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化学工業分野における異物判別に関する研究

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化学工業分野における異物判別に関する研究
京都府中小企業技術センター技報№3
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化学工業分野における異物判別に関する研究
河 村 眞 也*1
関 浩 子*1
田 中 康 司*2
[要 旨]
京都府内のプラスチック製造工場から、製品に付着混入する異物となり得る物質を収集し、異物を判
別する際に有力な手掛かりとなるそれら物質の赤外吸収スペクトルを測定した。
さらに、加熱工程で使用される物質について、温度による赤外吸収スペクトルの変化を検討し、加熱
の程度によっては、スペクトルが変化することが認められた。
1 緒言
度計(I
RPr
e
s
t
i
g
e
2
1
)を用いて、試料の赤外分光
化学工業分野(プラスチック製造、フィルム製
造等)において、製造工程で異物が付着・混入す
スペクトルを測定した。
測定条件は次のとおりである。
ることがあり、当センターへの技術相談も多い。
全反射測定法(ATR法)により、
しかし、必ずしも原因が特定されるとは限らない。 測定波数:65
0
0
0
c
m-1 積算回数:20
0
c
m-1~4
分解:4c
m-1
異物付着・混入により、場合によっては製品全て
のロットが廃棄されなければならないこともある。
また、原因が特定されないと対策もたてられない。
3 結果及び考察
したがって、異物の付着・混入の原因を迅速に
3.1 収集試料
究明することが望まれている。そこで、異物を迅
プラスチック製造会社A社、B社、C社から、
速に究明することに資するため、異物の原因とな
表1に示す試料を収集した。
りうる物質の調査・分析を行った。
表1 異物の原因となりうる物質
2 実験方法
2.1 試料
京都府内のプラスチック製造会社3社から、異
物となりうる物質を収集した。表1にその内容を
示した。
2.2 測定方法
3.2 収集試料の赤外吸収スペクトル
株式会社島津製作所製フーリエ変換赤外分光光
収集試料のうち、例として、シリンダー洗浄用
パージ剤、洗浄液、防錆潤滑剤、グリス、離型剤、
*1 基盤技術課 主任研究員
包装資材、梱包ダンボール箱、作業着の赤外吸収
*2 基盤技術課 副主査
スペクトルを図1~1
0
に示した。
-5
5
-
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シリンダー洗浄用パージ剤1はスチレンアクリ
2
5
0
c
m-1、1
1
0
0
c
m-1にエステル結合由来
1
7
2
0
c
m-1、1
ロニトリルで、2
2
4
0
c
m-1にアクリロニトリルのCN
の強い吸収が認められた。
の吸収が認められた。CH2由来の吸収が2
9
2
0
c
m-1、
2
8
5
0
c
m-1、1
4
6
0
c
m-1に認められた。ベンゼン環由来
3.3 加熱実験
の吸収が、3
1
0
0
~3
0
0
0
c
m-1、1
6
0
0
c
m-1、1
5
0
0
c
m-1に
原料やシリンダー洗浄パージ剤等が製造工程で
認められた。
異常加熱された場合、異常加熱されたものが、異
シリンダー洗浄用パージ剤2はポリメタクリル
物として製品に混入する場合がある。そこで、シ
酸メチルで、17
2
0
c
m-1にエステル結合の強い吸収
リンダー洗浄パージ剤2種を用いて、加熱温度の
が認められた。
影響を検討した。
シリンダー洗浄用パージ剤3はポリエチレンで、
温度を加熱無し、2
5
0
℃加熱、30
0
℃加熱、加熱
CH2に由来する吸収が2
9
2
0
c
m-1、2
8
5
0
c
m-1、1
4
6
0
c
m-1
時間を1
0
分として、加熱実験を行った。
に認められた。
パージ剤1については、図11
に示すように、加
洗浄液は主成分はnヘプ タンでCH2に由来する
熱無しには、1
7
2
0
c
m-1に吸収があるが、2
5
0
℃加熱
吸収が2
9
2
0
c
m-1、2
8
5
0
c
m-1、1
4
6
0
c
m-1に、CH3由来の
及び3
0
0
℃加熱ではその吸収が無くなっている。
こ
吸収が2
9
5
0
c
c
m-1に認められた。
れは、加熱によって、1
7
2
0
c
m-1の吸収つまりC=O
防錆・潤滑剤(ポリテトラフルオロエチレン配
が壊れたためと思われる。
合)は主成分はn
ヘプ タンが主成分でCH2に由来
一方、パージ剤2については、図12
に示すよう
する吸収が2
9
2
0
c
m-1、2
8
5
0
c
m-1、1
4
6
0
c
m-1に、CH3由
に、加熱無し、2
5
0
加熱、3
0
0
℃加熱でスペクトル
来の吸収が2
9
5
0
c
m-1に認められた。また、1
2
0
0
c
m-1、 に変化はない。つまり、加熱の程度によって赤外
F由来の吸収が認められた。
1
1
5
0
c
m-1にC-
吸収スペクトルが変化するものとしないものがあ
グ リスは主成分はド デカンでCH2に由来する吸
る。したがって、異物分析において、加熱工程を
1
1
1
収が2
9
2
0
c
m 、2
8
5
0
c
m 、1
4
6
0
c
m に、CH3由来の吸
1
経るものについては、加熱によるスペクトルの変
化を考慮する必要があることが認められた。
収が2
9
5
0
c
m に認められた。
離型剤は主成分はポ リジ メチルシロキサンで
1
0
1
0
c
m-1付近にSi
OSi
結合由来の強い吸収が認め
4 まとめ
られた。Si
CH3由来の吸収が1
2
6
0
c
m-1、7
9
0
c
m-1に
(1)プラスチック製造工場から異物となりう
認められた。
る物質を収集した。異物となりうる物質としては、
包装資材はポリエステルで1
7
2
0
c
m-1、1
2
5
0
c
m-1、
シリンダー洗浄用パージ剤、洗浄液、防錆潤滑剤、
1
1
0
0
c
m-1にエステル結合由来の強い吸収が認めら
グリス、離型剤、包装資材、梱包ダンボール紙、
れた。
作業着等があった。
これらサンプルの赤外吸収スペクトルを測定し、
梱包ダンボール箱はセルロースで水酸基の吸収
が3
3
0
0
c
m-1を中心に幅広く認められた。1
2
0
0
c
m-1~
データシートを得た。例としてそのうち、数種の
9
0
0
c
m-1の範囲にエーテル結合の吸収が認められ
スペクトルを示した。
た。
(2)工程内で用いられる物質について、加熱
作 業 着 は ポ リ エ チ レ ン テ レ フ タレ ー ト で
による赤外スペクトルの変化を検討したところ、
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)
加熱によって赤外スペクトルが変化するものが
(謝辞)
あった。したがって、異物分析において、加熱工
本研究において、試料の提供等に御協力いただ
程を経るものについては、加熱によるスペクトル
きました府内プラスチック製造会社3社の方々に
の変化を考慮する必要があることが認められた。
感謝いたします。
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図1 シリンダー洗浄用パージ剤1
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図2 シリンダー洗浄用パージ剤2
-5
7
-
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図3 シリンダー洗浄用パージ剤3
䌮-䊓䊒䉺䊮
㪈㪇 㪌
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㪅
㪐㪇
㪏㪉 㪌
㪅
㪎㪌
㪍㪎 㪌
㪅
㪍㪇
㪋㪇 㪇㪇
㪊㪌 㪇㪇
㪊㪇 㪇㪇
㪉㪌 㪇㪇
㪉㪇 㪇㪇
㪈㪎 㪌㪇
図4 洗浄液
-5
8
-
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㪈㪉㪌㪇
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㪈㪉 㪌㪇
㪈㪇 㪇㪇
㪎㪌 㪇
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図5 防錆・潤滑剤
䊄䊂䉦䊮
㪈㪇 㪇
㩼㪫
㪐㪇
㪏㪇
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㪌㪇
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㪊㪇㪇㪇
㪉㪌 㪇㪇
㪉㪇㪇㪇
㪈㪎 㪌㪇
図6 グリス
-5
9
-
㪈㪌㪇㪇
㪈㪉 㪌㪇
㪈㪇 㪇㪇
㪎㪌 㪇
㪈㪆㪺 㫄
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䊘䊥䉳䊜䉼䊦䉲䊨䉨䉰䊮
㪈㪇 㪌
㩼㪫
㪐㪎 㪅㪌
㪐㪇
㪏㪉 㪅㪌
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㪋㪇㪇㪇
㪊㪌㪇㪇
㪊㪇 㪇㪇
㪉㪌 㪇㪇
㪉㪇 㪇㪇
㪈㪎 㪌㪇
㪈㪌 㪇㪇
㪈㪉 㪌㪇
㪈㪇 㪇㪇
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㪈㪌㪇㪇
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㪈㪇 㪇㪇
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図7 離型剤
䊘䊥䉣䉴䊁䊦
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㪉㪇㪇㪇
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図8 包装資材(カバーテープ)
-6
0
-
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䉶䊦䊨䊷䉴
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図9 梱包ダンボール箱
䊘䊥䉣䉼䊧䊮䊁䊧䊐䉺䊧䊷䊃
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図10 作業着
-6
1
-
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㪎㪌 㪇
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図11 加熱実験
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図12 加熱実験
-6
2
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㪈㪉 㪌㪇
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