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ROSEリポジトリいばらき (茨城大学学術情報リポジトリ) Title Author(s) Citation Issue Date URL 動物園を活用した中学校理科学習のための基礎的研究 豊田, 雅之 / 大辻, 永 / 利安, 義雄 茨城大学教育実践研究(22): 93-104 2003-10 http://hdl.handle.net/10109/12065 Rights このリポジトリに収録されているコンテンツの著作権は、それぞれの著作権者に帰属 します。引用、転載、複製等される場合は、著作権法を遵守してください。 お問合せ先 茨城大学学術企画部学術情報課(図書館) 情報支援係 http://www.lib.ibaraki.ac.jp/toiawase/toiawase.html 茨城大学教育実践研究22(2003)93−104 動物園を活用した中学校理科学習のための基礎的研究 豊田 雅之*・大辻 永**・利安 義雄** (2003年4月30日受理) Pote豊重iaH重y of ZOO for J臆nior Seco蹴dary Science君ducatio簸 Masayuki ToyoTA, Hisashi OTsuJi and Yoshio TosKiyAsu キーワード:動物園,ワークシート,理科教育,中学校 中学校理科学習での動物園の活用の実態を明らかにし,動物園を中学校理科学習で有 効に活用するための手立てとその有効性について考察した。そのため,動物園側の学校教 育に対する意識調査と,中学校理科教師用の動物園を活用することに対する意識調査を 行ったD。さらに実際に動物園で活用できるワークシートを作成し,中学校の理科学習に おける動物園の有効性を実践を通じて検証した。その結果,調査では中学校の理科学習で 動物園を活用していくための課題は(1)動物園を活用するためのケースに応じたワークシー トなどの充実をはかる必要があること,(2)教師の動物園に対する意識改革を進め,動物園 が学習の場であることを認識させること,(3)中学校理科教師と動物園のお互いの連携を更 に進める必要があることがわかった。ここでは,実際にワークシートを利用した教育実践 の報告を行う。 は じ め に 茨城県内には日立市立かみね動物園が存在する。かみね動物園は北関東一の大きさを誇る動物園 であり,飼育されている動物の種類も多い。かみね動物園は,中学校理科学習で十分に活用できる 施設である。しかし,今迄動物園が行ってきた教育活動は,中学生の職場体験のフィールドであっ たり,飼育体験,ふれあい教室といったイベント的なものが中心で,学校と連携したプログラムと いうものはなかった。本研究では実践の場としてこのかみね動物園を設定し,かみね動物園を中学 校理科学習で活用する施策として本教育プログラム数種類のワークシートを作成した。ワークシー トは,学習ガイド,ウオッチングガイド,クイズラリーの3種類を作成した。それをもとにいくつかの中学 校ならびに一般入園者,大学生に対して実践を試み,これからの動物園利用の基礎データとした。 *水戸市立赤塚中学校 **茨城大学教育学部理科教育研究室 一93一 茨城大学教育実践研究22(2003) 1.教育プログラムの提案とその具体例 (1)教育プログラムの提案とその具体例 今回の研究を進めるにあたって,3種類のワークシートを作成した。 (a)学習ガイド 学習ガイドは,博:物館などに良く見られるタイプの学習型パンフレットをイメージして作成し た。理科学習のみならず,総合的な学習の時間に活用することも可能である。 (b)ウオッチングガイド ウオッチングガイドは,動物それぞれについて観察の視点を提案するものである。図鑑的な資 料となり,動物園を生きている図鑑として活用できる。 (c)クイズラリー クイズラリーは,遠足などに活用できる。小学校低学年から成人まで幅広い年齢層に動物園を 楽しく活用する方法として提案できる。 かみね動物園の全体白地図が存在しなかったので,まず作成した(図1)。 (この白地図は,現在でも,かみね動物園で利用されている。) ミ鱒 Z 図1 かみね動物園全体地図 3種類のワークシートについて,具体的に説明する。 (a)学習ガイド(学習型ワークシート) まず,学習ガイドを作成するにあたり,中学校理科で学習する動物に関しての内容を検討した ところ,次のものが挙げられた。 2分野 (3)動物の生活と種類 ・動物の体のつくりと働きを理解する。 ・動物の種類やその生活についての認識を深める。 ・動物を観察,探求するときの視点やその方法を身につける。 ・食物のとり方,運動・感覚器官の発達,体の表面や呼吸の仕方の違いに気づく。 一94一 豊田・大辻・利安:動物園を活用した中学校理科学習 ・身近な動物の観察記録に基づいて,動物の特徴を 比較し,いくつかの仲間に分類し,動物界を概観 する力を養う。 今回の実践では,動物の分類すなわちセキツイ 動物の5分類と草食動物の分類をトピックに取り上 げた学習ガイドを作成した(図2)。 学習ガイドは,実践を行うごとに何回か改訂を繰 り返し改善した。 この学習ガイド作成にあたっては,三上(2001)2), 堀EEI(1978,1982,1991)3)・4)・5)などを参考にした。 かみね動物園スタディガイド IA鯉鋤鰹ξ灘 1 (b)ウオッチングガイド (図鑑的ワークシート) この隠争を持って,’かみね動物翻に嵩かけてみましょう1 灘鎌と色鈴籔があると便利で凱 ウオッチングガイドは各動物ごとに作成し,動物 tcs M工鯉碗亀 を観察するときの視点について明記した。これを活 俵r7勘嚥1継搬群轟…即}麟樋歎 用することで,動物を観察する際により深く理解す ることができ,科学的な思考を深めることにつなが 図2 学習ガイド る。 このウオッチングガイドには,動物のそれぞれに ついて英名・学名・分類名・生息分布・生息環境・ 食性・レッドデータを基礎データとして載せ,その 他にそれぞれの特徴・クイズなどを載せた。クイズ 糠鶏旦 一璽 は,解答を示さず,じっくりと考えてもらうための 手段とする。表裏で一枚の形式を取り,園内にある 燃 i黒総鶏1麟鱗___ 鱗名 愚臣燃綴雌舩聯 表示板を補完する。 鱒 ii議縛 熱霜 また,このウオッチングガイドは,学習ガイドの 解説になるよう作成した。ウオッチングガイドの内 容は,かみね動物園の飼育職員にも読んでいただい て,検討・校正し,かみね動物園ならではの情報を 葉欝曝 蝿 。コ liiiiiiE:Xlillii・一lff・・ii,.,lii.iiilllilXii.i,iiii・iil・IS 7ジンソ三碧蠣 E懸 が擁講恐妻悼ミ喰翻醜翻硲蒙戴が ”t い烹「t” 鎚い聴き.幽沼≧く叛揺る終い遼、、s 載せるように工夫した。ウオッチングガイドの例を ;隷・鷺鱒ダ勘霜鱒や索’.轟ゆ寧 図3に示す。 灘:朧戴紛織 動物を観察するときに大切なことは,観察の観点 陰暗:鳴 _・万尋磯 学漕手晒総 をしっかり持つことである。その意味で,この ウオッチングガイドは,動物園を博物心的に活用す 嫁3 ウオッチングガイド る一つの提案である。 将来的に,ウオッチングガイドはかみね動物園の すべての動物について作成し, 動物園入口に置いていただけるようかみね動物園側に提案する予 定である。入園者は, その日の目的や気分によってウオッチングガイドを何枚か選び,それを手 にして入園する。 一95一 茨城大学教育実践研究22(2003) (c>クイズラリー(ゲーム的ワークシート) これは,園内をクイズ形式でかみね動物園内を見 学してもらうものである(図4)。 クイズラリーは,静岡県の日本平動物園や広島県 の安佐動物公園などで作成されたクイズラリーが参 考になる。日本平動物園では,クイズラリーに取り 組んでおり,小学校用ではあるものの各学年別に数 種類のクイズラリーを作成している。安佐動物公園 では,中学生の学習目的の遠足が15年程前から続け られており,中学校との連携においては先進的な活 動を行っている。安佐動物公園のクイズラリーは, 遠足のパンフレット作りの中で,中学生が自ら動物 観察のポイントなどをクイズ形式にまとめている。 中学生が積極的に動物園での動物観察に取り組んで いるシステムは,非常に参考になる。 中学生の理科学習という意味では,このような 図4 クイズラリー ワークシートはやや遊び感覚に近く,適切ではない かも知れない。しかし, 動物園を活用する1っの工夫として提案した。 2。日立市立かみね動物園での教育実践 かみね動物園に特認した教育プログラムを実際に使用し,中学校理科学習で動物園を活用するた めの基礎的なデータとするために,以下の学校等を対象として教育実践を行った。 ・日立市立台原中学校 ・日立市痘疹王中学校 ・北茨城市立中郷中学校 ・一般入園者 ・茨城大学教育学部理科教育研究室ゼミ それぞれの実践において,本研究で作成した学習ガイドを活用した。中学校に対しての実践は, 基本的に各学校で生徒から希望者を募って行った。各実践においてはそれぞれ標本数が少ないため, 統計的な処理は行わなかったが,おおよその傾向はっかむことができた。それぞれの実践において 得られたデータは,今後の動物園を活用した中学理科学習の実践において重要な基礎データとなろ う。 (1)日立市立台原中学校での実践 日立市立台原中学校での実践は,平成13年7月末から8月末にかけて行った。1学期終業式終了後 に全校生徒に対して,夏休みの自由課題ということで参加希望者を募り,自由参加の形で行った。 一96一 豊田・大辻・利安:動物園を活用した中学校理科学習 用意したワークシートは40部あったものの,事前に十分な説明ができなかったため,1グループ(2 人)のみが動物園での活動の際にワークシートを使った。このとき用意したワークシートは学習ガ イドの第1稿で,一部に高校生物の内容を含んでしまうなど,中学生には難しい内容も盛り込んで いた。そのため動物への関心が非常に高い生徒だけが参加するという結果になってしまったと考え られる。これは最初に,ζちらの「教えたい」といいう意識が強くなってしまい,科学的には面白 いと思われる内容であっても,中学生には難しいものになってしまった結果だと思われる。この反 省を生かし,次回の実践(日立市立駒王中学校)に向け,学習を意識しないで動物園で動物を観察 させる工夫を取り入れた学習ガイドに改訂した。 実践を通じては,一般化はできなが,いくつかのことがわかった。生徒へのアンケートから「動 物の見方がとても変わった」と回答していることから,このパンフレットが彼らにとって動物の見 方を変えるのに有効だったことがわかる。感想に「いつもは見られないところまで見ることができ た」と書かれている。中学生ともなると,自ら動物園に行こうとする意識がかなり低くなると思わ れる。学習を意識しないで,動物園で動物を観察させる工夫が必要だと感じた。 (2)日立心立駒王中学校での実践 日立市立駒王中学校に依頼し,実際に複数の学習ガイドを使っての動物園見学を実施した。 日時:平成13年11月17日㈹午後!時30∼3時30分 対象:日立市立豪雨中学校科学部員9名(1・2年生) この実践では,日立市立台原中学校で使用した学習ガイドを改訂したものを使用した。改訂に際 しては,学習ガイドをタイプA(rほ乳類の分類と観察」),タイプB(「ひづめをもつ動物の謎を探 れ」),タイプC(「動物の生活の観察」)と3種類を新たに作成した(図5)。 ワークシートは,今までに作成したスタディガイドと改訂版スタディガイドを生徒の実態に応じ て1種類を選択して実践してもらった。 忌門鍵 警驚ヅA 纏総藻 磯纏蝿駅1 温血l! 〈ma> 認. タイヅ。 下縫終麟§廼趣罫蝋壕樋幣ζ脚 3・舞趣鰍“鵬説量影勲唾《夢磁讃St酬ヒ衡・ 拳轟糠㈱綿瀦學翼灘・伽黛無ゲB謡二凄驚 痢k轍縛御鰐パ’t 歯触鞭綜糊獅㈱ぎ繍辮鑓 らががへせお パゆゆ まやややまぬ ゆ もな / 転 舞 i・ smuNthsぐ・tOPi・櫛繍湖翻’・・aka、 囁 孟 鋤蹴eWfdi樋・椰韓. 騨餅嘱壇韓㎜鵡瀞轍穂娠昏夢 . 一 磨麗礁魯為艇峯譲癌轟驚㈱榔宥 図5 3タイプの学習ガイド 一97一 騨 茨城大学教育実践研:究22(2003) 実践実施後に生徒にアンケートを実施し,動物園での理科学習に関しての生徒の考えを把握する ことにした。 鮒切論感熱」う 腐り フぐつ 、、 アンケートの感想から “ういう謝診ハ}.木棘㌧3あと思態帳, ・もうちょっと動物を増やせば良 いと思う。 賦物Kゆ他遅朕密が・あう曝うし、瑚り 懲脇黙辮糟ブ:f’ ・ ”’(..x xろ’ら ・思ったよりパンフレットを使っ て楽しくできて良かったです。 ・とても面白かったです。 図6 感想の一例 ・またやりたいです。 ・楽しかったので, また機会があれば行ってみたいと思った。もう少し動物の種類を増やして欲 しい。 ・とても動物の種類がわかったのでとてもよかった。 ・もう少し,動物の種類を増やしてもいいと思う。 ・動物のいろいろなことが分かって楽しかった。 中学生にとって,動物園は遊びやレクレーションの場である。ワークシートを使って動物園で学 習をすることで,動物園での学習が価値あるものと再認識できたようだ。動物園での学習に,ワー クシートは有効であろう。 図7は,学習ガイドを使って動物を観察して いる生徒の様子である。この生徒の中には,小 学校4年生以来の動物園入園という生徒もいた。 図7に見られるように,じっくり観察していた。 この生徒の学習ガイドは,有蹄類のひづめの数 に着目したものなので,何とかひづめの数を数 えようとしている。おそらくこれらの生徒は, 今まで動物のひづめの数に着目して動物を観察 したことはなかったと思われる。学習ガイドを 活用することによって,動物観察の視点を生徒 に与えることができたといえよう。 図7駒王中学校での実践 引率していただいた四王中学校の古平先生か ら,次のようなコメントをいただいている。 「動物園も捨てたものではないですね。最初は動物園なんて子どもたちも飽きているだろうなあ, と正直思っていたのですが,子どもたちがこんなに楽しそうにしているので,来て良かったと思い ます。結構色々な発見があるんですね。こんなに近くに動物園があるのだから,もっと活用しなく てはだめだと思いました。次は,桜の咲く頃にお弁当を持って科学部みんなで来たいです。」 教師にとっても動物園は,学習ができる場とは思っていないのが現実である。しかし,適切な 一98一 豊田・大辻・利安:動物園を活用した中学校理科学習 ワークシートを用意することができ ;at」;;1‡w嘘諾の鞭爵を考丸響曝1、2う。甥勘,終藩もF雪いも畿諏あ㍉で扉訟 れば,動物園は動物観察教材の宝庫 一:el,}lv5,“si’か霞・簸・ぽ3壕」し㍉献帳瞳ゴみ議璽←看㌃ず苫. 畑《}es”taM=e.dt、ど穂詫と}轟搬雌囁“嚇瓢蟻μ㌔鱒麟2 s’St・ てくざおいロ u となる。この実践を通して,動物園 麟藷…い圃轡 囁 を活用するためには,まず教師の動 1 . 。___.∫._ 物園は十分学習できる場であるとい 姻び’緩・軌る鰍診エド&な姻を鮮いる騰い鯉卓㌧〔週嚇帰’縣懲 、 陛縫二}一一一・一一一一・き 冠ぎ・瓢響 う意識を変える必要があると感じた。 難輝納 i そのためには,ワークシートの充実 障獅㌔獅㈱厭姻馳騨聡塗酸き轡醗鰯撒み鵠出 が不可欠だが,まず教師が動物園で 遡窯ζノウ1鞘駄甑遡kL,.._、、_ _t. 働脳。・ミ嚇ル卸鰍 辱 実際に動物を観察する機会を増やす 1壷鰻 鑓 必要もある。そのための教師用パン フレットの作成も今後の検討課題と 図8生徒のワークシートー例 したい。動物園での学習はt机上の 学習ではなく体験型の学習である。 五感をフルに活用する教材として, より有効に使われるべきである。 ワークシートを使いながら観察する生徒は,ワークシートに載っていない新しい疑問を発見して いた。動物の匂いや動き,シカの角の形や足の形などである。学校の授業で学習していた内容を思 い出しながら,友達と答えあわせをするように観察する姿も見られた。筆者も一緒に歩きながら, 次から次へと出てくる生徒の疑問に対して,考えるヒントを与えていった。ヒントを与えられた生 徒は,動物に対してさらに目を向けてくれた。ワークシートも必要だが,横にいて生徒の問いに対 して適切なアドバイスを与えることができれば教育効果はさらに高まるであろう。 (3)北茨城市中郷中学校での実践 霞時:平成13年12月末∼平成14年1月 (冬休み期間中) 対象:北茨城市立中郷中学校1年生 北茨城市立中郷中学校1年生に,冬休みの自由課題として行った。ワークシートは,改訂版の学 習ガイドを70部用意した。実践後生徒達に対してアンケートを行い,9名から回答を得た。 アンケートの感想から 質問項目1 このワークシートを使ってみて,動物の見方が何か変わりましたか。 ・とても変わった。 ・まあまあ変わった。 質問項目2 このワークシートで難しかったところはどこですか。 ・ひづめの数を数えるところ。 ・マップを完成させるのが難しかった。 質問項目3 このワークシートを使った学習についての感想を書いて下さい。 ・いろいろな動物の生活や何を食べるのかなどが分かった。 ・シマウマのひづめが異常に長く思えた。このような学習は意外に楽しく,久しぶりに動物園を 一99一 茨城大学教育実践研究22(2003) 楽しめた。 ・いつもより動物園に行った気がした。知らないことが分かった。足のひづめは難しかった。次 も自分で考えたことを調べてみたい。 ・ワークシートを使って動物を注意して見ることができた。 の場としての意識が強く,今更改めて行って 麟蟹響 みようとは思わない施設である。今回,冬休 みの課題の一つとして提案し,動物園に行く 恩讐一・ で 機会を教師側から積極的に働きかけた。冬休 みの課題としたこともあって,生徒は積極的 糊幽鰍 継噸纏轍脚噸 ッ郷 にワークシートを活用した。ワークシートの 徴を注意してみることができた。パンフレッ M・・ご》亡欄糖鰍脾・厚㈱ ㈱ 効果的であろう。 蜘一鞭轡藩 中郷中学校の実践では,駒王中学校で使用 纏勾三編欝欝 課題が難しいと言っていた生徒も,動物の特 トの活用は,動物園を学習の場とするために @ 魁麟鴻轡轍㈱ つ ?、 ノ∠ 籔 動物園は,中学生にとって幼児向けの遊び 轍 嚇 A韓1瞭細密が鰺 したワークシートをさらに改訂し,生徒が記 s(ll:iJ 入する部分を多く取り入れ,より主体的に動 物を観察する工夫をした(図9)。このワーク シートでは,ひづめの形をスケッチし草食動 物を奇蹄目と偶蹄目に分け,それぞれの特徴 を理解する。これを通して,ひづめのある動 図9 生徒のスケッチ例 物が草を食べて生きているということに気づ かせるものである。 奇鳥目,偶蹄目という言葉は, 中学校の理科では出てこない言葉である。ワークシートは,ひづ めの形に着Hしてスケッチするようになってる。生徒のスケッチしたものを図に一例として示す。 これに見られるように,生徒はその違いをしっかり観察できている。 図のスケッチを描いた生徒は,奇二目に共通する特徴として「速く走る。ウマ類が多い」と,偶 蹄目に共通する特徴として「はんすうする動物が多い」と理解できた。それ以外の生徒でも「奇三 目に共通していることは,だいたいウマだった」「偶総目に共通していることはだいたいウシだっ た」と指i摘しているものがいた。 「ひづめがあるとどんなことに役立つと思いますか」というワークシート内の質問に生徒は,「歩 くスピードが速くなる」,「暑い砂漠などの砂を簡単に歩ける」など答えていた。ひづめの利点とし て,「石をふんでもいたくない」,「草原などで歩きやすい」などの答えがあった。教科書では,ひ づめの役割として「速く走るため」と説明している。ワークシートで観察の視点を与えられた生徒 はごく自然にひづめの役割を掴み取ることができた。教科書で教えることも必要だが,このように ワークシートを介して自らの力で課題を発見し,自分の考えを記録し理解していくという学習が動 一 100 一 豊田・大辻・利安:動物園を活用した中学校理科学習 物園では可能である。将来的には総合的な学習の時間に,動物園を活用することも期待できる。 中郷中学校での実践は,冬休みの自由課題として行った。学年単位で動物園に行くことができな くても,このような課題として生徒に与えることでも発展的な学習として有効だと感じた。平成14 年度からは土日が休日になっている。土日を活用した発展的な学習として,このようなワークシー トを活用した学習も有効である。 (4)一般入園者向けの実践 平成13年8月に,かみね動物園正門入口受付に置いてもらい,一般の入園者に配布した。アン ケートの回収率は極めて低く,配布したうち回収されたアンケートは5部門とどまった。アンケー トの項目は,三原中学校で使ったものと同じである。 本研究で扱うのは中学理科学習と動物園との関連であるが,予備調査として今回一般入園者向け に実践した。 動物園入り口にワークシートを置いたところ,あっという間にワークシートがなくなってしまっ た。しかし,ワークシートを手にしただけでほとんどの人が使用しなかった。動物園に入園する人 は,学習しに来るわけではない。学習用のワークシートをもらっても,使おうとしないのは明らか である。動物園は,生きた博物館といわれるように学習の場としても有効である。博物館には自由 に使えるワークシートが置いてある。動物園に,ワークシートがあっても良いという思いから今回 の実践を行った。将来的には,学習ガイドやウオッチングガイド,クイズラリーが数多く作成され, 動物園入り口で自由に手に取り,動物を観察しながら学習できるようにしたいと考えている。 今回使用したワークシートにインターネットの掲示板のURLを記載しておいたところ,ワーク シートを使用した人から投稿があった。今後,動物園を活用していく場合,インターネットの利用 も視野に入れていくべきだと感じた。 ⑤ 茨城大学教育学部理科教育研究室ゼミ 日時:平成13年11月1日㈲ 対象:茨城大学教育学部理科教育研究室の3・4年生7名 将来,理科の教師になる希望をもつ学生の考え方や意見を知るために実施した。以下の項目のア ンケートからは,動物園を活用する際の問題点など多くの意見を得ることができた。 アンケートの結果から「有効だと思う」,「有効だと思わない」という意見が半々に分かれた。有 効だと思う,とした理由は次の通りである。 ・中学校に限らず,どの歳でも学習の場としていいと思う。ただ少し専門的過ぎる内容もあるの で教材を厳選するのが難しい。 ・さまざまな種類の動物を自分の目でじっくり観察できるから。 ・動物園ヘレジャーで行くことはあっても,学びの場として行く事は少ないと思う。動物園に今 までと異なった気持ちで臨むことで,新しい発見のチャンスが増えると予想できる。そのため にも,目的意識を確かにしておく,事前指導が大切になると自分は考える。また,情緒に訴え 一101一 茨城大学教育実践研究22(2003) る気づきの場としても有効であると感じた。図鑑や映像では認知できない迫力を受けた。さら に迫力ある動物が橿の中で気力を失っているようにも見えるが,実際はどうなのかと考える機 会にもなると思う。今回のように,飼育員さんの話も貴重だと実感した。 ・動物園は誰もが行ったことがあり,とても身近な場所です。それでいて興味を引き出せるもの がたくさんあり,いろいろな角度から学べると思います。 「あまり有効ではない」とした理由は次の通りである。 ・動物のかわいらしさ,面白さ,迫力が大きく細部まで観察しづらい。 ・動物園ではどうしても学習という雰囲気になるのが難しいと思う。しかしいろいろな発見があ り,学習という形にこだわらなくても学ぶところはあると思う。 ・今回のように見て回るだけでは,学習とはいえないと思う。 ・初めは動物園を活用するのは,とても良いアイデアだと思っていたのだが実際に自分で動物園 に行ってみて,少し難しいと感じた。動物園に行くと,どうしても遠足気分になってしまい, 観察することを忘れてしまいがちになる。それを避けるためには事前指導が必要になると思う が,理科の授業の中でどこまで時間を割けるのかが少し疑問に思った。 その他の意見として,以下のようなものがあった。 ・一一 閧フ期間(1年くらい)継続して観察できるなら,生態の観察もできると思う。 ・とても楽しかった。私は日立市に住んでいて,動物園は近くなのでまた行きたい。また,普段 近くで見られないヒョウを近くで見せてもらってとても感動した。一つ一つの動物をゆっくり 見たので時間が足りないくらいだった。 ・なんか時間があっという間に過ぎてしまいました。いつも動物園に行ってもただ見るだけでし たが,「ここを見よう」というものがあったので(ひづめを描いていました)じっくり観察す ることができました。目的をもって見ると見方が変わり,いつもより多くのもの違うものが見 えて楽しいです。やっぱり双眼鏡を持っていけばよかったと後悔しました。 大学生の意見からは,次のような動物園の可能性をくみ取ることができた。動物園には大きな可 能性があるものの,今まで学習の場として整備されていなかった分,学習に活用する場合は事前指 導などの工夫が必要となってくる。可能性を十分に生かしきるためには,工夫が必要であり,その 工夫は動物園側と教師側の連携によってなされるべきであろう。 一102一 :豊田・大辻・利安:動物園を活用した中学校理科学習 3.まとめと今後の課題 (1)まとめ 実践と事後のアンケートから次のようなことが分かった。 ・動物園と中学校の連携は,今までほとんどなされていない。 ・動物園と中学校理科教師の両者は,動物園での理科学習が有効であると思っている。 ・ワークシートの活用は有効である。 動物園と中学校の連携は今までほとんどなされていなかったが,双方とも学習の場としての可能 性を認識しているということが分かった。しかし,現状では動物園側としては施設の不備,教育担 当者の不在,教育プログラムの不在などの理由から積極的に学校教育との連携を図ってこなか5た。 動物園も最近は環境教育に積極的に乗り出しているところも多い。今まで中学校との連携では,進 路学習の一環としての職場体験学習を行っている園が多い。動物園側としては,職場体験だけでは なく環境教育などの場として動物園を活用してもらいたいという気持ちもある。動物園は小学校の 遠足として活用されてきた。そのため,小学校向けのコンテンツをそろえている園は多い。動物園 は中学校,高等学校でも活用できるとし,実践を重ねているものもあるが,まだ少数である。新学 習指導要領では,動物園の活用も奨励されている。しかし,そのことを知らない動物園もある。動 物園を活用するかぎは教師にかかっている。 中学校教師としては,動物園は小学校での遠足というイメージが強く,学習の場という意識は低 い。しかし,新学習指導要領で示されているように動物園は学習の場である。動物園を十分に活用 することが今後の課題である。現状では動物園には,中学生向けの教育プログラムはない。動物園 側の多くが,教師のリーダーシップで学習を進めてもらいたいと希望していることを考えると,教 育プログラムは教師側で作成する必要がある。教師だけでは,特定の動物園に特化した教育プログ ラムを作成することは困難であるから,動物園との連携が重要になってくる。また,中学生が動物 園に行っていないのと同様に教師も動物園には行っていない。動物園でじっくり動物を観察する体 験が,動物園を活用していこうとする意識を高める。 動物園を学習の場とするためには,教育プログラムが必要である。本研究では,教育プログラム として,学習ガイド,ウオッチングガイド,クイズラリーを作成し実践した。これらの教育プログ ラムは実践者の反応より有効なことが実践により明らかになった。学習ガイドを使って動物園で動 物を観察した生徒はt動物を見る視点を学習ガイドによって与えられ,今までとは違う見方で動物 を観察した。学習ガイドの活用は,生徒に動物の観察を通じて,観察から推論へとの科学的な視点 を与えた。学習ガイドの作成にあっては,教師と動物園がお互いに連携を取り合うことが必要であ ることがわかった。 (2)今後の課題 最後に将来像としての課題を述べたい。 今後かみね動物園に特化した教育プログラムをさらに作成し,単元計画の中で実践したい。広 島市安佐動物公園では,中学生自らが遠足で使う動物園用のパンフレットを作成し学習している。 かみね動物園でも同様なシステムを作り上げ,「生きた博物館」としての動物園をより有効に活用し 一103一 茨城大学教育実践研究22(2003) ていきたい。 また,インターネットを活用した動物園との連携も視野に入れ,動物園と中学校理科学習の連携 について研究を進めていきたい。 動物園は理科学習ばかりではなく,社会科や道徳,総合的な学習の時間に活用できる施設である。 教科を越えたさまざまな可能性を探っていきたい。 4.引 用 文 献 1)豊田雅之,動物園を活用した中学校理科学習のための基礎的研究,茨城大学大学院教育学研究 科修士論文(2002). 2)三上周二『動物園でウオッチング』こどもの未来社(2001). 3)堀田 進『動物園で学ぶ進化』東海大学出版会(1978). 4)堀田 進r続・動物園で学ぶ進化』東海大学出版会(1982). 5)堀田 進『動物園見学ハンドブック』東海大学出版会(1991). 一104一