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はじめに チェルノブイリ原発事故の経験

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はじめに チェルノブイリ原発事故の経験
 資料1
第1回専門家ヒアリング
文部科学省3階1特別会議室
平成23年5月31日(火)14:00-16:00
はじめに
• 私は長崎,広島時代は原爆被爆者の治療,或いは調査研
究に従事しましたし、同時にチェルノブイリ原発事故の
際には,ソ連邦時代から最近の国際的なまとめの報告書
が出来るまで20年近く携わって参りました。
• したがって放射線防護の専門家と言うよりは,防護され
なかった被害者の治療,また調査研究に携わった専門家
という立場でお話したいと思います。
• 今日はお依頼の項目を、被害者の被害を最小にする、子
供達の被害を全体として最小にするための専門家の役割、
或いは義務について経験したことを中心にお話させてい
ただきたいと思います。
チェルノブイリ原発事故の経験
(1990‐91年の日本の新聞報道)
 世界最大の原発事故、10日間にわたって燃え続け、大
気中に原爆の何千倍もの放射性物質を放出した。
 放出された放射線物質は現地のみならず北半球全体に撒
き散らされた。農作物、動物も汚染された。
 事故によって原発内で数千人の人が亡くなり、放出され
た放射性物質により、周辺の数万人が亡くなった。
 多数の子供に白血病が広がり、奇形の子供が増え、人間
のみならず、動物、魚、植物の奇形が増えている。
1
笹川記念保健協力財団の調査団 1990年8月
チェルノブイリ調査団
1990年8月
2
62.3マイクロR/h = 0.623マイクロSv/h
(単位ミリシーベルト/時間)
ポケット線量計最低感度
0.001
東京―モスクワの飛行機
0.001-2
モスクワ滞在中
ゴメリ滞在中含高汚染地区
キエフ滞在中
キエフー東京の飛行機
感度以下
感度以下
感度以下
0.001-2
チェルノブイリ原発
発電所管理棟
感度以下
4号炉犠牲者記念碑の前
0.020
4号炉オペレーションルーム
0.030
4号炉発電機室までの最高値
2.000
4号炉発電機室
0.500
4号炉石棺の外
0.300
食堂
感度以下
原発訪問全体
(0.300/2時間)
3
何をすべきか
何が出来るか
(子供の健康に対する恐怖に対応が最重要)
対象:
事故当時10歳以下の小児
(男女5万人づつ)
10万人
被曝地を巡回してできるだけ多くの子供の健診
方法:
A.甲状腺疾患
長崎原爆被曝者の調査方法
世界の批判に耐える(超音波診断)
B.血液疾患
原爆被曝者の調査方法
C.被曝線量測定
対象者すべての体内セシウム137測定
ソ連邦科学アカデミーにおける討議
EUのミッション(含筆者)に多数の小児甲状腺癌患者の提示
1992年10月
ミンスク甲状腺研究所
デイミチク所長
4
チェルノブイリ事故10
チェルノブイリ事故10周年国際会議
周年国際会議
ウィーン
オーストリア
IAEA WHO EC
1996年
1996年4月8~12
12日
日
チェルノブイリ原発事故の人体に対する影響のまとめ
2006年のIAEA、WHOなど八つの国際機関と三共和国合同の発表
2011年2月の国連科学委員会(UNSCEAR)の報告書
急性影響 (原発内)
134人の職員ならびに消防夫は急性放射線障害を起こした。
 このうち28人は高線量の被曝により死亡した。
 このうちさらに19人が2006年までに死亡したが、死因は被曝との関係
は認められてはいない。
晩発影響-1(原発周辺で作業した人たち)
 24万人が汚染除去作業で、100ミリシーベルト被曝した。
 健康影響は認められない。白血病の増加も認められない。
晩発影響―2(原発外の周辺住民)
 11万4000人が強制疎開者で33ミリシーベルト被曝
 27万人は高線量汚染地居住で50ミリシーベルト被曝(>555kBq/m2)
 500万人は低線量汚染地居住で10-20ミリシーベルト被曝(>37kBq/m2)
 放射線に起因する健康影響のエビデンスはない
 例外は、汚染されたミルクを規制なしに飲んでいた被曝当時子供だった人た
ちの中から6000人以上という相当な数の甲状腺癌患者が発見されている。
(2006年までの死亡者は15人)
 精神的な障害(subclinical)が最大の健康影響 至急対策が必要
5
チェルノブイリの教訓
健康影響は説明のとおり
ソ連邦は崩壊
経済は壊滅状態
被曝と分類された人々(避難、転地、補償)の中から、
ストレス症候群(PTSD)で自立できない人が数百
万人と報告され、精神的影響が公衆衛生上の最大の被
害と結論されている
チェルノブイリ事故の教訓
国際的合意と専門家の役割・義務
 IAEA,WHOなど(20年目)UNSCEAR(25年目)のまと
めは、世界中の論文を世界の専門家が検討した結果で、
その検討の経過も示している。
 この合意に反対できる研究結果を持つ個人の研究者、合
意に反対できる科学的な論拠を持つ専門家はいない。
 十分に検討されていない個々の専門家の言動は社会を混
乱させることを実感した。議論は科学の場所で行い、社
会には科学的な合意を発表するのは専門家の義務である。
 合意は科学の進歩とともに変化する。放射線の影響に関
しては、科学的合意は国連科学委員会(UNSCEAR)、防
護の原則と体系に関する勧告は国際放射線防護委員
(ICRP)が代表的である。
6
防護されなかった被害者の被害を最小にする
子供達の被害を全体として最小にする事を目的とする
対応で前提とすべき国際的合意
UNSCEAR
 科学的に影響が認められる最低の被ばく線量は100ミリシーベルトであ
る。
 100ミリシーベルト以下の被曝の影響は不明である。しかし100ミリ
シーベルトの影響以上ではない。
ICRP
 放射線防護という観点から、放射線は出来るだけ浴びないほうが良いとい
う観点から、100ミリシーベルト以下も影響があるという仮説を採用し
ている。
 平常時(計画被ばく状況)公衆被曝 1ミリシーベルト/年(線量限度)
 緊急時(緊急時被曝状況)公衆被曝 20-100ミリシーベルト
(参考レベル)
 現存被曝状況
公衆被曝 20-1ミリシーベルト
(参考レベル)
UNSCEAR 2010
報告書
低線量の健康影響
日本の原爆被爆者の全ての癌を総合した結果が被曝線量と
発がんのリスクの関係を最も明確に示している。
発癌のリスクが統計学的に有意に上昇するのは100から200
ミリシーベルト以上である。疫学的な研究では,これらの
被曝線量以下で有意な上昇を示すことはないであろう。
7
被曝線量と発癌リスクは直線関係
(有意な影響は100mSv 以上)
発癌リスク
1.05倍
原爆
原爆
癌が1.5倍
ICRP
急性 1.0%増
ICRP
急性
癌死亡が10%増
ICRP
慢性
0.5%増
ICRP
慢性
癌死亡が5%増
100ミリシーベルト
1000ミリシーベルト
被曝線量
8
委員会が勧告する実用的な放射線防護体系は、
約100mSvを下回る線量においては、
“直線しきい値なし”仮説、
またはLNTモデルに
根拠をおく。
9
10
現存被曝状況
参考レベルは、予測線量1mSvから20mSvのバン
ドに通常は設定すべきである。関係する個人は被曝状況
に関する一般状況と線量の低減手段を受けるべきである。
胚及び胎児における放射線影響
委員会は、子宮内被曝後の癌リスクは、
小児期早期の被曝後のリスクと同様で、
最大でも集団全体のリスクのおよそ3
倍と仮定することが慎重である。
11
放射線の影響と防護の影響のバランス
ALARAの理念
放射線による具体的な被害
(放射線の影響として国際的に認められている被害)と
防護のための具体的な被害
(避難、家屋・財産の放棄、農業、漁業、工業の放棄)
(避難、集団転校、児童生徒等の日常生活の制限)
未曾有の緊急事態で事故は収束していないことを念頭に、
緊急事態の各段階に応じてきめ細かく、
周辺住民の被害を最小にすることを最大の目的として、
冷静に対応を考える
情報の開示と説明、そして住民とのきめ細かい対話
福島原発事故に関する日本からの発信
• 福島原子力発電所の事故はレベル7とな
り、何時収束するとの見込みもない前代
未聞(unprecedented)の出来事であり、教
科書はない。
• 原爆被爆者を持つ日本として、原子力災
害に関して世界に向けて理想的な対策を
発信できることを願っている。
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