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2008 年後半の米国経済・内外投資環境の展望
住友信託銀行 調査月報 2008 年 3 月号 経済の動き∼2008 年後半の米国経済・内外投資環境の展望 2008 年後半の米国経済・内外投資環境の展望 (要約) 今年の内外投資環境は、米国経済の回復パターンに大きく依存する。公開された米 連邦準備制度理事会の最新見通しでは、08 年の成長率は 1.3∼2.0%に下方修正、 インフレ率は 2.1∼2.4%に上方修正された。各種先行指標を踏まえ、米国を中心 に軸となる投資環境のメインシナリオ・リスクについて整理・展望してみたい。 (Q1)2008 年の米国経済の成長パターンをどう見たらよいか 各種指標を見る限り、2008 年前半の米国経済は1%前後の低成長に止まらざるを 得ない。しかしながら、追加の利下げと家計への税還付を中心とした財政政策対応 で、急減速は一時的に済み、7∼9 月期以降 2%成長に戻ると見る。 (Q2)そのとき米国の金融指標はどのような経路を辿るか 米国の主要金融指標(株価・長短金利・クレジットスプレッド)は既に景気後退を 織り込む水準に達しており、今後はむしろ強めの経済指標に大きく反応する可能性 が高い。過去の景気後退期の株価ボトムから元の水準に戻る平均的な経過期間は 3 ∼4 ヶ月。この前提では夏場以降、投資資環境が大きく好転する可能性がある。 (Q3)上記メインシナリオのリスクは何か 未だ十分に織り込まれていないリスクは、下期の世界経済減速とインフレ高進。各 国の北米向け輸出のGDP比率は中国で 12%、欧州日本では 3∼4%の規模にある。 予想される上期の米国経済の減速が欧州・アジア経済の失速をもたらす場合には、 インフレリスクによる高金利と相俟って株価には逆風となろう。 (Q4)日本の為替に与える影響は 円ドルレートは、短期的には日米長期金利差、中期的には貿易黒字に左右されてき た。米国経済の回復に従い日米金利差は拡大していく前提では、2008 年後半は円 安・ドル高傾向となる可能性が高い。上期米国経済の減速がラグを伴い下期の欧州 経済に波及するとすれば、対欧州では円高になる可能性にも留意したい。 (Q4)日本の株価に与える影響は 現在の株価は日米ともに中期的な PER 平均値から下方に乖離し、景気失速を過度に 織り込んだ水準にある。従って、夏場以降の環境好転後は、PER が平均回帰する動 きのなかで国内株価も上昇に転じるシナリオが十分描き得よう。内外投資のターニ ングポイントとなりうる 2008 年夏場までの経済環境と阻むリスクに注視したい。 1 住友信託銀行 調査月報 2008 年 3 月号 経済の動き∼2008 年後半の米国経済・内外投資環境の展望 1.2008 年前半の米国景気の減速は不可避 2 月 14 日の議会証言で、バーナンキ議長は「軟調な雇用のほか、高いエネルギ ー価格と株安、住宅市場の低迷が短期的に個人消費を抑制する可能性が大きい」と 見通しを述べた。引き続いて公開された、米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録 でも、金融政策の決定権限を有する FOMC メンバーが予想する 2008 年の米国経 済成長予想は、1.3∼2.0%と前回 10 月の見通し 1.8∼2.5%より下方修正された。 一方で、インフレ見通しについては、2.1∼2.4%(食料・燃料のぞくコアでは 2.0 ∼2.2%)と前回の見方 1.8∼2.1%(同 1.7∼1.9%)と上方修正された。 2 月以降に公表された経済指標はこうした FOMC の見方を裏付けるものとなっ ている。原油価格が再び 100 ドルを突破する一方、景気を支えてきたサービス部門 の景況感を示す ISM 非製造業指数が急落し、住宅価格は下落のピッチが止まって いない(図1) 。物価指標については、1 月の消費者物価指数が燃料価格の高騰を 背景に前年比 4.3%と上昇し、食料燃料除きでも同 2.5%まで高まっている。 唯一の明るい経済指標は、前月比プラスを続ける鉱工業生産が示すように、製造 業セクターは外需を中心にやや上向いていること、さらには、景気後退入りを最も 早くモニターする新規失業給付申請件数は、4 週平均で 35 万件前後と後退入りの 境目となる 37 万∼40 万件よりは下の水準に止まっていることにある(図2) 。 インフレ上昇をも織り込んだ FRB の成長率の下方修正を踏まえると、今後の米 国金融政策は、インフレに注視しながら、3 月と4月の FOMC で追加 50bp の利下 げ後に、暫く据え置くというのが最も可能性の高いシナリオといえるだろう。 図 1 ISM 非製造業指数と住宅価格の推移 図 2 雇用先行指標と鉱工業生産の推移 非製造業の景況感は前回景気後退期まで低下 失業保険申請件数は景気後退の境目より下 30 主要 10 都市住宅価格前年比 500 (右軸、千人) 450 20 景気後退期 400 10 70 550 失業保険申請件数 350 65 0 8 -10 4 300 250 60 55 0 50 45 ISM 非製造 指数(太線 3 ヶ月平均) 40 98 99 00 01 02 03 04 05 06 鉱工業生産前年比% -4 90 07 92 94 96 98 00 (資料)図1・2とも、米国商務省「Survey of Current Business」他より住友信託銀行調査部作成 2 02 04 06 住友信託銀行 調査月報 2008 年 3 月号 経済の動き∼2008 年後半の米国経済・内外投資環境の展望 振り返ってみれば、こうした「景気後退に近い」米国経済の減速は、各種先行指 標の合成より計算された「景気後退確率」からも半年前からある程度予測されてい た。図3は、数ある「景気後退確率」を算出する手法のうち最も一般的な説明要因 (ISM 製造業指数、失業給付申請件数、FF レート、長短スプレッド)を用いて計 算した「景気後退局面入り」確率の推移をプロットしたものである。図が示すよう に、2007 年後半から 08 年前半にかけて「景気後退確率」の急上昇がみられていた。 このモデルに現在の指標を説明要因に入れた 9 ヶ月先までの景気後退確率は、グ ラフが示すように、利下げ効果を主因として 2008 年後半以降は、後退確率が低下 していく。こうしたやや楽観的な見方は、FRB の見通しとも平仄が合ったもので ある。FOMC の成長率見通しでは、2009 年 2.1∼2.7%、2010 年 2.5∼3.0%と徐々 に高まる姿を想定している。 モデルに反映される金融緩和に加え、 初年度総額 1,517 億ドルの財政政策が 7∼9 月期の消費を押し上げることも期待されている。 過去の米国の景気循環をみると、金融引締め・緩和といった金融政策が効果を発 揮するには約半年のラグがある。サブプライム問題に直面している今回は、貸出態 度の厳格化と貸出スプレッド上昇の影響により、これまでの緩和局面ほどには住宅 ローン金利の低下は期待できないケースもあろうが、少なくとも変動金利で借りて いた住宅ローン保有者の金利負担の軽減を通じた延滞率の上昇を防ぐ効果はあろ う。何より重要な点は、長短金利格差の拡大が、サブプライム損失で痛んだ金融セ クターの回復を早めることである。調達金利(短期金利)の低下を主因に生じてい る長短金利差拡大は、銀行収益をサポートしていこう(図 4) 。 過去の景気後退期においては、FRB は例外なく、政策金利である FF レート誘導 目標をインフレ調整後の実質金利ゼロ水準まで引き下げてきた。従って、今回も現 行のインフレ水準である 2.0∼2.5%まで追加 50bp(現行 3.0%から 2.5%)の利下 げが実施されると見てよいだろう。 60 図 3 先行指標用いた景気後退確率の推移 図 4 過去の景気後退局面での金融政策推移 景気後退を予測するモデル後退確率は低下 FF レートを実質ゼロまで下げ順イールド創出 景気後退期 10 年-2 年債 50 300 200 スプレッド(bp) 100 40 0 景気後退確率(%) 30 10 9 ヶ月前データより試算 -100 FF レート(下線:実質 ベース) 8 6 20 4 2 10 0 0 90 92 94 96 98 00 02 04 06 86 08 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 (注)景気後退確率は 9 ヶ月先の景気後退の可能性を計算するもの。実質 FF レート=FF レート−インフレ率 (資料)図 3・4 とも、米国商務省「Survey of Current Business」他より住友信託銀行調査部試算 3 住友信託銀行 調査月報 2008 年 3 月号 経済の動き∼2008 年後半の米国経済・内外投資環境の展望 2.金融指標は景気後退をどの程度織り込んでいるか 実のところ、米国の各種金融指標は、既に米国経済の景気後退入りや、金融緩和 をほぼ織り込んだ水準にある。表1は、①株価(S&P500) 、②長短金利(10 年− 2 年債) 、③流動性プレミアム(LIBOR3M−財務省証券 3 ヶ月レート) 、④クレジ ットスプレッド(BB 格社債レート−10 年債レート)の4項目について、過去3回 の後退期の水準を比較している。株価は景気後退前のピークから景気後退入り後の ボトムまでの最大下落率、スプレッドは後退期における最大値を比べている。 特徴の第一は、 株価が 2007 年 10 月のピークから 2008 年 1 月のボトムまで 16% 下落し、2001 年の景気後退期を除く後退期の平均的な落ち方となっている。第二 は、FRB による合計 225bp の利下げで 2 月 20 日時点の長短金利差が 188bp とほ ぼ 200bp 前後の過去平均水準まで拡大している。第三は、流動性危機後の銀行間 短期市場金利の流動性プレミアムが財務省3ヶ月レートとの比較で、昨年 12 月に 一時 200bp 超まで拡大し、その後改善傾向にある。クレジットスプレッド(BB 格 社債レート−10 年債レート)については、過去景気後退期 10%のデフォルト相当 水準まで高まり、現行 1%からのデフォルト急騰を過度に織り込んでいる。 なお、株価ボトムから元のピーク水準まで回復に要する平均期間は、3∼4 ヶ月と なる。例外は、企業のバランスシート調整が厳しかった 2001 年の不況時であり、 このときは PER60 倍から調整が進む過程で S&P500 指数は 2000 年 3 月の 1527 ポイントから 2002 年 10 月には 785 ポイントまで半減した。 その後 1500 ポイント 回復するまでに 5 年を要した。今回は企業の財務環境が堅調で、PER も 17 倍と低 いため、株価が戻るまで 3∼4 ヶ月を軸に、サブプライム後の金融市場調整の進捗 と海外経済動向に依存しながらやや遅れる見方が目安となるのではなかろうか。 表2 2007 年の米国輸出入と各国寄与度 表1 景気後退期間の株価・スプレッド推移 株価 長短金利 S&P500 10-2年債 (%) 流動性 信用 スプレッド LIBOR- BB格社債TB3ヶ月 10年債 スプレッド最大値(bp) 1990-91年 -20 227 138 280 98年LTCM -18 60 157 361 2001-02年 -49 237 92 493 2007-08年 -16 189 218 501 直近 (2/20) -12 175 83 469 (対米輸出の 各国GDP比率) 米国輸出 輸入 カナダ メキシコ EU計 フランス ドイツ イギリス ロシア 中国 日本 NICS 豪州 (24.7) (25.1) (3.4) (1.8) (3.2) (2.5) (2.0) (12.2) (3.3) (4.1) (1.1) 07年 1∼3月 4∼6月 7∼9月 10∼12 月 輸出入前年比・各国寄与度% ↓ 11.0 10.5 13.0 14.3 3.7 3.8 3.3 10.4 -0.6 0.3 0.9 0.1 0.1 0.1 0.0 2.7 0.2 0.3 0.01 0.6 0.3 1.0 0.2 0.2 0.2 -0.1 1.9 -0.2 0.2 0.03 0.7 0.7 1.3 0.4 0.4 0.2 -0.2 1.5 -0.2 -0.2 0.03 1.4 1.3 2.0 0.3 0.4 0.3 0.3 1.2 -0.3 0.1 0.01 (資料)IMF「International Financial Statistics」他 (資料)Bloomberg より住友信託銀行調査部作成 4 住友信託銀行 調査月報 2008 年 3 月号 経済の動き∼2008 年後半の米国経済・内外投資環境の展望 こうした意味で、市場に織り込まれていない注視すべきリスクとしては、下期の 海外景気の減速動向とインフレ高進リスクが挙げられるだろう。 米国景気の減速がどういった地域に波及していくかを、対米輸出規模とその寄与 度で見たのが前頁表2である。輸出規模に関しては、GDP 比で高いのは中国であ り、対米輸出は 2006 年の GDP 比で 12%に上る。欧州、日本は GDP 比ベースで は 3%前後となる。 対米輸出寄与度でみると、 米国経済が 0.6%成長に鈍化した 2007 年 10∼12 月期までの寄与度の落ち方は今のところ軽微である。従って、米国経済 の減速が 08 年上期の一時的で済むのであれば、対米依存度の高い中国を除き、こ うした地域の成長鈍化の大きな足枷にならないと見る。その中国では、1 月の消費 者物価指数が前年比 7.1%とインフレ上昇が顕著なため、米国経済の上期の減速は、 その後の世界全体のインフレリスクを抑える要因となり得る可能性もある。 3.為替の方向性と日本株価の予測 (円ドルレートを左右する要因) 以上の米国経済の先行きと金融市場の反応、さらにはこれに伴うリスクを踏まえ ると、為替や日経平均株価への影響はどのように整理したら良いだろうか。 これまでの円ドルレートの動きを振り返ると、昨年前半の 120 円台から米国経済 の不透明感の高まり、FRB の利下げにより 105 円台までの円高が進んだ後、107 ∼108 円とやや戻ってきている。こうした短期的な円ドルレートの推移は、概ね日 米長期金利格差で説明され得る。米 10 年債と日本 10 年国債との金利格差を円ドル レート推移と重ねてみると、日米長期金利が 20bp 縮小(拡大)すると概ね 3 円円 高(円安)に動くのがここ2年間の円ドルレート推移の特徴であった(図5) 。 図 6 経常収支と円ドルレート中期推移 図 5 日米長期金利格差と円ドルレート短期推移 20bp の金利差縮小で 3 円円高 (bp) 経常収支は為替に1年先行も足許は乖離 360 123 ↑ 340 拡 大 320 120 117 5.0 ↑ 円 安 111 日米長期金利差(左軸、bp) 円ドルレート(右軸、円㌦) 220 07年2月 円 108 高 ↓ 105 ↓ 縮 260 小 ↓ 240 07年8月 4.5 90 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 円ドルレート (右軸 逆目盛 円) 1.5 1.0 102 07年5月 80 経常黒字/GDP比率 (1年先行、左軸%) 150 95年 07年11月 98年 01年 04年 (資料)図5・6とも、米国商務省「Survey of Current Business」他より住友信託銀行調査部作成 5 100円 高 110 120 円 130安 140 ↓ 黒 字 拡 大 縮 小 114 為 替 金 300 利 差 280 70 ↑ 126 ↑ 380 5.5 07年 住友信託銀行 調査月報 2008 年 3 月号 経済の動き∼2008 年後半の米国経済・内外投資環境の展望 このため、短期的には引き続き日米金利動向が最も重要ということになる。あと で総括するように、2008 年の米国金融政策は、追加 50bp の利下げの後 2008 年い っぱいは横ばい、2009 年 1∼3 月期に利上げに転じると当部では予測している。 FF レートの市場予測もひところの大幅な利下げ(1 年先は現行水準より 100bp 低 い 2.0%の期待)から、インフレの高まりを受けて 2.25%までの利下げに止まると の見方に後退している。こうした点を踏まえると、成長率が高まる 2008 年後半に かけては、米国 10 年債レートの水準は上昇していく可能性が高く、日米金利差が 拡大するなか、為替も 110 円前半まで一旦円安方向に戻りやすくなるだろう。 そこから先一本調子の円安になり難いのは、米国経済の不透明感が払拭されれ ば、日本でも利上げが再開される見通しに加え、中期的にはなお、日本の経常黒字 の規模は円高に振れやすい位置にあるためである。前頁図6が示すように、日本の 経常黒字の規模拡大は1年遅れて円高圧力をもたらしてきた。最近こそ、この関係 が崩れているが潜在的な円高圧力は残存していることには注意したい(図6) 。 なお、円ユーロについては、仮に 2008 年前半の米国経済減速と英国経済の減速 がラグを伴って 08 年下期の欧州経済の景気鈍化をもたらす場合には、下期回復が 加速していく米国経済と利上げを再開する日本との相対的な関係から、ユーロはド ルと円に対してやや弱くなる可能性も十分に考えられよう。 (PER からみた株価水準) これまでの株価の低迷は、企業の収益力や財務健全性を反映したものよりは、金 融市場の混乱による流動性危機といったシステミックリスクに起因する部分と、将 来の景気後退を織り込んで PER が大きく低下した点に特徴がある。最近持ち直し ている米国株価ですら、PER 水準は中期的な平均水準(S&P500 の PER3 年平均 17.7 倍、同 5 年平均 20.4 倍)より下の水準に乖離している。 図 7 日米 PER の平均水準からの乖離 米国では 18∼20 倍が平均レンジ 24 図 8 日経 225PER(横軸)と PER 増減(縦軸) PER15 倍では 1∼3 年後上昇圧力 60 日経 225 PER (縦軸)1∼3 年後の PER 増減(%) 40 22 (白ヌキ)半年後 将来 (太点)3 年後 20 20 (細点)1 年後 上昇 ↑ 0 18 -20 S&P500 PER 16 -40 (横軸)日経 225 PER(倍) 14 05Q3 06Q1 06Q3 07Q1 07Q3 08Q1 12 16 20 24 28 32 (資料)図 7・8とも、Bloomberg 他より住友信託銀行調査部作成。図 7 のシャドウは過去 PER 平均水準レンジ 6 住友信託銀行 調査月報 2008 年 3 月号 経済の動き∼2008 年後半の米国経済・内外投資環境の展望 見てきたように米国の株価水準には、既に景気後退は大方織り込まれ、今後景気 が回復していく中で 3∼4 ヶ月後の夏場を境に、モメンタムが改善される可能性が 高いとすれば、国内の株価環境も現在よりは好転している可能性が高いだろう。 実際のところ、国内株価水準を PER 水準との比較で判断すれば、現在の PER14 ∼15 倍は歴史的に見ても低すぎる水準にあり、経済の減速を過度に織り込みすぎ ているとも読める。過去の変動パターンをみても PER14∼15 倍は、1 年後、3 年 後に PER の中期平均に回帰する過程で上昇していく水準にある(前頁図) 。 従って、ゆっくりと PER が平均水準に回帰していくとの前提のもと、中期日本 経済予測と、そこから計算された企業部門全体の収益伸び率やレバレッジ等の財務 要因の中期推移をもとに中期的な株価水準を試算すると、09 年度末 1 万 5 千円、 11 年度末 1 万 8 千円が予測の中心値となる。 もちろん、こうした予測は PER 水準の置き方ひとつで大きく変化することにな るが、過去の PER 推移と米国の金融市場の織り込みと過去の回復パターンを踏ま えると、中期的には PER が平均値に回帰していく前提で算出した水準を中心線に、 PER 水準のシナリオにより上下の予測範囲を考えるのが適切と言えるだろう。 表3 中期経済見通し・企業財務ファンダメンタルズから試算した中期株価予測 PER が 18 倍に向け平均回帰する想定での株価予測中心水準 ー 年度 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 実質GDP成長率 2.4 2.3 1.7 1.8 2.0 1.8 1.9 成 資本分配率 18.5 18.5 18.2 18.2 18.0 18.0 18.0 長 率 実質総資本利益率 10.5 10.6 10.4 10.4 10.3 10.3 10.3 ・ 名目総資本利益率 10.4 10.7 10.5 10.7 10.8 11.0 11.2 金 消費者物価上昇率 -0.1 0.1 0.3 0.5 0.5 0.7 0.9 利 10年国債利回り 1.4 1.8 1.5 1.8 2.4 2.8 2.9 9.8 10.1 10.5 9.8 9.2 9.4 9.6 財 ROE:(1-τ){φ+γ(φ-ρ)} 総資本事業利益率 φ 9.9 10.5 11.1 10.1 9.6 9.7 9.8 務 リ 負債利子率 ρ 1.6 1.7 1.7 2.0 2.6 2.9 3.1 タ レバレッジ γ 77 72 66 75 80 85 90 プレミアム γ(φ-ρ) 6.3 6.3 6.2 6.1 5.6 5.8 6.1 ン 法人税率 τ 0.395 0.395 0.395 0.395 0.395 0.395 0.395 株 市場収益率 32.9 0.0 -22.7 19.2 1.9 8.9 8.9 式 配当利回り 0.9 1.0 1.1 1.1 1.2 1.2 1.2 リ 株価上昇率 32.0 -0.9 -23.8 18.0 0.8 7.8 7.8 タ ROE変化 7.6 3.4 3.6 -6.9 -5.7 1.4 1.4 一株当り純資産変化 13.8 8.0 3.5 3.5 3.5 3.5 3.5 ン PER変化 10.5 -12.3 -30.9 21.4 2.9 2.9 0.0 ・ 株 PER 23.1 20.3 14.0 17.0 17.5 18.0 18.0 価 日経平均株価(末値) 17,060 17,288 13,171 15,544 15,666 16,883 18,036 (資料)住友信託銀行調査部試算 →予測 (注)ROE(Re)と各財務変数(自己資本E、負債D、事業利益率φ、負債利子率ρ、税率τ)の関係は下記式 ReE/(1-τ)+ρD =φ(E+D) より ROE: Re=(1-τ){φ+D/E(φ-ρ)} ー 7 住友信託銀行 調査月報 2008 年 3 月号 経済の動き∼2008 年後半の米国経済・内外投資環境の展望 4.米国の経済金融指標の予測総括表 最後に、内外投資環境の前提とした米国経済金融環境の見通しを総括したい。 ・ 2008 年の米国経済成長は、08 年 4∼6 月期まで 1%前後の成長に止まるが、家 計所得比 1%弱の税還付を含む初年度 1,517 億ドル(総額 1,680 億ドル)の財政支 出と金融緩和の効果で、7∼9 月以降は 2%成長に回復する ・ 但し、住宅市場の調整は 2008 年いっぱいかかる見込みであり、失業率の上昇 を見込む予防的利下げにより FF レートは現行より 50bp 低い 2.50%の水準が 1 年いっぱい据え置かれる。次回利上げは 2009 年 1∼3 月期 ・ 長期金利(10 年債レート)は利下げ打ち止めと将来の利上げを織り込み緩やか に上昇、長短金利格差の拡大が銀行部門の収益をサポートする ・ クレジットスプレッドは、デフォルト率が織り込まれた 10%に到達しない 5% 程度の上昇に則した水準に、適格債を中心に低下していく 表4 米国経済金融予測総括表 2007 年次 2006 実質GDP(前期比年率%) 2.9 G D P 1∼3 4∼6 2008 7∼9 10∼ 12 1∼3 4∼6 2009 7∼9 10∼ 12 1∼3 0.6 3.8 4.9 0.6 0.8 1.4 2.6 1.9 2.4 個人消費 3.1 3.7 1.4 3.4 2.0 1.5 1.9 3.0 2.2 2.8 非住宅投資 6.6 2.1 11.0 9.4 7.5 4.5 5.5 5.5 6.5 6.5 -4.6 -16.3 -11.8 -20.5 -23.9 -20.0 -10.0 -5.7 -3.5 -0.9 住宅投資 輸出 8.4 1.1 7.5 19.1 3.9 6.6 7.9 9.0 7.6 8.6 輸入 5.9 3.9 -2.7 4.4 0.3 2.9 3.4 4.6 5.5 5.5 6.1 4.9 6.6 6.0 3.2 5.0 5.9 5.7 6.0 6.2 2.5 2.3 1.9 2.5 2.4 2.4 2.3 2.3 2.4 2.4 2.2 2.4 2.0 1.9 2.1 2.3 2.3 2.3 2.3 2.4 4.6 4.5 4.5 4.6 4.8 5.0 5.1 5.1 5.0 4.9 5.25 5.25 5.25 5.00 4.25 2.50 2.50 2.50 2.50 3.00 4.82 4.58 4.87 3.97 3.05 2.05 2.15 2.70 3.10 3.45 4.70 4.64 5.02 4.59 4.02 3.75 3.75 4.25 4.50 4.75 7.08 6.94 7.32 8.02 8.30 8.35 8.35 8.15 8.25 8.65 6.35 6.40 6.62 6.59 6.56 6.96 6.75 6.50 6.55 6.65 -12 6 15 62 97 170 160 155 140 130 BB格スプレッド(bp) (c-a) 238 230 230 343 428 460 460 390 375 390 Baaスプレッド(bp) (c-a) 165 176 160 200 254 321 300 225 205 190 名目GDP(前期比年率%) CPIコア(前年比) 物 価 PCEコア(前年比) 等 失業率 (%) FFレート 2年債レート (a) 金 10年債レート (b) 利 BB格社債(c) 末 Moody's Baa社債(c) 値 % 長短スプレッド(bp) (b-a) 予測 (資料)住友信託銀行調査部予測(2/20時点) (木村:[email protected]) ※本資料は作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を 目的としたものではありません。 8