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S1XBIG
低コストで SAC305 同等の接合信頼性を有する Sn-Ag-Cu-Bi-Ni 系はんだ(S1XBIG)の機械的特性 KOKI COMPANY LIMITED Adachi-ku, Tokyo. JAPAN [email protected] 1. 緒⾔ はんだの Pb フリー化が進み、現在は SAC305 と呼ばれる Sn-3.0Ag-0.5Cu のはんだ合⾦が広く使 ⽤されている。しかしながら、2010〜2012 年の間 に⾒られた Ag 地⾦価格の⾼騰が SAC305 はんだ Fig.1 合⾦の地⾦価格⾼騰に⼤きく影響した。2015 年現 マイクロダンベル形状 在、Ag 地⾦価格は⼀定の落ち着きを⾒せているが、 Table.1 Ag は採掘地域の情勢不安定、投機的な要因によっ て価格変動のリスクが⾼い⾦属元素であることが 1) 指摘されている 。 PC 等の端末やモバイル機器の普及により、電⼦ 機器の種類や数量はより増加傾向にある。その中 で、電⼦機器の部品と回路接続に⽤いられるはん だの品質のみならず、供給および価格の安定性へ の要求も⾼いものとなっている。 既に、(株)弘輝では低コストはんだ合⾦である S1XBIG; Sn-1.1Ag-0.7Cu-1.8Bi-Ni * のソルダペー ストを製品化し、SAC305 とほぼ同等の信頼性や 使⽤性を有することを⽰してきた 2)。本稿では Bi、 Ni 添加がどのように機械的特性へ影響をおよぼし ているかを冶⾦的な視点で調査した結果および考 察を紹介する。 * S1XBIG は富⼠電機(株)様のライセンス合⾦で あり、(株)弘輝はライセンスを受けて製造・販売を ⾏っている。 2. はんだのミクロ組織と機械的特性 2.1 試験⽅法 はんだの機械的特性を考える上で、はんだ合⾦ そのもの(はんだバルク特性)だけでなく、はん だ接合界⾯に形成される⾦属間化合物 (InterMetallic Compounds; IMC)の特性も考慮す ることが重要である。 はんだ組織の機械的特性について、実際のはん だ接合プロセスで得られるはんだ接合部の組織と 同等なミクロ組織を有したマイクロダンベルを⽤ いた引張試験で評価を⾏った。 接合界⾯の機械的特性については、はんだボー Sn Ag Cu Bi Ni SAC305 Bal. 3.0 0.5 - - S1X Bal. 1.1 0.7 - - S1XIG Bal. 1.1 0.7 - <0.1 S1XBIG Bal. 1.1 0.7 1.8 <0.1 マイクロダンベルの作製は、溶融はんだを融点 以上に予熱したマイクロダンベル形状の鋳型に流 し込み、冷却液に浸漬、凝固させることで作製し た。このとき、マイクロダンベル標点間のはんだ 凝固直前の冷却速度が約 5℃/sec となるように冷 却している。 引張試験は、万能試験機(インストロン社製、 型式:5566A)を⽤い、ひずみ速度を 1.0×10-3[s-1] と⼀定にして応⼒-ひずみ線図を得た。 また、各はんだ合⾦の耐熱性の⽐較のために As Cast 材(鋳造後未処理品)のマイクロダンベルと、 Aged 材(鋳造後に⾼温保持)のマイクロダンベル で引張試験を⾏った。⾼温保持条件は 125℃× 1000hr で⾏った。 2.1.2 はんだバンプの⾼速せん断試験 はんだバンプの作製は、Table.2 に⽰す組成のは んだ合⾦のボール(φ700µm)を OSP 処理した Cu ランドにバンプはんだ付けしたものを⽤いた。 バンプはんだ付けのリフロープロファイルを Fig.2 に⽰す。はんだ合⾦での接合界⾯付近の化合 物相の形態の違いがより明確になるように、リフ ローピーク温度保持時間を 60 秒と通常より溶融 状態が⻑くなるように設定した 3)。 ルで作製したはんだバンプの⾼速せん断試験で評 価を⾏った。 2.1.1 マイクロダンベルの作製および引張試験 本稿で⽤いたマイクロダンベルの形状を Fig.1 に⽰す。また、マイクロダンベル引張試験での評 価対象はんだ組成を Table.1 に⽰す。 引張試験対象のはんだ組成 合⾦名称 Table2. はんだバンプの組成 合⾦名称 Sn Ag Cu Bi Ni SAC305 Bal. 3.0 SACBi※ Bal. 1.1 0.5 - - 0.7 1.8 - S1XBIG Bal. 1.1 0.7 1.8 <0.1 ※SACBi は本稿で便宜的につけた合⾦名称 300 Tempature/℃ 250 200 150 100 50 0 0 Fig.2 100 200 Time/sec 300 400 はんだバンプ作製のリフロープロファイル ⾼速せん断試験は⾼速ボンドテスター(ノード ソン・アドバンスト・テクノロジー社製、型式: high 4000HS)を⽤い、せん断ツールを⾼さ 50µm,速 さ 300mm/sec でボールバンプをせん断し、せん 断時の破壊エネルギーを得た。また、せん断後の 破断⾯観察により、残はんだ⾯積率評価も⾏った。 各組成において 10 個のボールバンプに対して⾼ 速せん断試験を⾏い、平均値で評価した。 2.2 Fig.3(b) S1XBIG はんだ接合界⾯組織のマッピング 結果および考察 2.2.1 S1XBIG はんだのミクロ組織 Fig.3 に、OSP 処理した Cu 基板上に S1XBIG で 2.2.2 Ag 量とはんだ機械的強度の関係 接合したはんだ組織およびはんだ接合界⾯のミク SAC305 と S1X の応⼒-ひずみ曲線を Fig.4 に⽰ ロ組織 SEM 像ならびに EPMA 元素マッピングを す。はんだの Ag 量低下により、引張強度が低下し ⽰す((a)と(b)でスケールが異なっていることに注 ている。また、いずれのはんだ合⾦においても As 意)。添加した Bi および Ni について、Bi ははんだ Cast 材に⽐べ、Aged 材の⽅がより強度が低下し の Sn 相中に固溶しており、Ni ははんだ組織中なら ている。これは、微細分散していた Ag3Sn の粗⼤ びに接合界⾯の IMC として Sn-Cu-Ni 系化合物を 化により、強度の低い Sn 相の変形抑制の効果が低 形成している。 減したことによるものと考えられる。このことは、 As Cast 材より Aged 品の⽅がより伸びが向上して いることから説明できる。結果として、Sn-Ag-Cu 系はんだでの Ag 量の低下は機械的強度ならびに 耐熱性の低下につながる。 60 S1X As Cast S1X Aged SAC305 As Cast SAC305 Aged Stress/MPa 50 40 30 20 10 0 0 high 20 40 Strain/% 60 80 Fig.4 SAC305 と S1X の応⼒-ひずみ曲線 2.2.3 Ni および Bi 添加におけるはんだ合⾦の機 械的強度とミクロ組織 Fig.5 に、S1X, S1XIG および S1XBIG の応⼒ひずみ曲線を⽰す。 Fig.3 (a) S1XBIG はんだ組織とマッピング low low 60 50 Stress/MPa バラつきの範囲と考えられる。 S1X As Cast S1X Aged S1XIG As Cast S1XIG Aged S1XBIG As Cast S1XBIG Aged 40 30 Ni および Bi を添加した S1XBIG は、S1XIG より⼤幅に引張強度が向上している。特に、⾼温 保持後での強度低下がほとんど⾒られず、SAC305 よりも耐熱性を有するはんだ合⾦といえる。伸び 20 がやや低下傾向にあるが、30%前後の伸びが⾒ら 10 れるので、はんだとして使⽤しても⼤きな⽀障に 0 ならないものと判断できる。Fig.7 に、S1XBIG の 0 20 40 Strain/% 60 80 As Cast 材と Aged 材のダンベル標点⻑部のミクロ 組織を⽰す。 Fig.5 S1X, S1XIG および S1XBIG の応⼒-ひずみ 曲線 S1X に対し、わずかに Ni を添加した S1XIG は As Cast 材でわずかに強度が向上している。さらに、 ⾼温保持後の強度低下の割合が⼩さく、耐熱性が 向上する傾向が⾒られる。Fig.6 に、S1XIG の As Cast 材と Aged 材のダンベル標点間のミクロ組織 を⽰す。 (a)As Cast (a)As Cast 40µm (b)125℃×1000hr Aged Fig.7 S1XBIG の(a)As Cast 材および (b)Aged 材のダンベル標点間ミクロ S1XIG と⽐べて、Bi 添加によるミクロ組織形態 に⼤きな変化は⾒られないのは、Fig.3 のマッピン グでも⽰されるように、Bi は Sn にほぼ固溶してい 40µm (b)125℃×1000hr Aged Fig.6 S1XIG の(a)As Cast 材および (b)Aged 材のダンベル標点間ミクロ るためである。ただし、Bi は Sn より原⼦半径が⼤ きい元素であり、Bi 添加により、Sn 相の変形に要 する⼒が⼤きくなるため 5) 、引張強度が⼤幅に向 上する。同様に、Sn 相中の原⼦移動が抑制される ことから、⾼温保持後の組織変化も少なくなり、 S1XIG は添加した Ni がはんだ組織中で微細な Ni-Cu-Sn の化合物相を形成することで、Sn 相の 変形を抑制し、強度を向上しているものと考えら れる。また、Ni-Cu-Sn の化合物は Sn-Cu 化合物 に⽐べ、⾼温保持過程において化合物の粗⼤化が 進⾏しにくく、Sn 相の粗⼤化抑制にも有効と考え られる。Ni 添加により、⾼温での耐クリープ特性 が向上することが報告 4) されていることから、本 組成での組織耐熱性向上に寄与し、⾼温保持後の 引張強度の低下を抑制しているとみられる。なお、 S1X より伸びが良好にみえるが、この伸びの差は 結果として耐熱性向上に寄与している。 2.2.4 はんだ接合界⾯の⾼速せん断時挙動およ Ni を添加した場合、化合物相に Ni が取り込まれ化 合物相の成⻑が抑制される(Fig.3(b)の EPMA マ び接合界⾯のミクロ組織 Fig.8 の模式図に⽰すように、ボールバンプの⾼ ッピングで Ni 含有が明確になっている)。さらに、 速せん断試験において、基板側の破断⾯にはんだ Ni が取り込まれた Cu6Sn5 の化合物相は靱性や強 組織が残るような破壊モードをはんだ破壊、破断 度が向上することが知られている。⼀⽅、はんだ ⾯が接合界⾯の化合物層で破断している破壊モー 組織は Bi 添加により強度が向上しているため、化 ドを界⾯破壊と呼ぶ。界⾯破壊挙動を⽰す場合は、 合物相にかかるせん断応⼒が⼤きくなり、衝撃負 ⾼速せん断時にはんだ組織に⽐べて界⾯化合物相 荷に対しては不利になる。よって、SACBi は脆性 の強度が低く、せん断時の破壊エネルギーが⼩さ を⽰す界⾯破壊を引き起こす。それに対し、Ni を くなる傾向を⽰す。そのため、破壊モードがはん 添加した S1XBIG は SAC305 よりわずかに破壊エ だ破壊で破壊エネルギーが⼤きいものほど、耐衝 ネルギーが低くなるものの、ほぼ同等の耐衝撃性 撃特性に優れた接合部を形成していると解釈でき となっている。 る。そのため、破断⾯の残はんだ組織の⾯積率が ⾼いものほど、耐衝撃性に優れたはんだと⾔える。 はんだボールバンプ IMC Cu 箔 はんだ破壊モード 界面破壊モード (a)SACBi Fig.8 ⾼速せん断試験におけるはんだバンプの 破壊モード Fig.9 に SAC305, SACBi, S1XBIG の⾼速せん 断後の破断⾯の残はんだ組織の⾯積率の平均およ び破壊エネルギー平均を⽰す。 (b)S1XBIG Fig.9 ⾼速せん断における残はんだ組織の⾯積率 および破壊エネルギー平均 (c)SAC305 20µm SACBi と S1XBIG を⽐較すると、わずかな Ni 添加 Fig.10 ボールバンプ断⾯の接合界⾯の にも関わらず、破断⾯の残はんだ率の改善と破壊 ミクロ組織 エネルギーの向上に⼤きく寄与していることがわ かる。残はんだ率が⾼いほど、延性的な破壊挙動 となり、破壊エネルギー値が⼤きくなる。この違 いは、ミクロ組織を⽐較すると理解できる。Fig.10 に、SACBi, S1XBIG, SAC305 のボールバンプ断 ⾯の接合ミクロ組織を⽰す。 SACBi と S1XBIG の接合界⾯の化合物相の形状 を⽐較すると、Ni を添加した S1XBIG の化合物層 は他の Ni 無添加組成に⽐べ、凹凸が少ない。はん だ溶融時に化合物相(主に Cu6Sn5)が成⻑するが、 3. 結論 本稿では、SAC305 と同等の接合信頼性を有す る S1XBIG の機械的特性を(a)マイクロダンベル引 張試験、(b)ボールバンプ⾼速せん断試験で評価し、 以下の結論を得た。 (a) Ni、Bi 添加によりはんだ組織の強度ならびに 耐熱性は⼤幅に向上する。本合⾦の Bi 添加量 においては、SAC305 よりは延性が低下する ものの、30%前後の伸びを⽰すため、延性は 失われていない。 (b) わずかな Ni 添加により、接合界⾯の化合物相 の凹凸形状や成⻑を抑制し、さらに強度が向 上することで、耐衝撃特性が向上し、SAC305 と概ね同等の破壊挙動および破壊エネルギー 値を⽰す。 参考⽂献 1)World Silver Survey 2014, Thomson Reuters GFMS 2)(株)弘輝 はんだ合⾦技術資料 3)Yoshinori Ejiri et al, Proc. SMTA. Inter., (2014) 1005-1013 4)⻑野ら、エレクトロニクス実装学会誌, 9, 3, (2006) 171-179 5)(株)弘輝 技術メモ Vol.14 http://www.ko-ki.co.jp/memo/index.html