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芝草の栄養要求を理解する 1 - Asian Turfgrass Center

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芝草の栄養要求を理解する 1 - Asian Turfgrass Center
芝草の栄養要求を理解する
1
芝草の栄養要求を理解する
この資料は 2012 年 6 月
5 日に大阪地区で行われる
講演会の補助資料として作
成・配布するものである。
1
マイカ・S・ウッズ
2012 年 6 月 5 日
芝草の栄養要求は、その芝草の成長速度に関連している。
どれだけの量の肥料を投与すべきかは、土壌中にその栄養
素がどれだけ存在するのか、そして、いま芝草がどの程度
の成長能力を持っているのか、に左右される。芝草が必要
とする量以上の量の栄養素がすでに土壌中に存在するので
あれば、肥料を投入する必要は全くない。本日の講演では、
芝草の栄養要求をどのように理解していったらよいかを考
える。まず、植物は土に生える、ということから出発し、
最初に土壌 pH と陽イオン交換容量(CEC)についての理
解を確認し、次に「最少持続可能栄養量」ということにつ
いて説明し、最後に、葉身の栄養レベル、そして、気温を
基礎とした芝草の成長能モデルに基づく窒素施肥計画の立
案について説明する。
土壌pH
まず最初に、芝草は土に生えるという事実認識から出発し
よう。土壌pHとは、土壌水中の水素イオン(H+)の活性の
程度(水素イオン活量)を表す数値であり、通常は土壌と
脱イオン水(純水)を1:1の割合で混合したものを試料
として測定を行い、得られた値をその土壌のpH値とする。
土壌pHは土壌中で起こる非常に多くの化学反応に影響を
与えるものであるから、土壌を考える際の最重要因子とし
て考えてよい。単にpHとは何かを知っているだけでも、芝
草の栄養要求を理解する上で役に立つことである。
さて、純水、すなわち H2Oであるが、この H2Oのうち
のいくつかはH+ とOH-とに電離している。純水のpHは7で
ある:これが何を意味するかというと、純水中の水素イオ
ン活量は 0.0000001 モル/L、 すなわち 10
-7
という意
1
芝草の栄養要求を理解する
2
味である 。水溶液の pH が 7 であれば、その水溶液は
中性であり、pH が 7 未満であれば酸性、7 より大きけれ
ば(塩基性)アルカリ性である。
3
芝草は、土壌 pH が 5.5 ~ 8.3 の範囲で成長することが
できる。この土壌 pH について、芝草管理者が知っておく
べきことが 5 つある:
2
pH は、土壌水中の水素イ
オン活量の負の対数として
表される:たとえば、水素
イオン活量が 0.0001 す
-4
なわち 10 であるとき
の pH は 4 であり、
-5
0.00001 すなわち 10
であるときの pH は 5
と言う風に表現される。
3
1
pH が 5.5 を下回る土壌においては、アルミニウムが
土壌中に溶け出してその濃度が上昇し、根に障害をも
たらす恐れがある。したがって、通常は、土壌pHを 5.5
土壌の分量 1 に対して純
水 1 を混ぜ合わせたもの
(土壌水)の pH を測定し
て得られたものが土壌 pH
である。
またはそれよりも高い値に維持しておくべきである。
2
pH が8.4 以上になると、石灰質土壌よりもさらにア
ルカリ性が強くなり、ナトリウムによる障害が見られ
るようになる。
3
土壌pHが高くなると土壌微生物の活動が活発になり、
したがって、有機物の分解が促進される。この理由に
よっても、土壌pHは 5.5 以上に維持することが望ま
しいといえる。
4
芝草の病害の中には、土壌pHが中性からアルカリ性で
あると発生・障害レベルが高くなり、低pHであると発
生が抑制されるものがある 。
5
微量栄養素のうち、鉄、マンガン、銅、亜鉛などはア
ルカリ性の土壌では水に溶解しにくくなるので、植物
はこれらの栄養素を利用しにくくなると考えられてい
る。しかし、芝草は、その根からフィトシデロホア
(phytosiderophore)とよばれる天然性のキレート
剤を分泌することにより、土壌から微量栄養素を吸収
することができる。また、微量栄養素がより溶けやす
くなるように、根がその周囲の土壌pHを調整している。
以上を簡単にまとめれば、芝草管理者は、自分が管理して
いる土地のpHを知り、これが5.5~8.3の範囲にあるように
土壌pHの調整を行うべきである。
4
土壌 pH が高いと激甚化
する病害の例としては、ク
リーピングベントグラスに
発生するテイクオールパッ
チ ( Gaeumannomyces
graminis var. avenae )
や、ケンタッキーブルーグ
ラスに発生するサマーパッ
チ(Magnaporthe poae)
がある。
2
芝草の栄養要求を理解する
陽イオン交換容量
陽イオン交換容量(CEC:Cation exchange capacity)
とは、土壌が陽イオンを可逆的に吸収できる能力の大きさ
である。一言で言うならば、土壌中に全部でどれだけのマ
イナス電荷があるか、ということであり、これは、ミリモ
-1
ル、または土壌1kg あたりの電荷、または mmolc kg
と
5
いう単位で表される 。
5
カルシウム、マグネシウム、カリウムといったミネラル
栄養素は、土壌水中に溶解して陽イオン交換サイトに保持
されており、これがイオンとして植物に取り込まれる。カ
2+
ルシウムは Ca というイオン形態で取り込まれ、マグネシ
2+
+
ウムは Mg として、カリウムは K の形で取り込まれる。
CEC を 表 す 単 位 と し て
土壌 100 g あたりミリ等
量、または土壌 1 kg あた
りの電荷(センチモル)で
表す場合もあるが、表示単
-1
位としては mmolc kg を
使用するのが最も妥当であ
る。
CECは、土壌がこうした栄養素をどの程度の量だけ保持で
きるのかを知る目安となる重要な指標である。
ゴルフ場のグリーンで普通に使われるような、CECの非
常に低い砂の培地であっても、交換サイトには比較的多く
の栄養素が保持されている。たとえば、砂の典型的な CEC
-1
は 30 mmolc kg 程度であるが、ここに 20 mモル の
2+
2+
+
Ca 、 6 mモル の Mg 、そして 4 mモル の K が保持
6
されているとすると、カルシウム濃度では 401 ppm 、
マグネシウムは 73 ppm、そしてカリウムは 156 ppm
となり、後述するように、これは芝草の要求を十分以上に
満たすことができる量である。
土壌中の栄養分
芝草は、必要とするミネラル成分を土壌から得ている。植
物が必要とするミネラル栄養分は全部で14種類あり(表1)、
これとは別に非ミネラル栄養素が3種類ある。非ミネラル
(非鉱物性)栄養素とは、水素、酸素、炭素であり、植物
はこれらを水または二酸化炭素として取り込む。
植物が利用できる栄養分が土壌中にどれほど存在してい
るか(逆の言い方をするならば、ある栄養素を肥料として
土壌中に投下すべきかどうか)は、土壌分析(試験)によ
って知ることができる。それでは、各ミネラル栄養素を、
土壌分析に関連させながら概観してみよう。
6
1ppm は part per
million(百万分率)の略、
す な わ ち 1,000,000 分
の 1、具体的には 1 kg あ
たり 1 mg にあたる量で
ある。
非鉱物質
鉱物質(ミネラル)
水素
窒素
酸素
リン
炭素
カリウム
カルシウム
マグネシウム
イオウ
ホウ素
塩素
鉄
マンガン
亜鉛
銅
モリブデン
ニッケル
表1:植物の 17 必須栄養素
3
芝草の栄養要求を理解する
・ 窒素は土壌中の含有量を調べることはできるが、窒素施
肥の目安は、芝草の成長予測をベースにして行う。その
理由は、窒素は、投与すればするだけ植物が利用してし
まうからである(ただし窒素投与量が常識的な範囲内で
あることを前提としている)。したがって、土壌中の窒
素量は、窒素肥料の投与量を決める目安にならないので
ある。
・ 土壌中の有効リンの量は、リン肥料の投与量を決める目
安となる。
・ 土壌中の有効カリウムの量は、カリ肥料の投与量を決め
る目安となる。
・ カルシウムとマグネシウムは、土壌pHが5.5以上である
場合には、ほとんど例外なく土壌中に十分なレベルが存
在する。これらの栄養素を人為的に投与する必要がある
のは、まれといってよいが、土壌分析の対象となってい
る。
・ 土壌中の有効イオウの量(硫酸塩として等量する)は、
イオウ肥料の投与量を決める目安となる。
・ ホウ素、塩素、亜鉛、銅、モリブデン、ニッケルは、土
壌分析の試験項目とする場合としない場合とがある。芝
草がこれらの栄養素を必要とする量は非常に少なく、こ
れまでの経験でも、これらの栄養素の欠乏が現場で発生
したということを聞いたことがない。
・ 鉄は、土壌試験項目の中に入っていることが多いが、肥
料として投与する量を決定するための参考にされるこ
とはまれである。
・ マンガンは土壌分析の対象とされることが多く、有効マ
ンガン指数(manganese availability index: MAI7 )
というものを計算して、マンガンを投与すべきかどうか
を判断することができる。
通常、土壌分析で知るべき最も重要な情報は、土壌pH、リ
ン含有量およびカリの含有量である。この3つが分かれば、
きちんとした施肥計画を立案することができる。現在では
技術が非常に発達しているため、一つの土壌検体から多く
のデータを得ることが可能となっているが、本当に重要な
7
MAI の計算は、メーリッ
ヒ 3 抽出試験のデータを
基にして行う:具体的には、
MAI = 101.7 -15.2*(pH)
+ 3.75*(Mn-ppm) で あ
る。
4
芝草の栄養要求を理解する
5
のは、pH、リン、カリである。
分析結果をどう解釈するか
ペースターフ(http://www.paceturf.org/)のラリー・
ストウウェル博士と演者が協力して、最少持続可能栄養量
(Minimum Level of Sustainable Nutrition:MLSN)
というガイドラインを作った。これは、メーリッヒ 3 土壌
分析の結果を芝草管理に応用するためのガイドラインであ
る8。MLSN はシンプルなガイドラインであるが、良いコ
ンディションを作り出しているターフでの実際の土壌試験
の結果を入念に調査し、それをもとにして作られている。
全部で 16,000 以上もの土壌サンプルから作成されたデ
ータベースをもとにして、まず、「良いターフ」とされる
べきものを選び出し、そこから土壌pHが 5.5 から7.5の範
8
メーリッヒ 3 試験に使
用する抽出液は、土壌試験
において広く利用されてい
る標準的な抽出液である:
具体的には、酢酸(0.2 N)、
硝酸アンモニウム(0.25
N)、 フッ化アンモニウム
(0.015 N)、硝酸(0.13
N)、EDTA(0.001 M)
を含む pH 2.5 の抽出液
である。
囲にあるものを選び出し、さらに陽イオン交換容量が低い
(60 mmolc kg-1)土壌で作られていると推定されるもの
栄養素
を選び出し、このようにして最終的に約 1,500 サンプル
に絞り込みを行った後、これらから得られたデータに対し
てストウウェル博士が対数ロジスティックモデルを当ては
める作業を行った。これにより、土壌分析(メーリッヒ)
で報告された栄養素レベルが、推奨される目安よりも高い
のか低いのかがすぐに分かるようになっている。
MLSNガイドライン(表2)はターゲットレベルを10%と
して作成されている。具体的に言うと、非常に良いターフ
であると認められるグリーンのうち、土壌栄養分を低くし
て管理しているグリーン(低い方から数えて全体の10%目
の順位にランキングされるサンプル群)から作成された資
料である。MLSNガイドラインの目的は、科学的であると
共に実際のデータ(データベース)に基づいている解釈(数
値)を提供することにより、必ず良い結果が出る可能性を
高めると同時に、不必要な施肥を最小限に抑えられるよう
にしようということである。
芝草の根圏は多くの場合、地表からおよそ10 cm 程度まで
の深さである。そうすると、サンドグリーンのような場所
で考えると、広さ1平米、深さ10cmの土壌とは、質量にし
て150 kg の土壌ということである:与える肥料の種類に
カリ
リン
カルシウム
マグネシウム
イオウ
MLSN
(ppm)
35
18
360
54
13
表 2:2012 年 6 月 1 日
現在における最少持続可能
栄養量(MLSN)
芝草の栄養要求を理解する
関係なく、この面積とこの深さの土壌に1g の栄養素を(均
一に)投与すると、その土壌中の栄養素の量は 6.7 ppm 増
加する。同様に、刈り込みなどによってその土壌から栄養
分を除去する場合、1平米の培地から栄養素を 1 g 除去す
るごとに、その培地の栄養分が 6.7 ppm ずつ低下してい
くということになる。
芝草の葉身に含まれる栄養素
芝草の水分を完全に蒸発させて乾物なったものを調べてみ
ると、表3に揚げたような栄養素が検出される。このように
栄養素
%
みによって失われていく栄養素の量の計算から、1年間でど
窒素
4
れだけの栄養分が土壌から失われるかを知ることができる
カリ
2
(表4)。また、MLSN ガイドラインで示される量は ppm
リン
0.5
単位であるが、これを平米あたりの実際の質量(重量)に
カルシウム
0.5
換算することもできる(表4)。これらから、土壌中に各栄
マグネシウム
0.2
養素がどれほど存在し、刈り込みによってそれらの栄養素
イオウ
0.1
がどれだけ失われていくかが分かる。表4を見ていただくと、
鉄
0.01
N, Fe, および Mn については MLSN レベルが与えられ
マンガン
0.003
して把握できる植物体内における栄養素の割合と、刈り込
ていないことに気づかれるだろう。これは、Nについては、
後述する成長能を基準として投与量を決定するからであり、
Feについては色出しのために必要に応じて適宜投与するか
らであり、Mnについては、MAIをベースとして投与量を決
表 3:通常のクリーピングベ
ントグラスの葉身に含まれ
る栄養素とその割合(乾物
ベース)
定する、ということを前提としているからである。表1に掲
載しているが表4に掲載されていない微量栄養素について
は、欠乏を起こす可能性が実質的にゼロであるという理解
から、施肥計画には組み込まないことにする9。
さて、そのようなわけで、これで必要な情報はすべて手に
入れたことになり、どの栄養素をどれだけ肥料として投与
する必要があるかは、ここから簡単に決定することができ
る。素晴しいターフコンディションを作り出すために土壌
が必要とする栄養素の「十分レベル」は MLSN レベル(表
2)から分かる。したがって、土壌中の各栄養素の量が、
MLSNレベル以上になるようにすればよい。また、一年間
にどれほどの栄養素が土壌から失われるかを簡単に予測す
9
芝草が必要とする微量栄
養素の量は極めてわずかで
あるので、通常は土壌や散
水用水や他の肥料の中に自
然に存在する量で十分に間
に合う程度のものである。
主要な栄養素を適切な量で
投与すれば、それ以外の栄
養素を特に人為的に投与し
なくても、芝草は自ら根を
発達させて必要な微量栄養
素を吸収するのである。
6
芝草の栄養要求を理解する
7
ることができる(表4)。以下に挙げた式(1)にある量 A
は、土壌中の栄養素を MLSN ガイドライン以上に維持す
るために必要な総量である。
A = MLSN(gm
-2
)+ 刈り取り量(gm
-2
)
(1)
各栄養素を肥料としてどれだけ投与すべきか(F)を求める
には、必要総量(A)から、土壌分析によって得られた実際
の含有量(Soiltest)を差し引けばよい。この式から得られる
値は、平米あたりグラム(g m-2)である。
F (gm-2)= A − Soiltest
(2)
表4では、刈り込みよって各栄養素が1年間にどれだけ失わ
れるか、また、それらの栄養素の MLSN レベル(表2で示
した値)を示している。
葉身
葉身
刈り込みによる
MLSN
MLSN
(%)
(ppm)
喪失(g m-2/年)
(ppm)
(g/m2)
N
4
40,000
16
-
-
K
2
20,000
8
35
5.2
P
0.5
5,000
2
18
2.7
Ca
0.5
5,000
2
360
53.7
Mg
0.2
2,000
0.8
54
8.1
S
0.1
1,000
0.4
13
1.9
Fe
0.01
100
0.04
-
-
Mn
0.005
50
0.02
-
-
栄養素
それでは、カリウムを例にして、式(1)と式(2)を使っ
て、実際にどの程度の投与が必要になるか、すなわちFを求
める計算を行ってみよう。グリーンの土壌分析の結果とし
て、カリの含有量が 55 ppm であったとする。この条件
では、カリのA(土壌中のレベルをMLSNガイドラインの数
値以上に保持するために必要な量)は、5.2+8=13.3 g m-2
である。土壌分析から得られた 55 ppm を g m-2 に換算
するには、6.7で割ればよい(根圏の深さが10 cm である
として)から、これで、8.2 g m-2 という数値が得られる。
表 4:葉身に通常含まれる
栄養素とその量、刈り込み
によって 1 年間に失われる
栄養素の量(年間に回収さ
れる刈かすの量を 400 g
m-2 として算出)、および
MLSN ガイドラインによ
る各栄養素の望ましい含有
量。
芝草の栄養要求を理解する
8
そして式(3)によって、肥料として投与すべきカリの量が
分かる。
F = 13.2 − 8.2 = 5 gm
-2
(3)
なお、Fが負の数(0よりも小さい数)になった場合には、
その栄養素が土壌中にすでに十分以上に存在するという意
味であり、わざわざ人為的に投与する必要がないというこ
とである。そのような栄養素については、次回の土壌分析
の結果をみて、改めて投与の必要性を検討すればよい。
成長能をもとにして窒素肥料の必要量を予測する
成長能(GP: Grouwth Potential: 式(4)と式(5)は、
芝草の成長と温度との関係を説明するためにペースターフ
(PACE Turf 10 )が開発した概念である10。寒地型(C3)
芝草は、気温が約20℃のときに最も旺盛に成長するが、そ
れよりも気温が低い場合や高い場合には、それに応じて成
長速度が鈍る:同様に、暖地型(C4)芝草は、気温が約31℃
のときに最も旺盛に成長するが、それよりも気温が低い場
10
ウェンディ・ジェレンタ
ーおよびラリー・ストウウ
ェル
Wendy Gelernter and
Larry Stowell
Improved overseeding
programs
1. the role of weather.
合には、それに応じて成長速度が鈍る。成長能を求める式
Golf Course Management
を利用すると、その成長の鈍り具合を簡単に知ることがで
2005 年 3 月号
108-113 ページ
きる。
GP = 成長能(0~1の値となる)
e= 2.71828, 定数
t = 実際の気温
to = 成長最適気温(C3芝草では 20、C4芝草では 31)
var = 補正係数(気温がto から外れている場合に使用す
る:演者はC3芝草には 5.5を、C4 芝草には 8.5
を使用している。
この式でも同じ結果となる:
芝草の栄養要求を理解する
この成長能(成長能力)を窒素要求量と結びつけて利用す
ることができる。これまでの経験にもとづいて、素晴しい
といえるゴルフ場のグリーンコンディションを作りだすた
めに必要な窒素の量を見てみると、2012年の場合、クリー
ピングベントグラスでは月間の最大窒素使用量が約3.5g N
m-2 であり、コウライでは 43.5g N m-2 であり、バミュ
ーダグラスでは 5g N m-2 であった11。これをもとにして、
一年のどの時期についても、その時期に必要な窒素量を、
「最大窒素要求量×成長能」という単純な計算で求めるこ
とが可能となる。
表5は、大阪における成長能(計算値)と、それを基にして
計算された月ごとの窒素要求量であり、表6は、東京のため
の同様のデータである(各芝草の窒素量単位は gN m-2)。
11
これらの値はすべて一般
的な推定計算値であって、
あくまでも出発点として利
用すべきデータであること
を十分に認識する必要があ
る。どのゴルフ場も、その
ゴルフ場が求める芝草成長
速度というものがあり、そ
れによって、必要最大量は
他と比べて必ず少しは違う
ものである。(成長能の範
囲内であれば)窒素施肥を
多くすれば成長が速くなる
し、少なくすれば成長が遅
くなる:表に揚げた数値は
あくまでも標準的な条件を
前提にした数値である。
気温(℃)
C4 GP
C3 GP
ベント
コウライ
1月
5.5
0.01
0.03
0.1
0.0
0.1
2月
5.8
0.01
0.04
0.1
0.0
0.1
3月
8.6
0.03
0.12
0.4
0.1
0.2
4月
14.6
0.16
0.62
2.2
0.6
0.8
5月
19.2
0.38
0.99
3.5
1.5
1.9
6月
23.0
0.64
0.86
3.0
2.6
3.2
7月
27.0
0.90
0.44
1.6
3.6
4.5
8月
28.2
0.95
0.33
1.2
3.8
4.7
9月
24.2
0.73
0.75
2.6
2.9
3.6
10 月
18.3
0.33
0.95
3.3
1.3
1.6
11 月
12.9
0.10
0.43
1.5
0.4
0.5
12 月
7.9
0.02
0.09
0.3
0.1
0.1
月
バミューダ
表 5:大阪の月間平均気温
とそれをもとにして計算し
た芝草の成長能および月ご
との窒素要求量
成長能は、日間、週間、月間ベースで計算することができ
るから、それに対応する窒素要求量を計算することができ
る:すなわち、ある一日、ある週、ある月について成長能
9
芝草の栄養要求を理解する 10
を計算し、その期間中にどれだけの窒素が必要になるかを
求めることができる。これらの数値は、その月の気温をも
とにして、芝草がどれだけの窒素を必要とするかを予測し
ているものであるから、これらの数値を参考にして、それ
ぞれの時期に希望するだけの窒素を前もって投与しておく
ことができるわけである。
月
気温(℃)
C4 GP
C3 GP
ベント
コウライ
バミューダ
1月
5.2
0.01
0.03
0.1
0.0
0.0
2月
5.6
0.01
0.03
0.1
0.0
0.1
3月
8.5
0.03
0.11
0.4
0.1
0.2
4月
14.1
0.14
0.56
2.0
0.6
0.7
5月
18.6
0.35
0.97
3.4
1.4
1.7
6月
21.7
0.55
0.95
3.3
2.2
2.7
7月
25.2
0.79
0.64
2.2
3.2
4.0
8月
27.1
0.90
0.43
1.5
3.6
4.5
9月
23.2
0.66
0.84
3.0
2.6
3.3
10 月
17.6
0.29
0.91
3.2
1.2
1.4
11 月
2.6
0.10
0.40
1.4
0.4
0.5
12 月
7.9
0.02
0.09
0.3
0.1
0.1
日照と成長能
さて、成長能の計算で考慮されているのは気温のみである。
一方、芝草の成長には日照も必須であるから、成長能のみ
で100%正確な予測ができるというものではない。C3芝草
の場合はもともと日照要求の強い草ではなく、与えられる
日照のうちで光合成に利用するのはおよそ半分程度でしか
ないので、式(4)で計算した値がわりによく当てはまる。
この理由により、演者は、C3芝草の場合には、成長能の値
(気温ベース)を、日照量によって補正する必要はないと
考えている。一方、C4芝草の場合は、与えられる日照のす
べてを光合成に利用することができる能力を持っており、
曇天や日陰といったマイナス条件にはC3芝草よりも大き
く影響される。したがって、C4芝草の場合、曇天に対して
表 6:東京の月間平均気温
とそれをもとにして計算し
た芝草の成長能および月ご
との窒素要求量
芝草の栄養要求を理解する 11
は成長能の補正を行うべきであろうと考える。日本の主な
都市の気温、降水量および日照時間に関するデータを掲載
しているインターネットサイトは、以下の通り
http://climate.asianturfgrass.com/node/8.
通常は、月間の日照時間が200時間を切るようであれば、
C4芝草の成長能を20%小さくし、月間の日照時間が200
時間を超える場合には、成長能の式から得られる値をその
まま採用するのが適当と考える。
参考文献
Wendy Gelernter and Larry Stowell.
Improved overseeding programs
1. the role of weather.
Golf Course Management, pages 108-113, March 2005.
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