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NPO による共助社会の形成 - 福島大学学術機関リポジトリ

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NPO による共助社会の形成 - 福島大学学術機関リポジトリ
星野 : NPO による共助社会の形成
商学論集 第 82 巻第 4 号 2014 年 3 月
【 研究ノート 】
NPO による共助社会の形成
星 野 珙 二
目次構成
1. はじめに
2. 非制度としてのユートピアから制度としての NPO
3. 自助,共助,公助の相互関係と市民セクター
4. NPO マネジメントの視点からの共助性の点検
5. 他セクターとの協働による共助社会
6. おわりに
1. は じ め に
民主党が政権を担っていた時期に,
「新しい公共」という言葉をよく耳にした。その背景には,
国家財政が厳しくなる中,増大する社会福祉のニーズへ対応するには,市民にも一定公共を担って
もらう必要性があるとの情勢判断が働いていた。政権が自民党に移ったが,内閣府は「NPO 等の
運営力強化を通じた復興支援事業」を国家予算の中に組み込んだ。もともと特定非営利活動促進法
(通称 NPO 法と言われており,以下では通称を用いる)の成立に関わっては,阪神淡路大震災で
実績を上げた市民グループの大きな影響力もあって,超党派の議員立法として NPO 法を成立させ
た経緯もあり,自民党政権のなかにも当時からの NPO 支援者がいて,形を変えながらも予算化に
踏み切らざるを得なかった。ある意味では,NPO 等を中心として市民が公共を担う時代に入った
ことを,だれもが認め合う象徴的な国家事業ともなった。
福島県は,その平成 25 年度の内閣府の予算化を受けて,
「復興へ向けた多様な主体との協働推進
事業」をプロポーザル公募によって中間支援組織等へ業務委託をすることにした。大きくは 2 つの
業務がある。1 つは NPO 法人等の活動基盤を整備強化すること,もう 1 つは多様な主体の協働に
よる地域問題の解決を推進することである。例えば,前者では,NPO 等のマネジメント力,資金
調達力,広報力,会計実務能力の強化や寄附に関しての税制上の優遇措置のある認定 NPO 取得へ
向けた講座開催が中心であり,後者では,地域の復興に当たり多様な主体がテーブルを囲んで解決
策を検討する場づくりである。
しかしながら,NPO 法が施行されてからまだ 10 数年の歴史しかなく,しばしば法律改正も行わ
れ,NPO 等が中心になった市民活動はまだ一歩一歩確かめながら進んでいる状況にある。進行形
の課題も決して少なくはない。たとえば,東日本大震災以降,復興の在り方を巡って,自助,共助,
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商 学 論 集
第 82 巻第 4 号
公助の役割分担が議論されることがある。防災などの比較的輪郭のはっきりした分野においては,
自助,共助,公助の役割分担が分かり易く展開されているが,市民活動の分野における 3 者の関連
性と役割という問題については,まだまだ基本的な考え方の共通理解が不十分と考えられる。
NPO がそのままで,直ちに共助社会を形成するものではない。とくに NPO 法人は,社会の中で
自立・自律した組織として活動することが求められており,それ自身で自助,共助,公助それぞれ
の接点を拡げながら活動を展開している。ただし,NPO 活動を制度設計面やマネジメントの視点
からみると,共助社会を形成していくための制度的要素が随所に組み込まれているように思われる。
本稿では,その辺を確かめながら,NPO が制度的要素を活かしながらいかに共助社会の推進役と
なりうるかについて考察してみたい。
2. 非制度としてのユートピアから制度としての NPO
いま,私の前に一冊の本がある。Rebecca Solnit 著,高月園子訳の『災害ユートピア』
(参考文献[8]
で,原題は “A PARADISE BUILT IN HELL∼The Extraordinary Communications That Arise in Disaster”)である。サブタイトルには,
「なぜそのとき特別な共同体が立ち上がるのか」が付されている。
とりあえず,この中から,何箇所かの引用を通して,著作の論旨を整理することから始めてみよう。
災害は普段私たちを閉じ込めている塀の裂け目のようなもので,そこから洪水のように流れ
込んで来るものは,とてつもなく破壊的だ。ヒエラルキーや公的機関はこのような状況に対処
するには力不足,危機において失敗するのはたいていこれらだ。反対に,成功するのは市民社
会の方で,人々は利他主義や相互扶助を感情的に表現するだけでなく,挑戦を受けて立ち,創
造性や機知を駆使する。この数えきれないほど多くの決断をする数えきれないほど大勢の人々
の分散した力のみが,大災害には適している。災害がエリートを脅かす理由の一つは,多くの
意味で,権力が災害現場にいる市井の人々に移るからだ。危機に最初に対応し,間に合わせに
共同キッチンを作り,ネットワークを作るのは住民たちだ。それは中央集権でない,分散した
意思決定システムが有効であることを証明する。そういった瞬間には,市民そのものが政府,
すなわち臨時の意思決定機関となるが,それは民主主義が常に約束しながらも,滅多に手渡し
てくれなかったものだ。このように,災害は,革命でも起きたかのような展開を見せる。
災害の歴史は,わたしたちの大多数が,生きる目的や意味だけでなく,人とのつながりを切
実に求める社会的な動物であることを教えてくれる。そして,それはまた,もしわたしたちが
ほぼすべての場所で営まれている日常生活は一種の災難であり,
そのような社会的動物ならば,
それを妨害するものこそが,
わたしたちに変わるチャンスを与えてくれることを示唆している。
もし今,地獄の中にパラダイスが出現するとしたら,それは通常の秩序が一時的に停止し,
ほぼすべてのシステムが機能しなくなったおかげで,わたしたちが自由に生き,いつもと違う
やり方で行動できるからにほかならない。
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星野 : NPO による共助社会の形成
わたしたちがすべきことは,門扉の向こうに見える可能性を認知し,それを日々の領域に引
き込むよう努力することである。
ここでは,災害そのものは実に悲惨な状況を引き起こすが,そうした災害に対抗して立ち上がる
社会的存在としの人間のもう一つの姿,言い換えれば,地獄の中にユートピア的要素が垣間見られ
ることについて言及している。Rebecca は,大災害が起こった地域に出かけて行っては調査を試み,
こうした悲惨な状況の中で立ち向かうユートピア的要素の発生の現場のありようを確認している。
『災害ユートピア』は,こうした災害発生現場におけるユートピア的事例の積み重ねに裏打ちされ
ている。検証事例は,1906 年のサンフランシスコ地震,1917 年のハリファックスでの大爆発事故,
同年のメキシコシティの巨大地震,2001 年のアメリカ同時多発テロ事件,2005 年のニューオリン
ズのハリケーンなどに及んでいる。
こうした Rebecca の試みと論旨には異論を差し挟むものではないが,Rebecca の引用にもあるよ
うに,「門扉の向こうに見える可能性を認知し,それを日々の領域に引き込むよう努力すること」
をどのように実現するかである。日々の領域に引き込むことは日常化することであり,日常的に力
を得ていくことは制度化することに結びついて行く。制度化は,往々にして Rebecca 自身が指摘す
る,いざという時には役に立たない中央集権的ヒエラルキー構造を強化する方向へ働く可能性を秘
めている。こうした論理矛盾から抜け出していくためには,より慎重で柔軟な制度設計が求められ
るのであろう。
わが国において,その点で参考になるのが,阪神淡路大震災での経験である。阪神淡路大震災か
らの復興に果たしたボランティアの活躍は目を見張るものがあり,その流れが今日の NPO 法の成
立に結びついて NPO 法人の活動を促していったし,さらにその後発生した多くの大災害において,
あるいは今回の東日本大震災においても,NPO やボランティアは復興支援の局面において大活躍
をみせていくことになる。これらの制度化の契機は,市民側の動きが創り出したものであり,また,
制度化に向けて積極的に働きかけを行ったものである。この一連の努力を Rebecca がどう評価する
かは定かでないが,わが国においては「門扉の向こうに見える可能性を認知し,それを日々の領域
に引き込むよう努力すること」が,経験の中からの制度化として紡ぎだされてきている。
さて,福島県の状況に目を転じてみよう。地震,津波に加えて原発災害にあった福島県の場合は,
被害の状況が複雑に絡み合って問題が多様化するとともに,その度合いも深刻さを増している。そ
うした被災の大きさ,複雑さ,深刻さに対抗するように,福島県の NPO 法人の認証数は大きな伸
びを示している。表 1 は,
東日本大震災の発災前と発災後における NPO 認証数の変化(伸び率)を,
都道府県別に比較したものである。比較する時点は,震災前が 2011 年 2 月 28 日の認証数,震災後
が 2013 年 9 月 30 日の認証数である。それによると,福島県の伸び率が 36.5% で第 1 位,東京都
が 35.6% で第 2 位となっている。被災県である岩手,
宮城の伸び率も高いことが確認できる。また,
熊本県や鹿児島県の伸び率が高いので,その理由をそれぞれの県の担当者に尋ねてみたところ,熊
本県では阿蘇での大きな水害の影響は若干あるかもしれないがそれ以外特段の理由は考えられな
い,鹿児島県では確かに伸びてはいるが自然増の範囲ではないかとの回答であった。
ただし,2012 年 4 月に改訂された NPO 法が施行され,従来,県を跨ぐ活動には内閣府が所轄し
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第 82 巻第 4 号
表 1 都道府県別 NPO 認証数の伸び率(出典 : 民力)
NPO 認証数(2011.2.28)
NPO 認証数(2013.9.30)
増加率
1,658
1,975
119.1
青森
298
362
121.5
岩手
348
443
127.3
都道府県
北海道*
宮城*
584
739
126.5
秋田
263
329
125.1
山形
357
392
109.8
福島
564
770
136.5
茨城
548
716
130.7
栃木
477
569
119.3
群馬
687
805
117.2
埼玉*
1,499
1,952
130.2
千葉*
1,618
1,903
117.6
東京*
6,819
9,246
135.6
神奈川*
2,657
3,279
123.4
新潟*
551
638
115.8
富山
291
342
117.5
石川
296
354
119.6
福井
223
248
111.2
山梨
335
421
125.7
長野
837
937
111.9
岐阜
634
736
116.1
静岡*
976
1,171
120.0
愛知*
127.4
1,395
1,777
三重
551
655
118.9
滋賀
503
604
120.1
京都*
1,044
1,297
124.2
大阪*
2,804
3,400
121.3
兵庫*
1,605
1,988
123.9
374
488
130.5
奈良
和歌山
314
366
116.6
鳥取
204
243
119.1
島根
229
264
115.3
岡山*
576
702
121.9
広島*
643
818
127.2
山口
371
421
113.5
徳島
270
322
119.3
香川
266
326
122.6
愛媛
323
418
129.4
高知
253
305
120.6
福岡*
1,438
1,700
118.2
佐賀
313
354
113.1
107.7
長崎
418
450
熊本*
526
695
132.1
大分
451
500
110.9
宮崎
335
403
120.3
鹿児島
625
824
131.8
沖縄
全国計
466
597
128.1
38,817
48,244
124.3
48,244
114.5
内閣府
3,302
総合計
42,120
*
の県は政令指定都市を含んでいる。
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星野 : NPO による共助社会の形成
ていたものが,都道府県もしくは政令指定都市への所轄庁の移動があり,その点についての統計上
の解釈が必要になる。たとえば,都道府県に加えて政令指定都市でも相談窓口が開設されることに
なると,NPO の認証を受けようとする団体にとっては従来よりやや利便性が高まるかもしれない
が,ここではその点に立ち入らないことにする。
いずれにせよ,これらの結果は,深刻な「フクシマ」からの復興支援に熱い想いで立ち上がった
人々が多いことを示唆している。東京都の伸び率が高いのも,首都である大都市としての独自の事
情も考えられるが,この中には一定程度東日本大震災に対する敏感な反応も含まれているのではな
いかと推察される。
NPO の制度化を認証数の推移からのみ評価することは当然のことながら限界が伴う。福島県で
も,解散数はすでに 60 件強に上っており,また全国 NPO 動向の中にも不正団体が新聞で報道さ
れることがたびたび散見されるようになってきている。
さらには,本来であれば,税制優遇措置が適用されるもう一段ハードルの高い認定 NPO 制度と
その認定数の増加状況にも言及する必要があろう。認定 NPO 法人は,パブリック・サポート・テ
スト注 1 への合格,公正な組織運営や決算処理,積極的な情報公開など,一定の要件を満たしたこ
とが認められた団体のことである。しかし,国税局所轄の認定 NPO 法人の数が伸びないことへの
批判もあり,東日本大震災以降に大きな制度改正が行われている。事実,震災後に認定数は増加し
ているものの,ここ近年の認定 NPO 法人数の推移は,震災の影響よりもむしろハードルが引き下
げられた制度改正の影響を反映するものとなっており,
ここでは評価の対象からは外すことにした。
3. 自助,共助,公助の相互関係と市民セクター
自助,共助,公助については,一般に以下のように説明されている。自分自身の力でなんとかし
ていくのが自助,地域や仲間で助け合い・支え合いながらなんとかしようとするのが共助,政府や
自治体の支援を受けてなんとかしようとするのが公助である。防災や災害復旧の分野では,自助,
共助,公助バランスのとれた組み合わせが大切であること,そして根拠は明確に示されてないが,
それらの理想的比率が公表されるなど,さまざまな説が飛び交っている。あるいは,社会福祉の分
野では,政党間において,小さな政府か大きな政府か,すなわち公助の軸足のとり方を巡って盛ん
に議論が闘わされている。
一般に,防災や復興における自助・共助・公助の区分は分かり易く,以下のような 3 つの取り組
みを組合わせるべきと説いている。
自身の回りで心掛けるべき自助的取り組み
注1
パブリック・サポート・テストとはその団体がどれほど市民の寄附によって支えられているかを判定する基
準で,旧来の国税局所轄の時代には,その団体の経常収入の 20% 以上の寄付が集まっていることが基準になっ
ていた(これを相対値基準という)。その後法律が改正され,評価対象期間において,年平均で 3,000 円以
上の寄付者が 100 人以上になっているという絶対値基準が導入され,現時点ではそれら 2 つの基準のいずれ
かを選択できるようになっている。
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市民団体・NPO・ボランティア・自治会・地縁団体等の連携による共助的取り組み
政府・自治体など,行政による公助的取り組み
たとえば,経済政策などにおいても,次のような説明がなされ,望ましい組合わせのあり方を公
平性・効率性などの観点から議論すべきとしている。
自助 : 民間の個人や企業等が自らの責任で行う活動
共助 : 地縁・職場・NPO 等が行う活動(自助と公助の中間に位置する)
公助 : 公的な要請が強いものを国や地方公共団体等が行う活動
そして,「政府の失敗」や「市場の失敗」の例を挙げながら,共助社会への期待が述べられるこ
とが多い。
ところで,上で述べた自助・共助・公助の 3 区分論は,一見すると分かり易いように思えるが,
よく掘り下げて考えてみると必ずしも単純な話ではないことに気づかされる。互いに相互補完関係
にあることは分かるが,歴史的にみれば,公助は共助が発達した結果であり,3 者の関係は相対的
なものである,と武川(参考文献[3]
)は指摘する。
確かに公的扶助は公助の一環かもしれない。しかし社会保険は,自助の延長として共助の仕
組みが出来上がり,これが成長 ・ 発展して全国規模になったとの歴史をもつ。市民社会の中で
発達してきた共済組合(共助のための組織)を,国家がのちに自らの制度として取り入れたも
のが社会保険である。
そうはいっても共助が発達して公助になったというのは欧州諸国の話ではないのか。確かに
日本の場合には,社会保険が国によって上からつくられた。しかし,その日本でも,社会保険
以前に共済組織の萌芽はあった。遅れて近代化を開始したため,共済組合が十分発達する前に
欧州諸国を見習いながら社会保険を導入したというのが真相に近い。内務省が動き出すのが遅
れれば,日本も欧州諸国と同じ歴史を辿った可能性は十分にある。
武川によれば,欧米諸国の社会保険の導入は,自助の延長に共助の仕組みが形成されていったこ
と,近代化に遅れた日本においても形は国によってつくられたが共催組織の萌芽が既に存在してい
たこと,したがって自助,共助,公助の関係もあくまで相対的なものに過ぎないと指摘している。
また,西村周三は参考文献[2]の終章において,自助,共助,公助が相互依存の関係にあるこ
とに言及した上で,次のように述べている。
公助の急激な充実は,共助機能を低下させるように働くかもしれない。これまで重要な役割
を果たしてきた企業の共助機能が低下していた背景には,経済的な停滞があるが,…中略…,
むしろ企業に一定程度の共助機能を期待することが,企業行動を変容させる契機ともなるであ
ろう。
― 108 ―
星野 : NPO による共助社会の形成
また,個人の自助努力と公助との関連の相互作用にも注目したい。たとえば,貧困と病気の
悪循環という課題は古くて新しい問題である。
今後は,3 種類の扶助の相互の関連を明らかにする実証研究が期待される。現在は,一種の
悪循環が生じている。公的扶助の不十分さが雇用の不安をもたらし,雇用の不安が,婚姻や出
産の低下を招き,それが相互扶助機能としての家族の形成の妨げとなり,その結果,社会的に
孤立する人々を増し,それが社会保証ニーズの拡大を招くといった悪循環である。
西村の指摘にもあるように,3 種の扶助は,もちろん独立に議論をすることは出来ないであろう。
補完性,依存性という観点から,実証的な面も含めて全体的に議論しなければならない。
さらには,今なぜ NPO・ 市民活動かという議論と,行政セクターや企業セクターとの対比にお
いてなぜ市民セクターの台頭が期待されているかという議論とが,ほぼ重なり合って展開される場
合が多い。そして,これらの議論との関係においても,自助や公助との対比において共助社会への
期待が,概ね重なる形で議論されることも多くなっている。市民運動論としては,方向性の確認で
十分であるかもしれないが,日常的,組織的に活動する NPO・ 市民活動団体においては,活動の
具体的局面でどのような意味において共助社会に関与することになるかを意識しておくことは,決
して無意味ではない。市民セクターが活躍する社会がそのまま共助社会の進展にどれだけ一致した
方向を向いているのか,両者はどのような関係として理解すべきかについては,丁寧な検討を加え
ておく必要があると考える。
以下では,NPO の現行制度の特質を抽出し,共助社会という視点から改めて整理することで,
それらの関係性や重なりについて考察を深めてみることにする。
4. NPO マネジメントの視点からの共助性の点検
以下では,NPO のマネジメントの視点から,どのように共助社会を形成するかについて考察し
てみよう。ここでは具体的な経営資源として,人材,資金,情報を対象にする。人材については,
ボランティア活用のマネジメント,資金については,NPO を特徴づける非営利分配がマネジメン
トに及ぼす影響,情報については,情報共有のもたらす意義を考察しつつ,共助の関係について考
えてみる。ここで,共助性については,地域や仲間で助け合い・支え合いながらなんとかしようと
する仕組みが他人を巻き込む力と考える。
4-1. ボランティア活用と共助の関係
団塊の世代の退職者は,自分たちで NPO を立ち上げることもあれば,NPO でボランティア活動
をするケースも数多くみられる。長い間培った知識や技能を,社会貢献に役立てたいと考える人々
も増えているし,女性の社会参画の糸口として NPO でボランティアの経験をする人々も増えてい
る。このなかでも,有償で関わりたいという人から,経済的には無償で自己実現を目的として関わ
りたい人まで,個人個人の事情に応じたさまざまな関わり方がみられる。たとえば,プロボノとい
― 109 ―
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う概念に代表されるように,弁護士や会計士などがボランティアで高度な専門的指導を提供したり
することも含まれるし,必ずしも専門的な知識の提供ではないが,組織の日常的環境を整えていく
というような持続的な活動なども含まれる。
いずれにしろ,単なる経済尺度とは異なる形での,参画のモチベーションを高める非経済的な尺
度が必要である。その中で外せない重要な尺度は,自分の参画している活動の成果が何らかの形で
手応えとなって返ってくる実感を得させてくれる何かである。そうしたボランティア活動と組織の
成果の循環を見えるようにすることで,NPO におけるボランティアとの共助関係が形成されてい
く。
4-2. NPO を特徴づける非営利分配と共助の関係
特定非営利活動法人とも称されるいわゆる NPO 法人は,収益を上げてはいけないと誤解される
ことが多い。正確には,NPO 法人の特徴は,非営利分配というところに存在する。事実,収益を
上げていかなければ,事務所の維持や事務局員の給与等の支払いができなくなって,組織活動はも
ちろん団体の維持は覚束なくなってしまう。
改めて,資金調達源と資金の意味するところについて考察しておこう。NPO の資金構造としては,
大きくは次のように 3 つに分類される。
NPO の資金調達の構造 : 会費 ・ 寄付金,補助金 ・ 助成金,自主事業収入
非営利分配という NPO の特徴は,NPO 活動で生じた収益を組織に関与する個人等に分配しない
で,その NPO の本来活動のために再投資する制度設計になっている。そのため,原則的に,株式
会社などとは異なって,リターンを期待する投資家に収益を配分したり,特別の役員報酬を供与し
たり,従業者に臨時のボーナスを支給したりすることはしていない。たとえば,その一例として,
理事就任とその報酬についても以下のような縛りがある。まず,役員については,その配偶者もし
くは 3 親等以内の親族が 1 人を超えて含まれること,または当該役員並びにその配偶者および 3 親
等以内の親族が役員総数の 3 分の 1 を超えて含まれることになってはいけないとの縛りがある。そ
の上で,役員報酬を受けることができるのは,役員総数の 3 分の 1 の範囲に限られる。さらに,役
員報酬の金額については,総会決定事項になっており,NPO の公益性を担保するために 2 重,3
重の縛りになっている。
したがって,NPO は,株式会社のように一般に広く投資を募って事業資金を集めることはでき
ない。あくまでも,その NPO がミッションとして掲げる活動や事業目的への賛同が基本となる。
投資に対する金銭的な見返りではなく,会費や寄附金という,いわゆる金銭的リターンに結びつか
ないが,何らかの公益的な意味でその団体の活動の社会的成果としてのリターンを期待して資金を
提供するのである。
すなわち,ここに公益的活動を目指す NPO とそれを支持する会員との間に横たわる会費や寄附
金を通しての共助の精神性を見ることができる。ただし,NPO の経営者は,この循環を上手くま
わして,会員 ・ 寄付者に資金使途の透明性と社会的有効性について訴え,好循環の関係を築いてい
― 110 ―
星野 : NPO による共助社会の形成
かなければならない。
それ以外の資金調達の方法は,いかなる関係になっているのであろう。たとえば,行政からの補
助金や委託金であれば,公助の枠組みに入るであろうし,民間の公益法人からの助成金は公助に準
ずる性格を持つといえよう。民間の公益法人からではなく企業本体からの直接的な助成金も存在す
るが,そのほとんどは公益的目的を掲げていたり,CSR 活動の一環として行われており,準公助
的性格を帯びている。
自主事業収入は,当然のことながら自助の範疇に入ってくる。NPO の活動を安定化すうる上では,
この部分が最も知恵の出しどころであるともいわれている。
先に述べたように,NPO の資金調達については,どれか一つに特化するのではなく,リスク分
散型の調達の方が安全で安定した活動ができると述べたが,それらをマネジメントの観点に敷衍す
ると,共助,公助,自助の組み合わせの中で選択的に対処することが望ましいといえよう。
4-3. 情報共有・ネットワークづくりと共助の関係
テーマ別に活動する NPO は,ともすると,地域のなかで小さな輪の中に閉じられてしまいかね
ない。しかしながら,NPO 法が施行されて以降,もう数度の法律改正が行われ,寄附に関する税
制優遇措置を伴う制度や,会計基準等の見直しなども行われている。そうしたなか,地域の中間支
援組織が情報の集約と提供に努めることが求められてきている。地域の中間支援組織は,行政や中
央の中間支援組織と情報共有を進めながら,地域の NPO 等に必要な情報を提供しているのが現状
である。
他方で,個々の NPO は,社会サービスの提供における自組織のシーズ情報を市民向けに送り届
けることに加えて,必要とされている社会的サービスのニーズ情報を収集し,シーズとニーズを適
切にマッチングさせながら事業展開を図っていかなければならない。しかしながら,地域の当面す
る問題が,当該 NPO が提供する個別テーマへのサービスのみで解決するとは限らない。問題がい
くつかのテーマが絡んで複雑化しているというケースの方がむしろ一般的である。そのような場合
に,地域の中間支援組織のみならず,地域のさまざまなテーマで活躍する NPO 同士の横のつなが
りも重要になってくる。すなわち,地域の中間支援組織を中心とした NPO 同士のネットワーク形
成も大切であり,それが NPO 同士の共助の礎をつくることになる。そうした地域セーフティ・ネッ
トの構築によって,地域問題の解決力が向上していくものと考える。
以上,ボランティア活用,非営利分配および情報共有・ネットワークづくりの 3 点から共助性と
の関連について検討してみた。NPO のマネジメントそれ自身は,自助,共助,公助の側面に関連
して活動を展開するものの,3 点のいずれにおいても,NPO が公益性を目指す組織であることが
制度として担保されているために,
経営資源においてボランティアによる共助的支えが得られたり,
資金として寄附金が調達できたり,あるいは逆に共助的に社会サービスを広く提供することが可能
になっている。その意味では,さまざまな形で市民を巻き込んでいける制度設計になっているとい
えよう。
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5. 他セクターとの協働による共助社会
上で述べた情報共有・ネットワークづくりと共助の関係については,同じ NPO レベルの共助関
係に留まる話しであり,NPO のマネジメントレベルの話が中心であった。
「協働」になると,セク
ターを超えた協力・連携になるので,さらにレベルの高い共助関係の組合せとなる。NPO 等の市
民セクターと行政セクターや企業セクターなどと,イコールパートナーとして,地域課題および目
的を確認し,役割分担しながら協働作業によって,その課題を解決しようとする取り組みである。
行政セクターもしくは企業セクターが,市民を巻き込んで課題を解決したい場合などに,NPO
との協力・連携で問題を解きほぐして解決に向かった方が結果的に内容の濃い,いい仕事ができ,
大きな成果に結びつく可能性がある。他方で,NPO 側でも,自分たちの掲げてきた活動ミッショ
ンを「協働」によって質量ともに大きく達成できる場合には,行政や企業の強みを活かしながら協
働作業に取組むという場合も考えられる。本稿では触れないが,協働の在り方については既に福島
市においても次のような 3 の原則と 3 つの推進目標が確認されており,参考までに引用しておくこ
とにする(参考文献[10]
)
。
<協働のルール>
1. 自律の原則
市民と行政は,それぞれに独立した存在であることを認め合い,互いの意思を尊重しなけれ
ばなりません。強制したり,反対できないように誘導するといった関係は,真の協働とはいえ
ません。
2. 対等の原則
市民と行政は,互いに対等の関係であることを認め合い,主張すべきことは主張し,妥協す
べきことは妥協しながら,
協力しなければなりません。両者の間に直接・間接の上下関係があっ
て,ものが言えない状況にあったりする場合は,真の協働とはいえません。
3. 補完の原則
市民と行政には,人材,資金,専門知識,情報,技術,ネットワークなどの点で,それぞれ
に特性があり,また不得手な部分もあります。適切な役割分担によって,互いの長所を生かし
短所を補い合いながら,協力しなければなりません。一方が他方に任せきりにする関係は,協
働とはいえません。
<推進目標>
1. 協働を支えるしくみを整えます。
市民と行政との協働の取り組みをさらに進め,定着させるため,協働を支える日常的なしく
みを整えます。
2. 身近で生きた情報の共有化を進めます。
市民と行政が地域の現状,課題などについて認識を共有することが,協働の基礎となります。
このため,協働の担い手(主体)それぞれが伝えたい,知りたい情報を,身近なところから分
― 112 ―
星野 : NPO による共助社会の形成
かりやすく受発信し,情報の共有化を進めます。
3. 互いを理解し,行動しようとする「人財」の発掘と育成を進めます。
協働を実現し,さらに推進するためには,それを実践する人が必要です。このため,互いに
パートナーとして理解し合い,協力して行動しようとする「人財」の発掘と育成をより一層進
めます。
セクター間の協働の推進には,一段高いレベルの共助社会の実現が期待される。しかし,現実に
は,協働によるまちづくりは「言うに易く,行うに難し」というところがある。手続き上の問題も
あれば,意思決定上の問題もある。
手続きの問題でいえば,行政はどのような団体(種類と数)と協議の場を形成したらいいか,ま
た協議内容をどのようにオープンにしそれに対するコメントへの対応など,
公平性という観点から,
より一層の意見調整への配慮が求められるようになる。また,市民から選出された議員の立法的機
能と市民との協働によるまちづくりにおける行政的機能は自ずと棲み分けがなされるであろうが,
時には両者間での調整が必要な場面も生じないとも限らない。
いずれにせよ,
「新しい公共」が求められる時代に入りつつあり,協働のまちづくりを推進しな
がら,知恵と工夫を持ち寄って,蓄積された経験の共有化を図っていかなければならないのであろ
う。
6. おわりに
NPO 法人の資金調達という側面から制度をみていくと,法人自身としては,自助的な要素,共
助的な要素そして公助的な要素と関わりながら,選択的に活動を展開できる仕組みになっている。
さらに,4 節における NPO マネジメントの視点からの共助性の点検,さらには 5 節における他セ
クターとの協働による共助社会の考察からは,さまざまなレベルや活動の形態において,NPO 法
人制度は,共助社会の特性を取り込み易い仕組みになっていることについて理解を深めた。すなわ
ち,NPO と共助社会とは,時代に求められる方向性を共有し,大筋では互いに馴染むような制度
設計になっているといえよう。NPO の経営資源やマネジメントにおいても,さらには,セクター
を超えた「協働」のレベルにおいても,市民セクターのエンジンの役割を果たすであろう NPO へ
の期待が大きいといえよう。
しかしながら,NPO 法人の増加に伴って,ただ黙って共助社会が実現するかといえば,実はそ
うたやすいものではない事も肝に銘じておかなければならない。本稿では,自助の部分にはあまり
触れてこなかったが,NPO 法人といえども,自助や自立・自律がベースになることは言わずもが
なのことである。それらの自助・自立の基礎があってこそ,好循環型の一角を担う共助社会への役
割を果たしていくものと考える。
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商 学 論 集
第 82 巻第 4 号
参考文献
[ 1 ] 鷲尾悦也著,『共助システムの構築』,明石書店,2009 年 7 月
[ 2 ] 西村周三監修,国立社会保障 ・ 人口問題研究所編,
『日本社会の生活不安─自助 ・ 共助 ・ 公助のあらたな形』,
慶應義塾大学出版会,2012 年 3 月
[ 3 ] 武川正吾,「自助・共助・公助」,全社協,月刊福祉第 95 巻第 1 号,2012 年 1 月,pp. 38-41
[ 4 ] ハーバマス著,細谷貞雄・山田正行訳,『公共圏の構造転換』,未来社,1994 年 5 月
[ 5 ] クレイグ・キャルホーン編,山本啓 ・ 新田滋訳,『ハーバマスと公共圏』,未来社,1999 年 9 月
[ 6 ] S. スマイルス著,竹内均訳,『自助論』,三笠書房,2002 年 4 月
[ 7 ] 星野珙二,
「NPO 法人数の成長予測と都道府県別対人口比分析」,福島大学経済学会『商学論集』第 77 巻第 3,
4 号,2009 年 5 月
[ 8 ] レベッカ・ソルニット著,高月園子訳,『災害ユートピア』,亜紀書房,2010 年 12 月
[ 9 ] 谷本圭志・細井由彦偏,鳥取大学過疎プロジェクト,『過疎地域の戦略』,学芸出版,2012 年 11 月
[10] 福島市,『新・福島市協働のまちづくり推進指針』,平成 22 年 6 月
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