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閉経シリーズ - 日本産科婦人科学会

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閉経シリーズ - 日本産科婦人科学会
2000年10月
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;;
N―359
〔閉経シリーズ〕
閉経と脂質代謝の変化及び管理
群馬大学医学部
産科婦人科助教授
水沼 英樹
;;;
はじめに
エストロゲンは体内の多く
アポ蛋白
遊離コレステロール
の臓器に作用し生体機能の維
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
リン脂質極性基
トリグリセライド;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
持に重要な作用を示している
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
が,その中でも,脂質代謝と
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
リン脂質
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
脂肪酸残基
は密接な関連を有することが
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
明らかにされてきた.閉経は
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
終生の卵巣機能の廃絶であ
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
り,したがって閉経後女性で
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
コレステロール
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
は脂質代謝が大きな影響を受
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
エステル
ける.脂質代謝の変化はとり
もなおさず,冠動脈疾患の発
生と密接な関係を有し,閉経
(図 1)リポ蛋白の構造のシェーマ
後の女性の Q
O
Lや健康維持
に直接的な影響を与えるだけ
にその管理は重要といわざるを得ない.本稿では閉経に伴う脂質代謝の変化とその意味,
ならびに管理法について解説する.
1
)脂質の種類
血液中の脂質は遊離形では存在せず,アルブミンやタンパク質と結合している.コレス
テロール,中性脂肪,リン脂質はアポ蛋白と結合してリポ蛋白を形成するが,これらは大
きさと脂質含有量によってカイロミクロン,V
L
D
L
,L
D
L
,H
D
Lの 5種類に分類される.
リポ蛋白の中心部には疎水性の高い中性脂肪などが存在し,その周囲にアポ蛋白が付着し
ている(図 1)
.
アポ蛋白は少なくとも1
0
種類以上存在し,リポ蛋白の骨格形成に特徴を与えている.
アポ蛋白は脂質の担体としての役割以外にも脂質代謝の制御に重要な作用を示している
が,詳細は別紙に譲る.
2
)閉経と血中脂質の変化
図 2は同一女性における閉経前後の血中総コレステロールおよび L
D
Lコレステロール
の変化を示したものである1)が,これらの脂質は閉経の 2∼ 3年前より増加し閉経後1
∼2
年でプラトーに達することが示される.血中脂質の加齢に伴う変化では5
5
∼6
0
歳で男性
の値を抜き,以後は高値を維持し,さらに,血中コレステロール値が2
2
0
m
gd
l 以上の
いわゆる高脂血症の頻度も5
0
歳以降では女性が男性を抜く(図 3)
.男性では心筋梗塞が
4
0
歳代より増加してくるのに対し女性では5
0
歳代と男性よりも約1
0
年遅れで増加してく
Key words : Menopause・Lipids・HRT
N―360
日産婦誌52巻1
0号
Total cholesterol(mg/dl)
220
210
200
190
180
p<0.05
170
−4 −3 −2 −1 0
1
2
Years after menopause
3
135
LDL-cholesterol(mg/dl)
るが,女性における脂質代謝の
動向と密接な関係にあることが
理解できる.また,中性脂肪,
V
L
D
Lも 閉 経 後 は 増 加 し,更
には L
p
(a
)
も増加する.L
p
(a
)
はコレステロールに富んだリポ
蛋白の一種でフィブリンやフィ
ブリノーゲンと結合して,競合
的にプラスミノーゲンの結合を
阻害しその結果として線溶機能
を低下させ血栓形成を促すと考
えられている脂質である.L
p
(a
)は疫学的にはコレステロー
ル値とは独立した動脈硬化の危
険因子 と さ れ て い る.一 方,
H
D
Lコレステロールは閉経後
には減少する.
有経婦人における両側卵巣摘
出も脂質代謝には悪影響をもた
らす.去勢により T
C
は9
%増
加,中性脂肪は7
%増加,H
D
L
は2
7
%も減少すると報告 さ れ
ている.
3
)エストロゲンと抗動脈硬
化作用
エストロゲン投与は冠動脈疾
患の発生を5
0
%減少させ る と
いわれている.エストロゲンの
脂 質 代 謝 に 対 す る 作 用 は1
)
H
T
G
L活性抑制に伴う H
D
L
の
2
増加と L
D
Lの 低 下,2
)L
D
L
受容体増加に伴う L
D
L低下,
3
)肝臓内でのコレステロール
新生抑制,4
)中性脂肪増加,
5
)L
p
(a
)の減少,等の作用
が示されている(図 4)
.エス
トロゲンはこのほか,血管壁に
対する直接作用も有し,エスト
ロゲンの抗動脈硬化作用は脂質
代謝の改善に由来する作用より
もむしろ直接作用に由来する部
分が強いともいわれるように
なった.
130
125
120
115
110
;
;
;
;;;
;;
105
100
p<0.05
−4 −3 −2 −1 0
1
2
Years after menopause
3
(図 2)同一女性における閉経前後の血中総コレス
テロールおよび L
D
L
‐コレステロールの変化(文
献 1より)
(%)
50
男性(17,364例)
40
女性(11,846例)
頻 30
度 20
10
0
0∼ 10∼ 20∼ 30∼ 40∼ 50∼ 60∼ 70∼ 80∼
年齢(歳)
(図 3)男女別,年齢別の高コレステロール血症(2
2
0
m
gd
l 以上)の頻度(長渕 宏,1
9
9
6
より)
N―361
2000年10月
脂肪組織
HDL3
HDL2
遊離脂肪酸(FFA)
トリグセリド
肝
アセトアセテート
VLDL合成
HMG-CoA還元酵素
Estrogen
LCAT
VLDL
HTGL
ILDL
Estrogen
LDL
コレステロール
Estrogen
7α水酸化酵素
リポ蛋白リパーゼ
(LPL)
LDLレセプター
胆汁(糞便中へ)
VLDL:very low-density lipoprotein
HDL:high-density lipoprotein
TG:triglycerides
HTGL:hepatic triglycerides lipase
LCAT:lecithin-cholesterol acyltransferase
(図 4)脂質代謝経路に対するエストロゲンの作用部位
4
)管理
日本動脈硬化症学会が1
9
9
6
年に提唱した日本人のコレステロール値の適正値および高
コレステロール血症診断基準,ならびに冠動脈疾患の予防,治療の観点からみた高コレス
テロール血症の治療開始基準値および治療目標値のガイドラインを表 1に示す.このガ
イドラインでは総コレステロール値が2
0
0
∼2
1
9
m
gd
l を境界域とし,2
0
0
m
gd
l 以下を
適正域とした.治療開始基準は冠動脈疾患,その他の危険因子を考慮にいれ,生活指導,
食事療法や薬物療法の開始基準が示されている.
5
)管理の実際
高脂血症の治療の基本は食事療法と運動療法を中心に生活の改善から開始する.その実
際を表に示したが,ポイントはエネルギーの過剰摂取を控えること,飽和脂肪酸とコレス
テロール摂取を控えることにある.食事療法による改善効果の目安はコレステロールで1
0
∼1
5
%
,L
D
Lで1
5
%,中性脂肪で2
0
∼3
0
%の低下が期待できるが,食事療法はコンプラ
イアンスの問題や効果に個人差がありまた効果の発現に1
∼6
カ月程度の期間を必要とす
る.運動療法は心拍数の増加を目安とする場合と,走行距離と時間を目安とする場合があ
るが,後者の方が実際的である.一日3
K
m
の歩行を目標とする.慣れたら徐々にスピー
ドをあげるよう指導する2).
ホルモン補充療法は高脂血症の特異的な治療法ではないが結合型エストロゲン0
.6
2
5
m
g日の半年投与により,総コレステロールは約5
%
,L
D
Lは1
2
%減少し,逆に H
D
Lは
1
2
%増加が期待できる.エストラジオールを成分とする貼付剤でも同様な効果が得られ
る.生活指導やホルモン補充療法にもかかわらず高脂血症の基準値を上回る場合には抗高
脂血症剤の投与を検討する.抗高脂血症剤の一覧を表 2に示す.一般的に L
D
Lコレステ
ロールに対してはスタチン系,陰イオン交換樹脂系,プロブコールが用いられる.スタチ
ン系薬物は C
E
T
P活性も抑制するので H
D
L増加作用も持ち合わせている.一方,プロ
ブコールは C
E
T
P活性を促進し H
D
Lを低下させる.また,陰イオン交換樹脂は服薬量
N―362
日産婦誌52巻1
0号
(表1) 成人高脂血症の診断基準,治療適用基準,治療目標値
a.冠動脈疾患の予防,治療の観点からみた日本人のコレステロール
値適正域および高コレステロール血症診断基準値
総コレステ
ロール
(mg/dl)
適正域
境界域
高コレステロール血症
200 未満
200 ∼ 219
220 以上
LDLコレステロール
(mg/dl)
120 未満
120 ∼ 139
140 以上
b.冠動脈疾患の予防,治療の観点からみた日本人の高コレステロール血症患者の管理基準
カテゴリー
A 冠動脈疾患 1)
他の危険因子 2)
生活指導,食事療法
適用基準(注1)
薬物療法適用基準(注2)
治療目標値
(−) LDL-C 140mg/dl 以上 LDL-C 160mg/dl 以上 LDL-C 140mg/dl 未満
(−)(TC 220mg/dl 以上) (TC 240mg/dl 以上) (TC 220mg/dl 未満)
B 冠動脈疾患
(−) LDL-C 120mg/dl 以上 LDL-C 140mg/dl 以上 LDL-C 120mg/dl 未満
他の危険因子(注3)(+)(TC 200mg/dl 以上) (TC 220mg/dl 以上) (TC 200mg/dl 未満)
C 冠動脈疾患
(+) LDL-C 100mg/dl 以上 LDL-C 120mg/dl 以上 LDL-C 100mg/dl 未満
(TC 180mg/dl 以上) (TC 200mg/dl 以上) (TC 180mg/dl 未満)
1)冠動脈疾患
)心筋梗塞,*狭心症,+無症候性心筋虚血(虚血性心電図異常など),
,冠動脈造影で有意狭窄を認めるもの
2)高コレステロール血症以外の主要な動脈硬化危険因子
)加齢(男性;45 歳以上,女性;閉経後),*冠動脈疾患の家族歴,
+喫煙習慣,,高血圧(140 and/or 90mmHg 以上)
,-肥満(BMI 26.4 以上)
,
.耐糖能異常(日本糖尿病学会基準,境界型,糖尿病型)
注 1:生活指導,食事療法は A,B,C,すべてのカテゴリーにおいて治療の基本をなすものである.
とくに A では,少なくとも数カ月間は,生活指導,食事療法で経過を観察すべきである.B で
は他の危険因子の管理強化で A に改善される例があることに留意する.
注 2:薬物療法の適用に関しては,個々の患者の背景,病態を考慮して慎重に判断する必要がある.
注 3:末梢動脈硬化性疾患,症状を有する頚動脈疾患や脳梗塞など,冠動脈疾患以外の動脈硬化性疾
患を有するものは,冠動脈疾患発症の危険性が高い群として他の危険因子がなくともカテゴ
リー B に含めて治療する.
c.高トリグリセライドの診断基準値
d.低 HDL- コレステロール血症診断基準値
トリグリセライド
(mg/dl)
高トリグリセライド
血症
150 以上
HDL- コレステロール
(mg/dl)
低 HDL- 血症
40 未満
(高脂血症診療ガイドライン検討委員会,1997 より)
N―363
2000年10月
(表2) 主な高脂血症治療剤
区分
成分名
製品名
用法・用量
主に高コレステロール血症に使用
陰イオン交換樹脂
スタチン
コレスチミド
コレバイン
コレスチラミン
クエストラン
プラバスタチン
メバロチン
10mg を 1 ∼ 2 分
重症:20mg まで可
シンバスタチン
リポバス
5mg を 1 回
重症:10mg まで可
フルバスタチン
ローコール
20 ∼ 30mg を夕食後 1 回
重症:60mg まで可
アトルバスタチン
リピトール
10mg を 1 回 重症:20mg まで可
FH 患者には 40mg まで増量可
セリバスタチン
プロブコール
プロブコール
1 日 3,000mg を分 2
1 日 8 ∼ 12g 分 2 ∼ 3
セルタ,バイコール 0.15mg を 1 回
重症:0.3mg まで可
ロレルコ
シンレスタール
1 日 500mg を分 2
FH 患者には 1 日 1,000mg まで可
主に高トリグリセライド血症に使用
フィブラート系
ベザフィブラート
ベザトール
1 日 400mg 分 2(朝・夕)
クロフィブラート
アモトリール
クリノフィブラート
リポクリン
1 日 600mg 分 3
フェノフィブラート
リパンチン
1 日 1 回 200 ∼ 300mg
EPA 製剤
イコサペント酸エチル
エパデール
1 回 600mg1 日 3 回(毎食直後)
TG 異常の場合 1 回 900mg を 1
日 3 回まで可
ニコチン酸
ニコモール
コレキサミン
1 日 750 ∼ 1,500mg 分 2 ∼ 3
その他
1 回 200 ∼ 400mg 1 日 3 回
が多いのでコンプライアンスに難点がありまた中性脂肪を増加させやすい.中性脂肪高値
に対してはフィブラート系の薬物が有効で約3
0
%低下させるが同時に H
D
Lをも増加させ
る.これらの薬剤は横紋筋融解を引き起こすことがあるので腎機能低下を伴う症例には投
与しない.また,C
P
Kなどによるモニターを必要とする.
《参考文献》
1
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g
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M
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9
9
5;2
2:1
9
3
―1
9
7
2
)中村治雄.高脂血症の治療法.産婦人科治療 1
9
9
8
;増刊号:2
5
3
―2
5
8
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