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平成17年度研究発表資料 PDF形式
沖縄の海岸における植物の生育状況に関する研究(中間報告) 技術環境研究所 研究員 ○玉城 栄子、川崎 祐子、諸見里 朋子 1.目的 沖縄県の海岸は本土復帰以降、防護を最優先 にした画一的な護岸整備が急速に進められてき たことで、砂浜の減少などの海岸の環境が変化 している。海岸の環境変化に伴い、海岸の生態 系が撹乱される場合がある。 平 成 15 年 1 月 に は 、 過 去 に 損 な わ れ た 生 態 系その他の自然環境を取り戻すことを目的とし た 自 然 再 生 推 進 法 が 施 工 さ れ 、自 然 環 境 を 保 全 、 再生、創出、又は維持管理することが求められている。また、沖縄県においては、海岸は 重要な観光資源でもあり、防護、利用、環境のバランスを踏まえた海岸整備が求められて いる。 本研究は、海岸の中でも特に開発の進んだ砂浜を中心に、現在の砂浜の状況と植物の生 育状況の関係の整理を行い、海岸の環境において「生物多様性を確保した美しい海岸」に ついて考える際や、保全の評価を行う際の基礎資料とすることを目的とする。 2.内容 本 研 究 で は 砂 浜 の 開 発 の 進 ん で い る 沖 縄 本 島 北 部 の 西 海 岸・58 号 線 沿 い を 中 心 に 、国 頭 村、大宜味村、名護市世冨慶∼恩納村谷茶において、砂浜の状況及び海浜植物の生育状況 についての現地調査を行っている。 3.結果(中間) 今回の調査結果については、名護市世冨慶の結果について報告を行う。 3 .1 砂浜の状況 名護市世冨慶付近の開発及び砂浜の変遷について、過去の航空写真を用いて比較する と、開発時に直立護岸が整備され、その後、砂の堆積が進み植物が生育している状態が 確 認 さ れ た ( 写 真 1 )。 砂浜の状況についての現地調査結果は表1に示した。砂浜の状況としては直立護岸の 前面にテトラポットが設置され、テトラポット上に砂が堆積し、その砂上に植物が生育 し て い た 。斜 面 方 位 NW70°、傾 斜 10∼ 20°、汀 線 か ら 道 路 ま で の 幅 は 約 22∼ 40m で 、 砂質は礫質であった。また、海岸の利用は確認されなかったが、砂浜へアプローチする にはテトラポットを超えなければならないため利用が困難であると思われる。 -1- 1945年 1970年 1977年 世冨慶 写真1 世冨慶の海岸の変遷 -2- 1999年 海浜の状況 方位 傾斜 砂浜幅(全体)(m) 汀線∼植生までの距離(無植生)(m) 植生∼道路までの距離(m) ライン調査の植物出現種数 植物の起源 生育状況 具体的な保護対策 群落へのインパクトの要因 植栽 砂質 砂浜のようす 海中に造られている人工物 浜の中の人工物 砂浜の後背地にあるもの 海岸の利用状況 新規分布 残存 全体的に壊滅状態である 一部状態の良いところがあるが悪い 全体的に良いが一部良くないところがある 全体的に良い 特になし 伐採・下刈り・水位調整 定期的清掃活動 不明 監視員・管理人の常時配置 歩道・木道案内板等 立入規制(所有者意向) 立入規制 その他 海岸管理 人の立入 農林業開発 漁業開発 観光開発 道路開発 住宅開発 水際開発 その他の開発 汚染物質の投棄・排出 自然災害 生物被害 その他 ある なし 砂 レキ 全体的に平たく特に高まりは無い 起伏はなく植生のある部分がない部分より高まっている程度 砂丘はあるが人の背より低い 人の背を超える様な砂丘がある。 その他 なし 護岸堤 突堤 人工島・ヘッド 人工リーフ その他 なし 低い堤防 フェンス 休息所等 細い道路 植裁 その他 土の露出した崖 ネットやコンクリートで覆われた崖 モクマオウ植裁林などの人工林 波消しブロック コンクリート等の直線護岸・堤防 波消しブロックと護岸の組み合わせ コンクリート等の繁率な階段状もしくは傾斜した護岸・堤防 石積みの護岸 舗装道 防風用のフェンス 海岸林 その他 なし 磯干狩り 魚採り 海水浴 バードウォッチング 散歩 自然観察 ビーチバレー サーフィン ウインドサーフィン キャンプ ビーチパーティー その他 表1 砂浜の状況調査結果一覧 -3- 世冨慶 NW70 10∼20° 約22∼40 約15 約8∼26 8 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 3 .2 世冨慶の植物の生育状況 一般的に砂浜の植物の生育は、汀線 から内陸へ向かって立地条件の変化に 伴 っ て 植 物 群 落 が 変 化 す る「 帯 状 分 布 」 がみられる。そのため、現地調査は汀 線から内陸へラインを引き、植生調査 を 行 っ た (ラ イ ン 調 査 )。 そ の 結 果 、世 冨 慶 の 植 物 に お い て も 、 砂浜の規模は小さいが帯状分布して い る の が 確 認 さ れ た 。汀 線 側 に は つ る 性 植 物 の グ ン バ イ ヒ ル ガ オ 群 落 、グ ン バ イ ヒ ル ガ オ − ハ マ ア ズ キ 群 落 、内 陸 写真2 世冨慶の海岸 側 に は ク サ ト ベ ラ 群 落 、ア ダ ン 群 落 が 分 布 し て い た ( 写 真 2 、 図 1 )。 4.まとめ 名護市世冨慶における砂浜の状 アダン テリ ハクサ トベ ラ 態については、テトラポット内に オ オハマ ボウ ジ シバリ ハマ ウド 砂が堆積した後、植物が新たに生 育していた。また、砂浜の利用が 見られないため、人為的要因によ ハマ アズキ 陸 グンバ イヒ ルガオ 海 側 海側 り直接植物の生育を妨げることは 陸側 不安定帯 無いと思われる。また、砂浜の延 つる性植物 側 安定帯 草本 木本 長は植物の分布拡大の要因の一つ 図1 であると思われるが、本調査地点 世冨慶の植生模式図 は、地形的に砂浜の延長のスペー スに乏しいと思われるため、縦断方向への植物の分布拡大は難しいと予想される。 また、植物の生育状況については汀線側につる性植物、内陸側については、草本及び木 本の群落が見られた事より、小規模ながら帯状分布が見られた。そのため、植物の生育環 境としては、不安定帯(砂の動き大)と安定帯(砂の動き少)の多様な環境が存在すると 思われる。 本調査地点においてライン調査で植物7種が確認されているが、本調査地の植物の生育 状況や今後の変化について議論するためには、他の調査地点の結果との比較を行い検討す る必要があると思われる。 今回は世冨慶についての報告を行ったが、今年度は他の現地調査地点についても調査中 であるため、今後は他の調査地点結果をまとめ、文献資料により開発の変遷を参考にし、 現在の砂浜の状況と植物の生育状況との関係を整理し、生物多様性を確保した美しい海岸 (砂浜)について検討を行う。 -4-