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松橋事件 ~遺留分減殺請求の裁判外合意と不動産収入の帰属~

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松橋事件 ~遺留分減殺請求の裁判外合意と不動産収入の帰属~
松橋事件
~遺留分減殺請求の裁判外合意と不動産収入の帰属~
第 1 審 : 東 京 地 裁 平 13年 ( 行 ウ ) 305号 ・ 平 成 15年 9 月 1 2 日
控 訴 審 : 東 京 高 裁 平 15年 ( 行 コ ) 2 4 5 号 ・ 平 成 16年 2 月 1 8 日
→
PDF 資 料
[渡 辺 論 文 ]
渡 辺 充 「 遺 留 分 減 殺 請 求 の 裁 判 外 合 意 と 不 動 産 収 入 の 帰 属 問 題 」( 検 証 ! 藤 山 税 務 訴
訟判決、36~45頁)
【補
遺】
未分割遺産賃料収入帰属事件
第1審:大阪地裁平成13年(ワ)第4732号、平成15年9月26日判決
控訴審:大阪高裁平成15年(ネ)第3264号、平成16年4月9日判決
上告審:最高裁一小平成16年(受)第1222号、平成17年9月8日判決
Ⅰ.事実関係
本 件 の 被 相 続 人 で あ る A に は 妻 X と 子 供 Y、 B、 C、 D が い た 。
A は 平 成 8 年 10 月 13 日 に 死 亡 し た 。
A の 遺 産 の 中 に は 不 動 産 が あ り 、 相 続 人 等 は 平 成 8 年 12 月 26 日 、 共 同 で 銀 行 口 座 を 開
設し、本件不動産の賃借人に通知して賃料を共同口座に送金させ、維持管理費用等を共同
口座から出金していた。そして本件不動産の賃料は、各不動産の帰属が決まった時点で清
算を行うという暫定的合意が成立していた。
そ の 後 、 A の 遺 産 分 割 は 、 平 成 11 年 6 月 18 日 大 阪 家 庭 裁 判 所 及 び 平 成 12 年 2 月 2 日
の大阪高等裁判所の決定によって、各相続人が相続すべき不動産が決定した。そこで、X
は、大阪高等裁判所の決定に従って、各不動産の取得者が不動産から生じる賃料を共同口
座 開 設 時 か ら 取 得 し て い た と 考 え れ ば 、共 同 口 座 残 額 2 億 1,163 万 7,517 円 は 、X 1 億 9,402
万 4,269.5 円 、 Y976 万 636.125 円 、 B917 万 9,905.125 円 、 C31 万 8,437.125 円 、 D △ 164 万
5,730.895 円 と い う 分 配 額 に な る と 考 え た 。
し か し 、 子 供 等 は 大 阪 高 等 裁 判 所 の 決 定 が 確 定 し た 平 成 12 年 2 月 3 日 ま で の 収 益 ・ 費
用 は 、 法 定 相 続 分 に 従 っ て 分 配 す べ き で あ り 、 分 配 額 は X 1 億 478 万 2,348 円 、 Y2,703 万
-1-
2,606 円 、 B2,703 万 2,606 円 、 C2,641 万 4,735.5 円 D2,637 万 5,221.5 円 で あ る と 主 張 し た 。
そ こ で 共 同 相 続 人 等 は 平 成 12 年 5 月 30 日 、争 い の あ る 部 分 に つ き 引 き 続 き 協 議 を 行 い 、
協議が調わない場合共同口座をいったん解約し、Y が解約金を預かり、訴訟により最終帰
属先を決定するという内容で暫定的合意をした。
そ の 後 、 各 相 続 人 間 で の 協 議 が 調 わ な か っ た た め 、 Y は 平 成 12 年 9 月 13 日 に 共 同 口 座
を 解 約 し て 、残 金 を 保 管 す る と と も に D か ら 164 万 5,730 円 を 受 け と っ た 。そ の た め Y は 、
争 い の あ る 金 額 8,886 万 3,521 円 を 保 管 し て い る 状 態 と な っ た 。
こ の 預 託 金 に つ き X は 、 Y に 対 し 、 預 託 金 返 還 請 求 権 に 基 づ き 8,886 万 3,521 円 及 び Y
が 本 件 預 託 金 を 保 管 し た 日 で あ る 平 成 12 年 9 月 13 日 か ら 支 払 済 み ま で 日 ま で の 民 法 所 定
の年 5 分の割合による遅延損害金の支払いを求め、本訴に及んだ。
Ⅱ.判決の要旨
1.第1審
遺 産 分 割 前 の 不 動 産 か ら 生 じ る 賃 料 収 入 に 民 法 909 条 の 定 め る 遡 及 効 を 与 え る べ き か 否
かについて、大阪地裁は、次のとおり判示し、Xの主張を認めた。
「遺産から生じる法定果実は、それ自体は遺産でないが、遺産の所有権が帰属する者に
そ の 果 実 を 取 得 す る 権 利 も 帰 属 す る の で あ る か ら ( 民 法 89 条 2 項 )、 遺 産 分 割 が 遡 及 効
を有する以上、遺産分割の結果、ある財産を取得した者は、被相続人が死亡した時以降の
そ の 財 産 か ら 生 じ た 法 定 果 実 を 取 得 す る こ と が で き る と い う べ き で あ る 。」
2.控訴審
「所得税法上遺産分割前の果実について各相続人に法定相続分に応じて帰属するものと
して所得の申告をさせているのは、遺産分割が遅延することにより、だれもが所得税を納
付しなくてもよいという事態を避けるための徴税上の措置であると解するのが相当であ
る。ちなみに、実際の納税との相違は事後的に関係者間で調整することができることや未
分 割 遺 産 に 対 す る 課 税 制 度 の 趣 旨 及 び 目 的 ( 相 続 税 法 55 条 ) 等 に 照 ら す と 、 遺 産 分 割 前
の果実について各相続人に法定相続分に応じて帰属するものとして所得税が申告されてい
るからといって、そのことから直ちに各相続人が相続開始後遺産から生じた果実を法定相
続 分 ど お り 取 得 し た と い う こ と は で き な い 。」 と 判 示 し 、 Yの 主 張 を 却 け た 。
-2-
3.上告審
最高裁は、第1審、控訴審の判決とは異なり、遺産分割前の不動産から生じる賃料収入
は遺産とは別である事実を根拠とし、賃料収入は遺産分割の影響を受けないため、賃料収
入は共同相続人間の共有状態にあるとして、Y の主張である法定相続分に従って賃料収入
の分配を行うべきであると判示した。
「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有
に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭
債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続
分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割
は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相
続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺
産 分 割 の 影 響 を 受 け な い と い う べ き で あ る 。」
Ⅲ.私
( 1)
見
最高裁判決によると、未分割遺産か ら生じた賃料収入は各共同相続人に対しそれぞ
れの相続分で相続開始日より帰属することになり、コロラリーとして、その賃料収入に係
る所得税の課税関係もその帰属する収入金額に基づいて決せられることを示唆するもので
あ る 。 こ れ は 所 得 税 法 12 条 の 実 質 所 得 者 課 税 の 原 則 に も 適 う と こ ろ で あ る 。
したがって、本件最高裁判示事項は、揚言すると、改めて民法の法的論理を税法が強く
意識しなければならないことを確認させる事件といえる。
( 2)
し か し 筆 者 は 、【 柘 植 事 件 】( 東 京 地 裁 平 成 11年 ( 行 ウ ) 第 172号 、 平 成 12年 11月 30日
判決) で考 察した とお り、 遺言に よる 受遺 者と遺 留分 権利 者と の間に その 権利 関係を めぐ
り訴訟が起こると、その問題が解決されるまでのタイムラグはそのまま課税上も一時棚上
げとすべきであると考え、必ずしも民法の論理に従った権利関係で課税関係がそのまま律
せられることに無条件に賛成しない。
したがって、本件においても、課税上は未分割遺産から生ずる賃料収入への課税は、一
時棚上げし、遺産分割の遡及効を賃料収入に対して適用することに賛成したい。
なぜなら、筆者は、遺産から生じる果実はそれ自体遺産ではなく、遺産の所有権が帰属
す る 者 に そ の 果 実 を 取 得 す る 権 利 も 帰 属 す る と す る「 果 実 遡 及 説 」を 支 持 す る も の で あ り 、
遺産分割の効果が相続開始時に遡る以上、賃料収入はこれと平仄を合わせる方が合理的で
-3-
あると考えるからである。さもなければ、遺産分割後、たとえば一人の相続人が全ての不
動産を相続し、他の共同相続人が本来法的に自己に帰属すべき賃料収入を受け取らず、一
人の相続人がその全ての賃料収入を取得したときは、相続人間において新たな贈与税の課
税関係が生ずることになり、この贈与税の課税関係を回避するためには、遺産分割協議に
おいて、賃料収入につき代償分割に準ずる取り扱いをしなければならなくなる。しかし、
果実に関して代償分割をなすべきことの牽連性がある訳でもなく、賃料収入の総額に対す
る課税漏れが発生しないかぎり、課税のスタイルはシンプルであるべきではないかと考え
る。
( 3)
民法の論理を課税上も適用すること はそれが本来の姿であることは筆者も否定しな
いが、納税者の実際の担税力や徴税上の問題を考慮した場合に、必ずしも絶対的に服従す
べき場合が全てではないことも視座に入れたい。
<参考>
【 中 塚 事 件 】( 最 高 裁 一 小 平 成 3 年 ( 行 ツ ) 第 84 号 、 平 成 4 年 11 月 16 日 判 決 ) は 、 法 人
へ の 土 地 の 遺 贈 と 遺 留 分 減 殺 請 求 が 関 係 し た 事 件 で あ る が 、 最 高 裁 は 、「 本 件 土 地 の 遺
贈に対する遺留分減殺請求について、受遺者が価額による弁償を行ったことにより、結
局、本件土地が遺贈により被相続人から受遺者に譲渡されたという事実には何ら変動が
ない」とし、課税上は必ずしも民法の論理に従わない旨の注目すべき判断を下した。
【関係法令】
国税通則法
(更正の請求)
第 23 条
納 税 申 告 書 を 提 出 し た 者 又 は 第 25 条 ( 決 定 ) の 規 定 に よ る 決 定 ( 以 下 こ の 項 に お い
2
て 「 決 定 」 と い う 。) を 受 け た 者 は 、 次 の 各 号 の 一 に 該 当 す る 場 合 ( 納 税 申 告 書 を 提 出
した者については、当該各号に掲げる期間の満了する日が前項に規定する期間の満了す
る 日 後 に 到 来 す る 場 合 に 限 る 。) に は 、 同 項 の 規 定 に か か わ ら ず 、 当 該 各 号 に 掲 げ る 期
間において、その該当することを理由として同項の規定による更正の請求(以下「更正
の 請 求 」 と い う 。) を す る こ と が で き る 。
一
その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に
関 す る 訴 え に つ い て の 判 決 ( 判 決 と 同 一 の 効 力 を 有 す る 和 解 そ の 他 の 行 為 を 含 む 。)
により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき。
その確定した日の翌日から起算して2月以内
(以下、省略)
-4-
民
法
(遺留分の帰属及びその割合)
第 1028 条
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそ
れぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一
直系尊属のみが相続人である場合
二
前号に掲げる場合以外の場合
被相続人の財産の3分の1
被相続人の財産の2分の1
(遺産の分割の効力)
第 909 条
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三
者の権利を害することはできない
(受贈者による果実の返還)
第 1036 条
受贈者は、その返還すべき財産のほか、減殺の請求があった日以後の果実を
返還しなければならない。
(果実の帰属)
第 89 条
天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰
属する。
2
法定果実は、これを収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりこれを取得す
る。
相続税法
(未分割遺産に対する課税)
第 55 条
相続若しくは包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申告書を提出
する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、当
該相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者に
よってまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相
続 人 又 は 包 括 受 遺 者 が 民 法 ( 第 904 条 の 2 ( 寄 与 分 ) を 除 く 。) の 規 定 に よ る 相 続 分 又
は包括遺贈の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算するもの
とする。ただし、その後において当該財産の分割があり、当該共同相続人又は包括受遺
者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従
って計算された課税価格と異なることとなった場合においては、当該分割により取得し
た財産に係る課税価格を基礎として、納税義務者において申告書を提出し、若しくは第
32 条 の 更 正 の 請 求 を し 、 又 は 税 務 署 長 に お い て 更 正 若 し く は 決 定 を す る こ と を 妨 げ な
い。
所得税法
(実質所得者課税の原則)
第 12 条
資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人で
あって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収
益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。
-5-
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