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SNS について教師が知っておくことは何か―ATOM2013
年次大会課題研究K3-4, pp.125-128.(2013.10.13長崎大学) 第20回日本教育メディア学会 SNS について教師が知っておくことは何か―ATOM2013 での SNS 教員研修ワークショップを通して― Social Media ‘ What teachers need to know about social media, teenagers and education’: ATOM2013 Pre-conference Master Class 和田正人 Masato WADA 東京学芸大学 Tokyo Gakugei University 要約:本研究では,教員がSNSについて何を知っておくべきかについて,ATOM2013の 大会で開催された,現職教師へのワークショップを紹介することで,SNSについての教 員研修の資料を提供する。そこでは,ツイッターのビッグデータを利用した政治分析や SNSの 生 態 学 , SNSのプ ラ ッ トフ ォ ー ムや 利用 実 態 調査 , さ らに マス メ デ ィア に よ る SNSの利用方略,またSNSにおける法律問題としてのプライバシーや著作権,SNSを利 用したゲームによる職業教育などの話題が提供された。SNSの問題点について,教師が 知識を共有することで,SNSを教育に使うことへの意欲を増加したことが伺えた。 キーワード: SNS, 教員研修, ATOM 1. はじめに 本論文は,オーストラリアのクイーンズランド 工科大学(QUT)で開催されたATOM(Australian Teachers of Media)2013大会による,現職教師へ のワークショップ「ソーシャルメディア:教師は ソーシャルメディアと10代の若者と教育につい て何を知る必要があるのか(Social Media ‘What teachers need to know about social media, teenagers and education)」を紹介して,日本に おけるソーシャル・ネットワーキング・サービス (Social Networking Service, SNS)についての教 員研修の資料を提供するものである。 SNS と教育に関する研究は,2013 年では 226 件 一方 SNS 利用における青尐年のトラブルやその 対策についての研究論文は,大学生を対象としたも のが多く(4) (5) (7),児童生徒を対象とした研究は尐な い(6)。 そうした中で,総務省は,インターネット利用の 実態と安全性の認識について 2013 年9月に高校 1 年生に調査を行い,2012 年度に比較してインター ネットリスク対応能力の向上が見られるとした(8)。 しかし,この調査で注目されたことは,高校生の 84%がスマートフォンを所持しており,そのうち 54%が毎日 2 時間以上使用していることであった。 あり,SNS 利用教育システム開発,SNS と情報モ その半年前の総務省の調査では,スマートフォンだ ラル,SNS の児童生徒の利用実態などとともに, けで SNS を毎日利用している高校生は 51.2%であ 31 件の SNS 活用授業実践の研究がある。(1) り,その利用者は平日には SNS を 44.3 分見て 34.3 こうした中で,教師向けの SNS の活用事例や活 分書き込んでいることを明らかにしていた(9)。した 用術の読み物が出版され(2),高等教育でも SNS を がって,SNS をスマートフォンで利用する高校生 活用している実践がまとめられ(3),教育現場では も増加していると考えられ,高校生も手軽に利用す SNS の利用がさらに増加すると考えられる。 る SNS が,社会一般でどのように利用されまたど のような問題を抱えているのかということも教師 が知ることにより,SNS 利用の際に生じる問題に より広い視野を持って対処できるようになると考 えられる。 ビッグデータは,NHK が,7月の参議院選での ネット選挙運動で使われた SNS のツイッターのデ ータの分析を報道するときに, 「ネットに存在する 2.本論文の目的と方法 本論文は,はじめに,で明らかになったように, SNS の 一 般 的 知 見 を 教 員 が 知 る た め , ATOM2013大会主催のSNSについての現職教師 へのワークショップを紹介して,SNSの教員研修 の資料を提供することを目的とする。 膨大な情報」(11)と簡単に説明したことで,人々が知 るようになった。より詳細には,Schnberger,V. & Kenneth (12)は「小規模ではできないことを大規模 で実行することで,新しい洞察を抽出したり新しい 形式の価値を創り出したりして,市場,組織,市民 と政府の関係等を変えること」と定義している。 3.ワークショップの内容 また,ブランズは雇用の変化とともに,SNS の SNS についての教師向けのワークショップは, 利用は社会経済的指標と関連があり,SNS をより クイーンズランド工科大学のクリエイティブ・イン 多く利用する人はより富んでいく,という現象があ ダストリーズ・イノベーション(CCI)学部において, るのではないかと指摘した。さらに,メディアの主 同学部の 6 名の講師によって実施された。ワークシ 題クラスターを示した(図 2) (13)。 ョップの主催者の Michel Dezuanni は,オースト しかし,この ラリアのメディア教育に関連する教師も SNS につい 図は現職の教 て教育以外の視点から考えることも重要であると 員にとっては いう趣旨のために,ワークショップの内容と講師を 見慣れない図 選んで開催した。参加者は 25 名の教師であり,内 らしく,教員か 訳は小学校教諭,中等学校の英語,メディア,芸術 らの質問にブ 科の教諭と司書教諭であった。順番に説明する講師 の話を教師たちは聞きながら随時質問をする形式 であった。 図 2 メディアの主題クラスター ランズが図の 項目を詳細に説明した。 また,SNS と社会の生態学を説明して,マイク ロシステムでは@返信,メソシステムではフォロワ (1) オーストラリアのツイッター ーのネットワーク,マクロシステムではハッシュタ Dr. Axel Bruns(アクセル・ブランズ)は,ツイ グであることを示した。最後に,本人も参加してい ッターと政治の関係を説明した。オーストラリアの る研究成果のサイト(14)を示して,SNS でのビッグ 首相であるギラードとケビンの交代に伴うツイッ データを利用してどのような研究が行われている ターのフォロワー数の変化を,ビッグデータから説 かを紹介した。 明した(図 1)(10)。 (2) SNS の基盤研究 Jean Burgess(ジャン・バージェス)は SNS の 基盤研究について説明した。 基盤(platform)とは構造的(architectural), 比喩的 (figurative),政策的(political)の定義(15)に,コン ピュータによるもの(computational)が加わるこ とを紹介し,これが SNS の基盤研究にも使えるこ 図 1 首相についてのツイッター数の変化 とを示した。さらに SNS としてツイッターとフェ (4) SNS と法律 イスブックとフリッカーの違いを考える際には,内 Dr. Nicolas Suzor (ニコラス・シザー) と助手の 容と接続,創造と消費,親密と公共,という 3 つの Ms Jacinta Buchbach(ジャシンタ・ブーフバッハ) 次元で考えることが重要であると介した。またユー は,法律の専門家として話した。 チューブの変遷を 2005 年から現在まで示し,教員 ブーフバッハは,労働現場での SNS とリスクに も SNS の変化を注意深く見ていくことが必要なこ ついて説明した。そこでは,SNS を使う仕事が増 とを示し,教員も生徒の SNS の利用の変化につい えているために,労働者のプライバシーと仕事の境 て質疑応答を行った。 界があいまいになったために,労働者の権利と仕事 さらに Sensis Australia(のイエロー・ソーシャル が対立することを示した。事例として,CEO のリ メディア・レポート(16)を示して, SNS の推移や SNS ン ダ ・ イ ー グ ル が , 退職 後 に , 会 社 が 彼 女の 利用実態について,教員に資料を提供した(図 3) 。 LinkedIn(リンクトイン)のアカウントとパスワー ドを,後任者のものに無断で替えた裁判を挙げた(17)。 また,学問的な評価とオンライン上での評価の問題, オンライン教師の地位などの問題があるとした。 ゴールドスミスは,SNS での内容規制について 説明した。例えば IPS のフィルターや証券投資委員 会の 25 万の Web サイトのブロック,PRISM とい う SNS 監視プログラムを説明した。さらに著作権 は会社が決めというキャンペーンが SNS を使って 図 3 SNS の利用実態(SensisAustralia,2013) (3) SNS の利用調査 行われていることを指摘した。 (5)SNS と職業 Ben Goldsmith(ベン・ゴールドスミス)は,SNS Dr. John Banks(ジョン・バンクス)は,職業と のオーストラリアでの利用実態を説明した SNS を しての SNS のゲームを中心に説明した。市内のハ 利用した公共広告として,メルボルン鉄道会社がユ ーフブリックス・スタジオが製作したゲーム,フル ーチューブで公開した,Dumb ways to Die(ばかな ーツ・ニンジャを例にとり,SNS 用のゲームを制 死に方)を示した。この動画は教員も生徒もよく見 作することが職業と結びついたことを説明した。教 た動画であり,教員からもこの動画の感想や児童生 員はフルーツ・ニンジャについて生徒の楽しむ様子 徒の反応について発言があった。 や忍者のコスプレをしている生徒についての経験 次に,SNS の利用調査から,オーストラリア人 を述べた。またバンクスは,スマートフォンを利用 の 65%が SNS を利用しており,そのうち 67%が したゲーム Candy Crash Saga は,SNS のビッグ スマートフォンからであり, 42%はテレビを見な データを用いたゲームの例として示した。さらに がら利用することを示した(16)。そこで,テレビ局は 「私たちはコミュニケーションの近代化のおかげ 多様化した視聴者や視聴者の差別化のために「ボイ で,人々を繋ぐ導線を増やしたが,コミュニケーシ ス」や「ハウスルール」の番組のツイッターやテレ ョンをどうやってうまくやるかがよくわからない」 ビを見ながら SNS を使える zeebox のアプリケーシ (18)という言葉を引用して,SNS ョンを作成したと説明した。 の重要性を示した。 告,112(45),155-160. (6)ワークショップ後 研修が終わった後に,教師と講師のやり取りが (8) ー指標等.総務省総合通信基盤局消費者行政課. #ATOM2013 や#socmed のツイート,atomqld の http://www.soumu.go.jp/main フェイスブックで行われた。そこでは,研修の感想 として「教育の視点からではなく,法律の視点から 総務省(2013a)青尐年のインターネットリテラシ _content/000247066.pdf より取得. (9) 総務省(2013b)青尐年のネット利用と依存傾向に SNS を見られたことが新鮮であった」というもの 関する調査:調査結果報告書.総務省情報通信政策 があった。またブランズのプレゼンテーションでは, 研究所.http://www.soumu .go.jp/iicp/chousakenkyu/data/research/survey/tel データも多く含まれていたので,スライドを希望す る教師も多く,このスライドは snurblog に掲載さ ecom/2013/internet-addiction.pdf より取得. (10) れた(19)。 Bruns, A. (2013) Follower accession: How Australian politicians gains their Twitters followers. Mapping Online Publics, http://mappingonlinepublics 4.日本のワークショップについて 本発表では,オーストラリアのメディア教育に関 .net より取得 (11) NHKNEWSweb(2013) 選挙ビッグデータの可能 性と課題, http://www3.nhk.or.jp/news/web 係する教師のために開催されたワークショップを 説明した。日本でも,教師が,SNS について視野を _tokushu/2013_0722.html より取得 (12) Data: A revolution that will transform how we 広く持つためには,例えば本学会で教育以外の専門 live, work and think. John Murray Publishers(斎 家を招いてワークショップを行うということも考 えられよう。 Mayer-Schnberger,V. & Kenneth C.(2013) Big 藤栄一郎訳『ビッグデータの正体』講談社,2013) (13) phys.org(2012.05) First map of Australia's Twittersphere,May23,2012 ,http://phys.org 参考文献 (1) より取得 (2) /news/2012-05-australia-twittersphere.html よ CiNii(2013) SNS と教育, http://ci.nii.ac.jp/ り取得 (14) 小学館(2011) 特集 管理職も必読!教師力を高め る SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービ http://mappingonlinepublics.net/about/より取得 (15) ス)徹底活用術,総合教育技術, 66(11),55-71. (3) (4) 久保田賢一編著(2013)高等教育における学習環 (6) New Media and Society, 12(3),347-36. (16) Sensis Australia (2013) Yellow Social Media Report: What Australian people and businesses ーシャルメディアの活用.晃洋書房. are 高橋一哉・上野亮・飯島泰裕(2013)大学生における http://about.sensis.com.au/IgnitionSuite facebook のプライバシー意識とその行動に関する /uploads/docs/Yellow%20Pages%20Social%20M 研究―青山学院大学社会情報学部学生をケースと edia%20Report_F.PDF より取得 (17) doing with social media,May2013. Mendelson, J. & Milligan, R.(2012) Court 伊藤大河・山本利一(2012)Social Network Service issues decision in Eagle v. Morgan, http:// を題材とした情報伝達に関する指導内容の提案,教 www.lexology.com/library/detail.aspx?g=1b8ecd 育情報研究,28(2),27-36. fc-898b-4f12-ad86-43a856483577 より取得 伊藤大河・山本利一(2009)コミュニケーション能力 (18) 育成を目指した SNS の効果的な活用,年会論文 集,25,282-283. (7) Gillespie,T.(2010) The policies of ‘platforms’, 境デザイン-大学生の能動的な学びを支援するソ してー,全国大会講演論文集 2013(1),605-607. (5) Bruns, A. (2013) Mapping Online Publics, Sennett, R. (2012) Together, Penguin Books Ltd, London, England. (19) snurblog(2013) Social Media in Australia: 大沼美由紀・木村敦・佐々木寛紀・武川直樹 The Case of Twitter (ATOM2013) (2012)SNS は友人関係を悪化させるか:若者を対 http://snurb.info/node/1783 より取得 象とした SNS 利用における既存友人との対人トラ ブル実態調査,電子情報通信学会技術研究報