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熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System
熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System Title 高速A/Dコンバータ搭載マルチチャネルFPGAボードの開発 Author(s) 長澤, 育郎 Citation Issue date 2011-03-17 Type Presentation URL http://hdl.handle.net/2298/23434 Right 高速 A/D コンバータ搭載マルチチャネル FPGA ボードの開発 長澤 1 育郎* 1 * 東北大学電子光理学研究センター 1. はじめに 電子光理学研究センターのγ線検出システムの多チャンネル・高速化に対応するために、新たに最高動作周波数 450MHz の高性能 FPGA、サンプリングレート 1GSPS 以上の高速フラッシュ型 A/D コンバータを搭載した入力・出力共 に 128ch 以上の多チャンネルデジタル I/O を有するモジュールを開発した。 高速信号を扱う必要性から差動信号ラインを採用したこと、VME バスインターフェース機能などを実装したことから 基板内の信号数が著しく多くなったため 8 層基板を用いて実装設計を行った。 開発したモジュールは単体試験中であり、信号の疎通チェックまで完了している。本報告では、この新規に開発したモ ジュールの詳細と今後の予定について報告する。 2. 製作目的 現在、東北大学電子光理学研究センターでは、より精密なγ線測定を目指し、γ線検出器の増設とそれに伴う信号の多 チャンネル化への対応を進めている。 現在γ線検出システム内の信号処理を行う論理回路は汎用回路モジュールをラックにマウントして組み合わせる構成 となっている(図 1 の左の図を参照) 。しかし、このような構成のまま単純にシステムを増設した場合モジュール数とケ ーブル数および長さ、そして論理回路構築に必要な体積が増える。それに伴い、論理回路構築に要する時間が増えるだけ でなく、処理される信号の遅延も大きくなる。これらの問題は、複雑な信号処理が困難になるなどγ線検出システム高性 能化の障害となる。 図 1 モジュール製作目的その 1:システム内論理回路のサイズ、ケーブル数、モジュール数の削減 (左:現在の論理回路 右:将来の論理回路のイメージ) これらの問題はシステムを構成している汎用回路モジュールの集積度が小さいことに起因している。これを解消するた めには論理回路を小型で集積度が高く柔軟に論理機能を組み替えることのできるコンパクトなモジュールを導入する必 要がある。 高集積度で、 柔軟に論理回路を組みかえられるデバイスとして、FPGA があげられる。FPGA とは Field Programmable Gate Array の略称であり、その名が示す通りユーザーが現場で論理回路を組み替えることができる IC である。論理回路の組 み換えは VHDL/Verilog などのハードウェア記述言語から生成された回路の構成情報をパソコンからケーブルなどを通じ てダウンロードすることで迅速に行われる。 この FPGA を用いることで論理回路の再構成に要する労力と時間が大幅に削減されるとともに、モジュールのサイズ が従来の論理回路に比べ著しく小型になり信号の遅延が小さくなる。さらに汎用回路モジュールの組み合わせでは実現が 困難だった複雑な論理回路の実装が可能となり、その結果、より緻密な測定が可能となる。 また、現在のγ線検出システムは利用している A/D コンバータの性質により、図 2 の上部の様に複雑な構成となって いる。しかし、高速フラッシュ型 A/D コンバータを導入することで、システムの構成図 2 の下部のようにシンプルかつ コンパクトになることがわかっている。具体的には、図 2 の上部に存在している非常に長いケーブル、ディスクリミネー タ、そして TDC と呼ばれる回路が不要になる。将来に向け、実際にこのシステムの実現可能性をテストするために高速 A/D コンバータを搭載したモジュールが必要となった。 図 2 モジュール製作目的その 2:将来構想のテスト(上:現在のシステム 下:将来のシステム PC:パソコン) 以上の理由により、現在論理回路が有する問題の解消とシステム全体の簡易化・高性能化に向け高性能 FPGA と高速 フラッシュ A/D コンバータそして多チャンネルデジタル I/O を有するモジュールが必要となり、これを開発した。 3. 開発したモジュール 開発したモジュールの写真を図 3 に示す。モジュールはマザーボード 1 枚とドーターボード 2 枚から構成される。マザ ーボードには FPGA が搭載されているので、モジュールで最も重要な論理機能を担当している。一方ドーターボードは I/O からの信号を FPGA に伝送する役割を果たしている。 図 3 開発したモジュール(マザーボード 1 枚とドーターボード 2 枚から構成される。 ) 開発したモジュールの主な仕様は表 1 以下のとおりである。 表 1 モジュールの主な仕様 高性能 FPGA の搭載 最高動作周波数:450MHz アナログ入力 入力電圧:-2~0V 帯域幅:500MHz サンプリングレート:0.5~1.8GSPS(可変) チャンネル数:2ch 分解能:8bit デジタル I/O LVDS I/O:入出力各 128ch NIM I/O:入出力各 3ch LVTTL I/O:入出力各 2ch 外部クロック入力(NIM):1ch VME アクセス可能 リモートリセット可能 多様なコンフィギュレーション手段 JTAG によるコンフィギュレーション VME バスからのコンフィギュレーション モジュール内記憶装置からのコンフィギュレーション SRAM の搭載 16Mbit RS232 による通信が可能 基板内クロック 30MHz このモジュールの主な特徴は以下 3 つである。 1. 128ch 以上のデジタル入出力と最高動作周波数 450MHz の高性能 FPGA により大量の信号を高速で処理できること 2. 1GSPS 以上の高速 AD 変換が可能であること 3. VME バスインターフェースをもっていること これ以外の特徴としては、論理回路構築の利便性を考えリモートリセットや多様なコンフィギュレーション方法を可能に したことなどが挙げられる。 また、ドーターボードを新たに開発することで、実験に応じてある程度 I/O の規格や数を調整することも可能であり、 FPGA の持つ性質により拡張性に優れ様々な用途に転用可能なモジュールとなっている。このため、本モジュールはγ線 検出システム以外に電子光理学研究センター加速器の制御系にも利用される予定となっている。 4. 開発時の工夫 多チャンネルの I/O が存在し、基板上の配線数が 7600 本と非常に多いため、全ての配線を実現するための工夫が必要 となる。加えて、基板上を最高 1GHz の高速な信号が伝送されるので、波形を崩さずに伝送できる工夫が必要となる。高 速な信号の波形を崩さずに伝送するには、信号の反射を防ぐために配線の特性インピーダンスを調整する必要がある。 基板上で特性インピーダンスを調整するためには、配線をマイクロストリップラインまたはストリップラインというパ ターンになるように構成しなければならない。これを実現するためには多層基板が必要となる。多層基板とは表面だけで なく内部にも銅箔のパターンが存在する基板のことである。多層基板の採用により、マイクロストリップラインやストリ ップラインを構成するために必要な「電源層」および「GND 層」を基板内部に配置することが可能となる。 今回、多層基板の層数は 8 層とした。これは特性インピーダンスの調整を行いつつ、大量の配線を行うために最低限必 要な層数である。 実際に多層基板で行った実装設計の成果物を図4に示す。 図 4 今回作成した実装設計図 5. まとめ γ線検出システムの多チャンネル・高速化に向け、高性能 FPGA、高速フラッシュ型 A/D コンバータ、多チャンネルデ ジタル I/O を搭載したモジュールを開発した。このモジュールは FPGA を搭載しているという性質上、様々な用途に転用 可能であり、γ線測定システムだけでなく電子光理学研究センター加速器の制御系にも利用する予定である。 現在、実用に向け FPGA 内部の論理回路をハードウェア記述言語である VHDL にて開発中である。