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大地震時における免震建物の安全性向上に向けた研究
名古屋大学大学院 環境学研究科 都市環境学専攻
博士課程前期課程 2 年 福和研究室 天埜 貴仁
○NRI ◎LRB
33.5m
23.3m
67.5m
☐弾性滑り支承
N
✚CLB
33.5m
移設@1Floor
RDT
6.1m
強震計
図1
対象建物概形と免震層伏図
Period[sec]
▲推定した 1 次固有周期
2.1
1.8
1.5
1.2
0.9
0.6
0.3
0
10
図2
周期比
(上部周期/免震周期)
○推定した 2 次固有周期
T=0.0185H
0
20
T=0.0058H
30
40
Height[m]
50
60
70
微動記録から推定した固有周期と
建物高さの関係
●免震層変形 0.01cm 以上
▲免震層変形 0.01cm 以下
1
0.9
0.8
0.7
0
10
図3
応答増幅度
1. はじめに
近年の地震被害の多さから、免震建物の物件数は急増
し、当初は中低層建物への適用が一般的であったが、21
世紀以降には、高層免震建物(60m 超)も建設され始め
た。現在、大臣認定を受けた免震建物の 1 割強が高層免
震建物であり、その多くが共同住宅、居住性の要求から
RC 造が多い。共同住宅では区分所有の問題から観測の
制約が大きく、強震観測例が少ない。そのため、高層免
震建物の大部分を占める RC 造高層免震建物において地
震時・平時の振動挙動を把握することの意義は大きく、
次なる巨大地震時の被害軽減につながるものである。
一方で、設計用入力地震動は年々巨大化し、国の想定
では 1G を超える地震動や長周期長時間地震動が発表さ
れている。それらは通常の設計レベル以上の地震動もあ
り、免震層変形は増大する傾向にある。免震建物を安全
に保つためには、免震層変形が極めて大きくなる際に応
答抑制をする事が必要である。また、1G を超えるような
入力地震動は入力損失効果により入力が低減されるため、
実際どのような地震動が建物に入力されるかを適切に求
めることは重要である。
上記の課題を満足するために、建設中の RC 造高層免
震建物を継続的に観測することにより、建設に伴って振
動特性がどのように変化するかを通して、詳細な振動特
性について検討する。さらに、建設時期の異なる有効入
力動を平均化することで、基礎入力動の推定を試みる。
また、TMD を用いて、長周期長時間地震動に対して、免
震建物の応答抑制の効果について検討を行う。
2. 建設時の継続的観測に基づく高層免震建物の振動特
性の把握
2.1 観測対象建物概要
対象建物の完成時の概形を図 1 に示す。建設地点は名
古屋市中心部であり、地盤種別は第 2 種地盤相当である。
対象建物は基礎と 1 階の間に免震層を有する基礎免震建
物であり、用途は共同住宅である。上部構造物は高さ 60m
を超える高層建物であり、RC 造ラーメン構造で 21 階建
である。免震装置には天然ゴム系積層ゴム(NRI)、鉛プ
ラグ入り積層ゴム(LRB)、直動転がり支承(CLB)、弾
性滑り支承、減衰コマ(RDT)を用いており、免震層の
復元力特性は非線形となる。完成時における CLB の転が
り始め変形は 0.01cm、弾性滑り支承の滑り始め変形は
1cm、LRB の初期降伏変形は 2.86cm である。図 1 より、
強震計を免震ピット、1 階、地表に常設し、上層階は建
設の進捗に併せ上層階に移設させて地震観測・微動計
測・人力加振実験を行った。微動記録は建物高さ 6 階時
から計測を始め上棟時まで計測を行った。地震記録は、
計 25 の地震記録を収録でき、マグニチュード 3.5(三重
県北部の地震(2013.02.19))から 8.2(サハリン近海の
地震(2013.05.24))の規模の地震が含まれている。人力
20
16
12
8
4
0
0.7
20
30
40
Height[m]
50
60
70
周期比と建物高さの関係
19階
0.009
11階
0.035
19階
0.002
10階 15階 0.006 15階 0.004
0.001
14階 R階 0.027
0.003
0.8
0.9
周期比(上部周期/免震周期)
1
図 4 周期比と応答増幅度の関係
(プロットした点付近の値は免震層変形量[cm])
加振実験は計 3 度行った。以後の分析では、得られた記
録を建物高さ・免震層変形との関係から考察を行う。
2.2 建設段階における振動特性の変化
図 2 に微動記録から推定した固有周期と建物高さの関
係を示す。図 2 より、微動時では固有周期は建物高さに
対して、ほぼ原点を通る直線上に乗っていることが分か
る。推定した 1 次固有周期への回帰直線は T=0.0185H と
なった。これは微動時における非免震の高層建物を対象
とした既往の研究 1)(RC・SRC 造で T=0.015H)と比較
しやや長めの結果となったが、上部構造物が純ラーメン
構造であり、通常の耐震建物と比較し耐震要素が少なか
ったためと考えられる。また、非免震の RC 造高層建物
では 2 次固有周期は 1 次固有周期の 1/3 程度である。本
50
40
30
20
10
Height[m]
60
50
Height[m]
60
50
40
30
20
10
40
30
20
10
0
0
0
0
0.5
1
0
0.5
1
0
0.5
1
(a)地震時
(b)微動時 (c)人力加振実験時
図 5 建物高さとモード形の関係
H0
× H (1)
m0
大変位時の
免震周期
初期剛性での
免震周期
T=αH
H 0 : 基準階の階高
図6
Damp. ratio[%]
m0 : 基準階の質量
10
8
6
4
2
0
0
Height
免震層変形と上部周期・免震周期の
建物高さに対する関係の模式図
0.005 0.01 0.015 0.02 0.025 0.03 0.035 0.04
Dis[cm]
図7
免震層変形と減衰定数の関係
500
Q.[kN]
Q.[kN]
2000
0
-2000
-0.04
0
-500
-0.01
0
0.04
Dis.[cm]
建物高さ 11 階
(32.3m)
500
0
0.01
Dis.[cm]
建物高さ 15 階
(44.9m)
2000
Q.[kN]
Q.[kN]
実測記録
0
-500
-0.01
0
最小二乗近似直線 -2000
0
0.01
-0.04
0
0.04
Dis.[cm]
Dis.[cm]
建物高さ 19 階
建物高さ R 階
(57.5m)
(67.48m)
図8
免震層全体の剛性の変化の様子
●EW
4
6 10
剛性[kN/cm]
となり、建物高さ H の 1/2 乗に比例するためである。設
計資料を基に、両者の周期比が 1 となる階数を求めると、
免震層変形が微小変形時には建物高さ 12 階(38.5m)で
周期比が 1 となり、式(1)と図 3 より実測で得られた結
果が良く対応している。図 4 より周期比が大きい所では、
建物高さが高い方が上層階での応答増幅度が大きい。ま
た、周期比が大きくても免震層変形が大きい所(建物高
さ R 階時)では応答増幅度が小さい。これは免震層変形
が大きくなることで、地震のエネルギーを免震層で吸収
したためである。
地震記録及び微動記録、人力加振実験記録を用いて 1
次モードのモード形の変化について検討する。図 5 にモ
ード形を示す。図 5 より、建設の進捗に伴い上部構造物
の応答が相対的に大きくなっている。これは式(1)でも
示したように階数が増えるに従い、上部周期と免震周期
が近接し、上部構造物の応答が相対的に大きくなるため
と考えられる。しかし、免震層応答が大きくなると、免
震層変形が卓越するようなモード形となるため、免震周
期が長周期化し上部構造物の応答が抑制されている(図
6)。地震時と微動時・人力加振実験時での応答性状の違
いはこれを示唆している。また、建物躯体完成時(67.48m)
には、中間階にもセンサーを設置し微動計測・人力加振
実験を行った。図 5(b)(c)より、中間階は上層階と 1
階を結ぶ線上に位置しており、逆三角形モードが卓越し
ている。これは、図 2 より T2=1/3T1 となっていることか
らも説明できる。
減衰定数は免震層変形に依存していると考えられる。
図 7 に免震層変形と減衰定数の関係を示す。図 7 より、
免震層変形に対する振幅依存性が確認され、免震層変形
が 0.1cm に満たない小地震動でも減衰定数の増大が見ら
れ、免震建物として挙動していることが分かる。
建設が進むに従って免震装置に加わる面圧は増加する。
面圧の変化に伴い免震層の剛性がどのように変化するか
について検討する。図 8 に地震時における免震層全体の
●免震層変形 0.01cm 以下
70
60
Period
T1 αH
k
=
×
=β×
2π
T2
m
▲免震層変形 0.01cm 以上
70
70
Height[m]
対象建物では、2 次固有周期は 1 次固有周期の 1/3.2 であ
り、通常の RC 造高層建物と同様である。以上より、微
動時はやや周期は長めであるが、非免震の RC 造高層建
物と同様の振動特性であることが分かる。
地震記録を用いて、上部構造物の 1 次固有周期(上部
周期)と免震層で定まる周期(免震周期)の関係につい
て検討する。図 3 に周期比(上部周期/免震周期)と建物
高さの関係、図 4 に周期比と免震ピットに対する上層階
の応答増幅度の関係を示す。上部周期は上層階/1 階のフ
ーリエスペクトル比より求め、免震周期は 1 階/免震ピッ
トでのフーリエスペクトル比より推定した。図 3 より、
周期比は建物高さが高くなるに伴い大きくなり、40m を
超えた辺りからほぼ一定値となる。これは周期比が
4 104
0.006cm 0.009cm
0.027cm
0.035cm
2 104
0
▲NS
0
10
20
30
40
Height[m]
50
60
図9
免震層全体の剛性と建物高さの関係
70
力―変形関係を示す。また、力―変形関係から最小二乗
近似により求めた近似直線の傾きを剛性とし、剛性と建
物高さの関係を図 9 に示す。図 8 より免震層の剛性は建
物高さ 11 階・R 階時に小さいが、図 9 より建物高さに対
3
3
▼
2
Amp.
1
0
0
2
4 6 8
Freq.[Hz]
▼
1
0
10
▼
0
2
10
(b)S 造 10 階
(a)PCaPC 造 7 階
図 10
4 6 8
Freq.[Hz]
非免震建物での有効入力動の例
(▼は固有振動数)
平均化に使用しない振動数帯
上層階/免震ピットの FS 比
基礎/地表の
基礎
地表の FS 比 100
100
10
Amp.
1
0.1
0
0.1
0
2
4 6 8 10
Freq.[Hz]
(a)建物高さ 11 階
図 11
1
4 6 8 10
Freq.[Hz]
(b)建物高さ R 階
2
平均化の方法
0
10
Depth[m]
20
30
40
50
0
図 12 基礎入力動の
解析モデル
500
Vs[m/s]
図 13 建設地における
地盤の VS 分布
P2
P2
P2
P1
P1
P1
P3
P3
1.5
P2
P2 P2
P2
P2
P2
推定した基礎入力動
P2
図 14 杭伏図
表 1 杭諸元
種類
P1
場所打ち
P2 鋼管コン
P3 クリート杭
I
減衰h
鋼管厚
[mm]
[kN/m 2 ]
[m 4 ]
[%]
杭長
[m]
2400
17
3.8*10 7
1.6286
3.0
29.9
1900
14
3.8*10 7
0.6397
3.0
29.9
12
7
0.2485
3.0
29.9
3.8*10
1
0.5
0.5
理論解析解
E
杭径
[mm]
1500
1.5
1
Amp.
Amp.
10
Amp.
Amp.
2
▼
する明瞭な傾向は見られない。一方、免震層変形に着目
すると免震層全体の剛性は免震層変形に対する振幅依存
性がある。しかし、免震層変形が同程度の際は、剛性は
ほぼ同値であり、建物高さが増加しても剛性は大きく変
化していないことが分かる。
3. 実測記録に基づく基礎入力動の推定
巨大化する地震動に対し、建物への真の入力である基
礎入力動を推定することは有意義である。しかし、実測
記録を基に有効入力動(基礎/地表のフーリエスペクトル
比)を求めると、通常の非免震の建物では上部構造物の
慣性力の影響で、入力損失効果が不明瞭となる(図 10)。
一方、免震建物は基礎と上部構造物の間に免震層を有す
るため上部構造物の影響が伝わりにくい。更に、建設時
に継続的に観測・計測を行うため、上部構造物の固有振
動数は変化する。そのため、建設時期の異なる有効入力
動を平均化することで、上部構造物の影響を除いた基礎
入力動を推定できると考え、以下で検討する。
有効入力動を振動数領域で単純に平均化するだけでは
上部構造物の影響を排除しきれない。そのため、上層階/
基礎のフーリエスペクトル比から上部構造物の影響して
いる振動数帯を求め、その振動数帯を除外して平均化を
行う(図 11 参照)。また、基礎入力動は地震時に重要な
要因であり、実体波が卓越する地震記録から推定するこ
とが望ましい。しかし、地震記録は容易に収録すること
ができないため、本手法の汎用性を高くするため、微動
記録を用いて上記の検討を行う。
本手法の妥当性を検討するため、理論解析解との比較
を行う。理論解析解は対象建物において地盤・杭・根入
れ部分を考慮してモデル化し、薄層要素法と有限要素法
をフレキシブルボリューム法で組み合わせた方法により
基礎入力動を計算した。図 12 に解析モデル、図 13 に建
設地の VS 分布、図 14 に杭伏図を示し、表 1 に杭諸元を
示す。解析モデルについては、杭を梁要素でモデル化し、
基礎については六面体ソリッド要素で無質量の剛体とし
てモデル化した。本手法により推定した基礎入力動と理
論解析解を図 15 に示す。
図 15 より本手法で推定した基礎入力動と理論解析解
との対応は非常に良く、微動記録を用いても、適切に基
礎入力動を推定でき、本手法が妥当であることが分かる。
4. TMD を用いた免震建物の地震時の応答抑制効果
現在、免震建物において、多く用いられている積層ゴ
0
0
1
2 3 4
Freq.[Hz]
(a)EW 方向
5
0
0
1
2 3 4
Freq.[Hz]
(b)NS 方向
図 15 本手法により推定した基礎入力動と
理論解析による基礎入力動の比較
5
μ=
3μ
8(1 +μ) 3
M
K H
主振動系諸元
主振動系
4900t
K
75kN/cm
H
30%
T
5.0sec
Acc.[cm/s/s]
図 16 TMD を用いた
応答解析モデル
500
250
0
-250
-500
チューニングした波形
0
100
200 300
Time[sec]
400
500
1000
チューニング前の波形
(2)
m
k
,ϖ 1 =
,ϖ =
M
m
M
主振動系
100
チューニングした波形
10
0.1
K
M
入力地震動は、名古屋大学東山キャンパスでの南海ト
ラフの巨大地震における模擬地震動で、5%擬似速度応答
スペクトルの卓越周期が 5 秒となるようにチューニング
した地震動を用いる。その際、入力エネルギーが一定と
なるよう、速度を保存してチューニングする。入力波の
時刻歴波形と 5%擬似速度応答スペクトルを図 17 に示す。
図 18 に質量比と免震層変形の応答比、上部構造物での
応答加速度の応答比を示す。尚、応答比は TMD を用い
ない主振動系のみのモデルでの応答値との比である。図
18 より、TMD を用いることで、免震層変形・上部構造
物での応答加速度ともに低減できる。その効果は TMD
の質量比が大きい方が高いが、質量比 25%でも応答低減
効果は 7 割程度である。これは、主振動系が減衰定数 30%
と減衰定数が大きかったためである。
5. 結論
免震建物の安全性を向上させるために、振動特性が詳
細に分析されていないが、建設数が多い RC 造高層免震
建物の振動特性について、建物高さ・免震層変形との関
係から考察した。得られた知見は免震設計の基礎資料と
なるが、RC 造高層免震建物の振動特性において、普遍
性を有している結果とは言えない。そのため、免震装置・
建物高さ等が異なる他の建物での更なる検討をすること
により、評価が可能となる。また、建設時期の異なる有
効入力動を平均化することで、適切な基礎入力動を推定
できることを示した。基礎入力動を容易に推定できるこ
とで建物への真の入力を求めることができ、今後の建物
0.5 1
2
5
Period[sec]
図 17 入力波の時刻歴波形と
5%擬似速度応答スペクトル
0.2
10
1.5
応答比
h =
k h
1
0.5
0
5
10
15
質量比[%]
(a)免震層変形との関係
1.5
応答比
ϖ1
1
=
ϖ 1 +μ
表2
m
TMD
PSV.[cm/s]
ム+履歴型ダンパによる免震システムでは、免震層の復
元力特性がバイリニアのような非線形性状を示す。その
場合、免震層を含む建物全体の等価周期は免震層変形に
依存して変化するため、立地地盤と共振する時間が存在
する。そこで、免震層の復元力特性を線形とし、地盤と
の共振を避ける免震システムを考える。風揺れ対策と長
周期長時間地震動時の応答低減効果を目的として、TMD
を採用し、TMD による応答低減効果について検討する。
主振動系に TMD を 1 基取り付けたモデルを解析モデ
ルとする(図 16)。主振動系の固有周期は 5 秒、減衰定
数を 30%とする(表 2)。TMD の固有周期、減衰定数は
Den Hartog・Brock による最適同調条件・最適減衰条件式
2)
より算出する(式(2))。式(2)より TMD の固有周期・
減衰定数は TMD の主振動系に対する質量比で一意に定
まることが分かる。そのため、TMD の質量比は重要なパ
ラメータとなる。超高層建物などに TMD が用いられる
場合、質量比は 1%程度であるが、地震時の大きなエネ
ルギーを吸収するため、質量比を 2~25%まで変化させ
てパラメトリックスタディを行い、質量比との関係を定
性的に評価する。
20
25
1
0.5
0
5
10
15
20
質量比[%]
(b)上部構造物での応答加速度との関係
図 18
25
質量比と主振動系との応答比の関係
解析モデルの精度向上に貢献すると考えられる。
TMD による免震建物の応答抑制については、質量比を
大きくすることで応答低減の効果は増大したが、減衰定
数の大きい建物に対しては効果が薄いことが分かった。
参考文献
1)日本建築学会:建築物の減衰,2000.10
Vibrations,4th
2)J.P.Den Hartog:Mechanical
Edition,McGraw-Hill,1956
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