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「印刷物事例別料金調査」 の実施と結果について
「印刷物事例別料金調査」 の実施と結果について 財団法人経済調査会 調査研究部 第三調査研究室 印刷物制作費について,一品ごとに仕様が異な はじめに るからこそ積算が必要であることは前述したとお りですが,本調査の結果が,印刷物制作費の概算 当会では,印刷関連会社のご協力を得て,印刷 を判断する参考情報になればと考えています。 物制作費の調査を実施し,その結果を「積算資料 印刷料金」 (以下,本誌)に掲載しています。 本調査の概要 この度,印刷物の事例を示し,その印刷物の制 作について,各社の実取引価格をベースに見積り 本調査の概要は以下のとおりです。 書を作成していただく手法(印刷物事例別料金調 査,以下「本調査」 )で調査を実施しました。こ ⑴ 調査実施時期 こでは,その内容と結果をお知らせします。 2009年6∼8月 印刷物は,一品ごとにデザイン,原稿種類,原 稿量,判型,ページ数,制作数量,用紙などが異 なる受注生産品であるため,その制作費算出に は,仕様に従って各項目の料金を積み上げていく (積算)ことが必要になります。 このため,例えば“チラシ,両面カラー,1,000 部”といった限定された仕様で料金を示すことは 難しいとされています。 ⑵ 調査内容 ① 企業概要アンケート調査 →企業概要および市況アンケート記入を依頼 ② 事例1 商業印刷物 リーフレット ③ 事例2 出版印刷物 単行本 ④ 事例3 事務用印刷物 複写帳票 →仕様・見本を提示し,見積り書作成を依頼 最近では,ホームページ上でチラシ,パンフレ ットなどの種類別に,印刷色数・数量別に示され た料金表を見かけるケースが増えましたが,完全 ⑶ 回 答 調査内容 回答企業数 原稿の入稿ありきで印刷工程以降の料金が対象と ①企業概要アンケート 194社 なるなど,その範囲は限定的であることが多々あ ②事例1 商業印刷物 リーフレット 117社 ③事例2 出版印刷物 単行本 109社 ります。 このような現実はありますが,本調査では,一 ④事例3 事務用印刷物 複写帳票 99社 般的と考えられる印刷物の事例を選択し,その仕 回答企業の概要については,従業員数99人以 様と組見本を示すことで,印刷物のイメージを共 下および年間売上高20億円未満の企業が全体の 有しての制作費全体の料金水準把握を目的としま 約80%を占めました。 した。 印刷料金 10 前文 5 調査結果 事例1 商業印刷物 リーフレット ③ 印刷規格(見積り書より判断可能な件数) A1(全判)……47件(58.0%) A2(半裁)……29件(35.8%) その他 …… 5件( 6.2%) 事例1 商業印刷物 リーフレットでは,図 1 ④ 用紙規格(見積り書より判断可能な件数) に示す仕様・組見本にて調査を実施しました。調 菊判 ……49件(55.7%) 査結果の概要は以下のとおりです。 A 判 ……38件(43.2%) その他…… 1件( 1.1%) ⑴ 見積り項目 ① 見積り書の内訳の有無 刷版種類については,CTP 版が80.0%を占め 内訳あり……92件(78.6%) ており,印刷市場における CTP 版の導入・稼動 内訳なし……25件(21.4%) の高さが確認できます。印刷規格はA1(全判) ② 刷版種類(見積り書より判断可能な件数) が58.0%で,面付により大きな規格で印刷を行う CTP 版……64件(80.0%) ことにより生産効率を高める制作手法が選択され PS 版 ……16件(20.0%) ています。 【仕 様】 【組見本】 〈表 面〉 前文 6 印刷料金 〈裏 面〉 10 ⑵ 見積り結果 が181,050円であり,調査結果からは,本事例に 調査結果は表 1のとおりです。 おける印刷物制作費用の概算は18∼19万円程度 個々に見ると最小値と最大値の差が大きい項目 と考えられます。 がありますが,総額では,最小値と最大値の差が 3.6倍はあるものの,平均値は187,649円,中央値 なお,参考までに,本誌(2009年版/前号) における積算結果は表 2のとおりです。 印刷料金 10 前文 7 調査結果 事例2 出版印刷物 単行本 の概要は以下のとおりです。 ⑴ 見積り項目 ① 見積り書の内訳の有無 事例2 出版印刷物 単行本では,図 2に示す 内訳あり……85件(78.0%) 仕様・組見本にて調査を実施しました。調査結果 内訳なし……24件(22.0%) 【仕 様】 【組見本】 〈目 次〉 前文 8 印刷料金 〈本文 (のうち1ページ) 〉 10 〈奥 付〉 ② 刷版種類(見積り書より判断可能な件数) 本文の印刷規格については,71.2%がB2(半 CTP 版……61件(81.3%) 裁)を選択しています。本文は1枚の紙に複数の PS 版 ……14件(17.8%) ぺージを面付し,それを折りたたんで重ねること ③ 表紙印刷規格(見積り書より判断可能な件数) により1冊の本としての機能を果たしますが,制 B2(半裁)……35件(48.6%) 作工程の都合上,1枚の紙に両面で16ページ(片 B3(四裁)……25件(34.7%) 面で8ページ)印刷するのが,最も効率的と言わ その他 ……12件(16.7%) れています。本事例では,仕上り規格がB5であ ④ 本文印刷規格(見積り書より判断可能な件数) B1(全判)…… 8件(11.0%) るため,B5を片面で8ページ面付(両面で16 ページ)した規格がB2(半裁)になります。 B2(半裁)……52件(71.2%) 用紙の規格については,表紙・本文ともに四六 その他 ……13件(17.8%) 判が90%以上となっています。単行本や書籍な ⑤ 表紙用紙規格(見積り書より判断可能な件数) どの多ページで構成された印刷物(ページ物印刷 四六判……74件(96.1%) 物とも言う) は,面付や折り加工,表紙と合わせた その他…… 3件( 3.9%) 後の断裁加工が必要になるため,印刷・加工の ⑥ 表紙用紙規格(見積り書より判断可能な件数) ための余白が他の印刷物よりも多く必要となりま 四六判……73件(92.4%) す。このため,B系列の印刷物を制作するために その他…… 6件( 7.6%) はB判よりも一回り大きな四六判が選択されま す。 事例2についても,事例1と同様に刷版種類で は CTP 版が81.3%を占めています。 表紙の印刷規格については,48.6%がB2(半 ⑵ 見積り結果 調査結果は表 3のとおりです。 裁)を選択しています。本事例では制作数量 事例 1と同様に個々に見ると最小値と最大値 5,000部のため,印刷通し数は1,250通しになりま の差が大きい項目がありますが,総額では,最小 す。オフセット印刷機では,刷版や用紙・インキ 値と最大値の差が 3.3 倍はあるものの,平均値は のセッティング作業,色や見当合わせのための試 884,731円,中央値が 859,480円であり,調査結果 し刷りなど,印刷数量によらず一定の初期稼動が からは,本事例における印刷物制作費用の概算は 必要になります。これらにかかる費用が基本料金 80∼90万円程度と考えられます。 に該当しますが,一般的には1,000 ∼ 3,000通し 程度と言われています。 なお,参考までに,本誌(2009年版/前号) における積算結果は表 4のとおりです。 印刷料金 10 前文 9 前文 10 印刷料金 10 調査結果 事例3 事務用印刷物 複写帳票 ③ 印刷規格(見積り書より判断可能な件数) A2(半裁)……14件(25.0%) A3(四裁)……36件(64.3%) その他 …… 6件(10.7%) 事例3 事務印刷物 複写帳票では,図 3に示 ④ 用紙規格(見積り書より判断可能な件数) す仕様・組見本にて調査を実施しました。調査結 A判 ……53件(98.1%) 果の概要は以下のとおりです。 四六半裁…… 1件( 1.9%) ⑴ 見積り項目 ① 見積り書の内訳の有無 事例3でも CTP 版の割合が高い結果となりま した。印刷規格については,A3 (四裁)が64.3% 内訳あり……69件(69.0%) となりました。複写伝票の印刷では,上下の用紙 内訳なし……31件(31.0%) に印刷された表を重ねて利用することから印刷位 ② 刷版種類(見積り書より判断可能な件数) 置に精度が求められること,使用する用紙が薄い CTP 版……38件(62.3%) こと,製本時の効率の関係により,一般的に半裁 PS 版 ……23件(37.7%) 以下の規格が選択されます。 【仕 様】 【組見本】 〈1枚目(下紙)〉 帳票は1枚目と同じ 〈2枚目 (下紙) 〉 文字差し替えのみ 印刷料金 10 前文 11 ⑵ 見積り結果 円,中央値が63,600円であり,調査結果からは, 調査結果は表 5のとおりです。 本事例における印刷物制作費用の概算は6 ∼ 7万 事例3でも,個々に見ると最小値と最大値の差 円程度と考えられます。 が大きい項目がありますが,総額では,最小値と 最大値の差が2.7倍はあるものの,平均値は65,942 前文 12 印刷料金 10 なお,参考までに,本誌(2009年版/前号)に おける積算結果は表 6のとおりです。 最大値の差は,事例1で 5.7倍,事例2で 4.1倍, まとめ 事例3で 1.6倍となりました。 この項目では,色校正の種類が料金差に影響し 印刷物の事例を示し,その印刷物の制作につい ていると考えられます。刷版工程の CTP 化に伴 て,各社の実取引価格をベースに見積り書を作成 い,色校正に関してもデジタルワークフローで処 していただく手法で行った本調査の結果の概要は 理する流れが増えていますが,該当機種となる 以上のとおりです。 DDCP (デジタルデータから色校正紙を制作する) 種類や用途,仕様が異なる印刷物について,事 にはさまざまなラインナップがあり,品質・コス 例1,事例2,事例3の調査結果(総額)が異な ト面の差が出やすいと言えます。事前の見積り段 るのは当然のことですが,その結果から見えてく 階では,受注側の保有設備によりその種類や水準 る共通点もあります。 が決まってくると考えられます。 ここでは,調査結果から判断できる傾向と本調 査における今後の課題についてまとめます。 ③ 諸経費(運賃含む) 諸経費(運賃含む)についての最小値と最大値 ⑴ 項目別データのバラツキの要因 の差は,事例1で 53.7倍,事例2で129.1倍,事 本調査の結果では,事例1,事例2,事例3と 例3で11.2倍となりました。 もに,総額についての最小値と最大値の差は3倍 本誌「印刷費積算体系」における諸経費は, 程度でした。見積り書の料金水準の違いに影響す “印刷物制作にかかる間接費用で一般管理費・販 る要因は,企業規模や保有設備とそれにより選択 売費等”との位置付けになっていますが,本調査 する制作工程の違い,発注側が提示する印刷物仕 の結果では,受注側である印刷会社ごとに諸経費 様の詳細度と受注側の読み取り方の違い,また, の扱いや含まれる費用の内容が異なり,結果とし 当然ながら厳しい受注競争などが挙げられます。 て大きな差が出ていると考えられます。 一方,項目別に見ると, ・DTP∼校正 ⑵ 今後の課題 ・製版∼刷版(色校正含む) 本誌では,印刷物制作費を積算するために必要 ・諸経費(運賃含む) な,印刷物の制作工程に関わる各種料金を掲載し の3項目の差が大きい結果となりました。これら ています。制作工程別の料金は印刷物制作費の積 について考えられる要因は以下のとおりです。 算を行う上で重要な要素であり,このため, “制作 工程別の料金”にスポットを当てた調査を実施し ① DTP ∼校正 DTP ∼校正についての最小値と最大値の差は, てきました。 一方,本調査では,印刷物の事例ごとに“総 事例1で 9.2倍,事例2で14.1倍,事例3で 8.0倍 額”にスポットを当てた調査を実施しましたが, となりました。 これまで述べてきたように,調査結果より,およ DTP 作業の見積りは,仕様の原稿内訳や組見 その目安となる料金帯が得られました。 本イメージから作業量(主に所要時間)を想定 今後は,本調査とは異なる事例,同じ印刷物に し,それに係る費用を算出するのが一般的です ついて制作数量や規格などを変化させた事例な が,この作業量の想定で大きな差が生じていると ど,調査事例の種類を増やしていくことで,印刷 考えられます。 物制作費の概算を判断するための情報の蓄積に取 り組むとともに,工程別料金との比較という観点 ② 製版∼刷版(色校正含む) で分析を行っていきたいと考えております。 製版∼刷版(色校正含む)についての最小値と 印刷料金 10 前文 13