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血友病 A または血友病 B 患児において類似している

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血友病 A または血友病 B 患児において類似している
Original Article (Clinical haemophilia ) ‒ Full Translation
血友病 A または血友病 B 患児において類似している出血表現型:
コホート研究
Similar bleeding phenotype in young children with haemophilia A or B: a cohort study
N. Clausen, P. Petrini, S. Claeyssens-Donadel, S. C. Gouw and R. Liesner
PedNet and Research of Determinants of Inhibitor Development ( RODIN) Study Group Department of Pediatrics, University
Hospital of Aarhus at Skejby, Aarhus, Denmark; Department of Pediatrics, Clinic of Coagulation Disorders, Karolinska
Hospital, Stockholm, Sweden; Centre Regional d’ Haemophilie, Centre Hospitale Universitaire, Toulouse, France; Department
of Pediatric Hematology, Emma Children’ s Hospital, Academic Medical Center, Amsterdam, The Netherlands and Haemophilia
Comprehensive Care Centre, Great Ormond Street Hospital for Children NHS Foundation Trust, London, UK
要 約: これまで血友病 A と血友病 B との間で出
者計 76 名には,凝固因子製剤に対する初回曝露年
血表現型が異なることが示唆されてきたが,患者の
P = 0.20 )
,
初回出血年齢( 0.82
齢( 0.81 歳対 0.88 歳,
ケア最適化には,治療開始時に出血表現型に関する
歳対 0.88 歳,P = 0.36 )
,初回関節内出血年齢( 1.18
知識をより多く持つことが不可欠である。本研究は,
歳対 1.20 歳,P = 0.59 )に差は認められなかった。
重症または中等症の血友病 A および血友病 B 患児
中等症血友病患者は重症血友病患者に比べ年齢が高
を対象に,出血表現型の重症度および出血の多様性
かった。中等症血友病患者には,血友病 A・血友病
について研究することを目的とした。連続で登録し
B 間で明確な差は認められなかった。出血表現型の
た,過去に治療歴のない重症または中等症の血友病
重症度および多様性は,重症および中等症それぞれ
A および血友病 B(第 VIII 因子または第 IX 因子の
各活性が 0.01 IU/mL 未満または 0.01 ∼ 0.05 IU/mL )
で,2000 年 1 月 1 日∼ 2010 年 1 月 1 日に出生した
の血友病 A と血友病 B の患者で,治療初期段階で
友病 A 患児と同様に慎重に観察され,治療される
患者を対象とし,主要評価項目は出血傾向の重症度
必要があることを示唆している。
とし,副次的評価項目は出血パターンの多様性とし
Key words:出血表現型,小児,血友病 A,血友病 B,
た。重症血友病 A 患者計 582 名,重症血友病 B 患
出血
緒 言
れる( 1 )。重症度の定義は類似しているのに対して,
は類似している。今回の知見は,血友病 B 患児が血
出血パターンについては,血友病 A 患者と血友病
血友病の重症度は,残存凝固因子活性に従って
分類される。第 VIII 因子または第 IX 因子の残存活
性が 0.01 IU/mL 未満の患者は重症血友病,0.01 ∼
0.05 IU/mL の患者は中等症血友病,0.05 ∼ 0.40 IU/
mL を上回るレベルの患者は軽症血友病と定義さ
Correspondence: Niels Clausen, Department of Pediatrics, University
Hospital of Aarhus at Skejby, Brendstrupgaardsvej 100, DK- 8200
Aarhus, Denmark.
Tel.: +45 7845 1664; fax: +45 7845 1710; e-mail: [email protected]
Haemophilia (2014), 20, 747–755
© 2014 John Wiley & Sons Ltd
20
B 患者とで異なることが報告されている。重症血
友病成人を対象にしたある研究では,血友病 A 患
者は,血友病 B 患者に比べ関節形成術を受けるリ
スクが 3 倍高いことが報告された( オッズ比 3.38,
95% 信頼区間 1.97 ∼ 5.77,P < 0.001 )。この研究
の著者らは,血友病 B は血友病 A ほど重症ではな
いと結論付け,血友病 B 患者には血友病 A ほど高
い頻度で一次定期補充療法を行うべきではないこ
とを提案した( 2 )。スウェーデンの成人コホート研
「血
究の場合,重症血友病 B は,重症血友病 A に比べ
血友病 A または血友病 B 患児において類似している出血表現型:コホート研究
友病重症度スコア 」
( 関節内出血の年間発生率,整
患 者
形外科的関節スコア,凝固因子製剤の年間使用の合
連続で登録した,過去に治療歴のない重症また
成スコア )が低く,凝固因子製剤の使用が少なかっ
は中等症の血友病 A または血友病 B( FVIII また
たものの,出血スコアおよび関節スコアは類似して
は FIX の各活性が 0.01 IU/mL 未満または 0.01 ∼
(3)
いた
。また,小児および成人患者を対象にした
別の研究では,血友病 A の出血頻度が血友病 B よ
0.05 IU/mL ) で,2000 年 1 月 1 日 ∼ 2010 年 1 月
1 日に出生し,共同研究に参加しているいずれか
り 40% 高く( 血友病 A の平均値 14.4 回 / 年,血友
の血友病センターで診断された患者を対象とした。
病 B の平均値 8.63 回 / 年),FVIII および FIX 濃縮
Rodin 研究に参加したセンターは,連続で登録した
重症血友病 A の症例についてのみ情報提供を行っ
た。FVIII または FIX の活性レベルは何回か地域の
製剤の使用量が類似していることが認められた( 血
(4)
血友病 B 107.182 IU/ 年)
。
友病 A 104.722 IU/ 年,
これらの報告は,残存凝固因子活性が類似してい
センターで測定されたものを用い,中央で一元的に
るにも関わらず,血友病 B の出血表現型が血友病
管理された検査は実施しなかった。承認は各施設内
A ほど重症ではないと考えられることを示してい
る。別の研究では,重症血友病 B 患者全体が受け
た定期補充療法の頻度は,重症血友病 A 患者ほど
32% 対 69% であることが示された。0 ∼
高くなく,
2 歳の小児の場合,この差はさらに顕著で 17% 対
53% であった。しかしながら,この差が出血の重
倫理委員会から得た。参加者すべての両親または保
データ収集
2004 年以降,特別にデザインされた患者に関す
症度における真の差であったのか,それとも認識の
る業務日誌を用いて,匿名扱いされたデータが参
(5)
差であったのかは不明なままである
。
護者から,書面によるインフォームド・コンセント
を得た。
加センターを通じて収集された。データは,ウェ
一般的臨床所見では,所定のレベルの凝固因子活性
ブ版の症例報告書を通じデータベースに入力され
において,重症血友病 B における出血の多様性は血友
た。さらに,患者背景,出血歴,治療薬への曝露に
病 A より顕著である。一方,時宜を得た定期補充療法
ついて記録された。曝露日数は,凝固因子製剤を 1
など,最適な個別化された治療を提供するためには,
回または複数回輸注した際の暦日日数と定義した。
血友病 A および血友病 B 患児に対し,特に生後早期か
凝固因子製剤の輸注日,用量およびタイプ,投与理
ら出血表現型の知識をより多く持つことが必要である。
由,出血のタイプ,手術など凝固因子製剤の投与す
本研究では,重症および中等症の血友病 A およ
べてに関する詳細なデータを収集した。凝固因子製
び血友病 B 患児を対象に,出血表現型の重症度を
剤の累積曝露日数が 75 日になるまで患者を追跡し
研究し,出血部位の多様性を比較した。
た。2012 年 5 月 1 日まで収集したデータに基づいて,
最新の解析を行った。
患者および方法
すべてのデータが完全で矛盾がないことを,事前
に指定された研究実施計画書を用いて繰り返し確
設 定
認した。各センターの訪問データ監査により,組み
本観察コホート研究は,PedNet 血友病レジスト
入れおよび除外患者,血友病の診断,F8 遺伝子型
リーデータベース( www.pednet.nl )および RODIN
について 100% の確認,ならびに FVIII 投与に関す
研究データベース( www.rodinstudy.eu )に集積され
る原データの最低 10% の確認などを少なくとも年
ている重症または中等症の血友病 A または血友病
1 回の頻度で実施した。
B 患者についての情報からなるものである。この 2
つのデータベースは,欧州,イスラエル,カナダに
おける 29 ヵ所の血友病センターでの共同研究の取
り組みをもって開始されたものである。
評価項目
主要評価項目は出血傾向の重症度とした。また,
副次的評価項目は出血の多様性とした。
21
Full Translation: N. Clausen, et al.
決定因子
決定因子は,重症または中等症の血友病 A およ
び血友病 B に分類される血友病のタイプとした。
ついて 10 日未満の曝露日数に欠測値があった場合,
これら曝露日数の欠測日には,無条件に欠測日前日
と翌日の中間の値で代用した。こうした出血時投
与療法は,少量の出血について行うものと仮定し
出血の重症度
治療または出血の時点 凝固因子濃縮製剤の投
与が必要とみなされた場合,出血エピソードを記
た。全体では,欠測日の代用は 1% 未満であった。
FVIII または FIX の用量の欠測値は,欠測値の前の
値と後の値の平均値で代用した。
録した。血友病の重症度については複数のマーカー
ドの患者と,反復的な出血の患者とを区別するた
資金提供元の役割
PedNet 血友病レジストリーおよび RODIN 研究
は,Bayer Healthcare 社 お よ び Baxter Bioscience
Inc 社からの無制限の研究助成金により支援され
め,これらの時点の年齢を詳細に検討した。定期補
た。両社は研究デザイン,データ収集,データ解析,
充療法開始年齢( FVIII または FIX 定期補充療法の
本稿の執筆に関与しなかった。
( 初回治療年齢,初回出血年齢,初回関節内出血年
齢,3 回目の関節内出血年齢,曝露日数 10 日時点
の年齢 )を検討した。1 回の偶発的な出血エピソー
輸注が,少なくとも 15 日間に連続曝露日数 3 日以
上となった時点と定義 )を比較した。定期補充療法
結 果
の実施とインヒビター発生により出血傾向が変化
することがあるため,定期補充療法の開始またはイ
ンヒビター発生までに限りこれらの変数を精査し
た。
患者特性
患者背景を Table 1 に示す。中等症および重症の
血友病 A および血友病 B 参加者総数は 842 名であっ
出血の頻度 初回曝露日数 75 日以内に,同一関
た。このうち 534 名が,年齢中央値 1.41 歳( IQR
節内に生じた反復的な出血は,関節損傷の危険因子
なわち,定期補充療法を行わずに 2 歳以前に出血
1.00 ∼ 2.19 歳 )にて定期補充療法を開始した。22
名が初回治療以降,定期補充療法を開始した。781
名( 92.8% )から,出血表現型の解析に向けた出血
を生じなかった患者 )を登録した。
時投与療法の完全なデータが得られた。
として報告した。また,逆に,最も軽症の表現型( す
出血表現型の多様性 最初の出血のタイプを,発
患者の大半が血友病 A( 679 名,86.9% )であり,
生部位別に軟部組織,関節,筋肉,粘膜,頭蓋内に
このうち 582 名が重症,97 名が中等症に分類され
分類した。初回曝露時と追跡中双方で,出血のタイ
た。 計 102 名( 13.1% )が 血 友 病 B で, こ の う ち
76 名が重症,26 名が中等症血友病を有していた。
データ解析時の本研究集団の年齢中央値は,7.3 歳
( IQR 5.0 ∼ 9.9 歳)であった。診断時年齢中央値は,
データ解析
0.43 歳( IQR 生後 3 日∼ 0.9 歳 )であった。患者は
連続変数は,中央値および四分位範囲( IQR )を
用いて記述した。2 値変数は割合により記述した。 年齢中央値 0.87 歳( IQR 0.51 ∼ 1.23 歳 )で凝固因
子製剤の初回治療を受けた。初回出血年齢の中央
連続変数の P 値はノンパラメトリック検定( Mann値は 0.89 歳( IQR 0.56 ∼ 1.26 歳 ),初回関節内出
Whitney の U 検定 ),2 値変数の P 値はカイ二乗検
血年齢の中央値は 1.30 歳( IQR 0.88 ∼ 2.27 歳 )で
定を用いて算出した。
プの分布を血友病 A と血友病 B とで比較した。
あった。
欠測値
患者の F8 および F9 遺伝子型の概要を Table 2 に
欠測値は比較的少なかった。出血時投与療法に
示す。重症血友病で既知のヌル変異( 大欠失,ナン
ついて 11 日以上の曝露日数に欠測値があった場合,
センス変異,逆位 )を有する患者の割合は,血友病
患者を解析対象から除外した。出血時投与療法に
A( 58.4% )の方が血友病 B( 27.6% )より顕著に高
22
血友病 A または血友病 B 患児において類似している出血表現型:コホート研究
かった。スプライス部位変異,小欠失および挿入の
塩基の小欠失および挿入,その後のフレームシフト
割合は,重症血友病 A( 17.8% )および重症血友病
の有無に左右されると考えられる。残りは主にミス
B( 18.4% )で等しかった。こうした変異がヌル変異
センス変異であった。未知の変異の割合は,血友
になるか非ヌル変異になるかは,スプライス部位変
病 A と血友病 B で類似していた。ミスセンス変異
異が位置付けられる配列での変異,関与する複数の
は,中等症血友病 A( 57.7% )および中等症血友病
B( 69.2% )の大部分に認められた。
血友病のタイプによる出血表現型の重症度
Table 3 および Fig. 1 に出血表現型の特徴を示す。
重症血友病患者の場合,以下の項目については,血
友病 A と血友病 B との間に差異が認められなかっ
た。診断時年齢( 0.42 歳,IQR 生後 3 日∼ 0.88 歳
対 0.43 歳,IQR 生 後 0 日 ∼ 0.88 歳,P = 0.65 ),
凝固因子製剤に対する初回曝露年齢( 0.81 歳,IQR
0.43 ∼ 1.11 歳 対 0.88 歳,IQR 0.60 ∼ 1.18 歳,
P = 0.20 ),初回出血年齢( 0.82 歳,IQR 0.50 ∼ 1.12
歳 対 0.88 歳,IQR 0.60 ∼ 1.19 歳,P = 0.36 ), 初
回関節内出血年齢( 1.18 歳,IQR 0.82 ∼ 1.80 歳対
1.20 歳,IQR 0.89 ∼ 1.92 歳,P = 0.59 ),3 回目の
IQR 1.25 ∼ 2.66 歳対 2.19
関節内出血年齢
( 1.91 歳,
歳,IQR 1.57 ∼ 3.10 歳,P = 0.53 ),曝露日数 10
日時点の年齢( 1.31 歳,IQR 0.85 ∼ 1.77 歳対 1.34
歳,IQR 0.93 ∼ 1.84 歳,P = 0.84 )。 さ ら に, 偶
発的な出血を呈した患者と反復的な出血を呈した
患者との年齢に差異はみられなかった。しかしなが
ら,予測どおり,年齢は中等症血友病患者の方が重
症血友病患者に比べ高かった。全体では,中等症血
友病の場合,血友病 A と血友病 B との間に明確な
差は認められなかった。また,血友病 A と血友病
B との間には,定期補充療法開始年齢の差は認めら
れなかった。
23
Full Translation: N. Clausen, et al.
血友病のタイプによる出血の多様性
重症および中等症の血友病 A および血友病 B と
も,出血は軟部組織および関節内に最も頻発する。
重症血友病患者の場合,初回曝露時および追跡中の
各種タイプの出血の分布は血友病 A と血友病 B の
患者で類似していた。中等症血友病 B の出血回数
は少なかったため,はっきりとした結論を出すには
至らなかった。
考 察
重症および中等症の血友病 A および血友病 B 患
児 781 名を対象にした本研究では,治療初期段階
の出血表現型の重症度および出血の多様性につい
て,血友病 A と血友病 B との間に差異は認められ
24
血友病 A または血友病 B 患児において類似している出血表現型:コホート研究
なかった。今回の結果は,血友病 B が血友病 A に
本研究は,均一に観察され連続で登録した小児を
比べ重症出血が少ない軽症の表現型を担うことを
対象とする最大規模のコホートに基づいたもので,
( 6–8 )
示唆した,過去の研究や最近の総説 3 報
が対象
表現型が重症または中等症の血友病 A または血友
にしたより高い年齢層の患者に対する知見とは対
病 B について記述したのは本稿のみである。我々は,
照的なものである。
表現型の交絡因子となる定期補充療法の開始やイ
Table 4 に,血友病 A 患者と血友病 B 患者との
ンヒビター発生など,いずれかが最初に認められる
各臨床表現型を比較した,これまでの文献について
のを回避するため,「 出血時投与療法 」の初回治療
まとめる。重症血友病の小児および成人患者を対象
期間を,診断から凝固因子製剤曝露 75 日までと比
にしたあるコホート研究では,治療開始時の出血表
較的短期間にすることに重点を置いてきた。
現型の差異を扱い,関節内出血の発現年齢が臨床的
本研究の限界は,中等症血友病 B のサブグルー
重症度の重要な指標であることを報告した。重症血
プ患者が少数であったことである。このことから,
友病 A 患者の場合,初回関節内出血年齢の中央値
顕著な不規則変動が生じやすくなる。
は 1.9 歳( IQR 0.5 ∼ 5.9 歳 )であった。重症血友病
本研究は生後早期の出血表現型に焦点を当てた。
B 患者の場合,年齢中央値は 0.5 年遅い 2.4 歳( IQR
0.9 ∼ 5.5 歳 )であったが,統計的有意差は示さな
他の研究から得られたさまざまな知見は,成人患者
かった( 5 )。
の過程において,表現型が血友病 A と血友病 B と
本研究のパラメータすべてについて,血友病 A
( HA )対血友病 B( HB )の出血時点で,低年齢に対
集団に由来していたと考えられる。その後の血友病
の間で異なるかは,現在実施中である本コホートの
さらなる研究を待たなければならない。
する有意な傾向は認められなかった。パラメータは
定期補充療法が生後早期( 年齢中央値 1.39 歳 )に
相互に関係があるため,出血は偶然に生じたことが
開始されたため,多くの患者の観察期間は短かっ
考えられる。あるいは,現実に差があってもわずか
た。このことは,血友病 A と血友病 B との出血パ
な差であるため,統計的有意差として認識されな
ターンに対する差の検出能の限界となった可能性
かったことが考えられる。
がある。ただし,表現型の自然経過を検討するため
3 件の研究で成人における血友病 A と血友病 B の
( 2,3,9 )
重症度が比較された
。表現型を表すパラメータ
には,関節形成術の回数,凝固因子濃縮製剤の年間使
に定期補充療法なしで観察期間の延長を求めると
なると,研究としては理想的ではあるが,倫理的な
懸念を引き起こすことになると考えられる。
用量,出血回数または X 線検査による関節破壊スコ
出血表現型の重症度のマーカーとして今回検査
アを組み合わせた合成スコア,凝固因子製剤の使用量
したパラメータは,真の表現型を反映するのに最適
および出血回数が挙げられた。これらの測定結果は,
とはいえないという可能性もある。しかしながら,
生涯を通じ行われた血友病のケアの質および強度にあ
初回関節内出血年齢は,重症血友病の臨床的重症度
る程度依存することになり,結果に差が生じたとして
の重要な指標であることが広く報告されており,治
も,それは治療レジメンを変えたことによるもので
療の必要性および関節症と逆の関連を示すことも
あって,必ずしも根底にある表現型の差異によるもの
報告されている( 10,12 )。
ではないと考えられる。さらに,出血傾向は凝固因子
個々の患者の出血表現型は,患者の凝固因子レ
レベルのみに留まらず,関節および組織の構造,外傷
ベル,血管構造の質,血小板の機能により決定され
への曝露,出血エピソード後の治癒にも左右される。
る( 13 )。この 3 つの要素はすべて遺伝的に決定され
成人と小児とを組み合わせた研究は 3 件あり,
るが,血友病の表現型について,このすべてを網羅
年齢中央値は 20 代後半であった。しかし小児は少
した研究はない。今回ヌル変異の患者は,血友病 B
数であり,小児に関する単独データはいずれも報告
より血友病 A の方に多く認められたが,出血表現
全コホー
されなかった( 4,10,11 )。よって小児の結果は,
型は類似していた。この結果については,血管構造
トの結果とは異なっていた可能性がある。
および血小板の機能を決定する変異において,重症
25
Full Translation: N. Clausen, et al.
26
血友病 A または血友病 B 患児において類似している出血表現型:コホート研究
度が相殺されたことに起因する可能性が考えられ
る。
また,センター間の治療手順書の相違が,血友病
A と血友病 B との間で等しい表現型の所見に影響
を及ぼしたことも考えられる。しかしながら,この
ことにより表現型の複数のマーカーである診断時
年齢,初回治療年齢,初回出血年齢は影響を受けな
いと考えられる。明確に影響を及ぼしたと考えられ
るのは,定期補充療法の回数および定期補充療法開
始年齢である。なお,2003 年の PedNet 所属センター
間の調査では均一の intention-to-treat 解析結果が示
され,センターの 91%( 22 中 20 のセンター)にお
いて,新規患者の継続的な定期補充療法( 一次また
は二次)を実施していた。PedNet による協力を通じ,
この傾向はその後強まっている( 14 )。
本研究では,関節,筋肉,軟部組織,頭蓋内,そ
の他組織における出血の多様性は,血友病 A と血
友病 B とでそれぞれ類似していた。しかしながら,
多くのセンターでは,初回関節内出血発生時,また
ごく稀には頭蓋内出血発生時に定期補充療法を開
始するという基準を設けており,上記の結果はこの
基準による影響を受けた可能性がある。この基準
が出血の多様性に影響を及ぼした可能性はあるも
のの,定期補充療法開始年齢が血友病 A と血友病
B とで類似していたことから,この基準により今回
の結果に有意な偏りが生じた可能性は低い。
本コホートを構成したのは,PedNet 血友病レジ
ストリーの研究に由来する,連続で登録した重症お
よび中等症の血友病 A および血友病 B 患者,なら
びに RODIN 研究に由来する,連続で登録した重症
血友病 A 患者である。従って,本研究コホートの
重症血友病 A 患者の割合は,任意抽出による患者
群の割合より高かった。両コホートの集団は,この
2 件の研究でデータの品質管理が等しく高かったこ
とから妥当であると証明された。
重症血友病 A と重症血友病 B との間で,高い出
血傾向にわずかな差があっても,初回治療日数を
75 日とした短期間内では明らかにならないと考え
られる。そのため,重症血友病患者に加え,中等症
血友病患者を調査対象にした。しかしながら,今回
の結果では,中等症血友病 A と中等症血友病 B と
27
Full Translation: N. Clausen, et al.
の間でも,出血の重症度は等しいことが示唆され
た。
結 論
本研究から,出血表現型の重症度および多様性
Mojtaba Hashemi 氏 , Yves Guillaume 氏 , Kate
Khair 氏 , Karin Lindvall 氏 , Monique Spoor 氏 ,
Bep Verkerk 氏 に 感 謝 す る。 本 研 究 は,Baxter
Healthcare Inc. 社( 米国イリノイ州 Deerfield )およ
び Bayer Healthcare 社( ドイツ,ベルリン )からの
無制限の研究助成金により支援されたものである。
は,重症および中等症の血友病 A および血友病 B
の男児で,血友病の初期段階では類似していること
論文著者
が認められた。この知見は,血友病 B 患児が血友
貢献度:N.C.,P.P.,S.C.D.,S.G. は本研究をデ
病 A 患児と同様に慎重に観察され,治療される必
ザインした。N.C.,P.P.,S.C.D.,S.G. はデータの
要があることを示している。凝固因子製剤による定
解析および解釈を行った。N.C.,P.P.,S.C.D.,S.G. は
期補充療法は,血友病 A と血友病 B で同一のガイ
本稿を執筆した。N.C.,P.P.,S.C.D.,S.G.,R.L. は
ドラインに従って開始し,その後,用量および頻度
データを収集し,本稿を批判的にレビューした。
を実際の出血表現型に従って調整する必要がある。
後年になって,血友病 B の出血の方が血友病 A
よりも軽症であると判明しても,出血はそれでもな
お重大な関節損傷を生じるに足るほど深刻である
ため,早期に定期補充療法を開始することが有益で
あると考えられる。
開 示
RODIN 研究は,Baxter Bioscience Inc.( 米国イ
リノイ州 Deerfield )および Bayer Healthcare 社か
らの無制限の研究助成金により支援された。S.C.
Gouw は , ZLB Behring, Novo Nordisk, Wyeth,
Baxter,Bayer の各社から無制限の研究支援を受け
た。それ以外の著者は,競合する金銭的利害関係が
謝 辞
我 々 は, 研 究 コ ー デ ィ ネ ー タ ー で あ る Ella
ないことを宣言している。N. Clausen,P. Petrini,S.
Smink 氏, デ ー タ 管 理 者 で あ る Emma Smid 氏 に
Claeyssens-Donadel は,対立または偏りがあると
謝 意 を 表 し た い。 ま た, 本 研 究 へ の 助 力 に 対 し
認められ得る利害がないことを表明した。
References
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血友病 A または血友病 B 患児において類似している出血表現型:コホート研究
Appendix
Study group members
-C Altisent, Unitat Haemofilia, Hospital Traumatologica, Hospital Vall
d’Hebron, Barcelona, Spain
-G Auerswald, Gesundheit Nord, Klinikum Bremen Mitte, Prof.-HessKinderklinik, Bremen, Germany
-M Carcao, Division of Hematology/Oncology, Hospital for Sick Children, Toronto, Canada
-E Chalmers, Department of Hematology, Royal Hospital for Sick Children, Yorkhill, Glasgow, UK
-H Chambost, APHM, Service d’hematologie pediatrique, H^
opital La Timone & Aix-Marseille Univ, Inserm U1062, Marseille, France
-A Cid, Unidad de Haemostasia y Trombosis, Hospital Universitario y
Politecnico La Fe, Valencia, Spain
-S Claeyssens, Centre Regional d’Haemophilie, Centre Hospitalo Universitaire, Toulouse, France
-N Clausen, Department of Pediatrics, University Hospital of Aarhus at
Skejby, Aarhus, Denmark
-K Fischer, Van Creveld Kliniek, University Hospital Utrecht, Utrecht,
The Netherlands
-Ch van Geet, K Peerlinck, Catholic University of Leuven, Campus Gasthuisberg, Service of Pediatric Hematology, Leuven, Belgium
-G Kenet, National Haemophilia Center, Ministry of Health, Sheba Medical Center, Tel Hashomer, Israel
-R Kobelt, H€
amophiliezentrum, Wabern and Children’s Hospital of the
University of Berne, Switzerland
-W Kreuz, C Escuriola, J.W. Goethe University Hospital, Department of
Pediatrics, Frankfurt, Germany
-K Kurnik, Dr. v. Haunersches Kinderspital, University of Munich,
Munich, Germany
-R Liesner, Haemophilia Comprehensive Care Centre, Great Ormond
Street Hospital for Children NHS Foundation Trust, London, UK
-R Ljung, Lund University, Department of Pediatrics and Malm€
o Centre
for Thrombosis and Haemostasis, Sk
anes Universitetssjukhus, Malm€
o,
Sweden
-A M€akipernaa, Hospital for Children and Adolescents, University of Helsinki, Helsinki, Finland
-A Molinari, Dipartimento di Ematologia ed Oncologia, Unita Trombosi
ed Emostasi, Ospedale Pediatrico Giannina Gaslini, Genova, Italy
-W Muntean, Universit€ats-Klinik f€
ur Kinder- und Jugendheilkunde, Graz,
Austria
-B Nolan, Department of Paediatric Hematology, St. James’s Hospital,
Dublin, Ireland
-J Oldenburg, Institut f€
ur Experimentelle H€amatologie und Transfusionsmedizin, Universit€atsklinikum Bonn, Germany
-R Perez Garrido, Hospital General Unidad de Haemofilia, Hospitales
Universitarios Virgen del Rocio, Sevilla, Spain
-P Petrini, Department of Pediatrics, Clinic of Coagulation Disorders,
Karolinska Hospital, Stockholm, Sweden
-H Platokouki, St. Sophia Children’s Hospital, Haemophilia-Haemostasis
Unit, Athens, Greece
-A Rafowicz, CRTH Bicetre, Service Hematologique, Paris, France
-G Rivard, Division of Hematology/Oncology, H^
opital St Justine, Montreal, Canada
-E Santagostino, ME Mancuso, Angelo Bianchi Bonomi Haemophilia and
Thrombosis Center, Fondazione IRCCS Ca’ Granda, Ospedale Maggiore
Policlinico, Milan, Italy
-A Thomas, Royal Hospital for Sick Children, Edinburgh, UK
-M Williams, Department of Hematology, The Children’s Hospital, Birmingham, UK
-SC Gouw, JG van der Bom, HM van den Berg, RODIN Study staff.
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