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研究所だより 第
号
はじめに
日本保育協会保育科学研究所の誕生は、昭和 46年(社団法人)にさかのぼり
ます。当時は、保育用品の改良や子育てに関する調査などを行っていました。
昭和 48年の社会福祉法人に改組の後は、家庭児童相談所(現在はママさん
110番の電話相談を中心に活動)も加え、保育内容・方法の研究、保育用品の
選定・開発などを行っています。以後、協会事業部において、国庫補助による
各種の調査研究事業が本格化し、今日まで継続されています。
一方において、平成 17年から保育士の名称独占にともない、国家資格化に
よる登録が実施されることを契機として、保育士の専門性向上のための 生涯
学習プラン
をスタートさせました。あわせて 保育所保育実践研究・報告
による保育現場の研究の活性化を図るところとなり、これらは研究所の業務
とされました。
さらに、日本保育協会は平成 17年に日本学術会議協力学術研究団体となり
ました。これらを一つの契機として、保育の研究充実のため、保育科学研究所
の細則、事業の内容、組織等について協議するための準備会を開催し、このた
び運営委員会を立ち上げ、再スタートするに至りました。
そこで、最初の仕事として、運営委員を中心に気軽に語り合っていただくた
めの ひろば を目指す 研究所だより を発行し、会員の皆様とのコミュニ
ケーションをはかるため、第1号を企画いたしました。今月は
刊記念とし
て、運営委員による座談会を企画し、それぞれの専門分野から自由に意見を交
換していただきました。保育研究について会員のみなさまから意見をお寄せ
いただくきっかけとなることを願っております。
平成 21年 10月 5日
日本保育協会保育科学研究所
所 長
1
野 悟
郎
第3回保育科学研究所運営委員会 座談会
次世代を担う子どもの視点での子育てと保育所保育
平成21年9 月4日(金) 14:00∼16:00
こどもの城 会議室
出席者:(50音順・敬称略)
司
会:
小笠原文孝
よいこのもり第 2保育園園長
椛沢
幸苗
中居林保育園園長
小林
芳文
和光大学現代人間学部教授
西村
重稀
仁愛大学人間生活学部教授
福田武比古
秋草学園短期大学講師
藤澤
良知
実践女子大学名誉教授
野
悟郎
社団法人母子保健推進会議会長
日本保育協会保育科学研究所長
野
に、産まれた段階から最も身近にいるお
昔から、ヒトは未熟児で産まれるとい
母さん、あるいはお父さんに愛されて子
われています。人間の赤ちゃんは産まれ
どもは人を信頼することを覚え、学んで
たその日から、親に見守られ、手を差し
いくのです。
伸べてもらわなければなりません。1人
昨年から厚生労働省は こんにちは赤
ではお腹が空いてもミルクを飲めません。
ちゃん事業
泣いて訴えるだけです。だから親にミル
目までの家庭を地元の保健師や助産師、
クをもらい、着せてもらい、全ての世話
あるいは母子保健推進員が訪問し、お母
をやいてもらう。人間は生まれて1、2
さんの子育てを援助していこうというも
か月もすると、親と子が非常に強く結ば
のです。
れていきます。
を始めました。生後4か月
しかし最近では、お母さんを訪ねてい
私は小児科医ですが、診察するときも
ってベルを押しても出てこない。特に都
1か月の赤ちゃんが親と私を判別してい
会の高層住宅では、昼間、お母さんと赤
るのが分かります。私が喋っている間は
ちゃんが家の中で2人きりという状況も
何となく不機嫌そうでも、お母さんが喋
珍しくありません。
り出すと途端に泣くのをやめる。要する
また、いまは経済界でも女性の労働力
2
育児 といいますが、保育所が他人の
子を預かる場合は一般に 保育
と表現
しています。保育と育児の違いについて、
まず始めにそれぞれのお立場からお話を
伺いたいと思います。
西村
保育 という言葉については、一般に
子育て=保育
の様に使われていて、
家庭で行われるのも保育、保育所で行わ
れるのも保育といい、幼稚園で幼児教育
野
と称して保育が行われている例もありま
悟郎
す。とにかく
保育
がやたらと使われ
が求められますので、お母さんが外で働
ていますね。学校カウンセラーの保育所
きます。やむを得ず子どもを預けること
版だといって
になり、全国2万3千か所の保育所がフ
称するケースや、保育士としての専門性
ル回転で子育てを支援している。それは
がなくても子育て経験があれば良い
結構なのですが、いくら保育所側に受け
安易に言われたりすることもあります。
入れ態勢ができているといっても、親代
ここはやはり
わりにはなれません。
て専門的な知識・技術を持った者が他人
保育所における乳幼児保育には、第三
保育カウンセラー
と自
と
保育とは専門機関におい
の子どもを養育、保育することである
者を育てるという毅然とした目的やそれ
等と定義すべきです。さもないと、多少
を遂行するための保育技術、更には医学
子どものことを知っている者であれば誰
常識等が必要です。人間の心を育てるの
が携わっても良いと誤解され、極端な話、
ですから、保育士がどこまで介入できる
看護師にも保育ができるか
というこ
でしょう。その辺については昔から随分
とになってしまいます。これは 保育学
と研究されてきていますが、まだ人によ
がきちんと確立されていない証拠です。
って
え方も異なります。当研究所とし
また、最近は長時間保育が恒常化した
ては再スタートを切るにあたり、まずそ
ことにより、子どもが1日のうちに接す
れらを整理することから始めたいと思い
る保育士の数が1人(担任)から3人(早
ます。
出−担任−遅出)に増えました。この3
そこで最初に大きな課題となるのが
人がどう連携し、保護者と協働していく
保育とは一体何か
か−保育所側はその様なことも
我が子を育てることは
です。親が家庭で
子育て または
ればなりません。
3
えなけ
保育所保育とは、保育所保育指針が定
義するように、養護と教育が一体となっ
て行われるもの
であることは言うまで
もありませんが、制度改革論議で焦点と
なっているのは、これが果たして保育に
欠ける子どものための福祉なのか、それ
とも親の就労を支援するものなのかとい
うことです。
私自身は
保育所保育は保育に欠ける
子どものための福祉であり、保育所は児
童福祉施設である と認識していますが、
福田 武比古
制度改革議論を見聞きする限りでは、親
この点からも、保育所保育と、家庭や
の利便性ばかりが優先されている様です。
ベビーシッター等が行う保育を区別して
保育科学研究所が再発足し、研究を進め
整理すべきだと思います。ベビーシッタ
るにあたり、保育をどう えるのか/保
ーは少人数の子どもをその家庭で養育し
育とは一体何か
ますが、保育所では3歳以上になると 集
はとても大事なことですので、座談会の
団生活
はじめにこのテーマが提起されたことは
を通じて社会性を育むという教
育的要素が入ってきます。幼稚園教育と
にスポットを当てるの
非常に有意義であると
えます。
同様、心情・意欲・態度を育くむべく保
野
育士は色々な知識や技術を身につけなけ
親が生活のために働くので子どもを預
ればなりませんので、 保育 という言葉
ける−これもある意味では福祉です。自
についてはやはりきちんとした定義が必
分で育てられないから預けるというケー
要です。
スもあります。ただ、 子育てとは本来、
福田
親が家庭で行うもの
いま保育界では、保育制度改革論議が
盛んで、とりわけ保育所保育をどう
というのが大筋の
見方だとすれば、現在の保育はやはり親
え
の利便性のために行われているというこ
るかが大変大きな課題になっています。
とになるのでしょうか。
規制改革会議や地方分権改革推進委員会、
西村
あるいは少子化対策特別部会等で行われ
保育所は児童福祉施設ですから、親の
ている議論にはいくつかテーマがありま
ためにあるのではないと思います。もと
すが、その1つが入所要件の見直しです。
もと保育は、貧困問題と密接に結び付い
これは保育制度の根幹に関わります。
ていました。経済的な事情により親が働
4
分け隔てなく保育するところが長所だと
思います。幼稚園と異なり、子どもが長
時間生活する場ですから、生命の保持や
情緒の安定を図ることはもちろん、家に
いるのと同じ様な状態で過ごせることに
基本が置かれているのです。
改定保育所保育指針においては、家庭
養育の 補完
という表記が
支援
に
変わりました。今は自身の未熟さゆえに
子育てに不安を抱える親が増えています。
西村
この様な親をどう支援していくか。保育
重稀
所が子どもを預かって何もかもするので
かなければならないが、子どもを放任す
はなく、 親を育てる 時代です。できる
ること、即ち養育放棄は児童福祉の理念
限りその様な保護者に養育されている子
に照らすと問題である。そこで家庭養育
どもを受け入れて、親育ちを助けながら
を補完するものとして誕生したのが保育
子どもの健全育成を目指す。これは、決
所です。 保育に欠ける という概念の元
して元来の保育所保育の え方と違って
もそこにあります。
いる訳ではないんですね。ですから私は、
児童福祉の
え方には2通りあります。
1つが健全育成、もう1つは
する福祉
という
弱者に対
きでないと思います。
え方ですが、いまこ
椛沢
の ウェルフェア(福祉) が ウェルビ
ーイング
保育制度や入所条件等、色々あると思
へと変化しており、予防的な
ものも含めて
制度が変わっても保育の中身は変えるべ
いますが、保育現場では入所してきた子
えるべきだといわれてい
どもにどのように対応していくかが大き
ます。
な課題になります。
その視点に立てば、社会性を身につけ
保育とは何か についてですが、確か
させようにも近所に同じ年頃の子どもが
に定義は必要だと思います。ただ保育と
いないというケースや、ハンディキャッ
一言で言っても幅が広く、捉える視点が
プがあるので早めに集団に慣れさせたい
難しいと思います。その時代の流れによ
というケースも
って保育の捉え方も違っていますので、
保育を必要とする
状
態だということができましょう。
今は保育の基本を保育所保育指針に置き
保育所保育の場合、受け入れた以上は
ながら、目の前の子どもに日々関わって
どの様な問題行動のある児童であっても、
5
いくことが現場の保育の認識です。
い言葉を引きずっていますが、そろそろ
この辺で エデュケア
葉を
という新しい言
えるべきです。それを3歳未満児
の段階からどの様に発達するか。家庭と
の連携や、障害児保育における連携とい
った先端的なものをはっきり打ち出して
いけば、かなり専門性が出るのではない
でしょうか。
国の子育て支援の流れもちょうど良い
タイミングかと思います。養成機関の問
椛沢
題も含めて整理しておかないと、この先
幸苗
一歩、二歩と足を運ぶことは困難でしょ
このことから
保育とは何か を提示
う。
する際は、現場を踏まえた具体的なもの
例えば看護学部ができて、大学院にな
でなければ、理解されにくいでしょう。
り、博士課程ができ、看護の専門性が注
でなければ
目され、良い面悪い面があるにせよ、社
ああ、学者さんたちはこう
えているんだな
で終わってしまう気
会的な評価は高い。保育の専門性を出す
子育ては本来家庭です
ためには、そのいくつかの段階で、例え
というお話もありましたが、家
ば上級等の資格を えるのも一案です。
庭保育で十分でないところもあるので、
そうすることによって道筋ができ、問題
保育所は入所児童を十分に保育すること
解決にも結び付くのではないでしょうか。
がします。また
るもの
はもちろん、家庭への保育支援の力も備
保育とは何か を
えるにあたり、い
えていかなければならないと痛感してい
ま国内で注目されている保育園を紹介し
ます。
合いながら、各園の保育哲学も含めて整
小林
理していくのも1つの方法かと思います。
私は、 養護 という言葉はもはや使わ
藤澤
れるべきではないと思います。私の専門
保育においては、やはり親の子育て意
は障害児教育ですが、 養護訓練 という
識をどう育てるかが非常に大事だと思い
言葉が長らく尾を引きました。これが 10
ます。各園での努力が親にうまく伝達さ
年ほど前に
になり、発想を
れているかといえば…少々難しい様です
に切り替えたことで取り組み
ね。 子育て とは保育所はもとより、保
自立性
自立活動
が 180度変わりました。
護者と地域が一緒になって えるべきも
保育はこれだけ注目を集めながらも古
のかと思います。
6
野
保育所で行われるものを 保育 、家庭
で行われるものを 育児 と呼びますが、
これらを英語では何というでしょうか。
養成校で学生に調べさせたこともありま
したが、どうも
育てる という英語が
出てこない。共通して出てくるのは
ケ
ア(care)です。英語圏では子どもを 育
てる 対象ではなく、 ケアする・見守る・
注意する・保護する
小林
対象として見てい
るのでしょう。
芳文
赤ちゃんがお腹を空かせればミルクを
冒頭、
野先生が
心を育てる
と言
飲ませる。眠れなければ抱っこして、 い
われましたが、私も保育においてはその
い子、いい子
視点をもっと大事にするべきだと思いま
んは全てにおいて未熟ですから、大人が
す。いまは
察知してあげなければなりません。外国
生きる力
という言葉も耳
と優しく揺する。赤ちゃ
にしますが、人間性や人間力の基礎はや
ではまずケアがあり、それが
はり保育を通じて培われるべきものです。
や
また幼児期は
習慣形成
の適期です。
子育て
保育 に繋がるようです。始めから
保育 としてしまうと、知育に走る元
子どもの生活習慣や食習慣等がどの過程
になるのではないか
私はそう感じます。
でどう形成されるかについては、十分研
特に0∼2歳期は、まだ自分というも
究されていない様に思われ、今後の課題
のが育っていません。いつどんな危険に
です。
さらされるか分からない。そこに大人が
塩分ひとつを例にとっても、よく
味の食事が良い
薄
気を配る。それだけで良いのではないで
と言われますが、現場
しょうか。
に即した研究が十分ある訳ではありませ
小林
ん。最近では生活習慣病の若年化も盛ん
心の問題を
えるにあたっては
体・
に話題になり、 成人病胎児期発症説 と
頭・心 の全体性を意識することが大事
いう言葉まで飛び交っています。ですか
です。いまのお話を伺っていて思ったの
ら保育園では、生涯の健康づくりに役立
ですが、 育む という言葉は日本にしか
つ様な習慣づけの基礎をしっかりしつけ
存在しないのかもしれませんね。躾とも
て頂きたいものです。
違いますし。
日本の育児は
7
育む
という概念をベ
いと、0歳児保育ですることと5歳児保
育ですることが一緒になってしまう。保
育においては、発達の連続を意識しなが
ら子どもを見つめることが求められます。
野
確かに保育を分解していくと、年齢差
は大きいですね。1歳はどういう段階な
のか、5歳は…ということが分かってい
ないと子どもとの波長が合わない。ずっ
と赤ちゃんのままではありませんからね。
藤澤
小笠原
良知
私は西村先生の言われたことに同感で、
ースにしている点が特徴です。そのとき
やはり子どもの年齢によって保育者の心
全体( 体・頭・心 )はどうなっている
構えが変わっていかなければならないと
でしょう。子育てにおいて、それらが
思います。
バラバラであってはいけない。この全体
0歳児保育にあたって月間指導計画を
性を支えるのが保育です。
作成している現場もある様に聞きますが、
個人的には、 遊び の位置付けをきち
これには首を傾げたくなりますね。3か
んとすることによって、その形がより明
月の子どもが4月に入所しようが8月に
確になるのではないかと思います。障害
入所しようが、やることは同じです。6
を持つ子の保育も含め、色々なタイプの
か月になれば離乳食を食べ始めますが、
子どもが一緒に保育を受けるために、そ
この子が 11月に入った途端に変わるの
こを抜きにできないのではないでしょう
か
か。
も子ども本人の成長や特徴を見ながら援
西村
助することが基本です。
変わりませんよね。何か月であって
子どもの年齢(発達状況)によっても
もう1つ、保育所保育指針では、危険
保育は変わると思います。0歳児保育で
や安全に関することが非常に抽象的に扱
は養護的な要素が多くなりますが、5歳
われています。命に関わる問題はもっと
児ともなれば本人に主体性を持たせるべ
具体的に書くべきです。他人の子どもを
きでしょう。 育てる から 子どもの育
社会的に保育することについての責任を
ちをどう援助するか
もっとしっかり押さえるべきなのに、そ
に役割が変わって
いく訳です。
こに科学性が無いように思われます。
また、常に知識と技術を磨いておかな
先ほどのお話にあった心や体を全部含
8
生懸命取り組んでいるということです。
経験の中で伸びるのですから、時間もか
かります。
福田
養成校で教わった通りに実践する
確
かにそういう面もありますが、現場に出
てから色々教わるという面もありますの
で、それはトータルでみていかなければ
ならないかと思います。
それからこの
小笠原
保育科学研究所
とい
うネーミングについては、保育を科学す
文孝
る
という意味合いが色濃く出ていて良
めますと、負っている範疇が膨大になり
いですね。ただ現場の方たちは普段実践
ます。現場には経験年数の非常に少ない、
面の仕事をされていて、 保育を科学す
未熟な職員が多いのに、果たして
る
もを育てる
あるいは
親を育てる
子ど
ということは念頭に無いでしょうか
こ
ら、そのための方向づけは私達が行わな
こと
ければなりません。そのために色々提案
はできるでしょうが、どの様に指導して
または議論していくことはとても有意義
いくかを
だと思います。
とができるのか。母親を
励ます
えると、非常な困難が伴う様
に感じます。技能的なものをもっとしっ
野
かり学ぶべきです。実際に現場では、ピ
保育 の目的は子どもが心身ともに立
アノが弾けるとかこういう遊びができる
派に育つのを援助することだと思います。
等ということが求められるのです。
ただそこには、第三者が育てる場合特有
小林
の、心構えの問題が生じます。家庭で親
保育には様々な人間が関わりますので、
が育てるのであれば何も緊張しません。
本来は養成校の問題であるものが保育士
泣いたらおっぱいを与え、オムツを替え
個人の責任にされてしまうのは気の毒で
…と何とかやってしまう。それは親と子
すね。本人だって必死に勉強してきた筈
で気持ちが通い合っているから可能なの
です。何も知らないところからスタート
です。たとえ素人であっても、最善を尽
しているのだということも
くそうと試行錯誤を繰り返すうちに立派
慮しないと。
結局、養成機関はどうあるべきかにまで
な親になっていきます。
話が及びますね。
ところが
ただ1つ言えるのは、現場は本当に一
保育 の場合は相手が他人
の子どもです。親の人物もよく分かりま
9
せん。その子を育てるのは崇高な仕事で
椛沢
すが、その任を果たすには医学的なこと
保育士の専門性を高めるために現場で
を始め、 子ども というものの捉え方や
の研究も必要ですが、例えば幼稚園が3
社会学、人との付き合い方…等々幅広い
歳以上児を対象としていて保育時間も短
知識が求められます。
いのに対し、保育所は0歳からを対象と
そして、それらを発揮する際は保育士
していて尚且つ保育時間も長いので、研
自身の性格や育ちが影響します。そうし
究対象を絞って結論を出すのは難しいか
て園長や先輩保育士に助けられ、周りの
と思います。
人々との関係が築かれていく訳ですね。
小林
西村
私も色々講習を担当していますが、保
現場では子どもの発達等を促進する保
育士専攻でない方には、年齢の低い子ど
育を多く実施しています。そういう取組
もたちと接する場がないと思います。例
みを募集し、保育界のみならず一般社会
えば、寝返りをうち始めるのは何か月頃
にも広く知ってもらい、 ああ、それはい
からだと思いますか
い
あれを採り入れよう 等とい
としています。こういう現実はどこから
う動きが出てくるような場にしたいと思
生まれるのでしょう。これは養成課程に
います。
おけるカリキュラムの問題であって、突
小笠原
き詰めれば学生のうちから実習も含め現
とか
専門性 といっても幅が広く、子ども
と質問してもしん
場同然のことをやっていく必要がある、
たちの健康面の世話から衛生管理、食品
ということになります。
衛生、保護者への対応、感染症対策など
新米保育士の味方をして言わせて頂く
現場は常に手一杯です。他の専門職(弁
とすれば、実学を通して習得することと
護や医師等)と違い、保育士の業務はチ
それ以外の領域で学ぶ事項がある訳です
ームであたっても処理しきれません。そ
から、その接ぎ合わせをしていかない限
れだけ間口が広く、奥行も深いのです。
り、この類の問題は解決できませんね。
当園にはベテラン職員が多くいますが、
求められることに際限が無く、特定の領
域に関する高度な知識と経験
椛沢
そうですね。この
保育とは何か
が
では追い
全然まとまらないことからも、それだけ
付きません。これは各自の研鑽量で解決
果てしない問題なのだということが分か
できる問題でもないので、そこに専門性
りますよね。
を問われるのは酷だと思うこともありま
福田
す。
根源的な話で、 保育をどう
えるか
に結びつくことですが、
昭和 40年に保育
10
所保育指針ができて、それから現在まで
るイメージになります。
“子どもの目線を
に何回か改定を経ても、大事なことは変
基本とするもの”という理解が進んだの
わっていません。つまり、保育所保育に
は、 自立活動 とか 自立支援 という
おいては養護と教育が不可分一体で行わ
言葉が使われるようになってからです。
れるものである、ということ。それは正
藤澤
しいと思います。
家庭では子ども1人育てるだけでも大
特 に 3 歳 未 満 児 の 保 育 で は、養 護
変ですから、集団保育となると、並大抵
(care)の部分が大切です。それは保育
の努力ではできないと思います。現場の
所の福祉的機能です。年長児まで含めて
方の苦労をいかに科学的にもっていくか
養護するという福祉機能が基盤にあって、
は、なかなか難しい問題ですね。私は、
その上に教育という機能がある。そして、
保育の科学というのは、専門職の立場に
その教育的機能は、年齢が上がるにした
立った実践研究が中心であるのではない
がって強くなっていくけれども、養護は
かと思います。
相変わらずそのベースにある、というこ
よく、子育ては 教える・育てる・育
とですね。
つ
小林
保育研究においては、子ども自身の
エデュケーションは生後間もなくから
つ
のバランスが大事だと言いますが、
力をいかに伸ばしていくかが大事だ
始められるという発想に立てば、 養護
と思います。 教える
と同義になるかもしれません。
り、 育てる
よく、保育士は
育
のには限界があ
のも親との共同作業です
幼稚園では色々なこ
が、子ども自身が 育つ にはそれなり
とを教えている。私達は赤ちゃんから保
のサポートが必要です。それができるの
育しているけれども、それに対してあま
が保育ではないでしょうか。
り評価がない
椛沢
といって悔しがります。
泣いてばかりいた赤ちゃんがやがてこち
自分達のしている保育は、養護にしろ
らに目を向けるようになる−これが私達
教育にしろ価値のあるものなのだと現場
の教育だ、と
えている訳です。この場
が確信できる様、実践の積み上げを科学
は、一般的にいわれる教育
的に分析し高めていくのが保育科学研究
と意味が違いますが、 養護 という言葉
所であるというメッセージを発すること
が持つ重さとどう融合させていくか−今
が大切だと思います。
後大いに議論されるところでしょうね。
小林
合の
教育
障害児教育においては、 養護 という
私達が現場に伝えることによって、多
言葉が長い間教諭達を悩ませてきました。
少科学性のラインができると良いですね。
言葉のニュアンスはそのまま職業に対す
実践的なものを整理することも1つの科
11
学性ですし、例えば子どもの年齢や発達
ることを説明しないと、 養護と教育 が
に応じてどんな遊具があるのかを整理し
伝わらないと思います。
ていくといった
藤澤
場づくり・環境づくり>
をしても良いかと思います。
どうも社会的に 教育 の方が上位に
藤澤
ある様に錯覚されていますね。 教育 と
環境づくりは非常に大事だと思います。
言えばちょっと高次元の問題と捉えられ
世の中いたるところで進歩が見られます
る…。養護の中における教育的な視点・
が、子育て環境についてはむしろ問題が
論点をもっと強調する方が良いと思いま
増えている様です。環境が人をつくると
す。
言いますが、良い育児環境をつくること
養護 については心身の健康づくりや
はとても大事なことです。
健全な生活習慣づくりを教育的視点に立
小笠原
って行うものですから、その意義と特性
教育 という概念についてですが、一
般的にはどうも
教え込む
をもっと強調して頂きたいと思います。
の意味合い
椛沢
で幼稚園と比較されることが多い様に感
例えば、親が
あ、それはだめ
とす
じます。当園の職員をみていても、生後
ぐに否定することでも、専門家(保育士)
間もなくからの教育に携わっているのだ
は教育的観点から、経験させるべきと判
という自信は無いようですね。
“自分達が
断し、働きかけを工夫することで、子ど
行っているのは養護であり教育だ”とい
もの立場にたった関わりができ、必要な
う点をいまひとつアピールできていない
ものが育っていく。それが専門家(保育
と感じます。オムツ替えだって教育です。
士)の言う教育になるのだろうと思いま
よくできたね
と目を近付けて話しか
す。
けると、ちょうど望遠鏡の焦点が合うと
福田
きの様にお互いの目が合ってくるのです。
小林
知り合いの保育士さんから 20年前に
比べて母親像が随分変わったという話を
保育科学研究所の今後の方向性として、
聞いたことがあります。家庭の養育能力
今まで遠慮がちに保育をしてこられた方
や育児力が育っていないという傾向は近
のために、それを意味づけるというか、
年ほど強いのでしょう。ですから、親を
価値づけるのはとても大事ですね。
指導するといえばおこがましいですが、
小笠原
私は
子育てとは即ち、保育所と親が一緒に
養護&教育
ではないと思いま
なって子どもの育ちを助け、その能力を
す。両者は並列ではありません。ニュア
引き出していくことである という立場
ンスが非常に難しいですが、実践してい
に立つことが大事だと思います。
12
保育を科学する 上でも、研究所が新
く
そういう時に保育園が上手く機能し
しい視点を適宜紹介できると良いですね。
ていると感じます。
最近では、
(小林先生のご専門ですが)障
福田
害児教育の世界を中心にインクルージョ
ンという
いま先生が言われた通り、日本の保育
え方も広まっています。それ
らが例えば
研究所だより
所保育は本当に良い仕事をしています。
等で紹介さ
初めはモンスターペアレントかクレーマ
れれば、現場では自分達の保育が科学的
ー同然だった人が、次第に感謝する様に
にも教育的にも少しも恥ずかしいもので
なるのです。先日、あるお母さんと話す
はないのだということが確認できます。
機会があったのですが、上の2人の子ど
さらには自分達も保育を科学してみよう
もがこちらの園でお世話になっていて、
という気が起きるかもしれません。そう
とてもいい子に育っているので、お腹に
なれば、やはりこれは現場の役に立つと
いる3人目もこちらにお願いするつもり
いうことで、当研究所も役割を果たせる
です
のではないでしょうか。
さんを預けてこられた保護者の殆どは、
小笠原
保育園に感謝しているというのが実態で
こうなれば赤ちゃんが泣く というこ
とが理解できる親
かる親
と言っておられました。長くお子
はないでしょうか。
つまり一般常識が分
藤澤
を育てることも保育における専
保護者の中にも保育園に対して常識外
門性の1つかと思います。
のクレームを
繁につける人とそうでな
子どもが乳児の頃には散々クレームを
い人がいますよね。その違いはどこにあ
つけてきた保護者も、3、4年経てば何
るのかといつも思うのですが、やはり育
も言わなくなります。親にとって乳児期
つ環境による人間性がかなり影響してい
は自分の分身以上に思える訳ですから、
るのでしょう。ですから私は愛情が人を、
大抵の人が呑み込んでしまう様なことで
人間性を、そして思いやりの心を育てる
も、ストレートにぶつけてくるのは当た
のだという視点をもっと大切にしたいと
り前です。そういう親たちはとにかく不
思います。
安でたまらないのです。 お母さん、普通
西村
大人だってこうでしょう
とか ミルク
余談ながら、育児休業が定着すれば0、
を飲んだり、うんちやおしっこするとき
1歳期を家庭で過ごすことになります。
はこうでしょう
等と説明しても分から
そのときに保護者が育っておらず、育児
ない。それが時間の経過と共に分かるよ
に問題を抱えたままでは子どもの性格に
うになります。特別何かをするのではな
も問題が出てくるのではないでしょうか。
く、子どもの変化に応じて親が育ってい
この辺りについては今後の少子化対策
13
においても
えていかなければならない
逆に北海道では朝4時頃にはもう明るい
でしょうね。0歳児をもつ親との関係は
ので、7時起床などあり得ない。そうい
大変重要です。
うことが全国的にありますね。
小林
椛沢
いま課題が出ましたね。私ども保育関
子どもには何時間ぐらい睡眠が必要
係者が、一番大事な0∼2歳の子どもた
か
についてなら本で調べられますが、
ちに影響を及ぼす色々なものについて情
地域差がある場合にどうすれば良いかを
報を収集・整理し、それを検討していく
知りたいです。子どもの育ちを基準にし
のはどうでしょう。
た上で科学的な見地を紹介して頂けると、
野
保育の場で、あるいは保護者に説明する
卒園後の子どもの発達調査も大事です
ときにとても参
になりますね。
ね。保育園ごとに色々な方法を採られて
野
いるかと思いますが。
その説明の仕方ですよね。それと、現
小笠原
在の長時間保育をみていると、子どもた
薄着保育は効果がありますね。当園で
ちへの影響が非常に大きい様です。長く
はシャツに半ズボンですが、小学校に行
園にいることで子どもが無気力になると
ってから風邪を引いたことがないとか、
か、そういうデータを出さなければなら
6年間皆勤賞を取り続けた等と報告して
ないと思います。
くれる例もあります。
椛沢
野
それは保育時間の問題ではなく、こう
近頃、文部科学省でも肥満等について
いう状況の子どもへの家庭を含めた関わ
幼児期からの傾向を調べていますね。
り方の問題だと思います。保育園は長時
小林
間保育の子に十分配慮した保育をしてい
ですから、私達の出した話題だけでな
ます。
く、もっと全国的な視野で事例を集めて、
野
その舵取りができれば良いと思っていま
では、そういうデータも現場から出し
す。
て頂いて…。
野
椛沢
早寝・早起きにしても北海道と沖縄で
そこで出た結果が保育所保育だけでな
は時差があるので、起床時刻も違えば食
く、家庭との兼ね合いにも関係している
事の時刻もまちまちです。以前、沖縄で
ことが分かれば、それを家庭に伝え子育
講演した時に
てのヒントにもできる。現場のデータか
ょう
夜9時頃には寝かせまし
と言ったら
まだ明るいです
と。
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ら保育を科学することになるのではと思
います。
限り出し、少しでも現場の役に立つこと
小林
ができれば良いと思います。
今、文部科学省も睡眠時間や朝食の摂
野
取率、運動・遊びの量等について大掛か
よい保育、よい子育てを目指して保育
りなデータを出していて、例えば朝食を
所が協力しましょうということですね。
摂る子どもと摂らない子どもとでは学校
よい育ちとは何か、保育所の立場で追究
の成績にも差が出るということを発表し
できたらと思います。では、今日はこの
ていますね。それを聞いて何らかの判断
辺で終わりに致します。有難うございま
を下すのは現場の教諭達です。ですから
した。
この研究所でもその様なデータを可能な
−了−
文責:事務局編集係(本誌のスペースの関係で、座談会の内容を縮小しています)
日本保育協会保育科学研究所運営委員会
委員長(保育科学研究所長)
野
委
悟郎
社団法人母子保健推進会議会長
員
小笠原文孝
よいこのもり第 2保育園園長
椛沢
幸苗
中居林保育園園長
小林
芳文
和光大学現代人間学部教授
庄司
順一
青山学院大学教育人間科学部教授
田中
哲郎
長野県立こども病院副院長
西村
重稀
仁愛大学人間生活学部教授
福田武比古
秋草学園短期大学講師
藤澤
実践女子大学名誉教授
良知
第2号では運営委員全員の寄稿による 保育科学研究のために を予定しています
15
保育所保育実践研究・報告
募集要綱(参
)
1.目 的
日本保育協会では、保育所保育の専門性の向上のために、今日的な課題と日々取り組んでいる保育実
践に関する研究・報告を募集します。
応募いただいた研究・報告は企画・審査委員会の審査を経て表彰し、発表会や報告集で公表すること
により、今後の保育内容の向上と充実に資することを目的とします。
2.主 催
社会福祉法人日本保育協会(日本学術会議協力学術研究団体)
3.対 象
全国の日本保育協会会員(個人研究、保育園内グループ研究等)
4 . テーマ
⑴ 課題研究
以下からテーマを選び、保育現場での課題や取組みについてまとめて下さい。
① 乳児の保育について(人との関わり、離乳食、睡眠等)
② 配慮が必要な子どもの保育について
③ 食事・食育に関する取り組みについて など…
⑵ 自由研究
上記の課題研究に含まれないもの
5 . 執筆要領
⑴ 原稿は学会・保育団体・専門誌等に未発表のものに限ります。
⑵ 執筆時はパソコンを使用の上、A4判横書き、40字×40行×5頁(8,000字)以内を厳守して下さい。
⑶ 図・表・写真は挿入箇所が分かるようにして下さい(字数には含みません)
。
⑷ 原稿は返却いたしません。また、募集要綱に記載の目的以外には使用しません。
⑸ 審査委員会において選ばれた原稿については、研究・報告集に掲載いたします。その際の版権は、
日本保育協会に帰属します。
6 . 表彰要領
審査委員会において選定された研究・報告については、賞状と副賞を授与いたします。
7 . 応募方法
執筆要領の内容を確認の上、研究の要旨(1部)、原稿(印刷したもの3部)および電子媒体を日本保
育協会各県支部事務局までお送り下さい。尚、日本保育協会女性部、青年部、日本保育士協会でのグル
ープ研究は部長(会長)経由とします。
※ この事業は 保育所等職員キャリアアップのための生涯学習プラン と並ぶ当研究所の主要事業で、
毎年実施しています。
日本保育協会保育科学研究所
研究所だより
第1号
2009年 11月 16日
発行者: 野 悟郎
発行所:社会福祉法人日本保育協会 保育科学研究所
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-53-1 こどもの城 13階
TEL:03-3486-4412/FAX:03-3486-4415
URL:http: www.nippo.or.jp
(1,000)
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