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急性期における 経腸栄養と合併症 急性期における 経腸栄養と合併症

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急性期における 経腸栄養と合併症 急性期における 経腸栄養と合併症
第1
特集
急性期における
経腸栄養と合併症
◉プランナー
卯野木 健 UNOKI Takeshi(聖路加看護大学)
櫻本 秀明 SAKURAMOTO Hideaki(筑波大学大学院人間総合科学研究科後期博士課程)
急性期領域で優先的に選択されている
経腸栄養は,適切な管理を行わないと誤嚥
や下痢などの合併症を生じます.これらの
予防は,投与法や体位の決定など,看護行
為と密接に関連しています.しかし,日本
の臨床における実践に沿った合併症予防
に関する研究は多くなく,欧米諸国での実
施が多いため,日本の臨床での実践を悩む
ことがあります.そこで本特集では,現在
までに得られている知見から,臨床でどの
ように応用できるのか(できないのか)な
どを概説します.
※本特集で紹介している「PICO」とは
臨床的問題を「PI(E)CO」という4要素に定式化することで,問題を明確化し,その解決を目的とした研究デザインを検討する.
「PI(E)CO」のそれぞれの要素は以下のとおり.
P:patient(患者)
.problem(問題)とする場合もある.I:intervention(介入)
,あるいは,E:exposure(曝露)
.C:comparison
(対照)
.O:outcome(アウトカム)
.
第1
急性期における経腸栄養と合併症
特集
看護師にとっての栄養
卯野木健 UNOKI Takeshi 聖路加看護大学
なぜ栄養管理が重要なのか?
本稿では栄養管理の重要性について,筆者の ICU における経験から考えてみた
い.クリティカルケアに関する話であるが,病棟や在宅での看護とも無縁なテーマ
ではないだろう.
「患者がいかに早く日常生活に戻れるか」というのは,看護のみならず医療自体
の重要なテーマである.早く日常生活に戻るには,患者がもっている疾病や外傷を
治すだけではなく,合併症を予防しなければならない.たとえば人工呼吸療法を受
けている患者では,本誌でも以前に特集が組まれた「人工呼吸器関連肺炎( ventilator associated pneumonia:VAP )の予防」が大きなテーマとなる.VAP を予防
する方法には,口腔ケアや吸引回路の工夫などがあるが,これらに関する論文を突
きつめて調べ,そして目の前にいる患者と比較してみても,何か釈然とせず,頭の
隅に居座っているものがある.それは,
「 VAP になる人はなるし,ならない人は
ならないのではないか」という思いである.
もちろん,口腔ケアやいくつかのデバイスの使用は,統計学的に VAP の発生率
を低下させることが明らかになっている.しかし,
「VAP になりそうな人はなるし,
ならなさそうな人はならない」という経験則があてはまりそうにみえることも事実
である.これらは臨床で日常的に目にする数値には表れず,また数値化も難しいた
め,研究においても考慮されにくい.
では,VAP になりやすい患者とはどのような患者なのであろうか.筆者が実践
のなかで重要だと感じたことは,ぼんやりとした概念ではあるが「全身状態」であ
る.そして,その全身状態を支えるものの一つが栄養である.ここでは,筆者の経
験に基づき VAP を例に考えたが,一般的な肺炎や尿路感染症でも同様で,栄養管
理が重要なポイントとなる.
なぜ経腸栄養が注目されているのか?
ここで,簡単に経腸栄養に関する最近の流れを述べる.栄養の投与法は大きく 2
つあり,一つは経口や経管栄養を含む経腸的な方法,もう一つが高カロリー輸液製
剤の投与などを含む経静脈的な方法である.どちらの投与法が有用かに関しては,
14(490)EBNURSING Vol.10 No.3 2010
これまでにさまざまな検討がなされ,経静脈栄養は血流感染などの感染症と,高血
糖などの代謝に関連した合併症発生率を上昇させることが明らかになっている.
特に急性期領域における経静脈栄養は,食物が腸管を通過しない期間が長期にわ
たるため,腸管の退行性萎縮が問題となる.この萎縮の結果,腸内細菌が腸管粘膜
を経て血流中に侵入し,敗血症の原因になると考えられている.この腸内細菌の腸
管粘膜を経た移動のことを「バクテリアル・トランスロケーション」という.
これらの知見により,経腸栄養は完全静脈栄養( total parenteral nutrition:
TPN )より望ましいものであるとされ,特に急性期領域では TPN を,total poisoningnutrition と揶揄する研究者もいる1)
(一方でいいすぎだという批判もある2))
.
近年,経腸栄養剤においてはさまざまな取り組みが行われている.特に急性期領
域では,過剰な炎症の抑制,免疫能の低下を防ぐことを目的に,免疫賦活栄養が行
われる.アルギニンやグルタミン,ω-3 脂肪酸などが,これらの成分として注目
されている.
経腸栄養における看護師の役割
急性期における経腸栄養のアウトカムは,合併症を防ぎ,栄養欠乏を予防あるい
は補整し,栄養不良の身体への悪影響を最小にしながら,患者の予後を改善すること
である.最近は経腸栄養剤の種類や成分が注目されがちであるが,これらのアウト
カムのなかで,看護師がもっともかかわり,責任を負うのは合併症の予防であろう.
主な合併症には,嘔吐,誤嚥,下痢,腹部膨満がある.重症患者では約 13 %に
嘔吐が認められ,また,カフつき気管チューブを使用しているにもかかわらず,約
9 割の患者は胃内容物を誤嚥している3 ).合併症予防に関連した看護実践には,投
与時の体位,投与速度,施設によっては胃管の太さや種類の選択などが含まれる.
したがって,これらに関する意思決定時に基盤となるエビデンスを探求することは
有用であろう.そこで本特集では,経腸栄養剤の選択法ではなく,看護師が意思決
定する必要のある合併症予防に関するエビデンスに焦点をあて,いくつかの研究論
文を紹介する.
合併症を予防するための看護
急性期における消化管機能
急性期における合併症の多くは,侵襲や薬剤によって消化管の機能が低下するこ
とで起こる.ただ「消化管の機能が低下する」といっても,消化管の機能にはさま
ざまなものがある.つまり,消化管の機能は生体内に絶えず水,電解質,栄養を供
給することにあり,そのためには食物の運搬,消化液の分泌と消化,栄養分や水分
の吸収,吸収された物質を血流により運搬することなどの連続的な機能のうえに成
り立っている.はたして,侵襲によりどの機能がどの程度低下するのであろうか?
EBNURSING Vol.10 No.3 2010(491) 15
第1
急性期における経腸栄養と合併症
特集
この疑問にすべて答えるわけではないが,本特集で最初に紹介する論文「Intestinal
absorption in patients after cardiac surgery 」から,胃の運動にヒントがあると
いう示唆を得ることができるだろう.
誤嚥と体位
誤嚥は経腸栄養中の重大な合併症である.胃からの逆流という観点からいえば,
頭位を高くすることは逆流を防止し,誤嚥を予防すると考えられる.この予防法の
正しさや根拠は,どのような研究にあるのだろうか? 本特集で紹介している
「 Pulmonary aspiration of gastric contents in patients receiving mechanical
ventilation:theeffectofbodyposition 」という論文では,胃内容物の誤嚥と体位
の関係が調査されている.現在の VAP 対策の一つである「頭部の挙上」が,この
ような研究に裏づけられていることがわかるだろう.
胃管のサイズと誤嚥
胃管の選択は,実際に看護師が行っていなくとも,看護師の考えはその選択に影
響しているだろう.たとえば,
「違和感が強いので細いチューブでもよいのでは?」
などの意見を言う機会も多いだろう.これはチューブのみでなく,意思決定全般に
いえることであるが,
「何を選択するか?」という検討は,さまざまな観点から行
われなければならない.すなわち,どのようなアウトカムを視点に選択しているの
か,ということを明確にすることが重要である.具体的には,患者の不快感,誤嚥
の発生率,ドレナージ機能などがある.どのアウトカムをどの程度重要視するかは,
患者の状態はもちろん,医療チームの人数や能力,施設によって変化する.
本特集では,誤嚥の防止というアウトカムと経鼻胃管のサイズの関係を検討した
論文「Effectofnasogastrictubesizeongastroesophagealrefluxandmicroaspiration in intubated patients 」を紹介したい.この研究結果のみで胃管の適切なサ
イズを決定できるわけではないが,参考になるだろう.
消化管運動の評価と誤嚥
経腸栄養中の消化管運動をモニタリングする方法としては,伝統的に腸蠕動音の
聴取が行われてきた.しかし,欧米に目を向けると,定期的に胃内の経腸栄養剤の
残留量をモニタリングする方法が一般的に行われている.具体的には,大きめのシ
リンジを使用し,持続的な経腸栄養投与時には 4〜6 時間の間隔で胃内の液体量(胃
残量〈 gastric residual volume;GRV 〉
)を測定する.GRV が多い場合,胃の運動
が低下していることが疑われ,おおむね 150〜200 mL をカットオフとしているこ
とが多いようである.対して間歇的な投与,すなわち 1 日○回という投与法の場合
は,投与開始時に測定する.その際に胃内容物が多量に吸引された場合は,前回投
与した経腸栄養剤が胃内に残っていることが考えられ,胃の運動が低下しているこ
とをうかがわせる.なお,一度吸引した胃内容物は,そのまま胃内に戻す場合も,
そうでない場合もある.筆者が所属していた施設では,GRV が極端に多くない限
16(492)EBNURSING Vol.10 No.3 2010
り,胃内に再び戻していた.
GRV の増加は誤嚥を引き起こすといわれ,従来,GRV が増加しないような管理
が求められてきた.しかし,GRV を指標とした経腸栄養管理は慎重すぎるとの批
判の声もある.GRV で胃の運動をモニタリングしながら経腸管理を行う方法は,
高いエビデンスに支持された実践というわけではない.本特集では,GRV が誤嚥
のリスクファクターとなるか否かを検討した研究を紹介する.
持続的経腸栄養か間歇的経腸栄養か
経腸栄養法には持続的に投与する方法と,1 日数回に分けて間歇的に投与する方
法がある.急性期における経腸栄養に関しては,特に欧米の文献をみると持続経腸
栄養が頻用されている.持続経腸栄養では,GRV をモニタリングしながらポンプ
で少量ずつ投与し,患者が経腸栄養にどの程度「耐えることができるか」をみなが
ら投与速度を増量させる.
持続経腸栄養では,投与速度が早い間歇的な方法と比較すると,胃内に溜まってい
る経腸栄養剤の量は常に少量であるはずである.よって,理論上はより消化管に優
しく,合併症の発生を抑制する方法といえる.しかし,理論上の話と実臨床が常に合
致するとは限らず,慎重すぎる実践が常にベストな実践かどうかはわからない.つ
まり,慎重な投与が必要な患者にはよいかもしれないが,慎重である必要がない患
者においては必要カロリーに達するまで時間がかかりすぎてしまう可能性がある.
いずれの方法がよいかに関しては,これまでにさまざまな議論が行われてきた.
本特集では,侵襲が強いと思われる重症外傷患者を対象とし,目標カロリー達成ま
での期間や,合併症発生率を無作為化比較試験で検討した論文「 Prospective randomizedcontroltrialofintermittentversuscontinuousgastricfeedsforcriticallyilltraumapatients 」を紹介したい.
これらの研究を臨床に応用するにあたって
本特集で取り上げた論文は,すべて決定的な結論を導き出しているわけではな
い.一つのテーマに関して異なる対象,方法で矛盾する結論が得られることは多々
あることであり,これらの研究の結論を,すぐに臨床へ適用することは危険である.
つまり,これらの結論に反する報告もあるかもしれないし,読者の目の前の患者は,
その反する報告の対象患者に近いかもしれない.一つの参考意見として扱い,個々
の患者の状況や医療チームなどを考慮して,慎重に適用する姿勢が重要である.
◉ REFERENCES
1 MarikPE,PinskyM:Deathbyparenteralnutrition.IntensiveCareMed2003;29:867-869.
2 FürstP:Commenton“Deathbyparenteralnutrition”byMarikandPinsky.IntensiveCareMed
2003;29:2102;authorreply2104.
3 MethenyNA,ClouseRE,ChangYH,etal.:Tracheobronchialaspirationofgastriccontentsincriticallyilltube-fedpatients:frequency,outcomes,andriskfactors.CritCareMed2006;34:1007-1015.
EBNURSING Vol.10 No.3 2010(493) 17
第1
急性期における経腸栄養と合併症
特集
侵襲により消化管の機能は低下するの?
桑原美弥子 KUWAHARA Miyako 東京女子医科大学看護学部
Question
P
術後急性循環不全
患者への
エビデンス
I
術後早期からの
経腸栄養は
C
急性循環不全では
ない患者と比べて
O
腸管吸収が
不良なのか?
Berger MM, et al.:Intestinal absorption in patients after cardiac surgery. Crit Care Med
2000;28:2217-2223.
心臓手術後の患者における腸管吸収
目的▶心肺バイパス下の手術後で循環動態が安定した患者
結果▶ 1 日目のパラセタモール吸収量( 240 分後の血中濃
と循環動態が不安定な患者を対象に,血行動態の違いが
度曲線下面積:AUC240 )は,Ⅰ群・Ⅱ群の胃内投与群
腸管吸収に及ぼす影響の比較検討と,循環不全の患者へ
でⅢ群に比べ大きく低下した.一方,十二指腸以遠投与
の経腸栄養の実施可能性の査定を目的として,解熱鎮痛
群では変化を認めなかった.Ⅰ群・Ⅱ群とも 1 日目は
薬パラセタモールの腸管吸収を指標に検討を行った.
胃内投与群で最高血中濃度( Cmax )低下と最高血中濃度
研究デザイン▶スイスの 1 施設における前向きな観察研究
到達時間( Tmax )遅延が認められたが,十二指腸以遠投
対象・方法▶対象は心肺バイパス下の予定手術を受けた 39
与群で変化はなかった. 3 日目のⅡ群では AUC 240 ,
名の術後患者である.術後の循環動態が正常であった 16
Cmax ともⅠ群・Ⅲ群より,わずかに低かったが,薬物
名(Ⅰ群)のうち 5 名は十二指腸以遠,11 名は胃内,術後
動態と循環動態に関連は認められなかった. 3 日目の
急性循環不全を呈した 23 名(Ⅱ群)のうち 6 名は十二指
AUC240 は,Ⅰ群・Ⅱ群ともに胃内投与群で 1 日目に比
腸以遠,17 名は胃内にパラセタモール 100 mg を投与し
べ有意に上昇した( p = 0.01 )が,Ⅱ群の十二指腸以遠
た.対照群(Ⅲ群)は健常人( 6 名)とした.パラセタモ
投与群では有意な差はなかった.薬物動態と血管収縮薬
ール投与は術後 1,3 日目に絶食下で行い,15・30・60・
使用量,重症度の指標に有意な相関はなかった.なお,
90・120・180・240・480 分後に血中濃度を測定した.ま
Ⅰ群・Ⅱ群の胃内投与群の 1 日目の AUC 240 と術中の
た,Ⅱ群のパラセタモール胃内投与群 17 名のうち 8 名は
従来方法による術後 2 ∼ 5 日からの胃内栄養投与,残り
フェンタニル使用量との間に負の相関を認めた.
結論▶心肺バイパス下で心臓手術を受けた患者において,
9 名とパラセタモール十二指腸以遠投与群 6 名は術後 1
術後 1 日目は幽門運動性の低下により胃内容物の腸管へ
日目から十二指腸以遠への栄養投与を行った.持続注入
の輸送が遅れるが,腸管吸収は抑制されないことが明ら
は 20 mL/時で開始,患者の状態に合わせ加速し,6 時間
かとなった.また,術後 3 日目には循環動態にかかわら
ごとの胃残量と 24 時間ごとの注入量を記録した.
ず幽門運動性は正常レベルに復帰することが示唆された.
18(494)EBNURSING Vol.10 No.3 2010
実践にあたって~エビデンスの適用方法を考える~
論文の要点▶ 急性循環不全患者の腸管吸収能は維持されている
心臓手術後の患者はしばしば急性循環不全に陥り,腸管灌流に影響するた
め,一般には経腸栄養を避けがちである.一方で,重篤な患者への経腸栄養に
はさまざまな利点があり,どのような患者で経腸栄養が有効かを見極めること
は重要である.ここでは,研究の限界も踏まえつつ,実際の適応について考え
てみよう.
侵襲は消化管の機能にどのような影響を及ぼしますか?
ひとくちに消化管の機能といっても,胃液,膵液,腸液をはじめとする消化液の分泌,消化
管内容物の逆流防止機能や蠕動運動といった運搬機能,栄養素の吸収機能と範囲は広い.
本論文は,心肺バイパス下などの手術後における循環動態が安定した患者と,循環動態が不
安定な患者を対象に,循環動態の違いが腸管吸収に及ぼす影響を比較検討したものである.そ
の結果,循環動態にかかわらず,術後 1 日目は幽門運動性(幽門前庭部の蠕動収縮は,胃内容
物の十二指腸への排出に大きな役割を担っている)の低下により胃内容物の腸管への輸送が遅
れるが,腸管吸収は抑制されないことが明らかとなった.また,循環動態にかかわらず術後 3
日目には幽門運動性は正常レベル付近まで回復することが示唆された(図 1 )
.
パラセタモール(μg/mL) パラセタモール(μg/mL)
循環動態正常
術後1日目
30
20
循環不全
術後1日目
胃内投与(Ⅰ群)
十二指腸以遠投与(Ⅰ群)
胃内投与(Ⅲ群)
胃内投与(Ⅱ群)
十二指腸以遠投与(Ⅱ群)
胃内投与(Ⅲ群)
10
0
術後3日目
30
術後3日目
20
10
0
0
60
120 180 240 300 360 420 480
時間(分)
0
60
120 180 240 300 360 420 480
時間(分)
図 1 パラセタモール投与後の AUC240 の術後 1 日目と術後 3 日目の比較
※AUC:area under the blood concentration time curve,薬物血中濃度 ︲ 時間曲線と横軸の時間軸とで囲まれた部
分の面積.体循環区画(≒血液)に分布する薬物量に比例し,体内に取り込まれた薬剤の量を示す指標とされる.
(BergerMM,Berger-GryllakiM,WieselPH,etal.:Intestinalabsorptioninpatientsaftercardiacsurgery.CritCare
Med2000;28:2217-2223.より引用)
EBNURSING Vol.10 No.3 2010(495) 19
つまり,術後 1 日目では循環動態の安定・不安定にかかわらず腸管吸収能は維持されている
ものの,循環動態が不安定な患者では胃内容物の小腸への輸送が障害される.そのため,循環
動態が不安定な患者では,胃から十二指腸への胃内容物の移動が遅延し,胃内に長時間停留す
ると考えられる.
循環動態が不安定な患者に対する経腸栄養は有用です
か?
ICU に 48 時間以上滞在するこ
胃幽門部より
とが見込まれる重症患者を対象と
した栄養補助療法( Nutritional
support therapy )のガイドライ
ン1 )では,入室後 24 時間から 48
トライツ靱帯
十二指腸
(約 30 cm)
空腸
(約 250 cm)
時間の間に経腸栄養を開始するこ
とが推奨されている.小腸での腸
管吸収は術後 1 日目で,循環動態
結腸へ
が不安定な患者であっても抑制さ
れないという研究結果は,この推
回腸(約 350 cm)
奨を支持するものである.しか
し,循環動態が不安定な患者で
図 2 小腸の 3 区分
は,胃から十二指腸への運搬能が
障害され,胃に栄養剤が停留する可能性があるため,栄養素の吸収や小腸の生理機能の維持と
いった観点からは,十二指腸以遠(図 2 )への直接的な栄養剤注入の有用性が示唆される.
十二指腸以遠への栄養剤注入の合併症やデメリットは
ありますか?
十二指腸以遠への直接的な栄養剤注入の有用性は示唆されているものの,腸管吸収以外の側
面では十二指腸以遠への栄養剤注入の有用性は不明な点が多い.たとえば胃食道逆流を認める
患者ではそうでない患者に比べて誤嚥を起こしやすい2,3 )が,栄養剤を胃内または空腸に注入
した場合の誤嚥の発生率に差は認められず2,4,5 ),肺炎の発生率にも有意な差が認められなか
ったこと6,7 )が報告されている(表 1 )
.そのほか,主要な経腸栄養の合併症についても同様で
ある(表 2 )
.有害事象では,十二指腸以遠への経腸栄養において Clostridium diffi
icile 感染
のリスクの増加8 )が報告されている.
患者アウトカム以外の視点では,小腸へのチューブ留置は胃内へのチューブ留置と比べて有
意に留置までの時間がかかること5,7 )が指摘されている.つまり臨床実践上,十二指腸・空腸
への栄養剤注入は,むしろ経腸栄養の早期開始を妨げる可能性もある.
20(496)EBNURSING Vol.10 No.3 2010
第 1 特集 急性期における経腸栄養と合併症
表 1 胃内投与時の十二指腸以遠投与時の患者アウトカムの比較
合計
胃内投与群
十二指腸以遠投与群
p値
死亡
41(41%)
22(43 %)
19(38 %)
0.6
ICU 在室日数
16 ± 3
18 ±16
15 ±10
0.2
院内発生肺炎
36(36 %)
20(40 %)
16(32)
0.4
5 日目の多臓器不全スコア
5.7 ± 3.8
5.5 ± 3.4(46 例)
5.9 ± 4.2(46 例)
0.6
ICU退室時の多臓器不全スコア
4.5 ± 3.9
4.2 ± 3.8(43 例)
4.9 ± 3.9(43 例)
0.4
(MontejoJC,GrauT,AcostaJ,etal.:Multicenter,prospective,randomized,single-blindstudycomparingtheeffi
cacy
andgastrointestinalcomplicationsofearlyjejunalfeedingwithearlygastricfeedingincriticallyillpatients.CritCare
Med2002;30:796-800.より引用)
表 2 胃内投与時の十二指腸以遠投与時の合併症の比較
合計
腹部膨満
胃内投与群
十二指腸以遠投与群
p値
9 (9 %)
4 (8 %)
5(10 %)
0.7
嘔吐
6 (6 %)
2 (4 %)
4 (8 %)
0.4
下痢
14(14 %)
7(14 %)
7(14 %)
0.97
便秘
5 (5 %)
3 (6 %)
2 (4 %)
1
高容量の胃残量
26(25 %)
25(49 %)
1 (2 %)
< 0.001
上記のうちのどれか 1つ
41(61%)
29(57 %)
12(24 %)
< 0.001
(MontejoJC,GrauT,AcostaJ,etal.:Multicenter,prospective,randomized,single-blindstudycomparingtheeffi
cacy
andgastrointestinalcomplicationsofearlyjejunalfeedingwithearlygastricfeedingincriticallyillpatients.CritCare
Med2002;30:796-800.より引用)
十二指腸以遠への栄養剤注入時は,どのような注意が
必要ですか?
本論文の結果からいえるのは,
「小腸における腸管吸収は抑制されない」ということであっ
て,どの程度の容量がどの程度の速さで吸収され,消化管内を通過していくのかという点につ
いては検討されていない.実際に栄養剤を十二指腸以遠に持続注入する場合には,胃のリザー
バーとしての役割がなくなるため,高容量の液剤が小腸に貯留することになる.したがって,
小腸の運動性が低下している場合や注入量が腸管吸収能を超えている場合には,栄養剤が注入
部位に停留することとなるだろう.
小腸は胃とは異なり,貯留機能に適した部位とはいえず,小腸への栄養剤注入を受けた患者
の大半に胃内への逆流がみられることが報告されている2 ).加えて,胃は分泌機能も備えた臓
器であり,小腸に注入された液剤が胃内へ逆流しなかったとしても,幽門運動性の低下により
分泌物が貯留し,胃の膨満が発生するかもしれない.よって,術後 1 日目で減圧目的の胃管が
留置されていれば,ドレナージ機能の維持に努め,排液量の増減,排液の性状を注意深くモニ
タリングする必要があるだろう.
EBNURSING Vol.10 No.3 2010(497) 21
術後以外の循環不全患者にも発病/受傷 1 日目からの
経腸栄養は可能ですか?
本論文では,術後 1 日目は循環動態が維持されている患者においても,補助循環( IABP な
ど)やカテコラミンを要した患者においても腸管吸収能は維持されていたが,胃から十二指腸へ
の運搬能は抑制されており,その運搬能は術中のフェンタニル使用量が多いほど低下していた.
術後患者でなく,術中のフェンタニル使用を考慮せずにすむのであれば,幽門運動性の抑制
は低下することが推察され,胃内または十二指腸以遠への栄養剤注入の開始の検討は妥当だろ
う.しかし,重症患者の消化管運動障害には種々のメカニズムがあり,またタイプもさまざま
である9 ).患者がどのような反応を示すかは,経腸栄養が開始されてみなければわからないこ
とも多く,
「発病/受傷 1 日目からの経腸栄養は可能かどうか」よりも,むしろ経腸栄養開始後
のモニタリングと評価が非常に重要である.モニタリングの項目としては,胃残量の測定(た
だし測定の感度は低い10 ))
,胃内容物の性状,腹部の膨満,下痢の発生などがあげられる.
臨床ではこうしよう!
▶ 侵襲により循環動態が不安定な患者でも腸管吸収能は保たれており,経腸栄養の開始を
考慮することは可能
▶ 十二指腸以遠に対する経管栄養でも,胃内投与と同程度の誤嚥が発生するため注意する
▶ 患者によりさまざま消化管運動障害を示す可能性があるため,経腸栄養開始後のモニタ
リングと評価を注意深く行う
◉ REFERENCES
1 Martindale RG, McClave SA, Vanek VW, et al.:Guidelines for the provision and assessment of nutrition support
therapyintheadultcriticallyillpatient.SocietyofCriticalCareMedicineandAmericanSocietyforParenteraland
EnteralNutrition.ExecutiveSummary.CritCareMed2009;37:1757-1761.
2 HeylandDK,DroverJW,MacDonaldS,etal.:Effectofpostpyloricfeedingongastroesophagealregurgitationand
pulmonarymicroaspiration.resultsofarandomizedcontrolledtrial.CritCareMed2001;29:1495-1501.
3 MethenyNA,ClouseRE,ChangYH,etal.:Tracheobronchialaspirationofgastriccontentsincriticallyilltube-fed
patients:frequency,outcomes,andriskfactors.CritCareMed2006;34:1007-1015.
4 EsparzaJ,BoivinMA,HartshorneMF,etal.:Equalaspirationratesingastricallyandtranspyloricallyfedcritically
illpatients.IntensiveCareMed2001;27:660-664.
5 NeumannDA,DeLeggeMH:Gastricversussmall-boweltubefeedingintheintensivecareunit.aprospectivecomparisonofeffi
cacy.CritCareMed2002;30:1436-1438.
6 MontejoJC,GrauT,AcostaJ,etal.:Multicenter,prospective,randomized,single-blindstudycomparingtheeffi
cacyandgastrointestinalcomplicationsofearlyjejunalfeedingwithearlygastricfeedingincriticallyillpatients.Crit
CareMed2002;30:796-800.
7 MarikPE,ZalogaGP:Gastricversuspost-pyloricfeeding:asystematicreview.CritCare2003;7:R46-51.
8 BlissDZ,JohnsonS,SavikK,etal.:AcquisitionofClostridiumdiffi
cileandClostridiumdiffi
cile-associateddiarrhea
inhospitalizedpatientsreceivingtubefeeding.AnnInternMed1998;129:1012-1019.
9 FruhwaldS,HolzerP,MetzlerH:Intestinalmotilitydisturbancesinintensivecarepatients.pathogenesisandclinicalimpact.IntensiveCareMed2007;33:36-44.
10 McClaveSA,LukanJK,StefaterJA,etal.:Poorvalidityofresidualvolumesasamarkerforriskofaspirationin
criticallyillpatients.CritCareMed2005;33:324-330.
22(498)EBNURSING Vol.10 No.3 2010
第1
急性期における経腸栄養と合併症
特集
誤嚥予防にヘッドアップは
本当に有効なの?
津田泰伸 TSUDA Yasunobu 聖路加看護大学大学院博士前期課程
Question
P
経鼻胃管で経腸栄養を
行う人工呼吸患者を
エビデンス
I
半臥位にすると
C
仰臥位にするよりも
O
胃内容物の誤嚥は
減るのか?
Torres A, et al.:Pulmonary aspiration of gastric contents in patients receiving mechanical ventilation:the effect of body position. Ann Intern Med 1992;116:540-543.
人工呼吸患者における胃内容物の誤嚥:体位の影響
目的▶人工呼吸患者は誤嚥性肺炎のリスクが高く,その原
因の一つとして胃内容物の誤嚥が知られている.筆者ら
は,経鼻胃管が挿入された人工呼吸患者において,仰臥
した.また気道分泌物および,胃液,食道分泌物,気管
支分泌物の細菌を検出し,その関連も評価した.
結果▶気道分泌物中の放射活性は,仰臥位に比べ半臥位で
位が下気道への胃内容物誤嚥の危険因子になり,半臥位
低く,300 分後の累積放射活性はそれぞれ 4,154 cpm,
(ヘッドアップ 45°
)がそれを予防するとの仮説を立て,
954 cpm と半臥位で有意に低値であった( p = 0.036 ).
体位による胃内容物の下気道への移行について比較検討
さらに,放射活性のパターンは両体位とも時間経過とと
した.
もに増加し,仰臥位では, 30 分後は 298 cpm に対し
研究デザイン▶スペインの 1 施設における無作為化 2 段
階クロスオーバー試験
300 分後は 2,592 cpm( p = 0.013 ),半臥位では,30
分後は 103 cpm,300 分後は 216 cpm( p = 0.04 )で
対象・方法▶対象は呼吸器 ICU に入院し,人工呼吸管理
あった.なお,気道分泌物から胃液,食道分泌物,気管
および気道吸引が必要な急性呼吸不全患者 19 例(男性
支分泌物と同じ微生物が検出された患者の割合は,仰臥
13 例,女性 6 例,平均 60 歳)である.腹部手術患者お
位では 68 %であったのに対し,半臥位では 32 %であ
よびイレウスの患者は除外した.対象は無作為に仰臥位
った.
→半臥位群と半臥位→仰臥位群に分けた.経腸栄養用の
結論▶これらの結果より,人工呼吸患者における仰臥位,
5 mm 径経鼻胃管が挿入され,それぞれの体位で 48 時
およびその体位時間の長さは,胃内容物の気道混入の潜
間ずつ管理した.胃内容物の下気道への移行は, Tc -
在的な危険因子であることが明らかとなった.半臥位は
99m 硫黄コロイドを経鼻胃管から投与し,投与 0・30・
非侵襲的で,単純な,費用のかからない誤嚥の予防法と
60・120・180・240・300 分後に気道分泌物を採取,気
して有効であると考えられる.
道分泌物に含まれる放射活性を測定することにより評価
EBNURSING Vol.10 No.3 2010(499) 23
実践にあたって~エビデンスの適用方法を考える~
論文の要点▶ ヘッドアップ 45°
は,胃内容物の誤嚥を減少させる
胃内容物逆流による誤嚥は,肺炎の一因となり,臨床的にその予防は重要で
ある.本論文は,誤嚥予防・人工呼吸器関連肺炎( ventilator associated
pneumonia:VAP )予防の研究基礎となったものである.本稿では,気管挿管
患者における体位が誤嚥予防に与える影響を考えてみよう.
ヘッドアップをすると誤嚥がなくなるのですか?
本論文では,胃内容物の誤嚥について,仰臥位群(ヘッドアップ 0°
)と半臥位群(ヘッドア
ップ 45°
)とに分けて,時間経過とともにその差を比較している.その結果,半臥位に比べ仰
臥位では胃内容物の気道混入量が有意に多かった.しかし,半臥位にするとまったく誤嚥をし
なくなるというわけではなく,両体位とも,気道内混入物は時間経過とともに増加していた.
よって,仰臥位より半臥位のほうが,誤嚥を“少なくする”ものの,半臥位は誤嚥を完全に防
ぐわけではないといえる.
カフを使用しても誤嚥を予防できないのですか?
本論文の対象は,人工呼吸管理中で気管挿管された患者であった.その結果からは,胃内容
物が逆流し,気管チューブのカフ外腔を介して気道に混入していることが推測される.カフを
使用しており,かつカフ圧が適正でも不顕性誤嚥( silentaspiration )は起こる1 ).このことを
意識し,体位管理と合わせて,できる限り,この不顕性誤嚥を防ぐ試みは重要である.カフ圧の
適正管理2 )や CDC ガイドライン3 )で推奨されているカフ上部吸引などが効果的かもしれない.
ヘッドアップは肺炎予防に効果的なのですか?
誤嚥と肺炎は関連があると考えられるが,研究結果をみるうえで,これらは完全にイコール
でないことに注意が必要である.つまり,誤嚥がないからといって肺炎にならないわけではな
いし,誤嚥があるからといって肺炎に必ずなるわけでもない.もちろん,誤嚥が肺炎の重要な
リスク因子であることに疑いはないが,肺炎の発症には重症度や鎮静深度,抗菌薬の使用法な
ど,さまざまな因子が関与する.そのため,必ずしも誤嚥予防に効果があることが肺炎発生率
を低下させる結果を導きだすとは限らない(これらは無作為化という研究手法を用いて,ある
程度解決できる)
.さらに,本論文のように実験的に放射性同位元素を測定する場合は,2 つ
の群の差が出やすくなるが,臨床における肺炎の発生率ということになると,話はややこしく
なる.統計学的に「差がある」というためには,高い発生率,多い症例数が有利であり,研究
によっては,
「本当は差がある」にもかかわらず,統計学的な問題から誤って「差がない」とし
てしまう可能性もある.このような問題を考慮したうえで,研究結果を吟味する必要がある.
24(500)EBNURSING Vol.10 No.3 2010
第 1 特集 急性期における経腸栄養と合併症
本論文は,仰臥位と半臥位との比較であり,結果として半臥位が「誤嚥」の予防に効果的で
あると結論づけている.しかし,肺炎の予防になりうるのかについては,別途研究が必要とな
る.もちろん,誤嚥を予防できるということも重要であるが,臨床に直接的に活かすのであれ
ば,肺炎の予防になりうるのかという疑問にも答えたいところである.
どの程度のヘッドアップが肺炎予防に効果的ですか?
Drakulovic ら4 )は,人工呼吸患者における無作為化比較試験で 45°
のヘッドアップ群は 0°
と比較して肺炎の発生率が低いことを報告した.しかし,臨床的には,ヘッドアップ 45 °
を維
持することは,患者の上体をかなり起こすことになり,実際に普及させることは難しいという
報告もある5 ).現在,そのほかの角度で検討した信頼性のある報告はないが,SocietyofCritical Care Medicine( SCCM )と American Society for Parenteral and Enteral Nutrition
( ASPEN )の提唱する急性期患者の栄養管理ガイドライン6 ),American Thoracic Society
( ATS )と Infectious Diseases Society of America( IDSA )の提唱するガイドライン7 )にお
いては,禁忌がない限り,経腸栄養剤の投与を行うすべての患者で背もたれを 30〜45°
挙上さ
せることが推奨されている.
臨床ではこうしよう!
▶ 栄養剤の投与を行う患者ではヘッドアップを行い,できる限り誤嚥のリスクやその量を
低下させる
▶ 誤嚥の予防には,半臥位(ヘッドアップ 30°
以上)が有効である
◉ REFERENCES
1 Orozco-Levi M, Torres A, Ferrer M, et al.:Semirecumbent position protects from pulmonary aspiration but not
completely from gastroesophageal reflux in mechanically ventilated patients. Am J Respir Crit Care Med 1995;
152:1387-1390.
2 Sole ML, Penoyer DA, Su X, et al.:Assessment of endotracheal cuff pressure by continuous monitoring:a pilot
study.AmJCritCare2009;18:133-143.
3 TablanOC,AndersonLJ,BesserR,etal.:Guidelinesforpreventinghealth-care ─ associatedpneumonia,2003:recommendationsofCDCandtheHealthcareInfectionControlPracticesAdvisoryCommittee.MMWRRecommRep.
2004;53(RR-3)
:1-36.
4 DrakulovicMB,TorresA,BauerTT,etal.:Supinebodypositionasariskfactorfornosocomialpneumoniainmechanicallyventilatedpatients:arandomisedtrial.Lancet1999;354:1851-1858.
5 vanNieuwenhovenCA,Vandenbroucke-GraulsC,vanTielFH,etal.:Feasibilityandeffectsofthesemirecumbent
positiontopreventventilator-associatedpneumonia:arandomizedstudy.CritCareMed2006;34:396-402.
6 McClaveSA,MartindaleRG,VanekVW,etal.:GuidelinesfortheProvisionandAssessmentofNutritionSupport
TherapyintheAdultCriticallyIllPatient:SocietyofCriticalCareMedicine(SCCM)andAmericanSocietyforParenteralandEnteralNutrition(A.S.P.E.N.).JPENJParenterEnteralNutr2009;33:277-316.
7 AmericanThoracicSociety;InfectiousDiseasesSocietyofAmerica.:Guidelinesforthemanagementofadultswith
hospital-acquired, ventilator-associated, and healthcare-associated pneumonia. Am J Respir Crit Care Med 2005;
171(4)
:388-416.
EBNURSING Vol.10 No.3 2010(501) 25
第1
急性期における経腸栄養と合併症
特集
細い経鼻胃管を用いると,
誤嚥は減るの?
加藤木真史 KATOGI Masashi 北里大学看護学部
Question
P
経鼻胃管で栄養剤を
投与する気管挿管患者に
エビデンス
I
細い経鼻胃管を
用いると
C
太い経鼻胃管を
用いるよりも
O
誤嚥は減るのか?
Ferrer M, et al.:Effect of nasogastric tube size on gastroesophageal reflux and microaspiration in intubated patients. Ann Intern Med 1999;130:991-994.
経鼻胃管の太さが気管挿管患者の胃食道逆流と不顕性誤嚥に与える影響
目的▶胃食道逆流とそれに続く不顕性誤嚥は,院内肺炎の
始 72 時間後に交換した.なお,すべての患者は半臥位
リスクを高めるといわれ,特に経鼻胃管を挿入している
( 45°)で管理した.胃食道逆流と不顕性誤嚥は, Tc -
人工呼吸患者においては,逆流の感受性が亢進し,院内
99m 硫黄コロイドを経鼻胃管から投与した後,経時的
肺炎のリスクを高めることが報告されている.しかし,
に血清,胃液,咽頭・気管分泌物を採取し,そこに含ま
経鼻胃管の太さの違いが胃食道逆流と不顕性誤嚥の発生
れる放射活性を測定することにより評価した.
に与える影響に関しては明らかではない.そこで,本論
結果▶咽頭分泌物および胃液の放射活性は両経鼻胃管とも
文では気管挿管下の患者において,経鼻胃管の外径の違
に有意に上昇し( p = 0.004,p < 0.001 ),咽頭分泌物
いが胃食道逆流と不顕性誤嚥に与える影響を検討した.
においては両経鼻胃管ともに時間依存的に放射活性が有
研究デザイン▶スペインの 1 施設における無作為化 2 段
階クロスオーバー試験
対象・方法▶対象は,ICU に入院してから 72 時間以上経
意に上昇した( 1 時間後 p = 0.005 , 2 時間後 p <
0.001 ).一方,気管分泌物および血清では,放射活性
の有意な上昇を両経鼻胃管ともに認めなかった.また,
過し,臨床的に安定した気管挿管患者 17 例(男性 15 例,
咽頭分泌物および気管分泌物における時間依存的な放射
女性 2 例,平均 64 歳)である.腹部手術施行患者,観
活性の増加や放射活性累計についても,経鼻胃管径によ
察可能な胃食道逆流もしくは誤嚥,麻痺性イレウス,重
症血行障害が認められる患者および消化管出血のある患
る有意な差は認められなかった.
結論▶これらの結果から,半臥位( 45°)で管理された気
者は除外した.検討する経鼻胃管として細径( 2.85 mm )
管挿管患者において,細径の経鼻胃管を使用しても,胃
と太径( 6.0 mm )を用意し,対象は細径→太径群と太
食道逆流や不顕性誤嚥の発生を予防しないことが明らか
径→細径群に無作為に割りつけた.各経鼻胃管は試験開
となった.
26(502)EBNURSING Vol.10 No.3 2010
実践にあたって~エビデンスの適用方法を考える~
論文の要点▶ ヘッドアップ 45°
では,経鼻胃管の太さは誤嚥の
発生率に影響しない
本論文では,気管挿管下の患者において栄養剤を投与する際,経鼻胃管の太
さによる胃食道逆流,不顕性誤嚥発生への影響を比較している.本稿では,経
鼻胃管の太さが誤嚥の発生に与える影響について考えてみよう.
経鼻胃管の太さにより,誤嚥の発生率は変わりますか?
経鼻胃管の留置は胃食道逆流発生の主要な要因であるといわれている1 ).本論文では,細径
( 2.85 mm,約 8.5 Fr )と太径( 6.0 mm,18 Fr )の経鼻胃管を用い,ヘッドアップ 45°
の体位
において,胃食道逆流と不顕性誤嚥の発生率を比較している.その結果,胃食道逆流は時間の
経過とともに増加するが,経鼻胃管の太さによって有意な差は認められなかった.また,不顕
性誤嚥の発生率も経鼻胃管の太さによる差は認められていない.つまり,ヘッドアップ 45 °
の
体位を保つ場合,細径の経鼻胃管を用いても誤嚥を予防することはできないと考えられる.な
お,本論文とは研究対象は異なるものの,ほかにも経鼻胃管の太さによって胃食道逆流の発生
に差がなかったという報告がある2,3 ).胃管挿入中の誤嚥を減少させるには,体位管理や投与
方法など,経鼻胃管の外径以外の要因をコントロールすることが重要である.
経鼻胃管の太さはどのように選択したらよいのですか?
本論文では,経鼻胃管の太さが異なっても誤嚥の発生率に差はなかったが,臨床では経鼻胃
管の太さが影響を与えるほかの要因も考慮して,選択しなければならない.一般的に,太径の
経鼻胃管では挿入や留置に伴う違和感は強いと考えられ,患者の状態によっては細径の経鼻胃
管を選択したほうがよい.しかし,急性期において特に胃の運動をモニタリングするために胃
残留量( gastric residual volume:GRV )を測定する場合,経鼻胃管の太さは測定値に影響を
与えるといわれている4 ).経鼻胃管の太径( 14〜18 Fr サンプチューブ)と細径( 10 Fr フィー
ディングチューブ)を比較すると,GRV は太径を使用したほうが約 1.2〜1.7 倍多くなる5 ).こ
れは,細径の経鼻胃管では GRV を過小評価してしまう可能性があることを示している.
経鼻胃管の選択には,表 1
などを考慮する.使用する経
鼻胃管の特徴を理解したうえ
で,患者の状態に合わせた基
準を各施設で設け,医療者間
で共通認識をもつことが重要
である.
表 1 経鼻胃管選択の注意点
1.細径の経鼻胃管サイズや構造が,GRV 測定やドレナージ機能に影響
を及ぼすこと.
2.経鼻胃管は挿入および留置に違和感や苦痛を伴い,これを緩和する
ために細径の経鼻胃管が選択されることもあること.
3.細径の経鼻胃管使用は,気管内への誤挿入,口腔内や食道内への巻
き上がり,経鼻胃管内腔の閉塞などの問題が伴いやすく,挿入にお
いても熟達した技術が必要といわれていること6).
EBNURSING Vol.10 No.3 2010(503) 27
十二指腸や小腸など,投与部位によって誤嚥の発生率
は変わりますか?
本論文の結果からは,胃内への投与の場合,経鼻胃管の太さは,誤嚥に影響を及ぼさないこ
とが示された.では,胃と十二指腸などの幽門以遠での留置で誤嚥の発生率に差はあるのだろ
うか.急性期患者における胃内投与と小腸内投与について比較したメタアナリシスは 3 件ある
が,胃内投与と小腸内投与は誤嚥の発生に有意差がないと結論づけるものと7,8 ),小腸内投与
は誤嚥の発生率を有意に減少させると結論づけるものとがある9 ).
このように,現時点で統一した見解は得られていないが,Society of Critical Care
Medicine( SCCM )と American Society for Parenteral and Enteral Nutrition( ASPEN )
の提唱する急性期患者の栄養管理ガイドライン10 )では,誤嚥のハイリスク患者または胃内投
与に耐えられず,GRV の多量な患者において,幽門以遠に留置した経鼻胃管から栄養剤を投
与することを推奨している.
臨床ではこうしよう!
▶ 経鼻胃管は患者の状態や経鼻胃管の特徴,各施設のスタッフ構成などを考慮し選択する
▶ 誤嚥の減少には,体位管理や投与方法など,経鼻胃管以外の要因のコントロールが重要
▶ GRV を正確に測定するためには,太径の経鼻胃管を用いる
◉ REFERENCES
1 IbanezJ,PenafielA,RaurichJM,etal.:Gastroesophagealrefluxinintubatedpatientsreceivingenteralnutrition:
effectofsupineandsemirecumbentpositions.JPENJParenterEnteralNutr1992;16:419-422.
2 KuoB,CastellDO:Theeffectofnasogastricintubationongastroesophagealreflux:acomparisonofdifferenttube
sizes.AmJGastroenterol1995;90:1804-1807.
3 DotsonRG,RobinsonRG,PingletonSK:Gastroesophagealrefluxwithnasogastrictubes.Effectofnasogastrictube
size.AmJRespirCritCareMed1994;149:1659-1662.
4 Metheny NA:Preventing respiratory complications of tube feedings:evidence-based practice. Am J Crit Care
2006;15:360-369.
5 Metheny NA, Stewart J, Nuetzel G, et al.:Effect of feeding-tube properties on residual volume measurements in
tube-fedpatients.JPENJParenterEnteralNutr2005;29:192-197.
6 MillerKS,TomlinsonJR,SahnSA:Pleuropulmonarycomplicationsofenteraltubefeedings.Tworeports,reviewof
theliterature,andrecommendations.Chest1985;88:230-233.
7 HoKM,DobbGJ,WebbSA:Acomparisonofearlygastricandpost-pyloricfeedingincriticallyillpatients:ameta-analysis.IntensiveCareMed2006;32:639-649.
8 MarikPE,ZalogaGP:Gastricversuspost-pyloricfeeding:asystematicreview.CritCare2003;7:R46-51.
9 HeylandDK,DroverJW,DhaliwalR,etal.:Optimizingthebenefitsandminimizingtherisksofenteralnutritionin
thecriticallyill:roleofsmallbowelfeeding.JPENJParenterEnteralNutr2002;26:S51-55;discussionS56-57.
10 McClaveSA,MartindaleRG,VanekVW,etal.:GuidelinesfortheProvisionandAssessmentofNutritionSupport
TherapyintheAdultCriticallyIllPatient:SocietyofCriticalCareMedicine(SCCM)andAmericanSocietyforParenteralandEnteralNutrition(A.S.P.E.N.).JPENJParenterEnteralNutr2009;33:277-316.
28(504)EBNURSING Vol.10 No.3 2010
第1
急性期における経腸栄養と合併症
特集
胃残留量測定は誤嚥を予測できるの?
宮本毅治 MIYAMOTO Takeharu 国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科
Question
P
経胃経管栄養中の
急性期重症患者の
エビデンス
I
胃残留量が
多いと
C
胃残留量が
少ない場合よりも
O
誤嚥は増えるのか?
Metheny NA, et al.:Gastric residual volume and aspiration in critically ill patients receiving gastric feedings. AJCC 2008;17:512-519.
経胃経管栄養中の急性期重症患者における胃残留量と誤嚥の関係
目的▶胃残留量(gastric residual volume:GRV)増加は,
性 40 %以上)が 89 例,低頻度誤嚥群(ペプシン陽性 40
胃内容物の逆流や誤嚥のリスクを高めるとされ,経胃経
%未満)が 117 例であった.GRV 測定で吸引した胃内容
管栄養の耐性評価として GRV 測定が推奨されることが
物 3,286 検体の平均量は 37.1 mL であった.GRV で分類
ある.しかし,誤嚥のリスク指標になるかという評価は
すると,対象(206 例)のうち,GRV 150 mL 以上が 39 %,
定まっていない.そこで,経胃経管栄養中の急性期重症
GRV 200 mL 以上が 27 %,GRV 250 mL 以上が 17 %
患者における GRV と胃内容物の誤嚥の関連を検討した.
であった.これらのグループを,さらに 1 回以上と 2 回以
研究デザイン▶アメリカ 1 施設の ICU における前向き試験
上の GRV 150 mL 以上群,同 GRV 200 mL 以上群,同
対象・方法▶対象はセントルイス大学病院 ICU に外傷や手
GRV 250 mL 以上群の 6 群に分けて,GRV の量・頻度
術などで入院し,気管挿管され,3 日以上持続的な経胃経
と誤嚥の頻度との関連を検討したところ,GRV と 2 つ
管栄養をした 18 歳以上の患者 206 例(男性 126 例,女性
の誤嚥群には有意な関連を認めなかった.また,重症度
.GRV を 4 時間ごとに測定し,GRV
80 例,平均 51.9 歳)
や意識状態,患者の体位などで調整したロジスティック
が多い患者は(150 mL 以上)
,150 mL 以上,200 mL 以上,
回帰解析では,2 回以上の GRV 200 mL 以上(リスク比
250 mL 以上群に分けた.また,誤嚥は吸引した気管内
2.3 ,95 % CI 1.1-5.1,p = 0.03 ),1 回以上の GRV
分泌物中のペプシン反応で判断し,気管内分泌物検体の
250 mL 以上(リスク比 2.2 ,95 % CI 1.0-4.6 ,p =
40 %以上ペプシン陽性は高頻度誤嚥群,40 %未満は低
0.047 ),2 回以上の GRV 250 mL 以上(リスク比 5.4,
頻度誤嚥群と分類し,GRV との関連を検討した.
95 % CI 1.1-26.4,p = 0.04 )を認めた患者で,有意な
結果▶吸引した気管内分泌物 3,203 検体のうち,ペプシン
陽性率は 36.2 %で,対象( 206 例)の 92.7 %においてペ
誤嚥リスクの上昇が認められた.
結論▶誤嚥と GRV の間に一貫した関係性は見出せなかっ
プシン陽性を示した.気管内分泌物のペプシン反応で分
た.ただ,GRV の少ない患者でも誤嚥は頻繁に起こるも
類すると,対象 206 例のうち,高頻度誤嚥群(ペプシン陽
のの,GRV が多いと誤嚥している頻度が有意に高かった.
EBNURSING Vol.10 No.3 2010(505) 29
実践にあたって~エビデンスの適用方法を考える~
論文の要点▶ 胃残留量が多い場合は誤嚥のリスクを上昇させる
可能性がある
本論文では胃残留量が誤嚥の予測指標となりうるかを検討している.その結
果,誤嚥は胃残留量が少ない場合にも起こり,一貫した関連性は認められなか
ったが,胃残留量が多い場合は誤嚥のリスクを上昇させた.ここでは,胃残留
量の測定の目的や具体的な測定方法などについて考えてみよう.
胃残留量とは何をさすのですか?
経管栄養管理において,胃内に貯留している栄養剤や消化液の量を,胃残留量や胃残量ある
いは gastricresidualvolume( GRV )という.
胃の運動が低下すると,胃から十二指腸への胃内容物の移動が遅延し,GRV が増加すると
考えられていることから,GRV は胃の運動を評価する指標として用いられる.また,侵襲に
よっても胃の運動が低下することが知られているため,重症患者においては,GRV で胃の運
動を評価しながら経胃経管栄養管理が行われる.
GRV は誤嚥を予測する指標になりますか?
GRV は経胃経管栄養中の合併症(誤嚥や嘔吐など)の指標として注目されているが,近年,
その有用性は疑問視されつつある.GRV と誤嚥の発生率には関連を認めず1 ),GRV と肺炎の
発生率2 ),胃内容物の逆流1 )に関しても差がなかったとの報告があり,2009 年に提示された
ASPEN/SCCM 急性期栄養ガイドラインにおいても同様の見解が示されている3 ).これらの
論文を誤嚥に焦点をあてて概説すると,重症患者においては GRV が多くても少なくても誤嚥
は発生しており,
「 GRV が少ないから誤嚥が起きない」とはいえないのである.誤嚥には,原
疾患,脳神経機能(意識障害・嚥下機能)
,患者の体位,気管挿管の有無など多くの因子が関
与しているため,これらを含めて考える必要がある.
本論文では,重症度や意識状態( Glasgow Coma Scale:GCS )
,患者の体位(ヘッドアップ
の角度)の因子を加味して統計学的な処理をしたところ,GRV の多さや発生頻度の増加は誤
嚥のリスクを上昇させると報告されていることから,GRV は誤嚥の指標として一定の価値は
あると考えられる.しかし,先に述べたように,GRV と誤嚥の関連性に関しては否定的な報
告もあるため,この論文のみでエビデンスとするのは難しいといえる.
経胃経管栄養中にGRV 測定を行う必要がありますか?
経胃経管栄養中の合併症である誤嚥や嘔吐には,さまざまな因子が関与しているので,
GRV という一つの指標で経管栄養の管理法(投与速度など)を決定するのは危険かもしれな
30(506)EBNURSING Vol.10 No.3 2010
第 1 特集 急性期における経腸栄養と合併症
い.侵襲の強さや投与薬剤の影響を含めて考える必要がある.さまざまな論文をみると,
GRV 測定はいまだその有用性に関して議論のあるところであるが,臨床で簡便に使用できる
唯一の胃の運動評価法であり,
「手がかり」として使用することは可能である.
GRV の測定は具体的にどのように行うのですか?
GRV の測定は,本論文など
でも用いられている方法として
表 1 を参考にするとよい.測
定時の患者の体位に関しては,
仰臥位と右側臥位で GRV に差
4)
はなく ,仰臥位と腹臥位(両
表 1 胃残留量の測定方法
1.30 mL 程度の空気を胃チューブに注入する
胃チューブの先端が胃壁から離れ胃内容物を吸引しやすくなる
2.50~60 mL 程度の高容量のシリンジを用いて胃内容物を吸引する
3.GRV が多い場合は,吸引した液体を容器に移し,測定する
4.測定後に 20~30 mL 程度の水で胃チューブをフラッシュする*1
*1
:栄養剤や吸引した胃内容物による胃チューブの閉塞を防ぐ.
方とも 30°
ヘッドアップを実
施)においても差がない5 )という報告がある.ヘッドアップの角度が GRV 測定に及ぼす影響
は明らかではないが,筆者の見解としては,患者の体位が GRV 測定へ及ぼす影響は少ないと
推測する.本論文でも,患者がどのような体位にあっても 4 時間おきに GRV を測定するとい
う方法がとられている.
また,GRV を正確に測定するためには,胃チューブのサイズや種類などの影響も知ってお
く必要がある.10 Fr 以下の細い胃チューブでは GRV を正確に測定できない6 )ため,12 Fr 以
上の太い胃チューブを用いることが推奨され,サンプチューブのように先端部分が多孔になっ
ている胃チューブのほうが GRV をより正確に測定できる6 )といわれている.
さらに,胃チューブの先端が胃内のどこに位置しているのかも重要であるため6),腹部 X 線
撮影をした場合は,毎回胃チューブ先端の位置を確認し,適切な位置に留置されているかを観
察する必要がある.
GRV 測定で吸引した胃内容物には,胃内の酵素などが含まれているため,栄養剤の消化や
吸収を期待して胃内に戻すのが一般的である.具体的には,吸引量が 200 mL 以内の場合はそ
のまま全量を胃内に戻し,200 mL を超えた場合は 200 mL を胃内に戻し,それ以外は廃棄す
る7,8 )という方法をとることがある.吸引した胃内容物をどれくらい胃内に戻すかは一定の見
解が得られていないため,各施設で検討し基準を決めておくとよい.
GRV の測定はどのくらいの間隔で行うとよいですか?
ポンプなどを用いて持続栄養投与を行う場合は,一般的に 4〜6 時間おきに GRV の測定を
行う6,7 ).1 日 3 回,1 日 4 回など,数回に分けて間歇的な栄養投与を行う場合は,栄養剤を注
入する前に GRV の測定を行う.
EBNURSING Vol.10 No.3 2010(507) 31
GRV が多い場合はどのように対応すればよいですか?
GRV が 200〜250 mL を超えた場合には,胃の運動低下により,栄養剤が胃内に停滞してい
ると判断する7,9 ).持続栄養投与を行っている場合は,4〜6 時間おきの測定で,GRV が 200〜
250 mL 以上(またはそれが 2 回以上続く)ならば,注入速度や注入量の変更,消化管運動促
進薬(メトクロプラミド〈プリンペラン® 〉など)の投与,経胃栄養から経小腸栄養に切り替え
るなどの対処を検討し7,9 ),GRV が 500 mL を超える場合は栄養剤投与の中止を考慮する3 ).
間歇的な栄養投与を行っている場合は,GRV が 1 回投与量の 50 %以上10 )や GRV が 200 mL
以上7 )を基準とすることがあり,このような場合は栄養剤の投与を遅らせ,栄養剤の投与量・
投与回数などの変更を検討する.
参考資料として,GRV が多い場合の対応に関するアルゴリズムの 1 例を図 1 に掲載する8 ).
ただし,GRV のみを指標として経胃経管栄養を管理することは危険であり,図 1 はあくまで
も参考資料であることに注意してほしい.
GRV 500 mL以上の場合は,栄養投与を中断し医師に報告する
GRV 250 mL超を1回以上認める(かつGRV 500 mL未満)
Yes
No
消化管運動促進薬投与を医師と検討
1回目の消化管促進薬を投与
栄養投与継続・4時間おきに再評価
栄養投与継続・4時間おきに再評価
GRV 250 mL超(かつGRV 500 mL未満)
Yes
No
消化管運動促進薬投与を医師と検討
2回目の消化管促進薬を投与
栄養投与継続・4時間おきに再評価
栄養投与継続・4時間おきに再評価
GRV 250 mL超(かつGRV 500 mL未満)
Yes
栄養投与中断
経小腸栄養を医師と検討
No
栄養投与継続・4時間おきに再評価
図 1 GRV が多い場合の対応に関するアルゴリズムの 1 例
※この論文では,GRV が 200 mL 以下の場合は吸引された胃内容物はそのまま胃内に戻し,200 mL を超えた場合は
200 mLを胃内に戻し,それ以外は廃棄する方法がとられている.
(MethenyNA,etal.:Effectivenessofanaspirationrisk-reductiontherapyprotocol.NursRes2010;59:20.より引用)
32(508)EBNURSING Vol.10 No.3 2010
第 1 特集 急性期における経腸栄養と合併症
臨床ではこうしよう!
▶ 重症患者の経胃経管栄養では,GRV を患者の胃の運動をアセスメントするための「手
がかり」として使用する
▶ GRV は,持続栄養投与では 4〜6 時間おき,間歇的な栄養投与では栄養投与前に測定
する
▶ GRV が少ない場合にも,ヘッドアップを含む誤嚥を防ぐための介入を行う
▶ GRV が多い場合は,栄養剤の注入速度や注入量の変更,消化管運動促進薬の投与を考
慮する
◉ REFERENCES
1 McClaveSA,LukanJK,StefaterJA,etal.:Poorvalidityofresidualvolumesasamarkerforriskofaspirationin
criticallyillpatients.CritCareMed2005;33:324-330.
2 MontejoJC,MinambresE,BordejeL,etal.:GastricresidualvolumeduringenteralnutritioninICUpatients:the
REGANEstudy.IntensiveCareMed2010Mar16.[Epubaheadofprint]
3 McClaveSA,MartindaleRG,VanekVW,etal.:GuidelinesfortheProvisionandAssessmentofNutritionSupport
TherapyintheAdultCriticallyIllPatient:SocietyofCriticalCareMedicine(SCCM)andAmericanSocietyforParenteralandEnteralNutrition(A.S.P.E.N.).JPENJParenterEnteralNutr2009;33:277-316.
4 McCarter TL, Condon SC, Aguilar RC, et al.:Randomized prospective trial of early versus delayed feeding after
percutaneousendoscopicgastrostomyplacement.AmJGastroenterol1998;93:419-421.
5 vanderVoortPH,ZandstraDF:Enteralfeedinginthecriticallyill:comparisonbetweenthesupineandpronepositions:aprospectivecrossoverstudyinmechanicallyventilatedpatients.CritCare2001;5:216-220.
6 Metheny NA:Preventing respiratory complications of tube feedings:evidence-based practice. Am J Crit Care
2006;15:360-369.
7 BourgaultAM,IpeL,WeaverJ,etal.:Developmentofevidence-basedguidelinesandcriticalcarenurses’
knowledgeofenteralfeeding.CritCareNurse2007;27:17-22,25-29;quiz30.
8 MethenyNA,Davis-JacksonJ,StewartBJ:Effectivenessofanaspirationrisk-reductionprotocol.NursRes2010;
59:18-25.
9 Kattelmann KK, Hise M, Russell M, et al.:Preliminary evidence for a medical nutrition therapy protocol:enteral
feedingsforcriticallyillpatients.JAmDietAssoc2006;106:1226-1241.
10 EdwardsSJ,MethenyNA:Measurementofgastricresidualvolume:stateofthescience.MedsurgNurs2000;9:
125-128.
EBNURSING Vol.10 No.3 2010(509) 33
第1
急性期における経腸栄養と合併症
特集
持続投与と間歇投与では,
どちらが有用なの?
櫻本秀明 SAKURAMOTO Hideaki 筑波大学大学院人間総合科学研究科後期博士課程
Question
P
重症外傷患者に
対する経腸栄養で
エビデンス
I
間歇投与を行うと
C
持続投与を
行うよりも
O
安全に早く目標投与
量に到達できるか
MacLeod JBA, et al.:Prospective randomized control trial of intermittent versus continuous gastric feeds for critically ill trauma patients. J Trauma 2007;63:57-61.
急性期重症外傷患者に対する経胃経管栄養の持続投与と間歇投与:
前向き無作為化比較試験
目的▶経胃経管栄養法には持続投与法と間歇投与法があ
ごとに 100 mL ずつ目標投与量まで増加し,耐えられ
る.本研究では,急性期重症外傷患者に対し,持続投与
ない場合は投与量を増加させず,維持した.一方,経胃
と間歇投与のどちらが,肺炎や下痢などの合併症が少な
持続投与群では,初めの 8 時間は 20 mL/時で投与して
く,より早期に必要カロリー摂取量に到達できるのかを
経管栄養に対する耐性を確認し,問題がなければ,さら
比較した.
に 8 時間ごとに 20 mL/時ずつ目標投与量まで増加させ,
研究デザイン▶アメリカの多施設における前向き無作為化
比較試験
問題があれば投与量を増加させず,維持した.
結果▶対象 160 例のうち,139 例が 7 日以内に目標投与
対象・方法▶対象は,外傷 ICU に入院し,48 時間以上の
量に到達した.7 日目での目標投与量到達率は両群に有
人工呼吸管理を必要とした 18 歳以上の 160 例で,無作
意差は認められなかった.しかし,間歇投与群のほうが
為に持続投与群( 81 例,平均 48.4 歳)と間歇投与群( 79
早 く 目 標 投 与 量 に 到 達 し て い た ( χ2 = 6 . 0 1 , p =
例,平均 44.6 歳)に割りつけた.対象の必要カロリー
0.01 ).また,試験開始 10 日後に,目標投与量に到達
量は体重から算出し( 25 kcal/kg ),目標投与量を決定
してからの維持期間を比較すると,間歇投与群では 4
した.両者とも,プロトコルを用いて投与し,胃残留量
日だったのに対して,持続投与群では 3 日であった.
200 mL 超,過度な腹部膨満,嘔吐,逆流,気道や咽頭
下痢や嘔吐,肺炎の発生率は両群に有意な差はなかっ
からの経腸栄養剤の吸引を経胃経管栄養に耐えることが
た.
できていないと判断する指標とした.間歇投与群では, 結論▶これらの結果より,急性期重症外傷患者に対する経
最初の 8 時間は,4 時間ごとに栄養剤 100 mL を 30∼
胃経管栄養では,持続投与よりも間歇投与を用いたほう
60 分で投与し,経胃経管栄養に耐えることができるか
が目標投与量により早く到達でき,その量を長期間維持
を確認した.耐えられるようであれば,さらに 8 時間
できることが明らかとなった.
34(510)EBNURSING Vol.10 No.3 2010
実践にあたって~エビデンスの適用方法を考える~
論文の要点▶ 間歇投与は持続投与よりも早く目標投与量に
到達し,合併症も増加させない
本論文は,比較的若い成人外傷患者を対象としているため,臨床に適用する
には年齢や疾患を考慮する必要がある.また,欧米での経胃経腸栄養の間歇投
与は日本での朝昼夕 3 回投与とは異なり,1 日 6 回程度,シリンジで投与さ
れる.この違いを考慮し,実際に経胃経腸栄養を行ううえでの注意点について
考えてみよう.
本論文で行われた栄養投与の手順は? 日本の一般的
な間歇投与との違いは何ですか?
本論文で用いられたプロトコルを表 1 に紹介する.日本で主に行われている間歇投与は 1
日に必要な栄養剤を 3 回に分割して,朝昼夕に投与することが多いが,欧米における間歇投与
では栄養剤を 4〜6 回に分け 4〜6 時間ごとに投与する.また,投与は滴下( drip )というより
も即時に注入する( infuse/bolus )という感覚であり,投与速度は 100〜400 mL/時以上と,
比較的速く設定されている.
また,経胃経腸栄養にどの程度耐えることができるか( tolerance )を,胃残留量( gastric
residual volume:GRV )を指標にして判定し,その結果によって投与量を増減している.本論
文では,4 時間ごとに GRV を測定し,200 mL 未満であれば投与を開始・継続,開始から 8 時
間ごとに投与量を増加させている.また,GRV が 200 mL 以上であれば 6 時間,投与を中断し
て再度 GRV を測定し,200 mL 未満に減少している場合に,最低量から再度投与を開始する.
このように本論文での間歇投与は日本で一般的に行う間歇投与とは大きな違いがある.よっ
て,実践的には間歇投与が持続投与よりも優れていると一概にいうことはできない.
表 1 栄養投与プロトコル
時間
胃残留量(GRV)
間歇投与
持続投与
開始時
200 mL 未満で投与開始
200 mL 以上で投与中止
100 mL/30~60 分
20 mL/時
4 時間後
200 mL 未満で継続
200 mL 以上で中止
100 mL/30~60 分
20 mL/時
8 時間後
200 mL 未満で投与量増加
200 mL 以上で中止
200 mL/30~60 分
40 mL/時
12 時間後
200 mL 未満で継続
200 mL 以上で中止
200 mL/30~60 分
40 mL/時
16 時間後
200 mL 未満で投与量増加
200 mL 以上で中止
300 mL/30~60 分
20 時間後
200 mL 未満で継続
200 mL 以上で中止
300 mL/30~60 分
24 時間後
200 mL 未満で投与量増加
200 mL 以上で中止
400 mL/30~60 分
目標投与量になるまで 4 時間ごと
に GRV チェックと投与量の増加を
くり返す.
(MacLeodJBA,etal.:Prospective
60 mL/時 randomized control trial of intermittent versus continuous gastric
80 mL/時 feeds for critically ill trauma patients.JTrauma2007;63:58.より)
60 mL/時
EBNURSING Vol.10 No.3 2010(511) 35
間歇投与・持続投与それぞれのメリットは何ですか?
持続投与では,ポンプを使用して栄養剤を少量ずつ投与する.患者が経胃経腸栄養に耐える
ことができているかを,GRV などを指標にしながら観察し,徐々に投与速度を増加させる.
たとえば,4 時間で 400 mL の栄養剤を投与する場合,間歇投与では 400 mL/時となり,一時
的に胃内容量がかなり多い状態となる.それに対し,持続投与では 100 mL/時と少量ずつの
投与となるため,理論上,間歇投与と比較して胃内容物が少ない状態を維持できる.胃内容物
の量が少ないことは,口腔内・食道逆流の頻度の減少,誤嚥の予防をし,結果として肺炎を予
防すると考えられるが,本論文の結果では肺炎発生率には差がみられなかった.
間歇投与のメリットは,本論文の結果でも示されたとおり,早く目標投与量に到達できるこ
とである.特に間歇投与では,20 mL/時から開始する持続投与と比較して,開始直後から栄
養剤をより多量に投与することが可能である.しかし,侵襲下において,体外から投与された
栄養は体内で使用されにくく,高血糖などの代謝負荷になりやすいとされている.そのため,
急性期に栄養投与量を多くすることが必ずしもよいアウトカムをもたらすとはいえない可能性
がある1,2 ).海外のガイドライン3 )などにおいては,GRV が 200 mL を頻回に超えるような場
合には,胃内容物の逆流や嘔吐予防のために,持続投与を行ったほうがよいとされている.
どのような患者でも,投与方法の違いによる肺炎の発
生頻度に差はないのですか?
侵襲後早期の経胃経腸栄養は,肺炎以外の感染性合併症を減らし,在院日数を短くするため
行ったほうがよいとされるが,経胃経腸栄養を行うことで誤嚥のリスクは上昇する.誤嚥の予
防法としては 30〜45°
のヘッドアップが行われる4 ).このヘッドアップに制限がある患者,す
なわち,脊髄損傷や頭部外傷,脳卒中患者のみを対象とした場合,肺炎の発生頻度に差がでる
可能性はある.そのため,誤嚥予防法の実施が難しい対象に対して急速に栄養剤を投与するこ
とは,胃内の圧を急激に高め,胃内容物の逆流・誤嚥のリスクを高めるかもしれない.
どのような患者でも,投与方法の違いによる下痢の発
生頻度に差はないのですか?
経腸栄養時の下痢の原因には,腸管の脆弱性(炎症による腸管粘膜の損傷)
,高齢,栄養剤
の濃度と投与速度などがあげられる.本論文の対象は外傷患者であり,基礎疾患がある患者は
少ない.一方,敗血症や熱傷などの高炎症性疾患の患者,長期的にケアホームなどに入居して
いた高齢者などでは,持続投与により下痢の発生頻度を減らす可能性があり,実際に高齢・熱
傷患者を対象とした検討では,持続的な経管栄養は下痢を減少させたとの報告もある5,6 ).
36(512)EBNURSING Vol.10 No.3 2010
第 1 特集 急性期における経腸栄養と合併症
臨床ではこうしよう!
▶ 間歇投与は必要栄養量に早期に到達することができるため,慎重な栄養投与が必要ない
患者では選択可能(ただし,本論文は日本における研究ではないため慎重に合併症を評
価しながら行う)
▶ 持続投与と間歇投与はどちらがよいか一概にはいえないため,選択は胃の運動状態,体
位の制限,ADL,使用可能なポンプの有無,合併症を総合的に評価しながら行う
▶ 下痢を認める高齢・感染症患者では,持続投与への変更は下痢を減少させる可能性があ
る
◉ REFERENCES
1 StreatSJ,BeddoeAH,HillGL:Aggressivenutritionalsupportdoesnotpreventproteinlossdespitefatgaininsepticintensivecarepatients.JTrauma1987;27:262-266.
2 BauerP,CharpentierC,BouchetC,etal.:Parenteralwithenteralnutritioninthecriticallyill.IntensiveCareMed
2000;26:893-900.
3 McClaveSA,MartindaleRG,VanekVW,etal.:GuidelinesfortheProvisionandAssessmentofNutritionSupport
TherapyintheAdultCriticallyIllPatient:SocietyofCriticalCareMedicine(SCCM)andAmericanSocietyforParenteralandEnteralNutrition(A.S.P.E.N.).JPENJParenterEnteralNutr2009;33:277-316.
4 DrakulovicMB,TorresA,BauerTT,etal.:Supinebodypositionasariskfactorfornosocomialpneumoniainmechanicallyventilatedpatients:arandomisedtrial.Lancet1999;354:1851-1858.
5 CioconJO,Galindo-CioconDJ,TiessenC,etal.:Continuouscomparedwithintermittenttubefeedingintheelderly.
JPENJParenterEnteralNutr1992;16:525-528.
6 HiebertJM,BrownA,AndersonRG,etal.:Comparisonofcontinuousvsintermittenttubefeedingsinadultburn
patients.JPENJParenterEnteralNutr1981;5:73-75.
EBNURSING Vol.10 No.3 2010(513) 37
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