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世界の金利の「水没」マップが語るもの

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世界の金利の「水没」マップが語るもの
 今月の視点
世界の金利の
「水没」
マップが語るもの
─ 世界の通貨戦争からの「ノアの方舟」はみつかっていない ─
今日、世界の中央銀行がマイナス金利(「金利水没」)にまで誘導する異例の金融緩和
は、事実上の通貨戦争だ。その背景には世界の需要落ち込みがあり、その結果、原油価
格暴落、逆オイルショックをもたらした。世界の「金利水没競争」のなかの支え、
「浮き
輪」となった米国に向けた資金流入が急速なドル高をもたらしている。
「金利水没競
争」の結果、先進国の株高が生じたが、世界経済は依然、本格的な回復エンジンは不在
なままだ。
みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創
以上 0.5%未満、0.5%以上 1%未満、
1%以上と徐々に
欧州中央銀行の国債購入で「水没地域」拡大
色を薄くして示している。こうした濃淡で示した図
表はリスク管理などで「ヒートマップ」として示され
図表は、
「世界の金利の
『水没』
マップ」
とした一覧表
ることが多いが、
これはむしろ
「フローズンマップ」
で
である。
基本的に国別・年限別の国債利回り、
イールド
あり、
金利機能が喪失して
「麻酔」
がかかったような状
カーブ状況を示す。
ここでは、
マイナスになった、
すな
態を示す。日本は今年 1 月には 5 年まで「水没」してい
わち「水没した」ゾーンを濃く示しており、さらに0%
たが、
現在やや浮かび上がった状態にある。
●図表 世界の金利の「水没」マップ(2015年3月18日)
スイス
ドイツ
スウェーデン
フィンランド
オランダ
フランス
ベルギー
日本
イタリア
スペイン
ノルウェー
英国
カナダ
米国
ポルトガル
中国
トルコ
インド
ロシア
1年
−0.79
−0.20
−0.27
−0.19
−0.18
−0.15
−0.15
0.01
0.10
0.08
0.71
0.37
0.56
0.19
0.10
3.19
9.01
7.96
12.96
2年
−0.78
−0.23
−0.30
−0.18
−0.17
−0.14
−0.14
0.01
0.27
0.13
0.74
0.43
0.49
0.55
0.13
3.22
8.56
7.84
13.24
3年
−0.76
−0.21
−0.23
−0.13
−0.13
−0.13
−0.09
0.01
0.32
0.24
0.77
0.83
0.50
0.91
0.49
3.29
8.33
7.85
13.71
4年
−0.56
−0.17
−0.16
−0.07
−0.10
−0.04
−0.01
0.04
0.45
0.37
0.87
1.04
0.55
1.15
0.76
3.37
8.25
7.80
13.84
5年
−0.43
−0.10
0.02
−0.03
−0.04
0.05
0.01
0.10
0.62
0.62
0.97
1.21
0.74
1.39
0.96
3.45
8.26
7.86
13.98
6年
7年
8年
9年
10年 11年 12年 13年 14年 15年 20年
−0.31 −0.26 −0.24 −0.19 −0.10 −0.05 −0.01
0.06
0.12
0.19
0.30
−0.07 −0.03
0.05
0.11
0.20
0.23
0.27
0.30
0.34
0.37
0.51
0.11
0.20
0.33
0.39
0.46
0.49
0.52
0.55
0.58
0.61
0.76
−0.02
0.01
0.13
0.17
0.24
0.29
0.35
0.40
0.45
0.50
0.55
−0.02
0.04
0.12
0.20
0.28
0.31
0.34
0.37
0.40
0.43
0.57
0.08
0.17
0.26
0.37
0.47
0.53
0.59
0.65
0.71
0.76
0.87
0.08
0.18
0.26
0.35
0.45
0.47
0.50
0.52
0.55
0.58
0.84
0.10
0.14
0.21
0.28
0.37
0.43
0.49
0.55
0.61
0.67
1.12
0.87
1.00
1.09
1.23
1.31
1.39
1.46
1.54
1.62
1.70
1.93
0.78
0.86
0.99
1.16
1.27
1.34
1.40
1.46
1.53
1.59
1.74
1.10
1.23
1.31
1.40
1.52
1.27
1.43
1.53
1.56
1.60
1.68
1.76
1.84
1.92
2.00
2.20
0.83
0.98
1.12
1.21
1.32
1.38
1.44
1.50
1.56
1.62
1.92
1.55
1.71
1.78
1.85
1.92
1.95
1.98
2.01
2.04
2.07
2.22
1.10
1.28
1.46
1.53
1.73
1.79
1.86
1.92
1.98
2.05
2.24
3.46
3.47
3.52
3.59
3.57
3.60
3.63
3.66
3.69
3.72
8.29
8.31
8.30
8.31
8.14
7.84
7.89
7.88
7.84
7.79
7.89
7.70
7.86
7.81
7.91
7.81
13.80 13.62 13.45 13.27 13.10 13.00 12.90 12.80 12.70 12.61 12.32
0%未満
0%以上0.5%未満
0.5%以上1.0%未満
1.0%超
(資料)Bloombergより、
みずほ総合研究所作成
1
今月の視点
第三の方向性は、
「濃い異なるリスク」となる。ア
米国は「浮き輪」、
「運用難民」が押し寄せ
ドル高に
セットマネジメントの世界ではオルタナティブ運用
として従来、運用の中心であった債券以外のリスク
テイクに関心が高まることになる。同時に、株式市場
図表の下の部分はまだ、色の薄い部分が残ってお
への資金の流れをもたらしている。その結果、3 月に
り、
「麻酔」がまだかかっていない金利機能が残存し
日本の株式市場は 15 年ぶりの水準まで上昇した。グ
た地域である。それは、大きく 2 つのカテゴリーに分
ローバルには、ドイツや米国で株式市場が史上最高
類される。すなわち、①米国を中心に英国・カナダな
水準にあるのは、
「金利水没地域」からの世界的な「運
どアングロサクソン系の国々で経済の比較的堅調な
用難民」の資金が先進国を中心とした株式市場に流
国々と、②ギリシャを筆頭に欧州債務危機を一部引
入したからである。債券市場でインカムがなくなり
きずった国や新興国、である。
かけているなか、エクイティ分野に資金が流れるこ
ここでの論点は、まだ「水没」していない米国の評
とを示す。
価だ。すなわち、世界の多くの国々の金利が「水没」す
るなか、米国は「水没」せず、
「世界の海」のなかで「浮
き輪」のように浮き出て世界全体の支えとなる状態
「21世紀版ノアの方舟」
はみつからず、
「水没」は続く
にある。ただし、世界が「水没」するなか、世界の運用
者が生き残りをかけて「運用難民」として「浮き輪」に
この「金利水没」からの「運用難民」はどこに向かう
殺到する結果が、過去 1 年間の予想外の大幅な米国
のか。先述のように、LED 戦略という流れをもたら
長期金利低下と米ドルの上昇圧力になっている。
したが、これによって「金利水没」から回復する本質
今日、米国ではすでにドル高にともない製造業の
的解決策には至っていない。
「金利水没」から救い上
収益環境にマイナスの影響が生じだしたことから、
げる「ノアの方舟」はあるのだろうか。今年 2 月 10 日
そろそろドル高にけん制をかける誘因も生じてい
にイスタンブールで開催された G20 財務大臣・中央
る。米国が今後、利上げに踏み切るとすれば、ドル高
銀行総裁会議では世界の「水没競争」を事実上追認し
傾向を容認する意思表示を示すことに他ならない。
た形にとどまっており、世界各国が自らの景気を支
える内需拡大策を示さぬままであった。
「運用難民」の「LED戦略」、
通貨戦争と株高に
そもそも、世界の「金利水没」の背景にある金融環
境とは、日本が 1990 年代以降のバランスシート調整
にあったなか、2000 年代後半には欧米も大恐慌以来
このように金利が「水没」した状況において「運
のバランスシート調整に陥ったことである。米国を
用難民」が「金利水没」を逃れるべく資産運用を行
先頭に、その調整からは立ち直りかけてはいるが、依
うには、
「LED戦略」とする、
「①長く(Long)、②外に
然、世界的に後遺症が続く状況にある。調整からの出
(External)、③濃い(Deep)異なるリスク」の 3 分野
口をかろうじて見つけだした米国の「浮き輪」に世界
しか選択肢はない。今日の金融機関の戦略も以上の
中が過度に依存する不安定さをもつ。しかし、皆が期
LED 戦略に集約される。すなわち、第一に、まだ「生
待を寄せる米国とてまだ病み上がりの状態にある。
体反応」が残る長期、超長期の分野にデュレーション
さらに、困ったことにそれまで世界をけん引してき
を延長するしかない。第二に、自国の債券市場が「水
た中国までバランスシート調整圧力を抱え、金融緩
没」するなら、まだ市場機能が残る海外の市場を狙う
和で通貨を切り下げ、他国の需要に依存する状況だ。
しかない。同時に各国中央銀行が自らの市場を「水
本来は、各国が財政の拡大を含め、独自に需要を作り
没」させて、
「運用難民」を海外に向けることで自国通
上げる、
「21 世紀のマーシャル・プラン」、
「21 世紀版
貨安を狙う効果をもたらしている。すなわち、自国で
ノアの方舟」が必要だ。しかし、そうした合意に至る
の需要創出に期待しにくいなか、自国通貨を下げて、
までにならないなか、各国が金融緩和競争に走って
他国の需要(外需)に依存する通貨戦争をもたらして
いる。このように世界に軋みが生じたようななかで
いる。ただし、それは、他国を踏み台にする近隣窮乏
は「金利水没」、また同時に生じた原油価格の下落は
化的側面をもつ。
予想以上に続くかもしれない。
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