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開発途上国に生きるNTTの技術: 技術を通じた国際貢献−−フィリピン
情 環境保全 センシングシステム 報 流 通 ∼ 世 界 の 潮 流 ∼ 共同研究 開発途上国に生きるNTTの技術: 技術を通じた国際貢献−−フィリピン共和国編 NTT東日本 まつなが け ん じ む ら い NTT東日本国際室では,開発途上国へICTや通信インフラの技術者を派遣したり, と し お 松永 健司 /村井 俊雄/ い し だ わたる 石田 渉 コンサルティング活動の一環として,国際機関への環境案件発掘や環境保全とICT を融合した提案などを行っています.ここでは,2005年8月から昨年4月まで の間,フィリピン共和国で実施したセンシング技術の利用による環境保全に関する 共同研究について紹介します. ●● 共同研究実施の背景(経緯) タイのバンコクに本部を置くAPTは,ア NTT東日本国際室は,この事業に対し ジア・太平洋地域における電気通信の てNTT環境エネルギー研究所が開発し 国際協力分野における活動にはさまざ 開発・促進および地域電気通信網の整 た「大気環境マルチ・センシング・シス まな国際機関との連携により実施する取 備・拡充を目的として,各国政府によっ テム」などを活用して「リアルタイム・ り組みが数多くあります.国際機関の中 て設立された国際機関です.このAPTの センシング・ネットワークの構築による でも, APT( Asia-Pacific Telecom- 持つ国際協力プログラムの1つに,ICT 大気汚染と交通シミュレーション」を提 munity:アジア・太平洋電気通信共同 ( Information and Communication 案し(図1),2005年8月APTから採 体)は,NTT東日本国際室が取り組む Technology:情報通信技術)技術者 活動に大きなかかわりを持っています. 育成のための共同研究事業があります. モニタリング NO2センサ 択されました. 分 析 SPMセンサ 気象センサ シミュレーション 交通量測定調査 マニラ市街地での 測定調査 これを受け,NTT東日本国際室は, 測定調査方法 シミュレーション マニラ市街地における NO2濃度の昼間帯分布 Google Earthによる 気象パラメータを示した地理的イメージ 気象・大気汚染分析 フィリピン側 サーバ 生データ 日本側サーバ 加工済データ, グラフ インター ネット 携帯通信網 (GSM) Live E!プロジェクト 協力による資料 データ伝送処理 図1 共同研究全体概要図 NTT技術ジャーナル 2007.1 69 NTT環境エネルギー研究所,NTT西日 本国際室,NTTネオメイト各社からの APT共同研究実施体制 人的・技術的分野にわたる支援の下, フィリピン共和国の政府系機関などの共 同研究機関と実施体制を整え(図2), NTT東日本 NTT西日本 同年9月から研究活動を開始しました. ●● フィリピンにおける現状 フィードバック サポート A P T の加盟国であるフィリピン共和 フィリピン情報 通信技術委員会 NTT環境 エネルギー研究所 フィリピン先端 科学技術研究所 フィードバック サポート Live E!プロジェクト フィリピン大学国立 交通研究センター 環境管理局 知的財産事務局 フィリピン気象天文庁 フィリピン投資委員会 フィリピン地震 火山研究所 フィリピン国土地理院 国の首都マニラ市街地では,人口および 経済の集中,そしてモータリゼーション の急成長による大気汚染のため,地域 NTTネオメイト 住民に対して重大な環境問題をもたらし ています.特にフィリピンの観光名物で もあるジプニーと呼ばれる乗り合いタク シーやバスなどの公共交通はディーゼル 図2 共同研究実施体制図 エンジン車が多く,これらを含めた車両 総数の急激な増加の傾向は統計データ にも顕著に表れています(図3). (万台) 140 またフィリピン国家統計局によると, 17の都市および地方自治体を含む636 ガソリン式エンジン車両 120 àの面積を持つマニラ市街地の人口は, 2000年までに993万人となっています. これはフィリピン共和国の人口(6 560 万人)の13%に相当し,そして全国の 人口増加率は1995年から2000年にかけ ディーゼル式エンジン車両 車両総台数 100 登 録 車 両 台 数 て2.36%となり,MMUTIS(マニラ首 80 60 40 都圏総合交通計画調査)によれば,人 20 口密度は158人/haとなっています. 0 1980 このように,人口および交通量の一極 (年) ’ 82 ’ 84 ’ 86 ’ 88 ’ 90 ’ 92 ’ 94 ’ 96 ’ 98 2000 ’ 02 集中といった都市環境の相関により,排 出典:フィリピン陸運事務所 出 されるN O 2 ( 二 酸 化 窒 素 ) やS P M 図3 登録車両台数 (浮遊粒子状物質)など,酸性雨や光化 学スモッグなどの要因とされる汚染物質 が増加し,健康への被害が拡大している UP-NCTS(フィリピン大学国立交通研 ステムを構築し,それらのデータをフィ との懸念が広がっています. 究センター)と連携し,両国関係機関 リピン・日本両国に設置したサーバへイ の技術者相互の協力作業を通じて本研 ンターネットを経由しながらリアルタイ 究に取り組みました. ムに送信し,NTT環境エネルギー研究 そこで,私たちは近年深刻化するこれ ら交通事情および大気環境に関する問 題に着目し,NTT環境エネルギー研究 所が開発したセンシング技術などを活用 ● ● 共同研究の特長 所の3次元シミュレーション技術・ノウ ハウを活用して解析するというものです した共同研究を実施することとなりまし この共同研究は,マニラ市街地に,大 (図4).そして,交通量調査の実施で た.この共同研究では,NTTグループ 気中のNO 2 ,SPMなど汚染物質の濃度 得られた交通量および交通流のデータと のほか,フィリピンの政府系機関である を測定するセンサと風力・風向などの 組み合わせることで,大気汚染と交通の CICT(フィリピン情報通信技術委員 データを測定する気象センサ,およびパ 相関関係について解析が可能となりま 会),ASTI(フィリピン先端科学技術 ケット通信を行うGSM携帯モジュール す.このことは,都市交通による環境影 研究所),および大学研究組織である からなる大気汚染・気象モニタリングシ 響に関するデータ収集と改善検討のため 70 NTT技術ジャーナル 2007.1 情 の貴重な資料になると期待されています. ション結果を算出できることです.つま を招いたほか,昨年11月から12月にか このシステム構成からは,いくつかの り,これらの結果から空間的な大気環境 けては,日本側メンバを2回に分け派遣 技術的特長を挙げることができます.1 を分析することが可能となっています. し.それぞれ両国の技術者が協力して つはSPMセンサです.SPMセンサは, ●● 共同研究の作業工程 N O 2 , S P M などのセンサを現 地 に搬 光散乱法に基づいた粒子カウンタで粒径 入・設置し(写真1,2),データ測定 と粒子数を計測することができ,希釈器 私たちは,この共同研究を実施するに を導入することにより,屋外環境の高濃 あたり,9つの作業工程を計画し,この 度SPM(∼1万2 000個/cc)の測定を 共同研究によって得られた調査結果を最 可能としています. 終的に報告書にまとめました.この間, バから送信された各種データの収集・蓄 両国の技術者が相互を訪れ,技術検証 積が本格化し,シミュレーション分析を を行いました(図5). 繰り返すとともに, 並行してUP-NCTS 次に,NO 2 センサがあります.これは, 多孔質ガラスを基板として用いており, プログラムのカスタマイズを行い,初期 導入版システムを構築しました. 共同研究の後半は,フィリピン側サー N O 2 に反 応 する化 学 物 質 の色 変 化 に 2005年10月には,同国共同研究機関 による交通量調査が行われ,フィリピン よってNO 2 濃度を測定するものです.こ CICT,ASTI,UP-NCTSから技術者 人技術者が昼夜を通して測定作業を行 れは,ガラス基板にある色素化合物を吸 着させたナノサイズの孔中にNO 2 が付着 変化を起こします.このとき,光の透過 SPM センサ 率を時間経過の中で調べることによって, NO2 センサ また気象センサについては,東京大学 フィリピン側 サーバ (ASTI) GSM携帯 モジュール の江崎教授が主査を務める環境センシン グプロジェクトのLive E!プロジェクト(1) インター ネット GSM携帯 モジュール 時間当りのNO 2 濃度をppb単位で測定 します. PC 無線通信 すると,この化合物が着色反応し赤色 インター ネット 日本側 サーバ (NTT東日本) ④ 気象 センサ データおよび チャートの表示 から機材貸与を受けて設置したもので, GSM携帯 モジュール 風速,風向のほか,降水量,温度,湿 度,気圧に関するデータを測定・送信 する機能を持っています. ③ 計算およびデータベース生成 ① ② 測定および インターネット経由の データ転送 データ転送 フィリピン国側 さらに,これらの各種センサに簡易な ④’ ダウンロード 日本国側 CSV 全世界 図4 システム概要構成図 GSM携帯モジュールを組み込むことで, センサが取得したデータを1 0 分ごとに フィリピン側サーバへ送信することがで き,またフィリピン側サーバで蓄積され たデータは暗号化され,日本側サーバに 2005年9月 12月 2006年1月 2月 3月 フィリピン人技術者招聘(日本) 検証 データを演算処理し,グラフやCSVファ インプリメンテーション イルとして出力することができます. 中間報告書作成 その他,オープンソース・ソフトウェ 11月 準備作業 インターネットを介して転送されます. そして,日本側サーバでは,転送された 10月 現地作業1(フィリピン) 現地作業2(フィリピン) 実地試験 アを利用しており,フィリピン・日本の それぞれのサーバ間のプログラムデータ 技術セミナー開催 交換やカスタマイズが比較的容易かつ安 結果分析 価に実現できました. 技術セミナー開催(フィリピン) シミュレーション そして最大の特長は,これらのセンサ から収集した情報を地理属性情報と組み 合わせ,NTTのシミュレータ技術により 最終報告書作成 図5 共同研究スケジュール 数値計算することで,3次元シミュレー NTT技術ジャーナル 2007.1 71 報 流 通 ∼ 世 界 の 潮 流 ∼ 社と連携を図り,国際貢献に取り組み たいと考えてきました. 今回のフィリピン共和国で実施した共 同研究については,その後昨年7月にイ ンドで開催されたAPT主催の国際フォー ラム(ADF2006)に招聘されることと 写真3 技術セミナー会場風景 なり,NTT東日本国際室からアジア・ 太平洋地域の国々に対して研究の成果 を発表することができました. 写真1 NO 2 ,SPMセンサ設置状況 このようなことから,今回紹介した共 同研究やその他国際協力活動などから 得た経験や知識を,海外での技術セミ ナーや国際フォーラムの機会に広く情報 発信することで,共同研究参加機関だ けでなく,APT加盟国に対してもNTT グループの技術力をアピールすることが でき,NTTグループの企業ブランド向上 図6 マニラ市街地(マカティ地区) の3D構造イメージ につながるものと考えます.そのため,今 後も国際貢献について知恵を絞り,国際 協力活動に取り組みたいと考えています. て説明するとともに,来場者からの技術 的な質問などにも答えました.来場者の ■参考文献 (1) http://www.live-e.org/ 多くが,同国で近年深刻化している交 通量の増加による大気汚染を問題視し 写真2 気象センサ設置作業風景 ており,センサ技術と交通量・交通流 のシミュレーションを組み合わせた今回 の共同研究に対して,高い関心を寄せ いました. このような作業工程を経て収集できた ていることが分かりました.このほか,参 加者の中から,交通信号などの制御, 膨大なデータを基にNTT環境エネルギー 都市計画時の交通インフラ策定や環境 研究所の研究者が最終分析結果をまと 影響評価などへの応用も可能ではないか めました.そして,この研究の最終報告 との意見をいただき,今回紹介したシス 書は,昨年3月末に完成しました. テムが来場者に大きなインパクトを与え ●● 共同研究から得た成果 たものと考えています. 今回のリアルタイム・センシング・ネッ 特筆すべき点は,この共同研究の測定 トワークの構築による大気汚染と交通シ 状況を基に,昨年2月1日ASTIにおい ミュレーション共同研究の最後には,測 て開催した技術セミナーです.セミナーへ 定により集中監視した,ある一定地域 は,フィリピンの情報通信,エネルギー, の交通および大気汚染に関して収集した 気象などに携わる政府系機関や大学研 データを基に分析した結果,交通による 究機関から30名を超す参加がありました 影響は甚大であることが定量的かつ視覚 (写真3).このセミナー会場では,NTT 東日本本社ビル内の国際室とフィリピン 会 場 をテレビ会 議 システムで接 続 し, 的に確認できました(図6). ●● 今後の取り組み NTTおよびフィリピン側メンバがシステ 私たちは,これまでもNTTグループの ムの構成概要や装置の設置状況につい 持つ先進技術を活用しながらグループ各 72 NTT技術ジャーナル 2007.1 (左から) 石田 渉/ 松永 健司 / 村井 俊雄 これからもNTTグループの技術力を背景 にグループ各社と連携し,国際協力分野にお いてさらに貢献できるよう努めていきます. ◆問い合わせ先 NTT東日本 技術部 国際室 TEL 03-5359-7804 FAX 03-5359-1197 E-mail [email protected]