 11 1 34 6 52 -2 50 土壌と地下水 1 1 14 2 18 廃棄物 環境分類 費用/ コ ス ト 1. 廃棄物・排出物処理 2. 汚染予防と環境管理 3. 製品外アウトプットの資材原材料取得原価 4. 製品外アウトプットの加工コスト ∑ 正味環境費用合計 5. 環境収益 ∑ 総環境費用合計 排水 大気と気象 環境メディア 0 2 0 0 17 5 68 12 2 -8 100 図 42: 環境費用/コストのシェア 年間総投資額 年間総環境投資は、エンド・オブ・パイプ設備および統合汚染予防技術(環境シェア)と、その他の投資に 分かれ、また環境会計で記録され開示される。統計局や環境保護局から、これらの情報が求められる場合も ある。 7.4.3. 環境効率割合 操業パフォーマンス指標は、キログラム、キロワット時、ヘクトリットルなどの物量単位ばかりでなく、 売上高や利益などのような貨幣変数ともリンクする場合がある。 持続可能な発展のための世界経済人会議(WBCSD)は、環境効率について、売上または利益という形で表さ れる「製品またはサービス価値」を、エネルギー、資材原材料、水消費、ならびに廃棄物と排出物という量 で表される「環境影響」というものに関連づける指標であると定義している。こうした指標は、基準および 実際値の経年比較が指標とともに公表されて初めて、有益なものとなる。そうすれば、環境効率指標は、マ テリアル投入の削減を、売上または利益の増加と関連づけて示すことができる。しかし、利益については、 世界市場価格や為替レートのような他の要因の影響もあるので、こうした指標の解釈は難しい場合が多い。 マテリアル投入を売上高に関連づけることは、生産に直接結びつくことになるので、より有意義である。例 としては、ビールメーカーの単位水投入量当たりの売上高と比べた税引き前利益があげられる。売上高は、 生産投入とより緊密な関係にあるので、利益よりも重要な意味を持つ。 売上高 売上高は、生産量に直接関係するものであり、極めて良い指標である。これは、マテリアル・フロー・バ ランスにおいてまず参考とされるものである。マテリアル・フロー・バランスによる物量測定の手法として、 生産され販売された製品の量は最も有効な基準であり、キログラム単位で測定するのが望ましいが、容積や 個数で測定される場合もある。物量データが入手できない場合、次に頼りとするのは貨幣単位の売上高であ る。 正味売上高 正味売上高は、売上高から、売上割引や売上品戻り高ならびに値引きを差し引いたものである。しかし、 - 80 - 生産量は直接売上額とリンクするものではなく、売上額は、在庫の販売、物価、為替レート、顧客の需要な どの影響を受けるものなので、注意が必要である。 付加価値 付加価値とは、正味売上高から、仕入れた商品やサービスの費用を差し引いて求められる。理論的には、 この指標は、「製品価値」に企業がどの程度貢献したかをよく反映するものである。損益計算書を調べ、収 益から「仕入商品およびサービス」に含まれる総ての項目を差し引いて求められる。しかし、これについて は法律で開示を求めていない国が多く、また算出には多くの複雑な会計手続きが必要であることから、一般 的に用いられることはないであろう。 売上総利益 売上総利益は、正味売上高から、販売した商品やサービスの原価を差し引いて求められる。これについて も、法律で開示は求められていないので、導入は企業の内部方針次第である。 EBIT( 支払利息および税金控除前利益) 支払利息および税金控除前利益(EBIT)は、よく知られている財務指標であり、世界的にベンチマークとし て利用されている。また、株式会社については、法律で開示が求められているものでもある。EBIT は、正 味売上高から、社債利息と法人税を除く総ての費用を差し引いて求められる。付加価値との一番の違いは、 売上高から人件費と減価償却費も控除する点である。 税引後利益 これは、財務要因の影響を極めて大きく受けるので、指標としては良いものではない。また、国ごとに税 法や減税措置の内容が様々であるということも、解釈を難しくしている。 8. 応用例 - 環境プロジェクトおよび環境投資のコスト節減効果の算定 環境投資に関わる意志決定に際しては、産業界の経営者達は、ますます大きなジレンマに直面している。 一つには、規制要件、自発的基準、市場圧力により、環境パフォーマンスに関する要求内容がますます高ま り、結果多額の費用が必要になってきているということがある。またもう一つには、こうした要求に対して 費用効果のある対策を講じるのに必要な、正確で一貫した情報を、タイミングよく入手できていない場合が 多いということがあげられる。その結果、投資・経営プロジェクト、マテリアル選択、製品価格設定、製品 ミックスに関する意志決定が、企業または環境に最善の効果をもたらすに至っていない。 環境管理システムおよびその他の環境活動についての、コスト節減効果の定量化に苦労している企業が多 い。企業では、一般に、環境投資と環境対策を講じる前の廃棄物の流れと、その後の廃棄物処理等のコスト を比べたり、あるいは、以前の環境パフォーマンス指標と最新の指標を比べ、貨幣価値で効果を計算すると いった方法で、環境管理のコスト節減効果を算定している。こうした算定方法の大半は、「もし数年前にこ うした投資や対策を採らなかったら、今日どれくらいの支出が必要になっていたであろう」、という疑問に 答えるものである。未来指向の算定方法の場合には、「今この投資または対策を講じなかったら、将来どれ くらいの支出が発生するであろうか」という疑問に答えねばならず、このためさらに情報ギャップと不確実 性の問題が生じる。 こうした算定方法では、多くの場合、環境管理または環境投資によって、企業にもたらされるベネフィッ トのごく一部しかカバーできていない。これは、こうした算定を行っているのが、経理担当者ではなく環境 - 81 - マネジャーであり、環境マネジャーは、排出物処理、公害防止、資材原材料効率についての全社的コスト、 また設備投資予算編成の方法や原則についても知識を持ち合わせていない。例えていえば、環境マネジャー は、物量ではなく貨幣価値という「外国語」を話そうとして四苦八苦しているのである。しかも、第 4 章お よび第 5 章で解説した企業の年間環境コストが完全に算定されておらず、総コストのごく僅かしか特定でき ないという結果になってしまう。 いくつかのケーススタディの結果から、次のような改善が必要であることがわかった。 • 物量データ・貨幣データと各測定対象部門との間に、さらに整合性を持たせなければならない。 • マテリアル・フロー会計に基づき、原価計算(管理会計)を改善しなければならない。 • 投資意志決定を評価する際に、臨時費用についても十分検討しなければならない。 8.1. 設備投資予算編成の基本概念 設備投資予算編成の第一の目的は、様々な投資方法を比較することにある。 投資評価とは、目標に対する投資のコスト節減効果を算定することである。静学的財務分析で評価する際 の経済変数には、次のようなものがある。 • 初期投資コスト • 営業費用および営業収益 • 利益 • 投下資本回収 • 返済期間 総ての投資評価方法は、投資意志決定に関わる投入と産出については総て、定量化でき金額で示すことが できるという前提にたっている。 動学的財務分析では、将来予測される資金流入と資金流出については、投資期間に応じて利息分を割り引 き、内部割引率すなわち年率に計算し直す。資本の機会費用(今現在発生するのではなく、将来にのみ発生 するキャッシュフローの価値の低下)を求める場合は、金融市場の金利で割り引く。割引将来キャッシュフ ローの総額によって、プロジェクトすなわち投資の正味現在価値が決まってくる。これを、取り替える前の 設備価値および金利と比べる。計画上の投資では、資金運用手段として銀行預金で得られる受取利息よりも、 投資収益の方が大きくならなければならない。 設備投資予算編成の返済方法では、返済期間以降のキャッシュフローは対象としない。多くの企業では、 たとえ長期間の投資効果が見込める場合でも、2 年または 3 年という返済期間のプロジェクトだけを認める という、内部規則を採用している。キャッシュフロー割引法では原則的に、当該プロジェクトが終了するま では、関連するあらゆる将来のキャッシュフローを対象とするが、金利を高く設定しすぎている企業が多い ため、その結果求められる中長期的なコストと節減効果の現在価値は、あまり当てにならないものであり、 投資意志決定に関しては、最初の 3 年程度の値しか参考にできない。 返済期間、内部収益率、内部金利(IIR)などの様々な方法についての、特徴と欠点については、企業財務を 扱っている本ならどれにでも説明が載っている。 合併買収の対象となる企業の価値を算定する方法には、色々あるが、これらもまた、見込み収益の資本化 に基づくものである。環境リスクが低いこと、また将来の傾向および利害関係者の要求に対処できる能力が あるということは、当該企業の価値を高めることになる。 - 82 - 多くの将来の環境関連コスト、ならびに、有害補助・操業材料の使用を削減することにより生じる、クリ ーンテクノロジーおよび関連する環境保全対策のコスト節減効果については、リスクが高く不確実で算定も 難しいために、将来価値の見積が一層難しくなっている。が依然として、これらの方法は、広く利用されて いる。行うべきは、将来のマネー・フローを割引くという基本概念を変えることではなく、関係のある収益 や費用を総て必ず対象に含めることである。 8.2. 環境保全予算の編成 環境保全投資の観点からすると、従来の投資評価方法は、何らかの調整を行わなくては利用できない場合 が多い。環境保全対策によってもたらされる見込み収益と産出フローを算出するのは、難しい試みである。 特に環境管理の分野では、「ソフト」なより把握しにくいデータを扱わなければならない場合が多い。純粋 に投資と操業に関わるコストに加えて、企業イメージ、環境省その他の当局機関との折衝、法律遵守、従業 員啓蒙等の要因についても、考慮する必要がある。第 3 章で論じたように、様々な投資や操業支出の「環境 に関連する」部分を特定するのは、困難である。 遵守問題に関しては、工場にエンド・オブ・パイプを施すのか、あるいは予防戦略を立てるかの選択は、 これら二つの選択肢の経済効果を比較した結果に左右されるところが大きい。このことは、利益が見込めな いような場合、すなわち、会社側が投資に対し純損失を見込んでいる場合においても、言えることである。 大半のエンド・オブ・パイプ技術とは異なり、公害防止プロジェクトは、廃棄物生成、規制関連活動、公害 関連債務を軽減できるため、操業コストの削減につながる場合が多い。その上、公害防止対策への投資は、 製品や企業のイメージを高めるので、収益増加をもたらす場合もある。こうした間接的な、すなわち実際額 を把握しにくいベネフィットを、プロジェクトに関する財務分析に含めた場合は、公害防止戦略から見積も られる収益性が高まり、公害防止とエンド・オブ・パイプのどちらを選択するかという問題の決め手になる と考えられる。公害防止とエンド・オブ・パイプの選択というこの点でこそ、公害防止プロジェクトに包括 的で長期的な財務分析を行う、総合的なコスト評価(TCA)の概念と方法は、公害防止投資の財務面での全 体像をより鮮明に把握する上で重要な役割を果たし、エンド・オブ・パイプ・プロジェクトに対する予防投 資の優位性を増すことになる。TCA を適用することで、任意の公害防止プロジェクトの財務成績予測につ いても良い結果が期待でき、このため、限られた資本資源を争う場合有利になる。19 投資評価の際には、初期投資および年間操業費用以外にも、将来の責務に対応するコストや潜在的な効果 についても検討が必要である。 初 期 投 資 コ ス トには、購入した装置以外にもいくつかのものが含まれる。当該装置が、廃棄物処理もしく は生産設備と一体となった技術の、いずれに分類されるかで、初期コストとして扱うか年間償却するかが決 まり、これらは、投資評価の方法に応じて違ってくるが、図 43 の 1.1.または 2.3 に含めることになる。 年 間 操 業 コ ス トは、環境コスト分類表におけるその他の総ての分類に影響を及ぼすこともある。従って、 年間操業コストが、総支出のどれくらいを占めるかを特定することは、環境管理会計の出発点として、極め て重要になってくる。これにより、かつては一まとめに環境会計としていたコストを、いくつかの部分に分 け、特定のコストセンター(工程部門)または装置ごとに関連づけることが可能になる。 公害防止対策により、廃棄物・排出物処理コストを削減し、仕入れた資材原材料を効率的に使用すること ができる。多くの場合、投資額を算出する際に、資材原材料コストと排出物処理コストの削減効果が十分に 考慮されておらず、間違った投資意志決定が行われている。 19 White A., 1993 年ならびに Savage D.E. および White A.L., 1995 年を参照。 - 83 - さらに、将来の債務コストおよびより把握が難しいベネフィットについても、見積もる必要がある。 将来の責務に対応するコスト: 将来発生する責務に関連するコストには大きく二つのものがある。すな わち、人身傷害もしくは物的損害(埋め立てゴミ処理場からの漏出による責務など)と、環境規制違反による 課徴金や罰金である。法律により汚染浄化が求められる場合については、貸借対照表上に引当金を計上しな ければならない。しかし、前にも述べたように、引当金計上に関しては、税法上また会計基準上厳格な制限 が設けられている。従って、将来リスクや将来責務を算出する際には、回避できる将来責務についても見積 もる必要がある。 Tellus 研究所があげる、より把握の難しい要因を、図 43 に示した。 生産性 発生しうる負債 保険 ♦ 製品品質 ♦ 事業中断に伴うコスト ♦ 従業員健康保険 ♦ 生産スループット ♦ 遵守義務違反による罰金 ♦ 従業員補償保険 ♦ 生産フレキシビリティー ♦ サイト浄化コスト ♦ 資産一般に対する火災保険 ♦ 生産信頼性 ♦ 法関連コスト ♦ 賠償責任/災害保険 ♦ 従業員無断欠勤 ♦ 人身傷害賠償請求 ♦ 環境関連賠償保険 ♦ 従業員モラル ♦ 物的損害賠償請求 ♦ 雇用保険 ♦ 天然資源損害賠償請求 規制関連 企業イメージ ♦ 現行規制の強化 ♦ 顧客および市場関連 ♦ 現行規制の改正 ♦ 財務関連 ♦ 新規制 ♦ 広報 図 43: 把握の難しい要因 出所:Tellus 研究所、マサチューセッツ州ボストン、2000 年 潜在的な効果: 公害防止投資から得られるベネフィットのうち、製品品質の向上、企業または製品イメ ージの向上、従業員健康維持コストの削減、生産性向上などによってもたらされる収益増加などの把握の難 しいものについては、確かに予測も算定も難しい。 次のような節減効果を考慮すべきである。 • 廃棄物・排出物処理処分コストの削減。これには、内部および外部での処理、関連する装置および操業 材料、人件費、貯蔵・埋め立てコスト、処分手数料、輸送費、保険および債務、サイトおよび生産許可 に関わる費用、当局への報告に伴う費用等が対象となる。 • 保険、債務、汚染除去コストの節減。廃棄物・排出物の削減と、有害操業材料の使用を減らす新工程の 導入により、多くの場合、損傷、流出、土壌汚染、浄化義務その他の汚染除去コストのリスクを軽減す ることにつながる。 • 保守: 保守人件費や資材原材料も、製品設計やクリーンテクノロジーの影響を受ける場合がある。 • エネルギー・水投入の節減: 一般に、クリーンテクノロジーを導入した場合、資材原材料の使用量が 節減できるばかりでなく、エネルギーや水の効率も向上できる。 • 原材料、補助材料、容器包装材料の節減: 廃棄物量を削減できる代替方法では、一般に資材原材料投 入も少なくて済む。 • 製品の質向上による節減効果。製品設計を改善することで、製品の質を向上でき、これにより、品質管 理、作業のやり直し、スクラップ産出のコストを削減できる。 - 84 - • 新たな副産品から得られる収益。廃棄物となるものに、新たな市場価値のある副産品としての価値を付 加できれば、この収益分だけ、新製品設計コストが押さえられることになる。 • 事故や従業員の無断欠勤等のリスクを、危険な資材原材料および工程を使わないようにすることで回避 • 地元当局との関係を改善することで、生産認可その他の手続きにかかる時間を短縮できる。 • 予定されている政策変更(すなわち、さらに厳しい排出物許容量の設定、有害材料の使用禁止)を視野に入 する。またこうすることで、従業員のモチベーションも向上する。 れた、将来の投資の節減。短期的すなわちエンド・オブ・パイプによる解決を回避できる。 環境管理を実施した結果、上記に加えて、他にもいくつかプラスの効果が得られる場合がある。こうしたい わゆるソフト要因は、主に利害関係者に関わってくるものであり、次のようなものが考えられる。 • 売上増加、顧客満足度の向上、新規市場開拓、競合他社・競合製品との差別化 • 企業・製品イメージの向上 • 当局との関係改善、規制遵守関連コストの削減 • 金融機関の信用度向上、保険レートの軽減、各付け機関等による格付けの向上 • 労働意欲と仕事に対する満足度が増加、無断欠勤の減少 • 公的利害関係者および近隣住民との関係改善 • 従業員の意欲や満足度の向上、常習欠勤や疾病の減少 8.3. 環境投資と環境プロジェクト評価のための計算シート 環境投資と環境プロジェクト評価のための計算シートは、二つの選択肢の効果を算定し比較するため、あ るいはコスト節減効果を直接求めて評価するために利用できる。環境総コストの年間額算定については、比 較の基準とするため、前もって済ませておく。プロジェクトや投資の内容によっては、記入の必要のない項 目もあるかもしれないが、重要なコスト要因が考慮の対象からは外れるといった危険性を減らすことができ る。また、環境メディアごとの配賦はおそらく必要でないので、経年比較できるように手直しした。 二つの選択肢の総環境コストの年間額を見積もった後、設備投資予算のために経年比較していく。当初 3 年間の貨幣投入産出の見積については、詳細に行わなければならない。4 年目以降 10 年目までに関しては、 大まかな年間見積で十分である。 最終事業年度の年間総環境費用の算定は、二つの選択肢のコストを算出する上で、絶対に必要である。年 間総環境コストが求められていなければ、節減効果を算定することができない。年間総環境コストが算定さ れていて初めて、特定のコストセンターまたは生産工程ごとに計算を行うことができる。複数の選択肢につ いて計算を行う場合も、こうすれば、比較的簡単な作業になる。 投資選択肢を比較する場合は、まずこの計算手順に従って古い装置のコストを評価し、次に新しい装置の コストを計算するのが、賢明である。 いわゆるソフトな、すなわち把握の難しい要因についても、大まかな見積値ではあるが、必要であれば加 えても良い。 - 85 - 1.1. 関連装置の減価償却費 1.2. 保守および操業材料およびサービス 1.3. 人件費 1.4. 手数料、税金、各種料金 1.5. 罰金および課徴金 1.6. 環境負債に備えた保険 1.7. 浄化コスト、汚染除去等に関する引当金繰入 2. 予防と環境管理 2.1. 環境管理のための外部サービス 2.2. 環境管理活動全般に係る人員 2.3. 調査研究開発 2.4. クリーンテクノロジーのための臨時費 2.5. その他の環境管理コスト 3. 製品外アウトプットの資材原材料取得原価 3.1. 原材料 3.2. 容器包装材料 3.3. 補助材料 3.4. 操業材料 3.5. エネルギー 3.6. 水 4. 製品外アウトプットの加工コスト ∑ 環境費用合計 5. 環境収益 5.1. 補助金、報奨金 5.2. その他の収益 ∑ 環境収益合計 6. ソフト要因 売上増加、顧客満足度向上、新市場開拓、競合他社・製 品との差別化、顧客関係の改善 企業イメージの向上 当局および関係機関との関係の改善、規制遵守コストの 削減 事故、負債、汚染土壌に関するリスクの軽減 信用度の向上、格付け機関の格の向上 地域社会との関係改善 従業員のモチベーションとモラルの向上、従業員の病欠、 無断欠勤の減少 ∑ 総ベネフィット 図 44: 環 境 投 資 と 環 境 プ ロ ジ ェ ク ト 評 価 の た め の 計 算 シ ー ト - 86 - ソフト要因 1. 廃棄物 ・ 排 出 物 処 理 将来負債 環境コスト/ 費用分類 第4年度以降 第3年度 第2年度 第1年度 初期投資 計算シート いくつかのケーススタディ、特に Tellus 研究所20の調査結果から、次のような事柄が確認されている。 1. 原 価 計 算( 管 理 会 計 ) を 効 果 的 に 行 う た め に は 、 効 果 的 な マ テ リ ア ル ・ フ ロ ー 会 計 が 必 要 で あ る 。この 点については、いくら大げさに言っても言い足らないくらいである。環境コストは、資材原材料が使用され、 加工され、製品外アウトプットとして排出される場合に発生するものである。資材原材料が一つの生産シス テムを通過する際のマテリアル・フローが理解できていることが、環境コストを特定し追跡するための大前 提である。マテリアル・フロー・バランスは、こうした情報を構築する上で最も確かな基盤であるが、もし これが把握できていない場合には、マテリアル会計とスクリーニング・プロセス・フロー図を改善するだけ でも、最初は十分であろう。関連するマテリアルまたはエネルギー・フローを特定する際に一つでも抜けた り間違いがあると、経営意志決定を誤らせることになるかもしれない、重大な結果を招くことがある。さら に、健全なマテリアル・フロー会計が整備されていれば、プロジェクト・コストのうちあまり重要でない環 境コストの評価に無駄に人的資源を費やすこともなくなる。 2. 重要な環境コストは、本来臨時のものであり、環境会計システムは、こうした偶発的な事柄を取り扱え る よ う に 設 計 し な け れ ば な ら な い 。多くの「環境コスト」は本来、偶発的ないし蓋然的なものである。環境 コストとは、不確実であるが計算可能な、蓋然性とコスト結果を伴う、将来の状態すなわち出来事により引 き起こされるものである。将来の規制遵守コストや債務、人身または物的損害などが、その例である。従来 の財務会計では、偶発的なコストを扱うようには設計されていないのが慣例で、実際のところ、財務報告で は偶発的な事柄は対象とされないのが一般的であり、偶発的な事柄が含まれる場合でも、評価と開示に関し ては厳格な基準が適用される。しかし、こうした基準は、[内部]意志決定のための環境コストには、ほとん ど関係のないものである。効果的な環境会計を行うためには、こうした重要な違いを自覚し、臨時費を扱う ことを可能にする方法を色々試してみようとする姿勢が必要である。シナリオ分析および数理に基づくコス ト評価からは、将来の環境コストに伴う不確実性の取扱について、二つのアプローチが示される。こうした ツールは、何らかの形で環境を意識したコスト予算システムに組み込まれている。 3. 単 に 新 し い ソ フ ト ウ エ ア を イ ン ス ト ー ル す る だ け で は 、 進 歩 は 実 現 で き な い 。総ての問題を解決してく れるような、単独の環境管理会計用ソフトウエアなどというものは、存在しない。どんな問題も解決してく れる単独の決定版的な解決策を模索している人達には、失望が目に見えている。環境コスト情報は、多くの 異なる組織の機能で利用できるので、こうした解決のための「システム」については、現行の原価計算(管 理会計)システムへの一連の調整としてとらえたほうが望ましく、総て、経営意志決定向上のために、環境 情報を特定し、追跡し、報告することを目的としている。個々のコストセンター(工程部門)およびオブジ ェクトごとに間接費を配賦する、より厳密なプロセス・フロー情報が、極めて重要である。つまり環境プロ ジェクトにも、健全な経営慣行および技術慣行が必要であるということを意味している。 4. 改 善 さ れ た 環 境 管 理 会 計 で も 、 総 て の 環 境 コ ス ト が 把 握 さ れ て い る わ け で は な い 。内部コストとは、定 義上は、ある程度の財務上の影響を企業に及ぼすコストを言う。無謀な森林開発や湿地帯の喪失による生物 多様性ロス、炭酸ガス放出による地球温暖化、あるいは酸性雨による森林、穀物、建物への被害などに関す るコストのように、不特定の第三者または社会全体が被る環境コストは、内部コストには含まれない。広義 のフルコスト計算は、こうしたコストも扱うものであろう。適切な財政的手段を用いて、こうしたコストを 内部化できるようにするのは、政府の仕事である。様々な環境規制、国際協定、国際基準が、こうした外部 コストを内部化するよう企業のコスト網を拡大しようとしている一方で、外部コストを企業会計に見込み計 上している企業はほとんどない。 20 White A., Savage D., Becker M., 1993 年 - 87 - 9. 今後の見通し 1980 年代半ば以来、米国におけるスーパーファンド法に基づく地質環境汚染責任の確立や、世界中でみ られる環境破壊に対する社会的関心の高まり、ヨーロッパにおける公害規制要件の厳格化、産業災害の広範 な報道などの影響で、予防を第一とする環境政策が採られるようになってきた。その結果、企業は、クリー ンテクノロジーや環境に優しい製品を求める社会的風潮がますます強まっていくのを目の当たりにしてき た。 しかし、従来のエンド・オブ・パイプ中心の対策からより予防優先の対策へと向かう企業の動きは、緩慢 なものであった。よく言われているように、公害防止が経済的に有利であるとしたら、こうした緩慢な変化 にはいったいどんな理由があるのであろうか。公害防止投資が、実際、企業の利益になるというのなら、予 防を目的とする公害管理手法への積極的な動きが今もってみられないのは、どうしたことであろう。また、 公害防止の恩恵が広く知られているにもかかわらず、なぜ企業、特に大企業までもが、従来型の「上からの」 規制遵守を目的とした多くの資本投資よりも、予防を目的とするプロジェクトのほうが、はるかに大きな利 益をもたらすのを知って、相変わらず驚いたりするのであろうか。 このような明らかな矛盾には、いくつもの理由があると思われる。 1. 企業の組織構造と習性が足かせとなって、公害防止プロジェクトが意志決定プロセスに取り入れられて おらず、このため、企業が従来の対策に代わる方法を検討できないでいる。 2. 原価計算(管理会計)および設備投資予算の手法に関連する経済上/財務上の障壁。公害防止プロジェ クトを設備投資予算プロセスにうまく取り入れられたとしても、製品外アウトプットコストについての 知識が十分でないため、限られた資本資源をめぐる他のプロジェクトとの争いにおいて不利である。 3. 心理的・社会的影響。多くの場合、マテリアル・フローに関する責任が増大し、仕入や在庫管理の規則 が変更されるのは、部門責任者の負担を増すことにつながる。 従来の会計手法に起因する障壁が、本書のこれまでのテーマであった。年間環境費用、製品外アウトプッ トコスト、マテリアル・フローの原価計算(管理会計)および間接費からの環境コストへの繰入の決定/測 定などにより、従来の様々な会計手続きを改善することを、主に論じてきた。環境管理会計の応用としては、 指標の策定と投資評価を中心に解説した。 財務諸表監査においても、ますます、リスク全般を対象とするようになってきている。財務諸表監査人は、 経営情報、すなわち財務報告書の情報の信頼性を確かめる最も有効な物差しとして、組織が直面しているビ ジネスリスクについてのあらゆる重要な側面、およびこうしたリスクをどの様に管理しているかを、把握し ようとしている。 ビジネスリスクとは、当該組織がその営業目体を達成できない可能性と定義することができる。従って、 持続可能性が、事業目的、つまり企業のリスク管理および統制プロセスにとってますます重要になるにつれ、 経営陣トップや財務諸表監査人の関心もますます高まっている。 持続可能性の検証のためには、財務諸表監査原則から、基本的な方法論を導き出すことができる。財務報 告書と環境報告書を別々に作成するのではなく、持続可能性報告書として一つにまとめようという傾向もあ る。環境情報の検証原則と財務諸表の監査原則については、「原則的には」同じものでなければならないこ とから、別々に策定してしまうと、長期的にみた場合メリットがほとんどなくなってしまう。同様に、一つ の組織の中に、一つは財務会計と原価計算(管理会計)のシステムであり、もう一方は工程技術者のための システムであるというように、二つの別々の情報システムを構築したとしても、企業全体のマテリアル・フ - 88 - ローからみてこれら二つの情報システムが「原則的には」一つでなければならないのなら、ほとんどメリッ トはない。 環境その他の持続可能性問題は、格付け機関にとっても重要な関心事となっている。投資会社は、将来予 測される利害関係者からの要求に対し企業側がどのように取り組んでいるか、また企業側が将来のリスクと 法律上の義務をどう管理しているかに、関心を持っている。最近すなわち 2000 年 7 月から施行されている 英国の規制では、どの程度の投資資金が持続可能性問題対策に投資されているかについて、株券ポートフォ リオで開示することを明確に求めている。それでも、この法律でもやはり、年金基金の倫理的、社会的、環 境的側面を開示することは求められていない。しかしながら、株式市場でのグリーン購入を促進する強い牽 引力となることは予想される。 投資家は、株式市場に上場されている企業に投資する。株主向けに発行される年次報告書には、企業の連 結ベースの決算内容が掲載される。信頼できる環境報告の作成は、近年企業にとって大きな関心事となって きており、環境報告書に対する外部監査もますます行われるようになってきている。このように、財務およ び物量データを一貫して収集し集計する、しっかりとした情報システムに基づいた、対象企業についての信 頼できる環境パフォーマンスとコストデータが開示されることが、是非とも必要である。 - 89 -