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「EVS-23」調査

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「EVS-23」調査
「EVS-23」調査
.
訪問先一覧
日付
訪問調査対象
訪問地
訪問者
2007 年 11 月 30 日
∼12 月 5 日
EVS-23
Anaheim,CA
渡辺(正)
渡辺(知)
2007 年 12 月 4 日
UC Irvine 水素ステーション
Irvine, CA
渡辺(知)
2007 年 12 月 6 日
CaFCP
Sacramento, CA 渡辺(知)
2007 年 12 月 6 日
SMUD 水素ステーション
Sacramento, CA 渡辺(知)
調査担当者
氏 名
会社・団体名
所属/役職
渡辺正五
日本自動車研究所
FC・EV センター
渡辺知絵
日本自動車研究所
FC・EV センター
−95−
センター長
.
−96−
1.EVS-23
訪問先
訪問日時
主な調査項目
Anaheim Convention Center, Anaheim, California
2007 年 11 月 30 日∼12 月 5 日
EVS-23 に参加し,最近の FCV に関連した動向を調査する。
1−1 概要
EVS-23 は,2007 年 12 月 2 日∼5 日にカリフォルニア州のアナハイムコンベンショ
ンセンターで開催された。登録者数は 1,490 名(報道関係者含む)だった。
1−2 発表内容
1−2−1 Opening Plenary Session:
INDUSTRY LEADERS IN SUSTAINABLE TRANSPORTAION
Opening Plenary Session では,Ford,ホンダ,GM,トヨタの自動車メーカに加え,
Edison International 社注),EDTA によるセッションが「INDUSTRY LEADERS IN
SUSTAINABLE TRANSPORTAION」と題して開かれた。以下に,本セッションの講
演の主な内容を整理する。
トヨタ自動車の HV システム開発部長,理事の嵯峨宏英氏がトヨタの環境対応技術戦
略について講演を行った。内容は従来からトヨタが主張するハイブリッド技術を代替燃
料(CNG,合成燃料,バイオ燃料),ディーゼルエンジン,ガソリンエンジン,電気自
動車,燃料電池自動車と全ての技術に共通化して適用する構想が示された。今回これに
加えプラグインハイブリッド(PHEV)が全ての技術にかかわることを示した点が新し
い点であった。PHEV のバッテリパワーとしては 45kW 程度以下が妥当な出力であり,
EV 走行距離については 20∼30km 程度という考えが示された。EV 走行距離を過剰に
設定することは電池のコストアップやスペースの問題を引き起こし市場での普及の障害
となるという主張である。
注)
加州の公共事業持株会社で Southern California Edison の親会社
−97−
図 1-1 トヨタの環境自動車対応技術戦略
一方,GM の Jonathan J. Lanckner(副社長)氏の発表では,内燃機関,トランスミッ
ションの改善,バイオ燃料の導入,ハイブリッド,プラグインハイブリッド,レンジエ
クステンダー方式の電気自動車,水素燃料電池自動車などの構想が示された。基本的な
考え方はトヨタとほぼ同等といえるがコンセプトカー”VOLT”の主張として内燃機関
をレンジエクステンダーとして使用するシリーズ方式のハイブリッド方式と PHEV の
EV レンジを 40mile(片道の通勤距離を 20mile として)と設定しているところが特徴
である。またバッテリパワーも使用実態を調査するとモード走行時よりも更に高出力が
要求されるとのことで,バッテリの使用を必要最小限にしようとするトヨタの考えを牽
制する感もあった。
−98−
図 1-2 GM の先進動力技術戦略
図 1-3 GM の代替燃料プラグイン・シリーズハイブリッド車コンセプト
−99−
このほか,Ford,ホンダからも同様のプレゼンテーションが行われたが,Ford は水
素の内燃機関自動車を燃料電池普及までの「つなぎ」の技術として位置づけていること,
ホンダは直前に発表した燃料電池自動車「クラリティ」を講演の締めくくりに持ってく
るなど,各社の特徴を現していた。いずれにしてもハイブリッド化,水素燃料電池を将
来の自動車技術の柱として位置づけている点は共通のものと言える。
1−2−2
1F:PUBLIC POLICY
Status of the California Zero Emissions Vehicle(ZEV) Regulation
発表者:Craig Childers,CARB
本発表では ZEV 対象車を Demo 段階(100 台/年),導入初期(1,000 台/年),商用
化(10,000 台/年),普及段階(100,000 台/年)の4段階に分け市場化を予測しており,
時系列的に捉えた内容として注目される。以下に主な内容を整理する。
① HEV:ハイブリッド車は既に市場で普及段階にあり今後も更に普及が予測されるが,
その多くは PHEV 化が進むと予測されている。
② PHEV:現在デモ段階にあるが,急速に市場での普及が進み 2050 年の市場の 59%を
占めると予測されている。カリフォルニア州の ZEV 対応車の主力として考えられてい
ることから,注目度が急上昇している。ZEV 走行距離や AER(All Electric Range)か
Blended かの考え方についてはまだ意見が分かれ,今後議論が活発化するものと予想
される。
③ FCEV:燃料電池自動車は ZEV 対応の究極の車として位置づけられていることに変化
はないが,コスト,耐久性,水素インフラの課題などまだ克服すべきものが多く,本
格普及には 20 年程度を要する(2025 年頃)と見られている。2050 年の市場規模とし
て約 18%という数値が示された。
④ FPBEV(Full Performance BEV):90 年代の電気自動車開発の失敗を受け,ガソリン
車の用途を代替するフルパフォーマンスの電気自動車の市場導入には懐疑的である。
蓄電池の性能,コストの早期の飛躍的な改善はあまり期待できず,普及時期も 2030 年
以降とされている。
⑤ H2ICV:水素内燃機関自動車は Ford が開発計画を発表しているので無視は出来ない
存在であるが,燃料電池自動車普及後(水素インフラが整備)とされ,あまり普及台
数の伸びは期待されていない。
⑥ CEV(City Electric Vehicle),NEV(Neighborhood Electric Vehicle):都市内交通やリ
ゾート地域など限定した範囲で使用される電気自動車の普及は米国では期待されてい
ない。但し,日本,欧州のような地域ではこのような電気自動車の普及の可能性があ
ることが述べられている。
−100−
59%
18%
Full Performance BEV
City Electric Vehicle
Neighborhood Electric Vehicle
図 1-4 CARB パネルによる ZEV 対象車の市場導入予測
1−2−3
4C:FUEL CELL (Demonstrations)
(1) Vancouver Fuel Cell Vehicle Program Update
発表者: Alison Setton, Hydrogen & Fuel Cells Canada
VFCVP はその目的を達成することに成功している。Ford が次世代 FCV デザインを
改良するのに必要なデータの入手や実世界での車の使用により新しい維持管理手続きや
デザインの改良を生み出した。また,ドライバーからのフィードバックは,ユーザの期
待や必要とされる条件を知るために非常に貴重であった。車両はインフラ開発と水素ス
テーションの管理方法を知るための触媒の役割を果たしたといえる。
VFCVP(The Vancouver Fuel Cell Vehicle Program)は,カナダブリティッシュコ
ロンビア州(BC 州)バンクーバとビクトリアで,5 台の Ford Focus FCV の性能/耐久
性/信頼性に対して,デモンストレーション/テスト/評価を行う,5 年間,計 8 百万ドル
の実証実験である。カナダにおける初めての種類のプログラムで,実施主体は Hydrogen
& Fuel Cells Canada,Ford,カナダ政府,BC 州政府である。
実証用の 5 台の Ford Focus FCV は 2005 年 3 月に納車され,2008 年 3 月までの 3 年
間,協力会社 5 社(Hydrogen & Fuel Cells Canada,Ballard Power Systems,British
Columbia Hydro and Power Authority,British Columbia Transit,City of Vancouver)
−101−
の従業員によって実際の業務に使われている。
年間目標走行距離は,12,000∼15,000km/台である。車両は,様々な状態と運転モー
ドで運転される。現在,84 人の訓練を受けたドライバーがおり,訓練プログラムを終了
しているのが 125 人以上,さらに何百人もが車両を運転したり乗車したりしたことがあ
る。2007 年 9 月前の時点で,5 台の総走行距離は 145,909km を超え,1 台あたりの稼
働時間は 873 時間であった。バンクーバで使われている車両のうちの 1 台は,Ford の
フリート車両の中で最も使用時間が長く,予想寿命のほとんど 2 倍使用されている。実
際,車両の状態はとても良く,フリートテスト期間を少なくとももう 1 年延長させよう
かと考えているほどである。
水素ステーションは 3 カ所設置されている。バンクーバ市内の BC 大学キャンパスに
ある NRC-IFCI のステーション,バンクーバの南東約 30km のサレイにある Powertech
研究所にあるステーションと,ビクトリアにある AC Transit のステーションである。
緊急時の対応としてステークホルダーなどに説明する際の重要なことは,応答者,特
にブリティッシュコロンビア救急サービスや地元の消防・レスキューサービスへのト
レーニングである。彼らへのレクチャーは,水素と FCV に対する認識を持ってもらう
ために,早い段階から始められた。大バンクーバ都市圏と大ビクトリア都市圏の 35 以
上の消防・レスキューサービスに対して行われた。車と水素の安全,緊急時対応につい
てのワークショップを開催したり,訓練および参考資料(緊急回答ガイド,訓練用 CD,
プラスチックで覆われた緊急対応用のシート)を配布したり,フォローアップミーティ
ングを行ったりした。
また,車のメンテナンスに関しては,FCV や水素,電動技術について未経験の者がメ
ンテナンスすることになるため,サクラメントにある Ford の施設でフォードエンジニ
アと FCV 技術者によって 2 週間の実地訓練が行われた。これにより,今まで全ての定
期メンテナンスは,地元の技術者によって,フォードからの遠隔アシスタントを用いて
容易に実施された。定期メンテナンスは 90 日,6 ヶ月,1 年間隔で行われる。
(2) Experiences with DaimlerChrysler’s Worldwide Fuel Cell Passenger Car Fleet
発表者: Peter Froeschle, Daimler AG
Daimler の FCV フリートは,93 万マイルもの蓄積があり,世界一大規模で経験豊
かである。乗客と貨物スペース確保のため,FC システムは床下に収納してある。航
続距離は 100 マイル以上,最高速度は約 85mph となっている。F-Cell の運転中の車
両および FC システムの全データは,無線 LAN を通じて,データ取得ツール(FDA
システム)によって記録される。データ分析の結果は,世界中の実条件下での F-Cell
運転のパフォーマンスを示すのに使用される。顧客に受け入れてもらえるレベルに
なって商業化するのために,FCV の更なる改良と,実際に使える水素ネットワークを
−102−
構築すること,水素や FC に対する理解が一般に充分に行き渡るようにすることが必
要である。
1994 年に最初の NECAR を導入してから,ダイムラーは FC 技術開発を進めてきた。
2003 年,60 台の F-Cell が世界中に配車され,現在に至るまで実証走行されている。
大規模フリートプロジェクトの目的のひとつは,顧客の使い勝手を阻害せずに既存の
車両のプラットフォームに納められる FC 駆動システムを開発することだった。これは,
FC 駆動システムやそのコンポーネントの縮小と軽量化により達成された。もうひとつ,
世界初の FC 乗用車,知識と経験を増やすことを目的として生産された。これは,世界
中の様々な地域で,様々な天候や交通条件のもとで,毎日運転されるということが重要
だった。
一方,FC 技術を他の顧客にも提供するためと公道での走行経験を重ねるため,FC バ
スと FC Sprinter(バン型)のフリート走行も行っている。2000 年にダイムラーは Citaro
FC バスのフリートを決定し,2003 年に 36 台の FC バスがヨーロッパ数都市とパース
と北京に配車された。欧州では,バスは EU の CUTE/ECTOS プロジェクトで運転され
た。これらのプロジェクトは 2005 年に終了し,現在は HyFLEET;CUTE に引き継がれ
ている。
現在 Daimler は A-Calss の F-Cell の次世代の車両を開発している。新しい FC シス
テムはメルセデスベンツ B-Class に搭載されることになる。図 1-1 に概要を示す。
B-Class の F-Cell では,プロトタイプ生産をやめてリース生産にする予定である。2010
年には,何百というフリート車両が世界中を走ることになる。
図 1-5 Technical data of A-Class F-cell and next generation B-Class F-Cell
−103−
1−2−2
6C: FUEL CELL (Commercialization)
(1) Development of Fuel Cell Hybrid Vehicle – Cruising Range
発表者: Kenji Umayahara, Toyota Motor Corporation
1992 年以来,トヨタ自動車は,地球環境問題およびクリーンエネルギー対応のため,
FCHV(燃料電池ハイブリッド車)の開発を積極的に手がけてきた。FCV が様々な条件
で使用できるようにするために,トヨタは航続距離や氷点下起動,耐久性の解決に向け
て研究を続けてきた。ここでは,航続距離に対するトヨタのアプローチについて紹介す
る。既存ガソリン車と同等の航続距離 500km 以上を達成するため,トヨタは水素搭載
量と燃料効率を改善した。その結果,改良したトヨタ FCHV は航続距離 500km 以上を
達成した。
日本でリースしたトヨタ FCHV2005 年モデルは,10・15 モードでの燃費は 103km/kg,
実際走行では,エアコン等の影響から約 30%ダウンの 70km/kg であった。また,ガソ
リン車と競合するためには 500km 以上の航続距離が必要だが,05 年モデルは約 220km
であった。航続距離の増加は水素吸蔵量と燃料効率の掛け算によって得られるため,水
素吸蔵量の増加と燃料効率の改善が必要である。
図 1-6 05年モデルのトヨタ FCHV による日本での実際の燃料効率(社内データ)
図 1-3 に高圧水素タンクの進化を示す。トヨタ FCHV 2005 年モデルは,2002 年モデ
ルより容量を 10%アップさせた内製の 35MPa タンクを使用した。さらに,航続距離を
伸ばすために 70MPa タンクの開発を行った。しかし,タンクの圧力を増すことだけで
は 500km 以上の航続距離の達成は難しく,燃料効率を改善するのと同時に,タンクの
サイズを小さくし,内容量を大きくするための努力を続けた。その結果,2005 年モデル
で使用した 35MPa タンクの充填容量の 1.9 倍となる 70MPa の水素タンクの開発に成功
した。
−104−
図 1-7 トヨタの高圧水素タンク容量
また,図 1-4 にあるように,エネルギー消費は FC スタックからの熱損失が全体の 30%
を占める。FC スタック熱損失の縮小や FC システム効率向上,ハイブリッドシステムの
見直しやエネルギー回生機構の見直しを行った結果,エネルギー損失を 15%減少させ,
回生エネルギーを 25%増加させることができた。結果として,LA4 モードでの燃料効
率は 25%向上した。
図 1-8 05 年モデル FCHV の LA4 モード走行時のエネルギー消費
改良型トヨタ FCHV では,70MPa 高圧水素タンクの採用,FC スタック熱損失の縮小
や FC システム効率向上,ハイブリッドシステムの見直しやエネルギー回生機構の見直
しの結果, 2005 モデルに比べ,航続距離が伸び,途中での水素充填無しで,東京から
大阪まで,しかもエアコンをつけた状態でおよそ 560km の走行を実現した。
−105−
航続距離を伸ばすという,FCV の大量普及への重要な課題への対応としては,水素搭
載量と燃料効率の改善は不可欠である。その両方に対して改善を行った結果,一充填走
行距離 500km を達成した。しかし,航続距離に関する全ての問題が解決されたわけで
はない。70MPa タンクは,水素搭載量を増やすためには有効であるが,サイズが大きく,
高価である。今後も,水素貯蔵材料のためのさらなる研究開発が重要である。
(2) DaimlerChrysler’s Fuel Cell Vehicle Operation within
the California Hydrogen Infrastructure Network
発表者: Peter Friebe, Daimler AG
ダイムラーの 60 台の F-Cell によるフリートは,世界中(カリフォルニア,ミシガン,
ベルリン,シュツットガルト,東京,シンガポール他)で進行中であり,総走行距離 200
万マイル以上の実績をもっている。最新型の F-Cell は 2003 年の終わりから,顧客の元
で実使用条件下で走行している。この間,様々な情報が集められた。中でも,北部・南
部カリフォルニアには車両(A-Class F-Cell)が 30 台あり,水素インフラも充実してい
るため,より多くのデータを得ることができた。
(3) Development of Honda FCX
発表者: Shigeki Oyama, Honda R&D Co., Ltd.
従来の FC スタックはフッ素電解質膜とカーボンセパレータから成るが,ホンダの FC
スタックは,高いプロトン導電性をもつアロマティック電解質膜と,成形金属セパレー
タを採用しており,両方とも弾力性があることが特長である。これらを用いた結果,出
力密度が約 2 倍に向上した(図 1-5)。
図 1-9
Honda Fuel Cell Stack evolution
−106−
アロマティック膜と金属セパレータを用いたホンダ FC スタックを搭載した FCX は
2004 年から実証に投入され,以下のことわかってきた。
9
FC システムの起動停止が劣化要因であるということ。起動停止プロセスを含ん
だサイクルテストを行うと,劣化速度は速くなった。この結果,実使用下での
耐久性と信頼性を再現するための,基本テストモードの改良が可能となった。
9
FC システムの起動停止プロセスは,片側の電極において高電圧状態を起こし,
結果として電極触媒およびガス拡散層の腐食をもたらすことがわかった。
9
実使用下での劣化要素を再現することによって,改良のための方向性を得るこ
とができた。得られた情報を,新しい材料やスタックのデザイン,システム制
御に対して適用していく。
(4) FCV Learning Demonstration: Project Midpoint Status
and First-Generation Vehicle Results
発表者: Keith Wipke, National Renewable Energy Laboratory
「Controlled Hydrogen Fleet and Infrastructure Demonstration and Validation
Project」は,2004 年から開始された 5 年間の DOE プロジェクトである。本プロジェク
トの目的は,水素インフラ整備支援と FCV の性能評価を同時に同じフィールドで実施
することである。現在,4 チームが 77 台の車両と 14 カ所の水素ステーションを運転し
ており,プロジェクト期間中に更に 50 台の車両と数カ所の水素ステーションを加える
計画である。この 5 年間のプロジェクトに対する政府予算はおよそ 1 億 7 千万ドルとな
る。産業界からのコストシェアを考えると,全体での予算は 3 億五千万ドル以上になる
と予想される。
本プロジェクトの目標を表 1-1 に示す。
表 1-1 Project Performance Targets
−107−
NREL は車両とインフラの両方から生のデータを受け取り,分析している。データは
NREL の HSDC(Hydrogen Secure Data Center)で収集される。
現在は,2 年間の運転が終わったところである。77 台の車両と 14 の水素ステーショ
ンからデータが届いており,総トリップ回数 149,000 回,データ量としては 40GB になっ
ている。データの統計結果は,最近では 41 項目が報告されており,NREL の WEB サ
イトから入手可能になっている。第 1 世代の車両データとして,一番長いチームで 1200
時間,平均でも 800 時間超の FC 耐久性が実証されている。スタック劣化にはどういっ
た変数が関係してくるのか,データベースで多変量解析を行っている。早い時期で 4 チー
ム全てに共通する傾向をつかむのは難しいかもしれないが,個々の結果は有用であるし,
この R&D プログラムにおいてフィードバックされている。
1−3 展示
(1) ホンダ
ホンダからは直前のロサンゼルスモーターショウで発表,2008 年の秋以降の市場導入
とされる”FCX クラリティ”の実車展示があった。ホンダ独自の V フロー燃料電池ス
タック(出力 100kW)をセンターコンソールの下に納め,35MPa(171L)の大型圧縮水
素容器を後部座席とトランクルームの間に設置するなど,システムの小型化,車両レイ
アウトの工夫によりショートノーズのスポーティーセダンとして燃料電池自動車の新た
なコンセプト提案として注目された。低温始動性−30℃,最高速度 160km/h,航続距離
570km といった数値も実用上の問題をクリアしている。
図 1-10 ホンダ FCX クラリティ
−108−
(前方から)
図 1-11 ホンダ FCX クラリティ
(後方から)
(2) トヨタ
トヨタは展示車では FCHV のカットモデルを展示し,国内での展示の様子と大きな違
いはなかった。スタックの内部構造を模擬的ではあるがカットモデルとして見せており,
外観上は一体のスタックだが内部構造は 2 シリーズとなっていた。セパレータの薄板化
においてはホンダの V フロースタックの方が進んでいる印象であった。
一方,口頭発表では燃料電池システム効率を 25%改善したという技術的な内容をかな
り詳細に発表していた。FC システムの色々な効率ロスを少しずつ改善し,積み重ねに
よってトータルで 25%もの大幅な効率改善を達成した技術は確かなものを感じさせた。
効率ロスを一つずつ分解していく様は,エンジンの効率ロス解析の手法を踏襲するもの
で,バラードや UTC のような燃料電池メーカにはない,自動車メーカならではの手法
である。
図 1-12 トヨタ FCHV カットモデル(ボンネット内)
−109−
図 1-13 トヨタ FCHV カットモデル(後方から)
'05 modle FCHV
Improved FCHV
Driving energy
Motor Inverter loss
High-voltage converter loss
FC stack heat loss
Anode purg
Cross over
Air Compressor power
Hydorogen pump power
Cooling water pump
Auxiliary battery power
Regeneration energy
energy consumption [KJ]
図 1-14 トヨタ FCHV の燃料電池システム効率改善
(3) GM
GM は数 100 台規模で市場導入を進めている Chevy Equinox を PHEV コンセプト
カー”VOLT”,HEV 車”Tahoe”と並んで展示していたが,3 台の中央を”VOLT”
とするレイアウトから GM の関心が PHEV に重心を移行している印象を受けた。
Equinox は 70MPa の圧縮水素容器を搭載し水素貯蔵量 4.2kg を確保しているが車両
重量が 2010kg と重く,一充填での航続距離は 320km にとどまり,トヨタ,ホンダの日
本製 FCV の航続距離との比較では一歩遅れている。環境温度は−25℃∼45℃,最高速
−110−
度は 160km/h と実用上の問題はクリアした性能となっている。
図 1-15 GM の展示ブース(右が Equinox,左 VOLT,更に左(枠外)に Tahoe)
(4) Ford
フォードは展示会場では Escape ベースの燃料電池プラグインハイブリッド車のコン
セプト車を展示していた。FC が 35kW,リチウムイオン電池が 135kW の出力分担で,
燃料電池はバッテリの充電器(レンジエクステンダー)的な扱いとなっている。35MPa
容器に 4.5kg の水素を貯蔵し航続距離は 225mile,EV 走行距離は 25mile である。
フォードは EVS23 の開催に合わせて,この FC−PHEV の Escape とは別に,内燃機
関によるプラグインハイブリッド車を発表した。排気量 2.3L のアトキンソンサイクル
エンジンと出力 10kW のリチウムイオン電池の組み合わせで EV 走行距離 30mile との
発表で,FC−PHEV とはコンセプトが大きく異なっていた。
図 1-16 フォード Escape FCV−PHEV
−111−
(5) 燃料電池
燃料電池の展示ではカナダの Ballard と米国 UTC-FC が出展していたが,先進バッテ
リの展示の勢いに押され気味の感は否めなかった。スタック構造の公開は初めてのよう
で,これまでの秘密主義からパートナー獲得に向けた戦略の修正が感じられた。出展と
しては新しいものはなく,お付き合い程度であり一時の勢いを知る立場としては寂しさ
を感じた。
図 1-17 バラード社の燃料電池スタック
図 1-18 バラード社の燃料電池セパレータ詳細構造
1−4 試乗会
「RIDE & DRIVE」と称した試乗会は,展示ホール一番奥から外に出た屋外駐車場を
会場に,自動車メーカ,ベンチャー企業,大学などから出展された EV,Plug-in HEV,
FCV など 2 輪,4 輪併せて約 40 台近くの車両が参加して行われた。試乗希望者は,
直接乗りたい車の看板に並び,順番を待つ至ってシンプルなしくみで,試乗コースは,
−112−
コンベンションセンター外周で,一般の車両が殆ど通らない広々とした道路であった。
車大国の米国で同乗試乗なんて物足りないものは行わず,実際にハンドルを握ってドラ
イブを楽しんでいる様子であった。試乗会に参加した車両はやはり Plug-in HEV,EV が
多く,FCV はトヨタ FCHV,日産 X-TRAIL FCV,Daimler F-Cell,Hyundai Tucson,
GM Chevy Equinox など 5 車種であった。尚,現地での水素供給はなく燃料が無くな
り次第終了というものであった。
図 1-19 試乗会場
図 1-20 GM Equinox
図 1-21 Hyundai Tucson
図 1-22 試乗コース
−113−
−114−
2.UC Irvine 水素ステーション
訪問先
訪問日時
主な調査項目
University of California, Irvine 水素ステーション
2007 年 12 月 4 日
水素ステーションの見学
EVS23 会期中,オレンジ郡アーヴァイン市にあるカリフォルニア大学アーヴァイン
校(University of California, Irvine 以下 UC Irvine)の水素ステーションを訪問した。
Air Products が建設した UC Irvine 水素ステーションは,カリフォルニア唯一の 700
気圧が供給できる設備であるが,大学内の駐車場にこじんまりと佇んでおり,周りに木々
も多く「優しいエネルギー」のイメージが街に溶け込んでいる感じであった。現在,米
国の水素ステーションは,一度登録したら全てのステーションで充填できる日本の
JHFC プロジェクトとは違い,それぞれの施設で個別の契約を結ばなくてはいけないそ
うで,使う側(車メーカ)としてはとても面倒らしい。現在,トヨタ,ホンダ,BMW,
GM などがこの UC Irvine 水素ステーションを利用しているということである。中で
も GM は 7 台の車が近くで試験を行っているため 700 気圧での充填を頻繁に行ってお
り,大歓迎しているとのことであった。
水素充填の係員については常駐しておらず,ある一定のトレーニングを受講したドラ
イバーは,セルフ充填許可が下りるそうである。現在このステーションでは 70 名以上
の登録者がいるとのことで,当日は,実際に案内してくれた Lorin さんが水素充填作業
を見学させてくれた(図 2-1)。
今後,カリフォルニアでも既存の水素ステーションを 700 気圧対応にする計画が進ん
でいるらしく,CaFCP,Santa Monica,West Hollywood などに建設予定があるとい
うことである。UC Irvine 水素ステーションでは,地元住民の理解を深めるための広
報・啓発活動も実施しており,小学生よりも高校生が対象の場合が多いとのことである。
ステーションを見学するのではなく,担当者が学校へ出向いて出張教室を開催すること
が多く,化学の授業の一環として行うとのことであった。
−115−
自分の PIN ナンバーを入力
値段が表示される
ノズルを装着
待つこと数分
図 2-1 水素充填の様子
−116−
充填開始
充填完了
3.California Fuel Cell Partnership(CaFCP)訪問
訪問先
訪問日時
主な調査項目
California Fuel Cell Partnership 本部
2007 年 12 月 6 日
広報についての意見交換
3−1 概要
カリフォルニアで JHFC と同じような FCV,水素 ICV の実証試験を行っている
CaFCP も EVS23 展示会場にラウンジ的なブースを構え,プロジェクトの紹介を行って
いた。ここで広報担当の Ms. Chris White とプロジェクト広報について意見交換を行っ
たのでその内容を整理する。
3−2 意見交換内容
(1) スタッフ構成
CaFCP の広報担当は 5 名おり,マネージャーの White 氏の他,メディア PR 担当 1
名,イベント担当 1 名,WEB 担当 1 名,グラフィックデザイン担当 1 名で構成され
ている。CaFCP は,自動車メーカ 9 社(Daimler,Chrysler,FORD,GM,ホンダ,
Hyundai,日産,トヨタ,VW),エネルギー企業 3 社(BP,Chevron,Shell Hydrogen),
燃料電池製造メーカ 3 社(Ballard Power Systems,UTC Power ほか)が参加して実
施している。
(2) 広報イベント
2007 年は,独自企画イベントを 30∼35 回ほど実施したということである。CaFCP
は JHFC パーク同様,ショールーム,各自動車メーカのガレージと事務所,水素ステー
ションを併設しており,定期的に見学者の受け入れも行っている。毎年,カリフォルニ
ア州を縦断するキャラバンを行っており,訪問各地で展示会や試乗会を実施していると
いうことである。
(3) 広報ターゲット
対象は一般成人(16 歳以上の車を運転する層)にフォーカスしているとのことであっ
た。日本と同じように一般の人たちは FCV のメカニックなところは理解が難しいので,
車の細かいところは無視し,FCV の良いところ,ガソリン車とどう違うかに焦点をあ
てて,シンプルに説明を行っているとのことである。また FCV だけに限らず Plug-in
HEV,NGV など多様な環境の配慮した車の存在を PR しているようである。
−117−
カリフォルニア州には ZEV 法があるため,ドライバーに,ゼロ・エミッションに向
けた政府の取組みを啓発することは重要であるとのことで,ここはカリフォルニア州政
府が運営している CaFCP らしい部分で,ミッションがはっきりしていると感じた。車
大国の米国らしく車の楽しさを伝えることも忘れず,グリーン・ビジネスに関わる人た
ちへの啓発も積極的なように感じた。
なお,消防関係者への啓発と教育は定期的に行っており,サクラメント消防署では 2
台の FCV を保有しているため水素に対する理解度も高いとのことであった。
(4) 認知度調査
認知度調査は,世相を映し出すものとして大変重要視しているとのことで,調査方法
は以前は電話調査を実施していたが,1 対 1 対話のため誘導的であったり,相手への
リップサービスで正しい調査結果が得られないとの判断を下したということである。最
近は被験者が時間を融通できる WEB 調査が効果的で,毎年実施しているようである。
興味深い調査結果の一例として,FCV や水素に関する認知経路について紹介があった。
関係者は一番の認知経路はテレビ,新聞かと思っていたが,結果は 1 番が新聞で,2 番
目は知人(もしくは学校)からの口コミが多かったということである。テレビより新聞
や知人の話の方が情報の信憑性が高いという米国人の意識からかもしれないと感じた。
(5) 今後の取組み
広報ターゲットが一般成人ではあるが,子供向けの広報も積極的に実施しており,今
後は i-pod で見ることができる子供向けの動画配信を推進していくとのことであった。
JHFC 制作のこども向け教材「水素で走る燃料電池自動車」を紹介したところ,まんが
や図解の完成度が非常に精巧で,こどもが喜びそうなので是非共有させて欲しいという
要望があった。
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4.SMUD 水素ステーション
訪問先
訪問日時
主な調査項目
SMUD 水素ステーション
2007 年 12 月 6 日
水素ステーションの見学
4−1 SMUD
SMUD は「Sacramento Municipal Utility District」の略で,電力,ガスなどのエネ
ルギーをサクラメント市に供給している会社(公益事業体)である。自社で保有する FCV
(Daimler,Ford)や Plug-in HEV を用い実証試験のサポートも行っており,現在,
SMUD 本 社 近 く に 太 陽 光 発 電 の 水 電 解 の 水 素 製 造 供 給 設 備 を 含 む 「 Renewable
Hydrogen Generation Station」の建設を進めており訪問した。この施設は当初 2007 年
夏完成予定で計画されていたが建設が遅れており,建設途中の設備見学となった。
4−2 水素ステーション
通常のステーションよりかなり広い敷地内には,80kW の電力をつくる太陽光パネル
が設置されている。パネルの下は駐車スペースになっており,ちょっとした屋根の役割
も果している。太陽光で得られた電力で水電解を行い水素製造する。水素貯蔵量は 52kg,
水素製造量は 12kg/day で 350 気圧供給である。水素製造に使わない電力は配電線に
送られる仕組みとなっている。
地域に根ざしたエネルギー供給メーカらしく,これらの設備は自然環境に配慮したか
たちでデザインされており,地域住民の教育の場としても活用することが大きな目的と
なっている。再生可能エネルギーを利用した供給設備で,FCV だけでなく,Plug-in HEV
など複合的に利用することができるため,将来の理想的な形の施設として注目が高まる
と考えられる。
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図 4-1 SMUD 本社内にあるジオラマ
図 4-2 太陽光パネル
図 4-3 水素ステーション
図 4-4 完成予想図(CG)
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